説明

蓄光性シート、その製造方法及びこのシートを用いた造花又は折り紙

【課題】 蓄光性顔料を配合した合成樹脂製シートでありながら、従来の合成樹脂製シートと全く異なる感触からなるペーパーライクシートであって、広く用いられる蓄光性シート、その製造方法及びこのシートを用いた造花又は折り紙を提供することを目的とする。
【解決手段】 少なくとも粉末又は顆粒状の蓄光性顔料とビヒクルを構成する合成樹脂成分とを含有する印刷インキを乾燥させて形成した蓄光性シートの製造方法において、前記蓄光性顔料が前記印刷インキ中の合成樹脂成分10質量部に対し1〜20質量部になるように原材料を配合する配合工程と、原材料を攪拌混合する攪拌工程と、前記印刷インキを剥離紙又は転写紙に塗布して乾燥し皮膜を形成する製膜工程と、前記剥離紙又は転写紙を剥がし回収する剥離回収工程と、前記皮膜を乾燥養生して蓄光性シートを得る養生工程とを備えたことを特徴とする蓄光性シートの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光性顔料を配合した合成樹脂製シートでありながら、従来の合成樹脂製シートと全く異なる感触からなる賦形性に優れたペーパーライクシートであって、折り紙、造花、各種シールやカットシート、デコレーション資材、貼り合わせフィルム等、多目的な用途に応用可能な蓄光性シート、その製造方法及びこのシートを用いた造花又は折り紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の合成樹脂製シートは、合成樹脂組成物をTダイ法、インフレーション法、カレンダー法等で成形するのが一般的であった。しかし、前記加工法において使用されるエクストルーダーやカレンダーは大型設備を要し、膨大な設備投資が必要となる。また、何れも大量生産には好適であるが、造花又は折り紙などの小ロット生産には適さないという問題点がある。また、前記のTダイ法やカレンダー法等は、一般に、合成樹脂を加熱して溶融又はゲル化させるとともに高剪断応力下で混練りシーティングされるので、この際に大粒の蓄光性顔料やガラスビーズは、変形又は破壊されるおそれがあるために使用可能な粒度が10〜20μmの小粒径のものに限られ、このために蓄光・残光輝度が弱く、他の蓄光グッズに比較して見劣りする問題点があった。また、従来法による合成樹脂製シートは、反発弾性が強いために造花又は折り紙等に使用するときは、賦形性に欠け、取り扱いが困難であるばかりでなく、出来上がりの作品を見ると、折り目がゆるくシャープさに欠けたり、花弁や葉などの形状が思い通りに表現できず、見栄えが良くないと言う欠点があった。
【0003】
一方、基材に蓄光性インキ層を介して透明着色樹脂による図柄を設けた印刷物の発明(特許文献1参照)、蓄光顔料を混入した塗料を塗布して発光部を設けた蓄光性人工樹木の発明(特許文献2参照)、発光素材を吹き付ける発光樹木の発明(特許文献3参照)、基材の上に蓄光材をコーティングし、その上に酸化チタン光触媒等をコーティングする造花の発明(特許文献4参照)、又は蓄光材などをアルコールに分散させ、この中にプリザーブドフラワーを浸漬する発明(特許文献5参照)が開示されている。しかし、これらの発明は、蓄光性インキを基材に塗布したり吹き付けたり浸漬するものであり、蓄光性顔料を配合した印刷インキを剥離紙又は転写紙に塗布して乾燥し皮膜を形成して製造される蓄光性シートを対象とする本願発明とは異なるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11−35865号公報
【特許文献2】実開平5−715号公報
【特許文献3】特許第3055228号公報
【特許文献4】特開2006−37305号公報
【特許文献5】特開2008−57059号公報
【特許文献6】特許第3257942号公報
【特許文献7】特許第3257947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者は、上記の課題を解決するために、鋭意研究した結果、合成樹脂を加熱溶融又はゲル化させずに、合成樹脂と蓄光性顔料を所定の割合で配合した印刷インキを剥離紙等に塗布し乾燥して形成した皮膜は、従来の合成樹脂を加熱溶融又はゲル化して製膜した合成樹脂製シートと異なり、紙に似た感触であるが紙よりも賦形性に優れたペーパーライクシートが得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったものであって、本願発明の主たる目的は、従来の大掛かりな製膜設備を使用せずに、小ロット生産が可能であり、折り紙、造花、各種シールやカットシート、デコレーション資材、貼り合わせフィルム等、多目的な用途に応用可能な且つ高度な蓄光・残高輝度からなる蓄光性シート、その製造方法及びこのシートを用いた造花又は折り紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明は、少なくとも粉末又は顆粒状の蓄光性顔料とビヒクルを構成する合成樹脂成分とを含有する印刷インキを乾燥させて形成した蓄光性シートの製造方法において、前記蓄光性顔料が前記印刷インキ中の合成樹脂成分10質量部に対し1〜20質量部になるように配合するか、若しくは、前記印刷インキ中にガラスビーズを含有する印刷インキにあっては、前記蓄光性顔料とガラスビーズの合計含有量が前記印刷インキ中の合成樹脂成分10質量部に対し1〜20質量部であり且つガラスビーズが前記蓄光性顔料及びガラスビーズの合計質量中15〜50%となるように原材料を配合する配合工程と、前記の配合した原材料を攪拌混合する攪拌工程と、前記混合された印刷インキを剥離紙又は転写紙に塗布して乾燥し皮膜を形成する製膜工程と、前記剥離紙又は転写紙から皮膜を剥がすとともに剥がした剥離紙又は転写紙を回収する剥離回収工程と、前記皮膜を所定の温度で乾燥養生して蓄光性シートを得る養生工程とを備えたことを特徴とする蓄光性シートの製造方法とする(請求項1)。
【0007】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、少なくとも粉末又は顆粒状の蓄光性顔料とビヒクルを構成する合成樹脂成分とを含有する印刷インキを乾燥させて形成した蓄光性シートにおいて、前記蓄光性顔料が前記蓄光性シートの合成樹脂成分10質量部に対し1〜20質量部であるか、若しくは、前記印刷インキ中にガラスビーズを含有する印刷インキにあっては、前記蓄光性顔料とガラスビーズの合計含有量が前記蓄光性シートの合成樹脂成分10質量部に対し1〜20質量部であり且つガラスビーズが前記蓄光性顔料及びガラスビーズの合計質量中15〜50%であることを特徴とする蓄光性シートとする(請求項2)。
【0008】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記の蓄光性顔料は、減圧下において蓄光性顔料の粒子表面に密着被覆させたアルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物に由来する防水性シリカ層で前記蓄光性顔料の粒子表面を密着被覆した耐水性蓄光性顔料からなることを特徴とする前記の蓄光性シートとすることが好ましい(請求項3)。
【0009】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記の蓄光性シートを用いた花弁、葉、樹木等の部材を構成する造花又は前記蓄光性シートを用いた折り紙とすることが好ましい(請求項4)。
【発明の効果】
【0010】
本発明の蓄光性シートは、合成樹脂と粉末又は顆粒状の蓄光性顔料を所定の割合で配合した印刷インキを剥離紙等に塗布し乾燥後に剥離紙等を剥がして形成する皮膜からなるので、Tダイ法、カレンダー法、インフレーション法等で成形したシートに比較して反発弾性が小さく紙のような感触を呈し、折り畳んだときに折り目がキッチリと付き、花弁や葉などの形状が思い通りに賦形でき、造花又は折り紙等として好適である。また、製造装置もカレンダーやエクストルーダーのような大掛かりな装置を必要とせず、小ロット生産が可能であり、経済的にも優れた効果を奏する。
【0011】
また、Tダイ法やカレンダー法に比較して大粒な粒子の蓄光性顔料やガラスビーズが使用可能なので、蓄光・残高輝度の向上改善が図られる効果を奏する。また、本発明に係る蓄光性シートは、アートフラワーやブライダル用装飾品としての蓄光造花又は折り紙として用いられる他に、ショーウインドウ等のガラス表面に貼り合わせるポイントマークとしての貼り合わせフィルム、カットシートなどのデコレーション資材、クラフトパンチと称する紙用型抜きパンチで打ち抜いてシールとして使用する等、多目的な用途に使用が可能である。また、蓄光性顔料として耐水性蓄光性物質を用いた蓄光性シートは、水中に長期間放置しても残高輝度が低下することがないので、例えば、熱帯魚などの観賞用水槽等の内部に配置される水中草花や装飾物等を本発明に係る蓄光性シートで構成し、ライトで照明し又は消灯することにより幻想的な効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本実施例に係る蓄光性シートの製造工程図である。
【図2】本実施例に係る蓄光性シートで作成した造花を蛍光灯下で撮影した写真である。
【図3】本実施例に係る蓄光性シートで作成した造花を蛍光灯を消灯した状態で撮影した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明を実施するための形態(以下「実施の形態」と称する)について、以下に詳細に説明する。しかし、本発明は、かかる実施の形態に限定されるものではない。本発明の実施の形態に係る蓄光性シートは、少なくとも粉末又は顆粒状の蓄光性顔料とビヒクルを構成する合成樹脂成分とを含有する印刷インキを乾燥させて形成した蓄光性シートにおいて、前記蓄光性顔料が前記蓄光性シートの合成樹脂成分10質量部に対し1〜20質量部であるか、若しくは、前記印刷インキ中にガラスビーズを含有する印刷インキにあっては、前記蓄光性顔料とガラスビーズの合計含有量が前記蓄光性シートの合成樹脂成分10質量部に対し1〜20質量部であり且つガラスビーズが前記蓄光性顔料及びガラスビーズの合計質量中15〜50%であることを特徴とする。
【0014】
ここで、本発明の実施の形態に使用する蓄光性顔料は、何らかのエネルギーで刺激を受け、吸引したエネルギーを可視光線又はそれに近い波長の紫外線、赤外線などの光として放出し、刺激停止後も持続してこの現象を呈する性質を有する蓄光性物質または蛍光性物質であって、粉末状又は顆粒状のものが好ましい。前記の蓄光性物質としては、例えば、硫化亜鉛と硫化カドミウム(硫化カドミウムは安全性に問題あり現在は使用されていない)の結晶に少量の銅を付活剤として加えたものは、その組成によって黄〜赤色を発光し、硫化亜鉛に少量の銅を付活剤として加えたものは、緑色の発光を呈し、また、アルミン酸塩に賦活剤としてユーロピウム(Eu)を加えたもの、或いは共賦活剤として希土類元素又は遷移金属を加えたものは緑色又は青色の発光を呈する。
【0015】
また、前記蛍光性物質は、ある物質が光の照射を受け、他の波長の光を発するときに生ずる光学効果、即ち紫外線が液体、固体に当たったときに可視光線としての蛍光を発する物質であって、主として、カルシウム、バリウム、マグネシウム、カドミウム(カドミウムは安全性に問題あり現在は使用されていない)等の酸化物、硫化物、珪酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩等を主成分とし、蛍光を発する物質を言う。また、蛍光性物質の中には有機系と無機系のものがあり、無機系物質の中には紫外線照射を停止した後でも蛍光を発する所謂蓄光性を有するものがあるが、このような物質も本願発明に含まれるものとする。
【0016】
近年、(Sr,M)O-(Mg,M)O-(Si,Ge)O系の蛍光母体(M=Ca,Sr,Ba,M=Be,Zn,Cd)に対してEuで賦活すると共にLn(Sc,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Cd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Lu,In,Bi,Snから選択された一種の元素)で共賦活させ、かつ、ハロゲン元素(F,Cl,Br,Iから選択された一種の元素)を含有させることにより、青色から緑色発光のEu賦活珪酸塩蓄光性蛍光体が開示されている(特許文献6及び特許文献7参照)。係る蓄光性蛍光体も本発明に用いられる蓄光性顔料に含まれる。
【0017】
また、前記の蓄光性顔料には、本願発明者の発明に係る、三基以上のアルコキシ基を有するアルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物を含有するゾルゲル溶液に浸漬して減圧下において蓄光性顔料又は蛍光性顔料の粒子表面に密着被覆させたアルコキシ基を有するアルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物に由来する防水性シリカ層で前記蓄光性顔料又は蛍光性顔料の粒子表面を密着被覆してなる耐水性蓄光性顔料又は耐水性蛍光性顔料を含むものとする。通常の蓄光性顔料は、水分によって変質し、白化現象を起こして残高輝度が著しく低下するために屋外などで使用する場合は水分に接しないような防水対策を講ずる必要があり、水系インキの顔料としては使用できないが、前記耐水性蓄光性顔料又は耐水性蛍光性顔料を使用した蓄光性シートは水中に長期間放置しても蓄光・残高輝度が低下することがない。
【0018】
本発明の実施の形態に係る蓄光性シートに使用する蓄光性顔料は、粒径10〜300μmが好ましく、120〜170μmがより好ましい。粒径が10μmよりも細かくなると、光の強度が不足し易く、300μmよりも粗くなると、均一な混合の妨げとなる恐れがある。ガラスビーズは、40μm以下が好ましい。ガラスビーズを添加することによって、球形のガラスビーズに蓄光性顔料の発する光が、反射或いは屈折又は散乱し、光の強度が増殖されるので視認性と残光輝度の向上に寄与する。40μmを越えると残光輝度の向上の効果が低下し易い。前記エクストルーダーやカレンダー等で加工する場合は、高温・高圧・高剪断応力下で混練りする際に大粒の蓄光性顔料粒子は破壊されるおそれがあるので、通常、蓄光性顔料の粒径は、10〜20μmが使用される。本発明の蓄光性シートの製造においては、前記の混練り工程がないので、大粒の蓄光性顔料を使用することができ、蓄光・残高輝度が大幅に向上改善される。
【0019】
本発明の実施の形態に係る蓄光性シートは、前記蓄光性顔料が合成樹脂成分10質量部に対し1〜20質量部であるか、若しくは、前記蓄光性顔料とガラスビーズの合計含有量が合成樹脂成分10質量部に対し1〜20質量部であり且つガラスビーズが前記蓄光性顔料及びガラスビーズの合計質量中15〜50%である。蓄光性顔料又は蓄光性顔料とガラスビーズの合計含有量が合成樹脂成分10質量部に対し1質量部よりも少ないと輝度が不足するおそれがあり、20質量部よりも多くなると、シートの成形が困難になるおそれがある。また、ガラスビーズが蓄光性顔料及びガラスビーズの合計質量中15%よりも少ないと輝度を高める効果に乏しく、50%よりも多いと蓄光性が低下するおそれがある。また、前記エクストルーダーやカレンダー等で加工する場合は、高温・高圧・高剪断応力下で混練りされて、合成樹脂分子の絡み合いが増す結果、シートの反発弾性が高くなるのに対して、本願蓄光性シートの製造法においては、混練り工程がない上に蓄光性顔料又はガラスビーズが分子間の絡み合いを阻害することにより、反発弾性がより低く且つ賦形性を向上する効果が発現される。
【0020】
本発明の実施の形態に係る蓄光性シートの製造方法を、図1を参照して説明する。配合工程(11)により、粉末又は顆粒状の蓄光性顔料とガラスビーズの合計含有量が印刷インキ中の合成樹脂成分10質量部に対し1〜20質量部であり且つガラスビーズが前記蓄光性顔料及びガラスビーズの合計質量中15〜50%となるように原材料である蓄光性顔料とガラスビーズとをそれぞれ秤量し、これらの蓄光性顔料とガラスビーズをビヒクルに配合する。また、ガラスビーズは必要に応じて反射性を高める場合に添加するが、ガラスビーズを使用しない場合には、前記蓄光性顔料が印刷インキ中の合成樹脂成分10質量部に対し1〜20質量部になるように配合することが好ましい。また、原材料の配合の順序は限定されるものではなく、蓄光顔料その他の添加剤を溶剤に分散した後で、バインダーとなる樹脂を添加してもよい。溶剤の代わりに水を使用する公知のビヒクルを含む水系インキを用いる蓄光性シートも本発明に含まれることは言うまでもない。
【0021】
ここで、ビヒクル(vehicle)とは、顔料を被印刷材料に固着させるバインダーを溶剤又は水に溶かした展色剤のことを言い、バインダーには天然樹脂、合成樹脂、セルロースなどがあり、本願発明では特に限定するものではないが、例えば、塩化ビニル樹脂等ビニル系樹脂、メタクリル酸エステル系樹脂、その他のエステル系樹脂、アミド系樹脂、マレイン酸系樹脂等、及びこれらの共重合体、例えば塩化ビニル酢酸ビニル共重合体等を単独で又は混合して用いることが好ましい。前記配合工程(11)により、配合した原材料を攪拌工程(12)により、例えば、デスパーで攪拌・混合してインキ組成物を製造する。また、前記合成樹脂は、通常は重合度が大きくなるほどシートの弾性率が高くなることから、溶剤又は水に可溶性で且つ得られたシートがペーパーライク特性並びに賦形性を有し、皮膜形成が可能な強度を有する限りにおいて、低重合度のもの、例えば、塩化ビニル樹脂及びその共重合体の場合は、重合度がP800以下、より好ましくはP700以下がよい。
【0022】
次に、前記の攪拌工程(12)により得られたインキ組成物を、製膜工程(13)にて、剥離紙または転写紙に塗布し、溶剤の沸点以上で樹脂の溶融温度又はゲル化温度以下、好ましくはガラス転移点前後の温度で溶剤を蒸発させ冷却して製膜する。塗膜の形成には、例えば、ナイフコーティング、ローラーコーティング、スプレーコーティング等の方式があり、シルクスクリーンやロータリースクリーン等の塗布機を使用することが好ましいが、可能な限りにおいて、ロールコーター、ナイフコーター、ロールナイフコーター、エアナイフコーター、バーコーター、グラビアコーターなどの塗布機を使用してもよい。
【0023】
前記製膜工程(13)の後、剥離回収工程(14)により、前記剥離紙又は転写紙から皮膜を剥がすとともに、剥がした剥離紙又は転写紙を回収する。剥離紙の場合は、そのまま紙とシートを剥がせばよく、湿式転写紙の場合は、皮膜付きの転写紙を一旦水中に浸けて、その後シートを剥がせばよい。前記剥離回収工程(14)により剥がしたシートは、養生工程(15)により、剥離紙又は転写紙に接した側面の溶剤を蒸発乾燥させ、更に、常温に放置して溶剤を完全に蒸発乾燥させるとともに、シートの内部歪みを解除して目的の蓄光性シートが得られる。
【実施例】
【0024】
以下に実施例を挙げて本発明について説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。蓄光性顔料としては、120〜170μmの粒度のもので、外観色が白色系、黄色系、青色系、赤色系及び緑色系からなる色彩が異なるものを用い、ビヒクルとしては、塩化ビニル系樹脂をバインダーとし、ケトン系溶剤と芳香族炭化水素系溶剤と、添加剤を含むセイコーアドバンス社製の「SG700(商品名)」を用い、前記ビヒクル10質量部に対して前記各蓄光性顔料を5質量部配合し攪拌して印刷インキをそれぞれ調整した。前記の各蓄光性顔料を配合した印刷インキについて、それぞれ前記の実施の形態に記載した工程に従って処理し、厚みが約0.2〜0.5mmの蓄光性シートを得た。また、前記蓄光性顔料に代えて、本願発明者の発明に係る耐水性蓄光性顔料を用いる以外は前記と同様にして耐水性を有する蓄光性シートを得た。前記の耐水性蓄光性顔料は、市販の蓄光性顔料のLumiNova(商品名:登録商標)G-300L160 (根本特殊化学株式会社製グリーン系蓄光顔料)と、P170L(化成オプトニクス株式会社製ブルー系蓄光顔料)と、アルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物のゾルゲル溶液として、アトロン(商品名:登録商標)NSi-500(日本曹達株式会社製テトラアルコキシシランのポリマーを含む製剤)を用いて−0.08MPa(ゲージ圧表記による)以下の減圧下に約10時間、減圧処理して蓄光性顔料の粒子表面にアルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物を密着被覆させて乾燥し、約500℃の雰囲気中で約15時間熱処理して、前記アルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物に由来する防水性シリカ層で前記蓄光性顔料の粒子表面を密着被覆したものからなる。
【0025】
前記で得られた蓄光性シートについて、折り紙を折ったところ、折り紙は、紙と同様に折り目がキッチリと折られており、見栄えが良かった(図示せず)。また、図2は、前記蓄光性シートで作成した造花を蛍光灯下で撮影した写真であり、図3は、前記蓄光性シートで作成した造花を蛍光灯を消灯した状態で撮影した写真である。この写真から分かるように、造花は花弁や葉などの形状が自在に賦形できるので、全体に柔らいソフトな感じに仕上がり、和紙で作ったもの以上に仕上がりがよいことが確認された。本実施例に使用した蓄光性顔料は粒子径が120〜170μmと大粒であり、蓄光・残高輝度が大幅に改善されたことが目視により確認された。また、前記の耐水性を有する蓄光性シートの耐水性について試験した結果、通常の蓄光性顔料を配合した印刷インキで形成した蓄光性シートを水中に浸漬して1ヶ月後にブラックライトをあててみると、輝度が低下するのに対して、前記耐水性を有する蓄光性シートの場合は、同条件で輝度が全く変化することなく発光することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、前記の構成によって、高度な蓄光・残光輝度を保有する蓄光性シートが得られ、折り紙、造花、各種シールやカットシート、デコレーション資材、貼り合わせフィルム等、多目的に広く用いられ、しかも従来の大掛かりな製膜設備を使用せずに、小ロット生産が可能なので、経済的にも極めて有用である。
【符号の説明】
【0027】
11:配合工程
12:攪拌工程
13:製膜工程
14:剥離回収工程
15:養生工程

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも粉末又は顆粒状の蓄光性顔料とビヒクルを構成する合成樹脂成分とを含有する印刷インキを乾燥させて形成した蓄光性シートの製造方法において、前記蓄光性顔料が前記印刷インキ中の合成樹脂成分10質量部に対し1〜20質量部になるように配合するか、若しくは、前記印刷インキ中にガラスビーズを含有する印刷インキにあっては、前記蓄光性顔料とガラスビーズの合計含有量が前記印刷インキ中の合成樹脂成分10質量部に対し1〜20質量部であり且つガラスビーズが前記蓄光性顔料及びガラスビーズの合計質量中15〜50%となるように原材料を配合する配合工程と、前記の配合した原材料を攪拌混合する攪拌工程と、前記混合された印刷インキを剥離紙又は転写紙に塗布して乾燥し皮膜を形成する製膜工程と、前記剥離紙又は転写紙から皮膜を剥がすとともに剥がした剥離紙又は転写紙を回収する剥離回収工程と、前記皮膜を所定の温度で乾燥養生して蓄光性シートを得る養生工程とを備えたことを特徴とする蓄光性シートの製造方法。
【請求項2】
少なくとも粉末又は顆粒状の蓄光性顔料とビヒクルを構成する合成樹脂成分とを含有する印刷インキを乾燥させて形成した蓄光性シートにおいて、前記蓄光性顔料が前記蓄光性シートの合成樹脂成分10質量部に対し1〜20質量部であるか、若しくは、前記印刷インキ中にガラスビーズを含有する印刷インキにあっては、前記蓄光性顔料とガラスビーズの合計含有量が前記蓄光性シートの合成樹脂成分10質量部に対し1〜20質量部であり且つガラスビーズが前記蓄光性顔料及びガラスビーズの合計質量中15〜50%であることを特徴とする蓄光性シート。
【請求項3】
前記の蓄光性顔料は、減圧下において蓄光性顔料の粒子表面に密着被覆させたアルコキシシラン又は/及びアルコキシシラン縮合物に由来する防水性シリカ層で前記蓄光性顔料の粒子表面を密着被覆した耐水性蓄光性顔料からなることを特徴とする請求項2記載の蓄光性シート。
【請求項4】
請求項2または3記載の蓄光性シートを用いた花弁、葉、樹木等の部材を構成する造花又は前記蓄光性シートを用いた折り紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−228399(P2010−228399A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−80790(P2009−80790)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(506346071)株式会社エコネット・エンジニアリング (6)
【出願人】(000006172)三菱樹脂株式会社 (1,977)
【Fターム(参考)】