説明

薬液注入制御装置

【課題】 薬液中に含まれる可及的に全ての生体物質の健全な状態が維持されつつ、薬液を薬液注入器具内に導くことが出来る薬液注入制御装置を提供する。
【解決手段】 装置本体12に、薬液が流動可能な流路77,78,80,50eと薬液の流入口76及び流出口21とを設けると共に、流路77,78,80,50e内での薬液の流れが層流状態となるように、かかる薬液の流れを制御する第一の制御手段58,64と、この層流状態とされた流路内での薬液の流れが、更に旋回流となるように、薬液の流れを制御する第二制御手段70とを、装置本体12に更に設けて、構成した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬液注入制御装置に係り、特に、薬液注入器具を通じて体内に注入される薬液を、その流れを制御しつつ、薬液注入器具に導く薬液注入制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、血管、消化管、尿管等の人体の管状器官或いは体組織中に、所定の医療器具を挿入することによって、様々な治療や検査、処置等が行われている。そして、近年では、カテーテル等の薬液注入器具を体内に挿入して、心筋等の病巣部に細胞等の生体物質を含む薬液を注入することにより、実質的に壊死した状態にある組織を再生させる治療や処置等が、実施されている(例えば、特許文献1参照)。また、そのような薬液を、注射器のような薬液注入器具を用いて、生体組織に注入することも、行われている。
【0003】
ところで、このような薬液注入器具を用いる際には、一般に、シリンジ等を使用して、薬液が、薬液注入器具に導入乃至は供給される。そこで、従来から、薬液注入器具に対して薬液をよりスムーズに導き得るように、シリンジの構造に種々工夫が施されている(例えば、特許文献2及び特許文献3参照)。
【0004】
ところが、本発明者等が、そのような従来の改良型シリンジについて、種々検討を加えた結果、生体物質を含む薬液の導入(供給)装置として使用した場合に、許容され難い問題を生ずることが、判明した。
【0005】
すなわち、よく知られているように、細胞等の生体物質を含む薬液は、繊細で且つ高価である。そのため、そのような薬液を薬液注入器具に導入せしめる場合、薬液中の全ての生体物質が健全な状態で体内に注入され得るように、薬液中に含まれる生体物質にダメージを与えることなく、可及的に多くのものが、薬液注入器具内に導かれるようになっていることが要求される。
【0006】
しかしながら、従来のシリンジを用いて、生体物質を含む薬液を薬液注入器具に導入させた場合、体内中での生体物質の生存率を所望の値とすることが極めて困難であった。また、全ての薬液を薬液注入器具に送り込んだ後に、生体物質が、シリンジの内面に多く付着して、シリンジ内に残留してしまうことが避けられなかった。
【0007】
それ故、従来のシリンジは、生体物質を含む薬液を薬液注入器具に導入乃至は供給する装置に対する要求を、到底満足し得るものではなかった。従って、かかる装置の更なる改良が、現在、強く望まれているのである。
【0008】
【特許文献1】特開2003−250899号公報
【特許文献2】特開2000−325477号公報
【特許文献3】特開平7−194701号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、薬液注入器具を通じて所定の薬液を体内に注入するに際して、かかる薬液として、例えば生体物質が含まれる薬液を使用した場合に、可及的に多くの生体物質を健全な状態で薬液注入器具内に導くことを可能ならしめる薬液注入制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
而して、本発明者等は、かかる課題を解決すべく、先ず、体内中での生体物質の生存率の低下と、シリンジ等の薬液導入装置内面への生体物質の付着の原因の究明を行った。そして、その過程で、薬液導入装置における薬液の流路内での流れに着目して、研究を進めた。その結果、かかる流路内での薬液の流れに乱流が生ずると、細胞等の生体物質が損傷を受け易く、しかも、流路の内壁面への生体物質の付着量も増加するといった事実を突き止めた。
【0011】
そして、この事実を基に、本発明者等が更に鋭意研究を重ねた結果、流路内での薬液の流速が、流れ(流路)の中心部分で最大となり、流れの両端側(流路の内壁面側)に近づく程減少する、所謂放物線形の流速分布となっている場合には、生体物質が受けるダメージを有利に小さく為すことが出来ることを見出した。しかも、そのような流れの中心部分と両端側部分での流速の差が大きい程、流路の内壁面への生体物質の付着量を減少させ得ることも、見出した。なお、これは、流路内での薬液の流通下において、薬液中の生体物質が、流れの速い部分、つまり流路の中心部分に集まって、流動せしめられて、流路の内壁面への接触が効果的に解消乃至は抑制され得るためと考えられる。
【0012】
すなわち、本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものであって、その第一の態様の要旨とするところは、体内に所定の薬液を注入する薬液注入器具に接続されて、該薬液を該薬液注入器具に導く薬液注入制御装置において、(a)前記薬液が流動せしめられる流路と、該流路内に該薬液を流入させる流入口と、該流路内の該薬液を該流路内から流出せしめる流出口とを備えた装置本体と、(b)前記薬液が、前記装置本体の前記流路内を層流状態で流れるように、該流路内での該薬液の流れを制御する第一の制御手段と、(c)前記薬液が、前記装置本体の前記流路内を旋回しながら流れるように、該流路内での該薬液の流れを制御する第二の制御手段とを含んで構成したことを特徴とする薬液注入制御装置にある。
【0013】
また、このような本発明に従う薬液注入制御装置の第二の態様においては、前記第二制御手段が、前記装置本体の前記流路内を流れる前記薬液と接触して、該薬液の流動方向を変化させる整流面からなると共に、該整流面が、該薬液の流動方向に平行な面を、該流動方向に平行な一軸回りに捻って形成される湾曲面形態を有して構成される。
【0014】
さらに、本発明に従う薬液注入制御装置の第三の態様では、前記第二制御手段が、前記装置本体の前記流路内を流れる前記薬液と接触して、該薬液の流動方向を変化させる整流面からなると共に、該整流面が、該薬液の流動方向に沿って螺旋状に延びる湾曲面形態を有して構成される。
【0015】
更にまた、本発明に従う薬液注入制御装置の第四の態様においては、前記流路内を流れる際の該薬液のレイノルズ数の最大値が、かかる薬液の流れが層流から乱流に遷移するレイノルズ数よりも小さな値となるように、少なくとも前記流入口と前記流出口のそれぞれの断面積が設定されると共に、流路断面積制限手段にて該流路の断面積を制限して、該薬液の流量を制御する流量制御手段にて、前記第一の制御手段が構成される。
【0016】
また、本発明に従う薬液注入制御装置の第五の態様においては、前記流路内を流れる際の前記薬液のレイノルズ数の最大値が、50以上、2300未満の範囲内の値となるように、前記第一の制御手段にて制御される。
【0017】
さらに、本発明に従う薬液注入制御装置の第六の態様においては、前記流路断面積制限手段が、前記流路内に、前記薬液の該流路内への流入によって前記流入口から離間する方向に移動せしめられるように配置されたプランジャ部材にて構成される一方、前記流量制御手段が、該プランジャ部材と、該プランジャ部材に対して該流入口側に付勢力を作用せしめる弾性部材とを含んで構成されることとなる。
【0018】
更にまた、本発明に従う薬液注入制御装置の第七の態様では、前記プランジャ部材と前記弾性部材とが一体化されて、構成される。
【0019】
また、本発明に従う薬液注入制御装置の第八の態様では、前記弾性部材が、前記流入口に位置せしめられた状態で、前記装置本体と前記プランジャ部材との間に介装される。
【0020】
さらに、本発明に従う薬液注入制御装置の第九の態様においては、前記プランジャ部材が、前記流路内に、該流路内への前記薬液の非流入状態下で前記流入口を閉塞するように配置される。
【0021】
更にまた、本発明に従う薬液注入制御装置の第十の態様においては、前記第二制御手段が、前記筒体からなる装置本体の前記流路内を流れる前記薬液と接触して、該薬液の流動方向を変化させるように、該装置本体の内周面若しくは前記プランジャ部材の外周面に形成された整流面からなり、且つ該整流面が、該薬液の流動方向に平行な面を、該流動方向に平行な一軸回りに捻って形成される湾曲面形態を有して構成される。
【0022】
また、本発明に従う薬液注入制御装置の第十一の態様では、前記第二制御手段が、前記筒体からなる装置本体の前記流路内を流れる前記薬液と接触して、該薬液の流動方向を変化させるように、該装置本体の内周面若しくは前記プランジャ部材の外周面に形成された整流面からなり、且つ該整流面が、該薬液の流動方向に沿って螺旋状に延びる湾曲面形態を有して構成される。
【0023】
さらに、本発明に従う薬液注入制御装置においては、前述せる如き技術的課題の解決のために、その第十二の態様とするところは、体内に所定の薬液を注入する薬液注入器具に接続されて、該薬液を該薬液注入器具に導く薬液注入制御装置において、(a)流入口から前記薬液を導入し、且つ流出口から該薬液を排出する筒状の装置本体と、(b)該装置本体内に、前記流入口からの前記薬液の導入によって、該流入口から離間する方向に移動せしめられるように配置されたプランジャ部材と、(c)該プランジャ部材に設けられて、前記装置本体内に導入される前記薬液の該装置本体内での流れを旋回流とする旋回流発生手段と、(d)前記プランジャ部材と前記装置本体との間に位置せしめられて、該プランジャ部材に対して、前記流入口側に付勢力を作用せしめる弾性部材とを含んで構成したことを特徴とする薬液注入制御装置にある。
【0024】
また、本発明に従う薬液注入制御装置の第十三の態様においては、前記旋回流発生手段が、前記プランジャの軸方向に延びる多角柱状体を、該プランジャの軸心を中心に所定の角度だけ捻って変形させてなる変形多角柱状体からなり、かかる変形多角柱状体に対して、前記装置本体内に流入せしめられる前記薬液が接触せしめられるように流されることにより、該装置本体内での該薬液の流れが旋回流とされるように構成される。
【0025】
さらに、本発明に従う薬液注入制御装置の第十四の態様では、前記プランジャ部材が、円筒状外周面を備えた本体部を有して構成される。
【発明の効果】
【0026】
すなわち、本発明に従う薬液注入制御装置の第一の態様にあっては、装置本体の流路内での薬液の流れが、第一の制御手段による流れ制御により、層流状態とされるようになっている。それ故、かかる本発明装置では、流路内での薬液の流速が、流路の中心部分で最大となり、流路の内壁面に近づくに従って徐々に減少する、所謂放物線形の流速分布とされ得る。そして、それにより、細胞等の生体物質を含む薬液が流路内を流通せしめられる場合において、かかる薬液の流通時に、薬液中の生体物質が損傷を受けることが、有利に解消乃至は抑制され得る。
【0027】
また、このような本発明に係る薬液注入制御装置においては、流路内を層流状態で流通せしめられる薬液の流れが、第二の制御手段による流れ制御により、更に旋回流とされるようになっている。それ故、かかる本発明装置では、流路の中心部分での薬液の流速が、より大きくされ得る。それによって、流路の中心部分での薬液の流速と、流路の内壁側部分での薬液の流速の差が、より一層顕著なものとなる。そして、その結果、細胞等の生体物質を含む薬液が流路内を流通せしめられる場合において、流路の内壁面への生体物質の付着が、更に効果的に防止乃至は抑制され得ることとなる。
【0028】
従って、かくの如き本発明に従う薬液注入制御装置を用いれば、薬液注入器具を通じて薬液を体内に注入するに際して、かかる薬液として、例えば生体物質が含まれる薬液を使用した場合に、薬液注入制御装置の流路内に流入せしめられた薬液中の生体物質が、流路内に殆ど残留せしめられることなく、ダメージの少ない健全な状態で、より多くの量において、薬液注入器具内に導かれ得る。それによって、薬液注入器具を通じて体内に注入された生体物質の量とその生存率とが、何れも効果的に高められ得る。そして、その結果、体内への薬液注入による所望の治療効果や処置効果等が、より一層効率的に且つ確実に達成され得ることとなる。
【0029】
また、本発明に従う薬液注入制御装置の第二及び第三の態様によれば、流路内での薬液の流れを、容易に且つ確実に旋回流と為すことが出来る。しかも、そのような優れた特徴を発揮する第二の制御手段を、特別な器具や装置を用いることなく、単に、薬液を整流面に接触させつつ、流動させるだけの簡単な構造において、容易に且つ経済的に有利に実現することが可能となる。
【0030】
さらに、本発明に従う薬液注入制御装置の第四の態様によれば、流路内での薬液の流れを、確実に層流状態と為すことが出来る。
【0031】
更にまた、本発明に従う薬液注入制御装置の第五の態様では、流路内での薬液の流速が極端に遅くなるようなことが、未然に防止され得る。それによって、薬液を体内に注入するのに要する時間が長くなり、そのために、使用性が低下することも、効果的に回避され得る。
【0032】
また、本発明に従う薬液注入制御装置の第六の態様にあっては、単に、プランジャ部材を流路内に移動可能に収容配置せしめただけの安価で且つ簡略な構造により、流路の実質的な断面積が、効果的に小さくされ得る。しかも、かかるプランジャ部材に対して、流入口側、換言すれば、流路内での移動方向とは逆方向に付勢力を作用せしめるように配置されたに過ぎない弾性部材と、上述の如き簡略な構造をもって配置されたプランジャ部材との協働作用により、流路内での薬液の流量が、所定の値を超えない大きさに制御されるようになっている。
【0033】
それ故、この本発明装置では、構造が複雑で且つ高価な部材や機構等が何等装備されることなく、流路の断面積と薬液の流量に基づいて算出される、流路を断面円形としたときの流路の直径と薬液の流速とから求められる、流路内を流れる際の薬液のレイノルズ数の最大値が、低く抑えられ得る。そして、それによって、流路内での薬液の流れが、確実に層流状態と為され得る。
【0034】
従って、かくの如き本発明に従う薬液注入制御装置によれば、生体物質を含む薬液を薬液注入器具に導くに際して、薬液中の生体物質を健全な状態で、薬液注入器具、更には体内に導入させることが、より経済的に有利な条件において実現可能となる。
【0035】
また、本発明に係る薬液注入制御装置にあっては、薬液の流路内に、流路の断面積と流量とを制限乃至は制御するための部材たるプランジャ部材が配置されている。そのため、そのような部材を流路とは別の部位に設ける場合に比して、装置全体の小型化が、有利に図られている。それ故、生体物質を含む薬液を用いた場合に、その薬液中の生体物質が残留せしめられる可能性のあるスペースが、可及的に小さくされ得る。
【0036】
従って、このような本発明装置においては、生体物質を含む薬液を薬液注入器具に導く際に、薬液中の生体物質の残留量を、更に一層効果的に減少乃至はゼロと為すことが出来る。
【0037】
さらに、本発明に従う薬液注入制御装置の第七の態様によれば、プランジャ部材と弾性部材の取扱性と装置本体に対する組付性とが、有利に高められ得る。
【0038】
更にまた、本発明に従う薬液注入制御装置の第八の態様では、弾性部材が流入口に位置せしめられている分だけ、流路内での弾性部材の配置スペースが省略され得る。それによって、例えば、弾性部材の全体を流路内に配設する場合に比して、流路の大きさ、換言すれば、生体物質を含む薬液を用いた場合に、その薬液中の生体物質が残留せしめられる可能性のあるスペースが、効果的に小さくされ得るといった利点が得られる。
【0039】
また、本発明に従う薬液注入制御装置の第九の態様によれば、流路の長さを、プランジャ部材の長さとその移動ストロークとの合計長さに制限することが出来る。そのため、流路の長さを必要最小限度に長さに為すことが可能となる。これによっても、生体物質を含む薬液を用いた場合に、その薬液中の生体物質が残留せしめられる可能性のあるスペースが、効果的に小さくされ得るといった利点が得られることとなる。
【0040】
更にまた、本発明に従う薬液注入制御装置の第十及び第十一の態様によれば、単に、薬液を整流面に接触させつつ、流動させるだけで、流路内を流動せしめられる流路内での薬液の流れを、容易に且つ確実に旋回流と為すことが出来る。しかも、流路内での薬液の流れを旋回流と為すための部材を、流路内に、プランジャ部材とは別に設ける必要が解消され得る。これによって、流路の大きさ、換言すれば、生体物質を含む薬液を用いた場合に、その薬液中の生体物質が残留せしめられる可能性のあるスペースが、効果的に小さくされ得ることとなる。
【0041】
そして、本発明に従う薬液注入制御装置の第十二の態様においては、プランジャ部材を筒状の装置本体内に移動可能に収容配置せしめただけの安価で且つ簡略な構造により、流路の実質的な断面積が、効果的に小さくされ得る。また、そのようなプランジャ部材に対して、装置本体内での移動方向とは逆方向に付勢力を作用せしめるように配置されたに過ぎない弾性部材と、上述の如き簡略な構造をもって配置されたプランジャ部材との協働作用により、流路内での薬液の流量が、所定の値を超えない大きさに制御されるようになっている。更に、装置本体内を流動せしめられる薬液の流れを旋回流となす旋回流発生手段が、プランジャ部材に設けられている。
【0042】
従って、このような本発明に従う薬液注入制御装置にあっては、生体物質を含む薬液を薬液注入器具に導くに際して、薬液中の生体物質を健全な状態で、薬液注入器具、更には体内に導入させることが、より経済的に有利な条件において実現可能となる。また、かかる薬液中の生体物質が残留せしめられる可能性のあるスペースが、可及的に小さくされ得る。それによって、生体物質を含む薬液を薬液注入器具に導く際に、薬液中の生体物質の残留量を、更に一層効果的に減少乃至はゼロと為すことが出来る。
【0043】
また、本発明に従う薬液注入制御装置の第十三の態様によれば、装置本体内での薬液の流れを、より一層容易に且つ確実に旋回流と為すことが出来る。
【0044】
さらに、本発明に従う薬液注入制御装置の第十四の態様によれば、本体部の円筒状外周面と装置本体の内周面との間に、環状乃至は筒状の隙間が形成される。そして、装置本体内に形成される薬液の流路の少なくとも一部が、かかる隙間にて構成される。これによって、流路の実質的な断面積が、より容易に且つ確実に小さくされ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明に係る薬液注入制御装置の構成について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0046】
先ず、図1及び図2には、本発明に従う構造を有する薬液注入制御装置の一実施形態として、心筋等の病巣部に細胞等の生体物質を含む薬液を注入する薬液注入カテーテルに接続されて使用される薬液注入制御装置が、かかる薬液注入カテーテルに接続された状態での正面形態と軸方向断面形態とにおいて、示されている。それらの図から明らかなように、本実施形態の薬液注入制御装置10は、その装置本体としての筒状本体12を有して、構成されている。そして、この筒状本体12の軸方向一方側部分が、薬液注入器具としての薬液注入カテーテル16に接続されている。また、筒状本体12の軸方向他方側部分は、かかる薬液注入カテーテル16に薬液を供給するシリンジ14に接続されている。つまり、ここでは、薬液注入制御装置10が、シリンジ14から吐出されて、供給される薬液を薬液注入カテーテル16に導くように、それらシリンジ14と薬液注入カテーテル16との間に介装されているのである。なお、以下の説明では、かかる薬液の流通方向に基づいて、薬液注入制御装置10のシリンジ14との接続側(例えば、図1及び図2中、左側)を後側とし、且つ薬液注入カテーテル16との接続側(例えば、図1及び図2中、右側)を前側とする。
【0047】
ここにおいて、シリンジ14は、生体物質を含む薬液を、手動により、或いは電動等により供給可能な従来から公知の構造を有している。即ち、シリンジ14は、薬液が収容されるシリンダ22と、シリンダ22の先端に一体形成されたノズル24と、シリンダ22内の薬液をノズル24を通じて外部に押し出すためのピストン23とを有している。そして、ノズル24が、薬液注入制御装置10の筒状本体12内に挿入されて、接続されている。
【0048】
なお、貴重な生体物質を含む薬液は、通常、大量には用いられない。そのため、ここでは、シリンジ14として、1mL(ミリリットル)程度の容量のシリンダ22を備えたものが用いられる。また、このようなシリンジ14にて供給される薬液中に含まれる生体物質としては、例えば、骨芽細胞、ES細胞、間葉系細胞、幹細胞等、実質的に壊死した心筋の再生を図るため細胞や、bFGF(塩基性繊維細胞増殖因子)、VEGF(血管内皮細胞増殖因子)、HGF(肝細胞増殖因子)等の増殖因子が、挙げられる。その他、インターロイキン1(IL−1)からインターロイキン13(IL−13)等のサイトカイン等、生体由来のタンパク質や、DNA、RNA、m−RNA等が、例示され得る。
【0049】
一方、薬液注入カテーテル16も、生体物質を含む薬液を心筋等の病巣部に注入可能な従来から公知の構造を有している。即ち、かかる薬液注入カテーテル16は、長尺な管体からなる、血管等に挿入されるカテーテル本体26と、このカテーテル本体26内に、その長手方向に連続して延びるように形成された第一、第二、及び第三の三つのルーメン(図示せず)と、それら三つのルーメンのうちの第一ルーメンを通じて外部から供給される生理食塩水等の流体の流入によって拡張されるバルーン28と、第二ルーメン内と第三ルーメン内とに、それぞれ軸方向に移動可能に挿入されたガイドワイヤ30と針状管体32とを有している。
【0050】
なお、ガイドワイヤ30は、カテーテル本体26の先端面に設けられた先端開口部を通じて、外部に延出せしめられるようになっている。また、針状管体32は、全体として、可撓性を有する、前記薬液が流通可能な、直径が0.4mm程度の細管からなっている。そして、その先端部が針部34とされている。また、かかる針部34以外の部分は、薬液を針部34に導く薬液流通管路部35とされている。そして、このような針状管体32の薬液流通管路部35が、第三ルーメン内でカテーテル本体26の軸方向に移動せしめられることにより、針部34が、カテーテル本体26の先端部(図1中、右端部)の側面に設けられた突出孔36を通じて、外部に突出せしめられ、又は第三ルーメン内に引き込まれ得るようになっている。
【0051】
また、カテーテル本体26の後端部(図1中、左端部)には、カテーテル本体26を三つに分岐し、且つカテーテル本体26内の三つのルーメンにそれぞれ連通せしめられる第一、第二、及び第三の三つの分岐路37a,37b,37cを備えた分岐ソケット38が、設けられている。更に、この分岐ソケット38の第一及び第二分岐路37a,37bの先端には、コネクタ40a,40bがそれぞれ取り付けられている。そして、それら二つのコネクタ40a,40bのうち、第一分岐路37aに取り付けられたコネクタ40aに対して、第一ルーメンを通じてバルーン28に流体を供給するためのシリンジ42が、取り付けられている。また、第二分岐路37bに取り付けられたコネクタ40bを通じて、ガイドワイヤ30が、第二ルーメン内に挿入されるようになっている。
【0052】
さらに、ここでは、針状管体32が、その後端部を外部に突出させた状態で、第三分岐流路37cを通じて、第三ルーメン内に挿入されている。また、かかる針状管体32の後端部には、コネクタ40cが連通状態で取り付けられている。そして、このコネクタ40cに対して、薬液を針状管体32に供給するためのシリンジ14が接続された薬液注入制御装置10の筒状本体12が、挿入されて、取り付けられているのである。なお、図1中、44は、突出孔36の近傍に固定されたマーカである。また、このマーカ44は、例えば、金、白金、白金ロジウム合金等の放射線不透過材を用いて形成される。
【0053】
而して、このような構造とされた薬液注入カテーテル16にあっては、心筋の病巣等への薬液注入に際して、従来と同様にして、使用されることとなる。即ち、例えば、先ず、ガイドワイヤ30が、心筋上の血管内等に挿入される。次いで、このガイドワイヤ30にて案内されつつ、カテーテル本体26が血管内に挿入される。このとき、X線造影等により、血管内でのマーカ44の位置が確認される。これによって、血管内での突出孔36の位置が把握される。そして、突出孔36が血管内の所望の位置に到達したら、バルーン28が拡張されて、カテーテル本体26の位置が固定される。その後、針状管体32が、カテーテル本体26の第三ルーメン内を移動せしめられて、針部34が、突出孔36から外部に突出せしめられる。これにより、針部34が、心筋の所望の部位に穿刺せしめられる。そして、その後、薬液が、シリンジ14から薬液注入制御装置10を通じて針状管体32内に供給され、以て、心筋の所望の部位に対して、薬液が、針部34を通じて注入されることとなる。
【0054】
ところで、上述の如く、シリンジ14と薬液注入カテーテル16との間に介装される薬液注入制御装置10の筒状本体12は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリサルフォン等の樹脂材料を用いて、形成されている。また、この筒状本体12は、図2から明らかなように、軸方向(前後方向)の一方側部分(後側部分)が、その他方側部分(前側部分)よりも外径が大きくされた、全体として、略段付の円筒形状を有している。そして、外径の大なる後側部分が、シリンジ14のノズル24が挿入されて、接続される第一接続部18とされている。また、外径が小なる前側部分が、薬液注入カテーテル16のコネクタ40cが外挿されて、接続される第二接続部20とされている。更に、このような筒状本体12における後側(第一接続部18側)の開口部が、大径の第一開口部19とされ、また、前側(第二接続部20側)の開口部が、小径の第二開口部21とされている。
【0055】
なお、ここでは、第一接続部18の内周面の一部(後述する第一内孔部50aの内周面)と第二接続部20の外周面とが、シリンジ14のノズル24のテーパ面からなる外周面と、コネクタ40cのテーパ面からなる内周面とにそれぞれ対応したテーパ面とされている。これによって、シリンジ14のノズル24が、第一接続部18内に圧入状態で、挿入されるようになっている。また、第二接続部20も、コネクタ40c内に圧入状態で、挿入されるようになっている。
【0056】
また、かかる筒状本体12における第一接続部18の外径は6.0mm程度で、その最大内径が3.9mm程度、更に、その長さが、シリンジ14のノズル24の長さよりも所定寸法長い10.0mm程度とされている。一方、第二接続部20の最小外径は3.9mm程度で、長さは11.0mm程度とされている。なお、これら第一接続部18と第二接続部20の径や長さ等は、シリンジ14のノズル24や薬液注入カテーテル16のコネクタ40cの径や長さ等に応じて、適宜に変更される。
【0057】
また、このような筒状本体12にあっては、その内周面に、第一、第二、第三、及び第四の四つの円環状段付面46a,46b,46c,46dが、軸方向(前後方向)に間隔を開けて形成されている。そして、それら四つの円環状段付面46a〜46dは、前側に位置するもの程、径が小さくされている。これによって、筒状本体12の断面円形の内孔48が、第一円環状段付面46aよりも後側の部分からなる第一内孔部50aと、第一円環状段付面46aと第二円環状段付面46bとの間の部分からなる第二内孔部50bと、第二円環状段付面46bと第三円環状段付面46cとの間の部分からなる第三内孔部50cと、第三円環状段付面46cと第四円環状段付面46dとの間の部分からなる第四内孔部50dと、第四円環状段付面46dよりも前側の部分からなる第五内孔部50eとにて、構成されている。そして、それら五つの内孔部50a〜50eのそれぞれの内径が、前側に位置するのもの程、小さくされている。
【0058】
なお、ここでは、第一内孔部50aの内周面が、前述せる如くテーパ面とされて、かかる第一内孔部50aの最大内径が3.9mm程度で、その長さが8.0mm程度とされている。また、第二内孔部50bの内径は3.5mm程度で、その長さが1.0mm程度とされている。更に、第三内孔部50cの内径は3.0mm程度で、第四内孔部50dの内径が2.0mm程度、第五内孔部50eの内径が0.5mm程度とされている。そして、第三内孔部50cと第四内孔部50dと第五内孔部50eの合計長さ、つまり後述する流路の長さが12.0mm程度とされている。
【0059】
これら各内孔部50の内径や長さも特に限定されるものではなく、第一接続部18や第二接続部20に接続されるシリンジ14のノズル24の径や長さ等に応じて、適宜に変更され得る。また、各内孔部50のうち、薬液が流動せしめられる部分については、シリンジ14から供給される薬液の全量をコネクタ40c内に導いた後に、薬液中に含まれる生体物質が残留せしめられる可能性のある、所謂デッドスペースを形成することとなる。従って、そのようなデッドスペースを極力小さく為すために、薬液が流動せしめられる内孔部50の長さが可及的に小さくされていることが、望ましい。
【0060】
また、このような五つの内孔部50a〜50eを形成する四つの円環状段付面46a〜46dのうち、第三円環状段付面46cは、筒状本体12の前方側に向かって次第に小径となるテーパ面形態をもって、第一接続部18と第二接続部20との段付部分の内周面に形成されている。一方、第一及び第二円環状段付面46a,46bは、筒状本体12の軸方向に直角な円環面形態をもって、筒状本体12の第一接続部18の内周面における第三円環状段付面46cとの近傍部分に形成されている。更に、第四円環状段付面46dは、第三円環状段付面46cと同様なテーパ面形態をもって、第二接続部20の内周面における筒状本体12の第二開口部21との近接部分に形成されている。
【0061】
これによって、筒状本体12の第一接続部18の内孔部分の大部分が、第一内孔部50aにて構成されて、この第一内孔部50aが、第一開口部19を通じて、外部に開口(連通)せしめられている。また、第一接続部18の第一内孔部50aを除いた残りの内孔部分が、第二内孔部50bと第三内孔部50cとにて構成されている。一方、筒状本体12の第二接続部20は、その内孔部分の大部分が、第四内孔部50dにて構成されている。また、かかる第二接続部20の第四内孔部50dを除いた残りの内孔部分が、第五内孔部50eとされて、この第五内孔部50eが、第二開口部21として、外部に開口せしめられている。
【0062】
そして、ここでは、そのような第一内孔部50a内に、シリンジ14のノズル26が圧入下で、挿入せしめられている。また、ノズル24が挿入された第一内孔部50a内には、合成樹脂等の弾性材料からなるシールリング52が、ノズル24にて押圧されて、その先端面と第一円環状段付面46aとの間で圧縮せしめられて、その外周面を第一内孔部50aの内周面に接触させた状態で、収容位置せしめられている。これによって、筒状本体12の第一接続部18とシリンジ14のノズル24とが固定的に接続されている。そして、かかる接続状態下で、薬液が、ノズル24を通じて、外部に漏れ出すことなく、シリンジ14から筒状本体12内に、確実に供給され得るようになっている。
【0063】
また、第二内孔部50bには、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリサルフォン等の樹脂材料からなる閉塞部材としてのプランジャキャップ54が、収容配置されている。このプランジャキャップ54は、図2乃至図4に示されるように、全体として、略厚肉の円板形状を呈している。そして、その外径が、3.5mmを極僅かに下回る程度で、第二内孔部50b内に嵌入可能な大きさとされている。また、その厚さは、1.0mmで、第二内孔部50bの軸方向長さと略同じ大きさとされている。
【0064】
さらに、かかるプランジャキャップ54にあっては、その中心部に、板厚方向に貫通する貫通孔56が、形成されている。また、一方の面上には、その中心点を通って径方向に延びる溝部57が、形成されている。なお、この貫通孔56の内径は1.0mm程度とされている。また、溝部57の幅と深さは、それぞれ0.5mm程度とされている。勿論、このプランジャキャップ54の各部位のサイズも、何等これに限定されるものではない。
【0065】
そして、このようなプランジャキャップ54が、溝部57形成側の面を後側に位置させ、且つ外周面を筒状本体12の内周面に接触させた状態で、第二内孔部50b内に、収容されている。また、かかる状態下において、後端面の外周部が、第一内孔部50a内に収容された前記シールリング52に接触せしめられている。更に、溝部57形成側とは反対側の前端面の外周部が、第二円環状段付面46bに接触せしめられている。これにより、かかるプランジャキャップ54が、第二内孔部50b内において、移動不能とされている。また、第一内孔部50aと第二内孔部50bとの連通部分が、プランジャキャップ54の貫通孔56以外の部分において閉塞せしめられている。換言すれば、第一内孔部50aが、かかる貫通孔56を通じてのみ、第三、第四、及び第五内孔部50c,50d,50eと連通せしめられている。以て、第一内孔部50aに挿入されて、接続せしめられたシリンジ14のノズル24から吐出されて、供給される薬液が、プランジャキャップ54の貫通孔56を通じて、第三乃至第五内孔部50c〜50e内に導かれるようになっているのである。
【0066】
さらに、第三及び第四内孔部50c,50d内には、それらを跨いで前後方向に延びるプランジャ部材58が、収容位置せしめられている。このプランジャ部材58は、図5及び図6に示されるように、本体部60と整流部62とを一体的に有して、構成されている。また、かかるプランジャ部材58の整流部62には、弾性部材としての連結部材64が、後端面から延び出すようにして、一体的に設けられている。
【0067】
このようなプランジャ部材58の本体部60は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミド、ポリサルフォン等の樹脂材料からなり、全体として、円筒状外周面を備えた略円柱形状を呈している。また、この本体部60にあっては、第三及び第四内孔部50c,50d内への配置状態下で、筒状本体12の前側に位置せしめられる前端部が、筒状本体12におけるテーパ面からなる第四円環状段付面46dよりもテーパ角度の大きなテーパ面形状を有する前端側テーパ面部66とされている(図2参照)。更に、第三及び第四内孔部50c,50d内への配置状態下で、筒状本体12の後側に位置せしめられる後端部が、筒状本体12におけるテーパ面からなる第三円環状段付面46cよりもテーパ角度の小さなテーパ面形状を呈する後端側テーパ面部68とされている(図2参照)。更にまた、このような本体部60における前端側テーパ面部66の外周面には、その基部側外周縁の複数個所から頂部に向かって真っ直ぐに延びる凹溝67が、複数設けられている(ここでは、一つのみを示す)。
【0068】
そして、かかる本体部60は、全体の長さが、第四内孔部50dの長さよりも所定寸法長くされている。また、本体部60の外径は、本体部60の第四内孔部50dの内径よりも一周り小さくされている。更に、プランジャ部材58全体の長さは、第三内孔部50cの長さと第四内孔部50dの長さの合計よりも所定寸法だけ短くされている。
【0069】
一方、整流部62は、本体部60と同一の樹脂材料により、本体部60の後端側テーパ面部68に対して一体形成されている。そして、この整流部62は、全体として、本体部60と同軸的に位置せしめられた高さの低い六角柱状のブロック体を、その端面同士が、例えば30°の位相差を有するように、本体部60の軸心回りに捻って形成された変形六角柱形状を呈している。これによって、かかる整流部62の六つの側面が、それぞれ、本体部60の軸方向に平行な矩形平面を、本体部60の軸心回りに、後端面(本体部60側とは反対側の端面)から見て左回りの方向に、例えば30°だけ捻って形成される湾曲面形態を呈する整流面70とされている。
【0070】
また、このような整流部62は、全体として、筒状本体12の第三内孔部50c内に収容可能な大きさとされている。更に、六角形状を呈する後端面の大きさが、前記プランジャキャップ54の貫通孔56を覆蓋し得る大きさとされている(図2参照)。
【0071】
一方、かかるプランジャ部材58に一体的に設けられる連結部材64は、例えば、ポリウレタン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセタール、ポリアミド等の樹脂ばね特性を有する(弾性変形作用を発揮する)樹脂材料にて構成されている。そして、この連結部材64は、整流部62の後端面から本体部60の軸方向に所定長さ突出する棒状の伸縮部72と、かかる伸縮部72の先端部位から、径方向両方向に所定長さ延び出す棒状の係合部74とを、一体的に有している。即ち、かかる連結部材64は、全体として、略T字型の棒状形態を有し、このT字型の脚部が、伸縮部72とされている一方、T字型の頭部が、係合部74とされている。
【0072】
また、このような連結部材64においては、伸縮部72が、前記プランジャキャップ54の貫通孔56の内径よりも所定寸法小さな外径と、プランジャキャップ54における溝部57形成部位の厚さ、つまり溝部57形成面とは反対側面(前端面)から溝部57の底面までの高さと同じか若しくはそれよりも所定寸法小さな高さを有している。更に、係合部74は、プランジャキャップ54の溝部57内に、外部にはみ出すこなく挿入可能な太さと長さとを有している(図2参照)。
【0073】
なお、連結部材64とプランジャ部材58との一体化は、例えば、整流部62の中心に形成された穴内に、伸縮部72の先端を挿入し、これを接着すること等によって、容易に実現され得る。また、それら連結部材64とプランジャ部材58とを一体成形しても良い。勿論、その際には、連結部材64とプランジャ部材58とが、同一の樹脂材料等にて、形成されることとなる。
【0074】
而して、図2に示される如く、本体部60の後端部と整流部62とが第三内孔部50c内に収容せしめられると共に、かかる後端部以外の本体部60の大部分が第四内孔部50d内に収容せしめられた状態で、プランジャ部材58の全体が、筒状本体12の内孔48内に同軸的に配置されている。また、そのような配置状態下で、プランジャ部材58と一体化された連結部材64の伸縮部72が、プランジャキャップ54の貫通孔56内に、伸縮可能な状態で挿通せしめられると共に、係合部74が、プランジャキャップ54の溝部57内に収容されている。これによって、プランジャ部材58が、連結部材64を介して、プランジャキャップ54に連結されている。換言すれば、連結部材64が、筒状本体12内に配設されて、筒状本体12の一部を構成するプランジャキャップ54とプランジャ部材58との間に介装されている。
【0075】
そして、かかる連結下において、整流部62の後端面が、プランジャキャップ54の貫通孔56を閉塞するように、プランジャキャップ54の前端面に当接せしめられている。また、連結部材64の伸縮部72の外周面とプランジャキャップ54の貫通孔56の内周面との間に、円環状孔76が形成されている。更に、プランジャ部材58の整流部62と本体部60の後端部のそれぞれの外周面と第三内孔部50cの内周面との間に、環状間隙77が形成されている。一方、本体部60の外周面と第四内孔部50dの内周面との間には、狭小な筒状間隙78が形成されている。また、本体部60における前端側テーパ面部66と筒状本体12の第四円環状段付面46dとの間には、プランジャ部材58の前後方向への移動を許容する空隙80が形成されている。
【0076】
かくして、本実施形態の薬液注入制御装置10にあっては、図7から明らかなように、筒状本体12がシリンジ14と薬液注入カテーテル16との間に介装された状態下において、シリンジ14のノズル24から筒状本体12の第一接続部18の内孔48部分内に吐出された薬液81が、矢印で示される如く、先ず、プランジャキャップ54の貫通孔56内に形成された円環状孔76内に流入せしめられる。これにより、プランジャ部材58の整流部62の後端面が、かかる薬液にて、前方側に押圧されるようになる。
【0077】
そして、円環状孔76内での薬液81の圧力上昇に伴って、薬液81による整流部62の後端面への押圧力が、ある一定以上の大きさとなると、連結部材64の伸縮部72が伸張方向に弾性変形せしめられるようになる。これによって、プランジャ部材58の整流部62と本体部60とが、連結部材64の伸縮部72にて後方側に付勢せしめられた状態で、前方に移動せしめられる。以て、整流部62の後端面とプランジャキャップ54との間に、薬液81を、第三内孔部50c内部の環状間隙77内に流入せしめる隙間が形成されるようになっている。
【0078】
そして、かかる隙間を通じて、環状間隙77内に流入せしめられた薬液81が、第四内孔部50d内部に形成された筒状間隙78内と、空隙80内とを、それぞれ流動せしめられ、更に、第五内孔部50e内を経て、第二開口部21から前記コネクタ40c内に流出せしめられるように構成されている。これらのことから明らかなように、ここでは、環状間隙77と筒状間隙78と空隙80と第五内孔部50eとにて、薬液81が流動せしめられる流路が構成されている。また、プランジャキャップ54の貫通孔56内に形成される円環状孔76と第二開口部21とにて、流路内に薬液81を流入せしめる流入口と、流路内から薬液81を流出せしめる流出口とが、それぞれ構成されている。
【0079】
ところで、このような薬液注入制御装置10においては、特に、シリンジ14のノズル24を通じて薬液81が供給される際に、円環状孔76内での薬液の圧力が大きく変動せしめられることがあっても、第四内孔部50d内部における筒状間隙78内に流通せしめられる薬液81の流量の変動が可及的に抑制されるようになっている。
【0080】
すなわち、例えば、シリンジ14からの薬液81の吐出圧の上昇等によって、円環状孔76内、つまり、第三内孔部50c内への薬液の流入部分での薬液81の圧力が上昇せしめられた際には、プランジャ部材58の整流部62の後端面に対して、より大きな押圧力が作用せしめられる。このとき、連結部材64の伸縮部72にて発揮されるプランジャ部材58の後方側への付勢力が増大せしめられつつ、プランジャ部材58が前方に移動せしめられる。これにより、円環状孔76内での薬液81の圧力上昇分が、かかる付勢力の増大量に応じたプランジャ部材58に対する押圧力の増大分だけ吸収乃至は相殺されて、圧力損失が生じる。以て、円環状孔76内での薬液81の圧力上昇に起因した、環状間隙77から筒状間隙78内への薬液81の流出部分での薬液81の圧力上昇が可及的に抑えられる。そして、その結果、円環状孔76内での薬液81の圧力上昇に伴う環状間隙77から筒状間隙78内への薬液81の流入量の増加、ひいては筒状間隙78内を流動せしめられる薬液81の流量の増加が、可及的に抑制されるようになる。
【0081】
また、シリンジ14からの薬液81の吐出圧の上昇等によって、プランジャ部材58が前方に移動せしめられると、整流部62の後端面とプランジャキャップ54の前端面との間に形成される隙間が大きくなる。そのため、吐出圧の上昇等により、流速が増大せしめられた状態で、円環状孔76内から第三内孔部50c内のかかる隙間に流入せしめられた薬液81の流速が、低下せしめられる。以て、第三内孔部50c(環状間隙77)内に流入せしめられる薬液81の流入速度の上昇に伴う流路77,78,80,50e内での薬液81の流速の上昇が可及的に抑えられ得る。そして、その結果、流路77,78,80,50e内を流動せしめられる薬液81の流量の増加が、有利に抑制されるようになる。
【0082】
一方、例えば、シリンジ14からの薬液の吐出圧の低下等によって、円環状孔76内での薬液81の圧力が低下せしめられた際には、プランジャ部材58の整流部62の後端面に対して作用せしめられる押圧力が減少せしめられる。このとき、図7に二点鎖線で示されるように、連結部材64の伸縮部72にて発揮されるプランジャ部材58の後方側への付勢力が減少せしめられつつ、プランジャ部材58が後方に移動せしめられる。これにより、円環状孔76内での薬液81の圧力低下分が、かかる付勢力の減少量に応じたプランジャ部材58に対する押圧力の低下分だけ吸収乃至は相殺されて、円環状孔76内での薬液81の圧力低下に起因した、環状間隙77から筒状間隙78内への薬液81の流出部分での薬液81の圧力低下が可及的に抑えられる。その結果、円環状孔76内での薬液81の圧力低下に伴う環状間隙77から筒状間隙78内への薬液81の流入量の減少、ひいては筒状間隙78内を流動せしめられる薬液81の流量の減少が、可及的に抑制されるようになる。このことから明らかなように、ここでは、プランジャ部材58と連結部材64とにて、流路制御手段が構成されている。
【0083】
なお、このような円環状孔76内での薬液81の圧力変動に伴う筒状間隙78内での薬液81の流量変化の抑制作用は、ばね定数:K等にて表される、連結部材64における伸縮部72のばね特性と、プランジャ部材58の前後方向への移動ストローク:S(前記空隙80の軸方向長さであって、整流部62の後端面がプランジャキャップ54の前端面に当接せしめられた状態下での前端側テーパ面部66から筒状本体12の第四円環状段付面46dとの間の距離。図2参照)の大きさとに依存することとなる。また、プランジャ部材58の移動ストローク:Sが大きいと、プランジャ部材58が移動可能に収容せしめられると共に、薬液81が流動せしめられる第三内孔部50cと第四内孔部50dの大きさが増し、それによって、前記せるデッドスペースが大きくなるといった問題が生ずる。
【0084】
従って、本実施形態においては、プランジャ部材58の移動ストローク:Sが0.5mm程度で、連結部材64の伸縮部72のばね定数:Kが4.24g/mm程度とされている。そして、これによって、ここでは、1mLの容量を有するシリンジ14を手動で操作した場合において、薬液注入制御装置10の筒状本体12を通じて、薬液注入カテーテル16内に導かれる薬液81の流量:Qが10.0〜25.0mL/min程度に制限乃至は制御されるようになっている。勿論、プランジャ部材58の移動ストローク:Sの大きさと、連結部材64の伸縮部72のばね定数:Kの大きさは、例示の値に、特に限定されるものではない。
【0085】
また、本実施形態においては、例えば、シリンジ14からの薬液81の吐出圧の過剰な上昇等により、円環状孔76内での薬液81の圧力が過度に上昇して、プランジャ部材58の前端側テーパ面部66が筒状本体12の第四円環状段付面46dと当接する位置まで、プランジャ部材58が前方に移動せしめられた場合にあっても、第二開口部21からの薬液81の流出が停止せしめられることがないようになっている。
【0086】
これは、前端側テーパ面部66が第四円環状段付面46dと当接せしめられても、薬液81が、前端側テーパ面部66に設けられた複数の凹溝67を通じて、第五内孔部50e内に導かれるようになっているからである。また、前端側テーパ面部66のテーパ角度が、テーパ面からなる第四円環状段付面46dのテーパ角度よりも大きくされており、且つプランジャ部材58と筒状本体12とが、互いに弾性率の異なる樹脂材料にて構成されて、それらが当接した際に互いに反発し合うため、前端側テーパ面部66と第四円環状段付面46dとの当接時においても、それらの間に僅かな隙間が形成され易いように構成されているからである。
【0087】
そしてまた、かかる薬液注入制御装置10にあっては、シリンジ14から供給される薬液81が、装置本体12内を層流状態で流動せしめられるようになっている。
【0088】
つまり、公知の如く、断面円形の流路を流れる流体の流れは、流体の流速:vと流路の直径:dとの積で表される流体の慣性力:v・dと流体の粘性力(動粘性係数):νの比の値で示されるレイノルズ数:Re=v・d/νが2300を下回る場合において、層流状態となる。また、断面円形の流路の直径:dは、流路の断面積:sから求められる。一方、流体の流速:vは、v=Q/s(但し、Q:流体の流量、s:流路の断面積)にて定義されるため、流体の流量:Qから導き出される。従って、レイノルズ数:Reは、流体の流量:Qと流路の断面積:sとに基づいて、導くことが出来る。そして、ここでは、上述の如く、薬液の流量:Qが10.0〜25.0mL/min程度に制御されている。
【0089】
それ故、本実施形態にあっては、筒状本体12内を流れる際の薬液のレイノルズ数:Reが2300未満とされて、筒状本体12内の薬液81の流れが層流状態となるように、薬液81の流入口、流出口、流路を構成する円環状孔76、第二開口部21、第五内孔部50e、環状間隙77、筒状間隙78、空隙80のそれぞれの直径、若しくは軸方向に対して直角な断面積を円に換算した場合の直径、所謂相当直径が設定され、具体的には、例えば、以下の如き値とされている。
【0090】
すなわち、連結部材64の伸縮部72の外径が0.3mm程度とされている。これにより、内径が1.0mm程度とされた貫通孔56の内周面と伸縮部72の外周面との間に形成される円環状孔76の相当直径が、0.786mmとされている。また、第二開口部21の直径が0.5mm程度とされている。
【0091】
因みに、流量:Qが10.0〜25.0mL/min程度とされた状態において、0.786mm程度の相当直径を有する円環状孔76内を流れる際の薬液81のレイノルズ数:Reを求める(なお、生体物質を含む薬液の動粘性計数ν=1.05×10-62/s とする)と、Re=269.9〜674.8<2300となる。また、それと同じ流量範囲内において、0.5mm程度の直径を有する第二開口部21内を流れる際の薬液81のレイノルズ数:Reを求めると、Re=424.4〜1061.0<2300となる。
【0092】
そして、プランジャ部材58の整流部62における六角形状の端面の対角線の長さが2.9mm程度とされている。また、本体部60の外径が1.9mm程度とされている。更に、空隙80の軸方向長さと第五内孔部50eの直径とが、それぞれ0.5mm程度とされている。これにより、環状間隙77、筒状間隙78、空隙80、及び第五内孔部50eのそれぞれの相当直径が0.5〜0.786mmの範囲内の値とされている。以て、それら各流路部分内を流れる薬液81のレイノルズ数:Reが、それぞれ2300を下回る値となっている。
【0093】
しかも、ここでは、流入口や流出口、流路等を構成する各部位の相当直径が上述の如き値とされていることによって、筒状本体12内に形成される前記デッドスペースの容積が0.01〜0.03mL程度とされている。これらのことから明らかなように、本実施形態においては、プランジャ部材58にて、流路断面積制限手段が、構成されている。そして、このようなプランジャ部材58と、前述の如く、流路制御手段をプランジャ部材58と共に構成する連結部材64とにて、第一の制限手段が構成されているのである。
【0094】
また、ここにおいて、筒状本体12内を流れる際の薬液81のレイノルズ数:Reは、筒状本体12内の薬液81の流れを層流状態と為す上で、2300を下回る値とされておれば、その下限値が特に限定されるものではない。換言すれば、かかるレイノルズ数:Reが2300未満となるように、薬液81の流入口、流出口、流路を構成する円環状孔76、第二開口部21、第五内孔部50e、環状間隙77、筒状間隙78、空隙80の直径若しくは相当直径が、薬液81の流速等に応じて、適宜に決定されることとなる。
【0095】
しかしながら、そのようなレイノルズ数:Reが余りに小さいと、筒状本体12内での薬液の流速が著しく低下する。そして、それによって、例えば、薬液注入カテーテル16を通じて体内に薬液81を注入する作業に要される時間が過剰に長くなるといった問題が、生ずる。
【0096】
それ故、このような問題の発生を未然に回避するために、レイノルズ数:Reが50以上とされていることが望ましく、より望ましくは500以上である。即ち、筒状本体12内を流れる際の薬液81のレイノルズ数:Reが、好ましくは50≦Re<2300、より好ましくは500≦Re<2300となるように、薬液81の流入口、流出口、流路をそれぞれ構成する部位の直径若しくは相当直径の大きさが決定されていることが、好ましいのである。
【0097】
さらに、かかる薬液注入制御装置10においては、図7に示される如く、第三内孔部50c内に流入した薬液81は、円環状孔76内から、先ず、整流部62の端面に沿って半径方向に流れる。そして、かかる薬液81は、第三内孔部50cの環状間隙77内を通過せしめられる際に、整流部62の複数の整流面70と接触し、この整流面70にて流動方向が変化せしめられるようになっている。つまり、薬液81の流動方向が、本体部60の軸心回りに、その後端面から見て、左回りに、例えば30°だけ捻った方向に変化せしめられた旋回流とされる。そして、この旋回流とされた薬液81が、筒状間隙78内に流入せしめられて、筒状間隙78内と空隙80内と第五内孔部50e内とを左回りに旋回しつつ、流動せしめられるようになっている。即ち、ここでは、整流部62の複数の整流面70にて、第二制御手段(旋回流発生手段)が構成されているのである。
【0098】
このように、本実施形態の薬液注入制御装置10にあっては、シリンジ14のノズル24から供給される薬液81が、筒状本体12内での薬液81の流路を構成する環状間隙77内と筒状間隙78内と空隙80内と第五内孔部50e内とを、層流状態で流されるようになっている。それ故、それら各流路部分77,78,80,50eを代表して、筒状間隙78内での薬液81の流速分布をモデル的に示す図8中の実線アから明らかなように、各流路部分77,78,80,50eの薬液81の流速が、各流路部分77,78,80,50eの中心部分で最大となり、プランジャ部材58の外周面や筒状本体12の内周面に近づくに従って徐々に減少する放物線形の流速分布とされ得る。そして、それにより、先に例示せる如き細胞等の生体物質を含む薬液81の各流路部分77,78,80,50e内の流通時に、薬液81中の生体物質が損傷を受けることが、有利に解消乃至は抑制され得る。
【0099】
しかも、このような薬液注入制御装置10においては、筒状本体12内を層流状態で流通せしめられる薬液81が、環状間隙77内で、プランジャ部材58の複数の整流面70と接触せしめられることにより、更に旋回流とされるようになっている。それ故、筒状本体12内の流路における環状間隙77よりも薬液流通方向下流側の筒状間隙78内と空隙80内と第五内孔部50e内とを流れる薬液81の流速が、それら各流路部分78,80,50eの中心部分で更に増大せしめられ得る。即ち、図8中、実線イで示されるように、各流路部分77,78,80,50eの薬液81の流速分布を表す放物線が、より先鋭な形状となる。その結果、筒状本体12内の薬液の流通時において、薬液81中に含まれる細胞等の生体物質が、流れの中心付近に集まることとなり、以て、薬液各流路部分78,80,50eにおけるプランジャ部材58の外周面や筒状本体12の内周面への生体物質の付着が、効果的に防止乃至は抑制され得ることとなる。
【0100】
従って、本実施形態の薬液注入制御装置10は、シリンジ14と薬液注入カテーテル16とに接続せしめられて、シリンジ14から供給された薬液81を薬液注入カテーテル16内に導くに際して、薬液81中の生体物質を、筒状本体12内に殆ど残留せしめることなく、ダメージの少ない健全な状態で、より多くの量を薬液注入カテーテル16内に導くことが出来る。そして、それによって、薬液注入カテーテル16を通じて体内に注入された生体物質の量とその生存率とを、何れも効果的に高めることが出来る。その結果、体内への薬液81の注入による所望の治療効果や処置効果等を、より一層効率的に且つ確実に向上せしめることが可能となる。
【0101】
また、かかる薬液注入制御装置10にあっては、シリンジ14のノズル24や薬液注入カテーテル16のコネクタ40cに対して、第一及び第二接続部18,20を確実に接続させ得る長さと、筒状本体12内に移動可能に収容されるプランジャ部材58の十分な移動ストロークとを確保した上で、筒状本体12全体の長さが可及的に短くされている。また、筒状本体12内での薬液81の流入口と流出口と流路とを構成する円環状孔76、第二開口部21、第五内孔部50e、環状間隙77、筒状間隙78、及び空隙80の直径や相当直径が小さくされて、筒状本体12内に形成される前記デッドスペースが、0.01〜0.03mL程度の極めて小さな容積とされている。これによっても、筒状本体12内に供給された薬液81中に含まれる生体物質が、筒状本体12内に残留せしめられることが、効果的に防止乃至は抑制され得る。
【0102】
さらに、本実施形態においては、筒状本体12内に供給された薬液81の流れを旋回流と為す整流部62の複数の整流面70と、筒状本体12内への薬液81の流入によって前方に移動せしめられるプランジャ部材58を後方側に付勢する伸縮部72を備えた連結部材64とが、何れも、プランジャ部材58に対して一体的に設けられている。これによって、それらの部材が収容される筒状本体12全体の大きさが小型化され得る。以て、そのような筒状本体12の小型化に伴うデッドスペースの減少と薬液注入制御装置10全体の取扱性の向上とが、共に有利に実現され得る。
【0103】
更にまた、本実施形態の薬液注入制御装置10では、筒状本体12内を流れる薬液81の流れを層流状態とし、且つ旋回流とする構造が、単に、プランジャ部材58と、かかるプランジャ部材58の前方側への移動時に、これを後方に付勢する伸縮部72を備えた連結部材64と、プランジャ部材58に一体形成された複数の整流面70とのみにて実現されている。それ故、構造が複雑で且つ高価な部材や機構等が何等装備されることなく、上述の如き優れた特徴が、極めて簡略な構造で、且つ経済的に有利に発揮され得る。
【0104】
また、かかる薬液注入制御装置10においては、整流部62とプランジャ部材58と連結部材64とが一体化されていることに加えて、連結部材64が、プランジャキャップ54に一体的に組み付けられ得るようになっている。これによって、それらの部材の筒状本体12内への組付性の向上が図られ得るといった利点もある。
【0105】
しかも、かかるプランジャ部材58と一体化された連結部材64が、プランジャキャップ54の貫通孔56内に位置せしめられている。これによって、連結部材64が、筒状本体12内におけるプランジャキャップ54の配設部分とは別の部分に配設される場合に比して、筒状本体12の小型化が有利に図られ得る。以て、デッドスペースが効果的に小さくされ得る。
【0106】
さらに、本実施形態の薬液注入制御装置10では、それを構成する部材の全てが、樹脂材料からなっている。これによって、例えば、薬液81との接触により、人体に悪影響を及ぼす錆等が生ずることが有利に回避され得る。従って、使用に際しての安全性が、効果的に高められ得ることとなる。
【0107】
更にまた、本実施形態の薬液注入制御装置10においては、シリンジ14からの薬液81の吐出圧の変動等によって、円環状孔76内での薬液の圧力や環状間隙77内への薬液81の流入速度の変動が生ぜしめられても、第四内孔部50d内部における筒状間隙78内に流通せしめられる薬液81の流量の変動が可及的に抑制されるようになっている。これによって、シリンジ14が手動で操作される場合にも、シリンジ14から供給される薬液81が、第二開口部21から可及的に一定の量で流出せしめられ得るようになる。
【0108】
従って、このような薬液注入制御装置10にあっては、生体物質を含む薬液81以外に、例えば、低速度で体内に注入しないと効果が低いとされている不整脈治療剤(例えば、塩酸ベラパミルやリン酸ジソピラミド等)を薬液注入カテーテル16等に導入せしめる際にも、好適に用いられるといった利点がある。
【0109】
以上、本発明を具体的な実施形態に基づいて詳述してきたが、これはあくまでも例示に過ぎない。本発明は、上記の記載によって、何等の制約をも受けるものではない。
【0110】
例えば、前記実施形態では、薬液注入制御装置10の構成部材の全部が、樹脂材料にて構成されていたが、かかる構成部材の材質は、何等これに限定されるものではない。それらの構成部材の少なくとも一種類が、例えば、アルミニウムやアルミニウム合金等の金属材料を用いて形成されていていも良い。勿論、各構成部材を構成する樹脂材料も、例示のもの以外の樹脂材料が、適宜に用いられ得る。
【0111】
また、薬液注入器具10が、シリンジ14等の薬液供給装置に対して一体的に設けられていても、何等差し支えない。
【0112】
さらに、例えば、コネクタ40cが薬液注入制御装置10に一体形成される等して、或いは第二接続部20が、薬液注入カテーテル16等の薬液注入器具に直接に接続可能な構造とされることにより、薬液注入器具に対して直接に接続され得るように構成することも可能である。
【0113】
更にまた、薬液注入制御装置10の本体12の具体的構造も、例示のものに、特に限定されるものではない。即ち、本体12の内部に、薬液81が流通可能な流路が設けられ、またこの流路内に薬液81を流入せしめる流入口と、流路内から薬液81を流出せしめる流出口が設けられておれば、本体12が、必ずしもの筒形状とされていなくても良いのである。
【0114】
また、本体12に設けられる流入口や流出口の数も、一つに限定されるものではない。
【0115】
さらに、プランジャ部材の前方への移動時に、後方側(流入口側)への付勢力を発揮する弾性部材の構造も、例示のものに、決して限定されるものでなない。例えば、塊状乃至はブロック状の弾性部材やばね状の弾性部材を、プランジャ部材58の前端側テーパ面部66と筒状本体12の第四円環状段付面50dとの間に介在させるようにしてのも良い。この場合には、かかる弾性部材が、プランジャ部材58の前方への移動時に圧縮乃至は潰れ変形せしめられることにより、プランジャ部材58に対して後方側への付勢力が作用せしめられることとなる。勿論、その際には、連結部材64を省略することが出来る。
【0116】
更にまた、そのような弾性部材の材質も、樹脂材料に何等限定されるものでないことは、言うまでもないところである。
【0117】
また、筒状本体12内の薬液81の流路の直径若しくは相当直径を小さく為すプランジャ部材58の本体部60と、筒状本体12内での薬液81の流れを旋回流と為すプランジャ部材58の整流部62とを、互いに独立した別個の部材にて構成することも、可能である。
【0118】
さらに、そのような整流部62の形状も、前記実施形態に示されるものに、特に限定されるものではない。例えば、全体として、六角柱状以外の多角柱状(例えば、八角柱状等)のブロック体を、その端面同士が、所定の大きさの角度の位相差を有するように、軸心回りに捻って形成された変形多角柱形状において、整流部を構成して、かかる整流部の側面にて、整流面を形成しても良い。即ち、整流面の数は、何等限定されるものではない。
【0119】
また、プランジャ部材58の本体部60の外周面に整流部の複数の整流面70を設けるようにしても良い。即ち、例えば、図9に示されるように、プランジャ部材58の本体部60を、長尺な(高さの高い)多角柱の端面同士が、所定の角度の位相差を有するように、軸心回りに捻って形成された変形多角柱形状とする。これによって、かかる本体部60の複数の側面を、それぞれ、本体部60の軸方向に平行な矩形平面を、本体部60の軸心回りに所定の角度だけ捻って形成される湾曲面形態を呈する整流面70と為すことも、可能なのである。勿論、そのような整流面70を、本体部60の一部のみに設けるようしても、何等差し支えない。この場合は、前記第一の実施形態のように、整流部62の専用空間である環状間隙77を省略することが出来る。そして、それによって、デッドスペースを更に小さく為すことが可能となる。
【0120】
さらに、筒状本体12内の内周面に対して、複数の整流面70を設けるようにしても良い。即ち、例えば、図10に示されるように、筒状間隙78の内周面を、上述の如き変形多角形状の外周面形状に対応した形状としても良い。つまり、軸方向に平行な矩形平面を、筒状本体12の軸心回りに所定の角度だけ捻って形成される湾曲面の複数にて形成して、それら各湾曲面により、整流面70を形成することも、可能なのである。勿論、そのような整流面70を、筒状本体12の内周面の全体に設けたり、或いはの一部のみに設けたりしても良い。なお、図10に示された薬液注入制御装置では、筒状本体12の内周面への整流面70の形成上の理由から、筒状本体12が、第一接続部18と第二接続部20との一体品と、第二開口部21が形成されたキャップ部84とが組み合わされて、構成されている。
【0121】
また、例えば、図11に示されるように、プランジャ部材58の本体部60の外周面に対して、筒状本体12内での薬液81の流動方向に沿って螺旋状に延びる螺旋溝82を設け、この螺旋溝82の底面にて、整流面70を形成しても良い。即ち、整流面を、薬液81の流動方向に沿って螺旋状に延びる湾曲面形態をもって構成することも、可能なのである。勿論、このような螺旋状に延びる湾曲面からなる整流面70を、薬液81の流路を構成する筒状本体12の流路部分の内周面に形成しても良い。
【0122】
加えて、前記実施形態では、本発明を、心筋等の病巣部に薬液を注入する薬液注入カテーテルに接続されて使用される薬液注入制御装置に対して適用したものの具体例を示した。しかしながら、本発明は、その他、心筋等の病巣部以外の人体の部位に薬液を注入する注射器等、薬液注入カテーテル以外の薬液注入器具に接続して使用することも出来ることは、勿論である。
【0123】
その他、一々列挙はしないが、本発明は、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良等を加えた態様において実施され得る。また、そのような実施態様が、本発明の趣旨を逸脱しない限り、何れも、本発明の範囲内に含まれるものであることは、言うまでもないところである。
【図面の簡単な説明】
【0124】
【図1】本発明に従う構造を有する薬液注入制御装置の一例を示す正面説明図であって、かかる装置をシリンジと薬液注入カテーテルとの間に介装させた使用状態を示している。
【図2】図1に示された薬液注入制御装置の縦断面形態を示す、図1のII−II断面における部分拡大説明図である。
【図3】図1に示された薬液注入制御装置の筒状本体内に収容配置されるプランジャキャップの正面拡大説明図である。
【図4】図3におけるIV−IV断面説明図である。
【図5】図1に示された薬液注入制御装置の筒状本体内に収容配置されるプランジャ部材の正面拡大説明図である。
【図6】図5におけるVI矢視拡大説明図である。
【図7】図1に示された薬液注入制御装置の使用状態を説明するための部分断面拡大説明図である。
【図8】図1に示された薬液注入制御装置の筒状本体内を流動せしめられる薬液の流速分布をモデル的に示す説明図である。
【図9】本発明に従う薬液注入制御装置の別の例を示す図2に対応する図である。
【図10】本発明に従う薬液注入制御装置の更に別の例における筒状本体を示す部分断面拡大説明図である。
【図11】本発明に従う構造を有する薬液注入制御装置の他の例におけるプランジャ部材を示す部分拡大説明図である。
【符号の説明】
【0125】
10 薬液注入制御装置 12 筒状本体
14 シリンジ 16 薬液注入カテーテル
21 第二開口部 40 コネクタ
50 内孔部 54 プランジャキャップ
56 貫通孔 58 プランジャ部材
60 本体部 62 整流部
64 連結部材 70 整流面
72 伸縮部 76 円環状孔
77 環状間隙 78 筒状間隙
80 空隙 81 薬液


【特許請求の範囲】
【請求項1】
体内に所定の薬液を注入する薬液注入器具に接続されて、該薬液を該薬液注入器具に導く薬液注入制御装置にして、
前記薬液が流動せしめられる流路と、該流路内に該薬液を流入させる流入口と、該流路内の該薬液を該流路内から流出せしめる流出口とを備えた装置本体と、
前記薬液が、前記装置本体の前記流路内を層流状態で流れるように、該流路内での該薬液の流れを制御する第一の制御手段と、
前記薬液が、前記装置本体の前記流路内を旋回しながら流れるように、該流路内での該薬液の流れを制御する第二の制御手段と、
を含んで構成したことを特徴とする薬液注入制御装置。
【請求項2】
前記第二制御手段が、前記装置本体の前記流路内を流れる前記薬液と接触して、該薬液の流動方向を変化させる整流面からなると共に、該整流面が、該薬液の流動方向に平行な面を、該流動方向に平行な一軸回りに捻って形成される湾曲面形態を有している請求項1に記載の薬液注入制御装置。
【請求項3】
前記第二制御手段が、前記装置本体の前記流路内を流れる前記薬液と接触して、該薬液の流動方向を変化させる整流面からなると共に、該整流面が、該薬液の流動方向に沿って螺旋状に延びる湾曲面形態を有して構成されている請求項1に記載の薬液注入制御装置。
【請求項4】
前記流路内を流れる際の該薬液のレイノルズ数の最大値が、かかる薬液の流れが層流から乱流に遷移するレイノルズ数よりも小さな値となるように、少なくとも前記流入口と前記流出口のそれぞれの断面積が設定されると共に、流路断面積制限手段にて該流路の断面積を制限して、該薬液の流量を制御する流量制御手段にて、前記第一の制御手段が構成されている請求項1乃至請求項3のうちの何れか1項に記載の薬液注入制御装置。
【請求項5】
前記流路内を流れる際の前記薬液のレイノルズ数の最大値が、50以上、2300未満の範囲内の値となるように、前記第一の制御手段にて制御されるようになっている請求項4に記載の薬液注入制御装置。
【請求項6】
前記流路断面積制限手段が、前記流路内に、前記薬液の該流路内への流入によって前記流入口から離間する方向に移動せしめられるように配置されたプランジャ部材にて構成される一方、前記流量制御手段が、該プランジャ部材と、該プランジャ部材に対して該流入口側に付勢力を作用せしめる弾性部材とを含んで構成されている請求項4又は請求項5に記載の薬液注入制御装置。
【請求項7】
前記プランジャ部材と前記弾性部材とが一体化されている請求項6に記載の薬液注入制御装置。
【請求項8】
前記弾性部材が、前記流入口に位置せしめられた状態で、前記装置本体と前記プランジャ部材との間に介装されている請求項6又は請求項7に記載の薬液注入制御装置。
【請求項9】
前記プランジャ部材が、前記流路内に、該流路内への前記薬液の非流入状態下で前記流入口を閉塞するように配置されている請求項6乃至請求項8のうちの何れか1項に記載の薬液注入制御装置。
【請求項10】
前記第二制御手段が、前記筒体からなる装置本体の前記流路内を流れる前記薬液と接触して、該薬液の流動方向を変化させるように、該装置本体の内周面若しくは前記プランジャ部材の外周面に形成された整流面からなり、且つ該整流面が、該薬液の流動方向に平行な面を、該流動方向に平行な一軸回りに捻って形成される湾曲面形態を有している請求項6乃至請求項9のうちの何れか1項に記載の薬液注入制御装置。
【請求項11】
前記第二制御手段が、前記筒体からなる装置本体の前記流路内を流れる前記薬液と接触して、該薬液の流動方向を変化させるように、該装置本体の内周面若しくは前記プランジャ部材の外周面に形成された整流面からなり、且つ該整流面が、該薬液の流動方向に沿って螺旋状に延びる湾曲面形態を有して構成されている請求項6乃至請求項9のうちの何れか1項に記載の薬液注入制御装置。
【請求項12】
体内に所定の薬液を注入する薬液注入器具に接続されて、該薬液を該薬液注入器具に導く薬液注入制御装置にして、
流入口から前記薬液を導入し、且つ流出口から該薬液を排出する筒状の装置本体と、
該装置本体内に、前記流入口からの前記薬液の導入によって、該流入口から離間する方向に移動せしめられるように配置されたプランジャ部材と、
該プランジャ部材に設けられて、前記装置本体内に導入される前記薬液の該装置本体内での流れを旋回流とする旋回流発生手段と、
前記プランジャ部材と前記装置本体との間に位置せしめられて、該プランジャ部材に対して、前記流入口側に付勢力を作用せしめる弾性部材と、
を含んで構成したことを特徴とする薬液注入制御装置。
【請求項13】
前記旋回流発生手段が、前記プランジャの軸方向に延びる多角柱状体を、該プランジャの軸心を中心に所定の角度だけ捻って変形させてなる変形多角柱状体からなり、かかる変形多角柱状体に対して、前記装置本体内に流入せしめられる前記薬液が接触せしめられるように流されることにより、該装置本体内での該薬液の流れが旋回流とされるようになっている請求項12に記載の薬液注入制御装置。
【請求項14】
前記プランジャ部材が、円筒状の外周面を備えた本体部を有して構成されている請求項12又は請求項13に記載の薬液注入制御装置。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate


【公開番号】特開2006−20686(P2006−20686A)
【公開日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−199046(P2004−199046)
【出願日】平成16年7月6日(2004.7.6)
【出願人】(390030731)朝日インテック株式会社 (140)
【出願人】(502100138)株式会社カルディオ (13)
【Fターム(参考)】