説明

蒸気弁装置およびこれを備える蒸気タービンプラント

【課題】 蒸気弁装置の弁棒とブッシュとの間からの漏洩蒸気をさらに低減させ、これに
より蒸気タービンプラントの効率を向上させる。
【解決手段】 本発明にかかる蒸気弁装置は、開口部、蒸気入口部、蒸気出口部、および
前記蒸気出口部の近傍に設けられた弁座を備える蒸気弁本体200と、蒸気弁本体の開口
部に結合され前記蒸気弁本体内に蒸気室を形成させるとともに貫通孔を備える弁蓋と、前
記貫通孔の内周に嵌合されるブッシュ201と、前記蒸気室内で前記弁座と当接すること
により前記蒸気室から前記蒸気出口部への流路を遮断する弁体と、一端が前記弁体に接続
されるとともに他端が前記弁蓋の前記貫通孔および前記ブッシュを前記蒸気室の外側に貫
通する弁棒205と、少なくとも前記弁棒が前記ブッシュを貫通する貫通部の外周面にし
まりばめにより嵌合されるとともに外周面に複数の凹部を有する弁棒スリーブ210とを
備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気タービンプラントなどにおいて用いられる蒸気弁装置およびこれを備え
る蒸気タービンプラントに係り、特に蒸気の高温化に対応させたものに関する。
【背景技術】
【0002】
図3に、蒸気タービンを備える従来の蒸気タービンプラントの系統構成図を示す。
【0003】
図3において、符号700はボイラ、701は主蒸気止め弁、702は蒸気加減弁、7
03は再熱蒸気止め弁、704はインターセプト弁、705は高圧バイパス弁、706は
低圧バイパス弁、707は逆止弁、710は高圧タービン、711は中圧タービン、71
2は低圧タービン、713は復水器、および714は給水ポンプを示す。
【0004】
ボイラー700には過熱器と再熱器が設けられており、このうち過熱器にて発生した高
圧蒸気(主蒸気)は主蒸気止め弁701、蒸気加減弁702を通過し、高圧タービン71
0に供給される。高圧タービン710に供給された主蒸気は高圧タービン710内を膨張
しながら流れ高圧タービン710を駆動する。
【0005】
高圧タービン710からの排気された蒸気(低温再熱蒸気)は、逆止弁707を経由し
てボイラー700の再熱器に導かれて加熱(再熱)され、再熱蒸気となる。ボイラ700
の再熱器からの再熱蒸気は、再蒸気止め弁703、インターセプト弁704を経て中圧タ
ービン711に供給され、中圧タービン711内を膨張しながら流れて中圧タービン71
1を駆動する。中圧タービン711から排出された蒸気は、続いて低圧タービン712へ
流入してさらに低圧タービン712を駆動する。
【0006】
低圧タービン712より流出した蒸気は復水器713に導かれ、復水器713内で冷却
されて凝縮し、水(復水)に戻される。復水器713で凝縮した水(復水)は給水ポンプ
714にて昇圧されて再びボイラー700に供給されてボイラー700の過熱器へ導かれ
る。蒸気タービンプラントには、このようにして蒸気−水の循環系(熱サイクル)が形成
されている。
【0007】
さらに、蒸気タービンプラントによっては、運用効率を高めるために、主蒸気止め弁7
01の流入側とボイラー700の再熱器の流入側とを結ぶ流路(高圧バイパス系統)に高
圧タービンバイパス弁705を設ける構成とするものもある。このような構成とすると、
高圧タービンバイパス弁705を開くことで、ボイラー700の過熱器からの主蒸気を高
圧タービン710をバイパスさせて運転することが可能となる。同様に、ボイラー700
の再熱器の流出側と復水器713との間に接続された流路(低圧バイパス系統)に低圧タ
ービンバイパス弁706を設置する構成が知られており、このような構成とすると、低圧
タービンバイパス弁706を開くことで、ボイラー700の再熱器からの再熱蒸気を、中
圧タービン711および低圧タービン712をバイパスさせて運転することが可能となる
。このような高圧バイパス系統、低圧バイパス系統を設けることにより、タービンの運転
に係わらずボイラー系単独で蒸気タービンプラントの循環運転を行なうことができる。
【0008】
図4は、上述した蒸気タービンプラントに使用されている従来の蒸気加減弁702の構
造を模式的に示す断面図である。なお、図4において蒸気加減弁702は、弁棒205の
中心軸を含む断面(すなわち垂直断面)における断面図として示している。
【0009】
図4に示すように、蒸気加減弁702は、蒸気弁本体200、弁蓋202、弁体204
および弁棒205により構成されている。蒸気弁本体200は、図示しないボイラーから
の主蒸気を図4における水平方向から流入させる蒸気入口部Iと、この蒸気入口部Iと垂
直断面においては直交する方向(すなわち図4における下方向)に蒸気を流出させる蒸気
出口部Oとを有する。蒸気出口部Oに対向する上面は開口部となっており、この開口部を
閉塞するように弁蓋202が取り付けられて蒸気弁本体200の内部に蒸気室が形成され
る。また、このほか蒸気弁本体200内部の、蒸気出口部Oの接続部分には弁座203が
設けられている。なお、蒸気室とは、弁蓋202により蒸気弁本体内部に形成される空間
のうち、蒸気入口部Iの下流側で、かつ弁座203(弁座203と後述する弁体204と
の当接部)よりも上流側部分を指す。
【0010】
弁体204は、蒸気弁本体200内部の弁座203に当接するように設けられている。
弁体204の上部には弁棒205が取り付けられている。弁棒205は、弁蓋202を貫
通するように設けられており、その端部は弁蓋202に支持された油圧駆動機構206に
連結されている。弁蓋202の弁棒205の貫通部には、弁棒205の摺動面となる部分
にブッシュ201が設けられている。
【0011】
このような構造の蒸気加減弁702において、油圧駆動機構206により弁棒205が
上下方向に駆動されて弁体204が弁座203と当接又は開離することで、蒸気出口部O
から流出する蒸気量が調節される。この、蒸気加減弁702による蒸気出口部Oからの流
出蒸気量の調節によって蒸気タービンの回転数が制御される。
【0012】
蒸気加減弁702において、ブッシュ201の内周面と弁棒205の外周面は摺動面と
なるが、これらの間隙を完全にゼロとすることはできないため、弁棒205の外周面とブ
ッシュ201の内周面との間隙を通して蒸気室から大気側に向って蒸気が常に漏洩してい
る。
【0013】
このような、弁棒205の外周面とブッシュ201の内周面との間隙を通じて漏洩する
蒸気(漏洩蒸気)は、本来であれば高圧タービン710などの蒸気タービンを駆動するた
めものである。したがって、この部位からの漏洩により蒸気タービンに流入する蒸気流量
が減少すると、結果的に蒸気タービンプラントのが低下する。
【0014】
また、漏洩蒸気は、蒸気加減弁702へ供給された高温高圧の主蒸気であり、これらが
弁棒205の外周面とブッシュ201の内周面との間隙を通じて漏洩する際には弁棒20
5やブッシュ201の熱伸びが生じてこれらの間隙が変化するため、条件によっては漏洩
蒸気が更に増加する。
【0015】
このような問題に対処するため、弁棒205の摺動部に、ブッシュ201と線膨張係数
が類似の弁棒スリーブを嵌合させることで、弁棒スリーブの外周面とブッシュ201の内
周面との半径方向の間隙を一定に保つ技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0016】
この特許文献1の技術では特に、使用される主蒸気の温度においても弁棒スリーブがし
まりばめで弁棒205に嵌合されるようにすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】実開昭60−77703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
特許文献1に記載された技術は、確かに、弁棒スリーブ外径とブッシュ内径との微小間
隙を蒸気温度にかかわらず一定に保つようにして微小間隙からの漏洩蒸気を極力少なくす
ることを目的としたものであるが、上述の通り弁棒205(あるいは弁棒スリーブ)の外
周面とブッシュ201の内周面との間隙をゼロにすることはできないので、蒸気の漏洩自
体を抑制するものではない。
【0019】
特に、近年では蒸気タービンの高圧タービンに供給される主蒸気の蒸気条件が向上、す
なわち主蒸気の温度・圧力とも上昇する傾向にあり、圧力が上昇すればそれに応じて弁棒
205とブッシュ201の間隙からの漏洩蒸気は増加する。
【0020】
また、弁棒205とブッシュ201の間隙からの漏洩蒸気の一部が凝縮することなどで
弁棒205とブッシュ201の間隙に酸化スケールが時間とともに徐々に堆積することが
知られている。このため、蒸気条件の向上に合わせて弁棒205とブッシュ201の間隙
を小さくすることでこの間隙からの漏洩蒸気を抑制する場合、酸化スケールの堆積により
弁棒205とブッシュ201の間隙が閉ざされ弁棒205のかじり(スティック)が生じ
る虞が高まる。
【0021】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであって、蒸気弁装置の弁棒
とブッシュとの間からの漏洩蒸気をさらに低減できる構成を提供し、これにより蒸気ター
ビンプラントの効率を向上させることをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、本発明の蒸気弁装置は、開口部を有するとともに、蒸気入
口部、蒸気出口部、および前記蒸気出口部の近傍に設けられた弁座を備える蒸気弁本体と
、前記蒸気弁本体の開口部に取り付けられて前記蒸気弁本体内に蒸気室を形成させるとと
もに貫通孔を備える弁蓋と、前記弁蓋の前記貫通孔の内周に嵌合されるブッシュと、前記
蒸気室内で前記蒸気弁本体の前記弁座と当接可能に構成され、当該弁座と当接することに
より前記蒸気室から前記蒸気出口部への流路を遮断する弁体と、一端が前記弁体に接続さ
れるとともに他端が前記弁蓋の前記貫通孔および前記ブッシュを前記蒸気室の外側に貫通
する弁棒と、少なくとも前記弁棒が前記ブッシュを貫通する貫通部の外周面にしまりばめ
により嵌合されるとともに外周面に複数の凹部を有する弁棒スリーブと、を備えることを
特徴とする。
【0023】
また、本発明の蒸気タービンプラントは、蒸気発生装置と、前記蒸気発生装置にて発生
した蒸気を導く蒸気配管と、前記蒸気配管から供給される蒸気により駆動される蒸気ター
ビンと、前記蒸気配管に介挿された本発明の蒸気弁装置とを備え、当該蒸気弁装置により
前記蒸気発生装置から前記蒸気タービンへ供給される蒸気量が調整されることを特徴とす
る。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、蒸気弁装置の弁棒とブッシュとの間からの漏洩蒸気をさらに低減させ
ることができ、これにより蒸気タービンプラントの効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る蒸気弁装置の要部を拡大した拡大断面図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る蒸気弁装置の弁棒スリーブの部分斜視図。
【図3】従来の蒸気タービンプラントの系統構成図。
【図4】従来の蒸気タービンプラントに用いられる蒸気加減弁の構成を模式的に示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
【0027】
第1の実施の形態に係る蒸気弁装置は、図4に示した従来の蒸気加減弁とほぼ同様な構
成を有するものであり、したがって、図3に示した蒸気タービンプラントの蒸気加減弁7
02などに好適なものである。図1は、本実施の形態に係る蒸気弁装置の、図4と同様な
垂直断面図(蒸気弁装置の弁棒の中心軸を含む断面図)のうち、要部を拡大して示した拡
大断面図である。図1において、図4と同一の構成要素については同一の符号を付し、そ
の詳細な説明を省略する。
【0028】
本実施の形態においても図4に示した蒸気弁装置702と同様に、蒸気弁本体200の
上部の開口部に弁蓋202が取り付けられて蒸気弁本体202の内部に蒸気室が形成され
る。そして、図1に示すように、弁蓋202の中央部には貫通孔が設けられ、この貫通孔
の内周にブッシュ201が嵌合している。なお、ブッシュ201の蒸気室側端部には、半
径方向への凸部が設けられ、また、弁蓋202の貫通孔の蒸気室側端は他の部分よりも孔
径が大きく加工された凹部が形成されている。このようにすることで、弁蓋202の凹部
とブッシュ201の凸部を嵌合させてブッシュ201が弁棒5の軸方向への移動を防止す
る構成としている。なお、ブッシュ201は弁蓋202に冷やしばめなどの手法で嵌合さ
せている。
【0029】
ブッシュ201の内周に形成される孔には、弁棒205が貫通している。そして、本実
施の形態に係る蒸気弁装置においては、弁棒205の、弁蓋202の貫通孔およびブッシ
ュ201を貫通する部分(貫通部)の外周面に、弁棒スリーブ210が嵌合されている。
特に、本実施の形態において、弁棒スリーブ210は、貫通部よりも弁蓋202の外側(
図4の油圧駆動装置206側)まで弁棒205の軸方向に延長して設けられている。なお
、弁棒205のうち弁棒スリーブ210が嵌合される軸方向位置については、蒸気タービ
ンプラントの運転時における蒸気弁装置の弁棒205の上下動を考慮して、少なくともブ
ッシュ201の貫通部となる部分全体とすればよい。
【0030】
さらに、本実施の形態の蒸気弁装置では、弁棒205の外周面に嵌合されて取り付けら
れる弁棒スリーブ210の外周面には、複数の凹部220が周方向の全体(全周)に亘っ
て設けられている。特に、本実施の形態においては、凹部220はそれぞれ、弁棒スリー
ブ210を径方向に貫通する穴により構成されている。
【0031】
なお、凹部220については、本実施の形態に示す、径方向に貫通する穴とする以外の
構成とすることも可能であり、あるいは、弁棒スリーブ210をハニカム構造とすること
で凹部220を形成することも可能である。また凹部220(貫通穴)の形状については
図2に示した丸型以外の各形状としてもよい。特に上述のように弁棒スリーブ210をハ
ニカム構造とする場合は、凹部220を構成する貫通穴は多角形形状となる。
【0032】
弁棒205に弁棒スリーブ210が取り付けられる部分のうち、蒸気室側の端部には段
部が設けられており、この段部より蒸気室側の弁棒205の径は、弁棒スリーブ210の
厚み分だけ大きくなるようになっている。このような構成とすることで、弁棒205のう
ち蒸気室側において、弁棒スリーブ210が取り付けられる箇所で軸方向の段差が生じな
いようにしている。
【0033】
蒸気タービンプラントの運転時、蒸気弁装置の弁開度が変化すると、弁棒スリーブ21
0外周面とブッシュ201の内周面とは互いに摺動する。しかしながら、弁棒スリーブ2
10の外周面とブッシュ201の内周面の間には、微小な間隙が存在しており、この間隙
から蒸気が漏洩することとなる。このとき、本実施の形態のように、弁棒スリーブ210
の外周面に凹部220を設ける構成とすることで、弁棒スリーブ210とブッシュ210
との間隙から漏洩する蒸気(漏洩蒸気)は、途中に設けられた複数の凹部220を通過す
ることとなる。
【0034】
ここで、漏洩蒸気が凹部220内に流入する際には、膨張により蒸気圧力が低下し、ま
た凹部220から流出する際には、流路が絞られて蒸気圧力が上昇する。すなわち、弁棒
スリーブ210の外周面に形成された複数の凹部220のこのような作用により、この弁
棒スリーブ210は漏洩蒸気に大きな圧力損失を発生させる。
【0035】
したがって、弁棒スリーブ210の外径とブッシュ201内径との間隙寸法を従来と同
じとしても、凹部220の無い平坦な弁棒スリーブ210を有する蒸気弁装置と比較して
、本実施の形態に係る蒸気弁装置では、弁棒スリーブ210とブッシュ201との間隙か
ら漏洩する蒸気の圧力の降下比率が大きくなるため、大気側への漏洩蒸気量を大幅に低減
することができる。
【0036】
また、弁棒スリーブ210とブッシュ210との間隙から漏洩する蒸気(漏洩蒸気)が
冷却されたり、あるいは漏洩蒸気が飽和蒸気を含む場合には、漏洩蒸気の一部が凝縮する
ことで弁棒スリーブ210とブッシュ201の間隙には、酸化スケールが時間とともに徐
々に堆積する。本実施の形態によれば、漏洩蒸気量が従来の蒸気弁装置に比べて大幅に小
さいため、酸化スケールが堆積するまでの時間も長くなる。
【0037】
さらに、本実施の形態によれば、弁棒スリーブ210の外表面に酸化スケールが生成・
堆積し、この酸化スケールが蒸気タービンプラントの運転中に剥離したとしても、これら
の剥離した酸化スケールは弁棒スリーブ210の外周面に設けられた複数の凹部220に
収納される。このため、弁棒スリーブ210外径とブッシュ201内径との微小間隙に剥
離した酸化スケールが噛み込まれることがなくなるので、蒸気タービンプラントの運転中
に蒸気弁装置の弁棒205および弁棒スリーブ210がステイックすることを防止するこ
とができる。
【0038】
近年においては、蒸気タービンプラントの主蒸気温度が上昇しており、600℃以上の
主蒸気を適用するものもある。このような高温蒸気が適用される主蒸気加減弁などの蒸気
弁装置においては、高温蒸気条件下でも耐え得るように、弁棒205には、例えば、Ni
含有率が30〜80%のオーステナイト系の耐熱鍛造合金が用いられる。
【0039】
弁棒205として、このようなオーステナイト系の耐熱鍛造合金などを用いる場合には
、強度上、弁棒205の構造を複雑にしないことが肝要であり、そのために本実施の形態
においては、別体に形成した弁棒スリーブ210の外周面に凹部202を形成する構成と
している。
【0040】
なお、ブッシュ201の内周面に、図1,2で示す弁棒スリーブ210の外周面と複数
の凹部220と同様な凹部を設ける構成とすることも可能である。ただし、摺動部を構成
するブッシュ201の内周面にも弁棒スリーブ210の外周面の両者に複数の凹部220
を加工すると、剥離した酸化スケールが噛み込まれやすくなる虞が生じるため、凹部22
0は、弁棒スリーブ210の外周面、あるいはブッシュ201の内周面のどちらか片方に
設けることが好ましい。
【0041】
弁棒スリーブ210は、弁棒205にしまりばめのはめあい公差で嵌合させている。こ
の場合、蒸気タービンプラントの運転時に蒸気弁装置に供給される蒸気の温度においても
しめ代を有するように弁棒スリーブを210を取り付けることが好ましい。あるいは、運
転状態における弁棒205および弁棒スリーブ210の温度を数値シミュレーションなど
により事前に解析し、これにより得られた弁棒205あるいは弁棒スリーブ210の予想
温度においてもしめ代を有するようなしまりばめで取り付けるとよい。
【0042】
弁棒スリーブ210は、蒸気弁装置および蒸気タービンプラントの運転中には、ブッシ
ュ201と摺動して強く擦りあうことになるため十分なしめ代がない場合、弁棒205か
ら脱落したり動いたりする可能性もある。しかしながら上述のように運転時にもしめ代を
有するようなしまりばめで、弁棒スリーブ210を弁棒205に取り付けることで弁棒ス
リーブ210の取り付けの信頼性を高めることができる。
【0043】
特に、本実施の形態においては、弁棒スリーブ210を上述のように弁蓋202の端部
より外側(図4における油圧駆動装置206側)まで弁棒205の軸方向に延長されてお
り、この延長部分は直接蒸気に触れる部分より温度が低いため一様に膨張せず、運転中に
おいては弁棒スリーブ210は巾着のような形状となる。この場合、特に延長部分にて十
分なしめ代を確保することができるので、本実施の形態によれば弁棒スリーブ210を弁
棒205により強固に取り付けることが可能である。
【0044】
図2は図1の弁棒スリーブ210の部分斜視図である。図2に示したように、本実施の
形態に係る蒸気弁装置の弁棒スリーブ210には径方向に貫通穴が複数設けられており、
これらが凹部220を構成している。本実施の形態において、複数の貫通穴(凹部220
)を周方向に一定間隔をおいて配置した周方向穴列を軸方向に複数設けて構成している。
ここで、軸方向に隣接する周方向穴列における各貫通穴(凹部220)の周方向位置をず
らす(すなわち、軸方向に隣接する周方向穴列の周方向の貫通穴位置を互い違いとした千
鳥配列とする)ことで、弁棒スリーブ210の外周面における貫通穴(凹部220)の密
度を大きくしている。
【0045】
また、弁棒スリーブ210のうち、特にその外表面には表面効果処理が施されている。
この表面硬化処理としては、傾斜合金処理、ステライト処理、窒化処理および浸炭処理等
の処理や、複合表面改質処理(複合硬化処理)などのいずれかとすることが可能である。
【0046】
複合表面改質処理(複合硬化処理)の例としては、従来の窒化処理のような拡散硬化法
と、チタンとアルミニウムとの金属間化合物(チタンアルミナイド)被膜を生成するPVD
処理(物理的蒸着法)を組み合わせた処理などが挙げられる。
【0047】
上述の、拡散硬化法とPVD処理とを組み合わせた複合表面改質処理(複合硬化処理)
の場合、拡散効果法を利用することで傾斜化された硬化領域を形成することで機械的強度
を向上させることができるとともに、PVD処理によって形成されたチタンアルミナイド
皮膜が、高温において、アルミニウムの酸化物が表面に緻密な保護性被膜を形成して優れ
た耐酸化性を示すため、被膜の持つ特性とそれぞれの処理により耐久性を著しく向上させ
る複合効果を奏することができる。
【0048】
すなわち、PVD処理は、目的とする成分物質(金属)を固体から気体状に蒸発・イオ
ン化させ、対象部材の表面に物理的に堆積させることで薄膜を形成する蒸着法であるため
、表面効果処理としてPVD処理のみを行なう場合、表面から大きな集中荷重がかかると
母材が塑性変形を起こし、薄膜がその変形量に追従できずヒビ割れや剥離する危険がある
。このためにこの例では、先に窒化処理して下地を硬化してからPVD処理を施す複合表
面改質処理(複合硬化処理)を行なっている。
【0049】
なお、弁棒スリーブ210に表面硬化処理を施す場合、弁棒スリーブ210の外表面だ
けではなく、各凹部220(本実施の形態においては貫通穴)の内周面にも同様に表面効
果処理を施すことが可能である。特に本実施例のように凹部220を貫通穴とする場合に
は、貫通穴周辺の変形防止にも役立たせることができる。また、弁棒スリーブ210をハ
ニカム構造とする場合には、表面効果処理により弁棒スリーブ210の機械的強度を補強
することも可能となる(硬度が上がるので引張強度が増加する)。
【0050】
弁棒スリーブ210に表面硬化処理を施す場合、弁棒205に弁棒スリーブ210を取
り付ける前の段階で、すなわち弁棒スリーブ210単体で処理を行なうことが好ましい。
【0051】
上述のように、弁棒205にはオーステナイト系の耐熱鍛造合金などが用いられるが、
この場合、耐食性を劣化させる析出物をなくしその機械的性質を決めるため、弁棒205
の機械加工を行なう前に概ね1000℃〜1100℃程度で加熱した後急冷する溶体化熱
処理を施す。
【0052】
したがって、弁棒スリーブ210を弁棒205に取り付けた状態で、表面硬化処理のた
めに、弁棒205の材料の焼戻し温度以上の温度で何度ともなく熱処理履歴を加えること
は弁棒205の金属組成にとって好ましいことでないため、弁棒スリーブ210に表面効
果処理を施す場合は、弁棒スリーブ210を弁棒205の外周部に焼きばめなどの手法で
取り付ける前、すなわち弁棒スリーブ210単体の状態で行なうとよい。
【0053】
このように、本実施の形態においては、弁棒スリーブ210を弁棒205とは別体に設
けたことで、弁棒205の材質に依存することなく、表面硬化処理方法を自由に選択して
単体の弁棒スリーブ210に表面効果処理を施して高い性能を得ることができる。
【0054】

弁棒スリーブ210の材料は高温耐熱材料であることが要求されるが、弁棒205に焼
きばめにてはめ込まれており、弁棒205ほどの高強度は必要とはされない。弁棒スリー
ブ210の材料の選定に当たっては、上述の表面硬化処理が有効に作用する材料とするの
が望ましい。
【0055】
なお、一方ブッシュ201も耐熱材料であることが要求されるが、弁蓋202に冷やし
ばめにてはめ込まれているため、同じく弁棒205のような高強度は必要とされない。ま
た、ブッシュ201が弁蓋に冷やしばめで取り付けられる場合には、ブッシュ201に作
用する熱処理の履歴については特に問題とならいため、ブッシュ201を弁蓋に取り付け
た状態、あるいは単体で各種の表面硬化処理を行うことができる。
【0056】
弁棒スリーブ210やブッシュ201の材料としては、一般的には、クロム−モリブデ
ン−バナジウム鋼、9%クロム鋼、12%クロム鋼、ニッケル−クロム−鉄が主成分のイ
ンコロイ(登録商標)やステライト(登録商標)が採用される。これらの材料は耐食、耐
熱性を有する合金であり、蒸気タービンプラントの高温用部材として使用される材料であ
る。
【符号の説明】
【0057】
200…蒸気弁本体、201…ブッシュ、202…弁蓋、203…弁座、204…弁体、
205…弁棒、206…油圧駆動機構、210…弁棒スリーブ、220…凹部、700…
ボイラ、701…主蒸気止め弁、702…蒸気加減弁、703…再熱蒸気止め弁、704
…インターセプト弁、705…高圧バイパス弁、706…低圧バイパス弁、707…逆止
弁、710…高圧タービン、711…中圧タービン、712…低圧タービン、713…復
水器、714…給水ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有するとともに、蒸気入口部、蒸気出口部、および前記蒸気出口部の近傍に設
けられた弁座を備える蒸気弁本体と、
前記蒸気弁本体の開口部に取り付けられて前記蒸気弁本体内に蒸気室を形成させるとと
もに、貫通孔を備える弁蓋と、
前記弁蓋の前記貫通孔の内周に嵌合されるブッシュと、
前記蒸気室内で前記蒸気弁本体の前記弁座と当接可能に構成され、当該弁座と当接する
ことにより前記蒸気室から前記蒸気出口部への流路を遮断する弁体と、
一端が前記弁体に接続されるとともに、他端が前記弁蓋の前記貫通孔および前記ブッシ
ュを前記蒸気室の外側に貫通する弁棒と、
少なくとも前記弁棒が前記ブッシュを貫通する貫通部の外周面にしまりばめにより嵌合
されるとともに、外周面に複数の凹部を有する弁棒スリーブと、
を備えることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項2】
請求項1記載の蒸気弁装置において、前記弁棒スリーブには表面効果処理が施されてい
ることを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項記載の蒸気弁装置において、前記弁棒スリーブの前記
凹部の少なくとも一部は、前記弁棒スリーブを半径方向に貫通する穴として形成されるこ
とを特徴とする蒸気弁装置。
【請求項4】
蒸気発生装置と、前記蒸気発生装置にて発生した蒸気を導く蒸気配管と、前記蒸気配管
から供給される蒸気により駆動される蒸気タービンとを備える蒸気タービンプラントにお
いて、
前記蒸気配管には請求項1乃至3のいずれか1項記載の蒸気弁装置が介挿され、
当該蒸気弁装置によって前記蒸気発生装置から前記蒸気タービンへ供給される蒸気量が
調節されることを特徴とする蒸気タービンプラント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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