説明

蓋開閉装置

【課題】 蓋体の開閉操作性が良く、安全に蓋体を閉じることができる蓋開閉装置を提供する。
【解決手段】 楽器ケース1に鍵盤蓋8を回転可能に取り付けるための支持軸12を中心に鍵盤蓋8と共に回転する連動歯車13を、その歯部13aのピッチ円Pの中心Qから偏心した位置で支持軸12に支持し、鍵盤蓋8が閉じる途中の状態のときに支持軸12から歯部13aまでの距離を短くし、鍵盤蓋8が閉じ終わるまでの状態のときに支持軸12から歯部13aまでの距離を徐々に長くする。従って、鍵盤蓋8を閉じる際に、ダンパー部材15によって鍵盤蓋8の回転動作を制動することができると共に、鍵盤蓋8に対するダンパー部材15の制動力を徐々に強めることができる。このため、鍵盤蓋8を閉じる際にゆっくり閉じることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子ピアノや電子オルガンなどの鍵盤楽器または音響機器などに用いられる蓋開閉装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蓋開閉装置においては、特許文献1に記載されているように、ケースに蓋体を支持軸によって回転可能に取り付け、この蓋体に歯車部を設け、この歯車部に噛み合って回転するダンパー歯車を有するダンパー部材を歯車部の外周に沿って移動可能に取り付けた構成のものが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平06−33972号公報
【0004】
この種の蓋開閉装置は、蓋体を開閉する際に、その初期状態からダンパー部材が蓋体の回転に伴って歯車部の外周に沿って移動することにより、ダンパー部材のダンパー機能を不能にし、その後ダンパー部材の移動を阻止して蓋体に対するダンパー機能を発揮させるように構成されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の蓋開閉装置では、蓋体を開く際に、その初期状態からダンパー部材が蓋体の回転に伴って歯車部の外周に沿って移動することにより、ダンパー部材のダンパー機能を不能にしているので、蓋体を開き始める際に、蓋体を容易に開くことができても、蓋体を閉じる際には、蓋体の重量によって蓋体が急激に閉じるため、蓋体の重量が重いと、手や指を挟んで怪我をする危険性がある。
【0006】
この発明が解決しようとする課題は、蓋体の開閉操作性が良く、安全に蓋体を閉じることができる蓋開閉装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、上記課題を解決するために、次のような構成要素を備えている。
請求項1に記載の発明は、ケースと、このケースに支持軸によって回転可能に取り付けられた蓋体と、前記支持軸を中心に前記蓋体と共に回転する連動歯車と、この連動歯車に噛み合って回転するダンパー歯車を有して前記連動歯車の回転を制動するダンパー部材とを備えた蓋開閉装置において、前記連動歯車は、その歯部のピッチ円の中心から偏心した位置が前記支持軸によって支持され、前記鍵盤蓋が閉じる途中の状態のときに前記支持軸から歯部までの距離が短く、前記鍵盤蓋が閉じ終わるまでの状態のときに前記支持軸から歯部までの距離が徐々に長くなることを特徴とする蓋開閉装置である。
【0008】
請求項2に記載の発明は、前記連動歯車が、円形状の一部からなるほぼ扇形状に形成され、前記歯部の前記ピッチ円の中心から前記ほぼ扇形状の中間に位置する前記歯部に向けて偏った位置が前記支持軸によって支持されていることを特徴とする請求項1に記載の蓋開閉装置である。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記連動歯車が、渦巻き状の一部からなるほぼ扇形状に形成され、前記歯部の前記ピッチ円が渦巻き状をなし、この渦巻き状の前記ピッチ円の中心から小径側に位置する前記歯部に向けて偏った位置が前記支持軸に支持されていることを特徴とする請求項1に記載の蓋開閉装置である。
【0010】
請求項4に記載の発明は、前記ダンパー部材の前記ダンパー歯車を前記連動歯車の前記歯部に弾力的に押し付けて噛み合わせるための付勢部材を備えていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の蓋開閉装置である。
【0011】
請求項5に記載の発明は、前記ダンパー部材の前記ダンパー歯車を前記連動歯車に対する接離方向に移動可能にガイドするダンパーガイド部材を備えていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の蓋開閉装置である。
【発明の効果】
【0012】
この発明によれば、蓋体を開閉する際に、ダンパー部材によって蓋体の回転動作を制動することができると共に、蓋体を閉じる際に、その閉じている途中の状態では、蓋体に対するダンパー部材の制動力を弱めることができ、蓋体が閉じ終わるまでの状態のときには、蓋体に対するダンパー部材の制動力を徐々に強めることができる。このため、蓋体が閉じ終わるときに、蓋体をゆっくり閉じることができるので、蓋体の開閉操作性が良く、蓋体で手や指を挟んで怪我をすることがなく、安全に蓋体を閉じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】この発明を鍵盤楽器に適用した実施形態1を示した断面図である。
【図2】図1に示された鍵盤楽器の要部を示した拡大断面図である。
【図3】図2に示された鍵盤楽器における連動歯車を示した拡大正面図である。
【図4】図2に示された鍵盤楽器におけるダンパー部材の取付構造を示し、(a)はその一部を破断して示した拡大図、(b)は(a)のA−A矢視における拡大断面図である。
【図5】図1に示された鍵盤楽器において鍵盤蓋を所定角度に開いた状態を示した断面図である。
【図6】図5に示された鍵盤楽器において鍵盤蓋を完全に開いた状態を示した断面図である。
【図7】この発明を鍵盤楽器に適用した実施形態2を示した断面図である。
【図8】図7に示された鍵盤楽器の要部を示した拡大断面図である。
【図9】図8に示された鍵盤楽器におけるダンパー部材の取付構造を示し、(a)はその一部を示した拡大図、(b)は(a)のB−B矢視において一部を破断して示した拡大図である。
【図10】図7に示された鍵盤楽器において鍵盤蓋を所定角度に開いた状態を示した断面図である。
【図11】図10に示された鍵盤楽器において鍵盤蓋を完全に開いた状態を示した断面図である。
【図12】この発明を鍵盤楽器に適用した実施形態3を示した断面図である。
【図13】図12に示された鍵盤楽器の要部を示した拡大断面図である。
【図14】図13に示された鍵盤楽器における連動歯車を示した拡大正面図である。
【図15】図12に示された鍵盤楽器において鍵盤蓋を完全に開いた状態を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
以下、図1〜図6を参照して、この発明を鍵盤楽器に適用した実施形態1について説明する。
この鍵盤楽器は、図1に示すように、楽器ケース1を備えている。この楽器ケース1は、脚部を兼ねる一対の側板2と、この一対の側板2間における上部側に設けられた底板3と、この底板3の前端部(図1では左端部)上に起立して設けられた前板4と、底板3の後端部(図1では右端部)上に起立して設けられた後板5とを備えている。
【0015】
これにより、楽器ケース1は、上部が開放された箱形状に形成されている。この楽器ケース1の内部には、図1に示すように、鍵盤部6が設けられている。この鍵盤部6は、白鍵7aおよび黒鍵7bを備え、これら白鍵7aおよび黒鍵7bを鍵盤シャーシ(図示せず)上に上下方向に回転可能に取り付けた状態で多数配列した構成になっている。
【0016】
また、この楽器ケース1の上部には、図1に示すように、鍵盤部6を開閉自在に覆う鍵盤蓋8が蓋開閉装置10によって開閉可能に設けられている。この鍵盤蓋8は、蓋開閉装置10によって上下方向に回転することにより、楽器ケース1の上部に配置されて楽器ケース1を閉じた際に鍵盤部6を覆い隠し、図6に示すように、楽器ケース1の後方(図6では右側)に少し傾いた状態で起立して楽器ケース1を開いた際に鍵盤部6を楽器ケース1の上方に露出させるように構成されている。
【0017】
この鍵盤蓋8の蓋開閉装置10は、図1および図2に示すように、鍵盤蓋8の下面に取り付けられたアーム部材11と、このアーム部材11に取り付けられて楽器ケース1内における側板2に回転自在に取り付けられた支持軸12と、このアーム部材11に取り付けられて支持軸12を中心に鍵盤蓋8と共に回転する連動歯車13と、楽器ケース1の底板3上に設けられた取付部材14に取り付けられて鍵盤蓋8の開閉動作を制動するダンパー部材15とを備えている。
【0018】
これにより、鍵盤蓋8は、図1および図2に示すように、支持軸12を中心に、アーム部材11と共に上下方向に回転するように構成されている。この場合、アーム部材11は、鍵盤蓋8の下面における後部(図2では右側部)に取り付けられて、楽器ケース1内の後部に上方から挿入するように構成されている。支持軸12は、図1および図2に示すように、楽器ケース1内に挿入されたアーム部材11の下部に取り付けられている。この支持軸12は、楽器ケース1内の後部(図2では右側部)に位置する一対の側板2に回転自在に取り付けられ、これによりアーム部材11が鍵盤蓋8と共に回転するように構成されている。
【0019】
連動歯車13は、図1および図2に示すように、支持軸12を中心にアーム部材11が鍵盤蓋8と共に回転する際に、鍵盤蓋8の開閉動作をダンパー部材15に伝達するように構成されている。すなわち、この連動歯車13は、図2および図3に示すように、全体がほぼ扇形状に形成され、その外周面に歯部13aが設けられた構成になっている。この場合、連動歯車13は、図3に示すように、その歯部13aのピッチ円Pの中心Qから偏心した位置が支持軸12に支持されるように構成されている。
【0020】
すなわち、この連動歯車13は、図3に示すように、そのピッチ円Pの半径をRとしたとき、ピッチ円Pの中心Qからほぼ扇形状の中間に位置する歯部13aに向けて距離Sだけ偏心した位置が支持軸12に支持されている。具体的には、この連動歯車13は、全体がほぼ130度の開き角度のほぼ扇形状をなし、このほぼ扇形状の中心線Lに沿って距離Sだけピッチ円Pの中心Qから支持軸12の位置がずれている。このため、連動歯車13は、図3に示すように、中心線L上に位置する歯部13aから支持軸12までの距離が最も短く、中心線Lの上下方向に位置する歯部13aから支持軸12までの距離が徐々に長くなるように構成されている。
【0021】
これにより、連動歯車13は、図1および図2に示すように、鍵盤蓋8が閉じた状態のときに、ほぼ扇形状の上部側に位置する歯部13aがダンパー部材15のダンパー歯車15aに噛み合い、この上部側に位置する歯部13aから支持軸12までの距離が長くなることにより、連動歯車13の回転速度を一定としたとき、ダンパー歯車15aの回転速度を速くするように構成されている。
【0022】
また、この連動歯車13は、図5に示すように、鍵盤蓋8が開閉途中の状態のときに、ほぼ扇形状の中間部に位置する歯部13aがダンパー部材15のダンパー歯車15aに噛み合い、この中間部に位置する歯部13aから支持軸12までの距離が短くなることにより、連動歯車13の回転速度を一定としたとき、ダンパー歯車15aの回転速度を速くするように構成されている。
【0023】
さらに、この連動歯車13は、図6に示すように、鍵盤蓋8が完全に開いた状態のときに、ほぼ扇形状の下部側に位置する歯部13aがダンパー部材15のダンパー歯車15aに噛み合い、この下部側に位置する歯部13aから支持軸12までの距離が長くなることにより、連動歯車13の回転速度を一定としたとき、ダンパー歯車15aの回転速度を速くするように構成されている。
【0024】
一方、ダンパー部材15は、図1および図2に示すように、連動歯車13に噛み合うダンパー歯車15aを備えている。この場合、ダンパー部材15は、図4(a)および図4(b)に示すように、ハウジング15b内に回転軸(図示せず)が設けられ、この回転軸にオイルや摩擦部材(いずれも図示せず)によって負荷を加えることにより、制動機能を有するものであり、ハウジング15bの外部に突出した回転軸にダンパー歯車15aが設けられた構成になっている。この場合、ハウジング15bには、その上下部にガイド突起15cがそれぞれ設けられている。
【0025】
また、このダンパー部材15は、図1および図2に示すように、ばね部材16によってダンパー部材15のダンパー歯車15aを連動歯車13の歯部13aに噛み合わせる方向に付勢された状態で、楽器ケース1内の底板3上に設けられた取付部材14に移動可能に取り付けられている。この場合、取付部材14は、図2に示すように、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心が連動歯車13の回転中心である支持軸12とほぼ同じ高さになるように、ダンパー部材15を保持するように構成されている。
【0026】
すなわち、この取付部材14には、図2および図4に示すように、ダンパー部材15のハウジング15bが移動可能に配置されるダンパー収納溝部14aが、連動歯車13に対する接離方向に沿って設けられている。また、この取付部材14におけるダンパー収納溝部14aの上下部に位置する箇所には、ハウジング15bのガイド突起15cを保持しながらガイドするダンパーガイド溝14bが連動歯車13に対する接離方向に沿って設けられている。さらに、この取付部材14には、ばね部材16を収容するばね収容溝部14cがダンパー収納溝部14aに連続して設けられている。
【0027】
ばね部材16は、図1および図2に示すように、コイルばねであり、連動歯車13と反対側に位置するダンパー部材15の近傍における取付部材14のばね収容溝部14c内に出没可能に設けられている。すなわち、このばね部材16は、連動歯車13の回転中心である支持軸12と、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心とを結ぶ直線の延長線上に位置した状態で、その一端部(図2では右端部)がダンパー部材15に当接し、他端部(図2では左端部)が取付部材14のばね収容溝部14c内に配置されている。
【0028】
これにより、このばね部材16は、図2に示すように、連動歯車13の回転中心である支持軸12と、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心とを結ぶ直線上において、連動歯車13の回転中心である支持軸12から連動歯車13の歯部13aまでの距離が、連動歯車13の回転に応じて異なっていても、ダンパー部材15を連動歯車13に向けて押し付けて、ダンパー部材15をダンパー収納溝部14aに沿って移動させることにより、ダンパー部材15のダンパー歯車15aを連動歯車13の歯部13aに常に噛み合わせるように構成されている。
【0029】
次に、この鍵盤蓋8の蓋開閉装置10の作用について説明する。
鍵盤蓋8を開いた状態から閉じる場合には、図6に示すように、鍵盤蓋8の先端部(図6では上端部)を手前側に引いて傾ける。このときには、連動歯車13の下部側に位置する歯部13aがダンパー部材15のダンパー歯車15aに噛み合っている。このため、連動歯車13の回転中心である支持軸12と、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心とを結ぶ直線上において、連動歯車13の回転中心である支持軸12から連動歯車13の歯部13aまでの距離が長い。
【0030】
このため、図6に示すように、連動歯車13によってダンパー部材15がばね部材16のばね力に抗して押され、ダンパー部材15のガイド突起15cが取付部材14のダンパーガイド溝14bにガイドされながら、ダンパー部材15のハウジング15bが取付部材14のダンパー収納溝部14a内における連動歯車13と反対側(図6では左側)の奥側(図6では左側に位置する部分)に押し込まれて配置されている。
【0031】
この状態で、鍵盤蓋8の先端部(図6では上端部)を引き下げて鍵盤蓋8を閉じる方向に傾けると、鍵盤蓋8がアーム部材11の支持軸12を中心に反時計回りに回転する。すると、アーム部材11に設けられた連動歯車13も、鍵盤蓋8と共に支持軸12を中心に反時計回りに回転し、これに伴ってダンパー部材15のダンパー歯車15aが連動歯車13の歯部13aに噛み合って回転する。
【0032】
このときには、ダンパー部材15によって連動歯車13に負荷が加わっていることにより、連動歯車13の回転が制動される。このため、鍵盤蓋8が閉じる方向に急激に回転することがない。また、このときには、連動歯車13の回転中心である支持軸12と、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心とを結ぶ直線上において、連動歯車13の回転中心である支持軸12から連動歯車13の歯部13aまでの距離が徐々に短くなる。
【0033】
このため、ダンパー部材15は、ばね部材16のばね力によって連動歯車13側に押し出され、ダンパー歯車15aが連動歯車13の歯部13aに常に噛み合って回転すると共に、ダンパー歯車15aの回転速度が徐々に遅くなる。これにより、ダンパー部材15は、連動歯車13に対する負荷が徐々に小さくなる。
【0034】
すなわち、連動歯車13の回転中心である支持軸12から連動歯車13の歯部13aまでの距離が徐々に短くなると、ダンパー歯車15aの回転速度が徐々に遅くなるので、ダンパー部材15によるダンパー歯車15aの回転トルクが徐々に小さくなり、これに伴って連動歯車13に対する負荷が徐々に小さくなる。このため、鍵盤蓋8を閉じる力が徐々に軽くなると共に、鍵盤蓋8の閉じる動作が徐々に速くなる。
【0035】
そして、図5に示すように、鍵盤蓋8が約50度の角度まで閉じた際には、連動歯車13の回転中心である支持軸12と、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心とを結ぶ直線上において、連動歯車13の回転中心である支持軸12から連動歯車13の歯部13aまでの距離が最も短くなる。このときには、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの回転速度が最も遅くなる。このため、ダンパー部材15によるダンパー歯車15aの回転トルクが最も小さくなり、これに伴って鍵盤蓋8を閉じる力が最も軽くなると共に、鍵盤蓋8の閉じる動作が最も速くなる。
【0036】
この後、鍵盤蓋8が更に閉じるときには、連動歯車13の回転中心である支持軸12と、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心とを結ぶ直線上において、連動歯車13の回転中心である支持軸12から連動歯車13の歯部13aまでの距離が徐々に長くなる。このため、ダンパー部材15は、ばね部材16のばね力に抗して連動歯車13と反対側に徐々に押し込まれる。このときにも、ダンパー歯車15aは連動歯車13の歯部13aに常に噛み合って回転すると共に、ダンパー歯車15aの回転速度が徐々に速くなる。
【0037】
これにより、ダンパー部材15は、連動歯車13に対する負荷が徐々に大きくなる。すなわち、連動歯車13の回転中心である支持軸12から連動歯車13の歯部13aまでの距離が徐々に長くなると、ダンパー歯車15aの回転速度が徐々に速くなるので、ダンパー部材15によるダンパー歯車15aの回転トルクが徐々に大きくなり、これに伴って連動歯車13に対する負荷が徐々に大きくなる。このため、鍵盤蓋8を閉じる力が徐々に重くなると共に、鍵盤蓋8の閉じる動作が徐々に遅くなる。
【0038】
そして、図1および図2に示すように、鍵盤蓋8が完全に閉じる際には、連動歯車13の回転中心である支持軸12と、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心とを結ぶ直線上において、連動歯車13の回転中心である支持軸12から連動歯車13の歯部13aまでの距離が最も長くなる。このときには、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの回転速度が最も速くなる。
【0039】
このため、ダンパー部材15によるダンパー歯車15aの回転トルクが最も大きくなり、これに伴って鍵盤蓋8を閉じる力が最も重くなると共に、鍵盤蓋8がゆっくり閉じる。これにより、鍵盤蓋8が完全に閉じる際に、鍵盤蓋8が急激に回転することがないので、使用者が鍵盤蓋8によって手や指を挟んで怪我をする危険性が少なく、安全に鍵盤蓋8を閉じることができる。なお、鍵盤蓋8を閉じた状態から開く際には、上述した動作と逆の動作を行って鍵盤蓋8を開くことができる。
【0040】
このように、この鍵盤蓋8の蓋開閉装置10によれば、楽器ケース1に鍵盤蓋8を回転可能に取り付ける支持軸12を中心に鍵盤蓋8と共に回転する連動歯車13を、その歯部13aのピッチ円Pの中心Qから偏心した位置で支持軸12に支持し、鍵盤蓋8が閉じる途中の状態のときに支持軸12から歯部13aまでの距離を短くし、鍵盤蓋8が閉じ終わるまでの状態のときに支持軸12から歯部13aまでの距離を徐々に長くする構成であるから、鍵盤蓋8の開閉操作性が良く、安全に鍵盤蓋8を開閉することができる。
【0041】
すなわち、この鍵盤蓋8の蓋開閉装置10では、鍵盤蓋8を閉じる際に、ダンパー部材15によって鍵盤蓋8の回転動作を制動することができると共に、鍵盤蓋8を開いた状態から閉じる途中の状態のときに、鍵盤蓋8に対するダンパー部材15の制動力を弱めて鍵盤蓋8の閉じる力を軽くし、鍵盤蓋8を速く回転させることができ、鍵盤蓋8が閉じ終わる状態のときに、鍵盤蓋8に対するダンパー部材15の制動力を徐々に強めて鍵盤蓋8を閉じる力を徐々に重くし、鍵盤蓋8をゆっくり回転させることができる。このため、鍵盤蓋8の開閉操作性が良く、鍵盤蓋8によって手や指を挟んで怪我をすることなく、安全に鍵盤蓋8を閉じることができる。
【0042】
この場合、連動歯車13は、円形状の一部からなるほぼ扇形状に形成され、ピッチ円Pの中心からほぼ扇形状の中間に位置する歯部13aに向けて偏った位置が支持軸12に支持されていることにより、歯部13aから支持軸12までの距離を鍵盤蓋8の開閉動作に応じて異ならせることができる。すなわち、連動歯車13は、全体がほぼ130度の開き角度の扇形状をなし、その中心線Lに沿って距離Sだけピッチ円Pの中心Qから支持軸12の位置がずれていることにより、中心線L上に位置する歯部13aから支持軸12までの距離を最も短くすることができ、中心線Lの上下方向に位置する歯部13aから支持軸12までの距離を徐々に長くすることができる。
【0043】
このため、鍵盤蓋8を閉じる際には、その閉じ始めのときに、歯部13aから支持軸12までの距離を長くすることができるので、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの回転速度を速くして、鍵盤蓋8に対するダンパー部材15の制動力を強めることができる。また、鍵盤蓋8が閉じる途中の状態のときには、歯部13aから支持軸12までの距離を短くすることができるので、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの回転速度を遅くして、鍵盤蓋8に対するダンパー部材15の制動力を弱めることができる。
【0044】
さらに、鍵盤蓋8が閉じ終わるときには、再び歯部13aから支持軸12までの距離を徐々に長くすることができるので、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの回転速度を徐々に速くして、鍵盤蓋8に対するダンパー部材15の制動力を徐々に強めることができる。このため、鍵盤蓋8の重量が重くても、鍵盤蓋8の開閉動作に応じて鍵盤蓋8の開閉力および開閉速度を変えることができ、これにより鍵盤蓋の開閉操作性が良く、安全に鍵盤蓋8を閉じることができる。
【0045】
また、この鍵盤蓋8の蓋開閉装置10では、ダンパー部材15のダンパー歯車15aを連動歯車13の歯部13aに弾力的に押し付けて噛み合わせるばね部材16を備えているので、連動歯車13の回転中心である支持軸12の位置が連動歯車13の中心線Lに沿って距離Sだけピッチ円Pの中心Qからずれていることにより、連動歯車13とダンパー部材15のダンパー歯車15aとの噛み合い位置が中心線Lに沿って移動しても、ばね部材16のばね力によって連動歯車13の歯部13aとダンパー部材15のダンパー歯車15aとを確実に且つ良好に噛み合わせることができる。
【0046】
この場合、ダンパー部材15を楽器ケース1に対して取り付けるための取付部材14には、ダンパー部材15を連動歯車13に対する接離方向に移動可能に保持しながらガイドするダンパー収納溝部14aおよびダンパーガイド溝14bが設けられているので、ダンパー部材15を中心線Lに沿って良好にガイドすることができ、これにより連動歯車13とダンパー部材15のダンパー歯車15aとの噛み合い位置が中心線Lに沿って移動しても、連動歯車13の歯部13aとダンパー部材15のダンパー歯車15aとを確実に且つ良好に噛み合わせることができる。
【0047】
(実施形態2)
次に、図7〜図11を参照して、この発明を鍵盤楽器に適用した実施形態2について説明する。なお、図1〜図6に示された実施形態1と同一部分には同一符号を付して説明する。
この鍵盤楽器は、図7に示すように、蓋開閉装置20が実施形態1と異なる構成であり、これ以外は実施形態1とほぼ同じ構成になっている。
【0048】
すなわち、この蓋開閉装置20は、図7および図8に示すように、リンク部材21によってダンパー部材15を連動歯車13に対する接離方向に移動可能にガイドするように構成されている。このリンク部材21は、取付部材14に設けられたばね部材16と連動歯車13との間に起立した状態で配置されている。
【0049】
この場合、リンク部材21は、図8に示すように、その下端部が取付部材14の下部に取付軸22によって回転自在に取り付けられ、図9(a)および図9(b)に示すように、その上部にダンパー部材15のハウジング15bがビス23によって取り付けられた構成になっている。これにより、リンク部材21は、取付軸22を中心にばね部材16と連動歯車13との間で揺動するように構成されている。
【0050】
この場合にも、ダンパー部材15は、実施形態1と同様、ハウジング15b内に回転軸(図示せず)が設けられ、この回転軸にオイルや摩擦部材(いずれも図示せず)によって負荷を加えることにより、制動機能を有するものであり、ハウジング15bの外部に突出した回転軸にダンパー歯車15aが設けられた構成になっている。また、このダンパー部材15は、図8に示すように、ばね部材16のばね力によってリンク部材21と共に連動歯車13に向けて付勢されていることにより、ダンパー歯車15aが常に連動歯車13に噛み合って連動歯車13の回転を制動するように構成されている。
【0051】
この連動歯車13も、実施形態1と同様、全体がほぼ130度の開き角度のほぼ扇形状をなし、このほぼ扇形状の中心線Lに沿って距離Sだけピッチ円Pの中心Qから支持軸12の位置がずれている。すなわち、この連動歯車13は、実施形態1と同様、中心線L上に位置する歯部13aから支持軸12までの距離が最も短く、中心線Lの上下方向に位置する歯部13aから支持軸12までの距離が徐々に長くなるように構成されている。
【0052】
次に、このような鍵盤蓋8の蓋開閉装置20の作用について説明する。
この場合においても、鍵盤蓋8を閉じる際には、図11に示すように、鍵盤蓋8の先端部(図11では上端部)を手前側に引いて傾ける。このときには、図11に示すように、連動歯車13の下部側に位置する歯部13aがダンパー部材15のダンパー歯車15aに噛み合っている。これにより、連動歯車13の回転中心である支持軸12と、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心とを結ぶ直線上において、連動歯車13の回転中心である支持軸12から連動歯車13の歯部13aまでの距離が長い。
【0053】
このため、図11に示すように、連動歯車13によってダンパー部材15がばね部材16のばね力に抗して押され、リンク部材21が取付軸22を中心に反時計回りに回転することにより、このリンク部材21に取り付けられたダンパー部材15が連動歯車13と反対側(図11では左側)に移動して配置されている。
【0054】
この状態で、鍵盤蓋8の先端部(図11では上端部)を引き下げて鍵盤蓋8を閉じる。このときには、鍵盤蓋8がアーム部材11の支持軸12を中心に反時計回りに回転する。すると、アーム部材11に設けられた連動歯車13も、鍵盤蓋8と共に支持軸12を中心に反時計回りに回転し、これに伴ってダンパー部材15のダンパー歯車15aが連動歯車13の歯部13aに噛み合って回転する。
【0055】
このときには、ダンパー部材15によって連動歯車13に負荷が加わっていることにより、連動歯車13の回転が制動されるので、鍵盤蓋8が閉じる方向に急激に回転することがない。また、このときには、連動歯車13の回転中心である支持軸12と、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心とを結ぶ直線上において、連動歯車13の回転中心である支持軸12から連動歯車13の歯部13aまでの距離が徐々に短くなる。
【0056】
このため、ダンパー部材15がばね部材16のばね力によって徐々に押し出され、これに伴ってリンク部材21が取付軸22を中心に時計回りに徐々に回転し、ダンパー歯車15aを連動歯車13の歯部13aに噛み合わせる。この状態で、連動歯車13によってダンパー歯車15aが回転すると、連動歯車13の回転中心である支持軸12から連動歯車13の歯部13aまでの距離が徐々に短くなるので、ダンパー歯車15aの回転速度が徐々に遅くなる。
【0057】
これにより、ダンパー部材15は、連動歯車13に対する負荷が徐々に小さくなる。すなわち、ダンパー歯車15aの回転速度が徐々に遅くなると、実施形態1と同様、ダンパー部材15によるダンパー歯車15aの回転トルクが徐々に小さくなり、これに伴って連動歯車13に対する負荷が徐々に小さくなる。このため、鍵盤蓋8を閉じる力が徐々に軽くなると共に、鍵盤蓋8の閉じる動作が徐々に速くなる。
【0058】
そして、図10に示すように、鍵盤蓋8が約50度の角度まで閉じた際には、連動歯車13の回転中心である支持軸12と、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心とを結ぶ直線上において、連動歯車13の回転中心である支持軸12から連動歯車13の歯部13aまでの距離が最も短くなる。このときには、ダンパー部材15がばね部材16のばね力によって最も押し出され、これに伴ってリンク部材21が取付軸22を中心に時計回りに回転し、ダンパー歯車15aを連動歯車13の歯部13aに噛み合わせる。
【0059】
この状態で、連動歯車13によってダンパー歯車15aが回転すると、連動歯車13の回転中心である支持軸12から連動歯車13の歯部13aまでの距離が最も短くなるので、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの回転速度が最も遅くなる。このため、ダンパー部材15によるダンパー歯車15aの回転トルクが最も小さくなり、これに伴って連動歯車13に対する負荷が最も小さくなるので、鍵盤蓋8を閉じる力が最も軽くなると共に、鍵盤蓋8の閉じる速度が最も速くなる。
【0060】
この後、鍵盤蓋8が更に閉じるときには、連動歯車13の回転中心である支持軸12と、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心とを結ぶ直線上において、連動歯車13の回転中心である支持軸12から連動歯車13の歯部13aまでの距離が徐々に長くなる。このため、ダンパー部材15は、ばね部材16のばね力に抗して連動歯車13と反対側に押され、これに伴ってリンク部材21が取付軸22を中心に反時計回りに回転し、ダンパー歯車15aを連動歯車13の歯部13aに噛み合わせた状態を維持する。
【0061】
このときにも、ダンパー歯車15aは連動歯車13の歯部13aに常に噛み合って回転すると共に、連動歯車13の回転中心である支持軸12から連動歯車13の歯部13aまでの距離が徐々に長くなるので、ダンパー歯車15aの回転速度が徐々に速くなる。これにより、実施形態1と同様、ダンパー部材15によるダンパー歯車15aの回転トルクが徐々に大きくなり、これに伴って連動歯車13に対する負荷が徐々に大きくなる。このため、鍵盤蓋8を閉じる力が徐々に重くなると共に、鍵盤蓋8の閉じる速度が徐々に遅くなる。
【0062】
そして、図7および図8に示すように、鍵盤蓋8が完全に閉じる際には、連動歯車13の回転中心である支持軸12と、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心とを結ぶ直線上において、連動歯車13の回転中心である支持軸12から連動歯車13の歯部13aまでの距離が最も長くなり、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの回転速度が最も速くなる。
【0063】
このため、ダンパー部材15によるダンパー歯車15aの回転トルクが最も大きくなり、これに伴って鍵盤蓋8を閉じる力が最も重くなると共に、鍵盤蓋8がゆっくり回転して閉じる。これにより、鍵盤蓋8が完全に閉じる際には、実施形態1と同様、鍵盤蓋8が急激に回転することがないので、使用者が鍵盤蓋8によって手や指を挟んで怪我をする危険性が少なく、安全に鍵盤蓋8を閉じることができる。なお、鍵盤蓋8を閉じた状態から開く際には、上述した動作と逆の動作を行って鍵盤蓋8を開くことができる。
【0064】
このように、この鍵盤蓋8の蓋開閉装置20においても、実施形態1と同様、楽器ケース1に鍵盤蓋8を回転可能に取り付ける支持軸12を中心に鍵盤蓋8と共に回転する連動歯車13を、その歯部のピッチ円Pの中心Qから偏心した位置で支持軸12に支持し、鍵盤蓋8が閉じる途中の状態のときに支持軸12から歯部13aまでの距離を短くし、鍵盤蓋8が閉じ終わるまでの状態のときに支持軸12から歯部13aまでの距離を徐々に長くする構成であるから、鍵盤蓋8の開閉操作性が良く、安全に鍵盤蓋8を開閉することができる。
【0065】
この場合、取付部材14には、連動歯車13に対する接離方向に揺動するリンク部材21が、取付軸22によって回転自在に取り付けられ、このリンク部材21に、ダンパー部材15が取り付けられているので、連動歯車13の回転中心である支持軸12と、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心とを結ぶ直線上に沿って、ダンパー部材15のダンパー歯車15aを良好に移動させることができ、これにより連動歯車13の歯部13aとダンパー歯車15aとを確実に且つ良好に噛み合わせることができる。
【0066】
すなわち、連動歯車13の回転中心である支持軸12の位置が、連動歯車13の中心線Lに沿って距離Sだけピッチ円Pの中心Qからずれていることにより、連動歯車13の歯部13aとダンパー部材15のダンパー歯車15aとの噛み合い位置が中心線Lに沿って移動しても、ばね部材16のばね力によってダンパー部材15が連動歯車13に向けて押されると、リンク部材21が取付軸22を中心に回転し、連動歯車13の歯部13aとダンパー歯車15aとを確実に且つ良好に噛み合わせることができる。
【0067】
なお、上述した実施形態1、2では、ほぼ扇形状の連動歯車13の回転中心である支持軸12の位置が、ほぼ扇形状の中心線Lに沿って距離Sだけ歯部13aに向けて偏っている場合について述べたが、これに限らず、例えば、支持軸12の位置は、必ずしもほぼ扇形状の中心線Lに沿って偏っている必要はなく、ほぼ扇形状の連動歯車13の下部側に位置する歯部13aに向けて距離Sだけ偏っている構成でも良い。このように構成すれば、鍵盤蓋8を閉じるときに、支持軸12から歯部13aまでの距離を徐々に長くすることができ、これにより鍵盤蓋8の閉じる動作を徐々に遅くすることができる。
【0068】
(実施形態3)
次に、図12〜図15を参照して、この発明を鍵盤楽器に適用した実施形態3について説明する。この場合にも、図1〜図6に示された実施形態1と同一部分に同一符号を付して説明する。
この鍵盤楽器は、図12〜図14に示すように、蓋開閉装置30の連動歯車31が実施形態1と異なる構成であり、これ以外は実施形態1とほぼ同じ構成になっている。
【0069】
すなわち、この蓋開閉装置30の連動歯車31は、図14に示すように、全体がほぼ渦巻き状の一部からなるほぼ扇形状に形成され、その渦巻き状の外周に沿って歯部31aが形成された構成になっている。この場合、連動歯車31は、図14に示すように、その歯部31aの渦巻き状のピッチ円P1の中心Q1から小径側に位置する歯部31aに向けて偏心した位置が支持軸12に支持されている。
【0070】
具体的には、この連動歯車31は、図14に示すように、全体がほぼ130度の開き角度のほぼ扇形状をなし、このほぼ扇形状の中心線Lに沿って距離Sだけ渦巻き状のピッチ円P1の中心Q1から支持軸12の位置がずれている。このため、連動歯車31は、図14に示すように、ほぼ扇形状の上部側に位置する歯部31aからその下部側に位置する歯部31aに亘って支持軸12までの距離が徐々に短くなるように構成されている。
【0071】
これにより、この連動歯車31は、鍵盤蓋8が開いた状態のときに、ほぼ扇形状の下部側に位置する歯部31aがダンパー部材15のダンパー歯車15aに噛み合い、この下部側に位置する歯部31aから支持軸12までの距離が最も短くなることにより、連動歯車31の回転速度を一定としたとき、ダンパー歯車15aを最も遅い回転速度で回転させて、ダンパー部材15による制動力を最も弱めるように構成されている。
【0072】
また、この連動歯車31は、鍵盤蓋8が開いた状態から閉じるときに、ダンパー部材15のダンパー歯車15aに噛み合う歯部31aが、ほぼ扇形状の下部側に位置する歯部31aからその上部側に位置する歯部31aに移動して、支持軸12から歯部31aまでの距離が徐々に長くなることにより、連動歯車31の回転速度を一定としたとき、ダンパー歯車15aを徐々に速い回転速度で回転させて、ダンパー部材15による制動力を徐々に強めるように構成されている。
【0073】
次に、このような鍵盤蓋8の蓋開閉装置30の作用について説明する。
この場合においても、鍵盤蓋8を閉じる際には、図15に示すように、鍵盤蓋8の先端部(図15では上端部)を手前側に引いて傾ける。このときには、図15に示すように、連動歯車31の下部側に位置する歯部31aがダンパー部材15のダンパー歯車15aに噛み合っている。これにより、連動歯車31の回転中心である支持軸12と、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心とを結ぶ直線上において、連動歯車31の回転中心である支持軸12から連動歯車31の歯部31aまでの距離が短い。
【0074】
このため、図15に示すように、ダンパー部材15は、ばね部材16のばね力によって連動歯車31側に押し出され、ダンパー部材15のダンパー歯車15aが連動歯車31の歯部31aに噛み合っている。この状態で、鍵盤蓋8の先端部(図15では上端部)を引き下げて鍵盤蓋8を閉じると、鍵盤蓋8がアーム部材11の支持軸12を中心に反時計回りに回転し、アーム部材11に設けられた連動歯車31も、鍵盤蓋8と共に支持軸12を中心に反時計回りに回転する。これに伴って、ダンパー部材15のダンパー歯車15aが連動歯車31の歯部31aに噛み合って回転する。
【0075】
このときには、ダンパー部材15によって連動歯車31に負荷が加わっていることにより、連動歯車31の回転が制動されるので、鍵盤蓋8が閉じる方向に急激に回転することがない。また、このときには、連動歯車31の回転中心である支持軸12と、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心とを結ぶ直線上において、連動歯車31の回転中心である支持軸12から連動歯車31の歯部31aまでの距離が徐々に長くなる。このため、ダンパー部材15は、ばね部材16のばね力に抗して連動歯車31と反対側に押される。
【0076】
このときにも、ダンパー歯車15aは連動歯車31の歯部31aに常に噛み合って回転すると共に、ダンパー歯車15aの回転速度が徐々に速くなる。これにより、実施形態1と同様、ダンパー部材15によるダンパー歯車15aの回転トルクが徐々に大きくなり、連動歯車31に対する負荷が徐々に大きくなる。このため、鍵盤蓋8を閉じる力が徐々に重くなると共に、鍵盤蓋8の閉じる速度が徐々に遅くなる。
【0077】
そして、図12および図13に示すように、鍵盤蓋8が完全に閉じる際には、連動歯車31の回転中心である支持軸12と、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの中心とを結ぶ直線上において、連動歯車31の回転中心である支持軸12から連動歯車31の歯部31aまでの距離が最も長くなり、ダンパー部材15のダンパー歯車15aの回転速度が最も速くなる。
【0078】
このため、ダンパー部材15によるダンパー歯車15aの回転トルクが最も大きくなり、これに伴って鍵盤蓋8を閉じる力が最も重くなると共に、鍵盤蓋8がゆっくり回転して閉じる。これにより、鍵盤蓋8が完全に閉じる際には、実施形態1と同様、鍵盤蓋8が急激に回転することがないので、使用者が鍵盤蓋8によって手や指を挟んで怪我をする危険性が少なく、安全に鍵盤蓋8を閉じることができる。なお、鍵盤蓋8を閉じた状態から開く際には、上述した動作と逆の動作を行って鍵盤蓋8を開くことができる。
【0079】
このように、この鍵盤蓋8の蓋開閉装置30においても、実施形態1と同様、楽器ケース1に鍵盤蓋8を回転可能に取り付ける支持軸12を中心に鍵盤蓋8と共に回転する連動歯車31を、その歯部31aのピッチ円P1の中心Q1から偏心した位置で支持軸12に支持し、鍵盤蓋8が閉じる途中の状態のときに支持軸12から歯部31aまでの距離を短くし、鍵盤蓋8が閉じ終わるまでの状態のときに支持軸12から歯部31aまでの距離を徐々に長くする構成であるから、鍵盤蓋8の開閉操作性が良く、安全に鍵盤蓋8を開閉することができる。
【0080】
すなわち、この鍵盤蓋8の蓋開閉装置30では、鍵盤蓋8を閉じる際に、ダンパー部材15によって鍵盤蓋8の回転動作を制動することができると共に、鍵盤蓋8を開いた状態から閉じるときに、鍵盤蓋8に対するダンパー部材15の制動力を徐々に強めて鍵盤蓋8を閉じる力を徐々に重くし、鍵盤蓋8をゆっくり回転させることができる。このため、鍵盤蓋8の開閉操作性が良く、鍵盤蓋8によって手や指を挟んで怪我をすることなく、安全に鍵盤蓋8を閉じることができる。
【0081】
この場合、連動歯車31は、渦巻き状の一部からなるほぼ扇形状に形成され、ピッチ円P1の中心Q1から小径側に位置する歯部31aに向けて偏った位置が支持軸12に支持されていることにより、歯部31aから支持軸12までの距離を鍵盤蓋8の開閉動作に応じて異ならせることができる。すなわち、連動歯車31は、全体がほぼ130度の開き角度の扇形状をなし、その中心線Lに沿って距離Sだけピッチ円P1の中心Q1から支持軸12の位置がずれていることにより、中心線Lの下側に位置する歯部31aから中心線Lの上側に位置する歯部31aに亘って支持軸12までの距離を徐々に長くすることができる。
【0082】
このため、鍵盤蓋8を閉じる際には、その閉じ始めから閉じ終わりまでに亘って、連動歯車31がダンパー部材15のダンパー歯車15aの回転速度を徐々に速くして、鍵盤蓋8に対するダンパー部材15の制動力を徐々に強めることができる。これにより、鍵盤蓋8を閉じる力を徐々に重くして、鍵盤蓋8の閉じる動作を徐々に遅くすることができるので、鍵盤蓋8の開閉操作性が良く、鍵盤蓋8によって手や指を挟んで怪我をすることなく、安全に鍵盤蓋8を閉じることができる。
【0083】
なお、上述した実施形態1〜3では、ダンパー部材を連動歯車13、31に向けて付勢する付勢部材として、コイルばねからなるばね部材16を用いた場合について述べたが、これに限らず、ばね部材16は板ばねであっても良く、またばね部材に限らず、ゴムなどの弾性部材であっても良い。
【0084】
また、上述した実施形態1〜3では、鍵盤楽器の鍵盤蓋8に適用した場合について述べたが、必ずしも鍵盤楽器の鍵盤蓋8である必要はなく、例えば音響機器などの各種の電子機器の蓋体にも広く適用することができる。
【符号の説明】
【0085】
1 楽器ケース
6 鍵盤部
8 鍵盤蓋
10、20、30 蓋開閉装置
11 アーム部材
12 支持軸
13、31 連動歯車
13a、31a 連動歯車の歯部
14 取付部材
15 ダンパー部材
15a ダンパー歯車
16 ばね部材
P、P1 ピッチ円
Q、Q1 ピッチ円の中心
S ピッチ円の中心から支持軸までの距離
L 連動歯車の中心線


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、このケースに支持軸によって回転可能に取り付けられた蓋体と、前記支持軸を中心に前記蓋体と共に回転する連動歯車と、この連動歯車に噛み合って回転するダンパー歯車を有して前記連動歯車の回転を制動するダンパー部材とを備えた蓋開閉装置において、
前記連動歯車は、その歯部のピッチ円の中心から偏心した位置が前記支持軸によって支持され、前記鍵盤蓋が閉じる途中の状態のときに前記支持軸から歯部までの距離が短く、前記鍵盤蓋が閉じ終わるまでの状態のときに前記支持軸から歯部までの距離が徐々に長くなることを特徴とする蓋開閉装置。
【請求項2】
前記連動歯車は、円形状の一部からなるほぼ扇形状に形成され、前記歯部の前記ピッチ円の中心から前記ほぼ扇形状の中間に位置する前記歯部に向けて偏った位置が前記支持軸によって支持されていることを特徴とする請求項1に記載の蓋開閉装置。
【請求項3】
前記連動歯車は、渦巻き状の一部からなるほぼ扇形状に形成され、前記歯部の前記ピッチ円が渦巻き状をなし、この渦巻き状の前記ピッチ円の中心から小径側に位置する前記歯部に向けて偏った位置が前記支持軸に支持されていることを特徴とする請求項1に記載の蓋開閉装置。
【請求項4】
前記ダンパー部材の前記ダンパー歯車を前記連動歯車の前記歯部に弾力的に押し付けて噛み合わせるための付勢部材を備えていることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれかに記載の蓋開閉装置。
【請求項5】
前記ダンパー部材の前記ダンパー歯車を前記連動歯車に対する接離方向に移動可能にガイドするダンパーガイド部材を備えていることを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれかに記載の蓋開閉装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2011−209479(P2011−209479A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76637(P2010−76637)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】