説明

蓄電デバイス

【課題】強度及び信頼性を有し、低圧作動型の圧力開放機構を備えたハードケースを外装体とした蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】正極、負極、セパレータから成る電極積層体をハードケースで構成される蓄電デバイス容器に収容した蓄電デバイスであって、前記蓄電デバイス容器に少なくとも一つの圧力開放機構1を具備する為の開口部を設け、前記圧力開放機構は、前記開口部を金属樹脂ラミネートフィルムにより封止され、前記金属樹脂ラミネートフィルムの表面の一部又は全部が熱融着樹脂層から成り、前記熱融着樹脂層から成る金属樹脂ラミネートフィルムの一部が切断され、その切断部分の前記熱融着樹脂層が熱融着により封止されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池やキャパシタに代表される、特に内圧が上昇した際に圧力開放する圧力開放機構を備えた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パソコン、デジタルビデオカメラ、デジタルカメラに代表される携帯機器用小型蓄電デバイス(小型二次電池)の分野では、軽量化、小型化及び高容量化のニーズに応えるべく、1990年代初頭より、ニッケルカドミウム電池に続き、新型電池としてニッケル水素電池、リチウム二次電池の開発が進展し、200Wh/l以上の体積エネルギー密度を有する電池が市販されている。特にリチウムイオン電池は、350Wh/l、形状によっては500Wh/lを超える体積エネルギー密度を有するタイプも上市し、その市場を飛躍的に伸ばしてきた。
【0003】
中大型蓄電デバイスの分野では、地球環境問題の観点から、太陽光発電、風力発電、燃料電池や深夜電力活用に対し、定置用分散型蓄電システムのニーズが高まりつつあり、又移動体用として小型電動車両、電気自動車、ハイブリッド車向けの蓄電システムが注目され研究開発、市場への参入が急速に進展している。その様な状況の中、高出力、高エネルギー密度、長期信頼性、高い安全性を有する中大型蓄電デバイスが希求されている。
【0004】
一方、例えば小型携帯機器の分野において、リチウムイオン電池が原因と見られる発火事故も発生しており、今後蓄電デバイスの大型化、高エネルギー密度化、高出力化といった技術革新に伴い、異常時に安全性を確保することは益々困難となってきており、一旦電池内部で異常反応に伴うガス発生により内部圧力が上昇した場合、早期に、より低圧で圧力開放機構(安全弁)を作動させ、内部ガスを放出させることで破裂、発火を抑制する安全機構技術は非常に重要である。
【0005】
円筒型や角型タイプに代表される、主に金属加工品を容器としたハードケースを外装体とする蓄電デバイスにおいて、通常圧力開放機構には、金属板の溝加工品で、その溝部分の金属板が破断され開口する方式が採用されている場合が多い。その作動圧は、一般的には1MPaから3MPaと高圧での内圧開放であり、中大型蓄電デバイスにおいて、異常時に圧力開放機構が作動する時には内部が高圧状態となり、結果的に内部温度が上昇し、破裂、発火といった危険な現象に至る可能性があるという課題があった。
【0006】
上記課題を解決する方法として、特許文献1には、扁平形状を成す蓄電デバイス容器の広平面部に直線状又は曲線状の溝から成る薄肉部を有した0.005MPaから0.12MPaと低圧で作動する圧力開放機構が提案されている。しかしこの圧力開放機構は、外装体の歪み、膨らみにより作動する方式である為、複数の蓄電デバイスからモジュールを組立てた場合、隣接する蓄電デバイスの間に外装体が膨らむ為の最小限の隙間が必要であった。
【0007】
又、軟質なアルミラミネートフィルムを外装体とした蓄電デバイスにおいて、ラミネートフィルム外装の融着部を圧力開放機構とする種々の技術が開示されている。例えば、特許文献2及び3では、電池要素を収容している収容部と、収容部と連通し密閉空間の内圧上昇により膨らむポケットが設けられ、ポケットには、ポケット膨張により0.05MPaから0.2MPaの低い内圧上昇で作動する圧力開放機構が設けられている。しかし、ラミネートフィルムを外装体とした蓄電デバイスは機械的強度が低い為、製造時或いは使用時の落下やハンドリングにおいて、凹み、孔、曲り等が発生することにより、蓄電デバイスが損傷を受けやすいという問題があった。特に中大型タイプのデバイスでは、この機械的強度が低い点より、外装の外側に別途保護ケース等を設ける必要性がある場合が多かった。
【0008】
又、ハードケースを外装体とした蓄電デバイスにおいて、圧力開放用の貫通孔にシート状のラミネートフィルムを熱融着で封止し、ラミネートフィルムを破断させて内部圧力を開放する圧力開放機構を用いた場合、前記金属板溝加工品タイプ(1MPa〜3MPa)より低圧で開口する可能性もあるが、その開口圧は1MPa程度である。又、低圧で圧力開放する目的より、上記ラミネートフィルムに溝加工等を施すと、その溝部分の機械的強度、長期信頼性が低下する。又、更に、特許文献2及び3で開示されている様なラミネート外装の延長上の一部を圧力集中させるポケットとした圧力開放機構を、ハードケース外装体に用いることは、技術的に容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第4348492号
【特許文献2】特許第3859645号
【特許文献3】国際公開第2008/102571号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
中大型蓄電デバイスにおいて、携帯機器用小型電池以上の長期信頼性の確保、製造時のハンドリングを考えた場合、蓄電デバイス容器には金属等で作製された機械的強度が高いハードケースを用いることが好ましい。しかし、ハードケースを外装体とした蓄電デバイスに、特許文献2及び3の様なラミネートフィルムを外装体とした低圧作動型の圧力開放機構を適用することは技術的に困難である。
【0011】
本発明は、蓄電デバイス単体で機械的強度及び信頼性を持つ容器を有し、内部で異常反応に伴うガス発生により圧力上昇した場合、低圧で圧力開放が可能な圧力開放機構(安全弁)を備えた蓄電デバイスを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の様な従来技術の問題点に留意しつつ、研究を進めた結果、下記の蓄電デバイスを見出し、本発明に至った。すなわち本発明は、以下の構成からなることを特徴とし、上記課題を解決するものである。
【0013】
〔1〕正極、負極、セパレータから成る電極積層体をハードケースで構成される蓄電デバイス容器に収容した蓄電デバイスであって、前記蓄電デバイス容器に少なくとも一つの圧力開放機構を具備する為の開口部を設け、前記圧力開放機構は、前記開口部が金属樹脂ラミネートフィルムにより封止され、前記金属樹脂ラミネートフィルムの表面の一部又は全部が熱融着樹脂層から成り、前記熱融着樹脂層から成る金属樹脂ラミネートフィルムの一部が切断され、その切断部分の前記熱融着樹脂層が熱融着により封止されていることを特徴とする蓄電デバイス。
〔2〕前記金属樹脂ラミネートフィルムの前記切断部分の周囲部分の金属樹脂ラミネートフィルムを膨出させることを特徴とする前記〔1〕に記載の蓄電デバイス。
〔3〕前記ハードケースは、金属板或いは樹脂板で構成され、板厚が0.1mm以上3mm以下であることを特徴とする前記〔1〕又は〔2〕に記載の蓄電デバイス。
〔4〕前記蓄電デバイスを拘束部材で拘束することを特徴とする前記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の蓄電デバイス。
〔5〕前記蓄電デバイスを複数の直列或いは並列に積層し、接続するモジュールにおいて、前記蓄電デバイスに設けられた圧力開放機構が、前記蓄電デバイスの蓄電デバイス容器と接触するモジュールケース、拘束部材又は隣接蓄電デバイスの蓄電デバイス容器のいずれにも接触していない部分に設けてあることを特徴とする前記〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ハードケースを外装体とする複数の蓄電デバイスを直列或いは並列に積層し、接続するモジュールにおいて、蓄電デバイス内部で異常反応に伴うガス発生により蓄電デバイス容器の内圧が上昇した際に、低圧で圧力開放させることが可能な圧力開放機構で内部ガスを放出させることにより、異常発熱、破裂、発火といった危険な事態を防止することが可能となる。又、隣接する蓄電デバイス或いは拘束部材により拘束されるモジュールにおいても、圧力開放機構が低圧で作動することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の圧力開放機構の一例を説明する図であり、平面図、断面図(図中X−X’方向、及びY−Y’方向)、及び斜視図で示す。
【図2】本発明の圧力開放機構の一例及びその作製工程を説明する図であり、平面図、断面図(図中X−X’方向、及びY−Y’方向)、及び斜視図で示す。
【図3】本発明の圧力開放機構の一例及びその作製工程を説明する図であり、平面図、断面図(図中X−X’方向、及びY−Y’方向)、及び斜視図で示す。
【図4】図1に示す圧力開放機構を作製する為、材料を膨出成形するまでの工程例を説明する模式図であり、平面図、断面図(図中X−X’方向、及びY−Y’方向)、及び斜視図で示す。
【図5】図1に示す圧力開放機構を作製する為、図4の膨出成形品を用い一旦孔を設け封止することで完成品を得るまでの工程例を説明する模式図であり、平面図、断面図(図中X−X’方向、及びY−Y’方向)、及び斜視図で示す。
【図6】図1に示す圧力開放機構が開口する状態を説明する模式図である。
【図7】図4における金属樹脂ラミネートフィルムを凸状に膨出させる工程について、製造法の一例を説明する図である。
【図8】図1に示す圧力開放機構作製時、図4に示す材料を膨出成形するまでの工程を経た成形品の斜視図である。
【図9】比較例における圧力開放機構の説明図である。
【図10】図1に示す圧力開放機構を備えた蓄電デバイスの模式図である。
【図11】蓄電デバイスの上蓋或いは底容器に開口部を設ける幾つかの箇所の例を示す図である。
【図12】図10に示す蓄電デバイスの内部に収納される電極積層体の断面図であり、一例として多積層構造の場合で示した図である。
【図13】図12に示す積層方式における電極積層体を構成する正極、負極、及びセパレータの平面図である。
【図14】蓄電デバイスの上蓋と底容器の平面図及び側面から見た断面図である。
【図15】電極積層体が電極端子に接続された状態と蓄電デバイス容器に具備された圧力開放機構とを示す断面図である。
【図16】蓄電デバイスの上蓋と底容器が溶接された状態を示す図である。
【図17】蓄電デバイス複数個を直列或いは並列に積層し接続したモジュールの一例を説明する図である。
【図18】本発明の一実施形態の蓄電デバイス容器に圧力開放機構を備える為の説明図である。
【図19】圧力開放機構の形態例を説明する図である。
【図20】圧力開放機構の開口圧力測定試験を説明する概略図である。
【図21】圧力開放機構の開口圧力測定試験結果を示す一覧である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の対象となる蓄電デバイスは、正極、負極、電解質及び正負極を電気的に絶縁するセパレータ、又は正極、負極及び正負極を電気的に絶縁する電解質を具備した蓄電デバイスである。
【0017】
上記の様な蓄電デバイスの一つとして、正極集電体と正極電極層から構成される正極、負極集電体と負極電極層から構成される負極、電解質、及び正負極を電気的に絶縁するセパレータ、或いは正負極を電気的に絶縁するゲル電解質や固体電解質を具備した蓄電デバイスがあるが、その代表的な蓄電デバイスとしては、リチウム二次電池、鉛蓄電池、ニッケルカドミウム電池、ニッケル水素電池、電気二重層キャパシタ、リチウムイオンキャパシタ等が挙げられる。
【0018】
又、本発明は、蓄電デバイスの大きさを問わず、携帯機器用小型蓄電デバイス(小型二次電池)から中大型蓄電デバイスに至るまで、全ての蓄電デバイスを対象とすることができるが、例えばエネルギー容量が10Wh以上、好ましくは30Wh以上の中大型蓄電デバイスに対してその効果は大きい。
【0019】
以下、本発明の好適な実施形態について、適宜、図面を用いて説明するが、本発明は以下の実施形態及び図面に何ら限定されるものではない。
【0020】
本発明の蓄電デバイスは、正極、負極、セパレータから成る電極積層体をハードケースで構成される蓄電デバイス容器に収容し、前記蓄電デバイス容器に少なくとも一つの圧力開放機構1を具備する為の開口部4を設けている。
【0021】
上記蓄電デバイスに用いる電極積層体について、その形状、構造は特に限定されるものではないが、多積層構造、電極積層体を捲回した構造、電極積層体を折り畳む構造等が一般的である。図12は、図10に示す蓄電デバイスの内部に収納される電極積層体の断面図であり、多積層構造の電極積層体の例であるが、両面正極11と両面負極12、片面負極13がセパレータ14を介し積層され電解液を含むものである。
【0022】
又、図13は、図12に示す電極積層体を構成する正極、負極、及びセパレータの平面図を示している。
【0023】
本発明の蓄電デバイスの蓄電デバイス容器は、機械的強度が高いハードケースで構成される。ハードケースの材質は、蓄電デバイスの用途、容量、形状により適宜選択され、特に限定されるものではないが、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム等を材料とする金属板加工品が一般的である。又、ポリプロピレン、ポリエチレンテフタレート等の樹脂製加工品等も使用可能である。
【0024】
上記蓄電デバイス容器の厚さは、蓄電デバイスの用途、容量、形状或いは蓄電デバイス容器の材質により適宜決定され、特に限定されるものではない。好ましくは、その蓄電デバイス表面積の80%以上の部分の厚さ(蓄電デバイス容器を構成する一番面積が広い部分の厚さ)が0.2mm以上である。上記厚さが0.2mm未満では、蓄電デバイスのハンドリング、外的応力に対する十分な強度が得られないことから望ましくなく、この観点から、より好ましくは0.3mm以上である。又、上記厚さは、3mm以下であることが望ましい。厚さが3mmを超えると、電極面を押さえ込む力は大きくなるが、蓄電デバイスの内容積が減少し十分な容量が得られないこと、或いは、容器重量が重くなることから重量当たりのエネルギー密度が低下する為望ましくなく、この観点から、より好ましくは1mm以下である。
【0025】
本発明に係る蓄電デバイスの一例を模式図で図10に示す。図10は、扁平矩形型の蓄電デバイスを示すが、蓄電デバイスの形状は、これに限定されるものではなく、本発明は、円筒型、コイン型、ボタン型、角型等様々な形状の蓄電デバイスに適用できる。図10の扁平矩形型の蓄電デバイスは、上蓋2及び底容器3から成る蓄電デバイス容器内に、前記電極積層体を備えており、図10では図示していない開口部4に圧力開放機構1が設けられている。
【0026】
図10の一部をより詳細に図示したのが、図14及び図16である。図14は、図10に示す蓄電デバイスの上蓋2と底容器3の平面図及び側面から見た断面図を、図16は、図10に示す蓄電デバイスの上蓋2と底容器3が溶接された状態を示す平面図と側面図を示す図である。
【0027】
上記蓄電デバイス容器の上蓋2及び/又は底容器3には、圧力開放機構1を具備する為の開口部4が少なくとも一箇所に設けられる。図11は、蓄電デバイスの上蓋2或いは底容器3に開口部4を設ける幾つかの箇所の例を示す。前記開口部4を設ける箇所は、図11(a)〜(d)等が挙げられる。図11(a)は上蓋2の広平面の一部に、図11(b)は底容器3の広平面の一部に、図11(c)は電極体が挿入されている底容器3の内絞り部分を外した底容器3の平面の一部に、図11(d)は底容器3の側面の一部に開口部4が設けられた例である。又、この開口部4は図11では長方形で例示されているが、長方形に限定されるものではなく、円形、楕円形、正方形、矩形等の形状であっても良く、又、その面積も特に限定されるものではなく、圧力開放機構1の開口圧力、蓄電デバイス容器の形状等により形状及び面積が適宜決定される。
【0028】
本発明の蓄電デバイスは、前記蓄電デバイス容器に少なくとも一つの開口部4を設け、前記開口部4に圧力開放機構1を具備している。前記圧力開放機構は、前記開口部4を金属樹脂ラミネートフィルムにより封止され、前記金属樹脂ラミネートフィルムの表面の一部又は全部が熱融着樹脂層から成り、前記熱融着樹脂層から成る金属樹脂ラミネートフィルムの一部が切断され、その切断部分の前記熱融着樹脂層が熱融着により封止されている。
【0029】
本発明の圧力開放機構は、金属樹脂ラミネートフィルムの切断部分の前記熱融着樹脂層が熱融着により封止されている部分が、圧力開放機構として作動する部分である。又、その部分の形状は、前記切断部分の前記熱融着樹脂層が熱融着により封止されていれば、どの様な形状のものであっても良い。前記形状の例を示すと以下の様なものがある。
【0030】
まず、金属樹脂ラミネートフィルムの中央近傍に切り込み部分を設け、その部分を熱融着で封止した例を図2に示す。図2に示す例では、金属樹脂ラミネートフィルム101の中央近傍に切り込み部分107を設け、切り込み部分107の付近を少し摘みあげ重ねた箇所108を熱融着封止することで圧力開放機構の完成品が得られる。図2では、切り込み部分の形状は直線であるが、切り込み部分は直線でなくても折れ線、曲線であっても良いし、円形、矩形等の各種形状にくり抜き、そこにくり抜いた形状より少し大きめの金属樹脂ラミネートフィルムを用いて熱融着樹脂層を熱融着したものであっても良い。そして、切断(切り込み)部分の形状、長さ及び熱融着部分の寸法等は、圧力開放機構の開口圧力、蓄電デバイス容器の開口部の形状等により適宜決定される。
【0031】
又、一枚の金属樹脂ラミネートフィルムの中央近傍に切り込み部分を設けるものだけではなく、複数枚の金属樹脂ラミネートフィルムを用いてその熱融着部分を有するものであっても良い。図3に示す例では、2枚の金属樹脂ラミネートフィルム101の一部を折り曲げ部分109で折り曲げて対向させ、重ね合わせた部分108を熱融着封止することで圧力開放機構の完成品が得られる。
【0032】
上記した様に、圧力開放機構は、前記開口部を金属樹脂ラミネートフィルムにより封止され、前記金属樹脂ラミネートフィルムの表面の一部又は全部が熱融着樹脂層から成り、前記熱融着樹脂層から成る金属樹脂ラミネートフィルムの一部が切断され、その切断部分の前記熱融着樹脂層が熱融着により封止されていれば良いが、その中でも、前記金属樹脂ラミネートフィルムの前記切断部分の周囲部分の金属樹脂ラミネートフィルムを膨出させてあることが好ましい。
【0033】
更に好ましい例としては、前記金属樹脂ラミネートフィルムの一部を凸状に膨出し、前記凸状に膨出した周囲に蓄電デバイス容器との熱融着部を有し、且つ、凸部の一部が切断され、その切断部分が熱融着により封止されている構造を有するものである。前記金属樹脂ラミネートフィルムの一部に凸状に膨出した部分を作製することにより、その膨出した部分の中央部を切断する工程が容易になり、又、切断部を熱融着により封止する工程において、シール幅、シール長さを精密に制御し、且つ皺無くシールすることが容易となり、圧力開放機構部品に一定の品質を保持させることができる。
【0034】
以下、この前記金属樹脂ラミネートフィルムの一部を凸状に膨出し、前記凸状に膨出した周囲に蓄電デバイス容器との熱融着部を有し、且つ、凸部の一部が切断され、その切断部分が熱融着により封止されている圧力開放機構の一例を説明する。
【0035】
図1は、本発明の圧力開放機構の一例を説明する図であり、平面図、断面図(図中X−X’方向、及びY−Y’方向)、及び斜視図で示す。
【0036】
図1に示す圧力開放機構1は、少なくとも一方の面に熱融着樹脂層を有する金属樹脂ラミネートフィルムで形成され、前記金属樹脂ラミネートフィルムの中心側の一部を凸状に膨出し、前記凸状に膨出した周囲に蓄電デバイス容器と接合させる外側の周囲部106を有し、且つ、凸部の一部103において加工した孔104を熱融着により封止(図中熱融着封止部分105を斜線で示す)されている。
【0037】
上記膨出とは、図1の圧力開放機構1の形状を示す図、及び図4における圧力開放機構を作製する為の材料を凸状に膨出成形するまでの工程例を説明する模式図に示す様に、例えば、膨出させる前の平滑な金属樹脂ラミネートフィルム101を開始材料とし、周囲部106を変形させず、中央部近傍を片面側より応力をかけてフィルムの平面方向に対し垂直方向に凸状に押し出した状態(図中102は膨出した凸部を示す)のことである。
【0038】
図17は、本発明の蓄電デバイス複数個を直列或いは並列に積層し接続したモジュールの一例を説明する図である。図17(a)は、図11(d)に示す底容器3の側面の一部に圧力開放機構1が設けられたタイプの蓄電デバイスを複数個積層し、モジュールケースに組み込んだ場合であり、図17(b)は、図11(b)に示す底容器3の広平面の一部に圧力開放機構1が設けられたタイプの蓄電デバイスを、隣接する蓄電デバイス間に拘束部材114を介して複数個積層し、モジュールケースに組み込んだ場合を説明する模式図である。
【0039】
圧力開放機構1は、蓄電デバイスモジュールにおいて、図17(a)の場合隣接する蓄電デバイスとの非接触部、或いは図17(b)の場合蓄電デバイスと隣接する蓄電デバイス間に介在させる拘束部材114との非接触部に備えることで、所定の圧力で開口することが可能となる。しかし、モジュールにおける隣接する蓄電デバイス間或いは蓄電デバイスと拘束部材114との接触部(重ね合わされた部分)に前記圧力開放機構1を備えると、圧力開放機構の膨張、開口を阻害することとなり、圧力開放機構1が所定の圧力で作動せず好ましくない。又、膨出加工された圧力開放機構が設けられる箇所において、膨出部分が大きく、モジュール内の隣接する蓄電デバイスとの非接触部、或いは蓄電デバイスと拘束部材114との非接触部の空隙に設けることが困難な場合は、膨出部分の一部を折り曲げて収納することも可能である。
【0040】
前記拘束部材114は、複数個から成る蓄電デバイスを直列或いは並列或いは直列と並列の複合により電気的に接続される場合、蓄電デバイス間に介在させ、モジュールケースの周囲部品により固定することで拘束する為に用いる部材である。前記拘束された蓄電デバイスは、電極体への圧力を保持することで信頼性が上がり、拘束部材114の材質に熱伝導性の高い金属等の材料を用いるか、構造に空隙を備えることで高い放熱性を持たせることが可能となり、長期信頼性、耐震動性の向上が期待できる。又、内部ガスが発生した場合、膨れを抑制することで蓄電デバイスの内圧を圧力開放機構に集中させることができ、圧力開放機構を低圧で開口させることが可能となる。
【0041】
上記拘束部材114の材質は、特に限定されるものではなく、例えば金属類、樹脂類で構成された材質が考えられるが、放熱性を重視する場合は、銅、アルミニウム、鉄、ニッケル等を主体とする金属材料が例示される。又、拘束部材114の厚さは、目的とするモジュールのエネルギー密度、拘束部材114の放熱性、材質、形状に応じて適宜決定されるが、好ましくは0.2mm以上5mm未満である。厚さが0.2mm未満では、十分な放熱を得ることが難しくなり好ましくない。又、5mm以上では、モジュールの体積が増大し、結果としてモジュールのエネルギー密度が低下し、モジュールのエネルギー密度をより重視する場合は、好ましくは、2mm以下である。
【0042】
拘束部材114の形状は、高率充放電による温度上昇に対し、優れた放熱特性を必要とする場合、拘束部材114が空隙を有し、その空隙が外気を連通する為の通気路を所持する形状が望ましい。前記空隙が外気と連通することにより、蓄電デバイス内部の蓄熱が外装容器表面より空隙内の空気を媒体として外気へ伝導され大きな放熱効果が期待される。又、その媒体をファン等で強制的に流動させることも可能となる。例えば、前記拘束部材114の空隙は、蓄電デバイスの広平面部との接触面に凹凸形状を有することで蓄電デバイスの容器面に押力を作用させ、且つ放熱用の空気流動経路を確保することができる。その凹凸形状は、蓄電デバイスとの接触面積の観点より、例えば図17に示す様に、拘束部材114の端面部から端面部への溝加工品等が考えられる。前記拘束部材114の溝が溝加工品の場合、溝幅は広過ぎると蓄電デバイスの押圧が不均一となり、狭過ぎると外気を連通する通気路が小さくなる為、1mm以上5mm未満が望ましい。
【0043】
次に本発明の圧力開放機構について説明する。圧力開放機構1の作動圧は、下限が好ましくは0.005MPa以上、より好ましくは0.02MPa以上であり、上限が好ましくは0.5MPa未満、より好ましくは0.3MPa未満である。この作動圧は、蓄電デバイスの形状、蓄電デバイスの容量、電極の設計、使用する電極材料、セパレータ、電解液の種類等により適宜設計されるが、前記下限未満であると通常使用時にも作動してしまう可能性があり好ましくない。又、作動圧が前記上限以上の場合、蓄電デバイス内部でのガス発生により内圧が上昇した際、高圧にならないと圧力開放機構が作動せず結果として内部が異常発熱し、破裂や発火を誘発させる危険性がある。
【0044】
前記圧力開放機構1に用いる金属樹脂ラミネートフィルムは、図6下側に断面図でそのラミネート構造の一例を示すが、金属製基材111及びその金属製基材111の少なくとも片面に設ける熱融着性樹脂層112から構成されていることが必要である。金属製基材111のもう一方の片面に保護樹脂層113を設けた三積層品でも、又その保護樹脂層113が複数層から構成されていてもよい。圧力開放機構において、金属製基材111は所定の機械的強度を保持し、且つピンホールフリーによる密閉性の機能を持ち、熱融着性樹脂層112は一部を熱融着させることで一旦設けた孔を封止し、又、蓄電デバイスの開口部へ熱融着させることで開口部の密閉性と接着性を保持する機能を持っている。又、保護樹脂層113を設けた場合は、外的応力に対し金属製基材111が損傷することを防止する働きがある。
【0045】
金属製基材111には、金属製であれば特に限定されるものではないが、アルミニウム箔、銅箔、鉄箔、ステンレス箔等が考えられ、一般的にはアルミニウム箔が挙げられる。
【0046】
熱融着性樹脂層112としては、加熱により融着可能な樹脂製材料で形成されていれば特に限定されるものではないが、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアミド系樹脂等が挙げられ、ポリプロピレンの酸変性体、或いはポリエチレンの酸変性体より成形されたフィルムが、溶剤に対する耐性が高く、且つ酸変性部で金属と強い接着力を持つ為好ましい。
【0047】
保護樹脂層113の材料についても、限定されるものではないが、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアセタール系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリビニル系樹脂、フッ素系樹脂等が挙げられ、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂等より成形されたフィルムが一般的である。金属樹脂ラミネートフィルムの製造方法については、特に限定されるものではないが、金属性基材箔へ熱融着性樹脂層フィルムや保護樹脂層フィルムを熱融着させるか或いは薄い接着性樹脂層を介して接着することで積層される製造方法が一般的である。
【0048】
次に本発明における圧力開放機構を作製する為の工程の一例について、好ましい形態である金属樹脂ラミネートフィルムの一部を凸状に膨出した形状の場合で説明する。図4に、図1に示す圧力開放機構を作製する為、材料を膨出成形するまでの工程例を説明する模式図を、平面図、断面図(図中X−X’方向、及びY−Y’方向)、及び斜視図で示す。材料である金属樹脂ラミネートフィルム101に対し、図中下側より周囲をそのままの形状で保持しつつ中央部側に応力をかけて膨出させ凸状に成形する。図中、平面図、断面図における点線は、上記の様に立体的に成形された圧力開放機構1の周囲部と凸状に膨出した部分との境界、及び凸状に膨出した部分の稜線を概略示すものである。
【0049】
上記金属樹脂ラミネートフィルムを凸状に膨出させる成形工程に用いる製造法については、特に限定する必要はなく様々な方式が考えられるが、雄型のみ、雌型のみ、或いは雄型及び雌型を用いたプレス加工法や流動体である液体や気体を中央部に印加させる成形法等が一般的である。但し、成形時金属樹脂ラミネートフィルム材料にピンホールが発生すると必要時に開口する圧力開放機構本来の機能を失い、蓄電デバイスからの液漏れや外気混入が発生し実用性を失う為、ピンホールを発生させない成形条件が必要である。
【0050】
図7は、図4における金属樹脂ラミネートフィルム101を凸状に膨出させる工程に対する製造法の一例を説明する図である。図7に示す様に、図中上側に示す窓枠状の金属製加工部品と、図中下側に示す樹脂性のOリングが配置され内部に孔があり加圧用の配管部を備えた金属製加工部品の間に、前記シート状金属樹脂ラミネートフィルム101を挟み、前記上側金属加工部品と下側金属加工部品とをボルトで締結することで、上側金属加工部品と下側金属加工部品との間を隔てる様に密閉し、下部金属製加工部品側より配管を通じ水を媒体として1MPaの加圧力を印加し、金属樹脂ラミネートフィルム101の周囲部は元の形状を保持させつつ、金属樹脂ラミネートフィルム101の中心側が上へ凸状に膨出された金属樹脂ラミネートフィルム(膨出した凸部102、膨出した凸部より外側の周囲部106)を作製した。本例では、金属箔を基材とし、凸状成形後膨出部の外側、図中上側に保護樹脂層フィルムを、凸状成形時水媒体が存在し加圧状態となる膨出部の内側、図中下側に熱融着性樹脂層フィルムを備えた三層金属樹脂ラミネートフィルム構造を用いている。図8は、上記工程を経た後中心側が上へ凸状に膨出された金属樹脂ラミネートフィルムの斜視図である。
【0051】
図5に、図4の膨出成形品を用い、一旦孔を設け封止することで、圧力開放機構部品の完成品を得るまでの工程例を説明する模式図を、平面図、断面図(図中X−X’方向、及びY−Y’方向)、及び斜視図で示す。膨出成形品の膨出した凸部102の先端付近103で所定の部分を摘む様に重ね合わせ、先端に図中太線で示す貫通孔104を一旦設け、その孔を塞ぐ為図中斜線部105をヒートブロック等で熱融着封止することで圧力開放機構1の完成品が得られる。
【0052】
図15は、電極積層体が電極端子(5或いは6)に接続された状態と具備された圧力開放機構1とを示す断面図である。
【0053】
次に、図15(a)左図に示す様に、圧力開放機構1を、圧力開放機構1の中心側膨出加工時変形させていない周囲部106で、蓄電デバイス容器外側より開口部を塞ぐ様に熱融着させて蓄電デバイスの圧力開放機構を形成できる。この場合、図15(a)右図に示す様に、前記熱融着性樹脂層フィルムと蓄電デバイス容器との間に窓枠型樹脂フィルム9を介して接着する方法や、接着剤を塗布して接着する方法等も考えられる。又、前記圧力開放機構1の付け方としては、図15(b)左図に示す様に、前記圧力開放機構1を蓄電デバイス容器内側より開口部を塞ぐ様にはめ込み熱融着して蓄電デバイスの圧力開放機構を形成することも可能である。この場合、金属樹脂ラミネートフィルムの保護樹脂層フィルムに熱融着性材料を用いていない場合は、図15(b)右図に示す様に、前記圧力開放機構1と蓄電デバイス容器との間に窓枠型樹脂フィルム9を介して接着する方法や、接着剤を塗布して接着する方法等も考えられる。
【0054】
本発明における圧力開放機構の動作機構は、図6の圧力開放機構が開口する状態を示す模式図(図中Y−Y’方向断面図)で一例を示す様に、蓄電デバイスの内部でガスが発生した場合、前記金属樹脂ラミネートフィルムの凸状膨出部に圧力がかかり、その熱融着部105が内側からT型剥離の状態に似た形で剥離されて開口する方式であり、下限が0.005MPa以上、上限が0.5MPa未満で作動する低圧作動型圧力開放機構を実現できる。
【0055】
本発明において圧力開放機構1が開口した時には、予め設けた孔104(図中太線)より内部ガスが放出されるが、内部でのガス発生の勢いが激しい場合は、図6の圧力開放機構が開口する状態を示す模式図の様に、その直線状の孔104を起点として主にX−X’方向に金属樹脂ラミネートフィルムの開口部が広がる様に裂けていき、最大で蓄電デバイス容器に設けられた開口部の面積までの大きな孔となることで素早く内部ガスを放出することができる。すなわち低圧で作動できると同時に、内部のガス発生の勢いが大きいほど、大きく開けて早く内部で発生したガスを外部へ放出させるという危険性に対応した特性も合わせ持っている。
【0056】
もし、例えば前記金属樹脂ラミネートフィルムを、図8に示す様な膨出成形したままの状態で、或いは、図9に示す様に膨出成形することなく平滑なフィルムの状態で、前記同様に蓄電デバイス容器開口部を塞ぐ様に熱融着し蓄電デバイスの圧力開放機構とした場合、開口する為には、金属樹脂ラミネートフィルム自身が引っ張り応力により破断するまでの開口圧力が必要となり、その圧力は1MPa以上と高圧である。蓄電デバイス内部でのガス発生による内部圧力が高圧に上昇するまで、圧力開放機構が開口できない場合、内部が異常発熱し破裂や発火を誘発させる危険性があり好ましくない。
【0057】
上記膨出成形する凸部の形状は、蓄電デバイス容器の開口部4の形状や設計開口圧力により適宜決定される。又、蓄電デバイス容器開口部4を塞ぐ為の金属樹脂ラミネートフィルム周囲部106との接着幅は、封止信頼性の観点より好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上が望ましい。凸部の一部101の熱融着部の幅は、所定の開口圧力により適宜決定されるが、封止信頼性の観点より好ましくは1mm以上、より好ましくは2mm以上が望ましい。
【0058】
図1において、凸状に膨出した金属樹脂ラミネートフィルムの凸部の一部103に一旦設けた孔104、及び熱融着封止した部分105の形状についても、蓄電デバイスで設計する圧力開放機構の開口圧力、開口面積により適宜決められるが、幾つかの例を図19(a)〜(c)に示す。尚、圧力開放機構作動時に開口する為の予め設けた孔104を太線で、熱融着封止した部分105を斜線で示している。
【0059】
図19(a)に示す例は、凸部の一部103に直線状の孔104を設け、更に前記孔の中央に長方形状の欠落箇所を設け、孔及び欠落箇所より内側に熱融着して封止している。図19(b)に示す例は、凸部の一部103に直線状の孔104を設け、更に前記孔の中央に半円状の欠落箇所を設け、孔及び半円状の内側に熱融着して封止している。図19(c)に示す例は、凸部の一部103に直線状の孔104を設け、前記孔を熱融着し、更に孔の中央側の一部をより内側まで熱融着しT字状に封止している。上記の如く孔の形状、大きさ等を任意に設計することで、圧力開放機構が作動する圧力及び開口後の面積を変化させることが可能である。
【0060】
上記図19(a)、(b)、(c)の例では、図1に示す直線状孔及び長方形状の封止形状タイプに対し、長方形状や半円状の欠落箇所、或いは内側に突き出した形で熱融着した部分に内部圧力が集中し易く、圧力開放機構の開口圧力を更に低めに設計できる可能性がある。
【0061】
又、本発明による圧力開放機構には、上述の如く金属樹脂ラミネートフィルムを材料に用いており、金属樹脂ラミネートフィルムを外装体に用いた電池で一般的によく使われている材料等を使用することができ、多少の外的応力では不用意に傷が入ることで開口してしまう事態には至らないが、例えば大型モジュールを組み立てる等の作業において、圧力開放機構に工具の先端が接触する可能性がある場合の対策としては、本圧力開放機構の外側に少なくとも一つの孔を設けた保護カバーや開口部を有するメッシュ等の材料で作製した保護カバーを付ける方法を用いることができる。
【実施例】
【0062】
以下、リチウムイオン電池系を一例とし、本発明の実施の形態で説明する。本発明は、これらに限定されるものではなく、その他の電池系やキャパシタ等にも適用可能である。
【0063】
(実施例1)
(1)まず、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物としてLiNi1/3Mn1/3Co1/3、導電材である高比表面積天然黒鉛(BET法比表面積=250g/m)及びアセチレンブラックとを乾式混合した。バインダーであるポリフッ化ビニリデン(PVDF)を溶解させたN−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に、得られた混合物を均一に分散させて、正極スラリーを調製した。次いで、正極スラリーを集電体となるアルミニウム箔(図12中11a)の両面に塗布し、乾燥した後、プレスを行い、正極を得た。
【0064】
正極中の固形分重量比は、リチウムニッケルマンガン系複合酸化物:高比表面積天然黒鉛:アセチレンブラック:PVDF=92:3:2:3となるよう調製した。
【0065】
図13(a)は、正極の説明図である。本実施例において、正極11の塗布面積(W1×W2)は、177×130mmである。又、電極の短辺側には、正極スラリーが塗布されていない集電部11bが設けられている。
【0066】
(2)二重構造黒鉛粒子は、天然黒鉛(平均粒径25μm、タップ密度0.86g/cm)と石油ピッチ(軟化点250℃、トルエン不溶分30%)を混合・焼成して得た。
【0067】
(3)上記(2)で作製した二重構造黒鉛粒子(黒鉛粒子コアの(002)面の面間隔(d002)=0.34nm未満、被覆層の(002)面の面間隔(d002)=0.34nmを越える)及び導電材である人造黒鉛を乾式混合した後、バインダーであるPVDFを溶解させたNMP中に均一に分散させ、負極スラリーを調製した。次いで、負極スラリーを集電体となる銅箔(図12中12a)の両面に塗布し、乾燥した後、プレスを行ない、負極を得た。
【0068】
負極中の固形分比率(重量比)は、二重構造黒鉛粒子:人造黒鉛:PVDF=93:2:5となるよう調製した。
【0069】
図13(b)は、負極の説明図である。負極12の塗布面積(W1×W2)は、181.5×133mmである。又、電極の短辺側には、負極スラリーが塗布されていない集電体の一部12bが設けられている。
【0070】
更に、上記と同様の手法により、銅箔(図12中12a)の片面だけに負極スラリーを塗布し、片面の負極を作製した。片面負極は、後記電極積層体において外側に配置される(図12中13)。
【0071】
(4)図12に示す様に、上記(1)項で得られた正極14を11枚と上記(2)項で得られた両面負極12を10枚、及び片面負極13を2枚とを、セルロース抄紙とポリエチレン製微孔膜とを重ね合わせたセパレータ14を介して交互に積層し、電極積層体を作製した。
【0072】
(5)図14に示す様に、厚さ0.5mmのSUS304製薄板の内側部分を深さ5.5mmに絞り、横148mm、縦210mmの底容器3を作製し、更に前記底容器3の広平面部に横30mm、縦10mmの開口部を設けた。上蓋2も厚さ0.5mmのSUS304製薄板により横148mm、縦210mmで作製した。次いで、上蓋2にアルミニウム製の正極端子5及び銅製の負極端子6(頭部直径6mm、先端M3のねじ部)を取り付けた。正極端子5及び負極端子6は、テフロン(登録商標)製ガスケットにより上蓋2と絶縁した。
【0073】
(6)次に、図7に示す様に、図中上側に示す窓枠状の金属製加工部品と、図中下側に示すフッ素系ゴム製Oリングが配置され内部に孔があり加圧用の配管部を備えた金属製加工部品との間に、図中上側保護樹脂層としてナイロン40μm厚フィルム、及び図中下側熱融着性樹脂層として酸変性ポリプロピレン50μm厚フィルムとでアルミニウム箔40μm厚を挟んで積層された金属樹脂ラミネートフィルム101(50mm×40mm)をセットし、前記上側金属加工部品と下側金属加工部品とをボルトで締結することで、上側金属加工部品と下側金属加工部品との間を上記金属樹脂ラミネートフィルムで隔てる様に密閉した。
【0074】
次に、下部金属製加工部品側より配管を通じ、水を媒体として1MPaの加圧力を印加し、中心側(30mm×20mm)を上方向へ高さ10mmまで凸状に膨出された金属樹脂ラミネートフィルム(膨出した凸部102、膨出した凸部より外側の周囲部分106)を作製した。
【0075】
次に、図5で工程を示す様に、膨出した凸部102の先端付近103を上部より高さ4mmまで摘む様に重ね合わせ、凸部の先端付近103の上部に直線状15mm長さの貫通孔104を設け、前記孔を塞ぐ様に、上部より下方向へ2mm幅、左右方向長さ19mmの部分105に対しヒートブロックを押し当てることで熱融着封止し圧力開放機構部品を作製した。尚、図中、平面図、断面図における点線は、上記の様に立体的に成形された圧力開放機構の周囲部と凸状に膨出した部分との境界、及び凸状に膨出した部分の稜線を概略示している。
【0076】
(7)次いで、図18、及び図15(a)左図に示す様に、前記凸部と周囲部106を有した金属樹脂ラミネートフィルムから成る圧力開放機構部品1を、底容器3の開口部4に周囲4mm幅で熱融着することにより底容器3の開口部4を塞いだ。
【0077】
(8)図15(a)左図に示す様に、上記の工程で作製した電極積層体の各正極集電部図13の11bを正極端子5に、又、各負極集電部図13の12bを負極端子6にそれぞれ超音波溶接で接続した後、接続された電極積層体を絶縁テープで固定し、図16に示す様に、底容器3と上蓋2との周囲で重ね合わせた部分について全周に亘りレーザー溶接した。次いで、図14に示す注液口7(直径6mm)から、電解液(エチレンカーボネート、エチルメチルカーボネートを体積比30:70に混合した溶媒に、全溶媒重量の2重量%に相当する量のビニレンカーボネートを加えた後、1mol/lの濃度にLiPFを溶解した溶液)を注液した。次いで、大気圧下で仮止め用のボルトを用いて注液口7を一旦封口した。
【0078】
(9)25℃中でこの電池を3Aの電流で4.2Vまで充電した後、4.2Vの定電圧を印加する定電流定電圧充電を合計8時間行い、続いて3Aの定電流で3.0Vまで放電した。
【0079】
(10)次に、電池の仮止め用ボルトを取り外した後、容器内部が0.4MPaの減圧下となる様に、直径12mmに打ち抜いた厚さ0.08mmのアルミニウム箔−変性ポリプロピレンラミネートフィルムから成る封口フィルム8(図16)を、温度300℃、圧力0.3MPa、加圧時間10秒の条件で熱融着することにより、注液口7を最終封口して、横148mm×縦210mm×厚さ6.5mmの扁平形状リチウムイオン電池を得た。
【0080】
(11)25℃中でこの電池を用いて3Aの電流で4.2Vまで充電した後、4.2Vの定電圧を印加する定電流定電圧充電を合計8時間行い、続いて3Aの定電流で3.0Vまで放電し、容量を測定したところ、15.4Ahの容量が得られた。この電池のエネルギーは57.0Whであり、エネルギー密度は282Wh/lであった。
【0081】
(実施例2)
実施例1における圧力開放機構の代わりに、実施例1での中心側(30mm×20mm)を上方向へ高さ10mm凸状に膨出された金属樹脂ラミネートフィルム(膨出した凸部102、膨出した凸部より外側の周囲部分106)への孔、封止工程を変更し、図19(a)に示す様に、膨出した金属樹脂ラミネートフィルムの凸部の一部103に直線状15mm長さの孔104を設け、孔の中央に横2mm、縦2mmの欠落箇所を設け、孔及び欠落箇所より内側に2mm幅で熱融着封止した圧力開放機構を用い、蓄電デバイス容器との熱融着部106で蓄電デバイスの底容器3の開口部4を塞ぐ様に接着させ蓄電デバイスを作製した。
【0082】
(実施例3)
実施例1における圧力開放機構の代わりに、実施例1での中心側(30mm×20mm)を上方向へ高さ10mm凸状に膨出された金属樹脂ラミネートフィルム(膨出した凸部102、膨出した凸部より外側の周囲部分106)への孔、封止工程を変更し、図19(b)に示す様に、膨出した金属樹脂ラミネートフィルムの凸部の一部103に直線状15mm長さの孔104を設け、孔の中央に直径2mmの半円状欠落箇所を設け、孔及び欠落箇所より内側に2mm幅で熱融着封止した圧力開放機構を用い、蓄電デバイス容器との熱融着部106を蓄電デバイスの底容器3の開口部4を塞ぐ様に接着させる蓄電デバイスを作製した。
【0083】
(実施例4)
実施例1における圧力開放機構の代わりに、実施例1での中心側(30mm×20mm)を上方向へ高さ10mm凸状に膨出された金属樹脂ラミネートフィルム(膨出した凸部102、膨出した凸部より外側の周囲部分106)への孔、封止工程を変更し、図19(c)に示す様に、膨出した金属樹脂ラミネートフィルムの凸部の一部103に直線状15mm長さの孔104を設け、内側に2mm幅で熱融着し、更に最終的に融着部の形状がT字状となる様に凸部中央側について上記熱融着部より横幅2mm、縦幅2mm内側についても熱融着封止した圧力開放機構を用い、蓄電デバイス容器との熱融着部106を蓄電デバイスの底容器3の開口部4を塞ぐ様に接着させる蓄電デバイスを作製した。
【0084】
(実施例5)
実施例1における圧力開放機構の代わりに、図2に示す様に、実施例1における膨出工程前の金属樹脂ラミネートフィルム(50mm×40mm)の中心近傍に直線状10mm長さの貫通孔である切り込み部分107を設け、切り込み部分付近を高さ5mmまで摘み上げ斜線部分108で熱融着封止した圧力開放機構を用い、蓄電デバイス容器との熱融着部106で蓄電デバイスの底容器3の開口部4を塞ぐ様に接着させる蓄電デバイスを作製した。
【0085】
(実施例6)
実施例1における圧力開放機構の代わりに、図3に示す様に、実施例1における膨出工程前の金属樹脂ラミネートフィルム(縦40mm×横30mm)を2枚用意し、点線109で折り曲げ対向させて、図中上部の重ね合わせた部分108を熱融着封止した圧力開放機構を用い、蓄電デバイス容器との熱融着部106で蓄電デバイスの底容器3の開口部4を塞ぐ様に接着させる蓄電デバイスを作製した。
【0086】
(比較例1)
実施例1における圧力開放機構の代わりに、実施例1での中心側(30mm×20mm)を上方向へ高さ10mm凸状に膨出された金属樹脂ラミネートフィルム(図8)を後工程の孔開け封止工程無しの状態のまま圧力開放機構として用い、周囲部106で蓄電デバイスの底容器3の開口部4を塞ぐ様に加熱により接着させる蓄電デバイスを作製した。
【0087】
(比較例2)
実施例1における圧力開放機構の代わりに、実施例と同構成で膨出成形加工していない図9(a)に示す様なシート状の金属樹脂ラミネートフィルムを圧力開放機構として用い、電池の底容器3の開口部4を塞ぐ様に加熱により接着させた圧力開放機構を有する蓄電デバイスを作製した。
【0088】
これらの実施例1〜4及び比較例1〜2の蓄電デバイスに、蓄電デバイスを複数積層し接続するモジュールを想定した評価試験を実施する目的より、図20に示す様に、蓄電デバイスを拘束部材114により挟持させ、Nガス配管115を接合し、注液口7(図14中7)より内圧を徐々に上昇させ、圧力開放機構が開口する圧力を圧力計116により測定する方法で、圧力開放機構の開口圧力測定試験を実施した。
【0089】
圧力開放機構開口圧力測定試験の結果を図21に示す。実施例と比較例より、実施例1〜6ではいずれも開口圧力が0.3MPa以下と低圧で開口する圧力開放機構を得ることができた。実施例1に対し、実施例2、3、4では中央部分へ剥離応力が集中する為より開口圧力が低い結果となった。比較例において、比較例1と2の開口圧力は2MPa以上と高圧でしか作動しなかった。以上の実施例と比較例試験結果より、本発明による蓄電デバイスの圧力開放機構は、信頼性が高く、且つ低圧で開口することを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明の圧力開放機構を用いれば、ハードケースの中大型蓄電デバイスにおいて、内部で異常反応に伴うガス発生により蓄電デバイス容器の内圧が上昇した場合、圧力開放機構より低圧で圧力開放することにより、異常発熱、破裂を抑制することが可能となり安全性の高い蓄電デバイスを提供することができる。
【符号の説明】
【0091】
1 圧力開放機構
2 上蓋
3 底容器
4 開口部
5 正極端子
6 負極端子
7 注液口
8 封口フィルム
9 窓枠型樹脂フィルム
11 両面正極
11a 正極集電体
11b 正極集電体の一部
12 両面負極
12a 負極集電体
12b 負極集電体の一部
13 片面負極
14 セパレータ
101 膨出させる前の金属樹脂ラミネートフィルム
102 膨出した凸部
103 膨出した凸部の先端付近
104 膨出した凸部に設けた孔
105 膨出した凸部に設けた孔を熱融着封止した部分
106 外側の周囲部
107 切り込み部分
108 熱融着封止した部分
109 折り曲げ部分
111 金属樹脂ラミネートフィルムの金属製基材
112 金属樹脂ラミネートフィルムの熱融着性樹脂層
113 金属樹脂ラミネートフィルムの保護樹脂層
114 蓄電デバイスの拘束部材
115 Nガス配管
116 圧力計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、セパレータから成る電極積層体をハードケースで構成される蓄電デバイス容器に収容した蓄電デバイスであって、前記蓄電デバイス容器に少なくとも一つの圧力開放機構を具備する為の開口部を設け、前記圧力開放機構は、前記開口部が金属樹脂ラミネートフィルムにより封止され、前記金属樹脂ラミネートフィルムの表面の一部又は全部が熱融着樹脂層から成り、前記熱融着樹脂層から成る金属樹脂ラミネートフィルムの一部が切断され、その切断部分の前記熱融着樹脂層が熱融着により封止されていることを特徴とする蓄電デバイス。
【請求項2】
前記金属樹脂ラミネートフィルムの前記切断部分の周囲部分の金属樹脂ラミネートフィルムを膨出させることを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記ハードケースは、金属板或いは樹脂板で構成され、板厚が0.1mm以上3mm以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記蓄電デバイスを拘束部材で拘束することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
前記蓄電デバイスを複数の直列或いは並列に積層し、接続するモジュールにおいて、前記蓄電デバイスに設けられた圧力開放機構が、前記蓄電デバイスの蓄電デバイス容器と接触するモジュールケース、拘束部材又は隣接蓄電デバイスの蓄電デバイス容器のいずれにも接触していない部分に設けてあることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の蓄電デバイス。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate


【公開番号】特開2013−8590(P2013−8590A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−141087(P2011−141087)
【出願日】平成23年6月24日(2011.6.24)
【出願人】(591167430)株式会社KRI (211)
【Fターム(参考)】