説明

薬物リザーバを有する電子ピル

電子ピル1、11が、固体粉又は粒状体薬物を備える少なくとも1つの薬物リザーバ2、12と、放出開口部3、13と、リザーバ2、12から放出開口部3、13へと薬物を変位させるため制御回路に応答するアクチュエータとを有する。この薬物は、不活性担体マトリクスにおける、1つ又は複数の能動的な成分の分散を有する。この成分は、例えば、粉又は粒状体における固体である。オプションで、能動的な成分は、半透過性壁部14を介してピルに吸収される腸の水分を用いて分散される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化管を通過する間、制御された態様で薬物を放出する電子ピルに関する。本発明は、電子ピルを準備する方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
電子ピルは、消化管を横断する間、治療薬物療法のための薬物を出すよう、電子制御回路を備える摂取可能なカプセルである。電子ピルは一般に、薬物リザーバ、投与開口部、及びリザーバから投与開口部まで薬物を輸送するポンプを有する。一般に、電子ピルは、例えばピルの一体部分とすることができるpHセンサといったセンサからの信号に応じて、所望の瞬間に投与ポンプを起動させるための制御手段も有する。飲み込まれると、ピルは、消化管に沿った筋肉の蠕動運動により、消化管に沿って移動される。腸を通るその移動の間、ピルは、約1m/時間の速さで幽門から回盲弁まで漂う。移動速度に重畳される小さな腸の蠕動が原因で、腸を通るとき前後にピルを押す大きな速度変化が発生する。こうして、ピルから放出される薬物は、それが腸の壁を介して取り上げられ、又は局所的に効果を発揮するようになる前に、完全に調合される。
【0003】
電子ピルの例は、WO2006077529号に開示される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
これまでのところ、電子ピルは特に、流体薬物を投与するのに適している。しかしながら、多くの薬物は、粉末形態である。粉末形態の薬物は一般に、より良い安定性及び貯蔵寿命を持つ。問題は、乾燥状態の粉が、弾力性及び可塑性及び粘着性挙動を示す点にある。基本的に重要なのは、粒子の機械的な強度である。きつくパックされるとき、粒子が弾性体のようにふるまうと、それを変形させるのに大きな機械的負荷が必要とされる。粉の粒子の間の相互作用が粉末粒子の機械的な強度より弱いとき、パックされた粉は、弾力的な可塑性材料のようにふるまう。機械的負荷の特定の値の下では、粉は、弾性体のようにふるまい、その値を超えると、それは、可塑性の挙動を示す。強く撹拌されると、それは流体のように機能する。粉の粒子の間のスペースは、空気又は流体により占められ、これは、粉末粒子が低い機械的負荷で容易に変位させられることができることをもたらす。粉のこの複雑な挙動が原因で、例えば電子ピルといった小型システムにおける正確な測定及び投与が課題である。
【0005】
本発明の目的は、薬物が粉末形態において利用可能なときでも、これらを正確に測定及び投与することを可能にする電子ピルシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の目的は、本発明による電子ピルを用いて実現される。この場合、このピルは、放出開口部を備え、少なくとも部分的に薬物で充填される少なくとも1つの薬物リザーバを有し、この薬物が、不活性担体マトリクスにおいて1つ又は複数の能動的な成分の分散を有する。ここで、不活性は、担体材料が、能動成分及び患者の胃腸組織と化学的に反応しないことであり、及び担体材料がこの成分を溶かすことがないことを意味する。
【0007】
患者により電子ピルが飲み込まれた後、医薬組成物が、命令に基づき投与される。腸の蠕動が原因で、不活性担体は流され、粉が腸内部の水性環境に露出される。薬物は、溶け、腸のバリアを通過するか、又は局所的に能動的になる。
【0008】
薬学的に能動的な成分は、例えば固体粉材料とすることができる。ペースト状の分散における粉末粒子の平均粒径は、例えば10μm以下とすることができ、例えば50nm〜10μm、又は50nm〜5μm、又は50nm〜1μmとすることができる。50nm〜5μm、例えば50nm〜4μm又は50nm〜2μmの平均粒径を持つ微小球体が、適切な例である。
【0009】
粉末形態の薬物の直接的な投与と比較すると、電子ピルの使用は、口における酵素分解及び胃における化学分解から薬物が効果的に保護されるという追加的な利点を持つ。
【0010】
分散における粉の量が少ないほど、粒子間の相互作用が小さくなり、ペーストがより容易に変形されることができる。
【0011】
分散は、例えばペーストとすることができる。例えば、20℃で測定される4Pa.s以下の粘性、例えば、0.1〜2Pa.sを持ち、剪断率が104s−1であるような組成物が、電子ピルによる投与に特に適したペースト又はペースト状の分散と考えられる。固定された剪断率粘性を測定する適切な方法は、ASTM Test D4287−87に記載され、104s−1の剪断率を用いて振動モードにおいて使用されるコーン及びプレート技術である。コーンは、例えば、0.5°の角度及び7.5mmの半径を持つことができる。
【0012】
ペースト状の分散又はペーストは、十分に大きな負荷又はストレスが印加されるまで、固体としてふるまう物質である。十分な負荷が印加されると、それは流体のように流れる。
【0013】
能動的な成分は、例えば、オプションで分散剤、添加物及び補助物質を備える、薬学的に能動的な成分又は混合物又は栄養分又は栄養混合物とすることができる。
【0014】
不活性担体マトリクスは、能動的な成分と化学的に能動とならない、かつ粉末粒子を溶かさない複合物又は複合物の組成物である。
【0015】
体により吸収される場合、担体材料は患者の健康にとって安全であるべきであり、生体適合的であるべきである。例えばオリーブ油又はヒマワリ油といった食品工学にいて使用される油が、安全な例である。いくつかの担体は、食品に基づかれるものではないが、体により吸収される場合であっても、安全であることが証明されているものである。例えば、グリセロール、任意の適切な分子量のポリエチレングリコール(例えばPEG 200、PEG 400又はPEG 600)である。適切な担体の別のグループは、ごくわずかな量しか体に吸収されず、変化されないまま消化管を通過することができるものである。例えば、鉱油及び例えば、カルボマといったポリマーである。これらは、安全であり生体適合的と考えられる。なぜなら、これらは、人間の生体系と作用せず、従って、長期間の小用量による影響がないからである。
【0016】
不活性担体は、例えば脂肪アルコール、脂肪酸エステル又は油といった脂肪複合物とすることができる。油は、例えば、上述した油又はその混合物とすることができる。追加的な適切な油は、FDA及び/又はEMEAにより人間の又は動物の消費に関して承認される任意の油であり、植物若しくは動物油といった天然油若しくはその派生物又は合成油を含み、特に天然油は、例えば大豆からのレシチン油といったリン脂質を豊富に含むものである。斯かる油の例示的な例は、精油、植物油及び水素化された植物油、動物油であり、例えば落花生油、カノーラ油、アボカド油、サフラワー油、オリーブ油、トウモロコシ油、大豆油、胡麻油、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、魚油等を含む。
【0017】
不活性担体は、軟膏とすることもできる。軟膏は、粘着性半固体複合物である。軟膏は、例えば、ハード又はソフトパラフィンといった炭化水素ベース、例えば羊毛脂又は蜜蝋といった吸収ベース、又は例えば、マクロゴール200,300,400といった水溶性ベースとすることができる。
【0018】
追加的な適切な担体は、水である。オプションで、腸の環境からの水が使用されることができる。そのため、電子ピルは、半透過性膜を備える薬物リザーバを持つことができる。適切な半透過性は、例えば酢酸セルロース及びセルロースアルカニエイト(alkanyates)又はアルケニレイト(alkenylates)である。
【0019】
このように投与されることができる薬物の例は、アミノサリチル酸塩、及び例えばブデソニドといった副腎皮質ステロイドである。ブデソニドは、水において実際的に不溶性であり、及び(RS)−11b、16a、17、21−テトラヒドロキシプレグナ−1、4−ジエン−3、20−ジオンサイクリック16、17アセタール付随ブチルアルデヒドとして化学的に規定される無味乾燥な粉である。これは、例えばクローン病を治療するのに使用されることができる。この薬に関する適切な担体マトリクス材料は、腸の水分において溶け、これにより薬物粉を放出するエチルセルロースである。
【0020】
放出後電子ピルの外部に粉分散が付くのを防止するため、このピルは、非粘着コーティングで覆われることができる。例えば、デュポン社のテフロン(登録商標)といった、ポリテトラフルオロエチレンのようなフルオロポリマーで覆われることができる。
【0021】
オプションで、電子制御のピル又は薬物供給システムは、消化管を通り横断する間、投与タイミングパターンに基づき薬物を供給又は投与するようプログラム又は制御される電子回路を有することができる。投与タイミングパターンは、プリセットされることができ、それは、人の生理的処理及び状態、ムード、より早期に投与された薬物等に対して影響されずに固定されることができる。電子制御のピルは、ピルの薬物リザーバ内に格納される薬物を投与するための所望の投与タイミングパターンに基づき、弁又はハッチの開閉を制御する制御及びタイミング回路を含むことができる。電子制御のピルは、人が例えば朝食を取るとき実質的に同時にすべてのピルを摂取することを可能にし、その結果、日中これ以上のピルが要求されることはない。1つの電子制御のピルに適合しない薬物が、丸1日のペイロード療法のため、他の電子制御のピルと調整されることができる。
【0022】
投与パターンは、各人の物理状態、年齢、性、病気等に基づき人毎に変化されることができる。更に、投与タイミングパターン間の時間におけるプリセットされた瞬間において、ピルの新しいセットが摂取されることを予想して、体内に存在する電子制御型ピルが、薬物を投与するのを止めるようプログラムされることができる。これは、体内において最後に摂取されたピルにだけ薬物を放出させることにより、事故的な過剰摂取を防止する。
【0023】
本発明による電子ピルは、人間又は動物の患者に対して使用されることができる。人間の患者にとって嚥下可能であるために、ピルは、例えば2〜3cm以下の長さ及び約1cm以下の直径を持つ主に円筒状とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明による電子的に制御可能なピルを斜視的な透明表示において示す図である。
【図2】本発明による電子制御のピルの別の実施形態を概略的に示す図である。
【図3A】本発明による方法の第1の実施形態を表すフローチャートを示す図である。
【図3B】本発明による方法の第2の実施形態を表すフローチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明が、図面を参照して説明されることになる。
【0026】
図1は、放出開口部3を備える薬物リザーバ2を有する電子的に制御可能なピル1を示す。薬物リザーバは、不活性担体において分散される粉末形態にある薬物を有するペースト状の組成物で事前に充填可能である。予め分散される組成物は、例えばシリンジを使用することにより、薬物リザーバに挿入される。ピストン4は、ペーストを放出するため、小型電気モーター5により起動されることができる。薬物リザーバ2は、ローリングソックシール6により、ピストンに対して密閉される。モーター5は、バッテリー7により電力供給される。このピルは更に、例えば消化管内のピル1の位置を決定するpHセンサ又は他の任意の適切なセンサといったセンサ8を有する。電子ピル1内の電子回路は、センサ8からの信号に基づきモーター5を起動する。代替的に又は追加的に、ピル1は、患者の外部の端末と無線通信する手段を有することができ、従って、消化管を通るピルの通過及び薬物の投与が、医療医師又はアシスタントにより監視及び/又は制御されることができる。
【0027】
図2は、乾燥した固体粉薬物を備える事前充填可能な薬物リザーバ12を持つ電子ピル11の別の実施形態を示す。乾燥した固体粉薬物は、水にほとんど溶けないとすることができる。薬物リザーバ12は、放出開口部13を有し、半透過性材料により形成される外部壁14により境界が形成される。消化管に到着すると、腸の水分が半透過性膜14を介して吸収される。膜14は主に、放出開口部13に配置される。電子ピル11が飲み込まれると、水が膜を通り中に引かれ、リザーバにおいて粉材料と混ざる。この混合物は、膜14及び放出開口部13の近くで最高の含水量を持つので、放出開口部13の近くで最も容易に流れることになる。放出開口部13を介して懸濁された薬物粉を押し出す駆動力が、図1の実施形態に関して説明されたのと同じ態様で制御される機械的なアクチュエータ及びピストン15により提供される。ピストンの変位は測定されることができるので、実際に供給される薬物の量が、正確に監視されることができる。特に胃にある間、材料の拡散を限定するため、放出開口部は、意図された供給プロファイルの初めに溶解する又は放出される一方向弁又はプラグを具備することができる。
【0028】
図3Aは、本発明による方法の第1の実施形態を表すフローチャートを示す。粉末形態における薬学的に能動的な成分は、例えば、ペースト状の分散といった分散を形成するため、担体マトリクスへと分散される。すると、薬物リザーバを有する電子ピルは、上述したように、この分散を用いて充填される。その後、電子ピルは、消化管におけるターゲット化された薬物供給のため、患者により使用され、及び飲み込まれることができる。
【0029】
図3Bは、本発明による方法の別の実施形態を表す。例えば図2を参照して説明されるように、乾燥粉末形態において薬学的に能動的な成分が、半透過性壁を備える薬物リザーバを持つ電子ピルに挿入される。患者の腸に到着した後、腸の水分が、半透過性壁を介して薬物リザーバに入り、能動的な成分を分散させる。続いて、こうして得られた分散が、患者の消化管における目標とされた部分で投与される。
【0030】
本発明が図面及び前述の説明において詳細に図示され及び説明されたが、斯かる図示及び説明は、説明的又は例示的であると考えられ、本発明を限定するものではない。本発明は、開示された実施形態に限定されるものではない。図面、開示及び添付の特許請求の範囲の研究から、開示された実施形態に対する他の変形が、請求項に記載された発明を実施する当業者により理解され及び遂行されることができる。請求項において、単語「有する」は他の要素又はステップを除外するものではなく、不定冠詞「a」又は「an」は複数性を除外するものではない。単一のプロセッサ又は他のユニットが、請求項に記載される複数のアイテムの機能を満たすことができる。特定の手段が相互に異なる従属項に記載されるという単なる事実は、これらの手段の組み合わせが有利に使用されることができないことを示すものではない。請求項における任意の参照符号は、本発明の範囲を限定するものとして解釈されるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的に薬物で充填される少なくとも1つの薬物リザーバと、少なくとも1つの放出開口部と、前記リザーバから前記放出開口部まで薬物を変位させるため、制御回路に応答するアクチュエータとを有し、前記薬物が、不活性担体マトリクスにおいて1つ又は複数の能動的な成分の分散を有する、電子ピル。
【請求項2】
前記1つ又は複数の能動的な成分の少なくとも一部が、固体粉材料である、請求項1に記載の電子ピル。
【請求項3】
前記不活性担体マトリクスが、油及び軟膏のグループから選択される少なくとも1つの複合物を有する、請求項1又は2に記載の電子ピル。
【請求項4】
前記分散が、20℃で測定される0.1〜2Pa.sの粘性を持ち、剪断率が104/sである、請求項1に記載の電子ピル。
【請求項5】
前記電子ピルが、非粘着コーティングで被覆される筐体を持つ、請求項1に記載の電子ピル。
【請求項6】
前記非粘着コーティングが、1つ又は複数のフルオロポリマー結合剤を有する、請求項5に記載の電子ピル。
【請求項7】
少なくとも1つの薬物リザーバと、少なくとも1つの放出開口部と、前記リザーバから前記放出開口部まで薬物を変位させるため、制御回路に応答するアクチュエータとを有する電子ピルであって、前記薬物リザーバが、前記ピルの外部壁の部分を形成する半透過性膜により、少なくとも部分的に接せられる、電子ピル。
【請求項8】
医薬組成物で充填される薬物リザーバを有する電子ピルを準備する方法において、前記医薬の組成物が、分散を形成するため、薬学的に能動的な成分を不活性担体に分散させることにより形成される、方法。
【請求項9】
前記能動的な成分が、粉末形態である、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記能動的な成分が、乾燥形態で前記薬物リザーバに挿入され、続いて、飲み込まれた後、前記薬物リザーバの半透過性壁を介して吸収される腸の水分と混合される、請求項8又は9に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【公表番号】特表2011−527225(P2011−527225A)
【公表日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−517290(P2011−517290)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【国際出願番号】PCT/IB2009/052894
【国際公開番号】WO2010/004490
【国際公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】