説明

薄鋼板と木材の複合梁

【課題】 一般建築用の梁において、梁の上、下面は釘や木ネジを直接打ち付けできる木質であって、かつ梁のウェブに配管に供する大口径の開口部を設ける目標のもとで、長尺でも軽量で高強度、かつ低コストの梁構造物を実現する。
【解決手段】 薄鋼板軽量形鋼のウェブ11に軸方向に間隔をおいて大口径略円形孔13を開口させ、該形鋼の上、下フランジ12a、12bそれぞれに断面略矩形で軸方向長尺の木材からなる弦材14a、14bを接合し、両者の接合は、接合面全体に多数の釘又は木ネジ又はフランジ自体に加工した突起による固定と、接触面全体に接着剤を塗布してなる接合、の一つあるいは併用によって密着接合させて構成した複合梁と、この複合梁の軸方向両端部において、該形鋼と該上、下木質弦材14a、14bと縦フレーム15、16の3者が一体として強固となる複合梁ユニット10を構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般建築用として用いられる梁において、木材と薄鋼板で構成され、鋼板のウェブに大口径の開口部を有しながら、長尺であっても軽量でかつ高強度の梁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般建築用の長尺の梁としては矩形の木材の他、木材あるいは金属形鋼等で構成されるトラス構造があり、近年は木質材をI型に構成した部材も使われる。また金属鋼板では、冷間成形の軽量形鋼として一般構造用軽量形鋼があり一般に建築構造用として使われる。
【0003】
近年は木材資源の枯渇により良質な木質建築材料が供給不足となってきている。このため長尺の梁を実現させるには木材あるいは金属形鋼によるトラス構造を用いるが、強度を保持するために、せい(高さ寸法)を大きくする必要があり、コスト高であると共に結果的に無駄な建築空間が増加することになる。また木質材をI型に構成した部材も用いられるが、強度の面から長尺大負荷に適さない。
【0004】
一般構造用軽量形鋼は、木材に比較して断面積あたりの強度は高いが、金属製で硬質なため、床部材や天井部材などの他部材の取り付けの際には、釘、木ネジなどを直接打ち付けるには難があり、一般建築で梁の用途としては使いづらい。これは木質部材との複合化が望まれる所以である。
【0005】
一方、高断熱型家屋の普及により高気密構造となったことから健康のための換気が問題となっている。この対策として強制換気システムの導入があり、システムの吸・排気の配管の設置場所として床下空間の利用が考えられるが、現状の梁はトラス構造を除いて貫通する開口がなく、その利用に供する梁構造にはなっていない。
【0006】
床下空間で配管を可能とするためには、梁部材のウェブの部分に貫通した開口部が必要であり、作業性を考慮すると大口径であることが望ましい。トラス構造の場合は三角形に構成された部材間の開口部を利用することとなるが、その他の一様断面を持つ梁部材は、ウェブ部分に新たに開口部を設ける必要があり、その開口部のために梁としての強度が低減する。
【0007】
建築構造用梁において、両端を支点として等分布荷重が載荷される使用条件の下では、安全性の面から、使用される部材の単位断面積あたりの負荷荷重(応力)の制限と、梁の単位長さあたりの垂直方向の変形量(たわみ)の制限の二つが設計に係わる基準となっている。一般に梁が長くなるに従い応力とたわみが増加するので、長尺梁においてはこれらを克服する梁構造が必要になる。
【0008】
以上を背景にして、関連する文献について以下に記す。
特許に見られる鋼板あるいは軽量形鋼に関して強度向上の工夫の例としては、平板に孔を設けてリブを構成した例(例えば、文献1参照)、軽量形鋼のウェブに三角形あるいは円形の開口部へのリブ構成、およびへこみと組み合わせした例(例えば、文献2参照)がある。しかしながら、リブやへこみなどそれ単体は薄鋼板の強化法として良く知られた方法の一つであり、部分的な強度向上策であって、梁全体の構造上の強化策にはなっていない。
【0009】
金属材料と木材の複合梁については、木材と曲げ鋼板およびラチス材を組み合わせたもの(例えば、文献3参照)、鋼板ラチス梁と木材の弦材を用いた組み立て補強梁(例えば、文献4参照)、鉄骨はりと木質材を複合したもの(例えば、文献5参照)、木質材と強化材との接合を強化材と一体となったネールプートを利用したもの(例えば、文献6参照)、木材と鋼材の結合方法(例えば、文献7参照)がある。しかしながら、本発明の課題である配管のための大口径の開口を目的の一つとして、このために生ずる強度低下を、鋼板と木材の特徴を相互補完し、軽量構造でありながら強度を保持し長尺を可能とする複合梁に関しての文献とはなっていない。
【0010】
また、本発明のもう一つの特徴である、複合梁のユニット化に関連しては、据え付け工事のための結合構造に関するもの(例えば、文献8)がある。しかしながら、鋼板と木材の複合梁としてののユニット化の文献とはなっていない。
【0011】
【特許文献1】特開 昭49−66563
【特許文献2】特許 3005293
【特許文献3】特開 昭50−2319
【特許文献4】特開 平10−131394
【特許文献5】特開 平9−151568
【特許文献6】特開2004−316114
【特許文献7】特開 平8−284310
【特許文献8】特開2000−120220
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
床下等の空間を利用した配管を可能とするために梁のウェブ部に大口径の開口部を設ける目標のもとで、梁のせい(高さ寸法)は空間の経済性、製作コスト面からなるべく小さく、作業性からも軽量であり、かつ、大広間等の設計面から長尺にした場合であっても部材の応力とたわみの制限を克服するだけの高強度であること、また、作業性の面から、床材、天井材を直接釘や木ネジで打ち付けることができ、高強度でかつ作業性の向上を図るためにユニット化すること、これらが本発明が解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
長尺薄鋼板の長手軸方向に向かって両端を略90°に折り曲げられた形鋼の中央平面部をウェブ、折り曲げられた面をフランジとして構成される軽量形鋼に関し、ウェブには軸方向に間隔をおいて複数の大口径略円形孔を開口させ、形鋼の上フランジと下フランジそれぞれに、断面略矩形で軸方向長尺の木材を密着接合させて構成した薄鋼板と木材の複合梁を提供する。
【0014】
フランジと木材の接合は、両者の接合部全体に多数の釘又は木ネジ又はボルト・ナットによる固定、接合部全体をフランジ自体に加工した突起による固定、接触面全体に接着剤を塗布してなる接合、の一つあるいは併用による。
【0015】
該複合梁の両端それぞれにおいて、一つ又は一対の木材よりなる縦フレーム、あるいは一つ又は一対の形鋼よりなる縦フレームを設け、該縦フレームとウェブとの間で、両者を貫通する複数の釘又は木ネジ又はボルト・ナットによる結合、ウェブ自体に加工した突起による固定、接触面に接着剤を塗布してなる接合、の一つあるいは併用により、縦フレームを構成することによってなる、複合梁ユニットを提供する。
【発明の効果】
【0016】
ウェブに大口径の開口部を設けたことにより、複数の梁間を貫通する配管が可能になりかつその作業性が向上する。また、梁の上および下面が木質となることにより、床部材や天井部などの他の部材を直接、釘や木ネジなどを打ち付けることができ、作業コストの低減が可能になる。また、木材を薄鋼板形鋼のウェブに密着結合させる複合化により、梁としての強度は、薄鋼板形鋼単体の強度やあるいは略同寸法の木製トラスに比較し、大きな強度増加が見込め、梁高さをそれほど高くしないままで長尺の梁を実現することができ、低コストで高強度の梁が可能となる。このことから大広間等の大きな空間の設計が可能になる。また、該複合梁をユニット化することで、工事現場における梁の組み立て工程の容易性とコスト低減に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0017】
図1は本発明である木材と薄鋼板との複合梁ユニット10を表している。これは、長尺薄鋼板の長手方向に向かって両端を略90°折り曲げ、中央平面部をウェブ11、折り曲げた面をフランジ12a,12bとする形鋼であって、本例では更に、両フランジ端を略90°内側に折り曲げてリブ17a、17bを設けた断面略C字の形鋼を用いて、この形鋼のウェブには軸方向に一定間隔をおいて大口径の略円形の開口部13を設けてある。上フランジ12aと下フランジ12bそれぞれに、断面略矩形で軸方向に長尺の木材からなる上、下弦材14a、14bを接合させてある。この上、下弦材は軸方向に引っ張り荷重を受けるなどの強度部材であるから連続部材でなくてはならず、継ぎ手によって長尺をなす場合にあっては強固な継ぎ手方法を採用したものでなければならない。
【0018】
図2は上記のフランジと木材を強固に接合する方法を説明するものであって、上フランジ及び下フランジにはプレス金型によって加工されたネイル状の突起21a、21bがフランジ部全面に設けてあり、上フランジ12aと上弦材14a、及び下フランジ12bと下弦材14bそれぞれをプレス等により加圧密着させ、突起部を木材に食い込ませて強固な結合をさせる。このとき、フランジと木材の接触面に接着剤を塗布しこれによって接合強度を強固にする方法を併用してよい。
【0019】
図3は上記のフランジ面に設けた突起と同様の効果を得ることを目的として、フランジと上、下弦材を強固に接合する方法の一つとして、図に示す木ネジ31あるいは釘によってフランジ面全体を木材に固定するものである。この場合もネイル状突起の場合と同様に、フランジと木材の接触面に接着剤を塗布しこれによって接合強度を強固にする方法を併用してよい。
【0020】
本発明は薄鋼板形鋼と上、下弦材及び縦フレームが一体となって強固な複合梁構造が実現される。特に梁の長手軸方向両端部における固定工法によっては該両端近傍の部材に作用する負荷が大きいことが想定されるので、薄鋼板形鋼の軸方向両端部、上、下弦材及び縦フレームの3者の結合を強固にする必要がある。図4は縦フレーム近傍の構造を表したものであって、1対の木材からなる縦フレーム15,16で薄鋼板形鋼の端部を挟み貫通するボルト・ナット42で固定する。また鋼板形鋼の上下フランジ部と上、下弦材はそれぞれ縦フレームの近傍で貫通するボルト・ナット41a、41bで固定する。なお図示しないが上、下弦材と縦フレームそれぞれをステープル等の金具で補強固定することもよい。
縦フレームは木材で構成されるので、従来の木材建築工法のように釘や木ネジ、ステープルその他木材用の金具類を用いた工事が可能である。また柱材などへ該ユニットをボルト・ナットで固定する場合には、縦フレームに設けたユニット固定用貫通孔43a、43bを利用することができる。
【0021】
次に、薄鋼板の端部と縦フレームの固定を強固にする方法として、図5は、ウェブ長手軸方向両端の凸面部にプレス金型によって加工されるネイル状の突起であって、上記のように1対の縦フレーム15,16でこの突起を含むウェブ端部を挟みプレス等で加圧密着の後、ボルト・ナット42で固定する。なおウェブと縦フレームの接触面に接着剤の塗布による結合を併用することもよい。また、ウェブを挟んで一方の縦フレーム15からウェブを貫通しもう一方の縦フレーム16に達する(この逆でも良い)釘又は木ネジを用いる方法もよい。
【0022】
図6は縦フレームを鉄鋼製アングルで構成した場合を表し、一対のフレーム用アングル61、62でウェブ端部を挟みボルト・ナット64で固定する。また柱材などへ該ユニットをボルト・ナットで固定する場合には、縦フレームに設けたユニット固定用貫通孔63a、63bを利用することができる。
【0023】
図7はフランジ72a、72bの端部を略90°外側に折り曲げてリブ73a、73bを設けたU字形の形鋼71の場合を表す。上、下弦材との接合はフランジ72a、72bを利用した固定の他に、リブ73a、73bにプレス金型によって加工されるネイル状の突起74を利用した固定も可能である。図示しないが、ウェブ両端部を略90°折り曲げただけの形鋼は断面形状がコ字形の形鋼であって、略同寸法の形鋼の強度比較では、コ字形、C字形、U字形の順に形鋼の曲げ強度が高い。ただしコストは高くなる。
【0024】
図8は2本の形鋼81,82を用いて背面同士を合わせて用いた場合であって、木ネジ83で固定した場合の例である。通常以上に強度が必要な場合に採用できる。
【0025】
図9は略円形開口部にリブ91を設けたものである。隣り合う円形開口部の間隔が狭い場合には開口部間の部材断面積が小さくなるため、この時の座屈強度を強化する場合に採用する。図10に断面詳細を表す。
【0026】
図1をもとに、寸法の一例を挙げると、コ字形、C字形、U字形の軽量形鋼の大きさは、上、下フランジ間の高さ230〜350mm、フランジ幅40〜100mm、リブ20〜40mm、鋼板の厚さ1.5〜2mm、ウェブの略円形の直径150〜210mm、上、下弦木材の矩形断面寸法は、縦35〜100mm、横80〜150mmであって、これらの組み合わせによって、梁全長は、3.5〜7.5mの梁ユニットを実現する。
【産業上の利用可能性】
梁に使われる大寸法の木材の枯渇が生じており、木材と金属との複合化によって、軽量で長尺、高強度かつ低コストの梁が実現でき、かつ大口径の開口部ができることによる強制換気のための配管が可能となり、一般建築に大きく貢献する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による複合梁ユニットの全体構成
【図2】フランジ部に加工した突起を用いたフランジと弦材の接合方法
【図3】木ネジ又は釘を用いたフランジと弦材の接合方法
【図4】複合梁ユニット両端部の部材構成
【図5】ウェブ端部に加工した突起を用いたウェブと縦フレームとの接合方法
【図6】鉄鋼製縦フレームの構成
【図7】U字形鋼のリブ部に加工した突起を用いたリブと弦材の接合方法
【図8】2本の形鋼を用いた場合
【図9】円形開口部リブを設けた場合
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般建築用として用いられる梁において、木材と薄鋼板で構成され、鋼板のウェブに大口径の開口部を有しながら、長尺であっても軽量でかつ高強度の梁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般建築用の長尺の梁としては矩形の木材の他、木材あるいは金属形鋼等で構成されるトラス構造があり、近年は木質材をI型に構成した部材も使われる。また金属鋼板では、冷間成形の軽量形鋼として一般構造用軽量形鋼があり一般に建築構造用として使われる。
【0003】
近年は木材資源の枯渇により良質な木質建築材料が供給不足となってきている。このため長尺の梁を実現させるには木材あるいは金属形鋼によるトラス構造を用いるが、強度を保持するために、せい(高さ寸法)を大きくする必要があり、コスト高であると共に結果的に無駄な建築空間が増加することになる。また木質材をI型に構成した部材も用いられるが、強度の面から長尺大負荷に適さない。
【0004】
一般構造用軽量形鋼は、木材に比較して断面積あたりの強度は高いが、金属製で硬質なため、床部材や天井部材などの他部材の取り付けの際には、釘、木ネジなどを直接打ち付けるには難があり、一般建築で梁の用途としては使いづらい。これは木質部材との複合化が望まれる所以である。
【0005】
一方、高断熱型家屋の普及により高気密構造となったことから健康のための換気が問題となっている。この対策として強制換気システムの導入があり、システムの吸・排気の配管の設置場所として床下空間の利用が考えられるが、現状の梁はトラス構造を除いて貫通する開口がなく、その利用に供する梁構造にはなっていない。
【0006】
床下空間で配管を可能とするためには、梁部材のウェブの部分に貫通した開口部が必要であり、作業性を考慮すると大口径であることが望ましい。トラス構造の場合は三角形に構成された部材間の開口部を利用することとなるが、その他の一様断面を持つ梁部材は、ウェブ部分に新たに開口部を設ける必要があり、その開口部のために梁としての強度が低減する。
【0007】
建築構造用梁において、両端を支点として等分布荷重が載荷される使用条件の下では、安全性の面から、使用される部材の単位断面積あたりの負荷荷重(応力)の制限と、梁の単位長さあたりの垂直方向の変形量(たわみ)の制限の二つが設計に係わる基準となっている。一般に梁が長くなるに従い応力とたわみが増加するので、長尺梁においてはこれらを克服する梁構造が必要になる。
【0008】
以上を背景にして、関連する文献について以下に記す。
特許に見られる鋼板あるいは軽量形鋼に関して強度向上の工夫の例としては、平板に孔を設けてリブを構成した例(例えば、文献1参照)、軽量形鋼のウェブに三角形あるいは円形の開口部へのリブ構成、およびへこみと組み合わせした例(例えば、文献2参照)がある。しかしながら、リブやへこみなどそれ単体は薄鋼板の強化法として良く知られた方法の一つであり、部分的な強度向上策であって、梁全体の構造上の強化策にはなっていない。
【0009】
金属材料と木材の複合梁については、木材と曲げ鋼板およびラチス材を組み合わせたもの(例えば、文献3参照)、鋼板ラチス梁と木材の弦材を用いた組み立て補強梁(例えば、文献4参照)、鉄骨はりと木質材を複合したもの(例えば、文献5参照)、木質材と強化材との接合を強化材と一体となったネールプートを利用したもの(例えば、文献6参照)、木材と鋼材の結合方法(例えば、文献7参照)がある。しかしながら、本発明の課題である配管のための大口径の開口を目的の一つとして、このために生ずる強度低下を、鋼板と木材の特徴を相互補完し、軽量構造でありながら強度を保持し長尺を可能とする複合梁に関しての文献とはなっていない。
【0010】
また、本発明のもう一つの特徴である、複合梁のユニット化に関連しては、据え付け工事のための結合構造に関するもの(例えば、文献8)がある。しかしながら、鋼板と木材の複合梁としてのユニット化の文献とはなっていない。
【0011】
【特許文献1】特開 昭49−66563
【特許文献2】特許 3005293
【特許文献3】特開 昭50−2319
【特許文献4】特開 平10−131394
【特許文献5】特開 平9−151568
【特許文献6】特開2004−316114
【特許文献7】特開 平8−284310
【特許文献8】特開2000−120220
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
床下等の空間を利用した配管を可能とするために梁のウェブ部に大口径の開口部を設ける目標のもとで、梁のせい(高さ寸法)は空間の経済性、製作コスト面からなるべく小さく、作業性からも軽量であり、かつ、大広間等の設計面から長尺にした場合であっても部材の応力とたわみの制限を克服するだけの高強度であること、また、作業性の面から、床材、天井材を直接釘や木ネジで打ち付けることができ、高強度でかつ作業性の向上を図るためにユニット化すること、これらが本発明が解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
長尺薄鋼板の長手軸方向に向かって両端を略90°に折り曲げられた形鋼の中央平面部をウェブ、折り曲げられた面をフランジとして構成される軽量形鋼に関し、ウェブには軸方向に間隔をおいて複数の大口径略円形孔を開口させ、形鋼の上フランジと下フランジそれぞれに、断面略矩形で軸方向長尺の木材を密着接合させて構成した薄鋼板と木材の複合梁を提供する。
【0014】
フランジと木材の接合は、両者の接合部全体に多数の釘又は木ネジ又はボルト・ナットによる固定、接合部全体をフランジ自体に加工した突起による固定、接触面全体に接着剤を塗布してなる接合、の一つあるいは併用による。
【0015】
該複合梁の両端それぞれにおいて、一つ又は一対の木材よりなる縦フレーム、あるいは一つ又は一対の形鋼よりなる縦フレームを設け、該縦フレームとウェブとの間で、両者を貫通する複数の釘又は木ネジ又はボルト・ナットによる結合、ウェブ自体に加工した突起による固定、接触面に接着剤を塗布してなる接合、の一つあるいは併用により、縦フレームを構成することによってなる、複合梁ユニットを提供する。
【発明の効果】
【0016】
ウェブに大口径の開口部を設けたことにより、複数の梁間を貫通する配管が可能になりかつその作業性が向上する。また、梁の上および下面が木質となることにより、床部材や天井部などの他の部材を直接、釘や木ネジなどを打ち付けることができ、作業コストの低減が可能になる。また、木材を薄鋼板形鋼のウェブに密着結合させる複合化により、梁としての強度は、薄鋼板形鋼単体の強度やあるいは略同寸法の木製トラスに比較し、大きな強度増加が見込め、梁高さをそれほど高くしないままで長尺の梁を実現することができ、低コストで高強度の梁が可能となる。このことから大広間等の大きな空間の設計が可能になる。また、該複合梁をユニット化することで、工事現場における梁の組み立て工程の容易性とコスト低減に貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0017】
図1は本発明である木材と薄鋼板との複合梁ユニット10を表している。これは、長尺薄鋼板の長手方向に向かって両端を略90°折り曲げ、中央平面部をウェブ11、折り曲げた面をフランジ12a,12bとする形鋼であって、本例では更に、両フランジ端を略90°内側に折り曲げてリブ17a、17bを設けた断面略C字の形鋼を用いて、この形鋼のウェブには軸方向に一定間隔をおいて大口径の略円形の開口部13を設けてある。上フランジ12aと下フランジ12bそれぞれに、断面略矩形で軸方向に長尺の木材からなる上、下弦材14a、14bを接合させてある。この上、下弦材は軸方向に引っ張り荷重を受けるなどの強度部材であるから連続部材でなくてはならず、継ぎ手によって長尺をなす場合にあっては強固な継ぎ手方法を採用したものでなければならない。
【0018】
図2は上記のフランジと木材を強固に接合する方法を説明するものであって、上フランジ及び下フランジにはプレス金型によって加工されたネイル状の突起21a、21bがフランジ部全面に設けてあり、上フランジ12aと上弦材14a1及び下フランジ12bと下弦材14bそれぞれをプレス等により加圧密着させ、突起部を木材に食い込ませて強固な結合をさせる。このとき、フランジと木材の接触面に接着剤を塗布しこれによって接合強度を強固にする方法を併用してよい。
【0019】
図3は上記のフランジ面に設けた突起と同様の効果を得ることを目的として、フランジと上、下弦材を強固に接合する方法の一つとして、図に示す木ネジ31あるいは釘によってフランジ面全体を木材に固定するものである。この場合もネイル状突起の場合と同様に、フランジと木材の接触面に接着剤を塗布しこれによって接合強度を強固にする方法を併用してよい。
【0020】
本発明は薄鋼板形鋼と上、下弦材及び縦フレームが一体となって強固な複合梁構造が実現される。特に梁の長手軸方向両端部における固定工法によっては該両端近傍の部材に作用する負荷が大きいことが想定されるので、薄鋼板形鋼の軸方向両端部、上、下弦材及び縦フレームの3者の結合を強固にする必要がある。図4は縦フレーム近傍の構造を表したものであって、1対の木材からなる縦フレーム15,16で薄鋼板形鋼の端部を挟み貫通するボルト・ナット42で固定する。また鋼板形鋼の上下フランジ部と上、下弦材はそれぞれ縦フレームの近傍で貫通するボルト・ナット41a、41bで固定する。なお図示しないが上、下弦材と縦フレームそれぞれをステープル等の金具で補強固定することもよい。
縦フレームは木材で構成されるので、従来の木材建築工法のように釘や木ネジ、ステープルその他木材用の金具類を用いた工事が可能である。また柱材などへ該ユニットをボルト・ナットで固定する場合には、縦フレームに設けたユニット固定用貫通孔43a、43bを利用することができる。
【0021】
次に、薄鋼板の端部と縦フレームの固定を強固にする方法として、図5は、ウェブ長手軸方向両端の凸面部にプレス金型によって加工されるネイル状の突起であって、上記のように1対の縦フレーム15,16でこの突起を含むウェブ端部を挟みプレス等で加圧密着の後、ボルト・ナット42で固定する。なおウェブと縦フレームの接触面に接着剤の塗布による結合を併用することもよい。また、ウェブを挟んで一方の縦フレーム15からウェブを貫通しもう一方の縦フレーム16に達する(この逆でも良い)釘又は木ネジを用いる方法もよい。
【0022】
図6は縦フレームを鉄鋼製アングルで構成した場合を表し、一対のフレーム用アングル61、62でウェブ端部を挟みボルト・ナット64で固定する。また柱材などへ該ユニットをボルト・ナットで固定する場合には、縦フレームに設けたユニット固定用貫通孔63a、63bを利用することができる。
【0023】
図7はフランジ72a、72bの端部を略90°外側に折り曲げてリブ73a、73bを設けたU字形の形鋼71の場合を表す。上、下弦材との接合はフランジ72a、72bを利用した固定の他に、リブ73a、73bにプレス金型によって加工されるネイル状の突起74を利用した固定も可能である。図示しないが、ウェブ両端部を略90°折り曲げただけの形鋼は断面形状がコ字形の形鋼であって、略同寸法の形鋼の強度比較では、コ字形、C字形、U字形の順に形鋼の曲げ強度が高い。ただしコストは高くなる。
【0024】
図8は2本の形鋼81,82を用いて背面同士を合わせて用いた場合であって、木ネジ83で固定した場合の例である。通常以上に強度が必要な場合に採用できる。
【0025】
図9は略円形開口部にリブ91を設けたものである。隣り合う円形開口部の間隔が狭い場合には開口部間の部材断面積が小さくなるため、この時の座屈強度を強化する場合に採用する。図10に断面詳細を表す。
【0026】
図1をもとに、寸法の一例を挙げると、コ字形、C字形、U字形の軽量形鋼の大きさは、上、下フランジ間の高さ230〜350mm、フランジ幅40〜100mm、リブ20〜40mm、鋼板の厚さ1.5〜2mm、ウェブの略円形の直径150〜210mm、上、下弦木材の矩形断面寸法は、縦35〜100mm、横80〜150mmであって、これらの組み合わせによって、梁全長は、3.5〜7.5mの梁ユニットを実現する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
梁に使われる大寸法の木材の枯渇が生じており、木材と金属との複合化によって、軽量で長尺、高強度かつ低コストの梁が実現でき、かつ大口径の開口部ができることによる強制換気のための配管が可能となり、一般建築に大きく貢献する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】 本発明による複合梁ユニットの全体構成
【図2】 フランジ部に加工した突起を用いたフランジと弦材の接合方法
【図3】 木ネジ又は釘を用いたフランジと弦材の接合方法
【図4】 複合梁ユニット両端部の部材構成
【図5】 ウェブ端部に加工した突起を用いたウェブと縦フレームとの接合方法
【図6】 鉄鋼製縦フレームの構成
【図7】 U字形鋼のリブ部に加工した突起を用いたリブと弦材の接合方法
【図8】 2本の形鋼を用いた場合
【図9】 円形開口部リブを設けた場合
【図10】 円形開口部に設けたリブの断面詳細
【符号の説明】
【0029】
10 複合梁ユニット
11 ウェブ
12a 上フランジ
12b 下フランジ
13 略円形開口部
14a 上弦材
14b 下弦材
15 縦フレーム(形鋼凹面側)
16 縦フレーム(形鋼凸面側)
21a 上フランジ部突起
21b 下フランジ部突起
31 木ネジ
41a 上弦材固定ボルト・ナット
41b 下弦材固定ボルト・ナット
42 縦フレーム固定ボルト・ナット
43a ユニット固定用貫通孔(形鋼凹面側)
43b ユニット固定用貫通孔(形鋼凸面側)
51 縦フレーム固定用ウェブ部突起
61 縦フレーム用アングル(形鋼凹面側)
62 縦フレーム用アングル(形鋼凸面側)
63a ユニット固定用貫通孔(形鋼凹面側)
63b ユニット固定用貫通孔(形鋼凸面側)
64 縦フレーム固定ボルト・ナット
71 U字形鋼
72a U字形鋼上フランジ
72b U字形鋼下フランジ
73a U字形鋼上リブ
73b U字形鋼下リブ
74 リブ部突起
81 C字形鋼
82 C字形鋼
83 木ネジ
91 円形開口部リブ
101 リブ付形鋼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺薄鋼板の長手軸方向に向かって両端を略90°に折り曲げ、中央平面部をウェブ、折り曲げた面をフランジとして構成される軽量形鋼の、ウェブには軸方向に間隔をおいて複数の大口径略円形孔を開口させ、上フランジと下フランジそれぞれに、断面略矩形で軸方向長尺の木材を密着接合させたことを特徴とする、薄鋼板と木材の複合梁。
【請求項2】
フランジと木材の接合は、両者の接合部全体に多数の釘又は木ネジ又はボルト・ナットによる固定、接合部全体をフランジ自体に加工した突起による固定、接触面全体に接着剤を塗布してなる接合、の一つあるいは併用による、請求項1に記載の複合梁。
【請求項3】
請求項1および2に記載の複合梁長手軸方向の両端それぞれにおいて、一つ又は複数の木材よりなる縦部材、あるいは一つ又は複数の形鋼よりなる縦部材を設け、該縦部材とウェブとの間で、両者を貫通する複数の釘又は木ネジ又はボルト・ナットによる結合、ウェブ自体に加工した突起による固定、接触面に接着剤を塗布してなる接合、の一つあるいは併用により、縦フレームを構成することによってなる、複合梁ユニット。
【請求項4】
請求項1に記載の薄鋼板のフランジ端を更に略90°内側に折り曲げてリブを設けた断面略C字の形鋼、又は、略90°外側に折り曲げてリブを設けた断面略U字の形鋼で構成される、請求項1〜3記載の複合梁ユニット。
【請求項5】
上記形鋼の二つの背面を重ねて構成される、請求項1〜4に記載の複合梁ユニット。
【請求項6】
上記のウェブに形成された大口径の略円形孔の開口端部が環状のリブを有する、請求項1〜5に記載の複合梁ユニット。

【図9】円形開口部に設けたリブの断面詳細
【符号の説明】
10 複合梁ユニット
11 ウェブ
12a 上フランジ
12b 下フランジ
13 略円形開口部
14a 上弦材
14b 下弦材
15 縦フレーム(形鋼凹面側)
16 縦フレーム(形鋼凸面側)
21a 上フランジ部突起
21b 下フランジ部突起
31 木ネジ
41a 上弦材固定ボルト・ナット
41b 下弦材固定ボルト・ナット
42 縦フレーム固定ボルト・ナット
43a ユニット固定用貫通孔(形鋼凹面側)
43b ユニット固定用貫通孔(形鋼凸面側)
51 縦フレーム固定用ウェブ部突起
61 縦フレーム用アングル(形鋼凹面側)
62 縦フレーム用アングル(形鋼凸面側)
63a ユニット固定用貫通孔(形鋼凹面側)
63b ユニット固定用貫通孔(形鋼凸面側)
64 縦フレーム固定ボルト・ナット
71 U字形鋼
72a U字形鋼上フランジ
72b U字形鋼下フランジ
73a U字形鋼上リブ
73b U字形鋼下リブ
74 リブ部突起
81 C字形鋼
82 C字形鋼
83 木ネジ
91 円形開口部リブ
101 リブ付形鋼
【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−257853(P2006−257853A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−118893(P2005−118893)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(591190955)北海道 (121)
【Fターム(参考)】