説明

蛋白質結晶作製装置及び蛋白質結晶作製方法

【課題】確度の高い蛋白質結晶化条件に効率よく到達して蛋白質結晶を作製することができる蛋白質結晶作製装置及び蛋白質結晶作製方法の提供
【解決手段】容器に設けられた複数のウェルのうちスクリーニング用のウェル内の蛋白質溶液に蛋白質結晶作製用の光を照射し、蛋白質結晶作製用の光が照射された後の蛋白質溶液の濁度を計測して、濁度検出の検出結果に基づいて最も高い確率で結晶化が期待される濁度を与える光の照射条件を求めて、この照射条件を結晶作製用の光の照射条件を結晶化条件として設定する。次いで結晶作製用のウェルに設定された結晶化条件に基づいて結晶作製用の光を照射して、蛋白質溶液内に結晶核を生成させ、この結晶核を成長させて蛋白質結晶作製を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛋白質結晶作製装置及び蛋白質結晶作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年遺伝子情報を医療などの分野に有効に利用するための取り組みが活発化しており、その基礎技術として遺伝子の産物である蛋白質の構造を解析する努力が行われている。この蛋白質の構造解析は、蛋白質の3次元立体構造を特定するものであり、NMR(核磁気共鳴)やX線結晶構造解析などの方法によって行われる。このような蛋白質の構造解析は、分子量2万以下の蛋白質はNMR装置を用いて溶液状で可能であるが、大部分を占める分子量2万以上の蛋白質は、まず結晶化することが求められ、従来知られている蒸気拡散法やマイクロバッチ法などの結晶化方法とともに、各種の結晶化のための方法や結晶化条件スクリーニング方法が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。
【0003】
特許文献1には、蛋白質などの巨大分子の溶液に光を照射することにより、巨大分子結晶の核を形成し成長させることが可能であるとの知見が開示されている。また特許文献2においては、蛋白質溶液の低度の過飽和溶液にレーザ光を照射することにより蛋白質の結晶核を生成することが可能であるとの知見に基づき、レーザ光照射によって生成した結晶核を成長させることによって蛋白質結晶を得る方法や、結晶核の生成の有無を判定することにより望ましい結晶化条件を求める方法などが開示されている。このような知見に基づいて蛋白質の結晶化を模索することにより、従来は熟練研究者の勘と経験に頼るしか方策がなかった蛋白質結晶化条件のスクリーニング作業をより効率的に行えるようになることが期待されている。
【特許文献1】特開2003−306497号公報
【特許文献2】WO2004/018744号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献例においては光照射やレーザ光照射によって蛋白質の結晶化が可能であるという知見レベルにとどまっており、これらの文献に開示された技術のみでは、蛋白質結晶化や結晶化条件のスクリーニングを効率よく行うことにはなお困難があった。すなわち良好な蛋白質結晶化の結果を与える光照射やレーザ光照射の条件に到達するには、いずれの例においても幾通りもの試行を行って蛋白質の結晶核の有無を判定するなどの試行錯誤的な作業が不可欠であり、実用的な意味において理詰めで確度の高い結晶化条件に効率よく到達して蛋白質結晶を再現性よく作製することが可能な実用レベルの技術には達していなかった。
【0005】
そこで本発明は、確度の高い蛋白質結晶化条件に効率よく到達して蛋白質結晶を作製することができる蛋白質結晶作製装置及び蛋白質結晶作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の蛋白質結晶作製装置は、蛋白質溶液を収容した容器を保持可能なステージと、前記ステージに保持された前記容器内の前記蛋白質溶液に蛋白質結晶作製用の光を照射する光照射部と、前記蛋白質結晶作製用の光が照射された後の前記蛋白質溶液の濁度を検出する濁度検出部と、前記光照射部及び前記濁度検出部を制御する制御部と、を含み、前記制御部が、前記濁度検出部の検出結果に基づいて前記蛋白質結晶作製用の光の照射条件を設定する結晶化条件設定部を備えることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の蛋白質結晶作製方法は、蛋白質溶液に蛋白質結晶作製用の光を照射して結晶を作製すること、及び、前記光照射の条件を前記蛋白質溶液と同じ複数の蛋白質溶液に前記蛋白質結晶作製用の光を複数の条件で照射した後に検出される濁度の情報に基づき設定することを含む蛋白質結晶作製方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、例えば、蛋白質溶液の濁度を指標にして蛋白質結晶作製用の光の照射条件の設定を簡便に行えるから、より確度の高い蛋白質結晶化条件に効率よく到達して蛋白質結晶を作製することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
また、本発明の蛋白質結晶作製装置は、前記容器が複数の液体収容用のウェルを備える容器であり、前記制御部がさらに前提条件記憶部を含み、前記前提条件記憶部が、前記複数のウェルのうち特定の複数のウェルをスクリーニング用ウェルとして記憶し、他の少なくとも1つのウェルを蛋白質結晶作製用ウェルとして記憶し、かつ、前記スクリーニング用ウェルの前記蛋白質溶液に対する前記蛋白質結晶作製用の光の照射条件を記憶することができるものであり、前記制御部が、前記結晶化条件設定部が設定した前記照射条件で前記蛋白質結晶作製用の光を前記蛋白質結晶作製用ウェルの前記蛋白質溶液に照射させることができるものであることが好ましい。
【0010】
前記結晶化条件設定部は、前記スクリーニング用ウェルの前記蛋白質溶液に対する前記光の照射条件、照射されたスクリーニング用ウェルの前記蛋白質溶液から検出される濁度の情報、及び、予め設定された指定濁度に基づき、蛋白質結晶作製用ウェルの前記蛋白質溶液に対する前記蛋白質結晶作製用の光の照射条件を設定できるものであることが好ましい。また、前記光照射部における蛋白質結晶作製用の光源部は、紫外線光源、レーザ光光源、水銀灯、キセノンランプ及びハロゲンランプからなる群から選択される光源を含むことが好ましい。
【0011】
また、その他の態様において本発明の蛋白質結晶作製方法は、蛋白質結晶作製方法であって、蛋白質溶液を複数の液体収容用のウェルを備える容器の前記ウェルに収容させる準備工程と、前記容器の特定の複数のウェルを蛋白質結晶化条件のスクリーニング用ウェルとして設定し、他の少なくとも1つのウェルを蛋白質結晶作製用ウェルとして設定しかつスクリーニング用ウェルの前記蛋白質溶液に対する蛋白質結晶作製用の光の照射条件を設定する前提条件記憶工程と、前記照射条件に基づいて前記スクリーニング用ウェルの前記蛋白質溶液に対して前記蛋白質結晶作製用の光を照射する第1の光照射工程と、照射されたスクリーニング用ウェルの前記蛋白質溶液の濁度を検出する濁度検出工程と、前記スクリーニング用ウェルの前記蛋白質溶液に対する前記光の照射条件、検出された前記濁度の情報、及び、予め設定された指定濁度に基づき、蛋白質結晶作製用ウェルの前記蛋白質溶液に対する前記蛋白質結晶作製用の光の照射条件を設定する結晶化条件設定工程と、前記結晶化条件設定工程において設定された前記光の照射条件に従って前記蛋白質結晶作製用ウェルの前記蛋白質溶液に対して前記蛋白質結晶作製用の光を照射する第2の光照射工程と、を含む蛋白質結晶作製方法である。
【0012】
本発明の蛋白質結晶作製方法は、本発明の蛋白質結晶作製装置を用いて行うことが好ましい。
【0013】
本発明において、「蛋白質結晶作製用の光」とは、蛋白質の結晶核の発生及び/又は結晶成長の促進が可能な光であって、特に制限されず従来公知の光を利用できる。前記蛋白質結晶作製用の光としては、例えば、可視光(波長390〜700nm)や紫外光(波長390nm未満)などがあげられる。前記蛋白質結晶作製用の光の光源としては、例えば、紫外線光源、レーザ光光源(例えば、固体レーザ、気体レーザ、半導体レーザ、エキシマレーザなど)、水銀灯、キセノンランプ及びハロゲンランプなどがあげられる。また、前記レーザ光は、パルスレーザであってもよい。前記蛋白質結晶作製用の光は、例えば、レンズなどを用いて蛋白質溶液中に集光させることが好ましい。
【0014】
本発明において、「蛋白質溶液の濁度」とは、前記蛋白質結晶作製用の光が照射された蛋白質溶液に生じる濁りの度合いであって、好ましくは、白濁の度合いである。また、検出する前記濁度の種類としては特に制限されず、例えば、透過光濁度、散乱光濁度、積分球濁度などであってよい。また、その検出方法も特に制限されず従来公知の比濁分析方法などを適用できる。前記濁度を検出する場合に用いる光としては、特に制限されないが、分光したキセノンランプ光、半導体レーザ光、並びに、ヘリウムネオンレーザ及びアルゴンイオンレーザなどの気体レーザ光などを使用できる。前記濁度の検出光の波長としては、例えば390nm〜700nmの波長、好ましくは500nm〜700nmの波長、さらに好ましくは600nm〜700nmの波長を使用することができる。また、前記濁度は、絶対値であってもよく、例えば、前記蛋白質結晶作製用の光の照射前の値を基準とした相対値であってもよい。
【0015】
本発明の蛋白質結晶作製装置において前記濁度の検出用の光の光源は、後述するように、前記蛋白質結晶作製用の光と同一であってもよく、異なるものであってもよい。また、前記光源が異なる場合、その光源は、前記光照射部に配置されてもよく、前記光照射部と異なる場所に配置されてもよい。また、本発明の蛋白質結晶作製装置における濁度検出部は特に制限されず、例えば、後述するように、蛋白質溶液の画像を取り込むためのカメラなどが濁度検出機能を併せ持ってもよく、また、別個に備えられた濁度計や比濁計などの濁度検出装置であってもよい。
【0016】
前記「蛋白質溶液の濁度」の検出タイミングとしては、特に制限されないが、例えば、前記蛋白質結晶作製用の光の照射の1分〜60分後であって、好ましくは1分〜30分後、さらに好ましくは1分〜5分後である。
【0017】
本発明において、「予め設定された指定濁度」(以下、単に「指定濁度」ともいう)とは、蛋白質溶液の濁度であって、好ましい結晶核の形成及び結晶成長が期待できる濁度である。本発明者らは、光照射を用いた蛋白質結晶化方法について鋭意研究を重ねた結果、光照射後の蛋白質溶液の濁りが所定の濁度(本発明における指定濁度)になると結晶化の確率が高くなり、さらにこの指定濁度が蛋白質の種類に依存しない傾向があることを見出した。すなわち、この指定濁度を予め一般的な蛋白質を用いて決定しておくことにより、結晶化のための光照射条件が不明な蛋白質であっても、前記指定濁度に基づいて結晶化のための光照射条件を決定できることとなる。本発明は、少なくとも、このような知見に基づく。本発明によれば、例えば、この指定濁度を与える前記蛋白質結晶作製用の光の照射条件を簡便かつ迅速に決定することができるため、より確度の高い結晶化条件に効率よく到達して蛋白質結晶を再現性よく作製することが可能となる。
【0018】
次に、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製システムの斜視図であり、図2は本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製装置の斜視図あり、図3は本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製装置の部分断面図であり、図4は本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製装置において用いられるマイクロプレートの平面図であり、図5は本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製装置の制御系の構成を示すブロック図であり、図6は本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製装置において表示される操作画面を示す図であり、図7は本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製方法を示すフロー図であり、図8及び図9は本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製装置の部分断面図である。
【0019】
まず図1を参照して蛋白質結晶作製システム1の構成を説明する。蛋白質結晶作製システム1は、蛋白質溶液中の蛋白質を折出させて結晶化する機能を有しており、結晶化の端緒となる結晶核を形成する蛋白質結晶作製装置2と、形成された結晶核を成長させて結晶とするためのインキュベータ5より構成される。さらに蛋白質結晶作製装置2は、蛋白質溶液に光を照射することにより結晶核を形成する光照射装置3及び光照射装置3の制御操作を行うための制御装置4より構成される。
【0020】
次に図2を参照して、蛋白質結晶作製装置2の構造を説明する。なお、以下の記述においては、蛋白質結晶を単に「結晶」と略記する。光照射装置3は、基台3a上に配設された以下の各要素を扉3cを備えたカバー部3bによって覆った構成となっている。カバー部3bの内部は、温調装置(図示省略)によって所定の環境条件に保持される。基台3aの上面にはX軸テーブル13X、Y軸テーブル13Yより成るXYテーブル13が配置されており、XYテーブル13は容器保持テーブル14を、X方向、Y方向に移動させる。さらに容器保持テーブル14は、昇降機構(図示省略)によって高さの調整が可能となっている。
【0021】
容器保持テーブル14には、蛋白質溶液を複数のウェルに収容する容器であるマイクロプレート6が載置される。マイクロプレート6の各ウェル6aには、予め分注装置によって同一組成の蛋白質溶液7が分注されている(図3参照)。したがって容器保持テーブル14は、複数の液体収容用のウェルに蛋白質溶液を収容した容器を保持するステージとなっている。なお、蛋白質溶液7を収容する容器としてはマイクロプレート6である必要はなく、専用の容器を用いてもよい。
【0022】
容器保持テーブル14の上方には光照射部16が配設されており、光照射部16は容器保持テーブル14に保持されたマイクロプレート6内の蛋白質溶液7に、結晶作製用の光を照射する。容器保持テーブル14の下方にはカメラ15が配設されており、カメラ15は光照射部16から照射され、マイクロプレート6のウェル6aに収容された蛋白質溶液7を透過した光を受光する。これにより、ウェル6a内における蛋白質溶液7の画像が取得されるとともに、後述するように、取得された画像データを用いて蛋白質溶液7の白濁等の濁りの度合いを数値データとして検出することができる。
【0023】
XYテーブル13の動作や、カメラ15、光照射部16による処理は、制御装置4によって制御される。制御装置4は制御機能を内蔵した本体部4a上に操作・入力部10及び表示部11を設置し、さらにマイクロプレート6の識別を行うための容器ID読取部12を備えた構成となっている。操作・入力部10を操作することにより、制御コマンドや各種のデータの入力が行われる。表示部11は、操作・入力部10による操作入力時の案内画面や、カメラ15によって撮像した画像の表示を行う。容器ID読取部12はバーコードリーダやICタグリーダなどであり、マイクロプレート6に印加されたバーコードやICタグから個々のマイクロプレート6を特定するための識別情報を読取る機能を有している。
【0024】
次に図3を参照して、光照射部16、カメラ15の構成を説明する。光照射部16はUV光から赤外光までの広帯域の波長の光を発生する光源部17を備えており、光源部17の下方には高速シャッタ18及びフィルタ切換部19が装着されている。高速シャッタ18は光源部17からの光を間欠的に照射する場合に用いられる。フィルタ切換部19は2種類のフィルタ19a、19bを備えており、フィルタ19aを光源部17の光軸に位置させることにより、特定波長(例えば、600nm、630nm、660nmなど。)の可視光のみを透過させる。またフィルタ19bを光源部17の光軸に位置させることにより、UV光が照射される。
【0025】
さらにフィルタ19a、19bいずれも使用しない場合には、光源部17が発生する生の光がそのまま照射される。後述するように、フィルタ19aはマイクロプレート6のウェル6a内の蛋白質溶液7の濁度を計測する際に用いられ、フィルタ19bは蛋白質溶液7内に結晶核を形成させるための光を照射する際に用いられる。またこれらのフィルタを用いない場合には、可視観察用の画像を取得することが可能となる。なお、結晶作製用の光を照射する光源部は、上述のとおり、紫外線光源、レーザ光光源、水銀灯、キセノンランプ、ハロゲンランプのいずれかを用いるようにしてもよい。
【0026】
光源部17から発生され、高速シャッタ18、フィルタ切換部19を透過した光はレンズ部20によって集光され、ウェル6a内に収容された蛋白質溶液7に照射される。そしてウェル6a中の蛋白質溶液7を透過した光は、カメラ15の光学系15aによって集光された後、CCDなどの撮像素子15bによって受光され、これにより蛋白質溶液7を撮像した画像が取得される。またこの撮像データは蛋白質溶液7の濁度検出用のデータとしても利用可能である。なお蛋白質溶液7の濁度は種々の態様で検出可能であり、例えば、フィルタ19aを介さない光源部17の生の光を濁度検出用の光として用いることができる。この場合には、フィルタ19aは不要となる。またカメラ15によってウェル6a内の蛋白質溶液7の画像を取得する必要がない場合には、カメラ15の替りに専用の濁度検出器を用いるようにしてもよい。
【0027】
次に図4を参照して、マイクロプレート6におけるウェル6aの配列及び区分について説明する。本実施の形態に示す結晶作製においては、従来の方法のように熟練した研究者の勘と経験に依存したスクリーニングではなく、結晶化の種となる結晶核の形成度合いを予め予備的なスクリーニングによって判定し、この判定結果に基づいて結晶化を行うようにしている。すなわち、この予備的なスクリーニングは、蛋白質溶液に特定条件下で光照射(ここではUV光の照射)を行うことによって蛋白質の結晶化の種となる結晶核を生じさせることができ、この結晶核の形成により蛋白質溶液には白濁等の濁りが生じるという知見に基づくものである。そしてこのような結晶核が形成された蛋白質溶液をインキュベータによって所定環境条件下に保持することにより、高い確率で結晶を得ることができると期待される。さらに、本発明においては、前記指定濁度を利用することで、前記予備的なスクリーニングを簡便かつ迅速に行うことができる。
【0028】
本実施の形態においては、上述の光照射による予備的なスクリーニングと結晶作製とを同一のマイクロプレート6を用いて行うようにしている。すなわち、マイクロプレート6に格子配列で設けられた複数のウェル6aの配列において、図4に示す範囲W1で括られる複数のウェル6aは前述の予備的なスクリーニングに用いられるものであり、範囲W2(ここではコーナ部に位置する1つのウェル6aのみを含む)内のウェル6aは、実際に結晶化を行わせて結晶作製の状態を確認するために用いられる。このような方法を採用することにより、従来のいわば手探りによる結晶化条件のスクリーニングを、より効率的に行うことが可能となる。
【0029】
次に図5を参照して制御系の構成を説明する。図5において、制御部21は制御装置4に備えられた制御装置であり、光源部17、高速シャッタ18、フィルタ切換部19、XYテーブル13、表示部11による動作や処理を制御するとともに、カメラ15、容器ID読取部12及び操作・入力部10からの入力データに基づき、以下に説明する制御処理を行う。制御部21は内部処理機能として、前提条件設定部22、前提条件記憶部23、指定濁度記憶部24、濁度検出処理部25、検出濁度記憶部26、結晶化条件設定部27及び結晶化条件記憶部28を備えている。
【0030】
前提条件設定部22は、前述の範囲W1、W2の設定や、範囲W1のウェル6aに照射される結晶作製用の光照射の条件を前述の予備的なスクリーニング実行のための前提条件として設定する。この前提条件設定処理には、マイクロプレート6の複数のウェル6aのうち特定の複数のウェル6aを蛋白質の結晶化条件のスクリーニング用として記憶するとともに、他の少なくとも1つのウェルを結晶作製用として記憶する処理や、スクリーニング用のウェル6aについて結晶作製用の光照射の条件を、スクリーニングを実行するための前提条件として予め記憶する処理が含まれる。そしてこれらの前提条件は前提条件記憶部23に記憶され、これにより蛋白質結晶化条件を求めるためのスクリーニングの実行が可能となる。
【0031】
指定濁度記憶部24は、蛋白質溶液に光を照射することにより生じた白濁の濁度検出結果に基づき望ましい結晶化条件を探る前述のスクリーニングにおいて、最も高い確率で効率良く結晶化を行うことができると考えられる状態に対応した濁度を、最適な濁度であって実際に使用されるべき条件として指定された指定濁度として記憶することが好ましい。濁度検出処理部25は、カメラ15によって取得されたウェル6a中の蛋白質溶液7の撮像データに基づいて、蛋白質溶液7の濁度を検出する処理を行う。検出された濁度のデータは、検出濁度記憶部26に記憶される。したがってカメラ15及び濁度検出処理部25は、容器保持テーブル14において結晶作製用の光が照射された後の蛋白質溶液7の白濁の度合いを検出する濁度検出部となっている。
【0032】
結晶化条件設定部27は、濁度検出処理部25の検出結果に基づいて光照射部16によって照射される蛋白質結晶作製用の光の照射条件を設定する。この光の照射条件を設定する処理は、指定濁度記憶部24に記憶された指定濁度、検出濁度記憶部26に記憶された検出濁度及び前提条件記憶部23に記憶された前提条件に基づいて行うことができる。すなわち指定濁度記憶部24に記憶された指定濁度と検出濁度記憶部26に記憶された検出濁度とを比較することにより、範囲W1に属するウェル6aのうち、濁度検出結果が最も指定濁度に近いウェル6aを特定する。そしてこのウェル6aに対して指定され実行された光照射条件が結晶化条件として選択される。選択された結晶化条件は結晶化条件記憶部28に記憶され、蛋白質結晶作製用のウェル6aに対して光照射を行う際には、光照射部16は、結晶化条件設定部27によって設定された結晶化条件に従って結晶作製用のウェル6aに光を照射する。
【0033】
ここで、指定濁度の設定例について下記表1を参照して説明する。下記表1は、光照射による蛋白質溶液の白濁と蛋白質結晶との関係を求めるために行った試験結果を示すものである。すなわちここでは蛋白質としてリゾチームを25mg/mlの濃度で含有する蛋白質溶液に対し、光源出力150WのXe(キセノン)ランプによって波長280nmの紫外光を照射している。そして光照射時間を0〜120秒の範囲で11通りに変化させた場合のそれぞれについて、光照射後1分程度経過した時点の白濁の程度及び2日間のインキュベーションを行なった後の結晶生成状態の観察結果をまとめたものである。なお判定基準としては、目視評価による−、±、+、++の4段階判定を用いている。
【0034】
【表1】

【0035】
<試験結果>から判るように、白濁の程度は光照射時間の増加に伴って白濁の度合いが増加しており、光照射によって結晶核の生成が進行していることが判る。これに対し、結晶生成状態は光照射時間に伴って単調な変化は示しておらず、光照射時間が25〜30秒の場合、すなわち判定基準±に該当する“微かな白濁”が観察される状態において、判定基準++に該当する“明確で大きな結晶”が得られている。換言すれば、白濁が微かに生じ始める程度の光照射を行った場合に、結晶化の確率が高いと言うことができる。そして本実施の形態においては、このような“微かな白濁”に対応する濁度が、指定濁度として設定される。なお、前記指定濁度は、例えば、吸光度の数値として指定濁度記憶部24に記憶させることができる。
【0036】
次に図6を参照して、前提条件設定部22により表示される入力用の案内画面について説明する。図6に示すように表示画面30には、光照射条件を1つのマイクロプレート6のウェル6aごとに示す光照射条件入力欄31、マイクロプレート6におけるウェル6aの配列を示すウェル配列表示欄32が表示されている。
【0037】
ウェル別入力列31aには、光照射条件(強度、照射時間、回数及び照射間隔)が個別に入力されるウェル別入力列31aが、ウェル6aごとに表示される。スクロールバー31bを操作することにより、ウェル別入力列31aを画面内でスクロールさせることができる。そして入力対象となるウェル別入力列31a*をクリック操作することにより、当該ウェル別入力列31a*及びこの入力列に対応するウェル6aがウェル配列表示欄32において反転表示され、光照射条件を入力しようとするウェル6aがマイクロプレート6においてどの位置に存在するかを視覚的に確認することができる。
【0038】
また表示画面30にはウェル設定入力枠33、濁度設定入力枠34、操作枠35、操作枠36が設けられている。ウェル設定入力枠33には、結晶作製用ウェルの設定を行うための入力枠が設けられており、ここでは同一のマイクロプレート6において結晶作製用ウェルを2つまで設定することが可能となっている。濁度設定入力枠34には、指定濁度が入力される。この入力は、予め行われた指定濁度決定用の試験の結果(上記表1参照)に基づいて行われる。そして操作枠35を操作することにより、入力結果のうち該当する項目が前提条件記憶部23、指定濁度記憶部24、結晶化条件記憶部28にそれぞれ保存され、操作枠36を操作することにより、メインメニューの画面表示に戻る。
【0039】
次に図7を参照して、蛋白質溶液7に蛋白質結晶作製用の光を照射することにより蛋白質結晶を作製する蛋白質結晶作製方法について説明する。まず前述のスクリーニングを実行するための前提条件を設定して記憶させる操作を、図6に示す表示画面30上で行う。すなわち表示画面30上の各入力欄に所定の入力を行うことにより、マイクロプレート6の複数のウェル6aのうち特定の複数のウェル6aを結晶化条件のスクリーニング用として記憶させるとともに、他の少なくとも1つのウェル6aを結晶作製用として記憶させ、スクリーニング用のウェル6aについて結晶作製用の光照射の条件をスクリーニングを実行するための前提条件として予め記憶する(前提条件記憶工程)。
【0040】
次いで、複数のウェル6aに蛋白質溶液7を収容したマイクロプレート6を容器保持テーブル14に保持させる(容器保持工程)。そしてこの後、図7に示す各ステップが実行される。まずマイクロプレート6の複数のウェル6aのうち、先頭のスクリーニング用のウェル6aを照射位置に位置決めする(ST1)。次いで、前提条件記憶部23より前提条件を読み取る(ST2)。そしてスクリーニング用のウェル6aに読み取られた前提条件によって指定された光照射条件に基づいて、結晶作製用の光を照射する(第1の光照射工程)(ST3)。
【0041】
この後、次のウェル6aの有無を確認し(ST4)、次のウェルありの場合には、次のスクリーニング用のウェル6aを照射位置に位置決めする(ST5)。そして(ST2)に戻って当該ウェル6aの光照射条件を読み取り、同様に光照射を実行する。このようにして各ウェル6aについて同様の処理を反復して、(ST4)において次のウェルなしと確認されたならば、光照射工程の後このスクリーニング用のウェルの蛋白質溶液の濁度を検出する濁度検出工程に移行する。
【0042】
すなわち、先頭のスクリーニング用のウェルを濁度検出位置に位置決めする(ST6)。そしてカメラ15によってウェル6a内の蛋白質溶液7を撮像して、濁度検出を実行する(ST7)。検出結果は検出濁度記憶部26に記憶される。この後、次のウェル6aの有無を確認し(ST8)、次のウェルありの場合には、次のスクリーニング用のウェル6aを濁度検出位置に位置決めする(ST9)。そして同様に濁度検出を行い、同様の処理を反復し、(ST8)において次のウェルなしと確認されたならば、結晶化条件設定を行う(ST10)。すなわち、濁度検出工程における検出結果に基づいて結晶作製用の光の照射条件を設定する(結晶化条件設定工程)。ここでは、スクリーニング用のウェル6aについて検出された濁度を指定濁度と比較し、最も近い濁度検出値を与えるウェル6aについての光照射条件が、結晶化条件として設定される。
【0043】
この後、結晶作製のための光照射が行われる。すなわち、結晶作製用のウェル6a(図4に示すウェル6a*参照)を照射位置に位置決めする(ST11)。そして結晶化条件設定工程において設定された結晶化条件に従って、結晶作製用のウェル6aに光を照射する(第2の光照射工程)(ST12)。第2の光照射工程が終了したマイクロプレート6は、光照射装置3から取り出され、インキュベータ5に収容される。そしてインキュベータ5にて所定環境条件下で所定時間保持することにより、結晶作製用のウェル6aには、蛋白質の結晶が高い確率で作製される。
【0044】
このように、本発明はマイクロプレート6内の蛋白質溶液に結晶作製用の光を照射し、結晶作製用の光が照射された後の蛋白質溶液の白濁の度合いを検出し、濁度検出の検出結果に基づいて結晶作製用の光の照射条件を設定するものである。これにより、従来技術においては、いわば手探りによって試行錯誤的に行われていたスクリーニング作業を効率化して、確かな蛋白質結晶化条件に効率よく到達して蛋白質結晶を作製することができる。
【0045】
なお本実施の形態においては、図3に示す例のように、光照射部16に単一の光源部17を備え、フィルタ切換部19を切換えることにより結晶作製用の光と濁度検出用の光とを照射するようにしているが、複数の専用の光源部を備えることによりこれらの光を個別に発生するようにしてもよい。このような構成とすることにより、それぞれの目的により適した性質の光を選択することが可能となる。
【0046】
例えば図8に示す光照射部16Aの例では、濁度検出用の光を発生する光源部17Aと結晶作製用の光を発生する光源部17Bを、共通のレンズ部20を介してマイクロプレート6のウェル6aに照射する構成を示している。光源部17A、光源部17Bはそれぞれ高速シャッタ18A、18Bを備えており、さらに光源部17Aはフィルタ19aの有無を切換可能なフィルタ切換部19Aを備えた構成となっている。光源部17A、光源部17Bから発光した光は、それぞれの直下に45°方向に配置されたミラー29a、29bによって水平方向内側に反射され、さらにレンズ部20の上方に配置された回転ミラー29cによって垂直下方に反射されてレンズ部20に入射する。そして回転ミラー29cの角度を90°反転させることによって、レンズ部20に入射する光の光源を光源部17A、17Bのいずれかに切換えることが可能となっている。
【0047】
さらに図9に示す光照射部16Aの例では、同様に複数の光源部17A、17Bを備えた構成において、濁度検出位置と照射位置とを光源部17A、17Bのそれぞれの光軸の位置に設定した例を示している。すなわち、ここに示す例では、光源部17A、17Bはそれぞれ高速シャッタ18A、18B及びレンズ部20A、部20Bを個別に備えており、さらに光源部17Aはフィルタ19aの有無を切換可能なフィルタ切換部19Aを備えた構成となっている。光源部17A、17Bから発生した光は、それぞれ直下に位置するレンズ部20A、20Bによって集光され、カメラ15による濁度検出位置P1、結晶作製用の光照射のための照射位置P2にそれぞれ位置決めされたウェル6aに対して照射される。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の蛋白質結晶作製装置及び蛋白質結晶作製方法は、確度の高い蛋白質結晶化条件に効率よく到達して蛋白質結晶を作製することができるという効果を有し、例えば、生化学分野などにおいて蛋白質の3次元立体構造解析に先立って行われる蛋白質結晶化処理において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製システムの斜視図である。
【図2】図2は、本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製装置の斜視図である。
【図3】図3は、本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製装置の部分断面図である。
【図4】図4は、本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製装置において用いられるマイクロプレートの平面図である。
【図5】図5は、本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製装置の制御径の構成を示すブロック図である。
【図6】図6は、本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製装置において表示される操作画面を示す図である。
【図7】図7は、本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製方法を示すフロー図である。
【図8】図8は、本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製装置の部分断面図である。
【図9】図9は、本発明の一実施の形態の蛋白質結晶作製装置の部分断面図である。
【符号の説明】
【0050】
1 蛋白質結晶作製システム
2 蛋白質結晶作製装置
3 光照射装置
4 制御装置
5 インキュベータ
6 マイクロプレート
6a ウェル
7 蛋白質溶液
14 容器保持テーブル(ステージ)
15 カメラ(濁度検出部)
16,16A,16B 光照射部
17,17A,17B 光源部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛋白質溶液を収容した容器を保持可能なステージと、
前記ステージに保持された前記容器内の前記蛋白質溶液に蛋白質結晶作製用の光を照射する光照射部と、
前記蛋白質結晶作製用の光が照射された後の前記蛋白質溶液の濁度を検出する濁度検出部と、
前記光照射部及び前記濁度検出部を制御する制御部と、を含み、
前記制御部が、前記濁度検出部の検出結果に基づいて前記蛋白質結晶作製用の光の照射条件を設定する結晶化条件設定部を備えることを特徴とする蛋白質結晶作製装置。
【請求項2】
前記容器が、複数の液体収容用のウェルを備える容器であり、
前記制御部が、さらに、前提条件記憶部を含み、
前記前提条件記憶部が、前記複数のウェルのうち特定の複数のウェルをスクリーニング用ウェルとして記憶し、他の少なくとも1つのウェルを蛋白質結晶作製用ウェルとして記憶し、かつ、前記スクリーニング用ウェルの前記蛋白質溶液に対する前記蛋白質結晶作製用の光の照射条件を記憶することができるものであり、
前記制御部が、前記結晶化条件設定部が設定した前記照射条件で前記蛋白質結晶作製用の光を前記蛋白質結晶作製用ウェルの前記蛋白質溶液に照射させることができるものである、請求項1記載の蛋白質結晶作製装置。
【請求項3】
前記結晶化条件設定部が、前記スクリーニング用ウェルの前記蛋白質溶液に対する前記光の照射条件、照射されたスクリーニング用ウェルの前記蛋白質溶液から検出される濁度の情報、及び、予め設定された指定濁度に基づき、蛋白質結晶作製用ウェルの前記蛋白質溶液に対する前記蛋白質結晶作製用の光の照射条件を設定できるものである請求項2記載の蛋白質結晶作製装置。
【請求項4】
前記光照射部における蛋白質結晶作製用の光源部が、紫外線光源、レーザ光光源、水銀灯、キセノンランプ及びハロゲンランプからなる群から選択される光源を含む請求項1から3のいずれか一項に記載の蛋白質結晶作製装置。
【請求項5】
蛋白質結晶作製方法であって、
蛋白質溶液に蛋白質結晶作製用の光を照射して結晶を作製すること、及び、
前記光照射の条件を、前記蛋白質溶液と同じ複数の蛋白質溶液に前記蛋白質結晶作製用の光を複数の条件で照射した後に検出される濁度の情報に基づき設定することを含む、蛋白質結晶作製方法。
【請求項6】
蛋白質結晶作製方法であって、
蛋白質溶液を、複数の液体収容用のウェルを備える容器の前記ウェルに収容させる準備工程と、
前記容器の特定の複数のウェルを蛋白質結晶化条件のスクリーニング用ウェルとして設定し、他の少なくとも1つのウェルを蛋白質結晶作製用ウェルとして設定し、かつ、スクリーニング用ウェルの前記蛋白質溶液に対する蛋白質結晶作製用の光の照射条件を設定する前提条件記憶工程と、
前記照射条件に基づいて前記スクリーニング用ウェルの前記蛋白質溶液に対して前記蛋白質結晶作製用の光を照射する第1の光照射工程と、
照射されたスクリーニング用ウェルの前記蛋白質溶液の濁度を検出する濁度検出工程と、
前記スクリーニング用ウェルの前記蛋白質溶液に対する前記光の照射条件、検出された前記濁度の情報、及び、予め設定された指定濁度に基づき、蛋白質結晶作製用ウェルの前記蛋白質溶液に対する前記蛋白質結晶作製用の光の照射条件を設定する結晶化条件設定工程と、
前記結晶化条件設定工程において設定された前記光の照射条件に従って前記蛋白質結晶作製用ウェルの前記蛋白質溶液に対して前記蛋白質結晶作製用の光を照射する第2の光照射工程と、を含む蛋白質結晶作製方法。
【請求項7】
請求項1から4のいずれか一項に記載の蛋白質結晶作製装置を用いて行う請求項5又は6記載の蛋白質結晶作製方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−280292(P2008−280292A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125953(P2007−125953)
【出願日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【出願人】(504145364)国立大学法人群馬大学 (352)
【Fターム(参考)】