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薬物依存症治療剤
説明

薬物依存症治療剤

【課題】覚せい剤、あへん、バルビツール系麻酔薬、催幻覚薬、コカイン、大麻、カンナビンス、アルコールまたは揮発性有機溶剤などの依存性薬物等の渇望に基づく薬物探索行動の再燃・再発を予防する薬物依存症治療剤を提供する。
【解決手段】(−)−1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンまたはその薬理学的に許容しうる酸付加塩は、依存性薬物等の渇望に基づく薬物探索行動の再燃・再発を防止する薬物依存症治療剤として有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、(−)−1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンまたはその薬理学的に許容しうる酸付加塩を有効成分として含有する薬物依存症の治療薬に関するものである。
【背景技術】
【0002】
薬物依存とは、WHOの定義によれば、「生体と薬物の相互作用の結果生じる、特定の精神的、時にまた身体的状態を合わせていう。特定の状態とはある薬物の精神効果を体験するため、また、時には退薬による苦痛から逃れるために、その薬物を継続的あるいは周期的に摂取したいという強迫的欲求を常に伴う行動やその他の反応によって特徴づけられる状態をいう。」とされている。すなわち、薬物依存は精神依存と身体依存に分けることができる。精神依存では、ある薬物を摂取したいという強い欲求「渇望」(craving)を示し、身体依存では、服用を中断すると禁断症状が現れてくる。さらに、依存性を示す薬物は、服用すると耐性が形成されて摂取量が増加する。退薬症候群はその非常な苦痛から逃げるために大量の薬物を渇望するようになり、服用を絶つことができないという悪循環に入ることとなる。この悪循環により薬物依存が形成される。
【0003】
薬物依存症を引き起こす薬物には、覚せい剤(アンフェタミン、メタンフェタミン、MDMA)、あへん(モルヒネ、ヘロイン)、バルビツール系麻酔薬、催幻覚薬(LSD)、コカイン、大麻(マリファナ)、カンナビンス、ベンゾジアゼピン系化合物(鎮静薬、催眠薬、抗不安薬)、アルコール、揮発性有機溶剤などが挙げられる。覚せい剤には食欲抑制効果があるために、ダイエットのために使用されることもある。また「やせ薬」の中に混入されていることも指摘されている。これらの薬物はその危険性と流行性から、日本の薬物乱用対策上、もっとも重要視されている薬物である。薬物依存に関わる諸問題は医学上の問題に留まらず大きな社会的問題でもある。
【0004】
薬物乱用が反復されると次第に慢性効果としての精神病症状が体験されるようになる。しばしば見られる症状例としては、周囲の物音が実際以上に大きく聞こえる聴覚過敏、エアコンの音や水の流れる音と共に自分に喋りかけられる声が聞こえたり、あるいはそのような物音と全く関係なくどこからともなく声が聞こえてくる幻聴等がある。その声は家族や友人、知人の声であることもあれば、全く聞き覚えのない声であったりするが、声が自分に対して非難・脅迫・命令・干渉しているように聞こえる。そしてその声が自分の生活や心の内を言い当てたりすると、どこかに盗聴器などの機械が仕掛けられていると信じ込み天井裏や床下を詮索したり、電気器具類を分解したりする。このような幻覚と表裏一体となって誰かが自分を貶めようとしているのではないかとの疑念を抱くようになり、家族や友人に対して猫疑心(通称「悪勘」悪く勘ぐること)を募らせたり、被害妄想を抱くようにもなる。さらに、どこに行っても誰か(例えば警察官や暴力団員など)がつけてくる(追跡妄想)とか、その人物が物陰に潜んでいるのを見た(幻視)といった言動が現れる。このような幻覚妄想状態は統合失調症によるものと類似している。また、長期間の乱用により感情の機微や意欲が減弱する事例もあり、統合失調症との識別が難しい場合もある。
【0005】
薬物乱用による精神病症状の問題点は、慢性的な乱用後の長期間にわたる持続性、および飲酒・不眠・過度のストレス等による再燃である。前者はいわゆる薬物中毒後遺症と言われるものであり、後者はフラッシュバック現象と呼ばれている。断薬後も長く続くこのような病理は、薬物依存から立ち直ろうとする者の足かせとなり、ここに薬物乱用のもう一つの怖さがある。
【0006】
現在の薬物依存症の治療は、その原因薬物を中断することより開始され、薬物療法はほとんど効果がないとされてきた。また、安易に睡眠薬や精神安定剤などを投与すると、逆に処方薬の乱用や依存を起こす危険があり、実際に覚せい剤乱用に加えて処方薬乱用を合併している患者は少なくないといわれている。
【0007】
薬物依存症治療剤の先行技術として、次に示す特許文献1にはアザビシクロ誘導体または安息香酸誘導体(5−HT拮抗剤)が、特許文献2にはロリプラム(ホスホジエステラーゼ阻害剤)が、特許文献3にはイフェンプロジルが、特許文献4には内因性ニューロペプチジルオピオイドの分解抑制剤が、特許文献5にはドパミン・オートレセプタ作動薬などによる薬物依存の形成予防・治療および禁断症の緩和・予防などが報告されている。しかしいずれの薬物依存症治療剤もその効果は十分とはいえず、まだ実用化には至っていない。
【特許文献1】特許第2765845号公報
【特許文献2】特開平9−221423号公報
【特許文献3】特開平11−29476号公報
【特許文献4】国際公開WO89/03211号パンフレット
【特許文献5】西独国特許出願公開第3930282号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、我々は薬物への渇望の再燃・再発のメカニズムを行動薬理学的ならびに生化学的に追究し、薬物自己実験法を用い、その再燃・再発機序の解明と伴に依存症の治療薬開発に鋭意取り組んだ。
【0009】
ここでいう薬物自己実験法の概要は次の通りである。
まず、実験動物にレバーを押すと薬物が得られるという薬物の自己投与行動を学習させる。この時、薬物含有液の投与と同時に音と光の刺激を与える。薬物の自己投与行動を習得させた後、薬物含有液を生理的食塩水に置換する。薬物の自己投与行動を習得した実験動物には、薬物を獲得しようとする激しいレバー押し行動が観察されるようになる。この行動を薬物探索行動と捉える。この薬物探索行動は、生理的食塩水の摂取を反復させると次第に減少し、やがて消去される。しかし、この状態の当該実験動物に自己投与の際に用いた音と光刺激(薬物関連刺激)の呈示や中枢興奮作用を惹起させる薬物を投与することによって、薬物探索行動が再発する。この実験系を用いて種々化合物の効果を検討した。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この薬物自己実験法を用いて、薬物への渇望の再燃・再発のメカニズムを行動薬理学的に追究した結果、既に向精神作用、抗うつ作用、抗パーキンソン病作用あるいは抗アルツハイマー病作用を有する化合物として公知の(−)−1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンが薬物依存治療剤として優れた作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、
(1)(−)−1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンまたはその薬理学的に許容しうる酸付加塩を有効成分として含有する薬物依存症治療剤、
(2)薬物依存症に起因する薬物探索行動の誘発を抑制する(1)記載の薬物依存症治療剤、
(3)薬物依存症が、覚せい剤、あへん、バルビツール系麻酔薬、催幻覚薬、コカイン、大麻、カンナビンス、アルコールまたは揮発性有機溶剤によるものである(1)記載の薬物依存症治療剤。
(4)薬物依存症が、覚せい剤によるものである(1)記載の薬物依存症治療剤、及び
(5)薬物依存症が覚せい剤によるものである(2)記載の薬物依存症治療剤、
である。
【0011】
本発明に用いられる(−)−1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタン(本明細書においては「本発明化合物」と言うことがある。)は、次式Iで示される化学構造の公知化合物であり、国際公開第WO00/26204号にその製造法、物理的性質と共に向精神作用、抗うつ作用、抗パーキンソン病作用あるいは抗アルツハイマー病作用が記載されている。
式I

【0012】
また、この本発明化合物は、抗アポトーシス作用による神経保護機能(ライフサイエンス(Life Sciences) 72, 2785-2792 (2003))、レセルピンによって惹起される自発運動量の低下改善作用を有し、その作用はドパミンの遊離増加を介することが示唆されている(ヨーロピアン・ジャーナル・ファーマコロジー (Eur J Pharmacol. 421 181-189 (2001))。なお、これらの文献を含め、本発明化合物の薬物依存症治療剤としての用途についてはこれまで全く報告されてはいない。
【0013】
本発明に用いられる、(−)−1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンの薬理学的に許容しうる酸付加塩の、酸付加塩としては、
塩酸、硫酸、臭化水素酸、硝酸、メタンスルホン酸等の如き無機酸、もしくは、グルコン酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、コハク酸、リンゴ酸、クエン酸、マンデル酸等の有機酸との付加塩が具体例として挙げられる。
【0014】
本発明に用いられる化合物及びその薬理学的に許容される酸付加塩を上記医薬として用いる場合、通常担体、賦形剤、希釈剤、溶解補助剤等と混合して、錠剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、注射剤などの形態で経口的または非経口的に安全に投与することができる。投与量は患者の症状、年齢、体重等により変わり得るが、通常成人1日あたり経口投与で0.1mgから1000mg程度を、好ましくは1mgから500mgを、1回または数回投与することができる。しかし、一回の投与量があまり多すぎると、場合により、薬物探索行動を惹起することもあるので、成るべく有効かつ低い投与量の選択が望ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る薬物依存症は、覚せい剤(アンフェタミン、メタンフェタミン、MDMA)、あへん(モルヒネ、ヘロイン)、バルビツール系麻酔薬、催幻覚薬(LSD)、コカイン、大麻(マリファナ)、カンナビンス、ベンゾジアゼピン系化合物(鎮静薬、催眠薬、抗不安薬)、アルコール、揮発性有機溶剤などの薬物ないし化学物質の乱用によるものが含まれる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に実施例(実験例)を挙げて本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0017】
依存性薬物探索行動に対する作用
依存性薬物としてメタンフェタミンを用い、ニューロサイコファーマコロジー (Neuropsychopharmacology) 29, 1470-1478 (2004) に記載の方法に準じて、次の実験を行った。
実験動物の準備
メタンフェタミン自己投与用カテーテル(内径0.5mm、外径1.0mm)をウィスター/ST系雄性ラット(250-350g)の右頸静脈から挿入し、カテーテル先端を心耳の入り口直前に留置した。実験に用いたオペラントボックスには、2つのレバーが装着されている。一方は1回押す度に(固定比率1:FR1)微量のメタンフェタミン(0.02mg/一回注入)が6秒間の薬物関連刺激である音(70dB/7kHz)と光(300lux)と共に体内に注入される反応レバーであり、他方は、薬物関連刺激呈示もメタンフェタミン注入も得られない無反応レバーである。
10日間の自己投与実験(1セッションあたり2時間)でメタンフェタミン自己投与行動(メタンフェタミン摂取行動)を獲得させた後、メタンフェタミンを生理食塩水に置換して5日間の消去過程(1セッションあたり1時間、薬物関連刺激呈示無し)を行った。
なお、実験に用いた本発明化合物塩酸塩は、融点:165.0-166.0℃、光学純度:93% ee、比旋光度:[α]20=−4.08 (c=4.0 methanol)のものであった。
薬物探索行動の指標は、実験動物の30分間における反応レバーおよび無反応レバーの全レバー押し回数とした。
実験1:本発明化合物の単回投与による薬物探索行動の抑制効果
消去過程6日目に、前述の薬物関連刺激(音と光)の呈示または少量のメタンフェタミン投与(1.0mg/kg, 腹腔内投与)によって薬物探索行動("渇望")を誘発させた。
この薬物関連刺激の呈示または少量のメタンフェタミン投与30分前に、本発明化合物(0.32、1.0mg/kg、i.p.)の単回投与して、薬物関連刺激呈示またはメタンフェタミン強制投与によって誘発されるメタンフェタミン探索行動の変化を見たところ、図1に示される通り、探索行動は有意かつ用量依存的に抑制された。
実験2:本発明化合物の反復投与による薬物探索行動の抑制効果
5日間の消去過程で本発明化合物(1.0mg/kg、i.p.)を反復投与して、薬物関連刺激呈示またはメタンフェタミン強制投与によって誘発されたメタンフェタミン探索行動の変化をみたところ、図2に示されるとおり、探索行動は有意に抑制された。
実験3:本発明化合物のメタンフェタミン摂取行動に及ぼす影響
本発明化合物のメタンフェタミン摂取行動に及ぼす影響を調べるために、本発明化合物の1.0mg/kgを腹腔内に投与したところ、図3に示されるとおり、実験動物のメタンフェタミン自己投与(摂取)が得られる反応レバー押し回数は増加することなく、メタンフェタミン摂取行動そのものにはまったく影響のないことがわかった。
実験4:本発明化合物の薬物探索行動発現に及ぼす影響
本発明化合物の薬物探索行動発現に及ぼす影響を調べるために、本発明化合物の1.0mg/kgを実験動物に腹腔内投与したところ、図4に示されるとおり、メタンフェタミン探索行動が誘発されることはなかった。しかし、高用量(10mg/kg、i.p.)では弱いながらもメタンフェタミン探索行動を惹起した。
【0018】
上記実験から明らかな通り、薬物関連刺激呈示またはメタンフェタミン強制投与によって、レバー押し回数は有意に増加し、メタンフェタミン探索行動が認められた。このメタンフェタミン探索行動は、消去過程5日間の反復投与、およびメタンフェタミン探索行動の測定30分前の単回投与によっても有意に抑制された。また、メタンフェタミン探索行動を抑制する本発明化合物の用量では、それ自体でメタンフェタミン探索行動を誘発しなかった。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】:本発明化合物の単回投与による薬物探索行動の抑制効果を示すグラフ
【図2】:本発明化合物の反復投与による薬物探索行動の抑制効果を示すグラフ
【図3】:本発明化合物のメタンフェタミン摂取行動に及ぼす影響を示すグラフ
【図4】:本発明化合物の薬物探索行動発現に及ぼす影響を示すグラフ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(−)−1−(ベンゾフラン−2−イル)−2−プロピルアミノペンタンまたはその薬理学的に許容しうる酸付加塩を有効成分として含有する薬物依存症治療剤。
【請求項2】
薬物依存症に起因する薬物探索行動の誘発を抑制する請求項1記載の薬物依存症治療剤。
【請求項3】
薬物依存症が、覚せい剤、あへん、バルビツール系麻酔薬、催幻覚薬、コカイン、大麻、カンナビンス、アルコールまたは揮発性有機溶剤によるものである請求項1記載の薬物依存症治療剤。
【請求項4】
薬物依存症が、覚せい剤によるものである請求項1記載の薬物依存症治療剤。
【請求項5】
薬物依存症が覚せい剤によるものである請求項2記載の薬物依存症治療剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−151820(P2006−151820A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−339996(P2004−339996)
【出願日】平成16年11月25日(2004.11.25)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(501228129)株式会社フジモト・コーポレーション (8)
【Fターム(参考)】