説明

薬物送達法

薬物送達法が開示される。微小担体は、生物系の他の成分と著しい相互作用をせずに、封入された薬物を標的部位に直接送達する。1つの実施形態では、微小担体は、まず治療の一般領域に送達される。その後、微小担体は、その領域を走査し、治療しようとする細胞部位又は器官位置に、それ自体を選択的に結合させる。最終的に、微小担体に含有された所望の薬物が、結合部位に放出される。別の実施形態では、まず微小デバイスを使用して一般領域を処理し、細胞と不健康細胞との特性の区別を増強する。微小担体に封入されている薬物は、優先的に標的部位に結合する。最終的に、薬物は、微小担体からその部位に放出される。好ましくは、そのような微小担体は、感知、分析、ロジック処理、表面処理、位置検出、運動、注入、送達、切断機能、除去機能、生分解、及び分解のうち少なくとも2つを含む複数の機能を含有する。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
今日慣用の薬物送達は、生物学的体内への薬物注射、又は経口での錠剤若しくは液体の摂取のいずれかを伴うのが最も一般的である。これら送達手法の各々は、非選択的であり、外部的であり、非制御的であり、薬物が標的部位に到達する前に生物系内の種々の化学的及び生物学的成分と相互作用する傾向が高い。この非選択的な手法は、ある治療(癌治療等)においては、健康細胞及び不健康細胞(癌細胞等)が両方とも、同じ用量で同じ薬物に等しく曝されることを意味する。そのような外部的で非制御的な手法では、薬物が系に導入される地点及び実際に適用される地点から、標的部位までの経路が長くなることになる。また、薬物の濃度は、代謝を含むがそれに限定されない多数の要因により導入地点から標的部位への生物学的経路に沿って変化する場合があるため、薬物用量を正確に制御することができない。実際、標的部位での薬物吸着又は吸収の度合いを、生体生物系において微視的なレベルでリアルタイムに決定する現行方法は存在しない。
【0002】
従来の薬物送達法は、主に液体注射及び経口摂取による投与(錠剤又はカプセル形態での)に限定されている。近年、ナノ粒子が、薬物送達応用に提案及び評価されており、それには多くの場合、そのようなナノ粒子の内部又は表面に薬物を担持させることが必要である。[以下を参照:S.D.Smedt、J.Am.Chem.Soc.130巻、14480〜14482頁(2008年)(非特許文献1);A.L.Z.Leeら、Biomaterials、30巻、919〜927頁(2009年)(非特許文献2);T.Desai、Nano Lett.9巻、716〜720頁(2009年)(非特許文献3);R.O.Esenaliev、米国特許第6,165,440号(特許文献1);P.S.Kumarら、米国特許第7,182,894号(特許文献2);C.J.O’Connerら、米国特許出願公開第20020068187号(特許文献3);S.A.Herweckら、米国特許出願公開第20040236278号(特許文献4);H.Hirataら、米国特許出願公開第20070243401号(特許文献5);G.S.Yiら、米国特許出願第2009008146号(特許文献6)]。
【0003】
例えば、A.Chauhanらは、ナノ粒子が、前記ナノ粒子に封入された薬物と共に分散されているコンタクトレンズを含む薬物送達系を開示した(米国特許出願公開第20040096477号(特許文献7)を参照)。ナノ粒子を使用する提案された手法のほとんどは、以下の基本的機能及び能力を欠如している:(a)制御された様式で標的位置に到達すること、(b)その目的標的(癌細胞等)に対する選択性及び特異性、(c)その目的標的(複数可)への途上において環境との相互作用を回避する能力、(d)微視的レベルでの放出制御機構(例えば、薬物を、特定細胞にのみ放出し、その周辺領域には放出しない)、及び(e)使用後のナノ粒子の生分解性。治療部位を選択的に標的とする手法は、ほとんど考案されていない。J.S.Minorら(米国特許出願公開第20060040390号(特許文献8))は、標的を認識するために生物学的「キー」分子を使用することを提案した。A.Manganaroらは、ナノ担体の表面のアスコルビン酸を使用して、細胞により生成されるスーパーオキシドと反応させ、担体内の抗癌剤と癌細胞との反応が増強されるという結果が予測される方法を提案した(米国特許出願公開第20080279764号(特許文献9))。上記で言及した従来技術は、標的治療の試みであるが、適用可能性は比較的狭く、広範囲の細胞/組織/器官及び疾患を標的とする能力を欠如している。更に、Minor及びManganaroの応用で言及されたナノ担体の表面の「キー」分子又はアスコルビン酸は、生体内の環境と反応する可能性が高く、したがって、その元の形態を保ったまま目的標的に到達させるには、多くの問題がある。
【0004】
また、上述の制限に加えて、従来技術の薬物送達手法は、一般的な適用可能性及び実用性を欠如していると考えられる。本出願で開示される新規の薬物送達法は、従来技術の前述の制限及び問題を克服する。本開示の方法は、位置決め、感知(細胞、組織、及び器官の微視的な特性)、分析、ロジック意思決定、薬物貯蔵、及び制御及び標的化された微視的な様式での薬物放出が可能であるその統合型薬物送達系において、複数の明らかに強力な独自の革新性を有する。開示された標的治療は、これらに限定されないが、表面電荷、表面電圧、静止電位、吸収及び吸着特性、局所的pH、局所的化学的組成、局所的生物学的組成、及び細胞組成を含む微視的パラメータを測定することにより達成される。薬物送達用の統合型微小担体は、マイクロエレクトロニクス技術を使用して製造され、位置決め、感知、分析、ロジック処理、並びに薬物貯蔵及び薬物放出ユニットを含む種々の部品が、同一チップ上に統合されている。
【0005】
上記で考察した今日の薬物送達手法の問題は、実験室での試験(ラット等の動物に対する)において臨床的効能を示す多くの有望な薬物が、ヒト試験では効果がないと判明するという、実験室での薬物試験と臨床治験との間の比較的大きな不一致が原因である可能性がある。更に、癌等の疾患の場合、ほぼ全ての薬物は、効果がないか及び/又は人体に毒性である。現在まで、生物系内の標的部位への直接的及び選択的な薬物送達を直接的に可能にする技術は存在しない。既存の応用技術において、ほとんどの薬物は、薬物の効能に否定的な影響を及ぼす生体生物系の種々の化学的及び生物学的成分と種々の度合いの相互作用を示す可能性が非常に高い。制癌剤を使用する治療の場合、薬物が標的癌細胞に到達したとしても、その強度(濃度)及び化学的組成が変化しており、薬物が比較的無効になっている可能性がある。更に、制御可能性及び選択性を有し、細胞レベルで送達すること(細胞膜を通して細胞中に所望の薬物を注射すること等)ができる薬物送達法は存在していない。最後に、薬物と標的部位との詳細な反応機序並びに吸収/吸着問題は、生体生物系では完全には理解されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,165,440号
【特許文献2】米国特許第7,182,894号
【特許文献3】米国特許出願公開第20020068187号
【特許文献4】米国特許出願公開第20040236278号
【特許文献5】特許出願公開第20070243401号
【特許文献6】米国特許出願第2009008146号
【特許文献7】米国特許出願公開第20040096477号
【特許文献8】米国特許出願公開第20060040390号
【特許文献9】米国特許出願公開第20080279764号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】S.D.Smedt、J.Am.Chem.Soc.130巻、14480〜14482頁(2008年)
【非特許文献2】A.L.Z.Leeら、Biomaterials、30巻、919〜927頁(2009年)
【非特許文献3】T.Desai、Nano Lett.9巻、716〜720頁(2009年)
【非特許文献4】「CMOS Voltage Comparator Touts 50,000:1 Improvement in Sensor Input Signal Detection」、Bettyann Liotta、ee Product Center(2004年10月25日)
【非特許文献5】G.A.M.Smithら、J.Biol.Chem.、277巻、21号 18528〜18534頁(2002年5月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
多くの癌治療薬物は、たとえ実験動物に対する試験が成功を示したとしても、ヒト治験では予期された有望な結果を示していない。本方法の発明者らは、標的癌細胞に対する有効な薬物送達の成功には、大きな問題が存在すると考える。そのような薬物は、錠剤/カプセル剤、液体形態(経口摂取による)、又は生物系への注射で摂取されることが多いため、抑制された有効な様式での標的癌部位への到達に関して重大な問題が存在する。
【0009】
現代医療の疾患予防及び治療目的の両方に関して、現行の薬物送達法及び手法を著しく向上させるための、重大で緊急の必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の発明は、薬物効能が向上し、生物系の他の成分との相互作用が最小限になるように、微小担体に封入された薬物を生体生物系中の標的部位に送達する、新規の薬物送達法である。この方法を使用する1つの実施形態では、薬物は、細胞、DNA、細菌、又は器官等の標的部位に対して高度に選択的に送達されることが好ましい。具体的には、薬物は、治療しようとする部位に対してのみ選択的に適用され(癌治療中の癌細胞に直接的に等)、非目的部位(癌治療中の正常細胞等)には放出されない。
【0011】
本明細書で開示された方法の別の独特な態様は、薬物放出前に前処理プロセスを展開して、標的部位と非目的部位との差異を増強することを伴う。そのような前処理により、薬物が放出される1つ又は複数の標的領域に対する薬物適用選択性及び正確性の度合いを増加させる。この前処理プロセスにより、標的部位と非目的部位との特性の差異(表面電荷、表面電位、表面湿潤特性等)の増強及び/又は測定がもたらされ、薬物選択性及び正確性が更に増強される。
【0012】
好ましい薬物送達法は、統合された複数の部品を有し、マイクロエレクトロニクス及び集積回路製造技術等の技術を使用して製作され、0.1ミクロンほどの小ささの最小特徴サイズを有する微小担体を使用した複数の作働ステップに依存する。最後に、本発明の更に別の実施形態では、健康細胞又は不健康細胞(癌細胞等)への前記微小担体の選択的吸収又は吸着を使用して、標的細胞(癌治療中の癌細胞等)内又は標的細胞上のみへの選択的な薬物放出が達成される。
【0013】
本発明のこれら及び他の特徴、態様、及び利点は、以下の説明、添付の特許請求の範囲、及び付随する図面を考慮にいれると、より良く理解されるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】マイクロデバイスを使用して標的細胞に薬物を送達する好ましい方法を示す図である。
【図2】2つの異なるタイプの細胞に前処理を適用して、各タイプの細胞に特定の電荷を顕在化させる方法を示す図である。
【図3】感知ユニット、ロジックユニット、及び微少注入器を備えた微小担体の透視図を示す図である。
【図4】複数カラムの注入器を備えた微小担体の透視図を示す図である。
【図5】一群の健康細胞及び一群の不健康癌性細胞の拡大透視図を示す図である。
【図6】一群の健康細胞及び一群の不健康細胞(例えば、癌性細胞)の拡大透視図を、不健康細胞に吸着又は吸収されたかのいずれかである微小担体と共に例示する図である。
【図7】一群の健康細胞及び一群の不健康癌性細胞の拡大透視図を示す図である。
【図8】一群の健康細胞及び一群の不健康癌性細胞の拡大透視図を、両組の細胞に対して電圧比較器として作用する微小担体と共に例示する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
効能が向上し、生物系の他の成分との相互作用を最小限に抑えるように、微小担体に封入された薬物を生体生物系中の標的部位に送達する新規の薬物送達法が、本出願で開示される。この方法を使用する1つの実施形態では、薬物は、細胞、DNA、細菌、又は器官等の標的部位に対して、高度に選択的に送達されることが好ましい。具体的には、薬物は、治療しようとする部位(癌治療中の癌細胞等)に対してのみ選択的に適用され、非目的部位(癌治療中の正常細胞等)には放出されない。
【0016】
1つの好ましい送達プロセスの流れは、図1に示されており、そこでは微小担体が、ある領域に適用され、その微小担体は、一般領域を走査し、標的を識別する。細胞が標的細胞である場合、微小担体は、選択的に細胞に結合し、細胞レベルで機能を発揮する。細胞が非標的細胞である場合、微小担体は、その細胞に結合しない。この方法は、所望の機能が標的細胞のみに影響を及ぼすように、細胞レベルでの選択的結合を可能にする。
【0017】
本発明では、随意に、微小担体は、他の部品に加えて、その目的標的位置に移動するための微小モーター及び位置検出ユニットを統合することができる。随意に、前記微小担体は、これらに限定されないが、位置決め、感知、データ収集、データ分析、意思決定、標的細胞又は組織又は器官に対する選択的薬物放出、及び分解を含む複数機能を有する複数の部品と共に統合されている。
【0018】
別の実施形態では、薬物放出の前に、図2に示されている前処理プロセス3を使用して、標的部位の細胞と非目的部位の細胞との差異を増強する。この方法は、薬物を放出する標的への薬物適用選択性及び正確性の度合いを増加させる。図2には、各々が「a」(ゼロの場合がある)の電荷を有する一群の「a」細胞1、及び「b」(これもゼロの場合がある)の電荷を有する一群の「b」細胞2も示されている。前処理3の際に、「a」細胞4は、「a」電荷を有し、「b」細胞5は、「b」荷電を有しており、2つの電荷が異なる細胞群間の区別が可能になる。前処理した後、細胞「a」と細胞「b」との表面電荷の差異、a−bが増強され、前処理前の細胞「a」と細胞「b」との電荷の差異、a−bより増加され、細胞タイプの識別がはるかにより容易になり、はるかにより効率的で正確な標的治療がもたらされる。表面電荷に加えて、この前処理プロセスは、表面電荷、表面静止電位、導電率、表面電流、バルク電流、表面吸着特性、表面吸収特性、表面張力、光学的特性、pH、化学的組成、生物学的特性、生物学的組成、密度、摩擦、及び音響特性を含む特性のうち少なくとも1つにおける、標的部位と非目的部位との差異を増強するためにも使用することができる。
【0019】
本明細書に開示されているように、薬物送達プロセスは、約2オングストローム〜約5ミリメートルの範囲のサイズ、好ましい実施形態では100オングストローム〜500ミクロンの範囲のサイズを有する微小担体を使用することにより達成される。1つの実施形態では、前記微小担体は、感知器、送達しようとする所望の薬物を含有する微小容器、及び微小注入器を含む。感知ユニット8、ロジックユニット9、及び微小注入器7を備える開示された微小担体10が、図3に示されている。図4に示されているように、微小担体19は、薬物送達効率を増強する複数の薬物カラム15、感知器14、複数の微小注入器12、外側膜16、底面17、及び上面11を有する。
【0020】
好ましい薬物送達法は、微視的レベルで機能的に統合することにより達成されるそれらの広範囲の新規機能、及びマイクロエレクトロニクス分野で現在使用されている集積回路製作技術に見出さるもの等の最先端の微小デバイス製作技術を使用して、複数の作働ステップを実施するための微小感知器、微小容器、微小針、微小注入器、並びに随意にロジック処理ユニット、メモリユニット、信号送信器、受信器、位置検出器、及び微小モーターを含むがこれらに限定されない統合された複数の部品を備える微小担体を使用する、複数の作働ステップに依存する。
【0021】
1つの実施形態では、少なくとも1つの薬物含有区画、1つの感知器、1つのロジック処理ユニット、及び薬物区画に取り付けられた1つの薬物注入器が担体に統合されている微小担体は、薬物が標的細胞、組織、又は器官に放出されることになる生体の一般領域に適用される。最初に、前記感知器は、一般領域を走査し、表面電荷、表面静止電位、導電率、表面電流、バルク電流、表面吸着特性、表面吸着特性、表面張力、光学的特性、化学的組成、生物学的特性、生物学的組成物、密度、摩擦、局所的pH、局所的な化学的特性、局所的な化学的排出及び存在(local chemical emission and presence)、局所的な生物学的種及び存在(local biological species and presence)、並びに音響特性の群から選択される、細胞、組織、又は器官レベルでの局所的パラメータの少なくとも1つを収集する。次に、収集した情報及びデータは、ロジック処理ユニットにより処理されて、薬物放出を意図する標的(例えば、癌細胞)を決定する。標的細胞、組織、又は器官が決定されると、前記微小担体の注入器は、標的の表面に移動し、標的に薬物を注入する。本新規特許出願の特定の例としては、その一般治療位置に到達した際に、微小担体に統合されている電圧比較器を使用して、まず細胞表面の静止電位が測定され、それにより測定した細胞が癌細胞の可能性が高いかどうかを決定する。最先端の電圧比較器技術では、1mV未満ほどの低い電圧を測定することができるが(「CMOS Voltage Comparator Touts 50,000:1 Improvement in Sensor Input Signal Detection」、Bettyann Liotta、ee Product Center(2004年10月25日)(非特許文献4)を参照)、ヒト体内の細胞レベルの静止電位は、典型的には約10mVである。更に、細胞の分極化は、細胞有糸分裂の状態を含む細胞の状態を反映すると考えられており、正常細胞は、非常に過分極化され、癌性細胞は非常に脱分極化されていることが報告されている。膜電位は、細胞の有糸分裂の状態と関連すると考えられる(G.A.M.Smithら、J.Biol.Chem.、277巻、21号 18528〜18534頁(2002年5月)(非特許文献5)を参照)。したがって、細胞レベルで静止電位を測定することが可能であり、並びにより高い静止電位を有する正常細胞と癌性細胞とを識別及び区別することが可能である高度な電圧比較器を、本特許出願で開示されている微小担体に統合してもよい。
【0022】
本発明の更に別の実施形態は、標的細胞(癌治療における癌細胞)にのみ選択的な薬物放出を達成するために、健康細胞(正常細胞等)又は不健康細胞(癌細胞等)に対する微小担体の選択的吸収又は吸着を使用することである。
【0023】
単語「吸収」は、典型的には、表面及びそれに結合した(この場合、それに吸収された)物質間の物理的な結合を意味する。その一方で、単語「吸着」は、一般的に、その2つの間のより強力な化学的結合を意味する。これらの特性は、標的薬物治療にそれらを効果的に使用することができるため、本発明において非常に重要である。
【0024】
標的表面に対する前記微小担体の選択的吸着及び吸収の点では、まず、薬物が標的に放出されることになる一般領域に微小担体を適用する(随意に、微小担体は、微小モーター、位置検出器、ロジックユニット、及び感知器を使用することにより、それ自体が目的一般領域に移動することができる)。次に、随意に、設計された溶液を微小担体から放出して一般領域を処理することにより、前処理ステップを実施することができ、それにより正常細胞と疾患細胞との表面特性の差異を増強する。一般的に、正常細胞は、疾患細胞の表面特性とは異なる表面特性を有する。例えば、正常細胞は、典型的には癌性細胞よりも高い静止電位(膜電位)を有する。したがって、設計された前処理で細胞表面に負電荷を供給すると、癌細胞の比較的低い静止電位を、比較的容易にゼロ電位に及び更に負電位に切替えることができ、その一方で正常細胞は、依然として正電位を維持することができる。このようにして、正の表面電荷(設計された微小担体で制御することができる)を有する微小担体は、選択的に癌性細胞に結合するが、正常細胞には結合しない(同じ電荷は互いに反発するため)。別の例としては、正常細胞及び疾患細胞は、異なる表面化学を有する可能性が高いため、微小担体は、疾患細胞に優先的に吸着するように設計された表面化学を有することができる。
【0025】
本特許出願で開示されている微小担体を使用する方法は、幅広い設計、構造、及び機能性を有する。それは、集積回路製作に使用されるマイクロエレクトロニクス技術を含むがそれに限定されない技術を使用して、微小担体に複数の部品を統合し、0.1ミクロンほどの小さな最小特徴サイズとすることを伴う。その中核部品は、微小感知器、微小容器(薬物(複数可)貯蔵用)、微小注入器、微小処理ユニット、メモリユニット、及び微小針である。加えて、中核部品には、これらに限定されないが、以下のものも含まれる:電圧比較器、4点プローブ、計算機、位置検出ユニット、微小モーター、ロジック回路、メモリユニット、微小カッター、微小ハンマー、微小遮蔽体、微小染料、微小ピン、微小ナイフ、微小スレッドホルダ、微小ピンセット、微小光吸収体、微小鏡、微小遮蔽体、微小ホイーラ(micro−wheeler)、微小フィルタ、微小チョッパ、微小シュレッダ、微小ポンプ、微小吸収体、微小信号検出器、微小ドリル、微小吸引器、信号送信器、信号発生器、摩擦感知器、電荷感知器、温度感知器、硬さ検出器、音波発生器、光波発生機、熱発生器、微小冷蔵器、及び電荷発生器。
【0026】
製造技術の進歩により、本出願で開示された微小担体等の幅広い微小デバイスの製作、及び同デバイスへの種々の機能の統合は、今や高度に実現可能であり、対費用効果の高いものになっていることが留意されるべきである。例えば、典型的なヒト細胞サイズは、約10ミクロンである。最先端の集積回路製作技術を使用すると、微小デバイスに関して規定することができる最小特徴サイズは、0.1ミクロンもの小ささである。1つの好例は、微小電気機械的デバイス(MEMS)の設計及び製作であり、それは、今や種々の応用に広く使用されている。微小デバイスの材料については、それが接触することになる生体材料と適合する材料であることが一般的な原則である。
【0027】
次に、幾つかの例を使用して、本発明の実施形態を示すものとする。図5及び図6に示されているように、好ましい薬物送達プロセスでは、感知ユニット、所望の薬物(複数可)を有する微小容器、微小注入器、並びに随意にロジック処理ユニット、メモリユニット、信号送信器、及び受信機を備える微小デバイス23が使用される。そのような微小デバイスは、微小デバイスが、癌細胞「a」22のみに優先的に吸収(又は吸着)され、健康細胞「b」21には吸収(又は吸着)されないように設計される。微小デバイス23は、癌細胞「a」22に結合すると、癌を死滅させる作用剤(複数可)を癌細胞「a」22に注入することになる。結合における誤差により健康細胞「b」21が死滅されないことを確実にするために、ロジックユニットを使用して、結合した細胞に関する感知データに基づき正しい判断を下すことができる。この新規手法は、癌を死滅させる薬物が癌細胞に直接送達される標的手法であり、健康細胞に害を及ぼさずに、その効力を大きく向上させることができると予測される。
【0028】
この新規手法は、理想的には、健康細胞又は器官部分への損傷を最小限に抑えつつ、不健康細胞又は器官部分を破壊するための標的治療に好適である。既存の薬物送達手法とは対照的に、本発明のプロセスは、高度の選択性及び効率を有しており、微視的であり、非侵襲性であり、良好に制御される。
【0029】
標的薬物送達には、健康細胞と不健康細胞(癌細胞等)とを識別することが重要であるため、微小感知器を含む微小担体を使用して、生体器官の癌細胞を非侵襲的な様式で検出することができる。前記微小担体の、電圧比較器を備えた微小感知器は、まず既知の健康細胞の表面電荷(又は電圧)を測定することにより較正される。次に、図7に示されているように、細胞の領域24は、健康細胞「a」25及び不健康細胞「b」26を含有している。図8では、電圧比較器27は、同じ細胞の領域24、健康細胞「a」25、及び不健康細胞「b」26に、プローブ28を介して健康細胞及び不健康細胞の両方に結合し、この領域を走査する。細胞表面の電圧(又は電荷)を比較することにより、癌細胞等の不健康細胞を、健康細胞から容易に区別することができる。次に、微小担体は、識別された標的部位(例えば、癌細胞部位)にそれ自体を結合するように指示される。結合する際に、微小担体の微小注入器を使用して、薬物を標的部位に直接送達することができる。微小担体には、電圧比較器、ロジック回路ユニット、微小容器、及び微小注入器(又は微小針)を統合することができることに注目すべきである。
【0030】
本明細書と同時に出願され、本明細書と共に公的精査に利用できる全ての書類及び文書に関しては、これらの書類及び文書の内容は全て、参照により本明細書に組み込まれる。本明細書で開示された特徴は全て(添付の特許請求の範囲、要約、図面を全て含む)、明示的な別様の記述がない限り、同一であるか、等価であるか、又は類似した目的に役立つ代替的特徴と置き換えることができる。したがって、明示的な別様の記述がない限り、開示された各特徴は、一連の一般的な等価な又は類似の特徴の1つの例である。
【0031】
特定の機能を実施する「ための手段」又は特定の機能を実施する「ためのステップ」を明示的に記載していない特許請求の範囲にある任意の要素は、米国特許法第112条第6項で指定されている「手段」又は「ステップ」として解釈されるべきではない。特に、本明細書の特許請求の範囲における「〜するステップ」の使用は、米国特許法第112条第6項の規定に従うことを意図していない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのタイプの微小担体を生体生物系に導入するステップを含む、薬物送達法。
【請求項2】
前記微小担体が、前記微小担体内に封入されている幅広い薬物を輸送し、前記薬物が前記生体生物系内の送達部位に到着する前に、前記薬物が前記系の成分と相互作用するのを避けるための区画を有する、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項3】
前記微小担体が、少なくとも2つの区画を含み、各区画が異なる薬物実体を含有する、請求項2に記載の薬物送達法。
【請求項4】
前記微小担体が、薬物封入、薬物輸送、感知、分析、ロジック処理、表面処理、薬物放出、信号受信及び送信、微小担体位置検出、微小担体移動、切断、除去、及び生分解からなる群から選択される少なくとも2つの機能を実施することが可能である少なくとも1つのサブユニットを含む、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項5】
前記微小担体が、前記薬物が放出されることになる標的領域に対して高度な選択性を有する、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項6】
前記薬物が標的にする少なくとも1つのタイプの細胞及び器官が存在する前記生物系内の一般領域を、前記薬物放出の前に前処理することにより、前記高度な選択性が増強される、請求項5に記載の薬物送達法。
【請求項7】
前記前処理プロセスが、感知及び標的選択の選択性及び正確性を増加させるために、表面電荷、表面静止電位、導電率、表面電流、バルク電流、表面吸着特性、表面吸着特性、表面張力、光学的特性、化学的組成、生物学的特性、生物学的組成、密度、摩擦、局所的pH、局所的な化学的特性、局所的な化学的排出及び存在、局所的な生物学的種及び存在、並びに音響特性を含む群から選択される特性のうち少なくとも1つを用いて、標的部位と非標的部位との差異を増強する、請求項6に記載の薬物送達法。
【請求項8】
前記特性の差異の増強が、癌性細胞と非癌性細胞との間で行われる、請求項7に記載の薬物送達法。
【請求項9】
前記前処理プロセスが、前記標的部位に対する前記微小担体の結合の選択性及び正確性を増加させるために、表面電荷、表面静止電位、導電率、表面電流、バルク電流、表面吸着特性、表面吸着特性、表面張力、光学的特性、化学的組成、生物学的特性、生物学的組成、密度、摩擦、局所的pH、局所的な化学的特性、局所的な化学的排出及び存在、局所的な生物学的種及び存在、並びに音響特性を含む群から選択される特性のうち少なくとも1つを用いて、前記標的部位と前記非標的部位との差異を増強する、請求項6に記載の薬物送達法。
【請求項10】
前記特性の差異の増強が、癌性細胞と非癌性細胞との間で行われる、請求項9に記載の薬物送達法。
【請求項11】
前記微小担体が、およそ2オングストローム〜約5ミリメートルの範囲のサイズを有する、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項12】
前記微小担体が、100オングストローム〜500ミクロンの好ましいサイズを有する、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項13】
(a)所望の薬物を含有する微小担体を、前記治療しようとする生物系内の一般領域に適用するステップと、(b)前記微小担体から、前記治療しようとする生物系内の前記一般領域に前記薬物を放出するステップとを含む、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項14】
(a)前記所望の薬物を含有する微小担体を、治療しようとする一般領域に適用するステップと、(b)前記治療しようとする一般領域を走査するステップと、(c)前記治療しようとする標的部位を識別するステップと、(d)前記標的治療部位に前記微小担体を選択的に結合させるステップと、(e)前記治療しようとする部位に前記薬物を放出するステップとを含む、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項15】
(a)前記治療しようとする一般領域に微小担体を適用するステップと、(b)前記微小担体が前記一般領域を処理して、前記健康部位と不健康部位との特性の区別を増強するステップと、(c)前記治療しようとする一般領域を走査するステップと、(d)治療しようとする標的部位を識別するステップと、(e)治療しようとする部位に前記微小担体を選択的に結合させるステップと、(f)微小担体から、治療しようとする部位に薬物を放出するステップとを含む、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項16】
(a)前記治療しようとする一般領域に微小担体を適用するステップと、(b)前記微小担体が前記一般領域を処理して、前記健康部位と不健康部位との特性の区別を増強するステップと、(c)少なくとも1つの所望の薬物を含有する微小担体を、前記治療しようとする一般領域に適用するステップと、(d)前記治療しようとする一般領域を走査するステップと、(e)治療しようとする標的部位を識別するステップと、(f)治療しようとする部位に前記微小担体を選択的に結合させるステップと、(g)微小担体から、治療しようとする部位に薬物を放出するステップとを含む、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項17】
(a)微小担体が、前記微小担体に統合されている微小モーター、位置検出ユニット、及びロジックユニットの支援により、前記治療しようとする一般領域へと移動するステップと、(b)前記微小担体の感知器を使用して、前記治療しようとする一般領域を走査し、前記領域の物理的、化学的、生物学的、機械的、光学的、及び音響的パラメータのうち少なくとも1つに関する一組のデータを収集するステップと、(c)前記収集した一組のデータを分析するステップと、(d)治療しようとする標的部位を識別するステップと、(e)治療しようとする部位に前記微小担体を選択的に結合させるステップと、(f)前記微小担体から、前記治療しようとする部位に薬物を放出するステップと、(d)随意に、個々のサイズが1ミクロンよりも小さな小片へと分解するステップとを含む、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項18】
前記標的部位が、細胞部位、DNA構造、細菌、及び器官を含む群から選択される、請求項14、請求項15、請求項16、又は請求項17に記載の薬物送達法。
【請求項19】
前記標的部位の識別が、種々のタイプの部位間の測定された特性を比較することにより実施される、請求項14、請求項15、請求項16、又は請求項17に記載の薬物送達法。
【請求項20】
癌治療用である、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項21】
糖尿病治療用である、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項22】
血液関連疾患の治療用である、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項23】
前記微小担体に含まれている微小針を使用する、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項24】
表面電荷、表面静止電位、導電率、表面電流、バルク電流、表面吸着特性、表面吸収特性、表面張力、音響特性、電圧、局所的圧力、密度、硬さ、摩擦、光学的特性、局所的pH、局所的な化学的種排出、局所的な生物学的種排出、化学的組成、及び生物学的組成を含む群から選択される、前記治療しようとする一般領域の少なくとも1つの特性を、前記微小担体により測定するステップを含む、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項25】
抗癌薬物が、細胞膜受容体タンパク質、上皮成長因子受容体、インスリン様増殖因子タイプ1受容体、及び血管内皮増殖因子受容体を標的とするために送達される、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項26】
複数の薬物区画を有する前記微小担体が、異なるタイプの薬物を含有しており、制御された速度で及び異なる薬物間の所望の時間間隔で薬物を順次放出し、前記放出された薬物の効果を最大限にする、請求項3に記載の薬物送達法。
【請求項27】
前記微小担体が、薬物保持区画、感知器、ロジック処理ユニット、メモリユニット、注入器、針、信号送信器、信号受信器、位置検出ユニット、微小モーター、ナイフ、及びピンセットを含む群から選択される組合せを含む一組の統合されたサブユニットを用いて、複数の機能を実施することができる、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項28】
前記微小担体が、生体適合性無機材料、生体適合性半導体材料、並びに天然生物材料、合成生物材料、合成高分子材料、及び有機材料を含む群から選択される生分解性材料を含む群から選択される材料で製作されることを特徴とする、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項29】
生分解性合成高分子材料が、加水分解的に不安定な結合を骨格に有するように製作され、前記製作が、アミド、無水物、及びエステルの化学的官能基を使用して達成される、請求項28に記載の薬物送達法。
【請求項30】
前記微小担体が、その使用後に1ミクロン未満の小片に分解される分解機能を実施することができる、請求項1、請求項14、請求項15、請求項16、又は請求項17に記載の薬物送達法。
【請求項31】
前記微小担体が、前記微小担体に統合されている微小モーターを使用して、標的部位に到達することができる、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項32】
前記微小担体が、前記微小担体に統合されている微小モーター、位置検出デバイス、及びロジック処理ユニットを使用して、標的部位に到達することができ、前記位置検出デバイス及びロジック処理ユニットが、微小モーターにその次の動きに関する指示を提供するために使用される、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項33】
前記微小担体が、前記微小担体に統合されている微小モーター、位置検出デバイス、感知器、及びロジック処理ユニットを使用して、標的部位に到達することができ、前記位置検出デバイス、感知器、及びロジック処理ユニットが、(a)前記位置検出デバイスによる担体位置、及び(b)前記感知器により感知された局所環境信号の両方に関する情報に基づき、前記微小モーターにその次の動きに関する指示を提供するために使用される、請求項1に記載の薬物送達法。
【請求項34】
前記微小担体が、集積回路生産プロセスで使用されるマイクロエレクトロニクス製造技術を使用して製作される、請求項1に記載の薬物送達法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公表番号】特表2012−532675(P2012−532675A)
【公表日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−519653(P2012−519653)
【出願日】平成22年7月3日(2010.7.3)
【国際出願番号】PCT/US2010/041001
【国際公開番号】WO2011/005720
【国際公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【出願人】(511308646)アンパック バイオ−メディカル サイエンス カンパニー リミテッド (2)
【氏名又は名称原語表記】ANPAC BIO−MEDICAL SCIENCE CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】SHRM Trustees(BVI)Limited of Trinity Chambers,P.O.Box 4301,Road Town,Tortola,Virgin lslands,British
【Fターム(参考)】