説明

蒸発源及び蒸着装置

【課題】膜厚均一性に優れた薄膜を蒸着法によって形成可能とする。
【解決手段】本発明の蒸発源EBは、蒸着装置において蒸発材料EMを蒸発させるのに使用する蒸発源であって、前記蒸発材料EMが供給されるべき凹部RSが上面に設けられると共に前記上面と下面とを連絡する貫通孔THが前記凹部RSと隣り合って設けられた抵抗発熱体HRを含んだことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸発源及び蒸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸着装置は、有機物層や無機物層などの様々な薄膜の成膜に利用されている。例えば、特許文献1には、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子の発光層を蒸着法により形成することが記載されている。
【0003】
ところで、蒸着法により金属層を成膜する場合、蒸発材料でワイヤを形成することができる。このワイヤを蒸発源に供給しながら成膜を行えば、蒸発源中の蒸発材料の量をほぼ一定に保つことができる。したがって、蒸着レートの変動を抑えることができ、優れた膜厚均一性を実現できると考えられる。しかしながら、実際には、この方法を採用した場合であっても、優れた膜厚均一性を実現することは難しい。
【特許文献1】特開2003−157973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、膜厚均一性に優れた薄膜を蒸着法によって形成可能とすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1側面によると、蒸着装置において蒸発材料を蒸発させるのに使用する蒸発源であって、前記蒸発材料が供給されるべき凹部が上面に設けられると共に前記上面と下面とを連絡する貫通孔が前記凹部と隣り合って設けられた抵抗発熱体を含んだことを特徴とする蒸発源が提供される。
【0006】
本発明の第2側面によると、真空チャンバと、前記真空チャンバ内に配置され、上面に凹部が設けられると共に前記上面と下面とを連絡する貫通孔が前記凹部と隣り合って設けられた抵抗発熱体を含んだ蒸発源と、蒸発材料としてのワイヤを前記蒸発源の斜め上方から前記凹部へと前記ワイヤが前記貫通孔の上部を通過するように供給するフィーダと、蒸発した前記蒸発材料を堆積させるべき被処理体を前記真空チャンバ内で保持するホルダとを具備したことを特徴とする蒸着装置が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本発明によると、膜厚均一性に優れた薄膜を蒸着法によって形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の態様について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同様又は類似する構成要素には同一の参照符号を付し、重複する説明は省略する。
【0009】
図1は、本発明の一態様に係る蒸着装置を概略的に示す部分切開平面図である。図2は、図1に示す蒸着装置のII−II線に沿った断面図である。図3は、図1及び図2の蒸着装置が含む蒸発源を概略的に示す平面図である。図4は、図3に示す蒸発源のIV−IV線に沿った断面図である。なお、図1乃至図4において、Z方向は鉛直方向であり、X方向はZ方向に垂直な方向であり、Y方向はX方向とZ方向とに垂直な方向である。
【0010】
図1及び図2に示す蒸着装置は、真空チャンバVCと、電源PSと、図示しない駆動機構と、図示しないコントローラとを含んでいる。
【0011】
真空チャンバVCは、真空排気系に接続されている。真空チャンバVCは、典型的には、複数の真空チャンバで薄膜を順次成膜するマルチチャンバ型枚葉式装置に組み込まれる。
【0012】
真空チャンバVC内には、ホルダHLDと、蒸発源EBと、フィーダWFと、図示しない膜厚センサとが配置されている。
【0013】
ホルダHLDは、被処理体SUBを着脱可能に保持している。本態様では、非処理体SUBは基板であり、ホルダHLDは基板SUBをその主面が略水平となるように、すなわち、Z方向と略垂直となるように保持している。
【0014】
蒸発源EBは、被処理体SUBの下方に配置されている。典型的には、蒸発源EBは、被処理体SUBの真下には配置せず、被処理体SUBの下方であって被処理体SUBの真下からX方向及び/又はY方向にずれた位置に配置する。
【0015】
蒸発源EBは、図3及び図4に示すように、抵抗発熱体HRと一対の電極EDとを含んでいる。電極EDは電源PSに接続されており、抵抗発熱体HRは電極ED間に通電することより発熱する。
【0016】
抵抗発熱体HRは、細長い形状を有している。本態様では、抵抗発熱体HRは、Y方向に細長い直方体状である。ここでは、一例として、抵抗発熱体HRのX方向の寸法W1は16mmであり、Y方向の寸法L1は100mmであるとする。
【0017】
抵抗発熱体は、例えば、導電性母材とこれを被覆した絶縁体層とを含んだセラミックスからなる。導電性母材としては、例えばカーボンを使用することができる。
【0018】
電極EDは、抵抗発熱体HRの両端部にそれぞれ配置されている。本態様では、電極EDは、抵抗発熱体HRの上面に配置されている。電極EDは、例えば金属からなる。なお、抵抗発熱体HRの電極EDと接触している部分には絶縁体層は形成されておらず、電極EDは導電性母材と接触している。
【0019】
抵抗発熱体HRの上面であって、電極ED同士を電気的に接続する導電路上には、凹部RSが設けられている。本態様では、凹部RSは抵抗発熱体HRの略中央に位置しており、Y方向に細長い形状を有している。また、本態様では、凹部RSは順テーパ状である。ここでは、一例として、凹部RSの開口のX方向の寸法W2は9.6mmであり、Y方向の寸法L2は37.2mmであるとする。
【0020】
抵抗発熱体HRのY方向に垂直な断面は、凹部RSの位置で小さい。そのため、抵抗発熱体HRに通電すると、凹部RSでは抵抗発熱体HRの端部と比較してより高温になる。
【0021】
抵抗発熱体HRには、さらに、各々が抵抗発熱体HRの上面と下面とを連絡する一対の貫通孔THが設けられている。これら貫通孔THは、一方の電極EDと凹部RSとの間、及び、他方の電極EDと凹部RSとの間にそれぞれ位置している。ここでは、一例として、各貫通孔THのX方向の寸法は寸法W2と等しく、Y方向の寸法L3は8.1mmであり、貫通孔THと凹部RSとの距離Dは4.2mmであるとする。なお、一方の貫通孔THは省略することができる。
【0022】
フィーダWFは、蒸発材料からなるワイヤEMを、蒸発源EBの斜め上方から凹部RSへとワイヤEMが一方の貫通孔THの上部を通過するように供給する。本態様では、フィーダWFは、ロールに巻かれたワイヤEMを収容しており、これを凹部RSに向けて連続的又は断続的に繰り出す。また、真空チャンバVCの容積をできるだけ小さくすべく、ロールの回転軸がX方向と略平行となるようにフィーダWFを配置している。
【0023】
蒸発材料は、例えば、金属又は合金である。ここでは、一例として、蒸発材料は、平面ディスプレイの構成要素,例えば有機EL素子の電極,の材料であることとする。また、ここでは、一例として、蒸発材料からなるワイヤEMの直径は2mmであることとする。
【0024】
膜厚センサは、例えば、水晶板の両面に電極を配置した構造を含んでおり、図示しないコントローラと共に水晶膜厚計を構成している。膜厚センサは、被処理体SUBとX方向及び/又はY方向に隣り合うように配置されている。
【0025】
駆動機構は、蒸発源EBに対してホルダHLDをZ方向に垂直な方向に移動させる。本態様では、駆動機構は、ホルダHLDを、回転軸がZ方向と平行となるように回転移動させる。
【0026】
コントローラは、駆動機構と膜厚センサと電源PSとフィーダWFに接続されている。コントローラは、駆動機構の動作を制御する。加えて、コントローラは、膜厚センサの出力に基づいて、電源PSが出力する電力の大きさとフィーダWFの動作とを制御する。
【0027】
この蒸着装置によると、膜厚均一性に優れた薄膜を形成することができる。これについて、図3及び図4と図5及び図6とを対比しながら説明する。
【0028】
図5は、比較例に係る蒸着装置の蒸発源を概略的に示す平面図である。図6は、図5に示す蒸発源のVI−VI線に沿った断面図である。
【0029】
比較例に係る蒸着装置は、図5及び図6の蒸発源EBを使用していること以外は、図1及び図2の蒸着装置と同様の構造を有している。また、図5及び図6の蒸発源EBは、貫通孔THを省略していること以外は、図3及び図4の蒸発源EBと同様の構造を有している。
【0030】
ワイヤEMは、フィーダWFから繰り出されてから凹部RSに到達するまでの間に、抵抗発熱体HRのうち一方の電極EDと凹部RSとの間に位置した部分の上方を通過する。図5及び図6の蒸発源EBを使用した場合には、先の部分に貫通孔THが設けられていないため、この部分からの輻射熱によって蒸発材料が溶融する。その結果、ワイヤEMの先端が球状になることがある。
【0031】
この状態でワイヤEMが凹部RSへと送り出されると、先端に球が形成されていない状態でワイヤEMが凹部RSへと送り出された場合と比較して、より多くの蒸発材料が凹部RSに供給されることとなる。その結果、凹部RSで蒸発材料が突沸し、これに起因して、被処理体SUB上の薄膜に凸部が生じることがある。このため、図5及び図6の蒸発源EBを使用した場合には、膜厚均一性に優れた薄膜を形成することは難しい。
【0032】
これに対し、図3及び図4の蒸発源EBには抵抗発熱体HRに貫通孔THが設けられているので、ワイヤEMの先端は球状になり難い。そのため、凹部RSに常に一定量の蒸発材料を供給することができる。したがって、本態様によると、蒸発材料の突沸を防止でき、それゆえ、膜厚均一性に優れた薄膜を形成することができる。
【0033】
上述した効果は、距離Dが短いほど大きくなる。また、先の効果は、寸法L3が大きいほど大きくなる。距離Dは例えば6mm以下とし、寸法L3は例えば5mm以上とする。また、抵抗発熱体HRの機械的強度を考慮すると、抵抗発熱体HRのX方向の寸法W1が16mm、Y方向の寸法L1が100mmである場合、距離Dは例えば1mm以上とし、寸法L3は例えば10mm以下とする。なお、寸法W2は、典型的には、ワイヤEMの径よりも大きくする。
【0034】
本態様では、抵抗発熱体HRに2つの貫通孔THを設けたが、ワイヤEMが上方を通過する貫通孔THのみを設けた場合にも得ることができる。但し、凹部RSの両側に貫通孔THを設けた場合、理想的な温度分布を実現するうえで有利である。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の一態様に係る蒸着装置を概略的に示す部分切開平面図。
【図2】図1に示す蒸着装置のII−II線に沿った断面図。
【図3】図1及び図2の蒸着装置が含む蒸発源を概略的に示す平面図。
【図4】図3に示す蒸発源のIV−IV線に沿った断面図。
【図5】比較例に係る蒸着装置の蒸発源を概略的に示す平面図。
【図6】図5に示す蒸発源のVI−VI線に沿った断面図。
【符号の説明】
【0036】
EB…蒸発源、ED…電極、EM…ワイヤ、HLD…ホルダ、HR…抵抗発熱体、PS…電源、RS…凹部、SUB…被処理体、TH…貫通孔、VC…真空チャンバ、WF…フィーダ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸着装置において蒸発材料を蒸発させるのに使用する蒸発源であって、前記蒸発材料が供給されるべき凹部が上面に設けられると共に前記上面と下面とを連絡する貫通孔が前記凹部と隣り合って設けられた抵抗発熱体を含んだことを特徴とする蒸発源。
【請求項2】
前記抵抗発熱体上に前記凹部と前記貫通孔とを挟むように配置されると共に前記凹部と前記貫通孔との配列方向に沿って配列した一対の電極をさらに含んだことを特徴とする請求項1に記載の蒸発源。
【請求項3】
前記抵抗発熱体は前記凹部と前記貫通孔との配列方向に細長い形状を有していることを特徴とする請求項1に記載の蒸発源。
【請求項4】
真空チャンバと、
前記真空チャンバ内に配置され、上面に凹部が設けられると共に前記上面と下面とを連絡する貫通孔が前記凹部と隣り合って設けられた抵抗発熱体を含んだ蒸発源と、
蒸発材料としてのワイヤを前記蒸発源の斜め上方から前記凹部へと前記ワイヤが前記貫通孔の上部を通過するように供給するフィーダと、
蒸発した前記蒸発材料を堆積させるべき被処理体を前記真空チャンバ内で保持するホルダとを具備したことを特徴とする蒸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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