説明

蓄熱マイクロカプセル粉体およびその製造方法

【課題】本発明は、蓄熱マイクロカプセルの粉体を提供することにある。
【解決手段】を解決するため、蓄熱マイクロカプセルスラリーを加熱乾燥して蓄熱マイクロカプセル粉体を作製する工程において、蓄熱マイクロカプセルスラリーにポリビニルアルコールを添加して粉体化することにより、耐熱性及び耐溶剤性を改良した蓄熱マイクロカプセル粉体を作製することが出来る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱マイクロカプセル粉体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蓄熱マイクロカプセルはスラリー状態で作製される場合が多いが、このカプセルスラリーを粉体化することにより、カプセルを使って加工する際の取り扱い性、貯蔵性等が改善される。また蓄熱マイクロカプセル粉体は一般的な乾燥装置を用いて行われるが、作製される粉体には、耐熱性、耐溶剤性等の物性を有していることが好ましい。
【0003】
作製する蓄熱マイクロカプセルの耐熱性、耐溶剤性、耐破壊性等の物性を持たせるためには、カプセル皮膜の膜質を物性の優れているものに代えること、マイクロカプセルの皮膜を厚膜化することが有効であり、例えば厚膜化によるマイクロカプセルの破壊性改良が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
しかし単なるマイクロカプセルの皮膜の厚膜化だけでは、カプセルに含まれる内包物質の比率が低下し、内包物質の機能が低下するため好ましくない。特に蓄熱材マイクロカプセルでは、マイクロカプセルの皮膜を厚膜化すると蓄熱量の低下が生じるため、好ましくない。
【0005】
また作製する蓄熱マイクロカプセル皮膜の膜質は、出来るだけ代えることなく蓄熱マイクロカプセル粉体の耐溶剤性を改良することが望ましい。
【特許文献1】特開平11−152466号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、耐溶剤性を改良した蓄熱マイクロカプセルの粉体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、蓄熱マイクロカプセルのカプセル膜界面にポリビニルアルコールが存在してなる蓄熱マイクロカプセル粉体である。ポリビニルアルコールの重合度が3400以下であると好ましく、蓄熱マイクロカプセルの膜材比率が10%以上であるとさらに好ましい。
また、本発明は、蓄熱マイクロカプセルにポリビニルアルコールを添加したスラリーを乾燥し、粉体化させる前記蓄熱マイクロカプセル粉体の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、耐溶剤性を改良した蓄熱マイクロカプセルの粉体を得ること出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、耐溶剤性を改良した蓄熱マイクロカプセルの粉体を作製することにある。本発明は、蓄熱マイクロカプセルのカプセル膜界面にポリビニルアルコールが存在してなる蓄熱マイクロカプセル粉体を製造することにより、蓄熱マイクロカプセル粉体の耐溶剤性を改良することが出来る。
【0010】
本発明のマイクロカプセル化する方法としては、複合エマルジョン法によるカプセル化法(特開昭62−1452号公報)、内包物質の表面に熱可塑性樹脂を噴霧する方法(特開昭62−45680号公報)、内包物質粒子の表面に液中で熱可塑性樹脂を形成する方法(特開昭62−149334号公報)、内包物質粒子の表面でモノマーを重合させ被覆する方法(特開昭62−225241号公報)、界面重縮合反応によるポリアミド皮膜マイクロカプセルの製法(特開平2−258052号公報)等に記載されている方法を用いることが可能である。
【0011】
カプセル膜材としては、界面重合法、インサイチュー法等の手法で得られるポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアクリルアミド、エチルセルロース、ポリウレタン、アミノプラスト樹脂、ゼラチンとカルボキシメチルセルロースもしくはアラビアゴムとのコアセルベーション法を利用した合成あるいは、天然樹脂が用いられる。しかし物理的、化学的に安定で、良好な品質のマイクロカプセルが得られるインサイチュー法による尿素ホルマリン樹脂、メラミンホルマリン樹脂皮膜を用いたものが好ましい。
【0012】
本発明の蓄熱マイクロカプセルにおいて内包する物質は、目的に応じ適宜選択され、水性物質、油性物質のいずれでも使用可能であるが、マイクロカプセルの膜形成反応を阻害しないものが好ましい。蓄熱マイクロカプセルの内包物質の例としては、へキサン、イソオクタン、ヘキサデカン、オクタデカン、ベンゼン、トルエン、ナフタレン、アルキルナフタレン等の炭化水素;酢酸エチル、ミリスチン酸エチル、脂肪酸トリグリセライド、燐酸トリブチル等のエステル類;ジエチルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類;デカノール、ドデカノール等のアルコール類、アルデヒド、脂肪酸、脂肪族アミン、アミド、ニトリル類;変性又は未変性のシリコーンオイル等が挙げられ、1種以上を混合して用いることができる。
【0013】
本発明の蓄熱マイクロカプセルスラリーを加熱乾燥し粉体化する工程に用いる乾燥装置は、ドラムドライヤー、スプレードライヤー、フリーズドライヤー、流動槽ドライヤー等の一般的ないずれの装置を用いることが出来るが、乾燥効率等を考慮するとスプレードライヤー、ドラムドライヤーが好ましい。
【0014】
蓄熱マイクロカプセルを粉体化する工程において、蓄熱マイクロカプセルスラリーに予め添加するポリビニアルコールは、いずれの種類でも使用できるが、作製される蓄熱マイクロカプセル粉体の耐熱性、耐溶剤性等を向上させ、且つ蓄熱マイクロカプセルスラリーの乾燥物収率の下がらないようにするためには、重合度の範囲3400以下のものが望ましい。
【0015】
蓄熱マイクロカプセルスラリーに添加するポリビニルアルコールの添加量は、必要とする蓄熱マイクロカプセル粉体の耐熱性、耐溶剤性に応じて任意に設定できるが、添加量が少なすぎると粉体の耐熱性、耐溶剤性の物性値が不十分になったり、添加量が極端に多過ぎると蓄熱マイクロカプセルの蓄熱機能低下が生じることがある。このためマイクロカプセル固形質量に対して、0.01〜100%、好ましくは0.1〜50%に調整するのが良い。
【0016】
また(1)蓄熱材マイクロカプセルの膜材比率が10%以上である蓄熱材マイクロカプセルスラリーを使用し、(2)蓄熱材マイクロカプセルスラリーにポリビニルアルコールを添加して蓄熱材マイクロカプセル粉体を作製することにより、(1)(2)の両方の相乗効果で蓄熱材マイクロカプセル粉体の耐熱性、耐溶剤性を向上させることができる。なお、蓄熱材マイクロカプセルの膜材比率は、マイクロカプセル質量に占める膜材質量の比率と定義する。
【0017】
蓄熱マイクロカプセルを粉体化する工程において、蓄熱マイクロカプセルスラリーとポリビニルアルコールの他に、必要があれば緩衝剤、分散剤、消泡剤、染料、顔料などの着色剤、吸湿材、酸化防止剤、難燃剤、香料などを添加することもできる。
【実施例】
【0018】
以下実施例によって本発明を説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の部数や百分率は質量基準である。
【0019】
実施例1
(蓄熱マイクロカプセルスラリーAの調製)
蓄熱マイクロカプセルを調製するため、メラミン粉末12質量部に37%ホルムアルデヒド水溶液15.4質量部と水40質量部を加え、pHを8に調整した後、約70℃まで加熱してメラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液を得る。pHを4.5に調整した5%スチレン−無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩水溶液100質量部中に、蓄熱材として、n−ヘキサデカン80質量部を激しく撹拌しながら添加し、粒子径が3.0μmになるまで乳化を行い、乳化液を得る。得られた乳化液に、上記メラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液全量を添加し70℃で2時間撹拌を施した後、pHを9まで上げて水を添加して固形分濃度40%の蓄熱マイクロカプセルスラリーA(膜材比率22.1%)を得た。
【0020】
(蓄熱マイクロカプセルスラリーの粉体化)
蓄熱マイクロカプセルスラリーAの固形質量100部に対して、20%ポリビニアルコール水溶液(クラレ(株)製ポリビニルアルコール、商品名ポバールPVA205、重合度500)を25部添加する。この液を用い、入り口温度250℃、出口温度105℃の条件でスプレードライヤーにより200μm大の蓄熱マイクロカプセル粉体を得た。
【0021】
実施例2
(蓄熱マイクロカプセルスラリーの粉体化)
蓄熱マイクロカプセルスラリーAを用い、蓄熱マイクロカプセルスラリーの固形質量100部に対して、20%ポリビニアルコール水溶液(クラレ(株)製ポリビニルアルコール、商品名ポバールPVA205、重合度500)を100部添加する。この液を用い、ドラム温度130℃、ドラム回転数2rpmの条件でシングルドラムドライヤーを使って1〜2mm大の蓄熱マイクロカプセル粉体を得た。
【0022】
実施例3
(蓄熱マイクロカプセルスラリーの粉体化)
蓄熱マイクロカプセルスラリーAの固形質量100部に対して、10%ポリビニアルコール水溶液(クラレ(株)製ポリビニルアルコール、商品名ポバールPVA217、重合度1700)を50部添加する。この液を用い、入り口温度250℃、出口温度105℃の条件でスプレードライヤーにより200μm大の蓄熱マイクロカプセル粉体を得た。
【0023】
実施例4
(蓄熱マイクロカプセルスラリーBの調製)
蓄熱マイクロカプセル内包物としてミリスチン酸メチル80部に、ポリメリックジフェニルメタンジイソシアネート(住友バイエルウレタン(株)製芳香族イソシアネート、商品名44V20)10部を溶解した溶解液を、5%(w/w)ポリビニルアルコール(クラレ(株)製、商品名ポバール110)水溶液100部中に体積平均粒子径が3μmになるまで室温で強撹拌を施した。次にこの乳化液に3%ジエチレントリアミン水溶液60部を添加した後、60℃で2時間撹拌を施してポリウレア皮膜を有するミリスチン酸メチルの蓄熱マイクロカプセルスラリーB(膜材比率29.1%)を得た。
【0024】
(蓄熱マイクロカプセルスラリーの粉体化)
実施例1と同じ条件で、スプレードライヤーにて200μm大の蓄熱マイクロカプセル粉体を得た。
【0025】
実施例5
(蓄熱マイクロカプセルスラリーCの調製)
蓄熱マイクロカプセルを調製するため、メラミン粉末2.6質量部に37%ホルムアルデヒド水溶液3.34質量部と水40質量部を加え、pHを8に調整した後、約70℃まで加熱してメラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液を得る。pHを4.5に調整した5%スチレン−無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩水溶液100質量部中に、蓄熱材として、n−ヘキサデカン80質量部を激しく撹拌しながら添加し、粒子径が3.0μmになるまで乳化を行い、乳化液を得る。得られた乳化液に、上記メラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液全量を添加し70℃で2時間撹拌を施した後、pHを9まで上げて水を添加して乾燥固形分濃度40%の蓄熱マイクロカプセルスラリーC(膜材比率9.9%)を得た。
【0026】
(蓄熱マイクロカプセルスラリーの粉体化)
蓄熱マイクロカプセルスラリーCの固形質量100部に対して、20%ポリビニアルコール水溶液(クラレ(株)製ポリビニルアルコール、商品名ポバールPVA205、重合度500)を50部添加した。この液を用い、入り口温度250℃、出口温度105℃の条件でスプレードライヤーにより200μm大の蓄熱マイクロカプセル粉体を得た。
【0027】
実施例6
(蓄熱マイクロカプセルスラリーの粉体化)
蓄熱マイクロカプセルスラリーAの固形質量100部に対して、10%ポリビニアルコール水溶液(クラレ(株)製ポリビニルアルコール、商品名ポバールPVA235、重合度3500)を50部添加する。この液を用い、入り口温度250℃、出口温度105℃の条件でスプレードライヤーにより200μm大の蓄熱マイクロカプセル粉体を得た。
【0028】
比較例1
蓄熱マイクロカプセルスラリーAにポリビニルアルコールを添加しないこと以外は、実施例1と同じ手法にて200μm大の蓄熱マイクロカプセル粉体を作製した。
【0029】
比較例2
蓄熱マイクロカプセルスラリーAにポリビニルアルコールを添加しないこと以外は、実施例2と同じ手法にて1〜2mm大の蓄熱マイクロカプセル粉体を作製した。
【0030】
比較例3
蓄熱マイクロカプセルスラリーBにポリビニルアルコールを添加しないこと以外は、実施例4と同じ手法にて200μm大の蓄熱マイクロカプセル粉体を作製した。
【0031】
比較例4
ポリビニアルコールの代わりに、スチレンブタジエン共重合系ラテックス(JSR(株)、商品名ラテックス0619)を、蓄熱マイクロカプセルスラリーAの固形質量100に対して固形質量10部添加すること以外は、実施例1と同じ手法にて200μm大の蓄熱マイクロカプセル粉体を作製した。
【0032】
比較例5
蓄熱マイクロカプセルスラリーCにポリビニルアルコールを添加しないこと以外は、実施例5と同じ手法にて200μm大の蓄熱マイクロカプセル粉体を作製した。
【0033】
実施例1〜6及び比較例1〜5で得た蓄熱マイクロカプセル粉体を、共栓付き50ml試験管に2g採取し、n−ヘキサン50mLを添加、静置1時間後、ヘキサン中に抽出されたマイクロカプセル内包油量をガスクロマトグラフィーにて測定し、粉体物中から抽出されたマイクロカプセル内包油量を算出した。また得られた蓄熱マイクロカプセル粉体について、乾燥器内にて150℃1時間加熱し、加熱前の質量に対する加熱後の質量減少率を算出した。また蓄熱マイクロカプセルスラリーの乾燥工程において、乾燥を行った蓄熱マイクロカプセル固形質量に対する捕集乾燥物の収率を算出した。これらの結果を表1に示した。なお表1において、結果が良好なものは○印、やや劣るものは△印、不良のものは×印で記した。
【0034】
【表1】

【0035】
表1の結果から明らかなように、蓄熱マイクロカプセルを粉体化する工程において、蓄熱マイクロカプセルスラリーにポリビニルアルコールを添加して粉体化することにより、耐熱性及び耐溶剤性を改良できる。
【0036】
また、膜材比率が10%以上の蓄熱マイクロカプセルで、且つ重合度が3400以下のポリビニルアルコールを添加したスラリーを乾燥し、粉体化することにより、粉体の捕集収率が良好で、耐熱性及び耐溶剤性を改良した蓄熱マイクロカプセル粉体を作製することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄熱マイクロカプセルのカプセル膜界面にポリビニルアルコールが存在してなる蓄熱マイクロカプセル粉体。
【請求項2】
ポリビニルアルコールの重合度が3400以下である請求項1記載の蓄熱マイクロカプセル粉体。
【請求項3】
蓄熱マイクロカプセルの膜材比率が10%以上である請求項1または2記載の蓄熱マイクロカプセル粉体。
【請求項4】
蓄熱マイクロカプセルにポリビニルアルコールを添加したスラリーを乾燥し、粉体化させることを特徴とする請求項1〜3いずれか記載の蓄熱マイクロカプセル粉体の製造方法。

【公開番号】特開2006−274086(P2006−274086A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−96451(P2005−96451)
【出願日】平成17年3月29日(2005.3.29)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】