説明

薄膜磁気ヘッド及びその製造方法

【課題】 低浮上量を良好に維持しつつ、記録再生動作時に素子構造部と記録媒体との接触を防止してヘッド信頼性を向上し、高記録密度化に対応可能な薄膜磁気ヘッド及びその製造方法を得る。
【解決手段】 回転する記録媒体の表面に生じる空気流を受けて該記録媒体表面から浮上するスライダと、このスライダの空気流出端面上に形成された薄膜磁気ヘッド素子構造部とを有する浮上式の薄膜磁気ヘッドにおいて、スライダの記録媒体対向面の裏面の空気流出端近傍に、薄膜磁気ヘッド素子構造部を局部的にスライダの記録媒体対向面よりも記録媒体表面から離間させる熱塑性変形部を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮上式の薄膜磁気ヘッド及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
浮上式の薄膜磁気ヘッドは、磁気抵抗効果素子やインダクティブ素子等を組み込んだスライダと、このスライダを自由端部に接着固定した可撓性の金属薄板からなるフレキシャと、このフレキシャを固定したロードビームとを備え、記録媒体が停止しているときはロードビームの弾性力によりスライダの下面が記録媒体表面に接触し、記録媒体が始動すると、該記録媒体の移動方向に沿ってスライダと記録媒体表面の間に空気流が導かれ、この空気流による浮上力を受けてスライダが記録媒体表面から浮上する。この浮上姿勢を保って薄膜磁気ヘッドは再生記録動作する。
【0003】
スライダの空気流出端面には、外部磁界の強度に応じて抵抗が変化する磁気抵抗効果素子及び該磁気抵抗効果素子を通電する電極層を備えた再生素子部と、記録媒体との対向面(以下、「媒体対向面」という。)から後退した位置で磁気的に接続され磁気ギャップ層を挟んで積層した下部コア層、上部コア層及びこれら上下のコア層に記録磁界を与えるコイル層を備えた記録素子部とが積層形成されている。この再生素子部及び記録素子部は、一般に、例えばAl23等の絶縁材料からなる保護層によって覆われている。薄膜磁気ヘッドは、通電した磁気抵抗効果素子の抵抗変化を検出することで再生動作し、コイル層に給電して下部コア層と上部コア層に誘電磁界を生じさせ、磁気ギャップ層からの洩れ磁界を記録磁界として記録媒体に付与することで記録動作する。
【0004】
薄膜磁気ヘッドの記録再生動作中は、磁気抵抗効果素子を流れる電流によって再生素子部の温度が上昇するとともに、コイル層を流れる電流により該コイル層が発熱して記録素子部の温度が上昇する。上述したように再生素子部及び記録素子部は絶縁材料からなる保護層で覆われているため、これら素子部の熱は外方へ放出されにくく、素子部は高温となる。この素子部での温度上昇は、再生素子部、記録素子部及び保護層を含む薄膜磁気ヘッド素子構造部全体を熱膨張させ、媒体対向面から突出させてしまう。従来では、薄膜磁気ヘッドの記録媒体への接触を回避するために、薄膜磁気ヘッド素子構造部を斜めに研磨したり、薄膜磁気ヘッド素子構造部の先端に切欠きを設けたり等の様々な対策が採られている。
【特許文献1】特開平10−49822号公報
【特許文献2】特開平11−328643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、近年では、記録媒体の更なる高記録密度化に対応すべく、薄膜磁気ヘッドの浮上量(再生素子部及び記録素子部と記録媒体表面の間隔)を15nm以下に設定することが要求されている。このように浮上量が極めて小さくなると、熱膨張により媒体対向面から突出した素子構造部が記録媒体に当接するのを防ぐことが非常に難しく、記録媒体または記録媒体に記録された磁気情報を損傷したり、素子構造部自体を損傷してしまう危険性が一層高まる。また、高記録密度化を図るには磁気抵抗効果素子及びコイル層に与えられる電流の周波数も高くなるため、特に記録素子部の温度が100℃を超えることが多く、素子構造部全体の突出量は大きい。薄膜磁気ヘッドの素子構造部を研磨したり素子構造部に切欠部を設けたりする従来対策では、目標とする薄膜磁気ヘッドの浮上量が極めて小さいために研磨誤差や切欠の形成誤差が浮上量に対して大きく影響し、個体間のばらつきが大きくなって制御が難しい。スライダの媒体対向面に付与するクラウンを大きくして素子構造部と記録媒体との接触を防止することも考えられるが、クラウンの付与量を増大させるとヘッドの浮上特性が変わってしまうので好ましくない。
【0006】
本発明は、以上の問題意識に基づき、低浮上量を良好に維持しつつ、記録再生動作時に素子構造部と記録媒体との接触を防止してヘッド信頼性を向上し、高記録密度化に対応可能な薄膜磁気ヘッド及びその製造方法を得ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、スライダの空気流出端面上に形成される薄膜磁気ヘッド素子構造部のみを局部的に記録媒体表面から大きく離間させれば、その浮上量を15nm以下に抑えつつ薄膜磁気ヘッド素子構造部と記録媒体との接触を防止できること、そして薄膜磁気ヘッド素子構造部を記録媒体表面から離間させる手段としてはスライダの熱塑性変形を利用でき、スライダ形状を極力変化させないためにはスライダへの熱エネルギー付与位置を空気流出端に可及的に寄せることが最適であることに着目したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、回転する記録媒体の表面に生じる空気流を受けて該記録媒体表面から浮上するスライダと、このスライダの空気流出端面上に形成された薄膜磁気ヘッド素子構造部とを有する浮上式の薄膜磁気ヘッドにおいて、スライダの記録媒体対向面の裏面の空気流出端近傍に、薄膜磁気ヘッド素子構造部を局部的にスライダの記録媒体対向面よりも記録媒体表面から離間させる熱塑性変形部を設けたことを特徴としている。
【0009】
また本発明は、方法の態様によれば、回転する記録媒体の表面に生じる空気流を受けて該記録媒体表面から浮上するスライダの空気流出端面上に、薄膜磁気ヘッド素子構造部を形成するステップと、スライダの記録媒体対向面とは裏面の空気流出端近傍に、熱源からの熱エネルギーを与えることにより、薄膜磁気ヘッド素子構造部を局部的に該スライダの記録媒体対向面よりも記録媒体表面から離間させる熱塑性変形部を形成するステップとを有することを特徴としている。
【0010】
上記方法では、スライダの空気流出端近傍に与える熱エネルギー量により、薄膜磁気ヘッド素子構造部をスライダの媒体対向面よりも記録媒体表面から離間させる距離間隔を調整することができる。この距離間隔は、薄膜磁気ヘッド素子構造部が通電により熱膨張したときに、目標となる浮上量(記録媒体表面から薄膜磁気ヘッド素子までの距離)が得られるように設定することが好ましい。熱源には、固体レーザー、CO2レーザー、エキシマレーザーまたはファイバーレーザーを用いることができる。熱源としてレーザーを用いる場合、スライダの空気流出端近傍に与える熱エネルギー量は、レーザー照射位置、レーザーパワー、レーザー照射時間及びレーザー照射回数のいずれかまたは組み合わせにより制御することが好ましい。このレーザー照射位置、レーザーパワー、レーザー照射時間及びレーザー照射回数からなるレーザー照射条件を一定にすることで、複数の薄膜磁気ヘッドにおいて同一の熱塑性変形部を容易に形成することができ、個体毎のばらつきを抑えられる。
【0011】
熱塑性変形部は、スライダの空気流出端面と平行に形成された1または複数の線条部とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、低浮上量を良好に維持しつつ、記録再生動作時に素子構造部と記録媒体との接触を防止してヘッド信頼性を向上し、高記録密度化に対応可能な薄膜磁気ヘッド及びその製造方法を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
図1は、本発明による薄膜磁気ヘッドの全体斜視図である。薄膜磁気ヘッドは、Al23−TiCからなる略直方体の浮上式スライダ1と、このスライダ1を自由端部に接着固定した可撓性の金属薄板からなるフレキシャ30と、このフレキシャ30を固定したロードビーム40を備えており、記録媒体が停止しているときはロードビーム40の弾性力によってスライダ1の下面(媒体対向面)が記録媒体表面に接触した状態となっている。これに対し、記録媒体が始動すると、該記録媒体の移動方向に沿ってスライダ1と記録媒体表面の間に空気流が導かれ、この空気流による浮上力を受けてスライダ1が記録媒体表面から浮上し、この浮上姿勢を保って記録再生動作する。スライダ1の媒体対向面には、湾曲形状(クラウン、クロスクラウン)が付与されている。
【0014】
本薄膜磁気ヘッドは、図2に示すように、浮上式スライダ1の空気流出端面1aに薄膜形成した薄膜磁気ヘッド素子構造部H(再生素子部R、記録素子部W及び絶縁保護層20を含む)を有する記録再生用の薄膜磁気ヘッドである。図3は、薄膜磁気ヘッド素子構造部Hの積層構造を素子中央で切断して示す断面図である。図3においてX方向、Y方向及びZ方向は、トラック幅方向、デプス方向(ハイト方向)及び薄膜磁気ヘッド素子構造部Hを構成する各層の積層方向とそれぞれ定義する。
【0015】
再生素子部Rは、アンダーコート2側から順に積層した下部シールド層3、下部ギャップ層4、磁気抵抗効果素子5、上部ギャップ層8及び上部シールド層9を備えている。下部シールド層3及び上部シールド層9はNiFe等の軟磁性材料で形成され、下部ギャップ層4及び上部ギャップ層8はAl23等の非磁性材料で形成されている。磁気抵抗効果素子5は、スピンバルブ膜に代表される巨大磁気抵抗効果を発揮するGMR素子や、トンネル磁気抵抗効果を発揮するTMR素子、異方性磁気抵抗効果を発揮するAMR素子である。この磁気抵抗効果素子5の図示X方向の両側には、下部ギャップ層4の上に、CoPt合金等の高磁性材料からなるバイアス層6と、Au等の良導電材料からなり該磁気抵抗効果素子5に接続する一対の電極層7が形成されている。この一対の電極層7の間隔は再生トラック幅寸法と同等である。一対の電極層7の上には、上述の上部ギャップ層8及び上部シールド層9が位置している。図示されていないが、下部ギャップ層4とバイアス層6との間には、CrやTa等の金属膜からなるバイアス下地層が形成されている。再生素子部Rを構成する各層(下部シールド層3、下部ギャップ層、磁気抵抗効果素子5、上部ギャップ層8及び上部シールド層9)は、図3に示されるように、それらの先端がスライダ1の媒体対向面1bに露出している。再生素子部Rは、磁気抵抗効果素子5に一定電流を与え、外部磁界に対する磁気抵抗効果素子5の抵抗変化を電圧変化として読み出すことで、再生動作する。本実施形態の再生素子部Rは、一定電流を膜面内方向に流すCIP(Current In Plane)構造をなしているが、一定電流を膜垂直方向に流すCPP(Current Perpendicular to Plane)構造であってもよい。
【0016】
再生素子部Rの最上層である上部シールド層9の上には、Al23等の絶縁材料からなる分離絶縁層10が形成されている。記録素子部Wは、この分離絶縁層10を介して再生素子部Rの上に積層されている。
【0017】
記録素子部Wは、媒体対向面1bに臨ませて分離絶縁層10側から順に積層した下部コア層11、メッキ下地層12及び記録コア部13と、記録コア部13の上に積層され媒体対向面には露出しない上部コア層14と、レジスト等の有機絶縁材料からなるGd決め絶縁層15と、メッキ下地層12を挟んで下部コア層11と上部コア層14を磁気的に接続する磁気接続部16と、絶縁層17内に埋設されたコイル層Lとを備えている。下部コア層11及び上部コア層14はパーマロイやCo合金、Fe合金等の磁性膜により形成され、メッキ下地層12は導電材料により形成されている。
【0018】
記録コア部13は、メッキ下地層12を介して下部コア層11に磁気的に接続する下部磁極層13a、非磁性金属材料からなるギャップ層13b及び上部コア層14と磁気的に接続する上部磁極層13cの三層構造をなしている。下部磁極層13a及び上部磁極層13cは、パーマロイやCo合金、Fe合金等の磁性材料により形成することができ、下部コア層11よりも飽和磁束密度の高い磁性材料で形成されていることが好ましい。記録コア部13のトラック幅方向の両側には、絶縁層17の一部である絶縁下地層17a及び第1コイル絶縁層17bが形成されている。
【0019】
記録素子部Wの書込みトラック幅W−Twは、この記録コア部13の媒体対向面に露出するトラック幅方向の寸法により規定される。具体的に、記録コア部13の媒体対向面に露出するトラック幅方向の寸法は、高記録密度化に対応できるよう0.5μm以下で形成されていることが好ましく、より好ましくは0.2μm以下である。また、下部磁極層13aの厚み寸法は例えば0.3μm程度、ギャップ層13bの厚み寸法は例えば0.1μm程度、上部磁極層13cの厚み寸法は例えば2.4〜2.7μm程度である。
【0020】
Gd決め絶縁層15は、媒体対向面からデプス方向に所定長さ後退させた位置に形成され、記録コア部13のギャップ層13bのデプス方向の寸法を規定している。すなわち、記録素子部Wのギャップデプス(Gd)は、媒体対向面からGd決め絶縁層15の先端までの距離によって規制されている。磁気接続部16は、パーマロイやCo合金、Fe合金等の磁性材料により形成されている。
【0021】
絶縁層17は、上部磁極層13c、Gd決め絶縁層15、メッキ下地層12及び磁気接続部16の露出面を覆う絶縁下地層17aと、この絶縁下地層17aの上に形成されて第1コイル層18及び該第1コイル層18のピッチ間を覆う第1コイル絶縁層17bと、第1コイル絶縁層17bの上に形成されて第2コイル層19及び該第2コイル層19のピッチ間を覆う第2コイル絶縁層17cから構成されている。第2コイル絶縁層17cの上には、上述の上部コア層14が形成されている。絶縁下地層17a及び第1コイル絶縁層17bは、図3に示されるように媒体対向面に露出している。この絶縁層17は、Al23やSiO2等の無機絶縁材料またはレジスト等の有機絶縁材料により形成されている。
【0022】
コイル層Lは、Cu等の電気抵抗の低い導電材料から形成されており、巻き中心部18aを中心として螺旋状に巻かれた第1コイル層18と、この第1コイル層18とは逆向きに巻かれた螺旋状の第2コイル層19とによる二層構造をなしている。第1コイル層18及び第2コイル層19は、コンタクト導体αを介して巻き中心部18a、19aで互いに接続されている。図示されていないが、第1コイル層18の巻き終端部には、該第1コイル層18に接続する第1コイルリード層が形成されている。コイル層Lは、単層構造であっても三層以上の多層構造であってもよい。記録素子部Wは、コイル層Lを流れる記録電流によって上部コア層14と下部コア層11に誘電磁界を生じさせ、記録コア部13のギャップ層13bから洩れる洩れ磁界を記録磁界として記録媒体に付与することで、記録動作する。本実施形態の記録素子部Wは、長手磁気記録媒体用の構造をなしているが、垂直磁気記録媒体用の構造であってもよい。
【0023】
絶縁保護層20は、Al23等の絶縁材料からなり、記録素子部W及び再生素子部R全体を覆って形成されている。
【0024】
以上の全体構造を有する薄膜磁気ヘッドは、図2及び図4に示すように、スライダ1の媒体対向面1bとは裏面1cの空気流出端近傍に、薄膜磁気ヘッド素子構造部Hをスライダ1の媒体対向面1bよりも記録媒体表面から離間させる熱塑性変形部50を有している。薄膜磁気ヘッド素子構造部Hは熱塑性変形部50を介して局部的に曲げられており、スライダ1の湾曲形状(クラウン、クロスクラウン)には熱塑性変形部50の影響が小さい。
【0025】
熱塑性変形部50は、スライダ1の裏面1cに熱エネルギーを与えることで形成され、本実施形態ではスライダ1の空気流出端面1aに平行な1本の線条部からなっている。熱源としては、例えば、微細加工が可能で且つワークディスタンスを大きくとれるファイバーレーザーを利用する。スライダ1の裏面1cにレーザー光を照射すると、レーザー照射部位は瞬時に溶融した後で再度凝固するが、この再凝固時に生じる収縮応力により、レーザー照射部位の近傍で媒体対向面1bが凸状に反り返り、裏面1cが凹状に反り返る。このとき、レーザー照射位置をスライダ1の空気流出端(薄膜磁気ヘッド素子構造部H)の近傍に設定すると、レーザー照射位置から空気流出端面1aまでの距離が空気流入端面までの距離に比して十分短いので、レーザー照射位置よりも空気流入端側には影響が小さく、レーザー照射位置よりも空気流出端側のみを反り返らせることができる。つまり、空気流出端近傍を除くスライダ1の媒体対向面1b及び裏面1cの形状を維持したまま、スライダ1の空気流出端及び薄膜磁気ヘッド素子構造部Hのみを記録媒体表面から離間させる方向に曲げることができる。ここで、スライダ1の空気流出端(薄膜磁気ヘッド素子構造部H)の近傍とは、スライダ1の空気流出端に可及的に寄せた位置、すなわち空気流出端からの距離を数百μm以下とする位置を意味している。図4の矢印方向は、レーザー照射部位の再凝固時に発生する収縮応力の方向を示している。
【0026】
スライダ1の空気流出端側の反り返り形状は、スライダ1の裏面1cの空気流出端近傍に与える熱エネルギー量によって変化し、与える熱エネルギー量が大きくなるほど反り返りも大きくなる。上記空気流出端近傍に与える熱エネルギー量は、レーザー照射位置(空気流出端からの距離)、レーザーパワー、レーザー照射時間及びレーザー照射回数からなるレーザー照射条件で制御可能である。薄膜磁気ヘッド素子構造部Hをスライダ1の媒体対向面1bよりも記録媒体表面から離間させる距離間隔d(図4)は、薄膜磁気ヘッド素子構造部Hが素子部への通電により熱膨張したときに、目標となる浮上量(記録媒体表面から再生素子部R及び記録素子部Wまでの距離)が得られるように設定する。
【0027】
本実施形態の熱塑性変形部50は、スライダ1の空気流出端から約200μm離した位置に1m/秒の走査速度で出力23Wのレーザー光を該空気流出端と平行に走査させることで形成した、約20〜30μm幅の線条部からなる。熱塑性変形部50の深さは約3〜5μmであり、スライダ1の厚さ0.3〜0.5mmの約1/10程度である。この熱塑性変形部50を設けることで、薄膜磁気ヘッド素子構造部Hを記録媒体表面から離れる方向にスライダ1の媒体対向面1bよりも約5nm(=d)反らせることができる。
【0028】
以上のように熱塑性変形部50をスライダ1の裏面1cの空気流出端近傍に設ければ、スライダ1の形状は極力変化せずに、薄膜磁気ヘッド素子構造部Hがスライダ1の媒体対向面1bよりも記録媒体表面から離れる方向に曲げられるので、薄膜磁気ヘッドの浮上量を15nm以下に設定しても、熱膨張により突出した薄膜磁気ヘッド素子構造部Hが記録媒体表面に当たらないように防止することができる。これにより、ヘッド信頼性の向上と高記録密度化の両方を同時に実現できる。また、熱塑性変形部50はレーザー照射により形成しているので、レーザー照射条件(レーザー照射位置、レーザーパワー、レーザー照射時間及びレーザー照射回数)を一定にすることで同一の熱塑性変形部を容易に形成でき、個体毎のばらつきを抑えることができる。
【0029】
図5及び図6は、スライダ1の媒体対向面1bの形状プロファイルであり、熱塑性変形部50の形成前と形成後を比較して示している。熱塑性変形部50は、図2のようにスライダ1の側面1dまで達する、空気流出端面1aに平行な1本の線条部で形成する。図5はレーザー照射条件1(走査位置;空気流出端から約80μm離した位置、レーザーパワー23W、走査速度2000mm/sec、ワークディスタンス163mm、)で熱塑性変形部50を形成した第1実施例であり、図6はレーザー照射条件2(走査位置;空気流出端から約60μm離した位置、レーザーパワー23W、走査速度1000mm/sec、ワークディスタンス163mm)で熱塑性変形部50を形成した第2実施例である。図5及び図6において、縦軸はスライダ1の媒体対向面位置を示し、横軸は空気流出端面1aからの位置を示している。
【0030】
図5及び図6を見ると、レーザー照射により熱塑性変形部50を形成することで、スライダ1の空気流出端側のみが記録媒体表面から離れる方向に曲がることが明らかである。
【0031】
また、図5、図6に示す第1、第2実施例において、スライダ1の媒体対向面1bのクラウン変化を測定したところ、第1実施例ではレーザー照射前と照射後の両方で41.0nmと変化がなく、第2実施例ではレーザー照射前40.5nm、照射後39.6nmと僅かな変化にとどまったことが判明した。これにより、熱塑性変形部50を形成しても、スライダ1のクラウン形状はほとんど変化していないことがわかる。
【0032】
以上の本実施形態では、スライダ1の側面1dまで達する1本の線条部で熱塑性変形部50を形成しているが、熱塑性変形部は複数の線条部から形成してもよく、線条部はスライダ1の側面1dを達していなくてもよい(スライダ1の裏面1cの中央部にのみ形成してもよい)。熱塑性変形部50を形成するための熱源としては、ファイバーレーザーを一例として挙げているが、これに限らず、YAGなどの固体レーザー、CO2やエキシマなどの気体レーザー、あるいはこれら以外の熱源を用いてもよい。
【0033】
また本実施形態は、再生素子部Rと記録素子部Wを備えた録再用の薄膜磁気ヘッドに本発明を適用した実施形態であるが、本発明は、再生素子部Rのみを備える再生専用の薄膜磁気ヘッド及び記録素子部Wのみを備える記録専用の薄膜磁気ヘッドにも適用可能である。また本発明は、FHA(Flying Height Adjust)機構を備えた薄膜磁気ヘッドにも適用可能である。
【0034】
本発明の薄膜磁気ヘッドは、CSS(コンタクトスタートストップ)式、ランプロード(Ramp Load)式のいずれにも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明による薄膜磁気ヘッドの全体平面図である。
【図2】図1の浮上式スライダ及び薄膜磁気ヘッド素子構造部を拡大して示す斜視図である。
【図3】薄膜磁気ヘッド素子構造部の積層構造を素子中央で切断して示す断面図である。
【図4】スライダの媒体対向面の裏面のレーザー照射部位が溶融後、再凝固するときに発生する収縮応力によってスライダが反り返る様子を説明する模式図である。
【図5】熱塑性変形部の形成前後におけるスライダの媒体対向面の形状変化を比較して示す形状プロファイル(実施例1)である。
【図6】熱塑性変形部の形成前後におけるスライダの媒体対向面の形状変化を比較して示す形状プロファイル(実施例2)である。
【符号の説明】
【0036】
1 スライダ
1a 空気流出端面
1b 媒体対向面
1c 裏面
1d 側面
20 絶縁保護層
30 フレキシャ
40 ロードビーム
50 熱塑性変形部
H 薄膜磁気ヘッド素子構造部(再生素子部、記録素子部、絶縁保護層)
R 再生素子部
W 記録素子部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転する記録媒体の表面に生じる空気流を受けて該記録媒体表面から浮上するスライダと、このスライダの空気流出端面上に形成された薄膜磁気ヘッド素子構造部とを有する浮上式の薄膜磁気ヘッドにおいて、
前記スライダの記録媒体対向面の裏面の空気流出端近傍に、前記薄膜磁気ヘッド素子構造部を局部的に前記スライダの記録媒体対向面よりも記録媒体表面から離間させる熱塑性変形部を設けたことを特徴とする薄膜磁気ヘッド。
【請求項2】
請求項1記載の薄膜磁気ヘッドにおいて、前記熱塑性変形部は、前記スライダの空気流出端面と平行に形成された1または複数の線条部である薄膜磁気ヘッド。
【請求項3】
回転する記録媒体の表面に生じる空気流を受けて該記録媒体表面から浮上するスライダの空気流出端面上に、薄膜磁気ヘッド素子構造部を形成するステップと、
前記スライダの記録媒体対向面とは裏面の空気流出端近傍に、熱源からの熱エネルギーを与えることにより、前記薄膜磁気ヘッド素子構造部を局部的に該スライダの記録媒体対向面よりも記録媒体表面から離間させる熱塑性変形部を形成するステップと、
を有することを特徴とする薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項4】
請求項3記載の薄膜磁気ヘッドの製造方法において、前記スライダの空気流出端近傍に与える熱エネルギー量により、前記薄膜磁気ヘッド素子構造部を前記スライダの媒体対向面よりも記録媒体表面から離間させる距離間隔を調整する薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項5】
請求項4記載の薄膜磁気ヘッドの製造方法において、前記熱源は固体レーザー、CO2レーザー、エキシマレーザーまたはファイバーレーザーであり、前記スライダの空気流出端近傍に与える熱エネルギー量は、レーザー照射位置、レーザーパワー、レーザー照射時間及びレーザー照射回数のいずれかまたは組み合わせにより制御する薄膜磁気ヘッドの製造方法。
【請求項6】
請求項3ないし5のいずれか一項に記載の薄膜磁気ヘッドの製造方法において、前記熱塑性変形部は、前記スライダの空気流出端面と平行な1または複数の線条部で形成されている薄膜磁気ヘッドの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−35143(P2007−35143A)
【公開日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−215863(P2005−215863)
【出願日】平成17年7月26日(2005.7.26)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】