説明

薬剤送達のリポソーム

【課題】本発明は、薬剤送達のリポソームに関する。
【解決手段】リポソームは、リポソーム内部の水性相内に分布した少なくとも1つの所望の薬剤の分子、およびリポソーム細胞膜の何れか一方の側または両側に付着した同一の又は他の薬剤の分子を含む。特に本発明は、所望の薬剤の分子の少なくとも一部が、少なくとも1つの脂質画分に在る官能基と反応する官能基を備え、薬剤が、化学結合で、例えば、脂質分子のヒドロキシル基と薬剤の酸性残基とのエステル結合で脂質細胞膜に共有結合する。好適な形態として、所望の薬剤が、エリスロポエチンのような糖タンパク質である。本発明は、さらにリポソームの製造方法、および、リポソームを含む薬剤組成物に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エリスロポエチンまたは他の薬学的活性化合物を含むリポソームに関する。薬学的活性化合物は、糖タンパク質、または、グリコシル化サイトの末端にシアル酸基を有する糖タンパク質成分、を有している。本発明は、さらにリポソームの製造方法に関し、リポソームを含む組成物に関し、およびリポソームの使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エリスロポエチン(EPO)は、赤血球の合成に含まれる既知の糖タンパク質である。ヒト血清アルブミン(HSA)と一緒にEPOを含む薬剤組成物は、担体として知られている。しかし、自然源から得られるHSAの使用は、感染症(特にウィルス感染)を伝搬する潜在的な脅威を常にもたらすため、担体としてのHASを、非経口のEPOの製剤で置換える試みがなされてきた。EP0937456A1は、水性分散液のリポソームとエリスロポエチンを含むリポソームベースの非経口組成物を開示している。糖タンパク質は、リポソーム内に本質的に組込まれず、リポソームの外側の水性相に実質的に存在する。リポソームは、エタノールの脂質相を水性緩衝液に注入することで形成される。高速均質化で1μmより小さい直径のリポソームを形成する。JP8231417は、リポソームのEPO組成物の形成方法を開示している。これは逆相蒸発でリポソーム内にEPOを含むリポソームを形成している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来技術の方法は、幾つかの利点を備えているが、本発明の目的は、既知の組成物より優れたリポソームを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
このリポソームは、所望の薬剤を含み、その薬剤が、内部、例えばリポソームの水性相の中に封入されているだけでなく、リポソーム細胞膜の内側および/または外側に結合または付着している。この所望の薬剤を装填したリポソームは、受動的な薬剤封入による通常または理論的に得られる装填の量を超えている。理論的な計算は、薬剤と脂質の量、および、リポソームの平均サイズ及び/又は全体の内部体積(捕捉体積)から数値計算を行なう。従って、本発明は、少なくとも1つの所望の薬剤の分子を備えるリポソームに関する。薬剤分子の量は、水性相の内部に、通常の受動的な封入(薬剤を細胞膜に付着させない)で達成できる薬剤装填を越える。
【0005】
所望の薬剤は、薬学的活性化合物で、好ましい形態では、糖タンパク質、または、少なくともオリゴ糖または多糖成分を含む他の生物活性化合物である。糖タンパク質、オリゴ糖または多糖成分は、自由にアクセスできる反応性のシアル酸基を、例えば糖鎖形成サイトの末端に有している。
【0006】
本発明の目的は、所望の薬剤を高密度で装填したリポソームを提供することにある。所望の薬剤は、リポソーム内に封入されており、薬剤の一部は、外側から及び典型的には内側から、リポソームの細胞膜に結合または付着している。好ましい形態として、薬剤は、エリスロポエチンである。
【0007】
本発明の目的には、高密度に装填したリポソームを形成する方法もある。
【0008】
高濃度に装填したリポソームを含む薬剤組成物を提供するのも本発明の目的である。
【0009】
発明の原理は、独立項で記載し、発明の種々の実施形態は、従属項の主題となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の第1の実施形態は、薬剤送達のリポソームに関する。リポソームは、リポソーム内部の水性相内に分布する少なくとも1つの所望の薬剤の分子を備えている。リポソームは、さらに、その細胞膜の何れか一方の側または両側に付着する同一の薬剤分子または他の薬剤分子を備えている。付着は、共有結合または非共有結合で、薬剤と脂質間の化学結合である。付着は、または化学結合以外の付着力で引き起こされる。これに限るものでないが、薬剤と脂質間のファンデルワールス力、水素結合、静電気力、親水性−疎水相互作用、親和力および/または極性の相互作用およびその他同種のものである。
【0011】
第2の実施形態は、脂質の細胞膜に付着する薬剤分子の少なくとも一部が、細胞膜に共有結合的に結びついている。
【0012】
好ましい実施形態として、共有結合は、脂質の反応性の官能基と、その官能基と反応する薬剤の官能基との間の化学結合である。好ましくは、化学結合の種類は、ヒトまたは動物への投与の際に、薬剤の所望の生理学的作用の妨げないことである。好ましくは、化学結合は、投与でヒトまたは動物の生理学的条件で切断されるのが好ましい。
【0013】
本発明は、リポソームに関し、脂質の官能基が、ヒドロキシル基で、多価アルコール残基の一部でもよい。適切な多価アルコール残基は、糖アルコール残基、特にグリセロール残基およびイノシトール残基の脂質で自然に生じるものである。しかし、所望の薬剤をリポソーム細胞膜に付着させる脂質官能基は、コリン残基、例えば、ホスファチジルコリン(レシチン)である。
【0014】
脂質官能基が、ヒドロキシル基の場合、薬剤の反応性の官能基が、特にリン酸残基、硫酸残基、炭酸残基およびシアル酸残基の群から選択される酸性基である。この場合、酸性基を有する薬剤分子または薬剤分子の少なくとも一部が、ヒドロキシル基を有する脂質分子の少なくとも一部にエステル結合で共有結合的にリンクしている。
【0015】
リポソームに関する他の実施形態として、薬剤が、糖タンパク質であるか又はオリゴ糖または多糖成分を備え、それらが、少なくとも1つの遊離反応シアル酸基からなり、ヒドロキシル含有脂質でのエステル化が可能となる。
【0016】
リポソームのベシクル細胞膜の脂質組成は、典型的には、少なくとも1つの自然源または非自然源の脂質を含む。これらの脂質は、リン脂質、グリコ脂質、セラミド、および、これら脂質の何れか1つの誘導体、から成る群から選択される。
【0017】
他の実施形態のリポソームは、リン脂質からなり、そのリン脂質は、スフィンゴリン脂質およびグリセロリン脂質からなる群から選択される。スフィンゴリン脂質は、スフィンゴミエリンからなり、グリセロリン脂質は、レシチン、ケファリン、カルジオリピン、ホスファチジルイノシトール及びホスファチジルイノシトールリン酸塩である。
【0018】
リポソームが、リン脂質の代わりにグリコ脂質、又はリン脂質に加えてグリコ脂質から成る場合、グリコ脂質は、スフィンゴ糖脂質およびグリセロ糖脂質からなる群から選択する。スフィンゴ糖脂質は、セレブロシド、ガングリオシド、スルファチドから成る。 グリセロ糖脂質は、グリコシルモノグリセリドおよびグリコシルジグリセリドから成る。
【0019】
本発明の非常に特有な実施形態に、リポソームが、脂質組成を備えている場合である。細胞膜は、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、コレステロール、および卵ホスファチジルグリセロール(EPG)から成り、モル比がDPPC:コレステロール:EPG=7:2:1とするが、この比は、定性的および/または定量的に変更してもよい。
【0020】
リポソーム内に封入およびリポソームに付着させる送達用の薬剤が、エリスロポエチンである、ことを特徴とする。
【0021】
本発明の他の実施形態に、薬剤としてに許容できる担体を共に含む薬剤を装填したリポソームを備える薬剤組成物がある。薬剤組成物は、液体、半液体、または固形で投与できるもので、特に非経口で、例えば、注入溶液、鼻のスプレー、吸入液体、クリーム、ゲル、軟膏、坐薬またはローションの形式で、局所的または全身の非経口投与である。
【0022】
本発明は、さらに薬剤を装填したリポソームの製造方法に関する。リポソームは、リポソーム内部の水性相内に分布する少なくとも1つの所望の薬剤の分子を備え、さらに、リポソーム細胞膜の何れか一方の側または両側に付着する同一の薬剤または他の薬剤の分子を備えている。リポソームの製造方法は、下記工程からなる。−有機溶媒中の脂質相を用意する。脂質相は、少なくとも1つの脂質画分を備え、各脂質分子は、少なくとも1つの反応性の官能基を有している。−緩衝液及びそれに溶解した少なくとも1つの所望の薬剤から成る水性相を用意する。少なくとも1つの薬剤は、反応性の官能基を備え、その官能基は、脂質の官能基と反応する。−リポソームを形成する条件下で、脂質相を水性相に供給する。−状況に応じて水性相をループで循環させ、供給を繰返し、リポソームによる薬剤取込みの効率を増す。−薬剤を装填したリポソームを収穫する。薬剤分子の少なくとも一部が、リポソーム内に組み込まれ、薬剤分子の他の部分は、リポソームの何れか一方の側または両側に付着する。
【0023】
“反応性の官能基”または“官能基との反応”は、薬剤および脂質との関係で使用する場合、必ずしも共有結合となる性質の反応または反応性を意味するものでない。脂質と薬剤間の化学結合よりもむしろ、程度の差こそはあるが、強力な付着または結合の性質のものである。
【0024】
脂質の官能基は、ヒドロキシル基で、多価アルコール残基の1部のヒドロキシル基である。多価アルコール残基は、糖アルコール残基で、好ましくは自然発生の糖アルコールで、例えば、グリセロールおよびイノシトールで、多価アルコール残基は、またはレシチンにあるコリン基である。
【0025】
薬剤の反応性官能基は、特に、リン酸残基、硫酸残基、炭酸残基、シアリン酸残基から成る群から選択される酸性基である。
【0026】
製造方法の実施形態で、脂質相を水性相に供給する際に、相互作用、即ち化学反応を可能とする条件で行う。この化学反応は、反応性の官能基を持つ脂質の少なくとも一部が、反応性の官能基を持つ薬剤分子の少なくとも一部と反応することである。
【0027】
脂質の官能基は、ヒドロキシル基で、薬剤の官能基は、酸性残基である。相互作用および状況に応じて化学反応を可能にする条件は、反応温度を約25〜約65℃、そして水性相のpH値を約6〜約8にして、脂質相を水性相に供給する。すると反応性官能基を備える薬剤分子の少なくとも一部が、官能基を持つ脂質の少なくとも一部に付着、状況に応じてエステル化により共有結合する。
【0028】
薬剤は、糖タンパク質、または、オリゴ糖または多糖成分を有し、これらは、少なくとも1つの反応性のシアリン酸基を備えている。
【0029】
製造方法の実施形態として、脂質相が、少なくとも1つの自然源または非自然源の脂質を含んでいる。その脂質は、リン脂質、糖脂質、セラミド、および、これら脂質の誘導体からなる群から選択される。最も特定的な実施形態では、脂質相の脂質組成物は、DPPC:コレステロール:EPG=7:2:1のモル比に調整する。このモル比は、場合によって、定性的および/または定量的に大きく変化する。
【0030】
脂質相を水性相に入れる場合、圧力を加え、WO 02/36257に開示するクロスフロー注入法(cross-flow injection technique)を用いて、基本的に剪断変形の無い(shear-free)条件で行なう。この方法で、極めて穏やかな条件下で、迅速かつ自然なリポソームの形成が可能となる。ベシクル形成に、剪断による高速ホモジナイザーや、強力な乱流を起こす同様の手段を必要としない。
【0031】
本発明の製造方法に関して他の実施形態に関して以下に記載する。ベシクル形成の工程前に、脂質分子毎に少なくとも1つの反応性官能基を有する脂質を含む脂質画分の少なくとも一部または全体を、反応性官能基を持つ薬剤分子の少なくとも一部と反応させ、薬剤分子を脂質細胞膜に付着または共有結合させる。この事前反応は、ベシクル形成前に行なう。従って、脂質相を水性相に供給する前に、脂質相の脂質の少なくとも一部が、所望の薬剤分子の少なくとも一部に付着、または、状況により共有結合している。
【0032】
薬剤装填のリポソームの製造方法の他の実施形態に関して以下に記載する。リポソームは、リポソーム内部の水性相内に分布する少なくとも1つの所望の薬剤の分子を含み、さらに、同一の薬剤または他の薬剤が、リポソーム細胞膜の何れか一方の側または両側に付着している。その製造方法は、次の工程から成る。−有機溶媒中の脂質相または乾燥膜の脂質相を用意する。脂質相は、少なくとも1つの脂質画分を備え、各脂質分子は、少なくとも1つの反応性官能基を備えている。−緩衝液から成る第1水性相を用意する。−緩衝液及びそれに溶解させた少なくとも1つの所望の薬剤とから成る第2水性相を用意する。少なくとも1つの薬剤が反応性官能基を有し、脂質の反応性官能基に付着または化学的に反応する。−リポソーム形成の条件下で、脂質相を第1水性相と混ぜ合わせる。−形成したリポソームと第2水性相とを次の条件下で混ぜ合わせる。薬剤分子の少なくとも一部がリポソームに取り込まれる条件、および、反応性官能基を持つ脂質の少なくとも一部が、反応性官能基を持つ薬剤分子の少なくとも一部と、相互作用または状況に応じて化学反応する条件である。−薬剤を装填したリポソームを収穫する。そこで、薬剤分子の少なくとも一部が、リポソーム内に組み込まれ、一方、薬剤分子の他部は、リポソーム細胞膜の何れか一方の側または両側に付着する。
【0033】
脂質の官能基は、ヒドロキシル基で、薬剤の官能基は、酸性残基である。相互作用、例えば化学反応を可能にする条件は、リポソームを第2水性相に混ぜ合わせる反応温度を約25〜65℃、第2水性相のpH値を約6〜約8とし、生じたリポソーム懸濁液を培養し、反応性官能基を持つ薬剤分子の少なくとも一部が、官能基を持つ脂質の少なくとも一部に、付着または状況によりエステル化で共有結合させる。
【0034】
発明の実施形態には、付加的な処理工程を含む。培養中または培養後、リポソームの懸濁液に、薬剤のリポソームへの取り込みを強化する処理を施す。その処理は、超音波処理、電気穿孔法、渦巻き(vortexing)、濃度勾配の膜間拡散、から成る群から選択される。
【0035】
共有結合は、エステル結合である。送達用の薬剤を極度に装填したリポソームの適切な薬剤は、エリスロポエチンである。
【0036】
本発明の高密度に装填したリポソームは、非経口形式(注射液、鼻腔用スプレー、または、クリーム、ジェル、軟膏またはローションなどの局所塗布)の投与量を大幅に低減する。送達する所望の薬剤の性質により、本発明のリポソーム組成物は、薬剤の投与期間の調整を可能にする。これは、ヒト又は動物の受容体に好ましくない副作用を低減または大幅に避けることが出来る。さらに本発明のリポソームの製剤は、ヒトまたは動物体内の生理学的条件下で、容易に劣化または損傷を受けやすい薬学的活性化合物の生体利用効率を、顕著に増大および引き延ばすことができる。
【0037】
本発明の特徴は、2つ以上の異なる薬剤を適度な量で含むリポソームの調合が可能である。この場合、少なくとも1つの薬剤は、リポソーム細胞膜に共有結合または非共有結合で付着し、しかし一方の少なくとも1つの他の薬剤は、リポソーム内の水性相に存在している。本発明の考え方で、当業者には、2つ以上の異なる薬剤または薬剤成分の同時送達のリポソームの設計が可能となる。この様な送達は、併発の治療で必要とされ、また、有益である。
【0038】
本発明のリポソームは、好ましくは、WO 02/36257で開示されているクロスフロー注入技術(cross-flow injection technique)で形成される。その内容を参照して取り込んでいる。方法は、有機物の脂質相(典型的にはエタノール脂質相)を水性相に注入する。その注入は、脂質相の管壁の小さな開口部、および、隣接する第2の管壁の開口部を通して行う。第2の管壁は、脂質相の管につながり、そして水性相を運ぶ。この方法の特色は、注入の場所、即ちクロスフロー注入モジュールまたは混合室において、脂質相を運搬する管が、水性相の管に堅固に接続されている点である。管は、共通の穴で互いに液状で接続されて、有機物の液体が、圧力でスプレー噴霧の形式で、共通の穴を通過して水性相の流れに入ることができる。液体の交差領域には、剪断力生成の要素が存在しない。有機脂質の流れは、水性相の流れに、ほぼ直角に激しく衝突する。リポソームが、桁外れの量とベシクルサイズの分布で、瞬時に形成される。この極めて穏やかな方法は、酸化および温度に感受性のある脂質の使用を感受性薬剤のカプセル封入同様に可能とする。これらは、例えばホモジナイザ内で、剪断力による空洞形成現象または局所加熱で、損傷または不活性になる。
【0039】
リポソームへの受動的な薬剤の取り込みの方法に加えて、本発明は、リポソーム細胞膜に所望の薬剤を能動的に付着させる。この細胞膜は、典型的には、単層の2分子膜である。薬剤活性化合物を積極的にリポソームの細胞膜に付着または結合させるために、細胞膜の脂質組成物は、送達する所望の薬剤に適合するように選択される。つまり、組成物が、所望の薬剤の分子と相互作用が可能である脂質で、グリセロールまたはイノシトール型の頭基を備える自然源または非自然源のリン脂質から成り、頭基を持つ低量の脂質を備えた他の脂質、特に自然源の脂質から成る。
【0040】
適切な脂質は、スフィンゴシンとその誘導体、セレブロシドとその誘導体、セラミドとその誘導体である。
【0041】
所望の薬剤をリポソーム細胞膜に能動的に結合または付着させるには、リポソームを、所望の薬剤、例えばエリスロポエチンの存在下で調合するのが好ましい。温度は、約25〜約65℃で、pHは、中性付近とする。少し塩基性または少し酸性pHで、好ましくは6〜8とする。付着、状況に応じてシアリン酸基とリン脂質のエステル化反応による化学結合は、これらの温度およびpH範囲で最も作用する。
【0042】
本発明によるリポソームは、1つの脂質画分および少なくとも1つの他の脂質画分から成る。1つの脂質画分は、主な脂質画分として、ジパルミトイルホスファチジルコリン(DPPC)、卵ホスファチジルコリン(EPC)、大豆ホスファチジルコリン(SPC)、セラミド、および、スフィンゴシンから成る。他の脂質画分は、コレステロールおよび荷電頭基を持つ脂質から成る群から選択される。
【0043】
クロスフロー注入で脂質相を水性相に受動的に封入する方法で次の結果が得られた。a)受動的な封入で、薬剤の20〜50重量%の封入率が達成された。結果は、主として、薬剤含有の水性相に実行される循環サイクル数と、展開するリポソームの事前に選択されるベシクルサイズと、および細胞膜の脂質組成および脂質濃度と、に依存する。
【0044】
この封入率は、以前の研究であるrhSODの所定酵素のリポソーム封入と一致する。b)一方、本発明による受動的および能動的な組合せによるリポソームの装填は、封入に加えて、リポソーム細胞膜の内側および外側の付着により、装填する薬剤の100重量%の封入率が達成される。これは、リポソーム形成後に、ろ過分析で確認された。典型的には、ろ過には、10重量%以下の薬剤が残る。
【0045】
実験の大部分には、所望の薬剤としてエリスロポエチンを用いて、本発明の薬剤装填の概念を実証した。本発明は、リポソーム内に封入およびリポソーム細胞膜の何れか一方の側または両方に付着する物質にも適用できる。付着は、共有結合または非共有結合で、例えば親和力、クーロン相互作用、ファンデルワールス力、親水性および/または疎水性相互作用、および同等のものである。薬剤は、リポソーム細胞膜に含まれる脂質の官能基に共有結合するのが好ましい。官能基は、多価アルコール型で、特に糖アルコール型で、典型的にはイノシトールまたはグリセロールである。所望の薬剤が、細胞膜に最も効率的に付着するのは、リン酸、硫酸、炭酸、またはシアリン酸残基のような反応性の酸性官能基を含む場合である。酸性の反応性官能基は、脂質のヒドロキシル基と接触し、脂質と薬剤の間でエステル化により共有結合を引き起こす。
【0046】
次の実施例の記載で、本発明を十分に理解できる。
【実施例1】
【0047】
比較例:リポソームへの薬剤の受動的な装填
a)脂質組成
DPPC:コレステロール:ステアリルアミン=7:2:1
b)薬剤濃度
水性緩衝液(PBS)2mlに対しエリスロポエチン(EPO)2868μg
【0048】
リポソームは、WO 02/36257に記載のクロスフロー注入法で製造した。約170nmの平均径のベシクルを備えた単層の2分子膜のリポソームが得られた。そしてウルトラ膜分離法装置を用いてろ過工程にかけた。
【0049】
ろ過液を封入されていない薬剤に対して分析した。結果は、次の通りである。
リポソーム濃縮水(2ml):711μgEPO=25wt%封入
全ろ過液: 2175μgEPO=75wt%未封入
粉砕画分:ろ過液F1=843μg、ろ過液F2=596μg、
ろ過液F3=345μg、ろ過液F4=391μg
【0050】
最先端技術を用いたリポソーム内のEPO封入は、薬剤の25wt%となる。つまり、リポソーム濃縮液1mlに対し356μgである。より一般的には、この方法の受動的な薬剤の封入は、典型的には薬剤の最初の量に対して約25wt%〜約50wt%の範囲の封入率となる。
【0051】
この封入率は、所望の薬剤として組み換えヒトスーパーオキシドディスムターゼ(rhSOD)のペプチドまたはタンパク質を使用した前回の研究とよく一致している。
【実施例2】
【0052】
a)脂質組成
DPPC:コレステロール:EPG=7:2:1
b)薬剤濃度
水性緩衝液(リン酸緩衝塩類溶液PBS)2mlに対しEPO3375μg
【0053】
リポソームは、WO 02/36257に記載のクロスフロー注入法で製造した。約170nmの平均径のベシクルを備えた単層の2分子膜のリポソームが得られた。次にウルトラ膜分離法装置を用いてろ過工程にかけた。
【0054】
ろ過液を、封入されていない薬剤に対して分析した。結果は、次の通りである。
リポソーム濃縮水(2ml):3043μgEPO=90wt%封入
全ろ過液: 328μgEPO=10wt%未封入
粉砕画分: ろ過液F1= 24μg、ろ過液F2=128μg、
ろ過液F3=0−1μg、ろ過液F4=176μg
【0055】
この実施例では、リポソーム内のEPO封入にクロスフロー注入法を用いた。pHは7.5そして温度は50℃で、薬剤の90wt%の封入結果が得られた。これは、リポソーム濃縮水1mlに対して1522μgの薬剤に対応する。
【0056】
適切な脂質の選択で、所望の薬剤を受動的および能動的な装填の組合せでリポソームに、典型的には、薬剤の最初の量に対して約80〜約100%の装填率となる。適切な脂質では、リポソームの水性相内の受動的な薬剤の封入に加えて、付着が容易で、状況により、薬剤がリポソーム細胞膜に共有結合する。
【実施例3】
【0057】
異なる薬剤の組合せ
【0058】
水性相の3500μgのrhSOD以外は同様で、操作を繰り返した。ろ過後、リポソーム濃縮水は、約25%(2ml濃縮水に約820μg)のrhSOD、約70%(2ml濃縮水に約2200μg)のEPOから成り、薬剤の量の残余は、ろ過液で検出した。
【0059】
この実験から、2つの異なる薬剤を同時に使用しても、リポソームに非常に強力な装填が可能である。リポソームの内部水性相の空間に、予測通り、全投入rhSODの約25%を吸収することが出来た。リポソームは、第2の薬剤、例えばEPOを大量(約70wt%)に吸収した。これは、第2の薬剤とリポソーム細胞膜のEPG脂質画分との相互作用による。これにより、リポソームの細胞膜内の脂質画分への薬剤の付着、およびリポソームベシクルの水性相内の受動的な所定量(ここでは定量的に分離されていない)の封入となる。
【0060】
ここに記載の実験および一層の実験(データの図示無し)は、従来の受動的な薬剤含有の水性相の封入を越え、本発明の能動的な装填の優位性を印象的に示した。事実、能動的な装填、および特に能動的および受動的な装填の組合せは、リポソームに200%の量に到る薬剤の装填をもたらした。これは、水性相の捕捉体積から予測できる。
【0061】
本発明による水性相から得られた高濃度のリポソーム懸濁液は、典型的には、1mlに対し、約0.5〜2mgの薬剤を含む。その懸濁液は、次に再度希釈および/または通常の固形、液状、または半液状ゲルの調剤および薬剤組成物にしても良い。調剤および薬剤組成物は、経口または非経口の適用で、特に、筋肉内、静脈内、皮下、皮膚、粘膜、鼻腔内、肺内の投与である。適切な組成物は、局所または全身投与の注入液、鼻のスプレー、吸入液体、クリーム、ゲル、軟膏、坐薬、ローションおよび同等のものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リポソームの内部の水性相内に分布する少なくとも1つの所望の薬剤の分子を含む 薬剤送達のリポソームが、該リポソームの細胞膜の何れか一方の側または両側に付着する同一または他の薬剤の分子を含む、ことを特徴とする薬剤送達のリポソーム。
【請求項2】
前記薬剤の分子が、細胞膜への付着無しの受動的な水性相内部の封入で達成される最大の薬剤装填量を越えて存在する、ことを特徴とする請求項1記載のリポソーム。
【請求項3】
少なくとも前記薬剤の分子の一部が、化学結合による共有結合、または化学結合以外の付着力である非共有結合で、前記細胞膜に付着し、その付着力は、該薬剤の分子と脂質の分子間の、ファンデルワールス力、水素結合静電気力、親水性−疎水性相互作用、親和力および極相互作用から成る群から選択される少なくとも一種である、ことを特徴とする請求項1または2記載のリポソーム。
【請求項3】
付着は、前記脂質の反応性官能基と前記薬剤の官能基の間である、ことを特徴とする請求項1または2記載のリポソーム。
【請求項4】
前記脂質の官能基がヒドロキシル基またはコリン基である、ことを特徴とする請求項3記載のリポソーム。
【請求項5】
前記ヒドロキシル基が多価アルコール残基の一部である、ことを特徴とする請求項4記載のリポソーム。
【請求項6】
前記多価アルコール残基が、グリセロール残基およびイノシトール残基から成る群から選択される糖アルコール残基である、ことを特徴とする請求項5記載のリポソーム。
【請求項7】
前記薬剤の反応性官能基が、リン酸残基、硫酸残基、炭酸残基、シアリン酸残基から成る群から選択される酸性基で、該薬剤の少なくとも一部が、前記脂質の細胞膜に付着し、状況に応じて、エステル結合で該脂質に共有結合している、ことを特徴とする請求項3〜6の何れか1項記載のリポソーム。
【請求項8】
前記薬剤が、糖タンパク質、または、オリゴ糖や多糖成分から成り、これらが少なくとも1つの反応性のシアリン酸基を含む、ことを特徴とする請求項7記載のリポソーム。
【請求項9】
前記細胞膜が、少なくとも1つの自然源または非自然源の脂質から成り、その脂質は、リン脂質、糖脂質、セラミド、およびこれら脂質の誘導体から成る群から選択される、ことを特徴とする請求項1〜8の何れか1項記載のリポソーム。
【請求項10】
前記リン脂質が、スフィンゴリン脂質およびグリセロリン脂質から成る群から選択され、該スフィンゴリン脂質は、スフィンゴミエリンから成り、該グリセロリン脂質は、レシチン、ケファリン、カルジオリピン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルイノシトールリン酸塩から成る、ことを特徴とする請求項9記載のリポソーム。
【請求項11】
前記糖脂質が、スフィンゴ糖脂質、グリセロ糖脂質から成る群から選択され、該スフィンゴ糖脂質が、セレブロシド、ガングリオシド、スルファチドから成り、該グリセロ糖脂質が、グリコシルモノグリセリド、グリコシルジグリセリドから成る、ことを特徴とする請求項9または10記載のリポソーム。
【請求項12】
前記細胞膜が、DPPC、コレステロール、EPGを7:2:1のモル比の構成から成る、ことを特徴とする請求項1〜11の何れか1項記載のリポソーム。
【請求項13】
前記薬剤が、エリスロポエチンである、ことを特徴とする請求項1〜12の何れか1項記載のリポソーム。
【請求項14】
経口または非経口投与の薬剤に許容な担体を加えた、請求項1〜13の何れか1項記載の前記薬剤を装填した前記リポソームから成る薬剤組成物。
【請求項15】
注射液、鼻内噴霧、吸息液、クリーム、ゲル、軟膏、座薬、水薬の形態である請求項14記載の薬剤組成物。
【請求項16】
局所または全身の非経口投与である、ことを特徴とする請求項14または15記載の薬剤組成物。
【請求項17】
リポソーム内部の水性相内に分布した少なくとも1つの所望の薬剤の分子と、リポソームの細胞膜の何れか一方の側または両側に付着した同一の薬剤または他の薬剤の分子と、を含む薬剤装填のリポソームの製造方法が、
−有機溶媒中の脂質相を用意し、
該脂質相は、少なくとも1つの脂質画分を含み、各脂質の分子は、少なくとも1つの反応性の官能基を備えている、
−緩衝溶液およびそれに溶解させた少なくとも1つの所望の薬剤から成る水性相を用意し、
少なくとも1つの該薬剤は、該脂質の官能基に付着または化学的に反応する反応性の官能基を備え、
−脂質相を、リポソーム形成の条件下で水性相に供給する、
−状況に応じて該水性相をループで循環させ、供給工程を繰り返し、リポソームの薬剤取込み率を増加させる、
−薬剤装填のリポソームを採取する、
これにより、該薬剤の分子の少なくとも一部が、該リポソーム内に取込まれ、該薬剤の分子の他部は、該リポソームの細胞膜の何れか一方の側または両側に付着している、ことを特徴とするリポソームの製造方法。
【請求項18】
前記脂質の官能基が、ヒドロキシル基またはコリン基である、ことを特徴とする請求項17記載の製造方法。
【請求項19】
前記ヒドロキシル基が、多価アルコール残基の1部である、ことを特徴とする請求項18記載の製造方法。
【請求項20】
前記多価アルコール残基が、グリセロール残基およびイノシトール残基から成る群から選択される糖アルコール残基である、ことを特徴とする請求項19記載の製造方法。
【請求項21】
前記薬剤の反応性の官能基が、リン酸残基、硫酸残基、炭酸残基、シアリン酸残基から成る群から選択される酸性基である、ことを特徴とする請求項17〜20の何れか1項記載の製造方法。
【請求項22】
反応性の官能基を持つ前記脂質の少なくとも一部が、反応性の官能基を持つ前記薬剤の分子の少なくとも一部と相互作用する条件の下で、前記脂質相を前記水性相に供給する、
ことを特徴とする請求項17〜21の何れか1項記載の製造方法。
【請求項23】
前記脂質の官能基はヒドロキシル基で、前記薬剤の官能基は酸性残基で、相互作用を可能にする条件は、前記脂質相を前記水性相に、反応温度を25〜65℃そして該水性相のpH値を6〜8とし、反応性の官能基を持つ前記薬剤の分子の少なくとも一部が、官能基を持つ前記脂質の少なくとも一部に、付着、状況に応じてエステル化で共有結合する、ことを特徴とする請求項22記載の製造方法。
【請求項24】
リポソーム内部の水性相内に分布する少なくとも1つの所望の薬剤の分子と、さらにリポソームの細胞膜の何れか一方の側または両側に付着した同一の又は他の薬剤の分子と、を備える薬剤装填のリポソームの製造方法において、
その方法が、
−有機溶媒中の脂質相または乾燥膜を用意し、
該脂質相は、少なくとも1つの脂質画分から成り、各脂質分子は、少なくとも1つの反応性の官能基を持ち、
−緩衝液から成る第1水性相を用意し、
−該緩衝液およびそれに溶解させた少なくとも1つの所望の薬剤から成る第2水性相を用意し、
少なくとも1つの該薬剤が、該脂質の官能基に付着又は化学的に反応する反応性の官能基を持ち、
−リポソームを形成する条件下で、該脂質相を第1水性相と混ぜ合わせ、
−形成したリポソームを所定の条件下で該第2水性相と混ぜ合わせ、
その条件は、該薬剤の分子の少なくとも一部がリポソーム内に取込まれる条件、および反応性の官能基を持つ該脂質の少なくとも一部が、反応性の官能基を持つ該薬剤の分子の少なくとも一部と相互作用または状況により化学反応する条件で、
−薬剤装填のリポソームを収穫する、
これにより、該薬剤の分子の少なくとも一部が、該リポソーム内部の水性相内に取込まれ、該薬剤の分子の他部が、リポソームの細胞膜の何れか一方の側または両側に付着する、ことを特徴とする製造方法。
【請求項25】
前記脂質の官能基がヒドロキシル基で、前記薬剤の官能基が酸性残基で、相互作用、状況により化学反応を可能にする条件が、前記リポソームを、25〜65℃の反応温度および前記第2水性相のpH値を6〜8として、該第2水性相と混ぜ合わせること、および生じたリポソーム懸濁液を培養し、反応性の官能基を持つ該薬剤の分子の少なくとも一部が、官能基を持つ該脂質の少なくとも一部に付着、状況によりエステル化で共有結合することである、ことを特徴とする請求項24記載の製造方法。
【請求項26】
培養中または培養後に、前記リポソーム懸濁液をリポソームへの薬剤取り込みを高める処理で、この処理は、好ましくは超音波処理、電気穿孔法、ボルテックス法、濃度勾配膜間拡散法から成る群から選択される、ことを特徴とする請求項25記載の製造方法。
【請求項27】
前記薬剤が、糖タンパク質、または、オリゴ糖または多糖成分を有し、これらが少なくとも1つの反応性のシアリン酸基から成る、ことを特徴とする請求項17〜26の何れか1項記載の製造方法。
【請求項28】
前記脂質相が、リン脂質、糖脂質、セラミド、およびこれら脂質の誘導体から成る群から選択される少なくとも1つの自然源または非自然源の脂質から成る、ことを特徴とする請求項17〜27の何れか1項記載の製造方法。
【請求項29】
前記脂質相において、DPPC、コレステロール、EPGの比率が7:2:1で構成される、ことを特徴とする請求項17〜28の何れか1項記載の製造方法。
【請求項30】
前記脂質相を、圧力およびクロスフロー注入法を使用する無せん断条件で、前記水性相に供給し、即時または瞬時のリポソームの形成を行なう、ことを特徴とする請求項17〜29の何れか1項記載の製造方法。
【請求項31】
前記脂質相を水性相に供給する前に、該脂質相の前記脂質の少なくとも一部が、前記所望の薬剤の分子の少なくとも一部に付着、状況により共有結合している、ことを特徴とする請求項17〜30の何れか1項記載の製造方法。
【請求項32】
前記共有結合がエステル結合である、ことを特徴とする請求項31記載の製造方法。
【請求項33】
前記所望の薬剤がエリスロポエチンである、ことを特徴とする請求項17〜32の何れか1項記載の製造方法。

【公表番号】特表2008−500297(P2008−500297A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−513778(P2007−513778)
【出願日】平成17年5月24日(2005.5.24)
【国際出願番号】PCT/EP2005/005577
【国際公開番号】WO2005/115337
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(503111573)ポリマン サイエンティフィック イミューンバイオロジッシュ フォーシュング ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ファフツング (4)
【Fターム(参考)】