説明

蓄光性難燃ポリエステル繊維

【課題】 優れた蓄光性と難燃性有し、産業資材用の製品に用いても十分な強度を有した蓄光性難燃ポリエステル繊維を提供する。
【解決手段】 芯層が蓄光性物質を含有するポリエステル、鞘層がポリエステルからなる芯鞘構造の複合繊維であって、少なくとも鞘層のポリエステルがリン化合物を含有しており、複合繊維の質量に対して蓄光性物質は5質量%以上、リン原子は1000〜10000ppm含有されており、かつ、強度が3.0cN/dtex以上である蓄光性難燃ポリエステル繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄光性物質を芯層、難燃剤を少なくとも鞘層に含有する芯鞘型のポリエステル複合繊維であって、照明下や太陽光下等では光を蓄えることができ、夜間や暗室等で発光し、かつ難燃性を有するため、ネットや網等の産業用資材にも好適に用いることができる蓄光性難燃ポリエステル繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、夜間に屋外で着用する衣類、工事等で用いる看板や表示類等は、自動車のライトや作業照明等の光を反射する塗料やフィルムを利用し、安全性を確保したり、作業性を向上させること等が行われている。
【0003】
近年では昼間に太陽や照明等の光を蓄え、夜間の屋内外の暗所で発光する蓄光性物質を成形加工時に練り込んだ蓄光性の成形品も利用されるようになってきた。中でも蓄光性物質を繊維中に含有させた蓄光性繊維は、産業用資材、家庭用資材、衣料用資材等に広く利用でき、用途に応じた要望も多くなっている。
【0004】
蓄光性繊維としては、芯鞘型複合繊維とし、芯部に蓄光性物質を含有させ、鞘部は透明性の熱可塑性樹脂を用いた蓄光性複合繊維(特許文献1参照)や、同様に芯鞘複合繊維であって、芯部に含有させる蓄光性微粒子の平均粒径を2μm以下とし、蓄光及び発光効果を向上させるために、芯部と鞘部の断面形状を特定のものに限定した蓄光性複合繊維(特許文献2参照)も提案されている。
【0005】
また、本発明者らは、特許文献3において、照明下や太陽光下でB値が低く、高強度の蓄光性繊維とその製造法を提案した。
【0006】
蓄光性繊維は、蓄光剤を含有しているため、通常の産資用繊維と比較して強度が劣り、また、高価であるため、繊維製品等に用いる場合は、製品の一部に用いることが多い。
【0007】
そして、これらの繊維製品としては、織編物や不織布等の布帛、ネットやメッシュシート、電車や車等の内装材等が挙げられる。中でもカーテン等の布帛、土木工事や建築工事に使用される安全ネットやメッシュシート、電車や自動車の内装材等の繊維製品は難燃性が必要な場合が多く、蓄光性繊維自体に難燃性を有するものが要望されている。
【特許文献1】特開平2−112414号公報
【特許文献2】特開2001−131829号公報
【特許文献3】特開2005−54307号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記の問題点を解決し、蓄光性に加えて難燃性も有し、各種の繊維製品に好適に用いることができ、十分な強度を有し、特に産業資材用の製品にも好適に使用することができる蓄光性難燃ポリエステル繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく検討した結果、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、芯層が蓄光性物質を含有するポリエステル、鞘層がポリエステルからなる芯鞘構造の複合繊維であって、少なくとも鞘層のポリエステルがリン化合物を含有しており、複合繊維の質量に対して蓄光性物質は5質量%以上、リン原子は1000〜10000ppm含有されており、かつ、強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とする蓄光性難燃ポリエステル繊維を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の蓄光性難燃ポリエステル繊維は、優れた蓄光性と難燃性有し、さらに十分な強度を有しているため、産業資材用の製品にも好適に使用することが可能であり、各種の繊維製品に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の蓄光性難燃ポリエステル繊維は、芯層に蓄光性物質を含有し、少なくとも鞘層に難燃剤としてリン化合物を含有する芯鞘型複合繊維である。
【0012】
まず、鞘層のポリエステルは、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタリン2,6ジカルボン酸、フタル酸、α,β−(4−カルボキシフェノキシ)エタン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はこれらの誘導体と、エチレングルコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ポリエチレングリコール、テトラメチレングリコール等のジオール化合物とから重縮合されるポリエステル及びその共重合体や混合物等が挙げられる。中でも安価で汎用性や寸法安定性に優れたポリエチレンテレフタレート(以下、PETと称す)が好ましい。
【0013】
鞘層のポリエステルの極限粘度〔η〕は、0.75〜1.20とすることが好ましい。この範囲より低くなると、高強度の繊維とすることが困難となりやすく、一方、高くなり過ぎると、製糸性が劣るようになったりコスト面で不利となりやすい。
【0014】
次に、本発明の複合繊維は、少なくとも鞘層のポリエステルがリン化合物を含有している。つまり、鞘層のポリエステルのみリン化合物を含有しているか、もしくは芯層と鞘層のポリエステルともにリン化合物を含有している。
【0015】
リン化合物の含有量としては、複合繊維全体の質量に対して、リン原子が1000〜10000ppm含有されており、中でも2000〜8000ppm含有されていることが好ましい。この範囲よりも少ないと難燃性が不十分となり、一方、多くなりすぎると製糸性が劣るようになったり、コスト面で不利となる。
【0016】
リン化合物の種類は特に限定するものではないが、例えば特公昭53−13479公報、特公昭55−41610公報に記載されているリン化合物等を用いることができる。中でも、難燃性能や製糸性の面において、クラリアントジャパン社製の製品名:Oxa−Phospholan glycolester(化学名:3−メチルホスフィニコプロピオン酸とエチレングリコールのエステル化物)が好ましい。
【0017】
ポリエステルにリン化合物を含有させるには、ポリエステルの重縮合反応開始前にリン化合物を目的とするリン原子の含有量になるように添加し、重縮合反応を行って一旦チップ化し、その後、常用のポリエステルと同様に固相重合を行うことが好ましい。
【0018】
なお、本発明の複合繊維の鞘層のポリエステルに、染料や顔料等の着色剤を含有させると、芯層の蓄光や発光の作用を妨げるため、染料や着色剤による着色がないこと(ブライトとすること)が好ましい。
【0019】
次に、芯層のポリエステルとしては、鞘層と同様の上記したポリエステルを用いることができるが、蓄光性物質を含有させるため、流動性の向上を図り、均一な練り込みを可能とするために、ポリエステルの極限粘度〔η〕は、蓄光性物質を練り込む前で0.7〜1.0程度とすることが好ましい。極限粘度がこれよりも低くなると高強度の繊維とすることが困難となりやすく、一方、高くなりすぎると均一な練り込みが困難になったり、流動性が悪くなり、製糸性が劣ることとなりやすい。
【0020】
芯層に含有する蓄光性物質としては、特に限定されるものではないが、ZnS:Cu、CaSrS:Bi、ZnCdS:Cu等の硫化物系蛍光体、ZnS:Cu等の硫化亜鉛系蓄光性蛍光体、特開平7−11250号公報に記載されているようなユウロピウム等を賦活したアルカリ土類金属のアルミン酸塩を用いることができる。中でも、耐光性、化学的安定性、蓄光性能等の面でユウロピウム等を賦活したアルカリ土類金属のアルミン酸塩を使用するのが好ましい。このような蓄光性物質としてはアルミン酸ストロンチウムを母体結晶とする、商品名「N夜光」(根本特殊化学社製)が挙げられる。
【0021】
また、蓄光性物質の粒子径は1〜10μmとすることが好ましく、この範囲より小さくなると蓄光性能が劣りやすく、この範囲を超えると製糸性が劣るようになるため好ましくない。また、芯層に含有させる際には、予め芯層に用いるポリエステルに20〜50質量%程度となるように練り込んだマスターチップを作製しておき、複合繊維の質量に対して目的とする含有量になるようにマスターチップの量を調整して用いることが好ましい。
【0022】
さらに、蓄光性物質の含有量は複合繊維の質量に対して5質量%以上にする必要があり、好ましくは5〜15質量%である。この範囲より少ないと蓄光性能が劣り、この範囲を超えると製糸性や強度が劣るようになるばかりでなく、高価であるためコスト面で不利となりやすい。
【0023】
また、芯層と鞘層の割合は、質量比(芯/鞘)で1/1〜1/5とすることが好ましい。この範囲より鞘層の割合が小さくなると製糸性や強度が劣るようになる。一方、この範囲より鞘層が大きくなると、芯層の割合が小さくなるので、十分な蓄光及び発光効果を奏するためには、芯層のポリエステル中への蓄光性物質の含有量を多くする必要があり、これにより芯層の流動性が悪くなり、製糸性が劣るようになる。したがって、芯層に含有させる蓄光性物質の含有量は、芯層全体の質量の50質量%以下とすることが好ましい。
【0024】
また、本発明の複合繊維の断面形状は特に限定するものではなく、丸断面のみならず、多角形や多葉形状の異形のものでもよい。中でも、高強度が得られやすく、延伸性も優れているため、芯層と鞘層が同心円状に配置された丸断面形状とすることが好ましい。
【0025】
そして、本発明の複合繊維の強度は、3.0cN/dtex以上であり、さらに好ましくは、3.5〜6.0cN/dtexである。強度が3.0cN/dtex未満であると、高強度を必要とする産業用資材等には適さなくなり用途が限定されるようになる。
【0026】
また、本発明の複合繊維を得るには、溶融紡糸した未延伸糸を一旦巻き取って、その後延伸を行う二工程法を採用することもできるが、一旦巻き取らずに連続して延伸を行うスピンドロー法を採用することが、生産性の面において好ましい。そして、上記したような3.0cN/dtex以上の強度を得るためには、高倍率の延伸を行う必要があり、このため、延伸時に高温のスチームを吹き付けながら熱延伸を行うスチーム延伸法を採用することが好ましい。これにより、蓄光性物質を含有した芯層の流動性が向上し、高倍率の延伸が行え、強度3.0cN/dtex以上の繊維を得ることができる。
【0027】
巻き取り速度は1500〜4000m/分とすることが好ましく、この範囲より遅いと生産性が劣り、速くなりすぎると延伸性や強度が劣るようになりやすい。
【0028】
また、本発明の複合繊維の単糸繊度は3〜30dtexとすることが好ましく、総繊度は200〜2000dtexとすることが好ましい。
【0029】
次に、本発明の複合繊維の製造方法について、一例を用いて説明する。
まず、芯層と鞘層のポリエステルを複合紡糸装置を用いて溶融紡糸し、紡糸装置直下に設置した壁面温度200〜500℃の加熱筒内を通過させた後、温度10〜20℃の冷却風を吹き付けて冷却する。そして、油剤を付与して非加熱の1ローラに未延伸糸を引き取り、一旦巻き取ることなく連続して、非加熱の2ローラに引き取り1.005〜1.05倍の引き揃えを行った後、スチーム処理機を用いて温度300〜500℃、圧力0.1〜1.0MPaのスチームを糸条に吹き付けながら、温度100〜250℃の3ローラに引き取り、3.5〜6.0倍の延伸を行う。その後、100〜250℃の4ローラに引き取り、1〜15%の弛緩処理を行い、速度1500〜4000m/分で巻き取って、蓄光性難燃ポリエステル繊維を得る。
【実施例】
【0030】
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、実施例における各物性値は、次の方法で測定した。
(a)ポリエステルの極限粘度
フェノールと四塩化エタンとの等質量混合物を溶媒とし、濃度0.5g/dl、温度20℃で測定した。
(b)強度、伸度
JIS L−1013に従い、島津製作所製オートグラフDSSー500を用い、つかみ間隔25cm、引張速度30cm/分で測定した。
(c)蓄光性能
得られた繊維を筒編みした試料(長さ10cm)を、48時間遮光した後、暗室で一灯式蛍光灯(日立製作所社製 グロースターター型、白色、40W、品番:FL40SSW/37−B)の下部50cmの位置で試料に20分間照射した後、蛍光灯を消して90分後の残光を目視で判定した。残光が肉眼で確認できるものを○、できないものを×とした。
(d)難燃性
JIS L−1091D法(接炎試験)に従って測定した。なお、接炎回数の数値が大きいほど難燃性が高いことを示す。
【0031】
実施例1
常用の複合紡糸装置に、孔径が0.5mm、孔数が50個の芯鞘型複合紡糸口金を装着して複合紡糸を行った。このとき、鞘層のポリエステルを次のようにして得た。まず、テレフタル酸とエチレングリコールとのモル部を100:170、圧力0.3MPaG、温度250℃で4時間エステル化反応を行って得た低分子量のオリゴマーを、重縮合反応槽に送液し、難燃剤としてリン化合物(製品名:『Oxa−Phospholan glycolester』:クラリアントジャパン社製、化学名:3−メチルホスフィニコプロピオン酸とエチレングリコールのエステル化物)を4.25モル%、触媒として三酸化アンチモンを2×10-4モル/酸成分1モル添加し、温度280℃、減圧度1.3hPa以下で2時間50分の重縮合反応を行った。そして、極限粘度〔η〕0.71、リン原子の含有量が6900ppmのPETを得、次に温度220℃、減圧下で攪拌しながら15時間の固相重合を行い、極限粘度〔η〕0.97のPETを得た。
芯層には極限粘度〔η〕0.75のPETを用い、これに蓄光性物質として、アルミン酸塩化合物を主成分に希土類元素の賦活剤を添加焼成した、商品名「N夜光(G−300FF)」(根本特殊化学社製、平均粒子径1.5μm)を含有させた。そして、蓄光性物質を30質量%含有するPETを得た。
芯層と鞘層の質量比(芯:鞘)を1:3とし、温度290℃で複合紡糸を行った。紡出した糸条を温度300℃、長さ30cmの加熱筒を通過させた後冷却風で冷却し、油剤を付与して非加熱の1ローラに引き取り、引き続き非加熱の2ローラで1.01倍の引き揃えを行った。続いて、2ローラと3ローラ間にスチーム処理機を設置し、走行する糸条に温度350℃、圧力0.5Mpaの加熱蒸気を、走行する糸条の進行方向に向かって吹き付けながら、温度200℃の3ローラで引き取り、5.1倍の延伸(一段延伸)を行った。その後、温度150℃の4ローラで引き取り、6%のリラックス率で弛緩処理を行い、2000m/分の速度で巻き取った。
得られた繊維は555dtex/50フィラメント、断面形状が芯層と鞘層が同心円上に配置された丸断面糸であった。
【0032】
実施例2
芯層と鞘層の質量比(芯:鞘)を1:1に変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0033】
実施例3
芯層のポリエステルとして、実施例1で鞘層に用いたポリエステルの固相重合を行う前の極限粘度〔η〕が0.71のポリエステルに蓄光性物質を30質量%練り込んだPETとし、リン原子の含有量を4830ppmとした以外は実施例1と同様に行った。
【0034】
比較例1
芯層のポリエステルとして、蓄光性物質を40質量%練り込んだPETとした以外は実施例2と同様に行った。
【0035】
比較例2
鞘層のポリエステルとして、リン原子の含有量を1000ppmのPETとした以外は実施例1と同様に行った。
【0036】
比較例3
芯層のポリエステルとして、蓄光性物質を15質量%練り込んだPETとした以外は実施例1と同様に行った。
【0037】
実施例1〜3、比較例1〜3で得られた繊維の特性値及び評価結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
表1から明らかなように、実施例1〜3の複合繊維は、強度、伸度、難燃性や蓄光性能いずれも十分なものであった。
一方、比較例1の複合繊維は、蓄光性物質の含有量が多すぎたために強度、伸度ともに劣り、また、比較例2はリン原子の含有量が少ないために難燃性が劣り、比較例3は蓄光性物質の含有量が少なかったために蓄光性能が劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯層が蓄光性物質を含有するポリエステル、鞘層がポリエステルからなる芯鞘構造の複合繊維であって、少なくとも鞘層のポリエステルがリン化合物を含有しており、複合繊維の質量に対して蓄光性物質は5質量%以上、リン原子は1000〜10000ppm含有されており、かつ、強度が3.0cN/dtex以上であることを特徴とする蓄光性難燃ポリエステル繊維。

【公開番号】特開2006−348393(P2006−348393A)
【公開日】平成18年12月28日(2006.12.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−172409(P2005−172409)
【出願日】平成17年6月13日(2005.6.13)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】