蓄電デバイスの状態推定方法及び状態推定装置
【課題】比較的簡単な演算により、蓄電デバイスのSOC等を高精度に推定可能とした状態推定方法及び状態推定装置を提供する。
【解決手段】オンライン状態で蓄電デバイスの状態を推定する状態推定装置において、電池10の電流及び端子電圧を計測する電圧/電流計測手段20と、電流の変化率が変化率設定値を超える範囲の電流データと当該電流データに対応する電圧データとを抽出するデータ抽出手段40と、抽出した電流データ及び電圧データを用いて電池10の等価モデルの回路定数を同定する等価モデル定数同定手段43と、同定した回路定数と抽出した電流データ及び電圧データを用いて電池10の開放電圧を推定し、SOCを推定する状態推定演算手段44と、を備える。
【解決手段】オンライン状態で蓄電デバイスの状態を推定する状態推定装置において、電池10の電流及び端子電圧を計測する電圧/電流計測手段20と、電流の変化率が変化率設定値を超える範囲の電流データと当該電流データに対応する電圧データとを抽出するデータ抽出手段40と、抽出した電流データ及び電圧データを用いて電池10の等価モデルの回路定数を同定する等価モデル定数同定手段43と、同定した回路定数と抽出した電流データ及び電圧データを用いて電池10の開放電圧を推定し、SOCを推定する状態推定演算手段44と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池や電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスの状態推定方法及び状態推定装置に関し、詳しくは、蓄電デバイスの等価モデルの回路定数を同定してエネルギー残量(SOC)等の状態推定を行なう技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池や電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスは、小型軽量化・高エネルギー密度化が進み、電力変換装置等の電源として広く利用されている。
このような蓄電デバイスを有効に活用するためには、蓄電デバイスのSOCや劣化状態(SOH)等を正確に把握することが必要となる。
【0003】
蓄電デバイスの状態推定に関する第1の従来技術としては、電池の等価モデルの回路定数(抵抗やコンデンサからなる内部インピーダンス)をシステム同定して電池の劣化予測、性能評価、良否判定を行なうものが知られている。
図11は、この第1の従来技術を示す構成図である。同図において、10は診断対象である電池(二次電池)であり、内部インピーダンス11及び電圧源12(その起電力は開放電圧にほぼ等しい)からなる等価モデルとして示してある。また、13は状態推定を行うための矩形波信号を生成する電流源、14,15は切替スイッチ、16は負荷を示す。
【0004】
また、20は電圧/電流計測手段であり、電池10を流れる電流を検出する電流検出手段21と、電池10の端子電圧を検出する電圧検出手段22とを備え、各検出手段21,22による電流,電圧検出値を計測データ23として保持可能である。24は、前記計測データ23を用いて電池10の回路定数を同定する等価モデル定数同定手段、25は同定結果に基づいて電池10の状態を推定する状態推定演算手段である。
【0005】
次に、この従来技術の動作を略述する。
図11において、電池の状態推定を行なう場合には、まず、電池10を電源とする装置の運転を停止して切替スイッチ15をオフし、電池10と負荷16とを切り離す(すなわち、オフラインにする)。次に、切替スイッチ14をオンし、電流源13により入力信号(矩形波電流)を電池10に供給する。この状態で電圧/電流計測手段20を動作させ、電流検出手段21、電圧検出手段22により電池10に流れる電流ib(入力)と電池10の端子電圧vb(出力)とを計測する。
【0006】
電流ib及び電圧vbの計測データ23は等価モデル定数同定手段24に取り込まれ、電池10の回路定数が同定される。状態推定演算手段25は、こうして同定された回路定数を用いて、電池10のSOCや劣化状態等を推定することができる。
この種の従来技術としては、例えば特許文献1に開示された電池状態診断装置及び電池状態診断方法が知られている。
【0007】
次に、図12は、蓄電デバイスの状態推定に関する第2の従来技術を示す構成図である。この従来技術は、電池を電源とした装置の運転中、すなわちオンライン状態において、電池の回路定数を同定して電池の開放電圧を推測することにより状態推定を行う第1の推定方法と、電池の電流積算値から状態推定を行う第2の推定方法とを併用し、第1,第2の推定方法による推定結果を重み付けして合成することにより、最終的に電池の劣化度等を推定するものである。
【0008】
図12において、図11と同一機能の構成要素には同一の番号を付して詳述を省略し、以下では図11と異なる部分を中心に説明する。
図12における26は第1の状態推定演算手段であり、等価モデル定数同定手段24により同定した回路定数に基づいて電池10の開放電圧を推測して状態推定を行う。また、27は第2の状態推定演算手段であり、電池10に流れる電流ibの積算値に基づいて状態推定を行う。
【0009】
また、28は、第1,第2の状態推定演算手段26,27による演算結果に重み付けを行うための計算ウェイトwを算出する計算ウェイト算出手段であり、電池10の電流変化率(dib/dt)と補正係数テーブル29内の温度補正係数とを用いて計算ウェイトwを算出する。
更に、30は第3の状態推定演算手段であり、上記計算ウェイトwを用いて、第1,第2の状態推定演算手段26,27による演算結果にそれぞれ(1−w),wを乗算して合成し、最終的な推定結果を出力するように構成されている。
【0010】
この従来技術の動作を略述すると、装置の運転中に、電圧/電流計測手段20内の計測データ23が等価モデル定数同定手段24に取り込まれ、この等価モデル定数同定手段24では、計算ウェイト算出手段28により電流変化率(dib/dt)から演算した周波数情報を考慮して、電池10の回路定数を同定する。
この回路定数に基づき、第1の状態推定演算手段26が電池10の開放電圧を推測して状態推定演算を行なう。これと同時に、第2の状態推定演算手段27が計測データ23から電流積算値を算出し、状態推定演算を行なう。
【0011】
計算ウェイトwは、例えば、電流変化率(dib/dt)が小さいときは第1の状態推定演算手段26による演算結果に大きなウェイトを持たせ、電流変化率(dib/dt)が大きいときは第2の状態推定演算手段27による演算結果に大きなウェイトを持たせるように作用しており、第3の状態推定演算手段30では、上記のように重み付けされた第1,第2の状態推定演算手段26,27による演算結果を合成し、最終的に、電池10の劣化度等の状態を推定して出力する。これにより、オンライン状態で電池10の状態を推定することが可能である。
この種の従来技術としては、例えば特許文献2に開示されたバッテリの劣化度推定装置が知られている。
【0012】
更に、図示しないが、第3の従来技術として、例えば特許文献3に開示されたバッテリ管理システムが知られている。
この従来技術は、データベースに格納されたバッテリ情報を用い、任意の時刻間でのバッテリ電圧から求めた残存容量(SOC)の変化量とバッテリ電流の積算値から求めた残存容量の変化量とに基づいてバッテリの電流容量を算出し、算出した電流容量の初期値に対する変化割合を、バッテリの劣化状態を表す電流容量変化率として算出することによりバッテリの劣化状態を算出するようにしたものである。この従来技術では、上記電流容量変化率に加えて、バッテリのインピーダンスの初期値に対する変化割合としてのインピーダンス変化率を電流容量変化率との相関関係に基づいて算出し、このインピーダンス変化率を電流容量変化率と共に用いて劣化状態を算出することも可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−241325号公報(段落[0038]〜[0088]、図1〜図5等)
【特許文献2】特開2006−98135号公報(段落[0006]〜[0016]、図1〜図4等)
【特許文献3】特開2007−24687号公報(段落[0044]〜[0057]、図3等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図11に示した第1の従来技術では、電池10と負荷16とを切り離すことによりオフライン状態にして、予め設定した電流負荷(例えば矩形波電流)を電池10に与えるため、電池10の状態を正確に推定できる反面、電池10を電源とする装置の運転中にオンラインにて状態推定を行なうことができないという問題がある。
これに対し、図12に示した第2の従来技術では、オンライン状態で電池10の状態推定を行なうことが可能である。しかし、状態推定の精度を向上させるために、電池10の等価モデルの回路定数を同定して推測した開放電圧に基づき状態推定する第1の推定方法と、電池10の電流積算値から状態推定する第2の推定方法とを併用して同時に演算を行ない、その演算結果を合成する方法を採っているため、演算処理が複雑化し、処理時間や使用メモリ容量が増大するおそれがある。
【0015】
更に、第3の従来技術は、バッテリの電流容量変化率を求めて劣化状態を推定するものであるが、バッテリの残存容量の推定方法として第2の従来技術と基本的に同一の方法を用いているため、やはり演算処理が複雑になるという問題があった。
【0016】
そこで本発明の解決課題は、比較的簡単な演算により、蓄電デバイスのSOC等を高精度に推定可能とした状態推定方法及び状態推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、請求項1に係る蓄電デバイスの状態推定方法は、いわゆるオンライン状態で蓄電デバイスの状態を推定する状態推定方法において、
前記蓄電デバイスの電流及び端子電圧を計測する工程と、
前記電流の変化率が所定の変化率設定値を超える範囲の電流データと当該電流データに対応する電圧データとを抽出する工程と、
抽出した電流データ及び電圧データを用いて前記蓄電デバイスの等価モデルの回路定数を同定する工程と、
同定した前記回路定数を少なくとも用いて前記蓄電デバイスの状態を推定する工程と、を有するものである。
【0018】
また、請求項2に係る状態推定方法は、上述した電流データ及び電圧データの抽出条件として、更に、電流の変化量が所定の変化量設定値を超えることを追加したものである。
【0019】
なお、請求項3に記載するように、同定した回路定数と、抽出した電流データ及び電圧データとを用いて蓄電デバイスの開放電圧を推定し、この開放電圧に基づいて蓄電デバイスのエネルギー残量を推定することが望ましい。
【0020】
請求項4に係る蓄電デバイスの状態推定装置は、いわゆるオンライン状態で蓄電デバイスの状態を推定する状態推定装置において、
前記蓄電デバイスの電流及び端子電圧を計測する電圧/電流計測手段と、
前記電流の変化率が所定の変化率設定値を超える範囲の電流データと当該電流データに対応する電圧データとを抽出するデータ抽出手段と、
前記データ抽出手段により抽出した電流データ及び電圧データを用いて前記蓄電デバイスの等価モデルの回路定数を同定する等価モデル定数同定手段と、
前記等価モデル定数同定手段により同定した前記回路定数を少なくとも用いて前記蓄電デバイスの状態を推定する状態推定演算手段と、を備えたものである。
【0021】
請求項5に係る状態推定装置は、データ抽出手段における電流データ及び電圧データの抽出条件として、更に、電流の変化量が所定の変化量設定値を超えることを追加したものである。
【0022】
なお、請求項6に記載するように、状態推定演算手段は、前記回路定数と、データ抽出手段により抽出した電流データ及び電圧データとを用いて蓄電デバイスの開放電圧を推定し、この開放電圧に基づいて蓄電デバイスのエネルギー残量を推定することが望ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、蓄電デバイスを電源とする装置の運転中において、蓄電デバイスを流れる電流の変化率や変化量が所定の設定値を超える範囲の電流データ及び電圧データを抽出し、これらの抽出データを用いて蓄電デバイスの回路定数を同定することで、この回路定数に基づき蓄電デバイスのSOC等を高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係る状態推定装置の構成図である。
【図2】図1における電池の詳細な等価回路図である。
【図3】第1実施形態の動作を説明するための端子電圧及び電流の波形図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る状態推定装置の構成図である。
【図5】第2実施形態の動作を説明するための端子電圧及び電流の波形図である。
【図6】比較例によるSOC推定のフローチャートである。
【図7】第2実施形態によるSOC推定のフローチャートである。
【図8】SOCの推定方法の評価に用いた測定システムの主要部の構成図である。
【図9】図6の比較例により推定したSOCの誤差の説明図である。
【図10】図7の第2実施形態により推定したSOCの誤差の説明図である。
【図11】第1の従来技術を示す構成図である。
【図12】第2の従来技術を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る状態推定装置の構成図であり、図11,図12と同一機能の構成要素には同一の番号を付してある。
図1において、10は状態推定の対象となる蓄電デバイスとしての電池(二次電池)であり、前記同様に内部インピーダンス11及び電圧源12からなる等価モデルとして示してある。ここで、図2に示すように、内部インピーダンス11は、正負電極に相当する抵抗R1及びコンデンサC1の並列回路と、電解質に相当する抵抗R2との直列回路によって構成されるものとする(以後、R1,R2は抵抗値としても用い、C1は容量値としても用いることとする)。この電池10の両端には、図1に示す如く負荷16が接続されている。
【0026】
20は電圧/電流計測手段であり、前記同様に電池10を流れる電流ibを検出する電流検出手段21と、電池10の端子電圧vbを検出する電圧検出手段22とを備え、これらによる検出値は計測データ23として保持される。
40は、電流変化率演算手段41と必要データ判別手段42とからなるデータ抽出手段である。ここで、電流変化率演算手段41は電流検出手段21により検出した電流ibの変化率(dib/dt)を検出して必要データ判別手段42に送り、必要データ判別手段42は、電流ib及び電圧vbのすべての計測データ23の中から、上記電流変化率(dib/dt)が所定の設定値を超える範囲の電流データ、電圧データを必要データと判別し、これらのデータを抽出して出力するように構成されている。
【0027】
43は、データ抽出手段40から出力される抽出データを用いて電池10の等価モデルの回路定数(以下、単に電池10の回路定数ともいう)を同定する等価モデル定数同定手段、44は、同定結果に基づいて電池10のSOCや劣化状態等の状態推定を行う状態推定演算手段である。
【0028】
次に、この実施形態の動作を、図3を参照しつつ説明する。図3は、電池10を電源とする装置を運転して負荷16に給電している時の電流ib及び端子電圧vbの波形図である。なお、これらの電流ib及び電圧vbは図1の電圧/電流計測手段20により計測されるものである。
ここで、電池10の回路定数を同定するために用いる電流、電圧のデータは、電流がある程度の傾きで変化しているときのデータでなくてはならない。これは、電流が常に一定値であると、回路定数としての抵抗値や容量値を推定することができず、特に、容量値については、電流の変化率がある程度大きくないと推定不可能なためであり、この条件を満たさないデータを使用して同定された回路定数は精度が低く、結果的にSOC等の推定精度も低いものとなる。
【0029】
そこで、本実施形態では、図1における必要データ判別手段42により、電流変化率演算手段41から送られた電流変化率(dib/dt)が変化率設定値(di0/dt)を超える範囲の電流ib及び電圧vbのデータをすべての計測データ23の中から判別、抽出し、これらの抽出データを回路定数の同定に用いることとした。
すなわち、電流ib及び電圧vbが図3のように変化している場合、dib/dt>di0/dtが成立している範囲の電流データとこれに対応する範囲の電圧データとを有効データとして同定に用い、それ以外を無効データとして同定には用いないこととする。
【0030】
こうして必要データ判別手段42により抽出された有効データは、等価モデル定数同定手段43に取り込まれ、電池10の回路定数(図2に示した内部インピーダンス11内の抵抗値R1,R2及び容量値C1)を同定する。状態推定演算手段44では、同定された回路定数を用いて電池10の状態(SOCや劣化状態など)を推定し、出力する。
なお、状態推定演算手段44によるSOCの推定方法については後述する。また、電池10の劣化状態は、内部抵抗の増加率から推定することができる。
【0031】
次に、図4は本発明の第2実施形態に係る状態推定装置の構成図であり、図1と同一機能の構成要素には同一の番号を付してある。
この実施形態は、第1実施形態よりも同定精度を向上させることを目的として、電池10の回路定数を同定するために用いるデータの抽出条件を二つ設け、第1の条件としては、第1実施形態と同様に電流変化率(dib/dt)が変化率設定値(di0/dt)を超えることとし、新たな第2の条件としては、電流ibの所定の基準値からの変化量(Δib)が変化量設定値(Δi0)を超えることとしたものである。
【0032】
前述した第1実施形態により、電流変化率(dib/dt)が設定値を超える範囲の電流データ、電圧データを用いて回路定数を同定することができ、これによって電池10の状態推定を行うことができるが、同定精度を更に向上させるためには、電流ibの値自体もある程度大きい方が望ましい。第2実施形態はこのような観点に基づくものである。
【0033】
すなわち、図4において、40Aは、電流変化率及び電流変化量演算手段41Aと必要データ判別手段42Aとからなるデータ抽出手段である。ここで、電流変化率及び電流変化量演算手段41Aは電流検出手段21により検出した電流ibの変化率(dib/dt)と変化量(Δib)を検出して必要データ判別手段42Aに送り、必要データ判別手段42Aは、電流ib及び端子電圧vbのすべての計測データ23の中から、上記電流変化率(dib/dt)が所定の変化率設定値を超え、かつ、電流変化量(Δib)が所定の変化量設定値を超える範囲の電流データとこれに対応する範囲の電圧データとを必要データと判別し、これらのデータを抽出して出力するように構成されている。
【0034】
この実施形態の動作を、図5を参照しつつ説明する。図5は、図3と同様に、装置を運転中で電池10から負荷16に給電している時の電池10の電流ib及び端子電圧vbの波形図である。
本実施形態では、第1実施形態における電流変化率(dib/dt)と変化率設定値(di0/dt)との比較に加えて、電流ibの変化量(Δib)を変化量設定値(Δi0)と比較するアルゴリズムを追加している。
【0035】
つまり、図4における必要データ判別手段42Aにより、電流変化率演算手段41Aから送られた電流変化率(dib/dt)が変化率設定値(di0/dt)を超え、かつ、電流変化量(Δib)が変化量設定値(Δi0)を超える範囲の電流ibとこれに対応する範囲の端子電圧vbのデータをすべての計測データ23から判別、抽出し、これらの抽出データを回路定数の同定に用いる。
例えば、電流ib及び電圧vbが図5のように変化している場合、dib/dt>di0/dtが成立し、かつ、Δib>Δi0が成立している範囲の電流データとこれに対応する範囲の電圧データのみを有効データとして同定に用い、それ以外を無効データとして同定には用いないこととする。なお、図5において、変化量設定値(Δi0)は所定の基準値に対する電流ibの最大値等により設定される。
図4における等価モデル定数同定手段43及び状態推定演算手段44の動作は、第1実施形態と同様である。
【0036】
次いで、この実施形態による作用効果について検証する。
まず、図6は、比較例として、電池10の電流、端子電圧のすべての計測データを用いて電池10のSOCを推定する場合のフローチャートである。例えば、T秒ごとにN個ずつ電圧vb及び電流ibを取得し(ステップS1)、これらすべての取得データを用いて電池10の内部インピーダンス(図2における抵抗値R1,R2及び容量値C1)を同定すると共に(ステップS2)、これらの値とvb,ibとを用いて開放電圧vocを計算し(ステップS3)、更にこの開放電圧vocから電池10の残存容量SOCを計算する(ステップS4)。
【0037】
なお、ステップS2における抵抗値R1,R2及び容量値C1の同定は、船渡寛人ほか3名による「システム同定を用いたニッケル水素およびニッケルカドミウム電池の残存容量診断」(電気学会論文誌D、126巻3号、2006年、p.285−p.291)の第2節「電池のモデリング」に記載されている方法を用いた。
また、ステップS3における開放電圧vocの計算には以下の数式1を用い(C1の影響は無視する)、ステップS4におけるSOCの計算には、予め実験的に求めた数式2の近似式を用いた。
[数1]
voc=vb+ib(R1+R2)
[数2]
SOC=5.03exp(0.25voc−10.8)−7.96
【0038】
これに対し、図7は、本発明の第2実施形態により電池10のSOCを推定する場合のフローチャートである。
第2実施形態では、まず、ステップS1により得た電流ibのN個の取得データを用いて、変化量Δibを計算する(ステップS1A)。ここで、変化量Δibは、例えばN個の取得データの最大値から最小値を減算して求めることができる。
次に、変化量Δibが変化量設定値Δi0より大きいか否かを判断し(ステップS1B)、大きい場合にはステップS1Cに進み、小さい場合にはステップS3にジャンプする。なお、変化量Δibが変化量設定値Δi0より小さい場合(ステップS1B NO)には、内部インピーダンスを同定せずに、それ以前のサイクルで同定した内部インピーダンスを用いて開放電圧vocを計算する(ステップS3)。
【0039】
変化量Δibが変化量設定値Δi0より大きい場合(ステップS1B YES)には、電流変化率の最大値max(dib/dt)を計算し(ステップS1C)、このmax(dib/dt)が変化率設定値(di0/dt)より大きいか否かを判定する(ステップS1D)。
そして、max(dib/dt)が変化率設定値(di0/dt)より小さい場合(ステップS1D NO)には、内部インピーダンスを同定せずにステップS3にジャンプし、それ以前のサイクルで同定した内部インピーダンスを用いて開放電圧vocを計算する。
max(dib/dt)が変化率設定値(di0/dt)より大きい場合(ステップS1D YES)には、図6の場合と同様の方法によって抵抗値R1,R2及び容量値C1を同定する(ステップS2)。以下のステップS3,S4は、図6と同様である。
なお、図7において、ステップS1A,S1BはステップS1C,S1Dの後に設けても良い。つまり、電流変化率によるデータ抽出処理を電流変化量によるデータ抽出処理よりも先に行っても良い。
【0040】
上記のように、図7では、電流の変化量及び変化率が設定値を超えない場合に内部インピーダンスの同定を実施せず、それ以前に同定した内部インピーダンスを用いることにより、精度が低いと思われるデータに基づいて開放電圧vocひいてはSOCを計算することを防止している。すなわち、精度低下の原因となるような電流データ、電圧データを事前に排除することにより、SOCの推定精度を向上させることができる。
【0041】
次いで、本発明の第2実施形態及び比較例によるSOCの推定結果を評価する。図8は、この評価に用いた測定システムの主要部を示す構成図であり、電気自動車の駆動用電動機54の電源である電池50の電圧及び電流を、電池50が満充電から放電終始電圧(使用を停止するべき最低電圧)になるまでノートパソコン56からなるデータレコーダにより測定した。図8において、51は電圧センサ、52は電流センサ、53はコントローラ、55はPCカードである。
【0042】
各センサ51,52による電圧、電流の測定データに基づき、前述した図6、図7のそれぞれの方法を用いて電池50の開放電圧voc(数式1)を計算し、SOC(数式2)を推定した。なお、数式2により求めたSOCの推定値に対し、その時点の実際の残存容量である真値を、それ以降の放電電流測定値から求め、推定値と真値との誤差を測定した。
図6の比較例による推定方法を用いた場合の誤差を図9に示し、図7の第2実施形態による推定方法を用いた場合の誤差を図10に示す。
図9及び図10の比較から明らかなように、精度低下の原因となるようなデータを事前に排除した第2実施形態(図10)の方が比較例(図9)より誤差が少なく、SOCを高精度に推定できていることがわかる。
【0043】
更に、図9及び図10のそれぞれについて、誤差の分散S2を下記の数式3により求めた。この数式3において、SOCestimateは推定値を、SOCrealは真値を示す。
結果として、図9の比較例では分散S2が4.11であるのに対し、図10の第2実施形態では0.759と1/5以下に減少しており、明らかに誤差が小さくなっている。
【0044】
【数3】
【0045】
以上述べたように、本発明の第1または第2実施形態によれば、比較的簡単な演算により、蓄電デバイスとしての電池10のSOC等を高精度に推定することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
10:電池
11:内部インピーダンス
12:電圧源
16:負荷
20:電圧/電流計測手段
21:電流検出手段
22:電圧検出手段
23:計測データ
40,40A:データ抽出手段
41:電流変化率演算手段
41A:電流変化率及び電流変化量演算手段
42,42A:必要データ判別手段
43:等価モデル定数同定手段
44:状態推定演算手段
50:電池
51:電圧センサ
52:電流センサ
53:コントローラ
54:電動機
55:PCカード
56:ノートパソコン
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池や電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスの状態推定方法及び状態推定装置に関し、詳しくは、蓄電デバイスの等価モデルの回路定数を同定してエネルギー残量(SOC)等の状態推定を行なう技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、二次電池や電気二重層キャパシタ等の蓄電デバイスは、小型軽量化・高エネルギー密度化が進み、電力変換装置等の電源として広く利用されている。
このような蓄電デバイスを有効に活用するためには、蓄電デバイスのSOCや劣化状態(SOH)等を正確に把握することが必要となる。
【0003】
蓄電デバイスの状態推定に関する第1の従来技術としては、電池の等価モデルの回路定数(抵抗やコンデンサからなる内部インピーダンス)をシステム同定して電池の劣化予測、性能評価、良否判定を行なうものが知られている。
図11は、この第1の従来技術を示す構成図である。同図において、10は診断対象である電池(二次電池)であり、内部インピーダンス11及び電圧源12(その起電力は開放電圧にほぼ等しい)からなる等価モデルとして示してある。また、13は状態推定を行うための矩形波信号を生成する電流源、14,15は切替スイッチ、16は負荷を示す。
【0004】
また、20は電圧/電流計測手段であり、電池10を流れる電流を検出する電流検出手段21と、電池10の端子電圧を検出する電圧検出手段22とを備え、各検出手段21,22による電流,電圧検出値を計測データ23として保持可能である。24は、前記計測データ23を用いて電池10の回路定数を同定する等価モデル定数同定手段、25は同定結果に基づいて電池10の状態を推定する状態推定演算手段である。
【0005】
次に、この従来技術の動作を略述する。
図11において、電池の状態推定を行なう場合には、まず、電池10を電源とする装置の運転を停止して切替スイッチ15をオフし、電池10と負荷16とを切り離す(すなわち、オフラインにする)。次に、切替スイッチ14をオンし、電流源13により入力信号(矩形波電流)を電池10に供給する。この状態で電圧/電流計測手段20を動作させ、電流検出手段21、電圧検出手段22により電池10に流れる電流ib(入力)と電池10の端子電圧vb(出力)とを計測する。
【0006】
電流ib及び電圧vbの計測データ23は等価モデル定数同定手段24に取り込まれ、電池10の回路定数が同定される。状態推定演算手段25は、こうして同定された回路定数を用いて、電池10のSOCや劣化状態等を推定することができる。
この種の従来技術としては、例えば特許文献1に開示された電池状態診断装置及び電池状態診断方法が知られている。
【0007】
次に、図12は、蓄電デバイスの状態推定に関する第2の従来技術を示す構成図である。この従来技術は、電池を電源とした装置の運転中、すなわちオンライン状態において、電池の回路定数を同定して電池の開放電圧を推測することにより状態推定を行う第1の推定方法と、電池の電流積算値から状態推定を行う第2の推定方法とを併用し、第1,第2の推定方法による推定結果を重み付けして合成することにより、最終的に電池の劣化度等を推定するものである。
【0008】
図12において、図11と同一機能の構成要素には同一の番号を付して詳述を省略し、以下では図11と異なる部分を中心に説明する。
図12における26は第1の状態推定演算手段であり、等価モデル定数同定手段24により同定した回路定数に基づいて電池10の開放電圧を推測して状態推定を行う。また、27は第2の状態推定演算手段であり、電池10に流れる電流ibの積算値に基づいて状態推定を行う。
【0009】
また、28は、第1,第2の状態推定演算手段26,27による演算結果に重み付けを行うための計算ウェイトwを算出する計算ウェイト算出手段であり、電池10の電流変化率(dib/dt)と補正係数テーブル29内の温度補正係数とを用いて計算ウェイトwを算出する。
更に、30は第3の状態推定演算手段であり、上記計算ウェイトwを用いて、第1,第2の状態推定演算手段26,27による演算結果にそれぞれ(1−w),wを乗算して合成し、最終的な推定結果を出力するように構成されている。
【0010】
この従来技術の動作を略述すると、装置の運転中に、電圧/電流計測手段20内の計測データ23が等価モデル定数同定手段24に取り込まれ、この等価モデル定数同定手段24では、計算ウェイト算出手段28により電流変化率(dib/dt)から演算した周波数情報を考慮して、電池10の回路定数を同定する。
この回路定数に基づき、第1の状態推定演算手段26が電池10の開放電圧を推測して状態推定演算を行なう。これと同時に、第2の状態推定演算手段27が計測データ23から電流積算値を算出し、状態推定演算を行なう。
【0011】
計算ウェイトwは、例えば、電流変化率(dib/dt)が小さいときは第1の状態推定演算手段26による演算結果に大きなウェイトを持たせ、電流変化率(dib/dt)が大きいときは第2の状態推定演算手段27による演算結果に大きなウェイトを持たせるように作用しており、第3の状態推定演算手段30では、上記のように重み付けされた第1,第2の状態推定演算手段26,27による演算結果を合成し、最終的に、電池10の劣化度等の状態を推定して出力する。これにより、オンライン状態で電池10の状態を推定することが可能である。
この種の従来技術としては、例えば特許文献2に開示されたバッテリの劣化度推定装置が知られている。
【0012】
更に、図示しないが、第3の従来技術として、例えば特許文献3に開示されたバッテリ管理システムが知られている。
この従来技術は、データベースに格納されたバッテリ情報を用い、任意の時刻間でのバッテリ電圧から求めた残存容量(SOC)の変化量とバッテリ電流の積算値から求めた残存容量の変化量とに基づいてバッテリの電流容量を算出し、算出した電流容量の初期値に対する変化割合を、バッテリの劣化状態を表す電流容量変化率として算出することによりバッテリの劣化状態を算出するようにしたものである。この従来技術では、上記電流容量変化率に加えて、バッテリのインピーダンスの初期値に対する変化割合としてのインピーダンス変化率を電流容量変化率との相関関係に基づいて算出し、このインピーダンス変化率を電流容量変化率と共に用いて劣化状態を算出することも可能にしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2004−241325号公報(段落[0038]〜[0088]、図1〜図5等)
【特許文献2】特開2006−98135号公報(段落[0006]〜[0016]、図1〜図4等)
【特許文献3】特開2007−24687号公報(段落[0044]〜[0057]、図3等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
図11に示した第1の従来技術では、電池10と負荷16とを切り離すことによりオフライン状態にして、予め設定した電流負荷(例えば矩形波電流)を電池10に与えるため、電池10の状態を正確に推定できる反面、電池10を電源とする装置の運転中にオンラインにて状態推定を行なうことができないという問題がある。
これに対し、図12に示した第2の従来技術では、オンライン状態で電池10の状態推定を行なうことが可能である。しかし、状態推定の精度を向上させるために、電池10の等価モデルの回路定数を同定して推測した開放電圧に基づき状態推定する第1の推定方法と、電池10の電流積算値から状態推定する第2の推定方法とを併用して同時に演算を行ない、その演算結果を合成する方法を採っているため、演算処理が複雑化し、処理時間や使用メモリ容量が増大するおそれがある。
【0015】
更に、第3の従来技術は、バッテリの電流容量変化率を求めて劣化状態を推定するものであるが、バッテリの残存容量の推定方法として第2の従来技術と基本的に同一の方法を用いているため、やはり演算処理が複雑になるという問題があった。
【0016】
そこで本発明の解決課題は、比較的簡単な演算により、蓄電デバイスのSOC等を高精度に推定可能とした状態推定方法及び状態推定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、請求項1に係る蓄電デバイスの状態推定方法は、いわゆるオンライン状態で蓄電デバイスの状態を推定する状態推定方法において、
前記蓄電デバイスの電流及び端子電圧を計測する工程と、
前記電流の変化率が所定の変化率設定値を超える範囲の電流データと当該電流データに対応する電圧データとを抽出する工程と、
抽出した電流データ及び電圧データを用いて前記蓄電デバイスの等価モデルの回路定数を同定する工程と、
同定した前記回路定数を少なくとも用いて前記蓄電デバイスの状態を推定する工程と、を有するものである。
【0018】
また、請求項2に係る状態推定方法は、上述した電流データ及び電圧データの抽出条件として、更に、電流の変化量が所定の変化量設定値を超えることを追加したものである。
【0019】
なお、請求項3に記載するように、同定した回路定数と、抽出した電流データ及び電圧データとを用いて蓄電デバイスの開放電圧を推定し、この開放電圧に基づいて蓄電デバイスのエネルギー残量を推定することが望ましい。
【0020】
請求項4に係る蓄電デバイスの状態推定装置は、いわゆるオンライン状態で蓄電デバイスの状態を推定する状態推定装置において、
前記蓄電デバイスの電流及び端子電圧を計測する電圧/電流計測手段と、
前記電流の変化率が所定の変化率設定値を超える範囲の電流データと当該電流データに対応する電圧データとを抽出するデータ抽出手段と、
前記データ抽出手段により抽出した電流データ及び電圧データを用いて前記蓄電デバイスの等価モデルの回路定数を同定する等価モデル定数同定手段と、
前記等価モデル定数同定手段により同定した前記回路定数を少なくとも用いて前記蓄電デバイスの状態を推定する状態推定演算手段と、を備えたものである。
【0021】
請求項5に係る状態推定装置は、データ抽出手段における電流データ及び電圧データの抽出条件として、更に、電流の変化量が所定の変化量設定値を超えることを追加したものである。
【0022】
なお、請求項6に記載するように、状態推定演算手段は、前記回路定数と、データ抽出手段により抽出した電流データ及び電圧データとを用いて蓄電デバイスの開放電圧を推定し、この開放電圧に基づいて蓄電デバイスのエネルギー残量を推定することが望ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、蓄電デバイスを電源とする装置の運転中において、蓄電デバイスを流れる電流の変化率や変化量が所定の設定値を超える範囲の電流データ及び電圧データを抽出し、これらの抽出データを用いて蓄電デバイスの回路定数を同定することで、この回路定数に基づき蓄電デバイスのSOC等を高精度に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1実施形態に係る状態推定装置の構成図である。
【図2】図1における電池の詳細な等価回路図である。
【図3】第1実施形態の動作を説明するための端子電圧及び電流の波形図である。
【図4】本発明の第2実施形態に係る状態推定装置の構成図である。
【図5】第2実施形態の動作を説明するための端子電圧及び電流の波形図である。
【図6】比較例によるSOC推定のフローチャートである。
【図7】第2実施形態によるSOC推定のフローチャートである。
【図8】SOCの推定方法の評価に用いた測定システムの主要部の構成図である。
【図9】図6の比較例により推定したSOCの誤差の説明図である。
【図10】図7の第2実施形態により推定したSOCの誤差の説明図である。
【図11】第1の従来技術を示す構成図である。
【図12】第2の従来技術を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る状態推定装置の構成図であり、図11,図12と同一機能の構成要素には同一の番号を付してある。
図1において、10は状態推定の対象となる蓄電デバイスとしての電池(二次電池)であり、前記同様に内部インピーダンス11及び電圧源12からなる等価モデルとして示してある。ここで、図2に示すように、内部インピーダンス11は、正負電極に相当する抵抗R1及びコンデンサC1の並列回路と、電解質に相当する抵抗R2との直列回路によって構成されるものとする(以後、R1,R2は抵抗値としても用い、C1は容量値としても用いることとする)。この電池10の両端には、図1に示す如く負荷16が接続されている。
【0026】
20は電圧/電流計測手段であり、前記同様に電池10を流れる電流ibを検出する電流検出手段21と、電池10の端子電圧vbを検出する電圧検出手段22とを備え、これらによる検出値は計測データ23として保持される。
40は、電流変化率演算手段41と必要データ判別手段42とからなるデータ抽出手段である。ここで、電流変化率演算手段41は電流検出手段21により検出した電流ibの変化率(dib/dt)を検出して必要データ判別手段42に送り、必要データ判別手段42は、電流ib及び電圧vbのすべての計測データ23の中から、上記電流変化率(dib/dt)が所定の設定値を超える範囲の電流データ、電圧データを必要データと判別し、これらのデータを抽出して出力するように構成されている。
【0027】
43は、データ抽出手段40から出力される抽出データを用いて電池10の等価モデルの回路定数(以下、単に電池10の回路定数ともいう)を同定する等価モデル定数同定手段、44は、同定結果に基づいて電池10のSOCや劣化状態等の状態推定を行う状態推定演算手段である。
【0028】
次に、この実施形態の動作を、図3を参照しつつ説明する。図3は、電池10を電源とする装置を運転して負荷16に給電している時の電流ib及び端子電圧vbの波形図である。なお、これらの電流ib及び電圧vbは図1の電圧/電流計測手段20により計測されるものである。
ここで、電池10の回路定数を同定するために用いる電流、電圧のデータは、電流がある程度の傾きで変化しているときのデータでなくてはならない。これは、電流が常に一定値であると、回路定数としての抵抗値や容量値を推定することができず、特に、容量値については、電流の変化率がある程度大きくないと推定不可能なためであり、この条件を満たさないデータを使用して同定された回路定数は精度が低く、結果的にSOC等の推定精度も低いものとなる。
【0029】
そこで、本実施形態では、図1における必要データ判別手段42により、電流変化率演算手段41から送られた電流変化率(dib/dt)が変化率設定値(di0/dt)を超える範囲の電流ib及び電圧vbのデータをすべての計測データ23の中から判別、抽出し、これらの抽出データを回路定数の同定に用いることとした。
すなわち、電流ib及び電圧vbが図3のように変化している場合、dib/dt>di0/dtが成立している範囲の電流データとこれに対応する範囲の電圧データとを有効データとして同定に用い、それ以外を無効データとして同定には用いないこととする。
【0030】
こうして必要データ判別手段42により抽出された有効データは、等価モデル定数同定手段43に取り込まれ、電池10の回路定数(図2に示した内部インピーダンス11内の抵抗値R1,R2及び容量値C1)を同定する。状態推定演算手段44では、同定された回路定数を用いて電池10の状態(SOCや劣化状態など)を推定し、出力する。
なお、状態推定演算手段44によるSOCの推定方法については後述する。また、電池10の劣化状態は、内部抵抗の増加率から推定することができる。
【0031】
次に、図4は本発明の第2実施形態に係る状態推定装置の構成図であり、図1と同一機能の構成要素には同一の番号を付してある。
この実施形態は、第1実施形態よりも同定精度を向上させることを目的として、電池10の回路定数を同定するために用いるデータの抽出条件を二つ設け、第1の条件としては、第1実施形態と同様に電流変化率(dib/dt)が変化率設定値(di0/dt)を超えることとし、新たな第2の条件としては、電流ibの所定の基準値からの変化量(Δib)が変化量設定値(Δi0)を超えることとしたものである。
【0032】
前述した第1実施形態により、電流変化率(dib/dt)が設定値を超える範囲の電流データ、電圧データを用いて回路定数を同定することができ、これによって電池10の状態推定を行うことができるが、同定精度を更に向上させるためには、電流ibの値自体もある程度大きい方が望ましい。第2実施形態はこのような観点に基づくものである。
【0033】
すなわち、図4において、40Aは、電流変化率及び電流変化量演算手段41Aと必要データ判別手段42Aとからなるデータ抽出手段である。ここで、電流変化率及び電流変化量演算手段41Aは電流検出手段21により検出した電流ibの変化率(dib/dt)と変化量(Δib)を検出して必要データ判別手段42Aに送り、必要データ判別手段42Aは、電流ib及び端子電圧vbのすべての計測データ23の中から、上記電流変化率(dib/dt)が所定の変化率設定値を超え、かつ、電流変化量(Δib)が所定の変化量設定値を超える範囲の電流データとこれに対応する範囲の電圧データとを必要データと判別し、これらのデータを抽出して出力するように構成されている。
【0034】
この実施形態の動作を、図5を参照しつつ説明する。図5は、図3と同様に、装置を運転中で電池10から負荷16に給電している時の電池10の電流ib及び端子電圧vbの波形図である。
本実施形態では、第1実施形態における電流変化率(dib/dt)と変化率設定値(di0/dt)との比較に加えて、電流ibの変化量(Δib)を変化量設定値(Δi0)と比較するアルゴリズムを追加している。
【0035】
つまり、図4における必要データ判別手段42Aにより、電流変化率演算手段41Aから送られた電流変化率(dib/dt)が変化率設定値(di0/dt)を超え、かつ、電流変化量(Δib)が変化量設定値(Δi0)を超える範囲の電流ibとこれに対応する範囲の端子電圧vbのデータをすべての計測データ23から判別、抽出し、これらの抽出データを回路定数の同定に用いる。
例えば、電流ib及び電圧vbが図5のように変化している場合、dib/dt>di0/dtが成立し、かつ、Δib>Δi0が成立している範囲の電流データとこれに対応する範囲の電圧データのみを有効データとして同定に用い、それ以外を無効データとして同定には用いないこととする。なお、図5において、変化量設定値(Δi0)は所定の基準値に対する電流ibの最大値等により設定される。
図4における等価モデル定数同定手段43及び状態推定演算手段44の動作は、第1実施形態と同様である。
【0036】
次いで、この実施形態による作用効果について検証する。
まず、図6は、比較例として、電池10の電流、端子電圧のすべての計測データを用いて電池10のSOCを推定する場合のフローチャートである。例えば、T秒ごとにN個ずつ電圧vb及び電流ibを取得し(ステップS1)、これらすべての取得データを用いて電池10の内部インピーダンス(図2における抵抗値R1,R2及び容量値C1)を同定すると共に(ステップS2)、これらの値とvb,ibとを用いて開放電圧vocを計算し(ステップS3)、更にこの開放電圧vocから電池10の残存容量SOCを計算する(ステップS4)。
【0037】
なお、ステップS2における抵抗値R1,R2及び容量値C1の同定は、船渡寛人ほか3名による「システム同定を用いたニッケル水素およびニッケルカドミウム電池の残存容量診断」(電気学会論文誌D、126巻3号、2006年、p.285−p.291)の第2節「電池のモデリング」に記載されている方法を用いた。
また、ステップS3における開放電圧vocの計算には以下の数式1を用い(C1の影響は無視する)、ステップS4におけるSOCの計算には、予め実験的に求めた数式2の近似式を用いた。
[数1]
voc=vb+ib(R1+R2)
[数2]
SOC=5.03exp(0.25voc−10.8)−7.96
【0038】
これに対し、図7は、本発明の第2実施形態により電池10のSOCを推定する場合のフローチャートである。
第2実施形態では、まず、ステップS1により得た電流ibのN個の取得データを用いて、変化量Δibを計算する(ステップS1A)。ここで、変化量Δibは、例えばN個の取得データの最大値から最小値を減算して求めることができる。
次に、変化量Δibが変化量設定値Δi0より大きいか否かを判断し(ステップS1B)、大きい場合にはステップS1Cに進み、小さい場合にはステップS3にジャンプする。なお、変化量Δibが変化量設定値Δi0より小さい場合(ステップS1B NO)には、内部インピーダンスを同定せずに、それ以前のサイクルで同定した内部インピーダンスを用いて開放電圧vocを計算する(ステップS3)。
【0039】
変化量Δibが変化量設定値Δi0より大きい場合(ステップS1B YES)には、電流変化率の最大値max(dib/dt)を計算し(ステップS1C)、このmax(dib/dt)が変化率設定値(di0/dt)より大きいか否かを判定する(ステップS1D)。
そして、max(dib/dt)が変化率設定値(di0/dt)より小さい場合(ステップS1D NO)には、内部インピーダンスを同定せずにステップS3にジャンプし、それ以前のサイクルで同定した内部インピーダンスを用いて開放電圧vocを計算する。
max(dib/dt)が変化率設定値(di0/dt)より大きい場合(ステップS1D YES)には、図6の場合と同様の方法によって抵抗値R1,R2及び容量値C1を同定する(ステップS2)。以下のステップS3,S4は、図6と同様である。
なお、図7において、ステップS1A,S1BはステップS1C,S1Dの後に設けても良い。つまり、電流変化率によるデータ抽出処理を電流変化量によるデータ抽出処理よりも先に行っても良い。
【0040】
上記のように、図7では、電流の変化量及び変化率が設定値を超えない場合に内部インピーダンスの同定を実施せず、それ以前に同定した内部インピーダンスを用いることにより、精度が低いと思われるデータに基づいて開放電圧vocひいてはSOCを計算することを防止している。すなわち、精度低下の原因となるような電流データ、電圧データを事前に排除することにより、SOCの推定精度を向上させることができる。
【0041】
次いで、本発明の第2実施形態及び比較例によるSOCの推定結果を評価する。図8は、この評価に用いた測定システムの主要部を示す構成図であり、電気自動車の駆動用電動機54の電源である電池50の電圧及び電流を、電池50が満充電から放電終始電圧(使用を停止するべき最低電圧)になるまでノートパソコン56からなるデータレコーダにより測定した。図8において、51は電圧センサ、52は電流センサ、53はコントローラ、55はPCカードである。
【0042】
各センサ51,52による電圧、電流の測定データに基づき、前述した図6、図7のそれぞれの方法を用いて電池50の開放電圧voc(数式1)を計算し、SOC(数式2)を推定した。なお、数式2により求めたSOCの推定値に対し、その時点の実際の残存容量である真値を、それ以降の放電電流測定値から求め、推定値と真値との誤差を測定した。
図6の比較例による推定方法を用いた場合の誤差を図9に示し、図7の第2実施形態による推定方法を用いた場合の誤差を図10に示す。
図9及び図10の比較から明らかなように、精度低下の原因となるようなデータを事前に排除した第2実施形態(図10)の方が比較例(図9)より誤差が少なく、SOCを高精度に推定できていることがわかる。
【0043】
更に、図9及び図10のそれぞれについて、誤差の分散S2を下記の数式3により求めた。この数式3において、SOCestimateは推定値を、SOCrealは真値を示す。
結果として、図9の比較例では分散S2が4.11であるのに対し、図10の第2実施形態では0.759と1/5以下に減少しており、明らかに誤差が小さくなっている。
【0044】
【数3】
【0045】
以上述べたように、本発明の第1または第2実施形態によれば、比較的簡単な演算により、蓄電デバイスとしての電池10のSOC等を高精度に推定することが可能である。
【符号の説明】
【0046】
10:電池
11:内部インピーダンス
12:電圧源
16:負荷
20:電圧/電流計測手段
21:電流検出手段
22:電圧検出手段
23:計測データ
40,40A:データ抽出手段
41:電流変化率演算手段
41A:電流変化率及び電流変化量演算手段
42,42A:必要データ判別手段
43:等価モデル定数同定手段
44:状態推定演算手段
50:電池
51:電圧センサ
52:電流センサ
53:コントローラ
54:電動機
55:PCカード
56:ノートパソコン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスを電源とする装置の運転中に前記蓄電デバイスの状態を推定する状態推定方法において、
前記蓄電デバイスの電流及び端子電圧を計測する工程と、
前記電流の変化率が所定の変化率設定値を超える範囲の電流データと当該電流データに対応する電圧データとを抽出する工程と、
抽出した電流データ及び電圧データを用いて前記蓄電デバイスの等価モデルの回路定数を同定する工程と、
同定した前記回路定数を少なくとも用いて前記蓄電デバイスの状態を推定する工程と、
を有することを特徴とする蓄電デバイスの状態推定方法。
【請求項2】
蓄電デバイスを電源とする装置の運転中に前記蓄電デバイスの状態を推定する状態推定方法において、
前記蓄電デバイスの電流及び端子電圧を計測する工程と、
前記電流の変化率が所定の変化率設定値を超え、かつ、前記電流の変化量が所定の変化量設定値を超える範囲の電流データと当該電流データに対応する電圧データとを抽出する工程と、
抽出した電流データ及び電圧データを用いて前記蓄電デバイスの等価モデルの回路定数を同定する工程と、
同定した前記回路定数を少なくとも用いて前記蓄電デバイスの状態を推定する工程と、
を有することを特徴とする蓄電デバイスの状態推定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載した蓄電デバイスの状態推定方法において、
同定した前記回路定数と、抽出した電流データ及び電圧データを用いて前記蓄電デバイスの開放電圧を推定し、この開放電圧に基づいて前記蓄電デバイスのエネルギー残量を推定することを特徴とする蓄電デバイスの状態推定方法。
【請求項4】
蓄電デバイスを電源とする装置の運転中に前記蓄電デバイスの状態を推定する状態推定装置において、
前記蓄電デバイスの電流及び端子電圧を計測する電圧/電流計測手段と、
前記電流の変化率が所定の変化率設定値を超える範囲の電流データと当該電流データに対応する電圧データとを抽出するデータ抽出手段と、
前記データ抽出手段により抽出した電流データ及び電圧データを用いて前記蓄電デバイスの等価モデルの回路定数を同定する等価モデル定数同定手段と、
前記等価モデル定数同定手段により同定した前記回路定数を少なくとも用いて前記蓄電デバイスの状態を推定する状態推定演算手段と、
を備えたことを特徴とする状態推定装置。
【請求項5】
蓄電デバイスを電源とする装置の運転中に前記蓄電デバイスの状態を推定する状態推定装置において、
前記蓄電デバイスの電流及び端子電圧を計測する電圧/電流計測手段と、
前記電流の変化率が所定の変化率設定値を超え、かつ、前記電流の変化量が所定の変化量設定値を超える範囲の電流データと当該電流データに対応する電圧データとを抽出するデータ抽出手段と、
前記データ抽出手段により抽出した電流データ及び電圧データを用いて前記蓄電デバイスの等価モデルの回路定数を同定する等価モデル定数同定手段と、
前記等価モデル定数同定手段により同定した前記回路定数を少なくとも用いて前記蓄電デバイスの状態を推定する状態推定演算手段と、
を備えたことを特徴とする状態推定装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載した蓄電デバイスの状態推定装置において、
前記状態推定演算手段は、前記等価モデル定数同定手段により同定した前記回路定数と、前記データ抽出手段により抽出した電流データ及び電圧データとを用いて前記蓄電デバイスの開放電圧を推定し、この開放電圧に基づいて前記蓄電デバイスのエネルギー残量を推定することを特徴とする状態推定装置。
【請求項1】
蓄電デバイスを電源とする装置の運転中に前記蓄電デバイスの状態を推定する状態推定方法において、
前記蓄電デバイスの電流及び端子電圧を計測する工程と、
前記電流の変化率が所定の変化率設定値を超える範囲の電流データと当該電流データに対応する電圧データとを抽出する工程と、
抽出した電流データ及び電圧データを用いて前記蓄電デバイスの等価モデルの回路定数を同定する工程と、
同定した前記回路定数を少なくとも用いて前記蓄電デバイスの状態を推定する工程と、
を有することを特徴とする蓄電デバイスの状態推定方法。
【請求項2】
蓄電デバイスを電源とする装置の運転中に前記蓄電デバイスの状態を推定する状態推定方法において、
前記蓄電デバイスの電流及び端子電圧を計測する工程と、
前記電流の変化率が所定の変化率設定値を超え、かつ、前記電流の変化量が所定の変化量設定値を超える範囲の電流データと当該電流データに対応する電圧データとを抽出する工程と、
抽出した電流データ及び電圧データを用いて前記蓄電デバイスの等価モデルの回路定数を同定する工程と、
同定した前記回路定数を少なくとも用いて前記蓄電デバイスの状態を推定する工程と、
を有することを特徴とする蓄電デバイスの状態推定方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載した蓄電デバイスの状態推定方法において、
同定した前記回路定数と、抽出した電流データ及び電圧データを用いて前記蓄電デバイスの開放電圧を推定し、この開放電圧に基づいて前記蓄電デバイスのエネルギー残量を推定することを特徴とする蓄電デバイスの状態推定方法。
【請求項4】
蓄電デバイスを電源とする装置の運転中に前記蓄電デバイスの状態を推定する状態推定装置において、
前記蓄電デバイスの電流及び端子電圧を計測する電圧/電流計測手段と、
前記電流の変化率が所定の変化率設定値を超える範囲の電流データと当該電流データに対応する電圧データとを抽出するデータ抽出手段と、
前記データ抽出手段により抽出した電流データ及び電圧データを用いて前記蓄電デバイスの等価モデルの回路定数を同定する等価モデル定数同定手段と、
前記等価モデル定数同定手段により同定した前記回路定数を少なくとも用いて前記蓄電デバイスの状態を推定する状態推定演算手段と、
を備えたことを特徴とする状態推定装置。
【請求項5】
蓄電デバイスを電源とする装置の運転中に前記蓄電デバイスの状態を推定する状態推定装置において、
前記蓄電デバイスの電流及び端子電圧を計測する電圧/電流計測手段と、
前記電流の変化率が所定の変化率設定値を超え、かつ、前記電流の変化量が所定の変化量設定値を超える範囲の電流データと当該電流データに対応する電圧データとを抽出するデータ抽出手段と、
前記データ抽出手段により抽出した電流データ及び電圧データを用いて前記蓄電デバイスの等価モデルの回路定数を同定する等価モデル定数同定手段と、
前記等価モデル定数同定手段により同定した前記回路定数を少なくとも用いて前記蓄電デバイスの状態を推定する状態推定演算手段と、
を備えたことを特徴とする状態推定装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載した蓄電デバイスの状態推定装置において、
前記状態推定演算手段は、前記等価モデル定数同定手段により同定した前記回路定数と、前記データ抽出手段により抽出した電流データ及び電圧データとを用いて前記蓄電デバイスの開放電圧を推定し、この開放電圧に基づいて前記蓄電デバイスのエネルギー残量を推定することを特徴とする状態推定装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2011−64471(P2011−64471A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212886(P2009−212886)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(000005234)富士電機ホールディングス株式会社 (3,146)
【Fターム(参考)】
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