説明

薬物含有コーティング用核粒子

【課題】苦味等の不快な呈味を有する薬物を高濃度に含有し、コーティングに適した大きさ、高い粒子強度等を有するコーティング用核粒子を提供する。
【解決手段】粒子中に、不快な呈味を有する薬物を35質量%以上、二酸化ケイ素を1〜10質量%、吸湿性高分子を5〜30質量%、糖類系賦形剤を10〜50質量%、及び結合剤を5〜20質量%含有し、平均粒子径が100〜400μm、粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下、及び摩損度が7%以下であることを特徴とする粒子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不快な呈味を有する薬物を高濃度に含有する粒子に関し、粒子径が小さく、高強度であるため、コーティング用核粒子に適した薬物含有粒子に関する。
【背景技術】
【0002】
「良薬口に苦し」とはよく言われるが、服用性が良いに越したことはなく、種々のマスキング技術が開発されてきた。内服固形製剤の分野においては、錠剤における糖衣やフィルムコーティングといった技術がまず普及したが、散剤や顆粒剤といった粒子や顆粒自体にコーティングする技術も近年急速に進展している(非特許文献1参照)。
【0003】
苦味等の不快な呈味を有する薬物を多量に含有する散剤や顆粒剤であればマスキングの必要性は大きく、これまでに、次のようなマスキング技術が開発されている。
【0004】
まず、均一な粒度分布を有する砂糖や結晶セルロース等の核粒子の表面に不快な呈味を有する薬物を含有する粉体を散布しながら結合液を噴霧し、または、薬物を溶解若しくは懸濁させた液を核粒子に噴霧し、その上からコーティング液を噴霧してマスキングするレイヤリング造粒法が挙げられる(非特許文献2参照)。この方法はもともと徐放性製剤の製造に用いられる技術であるから、苦味等の不快な呈味であればほぼ完全にマスキングすることができる。しかしながら、これに用いる転動造粒装置の容量から1バッチ当たりの製造量が少なく、かつ、製造に長時間を要するため、製造コストが非常に高くなり、また、核粒子の部分に薬物を含有させることができないので、粒子がその分だけ大きくなるというデメリットを有していた。
【0005】
また、押出造粒によって調製した顆粒に流動型のコーティング装置を用いてコーティング液を噴霧し、マスキングする方法も開示されている(非特許文献3参照)。しかしながら、押出造粒に供する粉体の調製に多量の賦形剤を要し、薬物と賦形剤との安定性に配慮しなければならず、また、顆粒であるため粒子としては大型化するというデメリットがあった。
【0006】
そこで、これらの課題を解決するために、賦形剤を減らし、薬物自体を含有するコーティング用核粒子の製造方法が求められている。
【0007】
ここで、フィルムコーティング用核粒子に必要な物性としては、適当な平均粒子径、シャープな粒度分布、高い粒子強度、重質などが挙げられる。これらの物性を具備する粒子を調製する方法として転動(攪拌)流動層造粒法が挙げられる。転動(攪拌)流動層造粒法とは、粉体の駆動力として流動化空気による流動運動と撹拌による転動圧密運動とを併有する複合型の造粒方法である(非特許文献4参照)。この運動機構により流動層造粒の特徴であるシャープな粒度分布と撹拌造粒の特徴である重質という2つの特徴を併せ持つ造粒粒子の調製が可能となる。さらにコーティング用核粒子に適すると考えられる高い粒子強度も賦形剤の選択によっては可能になると考えられる。
【0008】
【非特許文献1】日本粉体技術協会編「流動層ハンドブック」培風館、p224−225、1999年
【非特許文献2】日本粉体技術協会編「造粒ハンブック」オーム社、p420−421、1991年
【非特許文献3】日本粉体技術協会編「流動層ハンドブック」培風館、p225−228、1999年
【非特許文献4】日本粉体技術協会編「流動層ハンドブック」培風館、p223−224、1999年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、苦味等の不快な呈味を有する薬物を高濃度に含有し、コーティングに適した大きさ、高い粒子強度等を有するコーティング用核粒子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、1日当たりの配合(服用)量が多く、苦味を有するため何らかのマスキング処理が必須の薬物としてイブプロフェンを選択し、このイブプロフェンを含有するコーティング用核粒子の製造方法について鋭意検討した。その結果、イブプロフェン、二酸化ケイ素(軽質無水ケイ酸)、吸湿性高分子(結晶セルロース)及び糖類系賦形剤(アメ粉)を配合した粉体を転動(攪拌)流動層造粒機中に流動させ、結合剤(ヒドロキシプロピルセルロース)を水に溶解させた結合液を噴霧することによって粒子を調製したところ、コーティングに適した粒子径、粒度分布、比重、摩損度を有する粒子を調製できることを見出した。
【0011】
かかる知見に基づき完成した本発明の態様は、粒子中に、不快な呈味を有する薬物を35質量%以上、二酸化ケイ素を1〜10質量%、吸湿性高分子を5〜30質量%、糖類系賦形剤を10〜50質量%、及び結合剤を5〜20質量%含有し、平均粒子径が100〜400μm、粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下、及び摩損度が7%以下であることを特徴とする粒子である。
【0012】
本発明の他の態様は、不快な呈味を有する薬物を35質量%以上、二酸化ケイ素を1〜10質量%、吸湿性高分子を5〜30質量%、糖類系賦形剤を10〜50質量%、及び結合剤を0〜20質量%含有する粉体を混合し、得られた粉末を転動(攪拌)流動層造粒機中で流動させ、結合液を噴霧することによって得られる前記粒子である。
【0013】
本発明の他の態様は、不快な呈味を有する薬物がイブプロフェンである前記粒子である。
【0014】
本発明の他の態様は、糖類系賦形剤がアメ粉、粉糖、エリスリトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、白糖、無水マルトース及び含水マルトースの少なくとも1種である前記粒子である。
【0015】
本発明の他の態様は、コーティング用核粒子である前記各粒子である。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、苦味等の不快な呈味を有する薬物を高濃度に含有するコーティング用核粒子を提供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明における「粒子」は、苦味等の不快な呈味を有する薬物を高濃度に含有し、主にコーティング用の核粒子として用いられる。例えば、粒子中に、イブプロフェンを35〜50質量%、軽質無水ケイ酸を3〜6質量%、結晶セルロースを10〜25質量%、アメ粉を30〜40質量%、及び結合剤を5〜15質量%含有し、平均粒子径が175〜300μm、粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下、及び摩損度が5%以下であることを特徴とする粒子である。または、イブプロフェンを35〜50質量%、軽質無水ケイ酸を3〜6質量%、結晶セルロースを10〜25質量%、アメ粉を30〜40質量%、及び結合剤を0〜15質量%含有する粉体を混合し、得られた粉末を転動若しくは攪拌流動層造粒機中で流動させ、結合液を噴霧することによって得られる平均粒子径が175〜300μm、粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下、及び摩損度が5%以下であることを特徴とする粒子である。
【0018】
「不快な呈味」には、いわゆる苦味の他、収斂味、刺激味等が該当し、経口投与により服用感の悪化を招来する呈味であれば特に限定はない。
【0019】
「不快な呈味を有する薬物」には、苦味等の不快な呈味を有し、1日当たりの配合量が多い薬物の他、微量であっても数種を配合することにより、不快な呈味を有する薬物の配合量が全体的に多くなる場合も含まれる。1日当たりの配合量が多いものとしては、例えば、イブプロフェン、エンザミド及びアセトアミノフェンが挙げられる。それ自体の配合量は多くはないが不快な呈味を有する薬物としては、例えば、ウイキョウ油、カンゾウエキス、キキョウ流エキス、ケイヒ油、チョウジ油、ベラドンナエキス、ロートエキスなどの生薬抽出物、d−マレイン酸クロルフェニラミン、L−アスパラギン酸、L−アスパラギン酸カリウム、L−アスパラギン酸マグネシウム、L−イソロイシン、L−グルタミン、L−フェニルアラニン、L−メチオニン、L−塩酸ヒスチジン、アスコルビン酸、アスピリン、アズレンスルホン酸ナトリウム、アミノエチルスルホン酸、アルジオキサ、イソプロピルアンチピリン、ウルソデオキシコール酸、エルゴカルシフェロール、オクトチアミン、カフェイン、グアイフェネシン、グアヤコールスルホン酸カリウム、グリチルリチン酸二カリウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、コハク酸トコフェロール、コレカルシフェロール、コンドロイチン硫酸ナトリウム、サリチルアミド、シアノコバラミン、ジブロフィリン、スクラルファート、セミアルカリプロティナーゼ、タンニン酸アルブミン、タンニン酸ベルベリン、チアミンジスルフィド、テオフィリン、デヒドロコール酸、トラネキサム酸、ニコチン酸アミド、ノスカピン、パルミチン酸レチノール、パントテン酸カルシウム、ビオチン、ピコスルファートナトリウム、ビサコジル、ビスイブチアミン、ビスベンチアミン、ヒベンズ酸チペピジン、フェノールフタリン酸デキストロメトルファン、フェンジゾ酸クロペラスチン、フマル酸クレマスチン、フマル酸第一鉄、フルスルチアミン、ブロムワレリル尿素、ヘスペリジン、ヘプロニカート、ベンフォチアミン、マレイン酸カルビノキサミン、マレイン酸クロルフェニラミン、マレイン酸フェニラミン、メキタジン、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、メチルメチオニンスルホニウムクロリド(VU)、ヨウ化イソプロパミド、リボフラビン、リン酸コデイン、リン酸ジヒドロコデイン、リン酸ジメモルファン、リン酸ピリドキサール、リン酸リボフラビンナトリウム、リン酸水素カルシウム、安息香酸ナトリウムカフェイン、塩化カルニチン、塩化ベルベリン、塩酸アルギニン、塩酸イソチペンジル、塩酸クロペラスチン、塩酸クロルヘキシジン、塩酸ジサイクロミン、塩酸ジセチアミン、塩酸ジフェニドール、塩酸ジフェニルピラリン、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸セトラキサート、塩酸チアミン、塩酸トリプロリジン、塩酸トリメトキノール、塩酸ノスカピン、塩酸パパベリン、塩酸ヒドロキソコバラミン、塩酸ピリドキシン、塩酸フェニルプロパノールアミン、塩酸フェニレフリン、塩酸フルスルチアミン、塩酸ブロムヘキシン、塩酸メクリジン、塩酸メトキシフェナミン、塩酸ラニチジン、塩酸リジン、塩酸ロペラミド、乾燥水酸化アルミニウムゲル、合成ケイ酸アルミニウム、合成ヒドロタルサイト、酸化マグネシウム、次没食子酸ビスマス、酒石酸アリメマジン、臭化ブチルスコポラミン、臭化メチルアトロピン、臭化メチルオクタトロピン、臭化メチルベナクチジウム、臭化水素酸スコポラミン、臭化水素酸デキストロメトルファン、硝酸チアミン、酢酸トコフェロール、酢酸ヒドロキソコバラミン、水酸化アルミニウム・炭酸水素ナトリウム共沈物、水酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、沈降炭酸カルシウム、銅クロロフィリンナトリウム、乳酸カルシウム、無水カフェイン、葉酸、酪酸リボフラビンが挙げられる。不快な呈味を有する薬物の粒子中の含有(配合)量は、通常35質量%以上であり、35〜50質量%が好ましく、35〜45質量%がより好ましい。35質量%未満ではコーティング用核粒子を調製してまで不快な呈味をマスキングする必要性に乏しく、50質量%を超えるとコーティングに適した物性を有する粒子の調製が困難となるからである。
【0020】
「二酸化ケイ素」は、不快な呈味を有する薬物としてイブプロフェンのような低融点薬物を採択した場合、造粒時の粒子同士の凝集を防止するという目的で配合されるが、特に低融点でない薬物を配合する場合であっても流動化剤としての機能は有する。二酸化ケイ素としては、例えば、軽質無水ケイ酸及び含水二酸化ケイ素が挙げられる。軽質無水ケイ酸は1種を用いるだけでなく、組み合わせて用いてもよい。
【0021】
二酸化ケイ素の粒子中の含有(配合)量は、不快な呈味を有する薬物の物性に依存し、その配合量によって異なってくるが、通常1〜10質量%であり、3〜6質量%が好ましい。1質量%未満では流動化剤としての機能さえ果たせず、10質量%を超えると特に凝集防止に寄与しないばかりか、造粒前の粉体の嵩が大きくなりすぎてその取り扱いも容易でなくなり、好ましくないからである。
【0022】
「吸湿性高分子」とは、水分を吸収する性質を有する高分子化合物であって、固形製剤の分野で用いられる繊維系の賦形剤、又は、構造中にグルコース、マンノース、ガラクトース等の糖(糖には糖類が含まれる)を含み、水を加えると膨潤する性質を有する高分子化合物が該当する。繊維系の賦形剤としては、例えば、結晶セルロースの他、カルボキシメチルスターチナトリウム、ヒドロキシプロピルスターチ等のデンプン誘導体や、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、クロスカルメロース、クロスカルメロースナトリウム等のセルロース誘導体が挙げられる。これらは1種を用いるだけでなく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
吸湿性高分子は、造粒中の操作水分値を10〜20%に保つために配合される。操作水分値が10%未満であると粒子を形成しないか、形成しても脆く、コーティングに耐えうるような強度の粒子が得られないので好ましくない。また、操作水分値が20%を超えると造粒が一気に進行して凝集や塊を生じることがあり、好ましくない。
【0024】
ここでの操作水分値とは造粒中の湿粒(湿体)をサンプリングし、その10gを70℃で30分間加熱したときの乾燥減量(%)として表される。
【0025】
吸湿性高分子の粒子中の含有(配合)量は、造粒に際してどれだけの水分をどのような割合で使用(噴霧)するかによって異なってくるので一概にはいえないが、通常5〜30質量%であり、10〜25質量%が好ましい。5質量%未満であると操作水分値を一定の範囲に保つことが困難となるし、30質量%を超えると不快な呈味を有する薬物を高濃度に含有するという本発明の趣旨が没却されるからである。
【0026】
本発明における「糖類系賦形剤」は、20℃の水への溶解度、すなわち、溶質/(溶質+溶媒)×100の値が30質量%以上、好ましくは30〜80質量%、より好ましくは40〜75質量%である糖類である(「月刊フードケミカル」食品化学新聞社、p.20−21、1999年9月刊 参照)。水に溶けて粘着性を発現し、固化して粒子の形成及びその強度の増強に寄与する必須の物質であって、これなしでは如何に結合剤を増量しようと、製造方法に工夫を凝らそうとコーティングに耐えうるような高強度の粒子は調製し得なかった。このような糖類系賦形剤としては、例えば、アメ粉(Maltose Syrup Powder)、粉糖、エリスルトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、白糖、無水マルトース及び含水マルトースが挙げられ、これらは1種を用いるだけでなく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0027】
糖類系賦形剤の粒子中の含有(配合)量は、通常10〜50質量%であり、30〜40質量%が好ましく、30〜35質量%がより好ましい。10質量%未満であると粒子が脆く、コーティングに耐え得ないし、50質量%を超えて配合しても粒子強度の増加に特に寄与するものでもなく、却って粒子が大粒になり、本発明の趣旨を没却することとなって好ましくない。糖類系賦形剤は造粒前の粉末に配合してもよいが、その一部を結合剤として結合液に溶解させて使用してもよい。
【0028】
「結合剤」は、ある程度の粒子径を得るために固体架橋させる目的で配合される。結合剤としては、例えば、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール及び澱粉が挙げられ、これらは1種を用いるだけでなく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0029】
結合剤の粒子中の含有(配合)量は、通常5〜20質量%であり、5〜15質量%が好ましい。結合剤は造粒用粉末中に配合してもよいが、水に溶解させて結合液とし、造粒用粉末に噴霧等してもよい。もちろん、造粒用粉末と結合液の両方に配合させてもよい。固体架橋を形成させるためには、結合液とした方がよい。
【0030】
「結合液」は、結合剤を溶解若しくは溶解させていない水、有機溶媒、水と有機溶媒の混液をいう。転動(攪拌)流動層造粒の際に装置内を流動する粉体に対してスプレーして使用される。結合剤に対して水等の溶媒の量が少ないと結合液の濃度が上がり、スプレーの際にポンプに過大な負荷がかかって好ましくない。結合剤に対して水等の溶媒の量が多すぎると造粒に時間を要し、作業時間が長くなって好ましくない。通常は、5〜10質量%の結合液が用いられる。
【0031】
本発明における「平均粒子径(mean particle diameter)」とは、質量平均径である。具体的には、サンプリングした粒子(例えば5g)を、30M(500μm)、42M(355μm)、60M(250μm)、80M(180μm)、100M(150μm)、150M(106μm)、200M(75μm)及び270M(53μm)の順に積み重ねた篩上に置き、一定時間(例えば、3分間)振動を与えて分級し、30M篩残、42M篩残、60M篩残、80M篩残、100M篩残、150M篩残、200M篩残、270M篩残及び270M通過分の各質量を測定する。各質量に、予め算出しておいた各篩間の粒径区分の中央値を乗じ、その総和を全質量(5g)で除した値が求める質量平均径、すなわち、本発明における平均粒子径である。例えば、ロッボットシフター(株式会社セイシン企業)などを用いれば自動的に測定できる。なお、Mはメッシュを表す。
【0032】
散剤や顆粒剤等の粒剤の場合、服用しやすく、主薬成分の異なる2種以上の粒剤を調製し、混合して均一性を確保すること等を考慮すると、その平均粒子径は100〜400μmの範囲にあるのが好ましい(非特許文献2参照)。本発明の粒子もコーティングを施し、服用性、混合均一性等に優れた散剤等の粒剤として製剤化されることを斟酌すると、その平均粒子径は、100〜400μmであることが好ましく、175〜350μmであることがより好ましく、200〜300μmであることがさらに好ましい。また、粒子としては小さい方が好ましいが、100μm未満の粒子では比表面積が大きくなり、その分コーティングに多量のコーティング液を要して不経済である他、コーティング中に粒子同士の付着・凝集等のトラブルを生じることも多く、製造適性を確保することが困難となることも100μm以上とした理由である。
【0033】
「粒度分布(粒径分布)」とは、ある粒径範囲に属する粒子の粉体全量に対する割合をいう。具体的には、前記と同様にサンプリングした粒子(例えば5g)を、30M(500μm)、42M(355μm)、60M(250μm)、80M(180μm)、100M(150μm)、150M(106μm)、200M(75μm)及び270M(53μm)の順に積み重ねた篩上に置き、一定時間(例えば、3分間)振動を与えて分級し、30M篩残、42M篩残、60M篩残、80M篩残、100M篩残、150M篩残、200M篩残、270M篩残及び270M通過分の各質量を測定する。各質量を全質量(5g)で除し、100を乗じて質量%で表される。コーティング用核粒子としての用途を斟酌すると、その「幾何標準偏差(geometric standard deviation)」は、通常2.0以下であり、1.7以下が好ましく、1.5以下がさらに好ましい。ここに、幾何標準偏差は、対数正規分布により求められる積算通過分率84.13%のときの粒径を積算通過分率50%のときの粒径(中位径または幾何平均径)で除したときの値である。
【0034】
なお、平均粒子径、粒度分布、幾何学標準偏差については、社団法人化学工学会編「現代の化学工学I」(1988年、朝倉書店、p.239〜p.245)に依った。
【0035】
「かさ密度」とは、体積既知の容器(例えば、直径30mm、100mLの円柱状容器)に粉体試料を加え、粉体の表面を擦り切って秤量し、このときの粉体試料の質量を容器の内容量で除した値である。この際、容器のタッピングは行わない。見掛け比重ともいう。
【0036】
本発明において「かさ密度」の測定には、筒井理化学社製のA.B.D粉体測定器を用いた。コーティング用核粒子としての用途を斟酌すると、本発明の粒子のかさ密度は、通常400g/dm3以上である。
【0037】
「摩損度」は、850μm以下の粒子5gと直径20mm、質量28gの金属球2個を直径32mm、高さ88mmの円柱状の金属製の容器(例えば、ボールミル粉砕機)に充填し、振幅15mm、振動数1500回/分で1分間振動させたときに発生する75μm以下の微粉の割合(%)の増加量である。具体的には、サンプルを850μmの篩で分級し、篩残を除去し、850μmの篩を通過したサンプルを混合して、75μmの微粉の割合(%)を測定しておく。次に850μmの篩を通過したサンプルの5gを直径20mm、質量28gのステンレス球2個と共に直径32mm、高さ88mmの円筒状のステンレス製容器(ベータミル:三菱化学エンジニアリング製)に充填する。容器を振幅15mm、振動数1500回/分で1分間振動させた後、75μm以下の微粉の割合(%)を測定する。「摩損度」は、測定前後の75μm以下の微粉の割合(%)の増加量として求められる。
【0038】
コーティング用核粒子としての用途を斟酌すると、本発明の粒子の摩損度は、通常7%以下であり、5%以下が好ましく、3%以下がより好ましい。
【0039】
「粒子の製造方法」としては、例えば、イブプロフェン等の不快な呈味を有する薬物、軽質無水ケイ酸、結晶セルロース、糖類系賦形剤を混合、粉砕して造粒用粉末を調製する。該造粒用粉末を転動(攪拌)流動層造粒機中に転動(攪拌)流動させ、該造粒用粉末に水に結合剤を溶解させた結合液を噴霧し、乾燥、分級して目的とするコーティング用核粒子を調製するという方法が挙げられる。
【0040】
こうして得られた核粒子をコーティング流動層造粒機に充填して流動させ、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のコーティング基剤を水に溶解させたコーティング液を噴霧し、フィルムコーティングを施すことによってマスキングされる。なお、コーティング用基剤としては、ヒドロキシプロピルメチルセルロースの他、エチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートを用いることができ、溶媒としては、水の他、エタノール等の有機溶媒、水と有機溶媒の混液などが用いられる。
【0041】
また、本発明の効果を損なわない範囲で、該粒子に他の有効成分及び添加剤を加えることができる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例、比較例及び試験例を挙げ、本発明を更に詳細に説明する。
【0043】
実施例1
(1)造粒用粉末の調製
イブプロフェン 450.0g
リボフラビン 4.0g
軽質無水ケイ酸 50.0g
結晶セルロース 200.0g
アメ粉 350.0g
上記成分を秤量後、混合・粉砕し、均一な造粒用粉末を得た。
【0044】
(2)結合液の調製
ヒドロキシプロピルセルロース 75.0g
精製水 1425.0g
精製水にヒドロキシプロピルセルロースを溶解させ、結合液を得た。
【0045】
(3)粒子の調製
造粒用粉末を転動流動層造粒機マルチプレックス(パウレック社製)に充填し、結合液を噴霧しながら造粒し、乾燥後850μmの篩いで分級して、目的とする粒子を得た。
【0046】
実施例2
(造粒用粉末)
イブプロフェン 450.0g
リボフラビン 4.0g
軽質無水ケイ酸 50.0g
結晶セルロース 200.0g
粉糖 350.0g
(結合液)
ヒドロキシプロピルセルロース 75.0g
精製水 1425.0g
上記成分を秤量し、造粒用粉末及び結合液を調製して実施例1に準拠し、粒子を得た。
【0047】
実施例3
(造粒用粉末)
イブプロフェン 450.0g
リボフラビン 4.0g
軽質無水ケイ酸 50.0g
結晶セルロース 200.0g
アメ粉 350.0g
(結合液)
ヒドロキシプロピルセルロース 90.0g
精製水 968.0g
上記成分を秤量し、造粒用粉末及び結合液を調製して実施例1に準拠し、粒子を得た。
【0048】
実施例4
(造粒用粉末)
イブプロフェン 450.0g
リボフラビン 4.0g
軽質無水ケイ酸 50.0g
結晶セルロース 200.0g
アメ粉 350.0g
(結合液)
ヒドロキシプロピルセルロース 90.0g
精製水 910.0g
上記成分を秤量し、造粒用粉末及び結合液を調製して実施例1に準拠し、粒子を得た。
【0049】
比較例1
(造粒用粉末)
イブプロフェン 450.0g
リボフラビン 4.0g
軽質無水ケイ酸 50.0g
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 150.0g
リン酸−水素カルシウム 500.0g
ヒドロキシプロピルセルロース 65.0g
(結合液)
ヒドロキシプロピルセルロース 65.0g
精製水 1235.0g
上記成分を秤量し、造粒用粉末及び結合液を調製して実施例1に準拠し、粒子を得た。
【0050】
比較例2
(造粒用粉末)
イブプロフェン 450.0g
リボフラビン 4.0g
軽質無水ケイ酸 50.0g
結晶セルロース 200.0g
D−マンニトール 350.0g
(結合液)
ヒドロキシプロピルセルロース 75.0g
精製水 1425.0g
上記成分を秤量し、造粒用粉末及び結合液を調製して実施例1に準拠し、粒子を得た。
【0051】
試験例1
実施例1〜4、及び比較例1、2で得られた粒子の物性を測定し、下表1に記載した。なお、良品収率とはコーティング用核粒子に適している106μmから500μmまでの粒度分布の粒子の収率である。粒度分布の測定には篩分法を用いた。
【0052】
【表1】

【0053】
表1より、本発明の粒子は、フィルムコーティング用核粒子に適した物性、すなわち、適当な平均粒子径、シャープな粒度分布、高い粒子強度、重質を有することが確認された。特に、摩損度が小さく高強度であることが、コーティング用核粒子としての重要かつ基本的な特性として際だっていることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明により、イブプロフェン等の不快な呈味を有する薬物を高濃度に含有し、粒子径が小さく、服用しやすい散剤等の固形製剤の開発が期待される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子中に、不快な呈味を有する薬物を35質量%以上、二酸化ケイ素を1〜10質量%、吸湿性高分子を5〜30質量%、糖類系賦形剤を10〜50質量%、及び結合剤を5〜20質量%含有し、平均粒子径が100〜400μm、粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下、及び摩損度が7%以下であることを特徴とする粒子。
【請求項2】
粒子中に、不快な呈味を有する薬物を35質量%以上、二酸化ケイ素を1〜10質量%、吸湿性高分子を5〜30質量%、糖類系賦形剤を10〜50質量%、及び結合剤を5〜20質量%含有し、平均粒子径が175〜350μm、粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下、及び摩損度が7%以下であることを特徴とする粒子。
【請求項3】
粒子中に、不快な呈味を有する薬物を35質量%以上、二酸化ケイ素を1〜10質量%、吸湿性高分子を5〜30質量%、糖類系賦形剤を10〜50質量%、及び結合剤を5〜20質量%含有し、平均粒子径が200〜300μm、粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下、及び摩損度が7%以下であることを特徴とする粒子。
【請求項4】
不快な呈味を有する薬物を35質量%以上、二酸化ケイ素を1〜10質量%、吸湿性高分子を5〜30質量%、糖類系賦形剤を10〜50質量%、及び結合剤を0〜20質量%含有する粉体を混合し、得られた粉末を転動若しくは攪拌流動層造粒機中で流動させ、結合液を噴霧することによって得られる請求項1〜3に記載の粒子。
【請求項5】
粒子中に、不快な呈味を有する薬物を35質量%以上、二酸化ケイ素を3〜6質量%、吸湿性高分子を10〜25質量%、糖類系賦形剤を30〜40質量%、及び結合剤を5〜15質量%含有し、平均粒子径が100〜400μm、粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下、及び摩損度が5%以下であることを特徴とする粒子。
【請求項6】
粒子中に、不快な呈味を有する薬物を35質量%以上、二酸化ケイ素を3〜6質量%、吸湿性高分子を10〜25質量%、糖類系賦形剤を30〜40質量%、及び結合剤を5〜15質量%含有し、平均粒子径が175〜350μm、粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下、及び摩損度が5%以下であることを特徴とする粒子。
【請求項7】
粒子中に、不快な呈味を有する薬物を35質量%以上、二酸化ケイ素を3〜6質量%、吸湿性高分子を10〜25質量%、糖類系賦形剤を30〜40質量%、及び結合剤を5〜15質量%含有し、平均粒子径が200〜300μm、粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下、及び摩損度が5%以下であることを特徴とする粒子。
【請求項8】
不快な呈味を有する薬物を35質量%以上、二酸化ケイ素を3〜6質量%、吸湿性高分子を10〜25質量%、糖類系賦形剤を30〜40質量%、及び結合剤を0〜15質量%含有する粉体を混合し、得られた粉末を転動若しくは攪拌流動層造粒機中で流動させ、結合液を噴霧することによって得られる請求項5〜7に記載の粒子。
【請求項9】
不快な呈味を有する薬物がイブプロフェンである請求項1〜8の何れか1項に記載の粒子。
【請求項10】
糖類系賦形剤がアメ粉、粉糖、エリスルトール、キシリトール、ソルビトール、マルチトール、ラクチトール、白糖、無水マルトース及び含水マルトースの少なくとも1種である請求項1〜8の何れか1項に記載の粒子。
【請求項11】
コーティング用核粒子である請求項1〜10の何れか1項に記載の粒子。

【公開番号】特開2006−225367(P2006−225367A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112510(P2005−112510)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000002819)大正製薬株式会社 (437)
【Fターム(参考)】