説明

薬液投与装置および薬液投与方法

【課題】吐出孔に体内異物が付着しても、患部に限定して正確な量の薬液を投与する。
【解決手段】内部に薬液Wが充填される充填部11と、基端が充填部11に接続され、かつ先端面に形成された吐出孔と充填部11内とを連通する薬液流通路13bが内部に形成されたカテーテル13と、薬液Wに電圧を印加する電圧印加部14と、充填部11内の薬液Wを、薬液流通路13bを通して吐出孔から吐出する吐出機構15と、カテーテル13の基端側から先端面に向けて気体を流す送風手段29と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体内の患部に薬液を投与する薬液投与装置および薬液投与方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年では、例えば副作用の発症を弱めたりあるいは薬効の低下を防止したりする等のために、可能な限り患部に近い位置で薬液を吐出することにより、必要最小限の薬液を患部に限定して投与することが要望されている。
このような薬液投与装置として、例えば下記特許文献1に示されるような、内部がノズル部、与圧室および貯留部に区画されたカテーテルを備える構成が知られている。このカテーテルの内部には、ノズル部と与圧室とを連通、遮断する射出弁と、与圧室と貯留部とを連通、遮断する装填弁と、が設けられている。また、与圧室には加圧ガス源と連通する加圧ガス導管が接続されている。
以上の構成において、貯留部内に薬液を装填し、かつカテーテルを体内に挿入してノズル部を患部に近づけた状態で前記装填弁を開くことにより、貯留部内の薬液を与圧室内に導入する。その後、前記装填弁を閉じた状態で前記加圧ガス導管から与圧室内に加圧ガスを導入して、この与圧室内の圧力が十分に高められたときに前記射出弁を開き、ノズル部の吐出孔から患部に向けて薬液を吐出する。
【特許文献1】特表2006−527023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、前記従来の薬液投与装置では、使用の過程で、例えば体内粘液や組織小片等の体内異物が、ノズル部の吐出孔に付着することがあり、この場合、患部に限定して薬液を投与することが困難になったり、あるいは患部内で薬液の投与量が不均一になったりする等のおそれがある。
【0004】
この発明は、このような事情を考慮してなされたもので、吐出孔に体内異物が付着しても、患部に限定して正確な量の薬液を投与することができる薬液投与装置および薬液投与方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決して、このような目的を達成するために、本発明の薬液投与装置は、内部に薬液が充填される充填部と、基端が充填部に接続され、かつ先端面に形成された吐出孔と前記充填部内とを連通する薬液流通路が内部に形成されたカテーテルと、前記薬液に電圧を印加する電圧印加部と、前記充填部内の薬液を、前記薬液流通路を通して吐出孔から吐出する吐出機構と、を備え、前記薬液を、電圧印加部により帯電させた状態で、前記吐出孔から体内の患部に向けて吐出させ、この薬液の先端を、患部との間の電位差によって霧状に分裂させた状態で、当該薬液の先端から患部に向かう電気力線に沿って患部に到達させる構成とされるとともに、前記カテーテルの基端側から前記先端面に向けて気体を流す送風手段を備えることを特徴とする。
【0006】
また、本発明の薬液投与方法は、患部に薬液を投与する薬液投与方法であって、本発明の薬液投与装置を用い、前記薬液を、電圧印加部により帯電させた状態で、前記吐出孔から患部に向けて吐出させるのと同時に、またはその前に、前記送風手段により前記カテーテルの基端側から前記先端面に向けて気体を流すことを特徴とする。
【0007】
この発明では、薬液を前述のようにカテーテルの吐出孔から吐出させるのと同時に、またはその前に、前記送風手段によりカテーテルの基端側から前記先端面に向けて気体を流すので、吐出孔に体内異物が付着していた場合においても、この気流の風圧によって前記体内異物を除去することが可能になり、患部に限定して正確な量の薬液を投与することができる。
また、前記吐出孔から吐出された薬液が電圧印加部により帯電しているので、前述のように薬液の先端を霧状に分裂させたときにこの霧状の薬液を患部の周辺で浮遊させたり、あるいはこの霧状の薬液が患部に到達したときに跳ね返って舞い上がったりさせることなく、直ちに患部に吸着させることが可能になり、患部に正確な量の薬液を投与することが可能になるとともに、患部の全域にわたって薬液を均等に投与することができる。
【0008】
ここで、前記送風手段は、気体をカテーテルの外周面上に沿ってその基端側から前記先端面に向けて流してもよい。
この場合、送風手段が、気体をカテーテルの外周面上に沿ってその基端側から前記先端面に向けて流すので、薬液投与装置においてカテーテルの径方向外側に位置する部分に付着して前記吐出孔を覆う体内異物のほぼ全体を、この送風手段からの気流の風圧によって除去することが可能になる。
【0009】
またこれに代えて、前記送風手段は、カテーテルの内部に前記薬液流通路とは独立して形成された気体流通路と、カテーテルの先端面に前記吐出孔とは独立して形成され前記気体流通路に連通した気体放出孔と、を備えてもよい。
この場合、送風手段が、カテーテルの内部に薬液流通路とは独立して形成された気体流通路と、カテーテルの先端面に吐出孔とは独立して形成され気体流通路に連通した気体放出孔と、を備えているので、気流放出孔を薬液が吐出される吐出孔に近接させることが可能になり、カテーテルの先端面に付着して吐出孔を覆う体内異物を、送風手段からの気流の風圧によって確実に除去することができる。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、吐出孔に体内異物が付着しても、患部に限定して正確な量の薬液を投与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明に係る薬液投与装置の第1実施形態を、図1から図3を参照しながら説明する。
薬液投与装置10は、図1に示されるように、内部に薬液Wが充填される充填部11と、基端が充填部11に接続され、かつ先端面13aに形成された吐出孔と充填部11内とを連通する薬液流通路13bが内部に形成されたカテーテル13と、薬液Wに電圧を印加する電圧印加部14と、充填部11内の薬液Wを、カテーテル13内を通して吐出孔から吐出する吐出機構15と、を備えている。
【0012】
この薬液投与装置10は、本実施形態では、図2に示されるように、カテーテル13が内視鏡1の鉗子チャンネル2内に挿通された状態で、鉗子チャンネル2に設けられた鉗子栓3に装着されて用いられる。そして、同一使用者が内視鏡1を操作しながら薬液投与装置10の操作もできるように構成されている。
また、カテーテル13において吐出孔が形成された先端面13aは、鉗子チャンネル2の先端2aから外側に突出している。
【0013】
充填部11は筒状に形成され、その一端開口部に中央部に貫通孔が形成されたゴム栓16が嵌合され、他端開口部にカテーテル13の基端側が連結されている。なお、充填部11内の薬液Wは、この充填部11を薬液投与装置10に組付ける前に、ゴム栓16の貫通孔内に注射器の注射針等を差し込んで注入される。
【0014】
カテーテル13は、例えばポリ四フッ化エチレン等の非導電性でかつ可撓性を有する材質で形成されている。
なお、例えば、カテーテル13の外径は約1.6mm、薬液流通路13bの直径は約0.9mmとされ、吐出孔の直径は約0.075mmとなっている。また、カテーテル13の長さは、薬液Wを投与する患部Kや薬液Wの種類さらには症例等に応じて適宜設定されるが例えば約850mmとなっている。
【0015】
電圧印加部14は、充填部11とカテーテル13との連結部分に配置された主電極17と、電圧を発生する回路部18と、主電極17と回路部18との間に配置された副電極19と、回路部18に接続された例えば電池等の電源20と、を備えている。
さらに本実施形態では、回路部18に、生体の一部に接続されるグランドバンドGが接続されている。なお図示の例では、グランドバンドGは人体の指に接続されている。
【0016】
主電極17は、導電性を有する材質で円筒状に形成され、その軸方向一端が充填部11の他端開口部に同軸に配設されるとともに、軸方向他端側にカテーテル13の基端が接続されている。なお、主電極17としては、導電性を有しない材質で円筒状に形成された本体部と、導電性を有する材質で形成され前記本体部の表面を被覆する導電膜と、を備える構成を採用してもよい。
ここで、主電極17の内径は、一端側が他端側よりも小さくなっており、大径の他端側にカテーテル13の基端部が液密状態で嵌合され、小径の一端側の内径が薬液流通路13bの直径と同等になっている。そして、充填部11内の薬液Wは、主電極17における一端面および前記一端側の内周面に接触している。また、充填部11の他端開口部と主電極17、および主電極17とカテーテル13はそれぞれ、例えば接着剤等によって互いに固定されている。
【0017】
副電極19は、例えばステンレス鋼等で形成され、電圧を印加する方向つまり主電極17側に向けて尖る先鋭形状となっている。そして、この副電極19の先端部が主電極17の外周面に接続されている。なお、副電極19は、一般的な電気接触子の外表面に金メッキ層が形成されたコンタクトプローブ等であってもよい。
回路部18内には、高抵抗回路、過電流検出回路および圧電トランスが組み込まれている。高抵抗回路は、保護用の高抵抗が副電極19に直列に接続されて構成され、スパークの発生や生体への電撃を防止する。また、過電流検出回路は、回路部18に流れる電流値を検出し、その数値が設定値以上となったときに副電極19への電圧の印加を停止させる。なお、前記設定値は生体への安全性を考慮して、例えば約100μA好ましくは約10μAとしてもよい。圧電トランスは、電源20から回路部18に供給された電圧を昇圧する。
【0018】
以上の構成において、電源20から回路部18に電圧が供給されると、この電圧が前記圧電トランスで昇圧され、この昇圧された電圧が副電極19を通して主電極17に供給されて主電極17に接触する薬液Wに印加される。なお例えば、電源20の電圧は約6Vであるところ、主電極17に供給される電圧は約5kVとなる。
【0019】
吐出機構15は、空圧タンク21と、空圧タンク21に接続された四方弁22と、四方弁22と充填部11とを接続する供給管23と、四方弁22を通して供給管23を外部に接続させる開放管24と、を備えている。
空圧タンク21には逆止弁25が接続されており、この逆止弁25を通して例えばディスポシリンジ等の図示されない空気供給手段から空圧タンク21内に空気を供給することで、このタンク21内を昇圧できるようになっている。なお、空圧タンク21の内圧は例えば約0.3MPa程度まで上昇させるのが好ましい。また、空圧タンク21はこの昇圧に耐え得る材質で形成される。
【0020】
四方弁22は、供給管23と空圧タンク21および開放管24との連通、遮断を切り替えるようになっている。本実施形態では、四方弁22のボタンを押し込む前の待機状態では、供給管23は、空圧タンク21との連通が遮断されて開放管24と連通しており、充填部11の内圧は大気圧と同等になっている。一方、前記ボタンを押し込むと、供給管23は、開放管24との連通が遮断されて空圧タンク21と連通し、充填部11の内圧が空圧タンク21の内圧まで上昇する。
【0021】
供給管23の先端部は、前述のゴム栓16の貫通孔内に差し込まれており、その外周面は先鋭形状に形成されて、ゴム栓16の貫通孔と供給管23の先端部との間の気密性が保たれている。
また、開放管24の内径および内面形状のうちの少なくとも一方は、四方弁22の前記待機状態で、カテーテル13の吐出孔から薬液Wが垂れ落ちない程度の圧力損失を生じるように形成されている。なお、開放管24の内径は例えば約0.1mmとなっている。
【0022】
さらに本実施形態では、回路部18に、四方弁22のボタンが押し込まれたか否かを検出する弁認識スイッチ26が接続されている。そして、このスイッチ26が、四方弁22のボタンが押し込まれていることを認識したときに、回路部18で電圧を発生させ、この電圧が副電極19を介して主電極17に供給されるようになっている。
【0023】
また、回路部18には、薬液投与装置10が内視鏡1の鉗子栓3に装着されたか否かを検出する装着認識スイッチ27が接続されている。このスイッチ27が、薬液投与装置10の鉗子栓3への装着を検出しなかった場合には、たとえ弁認識スイッチ26が四方弁22の押し込みを検出したとしても、回路部18で電圧を発生させないようになっている。
【0024】
ここで、以上説明した薬液投与装置10の各構成要素のうち、カテーテル13を除く全てが筐体28内に収容されるとともに、充填部11、主電極17およびカテーテル13が前述のように固定されてなる組立て体は、筐体28の外側から着脱可能になっている。そして、充填部11内の薬液Wを全て患部Kに投与した後は、前記組立て体は、筐体28から取り外されて廃棄される。なお、主電極17に、非導電性でかつ透明の樹脂材料で開閉可能に形成されたカバーを取り付けて、このカバーで主電極17の全体を覆ってもよい。
【0025】
そして、本実施形態では、薬液投与装置10は、カテーテル13の基端側から先端面13aに向けて気体を流す送風手段29を備えている。図示の例では、送風手段29は、一端部が吐出機構15の四方弁22に接続され、かつ他端部が鉗子栓3に接続されて、内部が鉗子チャンネル2内に連通した送風管29aにより構成され、カテーテル13の基端側から先端面13aに向けて空気を流すようになっている。この送風管29aは、四方弁22側から筐体28内を通って鉗子栓3内に到達している。また、送風管29aはステンレス鋼等の金属材料で形成され、前記他端部の外周面はその先端に向かうに従い漸次縮径している。
【0026】
そして、四方弁22のボタンを押し込む前の待機状態では、送風管29aは、供給管23と同様に空圧タンク21との連通が遮断されて開放管24と連通しており、鉗子チャンネル2内に空気が供給されていない。一方、前記ボタンを押し込むと、送風管29aは、供給管23と同様に開放管24との連通が遮断されて空圧タンク21と連通し、この送風管29aから鉗子チャンネル2内に空気が供給される。これにより、この空気が気流Rとしてカテーテル13の外周面上に沿ってその基端側から先端面13aに向けて流されるようになっている。
【0027】
また本実施形態では、四方弁22の押し込みを弁認識スイッチ26が検出すると、回路部18で発生した電圧が主電極17に供給されることにより、充填部11内から主電極17の内側を通過した薬液Wが帯電させられる。これにより、カテーテル13の吐出孔から吐出された薬液Wの先端W1が、図3に示されるように、患部Kとの間の電位差によって霧状に分裂させられた状態で、この薬液Wの先端W1から患部Kに向かう電気力線Lに沿って患部Kに到達するようになっている。この際、前述のように指にグランドバンドGが接続されているので、患部Kの電位は確実に0Vに保たれ、これにより薬液Wの先端W1と患部Kとの間に電位差を確実に生じさせることができる。
【0028】
次に、以上のように構成された薬液投与装置10を用いて患部Kに薬液Wを投与する方法について説明する。
まず、筐体28から取り外された充填部11内に、ゴム栓16の貫通孔に注射器の注射針を突き刺して注射器内の薬液を患部Kに必要な量だけ注入する。
次に、供給管23の先端部を充填部11におけるゴム栓16の貫通孔内に差し込み、充填部11、主電極17およびカテーテル13が前述のように固定されてなる組立て体を筐体28に装着することにより、薬液投与装置10を組み立てる。
【0029】
そして、この薬液投与装置10を図1に示されるように、カテーテル13を鉗子チャンネル2内に挿通して、内視鏡1の鉗子栓3に装着する。この際、送風管29aの前記他端部を鉗子栓3内に差し込んで、この送風管29aの内部と鉗子チャンネル2の内部とを連通させる。さらにこの際、装着認識スイッチ27が、薬液投与装置10の鉗子栓3への装着を検出することで、回路部18で電圧を発生させることが可能な状態になる。
次に、内視鏡1の鉗子チャンネル2の先端部を体内に差し込み、この内視鏡1で患部Kの位置を特定し、この患部Kにカテーテル13の先端面13aおよび鉗子チャンネル2の先端開口を対向させて固定する。
【0030】
その後、四方弁22を押し込むことにより、供給管23および送風管29aを開放管24に対して遮断した状態で空圧タンク21内と連通させる。これにより、供給管23を通して充填部11内が昇圧され、その内部の薬液Wがカテーテル13の薬液流通路13bを通って吐出孔側に向けて送られ、吐出孔から薬液Wが吐出される。これと同時に、送風管29aを通して鉗子チャンネル2内に空気が供給され、この空気がカテーテル13の外周面と鉗子チャンネル2の内周面との間を通って鉗子チャンネル2の先端2aから患部Kに向けて放出される。
【0031】
さらにこの際、四方弁22の押し込みが弁認識スイッチ26により検出されることで、回路部18で電圧が発生し、この電圧が副電極19を通して主電極17に供給され、主電極17の内側を通過する薬液Wが帯電する。
これにより、薬液Wの先端W1が、患部Kとの間の電位差によって霧状に分裂させられた状態で、この薬液Wの先端W1から患部Kに向かう電気力線Lに沿って患部Kに到達することで、患部Kに薬液Wが投与される。図示の例では、前述のように霧状に分裂させられる薬液Wの先端W1は、カテーテル13の薬液流通路13b内ではなく、カテーテル13の外部に位置している。
【0032】
ここで、吐出孔から吐出された薬液Wは、患部Kに向かうに従い漸次減速する。そして、この流速が所定の大きさ以下になると、薬液Wの先端部に電圧が集中し、その表面の電荷密度が臨界値に達することで先端部が電気流体力学的に不安定になり、この先端部から患部Kに向けて糸状に薬液W2が引き出され、この糸状の薬液W2の先端W1から多数の液滴に分裂する。さらにこれらの液滴は前述のように帯電しているため、相互に反発力を作用させ合うことでより細かく分裂して霧状になる。
【0033】
なお、薬液Wを直径100μm以下の霧状にするための手段の一つとして、薬液Wの性状にも因るが、例えば吐出孔の直径を300μm以下にすることが挙げられる。また、薬液Wの導電率が例えば1×10−10〜1×10−1(S/m)の場合には、薬液Wに印加する電圧を高めると薬液Wをより細かく霧状に分裂させることができる。例えば、導電率が1×10−6(S/m)の蒸留水では、吐出孔の直径を0.075mm、印加する電圧を+5kV、流量を0.3mL/分とすると、直径が8〜20μmの霧状に分裂される。
【0034】
なお、薬液Wが霧状に分裂し始める薬液Wの先端W1は、空圧タンク21の内圧を高めたりあるいは薬液Wに印加する電圧を小さくしたりすることで、吐出孔から離間させて患部K側に近づけることができる。さらに、このように薬液Wの先端W1を患部K側に近づけると、患部Kにおける単位面積当たりの薬液Wの投与量を増大させることができる。
さらに、カテーテル13の吐出孔を患部Kに近づけると、患部K上において電気力線Lが形成される領域が狭められて単位面積当たりの薬液Wの投与量が増大し、離間させるとこの領域が広げられて単位面積当たりの薬液Wの投与量が減少する。
【0035】
以上の薬液Wの投与を充填部11内の薬液Wがなくなるまで行う。
その後、四方弁22の押し込みを解除して元の位置に戻す。これにより、供給管23および送風管29aと空圧タンク21との連通を遮断する一方、供給管23および送風管29aと開放管24とを連通させて、充填部11の内圧を大気圧と同等にし、かつ鉗子チャンネル2内への空気の供給を停止させる。さらにこの際、弁認識スイッチ26が四方弁22の押し込みを検出しなくなり回路部18から主電極17への電圧の供給が停止する。
そして、最後に、充填部11、カテーテル13および主電極17を有する前記組立て体を筐体28から取り外す。または、薬液投与装置10の全体を鉗子栓3から取り外す。
【0036】
以上説明したように、本実施形態による薬液投与装置10によれば、薬液Wを前述のようにカテーテル13の吐出孔から吐出させるのと同時に、送風手段29によりカテーテル13の基端側から先端面13aに向けて空気を流している。そのため、吐出孔に体内異物が付着していた場合においても、送風手段29からの気流Rの風圧によって前記体内異物を除去することが可能になり、患部Kに限定して正確な量の薬液Wを投与することができる。
【0037】
また、カテーテル13の吐出孔から吐出された薬液Wが電圧印加部14により帯電しているので、前述のように薬液Wの先端W1を霧状に分裂させたときにこの霧状の薬液Wを患部Kの周辺で浮遊させたり、あるいはこの霧状の薬液Wが患部Kに到達したときに跳ね返って舞い上がったりさせることなく、直ちに患部Kに吸着させることが可能になり、患部Kに正確な量の薬液Wを投与することが可能になるとともに、患部Kの全域にわたって薬液Wを均等に投与することができる。
【0038】
さらに、送風手段29が、空気をカテーテル13の外周面上に沿ってその基端側から先端面13aに向けて流すので、薬液投与装置10においてカテーテル13の径方向外側に位置する部分に付着して前記吐出孔を覆う体内異物のほぼ全体を、この送風手段29からの気流Rの風圧によって除去することが可能になる。
【0039】
さらにまた、前述のように薬液Wを霧状に分裂する位置が、カテーテル13の内部ではなく、カテーテル13の外部となっているので、カテーテル13の薬液流通路13b内に薬液Wが残留して患部Kに投与される薬液の量が少なくなったり、吐出孔から薬液Wが垂れて患部K以外の部位に薬液Wが付着したりするのを避けることができる。
【0040】
なお、霧状の薬液Wを本実施形態のように帯電させないと、微小な液滴自身の表面張力により球形状を維持しようとする力が働く。その力は小さい液滴ほど強く作用するために、この液滴を患部Kに向けて送り出しても患部Kに付着しないで舞い上がる、いわゆるドライフォグ現象が発生し易くなって、患部Kへの薬液Wの投与量が少なくなるばかりでなく、その投与量の把握も困難になる。
ところが本実施形態のように霧状の薬液Wを帯電させることによって、薬液Wを患部Kに吸着させることが可能になり、この投与量を正確にしかつ投与量の把握も容易になる。
【0041】
さらにまた、例えば患部Kが呼吸器系の肺や肺胞などの場合には、霧状の薬液Wを本実施形態のように帯電させないと、薬液Wが呼吸の吐き出しに伴い口から排出され易くなる。このため従来から、吸入療法等で使用されるネブライザーなどを用いて薬液Wを投与する際には、患者が息を吸い込む時に合わせて薬液Wを投与するなどの対策が必要であった。
ところが本実施形態のように、霧状の薬液Wを帯電させ、しかも患部Kの近くで薬液Wを吐出孔から吐出することによって、患者が息を吐き出すタイミングに合わせなくても、薬液Wを患部Kに容易かつ正確に吸着させることができる。
【0042】
また、本実施形態では、霧状に分裂し始める薬液Wの先端W1が、鉗子チャンネル2の先端2aから患部K側に離れているので、鉗子チャンネル2の先端2aに付着した体内異物のうち吐出孔から離れたところに位置しているために、送風手段29からの気流Rの風圧によって除去されなかった体内異物があったとしても、この異物が、霧状に分裂された薬液Wの患部Kに向けた進行の妨げになることがなく、前述の作用効果が確実に奏功される。
【0043】
さらに本実施形態では、薬液投与装置10を内視鏡1の鉗子栓3に装着して用いるので、患部Kを視認して薬液Wの投与位置を特定することが可能になり、正確な薬液Wの投与を実現することができる。
さらに本実施形態では、回路部18と生体とがグランドバンドGで接続されているので、吐出孔から吐出された薬液Wの先端W1と患部Kとの間の電位差を確実に確保することが可能になり、患部Kに霧状の薬液Wをより一層確実に吸着させることができる。またこのようにグランドバンドGが設けられていることから、患部Kが、帯電した薬液Wを吸着することでこの薬液Wの極性と同じ極性の電位になって前記電位差が小さくなるのを防ぐこともできる。
【0044】
さらに前述したように、薬液Wに印加する電圧の大きさを変えることで、霧状の薬液Wの直径を変更できるので、薬液Wを投与する部位等に応じて最適な直径に容易に設定することが可能になる。さらに、四方弁22のボタンを操作するだけで、吐出孔からの薬液Wの吐出、および薬液Wへの電圧の印加を、瞬時に開始および停止することが可能になるので、薬液Wを投与する部位等に応じて最適なタイミングを容易に設定することができる。
【0045】
ここで、薬液Wの種類によっては、泡立ちやすいものや分散粒子が含有されているものがある。ネブライザーなどに適用される超音波霧化原理では、泡立ちやすい薬液は超音波の伝播を阻害するため薬液Wが霧化されない場合もある。また、超音波霧化原理のなかでも薬液Wの液滴を微細化するために、数μmの微細穴のメッシュを使用するものは、分散粒子が含有されている液体を霧化させる際に、メッシュが目詰まりして霧化できなくなる場合もある。
ところが本実施形態では、薬液Wに超音波をかけたりメッシュを用いたりしないので、このような泡立ちやすい薬液や分散粒子を含有する薬液においても、前述の作用効果を奏功させることが可能になる。
【0046】
なお、本発明の技術的範囲は前記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、前記実施形態では、回路部18に、生体の一部に接続されるグランドバンドGを接続したが、このグランドバンドGは設けなくてもよい。
この場合においても、一般に生体の電位は0V程度(グランド側)になっているため、薬液Wが極性にかかわらず帯電していれば、患部Kに薬液Wを吸着させることができる。
【0047】
また、充填部11内からカテーテル13の薬液流通路13b内に薬液Wを送り出している途中に、回路部18から主電極17に印加する電圧の極性を変更してもよい。
さらに、患部Kに投与すべき薬液が2種類以上ある場合には、1種類の薬液を全て投与した後に、薬液投与装置10の各構成要素のうち、充填部11、カテーテル13および主電極17を有する前記組立て体のみを筐体28から取り外して、他種類の薬液が充填部11内に充填されている他の前記組立て体を筐体28に装着するようにしてもよい。そして、前記他種類の薬液が有する溶液内のイオン化特性等の電気的特定に応じて、主電極17に印加する電圧の極性を選択してもよい。
【0048】
また、前記実施形態では、充填部11とカテーテル13との連結部分に配置された主電極17によって薬液Wに電圧を印加したが、これに限らず例えば、主電極を充填部11内に設けてもよいし、あるいはこの主電極を針状に形成しその先端部をカテーテル13に突き刺すことでカテーテル13の薬液流通路13b内に設けてもよい。
【0049】
さらに、前記実施形態では、薬液投与装置10を内視鏡1の鉗子栓3に装着して用いたが、これに限らず、内視鏡1は併用しないで薬液投与装置10のみを用いて、体内の患部Kに薬液Wを投与するようにしてもよい。
また、前記実施形態では、送風手段29がカテーテル13の基端側から先端面13aに向けて空気を流す構成を示したが、気体であれば空気に限られるものではない。
【0050】
以下、本発明に係る薬液投与装置の第2実施形態を、図4を参照しながら説明する。なお、前記第1実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
本実施形態の薬液投与装置30では、前記吐出機構15が、四方弁22に代えて第1三方弁31を備えるとともに、前記送風手段29が、空圧タンク22と第1三方弁31とを接続する配管の中間部分に接続されかつ送風管29aの一端部が接続される第2三方弁32を備えている。
【0051】
そして、第1三方弁31のボタンを押し込む前の待機状態では、供給管23は、空圧タンク21側に位置する第2三方弁22との連通が遮断されて開放管24と連通しており、充填部11の内圧は大気圧と同等になっている。一方、このボタンを押し込むと、供給管23は、開放管24との連通が遮断されて第2三方弁22と連通する。また、第2三方弁32のボタンを押し込む前の待機状態では、空圧タンク21と送風管29aとの連通が遮断され、かつ空圧タンク21と第1三方弁31とが連通している。一方、このボタンを押し込むと、空圧タンク21と第1三方弁31との連通が遮断され、かつ空圧タンク21と送風管29aとが連通する。
【0052】
また、前記弁認識スイッチ26は、第1三方弁31のボタンが押し込まれた否かを検出するように配設され、この第1三方弁31のボタンが押し込まれていることを認識したときに、回路部18で電圧を発生させ、この電圧が副電極19を介して主電極17に供給されるようになっている。
【0053】
以上説明したように、本実施形態による薬液投与装置30によれば、充填部11に接続された供給管23が第1三方弁31に接続される一方、送風管29aが第2三方弁32に接続されているので、空圧タンク21から充填部11内への空気の供給、つまり薬液Wの吐出と、空圧タンク21から鉗子チャンネル2内への空気の供給、つまり鉗子チャンネル2からの気流Rの放出と、を互いに独立して発生させることが可能になる。
【0054】
例えば、薬液Wをカテーテル13の吐出孔から吐出するのに先立って、鉗子チャンネル2の先端2aやカテーテル13の先端面13aに、カテーテル13の吐出孔を覆う体内異物が付着していた場合に、第2三方弁32のボタンを押し込んで送風管29aから鉗子チャンネル2内に空気を供給して、この気流Rの風圧によって前記体内異物を除去した後に、第2三方弁22のボタンの押し込みを解除し前記待機状態に戻して、鉗子チャンネル2内への空気の供給を停止し、その後、第1三方弁31のボタンを押し込んで、充填部11内の薬液Wを吐出させるようにすることが可能になる。
【0055】
この場合、薬液Wを患部Kに投与するときには、鉗子チャンネル2の先端2aから空気が放出されないため、前述した霧状の薬液Wは拡散しつつ患部Kに到達することになり、薬液Wを投与する患部Kが広範囲にわたる場合に有効である。
ここで、患部Kが呼吸器系の場合には、呼吸の吐き出しにより患部Kの周辺には気流が生じていて、薬液Wが患部Kから外れてしまうおそれもあって気流の発生は極力抑えるのが望ましい。したがって、本実施形態のように、鉗子チャンネル2からの気流Rの放出を停止させた後に、患部Kに薬液Wを投与することで、この薬液Wの投与時に患部Kの周辺に生ずる気流を抑えることが可能になる。
【0056】
以下、本発明に係る薬液投与装置の第3実施形態を、図5および図6を参照しながら説明する。なお、前記第1実施形態および第2実施形態と同一の部位には同一の符号を付してその説明は省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0057】
本実施形態の薬液投与装置40では、前記送風手段29が、カテーテル35の内部に薬液流通路13bとは独立して形成された気体流通路34と、カテーテル35の先端面35aに吐出孔35bとは独立して形成され気体流通路34に連通した気体放出孔34aと、を備えている。そして、この気体流通路34において気流放出孔34aと反対側の基端部に送風管29aが接続されている。
【0058】
カテーテル35は、薬液流通路13bおよび吐出孔35bと、気体流通路34および気流放出孔34aと、を有するマルチルーメンカテーテルとされ、例えばポリ四フッ化エチレン等の非導電性でかつ可撓性を有する材質で形成されている。なお、例えば、カテーテル35の外径は約1.6mm、薬液流通路13bおよび気体流通路34の各直径は約0.5mmとされ、吐出孔35bおよび気流放出孔34aの各直径は約0.075mmとなっている。
また、前記第2実施形態と同様に、供給管23には第1三方弁31が接続され、送風管29aには第2三方弁32が接続されている。さらに、前記弁認識スイッチ26は、第1三方弁31のボタンが押し込まれた否かを検出するように配設されている。
【0059】
以上説明したように、本実施形態による薬液投与装置40によれば、送風手段29が、カテーテル35の内部に薬液流通路13bとは独立して形成された気体流通路34と、カテーテル35の先端面35aに吐出孔35bとは独立して形成され気体流通路34に連通した気体放出孔34aと、を備えているので、気流放出孔34aを薬液Wが吐出される吐出孔35bに近接させることが可能になり、カテーテル35の先端面35aに付着して吐出孔35bを覆う体内異物を、送風手段29からの気流Rの風圧によって確実に除去することができる。
【0060】
なお、本実施形態では、カテーテル35に気体流通路34および気流放出孔34aを1つずつ形成したが、薬液流通路13bおよび吐出孔35bを1つずつ形成する一方、気体流通路34および気流放出孔34aを複数ずつ形成してもよい。この場合、カテーテル35の先端面35aや鉗子チャンネル2の先端2aに付着した体内異物をより一層確実に除去することができる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
吐出孔に体内異物が付着しても、患部に限定して正確な量の薬液を投与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明に係る第1実施形態として示した薬液投与装置の概略図である。
【図2】図1に示す薬液投与装置を内視鏡の鉗子栓に装着して用いている状態を示す概略側面図である。
【図3】図1および図2に示す薬液投与装置を用いて患部に薬液を投与している状態を示す概略図である。
【図4】本発明に係る第2実施形態として示した薬液投与装置の概略図である。
【図5】本発明に係る第3実施形態として示した薬液投与装置の概略図である。
【図6】図5に示す薬液投与装置の要部拡大斜視図である。
【符号の説明】
【0063】
10、30、40 薬液投与装置
11 充填部
13、35 カテーテル
13a、35a 先端面
13b 薬液流通路
14 電圧印加部
15 吐出機構
29 送風手段
34 気体流通路
34a 気流放出孔
35b 吐出孔
K 患部
L 電気力線
W 薬液
W1 薬液の先端

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に薬液が充填される充填部と、
基端が充填部に接続され、かつ先端面に形成された吐出孔と前記充填部内とを連通する薬液流通路が内部に形成されたカテーテルと、
前記薬液に電圧を印加する電圧印加部と、
前記充填部内の薬液を、前記薬液流通路を通して吐出孔から吐出する吐出機構と、を備え、
前記薬液を、電圧印加部により帯電させた状態で、前記吐出孔から体内の患部に向けて吐出させ、この薬液の先端を、患部との間の電位差によって霧状に分裂させた状態で、当該薬液の先端から患部に向かう電気力線に沿って患部に到達させる構成とされるとともに、
前記カテーテルの基端側から前記先端面に向けて気体を流す送風手段を備えることを特徴とする薬液投与装置。
【請求項2】
請求項1記載の薬液投与装置であって、
前記送風手段は、気体をカテーテルの外周面上に沿ってその基端側から前記先端面に向けて流すことを特徴とする薬液投与装置。
【請求項3】
請求項1記載の薬液投与装置であって、
前記送風手段は、カテーテルの内部に前記薬液流通路とは独立して形成された気体流通路と、カテーテルの先端面に前記吐出孔とは独立して形成され前記気体流通路に連通した気体放出孔と、を備えることを特徴とする薬液投与装置。
【請求項4】
患部に薬液を投与する薬液投与方法であって、
請求項1から3のいずれか1項に記載の薬液投与装置を用い、
前記薬液を、電圧印加部により帯電させた状態で、前記吐出孔から患部に向けて吐出させるのと同時に、またはその前に、前記送風手段により前記カテーテルの基端側から前記先端面に向けて気体を流すことを特徴とする薬液投与方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate