説明

蒸発冷却壁体

【課題】簡素な装置構成で冷却効率のよい蒸発冷却壁体を提供することである。
【解決手段】本発明にかかる蒸発冷却壁体は、給水部1と、給水部1から上部方向に延びるように設けられ、給水部1に貯水された水3を水面から1m以上の高さに揚水可能な高揚水性多孔質体4と、を備え、高揚水性多孔質体4が吸い上げた水を表面より蒸発させることで周囲の空気を冷却する。高揚水性多孔質体4は、例えば気孔が一方向に配向した貫通孔を有するセラミック材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蒸発冷却壁体に関し、特に水を表面より蒸発させることで周囲の空気を冷却する多孔質体を備える蒸発冷却壁体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヒートアイランド現象に代表される都市熱環境の悪化が大きな社会問題となっている。ヒートアイランドの形成要因の一つとして、都市域においてコンクリート・アスファルト等の人工被覆面が増大すると同時に緑や水面が失われ蒸発冷却効果が減少したことが挙げられる。よって、都市熱環境の改善手法の一つとして、水の蒸発潜熱による冷却効果を利用した各種システムが高い関心を集めている。
【0003】
特許文献1には蒸発冷却壁体に関する技術が開示されている。図6は特許文献1に開示されている蒸発冷却壁体を説明するための図である。図6に示すように特許文献1にかかる蒸発冷却壁体は、冷却ユニット131、132、133を有する。各冷却ユニット131、132、133は、内面及び外面が開放された形態の枠140と、枠140の底部に形成されたトレー状の水槽136と、下部を水槽136内の水150に浸漬させる状態で互いに平行且つ互いの間に所定の隙間を形成する状態で水槽136から立ち上がる円筒形状の多数の吸水性多孔質体138とを備えている。そして、各冷却ユニット131、132、133の水槽136には、壁体120の内部において上下方向に延びる配管141、142、143により水が供給される。
【0004】
つまり、中段の冷却ユニット132に下端部が連結された配管142は、最上段の冷却ユニット131における水槽136からのオーバーフロー水を中段の冷却ユニット132の水槽136に導くように設けられている。また、下段の冷却ユニット133に下端部が連結された配管143は、中段の冷却ユニット132における水槽136からのオーバーフロー水を下段の冷却ユニット133における水槽136に導くように設けられている。また、下段の冷却ユニット133における水槽136からのオーバーフロー水は、配管162から排水される。
【0005】
一方、最上段の冷却ユニット131に下端部が連結された配管141は、その最上段の冷却ユニット131の上側において壁体120内部に配置された貯水タンク144内部の水150を最上段の冷却ユニット131の水槽136へ導くように設けられている。最上段の冷却ユニット131に連結された配管141にはバルブ146が設けられている。貯水タンク144の上側の天井にはすり鉢状の集水部148が設けられており、この集水部148にて雨水151が集められ、貯水タンク144に貯水される。
【0006】
冷却ユニット131、132、133の枠140の内面開放部及び外面開放部には多数の羽板152が設けられており、通気可能とされている。また、壁体120の外パネルにも羽板135が設けられており、通気可能とされている。図6の白抜き矢印は空気が流れる方向を示している。そして、特許文献1にかかる蒸発冷却壁体を用いることで、各冷却ユニット131、132、133に設けられた吸水性多孔質体138間の隙間を流れる空気が、水分保持により冷えた状態にある吸水性多孔質体138自体による冷却効果により、更には吸水性多孔質体138の表面から蒸発する水分の蒸発潜熱による冷却効果により、冷却される。
【0007】
また、特許文献2には冷房装置に関する技術が開示されている。図7は特許文献2に開示されている冷房装置を備えた建物の縦断面図である。図7に示す冷房装置は主として、冷却パネル220、給水装置230および冷風供給部240を備える。建物210の前壁213は、ほぼ全面が冷却パネル220となっている。後壁214、床215および天井216に、それぞれ断熱材(図示しない)が挟み込まれている。
【0008】
冷却パネル220は、吸水性の多孔質部材223からなっている。多孔質部材223は、素焼で作られている。給水装置230は、給水ポンプ231を備えており、給水ポンプ231の入口側は給水タンク232に、出口側は給水管233にそれぞれ接続されている。そして、給水管233から分岐した分岐管234から冷却パネル220の多孔質部材223に給水される。屋根212で受けた雨水は、樋235および雨水管236を経て給水タンク232に集められる。多孔質部材223に設けられた湿度センサからの湿度計測信号は、信号線238を介して給水ポンプコントローラ239に出力される。
【0009】
冷風供給部240は、冷却パネル背面の冷却面226と隔壁241との間に形成された、上下方向に延びる室内冷却流路242からなっている。室内冷却流路242の上端の開口部が空気流入口243となっており、下端の開口部が空気流出口244となっている。室内冷却流路242内を流れる空気は、冷却パネル冷却面226で冷却される。多孔質部材223の表層部の水分は、太陽光線Sの照射、あるいは外気などにより加熱されて気化され、その気化熱によって冷却パネル220が冷却される。室内冷却流路242の空気は、冷却パネル冷却面226に接触して冷却される。冷却された空気は下降して、室内冷却流路242の空気流出口244から冷房室211に流入し、冷房室211内を冷却する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平9−279707号公報
【特許文献2】特開2003−83656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1にかかる蒸発冷却壁体では、吸水性多孔質体138の揚水能力が低いため(30〜40cm程度)、給水路を多層(図7では、冷却ユニット131、132、133)にする必要があった。このため蒸発冷却壁体の構成が複雑になるという問題があった。
また、特許文献2にかかる冷房装置では、多孔質部材223に水を供給する際に給水ポンプ231を設ける必要があるという問題があった。
また、従来の蒸発冷却壁体では、日射熱を多く受けている壁面での活発な蒸発により壁面への給水が蒸発に追いつかず、一部の壁面が乾燥した状態となり、その表面温度が上昇し蒸発冷却効果が低減するという問題があった。
【0012】
上記課題に鑑み、本発明の目的は簡素な装置構成で冷却効率のよい蒸発冷却壁体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明にかかる蒸発冷却壁体は、給水部と、前記給水部から上部方向に延びるように設けられ、前記給水部に貯水された水を水面から1m以上の高さに揚水可能な高揚水性多孔質体と、を備え、前記高揚水性多孔質体が吸い上げた水を表面より蒸発させることで周囲の空気を冷却する。
【発明の効果】
【0014】
本発明により簡素な装置構成で冷却効率のよい蒸発冷却壁体を提供することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】実施の形態1にかかる蒸発冷却壁体を示す斜視図である。
【図2】実施の形態1にかかる蒸発冷却壁体を示す断面図である。
【図3】実施の形態1にかかる蒸発冷却壁体に用いられる高揚水性多孔質体の時間に対する揚水高さを示す図である。
【図4】実施の形態1にかかる蒸発冷却壁体に用いられる高揚水性多孔質体の配置を説明するための上面図である。
【図5】実施の形態2にかかる蒸発冷却壁体を説明するための断面図である。(a)は蒸発冷却壁体を横方向からみた断面図であり、(b)は蒸発冷却壁体を上方向からみた断面図である。
【図6】特許文献1にかかる蒸発冷却壁体を説明するための断面図である。
【図7】特許文献2にかかる蒸発冷却壁体を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
実施の形態1
以下、図面を参照して発明の実施の形態1について説明する。図1は、本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体を示す斜視図である。図1に示す蒸発冷却壁体は給水部1と給水部1から上部方向に延びるように設けられ、給水部1に貯水された水に浸されると共に、当該水を水面から1m以上の高さに揚水可能な高揚水性多孔質体4と、を備える。給水部1には配管5から水が供給され、配管6から水が排出される。高揚水性多孔質体4は、給水部1内に一定量貯水された水を吸い上げ、吸い上げた水を高揚水性多孔質体4の表面から蒸発させることができる構造体である。このような構成を有する蒸発冷却壁体により、直達日射を遮蔽することができ、また、高揚水性多孔質体4の表面からの水の蒸発により壁面温度が下げられ、外気湿球温度に近い冷放射面が形成される。更に、壁体を通過した空気(風)が冷却され、冷気が創り出される。以下で、本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体について詳細に説明する。
【0017】
図2は本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体を説明するための断面図である。図2に示すように本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体は、給水部1と給水部1から上部方向に延びるように設けられ、給水部1に貯水された水3に浸されると共に、当該水を水面から1m以上の高さ(h)に揚水可能な高揚水性多孔質体4と、を備える。
【0018】
給水部1は高揚水性多孔質体4に水3を供給することができる機能を有するものであればどのようなものであってもよい。図2では、トレー状の給水部1に満たされた水3に高揚水性多孔質4を浸す構成としているが、例えばパイプ状の高揚水性多孔質体4の下端に配管継手を取り付け、給水ホースと接続する構成としてもよい。また、高揚水性多孔質体4が水に浸される長さは、高揚水性多孔質体4が水を1m以上の高さまで吸い上げることができるような長さとすることができる。例えば、高揚水性多孔質体4は10cm以上の長さ水に浸すようにすることができる。高揚水性多孔質体4の根元部分を10cm以上水に浸すことで、十分な揚水力を得ることができる。
【0019】
また、高揚水性多孔質体4は給水部1に貯水された水を水面から1m以上の高さに揚水可能な材料であればどのような材料であってもよい。例えば、高揚水性多孔質体4として、気孔が一方向に配向した貫通孔を有するセラミック材料を用いることができる。このような高揚水性多孔質体4は毛管引力により水3を吸い上げることができる。例えば1.2mの高さを有する高揚水性多孔質体4を用いると、給水部1に貯水された水を1m以上の高さまで吸い上げることができる。また、例えば1.8mの高さを有する高揚水性多孔質体4を用いると、給水部1に貯水された水を1.3m以上の高さまで吸い上げることができる。なお、人間の身長程度の高さまでに水を吸い上げる場合を考慮すると、例えば高揚水性多孔質体4の高さは1.2m以上1.8m以下とすることができる。
【0020】
このような高揚水性多孔質体4は、セラミック坏土に分解性の高アスペクト比の気孔形成剤を混合し、押出成形によりセラミック坏土の成形および気孔形成剤の配向を行った後、乾燥、焼結を行うことにより所定の孔径を有する一方向の貫通孔を導入することで形成することができる。気孔形成剤としては、たとえば炭素繊維を用い、その径および長さを適宜選択することにより、所望の孔径を有する貫通孔を得ることができる。また、セラミック材料としては、例えば酸化アルミニウムや酸化シリコンを用いることができる。押出成形には、たとえば、胴部、テーパ部および口金部からなるピストン式押出し成形機であって、口金部の内径が胴部の内径より小さいものを用いることができる。
【0021】
図3は、本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体に用いられる長さ1.2mの高揚水性多孔質体4の時間に対する揚水高さを示す図である。この場合、高揚水性多孔質体4の下端を高さ10cmまで水中に浸した後の揚水高さを目視および近赤外線水分計により測定した。揚水高さの測定方法としては、まず、目視(表面濡れ具合から)で水が上昇した大体の高さを決める。そこに近赤外線水分計の測定点を当てて、上下方向へ測定点を微移動しながら近赤外線水分計の指示値の変化を観測する。その指示値が高揚水性多孔質体の気乾時の指示値位になり始める時点での高さを揚水高さとする。測定場所は、(1)無風で温湿度が安定している室内、(2)日射が遮蔽されており、風通しの良いピロティ、(3)周囲に遮蔽物がなく、日中日射が常に当たっている屋外とした。なお、測定日は風が比較的弱くかつ日射量が比較的多い夏季晴天日であった。
【0022】
図3に示すように、高揚水性多孔質体4の浸水開始から1時間経過後の揚水高さは、三つの場所において36cm前後であった。それ以降は蒸発量が最も少ない室内での揚水高さが高くなり、次いではピロティの方が高くなる結果となった。12時間浸水後の揚水高さは室内・ピロティ・屋外ではそれぞれ88.2cm、78.7cm、75.9cmとなった。また、揚水高さが100cmに達すにはそれぞれ18時間、28時間、32時間を必要とした。なお、図3に示した高揚水性多孔質体の揚水高さの試験結果は一例であり、高揚水性多孔質体の製造方法等によりその特性は変化する。
【0023】
また、高揚水性多孔質体4の本数は、得ようとする冷気の程度に基づき決定することができる。図4は本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体に用いられる高揚水性多孔質体4の配置を説明するための上面図である。例えば、図4に示すように、高揚水性多孔質体を千鳥状に配置することができる。このように千鳥状に配置することで、風が高揚水性多孔質体4にあたる面積を増やすことができ、効率的に冷気を得ることができる。
【0024】
このように、本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体では、水面から1m以上の高さに揚水可能な高揚水性多孔質体4を用いているので、特許文献1に示したように給水路を多層にする必要がなくなる。また、特許文献2にかかる冷房装置のように給水のための給水ポンプを設ける必要がなくなる。このため、蒸発冷却壁体の装置構成を簡素化することができ、また冷却効率のよい蒸発冷却壁体を提供することができる。
また、本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体を用いることで、給水ポンプを用いることなく地下や地表面に設置された貯水槽に蓄えられた雨水や水道水等を蒸発用の水として用いることがでる。また、本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体を用いることで、長期にわたり安定的に蒸発冷却性能を維持することができる。
【0025】
実施の形態2
次に、図5を用いて本発明の実施の形態2にかかる蒸発冷却壁体について説明する。図5(a)は本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体を横方向からみた断面図であり、図5(b)は本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体を上方向からみた断面図である(蓋12は省略している)。本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体は、給水口8と、給水口8から供給された水を堰き止める所定の高さを備える堰2と、堰2からあふれ出た水を排出する排出口9と、を備える給水部(以下、閉水路ともいう)1で構成することができる。また、高揚水性多孔質体4は、堰2により堰き止められた水3に浸されると共に、閉水路1から上部に延びるように設置されている。高揚水性多孔質体4は、堰2により堰き止められた水3を1m以上の高さまで吸い上げると共に、吸い上げた水を表面より蒸発させることで周囲の空気を冷却する。パイプ状の高揚水性多孔質体4を用いる場合は、空洞11を経由して閉水路1内に塵等が侵入することを防ぐために蓋12を設けてもよい。また、閉水路1と高揚水性多孔質体4の接続部分を封止材やパッキンなどで封止してもよい。
【0026】
本実施の形態にかかる給水装置の閉水路1の給水口8には配管5から水が供給される。このとき、給水口8には配管5からフィルターを介して水が供給されてもよい。例えば、配管5は家屋に設けられている雨樋と接続されており、雨樋で集めた雨水を給水口8から閉水路1に供給することができる。また、本実施の形態にかかる給水装置の閉水路1には堰2が設けられており、給水口8から供給された水を堰き止めることで、閉水路1内に一定量の水3を溜めることができる。閉水路1内に溜める水3の量は堰2の高さhで決めることができる。
【0027】
例えば、堰2の高さhは蒸発冷却壁体を使用する地域の連続無降雨日数など降雨パターンに基づき決定することができる。例えば、夏季降雨間隔が短い地域では堰2の高さhを低めに設定する。堰2の高さhを低めに設定することで、水3が閉水路1内に長期間溜まることを防止することができ、つまり、水3の循環を促進することができ、閉水路1内の水3に細菌が繁殖したり、水3が腐ったりすることを防止することができる。また、例えば夏季降雨間隔が長い地域では堰2の高さhを高めに設定することで、閉水路1内に溜めることができる水の量を多くすることができ、水3が不足することを防止できる。
【0028】
堰2は例えば着脱可能な部材からできており、降雨パターンに基づき適切な高さhを有する堰を取り付けることで、堰2の高さhを調整することができる。また、堰2を可能な限り排水口9寄りに設置することで、閉水路1内に溜める水の量を多くすることができる。また、給水口8の位置を堰2の高さよりも低い位置に設けることで、給水用の配管5内にも配管5の容積に対応した量の水を貯水することができる。
【0029】
また、本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体の閉水路1は排水口9を備える。排水口9からは堰2からあふれ出た水が排水される。排水口9には配管6が設けられており、排水口9からの排水は下水等に排水される。
【0030】
また、高揚水性多孔質体4は、閉水路1から上部に延びるように、水3と接するように設置されており、閉水路1内に貯水された水3を吸い上げる。そして、高揚水性多孔質体4は吸い上げた水を表面より蒸発させることで周囲の空気を冷却する。高揚水性多孔質体4は、例えば1.2mの高さを有し、実施の形態1で説明したように1m以上の高さまで、閉水路1内に貯水された水3を吸い上げることができる材料で構成することができる。
【0031】
また、本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体では、高揚水性多孔質体4の根元部分のうち堰2により堰き止められた水3と接触しない部分が、所定の長さ給水装置の閉水路1内に収納されている。高揚水性多孔質体4は吸い上げた水が根元部分で染み出すため、染み出した水を排水する機構が必要となる。本実施の形態では、高揚水性多孔質体4の根元部分を一定の長さ閉水路1内に入れることで、高揚水性多孔質体4から染み出した水を閉水路1内に戻すことができる。これにより、水の染み出しにより冷却に使用される水が無駄になることを防止することができる。また、染み出した水の飛散を防止することができ、また新たに排水受けを設ける必要がなくなる。
【0032】
高揚水性多孔質体4から水が染み出す範囲は、例えば閉水路1内の水面(堰2の上端)から高揚水性多孔質体4の上端までの長さにより決定することができる。よって、使用する高揚水性多孔質体4の閉水路1内の水面から高揚水性多孔質体4の上端までの長さに基づき、閉水路1内の最高水位(堰2の上端)から閉水路内部の上面までの長さhを調整することができる。
【0033】
また、本実施の形態では高揚水性多孔質体4として、例えば空洞11の無い高揚水性多孔質体4を用いてもよい。このように空洞のない円柱状の高揚水性多孔質体4を用いることで、高揚水性多孔質体4の保水量を増すことができ給水装置の閉水路1の必要容量を減少させコンパクトにすることができる。
【0034】
以上で説明したように、本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体は閉水路1内に堰2を設けているので、給水口8から供給された水(例えば雨水)を閉水路内に貯水することができる。よって、例えば配管5の途中、つまり閉水路1の上流側に、貯水タンクを別途設ける必要がないので蒸発冷却壁体の設置コストやスペースを削減することができる。また、蒸発冷却壁体を設置する場合は、給水装置の給水口を給水用の配管に接続し排水口を排水用の配管に接続するだけで設置することができる。よって、従来よりも容易に蒸発冷却壁体を設置することができる。
【0035】
また、本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体を用いた場合は、閉水路1内に貯水された水を高揚水性多孔質体4が吸い上げるため、高揚水性多孔質体4に常に適量の水を供給することができる。また、閉水路1内の堰2の高さで貯水量を決定することができるので、設置する地域の降水量や高揚水性多孔質体4の本数に基づき、容易に貯水量を調整することができる。更に、高揚水性多孔質体4を用いて閉水路1内に貯水された水を吸い上げているため、ポンプ等を使用する必要がなくなり蒸発冷却壁体の構成を簡素化することができる。
【0036】
本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体は閉水路1内に水が貯水されているので、水路から水が蒸発することがないため効率的に水を使用することができる。また、閉水路1内に異物が混入することも防止することができる。また、閉水路1に雨水が供給されるたびに閉水路1内の雨水が新たな雨水と入れ替わるため、貯水された雨水の水質悪化、細菌の繁殖等を防止することができる。
【0037】
本実施の形態にかかる蒸発冷却壁体では高揚水性多孔質体4の根元部分を一定の長さ給水装置の閉水路1内に設けている。これにより、水の染み出しにより冷却に使用される水が無駄になることを防止することができる。また、染み出した水の飛散を防止することができ、また新たに排水受けを設ける必要がなくなる。
【0038】
以上、本発明を上記実施形態に即して説明したが、上記実施形態の構成にのみ限定されるものではなく、本願特許請求の範囲の請求項の発明の範囲内で当業者であればなし得る各種変形、修正、組み合わせを含むことは勿論である。
【符号の説明】
【0039】
1 給水部(閉水路)
2 堰
3 水
4 高揚水性多孔質体
5、6、7 配管
8 給水口
9 排水口
11 空洞
12 蓋

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給水部と、
前記給水部から上部方向に延びるように設けられ、前記給水部に貯水された水を水面から1m以上の高さに揚水可能な高揚水性多孔質体と、を備え、
前記高揚水性多孔質体が吸い上げた水を表面より蒸発させることで周囲の空気を冷却する、
蒸発冷却壁体。
【請求項2】
前記高揚水性多孔質体は、気孔が一方向に配向した貫通孔を有するセラミック材料である、請求項1に記載の蒸発冷却壁体。
【請求項3】
前記高揚水性多孔質体がパイプ状である、請求項1または2に記載の蒸発冷却壁体。
【請求項4】
前記高揚水性多孔質体の高さは1.2m以上である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の蒸発冷却壁体。
【請求項5】
前記高揚水性多孔質体の高さは1.2m以上1.8m以下である、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の蒸発冷却壁体。
【請求項6】
前記高揚水性多孔質体が上部方向からみて千鳥状に配置されている、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の蒸発冷却壁体。
【請求項7】
前記高揚水性多孔質体が10cm以上水に浸されている、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の蒸発冷却壁体。
【請求項8】
前記給水部は、給水口と、当該給水口から供給された水を堰き止める所定の高さを備える堰と、当該堰からあふれ出た水を排出する排出口と、を備える閉水路を有する、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の蒸発冷却壁体。
【請求項9】
前記高揚水性多孔質体の根元部分のうち前記堰により堰き止められた水と接触しない部分が所定の長さ前記閉水路内に収納されている、請求項8に記載の蒸発冷却壁体。
【請求項10】
前記堰の上端から前記閉水路内部の上面までの長さは、前記堰の上端から前記高揚水性多孔質体の上端までの長さに基づき決定される、請求項9に記載の蒸発冷却壁体。
【請求項11】
前記堰は着脱可能な部材で構成されている、請求項8乃至10のいずれか一項に記載の蒸発冷却壁体。
【請求項12】
前記給水口は前記堰の高さよりも低い位置に設けられている、請求項8乃至11のいずれか一項に記載の蒸発冷却壁体。
【請求項13】
前記堰の高さは降水量に基づき決定される、請求項8乃至12のいずれか一項に記載の蒸発冷却壁体。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図1】
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【公開番号】特開2011−144499(P2011−144499A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−3609(P2010−3609)
【出願日】平成22年1月12日(2010.1.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)平成21年7月20日付社団法人日本建築学会発行の日本建築学会「2009年度大会(東北)学術講演梗概集」に掲載 (2)平成21年7月30日付社団法人日本建築学会発行の「日本建築学会環境系論文集」に掲載
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【Fターム(参考)】