説明

薄膜半導体装置の製造装置及び、薄膜半導体装置の製造方法

【課題】製品領域でのクラック、チッピング、剥離などの発生を抑制できるようにした薄膜半導体装置の製造装置及び、薄膜半導体装置の製造方法を提供する。
【解決手段】第1の面の側に薄膜回路層が形成された樹脂基板を加工する装置であって、前記第1の面を上面としたときの側面である第2の面の側から切削刃を侵入させて前記樹脂基板を切削する切削手段、を備え、前記切削刃は、前記第1の面の法線方向に対して、前記樹脂基板内部から前記第1の面に向かうほど互いの距離が大きくなるように傾斜した第1の傾斜部と第2の傾斜部と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜半導体装置の製造装置及び、薄膜半導体装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜半導体装置は、基板に半導体素子等を含む薄膜回路層等を形成して構成されている。この薄膜半導体装置に用いられる基板としては、単結晶シリコンウェハー、石英ガラス基板、耐熱ガラス基板、樹脂基板等が利用され、要求される薄膜半導体装置の性能、機能に応じた材質の基板が選択されている。なかでも、樹脂基板として樹脂フィルムを用いた薄膜半導体装置は基板が薄く可撓性を有することから、軽量で柔軟性を備えた薄膜半導体装置を提供できる点で注目されている。
【0003】
樹脂フィルムを基板に用いた薄膜半導体装置の製造方法としては、樹脂フィルム上に半導体層、絶縁層、金属層等を順次積層して薄膜回路層等を得る方法が知られている。また、他の方法としてガラス基板などに形成した薄膜回路層等をこのガラス基板から剥離し、分離した薄膜回路層等を樹脂フィルム上に接合する剥離転写法が知られている。例えば、特許文献1には剥離転写法による薄膜半導体装置の製造例が開示されている。
【0004】
また、近年では、電子ペーパと呼ばれる表示体モジュールが注目されつつある。このような表示体モジュールは、例えばマイクロカプセル型の電気泳動材料と、樹脂フィルム上に形成された薄膜回路層とを組み合わせることにより構成することができる。軽量で柔軟性を備えた樹脂フィルムと、画像表示中の消費電力が不要か、又は極小で済む電気泳動材料とを組み合わせることにより、フレキシブルで高性能な電気泳動ディスプレイを実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−125931号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、上記のような表示体モジュールにおいて、樹脂フィルム上に形成された薄膜回路層を表示体モジュールの駆動回路基板として使用する場合は、樹脂フィルム上に薄膜回路層を形成した後で、この樹脂フィルムを必要とされる製品形状に加工する必要がある。
しかしながら、薄膜回路層を有する樹脂フィルムを製品形状に加工する場合、樹脂フィルムと薄膜回路層及びこれらを接着する接着剤層など、複数の異なる材料層を同一の方法で切断することになる。ここで、薄膜回路層は、樹脂フィルムと比べて薄く、また無機物で硬い材料からなるため、切断時に衝撃や熱などの負荷を受けて壊れやすい傾向がある。
【0007】
より具体的に説明すると、樹脂フィルムを切削し、切断する方法として、従来は、ブレードを用いる方法、レーザーを用いる方法、切断刃を当ててプレスする(即ち、押しつけて断ち切る)方法などが挙げられる。
ここで、ブレードを用いる方法では、ブレードを高速で回転させて製品を切削しながら対象物を切断する。ブレードを高速で回転させるため、樹脂フィルム上の薄膜回路層に衝撃や振動等の負荷を与えて、クラック、チッピングを発生させる可能性があった。また、ブレードを高速で回転させるため切削水が必要であり、切断後の洗浄工程も必要であった。レーザーを用いる方法では、薄膜回路層、接着剤層及び樹脂フィルム、を各々異なる種類のレーザーで切削したり、同一種類のレーザーで3層を同時に切断したりすることが可能であるが、レーザー照射時の熱により薄膜回路層と接着剤層との間や、樹脂フィルム層と接着剤層との間で剥離が発生してしまう可能性があった。
【0008】
切断刃を当ててプレスする方法では、樹脂フィルム上の薄膜回路層が切断時の加圧に耐えられずに、薄膜回路層の割れ、欠けが発生してしまう可能性があった。また、接着剤層についても返り、ダレ等が発生し、樹脂フィルムについても割れ、欠けが発生してしまう可能性があった。このように、従来の何れの方法においても、薄膜回路層は衝撃や熱などの負荷を受けて壊れてしまう可能性があった。
そこで、本発明の幾つかの態様は、製品領域でのクラック、チッピング、剥離などの発生を抑制できるようにした薄膜半導体装置の製造装置及び、薄膜半導体装置の製造方法の提供を目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る薄膜半導体装置の製造装置は、第1の面の側に薄膜回路層が形成された樹脂基板を加工する装置であって、前記第1の面を上面としたときの側面である第2の面の側から切削刃を侵入させて前記樹脂基板を切削する切削手段、を備え、前記切削刃は、前記第1の面の法線方向に対して、前記樹脂基板内部から前記第1の面に向かうほど互いの距離が大きくなるように傾斜した第1の傾斜部と第2の傾斜部と、を有することを特徴とする。
【0010】
このような構成であれば、樹脂基板を切削する際に、切削刃によって切削した部位(即ち、削りカス)を第1の傾斜部又は第2の傾斜部に沿って上方へ押し上げて除去することができる。従来と比較して、樹脂基板を切削するために刃を回転させたり、レーザーを照射したり、プレスしたりする必要はなく、被切削領域の両側にある第1の領域と第2の領域とに与えてしまう負荷(例えば、衝撃や振動、熱、押圧力など)を軽減することができる。これにより、薄膜半導体装置の製造工程において、樹脂基板の切削に伴う製品領域でのクラック、チッピング、剥離などの発生を抑制することができる。なお、「切削手段」としては、例えば、後述する切削刃50と、アーム101と、ステージ102及びモーター103の組み合わせが該当する。また、「第1の傾斜部」としては、例えば、後述する第1の刃体10、10´、110の何れか一が該当する。「第2の傾斜部」としては、例えば、後述する第2の刃体20、20´、120の何れか一が該当する。
【0011】
また、上記の薄膜半導体装置の製造装置において、前記切削刃の前記第1の傾斜部と第2の傾斜部とは、互いの距離が小さい方の端部において接続されていることを特徴としてもよい。このような構成であれば、第1の傾斜部と第2の傾斜部とが一体化しているので、切削刃の取り扱いが容易である。
また、上記の薄膜半導体装置の製造装置において、前記切削刃の前記第1の傾斜部と第2の傾斜部とにおける互いの距離が小さい方の端部同士は離間して配置されると共に、該端部同士を接続する接続部を有することを特徴としてもよい。このような構成であれば、例えば、上記の接続部を刃体で構成することができ、その場合は、接続部を第2の面の側から侵入させて樹脂基板を切削することができる。なお、「接続部」としては、例えば、後述する第3の刃体30が該当する。
【0012】
また、上記の薄膜半導体装置の製造装置において、前記切削刃の前記第1の傾斜部と第2の傾斜部とにおける互いの距離が小さい方の端部は、互いの距離が大きい方の端部よりも切削時における侵入方向の後方に位置していることを特徴としてもよい。このような構成であれば、樹脂基板の側面に対して、第1の傾斜部の刃縁と第2の傾斜部の刃縁は斜めの角度から当たることになる。樹脂基板と刃縁とが最初に接触する部分は、刃縁に沿った線ではなく、凡そ点となり、ここに切削の力が集中する。このため、最初の切り込みを比較的小さい力でスムーズに行うことができる。
【0013】
本発明の別の態様に係る薄膜半導体装置の製造装置は、第1の面の側に薄膜回路層が形成された樹脂基板を加工する装置であって、前記第1の面を上面としたときの側面である第2の面の側から侵入して前記樹脂基板を切削する切削刃、を含み、前記切削刃は、前記第1の面の法線方向に対して、前記樹脂基板内部から前記第1の面に向かうほど互いの距離が大きくなるように傾斜した第1の傾斜部と第2の傾斜部と、を有することを特徴とする。
【0014】
このような構成であれば、削りカスを第1の傾斜部又は第2の傾斜部に沿って上方へ押し上げて除去することができる。従来と比較して、樹脂基板を切削するために刃を回転させたり、レーザーを照射したり、プレスしたりする必要はなく、被切削領域の両側にある第1の領域と第2の領域とに与えてしまう負荷を軽減することができる。これにより、薄膜半導体装置の製造工程において、樹脂基板の切削に伴う製品領域でのクラック、チッピング、剥離などの発生を抑制することができる。
【0015】
本発明のさらに別の態様に係る薄膜半導体装置の製造方法は、第1の面の側に薄膜回路層が形成された樹脂基板を加工する方法であって、前記第1の面を上面としたときの側面である第2の面の側から切削刃を侵入させて前記樹脂基板を切削する工程、を含み、前記切削刃は、前記第1の面の法線方向に対して、前記樹脂基板内部から前記第1の面に向かうほど互いの距離が大きくなるように傾斜した第1の傾斜部と第2の傾斜部とを有することを特徴とする。
【0016】
このような方法であれば、上記と同様、被切削領域の両側にある第1の領域と第2の領域とに与えてしまう負荷を軽減することができる。従って、薄膜半導体装置の製造工程において、樹脂基板の切削に伴う製品領域でのクラック、チッピング、剥離などの発生を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1実施形態に係る切削刃50の構成例を示す図。
【図2】切削刃50の全体の構成例を示す図。
【図3】切削刃50による樹脂基板1の切断の様子を示す図。
【図4】第1実施形態に係る薄膜半導体装置の製造装置100の構成例を示す図。
【図5】樹脂基板1を切断した後の状態を示す図。
【図6】第2実施形態に係る切削刃60の全体の構成例を示す図。
【図7】第3実施形態に係る切削刃70の全体の構成例を示す図。
【図8】第4実施形態に係る切削刃80の全体の構成例を示す図。
【図9】その他の実施形態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する各図において、同一の構成を有する部分には同一の符号を付し、その重複する説明は省略する。
(1)第1実施形態
図1は、本発明の第1実施形態に係る切削刃50の構成例を示す断面図である。
図1に示すように、この切削刃50は、その上面の側に薄膜回路層3が形成された樹脂基板1を切断するための刃であり、互いに離間して配置された第1の刃体10及び第2の刃体20と、第3の刃体30と、を有する。
【0019】
第1の刃体10と第2の刃体20は、樹脂基板1の上面の法線方向(例えば、Y軸方向)に対して、樹脂基板1内部からその上面に向かうほど互いの距離が大きくなるように傾斜している。第1の刃体10と第2の刃体20は、互いの距離が小さい方の端部13、23と、互いの距離が大きい方の端部14、24と、を有する。第3の刃体30は、これら各端部のうち、互いの距離が小さい方の端部13、23を接続している。
【0020】
図1に示すように、この例では、第1の刃体10と第2の刃体20とが、Y軸を挟んで左右対称となるように、それぞれ反対側に傾斜している。一例を挙げると、第1の刃体10のY軸方向に対する傾斜の角度θ1は15〜75°(つまり、45°±30°)であり、第2の刃体20のY軸方向に対する傾斜の角度θ2は15〜75°(つまり、45°±30°)である。この切削刃50は、例えばステンレス、鉄など、任意の材料で形成されている。
【0021】
なお、図1に示した樹脂基板1は、例えばポリイミド等の可撓性を有する材料からなるフィルム基板である。この樹脂基板1の上面には接着剤層2を介して薄膜回路層3が形成され、その上に保護層4が形成されている。薄膜回路層3は、例えば薄膜のポリシリコン膜にトランジスタ等が形成された回路層である。
図2は、切削刃50の全体の構成例を示す斜視図である。図2に示すように、第1の刃体10は、その側面に一体に形成された刃11を有する。この刃11の縁端(即ち、刃縁)12は、薄くて鋭く、上記の薄膜回路層が形成された樹脂基板を切削できるようになっている。同様に、第2の刃体20も、その側面に一体に形成された刃21を有し、その縁端は薄くて鋭い刃縁22となっている。第3の刃体30も、その側面に一体に形成された刃31を有し、その縁端は薄くて鋭い刃縁32となっている。
【0022】
図3は、切削刃50による樹脂基板1の切断の様子を示す斜視図である。図3に示すように、この切断方法では、その上面の側に薄膜回路層3が形成された樹脂基板1の側面に切削刃50の刃縁12、22を当てる。そして、この刃縁12、22を先頭に切削刃50を樹脂基板1の側面の側から侵入させて、例えばZ軸方向に移動させる。これにより、樹脂基板1を切断する。
【0023】
なお、この樹脂基板1に対する切削刃50の移動は相対的でよい。即ち、樹脂基板1を固定した状態で切削刃50をZ軸方向に移動させてもよいし、切削刃50を固定した状態で樹脂基板1を上記とは逆方向(即ち、180°反対の方向)に移動させてもよい。何れの方法でも、樹脂基板1を切断することができる。
図4は、本発明の第1実施形態に係る薄膜半導体装置の製造装置100の構成例を示す概念図である。この製造装置100は、上面の側に薄膜回路層3が形成された樹脂基板1を切削して、これらを所望の形状に成形、又は、複数の薄膜半導体装置に個片化するための装置である。
【0024】
図4に示すように、この製造装置100は、上記の切削刃50と、この切削刃50を支持するためのアーム101と、樹脂基板1を載せるためのステージ102と、このステージ102をX方向、Y方向又はZ方向(即ち、図4の紙面に垂直な方向)に移動させるためのモーター103と、を有する。
この製造装置100において、薄膜回路層3等が形成された樹脂基板1を切断する場合は、まず始めに、樹脂基板1の上面の側(即ち、薄膜回路層3が形成された側)を上方に向けた状態で、この樹脂基板1をステージ102上に載せて固定する。ステージ102に対する樹脂基板1の固定は、例えば真空吸着(即ち、ステージ102上に設けられた図示しない細孔から空気を吸引して樹脂基板1を吸着すること)により行う。
【0025】
次に、切削刃50をアーム101で支持し、固定した状態で、モーター103を動かし、モーター103で生じる駆動力によりステージ102を動かす。ここでは、ステージ102をX軸方向、Y軸方向又はZ軸方向に移動させ、切削刃50の刃縁を樹脂基板1の側面に当てる。そして、ステージ102を例えばZ軸方向に沿って移動させる。これにより、切削刃50を、その刃縁12、22(例えば、図3参照。)を先頭に樹脂基板1に侵入させることができ、樹脂基板1をZ軸方向に沿って切断することができる。
【0026】
なお、ステージ102の表面には、例えばX軸方向やZ軸方向に沿って溝部104が設けられている。そして、樹脂基板1を切断する際は、第3の刃体30をX軸方向やZ軸方向に向かって溝部104内で移動させることができるようになっている。これにより、第3の刃体30がステージ102の表面に接触することはなく、これらが互いに傷つくことを防止できるようになっている。
【0027】
このように、本発明の第1実施形態によれば、上面の側に薄膜回路層3が形成された樹脂基板1の側面の側から切削刃50を侵入させ、これを例えばZ軸方向に移動させることによって、樹脂基板1を切断することができる。例えば、図5に示すように、第1の領域と第2の領域との間に設定された被切削領域を、その側面の側から切削して、第1の領域と第2の領域との間を分断することができる。このとき、樹脂基板1の切削刃によって切削された部位(即ち、削りカス)は、Y軸方向に対して傾斜した第1の刃体は第2の刃体に沿って、上方へ押し上げられて除去される。
【0028】
従来と比較して、樹脂基板を切断するために、刃を回転させたり、レーザーを照射したり、プレスしたりする必要はなく、被切削領域の両側にある第1の領域及び第2の領域に与えてしまう負荷(例えば、衝撃や振動、熱、押圧力など)を軽減することができる。第1の領域及び第2の領域は例えば製品領域であるため、薄膜半導体装置の製造工程において、製品領域でのクラック、チッピング、剥離などの発生を抑制することができる。
【0029】
(2)第2実施形態
上記の第1実施形態では、切削刃50は、第1の刃体10と、第2の刃体20及び第3の刃体30を有する場合について説明した。また、第1の刃体10の端部13と第2の刃体20の端部23との間は離れており、第3の刃体30によって、これら離間している端部13、23同士が接続されている場合について説明した。しかしながら、本発明において、切削刃の構成はこれに限られることはない。
【0030】
図6は、本発明の第2実施形態に係る切削刃60の全体の構成例を示す斜視図である。図6に示すように、この切削刃60は、第1の刃体10と第2の刃体20を有し、第1の刃体10と第2の刃体20の互いの距離が小さい方の端部13、23同士が直に接続されている。
このような構成であっても、第1実施形態と同様に、上面の側に薄膜回路層3が形成された樹脂基板1の側面の側から切削刃60を侵入させることができる。そして、これを例えばZ軸方向に移動させることによって、樹脂基板1を切断することができる。樹脂基板の切断に際し、被切削領域の両側にある第1の領域と第2の領域とに与えてしまう負荷を軽減できるため、製品領域でのクラック、チッピング、剥離などの発生を抑制することができる。
【0031】
(3)第3実施形態
また、上記の第1、第2実施形態では、切削刃が有する各刃体の刃縁が、切削刃の侵入方向(例えば、Z軸方向)に対して直交している場合を例示した。しかしながら、本発明はこれに限られることはない。各刃体の刃縁は、切削刃の侵入方向において、その前後の側に傾いていてもよい。
【0032】
図7は、本発明の第3実施形態に係る切削刃70の全体の構成例を示す斜視図である。 図7に示すように、この切削刃70は、第1の刃体10´と第2の刃体20´及び第3の刃体30を有する。そして、第1の刃体10´と第2の刃体20´における互いの距離が小さい方の端部13、23は、互いの距離が大きい方の端部14、24よりも、切削時における侵入方向(例えば、Z軸方向)の後方にそれぞれ位置している。
【0033】
つまり、切削刃70の侵入方向において、第1の刃体10´の端部13は端部14よりも後側に位置し、第2の刃体20´の端部23は端部24よりも後側に位置している。換言すれば、切削刃50の侵入方向において刃縁12は前傾しており、端部13付近の刃縁12は端部14付近の刃縁12よりも後側に位置している。同様に、切削刃70の侵入方向において刃縁22は前傾しており、端部23付近の刃縁22は端部24付近の刃縁22よりも後側に位置している。
【0034】
このような構成であっても、第1、第2実施形態と同様に、樹脂基板1の切断に際し、被切削領域の両側にある第1の領域と第2の領域とに与えてしまう負荷を軽減できるため、製品領域でのクラック、チッピング、剥離などの発生を抑制することができる。また、樹脂基板の側面に対して、刃縁12、22は斜めの角度から当たることになる。樹脂基板と刃縁12、22とが最初に接触する部分は、刃縁12、22に沿った線ではなく、凡そ点となり、ここに切削の力が集中する。このため、最初の切り込みを比較的小さい力でスムーズに行うことができる。
【0035】
(4)第4実施形態
上記の第1〜第3実施形態では、第1の刃体と第2の刃体は平らな板状であり、第1の刃体と第2の刃体のY軸方向に対する傾斜はそれぞれ一定である場合を示した。しかしながら、本発明において、切削刃の構成はこれに限定されるものではない。例えば、第1の刃体と第2の刃体は、板状ではなく、曲面状であってもよい。
【0036】
図8は、本発明の第4実施形態に係る切削刃80の全体の構成例を示す斜視図である。図7に示すように、この切削刃80は、第1の刃体110と第2の刃体120を有する。第1の刃体110と第2の刃体120は、切削刃80の内側を中心に孤を描くような曲面を成している。また、第1の刃体110と第2の刃体120は、互いの距離が小さい方の端部113、123同士が直に接続されている。
このような構成であっても、第1〜第3実施形態と同様に、樹脂基板1の切断に際し、被切削領域の両側にある第1の領域と第2の領域とに与えてしまう負荷を軽減できるため、製品領域でのクラック、チッピング、剥離などの発生を抑制することができる。
【0037】
(5)その他
なお、上記の第1実施形態では、上面側に薄膜回路層3が形成された樹脂基板1を切削して、これを切断する(即ち、個片化する)場合について説明した。しかしながら、本発明はこれに限られることはない。例えば、図9に示すように、樹脂基板1の切削時に第3の刃体30を樹脂基板1の下側ではなく、樹脂基板1の内部で移動させることによって、樹脂基板1の一部を被切削領域に残すようにしてもよい。即ち、樹脂基板1を個片化するのではなく、部分的に薄膜化するようにしてもよい。
【0038】
このような場合であっても、樹脂基板1の切削に際し、被切削領域の両側にある第1の領域と第2の領域とに与えてしまう負荷を軽減できるため、製品領域でのクラック、チッピング、剥離などの発生を抑制することができる。このような薄膜化を目的とした切削は、第1実施形態で説明した切削刃50を用いる場合だけでなく、第2〜第4実施形態で説明した切削刃60、70、80を用いる場合も同様に可能である。
【0039】
また、本発明では、樹脂基板1の薄膜回路層3が形成された側を上方ではなく、上方以外の他の方向に向けた状態で樹脂基板1を切削してもよい。例えば、樹脂基板1の薄膜回路層3が形成された側を下方に向けた状態で樹脂基板1を切削してもよい。薄膜回路層3が形成された側を下方に向けた状態で樹脂基板1を切削した場合も、上記と同様、製品領域でのクラック、チッピング、剥離などの発生を抑制することができる。また、削りカスが自重で落下することも期待できるため、削りカスをより効率的に除去できる可能性がある。
【0040】
さらに、上記の第1〜第4実施形態では、切削、切断の対象物として、図1に示したように、上面の側に接着剤層2を介して薄膜回路層3が形成された樹脂基板1を例示した。しかしながら、本発明において、切削、切断の対象物はこれに限定されるものではない。例えば、上面の側に薄膜回路層3が直接形成された樹脂基板1が切削、切断の対象物であってもよい。このような場合であっても、上記の第1〜第4実施形態と同様の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0041】
1 樹脂基板、2 接着剤層、3 薄膜回路層、4 保護層、10、10´、110 第1の刃体、20、20´、120 第2の刃体、11、21、31 刃、12、22、32 刃縁、13、14、23、24 端部、30 第3の刃体、50、60、70、80 切削刃、100 薄膜半導体装置の製造装置、101 アーム、102 ステージ、103 モーター、104 溝部、113 端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の面の側に薄膜回路層が形成された樹脂基板を加工する装置であって、
前記第1の面を上面としたときの側面である第2の面の側から切削刃を侵入させて前記樹脂基板を切削する切削手段、を備え、
前記切削刃は、
前記第1の面の法線方向に対して、前記樹脂基板内部から前記第1の面に向かうほど互いの距離が大きくなるように傾斜した第1の傾斜部と第2の傾斜部と、を有することを特徴とする薄膜半導体装置の製造装置。
【請求項2】
前記切削刃の前記第1の傾斜部と第2の傾斜部とは、互いの距離が小さい方の端部において接続されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜半導体装置の製造装置。
【請求項3】
前記切削刃の前記第1の傾斜部と第2の傾斜部とにおける互いの距離が小さい方の端部同士は離間して配置されると共に、該端部同士を接続する接続部を有することを特徴とする請求項2に記載の薄膜半導体装置の製造装置。
【請求項4】
前記切削刃の前記第1の傾斜部と第2の傾斜部とにおける互いの距離が小さい方の端部は、互いの距離が大きい方の端部よりも切削時における侵入方向の後方に位置していることを特徴とする請求項1から請求項3の何れか一項に記載の薄膜半導体装置の製造装置。
【請求項5】
第1の面の側に薄膜回路層が形成された樹脂基板を加工する装置であって、
前記第1の面を上面としたときの側面である第2の面の側から侵入して前記樹脂基板を切削する切削刃、を含み、
前記切削刃は、
前記第1の面の法線方向に対して、前記樹脂基板内部から前記第1の面に向かうほど互いの距離が大きくなるように傾斜した第1の傾斜部と第2の傾斜部と、を有することを特徴とする薄膜半導体装置の製造装置。
【請求項6】
第1の面の側に薄膜回路層が形成された樹脂基板を加工する方法であって、
前記第1の面を上面としたときの側面である第2の面の側から切削刃を侵入させて前記樹脂基板を切削する工程、を含み、
前記切削刃は、
前記第1の面の法線方向に対して、前記樹脂基板内部から前記第1の面に向かうほど互いの距離が大きくなるように傾斜した第1の傾斜部と第2の傾斜部とを有することを特徴とする薄膜半導体装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−76202(P2012−76202A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226034(P2010−226034)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】