説明

薄膜EL素子及びその作製方法

【課題】支持基板に凹凸構造を設けた薄膜EL素子において、光取り出し効率の向上と発光特性の安定化を両立させた薄膜EL素子及びその作製方法の提供
【解決手段】(1)少なくとも支持基板、導電層、絶縁層、発光層の積層構成を有し、導電層と接する側の支持基板面に断面形状が略半球形状又は略円錐形状の周期的な凸部が設けられ、該凸部の傾斜面に周期的な段差が設けられている薄膜EL素子。
(2)支持基板加工工程及び薄膜形成工程からなり、該支持基板加工工程は、レジストマスク形成工程とエッチング工程を含み、該エッチング工程において、レジストマスクをエッチングする条件と、支持基板をエッチングする条件を交互に切り替えることにより、断面形状が略半球形状又は略円錐形状の周期的な凸部であって、その傾斜面に周期的な段差を有する凸部を形成する(1)記載の薄膜EL素子の作製方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明装置や表示装置等に用いられる薄膜EL素子に関し、詳しくは薄膜EL素子からの光取り出し効率(外部量子効率)を向上させることができる素子構成と、その作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に薄膜EL素子は、支持基板上に第1導電層、第1絶縁層、発光層、第2絶縁層、第2導電層が積層された構成よりなっている。第1及び第2導電層に所定電圧を印加すると電界発光現象により特定波長の光を発する。複数の薄膜の積層構成からなる薄膜EL素子では、各層は比較的平坦な薄膜よりなっており、積層膜間界面や基板薄膜間界面での屈折率差が大きいため、発光層で発生する光は反射されて前方に透過できず、素子外に取り出せる割合が低下する。通常、光取り出し効率は10%ほどである。
この光取り出し効率を改善するために、種々の素子構造が提案されている。
例えば特許文献1には、基板表面に湾曲形状の凹凸が形成され、第一電極層、発光層、第二電極層が順次積層されたEL装置が開示されている。光を十分に散乱させて均一な照明を行うことを目的としている。
特許文献2には、基板面に傾斜が4〜30°の凹凸が形成され、発光素子が凹凸にならって形成された自発光デバイスが開示されている。凹凸を設けることにより出射される光量を実効的に増やすことを目的としている。
特許文献3には、基板表面にプリズム構造などの多面構造が存在し、発光素子が積層された面発光光源が開示されている。プリズム構造を設けることにより発光層に屈曲部を作り光取り出し効率を高めることを目的としている。
特許文献4には、断面がほぼ三角形の凹凸形状面上に発光層が凹凸形状に追随して形成されている無機電解発光装置が開示されている。傾斜面で発光層の実効厚さを大きくすることにより発光輝度を増大させることを目的としている。
これらの技術は、光取り出し効率を改善するために基板面に凹凸構造を設けているが、このような凹凸構造の上に薄膜を積層した場合、凹凸形状が急峻であると積層膜の被覆性が不十分になり、凸部上で積層膜の膜厚が低下した状態、又は、積層膜が途切れた状態になってしまう。無機材料を用いる薄膜EL素子は、その発光に際して高電界が必要であり(10MV/cm程度が必要)、素子内に積層膜の膜厚が低下した箇所や積層膜が途切れた箇所が存在すると、そこで電界集中が起こり短絡に至るという問題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
支持基板に凹凸構造を設けた薄膜EL素子において、光取り出し効率の向上と発光特性の安定化を両立させた薄膜EL素子及びその作製方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記課題は、薄膜EL素子の支持基板面に周期的な凸部を設け、その凸部の形状を工夫することによって解決される。
即ち、上記課題は、次の1)〜4)の発明によって解決される。
1) 少なくとも支持基板、導電層、絶縁層、発光層の積層構成を有し、導電層と接する側の支持基板面に断面形状が略半球形状又は略円錐形状の周期的な凸部が設けられ、該凸部の傾斜面に周期的な段差が設けられていることを特徴とする薄膜EL素子。
2) 少なくとも支持基板に接する導電層が前記凸部及び段差の形状に追随した形状で積層されていることを特徴とする1)に記載の薄膜EL素子。
3) 支持基板加工工程及び薄膜形成工程からなり、該支持基板加工工程は、レジストマスク形成工程とエッチング工程を含み、該エッチング工程において、レジストマスクをエッチングする条件と、支持基板をエッチングする条件を交互に切り替えることにより、断面形状が略半球形状又は略円錐形状の周期的な凸部であって、その傾斜面に周期的な段差を有する凸部を形成することを特徴とする1)又は2)に記載の薄膜EL素子の作製方法。
4) 前記レジストマスク形成工程において、露光、現像によりレジスト層に周期的なパターンを形成するに際して、レジスト層に無機材料を用い、レーザ光照射による加熱で該無機材料を変質させる露光法を用いることを特徴とする3)に記載の薄膜EL素子の作製方法。
【発明の効果】
【0005】
本発明によれば、薄膜EL素子の支持基板面に周期的な凸部を設け、その凸部の形状を工夫することによって、光取り出し効率の向上と発光特性の安定化を両立させた薄膜EL素子及びその作製方法を提供できる。
請求項1の薄膜EL素子では、支持基板面に周期的な凸部を設け、さらに、凸部傾斜面にも周期的な段差を設けることにより、EL素子内での多重反射や回折を利用した光取り出し効率の改善を図ることができ、発光強度が増加する。
請求項2の薄膜EL素子では、支持基板に接する導電層にも支持基板の凸部形状を反映させることにより、さらに発光強度を増加させることができると共に、アンカー効果も向上し積層膜の密着性が向上する。
請求項3の薄膜EL素子の作製方法では、支持基板に凸部をエッチング加工で形成する際に凸部傾斜面に精度よく段差形状を形成できる。
請求項4の薄膜EL素子の作製方法では、エッチング耐性がよい無機材料をレジストマスクとすることにより、レジストマスクと支持基板を交互にエッチング加工する選択性が向上し、一層精度よく段差形状を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
【図1】請求項1の薄膜EL素子の一例を示す主要部断面図。
【図2】請求項2の薄膜EL素子の一例を示す主要部断面図。
【図3】請求項3における支持基板のエッチング工程を示す断面図。
【図4】請求項4におけるレジストマスク形成工程を示す断面図。
【図5】比較例の薄膜EL素子構造を示す主要部断面図。
【図6】実施例1のエッチング加工後の石英基板の斜方視SEM像。
【図7】実施例1の薄膜EL素子の測定方法を示す図。
【図8】実施例1の薄膜EL素子の発光スペクトルを示す図。
【図9】実施例1及び比較例の薄膜EL素子の発光強度角度依存性を示す図。
【図10】実施例2のエッチング加工後にITO薄膜を積層した状態の石英基板断面のSEM像。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、上記本発明について詳しく説明する。
<請求項1の実施形態>
図1は、請求項1の薄膜EL素子の一例を示す主要部断面図である。
101は支持基板、102は第1導電層、103は第1絶縁層、104は発光層、105は第2絶縁層、106は第2導電層である。
支持基板(101)には、略半球形状の周期的な凸部(1011)を設け、凸部の傾斜面(1012)には凸部高さよりも短い周期の段差を設ける。例えば、凸部高さをh、nを正の整数として、h/n周期の段差を設ける。図1には凸部高さの1/4程度の周期で段差を設けた状態を示す。図中の1013は段差がない場合の半球形状断面の概想線である。なお、「略半球形状」とは概想線が半球形状であることを意味するが、段差を設けた場合の形状を正確に表現する用語がないし、全く歪のない幾何学的な正確さで段差を設けることは技術的に無理であることから上記表現を用いた。つまり段差が無い状態を概想した半球形状に近い形状を「略半球形状」と表現した。
凸部高さhは、通常10〜2000nm程度、好ましくは50〜1000nmとする。また、nは通常2〜10、好ましくは4〜6とする。凸部(1011)の周期pは、通常200〜2000nm程度、好ましくは300〜800nmとする。
【0008】
薄膜EL素子の各層は、支持基板の凸部上に積層されている。
支持基板(101)の材料としては、石英、ガラス、樹脂などを用いることができる。樹脂基板の場合には、凹凸面を有する型(モールド)を用いて、転写で凸部を形成することができる。モールドの材料としては、石英、ガラス、シリコンなどを用いることができる。転写方法としては、射出成型法、熱硬化型ナノインプリント法、光硬化型ナノインプリント法などを用いることができる。
支持基板(101)の厚さは、通常0.1〜2mm程度、好ましくは0.3〜1mmとする。
第1導電層(102)の材料としては、ITO(In−SnO)、IZO(In−ZnO)、SnO、In、ZnOなどの透光性導電性酸化物を用いることができる。第1導電層(102)の膜厚は、通常50〜300nm程度、好ましくは100〜200nmとする。
第1絶縁層(103)及び第2絶縁層(105)の材料としては、Y、SiO、Si、Ta、Alなどの透光性絶縁性材料を用いることができる。第1絶縁層(103)及び第2絶縁層(105)の膜厚は、通常50〜1000nm程度、好ましくは200〜800nmとする。
発光層(104)の材料としては、ZnS、SrS、BaAlなどを母材とし、Mn、Al、Cu、TbF、Eu、Ceなどを発光中心として添加した材料(例えば、ZnS:Mn)などを用いることができる。発光層(104)の膜厚は、通常100〜1000nm程度、好ましくは300〜700nmとする。発光中心として添加する材料の添加量は、通常0.1〜1wt%程度、好ましくは0.3〜0.7wt%とする。
第2導電層(106)の材料としては、Al、Au、Ag、Cuなどの金属を用いることができる。第2導電層(106)の膜厚は、通常50〜1000nm程度、好ましくは100〜400nmとする。
【0009】
第1導電層(102)、第1絶縁層(103)、第2絶縁層(105)、発光層(104)、第2導電層(106)の成膜方法としては、スピンコート法、スプレーコート法などの湿式成膜法、スパッタリング法、電子線蒸着法、抵抗加熱蒸着法などの真空成膜法を用いることができる。
このように、支持基板に周期的な凸部を設け、該凸部の傾斜面に周期的な段差を設け、その上に各層を積層することにより、本発明の薄膜EL素子を得ることができる。
上記薄膜EL素子は、上記凸部及び段差を設けることにより、素子内で発光した光の多重反射や回折を利用して光取り出し効率の向上を図ることができる。
【0010】
<請求項2の実施形態>
図2は、請求項2の薄膜EL素子の一例を示す主要部断面図である。
201は支持基板、202は第1導電層、203は第1絶縁層、204は発光層、205は第2絶縁層、206は第2導電層である。
支持基板(201)には、略円錐形状の周期的な凸部(2011)を設け、凸部の傾斜面(2012)には凸部高さよりも短い周期の段差を設ける。例えば、凸部高さをh、nを正の整数として、h/n周期の段差を設ける。図2には凸部高さの1/4程度の周期で段差を設けた状態を示す。図中の2013は段差がない場合の円錐形状断面の概想線である。なお、「略円錐形状」とは概想線が円錐形状であることを意味するが、段差を設けた場合の形状を正確に表現する用語がないし、全く歪のない幾何学的な正確さで段差を設けることは技術的に無理であることから上記表現を用いた。つまり段差が無い状態を概想した円錐形状に近い形状を「略円錐形状」と表現した。
凸部高さhは、通常10〜2000mm程度、好ましくは50〜1000mmとする。また、nは通常2〜10、好ましくは4〜6とする。凸部(1011)の周期pは、通常200〜2000nm程度、好ましくは300〜800nmとする。
【0011】
薄膜EL素子の各層は、支持基板の凸部上に積層されている。
少なくとも第1導電層(202)は、凸部形状に追随した形状、つまり、凸部傾斜面の段差が第1導電層(202)表面にも反映された状態で積層されている。
支持基板(201)の材料、厚さ、製造方法は、支持基板(101)の場合と同様である。
また、第1導電層(202)、第1絶縁層(203)、発光層(204)、第2絶縁層(205)、第2導電層(206)の材料、厚さ、製造方法も、第1導電層(102)、第1絶縁層(103)、発光層(104)、第2絶縁層(105)、第2導電層(106)の場合と同様である。但し、凸部形状を第1導電層表面にも反映させるためには、形状被覆性に優れる真空成膜法を用いることが好ましい。
このようにして、図1の場合と同様に本発明の薄膜EL素子を得ることができ、素子内で発光した光の多重反射や回折を利用して、光取り出し効率の向上を図ることができる。
【0012】
<請求項3の実施形態>
図3は、請求項3に係る薄膜EL素子の作製方法の説明図であり、支持基板エッチング工程を示す断面図である。
301はエッチング加工前の状態を示し、3011は支持基板、3012はレジストマスクである。
支持基板(3011)表面にレジスト層を積層し、フォトリソグラフィー法でレジスト層を露光、現像することによりパターン化し、レジストマスク(3012)を形成する。フォトリソグラフィー法としては、各種手法を用いることができる。レーザ露光法が好ましいが、詳細は後述する。
図3の302〜310はエッチング加工の段階(ステップ)を示す。
請求項3の作製方法では、2つの異なるエッチング条件(条件Aと条件B)を交互に切り替えて複数ステップで間欠的にエッチング加工する。
条件Aはマスクよりも支持基板のエッチングレートが速い条件、条件Bはマスクよりも支持基板のエッチングレートが遅い条件であり、次のような関係になる。
条件A:マスクのエッチングレート<支持基板のエッチングレート
条件B:マスクのエッチングレート>支持基板のエッチングレート
【0013】
図3において、条件Aをステップ302、304、306、308に用い、条件Bをステップ303、305、307、309に用いる。このような方法で支持基板をエッチング加工することによって、石英基板のエッチングとレジストマスクの後退(エッチングによる縮小)がステップ状に進行し、結果として図1及び図2に示すような形状、つまり、凸部の傾斜面に段差のある形状を形成することができる。
エッチングレートは、エッチングガスの種類、ガス流量、ガス圧力、投入電力、エッチング時間などの組み合わせによって変わるので、マスクのエッチングレートと支持基板のエッチングレートが条件Aと条件Bを満足するように組み合せを選択し制御する。特に、エッチングガスの種類を変えることによって、被エッチング材料のエッチングレートは大きく変化するので、条件Aと条件Bを満足する条件を容易に得ることができる。通常の場合、マスクのエッチングレートと支持基板のエッチングレートの比(マスクのエッチングレート/支持基板のエッチングレート)は、条件Aについては0.05〜0.5の範囲、条件Bについては1〜10の範囲となるように制御することが好ましい。
制御性よくエッチング条件を切り替えるためにはドライエッチング法が好ましく、例えば、反応性イオンエッチング(Reactive Ion Etching;RIE)法が挙げられる。
【0014】
<請求項4の実施形態>
図4は請求項4に係る薄膜EL素子の作製方法の説明図であり、レジストマスク形成工程を示す断面図である。
401はレジスト層成膜工程、402はレーザ露光工程、403は現像工程(及びパターン化したレジストマスクの状態)を示す。
レジスト層成膜工程(401)では、支持基板(4011)表面にレジスト層(4012)を積層する。レジスト層(4012)にはレーザ光を吸収し発熱して変質する材料を用いる。発熱する材料と変質する材料の積層構成としてもよい。レーザ光を吸収し発熱する材料の例としては、SbTeを含む化合物材料、Si、Geなどの無機材料が挙げられる。熱により変質する材料の例としては、SiO、Si、ZnSや、これらの混合材料などが挙げられる。レジスト層の成膜法としては、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、EB蒸着法などを用いることができる。
【0015】
レーザ露光工程(402)では、レーザ光源(4021)として安価な半導体レーザを用いることが好ましい。微小なビームスポットを形成するため、レーザ光の波長はなるべく短波長がよく、かつ高出力が得られる390〜410nm付近が好ましい。
レーザ光を照射することによりレジスト層を加熱し変質させる。4022は変質部分である。変質の形態としては、結晶状態の変化、組成の変化、密度の変化などがあり、何れの変化を起こしてもかまわない。
現像工程(403)では、レジスト層の未露光部を除去してパターン化する。レーザ光照射による熱変化によってレジスト層に変質部分を形成する。変質部分では現像液に対するエッチング耐性が向上し、現像後はレーザ光を照射した変質部分が残留する。4031はパターン化したレジストマスクを示す。
以上の方法によって、無機材料からなるレジストマスクを形成する。一般的に、有機材料よりも無機材料の方がエッチング耐性がよく、支持基板に複雑な形状の凸部を形成するには無機材料からなるレジストマスクを用いることが好ましい。
【実施例】
【0016】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0017】
比較例
図5は比較例の(従来の)薄膜EL素子の主要部の断面図である。
501は支持基板、502は第1導電層、503は第1絶縁層、504は発光層、505は第2絶縁層、506は第2導電層である。
支持基板(501)材料は石英で厚みは0.6mmとした。石英基板面は平坦で凸部は存在しない。
第1導電層(502)材料はITOで、膜厚は150nmとした。ITO薄膜はスピンコート法で成膜した。ITOスラリーの固形分濃度は5wt%とし、スピンコートの回転数は2000rpmとした。100℃で乾燥した後、焼成のために熱処理を行った。熱処理は、H−N混合雰囲気で700℃の加熱を20分間行った。
第1絶縁層(503)材料はYで、膜厚は600nmとした。Y薄膜は、蒸着源にYペレットを用い、電子線蒸着法により真空中で成膜した。
発光層(504)材料はZnS:Mnで、膜厚は500nmとした。ZnS:Mn薄膜は、蒸着源にZnS:Mnペレットを用い、電子線蒸着法により真空中で成膜した。
第2絶縁層(505)材料はYで、膜厚は400nmとした。第1絶縁層のYと同じ方法で成膜した。
第2導電層(506)材料はAlで、膜厚は200nmとした。Al薄膜は、蒸着源にAlワイヤを用い、抵抗加熱蒸着法により真空中で成膜した。
この薄膜EL素子では、波長580nmを中心波長とする発光が観測された。
【0018】
実施例1
図1に示す薄膜EL素子を下記のようにして作製した。
まず、図4に示すレジスト層成膜工程(401)において、厚みが0.6mmの石英基板(4011)上に、AgInSbTe/ZnS−SiO積層膜からなるレジスト層(4012)をスパッタリング法で成膜した。
次いで、レーザ露光工程(402)において、レーザ光源(4021)として波長405nmの半導体レーザを用いて露光した。
次いで、現像工程(403)において、現像液としてフッ化水素酸水溶液を用い、露光したサンプルを現像液に浸漬し、レジスト層の未露光部を除去してパターン化した。
4031はパターン化したAgInSbTe/ZnS−SiO膜からなるレジストマスクを示す。レジストマスクの形状は円形である。直径dは300nm、周期pは400nmである。
続いて、上記レジストマスクを形成した石英基板を用いて、図3に示す方法でエッチングを行い、略半球形状(1013)の周期的な凸部(1011)及び凸部の傾斜面(1012)の周期的な段差を形成した。凸部の高さhは100nm、段差の周期はおよそ25nmとした。
エッチング装置として平行平板型のRIE装置を用い、表1に示すエッチング条件で、条件Aと条件Bを交互に切り替えてエッチング加工した。条件AではエッチングガスとしてCHFを用い、石英基板のエッチングレートがレジストマスクのエッチングレートよりも速い条件とした。条件BではエッチングガスとしてArを用い、石英基板のエッチングレートがレジストマスクのエッチングレートよりも遅い条件とした。
図3のステップ302、304、306、308を条件Aで行い、ステップ303、305、307、309を条件Bで行った。
上記操作により、石英基板のエッチングとレジストマスクのエッチングによる縮小がステップ状に進行し、結果として図1に示すような凸部の傾斜面に段差を有する形状が形成できた。
図6はエッチング加工後の石英基板の走査型顕微鏡(SEM)像であり、斜め上方から観察した像である。図のように、周期的な凸部(601)には、略半球形状の周期的な凸部(6011)が存在し、凸部傾斜面には段差の存在を示す縞模様が観測された。
上記のようにして作製した石英基板上にEL素子を構成する各層を積層した。
第1導電層(102)材料はITO、第1絶縁層(103)材料はY、発光層(104)材料はZnS:Mn、第2絶縁層(105)材料はY、第2導電層(106)材料はAlとした。各層の膜厚及び作製方法は比較例と同じである。
【0019】
【表1】

【0020】
実施例1の薄膜EL素子と、比較例に示す従来の薄膜EL素子の発光強度を比較した。図7に測定装置の構成を示す。701は薄膜EL素子(光源)、702は回転ステージ、703は受光器である。測定は、受光器(703)を薄膜EL素子(701)の直上に配置し、薄膜EL素子面の法線に対する角度θを0〜70°の範囲で変えて行った。
図8に、実施例1の、θが0°(801)、30°(802)、70°(803)のときの発光スペクトルを示すが、急峻な複数の発光ピークが観測され、受光角度によってピーク波長が変化した。
図9は、発光強度の角度依存性について、比較例(901)、実施例1(902)、平面光源の理論曲線(903)を示したものである。理論曲線(903)は、ランベルトの余弦則による発光強度分布である。
平坦基板を用いた比較例(901)の発光強度は、角度の増加とともに単調に減少し、理論曲線(903)に比較して低い。一方、実施例1(902)の発光強度は、単調には減少せず30°で一旦増加し理論曲線(903)を上回っている。
また、実施例1と比較例の各々の発光強度を角度で積分した値を比較すると、実施例1の発光強度が18%増加(1.18倍)しており、請求項1の素子構造とすることによって光取り出し効率が改善できることが分かった。
【0021】
実施例2
図2に示す薄膜EL素子を下記のようにして作製した。
まず、レジストマスクの直径dを300nm、周期pを600nmに変えた点以外は、実施例1と同様にして図4に示す方法でレジストマスクを形成した石英基板を作製した。
続いて、上記レジストマスクを形成した石英基板を用いて、図3に示す方法でエッチングを行い、略円錐形状(2013)の周期的な凸部(2011)及び凸部の傾斜面(2012)の周期的な段差を形成した。凸部の高さhは500nm、段差の周期はおよそ130nmとした。エッチング方法は実施例1と同様である。表2にエッチング条件を示す。条件Aと条件Bのエッチング時間を変えた点以外は実施例1と同様であるが、エッチング時間の変更により実施例1より凸部を高く形成した。
図10にエッチング加工後にITO薄膜(1002)を積層した状態の石英基板断面のSEM像を示す。1001は石英基板、1002はITO薄膜、10011は石英基板表面に形成した凸部、10012は凸部の傾斜面に形成された段差である。ITO薄膜(1002)は凸形状に追随して積層され、ITO表面にも凸部傾斜面の段差形状が反映されている。
【0022】
【表2】

【0023】
上記凸部及び段差を形成した石英基板上にEL素子を構成する各層を積層した。
スピンコート法よりも真空成膜法の方が、下地形状を一層反映した状態で薄膜を積層できる。そこで、第1導電層のITO薄膜(202)はスパッタリング法で成膜した。DCスパッタリング法を採用し、ArとOの混合雰囲気下、成膜圧力0.6Pa、基板加熱なしで成膜した。SnO含有率が10wt%であるITOターゲットを用いた。ITO薄膜の膜厚は150nmとした。
第1導電層以外の各層の材料、膜厚及び作製方法は、比較例と同じとした。
【0024】
表3に、比較例、実施例1、実施例2の薄膜EL素子特性の比較結果を示す。
発光強度は比較例に対する倍率で示したが、実施例1では、発光強度が比較例に対して1.18倍に増加した。また、実施例2では、支持基板凸部をより高く、凸部傾斜面の段差をより明瞭に形成した結果、発光強度は比較例に対して1.30倍に増加した。
積層膜の密着性はテープ剥離法で比較した。表には100箇所中の剥離箇所数を示したが、剥離箇所数が少ないほど密着性がよいことになる。
実施例1では支持基板に凸部を設けたことに伴うアンカー効果により、比較例に比べて剥離箇所数が低減した。実施例2では、支持基板凸部をより高く、凸部傾斜面の段差をより明瞭にすることによって、アンカー効果が一層強まり、さらに密着性が向上した。
【0025】
【表3】

【符号の説明】
【0026】
d 直径
h 凸部高さ
p 周期
101 支持基板
102 第1導電層
103 第1絶縁層
104 発光層
105 第2絶縁層
106 第2導電層
1011 略半球形状の周期的な凸部
1012 凸部の傾斜面
1013 段差がない場合の半球形状断面の概想線
201 支持基板
202 第1導電層
203 第1絶縁層
204 発光層
205 第2絶縁層
206 第2導電層
2011 略円錐形状の周期的な凸部
2012 凸部の傾斜面
2013 段差がない場合の円錐形状断面の概想線
2021 凸部の傾斜面
301 レジストマスク付き支持基板(エッチング加工前の状態)
3011 支持基板
3012 レジストマスク
302 エッチング加工の段階(ステップ)
303 エッチング加工の段階(ステップ)
304 エッチング加工の段階(ステップ)
305 エッチング加工の段階(ステップ)
306 エッチング加工の段階(ステップ)
307 エッチング加工の段階(ステップ)
308 エッチング加工の段階(ステップ)
309 エッチング加工の段階(ステップ)
310 エッチング加工の段階(ステップ)
401 レジスト層成膜工程
4011 支持基板
4012 レジスト層
402 レーザ露光工程
4021 レーザ光源
4022 変質部分
403 現像工程(及びパターン化したレジストマスクの状態)
4031 パターン化したレジストマスク
501 支持基板
502 第1導電層
503 第1絶縁層
504 発光層
505 第2絶縁層
506 第2導電層
601 周期的な凸部
6011 略半球形状の周期的な凸部
701 薄膜EL素子(光源)
702 回転ステージ
703 受光器
801 角度0°の発光スペクトルを示す。
802 角度30°の発光スペクトルを示す。
803 角度70°の発光スペクトルを示す。
901 比較例の発光強度の角度依存性を示す線
902 実施例1の発光強度の角度依存性を示す線
903 平面光源の発光強度の角度依存性を示す理論曲線
1001 石英基板
10011 石英基板表面に形成した凸部
10012 凸部傾斜面に形成された段差
1002 ITO薄膜
【先行技術文献】
【特許文献】
【0027】
【特許文献1】特開2004−265851号公報
【特許文献2】特開2004−342522号公報
【特許文献3】特開2006−351211号公報
【特許文献4】特開2008−159338号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも支持基板、導電層、絶縁層、発光層の積層構成を有し、導電層と接する側の支持基板面に断面形状が略半球形状又は略円錐形状の周期的な凸部が設けられ、該凸部の傾斜面に周期的な段差が設けられていることを特徴とする薄膜EL素子。
【請求項2】
少なくとも支持基板に接する導電層が前記凸部及び段差の形状に追随した形状で積層されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜EL素子。
【請求項3】
支持基板加工工程及び薄膜形成工程からなり、該支持基板加工工程は、レジストマスク形成工程とエッチング工程を含み、該エッチング工程において、レジストマスクをエッチングする条件と、支持基板をエッチングする条件を交互に切り替えることにより、断面形状が略半球形状又は略円錐形状の周期的な凸部であって、その傾斜面に周期的な段差を有する凸部を形成することを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜EL素子の作製方法。
【請求項4】
前記レジストマスク形成工程において、露光、現像によりレジスト層に周期的なパターンを形成するに際して、レジスト層に無機材料を用い、レーザ光照射による加熱で該無機材料を変質させる露光法を用いることを特徴とする請求項3に記載の薄膜EL素子の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図5】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−212518(P2012−212518A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76449(P2011−76449)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成23年3月9日 社団法人応用物理学会発行の「2011年春季 第58回 応用物理学関係連合講演会「講演予稿集」(DVD−ROM)」に発表
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【出願人】(504150461)国立大学法人鳥取大学 (271)
【Fターム(参考)】