説明

藻場造成用硬化物

【課題】効率的に二価鉄イオンを生物へ供給できる藻場造成用硬化物を提供する。
【解決手段】セメントと、40mm以下に粉砕された鉄鋼スラグと、腐敗した20〜80mmほどの広葉樹チップと、水とを混ぜ、得られた混合物を型枠に打ち込む。そして、硬化するまで型枠内で養生させる。次に、型枠内で硬化して得られたコンクリートを、単位容積質量が2〜3トン/mとなるよう破砕して、表面形状が自然石形状である藻場造成用コンクリートを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は藻場造成用硬化物に関する。詳しくは、海中に投下されて藻場の造成に役立つ藻場造成用硬化物に係るものである。
【背景技術】
【0002】
近年、浅海域に生えている昆布やワカメ等の海藻が減少し、サンゴモ(石灰藻)と呼ばれる薄いピンク色の硬い殻のような海藻が海底の岩の表面を覆いつくした、「磯焼け」と呼ばれる現象が、漁業などに大きな打撃を与えている。
【0003】
即ち、海底を覆うサンゴモは、他の海藻の付着を妨げる物質を表面から分泌したり、表層細胞を剥離して自分の体の上に他の海藻が生育しないようにしたりしているため、磯焼けになると大型の藻類の回復は困難(藻場の消失)となる。そして、小魚の隠れ家や産卵場所である藻場が消失することで、小魚や、小魚を食べる大型魚が寄り付かなくなり、年々水揚げが減少しているのである。
【0004】
また、藻場の消失は、多くの魚類をはじめとする海生動物の生活の場や産卵場所を失うばかりでなく、光合成を行なうため海の生態系の非常に重要な存在となっている植物群を失うことにもなり、海の生態系は大きな影響を受けることになる。
【0005】
磯焼けの原因の一つとして、従来は海藻類が吸収しやすい「二価鉄イオン(Fe2+)」が森林から河川を通じて海へ供給されていたのに対し、近年では森林の伐採やダムの造成等によって、二価鉄イオンの供給量が減少したことが挙げられている。
【0006】
これに対して例えば、特許文献1には、ブロック本体の表面に大きな稜角部を有する溝状凹部を形成すると共に、この溝状凹部に隣接して比較的小さな溝を一もしくはそれ以上設け、二価の鉄を含む鉄分を配合したガラス質材料とセメントモルタルとを混合して硬化させることにより形成した板状増殖材を溝状凹部に配設する沈設ブロックが記載されている。
また、特許文献2には、溶融硫黄10〜60質量%に高炉スラグ70〜30質量%、石炭灰20〜10質量%を混合し、成形固化したブロックが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第2640926号公報
【特許文献2】特開2002−45078号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1や特許文献2の発明のように、海藻等の光合成生物が摂取可能な二価鉄イオンを溶出させたとしても、二価鉄イオンは水中の酸素によって酸化されやすく、三価鉄イオンになって即座にFeとして沈降し、生物が摂取することが不可能となる。
【0009】
本発明は、以上の点に鑑みて創案されたものであり、効率的に二価鉄イオンを生物へ供給できる藻場造成用硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の藻場造成用硬化物は、固化材と、鉄鋼スラグと、木材チップと、水とを含む組成物の硬化物である。
【0011】
ここで、木材チップからフルボ酸が放出され、鉄鋼スラグから放出される二価鉄イオンとフルボ酸が結合して、水溶性で寿命が長いと共に海水中で酸化しにくい安定したフルボ酸鉄を生成できる。
【0012】
また、本発明の藻場造成用硬化物の単位容積質量が2〜3トン/mである場合、波があっても藻場造成用硬化物が転がりにくくなり好ましい。
【0013】
更に、本発明の藻場造成用硬化物の表面形状が自然石形状である場合、藻場造成用硬化物を積み上げたときに空隙が形成されやすく、よって魚が棲み着きやすい。
【0014】
また、本発明の藻場造成用硬化物において、組成物が糞尿を含む場合、糞尿はタンパク質、アミノ酸、尿素、尿酸等を含むので、分解する際にアンモニアを生成し、鉄鋼スラグから放出される二価鉄イオンとアンモニアとが錯体化し、フルボ酸鉄と同様に酸化しにくい物質を生成できる。
【0015】
また、本発明の藻場造成用硬化物において、固化材はセメントである場合、他の固化材に比べて硬化物の強度を高くすることができる。
【0016】
また、本発明の藻場造成用硬化物において、木材チップの少なくとも一部が腐敗した場合、フルボ酸が放出されやすいと共に、木材チップが腐敗して消失することで、木材チップの位置に孔が形成されて硬化物が多孔質化し、硬化物の表面に凹凸が形成されて海藻の種子が付着しやすくなる。
【0017】
また、本発明の藻場造成用硬化物において、組成物は、腐葉土を含む場合、腐葉土からもフルボ酸が放出され、より多くのフルボ酸鉄を生成できる。
【0018】
また、本発明の藻場造成用硬化物において、組成物は、炭を含む場合、炭からもフルボ酸が放出され、より多くのフルボ酸鉄を生成できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明に係る藻場造成用硬化物は、効率的に二価鉄イオンを生物へ供給できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の藻場造成用硬化物を海中の被覆石として使用した施工例を示す概略図である。
【図2】本発明の藻場造成用硬化物を海中の築磯材として使用した施工例を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の藻場造成用硬化物は、固化材と、鉄鋼スラグと、木材チップと、水とを含む組成物の硬化物である。
ここで、固化材としては、一般的な固化材を使用できるが、硬化物の強度を比較的高くすることができるので、セメントが好ましい。
【0022】
また、鉄鋼スラグは、鉄鋼の製造工程において発生する鉄鋼副産物であり、転炉スラグ、予備処理スラグ、脱炭スラグ、脱リンスラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、電気炉還元スラグ、電気炉酸化スラグ、二次精錬スラグ、造塊スラグ等が含まれる。これらを1種もしくは2種以上の混合物として使用することができる。
また、鉄鋼スラグは、酸化しやすく不安定な二価鉄(FeOやFe)を安定して含有する。特に、転炉スラグは二価鉄を20%含み、発生量も大きいため供給が容易であり、鉄イオンの溶解度が高いことから、二価鉄イオンを溶出する材料として好ましい。
二価鉄は水中での酸化過程で溶出しやすく、二価鉄イオンの形で生物に吸収されるが、二価鉄は非常に不安定な物質である。
【0023】
また、木材チップは、廃木材等をチップ状にしたものであり、腐敗してフルボ酸を放出する。フルボ酸は水溶性であり、カルボル基とカルボルニル基を有し、鉄を結びつける機能があるため、鉄イオンがフルボ酸と結合し、水中でも安定なフルボ酸鉄が生成される。
また、腐敗してフルボ酸を放出するので、少なくとも一部が腐敗した木材チップを用いることが好ましい。
また、上記の組成物は、さらに腐葉土や、炭(例えば木炭)を含むこともできる。
【0024】
また、固化材と、鉄鋼スラグと、木材チップと、水の配合比はどのような比率でもよいが、例えば、固化材:鉄鋼スラグ:木材チップ:水が、1:10:4:1.5の場合、ある程度の空隙が形成されていると共に圧縮強度も高い硬化物が得られる。
【0025】
図1は、本発明の藻場造成用硬化物を海中の被覆石として使用した施工例を示す概略図である。また、図2は、本発明の藻場造成用硬化物を海中の築磯材として使用した施工例を示す概略図である。
セメントと、40mm以下に粉砕された鉄鋼スラグと、腐敗した20〜80mmほどの広葉樹チップ(木材チップの一例である。)と、水とを混ぜ、得られた混合物を型枠に打ち込んだ。そして、硬化するまで型枠内で養生させた。次に、型枠内で硬化して得られたコンクリートを、単位容積質量が2〜3トン/mとなるよう破砕して、表面形状が自然石形状である藻場造成用コンクリート(藻場造成用硬化物の一例である。)1を得た。
なお、混合物を硬化させることができれば、必ずしも混合物を型枠に打ち込んで型枠内で養生させなくてもよい。
得られた藻場造成用コンクリート1を、図1に示すように、海水2中に投下して、捨石等の上を覆うように敷き詰めて被覆石とした。敷き詰めて約1〜2ヵ月後には、藻場造成用コンクリート1に海藻3の成長を確認できた。
【0026】
また、同様にして得られた藻場造成用コンクリート1を、図2に示すように、海水2中に投下して積み上げ、築磯材とした。積み上げて約1〜2ヵ月後には、藻場造成用コンクリート1に海藻3の成長を確認できた。
【0027】
また、円柱形の本発明の藻場造成用硬化物に、海藻の胞子が付着した種糸を巻きつけ、巻きつけられた種糸から海藻の新芽が約10cm延びた後、種糸が巻きつけられた本発明の藻場造成用硬化物を、図1や図2に示す藻場造成用コンクリート1に配置することで、さらに海藻が増えやすくなる。
また、例えば、水槽に、海藻の胞子を含んだ海水を入れ、さらにその海水に糸を入れることで、海藻の胞子が付着した種糸を得ることができる。
【0028】
なお、フルボ酸鉄は本来、森林の腐植土壌中で生成されるものなので、海水を通す袋等に腐植土や、適宜鉄鋼スラグをも入れて土嚢と成し、この腐植土入り土嚢を海中に投下して藻場を造成することも考えられるが、堤防を築く際に用いられることから明らかなように、土嚢を積み上げても土嚢間に空隙を形成しにくく、しかも仮に腐植土内に混入している木材チップが腐敗しても、土嚢は固化していないので、コンクリート内の木材チップが腐敗したときのように、腐植土入り土嚢は多孔質化しない。
これに対して、本発明の藻場造成用コンクリートは、固化しており、表面形状が自然石形状であるので、図2に示すように積み上げた場合、藻場造成用コンクリート間には空隙が形成され、形成された空隙に魚が棲み付きやすくなる。また、藻場造成用コンクリート自体も、木材チップが腐敗して消失することで、木材チップの位置に孔が形成されて藻場造成用コンクリートが多孔質化し、藻場造成用コンクリートの表面に凹凸が形成されて海藻の種子が付着しやすくなる。
【0029】
以上のように、本発明の藻場造成用コンクリートは、鉄鋼スラグと広葉樹チップを含んだ組成物の硬化物なので、広葉樹チップによってフルボ酸が放出され、鉄鋼スラグから放出される二価鉄イオンとフルボ酸が結合して、水溶性で寿命が長いと共に海水中で酸化しにくい安定したフルボ酸鉄を生成でき、従って、安定したフルボ酸鉄という形で効率的に二価鉄イオンを生物へ供給できる。
【0030】
また、本発明の藻場造成用コンクリートは、単位容積質量が2〜3トン/mなので、海中に藻場造成用コンクリートを配置した場合、波があっても藻場造成用コンクリートが転がりにくい。
【0031】
更に、本発明の藻場造成用コンクリートは、腐敗した広葉樹チップを含んだ組成物の硬化物なので、フルボ酸が放出されやすいと共に、広葉樹チップが腐敗して消失することで、広葉樹チップの位置に孔が形成されて藻場造成用コンクリートが多孔質化し、藻場造成用コンクリートの表面に凹凸が形成されて海藻の種子が付着しやすくなる。
【符号の説明】
【0032】
1 藻場造成用コンクリート
2 海水
3 海藻

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固化材と、
鉄鋼スラグと、
木材チップと、
水とを含む組成物の硬化物である
藻場造成用硬化物。
【請求項2】
単位容積質量が2〜3トン/mである
請求項1に記載の藻場造成用硬化物。
【請求項3】
表面形状が自然石形状である
請求項1または請求項2に記載の藻場造成用硬化物。
【請求項4】
前記組成物が糞尿を含む
請求項1〜3のいずれか1つに記載の藻場造成用硬化物。
【請求項5】
前記固化材はセメントである
請求項1〜4のいずれか1つに記載の藻場造成用硬化物。
【請求項6】
前記木材チップの少なくとも一部が腐敗した
請求項1〜5のいずれか1つに記載の藻場造成用硬化物。
【請求項7】
前記組成物は、腐葉土を含む
請求項1〜6のいずれか1つに記載の藻場造成用硬化物。
【請求項8】
前記組成物は、炭を含む
請求項1〜7のいずれか1つに記載の藻場造成用硬化物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−104362(P2010−104362A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−207969(P2009−207969)
【出願日】平成21年9月9日(2009.9.9)
【出願人】(508296901)株式会社小宮建設 (1)
【出願人】(508296912)有限会社対成コンクリート (1)
【Fターム(参考)】