説明

蓄熱式ガス処理炉

【課題】処理量を低下させず、燃焼室の温度の過度の上昇を抑制でき、故障の少ない蓄熱式ガス処理炉を提供する。
【解決手段】導入流路6から蓄熱室4を介して燃焼室5に原ガスを供給し、燃焼室5から他の蓄熱室4を介して燃焼ガスを排気し、原ガスが供給される蓄熱室4と、燃焼ガスが流出する蓄熱室4とを切り換える蓄熱式ガス処理炉1に、導入流路6から原ガスの一部を燃焼室5に直接供給するバイパス流路13を設け、バイパス流路13を介して燃焼室5に供給される原ガスの流量と、蓄熱室4を介して燃焼室5に供給される原ガスの流量との和を一定に保ちながら、燃焼室5の温度が所定の設定温度になるように、バイパス流路13を介して燃焼室5に供給される原ガスの流量をフィードバック制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱式ガス処理炉に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境保全のために、揮発性有機化合物を含む排気ガスの放出規制の法制化が世界的に進んでいる。これに対応するため、排ガス中の揮発性有機化合物を燃焼分解できるガス処理炉が利用されている。
【0003】
ガス処理炉において、燃焼ガスを蓄熱体を通して排出することで、燃焼ガスの熱を蓄熱体に回収し、ガスの流路を切り換えて、蓄熱層に蓄積した熱によって原ガスを予熱することで、燃料消費を低減した蓄熱式ガス処理炉が知られている。
【0004】
蓄熱式ガス処理炉において、発熱量の高い揮発性有機化合物を多く含み、水分を殆ど含まない原ガスを処理すると、燃焼によって、蓄熱体で回収しきれない程の多量の熱が発生し、燃焼室の温度が上昇する。燃焼室の温度が過度に上昇すると炉体が損傷するなどの不具合が発生する可能性がある。
【0005】
特許文献1に記載されている蓄熱式ガス処理炉では、燃焼室の温度に応じて原ガスの供給量を制御し、さらに、燃焼室の温度が上限温度に達すると、排気ダンパを動作させて蓄熱体を介さずに燃焼室から燃焼ガスを直接排気することで、燃焼室の温度を調整するようになっている。
【0006】
燃焼室の温度を制御するため、原ガスの供給量を少なくしたり、流量を落とさないように原ガスを希釈したりすると、揮発性有機化合物の処理量が低下してしまう。
【0007】
また、排気ダンパによって燃焼室の温度を調整する場合、発熱量の高い排ガスを処理する場合は、排気ダンパが頻繁に作動することになる。排気ダンパは、非常に高温に晒されるため、頻繁に作動すると故障が多発するという問題がある。また、排気ダンパの部品は、耐熱性材料を使用する必要があるので高価である。また、燃焼ガスを蓄熱体を通さずに直接排気してしまうため、熱の利用効率も低下する。
【特許文献1】特開平2002−61822号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前記問題点に鑑みて、本発明は、処理量を低下させず、燃焼室の温度の過度の上昇を抑制でき、故障の少ない蓄熱式ガス処理炉を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明による蓄熱式ガス処理炉は、バーナを有する燃焼室と、蓄熱体を有する複数の蓄熱室とを有し、導入流路から供給される原ガスをいずれかの前記蓄熱室を通して前記燃焼室に供給し、前記原ガスを燃焼処理した燃焼ガスを他の前記蓄熱室を通して排気し、前記原ガスが供給される前記蓄熱室と、前記燃焼ガスが流出する前記蓄熱室とを切り換えることで、前記燃焼ガスの熱を前記蓄熱体に回収して、前記蓄熱体に蓄積した熱によって前記原ガスを予熱する蓄熱式ガス処理炉において、前記燃焼室の温度に応じて、前記導入流路から前記原ガスの一部を前記燃焼室に直接供給するバイパス流路を備えるものとする。
【0010】
この構成によれば、燃焼室の温度が上昇したとき、蓄熱体を通さずにバイパス流路から低温の原ガスが燃焼室に供給され、燃焼室内の熱が原ガスの予熱(燃焼温度まで加熱)に消費される。これによって、原ガスの処理量を低下させることなく、燃焼室の過度の温度上昇が防止できる。また、高温のガスを放出するダンパを使用しないので、トラブルがない。
【0011】
また、本発明の蓄熱式ガス処理炉において、前記バイパス流路を介して前記燃焼室に供給される前記原ガスの流量は、前記燃焼室の温度が所定の設定温度になるようにフィードバック制御してもよい。
【0012】
この構成によれば、燃焼室の温度を安定して一定温度に保つことができる。
【0013】
また、本発明の蓄熱式ガス処理炉において、前記バイパス流路を介して前記燃焼室に供給される前記原ガスの流量と、前記蓄熱室を介して前記燃焼室に供給される前記原ガスの流量との和が一定であってもよい。
【0014】
この構成によれば、原ガスの処理量を低下させることなく、処理効率を高く維持することができる。
【0015】
また、本発明の蓄熱式ガス処理炉は、前記バイパス流路から前記蓄熱室に導入される前記原ガスの流量を制限するバイパスダンパを有してもよい。
【0016】
この構成によれば、バイパス流路を介して燃焼室に供給される原ガスの流量を容易に制御できる。
【0017】
また、本発明の蓄熱式ガス処理炉は、前記導入流路から前記蓄熱室に導入される前記原ガスの流量を制限する導入ダンパを有してもよい。
【0018】
この構成によれば、蓄熱室を介して燃焼室に供給される原ガスの流量を制御でき、全体の原ガス流量を容易に制御できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、燃焼室の温度が上昇したとき、蓄熱体を通さずに低温の原ガスを燃焼室に供給し、燃焼室内の熱を原ガスの予熱のために消費する。このため、原ガスの処理量を低下させることなく、燃焼室の過度の温度上昇が防止でき、高温に晒されるダンパがないのでトラブルもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
これより、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1に、本発明の第1実施形態の蓄熱式ガス処理炉1の構成を示す。蓄熱式ガス処理炉1は、揮発性有機化合物を含む排ガスの発生源から、一定濃度の揮発性有機化合物を含むように調整された原ガスが、ブロワ2によって供給される。
【0021】
蓄熱式ガス処理炉1は、それぞれ蓄熱体3を収容した2つの蓄熱室4と、2つの蓄熱室4と連通する燃焼室5とを有する。原ガスは、導入流路6から導入切換ダンパ7,8によって選択されたいずれかの蓄熱室4を介して燃焼室5に供給される。燃焼室5は、バーナ9を有しており、原ガスを燃焼して含まれる揮発性有機化合物を分解する。揮発性有機化合物が燃焼分解された燃焼ガスは、排気切換ダンパ10,11によって選択されるもう一方の蓄熱室4を通過して、排気流路12から大気に放出される。
【0022】
燃焼ガスが通過する蓄熱室4の蓄熱体3は、燃焼ガスによって熱せられ、つまり、燃焼ガスの持つ熱エネルギーを回収して蓄積する。蓄熱体3が十分な熱エネルギーを蓄積したなら、導入切換ダンパ7,8および排気切換ダンパ10,11を切り換えて、熱エネルギーを蓄積している蓄熱体3を収容した蓄熱室4を介して燃焼室5に原ガスを供給するようにする。
【0023】
原ガスは、蓄熱体3を通過する際、蓄熱体3から熱エネルギーを受け取って予熱される。蓄熱体3によって原ガスが予熱されるので、その分だけバーナ9の燃料消費を節約することができる。原ガスに含まれる揮発性有機化合物の発熱量が高い場合、蓄熱体3によって予熱するだけで、燃焼室5において原ガスが自燃する。
【0024】
一方の蓄熱体3が原ガスを予熱する間に、他方の蓄熱体3が燃焼ガスから熱エネルギーを回収するので、原ガスを予熱して燃焼室5に供給する蓄熱室4と、燃焼ガスから熱エネルギーを回収する蓄熱室4とを交互に切り換えることで、バーナの燃料を継続的に節約すすることができる。つまり、原ガスに含まれる揮発性有機化合物の発熱量が高い場合、蓄熱式ガス処理炉1は、始動時だけしか燃料を消費しない。
【0025】
また、蓄熱式ガス処理炉1は、導入流路6から分岐して、原ガスの一部を、蓄熱室4を介さずに、直接燃焼室5に導入するバイパス流路13を有している。バイパス流路13には、原ガスの流量を制限できるバイパスダンパ14が設けられている。
【0026】
また、蓄熱式ガス処理炉1は、燃焼室5内の温度を検出する温度検出器15と、温度検出器15の検出した燃焼室5の温度に基づいて、燃焼室5の温度が所定の設定温度になるように、バイパスダンパ14の開度をPID制御するコントローラ16とを有する。
【0027】
原ガスの発熱量が高い場合、原ガスの燃焼によって発生する熱量は、蓄熱体3で回収できる熱量を上回り、燃焼室5の温度が上昇する。燃焼室5の温度が過度に上昇すると炉体や周辺機器が損傷するおそれがあるので、燃焼室5の温度を抑制しなければならない。
【0028】
本発明の蓄熱式ガス処理炉1は、燃焼室5の温度が過度に上昇しようとすると、バイパスダンパ14を開いて、バイパス流路13から、蓄熱室4を介さずに、直接燃焼室5に原ガスを導入する。バイパス流路13から導入された原ガスは、燃焼室5内の熱エネルギーによって燃焼温度まで昇温させられる。つまり、バイパス流路13から導入した原ガスの予熱のために、燃焼ガスのエネルギーを消費させることで、燃焼室5内の温度を所定の燃焼温度に維持することができる。
【0029】
蓄熱式ガス処理炉1では、バイパスダンパ14によって低温の原ガスの流量を調整するだけで燃焼室5内の温度を制御できる。このため、従来の燃焼ガスを燃焼室から直接放出するダンパのような高温に晒される可動部品がなく、故障が少ない。
【0030】
また、蓄熱式ガス処理炉1では、流路の圧力変化に対して風量が安定な(例えば容積式の)ブロワ2によって原ガスを供給することで、バイパスダンパ14の開度にかかわらず、ブロワ2から供給される原ガス、つまり、導入流路6から蓄熱室4を介して燃焼室5に供給される原ガスの流量と、バイパス流路13から直接燃焼室5に供給される原ガスの流量との和が略一定になる。つまり、バイパスダンパ14の開放によってバイパス流路13から燃焼室5に供給される原ガスの流量分だけ、導入流路6から蓄熱体3を通して燃焼室5に供給される原ガスの流量が低減されるので、燃焼室5で燃焼処理できる原ガスの総量が一定である。このため、蓄熱式ガス処理炉1の処理能力を常に最大限に引き出すことができ、排ガス発生量に対して過剰な設備を設置する必要がない。
【0031】
また、本発明によれば、図2に示す第2実施形態の蓄熱式ガス処理炉1aのように、供給流路6にも、バイパスダンパ14と常に逆動作する導入ダンパ17を有してもよい。なお、本実施形態において、第1実施形態と同じ構成要素には同じ符号を付して重複する説明を省略する。
【0032】
本実施形態では、導入ダンパ17の動作により、バイパスダンパ14の開度にかかわらず、蓄熱式ガス処理炉1a全体の流路抵抗が常に一定に保たれる。これにより、圧力変化によって流量が影響されやすい(例えば遠心式の)ブロワ2aを使用していても、ブロワ2aの吸込圧力が一定であれば、導入流路6から蓄熱室4を介して燃焼室5に供給される原ガスの流量と、バイパス流路13から燃焼室5に供給される原ガスの流量との和が常に一定に維持される。
【0033】
なお、本発明において、ブロワ2,2aは、排気流路12側に設けてもよく、導入流路6側と排気流路側12との両方に設けてもよい。
【0034】
(実施例)
上記第1実施形態の蓄熱式ガス処理1において、トルエンを含む原ガスを燃焼処理する場合を説明する。揮発性有機化合物の燃焼処理では、原ガス濃度を爆発下限界の25%以下にすることが望ましい。トルエンは、爆発下限界が12000ppmであるため、排ガス発生源において、トルエン濃度を3000ppmに希釈した原ガスが蓄熱式ガス処理炉1に供給されるものとする。
【0035】
蓄熱式ガス処理炉1に供給される原ガスは、水分を含まず、定圧比熱が1.3kJ/mN°K、供給される温度が60℃で、風量300mN/minである。また、外気温(基準温度)は20℃とする。
【0036】
1時間当たりに蓄熱式ガス処理炉1に供給される原ガスの保有熱量は、300(mN/min)×(60−20)(℃)×1.3(kJ/mN°K)×60(min)=936000(kJ/h)である。
【0037】
また、トルエンの燃焼熱量は、3000ppmでは、537kJ/mNであるので、1時間当たりの燃焼熱量は、537(kJ/mN)×300(mN/min)×60(min)=9666000(kJ/h)である。
【0038】
よって、蓄熱式ガス処理炉1への入熱の合計は10602000(kJ/h)である。
【0039】
蓄熱式ガス処理炉1の温度効率η=(燃焼室温度−処理炉出口温度)/(燃焼室温度−処理炉入口温度)を90%、燃焼室5内の温度を880℃とすると、燃焼室5から蓄熱室4を通して流出する燃焼ガスの温度は、880(℃)−(880−60)(℃)×0.9(%)=142(℃)である。
【0040】
よって、蓄熱式ガス処理炉1から排気される燃焼ガスの保有熱量(出熱量)は、300(mN/min)×(142−20)(℃)×1.3(kJ/mN°K)×60(min)=2854800(kJ/h)である。
【0041】
蓄熱式ガス処理炉1への入熱量と出熱量との差、10602000(kJ/h)−2854800(kJ/h)=7747200(kJ/h)が、燃焼室5において発生する余剰熱量である。
【0042】
バイパス流路13から原ガスを直接燃焼室5に供給すると、蓄熱体3による予熱がないので、原ガスを燃焼室5において発生する余剰熱量によって60℃から880℃まで加熱することになる。よって、バイパス流路13から燃焼室5に供給される原ガス1mNにつき、(880−60)(℃)×1.3(kJ/mN°K)=1066(kJ)だけ、燃焼室5内の熱を消費する。
【0043】
よって、燃焼室5において発生する余剰熱量をすべて原ガスの予熱に消費するには、7747200(kJ/h)/1066(kJ)/60(min)=121(mN/min)の原ガスを、バイパス流路13から直接燃焼室5に供給すればよい。
【0044】
121(mN/min)は、原ガス全流量300(mN/min)の約40%であり、バイパスダンパ14および導入ダンパ17により適切に制御可能な範囲である。
【0045】
なお、原ガスの温度が変化しても、温度効率ηが不変であるので、蓄熱式ガス処理炉1は、燃焼室5内の温度を設定温度880℃に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の第1実施形態の蓄熱式ガス処理炉の概略図。
【図2】本発明の第2実施形態の蓄熱式ガス処理炉の概略図。
【符号の説明】
【0047】
1…蓄熱式ガス処理炉
3…蓄熱体
4…蓄熱室
5…燃焼室
6…導入流路
9…バーナ
13…バイパス流路
14…バイパスダンパ
15…温度検出器
16…コントローラ
17…導入ダンパ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーナを有する燃焼室と、蓄熱体を有する複数の蓄熱室とを有し、
導入流路から供給される原ガスをいずれかの前記蓄熱室を通して前記燃焼室に供給し、前記原ガスを燃焼処理した燃焼ガスを他の前記蓄熱室を通して排気し、
前記原ガスが供給される前記蓄熱室と、前記燃焼ガスが流出する前記蓄熱室とを切り換えることで、前記燃焼ガスの熱を前記蓄熱体に回収して、前記蓄熱体に蓄積した熱によって前記原ガスを予熱する蓄熱式ガス処理炉において、
前記燃焼室の温度に応じて、前記導入流路から前記原ガスの一部を前記燃焼室に直接供給するバイパス流路を備えることを特徴とする蓄熱式ガス処理炉。
【請求項2】
前記バイパス流路を介して前記燃焼室に供給される前記原ガスの流量は、前記燃焼室の温度が所定の設定温度になるようにフィードバック制御されることを特徴とする請求項1に記載の蓄熱式ガス処理炉。
【請求項3】
前記バイパス流路を介して前記燃焼室に供給される前記原ガスの流量と、前記蓄熱室を介して前記燃焼室に供給される前記原ガスの流量との和が一定であることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄熱式ガス処理炉。
【請求項4】
前記バイパス流路から前記蓄熱室に導入される前記原ガスの流量を制限するバイパスダンパを有することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の蓄熱式ガス処理炉。
【請求項5】
前記導入流路から前記蓄熱室に導入される前記原ガスの流量を制限する導入ダンパを有することを特徴とする請求項4に記載の蓄熱式ガス処理炉。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−299947(P2009−299947A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−152754(P2008−152754)
【出願日】平成20年6月11日(2008.6.11)
【出願人】(000211123)中外炉工業株式会社 (170)
【Fターム(参考)】