説明

薄膜型太陽電池モジュ−ル用の封止材シート、及び薄膜型太陽電池モジュール

【課題】封止材シートと透明前面基板の外周との界面への水分の浸入を抑える技術を提供する。
【解決手段】密度が0.870〜0.890g/cmの範囲であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを組成物中に20質量%以上40質量%以下含有し、α−オレフィンとエチレン変性不飽和シラン化合物とをコモノマーとして共重合してなるシラン共重合体を含有し、該シラン共重合体の重合シラン量が2000ppm以上15000ppm以下である組成物から構成される層を備える単層又は多層の封止材シートを使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜型太陽電池モジュ−ル用の封止材シート、及び薄膜型太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境問題に対する意識の高まりから、クリーンなエネルギー源としての太陽電池が注目されている。現在、種々の形態から構成される太陽電池モジュールが開発され、提案されている。
【0003】
例えば、一般的な薄膜型の太陽電池モジュールは、電気的に直列又は並列に接続されてなる複数の太陽電池セルから構成される太陽電池素子を含み、ガラスやプラスチック等の透明前面基板、太陽電池素子、封止材シート、裏面保護シートが順次積層された構成である。また、薄膜型の太陽電池モジュールは、太陽電池素子が透明前面基板の中央部に形成されており、外周は絶縁のために透明前面基板が露出している。この結果、太陽電池素子を覆う封止材シートは、その外周においては、透明前面基板と裏面保護シートの間に配置される構造になっている(例えば、特許文献1参照)。なお、上記の透明前面基板の外周の露出面はレーザー加工やサンドブラストによって形成され粗面となっている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
ここで、封止材シートと透明前面基板の外周との界面、又は封止材シートと裏面保護シートの外周との界面から、水分が入り込む場合がある。入り込んだ水分は、電気を通しやすいため問題となる。
【0005】
このため、封止材シートと透明前面基板の外周との界面、又は封止材シートと裏面保護シートの外周との界面への水分の浸入を抑える技術が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−310680号公報
【特許文献2】特開2000−150944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は以上の課題を解決するためになされたものであり、その目的は、封止材シートと透明前面基板の外周との界面への水分の浸入を抑える技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
従来、表面粗さRaが0.10μm程度の透明前面基板の粗面が、封止材シートと透明前面基板との界面への水分の浸入に影響を与えるとは考えられていなかったが、本発明者らは上記粗面に着目し、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、封止材シートと接し、表面粗さRaが0.10μm以上透明前面基板の外周の粗面が、封止材シートと透明前面基板との間の密着性に影響を与える結果、封止材シートと透明前面基板の外周との界面へ水分が浸入しやすくなることを見出し、さらに、特定の封止材シートを用いれば、封止材シートと透明前面基板の外周との界面への水分の浸入を抑制できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0009】
なお、本発明でいう透明前面基板の表面の外周に粗面が存在するとは、図1に例示するように、受光面側から、透明前面基板2、薄膜形成された太陽電池素子5、封止材シート3、裏面保護シート4、が順次積層された構成の薄膜型の太陽電池モジュール1において、透明前面基板2の太陽電池素子5が形成されている側、すなわち素子面側であって、透明前面基板2の外周端部から太陽電池素子5に連通するように粗面6が少なくとも外周7の1箇所に形成されていることを意味する。この粗面6の存在によって、太陽電池モジュール1の端面における透明前面基板2と封止材シート3との界面から、粗面6を介して太陽電池素子5へ到達する水分浸入が起こり得るのが従来技術である。
【0010】
(1) 密度が0.870〜0.890g/cmの範囲であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを組成物中に20質量%以上40質量%以下含有し、α−オレフィンとエチレン変性不飽和シラン化合物とをコモノマーとして共重合してなるシラン共重合体を含有し、該シラン共重合体の重合シラン量が2000ppm以上15000ppm以下である組成物から構成される単層の封止材シート、又は、該組成物から構成される密着強化層を備える多層の封止材シートであって、前記多層の封止材シートの場合に前記密着強化層が最外層に設けられている薄膜型太陽電池モジュ−ル用の封止材シート。
【0011】
(2) (1)記載の単層の封止材シートと、透明前面基板における太陽電池素子が薄膜形成されている側の素子面とが積層されているか、又は、(1)記載の多層の封止材シートにおける密着強化層側の面と、前記透明前面基板の前記素子面とが積層されており、
前記透明前面基板の素子面の外周の少なくとも一部には、表面粗さRaが0.10μm以上10μm以下の粗面が形成されている薄膜型太陽電池モジュール。
【0012】
(3) 前記粗面は、前記透明前面基板の外周に形成された前記太陽電池素子の一部を、レーザー加工又はサンドブラストによりスクライブすることによって、前記外周に前記透明前面基板が露出して形成されたものである(2)記載の薄膜型太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、封止材シートと透明前面基板の外周との間、封止材シートと裏面保護シートの外周との間等の透明前面基板と封止材シートとの間への水分の浸入を充分に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の薄膜型太陽電池モジュールの層構成の一例を示す断面の一部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の薄膜型太陽電池モジュ−ル用の封止材シート、薄膜型太陽電池モジュールについてこの順で説明する。
【0016】
<薄膜型太陽電池モジュ−ル用の封止材シート>
本発明の太陽電池モジュール用封止材シートは、密度が0.870〜0.890g/cmの範囲であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンと、α−オレフィンとエチレン変性不飽和シラン化合物とをコモノマーとして共重合してなるシラン共重合体とを、必須成分として含む組成物から構成される単層の封止材シート、又は、該組成物から構成される密着強化層を備える多層の封止材シートである。
【0017】
[メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン]
本発明の組成物から構成される単層又は多層における密着強化層(以下単に本発明の層ともいう)に含まれるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンは、エチレンとα−オレフィンとの共重合体であり、密度が0.870〜0.890g/cmの範囲である。メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンは、シングルサイト触媒であるメタロセン触媒を用いて合成されるものである。このようなポリエチレンは、側鎖の分岐が少なく、コモノマーの分布が均一である。このため、分子量分布が狭く、上記のような超低密度にすることが可能であり封止材シートに対して柔軟性を付与できる。封止材シートに柔軟性が付与される結果、封止材シートと透明前面基板との密着性、封止材シートと裏面保護シートとの密着性等の封止材シートと透明前面基板との密着性が高まるため、封止材シートと透明前面基板との間への水分の浸入を抑えることができる。
【0018】
また、結晶性分布が狭く、結晶サイズが揃っているので、結晶サイズの大きいものが存在しないばかりでなく、低密度であるために結晶性自体が低い。このため、シート状に加工した際の透明性に優れる。したがって、本発明の層が透明前面基板と太陽電池素子との間に配置されても発電効率はほとんど低下しない。
【0019】
メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンの作製に使用されるα−オレフィンとしては、好ましくは分枝を有しないα−オレフィンが好ましく使用され、これらの中でも、炭素数が6〜8のα−オレフィンである1−ヘキセン、1−ヘプテン又は1−オクテンが特に好ましく使用される。α−オレフィンの炭素数が6以上8以下であることにより、太陽電池モジュール用封止材シートに良好な柔軟性を付与することができるとともに良好な強度を付与することができる。その結果、封止材シートと透明前面基板との密着性がさらに高まり、上記水分の浸入の問題を抑えることができる。
【0020】
メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンの密度は、0.870〜0.890g/cmであり、0.875〜0.888g/cmであることが好ましく、0.878〜0.885g/cmであることがより好ましい。この範囲であれば、シート加工性を維持しつつ良好な柔軟性を付与することができ、上記水分の浸入を抑えることができる。
【0021】
本発明の層に含まれるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンの含有量は、20質量%以上40質量%以下である。メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンの含有量が20質量%以上であることにより、太陽電池モジュール用封止材シートに良好な柔軟性を付与することができ、封止材シートと透明前面基板との間に水分が浸入する問題を抑えることができる。メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンの含有量が40質量%以下であることにより、シート状への加工を容易にする。本発明の層に含まれるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンの含有量は、25質量%以上35質量%以下であることが好ましく、27質量%以上32質量%以下であることがより好ましい。
【0022】
メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンのショアD硬度は、15度以上40度以下であることが好ましく、15度以上35度以下であることがより好ましい。メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンのショアD硬度が上記の範囲であることにより、太陽電池モジュール用封止材シートの柔軟性を維持することができる。また、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンのメルトマスフローレート(MFR)は、190℃において0.5g/10分以上8g/10分以下であることが好ましく、2g/10分以上5g/10分以下であることがより好ましい。メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンのMFRが上記の範囲であることにより、製膜時の加工適性に優れる。
【0023】
[シラン共重合体]
シラン共重合体は、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物とをコモノマーとして共重合してなり、必要に応じてさらにその他の不飽和モノマーをコモノマーとして共重合して得られる共重合体であり、該共重合体の変性体ないし縮合体も含むものである。本発明の層は、上記シラン共重合体を含有することで、封止材シートと透明前面基板との密着性を高める。特に透明前面基板がガラスである場合には、封止材シートと透明前面基板との密着性が非常に高い。
【0024】
また、当該シラン共重合体が封止材シートに含まれることで、封止材シートに好ましい物性が付与される。例えば、シラン共重合体は、封止材シートに対して強度、耐久性を付与し、かつ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性、耐風圧性、耐降雹性、その他の諸特性を付与する。さらに、シラン共重合体を含む封止材シートは、太陽電池モジュールを製造する際の加熱圧着等の製造条件に影響を受けることなく、極めて優れた熱融着性を有するため、安定的に、低コストで、種々の用途に適する太陽電池モジュールを製造できる。
【0025】
シラン共重合体とは、例えば、特開2003−46105号公報に記載されているものである。使用可能なエチレン性不飽和シラン化合物としては、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリプロポキシシラン、ビニルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリブトキシシラン、ビニルトリペンチロキシシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ビニルトリベンジルオキシシラン、ビニルトリメチレンジオキシシラン、ビニルトリエチレンジオキシシラン、ビニルプロピオニルオキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、ビニルトリカルボキシシランが例示できる。また、使用可能なα−オレフィン、その他の不飽和モノマーとしては、特開2003−46105号公報に記載されているものと同様のものを例示することができる。
【0026】
α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体を構成する際のエチレン性不飽和シラン化合物の含量としては、シラン共重合体質量に対して、例えば、0.001〜15質量%位、好ましくは、0.01〜5質量%位、特に好ましくは、0.05〜3質量%位が望ましいものである。本発明において、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体を構成するエチレン性不飽和シラン化合物の含量が多い場合には、ガラスとの密着性に優れるが、含量が過度になると、引っ張り伸び及び熱融着性等に劣る傾向にある。
【0027】
シラン共重合体の製造方法は特に限定されないが、例えば、α−オレフィンの1種ないし2種以上と、ビニルアルコキシシラン等のエチレン性不飽和シラン化合物の1種ないし2種以上と、必要ならば、その他の不飽和モノマーの1種ないし2種以上とを、所望の反応容器を使用し、例えば、圧力500〜4000Kg/cm位、好ましくは、1000〜4000Kg/cm位、温度100〜400℃位、好ましくは、150〜350℃位の条件下で、ラジカル重合開始剤及び必要ならば連鎖移動剤の存在下で、同時にあるいは段階的にランダム共重合させ、さらには、必要に応じて、その共重合によって生成するランダム共重合体を構成するシラン化合物の部分を変性ないし縮合させて、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体又はその変性ないし縮合体を製造することができる。
【0028】
また、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体又はその変性ないし縮合体の製造方法は、特に限定されないが、例えば、α−オレフィンの1種ないし2種以上と、必要ならば、その他の不飽和モノマーの1種ないし2種以上とを、所望の反応容器を使用し、上記と同様に、ラジカル重合開始剤及び必要ならば連鎖移動剤の存在下で、同時にあるいは段階的に重合させ、次いで、その重合によって生成するポリオレフィン系重合体に、エチレン性不飽和シラン化合物の1種ないし2種以上をグラフト共重合させ、さらには、必要に応じて、その共重合体によって生成するグラフト共重合体を構成するシラン化合物の部分を変性ないし縮合させて、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体又はその変性ないし縮合体を製造することができる。
【0029】
上記シラン共重合体の製造に使用可能なラジカル重合開始剤、連鎖移動剤等としては、特開2003−46105号公報に記載されているものと同様のものを例示することができる。
【0030】
ランダム共重合体を構成するシラン化合物の部分を変性ないし縮合させる方法、あるいは、グラフト共重合体を構成するシラン化合物の部分を変性ないし縮合させる方法としては、例えば、錫、亜鉛、鉄、鉛、コバルト等の金属のカルボン酸塩、チタン酸エステル及びキレート化物等の有機金属化合物、有機塩基、無機酸、及び、有機酸等のシラノール縮合触媒等を使用し、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物とのランダム共重合体あるいはグラフト共重合体を構成するシラン化合物の部分のシラノール間の脱水縮合反応等を行うことにより、α−オレフィンとエチレン性不飽和シラン化合物との共重合体の変性ないし縮合体を製造する方法が挙げられる。
【0031】
本発明で使用されるシラン共重合体としては、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体、及びグラフト共重合体のいずれであっても好ましく使用することができるが、グラフト共重合体であることがより好ましく、重合用ポリエチレンを主鎖とし、エチレン性不飽和シラン化合物が側鎖として重合したグラフト共重合体がさらに好ましい。このようなグラフト共重合体は、接着力に寄与するシラノール基の自由度が高くなるため、太陽電池モジュールにおける透明前面基板への封止材シートの密着性を向上することができる。封止材シートの透明前面基板に対する密着性が向上すると、透明前面基板と封止材シートとの間から水分が浸入しにくくなるため好ましい。
【0032】
本発明においては、シラン共重合体の重合シラン量は、本発明の層中の質量比で2000ppm以上15000ppm以下である。2000ppm以上であれば、透明前面基板と封止材シートとの密着性が非常に強くなり、上述のメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンと併用することで透明前面基板と封止材シートとの間から水分が浸入する問題を充分に抑えることができる。15000ppm以下にするのは、それ以上存在しても封止材シートと透明前面基板との密着性が向上しないという理由からである。なお、重合シラン量とは、例えば、ICP発光分析等で元素を定量することによって、組成物中の存在量を特定することができる。
【0033】
シラン共重合体への添加用樹脂としては、上記シラン共重合体と相溶性がある樹脂が好ましく、具体的にはポリエチレン等の未変性のポリオレフィン樹脂が例示できる。より具体的にはポリエチレン系樹脂が好ましく、透明性を付与する観点から、エチレンとα−オレフィンとの低密度共重合体が好ましく使用される。このような樹脂としては、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンが挙げられる。メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンは、シングルサイト触媒であるメタロセン触媒を用いて合成されるものである。このようなポリエチレン系樹脂は、側鎖の分岐が少なく、コモノマーの分布が均一である。このため、分子量分布が狭く、密度が小さいポリエチレン系樹脂とすることができ、シートに柔軟性を付与することができる。透明性の観点からは、密度が0.870〜0.915g/cmの範囲であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンであることが好ましく、α−オレフィンが炭素数6から8であることが好ましい。添加用樹脂の量は上記シラン共重合体に対して50〜95質量%程度であることが好ましい。なお、上記の未変性のポリオレフィン樹脂は、後述する「その他の成分」をあらかじめマスターバッチ化するための樹脂としても用いることができる。
【0034】
[その他の樹脂]
本発明の層には、上記必須成分以外の樹脂を含有させることができる。本発明の層に安価な樹脂を含有させることで、透明前面基板との密着性に優れる封止材シートを低コストで得ることができる。その他の樹脂としては、例えば、上記未変性のポリオレフィン樹脂が挙げられる。
【0035】
本発明の層中のその他の樹脂の含有量は特に限定されないが、10質量%以上30質量%以下程度であることが好ましい。
【0036】
[その他の成分]
本発明の層には、さらにその他の成分を含有させることができる。例えば、本発明の封止材シートに耐候性を付与するための耐候性マスターバッチ、各種フィラー、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤等の成分が例示される。これらの添加剤を含むことにより、封止材シートに対して、長期に亘って安定した機械強度や、黄変やひび割れ等の防止効果等を付与することができる。
【0037】
耐候性マスターバッチとは、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び酸化防止剤等をポリエチレン等の樹脂に分散させたものであり、これを本発明の層が含むことにより、封止材シートに良好な耐候性を付与することができる。耐候性マスターバッチは、適宜作製して使用してもよいし、市販品を使用してもよい。耐候性マスターバッチに使用される樹脂としては、特に限定されず、好ましくはポリエチレン系樹脂等の未変性ポリオレフィン樹脂が例示される。未変性のポリオレフィン樹脂については、上記のものと同様であるため説明を省略する。
【0038】
これらの光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び酸化防止剤は、それぞれ1種単独でも2種以上を組み合わせて用いることもできる。また、光安定化剤、紫外線吸収剤、熱安定剤及び酸化防止剤の含有量は、その粒子形状、密度等により異なるものではあるが、それぞれ密着強化層中に0.001〜5質量%の範囲内であることが好ましい。
【0039】
さらに、本発明の層に含有可能な他の成分としては上記以外に、核剤、架橋剤、分散剤、レベリング剤、可塑剤、消泡剤、難燃剤等を挙げることができる。
【0040】
本発明の太陽電池モジュール用の封止材シート(以下単に「封止材シート」という場合がある)は、上記の本発明の層を備える単層又は多層のシートである。多層の場合には最外層の少なくとも一方が、密着強化層になる。このような層構成にすることで、密着強化層が少なくとも一方の透明前面基板と接する時、少なくとも一方の透明前面基板と封止材シートとの密着性が高まり、少なくとも一方の透明前面基板と封止材シートとの間からの水分の浸入を抑えることができる。
【0041】
本発明の封止材シートは、例えば、上記組成物を、従来公知の方法で成形加工して得られるものであり、例えば、単層のシート状又はフィルム状としたものである。なお、本発明におけるシート状とはフィルム状も含む意味であり両者に差はない。単層にすれば封止材シート全体が密着強化層から構成されるため、密着強化層が両面の透明前面基板と接することになり、好ましい。製造コストを低下させる目的で、シラン共重合体等の高価な成分の使用量を低下させる必要がある場合には、高価な成分の濃度を積層面付近では高くし、内部では低くすればよい。なお、高価な成分に限らず、特定の成分の濃度が、封止材シート内で変化するようにしてもよい。
【0042】
上記組成物のシート化又はフィルム化は、通常の熱可塑性樹脂において通常用いられる成形法、すなわち、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、回転成形等の各種成形法により行われる。こうして、上記組成物をシート化又はフィルム化することにより、本発明の封止材シートとして、太陽電池モジュール用封止材組成物から構成される密着強化層のみから構成される単層シート、又は当該密着強化層を備える多層シートが得られる。
【0043】
封止材シートは、単層シートであってもよく、多層シートであってもよい。多層シートの場合、透明前面基板との密着性を向上させるために、少なくとも最外層に密着強化層が配置されていればよい。このため、例えば封止材シートを2層構成として一方の層のみに密着強化層を配置してもよく、コア層を挟んで3層以上の構成として少なくとも一方の最外層に密着強化層を配置してもよい。これにより、高価なシラン共重合体等の使用量を抑えることができ、より低コストで本発明の封止材シートを製造することができる。コア層に含まれる成分は特に限定されないが、上述のシラン共重合体、その他の樹脂、その他の成分を好ましく含有させることができる。上記のような、多層フィルムから構成される封止材シートを作製するには、例えば、従来公知のTダイ多層共押出し法を用いることができる。
【0044】
<太陽電池モジュール>
本発明の太陽電池モジュールは、ガラス等から構成される透明前面基板における、薄膜太陽電池素子及び粗面が形成されている側である素子面との密着性を向上させるために、透明前面基板の素子面側に本発明の層が配置されていればよい。ここで、上記のように、本発明の太陽電池モジュールに用いられる透明前面基板の外周には表面粗さRaが0.10μm以上10μm以下の粗面が形成されている。本発明の太陽電池モジュールにおいては、本発明の層が上記の粗面上に配置されるように構成される。
【0045】
表面粗さRaが0.10μm以上の粗面を形成した場合、従来の封止材シートを使用すると、透明前面基板と封止材シートとの密着性が充分ではないため、透明前面基板と封止材シートとの間から水が浸入しやすくなる。しかし、本発明の層を上記粗面上に積層すると、封止材シートと透明前面基板との密着性が非常に高まる結果、透明前面基板と封止材シートとの間からの水の浸入を抑えることができる。本発明の層には活性シランが多く含まれているため封止材シートと透明前面基板との間の化学結合による密着力が大きくなり、また、本発明の層にはメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンが含まれることで、封止材シートが非常に柔軟になり、封止材シートと透明前面基板との密着性が向上するからである。また、上記粗面の表面粗さを10μm以下に調整する理由は、透明導電膜の厚みを考慮すれば、表面粗さが10μm以上になるようなスクライブは必要ないためである。
【0046】
表面粗さRaが0.10μm以上10μm以下の粗面は、どのように形成されるものであってもよいが、薄膜型の太陽電池モジュールの場合には、透明前面基板上の外周に形成された太陽電池素子をスクライブする際に、表面粗さRaが0.10μm以上10μm以下の粗面が形成される。上記スクライブはサンドブラスト又はレーザー加工等の手段で行われる。したがって、本発明の封止材シートを薄膜型の太陽電池モジュールに使用すると、得られる薄膜型太陽電池モジュールは、透明前面基板と封止材シートとの間から水分が浸入することがほとんどない。
【0047】
また、本発明の太陽電池モジュールを製造する方法は、特に限定されず、透明前面基板の外周に表面粗さRaが0.10μm以上10μm以下の粗面が存在し、この粗面上に本発明の封止材シートが配置されるようにすれば、従来公知の薄膜型の太陽電池モジュールを製造する方法で、本発明の太陽電池モジュールを製造することができる。
【実施例】
【0048】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0049】
<メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン>
エチレンと1−ヘキセンとの共重合体であり、密度0.880g/cm、190℃でのメルトマスフローレート(MFR)3.4g/10分、ショアD硬度17であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを用いた。
【0050】
<シラン共重合体>
密度0.898g/cmであり、190℃でのMFRが2g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン98質量部に対して、ビニルトリメトキシシラン2質量部と、ラジカル発生剤(反応触媒)としてのジクミルパーオキサイド0.1質量部とを混合し、200℃で溶融、混練し、シラン共重合体を得た。この樹脂の密度は、0.901g/cm、190℃におけるMFRは、1.0だった。また、シラン変性量が、シラン共重合体中2.1質量%から2.8質量%になるように調整した。
【0051】
<その他の樹脂>
その他の樹脂として、密度0.901g/cmであり、190℃でのMFRが2g/10分であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン(以下、「その他LLDPE」という)を用いた。
【0052】
<その他の成分>
その他の成分として、以下の方法で作製した耐候性マスターバッチを用いた。
密度0.924g/cmのチーグラー直鎖状低密度ポリエチレンを粉砕したパウダー91.5質量部に対して、ヒンダードアミン系光安定剤4.6質量部とベンゾフェノン3.4質量部と、リン系熱安定化剤0.5質量部とを混合して溶融、加工し、ペレット化した耐候性マスターバッチを作製した。
【0053】
<封止材シートの製造>
本実施例においては、外層/コア層/外層の3層構造を有する太陽電池モジュール用封止材シートを製造するために、以下の種類の組成物を作製した。両外層には同じ組成物を用いた。なお、全ての封止材シートにおいて、コア層には組成物1を使用した。なお、後述する組成物1〜6の中で、組成物5、6を用いれば密着強化層を製造することができる。
【0054】
[外層1/コア層]
その他LLDPEを90質量部と、シラン共重合体を10質量部と、耐候性マスターバッチを5質量部とを混合して、組成物1を得た。この組成物は、密度が0.870〜0.890g/cmの範囲であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを組成物中に含有せず、シラン共重合体の重合シラン量は組成物中に1200ppmである。
【0055】
[外層2]
その他LLDPEを80質量部と、シラン共重合体を20質量部と、耐候性マスターバッチを5質量部とを混合して、組成物2を得た。この組成物は、密度が0.870〜0.890g/cmの範囲であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを組成物中に含有せず、シラン共重合体の重合シラン量は組成物中に2500ppmである。
【0056】
[外層3]
その他LLDPEを50質量部と、シラン共重合体を50質量部と、耐候性マスターバッチを5質量部とを混合して、組成物3を得た。この組成物は、密度が0.870〜0.890g/cmの範囲であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを組成物中に含有せず、シラン共重合体の重合シラン量は組成物中に6200ppmである。
【0057】
[外層4]
その他LLDPEを30質量部と、シラン共重合体を70質量部と、耐候性マスターバッチを5質量部とを混合して、組成物4を得た。この組成物は、密度が0.870〜0.890g/cmの範囲であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを組成物中に含有せず、シラン共重合体の重合シラン量は組成物中に8900ppmである。
【0058】
[外層5]
その他LLDPEを50質量部と、シラン共重合体を20質量部と、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを30質量部と、耐候性マスターバッチを5質量部とを混合して、組成物5を得た。この組成物は、密度が0.870〜0.890g/cmの範囲であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを組成物中に30質量%含有し、シラン共重合体の重合シラン量は組成物中に2500ppmである。
【0059】
[外層6]
その他LLDPEを20質量部と、シラン共重合体を50質量部と、メタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを30質量部と、耐候性マスターバッチを5質量部とを混合して、組成物6を得た。この組成物は、密度が0.870〜0.890g/cmの範囲であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを組成物中に30質量%含有し、シラン共重合体の重合シラン量は組成物中に6200ppmである。
【0060】
<評価1>
評価1のために太陽電池モジュール用の封止材シートを作製した。表1に示す最外層用の組成物とコア層用の太陽電池モジュール用の組成物1を常法により三層にて押し出し、2m巾のTダイを有する成膜機により作製した。成膜温度は、シリンダーからTダイの設定値を170〜220℃とし、樹脂組成物の温度は230℃以下とした。なお、第1層、第2層及び第3層の厚さの比は、1:5:1であり、全体の厚みは400μmとした。
【表1】

【0061】
封止材シートを太陽電池モジュール製造用の真空ラミネーターにて、下記の3種類のガラス板と150℃で、15分間圧着した。
(ガラス)
AEDガラス:外周をサンドブラストで粗面化したガラス(粗面の表面粗さRaが2.85μm)。
LEDガラス:外周をレーザー加工で粗面化したガラス(粗面の表面粗さRaが0.10μm)。
青板ガラス:市販品(表面粗さRaが0.02μm)
【0062】
封止材シートをラミネートしたガラスをアルカリ雰囲気中(pH7の85℃の温水、pH10の85℃の温水、pH11の85℃の温水)でそれぞれ三日間保存し、封止材シートのガラス密着強度の径時変化を確認した。ガラス密着強度は、JIS Z1707に従い15mm幅での剥離強度(単位:N/15mm)を測定した。測定結果を表2に示した。
【0063】
【表2】

【0064】
上記表2の結果から明らかなように、表面粗さRaが0.10μm程度の粗面が透明前面基板と封止材シートとの界面への水分の浸入に影響を与えることが確認された。また、シラン共重合体の使用量を増加させることで、透明前面基板と封止材シートとの界面に水分が浸入し難くなることが確認された。
【0065】
<評価2>
外層用の組成物として、組成物5を用いた以外は、評価1と同様にして実施例1の封止材シートを作製した。そして、この実施例1を評価1と同様の方法でAEDガラス、LEDガラスにラミネートして、封止材シートとガラスとの密着強度を評価した。評価結果を表3に示した。表3には、参考のために評価例2の結果も併せて示した。
【0066】
【表3】

【0067】
表3の結果から明らかなように、柔軟性の高いメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレン、特定のシラン共重合体を含む実施例1は、透明前面基板と封止材シートとの界面に水分が浸入し難くなることが確認された。
【0068】
<評価3>
外層用の組成物として、組成物6を用いた以外は、評価1と同様にして実施例2の封止材シートを作製した。そして、この封止材シートを評価1と同様の方法でAEDガラス、LEDガラスにラミネートして、封止材シートとガラスとの密着強度を評価した。評価結果を表4に示した。表4には、参考のために評価例3、実施例1の結果も併せて示した。
【表4】

【0069】
表4の結果から明らかなように、シラン共重合体の使用量を増加させ、柔軟性の高いメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを使用することで、ガラスと封止材シートとの密着性が非常に高くなり、透明前面基板と封止材シートとの間から水分が浸入する問題がほとんど生じない。
【0070】
<評価4>
最後に、実施例2の封止材シートの引張強度、引張伸度、水蒸気透過度、体積固有抵抗、絶縁破壊電圧、全光線透過率、曇度を測定した。測定方法は以下に示す通りであり、表5には実施例2の封止材シートの結果及び一般的に使用されるEVA樹脂から構成される封止材シートのこれらの物性値を示した。
【0071】
引張強度(MPa)、引張伸度(%)は、JIS K−7127に準じて測定した。
水蒸気透過度(g/{(m・24h)・(400μm)})は、JIS K−7129 B法に準じて測定した。
体積固有抵抗(Ω・cm)は、JIS K6911に準じて測定した。
絶縁破壊電圧(kV/mm)は、JIS C−2110に基づき、耐電圧試験器を用いて封止材シートの厚み1mm当たりの絶縁破壊電圧(kV)を測定した。絶縁破壊電圧は、2つの電極の間に電気絶縁性を有する試料を挟み込んだ後、電圧を徐々に上げていくと電流が急激に増加し、封止材シートの一部が溶けて孔が空いたり炭化したりして通電するようになる際の電圧を示す。
全光線透過率(%)、曇度はJIS K7105に準じて測定した。
【表5】

【0072】
表5の評価結果から明らかなように、本発明の封止材シートは、太陽電池モジュール用封止材シートに要求される物性を充分満たす。
【符号の説明】
【0073】
1 太陽電池モジュール
2 透明前面基板
3 前面封止材
4 裏面保護シート
5 太陽電池素子
6 粗面
7 外周

【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が0.870〜0.890g/cmの範囲であるメタロセン系直鎖状低密度ポリエチレンを組成物中に20質量%以上40質量%以下含有し、
α−オレフィンとエチレン変性不飽和シラン化合物とをコモノマーとして共重合してなるシラン共重合体を含有し、該シラン共重合体の重合シラン量が2000ppm以上15000ppm以下である組成物から構成される単層の封止材シート、又は、該組成物から構成される密着強化層を備える多層の封止材シートであって、前記多層の封止材シートの場合に前記密着強化層が最外層に設けられている薄膜型太陽電池モジュ−ル用の封止材シート。
【請求項2】
請求項1記載の単層の封止材シートと、透明前面基板における太陽電池素子が薄膜形成されている側の素子面とが積層されているか、又は、
請求項1記載の多層の封止材シートにおける密着強化層側の面と、前記透明前面基板の前記素子面とが積層されており、
前記透明前面基板の素子面の外周の少なくとも一部には、表面粗さRaが0.10μm以上10μm以下の粗面が形成されている薄膜型太陽電池モジュール。
【請求項3】
前記粗面は、前記透明前面基板の外周に形成された前記太陽電池素子の一部を、レーザー加工又はサンドブラストによりスクライブすることによって、前記外周に前記透明前面基板が露出して形成されたものである請求項2記載の薄膜型太陽電池モジュール。

【図1】
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【公開番号】特開2012−209335(P2012−209335A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−72266(P2011−72266)
【出願日】平成23年3月29日(2011.3.29)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】