薄膜デバイス
【課題】 樹脂膜が剥離しにくい薄膜デバイスを提供する。
【解決手段】 薄膜デバイス10では、平板状の基体18の一方の主面上に導体パターン14Aが設けられ、その導体パターンが樹脂膜15Bによって覆われている。この導体パターンは、基体の主面上に配置された底面41と、この底面41に対向し、基体の主面から離間した上面42と、底面と上面を連結する二つの側面43、44を有している。これらの側面には凹部が設けられており、その凹部内に絶縁膜が延在している。
【解決手段】 薄膜デバイス10では、平板状の基体18の一方の主面上に導体パターン14Aが設けられ、その導体パターンが樹脂膜15Bによって覆われている。この導体パターンは、基体の主面上に配置された底面41と、この底面41に対向し、基体の主面から離間した上面42と、底面と上面を連結する二つの側面43、44を有している。これらの側面には凹部が設けられており、その凹部内に絶縁膜が延在している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂膜によって覆われた導体パターンを有する薄膜デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータや携帯電話機等の電子機器の内部回路には、薄膜形成技術を用いて形成される薄膜型の電子部品が実装されている。このような電子部品は薄膜デバイスと呼ばれる。その一例としては薄膜インダクタが挙げられ、近年では、小型化や低背化の要求を満たすためにスパイラルコイルやソレノイドコイルを備えた薄膜インダクタが提案されている(特許文献1,2)。また、ソレノイドコイルを備えた薄膜インダクタに、電源ICが形成された基体を固着した一体化電源も提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平5−29146号公報
【特許文献2】特開2004−296816号公報
【特許文献3】特開2004−274004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
薄膜デバイスは、絶縁膜で覆われた導体パターンを基板上に有することが多い。例えば、導体パターンとしてソレノイドコイルを備えた薄膜インダクタでは、金属磁性体からなる磁心とソレノイドコイルとの間に絶縁膜が設けられる。絶縁膜の材料としては樹脂を使用することができる。しかし、樹脂の熱膨張係数は導体パターンや基板を構成する金属や半導体に比べて相当に大きい。このため、樹脂膜と基板や導体パターンとの間で、温度変化に応じた膨張量または収縮量が大きく異なり、結果として樹脂膜が剥離しやすい。
【0004】
そこで、本発明は、樹脂膜が剥離しにくい薄膜デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る薄膜デバイスは、平板状の基体と、基体の一方の主面上に設けられた導体パターンと、その主面上に設けられ、導体パターンを覆う樹脂膜とを備えている。導体パターンは、その主面上に配置された底面と、この底面に対向し、その主面から離間した上面と、これらの底面と上面を連結する二つの側面を有している。二つの側面の少なくとも一方に凹部が設けられ、その凹部内に樹脂膜が延在している。
【0006】
導体パターンの側面に設けられた凹部によって導体パターンと樹脂膜との接触面積が増すと共に、樹脂膜のうち凹部に延在している部分がアンカー効果を発揮するので、樹脂膜が剥離しにくくなる。
【0007】
上記の凹部は、導体パターンの側面のうち底面と隣接する端部に設けられていてもよい。この凹部は基体と対向しているため、この凹部と相補的な形状を有するレジストパターンは、レジスト感光用ビームの基体による反射や光学的な作用を利用することで形成することができる。したがって、この凹部を有する薄膜デバイスは、工程数を増やすことなく製造することができる。
【0008】
本発明の一側面に係る薄膜デバイスは、上記の導体パターンとして、隣り合う第1および第2の導体パターンを備えており、第1の導体パターンの凹部が第2の導体パターンの凹部と対向していてもよい。第1および第2の導体パターンは、互いに接続されていてもよいし、離間していてもよい。向かい合う一対の凹部により、絶縁膜がいっそう剥離しにくくなる。
【0009】
導体パターンは、凹部によって面取りされた基体側角部を有していてもよい。面取りによって導体パターンから鋭い角部が除かれるので、導体パターンの表皮効果による実効断面積の低下が抑えられる。この結果、高周波帯域において導体パターンの交流抵抗値の増加が抑制される。
【0010】
基体側角部は、その表面が曲面を成すように面取りされていてもよい。この構成によれば、基体側角部が平面状に面取りされている場合よりも樹脂膜が剥離しにくい。
【0011】
面取りされた基体側角部の表面と該基体側角部が延びる方向に垂直な平面との交線が、全長wと、基体の主面に対する最大高さhとを有し、w/hが1.15以上であってもよい。この構成によれば、樹脂膜の剥離が効果的に抑制される。
【0012】
上記の凹部は、樹脂膜によって充填されていてもよい。この場合、樹脂膜が更に剥離しにくくなる。
【0013】
導体パターンの上側角部の少なくとも一つが面取りされていてもよい。面取りされた上側角部には応力が集中しにくいので、導体パターンの上部において樹脂膜が剥離しにくくなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、樹脂膜が剥離しにくい薄膜デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
第1実施形態
図1は、本発明の第1の実施形態に係る薄膜デバイスを示す平面図であり、図2〜図4は、それぞれ図1のII−II線、III−III線、IV−IV線に沿った断面図である。本実施形態の薄膜デバイスは、導体パターンとしてソレノイドコイル14を備える薄膜インダクタ10である。ソレノイドコイル14は、相互に接続された複数の導体パターン、すなわち下側導体14A、上側導体14B、および接続導体14Cからなる。ソレノイドコイル14の両端に位置する二つの下側導体14Aからは、それぞれ配線14T1、14T2が延び出している。
【0017】
図2〜図4に示すように、ソレノイドコイル14および配線14T1、14T2は、基板11の一方の主面(上面)上に設けられている。基板11の上面は下部磁性膜12および絶縁性の樹脂膜15Aによって順次に被覆されており、これらの膜12、15Aと基板11は平板状の基体18を構成している。下側導体14Aは、基体18の一方の主面、すなわち絶縁膜15Aの平坦な上面に直接形成されている。これらの下側導体14Aは、一定の間隔で並設されている。絶縁膜15Aの上面には更に、下側導体14Aを被覆する絶縁性の樹脂膜15Bが設けられている。
【0018】
樹脂膜15Bの上面には、上部磁性膜13および絶縁性の樹脂膜15Cが順次に形成されており、樹脂膜15Cの上面には上側導体14Bが直接形成されている。これらの上側導体14Bは、一定の間隔で並設されている。樹脂膜15Cの上面には更に、上側導体14Bを被覆する絶縁性の樹脂膜15Dが設けられている。下側導体14Aと上側導体14Bとは、樹脂膜15Bおよび15Cを貫通する接続導体14Cによって電気的に接続されている。本実施形態では、基板11はSi、樹脂膜15A〜15Dはポリイミド、導体14A〜14Cおよび配線14T1、14T2は銅からなる。
【0019】
下側導体14Aおよび接続導体14Cは直方体状であり、上側導体14Bは直方体状の両端部と、それらの両端部を連結する四角柱状の中間部を有している。図1に示すように、上側導体14Bの両端部は下側導体14Aと平行に延びている。また、上側導体14Bの中間部の中心線17は、下側導体14Aの中心線16に対して傾斜している。図2〜図4に示すように、下側導体14Aおよび上側導体14Bの各々は、樹脂膜15Aの上面上に配置された底面と、この底面に対向し、樹脂膜15Aから離間した上面と、これら底面と上面を連結し、樹脂膜15Aの上面に対して垂直な二つの側面を有している。
【0020】
図2において、20は下側導体14Aおよび上側導体14Bの基体側角部を示し、24は各導体の上側角部を示している。基体側角部20は、導体14Aまたは14Bの底面と側面とを連結する角部であり、上側角部は導体14Aまたは14Bの上面と側面とを連結する角部である。下側導体14Aの角部20、24は、中心線16に平行に延びている。上側導体14Bの両端部でも角部20、24は中心線16と平行に延びているが、中間部では角部20、24が中心線17に平行に延びている。
【0021】
図5は、薄膜インダクタ10の部分拡大断面図であり、(a)は下側導体14Aの中心線16に垂直な断面を示し、(b)は(a)の破線によって囲まれる部分を更に拡大して示している。この図において41は下側導体14Aの底面、42は上面、43および44は側面を示している。側面43、44の各々において底面41に隣接する端部には、中心線116に平行に延びる凹部が設けられており、それらの凹部は絶縁膜15Bによって充填されている。これらの凹部によって、下側導体14Aの二つの基体側角部20は、その表面が曲面を成すように面取りされている。同様に、上側導体14Bの二つの基体側角部20も、上側導体14Bの両側面に設けられた同様の凹部によって、その表面が曲面を成すように面取りされている。この面取りされた基体側角部20は、樹脂膜15Bの剥離を抑える役割を果たす。この点については、後で詳細に説明する。
【0022】
以下では、下側導体14Aの製造方法を説明する。図6および図7は、下側導体14Aの製造工程を示す断面図である。なお、図7では、説明の便宜上、下側導体14A間の間隔を図1〜図4に示すものよりも短く描いている。
【0023】
まず、基板11上に下部磁性膜12および樹脂膜15Aを順次に形成した後、樹脂膜15Aの上面にメッキ用のシード層19を形成する(図6(a))。このシード層19上にフィルムレジスト21を積層し(図6(b))、その上にフォトマスク22を形成した後、フィルムレジスト21を露光する(図6(c))。
【0024】
本実施形態では、シード層19に反射率の高い材料を使用し、更に、フィルムレジスト21に照射する露光用ビームのパワーを通常よりも高くする。例えば、通常は露光量を150mJにするところ、250mJにする。露光量を大きくすることで、シード層19により乱反射される露光用ビームのパワーが増加する。この結果、樹脂膜15Aの上面に対して垂直に露光用ビームを照射するにもかかわらず、樹脂膜15Aの上面に対して斜めに反射されたビームがフィルムレジスト21を露光するようになる。この結果、図6(c)に示すように、シード層19の付近で裾の広がった露光領域21Aを形成することができる。
【0025】
次に、フィルムレジスト21を現像し、露光領域21A以外の部分を除去する(図6(d))。こうして残った露光領域21Aがレジストパターンである。このレジストパターン21Aは、下部導体14Aと相補的な形状を有している。
【0026】
続いて、シード層19上に銅をメッキして下側導体14Aを形成する(図7(e))。この後、レジストパターン21Aを除去し(図7(f))、更に下部導体14A間の間隙から露出するシード層19をウェットエッチングにより除去する(図7(g))。こうして、基体側角部20が面取りされた下側導体14Aが形成される。図7(g)に示すように、下側導体14Aの側面43の凹部43aは、隣りの下側導体14Aの側面44の凹部44aと対向している。
【0027】
この後、下側導体14Aを覆うように樹脂膜15B、上部磁性膜13、樹脂膜15Cを順次に形成し、下側導体14Aと同様の方法により樹脂膜15C上に上側導体14Bを形成する。更に、上側導体14Bを覆うように樹脂膜15Dを形成する。こうして、薄膜インダクタ10が完成する。この製造方法によれば、凹部43a、44aによって面取りされた基体側角部20を有する薄膜デバイス10を、従来の方法に比べて工程数を増やすことなく製造することができる。
【0028】
以下では、図5を参照しながら薄膜インダクタ10の利点を説明する。下側導体14Aの面取りされた基体側角部20は、樹脂膜15Bの剥離を抑える効果を発揮する。これは定性的に言えば、基体側角部20が面取りされているので、基体側角部が直角の場合に比べて下側導体14Aと樹脂膜15Bとの接触面積が増し、更に、樹脂膜15Bのうち基体側角部20の下に延在する部分23がアンカー効果を発揮するためである。以下では、この点をより詳細に検討する。
【0029】
樹脂膜15Bと、半導体製の基板1を母体とする基体18や、金属からなる下側導体14Aとでは、熱膨張係数の差が大きく異なる。このため、樹脂膜15Bと基体18とでは温度変化に応じた膨張量や収縮量の違いが大きく、それが樹脂膜15Bに応力を生じさせる。例えば、本実施形態では、樹脂膜15Bが加熱硬化型樹脂であるポリイミドからなるので、樹脂膜15Bの形成の際は、下部磁性膜12上に塗布したポリイミドを加熱硬化させた後、常温まで冷却することになる。この冷却の際、ポリイミドが比較的大きく収縮するので、樹脂膜15Bに応力が発生する。この応力のうち基体18の上面に対して垂直上向きの成分が大きいと、基体18から樹脂膜15Bが剥離してしまう。
【0030】
図5(b)において矢印31は、この垂直上向きの応力を表している。樹脂膜15Bと下側導体14Aとの界面における付着力32は、この応力31に抵抗して樹脂膜15Bの剥離を妨げる。付着力32の効果は、樹脂膜15Bが下側導体14Aに接触している面積が大きいほど高い。面取りされた基体側角部20は、直角の角部よりも大きな接触面積を樹脂膜15Bとの間に有するので、樹脂膜15Bの剥離を抑えることができる。更に、樹脂膜15Bのうち基体側角部20の下に入り込んだ部分(以下、「突出部分」)23のせん断応力33も応力31に抵抗するため、これによっても樹脂膜15Bが剥離しにくくなる。特に、本実施形態では、隣り合う下側導体14Aの基体側角部20が向かい合っており、各基体側角部20の下に位置する突出部分23のせん断応力33が、下側導体14Aの間隙を充填する絶縁膜15Bに共に作用するので、絶縁膜15Bがいっそう剥離しにくい。
【0031】
以下では、樹脂膜15Bに発生した応力31の大きさをσ[MPa]、下側導体14Aの高さ(厚さ)をH[μm]で表す。この場合、樹脂膜15Bと下側導体14Aとの界面に加わる応力はσH[MPa・μm]と表すことができる。また、樹脂膜15Bと下側導体14Aとの付着力32の大きさをP[MPa]、突出部分23のせん断応力33の大きさをQ[MPa]と表し、下側導体14Aの中心線16に垂直な平面と基体側角部20との交線の全長をw[μm]、その交線の樹脂膜15Bの上面に対する最大高さをh[μm]で表す。この場合、樹脂膜15Bと下側導体14Aとの界面に加わる付着力32とせん断応力33の和は、P(H−h)+Pw+Qhで表すことができる。
【0032】
剥離が起きない条件は、縁膜15Bと下側導体14Aとの界面において付着力32とせん断応力33の和が応力31よりも大きいことであり、これは、
P(H−h)+Pw+Qh≧σH (1)
と表される。これを変形すると、
P+(Pw−Ph+Qh)/H≧σ (2)
となる。
【0033】
一方、基体側角部20が面取りされておらず直角の場合、剥離が起きない条件は、
P≧σ (3)
である。
【0034】
面取りされた基体側角部20では必ずw>hとなることから、(2)の左辺は(3)の左辺よりも常に大きくなる。したがって、同じ応力σに対しては、基体側角部20を面取りしたほうが剥離が起きにくいことが分かる。
【0035】
なお、基体側角部20が平面状に面取りされていてもw>hであり、樹脂膜15Bとの接触面積が増えるので、樹脂膜15Bの剥離を抑える効果は得られる。しかし、本実施形態のように基体側角部20を曲面状に面取りすれば、接触面積が更に増えるので、剥離を抑える効果がいっそう高くなる。
【0036】
基体側角部20は、w/hが1.15以上となるように面取りされていることが望ましい。以下では、図8を参照しながらこの点を説明する。ここで図8は、平面状および曲面状に面取りされた基体側角部20を拡大して示す部分断面図である。
【0037】
図8(a)に示すように、基体側角部20を平面状に面取りした場合、基体側角部20の表面が下側導体14Aの側面43の延長平面と成す角度αが30°以上であれば、突出部分23のせん断応力によって樹脂膜15Bの剥離を十分に抑えることができる。逆に角度αが30度未満だと、基体側角部20の表面に沿って樹脂膜15Bが滑りやすく、樹脂膜15Bが剥離しやすい。αが30°のとき、wは1.15hに等しい。
【0038】
図8(b)に示すように、基体側角部20の表面が曲面を成すように面取りされている場合、その表面の、側面43との接続部における接平面が下側導体14Aの側面43の延長平面と成す角度βが30°以上であることが望ましい。βが30°のとき、wは1.15hより大きい。以上により、w/hが1.15以上であれば、樹脂膜15Bの剥離を効果的に抑制できることが分かる。
【0039】
以上、下側導体14Aに関して説明をしたが、上側導体14Bについても同様の利点が得られる。つまり、上側導体14Bの面取りされた基体側角部20は樹脂膜15Dの剥離を抑制する。
【0040】
第2実施形態
以下では、図9を参照しながら、本発明の第2の実施形態に係る薄膜デバイスを説明する。図9は第2実施形態における下側導体14Aを示す部分拡大断面図である。本実施形態では、下側導体14Aの基体側角部20だけでなく上側角部24も、その表面が曲面を成すように面取りされている。同様に、上側導体14Bの上側角部24も、その表面が曲面を成すように面取りされている。他の構成は第1実施形態と同じである。上側角部24の面取りは、導体14A、14Bを形成するメッキの条件(例えば、メッキ浴の組成や電流密度)を調整することで実現することができる。
【0041】
下側導体14Aの上側角部24が面取りされておらず直角だと、下側導体14Aの上面に平行な応力と下側導体14Aの側面に平行な応力とが上側角部24に集中しやすく、それが樹脂膜15Bの剥離を促進する。この点は上側導体14Bについても同様である。なお、直角ではなく鋭角の上側角部を有する導体パターンも知られているが、よりいっそう上側角部に応力が集中しやすく、樹脂膜の剥離も起こりやすい。これに対して、本実施形態では上側角部24が面取りされているため、応力集中が起こりにくく、したがって、導体14Aおよび14Bの上部において樹脂膜15Bおよび15Dが剥離しにくい。
【0042】
第3実施形態
以下では、図10を参照しながら、本発明の第3の実施形態に係る薄膜デバイスを説明する。図10は第3実施形態における下側導体14Aを示す部分拡大断面図である。本実施形態では、下側導体14Aの各側面43、44のうち底面41に隣接する端部に、各側面に対して垂直に窪んだ凹部25が設けられている。同様に、上側導体14Bの各側面のうち上側導体14Bの底面に隣接する端部にも凹部25が設けられている。他の構成は第1実施形態と同じである。
【0043】
この凹部25によって下側導体14Aと絶縁膜15Bとの接触面積が増すと共に、絶縁膜15Bのうち凹部25を充填する突出部分23がアンカー効果を発揮するので、絶縁膜15Bが剥離しにくくなる。同様に、上側導体14Bに設けられた凹部25によって絶縁膜15Dも剥離しにくくなる。
【0044】
ただし、本実施形態は、面取りされた基体側角部20を有する第1、第2実施形態に比べて、下側導体14Aおよび上側導体14Bの高周波帯域における交流抵抗値が大きくなりやすい。これは導体の表皮効果による実効断面積が低下したことに起因する。一般に、導体を伝播する電気信号の周波数が高くなるほど、導体の表面に電流が集中する。この現象は表皮効果と呼ばれ、電流が流れる領域の深さ方向への断面積を実効断面積と呼ぶ。導体の鋭い角部では表皮効果による実効断面積が低下するので、高周波帯域において導体を流れる電流も小さくなる。この結果、導体の交流抵抗値が大きくなる。
【0045】
本実施形態の凹部25は下側導体14Aに直角の角部を複数形成するので、表皮効果による実効断面積が低下し、高周波帯域における交流抵抗値が大きくなりやすい。これに対し、第1、第2実施形態では、基体側角部20の面取りによって直角または鋭角の角部が下側導体14A、上側導体14Bから除かれる。したがって、表皮効果による実効断面積の低下を抑え、高周波帯域におけるソレノイドコイル14の交流抵抗値の増加を抑制することができる。
【0046】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0047】
第1実施形態では、下側導体14A、上側導体14Bの各々において基体側角部20が二つとも面取りされているが、いずれか一方の基体側角部20のみが面取りされている場合でも、樹脂膜15Bおよび15Dは剥離しにくくなる。同様に、第2実施形態では、下側導体14A、上側導体14Bの各々において上側角部24が二つとも面取りされているが、いずれか一方の上側角部24のみが面取りされている場合でも、導体14Aおよび14Bの上部において樹脂膜15Bおよび15Dが剥離しにくくなる。
【0048】
第2実施形態では導体パターンの上側角部24がその表面が曲面を成すように面取りされているが、その表面が平面を成すように面取りされていてもよい。
【0049】
上記実施形態では、図7に示すように、シード層19をウェットエッチングによって除去しているが、ドライエッチング(例えば、反応性イオンエッチング)によって除去してもよい。この方法では、図11に示すように、基体側角部20の下にシード層19が残ることがある。この場合、樹脂膜15Bが基体側角部20とシード層19との間に充填されることになる。このような構成でも、面取りされた基体側角部20によって下側導体14Aと樹脂膜15Bとの接触面積が増し、更に、樹脂膜15Bのうち基体側角部20の下に入り込んだ部分がアンカー効果を発揮するので、樹脂膜15Bの剥離を抑えることができる。この点は上側導体14Bについても同様である。
【0050】
上記実施形態は、導体パターンとしてコイルを備える薄膜インダクタであるが、本発明の薄膜デバイスは他の任意の導体パターンを有していてもよい。導体パターンが配線である場合、その配線の面取りされた基体側角部の基体の上面に対する最大高さをh、配線自体の高さ(厚さ)をHで表すと、0<h<0.1Hであることが望ましい。面取りが大きすぎると配線の断面積が小さく、配線抵抗が高くなるからである。
【0051】
上記実施形態では、導体14A、14Bが柱状体であるが、本発明の薄膜デバイスが備える導体パターンの形状は任意である。導体パターンを、ある方向に延びる微小部分の集合体と考えれば、各微小部分の基体側角部の表面とその微小部分が延びる方向(これは、基体側角部が延びる方向に等しい)に垂直な平面との交線の長さが上記のwに相当し、その交線の基体の主面に対する最大高さが上記のhに相当する。第1実施形態で述べたように、w/hは1.15以上であると樹脂膜の剥離が効果的に抑制される。
【0052】
上記実施形態では導体側面の凹部43a、44aまたは25が樹脂膜によって充填されている。しかし、樹脂膜によって充填されていなくても凹部内に樹脂膜の一部分が延在していれば、その部分のせん断応力によって樹脂膜の剥離がある程度、抑えられる。凹部が絶縁膜によって充填されていれば、それだけせん断応力も大きくなるので、樹脂膜がより剥離しにくい。
【0053】
上記実施形態は薄膜インダクタであるが、本発明は、パターニングされた導体を絶縁膜で覆う薄膜デバイスに広く適用できる。したがって、本発明は、薄膜インダクタのみならず、薄膜コイルを有するデバイスや、薄膜コンデンサなど、他の薄膜デバイスにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】第1実施形態に係る薄膜デバイスを示す平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図1のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】第1実施形態の部分拡大断面図である。
【図6】下側導体の製造工程を示す断面図である。
【図7】下側導体の製造工程を示す断面図である。
【図8】平面状および曲面状に面取りされた基体側角部を拡大して示す部分断面図である。
【図9】第2実施形態における下側導体を示す部分拡大断面図である。
【図10】第3実施形態の部分拡大断面図である。
【図11】基体側角部の下に残るシード層を示す断面図である。
【符号の説明】
【0055】
10…薄膜インダクタ、11…基板、12…下部磁性膜、13…上部磁性膜、14A…下側導体、14B…上側導体、15A〜15D…樹脂膜、18…基体、19…シード層、20…基体側角部、24…上側角部、25、43a、44a…凹部、41…底面、42…上面、43、44…側面。
【技術分野】
【0001】
この発明は、樹脂膜によって覆われた導体パターンを有する薄膜デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
パーソナルコンピュータや携帯電話機等の電子機器の内部回路には、薄膜形成技術を用いて形成される薄膜型の電子部品が実装されている。このような電子部品は薄膜デバイスと呼ばれる。その一例としては薄膜インダクタが挙げられ、近年では、小型化や低背化の要求を満たすためにスパイラルコイルやソレノイドコイルを備えた薄膜インダクタが提案されている(特許文献1,2)。また、ソレノイドコイルを備えた薄膜インダクタに、電源ICが形成された基体を固着した一体化電源も提案されている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平5−29146号公報
【特許文献2】特開2004−296816号公報
【特許文献3】特開2004−274004号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
薄膜デバイスは、絶縁膜で覆われた導体パターンを基板上に有することが多い。例えば、導体パターンとしてソレノイドコイルを備えた薄膜インダクタでは、金属磁性体からなる磁心とソレノイドコイルとの間に絶縁膜が設けられる。絶縁膜の材料としては樹脂を使用することができる。しかし、樹脂の熱膨張係数は導体パターンや基板を構成する金属や半導体に比べて相当に大きい。このため、樹脂膜と基板や導体パターンとの間で、温度変化に応じた膨張量または収縮量が大きく異なり、結果として樹脂膜が剥離しやすい。
【0004】
そこで、本発明は、樹脂膜が剥離しにくい薄膜デバイスを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る薄膜デバイスは、平板状の基体と、基体の一方の主面上に設けられた導体パターンと、その主面上に設けられ、導体パターンを覆う樹脂膜とを備えている。導体パターンは、その主面上に配置された底面と、この底面に対向し、その主面から離間した上面と、これらの底面と上面を連結する二つの側面を有している。二つの側面の少なくとも一方に凹部が設けられ、その凹部内に樹脂膜が延在している。
【0006】
導体パターンの側面に設けられた凹部によって導体パターンと樹脂膜との接触面積が増すと共に、樹脂膜のうち凹部に延在している部分がアンカー効果を発揮するので、樹脂膜が剥離しにくくなる。
【0007】
上記の凹部は、導体パターンの側面のうち底面と隣接する端部に設けられていてもよい。この凹部は基体と対向しているため、この凹部と相補的な形状を有するレジストパターンは、レジスト感光用ビームの基体による反射や光学的な作用を利用することで形成することができる。したがって、この凹部を有する薄膜デバイスは、工程数を増やすことなく製造することができる。
【0008】
本発明の一側面に係る薄膜デバイスは、上記の導体パターンとして、隣り合う第1および第2の導体パターンを備えており、第1の導体パターンの凹部が第2の導体パターンの凹部と対向していてもよい。第1および第2の導体パターンは、互いに接続されていてもよいし、離間していてもよい。向かい合う一対の凹部により、絶縁膜がいっそう剥離しにくくなる。
【0009】
導体パターンは、凹部によって面取りされた基体側角部を有していてもよい。面取りによって導体パターンから鋭い角部が除かれるので、導体パターンの表皮効果による実効断面積の低下が抑えられる。この結果、高周波帯域において導体パターンの交流抵抗値の増加が抑制される。
【0010】
基体側角部は、その表面が曲面を成すように面取りされていてもよい。この構成によれば、基体側角部が平面状に面取りされている場合よりも樹脂膜が剥離しにくい。
【0011】
面取りされた基体側角部の表面と該基体側角部が延びる方向に垂直な平面との交線が、全長wと、基体の主面に対する最大高さhとを有し、w/hが1.15以上であってもよい。この構成によれば、樹脂膜の剥離が効果的に抑制される。
【0012】
上記の凹部は、樹脂膜によって充填されていてもよい。この場合、樹脂膜が更に剥離しにくくなる。
【0013】
導体パターンの上側角部の少なくとも一つが面取りされていてもよい。面取りされた上側角部には応力が集中しにくいので、導体パターンの上部において樹脂膜が剥離しにくくなる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、樹脂膜が剥離しにくい薄膜デバイスを提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0016】
第1実施形態
図1は、本発明の第1の実施形態に係る薄膜デバイスを示す平面図であり、図2〜図4は、それぞれ図1のII−II線、III−III線、IV−IV線に沿った断面図である。本実施形態の薄膜デバイスは、導体パターンとしてソレノイドコイル14を備える薄膜インダクタ10である。ソレノイドコイル14は、相互に接続された複数の導体パターン、すなわち下側導体14A、上側導体14B、および接続導体14Cからなる。ソレノイドコイル14の両端に位置する二つの下側導体14Aからは、それぞれ配線14T1、14T2が延び出している。
【0017】
図2〜図4に示すように、ソレノイドコイル14および配線14T1、14T2は、基板11の一方の主面(上面)上に設けられている。基板11の上面は下部磁性膜12および絶縁性の樹脂膜15Aによって順次に被覆されており、これらの膜12、15Aと基板11は平板状の基体18を構成している。下側導体14Aは、基体18の一方の主面、すなわち絶縁膜15Aの平坦な上面に直接形成されている。これらの下側導体14Aは、一定の間隔で並設されている。絶縁膜15Aの上面には更に、下側導体14Aを被覆する絶縁性の樹脂膜15Bが設けられている。
【0018】
樹脂膜15Bの上面には、上部磁性膜13および絶縁性の樹脂膜15Cが順次に形成されており、樹脂膜15Cの上面には上側導体14Bが直接形成されている。これらの上側導体14Bは、一定の間隔で並設されている。樹脂膜15Cの上面には更に、上側導体14Bを被覆する絶縁性の樹脂膜15Dが設けられている。下側導体14Aと上側導体14Bとは、樹脂膜15Bおよび15Cを貫通する接続導体14Cによって電気的に接続されている。本実施形態では、基板11はSi、樹脂膜15A〜15Dはポリイミド、導体14A〜14Cおよび配線14T1、14T2は銅からなる。
【0019】
下側導体14Aおよび接続導体14Cは直方体状であり、上側導体14Bは直方体状の両端部と、それらの両端部を連結する四角柱状の中間部を有している。図1に示すように、上側導体14Bの両端部は下側導体14Aと平行に延びている。また、上側導体14Bの中間部の中心線17は、下側導体14Aの中心線16に対して傾斜している。図2〜図4に示すように、下側導体14Aおよび上側導体14Bの各々は、樹脂膜15Aの上面上に配置された底面と、この底面に対向し、樹脂膜15Aから離間した上面と、これら底面と上面を連結し、樹脂膜15Aの上面に対して垂直な二つの側面を有している。
【0020】
図2において、20は下側導体14Aおよび上側導体14Bの基体側角部を示し、24は各導体の上側角部を示している。基体側角部20は、導体14Aまたは14Bの底面と側面とを連結する角部であり、上側角部は導体14Aまたは14Bの上面と側面とを連結する角部である。下側導体14Aの角部20、24は、中心線16に平行に延びている。上側導体14Bの両端部でも角部20、24は中心線16と平行に延びているが、中間部では角部20、24が中心線17に平行に延びている。
【0021】
図5は、薄膜インダクタ10の部分拡大断面図であり、(a)は下側導体14Aの中心線16に垂直な断面を示し、(b)は(a)の破線によって囲まれる部分を更に拡大して示している。この図において41は下側導体14Aの底面、42は上面、43および44は側面を示している。側面43、44の各々において底面41に隣接する端部には、中心線116に平行に延びる凹部が設けられており、それらの凹部は絶縁膜15Bによって充填されている。これらの凹部によって、下側導体14Aの二つの基体側角部20は、その表面が曲面を成すように面取りされている。同様に、上側導体14Bの二つの基体側角部20も、上側導体14Bの両側面に設けられた同様の凹部によって、その表面が曲面を成すように面取りされている。この面取りされた基体側角部20は、樹脂膜15Bの剥離を抑える役割を果たす。この点については、後で詳細に説明する。
【0022】
以下では、下側導体14Aの製造方法を説明する。図6および図7は、下側導体14Aの製造工程を示す断面図である。なお、図7では、説明の便宜上、下側導体14A間の間隔を図1〜図4に示すものよりも短く描いている。
【0023】
まず、基板11上に下部磁性膜12および樹脂膜15Aを順次に形成した後、樹脂膜15Aの上面にメッキ用のシード層19を形成する(図6(a))。このシード層19上にフィルムレジスト21を積層し(図6(b))、その上にフォトマスク22を形成した後、フィルムレジスト21を露光する(図6(c))。
【0024】
本実施形態では、シード層19に反射率の高い材料を使用し、更に、フィルムレジスト21に照射する露光用ビームのパワーを通常よりも高くする。例えば、通常は露光量を150mJにするところ、250mJにする。露光量を大きくすることで、シード層19により乱反射される露光用ビームのパワーが増加する。この結果、樹脂膜15Aの上面に対して垂直に露光用ビームを照射するにもかかわらず、樹脂膜15Aの上面に対して斜めに反射されたビームがフィルムレジスト21を露光するようになる。この結果、図6(c)に示すように、シード層19の付近で裾の広がった露光領域21Aを形成することができる。
【0025】
次に、フィルムレジスト21を現像し、露光領域21A以外の部分を除去する(図6(d))。こうして残った露光領域21Aがレジストパターンである。このレジストパターン21Aは、下部導体14Aと相補的な形状を有している。
【0026】
続いて、シード層19上に銅をメッキして下側導体14Aを形成する(図7(e))。この後、レジストパターン21Aを除去し(図7(f))、更に下部導体14A間の間隙から露出するシード層19をウェットエッチングにより除去する(図7(g))。こうして、基体側角部20が面取りされた下側導体14Aが形成される。図7(g)に示すように、下側導体14Aの側面43の凹部43aは、隣りの下側導体14Aの側面44の凹部44aと対向している。
【0027】
この後、下側導体14Aを覆うように樹脂膜15B、上部磁性膜13、樹脂膜15Cを順次に形成し、下側導体14Aと同様の方法により樹脂膜15C上に上側導体14Bを形成する。更に、上側導体14Bを覆うように樹脂膜15Dを形成する。こうして、薄膜インダクタ10が完成する。この製造方法によれば、凹部43a、44aによって面取りされた基体側角部20を有する薄膜デバイス10を、従来の方法に比べて工程数を増やすことなく製造することができる。
【0028】
以下では、図5を参照しながら薄膜インダクタ10の利点を説明する。下側導体14Aの面取りされた基体側角部20は、樹脂膜15Bの剥離を抑える効果を発揮する。これは定性的に言えば、基体側角部20が面取りされているので、基体側角部が直角の場合に比べて下側導体14Aと樹脂膜15Bとの接触面積が増し、更に、樹脂膜15Bのうち基体側角部20の下に延在する部分23がアンカー効果を発揮するためである。以下では、この点をより詳細に検討する。
【0029】
樹脂膜15Bと、半導体製の基板1を母体とする基体18や、金属からなる下側導体14Aとでは、熱膨張係数の差が大きく異なる。このため、樹脂膜15Bと基体18とでは温度変化に応じた膨張量や収縮量の違いが大きく、それが樹脂膜15Bに応力を生じさせる。例えば、本実施形態では、樹脂膜15Bが加熱硬化型樹脂であるポリイミドからなるので、樹脂膜15Bの形成の際は、下部磁性膜12上に塗布したポリイミドを加熱硬化させた後、常温まで冷却することになる。この冷却の際、ポリイミドが比較的大きく収縮するので、樹脂膜15Bに応力が発生する。この応力のうち基体18の上面に対して垂直上向きの成分が大きいと、基体18から樹脂膜15Bが剥離してしまう。
【0030】
図5(b)において矢印31は、この垂直上向きの応力を表している。樹脂膜15Bと下側導体14Aとの界面における付着力32は、この応力31に抵抗して樹脂膜15Bの剥離を妨げる。付着力32の効果は、樹脂膜15Bが下側導体14Aに接触している面積が大きいほど高い。面取りされた基体側角部20は、直角の角部よりも大きな接触面積を樹脂膜15Bとの間に有するので、樹脂膜15Bの剥離を抑えることができる。更に、樹脂膜15Bのうち基体側角部20の下に入り込んだ部分(以下、「突出部分」)23のせん断応力33も応力31に抵抗するため、これによっても樹脂膜15Bが剥離しにくくなる。特に、本実施形態では、隣り合う下側導体14Aの基体側角部20が向かい合っており、各基体側角部20の下に位置する突出部分23のせん断応力33が、下側導体14Aの間隙を充填する絶縁膜15Bに共に作用するので、絶縁膜15Bがいっそう剥離しにくい。
【0031】
以下では、樹脂膜15Bに発生した応力31の大きさをσ[MPa]、下側導体14Aの高さ(厚さ)をH[μm]で表す。この場合、樹脂膜15Bと下側導体14Aとの界面に加わる応力はσH[MPa・μm]と表すことができる。また、樹脂膜15Bと下側導体14Aとの付着力32の大きさをP[MPa]、突出部分23のせん断応力33の大きさをQ[MPa]と表し、下側導体14Aの中心線16に垂直な平面と基体側角部20との交線の全長をw[μm]、その交線の樹脂膜15Bの上面に対する最大高さをh[μm]で表す。この場合、樹脂膜15Bと下側導体14Aとの界面に加わる付着力32とせん断応力33の和は、P(H−h)+Pw+Qhで表すことができる。
【0032】
剥離が起きない条件は、縁膜15Bと下側導体14Aとの界面において付着力32とせん断応力33の和が応力31よりも大きいことであり、これは、
P(H−h)+Pw+Qh≧σH (1)
と表される。これを変形すると、
P+(Pw−Ph+Qh)/H≧σ (2)
となる。
【0033】
一方、基体側角部20が面取りされておらず直角の場合、剥離が起きない条件は、
P≧σ (3)
である。
【0034】
面取りされた基体側角部20では必ずw>hとなることから、(2)の左辺は(3)の左辺よりも常に大きくなる。したがって、同じ応力σに対しては、基体側角部20を面取りしたほうが剥離が起きにくいことが分かる。
【0035】
なお、基体側角部20が平面状に面取りされていてもw>hであり、樹脂膜15Bとの接触面積が増えるので、樹脂膜15Bの剥離を抑える効果は得られる。しかし、本実施形態のように基体側角部20を曲面状に面取りすれば、接触面積が更に増えるので、剥離を抑える効果がいっそう高くなる。
【0036】
基体側角部20は、w/hが1.15以上となるように面取りされていることが望ましい。以下では、図8を参照しながらこの点を説明する。ここで図8は、平面状および曲面状に面取りされた基体側角部20を拡大して示す部分断面図である。
【0037】
図8(a)に示すように、基体側角部20を平面状に面取りした場合、基体側角部20の表面が下側導体14Aの側面43の延長平面と成す角度αが30°以上であれば、突出部分23のせん断応力によって樹脂膜15Bの剥離を十分に抑えることができる。逆に角度αが30度未満だと、基体側角部20の表面に沿って樹脂膜15Bが滑りやすく、樹脂膜15Bが剥離しやすい。αが30°のとき、wは1.15hに等しい。
【0038】
図8(b)に示すように、基体側角部20の表面が曲面を成すように面取りされている場合、その表面の、側面43との接続部における接平面が下側導体14Aの側面43の延長平面と成す角度βが30°以上であることが望ましい。βが30°のとき、wは1.15hより大きい。以上により、w/hが1.15以上であれば、樹脂膜15Bの剥離を効果的に抑制できることが分かる。
【0039】
以上、下側導体14Aに関して説明をしたが、上側導体14Bについても同様の利点が得られる。つまり、上側導体14Bの面取りされた基体側角部20は樹脂膜15Dの剥離を抑制する。
【0040】
第2実施形態
以下では、図9を参照しながら、本発明の第2の実施形態に係る薄膜デバイスを説明する。図9は第2実施形態における下側導体14Aを示す部分拡大断面図である。本実施形態では、下側導体14Aの基体側角部20だけでなく上側角部24も、その表面が曲面を成すように面取りされている。同様に、上側導体14Bの上側角部24も、その表面が曲面を成すように面取りされている。他の構成は第1実施形態と同じである。上側角部24の面取りは、導体14A、14Bを形成するメッキの条件(例えば、メッキ浴の組成や電流密度)を調整することで実現することができる。
【0041】
下側導体14Aの上側角部24が面取りされておらず直角だと、下側導体14Aの上面に平行な応力と下側導体14Aの側面に平行な応力とが上側角部24に集中しやすく、それが樹脂膜15Bの剥離を促進する。この点は上側導体14Bについても同様である。なお、直角ではなく鋭角の上側角部を有する導体パターンも知られているが、よりいっそう上側角部に応力が集中しやすく、樹脂膜の剥離も起こりやすい。これに対して、本実施形態では上側角部24が面取りされているため、応力集中が起こりにくく、したがって、導体14Aおよび14Bの上部において樹脂膜15Bおよび15Dが剥離しにくい。
【0042】
第3実施形態
以下では、図10を参照しながら、本発明の第3の実施形態に係る薄膜デバイスを説明する。図10は第3実施形態における下側導体14Aを示す部分拡大断面図である。本実施形態では、下側導体14Aの各側面43、44のうち底面41に隣接する端部に、各側面に対して垂直に窪んだ凹部25が設けられている。同様に、上側導体14Bの各側面のうち上側導体14Bの底面に隣接する端部にも凹部25が設けられている。他の構成は第1実施形態と同じである。
【0043】
この凹部25によって下側導体14Aと絶縁膜15Bとの接触面積が増すと共に、絶縁膜15Bのうち凹部25を充填する突出部分23がアンカー効果を発揮するので、絶縁膜15Bが剥離しにくくなる。同様に、上側導体14Bに設けられた凹部25によって絶縁膜15Dも剥離しにくくなる。
【0044】
ただし、本実施形態は、面取りされた基体側角部20を有する第1、第2実施形態に比べて、下側導体14Aおよび上側導体14Bの高周波帯域における交流抵抗値が大きくなりやすい。これは導体の表皮効果による実効断面積が低下したことに起因する。一般に、導体を伝播する電気信号の周波数が高くなるほど、導体の表面に電流が集中する。この現象は表皮効果と呼ばれ、電流が流れる領域の深さ方向への断面積を実効断面積と呼ぶ。導体の鋭い角部では表皮効果による実効断面積が低下するので、高周波帯域において導体を流れる電流も小さくなる。この結果、導体の交流抵抗値が大きくなる。
【0045】
本実施形態の凹部25は下側導体14Aに直角の角部を複数形成するので、表皮効果による実効断面積が低下し、高周波帯域における交流抵抗値が大きくなりやすい。これに対し、第1、第2実施形態では、基体側角部20の面取りによって直角または鋭角の角部が下側導体14A、上側導体14Bから除かれる。したがって、表皮効果による実効断面積の低下を抑え、高周波帯域におけるソレノイドコイル14の交流抵抗値の増加を抑制することができる。
【0046】
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
【0047】
第1実施形態では、下側導体14A、上側導体14Bの各々において基体側角部20が二つとも面取りされているが、いずれか一方の基体側角部20のみが面取りされている場合でも、樹脂膜15Bおよび15Dは剥離しにくくなる。同様に、第2実施形態では、下側導体14A、上側導体14Bの各々において上側角部24が二つとも面取りされているが、いずれか一方の上側角部24のみが面取りされている場合でも、導体14Aおよび14Bの上部において樹脂膜15Bおよび15Dが剥離しにくくなる。
【0048】
第2実施形態では導体パターンの上側角部24がその表面が曲面を成すように面取りされているが、その表面が平面を成すように面取りされていてもよい。
【0049】
上記実施形態では、図7に示すように、シード層19をウェットエッチングによって除去しているが、ドライエッチング(例えば、反応性イオンエッチング)によって除去してもよい。この方法では、図11に示すように、基体側角部20の下にシード層19が残ることがある。この場合、樹脂膜15Bが基体側角部20とシード層19との間に充填されることになる。このような構成でも、面取りされた基体側角部20によって下側導体14Aと樹脂膜15Bとの接触面積が増し、更に、樹脂膜15Bのうち基体側角部20の下に入り込んだ部分がアンカー効果を発揮するので、樹脂膜15Bの剥離を抑えることができる。この点は上側導体14Bについても同様である。
【0050】
上記実施形態は、導体パターンとしてコイルを備える薄膜インダクタであるが、本発明の薄膜デバイスは他の任意の導体パターンを有していてもよい。導体パターンが配線である場合、その配線の面取りされた基体側角部の基体の上面に対する最大高さをh、配線自体の高さ(厚さ)をHで表すと、0<h<0.1Hであることが望ましい。面取りが大きすぎると配線の断面積が小さく、配線抵抗が高くなるからである。
【0051】
上記実施形態では、導体14A、14Bが柱状体であるが、本発明の薄膜デバイスが備える導体パターンの形状は任意である。導体パターンを、ある方向に延びる微小部分の集合体と考えれば、各微小部分の基体側角部の表面とその微小部分が延びる方向(これは、基体側角部が延びる方向に等しい)に垂直な平面との交線の長さが上記のwに相当し、その交線の基体の主面に対する最大高さが上記のhに相当する。第1実施形態で述べたように、w/hは1.15以上であると樹脂膜の剥離が効果的に抑制される。
【0052】
上記実施形態では導体側面の凹部43a、44aまたは25が樹脂膜によって充填されている。しかし、樹脂膜によって充填されていなくても凹部内に樹脂膜の一部分が延在していれば、その部分のせん断応力によって樹脂膜の剥離がある程度、抑えられる。凹部が絶縁膜によって充填されていれば、それだけせん断応力も大きくなるので、樹脂膜がより剥離しにくい。
【0053】
上記実施形態は薄膜インダクタであるが、本発明は、パターニングされた導体を絶縁膜で覆う薄膜デバイスに広く適用できる。したがって、本発明は、薄膜インダクタのみならず、薄膜コイルを有するデバイスや、薄膜コンデンサなど、他の薄膜デバイスにも適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】第1実施形態に係る薄膜デバイスを示す平面図である。
【図2】図1のII−II線に沿った断面図である。
【図3】図1のIII−III線に沿った断面図である。
【図4】図1のIV−IV線に沿った断面図である。
【図5】第1実施形態の部分拡大断面図である。
【図6】下側導体の製造工程を示す断面図である。
【図7】下側導体の製造工程を示す断面図である。
【図8】平面状および曲面状に面取りされた基体側角部を拡大して示す部分断面図である。
【図9】第2実施形態における下側導体を示す部分拡大断面図である。
【図10】第3実施形態の部分拡大断面図である。
【図11】基体側角部の下に残るシード層を示す断面図である。
【符号の説明】
【0055】
10…薄膜インダクタ、11…基板、12…下部磁性膜、13…上部磁性膜、14A…下側導体、14B…上側導体、15A〜15D…樹脂膜、18…基体、19…シード層、20…基体側角部、24…上側角部、25、43a、44a…凹部、41…底面、42…上面、43、44…側面。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の基体と、
前記基体の一方の主面上に設けられた導体パターンと、
前記主面上に設けられ、前記導体パターンを覆う樹脂膜と、
を備える薄膜デバイスであって、
前記導体パターンは、前記基体の前記主面上に配置された底面と、この底面に対向し、前記基体の前記主面から離間した上面と、前記底面と前記上面を連結する二つの側面を有しており、
前記二つの側面の少なくとも一方に凹部が設けられ、その凹部内に前記樹脂膜が延在している、薄膜デバイス。
【請求項2】
前記凹部は、前記側面のうち前記底面に隣接する端部に設けられている、請求項1に記載の薄膜デバイス。
【請求項3】
前記導体パターンとして、隣り合う第1および第2の導体パターンを備え、
前記第1の導体パターンの前記凹部が前記第2の導体パターンの前記凹部と対向している、請求項2に記載の薄膜デバイス。
【請求項4】
前記導体パターンは、前記凹部によって面取りされた基体側角部を有している、請求項2に記載の薄膜デバイス。
【請求項5】
前記基体側角部は、その表面が曲面を成すように面取りされている、請求項4に記載の薄膜デバイス。
【請求項6】
前記基体側角部の表面と該基体側角部が延びる方向に垂直な平面との交線は、全長wと、前記基体の前記主面に対する最大高さhとを有し、w/hが1.15以上である、請求項4に記載の薄膜デバイス。
【請求項7】
前記凹部が前記樹脂膜によって充填されている、請求項1〜6のいずれかに記載の薄膜デバイス。
【請求項8】
前記導体パターンの上側角部の少なくとも一つが面取りされている、請求項1〜7のいずれかに記載の薄膜デバイス。
【請求項1】
平板状の基体と、
前記基体の一方の主面上に設けられた導体パターンと、
前記主面上に設けられ、前記導体パターンを覆う樹脂膜と、
を備える薄膜デバイスであって、
前記導体パターンは、前記基体の前記主面上に配置された底面と、この底面に対向し、前記基体の前記主面から離間した上面と、前記底面と前記上面を連結する二つの側面を有しており、
前記二つの側面の少なくとも一方に凹部が設けられ、その凹部内に前記樹脂膜が延在している、薄膜デバイス。
【請求項2】
前記凹部は、前記側面のうち前記底面に隣接する端部に設けられている、請求項1に記載の薄膜デバイス。
【請求項3】
前記導体パターンとして、隣り合う第1および第2の導体パターンを備え、
前記第1の導体パターンの前記凹部が前記第2の導体パターンの前記凹部と対向している、請求項2に記載の薄膜デバイス。
【請求項4】
前記導体パターンは、前記凹部によって面取りされた基体側角部を有している、請求項2に記載の薄膜デバイス。
【請求項5】
前記基体側角部は、その表面が曲面を成すように面取りされている、請求項4に記載の薄膜デバイス。
【請求項6】
前記基体側角部の表面と該基体側角部が延びる方向に垂直な平面との交線は、全長wと、前記基体の前記主面に対する最大高さhとを有し、w/hが1.15以上である、請求項4に記載の薄膜デバイス。
【請求項7】
前記凹部が前記樹脂膜によって充填されている、請求項1〜6のいずれかに記載の薄膜デバイス。
【請求項8】
前記導体パターンの上側角部の少なくとも一つが面取りされている、請求項1〜7のいずれかに記載の薄膜デバイス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2008−10783(P2008−10783A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−182371(P2006−182371)
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月30日(2006.6.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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