説明

薬物代謝型CYP蛋白質変異体

【課題】薬物代謝型CYP蛋白質の新規異性体、その結晶、及びその立体構造の医薬品探索における使用又はスクリーニングする方法を提供する。
【解決手段】 CYP2C9蛋白質により水酸化反応を受けることが知られる候補化合物と複合体を形成し、実際の酵素化学反応機構を表現する立体構造を有する結晶を与えるCYP2C9変異体蛋白質を開示する。また、当該蛋白質の結晶の構造データを記録した種々の媒体、コンピューターシステムを開示する。更に、当該蛋白質と候補化合物の複合体結晶の構造座標データを使用して、候補化合物の化学修飾体の複合体形成能を計算するようプログラムされたコンピューターシステムを用いたスクリーニング方法、及び結晶化可能な可溶化蛋白質のスクリーニング方法を開示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素化学反応が起こる位置に結合した候補化合物との複合体結晶を形成する新規蛋白質、前記蛋白質をコードするポリヌクレオチド、前記ポリヌクレオチドを含む発現ベクター、前記発現ベクターで形質転換された細胞、前記蛋白質の結晶、前記蛋白質と候補化合物の複合体、前記複合体の結晶、及び前記複合体の製造法等に関する。また候補化合物とCytochrome P450 2C9蛋白質との相互作用の評価方法、及び前記相互作用や候補化合物と前記蛋白質の複合体結晶の構造座標データ等を指標として候補化合物をスクリーニングする方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
Cytochrome P450(CYP)は、様々な代謝系、生合成系に関わる酵素群である。中でも肝臓に存在するCYPは、薬物、異物の代謝に関わっていることが知られている。特に、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4の4つのサブタイプは、臨床で用いられている薬物の92%を代謝すると考えられている(Anzenbacher, P. & Anzenbacherova, E. Cytochromes P450 and metabolism of xenobiotics. Cell. Mol. Life Sci. 58, 737-747 (2001))。これらのCYPはいずれも基質特異性が低く、1つのサブタイプが様々な薬物の代謝に関わるが、そのことが薬物間相互作用が起こる原因となっている。薬物間相互作用とは、複数の薬物を併用した際、一方が他方の代謝を阻害することにより単独投与時に比べ血中の薬物濃度が著しく上昇する現象を引き起こす2種類以上の薬物の作用をいう。
【0003】
副作用や毒性発現の危険性から、薬物間相互作用を起こさない薬を開発することが望まれており、近年、創薬研究においてはCYP阻害活性の評価と阻害活性を軽減するための修飾合成等が必須となってきている。このCYP阻害活性軽減のための修飾合成の際、代謝型P450蛋白質の3次元立体構造、更には対象となる化合物と代謝型P450蛋白質の結合状態に関する3次元立体構造を知ることは、CYP阻害回避策立案のための重要な情報になる。
【0004】
ところで、これらの3次元立体構造を原子レベルで直接明らかにする手段としては、現実的にはX線結晶構造解析しかない。蛋白質のX線結晶構造解析を行うには、高純度な蛋白質を大量に調製すること、及び当該蛋白質を結晶化させることが必要である。通常の蛋白質であれば、組換え蛋白質発現法や精製のためのクロマトグラフィーなどの操作が周知であり、それらを組み合わせる事によって大量かつ高純度に調製することが可能である。しかしながら野生型CYP蛋白質は、膜貫通ドメインを持つ膜蛋白質であるため、単離精製が困難であるばかりでなく構造解析のための結晶化も困難であった。このため種々の膜貫通ドメインを削除した種々のCYP蛋白質を作成し可溶化する試みが行われており、削除した領域によりその蛋白質の溶解度などの物性が異なることが知られている(Archieves of Biochemistry and Biophysics 305、123-131(1993))。
【0005】
周知の遺伝子操作技術により種々の組換え蛋白質を作成し、そのX線結晶構造解析を行うことが試みられているものの、現在までヒト薬物代謝型CYP蛋白質の立体構造は、CYP2C9, CYP2C19及びCYP3A4に関する3例が知られているだけである(特許文献1,2,3及び非特許文献1)。ヒト薬物代謝型CYP蛋白質と有機化合物との複合体についても、1例のみ報告がある(非特許文献1)。この複合体は、ヒトCYP2C9の一部アミノ酸配列を、構造が報告されているラビットCYP2C5の配列(非特許文献2)に置換し、CYP2C9のキメラ蛋白質を作成し、次にCYP2C9により水酸化反応を受けることが広く知られているワルファリン(S-Warfarin)をリガンドとして複合体を形成させたものである。しかしながら、当該複合体の構造解析結果によれば、ワルファリンの結合位置は水酸化反応を受けるCYP2C9ヘム鉄近傍ではなく、現実の酵素化学反応機構を表現できている構造とは言えないものであった(非特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】国際公開第03/035693号パンフレット
【特許文献2】国際公開第03/102192号パンフレット
【特許文献3】国際公開第04/038015号パンフレット
【非特許文献1】「ネイチャー(Nature)」、(英国)、2003年、第424巻、p.464-468
【非特許文献2】「モレキュラー・セル(Molecular Cell)」、(米国)、2000年、第5巻、p.121-131
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、実際の酵素化学反応機構を表現するCYP2C9変異体蛋白質、その基質との複合体、殊にこれらの結晶を提供することにある。また、前記複合体結晶の構造座標やこれを用いたCYP2C9蛋白質との相互作用が低減された化学修飾体をスクリーニングする方法等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、実際の酵素化学反応機構を表現するCYP2C9蛋白質の立体構造の解明に使用できる変異体並びにその結晶の創製を目指し、まず、野生型CYP2C9蛋白質の膜貫通部位の適当な部位での削除を検討した。次に、野生型配列では蛋白質が凝集を起こしやすく結晶化を困難にしていることを知見し、凝集を起こし難い変異体の探索を行った。得られた多数の変異体を種々の蛋白質結晶化法に供し、結晶化可能な変異体を見出し、更に複合体結晶の創製と構造解析を行った。その結果、CYP2C9変異体蛋白質と、CYP2C9蛋白質により水酸化反応を受けることが知られているワルファリン並びにトルブタミド(Tolbutamide)との複合体結晶を取得し、当該複合体が実際の酵素化学反応機構を表現する立体構造を有すること、即ち、上記化合物の水酸化される部位が酵素化学反応が起こりうる距離(ヘム鉄から約4Å)に結合していることを知見して本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明は、以下に列記する発明に関する。
(1)(i)配列番号62で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、あるいは、(ii)配列番号62で表されるアミノ酸配列、または配列番号62で表されるアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、かつ大腸菌で発現させたときに、Cytochrome P450 2C9蛋白質により代謝される非ペプチド性有機化合物が酵素化学反応が起こる位置に結合した複合体結晶を、少なくとも1つ形成する蛋白質。
(2)ALA103、ALA106、ASN107、VAL113、PHE114、LEU201、ASN204、ILE205、LEU208、LEU233、VAL237、VAL292、ASP293、LEU294、PHE295、GLY296、ALA297、GLY298、THR299、GLU300、THR301、LEU362及びLEU366のアミノ酸により酵素ポケットを形成する(1)の蛋白質。
(3)(1)に記載の蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
(4)(3)に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
(5)(4)に記載の発現ベクターで形質転換された細胞。
(6)(1)に記載の蛋白質の結晶。
(7)(1)に記載の蛋白質と、Cytochrome P450 2C9蛋白質により代謝される若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する非ペプチド性有機化合物との複合体。
(8)(7)に記載の複合体の結晶。
(9)(1)に記載の蛋白質と、Cytochrome P450 2C9蛋白質により代謝される若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する非ペプチド性有機化合物とを接触させる工程を含むことを特徴とする(7)に記載の複合体の製造法。
(10)i)候補化合物を、(1)に記載の蛋白質と接触させる工程、並びにii)当該候補化合物と(1)に記載の蛋白質の複合体形成の程度もしくは相互作用の程度を測定する工程を含むことを特徴とする、当該候補化合物のCytochrome P450 2C9蛋白質との相互作用の評価方法。
(11)構造座標1または構造座標2に記載の構造座標。
(12)(11)に記載の構造座標のデータが格納された、機械読み取り可能な媒体。
(13)少なくとも、中央演算処理装置、入力装置、出力装置及びデータ記憶装置を含むハードシステムと、構造座標データにアクセスして解析し、得られた三次元立体構造を用いて候補化合物の検索、評価若しくは設計を行うことができるソフトウェアとからなるコンピューターシステムであって、(8)に記載の複合体結晶の構造座標データを格納し、当該座標データから得られた三次元立体構造を用いて候補化合物の検索、評価若しくは設計を行うようプログラムされたことを特徴とするコンピューターシステム。
(14)複合体結晶の構造座標データが構造座標1または構造座標2に記載の構造座標データである(13)のコンピューターシステム。
(15)(13)に記載のコンピューターシステムを用いて、Cytochrome P450 2C9蛋白質による代謝の程度が低減された、若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する程度が低減された非ペプチド性有機化合物を検索、評価若しくは設計する方法。
(16)(1)に記載の蛋白質と、Cytochrome P450 2C9蛋白質により代謝される若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する非ペプチド性有機化合物との複合体結晶の構造座標データを使用して、該非ペプチド性有機化合物の化学修飾体の検索、評価若しくは設計を行うようプログラムされたコンピューターシステムを用いることを特徴とする、Cytochrome P450 2C9蛋白質による代謝の程度が該非ペプチド性有機化合物の1/10以下に低減された、若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する程度が該非ペプチド性有機化合物の1/10以下に低減された化学修飾体のスクリーニング方法。
(17)更に、コンピュータシステムによって選択若しくは設計された化学修飾体を合成し、そのCytochrome P450 2C9蛋白質による代謝の程度若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する程度を測定する工程を包含する(16)のスクリーニング方法。
(18)(17)に記載の方法によって選択されたことを特徴とする化学修飾体。
(19)Cytochrome P450 2C9蛋白質による代謝の程度が低減された、若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する程度が低減された化学修飾体の検索、評価若しくは設計を行うための、構造座標1または構造座標2に記載の構造座標の使用。
(20)可溶性Cytochrome P450変異体の、分子としての均一性を確認する工程、及び均一性を有する変異体を選択する工程を含む結晶化可能なCytochrome P450変異体をスクリーニングする方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明のCYP2C9変異体蛋白質は、CYP2C9蛋白質により水酸化反応を受けることが知られる有機化合物(基質)と複合体を形成し、実際の酵素化学反応機構を表現する立体構造を有する複合体結晶を与える。よって、本発明の蛋白質、基質との複合体及びその複合体結晶は、代謝型CYP蛋白質の3次元立体構造、更には対象となる基質と代謝型CYP蛋白質の結合状態に関する3次元立体構造の研究を可能とするものであり、薬物との相互作用の解析、薬物間相互作用の解明、薬物間相互作用の回避を目的とする化合物修飾研究などに有用である。
また、当該複合体結晶の構造座標のデータが格納された機械読み取り可能な媒体、複合体の構造座標データから得られた三次元立体構造を用いて候補化合物の検索、評価若しくは設計を行うようプログラムされたことを特徴とするコンピューターシステム等も同様に有用である。更に、本発明のコンピューターシステムを用いた非ペプチド性有機化合物を検索、評価若しくは設計する方法、あるいはスクリーニング方法は、CYP阻害が回避された所望の有機化合物、あるいはCYP阻害活性の低減が望まれる有機化合物の化学修飾体を、効率的に入手することを可能とし、こうして得られた化学修飾体自体も薬物間相互作用が回避された薬剤として有用である。
また、結晶化可能な可溶性CYP変異体のスクリーニング方法は、3次元立体構造の研究に有用な変異体蛋白質を簡便に選択する方法として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
本明細書において、アミノ酸、ペプチド、蛋白質は下記に示すIUPAC-IUB生化学命名委員会(CBN)で採用された略号を用いて表される。また、特に明示しない限りペプチド及び蛋白質のアミノ酸残基の配列は、左端から右端にかけてN末端からC末端となるように、またN末端が1番になるように表される。
A又はALA:アラニン残基、D又はASP:アスパラギン酸残基、E又はGLU:グルタミン酸残基、F又はPHE:フェニルアラニン残基、G又はGLY:グリシン残基、H又はHIS:ヒスチジン残基、I又はILE:イソロイシン残基、K又はLYS:リジン残基、L又はLEU:ロイシン残基、M又はMET:メチオニン残基、N又はASN:アスパラギン残基、P又はPRO:プロリン残基、Q又はGLN:グルタミン残基、R又はARG:アルギニン残基、S又はSER:セリン残基、T又はTHR:スレオニン残基、V又はVAL:バリン残基、W又はTRP:トリプトファン残基、Y又はTYR:チロシン残基、C又はCYS:システイン残基を示す。
本明細書において、「非ペプチド性有機化合物」とは、ペプチドや抗体ではない有機化合物をいい、医薬品となりうる分子量500Da以下の低分子化合物や酵素の基質・阻害剤等が含まれる。
本明細書において、「CYP蛋白質」とは、Cytochrome P450蛋白質の総称である。Cytochrome P450蛋白質は、アミノ酸配列の類似度を基準として分類され、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4等の表記として、ファミリー番号、サブファミリー記号、遺伝子番号の順に記載され区別される。本明細書においては、CYP蛋白質とは、Cytochrome P450蛋白質であるCYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4等の蛋白質並びにそれらの変異体を含むことを意味する。「薬物代謝型CYP蛋白質」とは、ヒト肝臓由来のCYP蛋白質であって主に薬物代謝にかかわるCYP1A2、CYP2C9、CYP2C19、CYP2D6、CYP3A4などを指す。また「可溶性CYP変異体」とは、膜貫通部位を一部または全て削除したCYP蛋白質で生理的条件下で水溶性蛋白質として扱える状態である蛋白質を意味する。この膜貫通部位の削除の領域によって蛋白質の溶解度などの諸物性が変化する。
【0012】
本明細書における「CYP変異体」とは、可溶性CYP変異体であって、更に、1又は2個以上のアミノ酸を野生型から異なるアミノ酸に置換し、一部配列が欠損及び/若しくは挿入されていてもよい変異体を意味する。
「酵素ポケット」とはCYP2C9蛋白質が薬物代謝反応を行うために反応基質を取り込む空間、具体的には酵素化学反応に関与するヘム鉄近傍を意味する。本発明蛋白質において、ワルファリンとの複合体においては、ALA103、ALA106、ASN107、VAL113、PHE114、LYS200、LEU201、ASN202、GLU203、ASN204、ILE205、LEU208、LEU233、ASN236、VAL237、MET240、ASN289、VAL292、ASP293、LEU294、PHE295、GLY296、ALA297、GLY298、THR299、GLU300、THR301、LEU362、SER365およびLEU366のアミノ酸で特定される部位がワルファリンとの結合部位であり、また、トルブタミドとの複合体においては、LEU102、ALA103、GLU104、ARG105、ALA106、ASN107、VAL113、PHE114、LEU201、ASN204、ILE205、LEU208、LEU233、VAL237、VAL292、ASP293、LEU294、PHE295、GLY296、ALA297、GLY298、THR299、GLU300、THR301、THR302、LEU362及びLEU366のアミノ酸で特定される部位がトルブタミドとの結合部位である。本発明蛋白質の酵素ポケットとしては、好ましくは、両複合体で共通する部位である、ALA103、ALA106、ASN107、VAL113、PHE114、LEU201、ASN204、ILE205、LEU208、LEU233、VAL237、VAL292、ASP293、LEU294、PHE295、GLY296、ALA297、GLY298、THR299、GLU300、THR301、LEU362及びLEU366のアミノ酸で特定される領域である。
【0013】
本発明の蛋白質は、薬物代謝型CYP蛋白質による代謝反応の解析に有用な、新規なCYP2C9変異体蛋白質である。具体的には、野生型CYP2C9蛋白質の膜貫通部位の一部を削除し可溶性蛋白質とし、かつ酵素ポケットの形状を変えることなくX線結晶構造解析に供するための結晶化に適した蛋白質、即ち、分子表面に存在すると予想される部位のアミノ酸を他のアミノ酸へ変換し、その凝集を押さえた蛋白質である。即ち、(1)配列番号62で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、あるいは、(2)配列番号62で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、あるいは、(2)配列番号62で表されるアミノ酸配列、または配列番号62で表されるアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、かつ大腸菌で発現させたときに、Cytochrome P450 2C9蛋白質により代謝される非ペプチド性有機化合物が酵素化学反応が起こる位置に結合した複合体結晶を、少なくとも1つ形成する蛋白質である。好ましくは、配列番号62で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質である。
ここに、「配列番号62で表されるアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列」としては、本発明蛋白質の立体構造に影響の少ない任意のアミノ酸1〜10個、好ましくは1〜5個、より好ましくは1〜3個が欠失、置換、及び/若しくは挿入した配列であり、例えば、2C9以外のCytochrome P450蛋白質の対応する位置のアミノ酸と置換された配列が挙げられる。ここに、「2C9以外のCytochrome P450蛋白質」としては、薬物代謝型P450が挙げられ、CYP2C19、CYP2D6、CYP1A2およびCYP3A4が好ましい。
「酵素化学反応が起こる位置に結合した複合体結晶」とは、本発明の蛋白質のヘム鉄から5Å以下、好ましくは4.5Å以下の距離に、代謝される非ペプチド性有機化合物の水酸化される分子が存在することで、化合物が本発明の蛋白質に水酸化反応可能な位置に結合している状態である複合体結晶をいう。
本発明の複合体結晶としては、好ましくは、a=b=16.5±0.3nm、c=11.1±0.3nm、α=β=90°、γ=120°の単位格子定数およびP321の空間群を有する三方晶形結晶が、より好ましくは、a=b=16.5±0.1nm、c=11.1±0.1nm、α=β=90°、γ=120°の単位格子定数およびP321の空間群を有する三方晶形結晶である。
【0014】
本発明蛋白質の好ましい態様を以下に示す。
(1)酵素化学反応に関与するヘム鉄近傍の酵素ポケットに該当する配列である、ALA103、ALA106、ASN107、VAL113、PHE114、LEU201、ASN204、ILE205、LEU208、LEU233、VAL237、VAL292、ASP293、LEU294、PHE295、GLY296、ALA297、GLY298、THR299、GLU300、THR301、LEU362及びLEU366のアミノ酸配列を有する蛋白質。
(2)配列番号62に示されるアミノ酸配列の数個のアミノ酸が、2C9以外のCytochrome P450蛋白質の対応する位置のアミノ酸と置換された配列を有する蛋白質であり、当該置換された配列が、i)前記(1)に記載するCYP2C9蛋白質の酵素ポケットに該当するアミノ酸配列並びにii)野生型から変異させたアミノ酸配列のいずれにも該当しない配列から選択されるアミノ酸配列である蛋白質。
【0015】
本発明者等は、本発明蛋白質と、CYP2C9により水酸化反応を受けることが広く知られているワルファリン、トルブタミドとの複合体結晶を作成し、その構造解析を試みた。
本発明の配列番号62で示される蛋白質の結晶は、三方晶形結晶でP321の空間群で表現される結晶である。先行技術(非特許文献3)に開示されるCYP2C9とワルファリンの複合体の結晶では、ワルファリンの水酸化される部位がCYP2C9のヘム鉄から約10Å以上離れており水酸化反応が可能な位置に結合しておらず、現実の化学反応を反映した構造となっていないと思われる。これに対し、本発明の複合体結晶は、酵素化学反応が起こると予想されるヘム鉄近傍(約4Å)に、ワルファリンの水酸化される部位がヘム鉄に向くように結合している。同様に水酸化反応を受けるトルブタミドについても、水酸化される部位が本発明CYP2C9変異体のヘム鉄から約3.5Åと水酸化反応が可能な位置に結合していた。即ち、本発明変異体蛋白質並びにその結晶は、実際の酵素化学反応機構を表現するCYP2C9蛋白質の立体構造を保持する蛋白質並びにその結晶であることが確認された。
【0016】
本発明において、「Cytochrome P450 2C9蛋白質により代謝される若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する非ペプチド性有機化合物」としては、CYP2C9蛋白質で代謝される非ペプチド性の有機化合物(基質)、若しくは、CYP2C9蛋白質による酵素活性を阻害する非ペプチド性の有機化合物(阻害剤)である。既知の基質としては、ジクロフェナック(diclofenac)、イブプロフェン(ibuprofen)、メロキシカム(meloxicam)、ピロキシカム(piroxicam)、スプロフェン(suprofen)、グリピジド(glipizide)、トルブタミド(tolbutamide)、ロサルタン(losartan)、イルベサルタン(irbesartan)、アミトリプチリン(amitriptyline)、セレコキシブ(celecoxib)、フルオキセチン(fluoxetine)、フェニトイン(phenytoin)、タモキシフェン(tamoxifen)、トルセミド(torsemide)、ワルファリン(S-warfarin)などが挙げられ、既知の阻害剤としてはアミオダロン(amiodarone)、フルコナゾール(fluconazole)、フルバスタチン(fluvastatin)、フルボキサミン(fluvoxamine)、イソニアジド(isoniazid)、ロバスタチン(lovastatin)、パロキセチン(paroxetine)、フェニルブタゾン(phenylbutazone)、プロベニシド(probenicid)、セルトラリン(sertraline)、サルファメトキサゾール(sulfamethoxazole)、サルファフェナゾール(sulfaphenazole)、テニポシド(teniposide)、トリメトプリム(trimethoprim)、ザフィルルカスト(zafirlukast)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。より好ましくはワルファリン及びトルブタミドである。
【0017】
本発明の「i)候補化合物を、(1)に記載の蛋白質と接触させる工程、並びにii)当該候補化合物と(1)に記載の蛋白質の複合体形成の程度もしくは相互作用の程度を測定する工程を含むことを特徴とする、当該候補化合物のCytochrome P450 2C9蛋白質との相互作用の評価方法」において、複合体形成の程度の測定は、複合体結晶を作成してX線結晶解析を行うことにより、また、相互作用の程度の測定は、結晶を作成しなくとも溶液状態においてNMRなどを用いてその相互作用を確認することにより行うことができる。当該方法によって、CYP蛋白質を阻害しにくい又は阻害しやすい候補化合物およびCYP蛋白質の代謝を受けにくい又は受けやすい候補化合物をスクリーニングすることができる。
【0018】
本発明において、「構造座標データが格納された、機械読み取り可能な媒体」としては、コンピューターが直接アクセスすることが可能な媒体であり、好ましくは、フレキシブルディスク、ハードディスク、磁気テープのような磁気記憶媒体、光学ディスク、CD-ROMのような光学的記憶媒体、RAMやROMのような電気的記憶媒体、さらに光磁気記憶媒体のようなそれらを組み合わせた媒体である。
【0019】
また、「複合体結晶の構造座標データを格納し、当該座標データから得られた三次元立体構造を用いて候補化合物の検索、評価若しくは設計を行うようプログラムされたことを特徴とするコンピューターシステム」において、当該コンピュータシステムは、座標データを格納することができ、かつ、その座標データを用いて本発明蛋白質と候補化合物の三次元立体構造における相互作用の程度を計算することができる機能を有するシステムである。システムを構成するハードウェアの構成に制限は無いが、本発明コンピューターシステムは、少なくとも、中央演算処理装置、入力装置、出力装置、データ記憶装置を含み、望ましくは立体構造を可視化するためのモニターが含まれる。入力装置、出力装置及び/又はデータ記憶装置は複数の機能を有する1つの装置であってもよい。このようなハードシステムの代表的なものとしては、Silicon Graphics Incorporated社やIBM社から提供されており、Unix(登録商標)あるいはWindows(登録商標) NTを基礎としたオペレーティングシステムを実行するマイクロコンピューターワークステーションが代表的である。また、ソフトウェアとしては、構造座標データにアクセスして解析し、得られた三次元立体構造を用いて候補化合物の検索、評価若しくは設計を行なうことができるソフトウェアであり、例えば、InsightII(Accelrys Inc.)が挙げられる。これらのハードウェア並びにソフトウェアから構成されるシステムに本発明構造座標データを保持させることにより、本発明コンピュータシステムを得ることができる。
【0020】
本発明は、前期コンピューターシステムを用いて、CYP2C9蛋白質による代謝の程度が低減された、若しくはCYP2C9蛋白質の酵素活性を阻害する程度が低減された化学修飾体をスクリーニングする方法にも関する。ここに、「代謝の程度が低減された」とは、化学修飾体がCYP2C9により代謝される程度が、そのリード化合物の1/10、好ましくは1/100、より好ましくは1/1000以下に低減された、すなわち代謝を受けにくい状態となったことを意味する。また、「CYP2C9蛋白質の酵素活性を阻害する程度が低減された」とは、リード化合物が存在する場合は、CYP2C9阻害活性がリード化合物に比して1/10、好ましくは1/100、より好ましくは1/1000以下に低減された状態を意味する。リード化合物が存在しない場合は、当該化学修飾体が目的とする薬理作用を発現する有効薬物濃度に比して、CYP2C9蛋白質の酵素活性を50%阻害する濃度が100倍、好ましくは1,000倍、より好ましくは10,000倍以上高い濃度であることを意味する。
上記構造座標、媒体、コンピューターシステムを用いた薬物間相互作用の低減された目的化合物のスクリーニング方法の好ましい一態様を以下に示す。
目的とする薬理作用を有するがCYP阻害作用を有するリード化合物の場合、
(1)本発明複合体結晶の構造座標のデータ、あるいはこれを格納した媒体から読み出したデータを、既存のコンピューターシステムを用いて、立体構造を認識できる状態にし、リード化合物のCYP蛋白質との相互作用に重要な部位および代謝を受ける部位を推定或いは計算し、
(2)推定、或いは計算された部位について、化学合成可能であり、かつリード化合物の薬物としての主活性に影響を及ぼさない構造に変換した候補化合物を推定或いは既存の分子設計システムを用いて設計するか、又は本発明コンピューターシステムにより複合体形成能の低い候補化合物を設計し、
(3)当該候補化合物を実際に合成し、次いで
(4)前記本発明評価方法あるいは当業者に既知のCYP阻害活性測定法を用いて、合成された候補化合物から複合体形成能の低い、言い換えればCYP阻害作用の低い化合物を選択することができる。
【0021】
また、別の態様としてトルブタミドがリード化合物の場合を以下に示す。
(1)本発明の構造座標1より得られた構造図より、トルブタミドはCYP2C9によりベンゼン環上のメチル基が水酸化されるが、複合体結晶構造においてトルブタミドのベンゼン環は2C9中の疎水性残基と相互作用をし、メチル基はヘム鉄の方向を向いて結合していることが判る。よって、このメチルベンゼンがCYP蛋白質のヘム鉄近傍を好む官能基として捉えることができる。
(2)このメチルベンゼンとほぼ同じ大きさの他の官能基を、経験的に選択するか、既存の分子設計システムを用いて選択する、又は本発明コンピューターシステムにより複合体形成能の低い置換基を有する化合物を設計する。
(3)上記候補化合物を実際に合成する。合成はコンビナトリアル合成でも可能である。
(4)前記本発明評価方法あるいは当業者に既知のCYP阻害活性測定法を用いて、CYP阻害活性が低減されたトルブタミドの化学修飾体を選択する。
以上の様に、本発明の構造座標、媒体、コンピューターシステムは、CYP阻害作用の回避或いはCYPによる代謝を回避するための化学修飾研究に有用である。
また、上記の研究にて見出された、CYP蛋白質との相互作用が弱い官能基を、CYP阻害回避または代謝回避可能なフラグメントとして、他のリード化合物に関する分子設計に応用することもできる。
【0022】
本発明は、特定の非ペプチド性有機化合物と本発明蛋白との複合体結晶の構造座標データを使用した本発明のコンピュータシステムによって選択若しくは設計された化学修飾体を合成し、そのCytochrome P450 2C9蛋白質による代謝の程度若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する程度を測定することによって選択された、Cytochrome P450 2C9蛋白質による代謝の程度がリード化合物の1/10以下、好ましくは1/100以下に低減された、若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する程度がリード化合物の1/10以下、好ましくは1/100以下に低減された化学修飾体自体にも関する。
当該非ペプチド性有機化合物としては、CYP2C9蛋白質により代謝される化合物もしくはCYP2C9蛋白質の酵素活性を阻害する特定のリード化合物であり、好ましくは前記の既知の基質並びに既知の阻害剤から選択される化合物であり、より好ましくはワルファリン及びトルブタミドである。当該特定の非ペプチド性有機化合物と本発明蛋白質の複合体を形成させ、その構造座標データを用いて本発明のスクリーニング方法を実施することによって、CYP2C9蛋白質との相互作用が低減された当該化合物の化学修飾体を容易に見出すことができる。よって、本発明の化学修飾体は、そのリード化合物である特定の非ペプチド性有機化合物の薬理活性をほぼ引き継ぎつつ、CYP2C9阻害が回避された化合物である。
【0023】
前記のように、トルブタミドがリード化合物の場合、本発明コンピューターシステムを用いて、トルブタミドとの複合体の構造座標データから、そのメチルベンゼンをCYP蛋白質のヘム鉄近傍を好む官能基として捉え、この基とほぼ同じ大きさの他の官能基を選択し、複合体形成能の低い置換基を有する化合物を設計することは容易にできる。その後の化学修飾体の合成、評価は当業者に公知の方法で容易に行うことができる。具体的には、リード化合物に特定の置換基を導入して所望の化学修飾体を合成する方法としては、例えば日本化学会編「実験化学講座」第4版(丸善)に記載の方法を用いることができる。
【0024】
また、本発明者らは、多数の変異体から結晶化に適する変異体を効率的に選択する方法、即ち、可溶化CYP変異体の、分子としての均一性を確認することを特長とする結晶化可能な可溶化蛋白質のスクリーニング方法を見出した。これは、物理化学的手法により分子としての均一性が確認できた変異体は、凝集が無く容易に結晶化可能であるという、本発明者等が見出した知見に基づく結晶化可能な変異体の選択方法である。
【0025】
均一性の確認は、ゲルろ過やDLS(Dynamic Light Scattering)など物理化学的手法により、蛋白質をその大きさで分離した場合に、ある一定の大きさの蛋白質が1種類しか検出されないことを確認することにより行う。具体的には例えばゲルろ過の溶出パターンにおいて単一のピークが検出された場合に、均一性が確認されたということができる。均一性が確認された変異体は凝集が無く、当業者に常用される方法により容易に結晶化する。実際、実施例に示す様に、ゲルろ過の溶出パターンにおいて均一性を有することが確認された配列番号38, 46, 54および62で示す4つのCYP2C9変異体蛋白質は、容易に結晶化した。一方、ゲルろ過の溶出パターンにおいて複数のピークを有する変異体は結晶化しなかった。
【0026】
当該方法は、すべての変異体について結晶化を試みることなく、ゲルろ過等の簡便な物理化学的手法を用いて、多数の変異体から結晶化に適した変異体を効率的に選択することを可能とするものである。
更に、当該知見は同様に他の可溶化CYP蛋白質においても結晶化可能な変異体を選択する方法として有用である。よって、本発明は、可溶性CYP変異体の溶液中での分子としての均一性を確認することを特長とする、結晶化可能な可溶化蛋白質の選択方法、好ましくは、可溶化されたCYP2C9変異体であるスクリーニング方法を包含する。ここに、分子としての均一性を確認する方法としては、上記に例示したゲルろ過やDLSなど当業者に知られる均一性を確認可能な物理化学的手法が包含される。
【0027】
本発明の蛋白質並びに結晶の製造法を以下に示す。
(1)変異体蛋白質をコードするポリヌクレオチド
CYP遺伝子は、ヒト肝cDNAライブラリーなどから適当なプライマーを用いてPCRを行う事により比較的容易にクローニングできる。あるいは、合成ポリヌクレオチドを連結する事でも作成できる。大腸菌での発現を想定して作成するには、その発現量を最大化する目的で大腸菌での発現蛋白質のコドン使用頻度を考慮に入れて合成ポリヌクレオチドを設計する事が合理的である。一部がアニールできるようプラス鎖とマイナス鎖を設計し遺伝子を全合成し、5'末端をリン酸化した当該オリゴマーをアニール後、ギャプをDNAポリメレースで1本鎖部分を埋め T4 DNA Ligaseを用いて連結させ遺伝子を作成することも可能である。変異体遺伝子は、前記のようにして得られたCYP遺伝子から、変異導入ポリヌクレオチドを用いてPCRを行う方法または市販の変異体作成キットを使用して容易に作成できる。具体的な実施態様として、例えば実施例1(1)に記載の方法により実施できる。
【0028】
(2)発現ベクター
上記変異体蛋白質をコードするポリヌクレオチドを含む発現ベクターは、変異体をコードする遺伝子を適当なプロモーターを持つ発現ベクター、例えばpTrc99Aベクター(ファルマシア製)に組み込みむことにより作成することができる。具体的な実施態様として、例えば実施例1(1)に記載の方法により実施できる。
【0029】
(3)細胞による蛋白質発現
蛋白質を組換え発現するための宿主細胞としては周知の細胞を適宜用いることができる。なかでも大腸菌は、その増殖速度が早く、かつ操作が簡便であり、かかる費用も安価なため広く利用されており、工業的規模での生産に適している。またヘム蛋白質を大腸菌で大量発現させるには、ポルフィリン生合成経路の5-aminolevulinate synthaseが大腸菌では律速酵素になっているためその生産物であるδ-ALA(5-aminolevulic acid)を培地に供給する必要があることが知られている(Arch.Biochem.Biophys., vol.321, No.2, Aug.20, pp277-288, 1995)。
【0030】
前記発現ベクターを用いて常法によりCYP変異体遺伝子を組み込んで形質転換した大腸菌、例えば市販コンピーテントセルJM109(宝酒造製)を、δ-ALAを添加した培養条件下で培養し、IPTGなどの誘導物質を添加することにより、大腸菌内にCYP蛋白質を発現させることができる。
CYP蛋白質を発現させた大腸菌を、適当な緩衝液、例えば、500mMリン酸緩衝液あるいは1M NaClを含む緩衝液に懸濁後、超音波処理または、ガラスビーズによる磨砕を行うことにより、CYP蛋白質を効率的に抽出できる(Archieves of Biochemistry and Biophysics 339、107-114(1997))。CYP蛋白質を含む菌体抽出液は、遠心分離またはフィルターを用いて、未破砕菌体や細胞膜などを取り除く事が好ましい。更にカラムクロマトグラフィーの負荷を軽減するためポリエチレンイミン処理や核酸分解酵素処理を行う事により粘性のある核酸などを除去・分解することが好ましい。次に、種々のカラムクロマトグラフィーを組み合わせて用いることにより、CYP蛋白質を精製することができる。具体的な実施態様として、例えば実施例1(2)に記載の方法により実施できる。
【0031】
(4)結晶化可能な変異体の選択
ゲルろ過やDLS(Dynamic Light Scattering)など物理化学的手法により分子としての均一性を有する変異体を選択し、次工程の結晶化に付することが好ましい。
【0032】
(5)結晶化
本発明の蛋白質の結晶は、以下のようにして製造できる。
蛋白質溶液の蛋白質濃度、沈殿剤濃度などを変動させ結晶を析出させる方法として知られている、蒸気拡散法、透析法、バッチ法などを用いることができる。これらの方法で用いる、最適な沈殿剤の種類、濃度、塩、pHを見出すために、市販のスクリーニングキット、例えばCrystal Screen及びCrystal Screen2(ハンプトン社製)、あるいは硫酸アンモニウム、ポリエチレングリコールなどを沈殿剤として含む種々の溶液を用いて、結晶が析出する条件を探索することが好ましい。結晶が析出する条件を発見した後、更に種々の条件を検討し、X線回折データの収集および構造解析において最適な結晶を製造することがより好ましい。
【0033】
(6)複合体
複合体を形成させる方法としては、CYP蛋白質溶液に対して基質又は阻害剤である化合物を等量以上で接触させることで複合体が形成できる。化合物を水溶液及びジメチルスルホキシド(DMSO)溶液などの有機溶媒などに高濃度に溶解し、その一部をCYP蛋白質溶液と混合し数時間放置する事によりCYP蛋白質と複合体を形成させる事ができる。また化合物の粉末とCYP蛋白質溶液を混合することによっても複合体を形成できる。
【0034】
(7)複合体の結晶
第一の方法として、化合物との共結晶化が挙げられる。この方法では、あらかじめ蛋白質溶液に適量の化合物を添加し複合体を形成させ、その混合液を用い蛋白質の結晶化を行なう。第二の方法としては、ソーキングと呼ばれる方法が挙げられる。この方法では、まず化合物を含まない結晶を作成し、それを化合物を含んだ結晶化母液(結晶化に用いた沈殿剤、塩、緩衝液などを含んだ溶液)に浸漬することによって化合物を結晶内部に浸潤させ、蛋白質と複合体を形成させ複合体の結晶を得る。本発明の複合体の結晶は、X線結晶構造解析により、複合体の3次元構造及び/又は全原子空間配置を解明し得る品質を有することが好ましい。
【0035】
(8)結晶構造の解析・構造座標
上記のようにして得られた本発明蛋白質並びに複合体結晶のX線結晶構造の解析は、以下のようにして行うことができる。
単結晶のX線回折強度データは、回転対陰極を装備したX線発生装置または放射光を利用したX線を利用して取得できる。位相決定は、プログラムAMORE(J. Navaza et al.,Acta Crystallogr.,vol. A50,157(1994))またはプログラムCNX(Brunger et al., Acta Crstallogr., vol. D54. 905 (1998))を利用した分子置換法を用いて行なう。
立体構造モデルの構築はプログラムO(T.A. Jones et al., Acta Crstallogr., vol. A47,110(1991))およびQUANTA(Accerlys Inc.)上で行う。構造精密化はプログラムCNXを用いて行い、立体構造を決定する。
【0036】
前記解析された構造座標は、コンピューターアルゴリズムに適用して、必要によりモニター上に3次元空間を表示して、空間的に適合する化合物をモデリングすることにも使用できる。ここで「適合」とは、薬物代謝型CYP蛋白質の酵素ポケットに、標的となる化学物質の一部又は全部が取り込まれる状態をいう。「モデリング」とは、既存の化合物の置換基を変換/除去すること、化学物質のフラグメントを組み合わせて化合物を発生させること、酵素ポケットの情報から化合物及び/又はフラグメントを設計することなどを含む。
【実施例】
【0037】
以下、実施例によって本発明を詳述するが、本発明は該実施例によって限定されるものではない。なお、特に断りがない場合は、公知の方法に従って実施可能である。また、市販の試薬やキットを用いる場合には市販品の指示書に従っても実施可能である。
【0038】
実施例1:CYP2C9蛋白質の製造及び変異体スクリーニング
(1) CYP2C9蛋白質の発現系作成
CYP2C9遺伝子内に含まれるアミノ酸をコードする遺伝子のうち大腸菌での使用頻度を考慮して使用頻度の低いコドンを使用頻度の高いコドンに修正するため、34種類の合成オリゴヌクレオチドを設計した(配列番号1-34)。これらの合成オリゴヌクレオチドは、ラビット CYP2C3の可溶化に関する報告(Archieves of Biochemistry and Biophysics 339、107-114(1997))を参考にして、野生型CYP2C9蛋白質(配列番号35)のN末端領域のアミノ酸残基2-26を配列番号36に置換し、また、C末端に4つのヒスチジン残基を付加し、金属アフィニティークロマトグラフィーで精製できるように設計した。更に、ラビット CYP2C5の可溶化に関する報告(Jose Cosme et al., J.Biol.Chem, vol.275, No.4, 2545-2553 (2000))を参考にして、アミノ酸5残基を置換(N202H、K206E、I207L、S209G、S210T)できるように設計した。
【0039】
PCRは、配列番号1-34で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドとDNAポリメラーゼ(Pyrobest DNA polymerase;宝酒造社)を用いて、3段階で行った。なお、配列番号1および18のプライマーの5'末端には、それぞれ制限酵素NcoIおよびSalI認識部位を含む塩基配列が付加されている。まず、各オリゴクレオチド(100μMに調製)を1μlずつ混合した溶液を作成し、そのうちの半量をテンプレートとして1段階目のPCRを行った。1段階目は、95℃(1分間)/65℃(1分間)/72℃(1分間)からなる3ステップを1サクイル行い、次に95℃(1分間)/64℃(1分間)/72℃(1分間)からなる3ステップを2サクイル、以降サイクルの第2番目のステップのアニール温度を62℃、60℃、58℃、56℃、54℃と2℃ずつ下げながら、それぞれ2サイクルずつ行い、最後に95℃(20秒間)/55℃(1分間)/72℃(1分間)を13サイクル行った。これによって取得したPCR産物のうち10μlをテンプレートとして、上記サイクルで2段階目のPCRを行った。さらに、2段階目のPCR産物のうちの1μlをテンプレートに、配列番号1および18のオリゴヌクレオチドをプライマーとして、95℃(30秒間)/55℃(30秒間)/72℃(3分間)を25サクイル行うことで、3段階目のPCR産物を得た。取得したPCR産物をNcoIおよびSalIで消化した後、発現ベクターpTrc99A(ファルマシア製)のNcoIおよびSalI部位に挿入することにより、発現ベクターpTrc99A-CYP2C9を得た。
【0040】
次に当該初期遺伝子pTrc99A-CYP2C9を基に部位特異的な変異を導入し、計25種類の変異体をQuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit(STRATAGENE社製)を用いて、キットの使用説明書に従って作成した。そのうちの5種類(変異体2〜6)について、作成方法を記述する。
【0041】
変異体2をコードするポリヌクレオチド(配列番号41)は、配列番号39および40で表される塩基配列からなるオリゴヌクレオチドをプライマーに、初期遺伝子(配列番号37)を含む発現ベクターpTrc99A-CYP2C9をテンプレートとして、94℃(30秒間)/50℃(1分間)/72℃(15分間)を20サイクル行うことにより作成した。以下同様に、配列番号37を含む発現ベクターをテンプレートとして、変異体3、4および5を作成した。変異体3をコードするポリヌクレオチド(配列番号45)は配列番号43および44のオリゴヌクレオチド、変異体4をコードするポリヌクレオチド(配列番号49)は配列番号47および48のオリゴヌクレオチド、変異体5をコードするポリヌクレオチド(配列番号53)は配列番号51および52のオリゴヌクレオチドを、それぞれプライマーとして用いて、94℃(30秒間)/50℃(1分間)/72℃(15分間)を20サイクル行うことにより作成した。
【0042】
変異体6は3段階のPCRにより作成した。1段階目は、変異体2のポリヌクレオチド(配列番号41)を含む発現ベクターをテンプレートに、配列番号55および56のオリゴヌクレオチドをプライマーとして、94℃(30秒間)/50℃(1分間)/72℃(15分間)を20サイクル行った。2段階目は、1段階目のPCR産物をテンプレート、配列番号57および58のオリゴヌクレオチドをプライマーとして、同様のサイクルでPCRを行った。3段階目は、2段階目のPCR産物をテンプレート、配列番号59および60のオリゴヌクレオチドをプライマーとして、同様のサイクルでPCRを行った。以上の3段階のPCRにより、変異体6をコードするポリヌクレオチド(配列番号61)を含む発現ベクターを作成した。
【0043】
(2) 大腸菌での変異体蛋白質の発現と蛋白質の精製
CYP2C9変異体6(配列番号62)の発現プラスミドで宿主大腸菌JM109株(宝酒造製)を形質転換し、100μg/mlアンピシリンナトリウムを含むLB培地(非特許文献1参照)に植菌、30℃で16時間 前培養を行った。前培養液を、100μg/mlアンピシリンナトリウム, 1 mM イソプロピル-β-D-チオガラクトシド(IPTG), および0.5 mM 5-アミノレブリン酸を含むTerrific Broth(Sambrook J. et al., Molecular Cloning (1989)参照)、に植菌し、23℃で48時間培養した。培養菌体は遠心操作により回収した。
Archieves of Biochemistry and Biophysics 339、107-114(1997)を参考にして、培養菌体を1M 塩化ナトリウムを含む 20mM トリス-塩酸(pH 8.0), 0.2mg/ml リゾチーム, 14.4mM β-メルカプトエタノール(β-M.E.), 0.1% 3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホン酸(CHAPS), 1mM ふっ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)からなる溶媒中で超音波破砕した。遠心操作により上清を回収した後、沈査を再度超音波破砕した。これにより、可溶性画分にCYP2C9蛋白質を抽出、回収した。
【0044】
この粗抽出液に、ポリエチレンイミン(分子量60,000〜80,000(シグマ製)、10% v/v溶液、濃塩酸でpH7.0に調整済)を終濃度0.05%になるように添加し、撹拌したあと遠心操作で核酸を沈殿除去した。遠心上清は50%飽和硫安で塩析し、変異体蛋白質を沈殿させた。この塩析物をBuffer A(20mMトリス-塩酸(pH8.0), 20%グリセロール, 200mM塩化ナトリウム, 0.1%CHAPS, 10mMイミダゾール)で再溶解し、不溶性画分を遠心操作で除去した。
【0045】
取得した塩析再溶解液を、NiをキレートしBuffer Aで平衡化したHis-Bind Resin(Novagen製)に展開し、変異体蛋白質を吸着させた。Buffer Aで10カラムボリューム洗浄し、さらに 20mM トリス-塩酸(pH8.0), 20%グリセロール, 200mM塩化ナトリウム, 20mMイミダゾールで10カラムボリューム洗浄した後、20mMトリス-塩酸(pH 8.0), 20%グリセロール, 200mM塩化ナトリウム, 250mMイミダゾールで吸着蛋白質を溶出した。溶出画分を10mMトリス-塩酸(pH8.0), 20%グリセロール, 14.4mMβ-M.E., 1mM エチレンジアミン四酢酸(EDTA)で3倍希釈した。希釈した蛋白質溶液を、Buffer B(10mMトリス-塩酸(pH8.0), 20%グリセロール, 100mM 塩化ナトリウム, 14.4mMβ-M.E., 1mMEDTA)で平衡化したQ-Sepharose(ファルマシア製)に展開すると、非吸着画分に変異体蛋白質が見出され、夾雑蛋白質の大部分が吸着した。
【0046】
Q-Sepharoseの非吸着画分を、Buffer Bで平衡化したSP-Sepharose(ファルマシア製)に展開すると、変異体蛋白質は吸着した。Buffer Bで10カラムボリューム洗浄した後、Buffer Bの塩化ナトリウム濃度を500mMまで段階的に上げることで、吸着蛋白質を溶出させた。変異体蛋白質は塩化ナトリウム濃度約300mMで主に溶出され、その前後の画分には夾雑蛋白質と一部の変異体蛋白質が溶出された。
SP-Sepharoseの塩化ナトリウム濃度約300mM溶出画分を回収し、セントリプレップYM-50(ミリポア製)を用いて濃縮した。濃縮した蛋白質溶液を、10mMリン酸カリウム(pH7.4), 20%グリセロール, 500mM塩化カリウム, 1mM EDTA, 2mMジチオスレイトール(DTT)で平衡化したHiLoad 16/60 Superdex 200prep grade(ファルマシア製)に展開した。波長417nmに吸収極大を示した画分を回収し、セントリプレップYM-50で濃度40mg/mlまで濃縮した。取得した変異体蛋白質溶液は、結晶化を行うまで4℃で保存した。
【0047】
(3)CYP2C9蛋白質変異体のスクリーニング
合計25種類の変異体について、上記と同様にして発現並びに精製した後、Superdex 200 HR 10/30(ファルマシア製)を用いてゲル濾過を行い、その溶出の様子を分析した。その結果、4つの変異体が単一なピークを示した。すべての変異体の中から単一なピークを示した4つの変異体と単一なピークを示さなかった15の変異体について、結晶化を試みた結果、単一なピークを示した4つの変異体(変異体1,3,5及び6)についてのみ結晶を得た。それ以外の変異体は結晶が析出しなかった。即ち、不規則な凝集のない均一な分子量分布を持つ変異体のみが結晶化可能であるとの知見を得た。6種類の変異体について、ゲル濾過の溶出パターンと結晶析出成否の関係を図1に示す。
CYP2C9変異体6(配列番号62)の結晶は、1μlの変異体6溶液(蛋白質を溶解する緩衝液:10mMリン酸カリウム、pH7.4、0.5M KCl、1mM EDTA、2mM DTT、20% v/v グリセロール)に対して、1μlのリザーバー溶液(0.1M Tris-HCl、pH8.4,0.2M KCl、10% v/v PEG400、10% w/v PEG8000、10% v/v グリセロール)を添加し、この溶液を同リザーバー溶液に対して、1日間蒸気拡散することによって作成した。作成した変異体6の結晶は、a=b=16.5nm、c=11.2nm、α=β=90°、γ=120°の単位格子定数およびP321の空間群を有する三方晶形結晶であった。
【0048】
実施例2:複合体の結晶化と構造解析
(1) CYP2C9変異体/ワルファリン複合体
CYP2C9変異体6(配列番号62)/ワルファリン複合体溶液は、40mg/mlの変異体溶液(蛋白質を溶解する緩衝液:10mMリン酸カリウム、pH7.4、0.5M KCl、1mM EDTA、2mM DTT、20% v/v グリセロール)25μlに対して、200mM ワルファリン溶液(溶媒:ジメチルスルホキシド)1μlを添加、攪拌し、氷上で1時間放置することにより作成した。
1μlの変異体/ワルファリン複合体溶液に対して、1μlのリザーバー溶液(0.1M Tris-HCl、pH8.4,0.2M KCl、14% v/v PEG400、9.5% w/v PEG8000、10% v/v グリセロール)を添加し、この溶液を同リザーバー溶液に対して、1〜2日間蒸気拡散することによって変異体6/ワルファリン複合体結晶が析出した。
【0049】
当該複合体の立体構造は、上記で得られた、a=b=16.5nm、c=11.1nm、α=β=90°、γ=120°の単位格子定数およびP321の空間群を有する三方晶形結晶を用いて決定した。初期位相は、サーチモデルとしてラビット由来CYP2C5結晶構造(PDB ID:1DT6)を用い、プログラムAMoRe(J.Navaza et al., Acta Crystallogr., vol.A50,157(1994))を利用した分子置換法により決定した。立体構造モデルの構築はプログラムQUANTA(Accerlys Inc.)上で行った。構造精密化はプログラムCNX(Brunger et al., Acta Crystallogr., vol. D54. 905 (1998))を用いて行い、分解能3.2Åの立体構造モデルを得た。
本発明複合体結晶の回折データ統計値及び複合体立体構造精密化の統計値を表1及び表2に示す。また座標データを構造座標1として図5〜132に、これをビジュアル化した構造図を図2に示す。図5〜132の座標データにおいて、図5の1行目以降、図132の最終行を除いて、各原子の3次元座標を記述している。1列目のATOMはこの行が原子座標の行であることを示し、2列目は、その原子の順番を、3列目はアミノ酸残基等における原子の区別を、4列目はアミノ酸残基等を、5列目は分子の種類を(同一の種類は一本のポリペプチド鎖であることを示す)、6列目は配列番号62に対応したアミノ酸の番号等を、7、8、9列目はその原子の座標(a軸、b軸、c軸方向の順番でÅ単位)を、10列目は、その原子の占有率(本発明においてはすべて1.00)を、11列目はその原子の温度因子を、12行目は分子の区分を、13行目は原子の種類を示している。図132の最終行は、この座標データの終わりの行であることを示している。なお、この座標データは当業者にとって一般的に用いられている表記法であるプロテイン・データ・バンクの形式に従って記述している。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
(2) CYP2C9変異体/トルブタミド複合体
CYP2C9変異体6(配列番号62)/トルブタミド複合体溶液は、200mM ワルファリン溶液1μlに代えて、200mMトルブタミド溶液(溶媒:シメチルスルホキシド)0.25μlを用いた以外は上記(1)と同様にして作成した。更に、1μlの複合体溶液に対して、1μlのリザーバー液(0.1M Tris-HCl、pH8.4、0.2M KCl、24% v/v PEG400、5% w/v PEG8000、10% v/v グリセロール)を添加し、この溶液を同リザーバー液に対して、1〜2日間蒸気拡散することによって複合体結晶を得た。
【0053】
CYP2C9変異体6/トルブタミド複合体の立体構造は、上記で得られた、a=b=16.4nm、c=11.1nm、α=β=90°、γ=120°の単位格子定数およびP321の空間群を有する三方晶形結晶を用いて決定した。初期位相は、サーチモデルとしてラビット由来CYP2C5結晶構造(PDB ID:1DT6)を用い、プログラムAMoRe(J.Navaza et al., Acta Crystallogr., vol.A50,157(1994))を利用した分子置換法により決定した。立体構造モデルの構築はプログラムQUANTA(Accerlys Inc.)上で行った。構造精密化はプログラムCNX(Brunger et al., Acta Crystallogr., vol. D54. 905 (1998))を用いて行い、分解能3.5Åの立体構造モデルを得た。複合体結晶の回折データ統計値及び複合体立体構造精密化の統計値を表3及び4に示した。また座標データを構造座標2として図133〜260に、これをビジュアル化した構造図を図3に示す。図133〜260の座標データにおいて、図133の1行目以降、図260の最終行を除いて、各原子の3次元座標を記述している。1列目のATOMはこの行が原子座標の行であることを示し、2列目は、その原子の順番を、3列目はアミノ酸残基等における原子の区別を、4列目はアミノ酸残基等を、5列目は分子の種類を(同一の種類は一本のポリペプチド鎖であることを示す)、6列目は配列番号62に対応したアミノ酸の番号等を、7、8、9列目はその原子の座標(a軸、b軸、c軸方向の順番でÅ単位)を、10列目は、その原子の占有率(本発明においてはすべて1.00)を、11列目はその原子の温度因子を、12列目は分子の区別を、13列目は原子の種類を示している。図260の最終行は、この座標データの終わりの行であることを示している。なお、この座標データは当業者にとって一般的に用いられている表記法であるプロテイン・データ・バンクの形式に従って記述している。
【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
非特許文献1のCYP2C9変異体/ワルファリン複合体構造解析における結合部位の構造図を当該文献から抜粋して図4に示す。非特許文献1のワルファリン結合位置と本発明で得られたワルファリン結合位置は明らかに異なる。各複合体構造解析におけるヘム鉄原子から基質の水酸化される分子までの距離を下表に示す。実施例2(1)並びに(2)で得られた本発明複合体では、ヘム鉄から約3.5〜4.4Åの距離に基質の水酸化される分子が存在し、水酸化反応可能な位置にあることが分かる。
【0057】
【表5】


※基質の原子(水素を除く)の中で最もヘム鉄に近い原子
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】実施例1にて製造した6種類の変異体(配列番号38, 42, 46, 50, 54, 62)についての、ゲル濾過の溶出パターンと結晶析出成否の関係を示す図である。グラフの横軸は溶出時間、縦軸は417nmの吸光度を示す。
【図2】実施例2(1)で製造した本発明CYP2C9変異体/ワルファリン複合体結晶の構造解析結果をビジュアル化した結合部位の構造図である。
【図3】実施例2(2)で製造した本発明CYP2C9変異体/トルブタミド複合体結晶の構造解析結果をビジュアル化した結合部位の構造図である。
【図4】非特許文献1のCYP2C9変異体/ワルファリン複合体結晶の構造解析結果から抜粋した結合部位の構造図である。
【図5】〜
【図132】実施例2(1)で製造した本発明CYP2C9変異体/ワルファリン複合体結晶の構造座標(構造座標1)を示す座標データである。
【図133】〜
【図260】実施例2(2)で製造した本発明CYP2C9変異体/トルブタミド複合体結晶の構造座標(構造座標2)を示す座標データである。
【配列表フリーテキスト】
【0059】
以下の配列表の数字見出し<223>には、「Artificial Sequence」の説明を記載する。具体的には、配列表の配列番号1-34, 39, 40, 43, 44, 47, 48, 51, 52, 55-60の配列で表される各塩基配列は、人工的に合成したプライマー配列である。配列番号36の配列で表されるアミノ酸配列は、変異体の作製に用いた配列である。配列番号37, 41, 45, 49, 53, 61の配列で表される各塩基配列は、CYP2C9変異体の配列である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)配列番号62で表されるアミノ酸配列からなる蛋白質、あるいは、(2)配列番号62で表されるアミノ酸配列、または配列番号62で表されるアミノ酸配列において1〜10個のアミノ酸が欠失、置換、及び/若しくは挿入されたアミノ酸配列を含み、かつ大腸菌で発現させたときに、Cytochrome P450 2C9蛋白質により代謝される非ペプチド性有機化合物が酵素化学反応が起こる位置に結合した複合体結晶を、少なくとも1つ形成する蛋白質。
【請求項2】
ALA103、ALA106、ASN107、VAL113、PHE114、LEU201、ASN204、ILE205、LEU208、LEU233、VAL237、VAL292、ASP293、LEU294、PHE295、GLY296、ALA297、GLY298、THR299、GLU300、THR301、LEU362及びLEU366のアミノ酸により酵素ポケットを形成する請求項1記載の蛋白質。
【請求項3】
請求項1に記載の蛋白質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項4】
請求項3に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項5】
請求項4に記載の発現ベクターで形質転換された細胞。
【請求項6】
請求項1に記載の蛋白質の結晶。
【請求項7】
請求項1に記載の蛋白質と、Cytochrome P450 2C9蛋白質により代謝される若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する非ペプチド性有機化合物との複合体。
【請求項8】
請求項7に記載の複合体の結晶。
【請求項9】
請求項1に記載の蛋白質と、Cytochrome P450 2C9蛋白質により代謝される若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する非ペプチド性有機化合物とを接触させる工程を含むことを特徴とする請求項7に記載の複合体の製造法。
【請求項10】
i)候補化合物を、請求項1に記載の蛋白質と接触させる工程、並びにii)当該候補化合物と請求項1に記載の蛋白質の複合体形成の程度もしくは相互作用の程度を測定する工程を含むことを特徴とする、当該候補化合物のCytochrome P450 2C9蛋白質との相互作用の評価方法。
【請求項11】
構造座標1または構造座標2に記載の構造座標。
【請求項12】
請求項11に記載の構造座標のデータが格納された、機械読み取り可能な媒体。
【請求項13】
少なくとも、中央演算処理装置、入力装置、出力装置及びデータ記憶装置を含むハードシステムと、構造座標データにアクセスして解析し、得られた三次元立体構造を用いて候補化合物の検索、評価若しくは設計を行うことができるソフトウェアとからなるコンピューターシステムであって、請求項8に記載の複合体結晶の構造座標データを格納し、当該座標データから得られた三次元立体構造を用いて候補化合物の検索、評価若しくは設計を行うようプログラムされたことを特徴とするコンピューターシステム。
【請求項14】
複合体結晶の構造座標データが構造座標1または構造座標2に記載の構造座標データである請求項13記載のコンピューターシステム。
【請求項15】
請求項13に記載のコンピューターシステムを用いて、Cytochrome P450 2C9蛋白質による代謝の程度が低減された、若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する程度が低減された非ペプチド性有機化合物を検索、評価若しくは設計する方法。
【請求項16】
請求項1に記載の蛋白質と、Cytochrome P450 2C9蛋白質により代謝される若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する非ペプチド性有機化合物との複合体結晶の構造座標データを使用して、該非ペプチド性有機化合物の化学修飾体の検索、評価若しくは設計を行うようプログラムされたコンピューターシステムを用いることを特徴とする、Cytochrome P450 2C9蛋白質による代謝の程度が該非ペプチド性有機化合物の1/10以下に低減された、若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する程度が該非ペプチド性有機化合物の1/10以下に低減された化学修飾体のスクリーニング方法。
【請求項17】
更に、コンピュータシステムによって選択若しくは設計された化学修飾体を合成し、そのCytochrome P450 2C9蛋白質による代謝の程度若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する程度を測定する工程を包含する請求項16記載のスクリーニング方法。
【請求項18】
請求項17に記載の方法によって選択されたことを特徴とする化学修飾体。
【請求項19】
Cytochrome P450 2C9蛋白質による代謝の程度が低減された、若しくはCytochrome P450 2C9蛋白質の酵素活性を阻害する程度が低減された化学修飾体の検索、評価若しくは設計を行うための、構造座標1または構造座標2に記載の構造座標の使用。
【請求項20】
可溶性Cytochrome P450変異体の、分子としての均一性を確認する工程、及び均一性を有する変異体を選択する工程を含む結晶化可能なCytochrome P450変異体をスクリーニングする方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate

【図26】
image rotate

【図27】
image rotate

【図28】
image rotate

【図29】
image rotate

【図30】
image rotate

【図31】
image rotate

【図32】
image rotate

【図33】
image rotate

【図34】
image rotate

【図35】
image rotate

【図36】
image rotate

【図37】
image rotate

【図38】
image rotate

【図39】
image rotate

【図40】
image rotate

【図41】
image rotate

【図42】
image rotate

【図43】
image rotate

【図44】
image rotate

【図45】
image rotate

【図46】
image rotate

【図47】
image rotate

【図48】
image rotate

【図49】
image rotate

【図50】
image rotate

【図51】
image rotate

【図52】
image rotate

【図53】
image rotate

【図54】
image rotate

【図55】
image rotate

【図56】
image rotate

【図57】
image rotate

【図58】
image rotate

【図59】
image rotate

【図60】
image rotate

【図61】
image rotate

【図62】
image rotate

【図63】
image rotate

【図64】
image rotate

【図65】
image rotate

【図66】
image rotate

【図67】
image rotate

【図68】
image rotate

【図69】
image rotate

【図70】
image rotate

【図71】
image rotate

【図72】
image rotate

【図73】
image rotate

【図74】
image rotate

【図75】
image rotate

【図76】
image rotate

【図77】
image rotate

【図78】
image rotate

【図79】
image rotate

【図80】
image rotate

【図81】
image rotate

【図82】
image rotate

【図83】
image rotate

【図84】
image rotate

【図85】
image rotate

【図86】
image rotate

【図87】
image rotate

【図88】
image rotate

【図89】
image rotate

【図90】
image rotate

【図91】
image rotate

【図92】
image rotate

【図93】
image rotate

【図94】
image rotate

【図95】
image rotate

【図96】
image rotate

【図97】
image rotate

【図98】
image rotate

【図99】
image rotate

【図100】
image rotate

【図101】
image rotate

【図102】
image rotate

【図103】
image rotate

【図104】
image rotate

【図105】
image rotate

【図106】
image rotate

【図107】
image rotate

【図108】
image rotate

【図109】
image rotate

【図110】
image rotate

【図111】
image rotate

【図112】
image rotate

【図113】
image rotate

【図114】
image rotate

【図115】
image rotate

【図116】
image rotate

【図117】
image rotate

【図118】
image rotate

【図119】
image rotate

【図120】
image rotate

【図121】
image rotate

【図122】
image rotate

【図123】
image rotate

【図124】
image rotate

【図125】
image rotate

【図126】
image rotate

【図127】
image rotate

【図128】
image rotate

【図129】
image rotate

【図130】
image rotate

【図131】
image rotate

【図132】
image rotate

【図133】
image rotate

【図134】
image rotate

【図135】
image rotate

【図136】
image rotate

【図137】
image rotate

【図138】
image rotate

【図139】
image rotate

【図140】
image rotate

【図141】
image rotate

【図142】
image rotate

【図143】
image rotate

【図144】
image rotate

【図145】
image rotate

【図146】
image rotate

【図147】
image rotate

【図148】
image rotate

【図149】
image rotate

【図150】
image rotate

【図151】
image rotate

【図152】
image rotate

【図153】
image rotate

【図154】
image rotate

【図155】
image rotate

【図156】
image rotate

【図157】
image rotate

【図158】
image rotate

【図159】
image rotate

【図160】
image rotate

【図161】
image rotate

【図162】
image rotate

【図163】
image rotate

【図164】
image rotate

【図165】
image rotate

【図166】
image rotate

【図167】
image rotate

【図168】
image rotate

【図169】
image rotate

【図170】
image rotate

【図171】
image rotate

【図172】
image rotate

【図173】
image rotate

【図174】
image rotate

【図175】
image rotate

【図176】
image rotate

【図177】
image rotate

【図178】
image rotate

【図179】
image rotate

【図180】
image rotate

【図181】
image rotate

【図182】
image rotate

【図183】
image rotate

【図184】
image rotate

【図185】
image rotate

【図186】
image rotate

【図187】
image rotate

【図188】
image rotate

【図189】
image rotate

【図190】
image rotate

【図191】
image rotate

【図192】
image rotate

【図193】
image rotate

【図194】
image rotate

【図195】
image rotate

【図196】
image rotate

【図197】
image rotate

【図198】
image rotate

【図199】
image rotate

【図200】
image rotate

【図201】
image rotate

【図202】
image rotate

【図203】
image rotate

【図204】
image rotate

【図205】
image rotate

【図206】
image rotate

【図207】
image rotate

【図208】
image rotate

【図209】
image rotate

【図210】
image rotate

【図211】
image rotate

【図212】
image rotate

【図213】
image rotate

【図214】
image rotate

【図215】
image rotate

【図216】
image rotate

【図217】
image rotate

【図218】
image rotate

【図219】
image rotate

【図220】
image rotate

【図221】
image rotate

【図222】
image rotate

【図223】
image rotate

【図224】
image rotate

【図225】
image rotate

【図226】
image rotate

【図227】
image rotate

【図228】
image rotate

【図229】
image rotate

【図230】
image rotate

【図231】
image rotate

【図232】
image rotate

【図233】
image rotate

【図234】
image rotate

【図235】
image rotate

【図236】
image rotate

【図237】
image rotate

【図238】
image rotate

【図239】
image rotate

【図240】
image rotate

【図241】
image rotate

【図242】
image rotate

【図243】
image rotate

【図244】
image rotate

【図245】
image rotate

【図246】
image rotate

【図247】
image rotate

【図248】
image rotate

【図249】
image rotate

【図250】
image rotate

【図251】
image rotate

【図252】
image rotate

【図253】
image rotate

【図254】
image rotate

【図255】
image rotate

【図256】
image rotate

【図257】
image rotate

【図258】
image rotate

【図259】
image rotate

【図260】
image rotate


【公開番号】特開2006−42734(P2006−42734A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−231735(P2004−231735)
【出願日】平成16年8月6日(2004.8.6)
【出願人】(000006677)アステラス製薬株式会社 (274)
【Fターム(参考)】