説明

蓄電装置

【課題】シリコンを負極活物質に用いる場合において、放電容量を高める等の蓄電装置の性能を向上させることが可能な蓄電装置及びその作製方法を提供する。
【解決手段】集電体と、集電体上の活物質層としての機能を有するシリコン層と、を有し、
シリコン層は、集電体と接する薄膜状の部分と、複数の株と、複数の株のそれぞれから伸長した複数のウィスカー状の突起と、を有し、複数の株の一から伸長した突起と、複数の株の他の一から伸長した突起とが、部分的に結合している蓄電装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置及びその作製方法に関する。
【0002】
なお、蓄電装置とは、蓄電機能を有する素子及び装置全般を指すものである。
【背景技術】
【0003】
近年、エネルギー資源の制約や環境問題等の解決の一環として、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、及び空気電池等の蓄電装置の開発が盛んに行われている。
【0004】
蓄電装置用の電極は、集電体の一表面に活物質を形成することにより作製される。活物質には、例えば炭素又はシリコンのような、キャリアとなるイオンの吸蔵及び放出が可能な材料が用いられる。例えば、シリコン又はリンがドープされたシリコンは、炭素に比べて理論容量が大きく、蓄電装置の大容量化という点において優れている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−210315号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、シリコンを負極活物質に用いても、理論容量ほど高い放電容量を得ることは困難である。そこで、放電容量を高める等の蓄電装置の性能を向上させることが可能な蓄電装置及びその作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで発明者らは、ウィスカー状のシリコンを有するシリコン層を負極活物質として集電体上に用いた蓄電装置を作製した。このようなウィスカー状の突起を負極活物質の一部として有することで、活物質層の表面積が増大する。表面積の増大に伴い、蓄電装置におけるリチウムイオン等の反応物質がシリコン層に吸蔵される速度、または反応物質がシリコン層から放出される速度は、単位質量あたりで増大する。反応物質の吸蔵または放出の速度が増大することで、高電流密度での反応物質の吸蔵量または放出量が増大するため、蓄電装置の放電容量または充電容量が高まる。すなわち、活物質層としてウィスカー状のシリコンを有するシリコン層を用いることで、蓄電装置の性能を向上させることができる。
【0008】
本発明の一形態は、集電体と、集電体上に形成される活物質層として機能するシリコン層とを有し、シリコン層は薄膜状の部分(以下、薄膜部という。)と、複数のウィスカー状(髭状、紐状、または繊維状)の部分(以下、単にウィスカーという。)とを有し、複数のウィスカーの根元は共有され株状の部分(以下、単に株という。)を形成している蓄電装置である。集電体上に形成される複数のウィスカーは、その形成過程において、一部は株状に根元が集合して伸長する。株は、平面的には薄膜部の中に複数点在し、縦断面的には集電体上に形成される。換言すれば、株は複数のウィスカーの束であり、また、ウィスカー群として把握することができる。複数のウィスカーの根元の集合である株は、薄膜部中及び薄膜部上に形成され、株から複数のウィスカーに枝分かれして突出する。ただし、シリコン層のすべてのウィスカーが必ずしも株として集合して成長するものではなく、一部は単体のウィスカーとして独立して集電体上で成長するものもある。
【0009】
集電体は、チタン、白金、アルミニウム、銅に代表される金属元素等の導電性の高い材料を用いることができる。また、集電体は、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成することができる。
【0010】
ウィスカーは、屈曲又は枝分かれした部位を有する突起であり、根元から所定の方向又は任意の方向に伸長している。本願発明において、伸長とはウィスカーが成長して長くなることをいう。ウィスカーの形状は、例えば円柱状、角柱状等の柱状、円錐状又は角錐状の針状である。
【0011】
シリコン層は、シリコンを含む堆積性ガスを原料ガスに用いて、減圧化学気相成長法(以下、減圧CVD法又はLPCVD(Low Pressure ChemicalVapor Deposition)法ともいう。)により形成する。LPCVD法は、反応空間にシリコンを含む堆積性ガスを有する原料ガスを供給して500℃より高い温度で行う。これによりシリコン層の薄膜部が集電体上に形成されると共に、ウィスカーが成長する。
【0012】
ところで、放電容量の増大のため株状のウィスカー群を近接して形成した場合には、キャリアとなるイオンの吸蔵に伴い、株自体が体積膨張する。このため、株同士が接触することにより、シリコン層が集電体から剥離するおそれがある。また、ウィスカーは細長い髭状、紐状、または繊維状の形状であるため、一般に機械的強度が低く、物理的な衝撃に弱い。このため、特に捲き取り機を用いた捲回電極体を製造する場合等においては、ウィスカーを有するシリコン層が破損するおそれがある。
【0013】
そこで、本発明の一態様は、一の株から伸長するウィスカーと、それとは異なる株から伸長するウィスカーとが部分的に結合することで当該結合したウィスカーによって異なる複数の株が架橋された構造を有する蓄電装置である。また、本発明の一態様は、一の株から伸長するウィスカーと、それとは異なる株から伸長するウィスカーとが部分的に結合し、さらに交差することで、当該結合したウィスカーによって異なる複数の株が架橋された構造を有する蓄電装置である。
【0014】
ウィスカーは、軸となる芯の部分は結晶質のシリコンからなり、その周辺部分である外殻は非晶質構造(アモルファス構造)のシリコンからなることが好ましい。ウィスカーの伸長は芯の部分の結晶成長により進み、芯を覆うように芯の周辺に非晶質構造のシリコンが形成される。
【0015】
一の株から伸長するウィスカーと、それとは異なる株から伸長するウィスカーとが接触した場合、その接触点においてウィスカー同士は接触し結合する。その後、それぞれのウィスカーは今まで伸長してきた方向に向けてさらに伸長する場合がある。この場合、さらに伸長を続ける当該ウィスカーが他のウィスカーと結合する場合もある。このように、他の株から生じた複数のウィスカーが結合して架橋構造を形成することで、ウィスカー全体の機械的強度が向上する。
【発明の効果】
【0016】
従来はシリコンを負極活物質に用いても、理論容量ほど高い放電容量を得ることは困難であった。本発明においては、ウィスカー状の突起を負極活物質の一部として有することで、活物質層の表面積が増大し、蓄電装置における反応物質のシリコン層への吸蔵速度、放出速度が増加し、蓄電装置の放電容量または充電容量が高まる。すなわち、活物質層としてウィスカー状のシリコンを有するシリコン層を用いることで、蓄電装置の性能を向上させることができる。
【0017】
また、複数のウィスカーが集合して株状に発生し、一つの束としてウィスカー群が形成されることから、ウィスカーが単独で集電体上に形成される場合と比べ、下地である集電体との密着性を向上させるとともに、物理的な強度を併せて向上させることができる。
【0018】
また、複数の株から生じるウィスカーが結合し架橋構造を有することで、ウィスカー自体の強度を向上させることができる。すなわち、架橋構造を有していない単独のウィスカーがセル組み等の蓄電装置の製造工程等で生じるおそれのある物理的衝撃等に対して脆弱であるのに比べ、当該構造によって機械的強度を向上させることができる。
【0019】
また、活物質層の成膜時間を長くすると、ウィスカーの径を太くすることができる。このため、所定の径を有するウィスカーにより架橋構造を形成することで、物理的強度をさらに高めることができる。
【0020】
また、株を近接して形成した場合に体積膨張に起因して生じる活物質層(シリコン層)の剥がれを、ウィスカー同士の結合により抑制することができる。これにより蓄電装置の劣化を低減することができる。
【0021】
また、異なる株から伸長するウィスカーを複数結合させ複雑な架橋構造を形成することにより、活物質層としての表面積を増加させることができ、このため複数の株を疎に点在して形成することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一形態である活物質層の構造を説明する図。
【図2】ウィスカーの内部構造を説明する図。
【図3】蓄電装置の一形態を説明するための平面図及び断面図。
【図4】蓄電装置の応用の形態を説明するための図。
【図5】活物質層の構造を示すTEM写真。
【図6】ウィスカーの構造を示すTEM写真。
【図7】ウィスカーの成長の様子を示すSEM写真。
【図8】ウィスカーの架橋構造を示すSEM写真。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、実施の形態について説明する。但し、実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、以下の実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0024】
(実施の形態1)
本実施の形態では、本発明の一態様である蓄電装置の電極及びその作製方法について説明する。
【0025】
蓄電装置の電極及びその作製方法について、図1を用いて説明する。
【0026】
図1(A)に示すように、集電体100上に、熱CVD法、好ましくはLPCVD法により、シリコン層を活物質層101として形成する。そして、集電体100及び活物質層101を有する電極を形成する。
【0027】
集電体100は、電極の集電体として機能する。このため、箔状、板状、または網状の導電性部材を用いる。集電体100は、特に限定されないが、チタン、白金、アルミニウム、銅等に代表される導電性の高い金属元素を用いることができる。なお、集電体としてアルミニウムを用いる場合は、シリコン、チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用いることが好ましい。また、集電体100として、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素を用いてもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。
【0028】
活物質層101としてシリコン層をLPCVD法により形成する。複数のウィスカーを有する活物質の形成時の温度は、400℃より高く、且つ、LPCVD装置及び集電体100が耐えうる温度以下とすればよく、好ましくは500℃以上580℃未満とするとよい。原料ガスとしてシリコンを含む堆積性ガスを用いる。シリコンを含む堆積性ガスとしては、水素化シリコン、フッ化シリコン、または塩化シリコンがあり、代表的には、SiH、Si、SiF、SiCl、SiCl等がある。なお、原料ガスに、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノン等の希ガス、及び水素の一以上を混合させてもよい。
【0029】
また、複数のウィスカーを形成する際の圧力は10Pa以上1000Pa以下、好ましくは20Pa以上200Pa以下とするとよい。
【0030】
また、シリコンを含む堆積性ガスの流量を多くすると堆積速度(デポレート)が速くなるため、非晶質構造となりやすく、シリコンを含む堆積性ガスの流量を少なくすると堆積速度が遅くなるため、結晶質構造となりやすい。そこで、シリコンを含む堆積性ガスの流量は、堆積速度等を考慮して適宜選択すればよい。例えば、シリコンを含む堆積性ガスの流量は、300sccm以上1000sccm以下とすればよい。
【0031】
なお、活物質層101に不純物として酸素が含まれている場合がある。これは、活物質層101として、LPCVD法でシリコン層を形成する際の加熱により、LPCVD装置の石英製のチャンバーから酸素が脱離し、シリコン層に拡散するためである。
【0032】
なお、シリコン層に、リン、ボロン等の一導電型を付与する不純物元素が添加されていてもよい。リン、ボロン等の一導電型を付与する不純物元素が添加されたシリコン層は、導電性が高くなるため、電極の導電率を高めることができる。このため、放電容量又は充電容量をさらに高めることができる。
【0033】
活物質層101として、LPCVD法を用いてシリコン層を形成すると、集電体100及び活物質層101の間に低密度な領域が形成されず、集電体100及びシリコン層の界面における電子の移動が容易となると共に、密着性を高めることができる。これは、シリコン層の堆積工程において、常に原料ガスの活性種が堆積中のシリコン層に供給されるため、シリコン層から集電体100にシリコンが拡散し、シリコン不足領域(粗な領域)が形成されても、当該領域に原料ガスの活性種が常に供給され、シリコン層中に低密度領域が形成されにくくなるためである。また、気相成長により集電体100上にシリコン層を形成するため、スループットを向上させることができる。
【0034】
特に、薄膜部102が、結晶質であるよりも非晶質構造である方が好ましい。これは、非晶質構造の方が、集電体100の表面と整合するように形成されやすいためである。さらに、本形態を蓄電装置に搭載した場合、イオンの吸蔵及び放出に伴う体積変化に強い(例えば、体積膨張に伴う応力を緩和する)ため、繰り返しの充放電によって、活物質層101(特にウィスカー)が微粉化及び剥離することを防止でき、サイクル特性がさらに向上した蓄電装置を作製することができる。
【0035】
また、薄膜部102が結晶質構造の場合、導電性及びイオン移動度に優れているため、活物質層101全体として導電性をさらに向上させることができる。つまり、本形態を蓄電装置に搭載した場合、さらに高速な充放電が可能となり、充放電容量がさらに向上した蓄電装置を作製することができる。
【0036】
ここで、活物質層101の具体的な構造の例を図1(A)〜(C)に示す。
【0037】
図1(A)は、活物質層におけるウィスカーの成長途中の段階での株を示す図である。活物質層101は、薄膜状の部分(薄膜部)102と、当該薄膜部内または薄膜部上に形成される株103aと、ウィスカー状の部分(ウィスカー)103bとを有する。ここで薄膜部102は非晶質シリコンで形成することができる。この場合、株が体積膨張した場合であっても、薄膜部により当該膨張による歪みを吸収することができる。また薄膜部102を結晶質シリコンで形成した場合には、活物質としての高い導電性を有することができる。薄膜部102は、集電体100を覆うように設けられる。
【0038】
また、ウィスカー103bは、髭状(または紐状、繊維状)の突起として複数設けられている。複数のウィスカーの根元は互いに共有され、束ねられ、株103aを形成している。見方を変えると、株103aから複数のウィスカー103bが個々任意の方向へ伸長しているともいえる。株は複数のウィスカーの束であり、また、ウィスカー群として把握できる。株103aは、平面的には薄膜部102の中に複数点在し、縦断面的には集電体100上に形成される。
【0039】
図1(B)は、集電体100上に形成された二つの株(103a及び104a)及びウィスカーの状態を示す図である。株の発生段階においては、それぞれの株から個々成長するウィスカー103bと104bは結合していない。二つの株(103a及び104a)は所定の間隔をおいて発生する。この間隔は特に限定されないが、例えば1μm以上10μm以下であればよく、好ましくは1μm以上5μm以下である。二つの株の間隔が広すぎる場合、それぞれの株からウィスカーが成長してもウィスカー同士の結合が確率的に低下するため困難となり、また結合しても機械的強度が十分維持できない。他方、二つの株の間隔が狭すぎる場合には、キャリアとなるイオンの吸蔵による株の体積膨張により、株同士が接触して膜剥がれの原因となる。
【0040】
図1(C)は、図1(B)に示す状態からさらに活物質層の成膜時間が経過したときの、ウィスカーの状態を示す図である。時間経過とともにウィスカー103b、104bは、それぞれ任意の方向に伸長する。このとき、ウィスカー103bとウィスカー104bとがそれぞれ伸長することにより接触し、結合部105、106を形成する場合がある。異なる株からのウィスカーの接触確率は、株同士の距離が近い程高く、また一つの株から伸長するウィスカーの本数が多い程高い。ウィスカー同士の結合によって、株同士が結合を果たし、結果として株同士の架橋構造が完成する。
【0041】
ウィスカーは他のウィスカーと結合した後、その一方の伸長が止まる場合もあり、また、交差する形でウィスカーの双方がそれぞれの成長方向を維持したまま伸長を続ける場合もある。
【0042】
図2に示すように、活物質層101において、複数のウィスカー103bは、結晶性を有する構造である芯107aと、非晶質構造である外殻107bで形成されていることが好ましい。外殻である非晶質構造は、イオンの吸蔵及び放出に伴う体積変化に強い(例えば、体積膨張に伴う応力を緩和する)という特色を有する。また、芯である結晶性を有する構造は、導電性及びイオン移動度に優れており、イオンを吸蔵する速度及び放出する速度が単位質量あたりで速いという特徴を有する。従って、芯及び外殻を有する複数のウィスカー状の活物質を備える電極を用いることで、高速に充放電が可能となり、充放電容量及びサイクル特性が向上した蓄電装置を作製することができる。
【0043】
また、複数のウィスカーは上記構成に限らず、ウィスカー103bの全てが結晶性を有する構造であってもよく、ウィスカー103bのすべてが非晶質構造であってもよい。
【0044】
複数のウィスカー103bは、柱状(円柱状または角柱状)であってもよいし、錐状(円錐状または角錐状、針状と呼んでもよい。)でもよい。また、該複数のウィスカーの頂部は、湾曲していてもよい。
【0045】
また、複数のウィスカーの長手方向は、同一方向に揃っていなくてよい。ウィスカーの輪切り表面(ウィスカーの長手方向に対し垂直な方向の面)には、場所によって、芯107aが観察される場合もあるし、観察されない場合もある。また、ウィスカー状の活物質の輪切りの断面は、ウィスカーが円柱状または円錐状である場合には円形であるが、ウィスカーが角柱状または角錐状である場合には多角形状である。ウィスカーの長手方向が不揃いであると、一のウィスカーと他のウィスカーとが複雑に接する場合があるため、充放電時にウィスカー状の活物質の剥離(または脱離)が生じにくく好ましい。
【0046】
なお、ウィスカーが薄膜部102から伸張している方向を長手方向と呼び、ウィスカーの長手方向に対し垂直な方向の面を輪切り表面と呼ぶ。
【0047】
芯107aの輪切り表面における幅は、0.2μm以上3μm以下であればよく、好ましくは0.5μm以上2μm以下であればよい。
【0048】
また、芯107aの長さは特に限定されないが、0.5μm以上1000μm以下とすればよく、好ましくは2.5μm以上100μm以下であればよい。
【0049】
また、株103aについて、輪切り表面における幅は、株が複数のウィスカーの集合であることから、株を構成するウィスカーの本数によるが、例えば500nm程度である。
【0050】
本実施の形態に示す蓄電装置の電極は、活物質層として機能するシリコン層中に少なくともウィスカーの根元が集合した株を、複数を有する。また、異なる株から発生したウィスカー同士が結合し、架橋構造を有する。このため、ウィスカーを含むシリコン層の機械的強度を高めることが可能であるため、放電容量又は充電容量を高めると共に、蓄電装置の劣化を低減することができる。
【0051】
なお、図1においては、集電体100は、箔状、板状、または網状の導電性部材で形成される形態を示したが、基板上に、スパッタリング法、蒸着法、印刷法、インクジェット法、CVD法等を適宜用いて、集電体を膜状に形成することができる。
【0052】
本実施の形態により、放電容量又は充電容量が増大する等、性能が向上した蓄電装置を提供することができる。また、活物質層の剥がれ等による蓄電装置の劣化を低減することができる蓄電装置を提供することができる。
【0053】
(実施の形態2)
本実施の形態では、本発明の一態様に係る蓄電装置について説明する。
【0054】
本発明の一態様に係る蓄電装置は、少なくとも、正極、負極、セパレータ、電解液で構成され、実施の形態1に記載した電極を負極に搭載している。
【0055】
電解液は、塩を含む非水溶液又は塩を含む水溶液である。当該塩は、キャリアイオンであるアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、又はマグネシウムイオンを含む塩であればよい。アルカリ金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、又はカリウムイオンがある。アルカリ土類金属イオンとしては、例えばカルシウムイオン、ストロンチウムイオン、又はバリウムイオンがある。本実施の形態において、当該塩は、リチウムイオンを含んだ塩(以下、含リチウム塩という)とする。
【0056】
上記構成とすることで、リチウムイオン二次電池又はリチウムイオンキャパシタとすることができる。また、塩を用いず、溶媒のみを電解液として用いることで、電気二重層キャパシタとすることができる。
【0057】
ここでは、リチウムイオン二次電池について図面を参照して説明する。
【0058】
図3(A)に蓄電装置300の構造の一例を示す。また、図3(B)は、図3(A)の一点鎖線X−Yの断面図である。
【0059】
図3(A)に示す蓄電装置300は、外装部材302の内部に蓄電セル304を有する。また、蓄電セル304に接続する端子部306、端子部308を有する。外装部材302は、ラミネートフィルム、高分子フィルム、金属フィルム、金属ケース、プラスチックケース等を用いることができる。
【0060】
図3(B)に示すように、蓄電セル304は、負極310と、正極312と、負極310及び正極312の間に設けられるセパレータ314と、外装部材302中を満たす電解液316とで構成される。
【0061】
負極310は、負極集電体315及び負極活物質層317で構成される。負極活物質層317は、負極集電体315の一方又は両方の面に形成される。また、負極集電体315は、端子部308と接続され、端子部308の一部が外装部材302の外側に導出されている。
【0062】
正極312は、正極集電体318及び正極活物質層320で構成される。正極活物質層320は、正極集電体318の一方又は両方の面に形成される。また、正極312には正極集電体318及び正極活物質層320の他にバインダ及び導電助剤が含まれていてもよい。また、正極集電体318は、端子部306と接続される。また、端子部306及び端子部308は、それぞれ一部が外装部材302の外側に導出されている。
【0063】
なお、本実施の形態では、蓄電装置300の外部形態として、密封された薄型蓄電装置を示しているが、これに限定されない。蓄電装置300の外部形態として、ボタン型蓄電装置、円筒型蓄電装置、角型蓄電装置など様々な形状を用いることができる。また、本実施の形態では、正極、負極、及びセパレータが積層された構造を示したが、正極、負極、及びセパレータが捲回された構造であってもよい。
【0064】
正極集電体318には、アルミニウム又はステンレスなどの導電材料を箔状、板状又は網状等の形状にしたものを用いる。また、別途基板上に成膜することにより設けられた導電層を剥離して正極集電体318として用いることもできる。
【0065】
正極活物質層320は、LiFeO、LiCoO、LiNiO、LiMn、LiFePO、LiCoPO、LiNiPO、LiMnPO、V、Cr、MnO、その他のリチウム化合物を材料として用いることができる。なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン又はマグネシウムイオンの場合には、正極活物質層320として、前記リチウム化合物におけるリチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウム又はカリウムなど)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム又はバリウムなど)、ベリリウム又はマグネシウムを用いてもよい。
【0066】
また、正極312は、正極集電体318上に正極活物質層320を塗布法又は物理気相成長法(例えばスパッタリング法)で形成することで作製できる。塗布法を用いる場合は、上記列挙した正極活物質層320の材料に導電助剤(例えばアセチレンブラック(AB))やバインダ(例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF))などを混合させてペースト化し、正極集電体318上に塗布して乾燥させて形成する。このとき必要に応じて加圧成形するとよい。
【0067】
なお、導電助剤としては、蓄電装置中で化学変化を起こさない電子伝導性材料であればよい。例えば、黒鉛、炭素繊維などの炭素系材料、銅、ニッケル、アルミニウム若しくは銀などの金属材料又はこれらの混合物の粉末や繊維などを用いることができる。
【0068】
バインダとしては、澱粉、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、又はジアセチルセルロースなどの多糖類があり、他には、ポリビニルクロリド、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、EPDM(Ethylene Propylene Diene Monomer)ゴム、スルホン化EPDMゴム、スチレンブタジエンゴム、ブタジエンゴム、フッ素ゴムなどのビニルポリマー、ポリエチレンオキシドなどのポリエーテルなどがある。
【0069】
また、正極活物質層320は、導電助剤及びバインダの代わりにグラフェン又は多層グラフェンを混合させてペースト化させてもよい。なお、グラフェン及び多層グラフェンにカリウムなどのアルカリ金属を添加してもよい。また、該グラフェン及び多層グラフェンは、Hummers法で酸化グラフェンを作製し、還元処理することで得ることができる。
【0070】
このように、導電助剤及びバインダの代わりにグラフェン又は多層グラフェンを用いることで、正極312中の導電助剤及びバインダの含有量を低減させることできる。つまり、正極312の重量を低減させることができ、結果として、電極の重量あたりにおけるリチウムイオン二次電池の充放電容量を増大させることができる。
【0071】
なお、厳密には「活物質」とは、キャリアであるイオンの挿入及び脱離に関わる物質のみを指す。ただし本明細書では、塗布法を用いて正極活物質層320を形成した場合、便宜上、正極活物質層320の材料、すなわち、本来「正極活物質」である物質に、導電助剤やバインダなどを含めて正極活物質層320と呼ぶこととする。
【0072】
負極310には、実施の形態1に記載した活物質層101を適用することができる。つまり、負極310は、負極集電体315を実施の形態1に示した集電体100とし、負極活物質層317として実施の形態1に示した活物質層101に相当する。なお、図1に示した電極は、集電体100の一方の面だけに活物質層101が形成されている形態であるが、これに限らず、集電体100のもう一方の面に活物質層101が形成される形態であってもよい。例えば、LPCVD装置において、負極集電体315を枠状のサセプターで保持しながらシリコンにより活物質層を形成することで、負極集電体315の両面に同時に活物質層を形成することができ、負極集電体315の両面を用いて電極を構成する場合に工程数を削減することができる。
【0073】
なお、負極活物質層317にリチウムをプレドープしてもよい。リチウムのプレドープ方法としては、スパッタリング法により負極活物質層317表面にリチウム層を形成すればよい。また、負極活物質層317の表面にリチウム箔を設けることでも、負極活物質層317にリチウムをプレドープすることができる。
【0074】
電解液316は、上記したように塩を含む非水溶液又は塩を含む水溶液である。特に、リチウムイオン二次電池では、キャリアイオンであるリチウムイオンを有する含リチウム塩を用いる。例えば、LiClO、LiAsF、LiBF、LiPF、Li(CSONなどのリチウム塩がある。なお、キャリアイオンをリチウム以外のアルカリ金属イオン又はアルカリ土類金属イオンとする場合には、電解液316の溶質として、アルカリ金属塩(例えば、ナトリウム塩又はカリウム塩など)、アルカリ土類金属塩(例えば、カルシウム塩、ストロンチウム塩又はバリウム塩など)、ベリリウム塩又はマグネシウム塩などを用いることができる。
【0075】
また、電解液316は、塩を含む非水溶液とすることが好ましい。つまり、電解液316の溶媒は、非プロトン性有機溶媒が好ましい。非プロトン性有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γーブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン及びテトラヒドロフランなどが挙げられ、これらの一又は複数を用いることができる。さらに、非プロトン性有機溶媒として、一のイオン液体又は複数のイオン液体を用いてもよい。イオン液体は、難燃性及び難揮発性であることから、蓄電装置300の内部温度が上昇した際に蓄電装置300の破裂又は発火などを抑制でき、安全性を高めることが可能となる。
【0076】
また、電解液316として、塩を含み、且つゲル化された高分子材料を用いることで、漏液性を含めた安全性が高まり、蓄電装置300の薄型化及び軽量化が可能となる。ゲル化される高分子材料の代表例としては、シリコンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド又はフッ素系ポリマーなどがある。
【0077】
さらに、電解液316としては、LiPOなどの固体電解質を用いることができる。
【0078】
セパレータ314として、絶縁性の多孔体を用いる。例えば、紙、不織布、ガラス繊維、セラミックス、あるいはナイロン(ポリアミド)、ビニロン(ポリビニルアルコール系繊維)、ポリエステル、アクリル、ポリオレフィン、ポリウレタンを用いた合成繊維等で形成されたものを用いればよい。ただし、電解液316に溶解しない材料を選ぶ必要がある。
【0079】
リチウムイオン二次電池は、メモリー効果が小さく、エネルギー密度が高く、充放電容量が大きい。また、出力電圧が高い。そのため、小型化及び軽量化が可能である。また、充放電の繰り返しによる劣化が少なく、長期間の使用が可能であり、コスト削減が可能である。
【0080】
本発明の一態様に係る蓄電装置をリチウムイオンキャパシタとする場合には、正極活物質層320の代わりに、リチウムイオン及びアニオンの一方又は双方を可逆的に挿入・脱離できる材料を用いればよい。当該材料としては、活性炭、黒鉛、導電性高分子、ポリアセン有機半導体(PAS)などがある。
【0081】
本発明の一態様に係る蓄電装置は、負極に用いた集電体と活物質層の密着性が高く、また高い機械的強度を有するため、電極を折り曲げることもでき、可とう性を有する蓄電装置を作製することもできる。
【0082】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態又は実施例に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【0083】
(実施の形態3)
本発明の一態様に係る蓄電装置は、電力により駆動する様々な電気機器の電源として用いることができる。
【0084】
本発明の一態様に係る蓄電装置を用いた電気機器の具体例として、表示装置、照明装置、デスクトップ型あるいはノート型のパーソナルコンピュータ、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記憶された静止画又は動画を再生する画像再生装置、携帯電話、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、電子書籍、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラなどのカメラ、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器、電気洗濯機、エアコンディショナーなどの空調設備、電気冷蔵庫、電気冷凍庫、電気冷凍冷蔵庫、DNA保存用冷凍庫や透析装置等の医療用電気機器などが挙げられる。また、蓄電装置からの電力を用いて電動機により推進する移動体なども、電気機器の範疇に含まれるものとする。上記移動体として、例えば、電気自動車、内燃機関と電動機を併せ持った複合型自動車(ハイブリッドカー)、電動アシスト自転車を含む原動機付自転車などが挙げられる。
【0085】
なお、上記電気機器は、消費電力の殆ど全てを賄うための蓄電装置(主電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。あるいは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電力の供給が停止した場合に、電気機器への電力の供給を行うことができる蓄電装置(無停電電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。あるいは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電気機器への電力の供給と並行して、電気機器への電力の供給を行うための蓄電装置(補助電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。
【0086】
図4に、上記電気機器の具体的な構成を示す。図4において、表示装置5000は、本発明の一態様に係る蓄電装置5004を用いた電気機器の一例である。具体的に、表示装置5000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体5001、表示部5002、スピーカー部5003、蓄電装置5004等を有する。本発明の一態様に係る蓄電装置5004は、筐体5001の内部に設けられている。表示装置5000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5004を無停電電源として用いることで、表示装置5000の利用が可能となる。
【0087】
表示部5002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0088】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0089】
図4において、据え付け型の照明装置5100は、本発明の一態様に係る蓄電装置5103を用いた電気機器の一例である。具体的に、照明装置5100は、筐体5101、光源5102、蓄電装置5103等を有する。図4では、蓄電装置5103が、筐体5101及び光源5102が据え付けられた天井5104の内部に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5103は、筐体5101の内部に設けられていてもよい。照明装置5100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5103に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5103を無停電電源として用いることで、照明装置5100の利用が可能となる。
【0090】
なお、図4では天井5104に設けられた据え付け型の照明装置5100を例示しているが、本発明の一態様に係る蓄電装置は、天井5104以外、例えば側壁5105、床5106、窓5107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
【0091】
また、光源5102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0092】
図4において、室内機5200及び室外機5204を有するエアコンディショナーは、本発明の一態様に係る蓄電装置5203を用いた電気機器の一例である。具体的に、室内機5200は、筐体5201、送風口5202、蓄電装置5203等を有する。図4では、蓄電装置5203が、室内機5200に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5203は室外機5204に設けられていてもよい。あるいは、室内機5200と室外機5204の両方に、蓄電装置5203が設けられていてもよい。エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5203に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機5200と室外機5204の両方に蓄電装置5203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5203を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0093】
なお、図4では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコンディショナーに、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることもできる。
【0094】
図4において、電気冷凍冷蔵庫5300は、本発明の一態様に係る蓄電装置5304を用いた電気機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫5300は、筐体5301、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303、蓄電装置5304等を有する。図4では、蓄電装置5304が、筐体5301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫5300は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫5300の利用が可能となる。
【0095】
なお、上述した電気機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電気機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助するための補助電源として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることで、電気機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0096】
また、電気機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、蓄電装置に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫5300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われない夜間において、蓄電装置5304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われる昼間において、蓄電装置5304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
【0097】
なお、本実施の形態は、他の実施の形態又は実施例に記載した構成と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0098】
<電極の作製工程>
本実施例では、本発明の一態様である株及びウィスカーを有する活物質層の作製例を示す。
【0099】
活物質層は集電体上に形成した。集電体の材料としては、チタンを用いた。集電体として、厚さ100μmのシート状のチタン膜(チタンシートともいう)を用いた。
【0100】
集電体であるチタン膜上にLPCVD法により活物質層であるシリコン層を形成した。LPCVD法によるシリコン層の形成は、シラン及び窒素を用い、シランの流量を300sccm、窒素の流量を300sccmとして反応室内に導入し、反応室内の圧力を150Paとし、反応室内の温度を550℃として行った。反応室は石英製のものを用いた。集電体の昇温時には、少量のArを流した。
【0101】
<活物質層中の株の観察>
図5(A)及び(B)に、上記成膜条件によって活物質層を形成したときに生じた株の断面を観察した透過型電子顕微鏡(TEM(Transmission Electron Microscope))写真を示す。このときの成膜時間は10分である。図5(A)は一つの株から発生したウィスカーの集合全体を観察した電子顕微鏡写真であり、図5(B)はその株の部分について拡大観察した写真である。なお、図5(A)及び(B)に示す電子顕微鏡写真は、観察のため観察試料の加工時に白金、カーボン及びタングステンのコートを行っている。
【0102】
図5(A)及び5(B)において、チタンシート500上にLPCVD法により成膜した活物質層の薄膜部501が確認される。また写真中央にチタンシート上に形成された株502と、そこから伸長するウィスカー503を確認することができる。
【0103】
チタンシート500は表面に、200〜400nm程度の起伏を中心とした凹凸形状を有している。その凹凸形状にそって、50nm程度の厚さで薄膜部501が堆積している。図5(B)から、株502はチタンシート500の凹部で形成されている。電子線回折(Electron Diffraction)の結果から、薄膜部501のシリコンは非晶質であることが確認された。一方、株502は結晶質であることが確認された。株は図5(B)に示すように、複数のウィスカーの集合として観察される。このうち柱状のウィスカーとして株を起点として、株から遠ざかる方向に長く成長していくものがある一方で、株の部分のみに存在し、成長を続けないものもある。ただし、ウィスカーは図5(B)において観察されるもののみに限らず、紙面の手前または奥手方向に向かって伸長しているものもある点に留意すべきである。
【0104】
図6(A)は、ウィスカーの輪切り状断面を拡大観察した電子顕微鏡写真である。ウィスカーの断面600が円状に確認できる。電子線回折を図6(A)における断面600中のポイントA、すなわちウィスカーの中心部と、ポイントB、すなわち周辺部において行った結果が、図6(B)及び(C)である。図6(B)の電子線回折像において回折スポットが確認されることから、ポイントA、つまりウィスカーの芯にあたる箇所は結晶質のシリコンであることが確認された。一方、図6(C)の電子線回折像では回折スポットは観察されず、ハローリングが観察されることから、ウィスカーの芯を覆う外殻は非晶質構造のシリコンであることが確認された。
【0105】
<ウィスカー径の成長評価>
次に、図7(A)〜(C)を用いて、活物質層の成膜時間経過ごとのウィスカーの成長の様子を示す。活物質層の成膜条件は、成膜時間を除いては上記した電子顕微鏡観察した試料と同一である。いずれも活物質層が形成された試料表面を水平面に対して30°傾けて観察した、同倍率による走査型電子顕微鏡(SEM(Scanning Electron Microscope))写真である。
【0106】
図7(A)は活物質層の成膜を6分間行い、成膜を停止して観察した写真である。ところどころにウィスカー701aが発生しているのが確認される。しかしウィスカーの数は多くはない。観察したウィスカーの直径(ウィスカー径)は、概ね75nmであった。また図7(A)の点線で囲んだ領域に、株702aが形成されているのが確認される。
【0107】
図7(B)は活物質層の成膜を10分間行って、試料の表面をSEMにより観察した写真である。図7(A)において示した観察試料とは別の試料である。図7(A)で観察した活物質層と比べ、成膜時間がさらに経過したためウィスカー701bの成長が進んでいる。このときのウィスカー径は、約100nmであった。また図7(B)の点線で囲んだ領域に株702bが形成されているのが確認される。図7(A)において確認される株と比べ、そこから伸長するウィスカーが密集する様子が確認される。また、株702bから他の株703bへ相互に成長する複数のウィスカーも確認される。
【0108】
図7(C)は活物質の成膜を120分間行って、試料の表面をSEMにより観察した写真である。図7(A)及び(B)に比べ、ウィスカー701cの成長が進み、ウィスカー径が著しく増加していることがわかる。このときのウィスカー径は約1000nmであった。さらに成膜時間を240分とすると、ウィスカー径は約2800nmとなった。
【0109】
このように、活物質の成膜時間を長くすることで、株から成長するウィスカーが任意の方向に伸長するとともに、ウィスカー径が増大することがわかった。
【0110】
<ウィスカーによる架橋構造の形成>
次に、図8を用いて、ウィスカー同士が結合し架橋構造を形成することを示す。図8(A)〜(C)は、上記と同一の成膜条件、すなわちシランの流量を300sccm、窒素の流量を300sccmとし、反応室内の圧力を150Paとし、反応室内の温度を550℃としたLPCVD法により成膜したシリコン活物質層のSEM写真である。成膜時間は60分とした。
【0111】
図8(A)で観察されるように、活物質層の成膜により多数のウィスカー801がチタンシート上に形成された。図8(B)は、図8(A)の一部を拡大したSEM写真である。ここで、写真中央の点線枠部802にウィスカーの架橋構造が確認できる。当該部分をさらに拡大観察したのが図8(C)である。図8(C)に示すウィスカー803は、写真右上から左下に向かって成長している。このとき、ウィスカー803は、下方から伸長した、ウィスカー803とは異なるウィスカー804と結合し、結合部を形成した後、さらに写真左下へと伸長している。このように、ウィスカーは他のウィスカーと結合し、架橋構造を有することができる。観察されたウィスカー803、804の直径は700〜800nmである。
【0112】
なお、図8(A)〜(C)に示されるように、ウィスカーの先端は丸みを帯びており、半球状である。これによって、ウィスカーがイオンを吸蔵したときに膨張による歪みが一点に集中することを防ぎ、ウィスカーの積極的な破壊を抑制することができる。
【0113】
以上の結果、二つ以上のウィスカーの結合によって架橋構造が形成される。また、ウィスカーはその強度を維持するのに十分なウィスカー径を有していることが好ましい。これにより、一つの構造体としては機械的強度の低いウィスカーの強度を向上させることができた。
【符号の説明】
【0114】
100 集電体
101 活物質層
102 薄膜部
103a 株
103b ウィスカー
104a 株
104b ウィスカー
105 結合部
106 結合部
107a 芯
107b 外殻
300 蓄電装置
302 外装部材
304 蓄電セル
306 端子部
308 端子部
310 負極
312 正極
315 負極集電体
314 セパレータ
316 電解液
317 負極活物質層
318 正極集電体
320 正極活物質層
500 チタンシート
501 薄膜部
502 株
503 ウィスカー
600 断面
701a ウィスカー
702a 株
701b ウィスカー
702b 株
703b 株
701c ウィスカー
801 ウィスカー
802 点線枠部
803 ウィスカー
804 ウィスカー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体と、
前記集電体上の活物質層としての機能を有するシリコン層と、を有し、
前記シリコン層は、
前記集電体と接する薄膜状の部分と、
複数の株と、
前記複数の株のそれぞれから伸長した複数のウィスカー状の突起と、を有し、
前記複数の株の一から伸長した突起と、前記複数の株の他の一から伸長した突起とが、部分的に結合していることを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記突起は、芯が結晶質シリコンでなり、前記芯の周囲を非晶質シリコンが覆っていることを特徴とする蓄電装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、
前記ウィスカー状の突起は、円柱状若しくは角柱状の柱状、又は円錐状若しくは角錐状の針状であることを特徴とする蓄電装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一項において、
前記薄膜状の部分は、非晶質シリコンであることを特徴とする蓄電装置。
【請求項5】
集電体と、
前記集電体上の活物質層としての機能を有するシリコン層と、を有し、
前記シリコン層は、
前記集電体と接する薄膜状の部分と、
複数の株と、
前記複数の株のそれぞれから伸長した複数のウィスカー状の突起と、を有し、
前記複数の株の一から伸長した突起と、前記複数の株の他の一から伸長した突起とが、部分的に結合していることを特徴とする負極。
【請求項6】
請求項5において、
前記突起は、芯が結晶質シリコンでなり、前記芯の周囲を非晶質シリコンが覆っていることを特徴とする負極。
【請求項7】
請求項5又は6において、
前記ウィスカー状の突起は、円柱状若しくは角柱状の柱状、又は円錐状若しくは角錐状の針状であることを特徴とする負極。
【請求項8】
請求項5乃至請求項7のいずれか一項において、
前記薄膜状の部分は、非晶質シリコンであることを特徴とする負極。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−65548(P2013−65548A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−182131(P2012−182131)
【出願日】平成24年8月21日(2012.8.21)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】