説明

蓄熱利用システム

【課題】蓄熱利用システムにおいて、給湯器と貯湯槽の間の配管や貯湯槽などに貯まっている湯の熱エネルギーを有効に活用することにより、エネルギー消費を低減する。
【解決手段】蓄熱利用システム1の蓄熱槽7は、複数の区画7a,7b,7c,7dに分割され、これらを順に水が流れることにより、複数の区画7a,7b,7c,7dで温度差を生じさせている。熱源8は、高温側の区画7aの水に熱エネルギーを供給する。制御部3は、貯湯槽22および給湯配管23から湯を廃棄しつつ湯の熱エネルギーを高温側の区画7aの水に与える排湯制御を行う。この制御部3は、排湯制御を行うときに、排湯用配管26からの熱エネルギー供給と熱源8による熱エネルギー供給の調整を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、空気調和などに蓄えた熱を利用する蓄熱利用システムに関し、特に給湯器と蓄熱槽を備える蓄熱利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、給湯器を備える給湯システムにおいては、特許文献1(特開平5−157351号公報)に記載されているように、給湯器などの熱源を長期間使用しない場合やメンテナンスなどが必要な場合に、缶体などの貯湯槽に貯まっている湯を廃棄することが必要になる。
【0003】
また、需要に応じて、間欠的に、給湯器から配管を通して貯湯槽へ湯を供給する場合、使用量が少ないために配管や貯湯槽に貯まっている湯が所定温度(例えば55℃)未満になることがある。このように所定温度未満になった湯を貯湯槽や配管に貯めておくと細菌の発生など衛生上の問題が生じる場合があるため、補助ヒータなどを使って、所定温度未満になった配管の湯を加熱する必要が生じる。配管の湯を再加熱する場合には、補助ヒータ等の再熱用機器が必要になり、システムが複雑になる。また、補助ヒータ等で加熱するための熱エネルギーが投入されるため、エネルギーが余分に必要となり、エネルギー消費量の増加にも繋がる。一方、補助ヒータなどを用いた再加熱を行わずに、所定温度未満の湯を廃棄して、所定温度以上の湯だけを供給することもできる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、給湯器を備える従来のシステムにおいては、給湯器において廃棄される湯や所定温度未満になった湯を効率良く利用することが難しく、給湯器と蓄熱槽とを備える蓄熱利用システムにおいても同様の問題が生じていた。
【0005】
本発明の課題は、給湯器と貯湯槽の間の配管や貯湯槽などに貯まっている湯の熱エネルギーを有効に活用することにより、エネルギー消費を低減することができる蓄熱利用システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明に係る蓄熱利用システムは、給湯器と、貯湯槽と、給湯器から貯湯槽に湯を導くための配管と、蓄熱槽と、熱源と、制御手段とを備えている。給湯器は貯湯槽に湯を供給し、貯湯槽は湯を貯める。一方、蓄熱槽は、複数の区画に分割され、複数の区画を順に熱媒体が流れることにより、複数の区画で温度差を生じさせている。熱源は、複数の区画の中の高温側区画の熱媒体に熱エネルギーを供給する。制御手段は、貯湯槽および配管のうちの少なくとも一方から湯を廃棄しつつ湯の熱エネルギーを高温側区画の熱媒体に与える排湯制御を行う。また、制御手段は、排湯制御を行うときに、排湯制御による熱エネルギー供給と熱源による熱エネルギー供給の調整を行う。
【0007】
本発明によれば、制御手段により排湯制御を行うことで、貯湯槽および配管のうちの少なくとも一方から廃棄される湯の熱エネルギーを蓄熱槽の熱媒体に蓄えることができる。従来、補助ヒータなどの特別な装置を設けない場合に廃棄されていた湯の熱エネルギーを、蓄熱槽に蓄えて有効に活用するので、熱エネルギーの利用効率を上げることができる。また、湯の熱エネルギーを蓄熱槽に蓄えるとき、排湯制御による熱エネルギー供給と熱源による熱エネルギー供給の調整を行い、蓄熱槽における熱バランスが大きく崩れないようにすることができる。
【0008】
第2発明に係る蓄熱利用システムは、第1発明の蓄熱利用システムにおいて、制御手段は、排湯制御による熱エネルギー供給の動作と、熱源による熱エネルギー供給の動作とを切り替え可能に構成されている。
【0009】
本発明によれば、排湯制御による熱エネルギー供給の動作と、熱源による熱エネルギー供給の動作とを切り替えることにより、簡単に、排湯制御による熱エネルギー供給と熱源による熱エネルギー供給の調整を行うことができる。
【0010】
第3発明に係る蓄熱利用システムは、第1発明または第2発明の蓄熱利用システムにおいて、蓄熱槽の複数の区画の中の低温側区画から高温側区画に熱媒体を循環させるためのポンプをさらに備えている。そして、ポンプは、排湯制御のときに熱媒体を循環させる。
【0011】
本発明によれば、ポンプを排湯制御の際に用いることで、低温側区画から高温側区画に熱媒体が送られ、熱媒体が高温側区画から低温側区画に向けて流れ、排湯制御により高温側区画に与えられて熱量が多くなった高温側区画から低温側区画に向けて熱量を移動させることができる。
【0012】
第4発明に係る蓄熱利用システムは、第1発明から第3発明のいずれかの蓄熱利用システムにおいて、貯湯槽および配管のうちの少なくとも一方から廃棄される湯と、蓄熱槽の高温側区画に貯められる熱媒体との間で熱交換を行わせる熱交換手段をさらに備えている。
【0013】
本発明によれば、熱交換手段により、貯湯槽や配管から廃棄される湯と、蓄熱槽の熱媒体とが混じりあわない状態で、その湯から熱媒体に熱エネルギーを与えることができる。
【0014】
第5発明に係る蓄熱利用システムは、第1発明から第3発明のいずれかの蓄熱利用システムにおいて、蓄熱槽の熱媒体に水を用いる。そして、蓄熱槽は、貯湯槽および配管のうちの少なくとも一方から廃棄される湯を高温側区画で受けて、受けた湯の量に応じた量の熱媒体を蓄熱槽の複数の区画の中の低温側区画から廃棄する。
【0015】
本発明によれば、高温側区画に湯を直接いれるため、一旦、湯の熱エネルギーが全て蓄熱槽に与えられる。そして、多くなった蓄熱槽の熱媒体を低温側区画から廃棄することで、湯の温度と低温側区画の水の温度差に相当する熱エネルギーが蓄熱槽に蓄えられることになる。
【発明の効果】
【0016】
第1発明に係る蓄熱利用システムでは、蓄熱槽における熱バランスが大きく崩れないようにして蓄熱利用システムの成績係数の低下を防止しながら、給湯器で供給される湯を廃棄する際の熱エネルギーを有効に活用して、エネルギー消費を低減させることができる。
【0017】
第2発明に係る蓄熱利用システムでは、排湯制御による熱エネルギー供給の動作と、熱源による熱エネルギー供給の動作とを切り替えという簡単な構成で、蓄熱槽の高温側区画の熱媒体の温度維持を図れるから、蓄熱利用システムのエネルギー消費を抑える構成を設けても蓄熱利用システムの構成が複雑化するのを防ぐことができる。
【0018】
第3発明に係る蓄熱利用システムでは、蓄熱槽の温度管理が容易になり、蓄熱利用システムの成績係数の低下防止が簡単に行える。
【0019】
第4発明に係る蓄熱利用システムでは、廃棄される湯が蓄熱槽の熱媒体に接触しないようにできるため、衛生上の管理が容易になるなど湯の廃棄や蓄熱槽の熱媒体のメンテナンスが容易になる。
【0020】
第5発明に係る蓄熱利用システムでは、廃棄される湯と蓄熱槽の水との温度差に相当する熱エネルギーを簡単に回収でき、簡単な構成で、廃棄される湯の熱エネルギーの回収効率を上げることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】第1実施形態に係る蓄熱利用システムの構成を示す概念図。
【図2】蓄熱利用システムの動作を示すフローチャート。
【図3】第2実施形態に係る蓄熱利用システムの構成を示す概念図。
【図4】第3実施形態に係る蓄熱利用システムの構成を示す概念図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔第1実施形態〕
〔蓄熱利用システムの構成の概要〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る蓄熱利用システムの構成を示す概念図である。図1に示す蓄熱利用システム1は、例えば、宿泊施設や研修施設などの多数の部屋を備える大規模な建築物に設けられるシステムである。そのため、蓄熱利用システム1は、多数の部屋の空気調和を行うための多数の室内機4-1…4-nを備えている。また、部屋の空気調和に必要な熱エネルギーを供給するため、蓄熱利用システム1は、多数の室内機4-1…4-nに対応して多数の室外機5-1…5-nを備えている。これら室内機4-1…4-nと室外機5-1…5-nは、循環する水から熱エネルギーの供給を受けて空気調和を行う水熱源空調機を構成する。
【0023】
蓄熱利用システム1は、蓄熱槽7を備えており、さらに、多数の室外機5-1…5-nを循環する水に対し、蓄熱槽7に蓄えた熱エネルギーを与えるための熱交換器6を備えている。また、蓄熱利用システム1は、蓄熱槽7に熱エネルギーを供給するための熱源8を備えている。熱源8には、例えば空冷チラーなどが複数用いられる。
【0024】
つまり、蓄熱利用システム1は、室内機4-1…4-nと、室外機5-1…5-nと、熱交換器6と、蓄熱槽7と、熱源8とを含む水熱源空調システム2を備えており、この水熱源空調システム2を用いて暖房を行うことができる。
【0025】
蓄熱利用システム1は、また、水熱源空調システム2が設けられているのと同じ建築物に、例えば60℃以上のお湯を給湯するための給湯システム20を備えている。給湯システム20には、湯を沸かすための給湯器21と、沸かされた湯を貯えるための貯湯槽22と、給湯器21と貯湯槽22を接続する給湯配管23とが含まれている。また、給湯システム20からは排湯用配管26が外部へ出ており、給湯配管23に溜まった湯を廃棄するため排湯用配管26が開閉弁24を介して給湯配管23に接続されている。開閉弁24を開いたときには、給湯配管23に溜まっている湯だけが排出され、貯湯槽22に溜まっている湯は逆止弁など(図示省略)により排出されない。蓄熱利用システム1は、通常、給湯を行うための給湯システム20と、空気調和のための水熱源空調システム2とを独立して運転している。そして、水熱源空調システム2と給湯システム20とは、蓄熱利用システム1の制御部3により制御されている。この制御部3による制御については後述する。
【0026】
〔熱媒体の循環と蓄熱〕
水熱源空調システム2において、室外機5-1…5-nには熱交換器6から熱媒体としての水(暖水)が供給される。室外機5-1…5-nは、供給された水から熱を得て、熱交換が終わった後の冷水を排出する。室外機5-1…5-nから排出された冷水は、ポンプ9で再び熱交換器6に戻される。再び熱交換器6に戻った冷水は、蓄熱槽7から熱交換器6に供給される水との間で行われる熱交換で熱を得て、温度が上昇する。すなわち、熱交換器6では、室外機5-1…5-nから戻った冷水と蓄熱槽7から供給される暖水との間で熱交換が行われる。
【0027】
蓄熱槽7は、水により熱を蓄熱するため、水を貯留する4つの区画7a,7b,7c,7dを備えている。水熱源空調システム2が運転されているときには、蓄熱槽7に蓄えられる水が、区画7aから区画7b、区画7c、そして区画7dへ、または逆の方向へと順次流れる。それにより、これら4つの区画7a,7b,7c,7dに貯えられている水に温度差を発生させている。運転中において、区画7aが最も水温の高い高温側区画であり、区画7dが最も水温の低い低温側区画である。区画7bは、区画7aより温度が低く、次の区画7cより温度の高い中高温の区画であり、区画7cは、区画7bより温度が低く、次の区画7dより温度の高い中低温の区画である。水熱源空調システム2で良い成績係数(Coefficient of Performance;以下COPという)を得るため、暖房運転が行われているときに、例えば、区画7aが25〜30℃などのように所定の温度範囲内に収まるように管理されている。
【0028】
4つの区画7a,7b,7c,7dに順に、または逆に水を流すために、区画7aと区画7b、区画7bと区画7c、および区画7cと区画7dがそれぞれパイプ7eで繋がっている。例えば、区画7aと区画7bの間に設けられたパイプ7eは、区画7aの底面に近いところに入口を持ち、その入口から上に延びて区画7bの水面に近いところにある出口に続いている。蓄熱槽7の各区画7a,7b,7c,7dには、蓄えている熱エネルギーの損失を減らすため、水面とともに上下する断熱材7fが設けられている。
【0029】
蓄熱槽7の高温側の区画7aから熱交換器6に暖水を供給し、熱交換器6で熱交換の終わった冷水を低温側の区画7dに戻すため、ポンプ10が設けられている。また、蓄熱槽7の区画7dから冷水を熱源8に供給し、熱源8で温められた暖水を再び区画7aに戻すため、ポンプ11が設けられている。熱源8から区画7aに戻る暖水は、区画7aに貯えられている水温を維持するため、区画7aの水温より高い水温に設定される。
【0030】
給湯システム20からは、排湯のための排湯用配管26が、高温側の区画7aに貯えられている水の中を通って外部へ続いている。そのため、排湯の際に、排湯用配管26の中を通る湯と区画7aに貯えられている水との間で排湯用配管26の管壁を介して熱交換が行われる。この排湯用配管26には、ポンプ12が設けられており、このポンプ12により廃棄される湯の量が増減できる。また、排湯用配管26は、区画7aの水と排湯との間での熱交換を行わずに湯を捨てられるようにバイパス配管27でバイパスされている。バイパス配管27に流す場合と、区画7aの水との熱交換を行わせる場合との切り換えが行えるように、開閉弁28,29がそれぞれ排湯用配管26とバイパス配管27に設けられている。
【0031】
〔温度管理と排湯制御〕
蓄熱利用システム1は、水熱源空調システム2および給湯システム20を効率良く運転するために、各部の温度を測定する温度センサ13a,13d,25などを備えている。温度センサ13a,13dは、それぞれ蓄熱槽7の高温側の区画7aと低温側の区画7dに貯えられる水温を測定する。温度センサ25は、給湯システム20の給湯配管23の水(湯)の温度を測定する。これら温度センサ13a,13d,25などで測定された温度は、制御部3でモニターされている。なお、水熱源空調システム2や給湯システム20を制御するために、室外機5-1…5-nや熱交換器6などに出入りする水温を測る温度センサなどが設けられるが、ここでは、説明を分かり易くするため、図示及びそれらの説明を省略している。
【0032】
図1には、蓄熱利用システム1における水熱源空調システム2と給湯システム20の各機器に対する制御部3の制御の一部について記載している。これらの制御については、排湯の熱エネルギーを活用するための構成および動作に焦点を合わせて説明することから、その説明と関連の少ない部分の図示および説明を省略している。図1に示すように、制御部3は、給湯システム20と熱源8に接続されており、給湯システム20と熱源8の運転や運転の停止を含めこれらの動作を制御する。また、給湯システム20の開閉弁24、排湯用配管26の開閉弁28及びバイパス配管27の開閉弁29の開閉も制御部3が制御している。制御部3は、また、ポンプ10,11,12を制御しており、ポンプ10,11,12に容量変更の指示を与えることによりポンプ10,11,12が送り出す水の流量を変更することができる。
【0033】
通常運転時には、ポンプ10により、高温側の区画7aから熱交換器6に暖水が送られ、熱交換器6で熱交換を終えた冷水が低温側の区画7dに送られる。ポンプ10の流量は、制御部3により、熱交換器6における熱エネルギーの需要に応じて調整される。制御部3は、蓄熱槽7の高温側の区画7aの温度をモニターしており、熱交換器6の需要が変動しても、高温側の区画7aの水が所定の温度範囲に入るように熱源8とポンプ11を制御する。熱源8からは、熱交換器6で交換される熱エネルギーに加え、蓄熱槽7から放出される熱エネルギーの損失などと均衡を保てるように熱エネルギーが供給される。ポンプ11は、ポンプ10よりも多く水を送ることにより、高温側の区画7aから順に低温側の区画7dに向けて流れる水の流れを作り出し、少なく水を送ることにより、逆の流れを作り出す。
【0034】
次に、給湯システム20の湯を廃棄する排湯制御を行う場合について、図2のフローチャートに沿って説明する。排湯の熱エネルギーを蓄熱槽7に取り入れるときには、水熱源空調システム2のCOPが悪くならないように、蓄熱槽7の熱バランスを保つ必要がある。そのため、単に排湯の熱エネルギーを蓄熱槽7に与えるだけでなく、蓄熱槽7の熱バランスを崩さないように、制御部3による制御を行いながら熱エネルギーを蓄熱槽7に供給しなければならない。
【0035】
図2のステップS1では、制御部3が給湯要求を受信する。排湯は、例えば給湯器21から貯湯槽22に湯を供給しようとする場合、給湯配管23に溜まっている湯の温度が所定温度(例えば55℃)未満のときに行われる。或いは、給湯システム20のメンテナンスが必要になったときなどにも排湯が行われる。種々の場合に応じて排湯を行うか否かの判断や排湯を停止するか否かの判断が異なることから、図2では、制御部3が給湯要求を受信した場合の排湯制御について説明する。ここでは、制御部3が給湯要求を受信した場合には、給湯前に排湯制御に一律に移行し、タイマーなどによって給湯要求後所定時間を経過したときに給湯指示を制御部3が給湯システム20に出力するように構成される場合を一例として説明する。給湯指示は、給湯器21から貯湯槽22に湯を供給するように、制御部3から給湯システム20に対して出される指示(信号)である。
【0036】
ステップS2では、温度センサ13a,13dにより、蓄熱槽7の区画7a,7dの水温を測定する。また、温度センサ25により、給湯配管23の湯の温度を測定する。ステップS2で、給湯配管の湯の温度測定が終わると、ステップS3に進む。ステップS3では、排湯の必要があるか否かを判断する。具体的には、例えば給湯配管23の湯の温度が所定温度(例えば55℃)以上か否かを判断する。所定温度以上であれば、給湯配管23の湯を貯湯槽22に送る方が高いエネルギー効率を得られるため、排湯は行わない。そのため、排湯の温度が所定温度以上であれば、ステップS9に進む。
【0037】
ステップS4では、先のステップS2で測定した給湯配管23の湯の温度が熱交換に適しているか否かを判断する。例えば、ステップS2での測定結果に基づき、給湯配管23の湯の温度が、蓄熱槽7の高温側の区画7aの水温より高いか否かの比較を行う。給湯配管23の湯の温度が区画7aの水温より低いと、排湯との熱交換によって逆に区画7aの水温を下げてしまうため、熱交換を行わないようにする必要がある。このような場合には、ステップS5に進み、開閉弁29を開くとともに開閉弁28を閉じ、バイパス配管27を通して排湯を行う。バイパス配管27を通して排湯を行う場合には、給湯配管23に溜まっている湯を全て廃棄すればよいので、例えばタイマーなどで湯の廃棄に十分な時間が経過したときに、次のステップS9に進み、開閉弁24,29を閉じて排湯を停止する。
【0038】
ステップS4において、給湯配管23の湯の温度が区画7aの水温より高いか否かの判断を行う例を説明したが、例えば区画7aの水温より数℃高いか否かで判断してもよく、区画7aの水温より高い範囲で任意に設定できる。例えば、過去の実績から、熱交換器6における熱交換量が多い時間帯と熱交換量の少ない時間帯とを区別して、時間帯毎に判断基準となる区画7aの水と給湯配管23の湯の温度差を異なる値に設定することもできる。
【0039】
また、ステップS2からS8のループを廻っているときにステップS4に進んだ場合には、区画7aの水温が目標温度の下限値を下回っているか否かの判断基準を加えることもできる。排湯から供給される熱エネルギーだけで熱交換器6における熱交換量を賄いきれないときには、バイパス配管27を通して湯を廃棄して、熱源8からの熱エネルギーの供給に切り替えるように構成してもよい。
【0040】
ステップS4において、給湯配管23の湯の温度が熱交換に適していると判断されたときは、ステップS6に進む。ステップS6では、給湯指示を出すタイミングであるか否かを制御部3が判断する。制御部3から給湯システム20に対して給湯指示を出すタイミングであれば、排湯を停止しなければならないので、ステップS9に進み、排湯を停止する。排湯の時間を十分に取るなどして、排湯を停止する時点では、給湯配管23の湯が残っていないように設定することが好ましい。
【0041】
ステップS6において排湯を行うべき期間中と判断されると、ステップS7に進み、排湯を開始する。ステップS2〜ステップS8までの処理がループを構成しているので、ステップS7に進んできたケースには、スタートしてからこのループを廻る前の場合と、このループを廻ってきた場合の2通りがある。
【0042】
今回のように、ループを廻る前の場合には、排湯が開始される。排湯が開始されるときには、開閉弁24,28が開かれ、熱源8が強制停止モードにされる。強制停止モードは、区画7aの温度などに関わらず、熱源8からの熱エネルギーの供給が強制的に停止されるモードである。つまり、強制停止モード時には、排湯から区画7aの水に与えられる熱エネルギーによって区画7aの温度が調節される。
【0043】
一方、ループを廻ってきた場合には、既に排湯が開始されているので、排湯が維持される。このような場合には、開閉弁24,28を開いた状態と、強制停止モードが維持される。
【0044】
次に、ステップS8では、温度センサ13a,13d,25の測定結果と、ポンプ10,11により送られていた水の流量とから、制御部3が、区画7aにおける温度変化の許容範囲および区画7aにおける熱エネルギーの出入りを推測する。制御部3は、推測結果から、排湯用配管26で送るべき湯の流量を決定する。これにより、区画7aの温度が高いCOPを得られる範囲であって、かつ水熱源空調システム2に不具合が生じない温度以下に管理される。なお、排湯用配管26と区画7aとの間で行われる熱交換などの必要な情報は予め実験やシミュレーションなどにより取得して、制御部3に記憶させておく。ステップS8の次は、ステップS2に戻り、ステップS2以下の処理を繰り返す。
【0045】
ステップS9では開閉弁24,28,29を閉じるとともにポンプ12を停止させて排湯を停止する。このとき、熱源8が強制停止モードになっていれば強制停止モードを解除する。強制停止モードを解除して通常の状態にしても、高温側の区画7aの水温が高くて熱源8からのエネルギー供給を必要としなければ、熱源8は運転を停止したままの状態を維持する。それにより、水熱源空調システム2のCOPが上がり、熱源8の運転開始が遅れることで、エネルギー消費を抑えることができる。
【0046】
〔第2実施形態〕
本発明の第2実施形態による蓄熱利用システムを図3に示す。第2実施形態による蓄熱利用システム1Aは、上述の第1実施形態の蓄熱利用システム1と多くの部分が共通する。第2実施形態の蓄熱利用システム1Aが、第1実施形態の蓄熱利用システム1と異なる箇所は、排湯用配管26Aと蓄熱槽7の排水配管7gのところである。第1実施形態の蓄熱利用システム1では排湯と蓄熱槽7の水との間で熱だけを交換していたが、蓄熱利用システム1Aでは、排湯を直接蓄熱槽7に流し込んでいる。そのため、蓄熱利用システム1Aは、排湯用配管26Aの注ぎ口が蓄熱槽7の高温側の区画7aの中に配置されている。排湯用配管26Aは、排湯用配管26と同様に開閉弁24を介して給湯システム20の給湯配管23に接続されている。そして、排湯用配管26Aにもバイパス配管27が接続され、開閉弁28,29により排湯を通す配管の切換が行える。排湯用配管26Aから注ぎ込まれた湯により、蓄熱槽7の水位が大きく変動するのを防止するため、低温側の区画7dにおいて所定の水位を超えてオーバーフローした水は、排水配管7gを通して廃棄される。
【0047】
第2実施形態の蓄熱利用システム1Aにおける排湯制御も第1実施形態の排湯制御と同じであり、図2に示した処理ステップに沿って、排湯の熱を蓄熱槽7に蓄える。ただし、蓄熱利用システム1Aは、蓄熱槽7に排湯を注ぎ込むため、予め実験やシミュレーションなどにより種々の条件下において排湯から蓄熱槽7が受け取る熱量を測定しておかなくても、簡単に蓄熱槽7が受け取る熱量を計算することができる。
【0048】
また、蓄熱利用システム1Aでは、排湯の熱が全て蓄熱槽7に蓄えられるため、熱利用の観点からは、蓄熱利用システム1Aの方が蓄熱利用システム1よりも効率がよい。一方、蓄熱利用システム1は、蓄熱利用システム1Aのように排湯と蓄熱槽7の水が混ざらないので、蓄熱槽7に水以外の蓄熱媒体を用いる場合や衛生管理の面では、有利である。
【0049】
〔第3実施形態〕
本発明の第3実施形態による蓄熱利用システムを図4に示す。第3実施形態による蓄熱利用システム1Bは、上述の第1実施形態の蓄熱利用システム1と多くの部分が共通する。第3実施形態の蓄熱利用システム1Bが、第1実施形態の蓄熱利用システム1と異なる箇所は、排湯用配管26Bと熱交換器17のところである。第1実施形態の蓄熱利用システム1では排湯と蓄熱槽7の水との間で熱交換していたが、蓄熱利用システム1Bでは、排湯とポンプ11により送られる水との間で熱交換している。そのため、蓄熱利用システム1Bは、熱交換器17を備えている。この熱交換器17において、排湯用配管26Bを通って廃棄される湯と、ポンプ11により高温側の区画7aに送られる水との間で熱交換が行われる。そして、排湯用配管26Bにもバイパス配管27が接続され、開閉弁28,29により排湯を通す配管の切換が行える。
【0050】
第3実施形態の蓄熱利用システム1Bにおける排湯制御も第1実施形態の排湯制御と同じであり、図2に示した処理ステップに沿って、排湯の熱を蓄熱槽7に蓄える。蓄熱利用システム1Bにおいても、予め実験やシミュレーションなどにより種々の条件下において排湯からポンプ11により送られてくる水が排湯から受け取る熱量を測定しておく。そして、予め実験やシミュレーションなどにより得たデータに基づいて制御部3が制御を行う。
【0051】
蓄熱利用システム1Bでは、熱交換のためにポンプ11を駆動するので、ステップS3においては、ポンプ11で消費されるエネルギーも考慮して、排湯温度が適切であるか否かが判断される。ポンプ11で消費されるエネルギーよりも排湯から区画7aの水が得るエネルギーの方が大きい場合に排湯との間の熱交換が行われる。
【0052】
<変形例>
(1)
上記各実施形態では、蓄熱利用システム1,1A,1Bを暖房に用いる場合についてのみ説明した。しかし、蓄熱利用システム1,1A,1Bを暖房と同時に冷房にも用いることができる。例えば、蓄熱利用システム1,1A,1Bの水熱源空調システム2において、低温側の区画7dの水と熱交換を行わせることにより冷房に利用すると同時に、蓄熱利用システム1,1A,1Bの高温側の区画7aの水と熱交換を行わせることにより暖房に利用することができる。なお、冷房時には、給湯システム20の排湯を利用せずに、バイパス配管27を介して捨てる。
【0053】
(2)
上記各実施形態では、給湯システム20から湯を廃棄する際に、湯から蓄熱槽7に熱を供給するときには熱源8の運転を停止する例について説明した。上記各実施形態では、排湯時に熱源8が強制停止モードになり、排湯から区画7aに与えられる熱エネルギーのみで区画7aの温度が調節される。
【0054】
しかし、熱源8の運転を停止することは必ずしも必要ではなく、場合によっては、熱源8と排湯の両方から熱エネルギーを供給するようにしてもよい。つまり、排湯時に、熱源8の運転を強制的に停止せずに、排湯と熱源8の両方からエネルギーを供給可能な状態とする。例えば、熱源8を従来通りに区画7aの水温に応じて熱エネルギーの供給と停止の切換を行えるようにしておき、制御部3の制御の下、熱源8からの熱エネルギーの供給が停止される温度を目標に排湯からの熱エネルギーの供給を行うことができる。この場合も、排湯からの熱エネルギーの供給だけで区画7aの水温が維持されているときには、熱源8の運転を停止させて、消費エネルギーを抑制することができる。一方、排湯からの熱エネルギーの供給量が少なく、区画7aの水温が低下するときには、熱源8が運転されて熱源8からも熱エネルギーの供給がなされる。
【0055】
(3)
上記各実施形態では、蓄熱槽7を4つの区画に分割して、4つの区画の水温を管理しているが、区画は2つ以上であればよく、4つに限られるものではない。
【0056】
(4)
上記各実施形態では、水熱源空調システム2において、熱交換器6により、蓄熱槽7に貯えられている蓄熱媒体の水と、室外機5-1…5-nを循環する水との間の熱交換を行う場合について説明した。熱交換器6を介して熱交換をすることは必須の構成ではなく、例えば、蓄熱槽7に貯えられている水を直接室外機5-1…5-nに循環させてもよい。
【0057】
(5)
上記各実施形態では、ポンプ11で蓄熱槽7の水を循環させて、蓄熱槽7の温度管理に役立てている。しかし、蓄熱槽7の温度管理の方法は、これだけに限られるものではない。例えば、排湯の熱エネルギーを区画7aだけに与えるのではなく、区画7aの水に最も多く与え、次に区画7bの水に多く与え、さらに区画7cの水にも与えるようにして、区画7aの温度維持を図ることもできる。この場合、第2実施形態を例に取ると、各区画7a,7b,7cに入れる湯の量を順に少なくするように構成することもできる。
【0058】
(6)
上記各実施形態では、給湯配管23から排湯する場合について説明したが、貯湯槽22から排湯することもできる。その場合には、開閉弁24を介して給湯配管23と排湯用配管26,26A,26Bとを接続したように、開閉弁を介して貯湯槽22と排湯用配管26,26A,26Bとを接続するように構成する。そして、排湯制御のために、給湯配管23の湯の温度を温度センサ25によりモニターしたように、貯湯槽22の湯の温度を温度センサなどを用いてモニターする。
【0059】
<特徴>
(a)
蓄熱槽7は、複数の区画7a,7b,7c,7dに分割されており、全ての区画7a,7b,7c,7dに水(熱媒体)が蓄えられている。上記各実施形態では、区画7aの水が最も温度が高く、従って区画7aは高温側区画である。区画7dの水が最も温度が低く、従って区画7dは低温側区画である。
【0060】
蓄熱槽7の水に蓄えられて熱エネルギーを暖房に用いるため、高温側の区画7aの暖水が熱交換器6に送られ、熱交換が終了した後の冷水が熱交換器6から低温側の区画7dに戻される。また、熱交換器6で熱交換される熱エネルギーを補うために、区画7dの水が熱源8で温められて区画7aに送られる。さらに、蓄熱槽7の水は、パイプ7eを通って、高温側の区画7aから低温側の区画7dに向かって順に流れ、または逆方向に順に流れるように構成されており、蓄熱槽7の高温側の区画7aの水温は、水熱源空調システム2の成績係数(COP)が高くなるように管理されている。
【0061】
このような蓄熱槽7に、制御部3(制御手段)の制御の下で、給湯システム20から廃棄される湯の熱エネルギーを蓄える。この制御部3が給湯システム20から湯を廃棄させるとともに蓄熱槽7に湯の熱エネルギーを与える制御が排湯制御である。それにより、廃棄される湯の熱エネルギーを水熱源空調システム2で有効に活用でき、蓄熱利用システム1,1A,1Bのエネルギー消費を低減することができる。
【0062】
しかし、単に廃棄される湯の熱エネルギーを蓄熱槽7に与えただけでは、蓄熱槽7の適切な熱バランスを保てずに、例えば高温側の区画7aの水温が下がりすぎるなど、水熱源空調システム2の成績係数が小さくなり効率が下がる場合が生じる。そこで、制御部3は、熱源8の運転を制御して、熱源8から蓄熱槽7に与えられる熱エネルギーを調整する。また、制御部3は、排湯の熱エネルギーを短時間で蓄熱槽7に与えてしまうと、水熱源空調システム2が適切に稼動できる水温を超えてしまう場合があるので、排湯の熱エネルギーの供給もポンプ12を制御するなどして調整する。
【0063】
上記各実施形態では、排湯制御の際に熱源8の運転を停止する場合を示しているが、暖房で消費される熱エネルギーの量や排湯から単位時間当たりに与えられる熱エネルギーの量によっては、熱源8が運転されていても調整することが可能な場合がある。このような場合も本発明における調整に含まれる概念である。
【0064】
(b)
蓄熱槽7の複数の区画7a,7b,7c,7dの温度分布を所定の範囲に入るように制御することが好ましい。そのために、上記各実施形態においては、熱源8の運転を停止した状態でポンプ11のみを駆動して、蓄熱槽7の水を循環させることができる。それにより、高温側の区画7aに排湯から与えられる熱エネルギーが、区画7a,7b,7c,7dを順に移動し、蓄熱槽7の熱バランスを適切に保つことができる。
【0065】
(c)
第1実施形態では、排湯用配管26を蓄熱槽7の区画7a内に配置することで、熱交換手段としている。第3実施形態では、熱交換器17が排湯と蓄熱槽7の水との熱交換を行う熱交換手段として機能している。この熱交換器17は、蓄熱槽7に貯えられている水ではなく、これから蓄熱槽7に注ぎ込まれる状態にある水である。高温側区画に貯められる熱媒体という概念には、このように、高温側区画に既に貯まっている熱媒体だけでなく、これから区画に貯められる熱媒体も含まれる。
【符号の説明】
【0066】
1 蓄熱利用システム
2 水熱源空調システム
3 制御部
4-1…4-n 室内機
5-1…5-n 室外機
6 熱交換器
7 蓄熱槽
8 熱源
9,10,11,12 ポンプ
13 温度センサ
17 熱交換器
20 給湯システム
21 給湯器
22 貯湯槽
23 給湯配管
24,28,29 開閉弁
25 温度センサ
26,26A,26B 排湯用配管
【先行技術文献】
【特許文献】
【0067】
【特許文献1】特開平5−157351号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
湯を貯めるための貯湯槽(22)と、
前記貯湯槽に湯を供給するための給湯器(21)と、
前記給湯器から前記貯湯槽に湯を導くための配管(23)と、
複数の区画に分割され、前記複数の区画を順に熱媒体が流れることにより、前記複数の区画で温度差を生じさせる蓄熱槽(7)と、
前記複数の区画の中の高温側区画の前記熱媒体に熱エネルギーを供給する熱源(8)と、
前記貯湯槽および前記配管のうちの少なくとも一方から湯を廃棄しつつ前記湯の熱エネルギーを前記高温側区画の前記熱媒体に与える排湯制御を行うとともに、前記排湯制御による熱エネルギー供給と前記熱源による熱エネルギー供給の調整を行う制御手段(3)と
を備える、蓄熱利用システム。
【請求項2】
前記制御手段は、前記排湯制御による前記熱エネルギー供給の動作と、前記熱源による前記熱エネルギー供給の動作とを切り替え可能に構成されている、請求項1に記載の蓄熱利用システム。
【請求項3】
前記蓄熱槽の前記複数の区画の中の低温側区画から前記高温側区画に前記熱媒体を循環させるためのポンプ(11)をさらに備え、
前記ポンプは、前記排湯制御のときに前記熱媒体を循環させる、請求項1または請求項2に記載の蓄熱利用システム。
【請求項4】
前記貯湯槽および前記配管のうちの少なくとも一方から廃棄される前記湯と、前記蓄熱槽の前記高温側区画に貯められる前記熱媒体との間で熱交換を行わせる熱交換手段(26,17)をさらに備える、請求項1から3のいずれかに記載の蓄熱利用システム。
【請求項5】
前記熱媒体は、水であり、
前記蓄熱槽は、前記貯湯槽および前記配管のうちの少なくとも一方から廃棄される前記湯を前記高温側区画で受けて、受けた前記湯の量に応じた量の前記熱媒体を前記蓄熱槽の前記複数の区画の中の低温側区画から廃棄する、請求項1から3のいずれかに記載の蓄熱利用システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−21775(P2011−21775A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−165335(P2009−165335)
【出願日】平成21年7月14日(2009.7.14)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】