説明

薄膜パターンの形成方法およびその利用

【課題】短絡およびかすれのない良好な薄膜パターンを基板上に容易に形成することができる新たな薄膜パターン形成技術を提供する。
【解決手段】基板1上にインク5を塗布する。次に、塗布されたインク5に転写板2を接触させ、引き離す。このとき、インク5に対する親和性の高さを、パターン形成部4>転写板2>パターン非形成部3としておく。これにより、パターン形成部4上にのみインク5を残し、薄膜パターンを形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は薄膜パターンを形成する技術に関するものであり、特に、薄膜形成材料の塗布による薄膜パターンを形成する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
真空成膜とフォトリソグラフィーを利用した従来の薄膜パターンの形成方法はコストが高いため、低コストな形成方法への転換が求められている。近年、真空装置での成膜のローコスト代替手段として、インクジェット法、印刷法等の、塗布によるパターンの直接形成技術が注目されている。
【0003】
上記のような技術の1つの類型は、印刷法のように、薄膜パターンを形成すべき基板とは別の部材に予め該薄膜パターンに対応したパターンを形成するものである。印刷法では、予め印刷板に薄膜の材料となるインクによるパターンを形成し、それを基板へと転写することによってパターンを直接形成する。
【0004】
上記のような技術のもう1つの類型は、インクジェット法のように、薄膜の材料となるインクを基板上に塗布する際に、薄膜パターンを形成すべき領域にのみ該インクを塗布することにより、その場でパターンを形成するものである。インクジェット法では、高度に制御された塗布用ノズルを用いて、パターンを形成すべき領域のみにインクを吐出することにより、形成しようとするパターンを直接形成する。また、インクジェット法では、形成するパターンに対応した、凹凸状のパターンまたは親水性および撥水性の領域によって区分けされたパターンを予め形成し、より高精度なパターンを形成するための技術が提案されている(凹凸状のパターンについて特許文献1、親水性および撥水性を利用したパターンについて特許文献2)。
【0005】
上記のような技術の他の類型は、特許文献3に記載されている技術のように、基板自体に形成されたパターンを利用して、薄膜パターンを形成するものである。特許文献3には、薄膜パターンを形成すべきでない領域に剥離可能な犠牲層を形成した後、薄膜を形成し、不要な部分を犠牲層ごと除去することにより、必要な部分にのみ薄膜を形成する方法が提案されている。
【特許文献1】特開2000―353594号公報(平成12年12月19日公開)
【特許文献2】特開2001−305523号公報(平成13年10月31日公開)
【特許文献3】特開昭58−108786号公報(昭和58年6月28日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の技術では、良好な薄膜パターンを基板上に容易に形成することができなかった。
【0007】
すなわち、印刷法では、かすれ等によりパターンが分断される可能性が高かった。また、転写を行う際に、予めパターンが形成された部材と基板との間の位置合わせを高精度に行う必要があり、複雑な制御が必要となる。特に、事前に基板に形成されたパターンにあわせて新たな薄膜パターンを形成するような場合、求められる正確さで位置合わせを行うのが非常に困難であった。
【0008】
また、インクジェット法では、ノズルからインクを吐出するため、インクの粘度を低くする必要があり、インクの流動によるパターンの短絡の可能性があった。特許文献1または特許文献2に記載の技術を用いたとしても、塗布するインクの量やゴミ等により隣接パターン間で短絡が生じてしまうことがあった。また、インクジェット法では、高精度なパターンを作成するために、ノズルの高度な制御および高価な設備が必要であった。
【0009】
さらに、特許文献3に記載の技術では、精細なパターンを得ることは難しく、犠牲層を形成する工程、および犠牲層を除去する工程が必要であり、工程が煩雑であった。
【0010】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、短絡およびかすれのない良好な薄膜パターンを基板上に容易に形成することができる新たな薄膜パターン形成技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る方法は、上記課題を解決するために、基板上に薄膜パターンを形成する方法であって、該基板上に該薄膜の材料溶液を塗布する塗布工程;および該基板上に塗布された材料溶液に転写用部材を接触させる転写工程を包含し、該材料溶液に対して、該転写用部材が示す親和性が、該基板上の薄膜パターンを形成すべき第1領域が示す第1の親和性よりも低く、該基板上の第1領域以外の第2領域が示す第2の親和性よりも高いことを特徴としている。
【0012】
上記の構成によれば、転写工程では、上記材料溶液が上記基板および上記転写用部材に同時に接触する。このとき、上記材料溶液は、より親和性の高いものへと密着し、親和性の低いものから剥離する。上記材料溶液に対して、上記基板上の薄膜パターンを形成すべき第1領域が示す第1の親和性は、上記転写用部材が示す親和性よりも高いため、第1領域上の該材料溶液は、該転写用部材から剥離し第1領域上に密着する。一方、上記材料溶液に対して、上記基板上の第1領域以外の第2領域が示す第2の親和性は、上記転写用部材が示す親和性よりも低いため、第2領域上の該材料溶液は、該転写用部材に密着し第2領域から剥離する。
【0013】
以上のように、転写用部材は、薄膜パターンの形成に不要な材料溶液を単に除去するためだけに使用されるものであるから、転写用部材と基板との高精度な位置合わせは全く不要である。したがって、上記材料溶液が薄膜パターンを形成すべき第1領域上のみに残存させ得、良好な薄膜パターンを容易に形成し得る。
【0014】
上記方法では、上記塗布工程の前に、第1の親和性の向上処理、または第2の親和性の低減処理の少なくともいずれか一方を行う改質工程をさらに包含することが好ましい。
【0015】
上記の構成によれば、改質工程の前において、第1の親和性と第2の親和性とが等しい場合であっても、前者の向上または後者の低減が行われるので、改質工程の後において、第1の親和性を、第2の親和性よりも高くし得る。したがって、上記材料溶液に対して、上記転写用部材が示す親和性が、第1の親和性よりも低く、第2の親和性よりも高いという条件を満たすための必須条件である、第1の親和性が第2の親和性よりも高いという条件を容易に満たすことができる。
【0016】
上記方法では、上記基板の上記材料溶液を塗布する面が、ガラスまたは金属からなり、該材料溶液が、有機溶媒系溶液であり、上記転写用部材の上記材料溶液と接触する面が、樹脂からなり、かつ上記改質工程が、第2領域に水膜を形成させるサブ工程を包含していることが好ましい。
【0017】
また、上記樹脂はポリプロピレン、PEEK樹脂、またはフッ素樹脂であることが好ましい。
【0018】
上記の構成によれば、転写用部材は樹脂からなり、材料溶液は油性であり、薄膜パターンを形成すべき第1領域はガラスまたは金属からなる表面上にあり、第2領域には水膜が形成されている。実施例において後述するように、油性の材料溶液に対して、ポリプロピレン、PEEK樹脂、またはフッ素樹脂のような樹脂の親和性は、ガラスまたは銅のような金属の親和性よりも低く、水膜の親和性よりも高い。したがって、第2領域である水膜上の油性材料溶液は、転写用部材に転写され、第1領域上に油性材料溶液の薄膜パターンが形成される。
【0019】
このように、上記材料溶液に対する転写用部材の親和性が、第1の親和性よりも低く、第2の親和性よりも高いという条件を容易に満たすことができる。
【0020】
上記方法では、改質工程が、上記基板に予め形成されているパターンを利用して行われることが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、上記基板上の薄膜パターンは、該基板に予め形成されているパターンに基づいて形成され得る。したがって、上記基板と他の部材とを位置合わせすることなく、基板自身の構造に基づいて薄膜パターンを形成する、いわゆるセルフアライメントが可能であり、高精度な位置合わせをすることなく薄膜パターンを形成することができる。
【0022】
上記方法では、改質工程が、第1領域または第2領域に光を照射するサブ工程を包含していてもよい。
【0023】
上記の構成によれば、第1領域または第2領域に光を照射することにより、第1領域または第2領域のみを改質することができる。そのため、第1の親和性の向上、または第2の親和性の低減を好適に実施し得る。
【0024】
上記方法では、上記基板に予め形成されているパターンが遮光性を有しており、上記改質工程が、該基板の下方から光を照射するサブ工程を包含していてもよい。
【0025】
上記の構成によれば、上記基板に予め形成されているパターンが遮光性を有しているので、該基板の下方から光を照射することにより、該パターンが形成されていない領域にのみ光を照射し得る。したがって、上記領域のみを改質し得るので、第1の親和性の向上、または第2の親和性の低減を好適に実施し得る。
【0026】
上記方法では、上記基板に予め形成されているパターンが、該基板の表面に形成され、かつ、該表面の他の部分とは異なる材質からなるものであってもよい。
【0027】
上記の構成によれば、上記基板の表面に他とは材質の異なる領域が存在する。そのため、材質の差異を利用することにより、上記領域のみ、または上記基板上の上記領域以外の領域のみを改質することができる。したがって、第1の親和性の向上、または第2の親和性の低減を好適に実施し得る。
【0028】
本発明に係る基板の製造方法は、本発明に係る方法を用いて薄膜を形成する工程を包含することを特徴としている。
【0029】
上記の構成によれば、基板上に良好な薄膜パターンを容易に形成し得るので、高品質な基板を容易に製造することができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明に係る方法を用いれば、基板上の薄膜パターンを形成すべき領域以外の領域上に塗布された該薄膜の材料溶液を転写用部材へと転写させ得るので、良好な薄膜パターンを基板上に容易に形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
本発明は基板上に薄膜パターンを形成する方法を提供する。本明細書において用いられる場合、用語「薄膜パターン」とは、特定の形状を有する薄膜が意図される。「基板上に薄膜パターンを形成する」とは、基板上の特定の領域上に限り薄膜を形成することが意図される。基板としては、ガラス、シリコン、銅などの非金属および金属の板を用い得るがこれに限られない。表面に薄膜の材料溶液を塗布することにより薄膜を形成し得るものであればよい。
【0032】
本発明に係る薄膜パターンの形成方法は、該基板上に該薄膜の材料溶液を塗布する塗布工程、該基板上に塗布された材料溶液に転写用部材を接触させる転写工程を包含している。塗布工程において薄膜の材料溶液を基板上に塗布し、転写工程において、基板上の特定の領域以外の該材料溶液を転写用部材に転写することによって除去することにより、該特定領域上にのみ薄膜の材料溶液が存在するようにし、これにより、該特定領域上にのみ薄膜を形成する。なお、塗布された材料溶液から薄膜を形成するためには、周知慣用の技術を用いればよいことを当業者は容易に理解する。材料溶液としては所望の薄膜を形成するために必要な物質が含まれている溶液であればよい。また、上記材料溶液の溶媒は、水を主体としたものであってもよく、有機溶媒を主体としたものであってもよい。当業者であれば、塗布工程において用いる塗布技術に合わせて好適な溶液を調製し得る。
【0033】
塗布工程は、スピンコート法、インクジェット法、スリットコート法、スプレー塗布法等の周知の塗布技術を用いることにより行うことができるが、用いる技術はこれらに限られない。基板上に塗布液を塗布し得るものであればよい。スピンコート法またはスリットコート法であれば、基板上に均一に材料溶液を塗布し得るので好ましい。
【0034】
また、上記基板は、薄膜パターンを形成すべき第1領域と、該基板上の第1領域以外の第2領域とを備えており、上記材料溶液に対して、第1領域が示す親和性(第1の親和性)が、第2領域が示す親和性(第2の親和性)よりも高く調整されている。このように基板を調整するための方法は後述する。なお、このように、印刷法とは異なり、薄膜パターンに対応するパターンを他の部材に予め形成してからそれを基板に転写して、基板上の薄膜パターンを得る必要がないので、他の部材との位置合わせが必要なく、容易に薄膜パターンを形成し得る。
【0035】
転写工程では、上記材料溶液に対する親和性が、第1領域よりも低く、第2領域よりも高い転写用部材を用いる。このような転写用部材を取得する方法は後述する。また、上記転写用部材が有する形状として、板状、ローラー状等を考え得るが、これらに限られない。上記基板上に塗布された材料溶液に接触させ得る形状を有していればよい。上記材料溶液に上記転写用部材を接触させたとき、該材料溶液は、上記基板および該転写用部材に挟まれた状態となる。上記基板と上記転写用部材とを離したとき、前述したように、該材料溶液は、より親和性の高いものへと密着して親和性の低いものから剥離するので、第1領域上の該材料溶液は、該転写用部材から剥離して第1領域上に密着する一方、第2領域上の該材料溶液は、該転写用部材に密着して第2領域から剥離する。以上により、第1領域上にのみ上記材料溶液を残存させ、基板上に薄膜パターンを形成し得る。このとき、上記転写用部材と第1領域または第2領域との間における、上記材料溶液に対する親和性の差異が大きいほど良好な薄膜パターンを形成し得る。すなわち、親和性の差異が大きいほど剥離が完全に行われる。
【0036】
次に、上記基板上の各領域の上記材料溶液に対する親和性の調整について説明する。本明細書において用いる場合、用語「親和性」とは、物質が、特定の物質に対して選択的に結合しようとする性質が意図され、1つの局面において用語「密着性」または「密着力」と交換可能に使用される。前述したように、上記基板は、第1の親和性が、第2の親和性よりも高くなるように調整されている。この調整のためには、第1の親和性を向上させる処理、または第2の親和性を低減させる処理の、少なくとも片方を行えばよいことは明らかである。
【0037】
具体的には、上記基板の第1領域または第2領域のみに対し、公知の改質処理を用いて、親撥水性、表面粗度、または濡れ性を変化させることにより行うことができる。また、上記基板とは異なる物質を、第1領域または第2領域のみに形成してもよい。
【0038】
例えば、上記材料溶液として、溶媒として水を主体とした溶液を用いる場合、後述するような手法により第2領域のみを撥水処理することによって、第2領域の該材料溶液に対する親和性を低減させることができる。撥水処理としては、シランカップリング処理、フッ素プラズマ処理等の周知の撥水処理を用い得る。
【0039】
また、上記材料溶液として有機溶媒系溶液を用いる場合、第2領域に水膜を形成すれば、水膜の有機溶媒系溶液に対する親和性は非常に低いので、第1の親和性を、第2の親和性よりも高めることができる。第2領域のみへの水膜の形成は、第2領域のみを親水処理し、上記基板の全体をスポンジ等を用いて濡らすことにより行い得る。このとき、水膜の乾燥を防ぐために、周囲の湿度を十分に高めることが好ましい(好ましくは60%、より好ましくは70%、80%、または90%以上)。また、上記において用いられるスポンジは特に限定されるものではなく、ウレタンスポンジ等の吸水性を有しているスポンジであればよい。
【0040】
一実施形態において、改質工程では、特定の領域のみに改質処理をするために、UV等の光が該領域にのみ照射される。光の照射には、既存の露光装置等を用いることができる。例えば、波長180〜300nmのUV光であれば、照射された領域の表面を劣化させ得るので、該領域の上記材料溶液に対する親和性を変化させ得る。180nm以下の波長のUV光も改質処理に利用可能であるが、大気中での吸収による減衰が大きいので、真空中で処理等をすることが好ましい。一つの局面において、シランカップリング剤等の撥水性の被膜または親水性の被膜に覆われた基板の第2領域に波長254nmのUV光を照射することにより、第2領域を覆う被膜を分解除去し、第2領域のみを撥水性または親水性とし得る。なお、露光マスク等を用いれば、容易に基板上の特定の領域にのみ光を照射し得ることを当業者は容易に理解する。
【0041】
他の実施形態において、改質工程では、上記基板に予め形成されているパターンを利用して改質が行われる。用語「パターン」とは、特定の形状を有する構造が意図される。具体的には、例えば、第1領域のみの下部、または第2領域のみの下部にパターンが形成されている基板を用い、後述するような手法により、第1領域または第2領域のみを改質する。なお、本明細書では、上記基板の厚みの中心から、薄膜パターンを形成する面へ向かう方向を上方、その反対方向を下方とする。
【0042】
第1領域のみの下部、または第2領域のみの下部にパターンを形成する手法としては、本発明に係る方法を用いてもよいし、フォトリソグラフィー法、印刷法、インクジェット法等の周知の薄膜パターン形成技術を用いてもよい。
【0043】
本実施形態では、予め基板に形成されているパターンに基づいて、当該基板上に薄膜パターンを形成しえるので、いわゆるセルフアライメントが可能であり、高精度な位置合わせをすることなく所望の位置に薄膜パターンを形成することができる。
【0044】
1つの局面において、上記基板に予め形成されているパターンは、遮光性を有しており、上記改質工程は、該基板の下方から光を照射するサブ工程を包含している。上述したように、上記パターンは第1領域の下部に形成され得るので、上記基板の下方から光を照射することにより、第2領域にのみ該光が照射され、第2領域を改質し得る。また、上記パターンが第2領域の下部に形成されている場合は、第1領域にのみ上記光が照射され、第1領域を改質し得る。遮光性を有するパターンとしては、金属製の配線パターン等が考えられるが、これに限られない。
【0045】
他の局面において、上記基板に予め形成されているパターンは、該基板の表面に形成されており、かつ、該基板の他の部分とは異なる材質からなるものである。上述したように、上記パターンは第1領域または第2領域の下部に形成され得るので、上記材質にのみ効果を有する改質処理を行うことにより、第1領域または第2領域のみを改質し得る。特定の材質のみを改質し得る処理としては、例えば、有機材料に対するフッ素プラズマ処理があるがこれに限られない。
【0046】
続いて、上記材料溶液に対する親和性が、第1領域よりも低く、第2領域よりも高い転写用部材の取得について説明する。上記材料溶液に対する親和性を比較するための手法があれば、適宜転写用部材の材質および表面処理を選択することによって、適切な転写用部材を取得しえることを、当業者は容易に理解する。
【0047】
上記材料溶液に対する親和性は、以下のように比較することができる。まず、比較を行う二つの物質の小片を用意し、片方に上記材料溶液を塗布する。次に、二つの小片を、上記材料溶液を塗布した面において接触させ、その後引き離す。そして、上記材料溶液が何れの小片に密着したかを観察することによって、該材料溶液に対する親和性が高いのが何れの物質であるかを判定し得る。なお、判定は、上記材料溶液を塗布する小片を取り替えて2度以上行うことが好ましい。
【0048】
また、標準試験片を用いることにより、各物質の上記材料溶液に対する親和性を測定することもできる。すなわち、各物質の小片に上記材料溶液を塗布した後、標準試験片を接触させ、引き離す際の抗力を張力計等を用いて測定することにより、各物質の上記親和性を測定することができる。この測定値を比較することによって、各物質の上記材料溶液に対する親和性を比較し得る。標準試験片としては、上記材料溶液に対する親和性が非常に高い物質を用いることが好ましい。また、標準試験片と各物質の小片との間の接触面積は一定の面積とする。これには、例えば、上記各小片を標準試験片よりも大きいものとし、常に標準試験片の全体が該小片と接触するようにすればよい。この場合、上記接触面積は、常に標準試験片の接触面の面積となる。また、この場合、上記各小片には、標準試験片が接触する領域よりも広い領域に上記材料溶液を塗布することが好ましい。
【0049】
ここで、本発明の一つの好適な実施形態について説明すれば以下のとおりである。ただし、本発明は本実施形態に限定されず、上述の要件を満たす範囲で様々な形態で実施し得る。
【0050】
本実施形態において、上記基板の上記材料溶液を塗布する面は、ガラスまたは金属からなり、該材料溶液は、有機溶媒を主な溶媒とする溶液(有機溶媒系溶液)であり、上記転写用部材の上記材料溶液と接触する面は、樹脂からなり、かつ改質工程は、第2領域に水膜を形成させるサブ工程を包含している。
【0051】
上記ガラスは、無アルカリガラスであることが好ましいがこれらに限られない。上記金属は、銅、アルミ、または銀であることが好ましいが、これらに限られない。上記樹脂は、ポリプロピレン、PEEK(ポリエーテルエーテルケトン、polyetheretherketone)樹脂、またはフッ素樹脂であることが好ましいが、これらに限られない。また、金属材料上に上記材料および同等の材料をコーティングし上記材料溶液に対する親和性を調整したものも使用できることは言うまでも無い。上記基板および転写用部材を上記のように構成することにより、実施例に示すように、良好な薄膜パターンを形成することができる。別の観点から述べれば、上記基板および転写用部材を上記のように構成することにより、上記材料溶液に対する上記転写用部材の親和性を、第1の親和性よりも低く、第2の親和性よりも高くし得る。
【0052】
本発明はまた、基板の製造方法を提供する。本発明に係る基板の製造方法は、本発明に係る薄膜パターンの形成方法を用いて薄膜を形成する工程を包含している。そのため、低コストで、基板上に良好な薄膜パターンを容易に形成し得るので、高品質な基板を容易に製造することができる。なお、上記基板上のすべての薄膜パターンを本発明に係る薄膜パターンの形成方法により形成する必要はなく、一部の薄膜パターンのみを本発明に係る方法により形成し、その他の薄膜パターンについては周知慣用技術を用いてもよい。
【0053】
本発明はまた、以下のように表現することができる。
【0054】
(第1の構成)
溶液の塗布により薄膜パターンを形成する方法であって、形成するパターンに対応して塗布するインクに対する密着力が、パターン有りの部分がAの領域、パターン無しの部分がCの領域となるように表面性を制御した基板に対して、形成しようとする材料を含有するインクを塗布した後、該インクに対する密着力がBである転写板を接触させ、密着力Cの領域のインクを転写板に剥離転写させることによりパターン形成することを特徴とする薄膜パターンの形成方法。
【0055】
ここで密着力の強弱は、 A>B>C なる関係とする。
【0056】
(第2の構成)
密着力Aの領域と密着力Cの領域を形成する方法が、形成しようとするパターンより下部に形成されたパターンを利用して形成することを特徴とする第1の構成に記載の薄膜パターンの形成方法。
【0057】
(第3の構成)
密着力Aの領域と密着力Cの領域を形成する方法が、その表面の密着力がCであるパターン形成基板に対して、形成しようとするパターンに対応したUV光等の光を照射することにより部分的に密着力Aの領域形成することで行うことを特徴とする第1の構成に記載の薄膜パターンの形成方法。
【0058】
(第4の構成)
パターンを形成する基板に対して、密着力がCとなるように表面処理を施した後、パターンを形成する基板の裏面より光を照射することにより、下部に形成されたパターンを利用して、表面処理を施した基板表面の内、パターン無しの部分の表面処理を劣化させることにより密着力Aの領域を形成することを特徴とする第2の構成に記載の薄膜パターンの形成方法。
【0059】
(第5の構成)
密着性Aの領域とCの領域を形成する方法が、形成しようとするパターンより下部に形成されたパターンの表面材質の違いを利用して形成することを特徴とする第2の構成に記載の薄膜パターンの形成方法。
【0060】
(第6の構成)
第1〜第5の構成に記載の方法により薄膜パターンが形成された基板。
【0061】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【0062】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【0063】
以下、実施例、比較例および参考例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらによって何ら限定されない。
【実施例】
【0064】
〔実施例1〕
図1に示すように、薄膜パターンを形成すべき部分(パターン形成部4、第1領域)および薄膜パターンを形成すべきでない部分(パターン非形成部3、第2領域)を有するガラス基板1(360mm×460mm)上に、シランカップリング剤をスピンコート法により塗布した。その後、パターン非形成部3に波長254nmのUV光をフォトマスクを用いて照射し、パターン非形成部3のシランカップリング剤を分解除去した。これにより、パターン非形成部3を親水性に改質した。
【0065】
続いて、湿度90%の環境下において、湿らせたスポンジを用いて基板1の表面を擦った。これにより、親水性のパターン非形成部3のみに薄い水膜を形成した。なお、湿度を90%としたのは、形成した水膜の乾燥を防止することが目的である。
【0066】
そして、油性のインク5(薄膜の材料溶液)を基板1上にスピンコート法を用いて塗布した(塗布工程)。図1は、インク5を塗布した後の基板1を示している。
【0067】
次に、基板1に塗布されたインク5にポリプロピレン製の転写板2(転写用部材、360mm×460mm)を接触させた(転写工程)。その結果、水膜上(パターン非形成部3)のインク5が転写板2に転写された(図2)。
【0068】
なお、塗布工程の直後、既にパターン非形成部3上にインク5の層が形成されていない場合があった。これは、インク5として粘性の低いものを用いた場合に特に顕著であった。しかし、その場合であっても、パターン非形成部3内に、島状または点状にインク5が付着している場合が多く、これらのインク5を除去するために転写板2を接触させることは有効であった。
【0069】
〔比較例〕
次に、転写板2の材質以外は、実施例1に記載の手順にしたがって、薄膜パターンの形成を試みた。転写板2の材質としては、ガラス、シランカップリング剤を塗布したガラス、または銅を用いた。結果を表1に示す。なお、表1には実施例1の結果も併せて示している。
【0070】
【表1】

【0071】
示すように、転写板2の材質としてガラスまたはシランカップリング剤を塗布したガラスを用いた場合、パターン非形成部3上のインク5だけでなく、パターン形成部4上のインク5の一部も転写され、適切な薄膜パターンを形成することができなかった。また、転写板2として銅板を用いた場合、塗布したすべてのインク5が転写され、薄膜パターンを全く形成し得なかった。
【0072】
〔参考例〕
転写板2の材質としてポリプロピレンを用いることが良好な結果をもたらす理由を調べるために、実施例1および比較例において転写板2の材質として用いた各物質の、インク5に対する親和性を比較した。まず、一辺が5cmの正方形の各物質の試料片を準備した。次に、任意の2種類の試料片を選び、片方の試料片にインク5を塗布した後、両方の試料片同士を接触させた。その後、上記試料片同士を引き離し、インクが何れの試料片に付着していたかを観察した。結果を表2に示す。なお、各列に示されているのが接触前にインクが塗布された試料片である。
【0073】
【表2】

【0074】
表2に示すように、銅、ガラス、シラン処理ガラス、ポリプロピレン、水膜付きガラスの順にインク5に対する親和性が低くなっていた(ガラスおよびシラン処理ガラスは同順)。比較例の結果と併せて考えれば、実施例1のように、インク5に対する親和性が、パターン形成部4>転写板2>パターン非形成部3という条件のときに、適切な薄膜パターンが形成され得ると推測し得る。
【0075】
〔実施例2〕
予め配線パターンおよび絶縁膜が形成されている基板1上に、さらに薄膜パターンを形成することを試みた。基板1上にシランカップリング剤を塗布した後、基板1の下面よりUV光を照射した。本実施例では、上記配線パターンは遮光性を有しているので、上記UV光は下部に配線パターンが形成されていない領域にのみ照射され、該領域のシランカップリング剤が分解された。以上により、上記配線パターンの上部を疎水性に、それ以外の領域を親水性とした。その後、実施例1と同様の手順に従って、親水性の領域に水膜を形成した。続いて、基板上に油性のカラーレジスト(インク5)を塗布した。そして、ポリプロピレン製の転写板2を上記カラーレジストに接触させることにより、下部に上記配線パターンが形成されていない領域のカラーレジストを除去した。結果、良好な薄膜パターンを形成することができた。
【0076】
〔実施例3〕
実施例2と同様の手順に従いUV光を照射した後、水膜を形成せずに、水性のインク5を基板1上に塗布した。そして、PEEK樹脂製の転写板2をインク5に接触させた。その結果、実施例2とは反対に、上記配線パターン上のインク5を除去し、該配線パターンが形成されていない領域の上部に薄膜パターンを形成することができた。
【0077】
〔実施例4〕
ガラス基板1上に、感光性有機樹脂を塗布した後、フォトマスクを用いて露光し、これを現像することにより、ガラス基板1の表面に有機材料をストライプ状に形成した。続いて、ガラス基板1に対し、フッ素プラズマ処理を施した。これにより、上記有機材料の表面をフッ素化した。その後、実施例1の記載と同様の手順に従い、フッ素化されていない領域に水膜を形成した。続いて、油性のインク5を基板1上に塗布した。そしてポリプロピレン製の転写板2にインク5を転写させたところ、良好な薄膜パターンを形成することができた。
【産業上の利用可能性】
【0078】
本発明を用いれば、良好な薄膜パターンを容易に形成し得るので、回路基板等の薄膜を利用する装置の製造過程において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本発明の一実施形態に係る方法の塗布工程における基板を示す模式図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る方法の転写工程における基板を示す模式図である。
【符号の説明】
【0080】
1 基板
2 転写板(転写用部材)
3 パターン非形成部(第2領域)
4 パターン形成部(第1領域)
5 インク(材料溶液)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に薄膜パターンを形成する方法であって、
該基板上に該薄膜の材料溶液を塗布する塗布工程;および
該基板上に塗布された材料溶液に転写用部材を接触させる転写工程
を包含し、
該材料溶液に対して、該転写用部材が示す親和性が、該基板上の薄膜パターンを形成すべき第1領域が示す第1の親和性よりも低く、該基板上の第1領域以外の第2領域が示す第2の親和性よりも高いことを特徴とする方法。
【請求項2】
上記塗布工程の前に、第1の親和性の向上処理、または第2の親和性の低減処理の少なくともいずれか一方を行う改質工程をさらに包含することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記基板の上記材料溶液を塗布する面が、ガラスまたは金属からなり、
該材料溶液が、有機溶媒系溶液であり、
上記転写用部材の上記材料溶液と接触する面が、樹脂からなり、かつ
上記改質工程が、第2領域に水膜を形成させるサブ工程を包含していることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
上記樹脂が、ポリプロピレン、PEEK樹脂、またはフッ素樹脂であることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
上記改質工程が、上記基板に予め形成されているパターンを利用して行われることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項6】
上記改質工程が、第1領域または第2領域に光を照射するサブ工程を包含することを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項7】
上記基板に予め形成されているパターンが遮光性を有しており、
上記改質工程が、該基板の下方から光を照射するサブ工程を包含することを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項8】
上記基板に予め形成されているパターンが、該基板の表面に形成され、かつ、該表面の他の部分とは異なる材質からなることを特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項9】
請求項1に記載の方法を用いて薄膜を形成する工程を包含することを特徴とする基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−258333(P2008−258333A)
【公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−97864(P2007−97864)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】