説明

蒸気圧縮式空調または冷凍システム洗浄組成物および方法

本発明は、蒸気圧縮式空調または冷凍システムから残留物を除去または低減するのに適した、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンとポリオールエステルとから本質的になる組成物、およびその組成物を用いる方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は潤滑・蒸気圧縮式システムを洗浄するための組成物および方法に関する。
関連出願の相互参照
本出願は、2004年1月20日に出願された、米国仮特許出願第60/538,009号明細書の優先権の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
製造および点検の際に潤滑・蒸気圧縮式システムおよびそれらの構成部品を洗浄する必要がある。
【0003】
蒸気圧縮式空調および冷凍システムは当該技術では周知である。それらは、加熱、空調、冷凍等の種々様々な用途に使用されている。伝熱剤または冷媒を圧縮および膨張させることによって、これらのシステムは、特定用途の必要に応じて熱を吸収したり放出したりする。蒸気圧縮システムに共通の構成部品としては、蒸気またはガス圧縮器;液体ポンプ;ガス冷却器、中間冷却器、最終冷却器、熱交換器、エコノマイザー等の伝熱装置;往復ピストン圧縮器、回転スクリュー圧縮器、遠心圧縮器、スクロール圧縮器等の蒸気圧縮器;蒸発器;液体冷却器および受器;膨張器;コントロールバルブおよび毛管、オリフィス管等の圧力低下絞り装置;冷媒混合物分離室;接続管および断熱材が挙げられる。これらの構成部品は、典型的にアルミニウム、銅、黄銅、鋼、様々なプラスチックおよび従来のガスケットおよびOリング材料から製造される。
【0004】
蒸気圧縮システムは摺動、回転または他の可動部品を有するので、ほとんどのものは冷媒に混合させる潤滑剤の使用を必要とする。かかるシステムおよびそれらの構成部品を、それらの表面からその潤滑剤をはじめ他の汚染物質およびデブリを除去することによって時折洗浄することが必要である。例えば、クロロフルオロカーボン(CFC)をハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)またはハイドロフルオロカーボン(HFC)へ取り替える、またはHCFC冷媒をHFC冷媒へ取り替える間、および、点検、特に圧縮器の焼損や機械的故障等の破滅的な事態の後の点検の間に、そういった必要が生じる。
【0005】
最近まで、そのようなシステム用の洗浄剤として、トリクロロメタン(R−11)等のCFCおよび1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等のHCFC(HCFC−141b)が使用されていた。CFCおよびHCFCは効果的ではあるが、成層圏のオゾン層の減少の原因と考えられているので、現在、環境的に許容できないと考えられている。CFCおよびHCFCの使用が減り、最終的には段階的廃止となるので、十分に性能を発揮するだけでなく、オゾン層に危険をもたらさない新しい洗浄剤が必要とされる。
【0006】
環境的に許容できる溶剤が数多く提案されたが、それらの使用はある程度の成功しか収めていない。例えば、ヘキサン等の有機溶媒は、洗浄性に優れ、オゾン層を減少させないが、燃えやすい。水系の洗浄組成物は、オゾン破壊係数がゼロであり、不燃性であるが、比較的低い揮発度があり、残留物を残す添加物がその中に存在するために、洗浄される表面から除去しにくい傾向がある。さらに、水系の洗浄組成物は、蒸気圧縮システムに存在する典型的な有機汚れを洗浄するには不十分なことが多い。テルペン系の溶剤も、水系の洗浄組成物のように、そのシステムから除去するのが困難である。
【0007】
したがって、蒸気圧縮システムを効果的に洗浄する、環境的に許容できる洗浄剤を特定することが必要である。本発明は、この要望を満たすものである。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書中には、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンとポリオールエステルとから本質的になる、蒸気圧縮式空調または冷凍システムから残留物を低減および除去するための組成物であり、前記ポリオールエステルが、ネオペンチルグリコール、グリセロール、トリメチロールプロパン、ペンタエリトリトールおよび式HOC(O)R(式中、RはC6〜12の飽和、環式、直鎖または分枝の炭化水素基である)で表されるカルボン酸のエステルから選択される組成物が開示されている。
【0009】
また、蒸気圧縮式空調または冷凍システムの残留物を低減する方法であり、実質的にすべての冷媒および潤滑剤を前記蒸気圧縮式空調または冷凍システムから除去する工程と、前記蒸気圧縮式空調または冷凍システムの残留物の量を低減するのに十分な時間にわたって、本発明の組成物に前記システムを接触させる工程と、前記組成物を前記システムから除去する工程と、を含む方法が開示されている。
【0010】
本発明は、蒸気圧縮システムの構成部品を洗浄する方法であって、この構成部品を本発明の組成物でフラッシングする工程と、前記構成部品から前記組成物を除去する工程と、を含む方法をさらに含む。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本明細書では、蒸気圧縮式空調または冷凍システムは、一つの完成したシステム、一つのシステムの構成部品の集合、一つのシステムの個々の構成部品、または一つのシステムの個々の構成部品の部分を指す。本発明の組成物および方法は、以下の構成部品を含む共通の圧縮冷凍システムから残留物を除去するのに有用である。蒸気またはガス圧縮器;液体ポンプ;ガス冷却器、中間冷却器、最終冷却器、熱交換器、エコノマイザー等の伝熱装置;往復ピストン圧縮器、回転スクリュー圧縮器、遠心圧縮器、スクロール圧縮器等の蒸気圧縮器;蒸発器;液体冷却器および受器;膨張器;コントロールバルブおよび毛管、オリフィス管等の圧力低下絞り装置;冷媒混合物分離室;接続管および断熱材。これらの構成部品は、典型的にアルミニウム、銅、黄銅、鋼、様々なプラスチックおよび従来のガスケットおよびOリング材料から製造される。
【0012】
本発明の組成物および方法によって除去された残留物は、分解された潤滑剤、金属(例えば、システム構成部品からのアルミニウム、銅、黄銅、鋼の粒状物)、ゴムおよびプラスチック(例えば、システムからのホースおよびOリング)といった圧縮器の潤滑剤および粒状物を含んでいてもよい。
【0013】
本明細書中に開示されている本発明は、蒸気圧縮式空調または冷凍システムから残留物を除去するためのフラッシング組成物または洗浄組成物であって、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンとポリオールエステルとから本質的になる組成物である。この組成物は、フラッシュキットを有するフラッシング組成物として、閉ループシステムにおいて、または構成部品を本発明の組成物でフラッシングできるような任意の適切な形態において使用されてもよい。
【0014】
1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタン(HFC−43−10mee、CFCFCHFCHFCF)は、本願特許出願人の商用製品である。
【0015】
本発明のポリオールエステルは、米国ニュージャージー州のハトコ社(Hatco Co., New Jersey, USA)から市販されている。本発明のポリオールエステルは、カルボン酸と、ネオペンチルグリコール、グリセロール、トリメチロールプロパンおよびペンタエリトリトールから選択される少なくとも1種のポリオールとの反応性生物である。このポリオールの中で好ましいのは、ネオペンチルグリコールである。
【0016】
本発明のポリオールエステルを生成するために用いられるカルボン酸は、式HOC(O)R(式中、RはC6〜12の飽和、環式、直鎖または分枝の炭化水素基である)で表される。カルボン酸の例として、2,2−ジメチルペンタン酸、2−エチルペンタン酸、3−エチルペンタン酸、2−メチルヘキサン酸、3−メチルヘキサン酸、4−メチルヘキサン酸、5−メチルヘキサン酸、シクロヘキサンカルボン酸、シクロペンチル酢酸、2−エチルヘキサン酸、3,5−ジメチルヘキサン酸、2,2−ジメチルヘキサン酸、2−メチルヘプタン酸、3−メチルヘプタン酸、4−メチルヘプタン酸、2−プロピルペンタン酸、3,4−ジメチルヘキサン酸、シクロヘキシル酢酸、3−シクロペンチルプロピオン酸、2,2−ジメチルヘプタン酸、3,5,5−トリメチルヘキサン酸、2−メチルオクタン酸、2−エチルヘプタン酸、3−メチルオクタン酸、2−エチル−2,3,3−トリメチル酪酸、2,2,4,4−テトラメチルペンタン酸および2,2−ジイソプロピルプロピオン酸が挙げられ、2−メチルヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸、3,5−ジメチルヘキサン酸および3,5,5−トリメチルヘキサン酸が好ましい。このカルボン酸の中で好ましいのは、2−エチルヘキサン酸である。
【0017】
本発明の好ましいポリオールエステルは、C(CH(CHOC(O)R(式中、各RはC6〜12の飽和、環式、直鎖または分枝の炭化水素基から独立して選択される)で表されるネオペンチルグリコールエステルである。Rは、好ましくはCの分枝飽和炭化水素基、最も好ましくは1−エチルペンチル基である。好ましいネオペンチルグリコールエステルは、ネオペンチルグリコールジ−2−エチルヘキサノエート
(C(CH(CHOC(O)CH(C)(CHCH)である。
【0018】
本発明の1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンとポリオールエステルとの組成物における1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンの量は、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンおよびポリオールエステルの全重量に対して、約5〜約25重量%であり、好ましくは約15重量%で、残りはポリオールエステルである。
【0019】
本発明の好ましい組成物は、約15重量%の1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンと約85重量%のネオペンチルグリコールジ−2−エチルヘキサノエートとから本質的になる。
【0020】
本発明の組成物は、各成分の重量パーセントを共通の容器に添加し、場合によっては攪拌して調製する。この組み合わせによって、本発明の組成物が得られる。
【0021】
本発明には、蒸気圧縮式冷凍システムの残留物を低減または除去する方法であって、本質的にすべての冷媒および潤滑剤を前記蒸気圧縮式冷凍システムから除去する工程と、前記蒸気圧縮式冷凍システムの残留物の量を低減するのに十分な時間にわたって、前述の1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンとポリオールエステルとの組成物に前記システムを接触させる工程と、前記システムから前記組成物を除去する工程と、を含む方法がさらに含まれる。
【0022】
本発明には、蒸気圧縮システムの構成部品を洗浄する方法であって、前述の1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンとポリオールエステルとの組成物で構成部品をフラッシングする工程と、前記構成部品から前記組成物を除去する工程と、を含む方法がさらに含まれる。
【0023】
使用時には、本発明の組成物が、潤滑・蒸気圧縮式システムの構成部品の表面に最初に適用されてもよい。この適用技術は当該技術では周知であり、その液状の組成物を構成部品またはシステムにさらすことを含む。次に、その洗浄組成物は、加圧された空気または窒素の使用によってその構成部品またはシステムから除去される。
【0024】
適当な洗浄技術として、特定の構成部品を脱脂すること、または本システムをフラッシングすることが挙げられる。特定の構成部品の脱脂は、開放型または閉鎖型の脱脂装置内で行うことができる。そのような洗浄装置は当該技術では周知である。構成部品のフラッシングに用いられる様々な手順は当該技術では周知である。例えば、1つの構成部品または一連の構成部品は、洗浄組成物をそこにポンプで通すことによってフラッシュされる。構成部品をフラッシュした後、窒素ガスまたは他のガスを構成部品に吹き込むことによって、洗浄組成物を構成部品から除去することができる。他の適当な洗浄手順を用いて、本発明の洗浄組成物を洗浄する表面に接触させることもできる。実際には、本発明の方法を本明細書に記載するように行ってもよい。
【0025】
フラッシュ方法を使った方法を用いてもよい。この方法を用いる際には、空調または冷凍システムから冷媒および潤滑剤を回収し、洗浄またはフラッシュする構成部品の入口および出口をそのシステムから切り離す。この方法は、本発明の組成物等の適切な組成物をフラッシュキットを用いて注入することによって行われる。一般に、フラッシュキットには、フラッシング組成物を含んだ加圧容器、フラッシュする構成部品にその組成物を供給するノズル、その他、適切な接続ホース、およびその容器からフラッシング組成物を分注しやすくする空気または窒素または他の適切なガスが含まれる。そのようなフラッシュキットは、米国ノースカロライナ州モーレスビルのFJC社(FJC, Inc., Mooresville, North Carolina, USA)から市販されている。別法として、閉ループ方法を用いてもよい。この方法では、その空調または冷凍システムから冷媒および潤滑剤を回収し、洗浄またはフラッシュする構成部品の入口および出口をそのシステムから切り離す。閉ループ法を用いる場合、その洗浄は、適切な閉ループ装置を使って達成される。一般に、こうした閉ループ装置は、適切な容積のリザーバを内蔵し、(空気、電気、または他の適切な手段によって動作する)ポンプ、ホース、フィルタ等を備えている。そのような閉ループ装置は、例えば、カナダのオンタリオ州トロントのクリップライト社(Cliplight Co. in Toronto, Ontario Canada)から市販されている。閉ループ装置に接続されているホースは、洗浄またはフラッシュする構成部品の入口/出口に接続される。フラッシング組成物は、約30分間または構成部品内の残留物を低減または除去するのに十分な時間にわたって、リザーバから構成部品を通して循環させられる。その後、構成部品は、約30〜約60分間乾燥空気または窒素とパージされ、構成部品に残存し得るすべてのフラッシング組成物を除去する。フラッシング組成物は、閉ループシステムが適切なフィルタおよび/または分離器等を備えていれば、2回以上使用してもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気圧縮式空調または冷凍システムから残留物を除去する組成物であって、1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンと、ポリオールエステルとから本質的になることを特徴とする組成物。
【請求項2】
前記ポリオールエステルが、カルボン酸と、ネオペンチルグリコール、グリセロール、トリメチロールプロパンおよびペンタエリトリトールからなる群から選択される少なくとも1種のポリオールとの反応生成物であることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ポリオールエステルが、式C(CH(CHOC(O)R(式中、各RはC6〜12の飽和、環式、直鎖または分枝の炭化水素基から独立して選択される)で表されるネオペンチルグリコールエステルであることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
各RがCの分枝飽和炭化水素基であることを特徴とする請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
各Rが1−エチル−ペンチル基であることを特徴とする請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
約5〜約25重量%の1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンと、約75〜約95重量%のポリオールエステルとから本質的になることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
約15重量%の1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンと、約85重量%のポリオールエステルとから本質的になることを特徴とする請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
蒸気圧縮式空調または冷凍システムから残留物を除去するための組成物であって、約15重量%の1,1,1,2,2,3,4,5,5,5−デカフルオロペンタンと、約85重量%のネオペンチルグリコールジ−2−エチルヘキサノエートとから本質的になることを特徴とする組成物。
【請求項9】
蒸気圧縮式空調または冷凍システムの残留物を除去または低減する方法であって、
本質的にすべての冷媒および潤滑剤を前記蒸気圧縮式システムから除去する工程と、
前記蒸気圧縮式システムの残留物の量を低減するのに十分な時間にわたって、請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物に前記システムを接触させる工程と、
前記組成物を前記システムから除去する工程と
を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
蒸気圧縮式空調または冷凍システムの構成部品を洗浄する方法であって、
請求項1〜8のいずれか一項に記載の組成物で構成部品をフラッシングする工程と、
前記構成部品から前記組成物を除去する工程と
を含むことを特徴とする方法。

【公表番号】特表2007−518872(P2007−518872A)
【公表日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−551433(P2006−551433)
【出願日】平成17年1月20日(2005.1.20)
【国際出願番号】PCT/US2005/002452
【国際公開番号】WO2005/070028
【国際公開日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】