説明

薬剤を含有する生体吸収性ポリマーステント及びその製造方法

【課題】薬剤を含有する生体吸収性ポリマーを溶融成形した成形体から構成される、薬剤徐放性、生体吸収性および形態保持性に優れたステントを提供する。
【解決手段】生体吸収性ポリマーを溶融成形して得られる成形体からなるステントにおいて、前記生体吸収性ポリマーは、融点が90℃以上の結晶性ポリマーであり、前記生体吸収性ポリマーと分解温度が100℃以上の薬剤とを含有する組成物から溶融成形されてなることを特徴とするステントおよび該ステントの製造方法。
生体吸収性ポリマーとして、L体90%以上、D体10%以下のポリ乳酸が好ましく、薬剤としては、アルガトロバンが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管、胆管、気管、食道、尿道等の生体管腔内に生じた狭窄部、もしくは閉塞部、とくに心臓冠動脈の狭窄改善に有効な、薬剤を含有する生体吸収性ポリマー製チューブから構成されるステントおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステントは、金属製チューブをレーザー加工することにより所定の網目パターンを形成することにより製造され、場合によっては、さらにステント上に薬剤を含有するポリマーのコートが行われていた。このステントが生体内に留置されて、治療に用いられているが、金属製ステントは、一旦生体内に留置されると半永久的に留置部位にとどまるため、再治療の障害となったり、異物反応を生じるおそれがあったりして、生体内に半永久的に留置させるのは適当ではない場合もあるとの問題が指摘されるようになってきた。上記のことから、最近、生分解性ポリマーを溶融紡糸して得られた生体吸収性ポリマー繊維から、所定形状のステントを得ようとする試みがなされてきている(特許文献1)。
特許文献1においては、ポリ乳酸などの高融点の生体吸収性ポリマー繊維から管状体を形成してから、薬剤を含有するポリ−ε−カプロラクトンなどの低融点の生体吸収性ポリマーを該管状体にコートしたり(実施例5)、または高融点の生体吸収性ポリマー繊維と、薬剤を含有する低融点の生体吸収性ポリマー繊維との双糸で管状体を構成したり(実施例2)、または高融点の生体吸収性ポリマー繊維で管状体を構成し、薬剤含有低融点生体吸収性ポリマー繊維を管状体のまわりに絡ませたりしている(実施例4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】WO96/11720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されている生体吸収性ポリマー繊維から管状体を構成するためには、モノフィラメントまたはマルチフィラメントを互いに絡めながら管状体を形成しなければならず、そのため、生体吸収性ポリマー繊維から、所定の網目パターンを形成するとともに、安定した形態保持性を有する管状体を形成することが容易ではないという問題がある。
そこで、本発明者は、生体吸収性ポリマーに薬剤を含有させて、薬剤含有生体吸収性ポリマーから、繊維を形成するのではなく、チューブ状物を成形し、成形後チューブ状物に網目パターンを形成することによりステントを製造することができれば、効率的なプロセスのもとで、薬剤含有生体吸収性ポリマーステントが得られ、従来技術が有する欠点を克服したステントを提供できると考えた。
【0005】
したがって、本発明第1の課題は、薬剤を含有した生体吸収性ポリマーをチューブ状に成形し、成形したチューブにレーザー加工を施して、所定の網目パターンを形成することにより、生体内に留置されて、適度な薬剤徐放性を有するとともに、適度の生体吸収性を備え、かつ、形態保持性を有するステントを提供することである。
また、本発明第2の課題は、上記のステントの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の第1の課題は、生体吸収性ポリマー(A)をチューブ状に溶融成形した成形体からなるステントにおいて、前記生体吸収性ポリマー(A)は、融点が90℃以上の結晶性ポリマーであり、前記生体吸収性ポリマー(A)と分解温度が100℃以上の薬剤(X)とを含有する組成物を溶融成形してなることを特徴とするステントを提供することにより解決される。
【0007】
上記のステントにおいて、前記生体吸収性ポリマー(A)は、融点が110℃以上であり、かつ、前記薬剤(X)の分解温度が120℃以上であることが好ましい。
また、上記のステントにおいて、前記生体吸収性ポリマー(A)は、ガラス転移温度が40℃以上の結晶性ポリマーであることが好ましい。
さらにまた、上記のステントにおいて、前記生体吸収性ポリマー(A)がポリ乳酸であり、前記ポリ乳酸において、L体とD体の比率(D/L比)が、10/90〜0/100(質量比)であることが好ましい。
【0008】
上記のステントにおいて、前記薬剤(X)はアルガトロバンであることが好ましく、前記薬剤(X)は、粒径30μm以下の粒子にして生体吸収性ポリマー(A)に混合されていることが好ましい。また、前記生体吸収性ポリマー(A)100重量部に対して前記薬剤(X)が100ppm〜30重量部の範囲で含有されていることが好ましい。
上記のステントにおいて、前記成形体は、前記生体吸収性ポリマー(A)が海で、前記薬剤(X)が島である海島構造を有することが好ましい。
【0009】
上記のステントにおいて、前記チューブの片面または両面に、生体吸収性ポリマー(B)と薬剤(Y)を含有する層が形成された複層構造を有することが好ましい。前記生体吸収性ポリマー(B)と生体吸収性ポリマー(A)とは、また、前記薬剤(Y)と前記薬剤(X)とは、それぞれ同一でもよく、または異なっていてもよい。
【0010】
上記第2の課題は、生体吸収性ポリマー(A)をチューブ状に溶融成形し、得られたチューブ状の成形体に所定のパターンを形成するように加工を行うステントの製造方法において、
融点が90℃以上の結晶性ポリマーである生体吸収性ポリマー(A)に、分解温度が100℃以上の薬剤(X)を混合して、チューブ状に溶融成形することを特徴とするステントの製造方法を提供することにより解決される。
【0011】
上記のステントの製造方法において、前記チューブの片面または両面に、生体吸収性ポリマー(B)と薬剤(Y)を含有する層を共押出により形成して複層構造とすることが好ましい。
また、上記のステントの製造方法において、前記チューブの片面または両面に、生体吸収性ポリマー(B)と薬剤(Y)を含有する層をコーティングにより形成して複層構造とすることが好ましい。
なお、前記生体吸収性ポリマー(B)と前記生体吸収性ポリマー(A)とは、また、前記薬剤(Y)と前記薬剤(X)とは、それぞれ同じであってもよく、異なっていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明により得られるステントは、ステント本体内に薬剤を含有しているため、生体内で薬剤を徐放することができるので、長期にわたって治療効果を発揮することができる。そして、薬剤が放出されつつ、ステント本体を構成する生体吸収性ポリマーが生体内で徐々に消失するため、消失後は生体に与える弊害がない。
【0013】
さらに、本発明において、ステント本体を構成する生体吸収性ポリマーとして、融点が90℃以上の結晶性ポリマーを用いるので、そうでない生体吸収性ポリマーから形成されたステントに比べて、形態保持性に優れているため、生体内に留置されて長期の使用に耐えることができる。生体吸収性ポリマーの融点が90℃以下の方が薬剤を混合してチューブ状に成形しやすい点があるものの、融点が90℃以下、特に60℃以下の生体吸収性ポリマーは、機械的強度(ヤング率)が低く、生体内において形態保持性が不十分な場合があることから、ステント本体を形成するポリマーとしては用いられない。
【0014】
ステント本体を形成する生体吸収性ポリマーに含有される薬剤としては、分解温度が100℃以上の耐熱性のある薬剤を用いることにより、薬剤を混合した、融点が90℃以上の結晶性ポリマー組成物から溶融成形によりステントを製造することができる。なかでも、耐熱性のある薬剤として、内皮細胞の増殖を阻害することなく、血管内膜肥厚抑制効果を有するアルガトロバンが好ましく用いられる。かかる薬剤は、生体吸収性ポリマーに混合されるに際し、30μm以下の微粉末にして混合することにより、生体吸収性ポリマー中に均一に分布し、ステント全体にわたって均一な徐放性と構造体としての力学的強度を実現することができる。
【0015】
本発明に係るステントの製造方法によれば、生体吸収性ポリマーと薬剤とを含有する組成物を加熱溶融することにより所定径のチューブが成形され、このチューブをレーザー加工することにより所定の網目パターンを有するステントを製造することができるから、製造工程がシンプルであり、生体吸収性ポリマーから容易にステントを製造することができる。金属製チューブからのステント形成と同様の手法が適用されて種々の仕様のステントを形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るステントの形状の1例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(ステント)
本発明のステントは、血管や気管、消化器管、尿管、卵管、胆管等種々の生体管路に適用し、生体管路に挿入して留置するのに用いることのできるものである。好ましくは、血管やリンパ管等の脈管、より好ましくは冠動脈等の血管に挿入されるのに適している。
ステントとしては、自己拡張型及びバルーン拡張型のいずれであってもよいが、好ましくは、バルーン拡張型である。ここで、自己拡張型ステントとは、チューブ等の保持体内に収容されることにより縮径された状態で体内に挿入され、装着部位にて保持体が引き抜かれた際に、自己の復元力により拡径されることで生体管路の内腔を確保する形態のものをいう。一方、バルーン拡張型ステントとは、バルーン外面に縮径された状態でマウントされたのちバルーンとともに体内に挿入され、装着部位にてバルーンの膨張に伴い拡径されたのちバルーンから独立させることで生体管路の内腔を確保する形態のものをいう。
本発明において、ステントは、下記に述べるように生体吸収性ポリマーを溶融成形によりチューブ状に成形し、得られたチューブをレーザー加工により、所定の網目パターンを形成することにより得ることが出来る。
【0018】
このようにして得られたステントは単層構造であるが、さらに、本発明においては、上記のチューブ状に成形された成形物を主体層とし、該チューブの成形時に共押出しにより、該チューブの片面または両面に、内側層および/または外側層を形成して複層構造にしてもよく、また、上記のチューブ状に成形された成形物を主体層とし、該チューブの片面または両面に、コーティングにより、内側層および/または外側層を形成して複層構造にしてもよい。
【0019】
(生体吸収性ポリマー)
本発明においてステント本体(主体層)を形成するために用いられる生体吸収性ポリマーは、熱溶融可能な生体吸収性ポリマーであることを要する。
本明細書において、生体吸収性とは、生分解性、生体内分解性および/または生体内吸収性を意味しており、通常、生体吸収性ポリマーは、好ましくは3年以内に、より好ましくは2年以内に、生体内において分解または溶解し、生体に吸収される。
本発明において主体層形成のために用いられる生体吸収性ポリマーは、融点が90℃以上(好ましくは、110℃以上)の結晶性ポリマーである。ステントが生体内での使用される環境、すなわち、生体管路壁を支持しているステントは、体温・湿潤下において管壁から常時、半径方向の収縮圧力と、長軸方向の伸縮力を受けていることを考慮して、ステントとしての形態保持性の点から、生体吸収性ポリマーは、結晶性ポリマーである必要がある。
本発明において、ポリマーの結晶性とは、例えば、示差走査型熱量計(DSC)などの熱分析法において、融解熱を示すものをいう。
【0020】
本発明において主体層を形成するために用いられる生体吸収性ポリマーとしては、融点が90℃以上の生体吸収性のポリマーであれば特に限定されることなく、いずれの生体吸収性ポリマーであってもよいが、バルーン拡張型のステントの場合、好ましくは、ガラス転移温度が40℃以上、さらに好ましくは、50℃以上のポリマーである。
【0021】
本発明において用いられる、融点が90℃以上、かつ、ガラス転移温度が40℃以上の結晶性ポリマーとしては、ポリ(L−乳酸)およびポリ(D−乳酸)(ともに、融点:170〜190℃、ガラス転移温度:50〜65℃);ポリ(DL−乳酸)(D/L:7/93)(融点:153℃、ガラス転移温度:64℃)など、L体とD体の比率(D/L比)が、質量比で10/90〜0/100および90/10〜100/0の範囲内にあるポリ乳酸;ポリ(乳酸(L)−グリコール酸(G))共重合体(L/G:85/15)(融点:140〜150℃、ガラス転移温度:55℃)やポリ(乳酸(L)―グリコール酸(G))共重合体(L/G:10/90)(融点:202〜210℃、ガラス転移温度:42℃)など、乳酸(L)とグリコール酸(G)の共重合比が、質量比で、L/G=80〜100/20〜0または20〜0/80〜100の範囲内にあるポリ(乳酸―グリコール酸)の共重合体などが挙げられる。
【0022】
融点が90℃以上で、ガラス転移温度が40℃以下の結晶性の生体吸収性ポリマーとしては、ポリグリコール酸(融点:230℃、ガラス転移温度:36℃)、ポリ(乳酸(L)−ε−カプロラクトン(C))共重合体(L/C:70/30)(融点:105〜115℃、ガラス転移温度:20℃)、ポリヒドロキシブチレート(融点;180℃、ガラス転移温度:4〜40℃)、ポリ(乳酸―ε−カプロラクトン)(融点:60℃、ガラス転移温度:−60℃)、ポリジオキサノン(融点:106℃、ガラス転移温度:−10〜0℃)、ポリ(グルコール酸(G)−トリメチレンカーボナート(T))(G/T:9/1)(融点:190℃、ガラス転移温度:20℃以下)、ポリブチレンサクシネート(融点:110℃、ガラス転移温度:−40℃)、ポリエチレンサクシネート(融点:100℃、ガラス転移温度:−11℃)などが挙げられ、これらの生体吸収性ポリマーも本発明において用いられる。
【0023】
融点が90℃未満の生体吸収性ポリマーについては、力学的強度不足のため体温以下の温度領域において無加重下および/または血管を支持する程度の加重下で塑性変形する可能性を有しているので好ましくない。融点が90℃未満のポリマーとして、ポリ−ε−カプロラクトン、ポリ(DL乳酸―ε−カプロラクトン)などが挙げられる。これらのポリマーは、本発明において、ステントの主体層を形成するためのポリマーとして用いることはできないが、後述するように、共押出しまたはコーティングにより内側層または外側層を形成するための生体吸収性ポリマーとして用いることは可能である。
【0024】
上記のように、ポリ乳酸のL体、D体の混合比率(D/L比)は、質量比で、10/90〜0/100または90/10〜100/0であることが好ましく、L体にD体が、10質量%以上あるいはD体にL体が10質量%以上混合すると、ポリ乳酸は、非晶性となり、形態保持性が十分でなくなるので、本発明においては用いられない。
また、ポリ(DL−乳酸)(D/L:50/50)、ポリ(乳酸(L)―グリコール酸(G))共重合体(L/G:50/50)などは、非晶性であるので、本発明では用いられない。
【0025】
(薬剤)
本発明において、主体層を形成する生体吸収性ポリマーに混合されて用いられる薬剤としては、ポリマーが熱溶融されることから、分解温度が100℃以上(好ましくは、120℃以上)の薬剤であることが必要であり、その代表例は、特開2010−264253号公報に開示されている、内皮細胞の増殖を阻害することなく、血管内膜肥厚抑制効果を有するアルガトロバン[(2R,4R)−4−メチル−1−[N2−(RS)−3−メチル−1,2,3,4−テトラヒドロ−8−キノリンスルホニル)−L−アルギニル]−2−ピペリジンカルボン酸水和物](分解温度:180〜220℃)である。
【0026】
上記の薬剤以外にも、本発明で用いられる薬剤として、プロテアーゼ阻害効果を有するザイメガトラン、メガトラン、ダビガトラン、ダビガトランエテキシレートメタスルホン酸塩、メシル酸ガベキサート[エチル−4−(6−グアニジノヘキサノイロキシ)ベンゾエートメタンスルホネート]、メシル酸ナファモスタット(6−アミジノ−2−ナフチルp−グアニジノベンゾエートジメタンスルホネート)、ジピリダモール(2,6−ビス(ジエタノールアミノ)−4,8−ジピペリジノピリミド(5,4−d)ピリミジン]、トラピジル(7−ジエチルアミノ−5−メチル−s−トリアゾロ[1,5−a]ピリミジン)などが、耐熱性が高く、ポリマーに配合する薬剤として挙げることができる。
さらに、分解温度が100℃以上である抗ガン剤、免疫抑制剤、抗生物質、抗血栓剤、HMG−CoA還元酵素阻害剤、AT1受容体拮抗剤、ACE阻害剤、カルシウム拮抗剤、抗炎症剤、抗アレルギー剤、抗酸化剤などがポリマーに配合する薬剤として挙げることができる。これらの薬剤は、ポリマーによって惹起される、ポリマーと接触する生体組織における炎症またはおよび細胞増殖反応を抑制し、再狭窄を抑制する。
【0027】
薬剤含有量としては、100ppm〜30重量%の範囲内において、薬剤の種類、治療効果などを勘案して適宜選択される。
薬剤の混合量が100ppm未満では、治療効果が期待しにくく、また、薬剤の含有量が30重量%を越えると、薬剤の放出量が大きくなりすぎ、また、ポリマー成形物の力学的特性に悪影響を与えるおそれがある。好ましくは、1〜20重量%の範囲である。
【0028】
薬剤粒子の粒径としては、30μm未満であることが好ましく、これより粒径が大きいと、ポリマーとの均一混合が難しくなり、また、生体内での放出性の均一性が保ちにくくなる。このため、薬剤を上記の粒子径以下になるように、ポリマーとの混合前に微粉化することが好ましい。微粉化法としては、ボールミル、縦型ジェットミル、遊星ボールミル、振動ミルなどによる機械的な粉砕法、噴霧乾燥法、凍結乾燥法、再結晶法などが例示されるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
(生体吸収性ポリマーと薬剤との混合)
生体吸収性ポリマーのペレットは、通常、円の直径が1〜6mm、長さ1〜6mmの円柱状または1〜6mmの球状で得られるが、必要に応じて粉砕し、これを微粉化した薬剤と混合機で混合して、押出機などの成形機に供給される。
混合に用いられる混合機としては、バンバリーミキサー、スーパーミキサーなどの混合機が例示されるがこれに限定されない。また、ポリマーペレットと薬剤とをそれぞれ押出機に定量供給を行い、押出機中において混合してもよい。あるいは、一旦ポリマーと薬剤を混合して成形したペレット(マスターバッチ)を、ポリマーペレットと混合機で混合して、押出し成形することにより、ポリマー中の薬剤の分散性をさらに向上させてもよい。
【0030】
(溶融成形)
生体吸収性ポリマーと薬剤を混合された混合物は、成形機に供給されて加熱溶融されて、所定形状のチューブ状に成形することができる。成形温度としては、生体吸収性ポリマーの溶融温度以上、かつ、薬剤の分解温度以下で選択することが好ましい。
溶融成形方法としては、通常の押出成形、射出成形などの成形法が用いられ、チューブ状に成形される。押出機としては、単軸、二軸の押出機などを用いることができる。溶融状態にあるポリマーと薬剤の混合物をダイから押し出してチューブ状に溶融成形される。
チューブの外径は、ステントの用途によって大きく異なるが、冠動脈ステント用としては、0.5〜2.0mmの範囲内にあることが好ましい。チューブの肉厚としては、0.05〜0.3mmの範囲内にあることが好ましい。
生体吸収性ポリマーと薬剤との溶融後の混合状態は、生体吸収性ポリマーが海構造となり、この海構造の中に、薬剤が島状となって分散していることが好ましく、薬剤の不均一な分布、または薬剤の凝集が起こることは、徐放性の妨げとなるので好ましくない。
【0031】
(共押出し)
本発明に係るステントは、上記のように、融点90℃以上の結晶性の生体吸収性ポリマーと分解温度100℃以上の薬剤とからなる組成物をチューブ状に溶融成形することにより得られるが、チューブ状成形体は単層構造だけでなく、上記単層を主体層として、その外面または内面または両面に補助的な外側層および/または内側層を形成した複層構造にしてもよい。この場合、ダイとして、多層ダイを用いることにより共押出を行うことにより複層構造を得ることができる。
補助的な層は、生体吸収性ポリマーと薬剤とから構成されるが、補助的な層であるから、生体吸収性ポリマーとしては、上記のような融点が90℃以上の生体吸収性ポリマーだけでなく、融点が90℃以下のポリマー、例えば、ポリカプロラクトンなどを用いてもよい。また、薬剤としては、生体吸収性ポリマーとして融点が90℃以下のポリマーが用いられた場合には、上記のような分解温度が100℃以上の薬剤だけでなく、分解温度が100℃よりも低い薬剤を用いてもよい。
このような複層構造の場合には、薬剤の含有量は、主体層よりも外面または内面に多く含ませてもよい。
【0032】
(コーティング)
また、本発明に係るステントは、主体層の内面、外面または両面に、生体吸収性ポリマーと薬剤とからなる組成物を溶解した溶液をスプレーなどによりコーティングして、補助的な内側層および/または外側層を形成してもよい。コーティングにより補助的な層を形成する場合には、用いられる生体吸収性ポリマーとしては融点が90℃以上の結晶性のポリマーである必要はなく、融点が90℃未満の生体吸収性ポリマーを含む生体吸収性ポリマーの中から、適宜選択することができる。また、薬剤としても、分解温度が100℃以上の薬剤だけでなく、分解温度に係わりなく薬剤を選択して用いることが出来る。
【0033】
(パターン形成)
溶融成形により得られたチューブの表面を、コンピュータに記憶させたパターン情報に基づいたレーザーカット技術により、パターン通りに切断することによって網目を形成して、ステントを製造することができる。なお、パターンの形状については、金属製ステントに係る日本特許第3654627号公報、同3605388号公報に開示されているように、真っすぐな、または比較的真っすぐな形状と、曲線を有する形状とから構成することができる。かかる形状を有することにより、ステントに要求される軸方向の寸法変化を極力抑えながら径方向への拡張を行うことができる。
【実施例】
【0034】
以下に、実施例及び比較例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0035】
<実施例1>
ポリ(DL‐乳酸)(D/L=7/93)(融点:153℃、ガラス転移温度:64℃)のチップに、アルガトロバン(分解温度:180〜220℃)(重量平均粒径:2μm;最大粒径30μm以下)を、ポリ(DL−乳酸)に対して2重量%混合した混合物を、押出機に供給して、170℃で溶融させながら、外径:1.6mm、肉厚:0.2mmのチューブを成形した。得られたチューブを、レーザー加工を施して、図1に示す形状を有するステントを製造した。
なお、アルガトロバンについては、ポリマー混合前に、再結晶と分級により、重量平均粒径2μm、最大粒径を30μm以下になるように調整した。
生体吸収性ポリマーと薬剤との混合状態は、顕微鏡観察(拡大率500倍)により、海状のポリマー中に薬剤が均一に島状に分散していることが観察された。
得られたステントをバルーンカテーテル表面にマウントし、バルーンに水を加圧注入して、36℃の雰囲気下でステントの外径が3.0mmになるまで拡張した。形態保持性を評価するため、その後、バルーンを収縮させてステントから抜き去り、1週間後にステントの外径を測定すると、2.9mmであり、形態保持性が良好であった。
【0036】
<実施例2>
ポリジオキサノン(融点=106℃、ガラス転移温度<20℃)にアルガトロバンの粉末を分散して、押出し機に供給してチューブを成形した。このチューブを実施例1と同様にレーザー加工してステントを製造した。このステントを実施例1と同様にして形態保持性を評価したところ、拡張時に3.0mmあった直径は、1週間後に、2.6mmを保持していた。
【0037】
<比較例1>
非晶性のポリ(D,L−乳酸)(D/L=35/65)(融点:無し、ガラス転移温度47℃)を実施例1と同様にして、アルガトロバンを混合して、押出機に供給して、チューブ状に成形、レーザー加工によりステントを作製した。
得られたステントを、実施例1の方法と同様にして形態保持性を見たところ、拡張時に3.0mmであった外径が、1週間後には2.3mmまで収縮していた。
【0038】
<比較例2>
ポリカプロラクトン(融点:60℃、ガラス転移温度:−60℃)にアルガトロバンの粉末を分散して、押出機に供給してチューブ状にしようとしたが、成形中にチューブの形状が経時的に変化し、レーザー加工のできる精度のチューブを得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明のステントは、生体内に留置されているステントを構成している生体吸収性ポリマーから薬剤が徐々に放出され、ついで、生体吸収性ポリマーが生体内で消失することからポリマー消失後は、ポリマーの存在による為害性がなく、治療に非常に有効なステントが提供される。
したがって、本発明は、ステントとして用いられる生体吸収性ポリマー・チューブを成形する成形物製造分野、成形物からステントを製造する医療器具製造分野、このステントを用いて治療を行う医療業界などにおいて、産業上の利用可能性が高い。
【0040】
以上の通り、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の追加、変更または削除が可能であり、そのようなものも本発明の範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性ポリマー(A)をチューブ状に溶融成形して得られた成形体からなるステントにおいて、
前記生体吸収性ポリマー(A)は、融点が90℃以上の結晶性ポリマーであり、前記生体吸収性ポリマー(A)と分解温度が100℃以上の薬剤(X)とを含有する組成物を溶融成形してなることを特徴とするステント。
【請求項2】
請求項1において、前記生体吸収性ポリマー(A)の融点が110℃以上であり、かつ前記薬剤(X)の分解温度が120℃以上であるステント。
【請求項3】
請求項1または2において、前記生体吸収性ポリマー(A)は、ガラス転移温度が40℃以上の結晶性ポリマーであるステント。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、前記生体吸収性ポリマー(A)がポリ乳酸であり、前記ポリ乳酸において、L体とD体の比率(D/L比)が、質量比で10/90〜0/100の範囲内にあるステント。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、前記薬剤(X)はアルガトロバンであるステント。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項において、前記薬剤(X)は粒径30μm以下の粒子であるステント。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項において、前記成形体は、前記生体吸収性ポリマー(A)が海で、前記薬剤(B)が島である海島構造を有するステント。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項において、前記生体吸収性ポリマー(A)100重量部に対して前記薬剤(X)が100ppm〜30重量部の範囲で含有されているステント。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項において、前記チューブの片面または両面に、生体吸収性ポリマー(B)と薬剤(Y)を含有する層が形成されてなる複層構造を有するステント。
【請求項10】
請求項9において、前記生体吸収性ポリマー(B)と前記生体吸収性ポリマー(A)とは、また、前記薬剤(Y)と前記薬剤(A)とは、それぞれ同一または異なるステント。
【請求項11】
生体吸収性ポリマーをチューブ状に溶融成形し、得られたチューブ状の成形体に所定のパターンを形成するように加工を行うステントの製造方法において、
融点が90℃以上の結晶性ポリマーである生体吸収性ポリマー(A)に、分解温度が100℃以上の薬剤(X)を混合して、チューブ状に溶融成形することを特徴とするステントの製造方法。
【請求項12】
請求項11において、前記チューブの片面または両面に、生体吸収性ポリマー(B)と薬剤(Y)を含有する層を共押出により形成して複層構造とするステントの製造方法。
【請求項13】
請求項11において、前記チューブの片面または両面に、生体吸収性ポリマー(B)と薬剤(Y)を含有する層をコーティングにより形成して複層構造とするステントの製造方法。
【請求項14】
請求項12または13において、前記生体吸収性ポリマー(B)と前記生体吸収性ポリマー(A)とは、また、前記薬剤(Y)と前記薬剤(X)とは、それぞれ同一または異なるステントの製造方法。




【図1】
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【公開番号】特開2013−42915(P2013−42915A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182465(P2011−182465)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(504180239)国立大学法人信州大学 (759)
【出願人】(504184721)株式会社日本ステントテクノロジー (28)
【Fターム(参考)】