虚血性のT波反転の非虚血性のT波反転からの区別
虚血性の陰性T波と心臓記憶性の陰性T波とを区別する方法は、患者の心電図検査を行う工程(702);胸部誘導の少なくともいくつかにおいて陰性T波を同定する工程(704);I誘導およびaVL誘導においてT波を同定する工程(706);I誘導およびaVL誘導が陰性T波を示す場合に、虚血性であると診断する工程(710);ならびに、I誘導およびaVL誘導が非陰性T波を示す場合に心臓記憶性であると診断する工程(712)を包含する。この方法はまた、III誘導においてT波を同定する工程(714);III誘導が胸部誘導よりも深い陰性T波を示す場合に虚血性であるという診断を確認する工程(724);および、III誘導が胸部誘導よりも深い陰性T波を示さない場合に心臓記憶性であるという診断を確認する工程(720、725)を包含し得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、心電図に関し、より具体的には、心臓記憶(cardiac memory)性のT波反転を、虚血性のT波反転から区別するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連技術)
T波反転(TWI)は、正常な変異から、肥大型心筋症、心外膜炎、および生命にかかわる心筋虚血まで、広範囲にわたる病因を有する。TWIの大半は、「非特異的なST−T波異常」のカテゴリーに分類され、そして、一般病院の集団における異常な追跡の50%〜70%を占める。これらのECGの解釈は、主に、利用可能な臨床データとの相関に基づいている。
【0003】
心臓記憶として知られる、ペーシング後の前胸部T波反転は、前方心筋虚血と類似しており、そして、これら2つを適切に区別する、心電図の診断基準は、確立されていない。これらの現象は、心臓病専門医には周知である。心臓記憶は、通常、心臓が、ある所定の時間の間ペーシングされ、次いで、ペーシングが停止された場合に示される。心臓記憶の効果は、通常、どのぐらいの期間にわたって心臓がペーシングされていたかに依存し、そして、2〜3時間から、数週間のいずれかにわたって継続し得る。しばしば、ペーシング後のT波は、反転しているようである。これは、一般に、T波反転、すなわちTWIと呼ばれている。同じようなTWIの作用が、虚血性の患者においてもしばしば観察されている。特に、ペーシング後の前胸部T波反転は、前方心筋虚血と類似している。
【0004】
心臓記憶は、前胸部TWIの良性の原因の1つである。心臓記憶のECGパターンは、心室の異常な活性化(例えば、心室のペーシング、一次的な左脚ブロック、心室不整脈、またはWPW(ウォルフ−パーキンソン−ホワイト症候群))期間の後に、洞律動が再開されると、現れる。心臓記憶の多くの一般的な原因は、心室のペーシングである。心臓記憶のT波の変化は、ペーシングが中断した後に、長期にわたり持続し得るので、その原因の関係性はしばしば不明瞭である。心臓記憶性のTWIの良性の性質は、十分に確立されているものの、ペーシングにより誘導された心臓記憶を、前方壁の虚血および梗塞から生じるT波と区別するための信頼できる診断の機構は、記載されていない。
【0005】
心臓記憶により誘導されたT波反転は、一般に、通常経時的に消失する無害な減少であるが、虚血は、深刻な問題であり、通常、冠状動脈血管形成術、ステント置換術(stenting)または冠状動脈バイパス手術によって処置される。虚血は、おそらく、T波反転の最も危険な原因である。
【0006】
TWIの2つの原因の間を区別すること、ならびに、ペースメーカーを使用する患者におけるTWIの原因を区別することにおける困難さに起因して、多くの医師は、T波反転を認めると、高価でかつ不必要な、カテーテル処置、血管造影法、入院、および、虚血を除外するための、時間がかかり、かつ高価な評価、ならびに、T波反転が、虚血ではなく心臓記憶に起因するものであるということを医師が知っていれば行なう必要のなかった他の試験を行なうことを余儀なくされる。実際、多くの医師は、陰性T波を認めると、最悪の場合を想定する。同様に、自動化された診断機器の多くは、陰性T波を検出すると、虚血の可能性があるという診断を与える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、当該技術分野には、良性の、心臓記憶により誘導されるT波反転と、虚血により誘導される反転とを区別する簡単な方法に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、関連技術の欠点の1つ以上を実質的に除去する、虚血性のT波反転の、非虚血性のT波反転との区別に関する。
【0009】
より具体的には、本発明の例示的な実施形態において、虚血性の陰性T波と心臓記憶性の陰性T波とを区別する方法は、以下:患者のECGを検知する工程、少なくとも1つの胸部誘導において陰性T波を同定する工程、少なくとも2つの四肢誘導において非陰性T波を同定する工程、少なくとも1つの胸部誘導が陰性T波を含む場合に、虚血性であると診断する工程、および、少なくとも1つの四肢誘導が非陰性T波を含む場合に、心臓記憶性であると診断する工程、を包含する。2つの四肢誘導のうちの一方が、I誘導であり得、そして、もう一方が、aVL誘導であり得る。この方法は、さらに、III誘導においてT波を同定する工程、III誘導が、胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示す場合に、虚血性であるという診断を確認する工程、および、III誘導が、胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示さない場合に、心臓記憶性であるという診断を確認する工程、を包含し得る。
【0010】
心臓における、虚血性の効果と心臓記憶性の効果とを区別する方法の代替的な実施形態は、以下:心電図(ECG)データを受信する工程、ECGデータから、T波ベクトルの方向を計算する工程、T波ベクトルが、約+75°〜約+200°の間(好ましくは、+90°〜+180°の間)である場合に、虚血性であると診断する工程、および、T波ベクトルが、約0°〜−90°の間である場合に、心臓記憶性であると診断する工程、を包含する。
【0011】
本発明はまた、虚血性の陰性T波と心臓記憶性の陰性T波とを区別するためのシステムを包含し、該システムは、以下:胸部誘導において陰性T波を同定するための手段、四肢誘導において非陰性T波を同定するための手段、胸部誘導が陰性T波を含む場合に、虚血性であると診断するための手段、および、四肢誘導が非陰性T波を含む場合に、心臓記憶性であると診断するための手段、を備える。
【0012】
上記システムはまた、必要に応じて、III誘導においてT波を同定するための手段、III誘導が、胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示す場合に、虚血性であるという診断を確認するための手段、および、III誘導が、胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示さない場合に、心臓記憶性であるという診断を確認するための手段、を備え得る。
【0013】
本発明のさらなる特徴および利点は、以下の明細書中に示され、そして、部分的には、明細書から明らかであるか、または、本発明を実施することによって理解され得る。本発明の利点は、本明細書および特許請求の範囲ならびに添付の図面に具体的に示される構造によって、認識および達成される。
【0014】
上述の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方は、例示的かつ説明的なものであり、そして、特許請求される本発明のさらなる説明を提供することが意図されることが、理解されるべきである。
【0015】
本発明のさらなる理解を提供するために含められ、本明細書の一部を構成する、添付の図面は、本発明の実施形態を例示し、そして、本明細書と共に、本発明の原理を説明するのに役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
ここで、本発明の好ましい実施形態(その例は、添付の図面に例示される)に対して、詳しく参照がなされる。
【0017】
図1A〜1Eは、心拍動記録において使用される用語を例示し、そして、図2は、例示的な心電図(ECG)の追跡を示す。
【0018】
図1Aは、12の標準的な表面誘導から取った、代表的なECG波形を例示し、このうち、6つは、四肢誘導(I、II、III、aVR、aVLおよびaVFと番号付けする)であり、そして、6つは、胸部誘導(chest lead)(前胸部誘導(precordial lead)としても知られる)V1〜V6である。図1Bは、四肢誘導I、IIおよびIIIの位置を示す。図1Cは、四肢誘導I、IIおよびIIIの接続を示す。I誘導は、右から左に向かう、水平軸を有する。誘導aVFは、上から下に向かう垂直軸を有する。誘導IおよびIIは、約30°離れている。III誘導は、右から左に向かって、約60°下に下がっている。図1Dは、四肢誘導aVFの接続を示す。図1Eは、四肢誘導aVLおよびaVRの接続を示す。図1Fは、胸部誘導V1〜V6の配置位置を示す。誘導aVFは、真っ直ぐ下向きに、または、6時の方向に向かう(point)。
【0019】
ベクトル心拍動記録において使用される代表的な診断機器は、T波ベクトルの1つの角度測定値を与える(通常は、強度は与えない。なぜならば、主として興味があるのは、ベクトルの方向であるからである)。読み手は、例えば、誘導の配置についてより完全に議論するために、Dale Dubin,Rapid Interpretation of EKG’s,第4版,Cover Publishing Co.,1989(本明細書中に参考として援用される)を参照する。また、心臓内の3つの動脈は、通常、LAD動脈(左冠状動脈の前室間動脈(left anterior descending artery))、回旋動脈(LCX)および右冠状動脈(RCA)として省略される。
【0020】
図2のパネルA〜Cは、負の陰性T波の例(それぞれ、−0.8mV;−0.2mV;−0.1mV)を示す。パネルDは、等電性のT波(0mV)を示す。パネルEは、(正常な)陽性T波(+0.2mV)を示す。図2のパネルEに示されるように、健康な心臓において、QRSコンプレックスの後にS−Tセグメントが続き、その後に、陽性T波が続く。
【0021】
心臓記憶性の定義(definition)(ペーシングされたQRSの方向に近似する、ペーシング後の洞律動Tベクトル)に基づいて、本発明者らは、右心室のペーシングから生じた心臓記憶が、前方の虚血性TWIのTベクトル方向とは異なる前部のTベクトル方向を有し、それによって、これら2つの間を区別し得るという仮説を立てた。
【0022】
2群の患者について研究した。心臓記憶性の群は、生理的な心拍数において、1:1の房室(AV)伝導を有する、永久的ペースメーカー移植を受けた13人の患者から構成された。この群の患者は、臨床的なECG、または、活性な虚血の生化学的な徴候を有さなかった。心臓記憶は、1週間のAVペーシングにより誘導し、短期間の房室遅延を伴った。房室遅延の程度は、個々に、心室の活性化が、完全に、右心室尖部に位置する心内膜ペースメーカー電極から進むことを可能にするように調節した。ペースメーカーをAAIモードに再プログラミングした後、1週間の時点で、12の誘導のECGを記録した。このECGを、分析に用いた。
【0023】
12の誘導のECGについて、T波の軸、極性、および強度を、心臓記憶性の患者と虚血性の患者との間で比較した。心臓記憶性の群は、虚血の臨床的徴候を有さない11人の患者を含み、そして、永久的ペースメーカーを移植した後、1週間にわたり連続的にペーシングした。虚血性の患者群は、非ST上昇心筋梗塞のために、前胸部TWIに、LAD動脈(左冠状動脈の前室間動脈)インターベンションを受けた、47人の患者から構成された。以下の表1は、ベースラインの患者データを示す。
【0024】
【表1】
既存のECG異常を有する患者(例えば、I誘導およびaVL誘導において負のT波を現す既存の左脚ブロックまたはLVH(左心室肥大)、心房細動、およびST上昇梗塞などの二次的なTWIを有する患者)は除いた。正立の前胸部T波が、以前の追跡に関して記録されていない限りは、左心室肥大に対して電圧の診断基準を有する患者もまた除いた。
【0025】
虚血性の患者群は、3つの主要な冠状動脈(LAD、LCX、RCA)のうちの1つに対して、経皮的な冠状動脈インターベンション(PCI)を受けた患者の間で遡及的に同定される、不安定な狭心症/非Q波心筋梗塞に起因して、虚血性の前胸部TWIを有した。TWIが1つ以上ののECGに存在する場合、徴候の自認(index admission)から最も早いECGを、分析に用いた。
【0026】
Burdick Space Lab and Marquette MAC−5000心電計を用いて、ECGを記録し、これを、手作業で分析した。各誘導において、T波のピーク/T−Pセグメントにより決定された最下点からベースラインまでで、T波の強度を測定した。二相性のT波(例えば、図2のパネルCを参照のこと)の場合、最も大きい負の偏りをピークとみなし、そして、T波を、負と分類した。正負両方の成分が0.05mV未満の強度で存在する場合、T波を等電性(強度=0)と分類した。QTを、リズムストリップ上の利用可能な誘導(代表的には、II誘導およびV5誘導)における3つの連続したRRインターバルについて、手作業で測定し、そして、結果を平均した。前面のQRSおよびTベクトル角を、標準的な自動化ECGプリントアウトから得た。
【0027】
臨床データを、電子機器による医療記録から得た。分析が、徴候の自認の間(虚血性の群)、または、ペースメーカー移植前の1年以内(心臓記憶性の群)に行なわれた場合、心エコー検査法、または、左心室造影による慣用的な臨床上の管理の一部として決定された左心室の駆出分画を分析に用いた。
【0028】
LAD系(近位、中位)内の疑わしい病変(culprit lesion)の位置、および、第1の対角枝(diagonal branch)(D1枝)を、血管造影法の報告書から決定し、そして、(報告書の記述が不明瞭である場合は、)デジタル式の血管造影法フィルムの視覚的な分析により確認した。
【0029】
連続型変数を、平均±SEMおよび分散の比較分析として表した。名目上のデータを、χ2乗検定を用いて比較した。角度の変数(前面のQRSおよびT波の軸)を、Watson−WilliamsのF検定を用いて比較した。0.05未満のP値を、統計的に有意であるとみなした。
【0030】
ベースライン群の特徴を、以下の表2に示す。男性/女性の比は、群間に差はなかった。この虚血性の群の患者は、平均して、心臓記憶性の群の患者よりも若かった(65.3歳 対 72.5歳、p<0.05)。事前のECGは、13人中13人の心臓記憶性の患者、および47人中19人の虚血性の患者において入手可能であった。虚血性の群と心臓記憶性の群との間には、ベースラインのECG異常の罹患率に統計的な有意差はなかった。
【0031】
【表2】
研究に含まれる全ての患者は、心内膜性の右心室尖部I誘導移植を受けていた。右心室内の他の位置は、結果として異なる記憶性T波が生じる、異なるペーシング後のQRSベクトルを生成し得る。心内膜性のペースメーカー移植は、右心室尖部、中位の中隔、または、拍出管を、心室の電極のための部位として利用した。これらの部位のいずれかからのペーシングにより生成されるQRSコンプレックスは、通常、上行性(右心室尖部)または下行性(右心室拍出管)に変動する角度を形成する、左の軸を有する。従って、ペーシング後のTWIは、ペーシング後のI誘導が右心室のいずれの場所において置かれようとも、常に、左前軸を想定する。しかし、右心室の拍出管がペーシングされると、通常は、下行性の誘導において、深いT波反転を認めることはなく、これは、ペーシング後のTWIに代表的であると考えられる。
【0032】
胸部誘導におけるT波の形態、極性、および強度は、2つの患者群の間で類似していた。心臓記憶性の群において、I誘導およびaVL誘導の両方におけるT波は、13人中13人の患者が陽性もしくは等電性であったのに対し、虚血性の群においては、47人中0人の患者が陽性もしくは等電性であった(p<0.001)。存在する場合、虚血性の患者における下行性のTWIは、常に、|TII|>|TIII|のTWIパターンを示したが(この下つき文字は、T波が観察された誘導を示す)、その一方で、心臓記憶性の患者は、一様に、|TIII|>|TII|のTWIパターンを示した。四肢誘導のT波パターンは、心臓記憶性の患者における左上前面Tベクトルと一致しており、そして、虚血性の患者においては、右にあった。
【0033】
16人の患者(57%)が、D1枝を含む虚血性領域に、近位のLAD病変を有した。12人の患者(44%)が、中位のLAD病変、または、孤立したD1病変を有した。近位のLAD病変と中位のLAD病変との間、ならびに、D1領域への関与を有する患者と、有さない患者との間には、T波反転の強度に有意差は見られなかった。
【0034】
CK(クレアチンキナーゼ)レベルは、28人中27人のLAD虚血性の患者において入手可能であった。7人の患者において、CK MB(クレアチンキナーゼ心筋枝)試験を行い、総CKは、<100IU/lであった。10人の患者が、正常範囲(<10ng/ml)内のCK MBを有し、17人の患者(61%)が、13〜366ng/ml(メジアン 46ng/ml)の範囲のCK MB上昇を有した。23人の患者(82%)が、入手可能なトロポニンIもしくはトロポニンTの結果を有した。当然、26人の患者(LAD虚血性の患者の93%)が、トロポニンの上昇を有した(0.2ng/mlから>50ng/mlの範囲、メジアン4.2ng/ml)。1人を除いて全ての患者が、CK MBもしくはトロポニンのいずれかの入手可能な結果を有した。
【0035】
CK MB上昇(<10ng/ml)有りの患者とCK MB上昇(<10ng/ml)なしの患者とで、四肢誘導のいずれかにおけるT波強度には、有意差は観察されなかった。前胸部T波の強度の比較は、正の酵素を有する患者に比べ、正常なCK MBを有する患者において、T波がより深い傾向を示し、誘導V3および誘導V5における差は、統計的有意に達した(以下の表3を参照のこと)。
【0036】
【表3】
本発明者らは、識別不能な前胸部TWIを生じる心臓記憶と虚血とが、それにもかかわらず、前面Tベクトルの方向に基づいて区別され得ることを発見した。前面のTベクトル突出における心臓記憶の結果は、前方性の虚血(aterior ischemia)の結果と正反対であった。正のTaVLと、非陰性のTIとの組み合わせは、全ての心臓記憶性の患者に存在したが、虚血性の患者には存在せず、従って、心臓記憶を、虚血と区別した。I誘導およびaVL誘導における正のT波の存在は、前胸部TWIの虚血性の病因に対する証拠を提供する。
【0037】
ECGの代表的な例を、図3A〜3Bに図示する。図3Aは、虚血性の患者の代表的なECGを示し、一方で、図3Bは、心臓記憶性の患者の代表的なECGを示す。心臓記憶性の追跡および虚血性の追跡の両方は、胸部誘導V1〜V6において、同じ強度の深いT波反転と、形態を示す。前胸部TWIに加え、心臓記憶性の患者は、深い下行性のT波反転を示す。しかし、二相性のT波がまた、虚血性の追跡においてII誘導に存在する。重要な差がI誘導およびaVL誘導の記録の間に見られ、ここで、虚血は、T波反転を示すが、一方で、心臓記憶は、正のT波を表している。
【0038】
心電図データを、以下の表3にまとめる。心拍数の群における圧倒的に多い心房ペーシングに起因して、心拍数は、心臓記憶性の群においてより速かった(p<0.05)。QTインターバルおよびQTcインターバルは、両方とも、群間で統計的に差がなかった。
【0039】
【表3A】
胸部誘導におけるT波のピーク/最下点において測定したT波の強度は、CM群とISC−LAD群との間で識別不能であった(以下に議論される、図4を参照のこと、全ての胸部誘導V1〜V6について、p>0.05)。対照的に、全ての四肢誘導(aVRを除く)は、群間で、T波の強度ならびに極性において、非常に有意な差っを示した(以下に議論される、図5を参照のこと)。最も劇的な差は、aVL誘導において観察され、ここでは、全ての心臓記憶性の患者が正のT波を有したのに対し、虚血性の患者は、1人のみ(p<0.01)が、T波を有し、この1人は、I誘導において負であった。I誘導における正のT波は、13人中11人の心臓記憶性の患者において観察され、残りの2人の患者においては、T波は、等電性であり、そして、負のT波を有する患者はいなかった。正のTaVLと非陰性(正もしくは等電性)TIの組み合わせを有する患者はいなかった。これは、全ての患者について観察された心臓記憶性とは対照的である。
【0040】
本発明者らは、患者にペースメーカーが移植される場合、誘導のうちの1つは、右心室に入るという仮説を立てる。この誘導からの心臓のペーシングは、全ての胸部誘導V1〜V6において、負のQRSコンプレックスを生じる。これが、ペーシングを停止したときにT波が反転する理由である。同じ理由で、心臓記憶は、I誘導およびaVL誘導において正のT波を生じる。虚血は、胸部誘導(V1〜V6)において同様の結果を生じるが、その一方、I誘導およびaVL誘導においては、反対の結果を生じる。これはまた、虚血が、代表的に、右心室ではなく左心室に影響するという事実に起因するものである。従って、虚血は、I誘導およびaVL誘導において負のT波を生じる。言い換えると、心臓記憶により誘導されるT波反転を有する患者において、I誘導およびaVL誘導に関するECGは、正常であるように見える。
【0041】
図4および5は、2つの患者集団(LADの虚血性の患者および心臓記憶性の患者)についてのデータの分布を例示する。白い三角の記号は、心臓記憶性の患者を表し、そして、黒い三角の記号は、虚血性の患者を表す。図4は、胸部誘導V1〜V6においてT波の振幅を示す。群間で、強度の有意差は観察されない。T波の陰性は、特に、V2〜V6誘導について顕著であり、両群ともに、T波の陰性を示す。
【0042】
図5は、四肢誘導におけるT波の振幅を示す。この図においても、黒い記号は、LAD虚血性の患者を表し、そして、白い記号は、心臓記憶性の患者を表す。群間での振幅の差は、統計的に有意である(aVRを除く全ての誘導について、p<0.05)。図5に見られ得るように、I誘導およびaVL誘導は、2つの群間でのT波の最大の対比を示す。I誘導およびaVL誘導の両方に関して、心臓記憶性の群についてのT波は、フラットであるか、正であるかのいずれかであり、その一方で、虚血性の群についてのT波は、代表的には、負であり、そして、一般に、+0.05mV未満である。さらに、III誘導からのECGはまた、同じ程度ではないものの、区別するために使用され得るが、III誘導のT波は、特に、RCA虚血性のTWIを心臓記憶性のものと区別するために有用である。
【0043】
表および図4〜5に示されるように、全ての心臓記憶性の患者は、TIIIがV1〜V6よりも深い、III誘導における陰性T波を有した。
【0044】
群間で、四肢誘導からのT波の振幅において観察される差についての理由は、ベクトル心拍動記録により最も良く理解される。両群における前面QRSの軸は、ほぼ同一である(上記表3を参照のこと)が、T波の軸は、劇的に異なり(また、図6を参照のこと)、群間の平均角度差は、180°に達する(心臓記憶性の群について約71°であるのに対して、虚血性の群について+128°、p<0.01)。
【0045】
図6は、図4および5に要約される情報を表す、極性ヒストグラムである。図6は、前面T軸の分布の極性ヒストグラムを示す。黒い棒は、LAD虚血性の患者であり、斜線の棒は、LCX虚血性の患者であり、そして、白い棒は、心臓記憶性の患者である。円形の点線の各々は、2人の患者を表す。このヒストグラムは、代表的な心臓記憶性の患者が、一般に約−90°の方向のT波ベクトルを示すことを示す。一方で、虚血性の患者は、一般に、約+90°(おそらく、約+75°ぐらいから)〜約+180°(おそらく、約+200°まで)の間のT波ベクトルを示す。群間でのTベクトル方向の差は、統計的に有意である(p<0.01)。
【0046】
四肢誘導において、同じ原理が観察された。LAD患者およびLCX患者の大部分において、T波は、I誘導およびaVL誘導において負である。3人のLAD/LCX患者が、I誘導において正のT波を有し、1人の患者が、aVL誘導において負であり、そして、両方の誘導を有する患者はいなかった。ベクトルの観点から(in vector terms)、これは、T軸の左から右へと移動した(以下の表4および図6を参照のこと)。RCA群における四肢誘導のTWIパターンは、側方性の誘導および下行性の誘導の相対的な関与に依存して、可変性であった。主に側方性の前胸部TWI(前胸部TWIの最大振幅>下行性誘導のTWIの最大振幅)を有する4人の患者は、誘導Iおよび/またはaVLにおいてTWIを示し、そして、LAD群およびLCX群と類似した左から右へのTベクトル軸を示した。主に下行性誘導のTWI(前胸部TWIの最大振幅<TWIIII)を有する3人の患者は、I誘導およびaVL誘導において正のT波を有した。
【0047】
心臓記憶性の群におけるTベクトルは、ペーシング後のQRSコンプレックスの方向に従った。RVAのペーシングは、主に、胸部誘導においては負であり、下行性誘導においては負であり、そして、I誘導およびaVL誘導においては常に正であった、QRSを生じた。結果として、前胸部および下行性の誘導における散在性のTWI、ならびに、I誘導およびaVL誘導における正のT波は、心臓記憶に特徴的であった。これは、LAD群、LCX群、およびRCA群の一部のTベクトル軸とは反対の方向にある、左上位のTベクトル軸へと移動した。移植後の心外膜炎を有する患者を除いて、全ての心臓記憶性の患者は、最大前胸部TWI>TWIIIIを示した。
【0048】
心臓記憶 対 LAD/LCX:群間での最も劇的な差は、aVL誘導において観察された。aVL誘導においては、全ての心臓記憶性の患者が正のT波を有したのに対し、I誘導のT波が負である虚血性の患者は、1人のみであった。I誘導における正のT波は、13人中11人の心臓記憶性の患者において観察され;残りの2人(両者ともに、以前に下壁MIを有した)においては、T波が等電性であり、そして、どちらも、負のT波を有さなかった。aVL誘導における正のT波と、I誘導における正/等電性のT波の組み合わせ(診断基準I+aVL)は、全ての心臓記憶性の患者において見られ、そして、LAD/LCXの患者においては見られなかった(以下の表4を参照のこと)。
【0049】
心臓記憶 対 RCA:7人中4人のRCA患者が、心臓記憶から区別されるLAD/LCX のTWIパターン、および診断基準I+aVLに適合した。1人を除く全ての心臓記憶性の患者とは対照的に、正のTIおよびTaVLを有する残りの3人のRCA患者が、|TWIIII|よりも小さい最大前胸部|TWI|を有した。
【0050】
【表4】
得られた結果に基づくと、一般には、LAD虚血およびLCX虚血についてはI誘導およびaVL誘導を見ること、そして、T波の最大の負の成分を検討することで、十分である。I誘導が、正のT波を示し、かつ、aVL誘導が、正もしくはフラットなT波を示し、その一方で、胸部誘導V1〜V6が、陰性T波を示す場合、患者は、心臓記憶により誘導されたT波反転を有する可能性が最も高い。(ここで、「正」とは、例えば、約0.05mV以上として表されるように選択される。信号は、一般に、ECGプリントアウト上で10ml/mVに校正される)。
【0051】
本発明の1つの実施形態は、上記の原理に従って、2つの型のTWIを区別するために改変された、標準的な診断用ECG(例えば、Burdick Space Lab or Marquetteから入手可能なもの)を用いて、実行され得る。あるいは、上記の議論は主として、外部ECG(例えば、標準的な12の誘導によるECG)を用いることについてなされているが、本発明はまた、移植可能なデバイスにも適用可能である。例えば、移植可能な心臓除細動器(ICD)は、通常、3つの移植可能な電極を有する:右心室内のペーシング電極、上大静脈内のコイル(除細動器)電極、そしてICD自体が電極となり得る(通常は、皮膚の下の胸部領域に配置される)。これらの電極を用いる場合(そして、利用可能な場合、追加の電極も用いて)、移植可能なデバイスは、T波ベクトルの方向を「再構築し」得、そして、上述のように、このT波ベクトルの方向に基づいて、心臓記憶性のTWIと虚血性のTWIとを区別し得る。あるいは、移植可能なデバイスは、T波ベクトルの方向を直接計算することなく、上述の様式で、TWIの2つの型の間の区別にほぼ対応する誘導からのデータに関して、数学的な演算を行い得る。
【0052】
TWIを区別するための別の例示的なハードウェアシステムが、図8に示される。図8を参照すると、ECG処理システム804が記載される。ECG処理システム804は、アナログ・デジタル(A/D)変換基板8050を備えた、プログラムされたマイクロコンピュータ8040を備える。この方法の工程は、例えば、Cプログラミング言語で書かれたソフトウェアプログラムを用いて実行される。プログラムは、上に示された工程に従う。熟練したプログラマーは、本発明の工程を実行するために必要なコードを記述するのに、困難を感じないと考えられる。
【0053】
マイクロコンピュータまたはコンピュータプラットフォーム8040は、ハードウェアユニット8041を備え、これは、中央処理装置(CPU)8042、ランダムアクセスメモリ(RAM)8043、および入出力インターフェース8044を備える。RAM8043はまた、主メモリとも呼ばれる。コンピュータプラットフォーム8040はまた、代表的に、オペレーティングシステム8045を備える。さらに、データ記憶装置8046が備え付けられ得る。記憶装置8046は、光学ディスクまたは磁気テープドライブもしくは磁気ディスクを備え得る。
【0054】
種々の周辺機器(例えば、端末8047、キーボード8048、およびプリンタ8049)が、コンピュータプラットフォーム8040に接続され得る。アナログ・デジタル(A/D)変換器8050が、ECG信号をサンプリングするために使用される。A/D変換器8050はまた、サンプリングの前に、ECG信号の増幅を提供し得る。
【0055】
図7A〜7Bは、本発明の例示的な方法をフローチャートの形式で例示する。図7A〜7Bに示されるように、工程702は、患者からの心電図を検知する工程を包含する。あるいは、事前に記録されたデータが分析され得る。工程704は、胸部誘導の少なくともいくつかにおいて陰性T波を同定する工程を包含する。工程706は、I誘導およびaVL誘導においてT波を同定する工程を包含する。工程708〜710は、I誘導およびaVL誘導が陰性T波を示す場合に、前方の虚血性であると診断する工程を包含する。工程712は、I誘導およびaVL誘導が非陰性T波を示す場合に、心臓記憶性の可能性があると診断する工程を包含する。任意の工程714は、III誘導においてT波を同定する工程を包含する。工程715および720は、II誘導が陰性T波を示す場合に、心臓記憶性であるという診断を確認する工程を包含する。任意の工程722〜724は、III誘導が、前胸部TWIの最大振幅よりも深い陰性T波を示す場合に、虚血性であるという診断を確認する工程を包含する。工程725は、それ以外の場合に、心臓記憶性であるという診断を確認する工程を包含する。
【0056】
I誘導およびaVL誘導におけるT波の陽性は、心臓記憶の発生の活性な部分であることに注意することが重要である。なぜならば、T波の振幅の増加が、正にペーシングされたQRSコンプレックスを有する誘導(例えば、I誘導およびaVL誘導)において観察されるからである。
【0057】
存在する場合、下行性の誘導におけるT波反転のパターンもまた、TWIの病因を区別するのに有用であり得る。前方性の誘導および下行性の誘導におけるECG変化の組み合わせは、広角のLAD虚血に存在し得る。しかし、この場合、T波ベクトルは、右に向かう方向を維持して、III誘導に比べてより大きなT波の陰性をII誘導においてもたらし、これは、心臓記憶性のパターンとは逆である。
【0058】
動物の研究において以前に実証されているように、心臓記憶の発生の初期段階は、T波が、ペーシングされたQRSコンプレックスの方向を仮定する前に、前面においてTベクトルの回転により達成され得る。カルシウムチャネルブロッカーおよびキニジンのような薬物は、心臓記憶の発生およびTベクトルの形状に影響を与える。現在のところ、これらの観察の臨床的な関連性は不明瞭なままである。
【0059】
上記の研究において、疑わしい病変の部位は、近位および中位のLAD(D1より下位)と、D1単独との間で変動した。直感的に、虚血のより側方性のLV(左心室)への広がりは、T波の軸のより右へ向かうシフトをもたらすと予測する。あるいは、遠位のLAD病変が、尖部−中隔の(apical−septal)左心室にのみに灌流する場合、右に向かう軸のシフトは存在し得ない。本発明者らは、D1領域を含む病変とD1領域を含まない病変との間ではなく、近位LAD病変と中位LAD病変との間のT波パターンの差を観察しなかった。従って、LAD病変の位置自体が、I誘導およびaVL誘導におけるT波の陰性の程度に影響を与えることを示唆するデータはない。しかし、遠位のLAD病変を有した虚血性の群における患者はおらず、この研究における患者の総数は、冠状動脈の全ての可能なバリエーションを説明するには不十分である。
【0060】
虚血の程度は、T波の変化の度合いに寄与する別の潜在的な要因である。この研究における虚血性の患者の大部分は、重篤な虚血を意味する、心筋損傷に対する正のマーカーを有した。おそらく、虚血の程度が低ければ、より小さなT波の変化を生じ得る。逆の直感的に(counter−intuitively)、虚血性の患者が、MB+(心筋枝(+))およびMB−(心筋枝(−))の分類に分けられた場合、四肢誘導のT波振幅に、2群間の差は見られなかった。さらに、マーカー陰性の患者は、マーカー陽性の患者よりも深い前胸部TWIを有した(上記の表4を参照のこと)。この知見は、TWIの強度とMI(心筋梗塞)の酵素サイズと機能的な回復との間に、逆の関係性を示す、心筋梗塞を有する患者における観察と一致しており、T波反転が、存続能力のある気絶心筋の存在を示すことを示唆する。従って、より程度の低い虚血は、虚血性の患者におけるT波の変化を変えないようである。
【0061】
予備的な観察は、心臓記憶が、これらの状態に関連する異常なTベクトルを変化させないが、心臓記憶の発生は、おそらくは、ペーシング部位に近い存続能力のある心筋がないことに起因して、以前に下行性の心筋梗塞を有した患者において変更され得ないということを示唆する。
【0062】
また、前面のTベクトルの方向は、虚血性の前胸部TWIと非虚血性(心臓記憶以外)の前胸部TWIとを区別する際に有用であり得る可能性もある。前胸部のECGマッピングを用いるいくつかの研究は、Iマッピングパターン(四分円の左上に陰性T波があり、そして、四分円の右下に正のT波がある)が、虚血性のTWIを大いに予測することを示した。非虚血性のTWIは、Nパターン(四分円の右下にTWIがあり、そして、四分円の左上に正のT波がある)により特徴付けられた。これらの単極性のマップパターンは、以前に公開されたECGにおいて実証されるように、おそらく、双極性のI誘導、aVL誘導における、正(N型)および負(I型)のT波と一致する。
【0063】
本発明は、LVH(虚血性の変化を最も頻繁に混同させるもの)に関連する再分極の変化を分離することを補助し得ないことに注意されたい。なぜならば、これらは、類似する前面のT波軸を有するからである。前壁の虚血は、一般に、虚血の最も危険な形態とみなされる。前壁の虚血は、LAD動脈(左冠状動脈の前室間動脈)の狭窄に関連する。
【0064】
異なる位置の虚血は、T波反転の異なるパターンを生じ得ることに注意すべきである。本発明は、他の型の虚血にも適用可能であるが、特に、LAD虚血に適用可能である。心臓の3つの動脈(LAD動脈、回旋動脈(LCX)および右冠状動脈(RCA))の中でも、LCX虚血の場合、胸部誘導に負のT波がある場合と、ない場合がある。従って、LAD虚血と比べて、TWIの周波数は、LCX虚血の場合よりも低いことを記憶しておくべきである。この場合の約40%において、LCX虚血には、胸部誘導におけるT反転が伴う。
【0065】
まとめると、本発明は、前面のT波ベクトルの対向する方向に基づいて、前胸部の虚血性TWIをペーシング後のTWIと区別するという利点を備える。本発明者らは、虚血性のTWIが、右に向かう前面のT波軸により特徴付けられ、その一方で、心臓記憶性の患者においては、Tベクトルの方向は、左に向かうことを実証した。これらのベクトルの概念を念頭において、毎日の臨床上の実務において容易に適用可能な、標準的な12の誘導によるECGの診断基準を用いて、単純な区別の規則が、考え出された。全ての心臓記憶性の患者、および、1人のみの虚血性の患者が、aVL誘導において正のT波を有した。しかし、aVL誘導において正のT波を有した1人の虚血性の患者は、I誘導において負のT波を示し、これは、心臓記憶性の患者においては見られないパターンであった。従って、1)aVL誘導における正のT波と、2)I誘導における非陰性(正もしくは等電性)T波の組み合わせは、心臓記憶性の患者を、虚血性の患者から完全に区別した。T波における最も負の点を用いる場合、通常、前面のT波軸(群間で最小の重なりを有した)を用いる場合よりも良好に区別される。このことは、T波軸の計算が、所定の誘導における総T波面積(負および正の成分)に基づくために生じることである。この計算は、二相性のT波の場合、末端のT波陰性の効果を薄める。
【0066】
標準的な12の誘導によるECGの解釈に対して、ベクトル心電図の原理を適用することにより、虚血性のTWIと、ペーシング後の前胸部TWIとを区別するための簡単なアルゴリズムが開発された。このようなベクトル心電図の情報の使用は、TWIの差次的な診断を有意に改善し得る。
【0067】
本発明の種々の修飾物、適応物、および代替的な実施形態が、本発明の範囲および精神の範囲内でなされ得ることもまた理解されるべきである。本発明はさらに、添付の特許請求の範囲により規定される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1A】図1A〜1Fは、ECG誘導の配置を例示する。
【図1B】図1A〜1Fは、ECG誘導の配置を例示する。
【図1C】図1A〜1Fは、ECG誘導の配置を例示する。
【図1D】図1A〜1Fは、ECG誘導の配置を例示する。
【図1E】図1A〜1Fは、ECG誘導の配置を例示する。
【図1F】図1A〜1Fは、ECG誘導の配置を例示する。
【図2】図2は、T波の分類を示す。
【図3A】図3Aは、虚血性の患者の代表的なECGを示す。
【図3B】図3Bは、心臓記憶性の患者の代表的なECGを示す。
【図4】図4は、胸部誘導(V1〜V6)におけるT波の強度を示す。
【図5】図5は、四肢誘導におけるT波の強度を示す。
【図6】図6は、前面T軸分布の円形ヒストグラムを示す。
【図7A】図7A〜7Bは、本発明の例示的な方法を、フローチャートの形で例示する。
【図7B】図7A〜7Bは、本発明の例示的な方法を、フローチャートの形で例示する。
【図8】図8は、TWIを区別するための例示的なハードウェアシステムを示す。
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、心電図に関し、より具体的には、心臓記憶(cardiac memory)性のT波反転を、虚血性のT波反転から区別するためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(関連技術)
T波反転(TWI)は、正常な変異から、肥大型心筋症、心外膜炎、および生命にかかわる心筋虚血まで、広範囲にわたる病因を有する。TWIの大半は、「非特異的なST−T波異常」のカテゴリーに分類され、そして、一般病院の集団における異常な追跡の50%〜70%を占める。これらのECGの解釈は、主に、利用可能な臨床データとの相関に基づいている。
【0003】
心臓記憶として知られる、ペーシング後の前胸部T波反転は、前方心筋虚血と類似しており、そして、これら2つを適切に区別する、心電図の診断基準は、確立されていない。これらの現象は、心臓病専門医には周知である。心臓記憶は、通常、心臓が、ある所定の時間の間ペーシングされ、次いで、ペーシングが停止された場合に示される。心臓記憶の効果は、通常、どのぐらいの期間にわたって心臓がペーシングされていたかに依存し、そして、2〜3時間から、数週間のいずれかにわたって継続し得る。しばしば、ペーシング後のT波は、反転しているようである。これは、一般に、T波反転、すなわちTWIと呼ばれている。同じようなTWIの作用が、虚血性の患者においてもしばしば観察されている。特に、ペーシング後の前胸部T波反転は、前方心筋虚血と類似している。
【0004】
心臓記憶は、前胸部TWIの良性の原因の1つである。心臓記憶のECGパターンは、心室の異常な活性化(例えば、心室のペーシング、一次的な左脚ブロック、心室不整脈、またはWPW(ウォルフ−パーキンソン−ホワイト症候群))期間の後に、洞律動が再開されると、現れる。心臓記憶の多くの一般的な原因は、心室のペーシングである。心臓記憶のT波の変化は、ペーシングが中断した後に、長期にわたり持続し得るので、その原因の関係性はしばしば不明瞭である。心臓記憶性のTWIの良性の性質は、十分に確立されているものの、ペーシングにより誘導された心臓記憶を、前方壁の虚血および梗塞から生じるT波と区別するための信頼できる診断の機構は、記載されていない。
【0005】
心臓記憶により誘導されたT波反転は、一般に、通常経時的に消失する無害な減少であるが、虚血は、深刻な問題であり、通常、冠状動脈血管形成術、ステント置換術(stenting)または冠状動脈バイパス手術によって処置される。虚血は、おそらく、T波反転の最も危険な原因である。
【0006】
TWIの2つの原因の間を区別すること、ならびに、ペースメーカーを使用する患者におけるTWIの原因を区別することにおける困難さに起因して、多くの医師は、T波反転を認めると、高価でかつ不必要な、カテーテル処置、血管造影法、入院、および、虚血を除外するための、時間がかかり、かつ高価な評価、ならびに、T波反転が、虚血ではなく心臓記憶に起因するものであるということを医師が知っていれば行なう必要のなかった他の試験を行なうことを余儀なくされる。実際、多くの医師は、陰性T波を認めると、最悪の場合を想定する。同様に、自動化された診断機器の多くは、陰性T波を検出すると、虚血の可能性があるという診断を与える。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、当該技術分野には、良性の、心臓記憶により誘導されるT波反転と、虚血により誘導される反転とを区別する簡単な方法に対する必要性が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(発明の要旨)
本発明は、関連技術の欠点の1つ以上を実質的に除去する、虚血性のT波反転の、非虚血性のT波反転との区別に関する。
【0009】
より具体的には、本発明の例示的な実施形態において、虚血性の陰性T波と心臓記憶性の陰性T波とを区別する方法は、以下:患者のECGを検知する工程、少なくとも1つの胸部誘導において陰性T波を同定する工程、少なくとも2つの四肢誘導において非陰性T波を同定する工程、少なくとも1つの胸部誘導が陰性T波を含む場合に、虚血性であると診断する工程、および、少なくとも1つの四肢誘導が非陰性T波を含む場合に、心臓記憶性であると診断する工程、を包含する。2つの四肢誘導のうちの一方が、I誘導であり得、そして、もう一方が、aVL誘導であり得る。この方法は、さらに、III誘導においてT波を同定する工程、III誘導が、胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示す場合に、虚血性であるという診断を確認する工程、および、III誘導が、胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示さない場合に、心臓記憶性であるという診断を確認する工程、を包含し得る。
【0010】
心臓における、虚血性の効果と心臓記憶性の効果とを区別する方法の代替的な実施形態は、以下:心電図(ECG)データを受信する工程、ECGデータから、T波ベクトルの方向を計算する工程、T波ベクトルが、約+75°〜約+200°の間(好ましくは、+90°〜+180°の間)である場合に、虚血性であると診断する工程、および、T波ベクトルが、約0°〜−90°の間である場合に、心臓記憶性であると診断する工程、を包含する。
【0011】
本発明はまた、虚血性の陰性T波と心臓記憶性の陰性T波とを区別するためのシステムを包含し、該システムは、以下:胸部誘導において陰性T波を同定するための手段、四肢誘導において非陰性T波を同定するための手段、胸部誘導が陰性T波を含む場合に、虚血性であると診断するための手段、および、四肢誘導が非陰性T波を含む場合に、心臓記憶性であると診断するための手段、を備える。
【0012】
上記システムはまた、必要に応じて、III誘導においてT波を同定するための手段、III誘導が、胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示す場合に、虚血性であるという診断を確認するための手段、および、III誘導が、胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示さない場合に、心臓記憶性であるという診断を確認するための手段、を備え得る。
【0013】
本発明のさらなる特徴および利点は、以下の明細書中に示され、そして、部分的には、明細書から明らかであるか、または、本発明を実施することによって理解され得る。本発明の利点は、本明細書および特許請求の範囲ならびに添付の図面に具体的に示される構造によって、認識および達成される。
【0014】
上述の一般的な説明および以下の詳細な説明の両方は、例示的かつ説明的なものであり、そして、特許請求される本発明のさらなる説明を提供することが意図されることが、理解されるべきである。
【0015】
本発明のさらなる理解を提供するために含められ、本明細書の一部を構成する、添付の図面は、本発明の実施形態を例示し、そして、本明細書と共に、本発明の原理を説明するのに役立つ。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
(発明の詳細な説明)
ここで、本発明の好ましい実施形態(その例は、添付の図面に例示される)に対して、詳しく参照がなされる。
【0017】
図1A〜1Eは、心拍動記録において使用される用語を例示し、そして、図2は、例示的な心電図(ECG)の追跡を示す。
【0018】
図1Aは、12の標準的な表面誘導から取った、代表的なECG波形を例示し、このうち、6つは、四肢誘導(I、II、III、aVR、aVLおよびaVFと番号付けする)であり、そして、6つは、胸部誘導(chest lead)(前胸部誘導(precordial lead)としても知られる)V1〜V6である。図1Bは、四肢誘導I、IIおよびIIIの位置を示す。図1Cは、四肢誘導I、IIおよびIIIの接続を示す。I誘導は、右から左に向かう、水平軸を有する。誘導aVFは、上から下に向かう垂直軸を有する。誘導IおよびIIは、約30°離れている。III誘導は、右から左に向かって、約60°下に下がっている。図1Dは、四肢誘導aVFの接続を示す。図1Eは、四肢誘導aVLおよびaVRの接続を示す。図1Fは、胸部誘導V1〜V6の配置位置を示す。誘導aVFは、真っ直ぐ下向きに、または、6時の方向に向かう(point)。
【0019】
ベクトル心拍動記録において使用される代表的な診断機器は、T波ベクトルの1つの角度測定値を与える(通常は、強度は与えない。なぜならば、主として興味があるのは、ベクトルの方向であるからである)。読み手は、例えば、誘導の配置についてより完全に議論するために、Dale Dubin,Rapid Interpretation of EKG’s,第4版,Cover Publishing Co.,1989(本明細書中に参考として援用される)を参照する。また、心臓内の3つの動脈は、通常、LAD動脈(左冠状動脈の前室間動脈(left anterior descending artery))、回旋動脈(LCX)および右冠状動脈(RCA)として省略される。
【0020】
図2のパネルA〜Cは、負の陰性T波の例(それぞれ、−0.8mV;−0.2mV;−0.1mV)を示す。パネルDは、等電性のT波(0mV)を示す。パネルEは、(正常な)陽性T波(+0.2mV)を示す。図2のパネルEに示されるように、健康な心臓において、QRSコンプレックスの後にS−Tセグメントが続き、その後に、陽性T波が続く。
【0021】
心臓記憶性の定義(definition)(ペーシングされたQRSの方向に近似する、ペーシング後の洞律動Tベクトル)に基づいて、本発明者らは、右心室のペーシングから生じた心臓記憶が、前方の虚血性TWIのTベクトル方向とは異なる前部のTベクトル方向を有し、それによって、これら2つの間を区別し得るという仮説を立てた。
【0022】
2群の患者について研究した。心臓記憶性の群は、生理的な心拍数において、1:1の房室(AV)伝導を有する、永久的ペースメーカー移植を受けた13人の患者から構成された。この群の患者は、臨床的なECG、または、活性な虚血の生化学的な徴候を有さなかった。心臓記憶は、1週間のAVペーシングにより誘導し、短期間の房室遅延を伴った。房室遅延の程度は、個々に、心室の活性化が、完全に、右心室尖部に位置する心内膜ペースメーカー電極から進むことを可能にするように調節した。ペースメーカーをAAIモードに再プログラミングした後、1週間の時点で、12の誘導のECGを記録した。このECGを、分析に用いた。
【0023】
12の誘導のECGについて、T波の軸、極性、および強度を、心臓記憶性の患者と虚血性の患者との間で比較した。心臓記憶性の群は、虚血の臨床的徴候を有さない11人の患者を含み、そして、永久的ペースメーカーを移植した後、1週間にわたり連続的にペーシングした。虚血性の患者群は、非ST上昇心筋梗塞のために、前胸部TWIに、LAD動脈(左冠状動脈の前室間動脈)インターベンションを受けた、47人の患者から構成された。以下の表1は、ベースラインの患者データを示す。
【0024】
【表1】
既存のECG異常を有する患者(例えば、I誘導およびaVL誘導において負のT波を現す既存の左脚ブロックまたはLVH(左心室肥大)、心房細動、およびST上昇梗塞などの二次的なTWIを有する患者)は除いた。正立の前胸部T波が、以前の追跡に関して記録されていない限りは、左心室肥大に対して電圧の診断基準を有する患者もまた除いた。
【0025】
虚血性の患者群は、3つの主要な冠状動脈(LAD、LCX、RCA)のうちの1つに対して、経皮的な冠状動脈インターベンション(PCI)を受けた患者の間で遡及的に同定される、不安定な狭心症/非Q波心筋梗塞に起因して、虚血性の前胸部TWIを有した。TWIが1つ以上ののECGに存在する場合、徴候の自認(index admission)から最も早いECGを、分析に用いた。
【0026】
Burdick Space Lab and Marquette MAC−5000心電計を用いて、ECGを記録し、これを、手作業で分析した。各誘導において、T波のピーク/T−Pセグメントにより決定された最下点からベースラインまでで、T波の強度を測定した。二相性のT波(例えば、図2のパネルCを参照のこと)の場合、最も大きい負の偏りをピークとみなし、そして、T波を、負と分類した。正負両方の成分が0.05mV未満の強度で存在する場合、T波を等電性(強度=0)と分類した。QTを、リズムストリップ上の利用可能な誘導(代表的には、II誘導およびV5誘導)における3つの連続したRRインターバルについて、手作業で測定し、そして、結果を平均した。前面のQRSおよびTベクトル角を、標準的な自動化ECGプリントアウトから得た。
【0027】
臨床データを、電子機器による医療記録から得た。分析が、徴候の自認の間(虚血性の群)、または、ペースメーカー移植前の1年以内(心臓記憶性の群)に行なわれた場合、心エコー検査法、または、左心室造影による慣用的な臨床上の管理の一部として決定された左心室の駆出分画を分析に用いた。
【0028】
LAD系(近位、中位)内の疑わしい病変(culprit lesion)の位置、および、第1の対角枝(diagonal branch)(D1枝)を、血管造影法の報告書から決定し、そして、(報告書の記述が不明瞭である場合は、)デジタル式の血管造影法フィルムの視覚的な分析により確認した。
【0029】
連続型変数を、平均±SEMおよび分散の比較分析として表した。名目上のデータを、χ2乗検定を用いて比較した。角度の変数(前面のQRSおよびT波の軸)を、Watson−WilliamsのF検定を用いて比較した。0.05未満のP値を、統計的に有意であるとみなした。
【0030】
ベースライン群の特徴を、以下の表2に示す。男性/女性の比は、群間に差はなかった。この虚血性の群の患者は、平均して、心臓記憶性の群の患者よりも若かった(65.3歳 対 72.5歳、p<0.05)。事前のECGは、13人中13人の心臓記憶性の患者、および47人中19人の虚血性の患者において入手可能であった。虚血性の群と心臓記憶性の群との間には、ベースラインのECG異常の罹患率に統計的な有意差はなかった。
【0031】
【表2】
研究に含まれる全ての患者は、心内膜性の右心室尖部I誘導移植を受けていた。右心室内の他の位置は、結果として異なる記憶性T波が生じる、異なるペーシング後のQRSベクトルを生成し得る。心内膜性のペースメーカー移植は、右心室尖部、中位の中隔、または、拍出管を、心室の電極のための部位として利用した。これらの部位のいずれかからのペーシングにより生成されるQRSコンプレックスは、通常、上行性(右心室尖部)または下行性(右心室拍出管)に変動する角度を形成する、左の軸を有する。従って、ペーシング後のTWIは、ペーシング後のI誘導が右心室のいずれの場所において置かれようとも、常に、左前軸を想定する。しかし、右心室の拍出管がペーシングされると、通常は、下行性の誘導において、深いT波反転を認めることはなく、これは、ペーシング後のTWIに代表的であると考えられる。
【0032】
胸部誘導におけるT波の形態、極性、および強度は、2つの患者群の間で類似していた。心臓記憶性の群において、I誘導およびaVL誘導の両方におけるT波は、13人中13人の患者が陽性もしくは等電性であったのに対し、虚血性の群においては、47人中0人の患者が陽性もしくは等電性であった(p<0.001)。存在する場合、虚血性の患者における下行性のTWIは、常に、|TII|>|TIII|のTWIパターンを示したが(この下つき文字は、T波が観察された誘導を示す)、その一方で、心臓記憶性の患者は、一様に、|TIII|>|TII|のTWIパターンを示した。四肢誘導のT波パターンは、心臓記憶性の患者における左上前面Tベクトルと一致しており、そして、虚血性の患者においては、右にあった。
【0033】
16人の患者(57%)が、D1枝を含む虚血性領域に、近位のLAD病変を有した。12人の患者(44%)が、中位のLAD病変、または、孤立したD1病変を有した。近位のLAD病変と中位のLAD病変との間、ならびに、D1領域への関与を有する患者と、有さない患者との間には、T波反転の強度に有意差は見られなかった。
【0034】
CK(クレアチンキナーゼ)レベルは、28人中27人のLAD虚血性の患者において入手可能であった。7人の患者において、CK MB(クレアチンキナーゼ心筋枝)試験を行い、総CKは、<100IU/lであった。10人の患者が、正常範囲(<10ng/ml)内のCK MBを有し、17人の患者(61%)が、13〜366ng/ml(メジアン 46ng/ml)の範囲のCK MB上昇を有した。23人の患者(82%)が、入手可能なトロポニンIもしくはトロポニンTの結果を有した。当然、26人の患者(LAD虚血性の患者の93%)が、トロポニンの上昇を有した(0.2ng/mlから>50ng/mlの範囲、メジアン4.2ng/ml)。1人を除いて全ての患者が、CK MBもしくはトロポニンのいずれかの入手可能な結果を有した。
【0035】
CK MB上昇(<10ng/ml)有りの患者とCK MB上昇(<10ng/ml)なしの患者とで、四肢誘導のいずれかにおけるT波強度には、有意差は観察されなかった。前胸部T波の強度の比較は、正の酵素を有する患者に比べ、正常なCK MBを有する患者において、T波がより深い傾向を示し、誘導V3および誘導V5における差は、統計的有意に達した(以下の表3を参照のこと)。
【0036】
【表3】
本発明者らは、識別不能な前胸部TWIを生じる心臓記憶と虚血とが、それにもかかわらず、前面Tベクトルの方向に基づいて区別され得ることを発見した。前面のTベクトル突出における心臓記憶の結果は、前方性の虚血(aterior ischemia)の結果と正反対であった。正のTaVLと、非陰性のTIとの組み合わせは、全ての心臓記憶性の患者に存在したが、虚血性の患者には存在せず、従って、心臓記憶を、虚血と区別した。I誘導およびaVL誘導における正のT波の存在は、前胸部TWIの虚血性の病因に対する証拠を提供する。
【0037】
ECGの代表的な例を、図3A〜3Bに図示する。図3Aは、虚血性の患者の代表的なECGを示し、一方で、図3Bは、心臓記憶性の患者の代表的なECGを示す。心臓記憶性の追跡および虚血性の追跡の両方は、胸部誘導V1〜V6において、同じ強度の深いT波反転と、形態を示す。前胸部TWIに加え、心臓記憶性の患者は、深い下行性のT波反転を示す。しかし、二相性のT波がまた、虚血性の追跡においてII誘導に存在する。重要な差がI誘導およびaVL誘導の記録の間に見られ、ここで、虚血は、T波反転を示すが、一方で、心臓記憶は、正のT波を表している。
【0038】
心電図データを、以下の表3にまとめる。心拍数の群における圧倒的に多い心房ペーシングに起因して、心拍数は、心臓記憶性の群においてより速かった(p<0.05)。QTインターバルおよびQTcインターバルは、両方とも、群間で統計的に差がなかった。
【0039】
【表3A】
胸部誘導におけるT波のピーク/最下点において測定したT波の強度は、CM群とISC−LAD群との間で識別不能であった(以下に議論される、図4を参照のこと、全ての胸部誘導V1〜V6について、p>0.05)。対照的に、全ての四肢誘導(aVRを除く)は、群間で、T波の強度ならびに極性において、非常に有意な差っを示した(以下に議論される、図5を参照のこと)。最も劇的な差は、aVL誘導において観察され、ここでは、全ての心臓記憶性の患者が正のT波を有したのに対し、虚血性の患者は、1人のみ(p<0.01)が、T波を有し、この1人は、I誘導において負であった。I誘導における正のT波は、13人中11人の心臓記憶性の患者において観察され、残りの2人の患者においては、T波は、等電性であり、そして、負のT波を有する患者はいなかった。正のTaVLと非陰性(正もしくは等電性)TIの組み合わせを有する患者はいなかった。これは、全ての患者について観察された心臓記憶性とは対照的である。
【0040】
本発明者らは、患者にペースメーカーが移植される場合、誘導のうちの1つは、右心室に入るという仮説を立てる。この誘導からの心臓のペーシングは、全ての胸部誘導V1〜V6において、負のQRSコンプレックスを生じる。これが、ペーシングを停止したときにT波が反転する理由である。同じ理由で、心臓記憶は、I誘導およびaVL誘導において正のT波を生じる。虚血は、胸部誘導(V1〜V6)において同様の結果を生じるが、その一方、I誘導およびaVL誘導においては、反対の結果を生じる。これはまた、虚血が、代表的に、右心室ではなく左心室に影響するという事実に起因するものである。従って、虚血は、I誘導およびaVL誘導において負のT波を生じる。言い換えると、心臓記憶により誘導されるT波反転を有する患者において、I誘導およびaVL誘導に関するECGは、正常であるように見える。
【0041】
図4および5は、2つの患者集団(LADの虚血性の患者および心臓記憶性の患者)についてのデータの分布を例示する。白い三角の記号は、心臓記憶性の患者を表し、そして、黒い三角の記号は、虚血性の患者を表す。図4は、胸部誘導V1〜V6においてT波の振幅を示す。群間で、強度の有意差は観察されない。T波の陰性は、特に、V2〜V6誘導について顕著であり、両群ともに、T波の陰性を示す。
【0042】
図5は、四肢誘導におけるT波の振幅を示す。この図においても、黒い記号は、LAD虚血性の患者を表し、そして、白い記号は、心臓記憶性の患者を表す。群間での振幅の差は、統計的に有意である(aVRを除く全ての誘導について、p<0.05)。図5に見られ得るように、I誘導およびaVL誘導は、2つの群間でのT波の最大の対比を示す。I誘導およびaVL誘導の両方に関して、心臓記憶性の群についてのT波は、フラットであるか、正であるかのいずれかであり、その一方で、虚血性の群についてのT波は、代表的には、負であり、そして、一般に、+0.05mV未満である。さらに、III誘導からのECGはまた、同じ程度ではないものの、区別するために使用され得るが、III誘導のT波は、特に、RCA虚血性のTWIを心臓記憶性のものと区別するために有用である。
【0043】
表および図4〜5に示されるように、全ての心臓記憶性の患者は、TIIIがV1〜V6よりも深い、III誘導における陰性T波を有した。
【0044】
群間で、四肢誘導からのT波の振幅において観察される差についての理由は、ベクトル心拍動記録により最も良く理解される。両群における前面QRSの軸は、ほぼ同一である(上記表3を参照のこと)が、T波の軸は、劇的に異なり(また、図6を参照のこと)、群間の平均角度差は、180°に達する(心臓記憶性の群について約71°であるのに対して、虚血性の群について+128°、p<0.01)。
【0045】
図6は、図4および5に要約される情報を表す、極性ヒストグラムである。図6は、前面T軸の分布の極性ヒストグラムを示す。黒い棒は、LAD虚血性の患者であり、斜線の棒は、LCX虚血性の患者であり、そして、白い棒は、心臓記憶性の患者である。円形の点線の各々は、2人の患者を表す。このヒストグラムは、代表的な心臓記憶性の患者が、一般に約−90°の方向のT波ベクトルを示すことを示す。一方で、虚血性の患者は、一般に、約+90°(おそらく、約+75°ぐらいから)〜約+180°(おそらく、約+200°まで)の間のT波ベクトルを示す。群間でのTベクトル方向の差は、統計的に有意である(p<0.01)。
【0046】
四肢誘導において、同じ原理が観察された。LAD患者およびLCX患者の大部分において、T波は、I誘導およびaVL誘導において負である。3人のLAD/LCX患者が、I誘導において正のT波を有し、1人の患者が、aVL誘導において負であり、そして、両方の誘導を有する患者はいなかった。ベクトルの観点から(in vector terms)、これは、T軸の左から右へと移動した(以下の表4および図6を参照のこと)。RCA群における四肢誘導のTWIパターンは、側方性の誘導および下行性の誘導の相対的な関与に依存して、可変性であった。主に側方性の前胸部TWI(前胸部TWIの最大振幅>下行性誘導のTWIの最大振幅)を有する4人の患者は、誘導Iおよび/またはaVLにおいてTWIを示し、そして、LAD群およびLCX群と類似した左から右へのTベクトル軸を示した。主に下行性誘導のTWI(前胸部TWIの最大振幅<TWIIII)を有する3人の患者は、I誘導およびaVL誘導において正のT波を有した。
【0047】
心臓記憶性の群におけるTベクトルは、ペーシング後のQRSコンプレックスの方向に従った。RVAのペーシングは、主に、胸部誘導においては負であり、下行性誘導においては負であり、そして、I誘導およびaVL誘導においては常に正であった、QRSを生じた。結果として、前胸部および下行性の誘導における散在性のTWI、ならびに、I誘導およびaVL誘導における正のT波は、心臓記憶に特徴的であった。これは、LAD群、LCX群、およびRCA群の一部のTベクトル軸とは反対の方向にある、左上位のTベクトル軸へと移動した。移植後の心外膜炎を有する患者を除いて、全ての心臓記憶性の患者は、最大前胸部TWI>TWIIIIを示した。
【0048】
心臓記憶 対 LAD/LCX:群間での最も劇的な差は、aVL誘導において観察された。aVL誘導においては、全ての心臓記憶性の患者が正のT波を有したのに対し、I誘導のT波が負である虚血性の患者は、1人のみであった。I誘導における正のT波は、13人中11人の心臓記憶性の患者において観察され;残りの2人(両者ともに、以前に下壁MIを有した)においては、T波が等電性であり、そして、どちらも、負のT波を有さなかった。aVL誘導における正のT波と、I誘導における正/等電性のT波の組み合わせ(診断基準I+aVL)は、全ての心臓記憶性の患者において見られ、そして、LAD/LCXの患者においては見られなかった(以下の表4を参照のこと)。
【0049】
心臓記憶 対 RCA:7人中4人のRCA患者が、心臓記憶から区別されるLAD/LCX のTWIパターン、および診断基準I+aVLに適合した。1人を除く全ての心臓記憶性の患者とは対照的に、正のTIおよびTaVLを有する残りの3人のRCA患者が、|TWIIII|よりも小さい最大前胸部|TWI|を有した。
【0050】
【表4】
得られた結果に基づくと、一般には、LAD虚血およびLCX虚血についてはI誘導およびaVL誘導を見ること、そして、T波の最大の負の成分を検討することで、十分である。I誘導が、正のT波を示し、かつ、aVL誘導が、正もしくはフラットなT波を示し、その一方で、胸部誘導V1〜V6が、陰性T波を示す場合、患者は、心臓記憶により誘導されたT波反転を有する可能性が最も高い。(ここで、「正」とは、例えば、約0.05mV以上として表されるように選択される。信号は、一般に、ECGプリントアウト上で10ml/mVに校正される)。
【0051】
本発明の1つの実施形態は、上記の原理に従って、2つの型のTWIを区別するために改変された、標準的な診断用ECG(例えば、Burdick Space Lab or Marquetteから入手可能なもの)を用いて、実行され得る。あるいは、上記の議論は主として、外部ECG(例えば、標準的な12の誘導によるECG)を用いることについてなされているが、本発明はまた、移植可能なデバイスにも適用可能である。例えば、移植可能な心臓除細動器(ICD)は、通常、3つの移植可能な電極を有する:右心室内のペーシング電極、上大静脈内のコイル(除細動器)電極、そしてICD自体が電極となり得る(通常は、皮膚の下の胸部領域に配置される)。これらの電極を用いる場合(そして、利用可能な場合、追加の電極も用いて)、移植可能なデバイスは、T波ベクトルの方向を「再構築し」得、そして、上述のように、このT波ベクトルの方向に基づいて、心臓記憶性のTWIと虚血性のTWIとを区別し得る。あるいは、移植可能なデバイスは、T波ベクトルの方向を直接計算することなく、上述の様式で、TWIの2つの型の間の区別にほぼ対応する誘導からのデータに関して、数学的な演算を行い得る。
【0052】
TWIを区別するための別の例示的なハードウェアシステムが、図8に示される。図8を参照すると、ECG処理システム804が記載される。ECG処理システム804は、アナログ・デジタル(A/D)変換基板8050を備えた、プログラムされたマイクロコンピュータ8040を備える。この方法の工程は、例えば、Cプログラミング言語で書かれたソフトウェアプログラムを用いて実行される。プログラムは、上に示された工程に従う。熟練したプログラマーは、本発明の工程を実行するために必要なコードを記述するのに、困難を感じないと考えられる。
【0053】
マイクロコンピュータまたはコンピュータプラットフォーム8040は、ハードウェアユニット8041を備え、これは、中央処理装置(CPU)8042、ランダムアクセスメモリ(RAM)8043、および入出力インターフェース8044を備える。RAM8043はまた、主メモリとも呼ばれる。コンピュータプラットフォーム8040はまた、代表的に、オペレーティングシステム8045を備える。さらに、データ記憶装置8046が備え付けられ得る。記憶装置8046は、光学ディスクまたは磁気テープドライブもしくは磁気ディスクを備え得る。
【0054】
種々の周辺機器(例えば、端末8047、キーボード8048、およびプリンタ8049)が、コンピュータプラットフォーム8040に接続され得る。アナログ・デジタル(A/D)変換器8050が、ECG信号をサンプリングするために使用される。A/D変換器8050はまた、サンプリングの前に、ECG信号の増幅を提供し得る。
【0055】
図7A〜7Bは、本発明の例示的な方法をフローチャートの形式で例示する。図7A〜7Bに示されるように、工程702は、患者からの心電図を検知する工程を包含する。あるいは、事前に記録されたデータが分析され得る。工程704は、胸部誘導の少なくともいくつかにおいて陰性T波を同定する工程を包含する。工程706は、I誘導およびaVL誘導においてT波を同定する工程を包含する。工程708〜710は、I誘導およびaVL誘導が陰性T波を示す場合に、前方の虚血性であると診断する工程を包含する。工程712は、I誘導およびaVL誘導が非陰性T波を示す場合に、心臓記憶性の可能性があると診断する工程を包含する。任意の工程714は、III誘導においてT波を同定する工程を包含する。工程715および720は、II誘導が陰性T波を示す場合に、心臓記憶性であるという診断を確認する工程を包含する。任意の工程722〜724は、III誘導が、前胸部TWIの最大振幅よりも深い陰性T波を示す場合に、虚血性であるという診断を確認する工程を包含する。工程725は、それ以外の場合に、心臓記憶性であるという診断を確認する工程を包含する。
【0056】
I誘導およびaVL誘導におけるT波の陽性は、心臓記憶の発生の活性な部分であることに注意することが重要である。なぜならば、T波の振幅の増加が、正にペーシングされたQRSコンプレックスを有する誘導(例えば、I誘導およびaVL誘導)において観察されるからである。
【0057】
存在する場合、下行性の誘導におけるT波反転のパターンもまた、TWIの病因を区別するのに有用であり得る。前方性の誘導および下行性の誘導におけるECG変化の組み合わせは、広角のLAD虚血に存在し得る。しかし、この場合、T波ベクトルは、右に向かう方向を維持して、III誘導に比べてより大きなT波の陰性をII誘導においてもたらし、これは、心臓記憶性のパターンとは逆である。
【0058】
動物の研究において以前に実証されているように、心臓記憶の発生の初期段階は、T波が、ペーシングされたQRSコンプレックスの方向を仮定する前に、前面においてTベクトルの回転により達成され得る。カルシウムチャネルブロッカーおよびキニジンのような薬物は、心臓記憶の発生およびTベクトルの形状に影響を与える。現在のところ、これらの観察の臨床的な関連性は不明瞭なままである。
【0059】
上記の研究において、疑わしい病変の部位は、近位および中位のLAD(D1より下位)と、D1単独との間で変動した。直感的に、虚血のより側方性のLV(左心室)への広がりは、T波の軸のより右へ向かうシフトをもたらすと予測する。あるいは、遠位のLAD病変が、尖部−中隔の(apical−septal)左心室にのみに灌流する場合、右に向かう軸のシフトは存在し得ない。本発明者らは、D1領域を含む病変とD1領域を含まない病変との間ではなく、近位LAD病変と中位LAD病変との間のT波パターンの差を観察しなかった。従って、LAD病変の位置自体が、I誘導およびaVL誘導におけるT波の陰性の程度に影響を与えることを示唆するデータはない。しかし、遠位のLAD病変を有した虚血性の群における患者はおらず、この研究における患者の総数は、冠状動脈の全ての可能なバリエーションを説明するには不十分である。
【0060】
虚血の程度は、T波の変化の度合いに寄与する別の潜在的な要因である。この研究における虚血性の患者の大部分は、重篤な虚血を意味する、心筋損傷に対する正のマーカーを有した。おそらく、虚血の程度が低ければ、より小さなT波の変化を生じ得る。逆の直感的に(counter−intuitively)、虚血性の患者が、MB+(心筋枝(+))およびMB−(心筋枝(−))の分類に分けられた場合、四肢誘導のT波振幅に、2群間の差は見られなかった。さらに、マーカー陰性の患者は、マーカー陽性の患者よりも深い前胸部TWIを有した(上記の表4を参照のこと)。この知見は、TWIの強度とMI(心筋梗塞)の酵素サイズと機能的な回復との間に、逆の関係性を示す、心筋梗塞を有する患者における観察と一致しており、T波反転が、存続能力のある気絶心筋の存在を示すことを示唆する。従って、より程度の低い虚血は、虚血性の患者におけるT波の変化を変えないようである。
【0061】
予備的な観察は、心臓記憶が、これらの状態に関連する異常なTベクトルを変化させないが、心臓記憶の発生は、おそらくは、ペーシング部位に近い存続能力のある心筋がないことに起因して、以前に下行性の心筋梗塞を有した患者において変更され得ないということを示唆する。
【0062】
また、前面のTベクトルの方向は、虚血性の前胸部TWIと非虚血性(心臓記憶以外)の前胸部TWIとを区別する際に有用であり得る可能性もある。前胸部のECGマッピングを用いるいくつかの研究は、Iマッピングパターン(四分円の左上に陰性T波があり、そして、四分円の右下に正のT波がある)が、虚血性のTWIを大いに予測することを示した。非虚血性のTWIは、Nパターン(四分円の右下にTWIがあり、そして、四分円の左上に正のT波がある)により特徴付けられた。これらの単極性のマップパターンは、以前に公開されたECGにおいて実証されるように、おそらく、双極性のI誘導、aVL誘導における、正(N型)および負(I型)のT波と一致する。
【0063】
本発明は、LVH(虚血性の変化を最も頻繁に混同させるもの)に関連する再分極の変化を分離することを補助し得ないことに注意されたい。なぜならば、これらは、類似する前面のT波軸を有するからである。前壁の虚血は、一般に、虚血の最も危険な形態とみなされる。前壁の虚血は、LAD動脈(左冠状動脈の前室間動脈)の狭窄に関連する。
【0064】
異なる位置の虚血は、T波反転の異なるパターンを生じ得ることに注意すべきである。本発明は、他の型の虚血にも適用可能であるが、特に、LAD虚血に適用可能である。心臓の3つの動脈(LAD動脈、回旋動脈(LCX)および右冠状動脈(RCA))の中でも、LCX虚血の場合、胸部誘導に負のT波がある場合と、ない場合がある。従って、LAD虚血と比べて、TWIの周波数は、LCX虚血の場合よりも低いことを記憶しておくべきである。この場合の約40%において、LCX虚血には、胸部誘導におけるT反転が伴う。
【0065】
まとめると、本発明は、前面のT波ベクトルの対向する方向に基づいて、前胸部の虚血性TWIをペーシング後のTWIと区別するという利点を備える。本発明者らは、虚血性のTWIが、右に向かう前面のT波軸により特徴付けられ、その一方で、心臓記憶性の患者においては、Tベクトルの方向は、左に向かうことを実証した。これらのベクトルの概念を念頭において、毎日の臨床上の実務において容易に適用可能な、標準的な12の誘導によるECGの診断基準を用いて、単純な区別の規則が、考え出された。全ての心臓記憶性の患者、および、1人のみの虚血性の患者が、aVL誘導において正のT波を有した。しかし、aVL誘導において正のT波を有した1人の虚血性の患者は、I誘導において負のT波を示し、これは、心臓記憶性の患者においては見られないパターンであった。従って、1)aVL誘導における正のT波と、2)I誘導における非陰性(正もしくは等電性)T波の組み合わせは、心臓記憶性の患者を、虚血性の患者から完全に区別した。T波における最も負の点を用いる場合、通常、前面のT波軸(群間で最小の重なりを有した)を用いる場合よりも良好に区別される。このことは、T波軸の計算が、所定の誘導における総T波面積(負および正の成分)に基づくために生じることである。この計算は、二相性のT波の場合、末端のT波陰性の効果を薄める。
【0066】
標準的な12の誘導によるECGの解釈に対して、ベクトル心電図の原理を適用することにより、虚血性のTWIと、ペーシング後の前胸部TWIとを区別するための簡単なアルゴリズムが開発された。このようなベクトル心電図の情報の使用は、TWIの差次的な診断を有意に改善し得る。
【0067】
本発明の種々の修飾物、適応物、および代替的な実施形態が、本発明の範囲および精神の範囲内でなされ得ることもまた理解されるべきである。本発明はさらに、添付の特許請求の範囲により規定される。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1A】図1A〜1Fは、ECG誘導の配置を例示する。
【図1B】図1A〜1Fは、ECG誘導の配置を例示する。
【図1C】図1A〜1Fは、ECG誘導の配置を例示する。
【図1D】図1A〜1Fは、ECG誘導の配置を例示する。
【図1E】図1A〜1Fは、ECG誘導の配置を例示する。
【図1F】図1A〜1Fは、ECG誘導の配置を例示する。
【図2】図2は、T波の分類を示す。
【図3A】図3Aは、虚血性の患者の代表的なECGを示す。
【図3B】図3Bは、心臓記憶性の患者の代表的なECGを示す。
【図4】図4は、胸部誘導(V1〜V6)におけるT波の強度を示す。
【図5】図5は、四肢誘導におけるT波の強度を示す。
【図6】図6は、前面T軸分布の円形ヒストグラムを示す。
【図7A】図7A〜7Bは、本発明の例示的な方法を、フローチャートの形で例示する。
【図7B】図7A〜7Bは、本発明の例示的な方法を、フローチャートの形で例示する。
【図8】図8は、TWIを区別するための例示的なハードウェアシステムを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
虚血性の陰性T波と心臓記憶性の陰性T波とを区別する方法であって、該方法は、
少なくとも1つの胸部誘導において陰性T波を同定する工程;
少なくとも2つの四肢誘導において非陰性T波を同定する工程;
該少なくとも1つの胸部誘導が陰性T波を含む場合に、虚血性であると診断する工程;および
該少なくとも1つの四肢誘導が非陰性T波を含む場合に、心臓記憶性であると診断する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記少なくとも2つの四肢誘導において非陰性T波を同定する工程において、該2つの四肢誘導のうちの一方が、I誘導である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも2つの四肢誘導において非陰性T波を同定する工程において、該2つの四肢誘導のうちのもう一方がaVL誘導である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、さらに、以下:
前記四肢誘導のIII誘導においてT波を同定する工程;
該III誘導が、前記少なくとも1つの胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示す場合に、虚血性であるという診断を確認する工程;および
該III誘導が、前記少なくとも1つの胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示さない場合に、心臓記憶性であるという診断を確認する工程
を包含する、方法。
【請求項5】
心臓における、虚血性の効果と心臓記憶性の効果とを区別する方法であって、以下:
心電図(ECG)データを受信する工程;
該ECGデータから、T波ベクトルの方向を計算する工程;
該T波ベクトルが、約75°〜約200°の間である場合に、虚血性であると診断する工程;および
該T波ベクトルが、約0°〜−90°の間である場合に、心臓記憶性であると診断する工程
を包含する、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、さらに、以下:
I誘導およびaVL誘導においてT波を同定する工程;
該I誘導およびaVL誘導が、陰性T波を示す場合に、虚血性であるという診断を確認する工程;ならびに
該I誘導およびaVL誘導が、非陰性T波を示す場合に、心臓記憶性であるという診断を確認する工程
を包含する、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、さらに、以下:
III誘導においてT波を同定する工程;
該III誘導が、前記少なくとも1つの胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示す場合に、虚血性であるという診断を確認する工程;および
該III誘導が、前記少なくとも1つの胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示さない場合に、心臓記憶性であるという診断を確認する工程
を包含する、方法。
【請求項8】
前記T波ベクトルが約75°〜約200°の間である場合に、虚血性であると診断する工程において、該T波ベクトルは、約90°〜約180°の間である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
虚血性の陰性T波と心臓記憶性の陰性T波とを区別するためのシステムであって、該システムは、以下:
少なくとも1つの胸部誘導において陰性T波を同定するための手段;
少なくとも2つの四肢誘導において非陰性T波を同定するための手段;
該少なくとも1つの胸部誘導が陰性T波を含む場合に、虚血性であると診断するための手段;および
該少なくとも2つの四肢誘導が非陰性T波を含む場合に、心臓記憶性であると診断するための手段
を備える、システム。
【請求項10】
前記2つの四肢誘導のうちの一方が、I誘導である、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記2つの四肢誘導のうちのもう一方がaVL誘導である、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
請求項11に記載のシステムであって、さらに、以下:
III誘導においてT波を同定するための手段;
該III誘導が、前記少なくとも1つの胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示す場合に、虚血性であるという診断を確認するための手段;および
該III誘導が、前記少なくとも1つの胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示さない場合に、心臓記憶性であるという診断を確認するための手段
を備える、システム。
【請求項13】
心臓における、虚血性の効果および心臓記憶性の効果を区別するためのシステムであって、以下:
心電図検査を行うための手段;
T波ベクトルの方向を計算するための手段;
該T波ベクトルが、約90°〜約180°の間である場合に、虚血性であると診断するための手段;および
該T波ベクトルが、約0°〜−90°の間である場合に、心臓記憶性であると診断するための手段
を備える、システム。
【請求項14】
前記T波ベクトルが、約90°〜約180°の間である、請求項13に記載のシステム。
【請求項1】
虚血性の陰性T波と心臓記憶性の陰性T波とを区別する方法であって、該方法は、
少なくとも1つの胸部誘導において陰性T波を同定する工程;
少なくとも2つの四肢誘導において非陰性T波を同定する工程;
該少なくとも1つの胸部誘導が陰性T波を含む場合に、虚血性であると診断する工程;および
該少なくとも1つの四肢誘導が非陰性T波を含む場合に、心臓記憶性であると診断する工程
を包含する、方法。
【請求項2】
前記少なくとも2つの四肢誘導において非陰性T波を同定する工程において、該2つの四肢誘導のうちの一方が、I誘導である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも2つの四肢誘導において非陰性T波を同定する工程において、該2つの四肢誘導のうちのもう一方がaVL誘導である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項3に記載の方法であって、さらに、以下:
前記四肢誘導のIII誘導においてT波を同定する工程;
該III誘導が、前記少なくとも1つの胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示す場合に、虚血性であるという診断を確認する工程;および
該III誘導が、前記少なくとも1つの胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示さない場合に、心臓記憶性であるという診断を確認する工程
を包含する、方法。
【請求項5】
心臓における、虚血性の効果と心臓記憶性の効果とを区別する方法であって、以下:
心電図(ECG)データを受信する工程;
該ECGデータから、T波ベクトルの方向を計算する工程;
該T波ベクトルが、約75°〜約200°の間である場合に、虚血性であると診断する工程;および
該T波ベクトルが、約0°〜−90°の間である場合に、心臓記憶性であると診断する工程
を包含する、方法。
【請求項6】
請求項5に記載の方法であって、さらに、以下:
I誘導およびaVL誘導においてT波を同定する工程;
該I誘導およびaVL誘導が、陰性T波を示す場合に、虚血性であるという診断を確認する工程;ならびに
該I誘導およびaVL誘導が、非陰性T波を示す場合に、心臓記憶性であるという診断を確認する工程
を包含する、方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法であって、さらに、以下:
III誘導においてT波を同定する工程;
該III誘導が、前記少なくとも1つの胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示す場合に、虚血性であるという診断を確認する工程;および
該III誘導が、前記少なくとも1つの胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示さない場合に、心臓記憶性であるという診断を確認する工程
を包含する、方法。
【請求項8】
前記T波ベクトルが約75°〜約200°の間である場合に、虚血性であると診断する工程において、該T波ベクトルは、約90°〜約180°の間である、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
虚血性の陰性T波と心臓記憶性の陰性T波とを区別するためのシステムであって、該システムは、以下:
少なくとも1つの胸部誘導において陰性T波を同定するための手段;
少なくとも2つの四肢誘導において非陰性T波を同定するための手段;
該少なくとも1つの胸部誘導が陰性T波を含む場合に、虚血性であると診断するための手段;および
該少なくとも2つの四肢誘導が非陰性T波を含む場合に、心臓記憶性であると診断するための手段
を備える、システム。
【請求項10】
前記2つの四肢誘導のうちの一方が、I誘導である、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記2つの四肢誘導のうちのもう一方がaVL誘導である、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
請求項11に記載のシステムであって、さらに、以下:
III誘導においてT波を同定するための手段;
該III誘導が、前記少なくとも1つの胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示す場合に、虚血性であるという診断を確認するための手段;および
該III誘導が、前記少なくとも1つの胸部誘導における最大T波反転よりも深いT波を示さない場合に、心臓記憶性であるという診断を確認するための手段
を備える、システム。
【請求項13】
心臓における、虚血性の効果および心臓記憶性の効果を区別するためのシステムであって、以下:
心電図検査を行うための手段;
T波ベクトルの方向を計算するための手段;
該T波ベクトルが、約90°〜約180°の間である場合に、虚血性であると診断するための手段;および
該T波ベクトルが、約0°〜−90°の間である場合に、心臓記憶性であると診断するための手段
を備える、システム。
【請求項14】
前記T波ベクトルが、約90°〜約180°の間である、請求項13に記載のシステム。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図2】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【公表番号】特表2008−500135(P2008−500135A)
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−527352(P2007−527352)
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2005/017163
【国際公開番号】WO2005/115233
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(305049506)ベス イスラエル デアコネス メディカル センター (8)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年1月10日(2008.1.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年5月18日(2005.5.18)
【国際出願番号】PCT/US2005/017163
【国際公開番号】WO2005/115233
【国際公開日】平成17年12月8日(2005.12.8)
【出願人】(305049506)ベス イスラエル デアコネス メディカル センター (8)
【Fターム(参考)】
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