説明

薄膜塗布装置及び薄膜塗布ヘッド

【課題】うねりや凹凸がある大型基材や基板上に、サブミクロンレベルの膜厚の薄膜を精度よく形成できる技術開発が望まれている。その際、装置が巨大になることはなく、メンテナンス性に優れた、構成が要求されている。
【解決手段】低粘度の塗布材料をライン状に非常に小さなばらつきで塗布できるスリットコータヘッドを塗布液の供給機構として適用し、一対の転写ローラ系として、塗布幅と同等な長さを持つアニロックスロールと小径の版胴を組合わせた薄膜塗布方法により、前記の課題を解決可能である。一対の小径ローラ系においては、大型基材塗布の際の問題点となるローラ軸のたわみによる転写不良を一対のローラの配置で対応し、小径の版胴の連続性に関しては、材料、接合方法の工夫により、シームレス化を実現している。また、塗布液供給系と転写系をコンパクトに実装することにより、メンテナンス性にすぐれ、信頼性が高い薄膜塗布装置を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平坦な有限長の基材の表面に薄膜を成膜する薄膜塗布に係り、特に基板の大型化が進むガラス板、ガラス基板など、所望の塗布膜厚以上のうねりがある平板状の基材を用いる太陽電池パネルや液晶ディスプレイパネルなどの薄膜塗布形成に適用できる薄膜塗布装置及び薄膜塗布ヘッドに関するものである。また、フィルムへの機能薄膜の形成等にも展開が可能である。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶を始めとするディスプレイパネルは低価格化のために、基板や基材の大型処理化が進んでいる。このため従来、真空成膜法やスピンコート法等で行われてきた薄膜形成が、大型基板への対応と設備コストや材料消費量が抑えられる新しい塗布法によってとって代わられてきている。
【0003】
とくに、メータ級の大きさの基板に、サブミクロンの膜厚の薄膜を一様に形成することが重要な課題となっている。
【0004】
大型基板に薄膜を形成する方法としては、スピンコート法、スリットコート法、インクジェット法、スプレーコート法、フレキソ印刷法等の流体をそのまま薄く延ばし、乾燥させて薄膜を形成する方法が注目されている。
【0005】
例えば、スピンコート法では、材料使用効率の悪化と同時に、回転速度によって、膜厚を制御する方式であるため、今回の大型基板では、周速の増大により、基板が破損するおそれがあり、適用できない。
【0006】
次に、スリットコート法ではスリット塗布ヘッドと基板との間隔(ギャップ)の変動が塗布膜精度に直結するため、基板を固定保持するテーブルやスリット塗布ヘッドを高精度加工する必要があるため、高コスト設備となっている。また、塗布膜厚(ウェット膜厚)が基板のうねり以下となるような膜厚レベル、例えば1μm以下の薄膜をスリットコート法で塗布することは不可能、若しくは非常に困難であり、適用が難しい。
【0007】
また、インクジェット法では、大型基板でも精度のよい薄膜が形成出来るが、材料によっては、インクジェットヘッドの目詰まりを起こすおそれがあり、信頼性上、万全ではない。
【0008】
また、スプレーコート法は、膜厚を一様に形成することが困難であり、エレクトロニクス分野等の高精度な塗布を要求される分野には極めて不向きである。
【0009】
基板のうねりにも対応でき、液晶配向膜等のサブミクロンの薄膜が得られるフレキソ印刷の適用が考えられる。例えば特許文献1特開2007−14922号公報に示されるロールコータ式の塗布装置は、このジャンルに属するものであり、塗布液に接し版胴の概側方に配置される塗布液着けローラ周面に塗布液を定着させ、均しローラ若しくはドクターローラによって定着量を調整した後、版胴に塗布液を転写するものである。塗布膜厚はローラのニップ圧を変えて調整することが可能であるが、塗布液着けローラの周面に塗布液が定着できず塗布液が飛散してしまったり、施された塗布膜にムラが発生する不具合がある。また、塗布液は貯留部に開放状態で供給されるため、塗布液の粘度が変化し塗布膜の品質が低下する課題がある。
【0010】
特開2007−90881号公報に示されるチャンバーコータ式の塗布装置は、ロールコータ式の塗布装置における塗布液の粘度変化を抑えるよう、概密閉容器のチャンバーから塗布液を供給するよう改良されたものである。塗布液は、版胴の概側方に配置されるアニロックスローラ周面に供給され版胴に転写される。アニロックスローラ周面に供給される塗布液は一定となるため、安定した塗布膜を得ることが出来る反面、塗布膜厚の調整変更はアニロックスローラに保持される塗布液量に依存するため、前記特許文献広報に示されるような機構によって高価なアニロックスローラを所望の膜厚に合わせ交換する必要がある。
【0011】
更に、ロールコータ式、チャンバーコータ式を含むフレキソ印刷装置は、基板の大型化により版胴も大口径化し、品種換え時の版胴の交換などの取り扱いが容易ではなく、またそのための付帯設備が必要になるなどの課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−14922号公報
【特許文献2】特開2007−90881号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記したように、基材のうねり以下となるような膜厚、例えば1μm以下の薄膜の形成、特に大型の基材への薄膜塗布形成においては、スリット塗布ヘッドと基材との間隔(ギャップ)を高精度に保持しなければならないスリットコート法では対応することが出来ない。さらに、別の方法でも性能面、信頼性面、装置の大きさや価格面等で、要求に合致する方法は見られない。可能性が微かにあるフレキソ印刷の分野の中で、基材のうねりに追従できる版胴で塗布液を転写して成膜するロールコータ式塗布装置やチャンバーコータ式塗布装置が提案されているが、前者のロールコータ式塗布装置では塗布液の粘度変化などによる膜ムラが発生する課題があり、後者のチャンバーコータ式塗布装置においては、膜厚の変更には非常に高価なアニロックスローラの交換と交換のための機構設備が必要となるという大きな欠点を持っている。更に大型の基材への塗布のためには、版胴の円筒周面長が塗布基材の長さ以上であることが必要になるため、版胴の径が巨大になり容易に取扱うことが出来ないという致命的な課題を持っている。
【0014】
本発明では、サブミクロンレベルの薄膜を、メータ級の基板上に精度良く形成する方法を提供するのが課題である。その際、成膜性能、信頼性、生産効率、使い勝手、材料使用効率、装置価格等を総合的に考慮する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、かかる前記課題を解決するために成された、特に表面にうねりを持つ大型基材にサブミクロンレベルの薄膜形成が可能な薄膜塗布装置及びその方法に関するものである。
【0016】
本薄膜塗布装置を構成している最大の特徴は、基材の表面に塗布液を転写し所望の薄膜を形成する概円筒形の版胴と、版胴の周面に塗布液を転写するアニロックスローラの一対のローラ系より構成されている点である。
【0017】
通常のグラビア印刷やフレキソ印刷では、均一な転写を実現するために、多連のローラを使用する。段階的にローラ面に均一な塗布液を載せていく方法であり、機構上、非常に複雑である。本発明では、塗布幅方向に均一な吐出流量をもつスリットコータヘッドを応用した塗布液供給機構によって、僅か一対のローラ系で、大面積の塗布を可能にしている。また、広い塗布幅に対応したローラ系を基板にあてがう場合、ローラの剛性を上げないと、両端に比べて、幅の中央部において面圧が下がる傾向がある。即ち、中央部が浮き気味になる。とくに、ローラの小径化を図った場合、この傾向は顕著になる。そこで、基材と版胴とが転写のために接触する点から直角に法線を立て、一対のローラの中心点がこの法線上にくるように配置することによって、アニロックスローラが版胴のバックアップローラとして機能させることができる。
【0018】
一対のローラ系を構成するアニロックスローラと版胴の回転軸が平行で、中心点が基材と版胴の接触点から立てた法線上におけない場合には、一対のローラを、基材面と平行な平面上で交差をさせる構造も考えられる。この時、一対のローラ間の面圧は近似的に均一になり、転写量も安定して基材上に移すことが可能となる。
【0019】
また、前記したように、版胴により基材へ転写される量と概同量の塗布液を間歇供給する、概スリット形状の吐出口を備えた塗布液供給機構は、吐出口の極近傍に、塗布幅にほぼ等しい長さの塗布液流量弁を具備し、吐出口から出た流量は幅方向にほぼ均一な供給機構となっており、このために、転写のためのローラ系が非常に簡単な構造にすることができる。
【0020】
また、基材の表面に塗布液を転写し所期の薄膜を形成する概円筒形の版胴においては、その周面長は基材の塗布長さとは一致させる必要がなく、周面長超える塗布長さによっても塗布が不連続とならない小径の版胴を具備している。
【0021】
更に、本発明の対象となる、塗布幅が大きな場合においては、基材の凹凸やうねりによる膜品質の低下を防止する手段が必要である。薄膜塗布機構を一つのデバイスとして稠密に実装し、これを薄膜塗布ヘッドと考え、このヘッドの保持手段として、ローリングに滑らかに追従できる機構もこの薄膜塗布装置には装備されている。
【発明の効果】
【0022】
表面がフレキシブルな版を繋ぎ目がないように接続・接着して形成された小径の版胴と、塗布幅と同じ長さの塗布液供給口をもち、そこからの流量分布が一定にできる塗布液供給機構およびこの両者の中間介在ローラよりなる薄膜塗布装置およびヘッドを、薄膜形成に適用した場合、次のような効果が期待できる。
(1)メータ級といわれる大型基材へ、サブミクロンレベル膜厚の薄膜形成を考えた場合、基材の表面状態を吸収できるような精度のよい薄膜を得ることができる。
(2)塗布液供給と転写機構をユニット化し、これを薄膜塗布ヘッドとすることによって、極めて実装性に優れ、装置の小型化を実現できる。
(3)薄膜塗布ヘッドとすることで、膜厚変更、塗布幅変更、塗布材料変更等に迅速に対応できるシステムとすることができる。同時にメンテナンス性にも優れたシステムとすることができる。
(4)装置価格の大幅な低減が実現できる。
(5)塗布液の移動経路が極めてシンプルであるため、他の方式で懸念されている目詰まり、液だれ、凝集劣化等の信頼性に関わる課題をクリアできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施形態である薄膜塗布装置における塗布方式を説明する構成原理図。
【図2】本発明の一実施形態である長尺定量塗布液供給機構を説明する図。
【図3】図2に示した塗布幅方向の流量調整バルブの断面と開閉状態を模式的に説明する図
【図4】本発明の一実施形態である、版胴とアニロックスローラの配置を説明する図
【図5】本発明の一実施形態である、塗布液供給と転写塗布をユニット化した薄膜塗布ヘッド構造を説明する図。
【図6】本発明の一実施形態である、薄膜塗布ヘッドの基材表面の追従性に対応したヘッド保持構造を説明する図
【図7】本発明の一実施形態である薄膜塗布装置の全体構造を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図を参照して詳細に説明する。
【実施例1】
【0025】
図1は、実施の形態の1つであり、本発明の薄膜塗布装置100の側断面図を示し、本図により、薄膜形成の原理および装置の構成を説明する。被塗布対象である基材1は、吸着搬送テーブル31に真空吸着、若しくは静電吸着によって固定保持されている。尚、基材1の固定保持方法は前記した方法に限定するものではない。塗布液2は、予め塗布液タンク112に投入されており、塗布液送液ポンプ111によって塗布液供給機構110へ送液される。塗布液2の粘度は所期の膜厚によっても変わるが、本発明では、とくに、粘度範囲を限定するものではない。また、塗布液2の粘性抵抗の増大によって、送液がしづらい場合には、塗布液タンク112を加圧手段によって加圧し塗布液送液ポンプ111まで圧送することもある。
【0026】
塗布液送液ポンプ111は、モータなどで駆動され、塗布液供給機構110に所望の流量で任意の一定量の塗布液2を送液可能なポンプであり、例えば、ピストンポンプ、ダイアフラムポンプ、ギアポンプ、スクリューポンプ等である。
【0027】
次に、実施形態2として、塗布液供給機構110は、アニロックスローラ114と対向して設置され、所期の塗布幅に等しい長さを持つスリット状の吐出口201を有している構造を適用している点である。従来、フレキソ印刷等のローラへの塗布液供給は、点であったり、多点であったり、あるいは、移動供給方式である場合が多い。この原因は、線状の塗布液供給機構で均一に吐出できるものがなかったことによる。そこで、図2に、塗布液供給機構110の詳細を示す。この構造の一例として、一対の概板状部材202及び203を組合わせて成り、少なくとも一方に、塗布液2の流入口204が設けてある。また、塗布液2を所期の塗布幅に拡幅するための空間を流入口と連通して設けてあり、塗布幅方向におけるスリット状の吐出口201からの塗布液2の単位長さあたりの供給量は概同量となっている。また、スリット幅は、通常、スリット幅に等しいギャップシム205を一対の概板状部材202及び203の間に挟み込んでいる。従って、スリット幅を変える場合にはギャップシム205を変えることになる。
【0028】
塗布液供給機構110の最も重要な役割は、メータ級といわれる大型基材に対して、塗布幅方向に均一な吐出流量を、供給実現することであり、3番目の実施形態について説明する。その実現のために、吐出口201の極近傍に駆動用モータ206に直結したバー状の回転バルブ207を付けている。スリットを含む回転バルブ207の一例断面を図3に示す。回転バルブ207の断面は円断面の一部を直線状に切り落とした形状をしており、この直線部がスリット壁面に平行な場合は、流路が開の状態で、スリット壁面にバルブ207の円周面が接触している場合は流路が閉の状態になる。また、中間の回転角の場合は、流量が可変となり、一種の可変絞りとなる。この厳密な制御が塗布幅方向全体に行われることになり、流量が均一になる。また、流量の絶対値の調整のために、スリット塗布液供給機構110は、スリット状の吐出口とアニロックスローラ114との間隔を可変できるよう、移動手段を有している。
【0029】
次に、アニロックスローラ114は、版胴115に塗布液2を転写供給する概円筒形のローラで、その周面に塗布液2を保持する溝、凹部が形成されている。また、アニロックスローラ114の周面上には、版胴115に塗布液2を転写する手前に過剰となる塗布液を排除するドクターブレード116と、排除した塗布液2を回収する回収パン118aが設けてある。また、版胴115に塗布液2を転写した後方に、アニロックスローラ114の周面に残った塗布液2を除去するスクレーパブレード117及び塗布液2を回収する回収パン118bが設けてある。
【0030】
また、基材1を固定保持した吸着搬送テーブル31の搬送速度と同期して回転動作し、基材の表面に塗布液2を転写し薄膜を形成する概円筒形の版胴115は、アニロックスローラ114の上方に配置されており、アニロックスローラ114と版胴115のそれぞれの回転中心は、版胴115と基材1の接触点に対して同一法線上に配置されている。加えて、前記した塗布液供給機構110、アニロックスローラ114と版胴115は、相互の位置関係を保持した状態で一体のユニットとして実装されている。このユニットを保持する仕組みとして、塗布幅に対して左右が独立して昇降する、ローリング追従調整手段120を備えている。更に版胴115は、所期の塗布幅で周長方向にはつなぎ目が無い連続的な版が周面上に形成されており、版胴115の周長を基材1の塗布長に相関させることなく、複数の回転動で基材の塗布長をカバーできるため、基材の塗布長が長くなっても版胴径を大きくする必要がなく、小径の版胴で長大な被塗布対象への成膜が出来る。これが、本発明の実施形態の4である。具体的には、アニロックスローラ114の直径がD1、版胴115の直径をD2とすると、D2/D1は0.5〜1に設定されており、版胴115の直径D2は、アニロックスローラ114の直径D1と同等若しくはそれ以下の小径となっている。
【0031】
版胴115の支持、回転駆動方法は、通常、版のある周面で行わず版が形成されていない版胴の両端部で行うが、被成膜基材1が大面積化し、版胴が小径になると基材の凹凸やうねりに版が追従し成膜に必要な接触圧により、版胴が弓なりに変形し、中央部の基材1との接触圧が低下するため、該当部の転写量の低下、即ち、膜厚が減少し、場合によってはかすれ等の不良が発生する。しかし、本発明の薄膜塗布装置100においては、アニロックスローラ114と版胴115が回転軸が平行で、両者の回転中心が版胴と基材の接触点から立てた法線上に配置してあるため、アニロックスローラ114が版胴115のバックアップローラの役を成すことにより、係る不具合は発生せず、版胴115の小径化を図ることが出来ている。
【0032】
一方、前記のような、アニロックスローラ114と版胴115の配置が出来ない場合は、両者の回転軸は基材1の平面と平行におき、両者の回転軸を基材1への投影角度として、傾ける即ち交差させる方法がある。これが実施形態の5であり、図4に示す。両ローラの回転軸を基材1への投影で、ある角度をなす,すなわち、交差させるように配置することで、基材1に対して概均等な面圧分布になるように設定できる。この構造を採用することによって、塗布液2を塗布幅方向に均等な転写が可能となる。この交差角度は解析上、±5°以内であることが知られている。
【0033】
版胴115の基板の凹凸やうねりへの追従性は、胴径が従来の版胴115に比べ小径となるため、より注意することが必要となる。塗布液2の基材1への転写性ならびに基材1と版胴115の接触状態を考慮して、版自身の追従性、版胴周面の版の厚み及び硬度を設定する必要があり、版の厚みが1〜5mmの場合には、版材料の硬度(ショア硬さ)は50〜80の範囲内にあることが望ましい。
【0034】
以上、本発明の薄膜形成原理を説明し、各構成要素の具備すべき条件等を明示してきたが、これらの各構成要素を纏めて一つのユニットとしてあたかもデバイスのように扱う事ができれば、様々な大きさや厚さをもつ基材へ塗布する際には、非常に有効な手立てとなる。即ち、前記薄膜塗布装置に必須の、版胴115、アニロックスローラ114、塗布液供給機構110及び塗布液供給手段を図5に示すように一つのユニットとして実装したものであり、塗布幅全域に渡り、直線状の長大なデバイスが出来上がる。これを、薄膜塗布ヘッド300と呼ぶことにする。これが、6番目の実施形態であり、ヘッドの形にすることによって、装置化の面から実装し易く、メンテナンスも容易になる。
【0035】
前記のように、塗布機能に関わる各構成要素をユニット化した薄膜塗布ヘッド300が薄膜塗布装置100に実装される場合、基材の凹凸ならびにうねりに追従しやすい構造を作り出すことができる。以下に述べる機構が本発明の7番目の実施形態である。高品質な薄膜を形成する機能として考えられている、塗布幅に対して薄膜塗布ヘッド300の版胴115が左右が独立して昇降可能なローリング追従調整手段120を図6に示す。薄膜塗布ヘッド300の塗布幅の概中点となる位置の薄膜塗布ヘッド300の昇降手段、即ち垂直方向アクチュエータの取付部にある回転支持部22を中心として薄膜塗布ヘッド300は左右に回転する。更に、薄膜塗布ヘッド300の両端部に、薄膜塗布ヘッド300の対ローリング姿勢調整機構23aおよび23bが設けてあり、対ローリング姿勢調整機構23a及び23bはバネやゴムなどの弾性体などの自己変位できる部材で構成されている。また、対ローリング姿勢調整機構23a及び23bは、変位量を可変制御できる可動手段でも構成しても良い。以上説明してきた対ローリング姿勢調整機構23a及び23bによるローリング追従調整手段120を備えることによって、凹凸やうねりの状態、影響が顕著となる大型基材に対しても高品質な薄膜形成を可能としている。
【0036】
ここまでに、本発明の実施形態を順を追って説明してきたが、もう少し具体的に、薄膜塗布装置100の実施例内容について詳しく述べることにする。薄膜塗布ヘッド300を備えた薄膜塗布装置100について図7を用いて説明する。この図は本発明の薄膜塗布装置100の斜視図を示した図である。
【0037】
先ず、薄膜塗布ヘッド300は、門型フレーム21のヘッド昇降手段に設置してあり、上下に昇降するとともに、塗布幅に対して左右が独立して昇降し、塗布ギャップを設定する。また、基材1の凹凸やうねりに合せ薄膜塗布ヘッド300の姿勢を調整して基材1と版胴115が幅方向に対し均一且つ最適に接することを目的とするローリング追従調整手段120を具備している。また、基材1の固定保持テーブル31を搭載した位置決め搬送ステージ30が薄膜塗布ヘッド300の下方に設けられ、定まった速度で移動可能になっている。
【0038】
吸着搬送テーブル31は、真空吸着、若しくは静電吸着などの手段によって基材1を固定保持する機能を有し、基材1の姿勢及び成膜位置を調整するとともに、版胴115と同期して移動し転写成膜する役目を持つ位置決め搬送ステージ30上に搭載されている。
【0039】
また、位置決め搬送ステージ30は、版胴115と同期して転写成膜時に動作するX軸、基材1を薄膜塗布ヘッド300の中央部に配置位置を調整するY軸、それに基材1の水平面内の傾きを調整するθ軸で構成されている。さらに、位置決め搬送ステージ30には、版胴115の洗浄、停止時の保護、乾燥の防止等のための、昇降動作可能なメンテナンス手段32が設けられている。
【0040】
薄膜塗布装置100の大型構成要素である、薄膜塗布ヘッド300を取り付けた門型フレーム21、吸着搬送テーブル31及びメンテナンス手段32を搭載した位置決め搬送ステージ30および塗布液タンク112は、架台11上にそれぞれ設置されている。さらに、薄膜塗布装置100の各種制御や送液ポンプ111、アニロックスローラ114、版胴115などのローラ系及び位置決め搬送ステージ30等を駆動する各モータのコントローラ等の機器は架台11内に収納されている。但し、前記は架台11内に各機器を収納することを限定するものではない。
【0041】
次に、この薄膜形成装置100を使った、基材1への塗布動作について説明する。
【0042】
先ず、塗布液タンク112中の塗布液2を、塗布液送液ポンプ111によって塗布液供給機構110に送り、塗布幅方向に均一な流量として、アニロックスローラ114の周面上に塗布する。この時、塗布液2の供給量、並びに流量は、塗布液送液ポンプ111によって調整される。塗布液供給機構110に、塗布幅にほぼ等しい長さの回転バルブを用いた場合には、塗布液2の供給を止めることもできるし、絞りとして、流量調整も可能である。塗布液供給機構110のスリット状の吐出口とアニロックスローラ114との間隔(ギャップ)は塗布液2の供給量に合わせて調整され、一定に保たれている。次に、アニロックスローラ114は版胴115と接しながら時計回りに回転しており、アニロックスローラ114の周面上に供給された塗布液2が版胴115に転写供給される。万一、アニロックスローラ114の周面に塗布液2が過剰に供給された場合には、過剰分の塗布液2は、周上に沿って設置されたドクターブレード116によって除かれた後、塗布液回収パン118aにより貯留回収される。また、版胴115に塗布液2を転写したアニロックスローラ114の周面部は、少しの移動後、同じく周面上に設置された、スクレーパーブレード117によって、転写後に残留した塗布液2を除去され、塗布液回収パン118bに貯留回収される。
【0043】
最後に、版胴115に塗布液2を転写供給すると同時に、並行して吸着搬送テーブル31上に固定された基材1に転写して、成膜プロセスの完了となる。また、塗布液2の供給量が塗布長分となると塗布液供給機構110からの塗布液2の供給は停止されるが、版胴115と基材1との接触状態を保持し、基材1の表面の凹凸やうねりに倣いながらアニロックスローラ114、版胴115による基材1への転写成膜は所期の塗布長となるまで継続して行われる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上述べてきた,小径の版胴115と、塗布幅と同じ長さをもち、長さ方向に一定流量を吐出できる塗布液供給機構110の組合せによる薄膜塗布装置100は、比較的大きな表面のうねりや細かな凹凸をもつ大型のガラス基板やガラス基材への薄膜形成に最適であり、サブミクロンレベルの膜厚を形成する際に、良好な膜厚分布を得ることができる。具体的な適用分野として一例をあげると、液晶ディスプレイや有機ELディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ製造の際の感光レジスト塗布、液晶の配向膜塗布、太陽電池パネルの反射防止膜塗布、タッチパネルの抵抗膜塗布、調光ガラス機能膜塗布、光触媒塗布等が考えられ有望である。
【符号の説明】
【0045】
1 基材若しくは基板
2 塗布液
11 架台
21 門型フレーム
22 回転支持部
23a 対ローリング姿勢調整機構
23b 対ローリング姿勢調整機構
30 位置決め搬送ステージ
31 基板吸着搬送テーブル
32 薄膜塗布ヘッドメンテナンス手段
100 薄膜塗布装置
110 塗布液供給機構
111 塗布液送液ポンプ
112 塗布液タンク
114 アニロックスローラ
116 ドクターブレード
117 スクレーパブレード
118a 回収パン
118b 回収パン
120 薄膜塗布ヘッドのローリング追従調整手段
201 スリット状吐出口
202 板状部材1
203 板状部材2
204 塗布液流入口
205 ギャップシム
206 開閉バルブ駆動用モータ
207 開閉用回転バルブ
300 薄膜塗布ヘッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平に設置された基材表面に塗布液を転写し、所期の薄膜を形成する概円筒形の版胴と、版胴の周面に塗布液を転写するアニロックスローラと、アニロックスローラの周面に塗布液を供給する機構及び塗布液供給機構への塗布液送液手段を備えた薄膜塗布装置において、ローラ回転系として、前記版胴およびアニロックスローラの一対で形成され、それぞれの回転軸中心が基板との接触面に対して垂直線上に配置されていることを特徴とする薄膜塗布装置。
【請求項2】
前記アニロックスローラの周面への塗布液供給機構は、版胴により基材へ転写される量と概同量の塗布液を供給する機構を有し、塗布幅と同じ長さを持ち、概スリット形状の塗布液吐出口を具備したことを特徴とする請求項1記載の薄膜塗布装置。
【請求項3】
前記アニロックスローラ周面への塗布液供給機構において、塗布幅全域に渡って、塗布液の供給量を一括制御できる調整バルブを具備した供給機構を配置したことを特徴とする請求項2記載の薄膜塗布装置。
【請求項4】
前記基材の表面に塗布液を転写し所期の薄膜を形成する概円筒形ローラに接合した版は、版胴の周面長を超える塗布長さの場合においても塗布の不連続とならない版であることを特徴とする請求項1、2乃至3記載の薄膜塗布装置。
【請求項5】
前記薄膜塗布装置において、アニロックスローラの回転軸と版胴の回転軸が、基板への投影面で、幅方向中点で交差し、その角度が、±5°以下であることを特徴とする薄膜塗布装置。
【請求項6】
前記薄膜塗布装置に必須の,版胴、アニロックスローラ、塗布液供給機構及び塗布液供給手段を一つのユニットとして実装し、装置の構成やメンテナンスを容易にしたことを特徴とする薄膜塗布ヘッド。
【請求項7】
前記薄膜塗布装置において、請求項6記載の薄膜塗布ヘッドを具備し、前記薄膜塗布ヘッドが基材の表面の凹凸に追従する手段を具備することを特徴とする薄膜塗布ヘッドの支持方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−224459(P2011−224459A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−96314(P2010−96314)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(507215345)株式会社SAT (8)
【Fターム(参考)】