説明

蓄電デバイス

【課題】高容量、高出力蓄電デバイスの更なる高容量化が要望されており、正極活物質として酸化還元可能な有機化合物を用いることが検討されている。これら酸化還元可能な有機化合物を正極活物質として用いた蓄電デバイスでは、不可逆容量があり、それら不可逆容量をより低減し、高容量化しなければならない、という課題があった。
【解決手段】本発明の蓄電デバイスは、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、電解質とを含む蓄電デバイスであって、前記正極活物質が酸化還元可能な有機化合物を少なくとも含んでおり、かつ前記正極活物質がデバイス構成前に予備充電されていること、を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高出力、かつ高エネルギー密度な蓄電デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンと電気の両方のエネルギーで駆動することのできるハイブリッド自動車や、無停電電源、移動体通信機器、携帯電子機器等の電源を必要とする機器の普及に伴い、その電源の需要は非常に大きくなっている。
【0003】
そのため、それら電源としてリチウムイオン電池や電気二重層キャパシタの高性能化が強く要望されており、それらの高性能化開発が精力的に進められている。
【0004】
主に高出力用途で期待されている電気二重層キャパシタは、高出力という特徴に加えて、繰り返し充放電寿命に優れる、という特徴を有しており、蓄電デバイスとして魅力的なデバイスではあるが、エネルギー密度が低く、そのため、電気二重層キャパシタは高容量化のための開発が行われている。
【0005】
例えば、電気二重層キャパシタの高容量化のための開発としては、電解液の改良が挙げられる。充電電圧を高めても電解液が分解しないように、電解液の耐電圧を高めることにより、電気二重層の高容量化を図るという取り組みである(例えば、特許文献1参照)。しかし、一方で電解液の粘度上昇による導電率の低下、電極および活物質である活性炭表面への電解液の濡れ性の低下等の課題が生じ、従来の電気二重層キャパシタそのままの構成で電解液材料のみを変更するだけで、電気二重層キャパシタの高容量化を達成することは難しい。
【0006】
そこで、高出力、高エネルギー密度な蓄電デバイスを実現するために活物質材料根本からの改良アプローチも行われている。例えば、有機化合物を電極材料に用いる検討が行われている。具体的には、ラジカルを有する有機化合物を電極活物質に用いる検討(例えば、特許文献2参照)や、π電子共役雲を有する有機化合物を電極活物質に用いる検討がなされている(例えば、特許文献3、および4参照)。
【特許文献1】特開2002−222739号公報
【特許文献2】特開2004−200058号公報
【特許文献3】特開2004−111374号公報
【特許文献4】特開2004−342605号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述した特許文献2には、高容量、高出力蓄電デバイスの実現を目的としたラジカルを有する有機化合物を正極活物質として用いた検討として、ピッチで被覆された活性炭負極との組み合わせによる蓄電デバイスが開示されている。これにより、従来に比べて不可逆容量を低減し、高容量化した蓄電デバイスが得られることが開示されている。ここで言う不可逆容量とは、蓄電デバイスの初回充電において充電された電気量のうち、初回放電で放電できない電気量のことであり、つまり容量ロスを意味する。しかし、この蓄電デバイスの不可逆容量は初期容量123mAhに対して25mAhであり、依然として約20%の大きな不可逆容量があり、蓄電デバイスをより高容量化するためには、不可逆容量をより低減しなければならない、という課題があった。
【0008】
また、前述した特許文献3には、高容量、高出力蓄電デバイスの実現を目的としたπ電子共役雲を有する有機化合物を正極活物質として用いた検討としては、従来からリチウム電池に用いられている負極を組み合せて高エネルギー密度の蓄電デバイスを構成することができること、さらには上記負極としてグラファイトが適用できることが開示されている。また、これら正極活物質は蓄電デバイスの高容量化が期待できる。しかしながら、これら新規正極活物質は、上述の負極材料とどのように組み合わせることが高容量化にとって望ましいか、という知見は得られていない。また、上述のグラファイトを代表とするリチウム電池に用いられている負極以外の負極材料と組み合わせることに関する知見は得られていない。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記従来の課題を解決するため、本発明の蓄電デバイスは、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、電解質とを含む蓄電デバイスであって、
前記正極活物質が酸化還元可能な有機化合物を少なくとも含んでおり、かつ前記正極活物質がデバイス構成前に予備充電されていること、を特徴とする。
【0010】
本構成によって、正極活物質が不可逆容量を有する場合、デバイス構成前に予備充電することにより、正極不可逆容量による蓄電デバイスの容量損失を抑制し、蓄電デバイスを高容量化できる。
【0011】
また、正極活物質の予備充電の電気量は、少なくとも正極活物質の不可逆容量以上であることが好ましい。
【0012】
また、正極活物質が充電曲線において電位平坦部を有する場合には、正極活物質の蓄電デバイス構成時の正極電位が、正極活物質の予備充電により、正極活物質の充電曲線における電位平坦部にあることが好ましい。
【0013】
正極活物質の予備充電は、電気化学的な予備充電、電気化学的に酸化還元可能な有機化合物が溶解した溶媒中に正極活物質を接触させることによる予備充電、または化学的な予備充電等の方法により予備充電されることが有効である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の蓄電デバイスにより、酸化還元可能な有機化合物を活物質に用いることにより、従来の活性炭電極で構成される電気二重層キャパシタよりも高容量な蓄電デバイスを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(実施の形態1)
以下、本発明を実施するための最良の形態について、説明する。
【0016】
本実施の形態1における蓄電デバイスは、不可逆容量を有する酸化還元可能な有機化合物を正極活物質として含む正極と、活性炭を負極活物質として含む負極と、電解質とを含み、かつ、正極活物質がデバイス構成前に予備充電されてなる蓄電デバイスである。酸化還元可能な有機化合物の中には、充放電に伴う不可逆容量を有する材料と不可逆容量を有しない材料とがあり、本実施の形態における酸化還元可能な有機化合物としては、充放電に伴う不可逆容量を有する材料を用いた場合について説明する。なお、ここで言う不可逆容量とは、蓄電デバイスの初回充電において充電された電気量のうち、初回放電で放電できない電気量のことであり、つまり容量ロスを意味する。
【0017】
本実施の形態1における蓄電デバイスの構成の一例について、図1を用いて説明する。図1は本発明の蓄電デバイスを模式的に示した概略断面図である。図1において、正極13は、酸化還元可能な有機化合物を活物質として含む電極である。セパレータ14は上記正極13の表面に配置され、必要に応じて電解質溶液が注入され含浸される。負極17は、活性炭を負極活物質として含んだ電極であり、セパレータ14を間に挟んで、正極13と対向するように配置される。これら負極17、セパレータ14、正極13からなる組は、ケース11、封口板15に挟まれるようにして、ガスケット18を用いてカシメられ、密封されて蓄電デバイスが構成される。また、正極13とケース11との間には、必要に応じて正極集電体12が配置され、負極18と封口板18との間には、必要に応じて負極集電体17が配置されている。
【0018】
まず、図2にこの正極の代表的な電極特性を示し、正極活物質を予備充電することによる高容量化の効果について説明する。図2は、縦軸に正極活物質の電位(Li/Li基準)、横軸に電極の蓄電容量(mAh)を表した模式図である。図2中の(a)は、正極活物質の初回充電時の電位変化であり、(b)は初回放電時の電位変化を示している。充放電条件は、充放電電流値0.03mA、上限電圧4.0V、下限電圧3.0Vである。図2に示すように、初回充電時で正極活物質に充電された電気量(0.28mAh)のうち、およそ20%(0.06クーロン)が不可逆容量となり、容量が失われ、その後の充放電に寄与できる可逆容量は(b)と同じ容量(0.22mAh)となる。
【0019】
このように、正極活物質が20%もの大きな不可逆容量を有する場合、この正極活物質を用いた蓄電デバイスの容量は20%よりも大きな容量損失を生じてしまう場合がある。このことについて、図3の正負極の容量バランスの概念図を用いて説明する。図3は左に正極容量、右に負極容量を棒グラフで示した図である。例えば図3に示すように、正極容量(100%)に対して負極容量が40%と小さい場合、1回目の充電によって正極活物質は初回充電容量31(40%)の容量が充電されるが、そのうち半分の容量が正極不可逆容量32(20%)のために利用できなくなってしまい、その後放電される放電容量33(20%)は、充電容量(初回充電容量31)に対して50%となってしまう。このように、正極活物質の20%の不可逆容量のために、蓄電デバイスの容量としては初回充電容量31に対して50%もの大きな容量損失を生じてしまう。
【0020】
これに対して、蓄電デバイス構成前に正極活物質に予備充電処理を施すことによって、蓄電デバイスの容量損失を抑制し、蓄電デバイスを高容量化することができる。このことについて、図4の正負極の容量バランスの概念図を用いて説明する。図4は左に正極容量、右に負極容量を棒グラフで示した図である。
【0021】
例えば、図4のように正極容量(100%)に対して、負極容量が40%と小さい場合であっても、正極の不可逆容量42に対応する容量、すなわち正極容量に対して20%の容量を正極に予備充電しておくことにより、1回目の充電によって充電される初回充電容量41と、その後放電される放電容量43とが等しくなり、正極の不可逆容量に起因する蓄電デバイスの容量低下をなくすることができる。
【0022】
このように正極の不可逆容量に起因する蓄電デバイスの容量低下を低減するためには、予備充電のための電気量は、少なくとも正極の不可逆容量以上であることが有効である。
【0023】
一般的に、リチウムイオン電池では、コバルト酸リチウムに代表される酸化物正極の容量(150mAh/g程度)に対して、黒鉛に代表される負極容量(360mAh/g)が大きく、また、正極活物質も大きな不可逆容量を有さないため、正極予備充電の必要性は小さい。
【0024】
本発明の正極活物質の予備充電は、本電池系のような不可逆容量を有する酸化還元可能な有機化合物正極を用いた蓄電デバイス特有の課題を解決するのに有効である。
【0025】
また、不可逆容量を有する酸化還元可能な有機化合物正極を用いた蓄電デバイスであって、正極より容量の小さな負極、例えば活性炭を負極活物質として含む負極と組み合わせた蓄電デバイスにおいて、より顕著になる特有の課題を解決するのに有効である。
【0026】
具体的には、ラジカルを有する有機化合物を正極活物質として含む正極は、正極容量で77〜111mAh/gが得られることが開示されており(例えば、前述した特許文献2)、またπ電子共役雲を有する有機化合物を正極活物質として含む正極は、正極容量で90〜260mAh/gが得られることが開示されており(例えば、前述した特許文献3、4)、電気二十層キャパシタで用られているような活性炭を負極活物質として含む負極(30mAh/g程度)に比べては非常に大きな値となる。
【0027】
本発明の正極活物質として用いることができる酸化還元可能な有機化合物としては、ラジカルを有する有機化合物が挙げられる。例えば、分子内にニトロキシラジカルと酸素ラジカルとの少なくともいずれかを有する有機化合物がある。具体的には、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル、2,2,5,5−テトラメチル−3−イミダゾリウム−1−ロキシに代表されるニトリキシラジカル類、キノン、ベンゾキノンなどのキノン類があげられる。
【0028】
また、本発明の正極活物質として用いることができる酸化還元可能な有機化合物としては、π電子共役雲を有する有機化合物(以下、π電子化合物とも言う)が挙げられる。
【0029】
本発明のπ電子化合物としては、例えば以下に示す一般式(1)または一般式(2)で表わされる構造を有する有機化合物などが挙げられる。
【0030】
一般式(1):
【0031】
【化1】

【0032】
(式中、Xは硫黄原子、または酸素原子、R〜Rはそれぞれ独立した鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基であり、R、Rはそれぞれ水素原子、鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基であり、前記脂肪族基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子およびハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
一般式(2):
【0033】
【化2】

【0034】
(式中、Xは窒素原子、R〜Rはそれぞれ独立した鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基であり、R、Rはそれぞれ水素原子、鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基であり、前記脂肪族基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子およびハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
また、本発明の別のπ電子化合物としては、例えば以下に示す一般式(3)で表わされる構造を有する有機化合物などが挙げられる。
【0035】
一般式(3):
【0036】
【化3】

【0037】
(式中、X〜Xはそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、R〜Rはそれぞれ独立した鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基であり、前記脂肪族基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
一般式(1)で表される化合物としては、具体的には、例えば一般式(4)で表される化合物や式(5)で表される化合物が挙げられる。
【0038】
一般式(4):
【0039】
【化4】

【0040】
(式中、R〜RおよびR〜R10はそれぞれ鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基であり、前記脂肪族基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子およびハロゲン原子の群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
式(5):
【0041】
【化5】

【0042】
式(5)の化合物は一般式(1)の化合物群の中でも分子量が小さく、早い反応速度が期待される。
【0043】
また一般式(4)の群は2つの5員環に位置された2つのベンゼン環の存在によって2つの5員環から電子が抜き取られるエネルギーレベルが接近し、あたかも1電子反応のように反応が進行する。したがって反応速度が一般式(1)においてR、Rがベンゼン環を含まない場合に比べて早くなる。一般式(4)の化合物の代表例としては、式(6)〜式(9)で表される化合物が好ましい化合物として挙げられる。
【0044】
式(6):
【0045】
【化6】

【0046】
式(7):
【0047】
【化7】

【0048】
式(8):
【0049】
【化8】

【0050】
式(9):
【0051】
【化9】

【0052】
上述した一般式(3)で表される化合物としては、具体的には、例えば一般式(10)〜(13)で表される化合物が挙げられる。
【0053】
一般式(10):
【0054】
【化10】

【0055】
(式中、X〜Xはそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、R〜Rはそれぞれ独立した鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基であり、前記脂肪族基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子およびハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
一般式(11):
【0056】
【化11】

【0057】
(式中、X〜Xはそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、Y、Zはそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、メチレン基よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
一般式(12):
【0058】
【化12】

【0059】
(式中、X〜Xはそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、R、R10はそれぞれ独立した鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基であり、前記脂肪族基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子およびハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
一般式(13):
【0060】
【化13】

【0061】
(式中、X〜Xはそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
また、一般式(1)または(2)の化合物は、低分子から分子量が10000以上の高分子まで正極活物質として活用することができる。高分子になるほど、活物質の電解質溶液中への溶出が抑制される。
【0062】
さらに、上記のような高分子化の利点を生かす形態として、式(14)あるいは式(15)で示す形態のように、一般式(1)の化合物をポリアセチレンやポリメチルメタクリレートなどの別の高分子と結合された化合物の形態がある。これらは、電解質溶液中での安定度が高く好ましい。
【0063】
式(14):
【0064】
【化14】

【0065】
(式中nは1以上の整数)
式(15):
【0066】
【化15】

【0067】
(式中nは1以上の整数)
以上の種々の化合物を正極13に用いる形態では、化合物に電子伝導性を付与する目的で、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子を化合物と混合して用いることができる。
【0068】
またイオン導電性助剤として、ポリエチレンオキシドなどからなる固体電解質、ポリメタクリル酸メチルなどからなるゲル電解質を正極13に混合してもよい。
【0069】
さらに化合物の結着を目的として、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアクリル酸などのバインダーを用いることができる。
【0070】
上記の電極材料は、一般の電池と同様、金属箔、金属メッシュ、導電性フィラーを含む
樹脂フィルムなどの正極集電体12に付与されてもよい。
【0071】
電解質は電解質化合物を含む溶液、さらに上記電解質溶液をポリアクリロニトリル、アクリレートモノマーあるいはメタクリレートモノマーを含む重合体、エチレンとアクリロニトリルの共重合体を用いてゲル化されたポリマー電解質、あるいは固体電解質が適用される。電解質が溶液の場合は電解質溶液がセパレータに含浸されて使用されるのが好ましい。
【0072】
電解質化合物としては、リチウムイオン電池や非水系電気二重層キャパシタに用いることでのできるものは使用可能である。具体的には、以下に挙げるカチオンとアニオンの組み合わせにより形成される塩を用いることができる。カチオン種としては、リチウム、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属カチオンやマグネシウムなどのアルカリ土類金属カチオン、テトラエチルアンモニウムや1、3−エチルメチルイミダゾリウムに代表される4級アンモニウムカチオンを用いることができる。アニオン種としては、ハロゲン化物アニオン、過塩素酸アニオンおよびトリフルオロメタンスルホン酸アニオン、四ホウフッ化物アニオン、トリフルオロリン6フッ化物アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオン、などが挙げられる。これらは単独あるいは混合して用いることができる。
【0073】
電解質自身が溶液状である場合、必ずしもそれらを溶媒と混合しなくとも、単独で用いることも可能である。電解質自身が固体である場合、以下に挙げるような溶媒に溶解させて用いることが必要である。
【0074】
電解質溶液を形成する溶媒には、リチウムイオン電池や非水系電気二重層キャパシタに用いることでのできるものは使用可能である。具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γブチルラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等の非水溶媒が好ましい。これらは単独あるいは混合して用いることができる。
【0075】
その他固体電解質にはLiS−SiS、LiS−B、LiS−P−GeS、ナトリウム/アルミナ(Al)無定形または低相転移温度(Tg)のポリエーテル、無定形フッ化ビニリデン−6フッ化プロピレンコポリマー、異種高分子ブレンド体ポリエチレンオキサイドなどが挙げられる。(いずれも充電時に上記化合物に配位されるカチオンを含むことが必要である)。
【0076】
次に負極17について説明する。負極17としては、リチウムイオン電池等の非水二次電池で用いることのできる負極や電気二重層キャパシタに用いられる電極を用いることができる。
【0077】
リチウムイオン電池等の非水二次電池で用いることのできる負極としては、具体的にはグラファイト、非晶質炭素などの炭素材料、リチウム金属、リチウム含有複合窒化物、リチウム含有チタン酸化物、スズと炭素の複合物、スズと他の金属との複合物、シリコン、シリコン酸化物などを用いることができる。
【0078】
また、電気二重層キャパシタに用いることのできる負極としては、大きな電気二重層容量を有する分極性電極を好適に用いることができる。分極性電極とは、充放電による酸化還元反応が起こらず、イオンの吸脱着により電荷を貯めることのできる電極である。このイオンの吸脱着反応は、π電子化合物を正極活物質として含む正極の反応と同じく、非常に高速反応であるため、高出力な蓄電デバイスを得ることができる。このような、分極性電極を得るための負極活物質としては、活性炭が好適に用いられる。本発明の蓄電デバイスに用いることのできる活性炭は、その種類には寄らず、一般的に電気二重層キャパシタに用いられている活性炭であれば用いることができる。
【0079】
こういった活性炭の製造は、例えば炭素原料(椰子殻、有機樹脂、石油ピッチなど)を不活性ガス、通常は窒素ガス中で900〜1000℃に昇温して炭化した後に、水蒸気を導入することにより、極めて比表面積の高い活性炭を得ることができる。こういった処理により、最大2000m/g程度の比表面積を有する活性炭を得ることができる。活性炭は形状に寄らず、粉末状のものでも用いることが出来るし、また繊維状のものでも用いることが出来る。
【0080】
また、本発明の負極としては、純粋な電気二重層キャパシタに用いられる活物質以外でも、電気化学キャパシタに用いられる活物質も使用可能である。これら活物質は、酸化還元反応の起こらない純粋な分極性電極ではなく、酸化還元反応も含む、いわゆる擬似二重層容量を有する活物質を含んでいる。具体的な活物質材料としては、酸化ルテニウムや酸化イリジウム、酸化マンガン等のような酸化物、インドール系有機化合物、キノン系有機化合物等のような有機化合物、ナノゲートカーボンやカーボンナノチューブ等のようなカーボン材料などが挙げられる。
【0081】
活性炭を負極活物質として用いる形態としては、負極17に電子伝導性を付与する目的で、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子を化合物と混合して用いることができる。
【0082】
またイオン導電性助剤として、ポリエチレンオキシドなどからなる固体電解質、ポリメタクリル酸メチルなどからなるゲル電解質を負極17に混合してもよい。
【0083】
さらに負極活物質の電極への結着を目的として、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ポリテトラフルオロエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロース、アクリロニトリル、ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴム、などのバインダーを用いることができる。
【0084】
上記の電極材料は、一般の電池と同様、金属箔、金属メッシュ、導電性フィラーを含む
樹脂フィルムなどの負極集電体17に付与されてもよい。
【0085】
正極活物質の予備充電の方法に関しては、電気化学的な予備充電方法、化学的な予備充電方法、または電気化学的に酸化還元可能な有機化合物が溶解した溶媒中に接触させることによる予備充電などにより行うことができる。
【0086】
電気化学的な予備充電方法としては、本発明の正極を含むデバイスを構成する前に、正極活物質を電解液に浸漬し、対極との間で充電反応を行った後、充電された正極活物質を取り出し、充電された正極活物質を含む正極を作製し、本発明の負極と対向させ蓄電デバイスを構成することが出来る。また、本発明の正極を含むデバイスを構成する前に、正極活物質を含む正極を電解液に浸漬し、対極との間で充電反応を行った後電解液から取り出し、充電された正極活物質を含む正極を本発明の負極と対向させ蓄電デバイスを構成することが出来る。もしくは、本発明のデバイス構成時に正極、負極に加えて、予備充電のための対極として第三の電極を導入しておき、デバイス動作前に、正極と第三の電極との間で充電反応を行った後に、正極、負極間で蓄電デバイスを動作させることも可能である。
【0087】
化学的な予備充電方法としては、本発明の正極活物質を化学的に充電状態で合成し、充電状態の正極活物質を用いて、正極を構成し、本発明の負極と対向させ蓄電デバイスを構成することが出来る。例えば、π電子化合物であるビスエチレンジチオテトラチアフルバレンを正極活物質として用いる場合、それらの充電状態である、ビスエチレンジチオテトラチアフルバレンカチオンと4フッ化ほう酸アニオン(BF)との塩を、例えば用いることができる。用いることができるアニオン種はこの限りではなく、通常のリチウムイオン電池や電気二重層キャパシタの電解質塩に用いることのできるアニオンであれば何でも用いることができる。
【0088】
電気化学的に酸化還元可能な有機化合物が溶解した溶媒中に正極活物質を接触させることによっても、簡単に正極活物質を予備充電することができる。まず、電気化学的に酸化還元反応が可能な有機化合物を含む溶液を用意する。この溶液中の有機化合物を、正極活物質を予備充電させたい電位まで充電させた後、この溶液中に放電状態の正極活物質または正極活物質を含む正極を接触させるだけでよい。溶液中の充電された有機化合物と正極活物質との間で電子移動がおこる。すなわち、溶液中の有機化合物は放電反応が、正極活物質は充電反応が進行し、この反応は有機化合物と正極活物質とが同電位になるまで自発的に進行し続ける。
【0089】
また、予備充電の電気量は、溶解させる酸化還元可能な有機化合物の電位、濃度、溶液への正極活物質の浸漬時間等で制御することが可能である。溶解させる酸化還元可能な有機化合物としては、ラジカルを有する有機化合物やπ電子化合物のうち、分子量の比較的に小さな化合物が好適に用いられる。電解液への溶解度や電極内部にスムーズに侵入することができるためである。
【0090】
(実施の形態2)
以下、本発明を実施するための第2の形態について説明する。
【0091】
本実施の形態2における蓄電デバイスは、不可逆容量を有さない酸化還元可能な有機化合物を正極活物質として含む正極と、活性炭を負極活物質として含む負極と、電解質とを含み、かつ、正極活物質がデバイス構成前に予備充電されてなる蓄電デバイスである。
【0092】
酸化還元可能な有機化合物の中には、充放電に伴う不可逆容量を有する材料と不可逆容量を有しない材料とがあり、本実施の形態における酸化還元可能な有機化合物としては、充放電に伴う不可逆容量を有しない材料を用いた場合について説明する。なお、ここで言う不可逆容量とは、蓄電デバイスの初回充電において充電された電気量のうち、初回放電で放電できない電気量のことであり、つまり容量ロスを意味する。
【0093】
本実施の形態2における蓄電デバイスの構成については、実施の形態1と同様であるので、説明を省略する。
【0094】
まず、正極活物質として一般式(1)の材料を用いた場合の予備充電の効果について、図5を用いて説明する。
【0095】
図5は、縦軸に正極活物質の電位(Li/Li基準)、横軸に電極の蓄電電気量(クーロン)を表した模式図であり、ここでは充電曲線と呼ぶ。
【0096】
本発明の蓄電デバイスとして用いることのできる正極活物質のうち、一般式(1)で表される材料は、概ね充放電時の正極電位が図5中の実線(線a)で示されるように充電曲線において、1段の電位平坦部を有する材料である。一方、充放電時の負極電位は図5中の点線(b)で示される挙動をとる。図5中の点線(線b)は、正極活物質への予備充電がない場合の負極の電位挙動であり、放電状態での負極電位が3V、充電状態での負極電位が2Vである。この場合、正極電位と負極電位の差となる蓄電デバイスの充電電圧を1.6Vとした場合、蓄電デバイスの0〜1.6Vの電圧範囲を利用することにより0.1クーロンの電気量を蓄電することができる。
【0097】
正極活物質をデバイス構成前に予備充電することにより、例えば図5中の破線(線b)または一点鎖線(線c)で示すように、正負極の容量バランスをずらすことができる。これらの場合、正極電位と負極電位の差となる蓄電デバイスの充電電圧を1.6Vとした場合、蓄電デバイスの0〜1.6Vの電圧範囲を利用することにより、ともにほぼ0.15クーロン程度の容量を蓄電することができ、前述した予備充電がない場合(0.1クーロン)と比較して、50%の容量向上を達成することができる。
【0098】
正極活物質の予備充電により、あらかじめ正極活物質にアニオンを配位させ(充電)、正極の電位を上げておくことができる。予備充電のない場合では、放電末期に正極電位の大きな変動があるが、予備充電をすることにより、正極は、電位平坦部のみを利用することができ、その分負極の利用領域を広げることができ、その結果蓄電デバイスに蓄えることの出来る電気量を増大させることができる。このように、正極活物質が充電曲線において電位平坦部を有している場合、正極活物質の蓄電デバイス構成時の正極電位を予備充電により、正極活物質の充電曲線における電位平坦部内にすることが蓄電デバイスの高容量化にとって有効である。
【0099】
次に、正極活物質として一般式(2)および(3)の材料を用いた場合の予備充電の効果について、図6を用いて説明する。
【0100】
図6は、縦軸に正極活物質の電位(Li/Li基準)、横軸に電極の蓄電電気量(クーロン)を表した模式図であり、ここでは充電曲線と呼ぶ。
【0101】
本発明の蓄電デバイスで用いることのできる正極活物質のうち、一般式(2)および(3)で表される材料は、概ね充放電時の正極電位が図6中の実線(線a)で示されるように複数段の電位平坦部を有する材料である。一方、充放電時の負極電位は図6中の点線(線b)で示される挙動をとる。図6中の点線(線b)は、正極活物質への予備充電がない場合の負極の電位挙動であり、放電状態での負極電位が3V、充電状態での負極電位が2Vである。この場合、正極電位と負極電位の差となる蓄電デバイスの充電電圧を1.3Vとした場合、蓄電デバイスの0〜1.3Vの電圧範囲を利用することにより0.1クーロンの電気量を蓄電することができる。
【0102】
正極活物質をデバイス構成前に予備充電することにより、例えば図6中の破線(線c)で示すように、正負極の容量バランスをずらすことができる。この場合、正極電位と負極電位の差となる蓄電デバイスの充電電圧を1.3Vとした場合、0.15クーロンの容量を蓄電することができ、前述した予備充電がない場合(0.1クーロン)と比較して、50%の容量向上を達成することができる。なお、この場合は、予備充電により、正極活物質の蓄電デバイス構成時の正極電位を、正極活物質の充電曲線における最下段の電位平坦部内にしていることになる。
【0103】
正極活物質の予備充電により、あらかじめ正極活物質にアニオンを配位させ(充電)、正極の電位を上げておくことができる。予備充電のない場合では、放電末期に正極電位の大きな変動があるが、予備充電をすることにより、正極は、電位平坦部のみを利用することができ、その分負極の利用領域を広げることができ、その結果蓄電デバイスに蓄えることの出来る電気量を増大させることができるのである。
【0104】
また、さらに正極活物質の予備充電量を大きくすると、例えば図6中の一点鎖線(線d)で示すように、さらに正負極の容量バランスをずらすことができ、この場合、正極電位の平坦部の高電位側を利用することができ、つまり、蓄電デバイスの電圧を向上させることができ、蓄電デバイスの充電電圧を1.6Vとした場合で、蓄電デバイスの0−1.6Vの電圧範囲を利用することになり、前述した予備充電がない場合(0.1クーロン)、100%の容量向上を達成することができる。なお、この場合は、予備充電により、正極活物質の蓄電デバイス構成時の正極電位を、正極活物質の充電曲線における最下段の電位平坦部よりも上段にある電位平坦部内にしていることになる。
【0105】
このように、本発明の蓄電デバイスにおいて、デバイス構成前に正極活物質を予備充電しておくことにより、正負極の容量バランスを自由に設計することが出来、デバイスの容量向上を実現することが出来る。このように、正極活物質が充電曲線において、少なくとも2つ以上の電位平坦部を有している場合、正極活物質の蓄電デバイス構成時の正極電位を予備充電により、正極活物質の充電曲線における最下段の電位平坦部よりも上段にある電位平坦部内にすることが蓄電デバイスの高容量化にとって有効である。
【0106】
また、一般式(1)、一般式(2)で表される正極活物質ともに、予備充電がない場合は、正極活物質を完全放電の領域まで利用することになるため、正極活物質を平衡電位から、電位3V(Li/Li基準)まで過放電してしまうことになり、活物質材料によっては過放電により活物質を劣化させてしまう危険性がある。正極活物質を予備充電することによって、その危険性も回避することができ、蓄電デバイスの信頼性の向上も期待することができる。
【0107】
本実施の形態において用いることのできる正極活物質、負極活物質、電解質その他の蓄電デバイス構成材料および、正極活物質の予備充電方法は、実施の形態1と同じなので、説明を省略する。
【0108】
(実施例)
以下に本発明の蓄電デバイスについて、実施例とともに詳細に説明する。
【0109】
(実施例1)
本実施例は、正極活物質にラジカルを有する有機化合物を、負極活物質に活性炭を用い、電気化学的に正極活物質を予備充電して得られる蓄電デバイスについて説明する。
【0110】
正極活物質にラジカルを有する有機化合物を代表して、式16に示すポリ(2、2、6、6―テトラメチルピペリジノキシメタクリレート)を用い、正極を作製した。
【0111】
式(16):
【0112】
【化16】

【0113】
上記化合物37.5mgとアセチレンブラック100mgとを均一に混合し、さらにポリテトラフルオロエチエン25mgを加えて混合し、正極活物質合剤を得た。さらに上記正極合剤をアルミニウム金網の上に圧着し、真空乾燥を行ない、これを直径11mmの円盤状に打ち抜き裁断して正極極板を作製した。正極活物質の塗布重量は、極板単位面積あたり2.8mg/cmであった。
【0114】
負極活物質としては、活性炭粉末(比表面積1700m/g、平均粒子径2μm)を用い、負極を作製した。活性炭粉末100mgとアセチレンブラック20mgとを均一に混合し、ポリビニルピロリドン20mg、メタノール800mgを加えてスラリーを調整した。このスラリー状の負極合剤をアルミニウム箔の上に塗布し、真空乾燥を行い、これを直径12mmの円盤状に打ち抜き裁断して負極を作製した。負極活物質の塗布重量は、極板単位面積あたり6.1mg/cmであった。
【0115】
電解質として、1.25mol/L濃度の6フッ化リン酸リチウムを溶解した炭酸エチレンと炭酸エチルメチルを体積比率1:3で混合した有機電解液を用いた。セパレータとして多孔質ポリエチレンシート(厚み20μm)を短絡防止のため2枚重ねにして用い、内部に電解液を含浸させて用いた。
【0116】
これら正極、負極、電解質を、コイン型電池のケースとガスケットを装着した封口板とで挟み、プレス機にてかしめ封口し、図1で示すようなコイン型蓄電デバイスを得た。
【0117】
なお、正極は蓄電デバイスを構成する前に、あらかじめ予備充電処理を行った。
【0118】
予備充電処理は以下の手順で行った。対極として直径13mmに打ち抜いたリチウム箔(厚み200μm)を用い、正極、電解質、セパレータ、は上述と同じものを用い、コイン型蓄電デバイスを構成し、一定電流で充電したのち、コイン型蓄電デバイスを分解し、正極を取り出し、予備充電をした正極を得た。予備充電は、電流値0.1mAで2000秒行った。なお、この予備充電電気量は正極活物質の容量(不可逆容量含む)に対して20%の電気量である。
【0119】
(実施例2)
実施例1と全く同じ構成の蓄電デバイスであって、正極の予備充電量のみ異なる蓄電デバイスを作製した。予備充電は、電流値0.1mAで4000秒行った。なお、この予備充電電気量は正極活物質の容量(不可逆容量含む)に対して40%の電気量である。
【0120】
(実施例3)
本実施例は、正極活物質にラジカルを有する有機化合物を、負極活物質に活性炭を用い、正極活物質を電気化学的に酸化還元可能な有機化合物が溶解した溶媒中に接触させることによって予備充電して得られる蓄電デバイスについて説明する。
【0121】
蓄電デバイスの構成材料である、正極、電解質、セパレータ、負極は実施例1と全く同じものを用いた。正極活物質としては、ポリ(2、2、6、6―テトラメチルピペリジノキシメタクリレート)を用いた。予備充電処理の方法は、実施例1と異なり、以下の方法で行った。
【0122】
電気化学的に酸化還元可能な有機化合物が溶解した溶液として、1mol/Lの6フッ化リン酸リチウム電解質塩を溶解させたプロピレンカーボネート溶媒に、ビスエチレンジチオテトラチアフルバレン酸化体を0.04重量%溶解させた溶液を用いた。なお、この溶液の溶液電位は3.6Vであった。
【0123】
このようにして得た溶液中に、室温で6時間正極を浸漬し、予備充電処理を行った。なお、この予備充電処理による予備充電電気量は正極活物質の容量(不可逆容量含む)に対して30%の電気量であることを確認している。
【0124】
(比較例1)
実施例1と同じ正極を用い、予備充電処理を行わないこと以外は実施例1と同様にしてコイン型蓄電デバイスを構成した。
【0125】
(実施例4)
本実施例は、正極活物質にπ電子化合物を、負極活物質に活性炭を用い、電気化学的に正極活物質を予備充電して得られる蓄電デバイスについて説明する。
【0126】
正極活物質にπ電子化合物を代表して、式17に示すビスエチレンジチオテトラチアフルバレンを用い、正極を作製した。上記化合物37.5mgとアセチレンブラック100mgとを均一に混合し、さらにポリテトラフルオロエチエン25mgを加えて混合し、正極活物質合剤を得た。さらに上記正極合剤をアルミニウム金網の上に圧着し、真空乾燥を行ない、これを直径11mmの円盤状に打ち抜き裁断して正極極板を作製した。正極活物質の塗布重量は、極板単位面積あたり3.0mg/cmであった。
【0127】
式(17):
【0128】
【化17】

【0129】
負極活物質、電解質、セパレータは、実施例1と同じものを用いた。実施例1と同様にして、上記正極を用いたコイン型蓄電デバイスを得た。
【0130】
なお、正極は蓄電デバイスを構成する前に、あらかじめ予備充電処理を行った。
【0131】
予備充電処理は以下の手順で行った。対極として直径13mmに打ち抜いたリチウム箔(厚み200μm)を用い、正極、電解質、セパレータは実施例1と同じものを用い、コイン型蓄電デバイスを構成し、一定電流で充電したのち、コイン型蓄電デバイスを分解し、正極を取り出し、予備充電をした正極を得た。予備充電は、電流値0.1mAで2700秒行った。なお、この予備充電電気量は正極活物質の容量に対して20%の電気量である。
【0132】
(実施例5)
実施例4と全く同じ構成の蓄電デバイスであって、正極の予備充電量のみ異なる蓄電デバイスを作製した。予備充電は、電流値0.1mAで8200秒行った。なお、この予備充電電気量は正極活物質の容量に対して60%の電気量である。
【0133】
(実施例6)
本実施例は、正極活物質にπ電子化合物を、負極活物質に活性炭を用い、正極活物質を電気化学的に酸化還元可能な有機化合物が溶解した溶媒中に接触させることによって予備充電して得られる蓄電デバイスについて説明する。
【0134】
蓄電デバイスの構成材料である、正極、電解質、セパレータ、負極は実施例4と全く同じものを用いた。予備充電処理の方法のみ実施例4と異なり、以下の方法で行った。
【0135】
電気化学的に酸化還元可能な有機化合物が溶解した溶液として、1mol/Lの6フッ化リン酸リチウム電解質塩を溶解させたプロピレンカーボネート溶媒に、ビスエチレンジチオテトラチアフルバレン酸化体を0.04重量%溶解させた溶液を用いた。なお、この溶液の溶液電位は3.6Vであった。
【0136】
このようにして得た溶液に、室温で6時間正極を浸漬し、予備充電処理を行った。なお、この予備充電処理による予備充電電気量は正極活物質の容量(不可逆容量含む)に対して30%の電気量であることを確認している。
【0137】
(比較例2)
実施例4と同じ正極を用い、予備充電処理を行わないこと以外は実施例1と同様にしてコイン型蓄電デバイスを構成した。
【0138】
(比較例3)
実施例1の負極で用いた活性炭電極を2枚用い、1枚を正極として、もう1枚を負極として用い、電解質、セパレータは実施例1と同じものを用い、コイン型蓄電デバイスを構成した。また、予備充電処理は全く行わなかった。
【0139】
作製した実施例1〜6、および比較例1〜3の蓄電デバイスの評価は、0.1mA定電流、2.0Vカット充電、0.1mA定電流、0Vカット放電の条件で行い、初回の充電容量と、その後の放電容量(すなわち可逆充放電容量)を測定した。
【0140】
測定した、初回充電容量と放電容量、およびよび充電容量を並べて表1に示す。
【0141】
【表1】

【0142】
実施例1〜3の正極活物質にラジカルを有する有機化合物を用い、デバイス構成前に予備充電処理を施した蓄電デバイスは、予備充電処理を施さない場合である比較例1に比べて、全て放電容量が大きくなり、蓄電デバイスとして高容量化することができたことを確認した。これは、正極活物質の不可逆容量に起因する容量低下を予備充電により抑制することができたからである。
【0143】
また、予備充電を行わない比較例1の蓄電デバイスは、正負極とも活性炭を用いた従来の電気二重層キャパシタである比較例3よりも小さな容量しか放電できていないが、予備充電電気量が、初回充電容量の20%以上すなわち、正極活物質の有する不可逆容量よりも多くすることにより(実施例1〜3)、従来の電気二重層キャパシタである比較例3よりも大きな容量を放電できた。したがって、予備充電電気量としては、正極活物質の不可逆容量以上であることが有効であるということができる。
【0144】
また、実施例4〜6の正極活物質にπ電子化合物を用い、デバイス構成前に予備充電処理を施した蓄電デバイスは、予備充電処理を施さない場合である比較例2に比べて、全て放電容量が大きくなり、蓄電デバイスとして高容量化することができたことを確認した。また、予備充電を行わない比較例2でも、従来の電気二重層キャパシタである比較例3よりも大きな容量を放電できた。
【0145】
これは、正極活物質に用いたπ電子化合物が大きな不可逆容量をほぼ有さないことと、活物質に用いたπ電子化合物が活性炭よりも高容量であることによると考えられる。
【0146】
また、実施例3および6のように、電気化学的に酸化還元可能な有機化合物が溶解した溶媒中に正極活物質を接触させることによっても、正極活物質が予備充電されており、その結果、蓄電デバイスが高容量化されたということができる。
【産業上の利用可能性】
【0147】
本発明の蓄電デバイスは、高出力、軽量、高容量な蓄電デバイスを提供することができる。これら蓄電デバイスは、各種携帯機器あるいは、輸送機器、無停電電源などの用途に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0148】
【図1】本発明の実施の形態1および2における蓄電デバイスの概略断面図
【図2】本発明の実施の形態1における活物質の電位と活物質の容量との関係を表した概略模式図
【図3】本発明の実施の形態1における蓄電デバイスの正負極の容量バランスの概念図
【図4】本発明の実施の形態1における蓄電デバイスの正負極の容量バランスの概念図
【図5】本発明の実施の形態2における活物質の電位と活物質の容量との関係を表した概略模式図
【図6】本発明の実施の形態2における活物質の電位と活物質の容量との関係を表した概略模式図
【符号の説明】
【0149】
11 ケース
12 正極集電体
13 正極
14 セパレータ
15 封口板
16 負極集電体
17 負極
18 ガスケット
31、41 充電容量
32、42 不可逆容量
33、43 放電容量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、電解質とを含む蓄電デバイスであって、
前記正極活物質が酸化還元可能な有機化合物を少なくとも含んでおり、かつ前記正極活物質がデバイス構成前に予備充電されていること、を特徴とする蓄電デバイス。
【請求項2】
前記負極が分極性電極であること、を特徴とする請求項1記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記負極活物質が活性炭であること、を特徴とする請求項1記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記酸化還元可能な有機化合物が、π電子共役雲を有する有機化合物である、請求項1から3のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
前記酸化還元可能な有機化合物が、ラジカルを有する有機化合物である請求項1から3のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項6】
前記正極活物質の予備充電量が、少なくとも前記正極活物質の不可逆容量以上であること、を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項7】
前記正極活物質が充電曲線において電位平坦部を有し、
前記正極活物質の蓄電デバイス構成時の正極電位が、前記電位平坦部にあること、を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項8】
前記正極活物質が充電曲線において少なくとも2つ以上の電位平坦部を有し、
前記正極活物質の蓄電デバイス構成時の正極電位が、正極活物質の充電曲線における最下段の電位平坦部よりも上段にある電位平坦部にあること、を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項9】
前記正極活物質が、電気化学的に予備充電されていること、を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項10】
前記正極活物質が、電気化学的に酸化還元可能な有機化合物が溶解した溶媒中に前記正極活物質を接触させることによって予備充電されていること、を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項11】
前記正極活物質が化学的に予備充電されていること、を特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項12】
前記π電子共役雲を有する有機化合物は、一般式(1)または一般式(2)で表わされる構造を有する、請求項4記載の蓄電デバイス。
一般式(1):
【化1】


(式中、Xは硫黄原子、または酸素原子、R〜Rはそれぞれ独立した鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基であり、R、Rはそれぞれ水素原子、鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基であり、前記脂肪族基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子およびハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
一般式(2):
【化2】


(式中、Xは窒素原子、R〜Rはそれぞれ独立した鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基であり、R、Rはそれぞれ水素原子、鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基であり、前記脂肪族基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子およびハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)
【請求項13】
前記π電子共役雲を有する有機化合物は、一般式(3)で表わされる構造を有する、請求項4に記載の蓄電デバイス。
一般式(3):
【化3】


(式中、X〜Xはそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子、R〜Rはそれぞれ独立した鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基であり、前記脂肪族基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含む。)


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−281107(P2007−281107A)
【公開日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−103767(P2006−103767)
【出願日】平成18年4月5日(2006.4.5)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】