説明

薬物送達用の膨潤性粒子

肺系に薬物又は他の作用物質を送達するための膨潤性粒子が提供される。本膨潤性粒子は、例えば、上側呼吸器の気管支気道及び/又は深肺の肺胞領域のような呼吸器への送達を可能にする5μm以下の脱水(ドライ)空気力学的中央粒子直径を有し、かつ呼吸器の気道に存在するマクロファージによる食作用を遅らせる又は妨げる6μmを超える体積平均直径の水和粒子直径を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
−関連出願−
本出願は、2006年4月4日出願の米国仮特許出願No.60/788942の優先権と利益を主張し、その開示事項は、本明細書に参照として組み込まれる。
【0002】
本発明は、広くは、肺系に治療薬又は他の薬剤を送達するために使用する膨潤性生分解性粒子に関し、より詳しくは、肺系に送達するための脱水サイズを有し、肺気道内で水和すると、膨潤してサイズが拡大し、粒子構造から薬物又は他の薬剤の制御された放出を達成する膨潤性生分解性粒子に関する。
【背景技術】
【0003】
肺系への治療薬の送達は、喘息、嚢胞性線維症、及び慢性閉塞性肺疾患のような局部的肺疾患の治療のために使用されている(非特許文献1)。全身的な経口又は注射による薬物送達に比較し、肺に対する呼吸器系薬物の局所的送達は、(1)薬物の必要な用量が少ない、(2)疾病箇所に直接送達すことを可能にするために全身的毒性が押えられる、といった利点を提供する。また、全身的に作用する薬剤の送達が、タンパク質とポリペプチド(例えば、インスリン)の投与のためなどに検討されている(非特許文献2)。
【0004】
しかしながら、薬物の肺系送達は、呼吸器内の低い堆積効率と口咽頭空間による薬物の過度の除去、呼吸器内の薬物の堆積箇所に対する低い制御、患者の呼吸パターンへの依存によるための投与量の低い再現性、及び肺系からの薬物の過度に迅速な排除及び/又は吸収であって標的箇所における不適切な薬物濃縮やさらには毒性効果をもたらす可能性、などのいくつかの大きな問題によって制限される。
【0005】
肺に局所的に送達された薬物に対する制御された放出送達システムは、呼吸器疾患や全身性疾患を効果的に治療するための非常に望ましい方法を提供すると考えられる。さらに、呼吸器系薬物の制御された放出は、喘息のような疾患の治療を受ける頻度を減らし、より長期間の制御された救済を受けることを可能にするため、呼吸器疾患のある数百万人の患者に、大きな臨床的有用性を与えることができる。また、肺への制御された薬物送達は、付加的な毒性と低下した効率を生じ得る速効性薬物のピーク値とトラフ値を緩和することによって、改良された安全性の可能性を提供する。また、肺系に送達された単一の粒子系からの2つ又はそれ以上の治療薬の放出を制御することは、呼吸器内の薬剤の共局在化に対する大きな長所を有するものと考えられる。薬剤間の相乗作用又は相加効果の可能性が大きく高まるものと考えられる。
【0006】
現状で利用可能な肺送達システムは理想的ではなく、不正確な用量を送達し、頻繁な投与を必要とし、送達プロセスにおいてかなりの量の薬物を損失する。吸入によって送達される殆どの薬物は、1日あたり複数回にわたって吸入しなければならない即効性の製剤である(非特許文献3)。この頻繁な吸入は、患者の薬剤服用順守の気持ちを低下しがちである。患者が薬剤の摂取を忘れると、合併症を起すことがあり、緊急治療室入室や入院の増加をもたらすことがある。喘息医薬に対する患者の薬剤服用順守について公表された研究の最近の分析において、患者は、20〜73%の日数で推奨用量の医薬を摂取したに過ぎない(非特許文献3)。使用下の日数の割合は24〜69%の範囲であった。さらに、即効性の製剤は、不都合な毒性と不十分な効率を生じさせる高低のある薬物送達が多い。
【0007】
将来は有望であるものの、吸入製剤は、長時間にわたって肺の中で有効な薬物濃度を維持する上で、困難な問題に直面している。肺送達に続く短時間の薬物作用に寄与する要因には、(1)吸入粒子の非常に短い半減期(約0.5〜2時間)をもたらす迅速な粘液線毛クリアランス速度(約1.7〜4.9mm/分)(非特許文献4)、(2)肺胞マクロファージによる粒子の食作用、及び(3)2時間未満の吸収についての平均半減時間を持つ体循環に対する薬物分子(Mw<1000Da)の迅速な吸収、が挙げられる。
【0008】
肺領域は、いくつかの粒子排除機構を有する。各々の排除機構の相対的重要性は、粒子の物理化学的特性によって異なる。肺領域における粒子保持は、繊毛のある気道のそれよりも長い。堆積の後、肺胞マクロファージによる粒子の貪食は非常に迅速である。排除の初期の急速相は、肺胞マクロファージによる食作用に関係する。
【0009】
徐放粒子が有効であることを大きく妨げる気道の自然排除機構を回避するのに有用な技術は限られている。限定されるものではないが、多くの先行技術文献(特許文献1〜2)は、低密度を有するように設計された粒子を記載している(大気孔の粒子)。幾何学的には大きいが、これらの粒子は、空気力学的にはかなり小さい。
【0010】
一般に、徐放を達成するためには、粒子は、気道に送達され、粘液線毛クリアランス、肺胞マクロファージによる貪食、及び肺からの迅速吸収の防止、を回避しなければならない。粘液線毛クリアランスを避けることは、繊毛がある上皮が存在する気管支領域内の粒子の堆積を避けることによって達成することができる。このことを成就するには、一般に、空気力学的粒子サイズが約5μmより小さくなければならない。粘液線毛クリアランス機構が存在しない抹消気道に粒子がいったん堆積すると、粒子は、治療化合物を迅速に排除することができる肺胞マクロファージの貪食を避けなければならない。マクロファージの回避は、(1)異物粒子と認識できない粒子を形成する(ステルス粒子)、(2)マクロファージにより貪食されるには物理的に大き過ぎる又は貪食を遅らせる粒子を提供する、又は(3)マクロファージによって認識されるには小さ過ぎる粒子(ナノ粒子)を提供する、ことによって達成することができる。
【0011】
先行技術文献に記載のような現状の徐放肺系は、一般に、大きい多孔質粒子の技術を含む。これらの系に伴なう主な問題は、粒子マトリックス中に可能な低い薬物負荷、これらの粒子系に含めるのに必要な薬物の特殊な物理化学的特性、及びどれだけ長く薬物が持続し得るかの限界である。
【非特許文献1】A.J. Hickey, editor, Inhalation Aerosols: Physical and Biological Basis for Therapy, New York: Marcel Dekker, Inc. 1996
【非特許文献2】Patton et al., in “Inhaled insulin”, Adv. Drug. Deliv. Rev. 35, pp.235-247 (1999)
【非特許文献3】Cochrane et al. Inhaled Corticosteroids for Asthma Therapy: Patient Compliance, Devices, and Inhalation Technique Chest. 117, pp. 542-550, 2000
【非特許文献4】Lansley, A.B., 1993. Mucociliary clearance and drug delivery via the respiratory tract. Adv Drug Del Rev. 11, 299-327
【特許文献1】U.S. Patent No. 6,136,295 to Edward, et al.
【特許文献2】U.S. Patent No. 6,730,322 to Bernstein, et al.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、膨潤性粒子を使用することによりこれらの問題を克服し、徐放を改良する。本発明の膨潤性粒子は、好ましくは、深い肺送達を可能にして肺胞マクロファージによる排除を回避する生体適合性で生分解性の膨潤性マトリックスの上及び/又は中に送達される薬物又は他の作用物質を含む。さらに、マトリックス物質を改良し、薬物の放出特性を調節する又は薬物のマトリックス系との適合性を改良することができる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、肺系に送達するための改良された膨潤性粒子、及び、限定されるものではないが、治療薬、診断薬、予防薬、又は造影剤などのような作用物質の取り込みと投与の方法を提供する。膨潤性粒子は、上側呼吸器の気管支気道及び/又は深肺の肺胞領域のような呼吸器への送達を可能にする、例えば、脱水(ドライ)空気力学的粒子直径、及び呼吸器の気道に存在するマクロファージによる食作用を遅らせる又は妨げる6μmを超える体積平均直径の水和粒子直径を含む。
【0014】
本発明の例示の態様において、脱水(ドライ)粒子は、生分解性物質からなり、0.5μm〜5μmの空気力学的中央粒子直径を有し、6μmを超える体積平均直径の水和した幾何粒子直径まで膨潤することができる。本発明の好ましい態様において、少なくとも90%、より好ましくは、95%〜99%の粒子が、5μm以下の空気力学的粒子直径を有し、6μmを上回るサイズの体積平均直径まで膨潤する。粒子は、限定されるものではないが、生分解性の天然もしくは又は合成ポリマー、タンパク質、炭水化物、又はこれらの組み合わせなどの生分解性物質からなることができる。例えば、粒子は、多分岐ポリエチレングリコール(PEG)ヒドロゲルポリマーからなることができる。この他の例には、デキストラン、ヒドロキシエチルメタクリレートのような生分解性ポリマー、又は他の生体適合性で生分解性の膨潤性ポリマー系が挙げられる。膨潤性粒子は、肺の肺胞領域などの呼吸器の気道に1又は複数の作用物質の送達を促進するために使用することができる。1又は複数の作用物質を含む粒子は、様々な治療薬及び他の薬剤の全身又は局所送達を可能にするため、呼吸器への投与のために効果的にエアロゾル化することはできる。それらは、場合により、例えば、約50μm〜150μmの範囲の平均直径の、より大きい担体粒子(治療薬又は他の薬剤を担持するのではない)とともに搬送してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、脱水(ドライ)粒子が、(a)上側呼吸器の気管支気道及び/又は深肺の肺胞領域などの呼吸器の1又は複数の標的領域に到達することを可能にする、(b)過度に早期の放出なしに1又は複数の作用物質のペイロードを送達することができる、(c)マクロファージによる貪食又は除去を遅延又は防止するサイズまで、気道中で水和によって膨潤することができる、及び(d)水和後に予測可能な速度での作用物質の制御された放出を提供することができる、といった空気力学的直径を有するといった点で有益である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のこれらの他の特徴と長所は、以下の詳細な説明から明らかになるであろう。
【0017】
本発明は、呼吸器に対する治療薬及び他の作用物質の改良された送達のための、膨潤性で生分解性の粒子を提供する。この粒子によって送達可能な作用物質には、限定されるものではないが、治療薬、診断用薬、予防薬、造影剤、又はこれらの組み合わせが挙げられる。
【0018】
本発明の例示の態様において、膨潤性粒子は、初期において、例えば、上側呼吸器の気管支気道及び/又は深肺の肺胞領域のような呼吸器への送達を可能にする5μm以下の空気力学的中央粒子直径を有し、かつ呼吸器の気道に存在するマクロファージによる食作用を遅らせる又は妨げる6μmを超える体積平均直径の水和粒子直径を有する、脱水(ドライ)粉末粒子を含む。脱水(ドライ)粒子は、典型的に、0.5μm〜5μmの空気力学的中央粒子直径を有し、典型的に、体積平均直径で6μmを超えて50μmまでの水和した幾何学的直径に膨潤することができる。少なくとも90%、より好ましくは、90%〜95%の粒子が、5μm以下の空気力学的直径を有し、6μmを超えるサイズの体積平均直径まで膨潤することができる。
【0019】
空気力学的中央直径(MMAD)は、典型的に、TSI空気力学的粒子測定器(TSI Incorporated, Shoreview, MN)などのカスケードインパクター及び/又は飛翔時間測定装置のような通常のエアロゾル粒子径測定器から求めることができる。この粒子径の測定は、空気力学的サイズで分級したとき、50質量%の粒子がこの直径を下回るものとして求める(即ち、MMAD)。つまり、50質量%の粒子がMMADを下回る直径を有し、50質量%の粒子がMMADを上回る直径を有する。この粒子サイズの測定は、対象とする粒子(いろいろな密度、形状、表面、及び空力抵抗を有してよい)を1に等しい密度を有する形状に変換し、その粒子が、フレーク、先鋭形状、又は他の非球形であったとしても、等価な球の直径を提示する。例えば、空気力学的直径は、その粒子と同じ沈降速度を有する密度1g/cm(水滴の密度)の球形粒子の直径として定義され、式:d=d(ρ1/2で与えられ、ここで、dは粒子の直径であり、ρはそのg/cmにおける密度である(Hinds, W.I., “Uniform Particle Motion,” in Aerosol Technology 1999, pp.42−74, John Wiley and Sons Inc.、参照)。空気力学的直径は、その粒子と同じ空気力学的特性を有する球形の液滴の直径と考えてもよい。例えば、ある粒子が1μmの空気力学的直径を有するとしたら、その粒子の実際のサイズ、形状、又は密度によらず、1μmの水滴と空気力学的に同一に動作する。エアロゾル集団の平均の直径と密度を調節することにより、粒子は、特定の肺領域に送達するのに必要な正確な空気力学的直径を有するように調整することができる。サンプル中の膨潤性粒子の直径は、粒子の組成や合成方法のような因子によって変動してもよい。サンプル中の粒子サイズの分布は、呼吸器内の標的箇所の中の最適な堆積を可能にするように選択することができる。
【0020】
等価な球直径は、いろいろな粒子幾何形状を持つ粒子を直接比較することを可能にし、呼吸器に対する粒子の搬送のための重要な機能的サイズ特性である空気動力学のみを基準に比較することを可能にする。空気力学的中央直径は、気道内のドライ粉末粒子の堆積を予測するのに有用であることから、脱水(ドライ)粒子を記載するために選択される。
【0021】
体積平均直径は、粒子が気道中で水和後にサイズを膨らませることから、水和粒子を記載するために使用される。体積平均直径は、粒子形状にかかわらず、ドライ状態から水和状態で増加する。また、体積平均直径は等価球直径であり、それによって、粒子が、フレーク、先鋭形状、又は他の非球形の形状を有したとしても、等価な体積の球に変換される。機能性に関し、粒子の体積は、気道中のマクロファージ細胞がどのように上手く粒子を浄化するかに関係することから重要であり、即ち、それらの体積は、呼吸器の浄化機構を遅延又は回避するために重要である。体積平均直径は、次のような試験によって測定することができ、即ち、緩衝溶液中に分散したヒドロゲル粒子を使用し、レーザー光散乱装置を使用し、水和後の粒子幾何形状における体積直径の変化を測定することができる。粒子の凝集を最小限にするために、低エネルギーの液体分散用付属装置を使用することもできる。あるいは、共焦点顕微鏡を用いて粒子の膨潤を定量化することもできる。
【0022】
膨潤性粒子は、任意の生分解性で、かつ好ましくは、生体適合性であるポリマー、コポリマー、又は配合物であって、0.5〜5μmの空気力学的中央直径を有するが、6μmを上回る幾何学直径の体積平均直径まで膨潤することができるものから形成することができる。例示のためであって限定されるものではないが、粒子は、膨潤性で生分解性の天然ポリマー、合成ポリマー、タンパク質、炭水化物、又はこれらの組み合わせからなることができる。例えば、粒子は、多分岐ポリエチレングリコール(PEG)ヒドロゲルポリマーからなることができる。この他の例には、デキストラン、ヒドロキシエチルメタクリレートのような生分解性ポリマー、又は他の生体適合性で生分解性の膨潤性ポリマー系からなる粒子が挙げられる。
【0023】
さらなる例示のためであって限定されるものではないが、膨潤性粒子は、バルクの腐食性ヒドロゲルポリマーから形成することもでき、ポリ(ヒドロキシ酸)などのポリエステルを主成分にするものなどを本発明の実施に使用することもできる。さらに、ポリ無水物のような表面腐食性ポリマーを、膨潤性粒子を形成するために使用することもできる。例えば、ポリ[(p−カルボキシフェノキシ)ヘキサン無水物](PCPH)のようなポリ無水物を使用することもできる。例えば、ポリグリコール酸(PGA)もしくはポリ乳酸(PLA)又はこれらのコポリマーを、膨潤性粒子を形成するために使用することもでき、ここで、ポリエステルは、下記のアミノ酸などの荷電基又は官能化性基をその中に組み込んでいる。その他のポリマーには、上述の膨潤性粒子を形成することができるポリアミド、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレンのようなポリアルキレン、ポリ(エチレンオキシド)、ポリ(エチレンテレフタレート)、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、及びポリビニルエステルのようなポリビニル化合物、アクリル酸、メタクリル酸、セルロース、及び他の多糖類、並びにペプチド又はタンパク質のポリマー、又はこれらのコポリマーもしくは配合物が挙げられる。いろいろな制御された薬物搬送用途について、インビボの適切な安定性と分解速度を有するように、ポリマーを選択し、変性することができる。
【0024】
膨潤に寄与することができる膨潤性粒子の特徴には、ポリマーの架橋度、モノマーのサイズ、及び気孔率が挙げられる。荒い粒子表面組織は、粒子の凝集を低下させ、ドライパウダー吸入器を経由してエアロゾル化するために適する高い流動性の粉末を提供することができ、口、喉、及び吸入器における堆積を低下させる。さらに、エアロゾル化による肺への膨潤性粒子の投与は、気道表面上での水和後に粒子が膨潤することができる、治療用エーロゾルの深い肺送達を可能にする。薬物搬送システムにおいて有効な薬物担体として役立つためには、膨潤性粒子は、好ましくは、生分解性で生体適合性であり、所望により、薬物の送達について制御された速度で生分解することができる。
【0025】
本発明の例示の態様において、生分解性及び/又は生体適合性ヒドロゲル粒子は、ジチオスレイトールで架橋したアクリル化8アームPEG(20kDa)から形成され、これは、Hubbel et al. Journal of Controlled Release 76:11−25 (2001)に記載されており、その教示は、本明細書においても参照として組み込まれる。アクリル化ポリマーを架橋する別な方法には、光重合、他の共有架橋法(ポリシステイン)、イオン架橋、及び物理的架橋(高度に分岐した高分子量のポリマー間の絡み合い)が挙げられる。
【0026】
合成において、分子量又は分岐度(例えば、8アーム〜4アーム)及び反応物質濃度の双方を、ヒドロゲルの気孔サイズを変えるために変更し、それによって、ポリマーマトリックス内の治療薬の放出速度を調節することができる。
【0027】
あるいは、生体適合性ヒドロゲル粒子は、系に対する特定の有益な特性を付与するために選択された複数のポリマー分子、共重合体ヒドロゲルからなることもできる。1つの好ましい態様において、ヒドロゲルは、ポリ乳酸(PLA)とポリエチレングリコールの繰り返し単位のブロックコポリマー構造から構成される。ポリ乳酸は、迅速に加水分解できるエステル結合を与え、一方で、PEGバックボーンは、ポリマーの迅速な分解と、免疫システムによってその後に除去されるヒドロゲル表面へのタンパク質の吸収の双方を防止する。
【0028】
膨潤性粒子は、種々の粒子形成プロセスを用い、種々の粒子形状で製造することができる。例えば、噴霧乾燥、溶媒蒸発、ポリマー微粉化、その他の当業者に周知の方法を用い、膨潤性ポリマー粒子を調製することができる。ヒドロゲルを含む膨潤性粒子は、水相を用いた乳化の際に、非水相を用いて合成し、エマルジョンのパラメーターを変化させることによって、サイズを調整することができるヒドロゲルのマイクロスフェアを合成することができる(例えば、非水相の組成物、反応物質の濃度、エマルジョンに導入される混合速度と剪断、界面活性剤の存在、及び界面活性剤の種類等)。また、ヒドロゲルを含む膨潤性粒子は、ヒドロゲル粒子が生成して液滴として分散される際に架橋するように、噴霧の際に合成することもできる。あるいは、ヒドロゲルの円盤、球、立方体、不定形、薄膜を合成し、粉砕・微細化の方法を用い、(細かく砕いた)小さな呼吸用膨潤性粒子に破壊することができる。
【0029】
例えば、回転ブレードミル(M20ユニバーサルミル、IKA(登録商標)、Werke GmbH、ドイツ)を用い、得られた乾燥ヒドロゲルを、マクロ粒子にまで破壊することができる。次いで、材料を微細化するために衝突空気ジェットを使用する流体エネルギーミルを用い、吸入に適する狭い分布のミクロンサイズの粒子までのサイズ低下を行うことができる。得られた材料の粒子サイズは、流体エネルギーの粉砕パラメータ(空気圧力)によって制御することができ、空気分級機を用いて分離することもできる。粒子サイズは、Sympatec Helosレーザー回折装置とさらに通常のカスケード衝突技術を用いて測定することができる。粉砕された粒子は、水摂取に有用な増加した表面積の結果、未粉砕粒子よりもはるかに高い膨潤速度を示す。
【0030】
膨潤性粒子は、例えば、篩い分け又は空気分離法によって製造することもでき、所定のサイズ分布を持つ粒子サンプルを提供し、ドライ粉末状態の所望のMMADを提供することもできる。上述のように、ある割合の粒子が収まらなければならない選択範囲は、好ましくは、少なくとも90%、さらに好ましくは、95%又は99%が、0.5μm〜5μmの空気力学的粒子直径を有するように調節される。
【0031】
膨潤性粒子を製造するための特定のプロセスは、水和フィルム又はヒドロゲル塊から出発した後、これに粒子径低下と微細化の処理をすることができる。例えば、水和フィルム又はヒドロゲル塊を、微細オリフィス又は網を通して押出し、粒子径を低下させることができる。次いで、その粒子を脱水させることができる。あるいは、ヒドロゲルフィルムの脱水後に、粒子を製造することもできる。脱水は、とりわけ、真空オーブン乾燥、凍結乾燥、蒸発による溶媒置換のような方法を用いて実現される。乾燥したヒドロゲルは、回転ブレードミル(M20ユニバーサルミル、IKA(登録商標)、Werke GmbH、ドイツ)を用い、粒子にまで破壊することができる。次いで、材料を微細化するために衝突空気ジェットを使用する流体エネルギーミルを用い、吸入に適する狭い分布のミクロンサイズの粒子までのサイズ低下を行うことができる。
【0032】
膨潤性粒子は、肺の肺胞領域などの呼吸器の気道に1又は複数の作用物質の送達を促進するために使用することができる。1又は多数の作用物質を含む粒子は、様々な治療薬の全身又は局所送達を可能にするため、呼吸器への投与のために効果的にエアロゾル化することができる。例えば、吸入されたエアロゾルの粒子サイズは、気道内の堆積パターンの主な決定要因である。それらは、場合により、例えば、約50μm〜150μmの範囲の平均直径を有するより大きい担体粒子(即ち、治療薬又は他の薬剤を担持するのではない)とともに搬送してもよい。
【0033】
粒子内に治療薬又は他の作用物質を取り入れることは、種々の方法を用いて達成することができる。例えば、本明細書に記載のヒドロゲルを含む粒子内に作用物質を含有/混和させることは、特に望ましい速度で粒子から薬物(又は他の作用物質)が放出することを調節するように、ヒドロゲルポリマー網状組織の中に作用物質を取り込むことによって達成することができる。取り込みは、ヒドロゲル網状組織を形成するポリマー網状組織内に作用物質(例えば、薬物)が取り込まれるように、作用物質(例えば、薬物)の存在中でポリマーの架橋を行うことによって達成することができる。また、取り込みは、ヒドロゲル中に拡散によって作用物質がポリマー網状組織に取り込まれるように、作用物質(例えば、薬物)の存在する中にヒドロゲルを置く前にポリマーの架橋を行うことによって達成することもできる。さらに、異なって装填することにより又は同じ方法を用いることにより、有益な放出速度が達成され得ることから、同じ又は異なる方法を用いて、同じ膨潤性粒子の中に多数の作用物質(例えば、薬物)を装填することもできる。
【0034】
膨潤性ヒドロゲル粒子の中に装填される治療薬(又は他の作用物質)は、溶液中の薬物などの種々の形態を取ることができ、例えば、その薬物は、ヒドロゲル粒子の全体にわたる分子分散系、サスペンジョン中の薬物、コロイド状分散系、ヒドロゲル粒子の全体にわたって分散したナノ粒子系、又はリポソーム中の薬物、ヒドロゲル粒子の全体にわたって分散した液体ディスパージョン、ナノカプセル、ポリマーナノ粒子等などである。
【0035】
限定されるものではないが、さらに説明をするならば、粒子の中に治療薬(又は他の作用物質)を導入することは、以下の方法によって達成することができる。
【0036】
(a)ナノ粒子内の治療薬のカプセル封入と粒子内のナノ粒子の配置
【0037】
例えば、イブプロフェンは、直径200〜400nmのナノ粒子のレシチン(フォフォチジルコリン)の中にカプセル封入することができる。これらのナノ粒子は、Chen et al, 2002 (Chen, X., Young, T.J., Sarkari, M., Williams, R.O., Johnston, K.P., Preparation of cyclosporine A nanoparticles by evaporative precipitation into aqueous solution, International Journal of Pharmaceutics 242, (2002) 3−14)の方法を用いて調製された。ナノ粒子は、例示の態様のために下記に示すような、ジチオスレイトールを含む20kDaの8アームのアクリル化PEGの反応体溶液中のナノ粒子の存在下で架橋反応を行うことによるヒドロゲル網状組織中の物理的組み込みによって、膨潤性粒子の中に混和する。ナノ粒子は、相対的サイズ、親水性、イオン特性、及び拡散計数に基づき、膨潤性粒子からのいろいろな放出速度を有するように設計することができる。
【0038】
(b)膨潤性粒子のポリマー網状組織(例えば、PEGヒドロゲルの網状組織)のマトリックス内の分子の直接カプセル化
【0039】
例えば、ローダミン治療薬は、例示の態様について下記に示すように、20kDaの8アームのアクリル化PEGとジチオスレイトールとの架橋の間に、ポリマー網状組織(PEGヒドロゲルの網状組織)内に捕獲することができる。
【0040】
(c)化学的相互作用(共有、イオン、及び水素結合)によってポリマー網状組織そのものに対して治療薬を結合
【0041】
例えば、N−アセチルシステイン粘液溶解薬剤を、N−アセチルシステインのチオール基、ジチオスレイトールの1つのチオール基、及びポリマー網状組織のアクリレート基に結合したジチオスレイトールの他のチオール基の間の共有結合によって、ジチオスレイトールと架橋した8アームのアクリル化PEGのポリマー網状組織に結合させることができる。N−アセチルシステイン粘液溶解薬は、隣接システイン残基の間に生成したジスルフィド結合を分裂させることによって粘液の粘度を下げるようにN−アセチルシステインが機能して、粒子のヒドロゲル網状組織に可逆的に共有結合することができる。この粘液のジスルフィド結合の分裂は、ジスルフィド結合がシステイン残基の間に移動するため、容易に達成される。このことは、ヒドロゲル粒子の周りの緩慢で局所的な粘液溶解薬の放出を促進し、CF粘液環境を通した移動速度を高める。
【0042】
これらのカプセル化法を用い、小さくて親水性から大きくて疎水性までの多くの治療薬と作用物質は、嚢胞性線維症、肺癌、喘息、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、急性気管支炎、気腫、結核、又は全身性疾患のエアロゾル化治療のための膨潤性粒子の中に組み込むことができる。例えば、本明細書に記載のPEGヒドロゲル粒子中のローダミン治療薬の担持は、重合の途中で、又は粒子を製造した後に行うことができる。双方の方法を用いてこの薬物の高い担持が得られた。例えば、約35重量%のローダミン治療薬が、ヒドロゲル粒子から表面薬物を洗浄した後に存在した。
【0043】
任意の様々な治療・処置薬、予防薬、診断用薬、放射性同位体のような造影剤、又は他の活性作用物質を膨潤性粒子の中に組み込むことができる。膨潤性粒子は、種々の治療薬を呼吸器に局所的に又は全身的に送達するために使用することができる。作用物質の例には、合成無機・有機化合物、タンパク質とペプチド、多糖類その他の糖、及び脂質、並びに、治療、予防、診断、又は造影活性を有する核酸配列が挙げられる。核酸配列は、遺伝子、転写を阻害する相補DNAに結合したアンチセンス分子、及びリボザイムを含む。組み込まれるべき作用物質は、血管作用薬、神経刺激薬、ホルモン、抗凝固剤、免疫賦活剤、細胞障害性薬物、予防薬、抗生物質、抗ウィルス薬、抗原、及び抗体のような種々の生物活性を有することができる。いくつかの場合、タンパク質は、さもなければ適切な応答を引き出すために注射によって投与されるべきと考えられる抗体又は抗原であってもよい。広範囲の分子量の化合物が、カプセル化されることができ、例えば、100〜500000グラム/モルである。
【0044】
タンパク質は100以上のアミノ酸残基を含み、ペプチドは100以上のアミノ酸残基を含む、として規定される。特段の記載がなければ、タンパク質という用語は、タンパク質とペプチドの双方を指称する。例えば、インスリンその他のホルモンが挙げられる。ヘパリンのような多糖類もまた投与することができる。
【0045】
膨潤性ポリマーのエアロゾルは、種々の吸入療法の担体として有用である。それらは、小さな薬物や大きな薬物をカプセル化し、数時間から数箇月からの範囲で経時的にカプセル化薬物を放出し、さもなければカプセル化治療薬に悪影響を与えるエアロゾル化中の又は以降の肺の中の堆積における過激な条件に耐えるために使用される。
【0046】
例えば、膨潤性粒子は、肺内の局所送達のための治療薬、例えば、喘息、気腫、もしくは嚢胞性線維症の治療のため、又は全身的治療のための治療薬を含んでもよい。例えば、喘息用のベータ作用薬であることができる、嚢胞性線維症のような疾病の治療のための遺伝子が投与されることができる。その他の特定の治療薬には、限定されるものではないが、インスリン、カルシトニン、ロイプロリド(又はLHRH)、G−CSF、副甲状腺ホルモン関連ペプチド、ソマトスタチン、テストステロン、プロゲステロン、エステラジオール、ニコチン、フェンタニール、ノルエチステロン、クロニジン、スコポロミン、サリチル酸塩、クロモリンナトリウム、サルメテロール、フォルメテロール、アルブテロール、及びバリウムが挙げられる。
【0047】
治療薬を含む粒子は、単独で投与してもよく、又は呼吸器系への投与のために粉末吸入器において典型的に使用される不活性糖粒子系のような任意の適切な薬剤担体とともに投与してもよい。それらは、例えば、50μm〜150μmの範囲の質量平均直径を有する大きめの担体粒子(治療薬を含まない)とともに送達することができる。
【0048】
エアロゾルの用量、処方、及び送達システムは、例えば、「Gonda, I. “Aerosols for delivery of therapeutic and diagnostic agents to the respiratory tract,”in Critical Reviews in Therapeutic Drug Carrier Systems, 6:273−313, 1990」、「Moren, “Aerosol dosage, forms and formulations,” in: Aerosols in Medicine. Principles, Diagnosis and Therapy, Moren, et al., Eds, Esevier, Amsterdam, 1985」に記載のように、特定の治療用途について選択されてよく、これらの文献の開示事項は、本願に参照として組み込まれる。
【0049】
深い肺の中に堆積した比較的大きい粒子の膨潤したエアロゾル粒子は、粒子食作用によって生じる潜在的な薬物損失を最小限にする。また、膨潤性ポリマーマトリックスは、肺の中で制御された放出のための生活性ポリマーと長時間の局所的作用又は全身的生物学的利用能の利点を提供することを、薬物担体として促進する。高分子薬物の変性は、巨大高分子がポリマーマトリックスのシェル内に含まれて保護されるため、エアロゾル化の際に最小限にすることができる。ペプチドとペプチド阻害剤の共カプセル化は、ペプチドの酵素分解を最小限にすることができる。
【0050】
さらなる説明のためであって限定されるものではないが、膨潤性粒子は、粘液溶解剤のみ、あるいは、さらに抗生物質製剤、細胞障害製薬剤、他の粘液溶解剤、及び、siRNAやmiRNAを含むRNA干渉薬剤、遺伝子、又はこれらの組み合わせとともに作用物質を含むことができる。また、作用物質は、複数の細胞障害製薬剤、細胞障害製薬剤とRNA緩衝剤、又はさらなる説明のための作用物質の他の組み合わせを含むこともできる。
【0051】
非膨潤性粒子との比較のため、本発明に係る膨潤性粒子は、食細胞のサイトゾルスペースからの粒子のサイズ排除により、肺胞マクロファージと肺からの排除による食細胞の飲み込みを潜在的により首尾よく回避することができる。肺胞マクロファージによる粒子の食作用は、粒子直径が3μmを超えると急激に減少する(「Kawaguchi, H. et al., Biomaterials 7: 61−66 (1986)」、「Krenis, L. J. and Strauss, B., Proc. Soc. Exp. Med., 107:748−750 (1961)」、及び「Rudt, S. and Muller, R. H., J. Contr. ReI., 22: 263−272 (1992)」)。荒い表面を有する球のような統計的に等方形状の粒子について(平均、粉末粒子は識別できる配向を有しない)、粒子の包囲体積は、完全な粒子食作用のためのマクロファージ内に必要なサイトゾルスペースの体積にほぼ等しい。
【0052】
このように、膨潤性粒子は、治療薬又は他の作用物質のより長時間の放出が可能である。吸入の後、膨潤性の生分解性粒子は、肺の中に堆積することができ(比較的小さいサイズによる)、次いで、大部分の粒子が肺胞マクロファージにより食作用を受けることなく、膨潤、遅い分解、及び薬物放出をすることができる。薬物は、肺胞流体の中に比較的ゆっくりと、及び血流中に一定速度で送達されることができ、過度の高濃度の薬物に対する暴露された細胞の起こり得る毒性反応を最小限にする。このように、膨潤性粒子は、とりわけ制御された放出用途における吸入療法に非常に適する。吸入療法用の膨潤性粒子の好ましい空気力学的中央直径は0.5〜5μmである(膨潤前)。膨潤の後、気道において、粒子は、6μmを超える体積平均直径の幾何学的サイズを有する。
【0053】
粒子は、深い肺又は上側気道のような呼吸器の選択領域に局所送達するため、適切な材料、表面荒さ、直径、密度、及び膨潤性を持って製造することができる。例えば、大きめの粒子又は高めの密度の粒子を、上側気道の送達のために使用してもよく、あるいは、同じ又は異なる治療薬を与えられたサンプル中のいろいろな粒子の混合物を、1回の投与で肺のいろいろな領域を標的にするために投与してもよい。
【0054】
膨潤性粒子は、噴霧剤作用の計量吸入器を用いる吸入法によって送達することができ、ここで、ヒドロフルオロアルカン及び/又はアルカン液化ガスの噴霧剤がこれらの処方に使用され、製剤の安定化のために他の賦形剤もまた含まれる。ドライパウダー吸入器は、エアロゾル化と吸入のために調製された膨潤性ヒドロゲル粒子を使用することができる。ドライパウダー吸入器の使用は、いわゆる「担体」粒子と配合することを必要としてもよい(Smyth and Hickey, Carriers in Drug Powder Delivery: Implications for Inhalation System Design, American Journal of Drug Delivery, Volume 3, Number 2, 2005, pp. 117−132、参照)。これらの担体は、典型的に、乳糖、サッカロース、グルコース、又はエアロゾル化のために膨潤性粒子と配合される他の粒子である。典型的に、担体粒子は、篩分析による測定で50〜500μmのサイズであり、エアロゾルの分散と吸入のために吸入器に入れた粉末の90〜99重量%を構成する。ドライパウダーのガス注入、液体スプレーシステム、及びネブライザーもまた膨潤性粒子を送達するために用いることができる。
【0055】
さらに、エアロゾル粒子の空気力学的粒子サイズの調節を、気道のいろいろな領域を標的にするために使用することができる。膨潤性粒子の表面上に標的配位子を付着させることは、呼吸器系内の特定箇所にそれらを局在化させることができ、例えば、肺癌について、標的配位子は、葉酸受容体のような肺癌中で過度に発現する受容体に結合させるために使用してもよい。標的化は、疾患箇所の特有な微環境に粒子が存在するとき、ヒドロゲル粒子に化学的結合又は高次構造の変化を生じさせることによって達成することができ、例えば、微環境に対する肺の炎症反応が、ヒドロゲルの性質を積極的に変化させる高濃度の化学物質又は媒体を生じさせるような肺の疾病の場合である。このことは、ヒドロゲル網状組織におけるpHの感知できる変化を生じさせ、この結果、ヒドロゲル粒子に担持された薬物が、pHが低下したときに迅速に放出され、疾病が最も顕著な領域で薬物放出を集中するものと考えられる。
【実施例】
【0056】
実施例1 PEGヒドロゲルの合成
約10kDと20kDの合計の数平均分子量(Mw)を持つ8アームのヒドロキシ末端PEGを、共沸蒸留の後、95%超の官能化度までアクリル化し、次いで、先行文献「Elbert, D.L., et al., Self−selective Reactions in the Design of Materials for Controlled Delivery of Proteins. Journal of Controlled Release, 2001. 76: p. 11−25」に記載のように、トリエチルアミンの存在下でアクリロイルクロライドと反応させる。ヒドロゲルは、50mMのホスフェート緩衝溶液(PBS、pH7.8)の中で、選択のPEGアクリレートを、ジチオスレイトール又はMwが3.1kDのPEGジチオールのいずれかと、アクリレートとチオールの1:1の化学量論比で混合することによって生成させる。PBSの量は、混合後に所望の合計前駆体濃度(重量%)を得るように変化させる。2つの溶液を1.5mLのプラスチック管の中で激しく混合し、遠心分離して泡を除去する。混合物を入れてシールした管を37℃に置き、完全な転化を確保するように、終夜にわたって反応させる。
【0057】
薬物送達用途の生理学的条件下でゲルを生成させるこうした反応を用いると、顕著な毒性上と適合性上の長所がある(N.A., et al., Physicochemical foundations and strucutral design of hydrogelst in medicine and biology. Annu. Rev. Biomed. Eng., 2000. 2: p. 9−29)。ポリマーの分解速度は、ヒドロゲル網状構造の初期水分などの種々の因子によって定められる。この初期水分は、架橋剤とPEGアクリレートの分子量によって制御される。ヒドロゲルからの薬物放出は、薬物分子の相対的サイズと架橋網状構造のメッシュサイズによって定められる。薬物サイズが一定と考えられるならば(薬物サスペンジョン粒子が場合により調節可能であるにせよ)、薬物放出は、メッシュサイズを減少させることによって調節することができる。このことは、ポリマーの長さ(分子量)を減少させることによって達成される。
【0058】
ポリ(アクリル酸−コ−アクリルアミド)を「Chen, J. et al. “Synthesis and characterization of superporous hydrogel composites”, Journal of Controlled Release 65: pp.73−82 (1999)」に記載のものと類似の方法を用いて合成した。この文献の教示は本明細書に参照として組み込まれる。
【0059】
あるいは、肺に薬物送達するための膨潤性粒子は、ポリマー、又はいろいろなポリエステル/アミノ酸のバックボーンとグラフト化アミノ酸の側鎖を持つポリマーの配合物から作成することができ、例えば、ポリ(乳酸−コ−リジン−グラフト−アラニン−リジン)(PLAL−ALa−Lys)、又はPLAL−Lysとポリ(乳酸−コ−グリコール酸−ブロック−エチレンオキシド)の配合物(PLGA−PEG)(PLAL− Lys−PLGA−PEG)を使用することができる。
【0060】
合成において、グラフトポリマーは、(1)送達される薬剤と、送達後の薬剤の安定化と活性の保持を与えるコポリマーの間の相互作用、(2)ポリマーの分解速度とそれによる薬物の放出速度のプロフィル、(3)化学的調節による表面特性と標的化能力、及び(4)粒子の気孔率、などの膨潤性粒子のいろいろな特性を最適化して調整することができる。
【0061】
実施例2 嚢胞性線維症のための二重作用の粘液溶解薬−治療薬の送達ベクター
エアロゾル化された薬物が、計量吸入器又はネブライザーから吐出され、咽頭を通り過ぎ、気管と細気管支に下りて、その作用と最終的にその分解と除去がされる箇所の方に向けて気道の深い奥に入り込んでから、エアロゾル化した薬剤は、多数の因子の影響下にあり、それらは、2つの広いカテゴリーに分類することができる。気道の管腔表面上のエアロゾル化薬剤の堆積を支配するそれらの決定因子は、物理的特性によって表わされ、粒子の直径と密度が挙げられる。その吸収、新陳代謝、及び排出などの管腔表面上のその衝突後の薬物の先行きを定める特性は、薬物動態学的因子と称される。
【0062】
したがって、エアロゾル化された粒子の物理的・薬物動態学的因子は、あり得る最も有効な用量を送達する手段として互いに補完し、同時に、薬物の無駄と不都合な副次反応を回避するように正確に調整しなければならない。
【0063】
これらを考慮し、本実施例及び別の例示の態様は、現状のFDA承認の嚢胞性線維症の治療効果を大きく改良する手段として、嚢胞性線維症の治療のための二重作用の粘液溶解薬治療上のヒドロゲル薬物送達ベクターを提供する。さらに、本送達システムは、最初は特に嚢胞性線維症について立案されたが、肺癌、COPD、及び喘息などのそれ以外の肺疾患のための治療上の送達ベクターとしても役立つことができる。
【0064】
各呼吸に伴ってヒトが吸入する多量の病原体とデブリにより、肺は、感染を防いで恒常性を維持するための多数の防御ラインを有する。気管から終末細気管支までの中央気道と総称される領域は、管腔上皮の表面が、それぞれ細管層と粘液層と称されるゾル相とゲル相からなる流体の皮膜でコーティングされる。これらの2つの層は、肺を病原体のない状態に維持する上で重要な役割をし、それらの厳密な組成は、異物粒子の効果的な除去にとって重要である。上側の厚くて粘稠な粘液は、吸入された病原体その他の異物デブリが下側の上皮細胞より下まで通過することを防ぐバリアとして作用する。線毛間液は、上側の粘液層のような直接の障害ではないが、肺に病原体がないことの維持を確保する上で重要でないことはない。線毛間液内の上皮繊毛の周期的で協奏的な鼓動により、粘液は、頭部方向においては咽頭の方に向かわされ、吐出物として気道から又は摂取により胃腸管の中に除去され、これは、粘膜繊毛エスカレーターと称されるプロセスである。したがって、粘液層内に捕獲されているエアロゾル化薬剤は、同伴され、呼吸器から即座に除去される。
【0065】
線毛間液は、繊毛の先端のみが上側の粘液に接触してそれを前方に押しやることを確保する最適な体積に維持される。線毛間液層の体積とイオン組成は、HOとイオン(とりわけNaCl)の吸収と分泌の間の精密なバランスの最終的な結果である。このバランスは、肺上皮細胞の先端面に位置するイオンチャンネル共同作用を通して厳密に規制される。流体の吸収は、主として、アミロリド感受性上皮Naチャンネル(ENAC)の活性によってコントロールされる。線毛間液からの上皮細胞への浸透圧的に活性なNaイオンの吸収は、細胞の尖端から側底面に水を押しやり、線毛間液の体積が減少する。この作用は、外側整流クロリドチャンネル(ORCC)と嚢胞性線維症の膜貫通型伝導規制(CFTR)チャンネルの双方によって対向され、細胞外の塩化物イオンの内腔への通過を許容し、水を搬送し、線毛間液の体積を回復させる。
【0066】
白人における最も蔓延した常染色体劣性の遺伝性疾患であるに嚢胞性線維症(CF)において、CFTRチャンネルをコード化する遺伝子は、欠陥タンパク質の合成をもたらす突然変異を含む。変異したCFTRタンパク質の大部分は、26Sプロテオームによって小胞体の中で分解し、細胞膜の尖端表面に達した少量のものは適切に機能せず、クロリドイオンの肺内腔への通過をもはや許容しない。このクロリドイオンの低下した輸送は、線毛間液に入る水の量を低下させ、Naチャンネルは依然として定常速度で水を吸収するため、線毛間液の体積は大きく低下する。繊毛の上側領域は、粘液層の中に埋没し、それらの動きをかなり阻害し、粘液繊毛エスカレーターの停止をもたらす。粘液層は、ますます粘稠で淀みが生じ、バクテリアコロニーが肺全体に急激に蓄積することを許容する。この高められた感染は、人体の免疫細胞からの活発な応答を生じ、時間の経過とともに肺を大きく悪化させ、最終的に死に至らしめる。
【0067】
理想的な解決は、染色体の欠陥コピーを、機能性CFTRチャンネルをコード化するものに置き換える遺伝子治療を行うことと考えられる。不都合なことに、これは非常に活発に研究されている分野であるが、数多くの挫折により、遺伝子治療は依然として実行可能な選択肢ではなく、遺伝子疾患の身体上の徴候の治療が、依然としてCFを治療する唯一の途である。現状の治療は、主として、隣接のムチン糖タンパク質の間の結合に寄与して粘液の粘度を低下させる粘液溶解薬のN−アセチルシステイン、及びCF患者の肺に群がる多くのバクテリアコロニーを標的にする種々の抗生物質の投与からなる。これらの投与は、エアロゾル化された形態で投与され、所定の分離又は直列であることができる。この治療は、CF合併症のいくつかを軽減する助けになるが、非常に無駄のある手順であり、その効能を改良し、同時に時間と金銭の双方におけるそのコストを低下させるのに、多くのことをすることができる。例えば、抗生物質は、バクテリアに対してのみ有効であると考えられ、バクテリアが気道に堆積すると直ちに対応する。治療薬が粘稠な粘膜に接触すると取り込まれ、そのバクテリア活性を完全に喪失する。一方、粘液溶解薬はどこに到達しても、その付近の淀んだ粘液の粘度を低下し得ると考えられる。しかしながら、粘液溶解薬のみでは、CF合併症の直接の原因である気道に生息する多くのバクテリアコロニーに対抗しない。
【0068】
本実施例は、同じ用量中で粘液溶解薬と治療薬の双方を同時に送達する膨潤性粒子を提供する。この様式において、粘液溶解薬は、粘膜の粘度を低下させ、治療薬の拡散範囲を拡張し、より多数のバクテリアとの接触をもたらし、その効能を大きく改良するものと考えられる。この目的での膨潤性粒子の使用は、治療薬と粘液溶解薬が遊離形態(即ち、非カプセル化)で送達されるこの仕方で行われる治療が短寿命であるものと考慮している。治療の即時の効果は、繊毛が高い頻度で鼓動して粘液繊毛エスカレーターの機能を改良することを可能にし、さらに、治療に伴って多くの粘液とバクテリアを肺から除去するものと考えられる。しかしながら、この治療は、基本的な遺伝子欠陥に何ら対処しないため、粘液は再び淀んで粘稠になり、残存するバクテリアに分裂と増殖の機会を与え、その結果、投与の後のまもなく、肺の状態はその治療前の状態に戻る。平均で、嚢胞性線維症の患者は、自分での治療のために1日に約3時間を費やさなければならない。この厳格で融通の効かない日課は、生活の質に甚大な影響を与えるだけでなく、所定の治療に対する患者の不従順を生じさせる。治療の厳格性のため、患者は、偶然に又は意図的に1日又は2日の治療をやり過ごすことがあり、こうした短期間の無装薬は、健康にひどく有害ではないものと考える。しかしながら、この手抜きを再現するのに数時間のみを要するバクテリアに対して戦うとき、厳しい結末を生むことがある。患者の薬剤服用順守を改良する手段として治療の厳しさを軽減し、同時に所定用量の医薬の送達を確保する、といったこのパラドックスをどのように解決しますか?この問題の解決は徐放治療に見出され、数週間でないにせよ数日間にわたって治療薬を連続的に放出し、投与の間隔を長くしながら患者が所定用量を受け取ることを可能にする。
【0069】
この目的に対する膨潤性粒子の使用は、エアロゾル化粒子による送達が肺の中のエアロゾル化粒子の堆積を支配する空気力学を完全に無視しているといった問題を考慮する。エアロゾルにおける非常に重要な特性は、粒子の空気力学的直径(da)である。空気力学的直径は、形状、密度、サイズ、又は実際の直径にかかわらず、粒子の空気力学的特性を標準化するために用いられる手段であり、上記と同じ空気力学的特性を有する水滴の直径と考えてもよい。空気力学的直径から導かれる最も有意な情報は、所与の空気力学的直径を有する粒子が、同じ空気力学的直径を有するいろいろなサイズ、形状、直径、又は密度の別な粒子から、空気力学的に区別できないことである。
【0070】
上述のように、エアロゾル化粒子の空気力学的特性は、その直径と密度の双方に非常に依存し、いずれの特性の僅かな変化でも、肺の別な領域における粒子の堆積になる。したがって、自由形態、又は別の送達ベクター内にカプセル化された粘液溶解薬と治療薬の混合物を送達する試みは、不均一な堆積をもたらすと考えられ、これは、その2つが同じ直径と密度を有さず、したがって同じ空気力学的特性を有しないためである。このため、本実施例は、膨潤性粒子を使用し、粘液溶解薬と治療薬の双方の同時送達を提供する。
【0071】
さらに、膨潤性粒子は、治療薬の徐放と同時に粘液溶解薬と治療薬の双方を搬送する能力を提供する好ましいCF治療ベクターを提供する。しかも、ヒト消費のための送達ベクターを立案するとき、生体適合性、非毒性、及非免疫原性であることが重要である。架橋性で親水性のポリマー網状構造内に治療薬と粘液溶解薬をカプセル化する上記のヒドロゲル粒子は、薬剤の徐放を達成する。例えば、ヒドロゲルが水系環境に置かれると、容易に水を吸収して膨潤し、そのポリマー鎖を伸長し、内部の薬物の外部への拡散を可能にする多くの孔を生成する。ヒドロゲルは、肺に薬物を送達するのに特に適切であり、これは、送達ベクターが出会う最初の表面が、容易に水を引き入れる親水性のムチン糖タンパク質から主としてなる粘稠な粘液であるためである。したがって、親水性ポリマーのヒドロゲルは、水を粘液から吸い上げるのに理想的に適し、ヒドロゲルが膨潤してその治療カーゴを放出することを可能にする。
【0072】
ヒドロゲル網状構造を発現するときの最も重要な因子は、適切な親水性ポリマーの選択であり、その多くの有益な特性により、ポリエチレングリコール(PEG)を上述した。このFDA承認のポリマーを魅力のあるものにする特質には、非毒性、生体適合性、非免疫性、及び粘膜から水を引き出してヒドロゲルの膨潤を促進する強い親水性が挙げられる。しかも、PEGは、タンパク質吸着を殆ど示さず、肺通路の迷路をパトロールする偏在性マクロファージの回避を可能にする。これらの特性は一緒になって、PEGを肺の薬物送達に採用される最も有望な候補にする。
【0073】
CF治療に使用される抗生物質は、大きくてかさばった疎水性の巨大分子であるトブラマイシンとゲンタマイシンが挙げられる。それらの疎水性は、遊離形態の中に抗生物質が組み込まれることを防止するが、リポソームのナノ粒子のコアの中に容易にカプセル化させることを許容する。リポソームのナノ粒子は、反対に、親水性の表面を有し、ヒドロゲルマトリックスの中に容易に組み込まれることを可能にする。さらに、リポソームのナノ粒子とポリマーマトリックスの孔の双方のサイズを調節することによって、ヒドロゲルからの抗生物質の放出速度を正確にコントロールすることができる。
【0074】
次の工程は、ヒドロゲル内に粘液溶解薬(例えば、N−アセチルシステイン、NACSと表示)をカプセル化することである。NACSの小さなサイズとその疎水性により、その自由な状態でヒドロゲルの中に単に配置されると、ヒドロゲルが膨潤を開始した瞬間に、NACSは、不都合な一回の急激な破裂で、肺から放出されるものと考えられる。これを解決するため、NACSは、その粘液溶解薬の活性を依然として維持しながら、PEGポリマー網状構造に共有結合する。この方法の長所は、加水分解に不安定なエステル結合が破壊されるにつれて、NACSが周囲に放出されることである。このことは、ヒドロゲルの全寿命を通じて粘液溶解薬が放出され、ゲルからの抗生物質の拡散を伴う徐放後の種を提供する。
【0075】
上述のように、NACSは、水に非常に可溶性であり(100mg/mL)、このため、疎水性抗生物質をカプセル化するときのようなナノ粒子の中にそれを導入することを不可能にする。
【0076】
【化1】

【0077】
N−アセチルシステインの構造(上図)は、PEGポリマー網状構造に粘液溶解薬剤を結合させる、加水分解的に不安定な結合を形成する2つの官能基を与える。治療薬の徐放は、薬物網状構造の連鎖の開裂と分解の双方の動力学、(適切な速度定数によって表される)、及びポリマー網状構造のマトリックスからの自由分子の拡散速度によって決まる。本発明におけるヒドロゲルに使用される架橋剤は、ジチオスレイトールであり、体温と生体pHにおいて有機溶媒の必要なしに、本発明における官能化PEGオクタアクリレートと容易に反応する2つのチオール部分を有する。
【0078】
【化2】

【0079】
しかしながら、NACSは、チオールを1つだけ含むため、別のNACS分子とジスルフィド結合を形成することができるか、あるいは、ポリマーのアクリレート基と反応してもよい。いずれにしても、粘液溶解薬剤としてのその機能は、全体的に抑止されなければ、非常に乱されるものと考えられる。
【0080】
【化3】

【0081】
反応スキームに示すように(DTTのチオール官能化末端とカップリングした8アームPEGアクリレートのアクリレート末端基を示すのみ)、最初の工程は、アクリレート基に対するチオールのミカエル付加である。この反応に続いて、次の工程は、アルコールとカルボン酸が生成するエステル加水分解である(フィッシャーエステル化反応の正反対)。しかしながら、理解できるように、硫黄原子(生成するものは実際にはジカルボン酸であるため、ジカルボン酸1つの分子あたり2つのS−H基を含むため)はもはや還元されたチオールの形態ではない。その代わりに、下記に示すように、それらは2つの炭素原子に結合し、C−S−C結合を生成し、ムチンポリマーのチオール部分とのジスルフィド結合に関与することができない。
【0082】
【化4】

【0083】
したがって、NACS放出のコントロールは、8アームPEGポリマーとの架橋反応の前に、恐らく少なくとも4:1(DTT:NACS)のモル比でジチオスレイトールをN−アセチルシステインと反応させることによって達成することができる。このことは、DTTのチオールがNACSのチオールと反応することを許容する。NACSの長所は、既にFDA承認の薬物であり、他のチオール化合物と同様に、有害な溶媒又は反応条件を必要とせずに容易に反応すると考えられることである。開裂分子の構造(エステル加水分解の後)は、下記に示す通りである。
【0084】
【化5】

【0085】
従来の化合物とは異なり、この分子は、ジスルフィドS−S結合を有し、それらのジスルフィド結合についてムチンポリマーと容易に競合し、生じる唯一の交換が別のものとの交換であるため(熱力学的に好ましくなく、大きな転移バリアを有すると考えられる低エネルギー結合から高エネルギー結合への交換と異なり、大きなエネルギーコストが不要)、ジスルフィド結合のこの交換は、非常に穏やかな条件下で生じる(基本的に、PBS緩衝剤の中で化学物質を混合)。
【0086】
確かに、あるNACS−NACSジスルフィド結合が存在するであろうが、これは不可逆結合ではなく、より多くの量のDTTが、大部分のNACSが架橋剤に結合することを確かにするであろう(理論的には、全てのNACS分子が1つのS−S活性な粘液溶解薬結合を生成すると考えられる)。使用するDTTの量を増加させることにより、ヒドロゲルが占領された大部分の架橋可能な部分を有し、このため、構造的安定性を維持し、同時に粘液のヒドロゲル透過性を大きな向上を示すのに十分なDTT−NACSを有することを確かにすることができる。そして、NACSに結合した何らかのDTTが、別のPEG分子との架橋を形成することができないのは事実であるが、最近の実験は、ポリマーに比較して少なくとも30%の濃度の架橋剤で安定したヒドロゲルが生成し得ることを示す(即ち、理論的に30%のPEGアクリレート基を占有するのに十分なDTT分子が存在する)。
【0087】
−ローダミンとN−アセチルシステインを含む8アームPEGアクリレートからの生体適合性ヒドロゲルの合成−
アクリル化8アームPEG(Mw=10kDaと20kDa)の最初の合成は、上述の「Hubbell et al. Journal of Controlled Release 76:11−25 (2001)」の研究に基づいた。例えば、10グラムの8アームPEG(20kDa、ネクター)を200mLのトルエンに溶かし、2時間にわたって共沸蒸留した。次いで、得られた溶液をアルゴン下で50℃まで冷却した。2mLのトリエチルアミンを50mLのジクロロメタンに添加し、次いで、これを反応溶液に添加した。次いで、ある量(1.3mL)のアクロイルクロリドを滴状で添加し、暗闇の中のアルゴン下で20時間にわたって反応を進行させた。次いで、得られた不透明な浅黄色の溶液を透明になるまで数回にわたってろ過した。無水炭酸ナトリウムをその溶液に添加し、2時間にわたって攪拌し、存在する全ての水を除去した。その溶液をろ過して炭酸ナトリウムを除去し、次いで、減圧下で蒸発させた。次いで、ジエチルエーテルをその溶液に添加し、反応フラスコを氷浴の中に入れ、生成物(アクリル化PEG)を沈殿させた。生成物をろ過によって収集し、ジエチルエーテルで繰り返して洗浄した。平均収率は約85%であった。
【0088】
堅くて安定なPEGヒドロゲルが、1を超えるアクリレート/チオールの化学量論比、及び存在するアクリレート成分の60%と低いチオール量(チオール/アクリレートの比が0.6)で生成することができる。一般に、分子あたり2つのチオールを有するジチオスレイトールは、ポリマー分子間に架橋を形成し、ヒドロゲル網状構造を形成する。ヒドロゲル網状構造に共有結合したN−アセチルシステイン粘液溶解薬とともにヒドロゲルを形成するために、それぞれ20μLの1XPBS(pH7.4)に溶かした5mgのジチオスレイトールと1.1mgのN−アセチルシステインを反応させた。N−アセチルシステインは、そのチオール基とアクリル化ポリマーの間の結合を形成する、又は2つのチオール基から形成されるS−Sジスルフィド結合によってジチオスレイトールを形成する能力を有する。化学量論的に、反応物質の上記の濃度において、N−アセチルシステインの全てのチオール基がそれぞれ1つのジチオスレイトール分子に結合したならば、安定なヒドロゲルが生成するようにポリマー分子の間に十分な架橋を形成するために、ジチオスレイトール分子に十分な遊離チオール基が依然として存在すると考えられる。この溶液を、200μLの1XPBX(pH7.4)に溶かした0.160gのアクリル化8アームPEG(20kDa)に添加した。この溶液に10μLのローダミン治療薬(40mg/mL、1XPBX(pH7.4))を添加した。その溶液の70μLのアリコートを、SigmaCote(Sigma Chemical Co.)をコーティングした顕微鏡用スライドの間に置き、1mmの間隔に離した。37℃の湿った環境で24時間にわたってそのゲルを硬化させた。液体窒素を用いて冷却したマイクロボールミル(Dentsply Rinn, Elgin, Illinois)中で、硬化したゲルを、乾燥後に粉砕し、1.1〜3μmの体積平均直径と2.2のスパンを有する膨潤性粒子を製造した。ここで、スパン=((D90−D10)/D50)であって、D50は中位径、D10とD90はそれぞれ10%と90%のパーセンタイル直径である(例えば、D10は10%の粒子がこの直径より小さい)。
【0089】
上記のように、本実施例において、粘液溶解薬と治療薬の双方の送達が、治療薬の拡散径を拡大することにより、より多数のバクテリアとの接触を可能し、同時に粘液繊毛エスカレーターの機能を改良することで、現状のCF治療の効能を顕著に向上させるものと考えられる。ここで、この二重作用のエアロゾル化ヒドルゲルは、嚢胞性線維症の治療への使用に限られない。上述のように、生理的条件下で、肺通路の内腔は、吸入した粒子に対するバリアとして作用する粘液層でコーティングされている。この粘液は、粘液繊毛エスカレーターによって連続的に除去され、肺の最も奥に届いてから吸引デブリを排出するのに約10時間を要し、大部分の悪性腫瘍が存在する上側通路をきれいにする時間は、それよりかなり短い。治療薬エアロゾルと病原体を区別することができず、粘液繊毛エスカレーターは、味方と敵を同じ攻撃力で排除する。したがって、あらゆる吸入治療薬は、粘液バリアを貫通し、下の上皮に達し、その薬物担持物を送達するのに僅かな窓口を有するに過ぎず、そうしなければ、その効能の機会を永久に喪失する。しかも、腫瘍が肺の全体に均一に分布しているのではなく、治療が有効なのは特定の領域に過ぎないことを考慮するとき、上記の僅かな窓口の作用はさらに狭められる。その直径と密度によって粒子の空気力学的特性をコントロールすることにより、エアロゾルは、粒子の大部分が肺の所望の位置に到着するように調整することができる。しかしながら、内腔表面に粒子が一旦着地すると、それが肺から排除される前に、その積荷は、粘液を通過する粒子に全体として存在する。このため、粒子が粘稠な粘液をより迅速に通過できれば有益な効果を提供する機会がより大きいことが明らかである。粘液溶解薬を、細胞障害性薬剤、又は肺癌、COPD、及び喘息の治療のためのそれぞれ副腎皮質ステロイド又は気管支拡張薬と組み合わせることにより、治療の効能が高められ、粘液繊毛エスカレーターの作用によって廃棄される薬物の量が顕著に低下するものと考えられる。
【0090】
標的分子は、反応性官能基によって膨潤性粒子に付着させることができる。例えば、標的分子は、PLAL−Lys粒子のような官能化ポリエステルグラフトコポリマー粒子のアミノ酸基に付着させることができる。標的分子は、粒子と肺内の特定の受容体サイト等との結合性相互作用を許容する。粒子は、特定の標的に特異的に又は非特異的に結合する配位子の結合によって標的化することができる。代表的な標的分子には、可変領域、レクチン、及びホルモン、又は例えば標的細胞の表面上の受容体に特定の結合をすることができる他の有機分子などの、抗体及びそのフラグメントが挙げられる。
【0091】
本発明を特定の代表的な態様について説明したが、当業者には、本発明の技術的思想と特許請求の範囲に規定する本発明の範囲から逸脱することなく、変化、変更等が可能であることを認識するであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
肺系に作用物質を送達するための膨潤性粒子であって、該粒子は、生分解性物質を含んで5μm以下の空気力学的中央直径を有し、該粒子は、肺系に捕獲された後に、水和によって6μmを超える体積平均直径の大きいサイズに膨潤可能である膨潤性粒子。
【請求項2】
作用物質を含む請求項1に記載の粒子。
【請求項3】
該作用物質が該膨潤性粒子に取り込まれた請求項2に記載の粒子。
【請求項4】
該作用物質が、該膨潤性粒子に組み込まれるナノ粒子に取り込まれた請求項2に記載の粒子。
【請求項5】
該作用物質が、該膨潤性粒子の生体適合性物質と化学的に結合した請求項2に記載の粒子。
【請求項6】
該作用物質が、1又は複数の治療薬、診断用薬、予防薬、又は造影剤を含む請求項2に記載の粒子。
【請求項7】
該作用物質が、粘液溶解薬を含む請求項6に記載の粒子。
【請求項8】
該作用物質が、抗生物質製剤をさらに含む請求項7に記載の粒子。
【請求項9】
該作用物質が、細胞障害性薬剤をさらに含む請求項7に記載の粒子。
【請求項10】
該作用物質が、RNA妨害薬剤をさらに含む請求項7に記載の粒子。
【請求項11】
該作用物質が、遺伝子をさらに含む請求項7に記載の粒子。
【請求項12】
該作用物質が、複数の細胞障害性薬剤を含む請求項6に記載の粒子。
【請求項13】
該作用物質が、細胞障害性薬剤とRNA妨害薬剤を含む請求項6に記載の粒子。
【請求項14】
少なくとも90%の粒子が、5μm以下の空気力学的直径を有し、6μmを超える体積平均直径まで膨潤する請求項6に記載の粒子。
【請求項15】
該生分解性物質が、生分解性物質の天然ポリマー、合成ポリマー、タンパク質、及び炭水化物、又はこれらの組み合わせからなる群より選択された請求項1に記載の粒子。
【請求項16】
ヒドロゲル粒子を含む請求項1に記載の粒子。
【請求項17】
粒子の膨潤速度をコントロールするコーティングをその上に含む請求項1に記載の粒子。
【請求項18】
該コーティングが、炭水化物、脂質、タンパク質、又は、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、もしくはリチウムの生体適合性塩からなる群より選択された賦形剤を含む請求項17に記載の粒子。
【請求項19】
該コーティングが、患部内の受容体又は標的に結合する標的物質を含む請求項17に記載の粒子。
【請求項20】
肺系に送達するための請求項1に記載の膨潤性粒子を含むエアロゾル。
【請求項21】
肺系に送達するための請求項2に記載の膨潤性粒子を含むエアロゾル。
【請求項22】
肺系に作用物質を送達する方法であって、生分解性物質を含んで5μm以下の空気力学的中央直径を有する粒子を提供し、ここに、該粒子は、肺系に捕獲された後に、水和によって6μmを超える体積平均直径の大きいサイズに膨潤可能であり、
次いで、該作用物質を該粒子の上又は中に提供し、そして該粒子を肺系に送達し、ここに、該粒子は、気道に存在して、6μmを超える体積平均直径の大きいサイズに膨潤する、
作用物質を送達する方法。
【請求項23】
該粒子が、呼吸器の気道に存在する請求項22に記載の方法。
【請求項24】
該粒子が、肺の肺胞領域に存在する請求項23に記載の方法。
【請求項25】
該粒子が、吸入器から送達される請求項22に記載の方法。
【請求項26】
該粒子が、ドライパウダーのガス注入によって送達される請求項22に記載の方法。
【請求項27】
該粒子が、液体スプレー又はネブライザーによって送達される請求項22に記載の方法。
【請求項28】
該作用物質が、嚢胞性線維症、肺癌、喘息、慢性閉塞性肺疾患、急性気管支炎、又は気腫の治療のために送達される請求項22に記載の方法。
【請求項29】
該作用物質が、治療薬、診断用薬、予防薬、又は造影剤の1又は複数を含む請求項22に記載の方法。
【請求項30】
該作用物質が、粘液溶解薬剤を含む請求項29に記載の方法。
【請求項31】
該作用物質が、抗生物質製剤をさらに含む請求項30に記載の方法。
【請求項32】
該作用物質が、細胞障害性薬剤をさらに含む請求項30に記載の方法。
【請求項33】
該作用物質が、RNA妨害薬剤をさらに含む請求項30に記載の方法。
【請求項34】
該作用物質が、遺伝子をさらに含む請求項30に記載の方法。
【請求項35】
該作用物質が、複数の細胞障害性薬剤を含む請求項29に記載の方法。
【請求項36】
該作用物質が、細胞障害性薬剤とRNA妨害薬剤を含む請求項29に記載の方法。
【請求項37】
作用物質をナノ粒子の中に取り込んだ後、該ナノ粒子を膨潤性粒子の中に組み入れる、ことを含む作用物質を含む膨潤性粒子の製造方法。
【請求項38】
作用物質が、合成膨潤性粒子のポリマー網状構造の中に取り込まれるように、該作用物質の存在下でポリマー網状構造を有する膨潤性粒子を形成することを含む、作用物質を含む膨潤性粒子の製造方法。
【請求項39】
ポリマー網状構造を有する膨潤性粒子を形成し、作用物質を該ポリマー網状構造に化学的に結合させることを含む、作用物質を含む膨潤性粒子の製造方法。

【公表番号】特表2009−532466(P2009−532466A)
【公表日】平成21年9月10日(2009.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−504227(P2009−504227)
【出願日】平成19年4月3日(2007.4.3)
【国際出願番号】PCT/US2007/008058
【国際公開番号】WO2007/123793
【国際公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【出願人】(508266650)
【Fターム(参考)】