説明

蛍光ランプの製造方法および冷陰極蛍光ランプ

【課題】蛍光体が熱劣化しない温度までベーキング温度を低下させることができる冷陰極蛍光ランプの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明では、結着剤として、ファンデルワールス力によりガラス管に付着する材料を用い、かつ、ベーキング工程では、所定の温度で、酸素濃度が大気よりも高い雰囲気をガラス管内に満たして所定の圧力まで加圧し、それよりも低い圧力まで減圧するサイクルを1回以上繰り返す。これにより、500℃以下の温度であっても、結着剤の接着力を発揮させることができると共に、塗布膜の厚さ方向の深い部分まで酸素を到達させ、有機材料を完全に燃焼させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光ランプの製造方法に関し、特に冷陰極蛍光ランプの蛍光膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置のバックライト等に使用される冷陰極蛍光ランプは、従来、次のような工程により蛍光膜が形成される。まず、蛍光体、結着剤(例えばホウ酸カルシウム・バリウム等)、および粘着剤(例えばニトロセルロース等)を有機溶剤(例えば酢酸ブチル等)中に所定量づつ投入し、攪拌して有機溶剤中に均一に分散させることにより、蛍光体懸濁液を作成する。次に、垂直に保持したガラス管の下端より蛍光体懸濁液を管内に吸い上げ、所定の長さに達したところで吸引を止めて蛍光体懸濁液を滴下排出させる。これにより、ガラス管内壁に蛍光体懸濁液を塗布する。続けてガラス管上部より乾燥用大気を流入し、塗布されている蛍光体懸濁液を乾燥してガラス管内壁に固化し蛍光体塗布膜とする。このとき大気流量を調整することにより蛍光体塗布膜の厚さを制御する。
【0003】
この後、蛍光体塗布膜付きガラス管を大気雰囲気中で600℃程度の温度に加熱しベーキングする。このベーキング処理により、蛍光体塗布膜中に含まれる有機成分(粘着剤、有機溶剤)を燃焼および蒸発させるとともに、結着剤により蛍光膜をガラス管へ堅固に付着させる。ベーキング中は管の中に大気を流入させて、ガラス管内が酸素不足にならないようにする。以上の工程によりガラス管の内壁に蛍光膜が形成される。
【0004】
アルミン酸塩青色蛍光体、例えばBaMgAl10O17:Eu2+は、熱劣化する性質を持っており、500℃以上に加熱されると付活剤Eu2+が酸化され輝度が低下する特性があることが知られている(特許文献1、2等)。このため、青色蛍光体BaMgAl10O17:Eu2+を冷陰極蛍光ランプに用いると、600℃のベーキング処理時に熱劣化が生じ、青色の輝度が低下してしまうという問題があった。
【0005】
特許文献1では、上記BaMgAl10O17:Eu2+の熱劣化の問題を解決するために、600℃のベーキング処理後に、窒素雰囲気中に600℃で10分間放置することにより、BaMgAl10O17:Eu2+を還元する方法が開示されている。
【0006】
また、特許文献2では、プラズマディスプレイ等のフラットパネルディスプレイ用の蛍光膜を形成する際に蛍光体の熱劣化を防止するために、ベーキング時の雰囲気の酸素分圧を大気圧の酸素分圧よりも下げる方法が開示されている。
【特許文献1】特開2002−231133号公報
【特許文献2】特開平11−181418号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1の技術は、ベーキングで酸化された蛍光体BaMgAl10O17:Eu2+を還元するための手法であり、特許文献2の技術は雰囲気の酸素濃度を下げてBaMgAl10O17:Eu2+の酸化を防止する手法であり、いずれもベーキング温度自体を低下させるものではない。しかも、特許文献2は、平面基板上の蛍光膜についての技術であるため、直径わずか数mm程度の細いガラス管の内壁に蛍光体膜を形成する冷陰極蛍光ランプにおいて特許文献2の酸素分圧を下げる技術を適用することが有効かどうか不明である。このように、ベーキング温度自体を下げることについての手法は、従来提案されていない。
【0008】
ベーキング温度は、結着剤のガラス管への接着効果を発揮させるために必要な温度、粘着剤や有機溶剤の有機成分の燃焼および蒸発を十分に完了させるために必要な温度という観点で設定されており、容易に下げることはできない。というのは、結着剤として一般的に用いられるホウ酸カルシウム・バリウム等の低融点ガラス系材料は、ベーキング工程において溶融されることによりガラス管と蛍光膜とを接着する作用を発揮する。このため、ベーキング温度は低融点ガラス系材料の融点である600℃程度に設定する必要がある。また、有機成分の燃焼および蒸発が不十分であると、蛍光体塗布膜中に燃え残りの灰成分が残留し、冷陰極蛍光ランプの輝度低下、色度の黄色側へのずれなどの不具合を招く。粘着剤としてニトロセルロースを用いた場合、単体での燃焼温度は200℃程度であるが、蛍光体と混合されたニトロセルロースは燃焼しにくく、蛍光体塗布膜中に含まれるニトロセルロースを完全に燃焼させるためには、600℃程度が必要であることが実験的に確かめられている。
【0009】
このように接着性発揮と有機成分の完全燃焼という理由からベーキング温度を600℃以下に設定することができず、その結果、500℃以上で熱劣化する青色蛍光体BaMgAl10O17:Eu2+の発光特性の低下が生じていた。
【0010】
本発明は、蛍光体が熱劣化しない温度までベーキング温度を低下させることができる蛍光ランプの製造方法および冷陰極蛍光ランプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本発明では、蛍光体と結着剤と有機材料とを含む溶液をガラス管内壁に塗布する塗布膜形成する工程と、塗布膜付きガラス管を加熱するベーキング工程と有する蛍光ランプの製造方法であって、結着剤として、ファンデルワールス力により前記ガラス管に付着する材料を用い、しかも、ベーキング工程では、所定の温度で、酸素濃度が大気よりも高い雰囲気を前記ガラス管内に満たして所定の圧力まで加圧し、それよりも低い圧力まで減圧するサイクルを1回以上繰り返す。これにより、500℃以下の温度であっても、結着剤の接着力を発揮させることができると共に、塗布膜の厚さ方向の深い部分まで酸素を到達させることができるため、有機材料を完全に燃焼させることができる。
【0012】
結着剤として、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、および、二酸化ケイ素のうちの少なくとも1つを含むものを用いることができる。
【0013】
ベーキング工程の酸素濃度は100%であり、所定の温度は500℃以下にすることができる。
【0014】
本発明の別の態様によれば、以下のような蛍光ランプの製造方法が提供される。すなわち、蛍光体と酸化アルミニウムと有機溶媒とを含む溶液をガラス管内壁に塗布する塗布膜形成工程と、塗布膜付きガラス管を加熱するベーキング工程とを有する蛍光ランプの製造方法である。ベーキング工程では、酸素濃度が大気よりも高い濃度雰囲気下において、大気よりも高い圧力で且つ200〜600℃の温度で加圧加熱する高圧ベーキング工程と、該高圧ベーキング工程よりも低い圧力とする低圧ベーキング工程の圧力サイクルを1回以上繰り返す。
【0015】
本発明のさらに別の態様によれば、以下のような冷陰極蛍光ランプが提供される。すなわち、蛍光体膜を内面に有するガラス管と、ガラス管内に取り付ける電極と、ガラス管内に封入した水銀とを有する冷陰極蛍光ランプであって、蛍光体膜は、蛍光体粒と、蛍光体粒の平均粒径に対し1/2以下の平均粒径で蛍光体粒間に位置する結着剤粒を含む。このように蛍光体粒と結着剤粒の粒径を調整することにより、蛍光体膜の剥がれ等の不具合が生じず、しかも、蛍光体膜の製造工程において蛍光体塗布膜中に含まれる有機材料を完全に燃焼させることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明の一実施の形態の蛍光ランプの製造方法について説明する。
本発明は、アルミン酸塩青色蛍光体、例えばBaMgAl10O17:Eu2+等のように500℃以上の温度で熱劣化する蛍光体を用いる冷陰極蛍光ランプの製造方法であり、以下の3つの要件を組み合わせることにより、蛍光体が熱劣化しない500℃以下までベーキング温度を低下させことを実現する。
【0017】
第1の要件として、結着剤として、ファンデルワールス力を利用する材料を用いる。ファンデルワールス力を利用する結着剤としては、例えば、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、および、二酸化ケイ素のうち少なくとも1つを含むものを用いることができる。なお、結着剤としてファンデルワールス力を利用する材料、例えば酸化アルミニウムを用いた場合は、結着剤の作用を単に発揮させるには室温以上の温度でベーキングすればよいが、蛍光膜に含まれる有機成分の燃焼も考慮する必要がある。従来のベーキング工程を用いて、酸化アルミニウムを結着剤として用いる場合に必要なベーキング温度を実験で確認したところ、550℃以上のベーキング温度であれば、従来品と同様の蛍光膜と同程度の付着力および有機成分の十分な燃焼が行えることが確認できた。しかしながら、550℃よりも低い温度にすると有機成分の燃焼が不十分になった。
【0018】
そこで、本実施の形態では、第2の要件として、ベーキング雰囲気の酸素濃度を大気における酸素濃度より高くし、大気雰囲気よりも有機成分の燃焼を容易にする。具体的には、酸素濃度40%以上の雰囲気とすることが望ましく、より好ましくは濃度100%の酸素とする。
【0019】
なお、結着剤の粒径は、蛍光体より小さい粒径とすることが望ましい。小さな粒径のものは蛍光体粒間の隙間に充填して結着作用が働きやすくなるためである。望ましくは蛍光体の平均粒径の1/2以下である。具体的には、蛍光体粒子として粒径3〜6μm程度のものを使用し、結着剤の粒径を1〜3μm程度とすると、冷陰極蛍光ランプの乾燥後の蛍光層の厚みを20μm程度に制御でき、且つ、効率の高いものとすることができる。ただし、結着剤の平均粒径が蛍光体粒径の1/10以下だと、結着剤が蛍光体周囲を覆うように取り囲むために良好な蛍光体膜を形成することが困難となる。よって実用的には0.5μm〜4μmの範囲が結着剤を平均粒径として好適である。
【0020】
さらに第3の要件として、ベーキング雰囲気を高濃度酸素にするだけではなく、酸素雰囲気を大気圧から所定の圧力まで加圧し、加圧した状態で所定時間保持し、減圧して大気圧まで戻すという圧力サイクル(以下、回分パージと称する)を所定のベーク時間が経過するまで繰り返す。これにより、塗布膜中の厚さ方向の深い部分まで酸素が供給し、蛍光体と混合されたことより燃焼しにくくなっている粘着剤の有機成分(例えばニトロセルロース)を塗布膜全体に渡って完全に燃焼させる。回分パージの圧力サイクルの最大加圧時に300kPa以上に到達させることが望ましく、最小圧力は、望ましくは100kPaであり、さらに望ましくは大気圧がよい。また、ベーク時間は、5分程度にすることが望ましい。
【0021】
このように、上記第1の要件では結着剤の材質を変更することにより、500℃以下のベーキング温度で結着剤の性能を発揮させることを可能にする。また、第2、第3の要件では、高濃度酸素雰囲気および回分パージにより、500℃以下の温度であっても蛍光体塗布膜全体で有機成分の燃焼を完全に生じさせる。
【0022】
これら3つの要件を同時に満たす蛍光体膜の形成方法にすることにより、青色蛍光体として500℃以上で熱劣化する青色蛍光体BaMgAl10O17:Eu2+を用いた場合であっても、発光特性の低下を防ぐことができ、輝度および色度に優れた冷陰極蛍光ランプの製造方法を提供する。
【0023】
具体的には、次のような工程により蛍光膜を形成する。まず、青色蛍光体BaMgAl10O17:Eu2+、結着剤(例えば酸化アルミニウム)および粘着剤(例えばニトロセルロース)を有機溶剤中に所定量ずる投入し、攪拌して有機溶剤中に均一に分散させることにより、蛍光体懸濁液を作成する
【0024】
次に、垂直に保持したガラス管の下端より蛍光体懸濁液を管内に吸い上げ、所定の長さに達したところで吸引を止めて蛍光体懸濁液を滴下排出させる。これにより、ガラス管内壁に蛍光体懸濁液を塗布する。続けてガラス管上部より乾燥用大気を流入し、塗布されている蛍光体懸濁液を乾燥してガラス管内壁に固化し蛍光体塗布膜とする。このとき大気流量を調整することにより蛍光体塗布膜の厚さを制御する。
【0025】
次に、蛍光体塗布膜中に含まれる有機成分を燃焼させるために、図1に示した装置を用いてベーキングを行う。図1の装置は、炉11の内部に配置された金属製の配管12と、配管12の一端に取り付けられた酸素供給弁15および不活性ガス供給弁18と、配管12の他端に取り付けられた排気弁14とを有している。配管12は、供給弁15,18および排気弁14以外の部分は密閉されている。酸素供給弁15には、100%濃度の酸素を供給する酸素供給源17とその流量を制御する流量制御装置16が接続されている。不活性ガス供給弁18には、例えばAr等の不活性ガス供給源が接続されている。炉11は、温度制御装置10bによって温度制御されるヒーター10aが備えられている。配管12は、例えばステンレス製のものを用いることができる。
【0026】
蛍光体塗布膜付きガラス管13は、配管12の内部に配置される。配管12の内部には供給弁18から不活性ガス(アルゴン)が供給され、排気弁14から排気される。これにより、ガラス管13内に不活性ガスを流しながら、500℃以下の所定の温度まで温度制御装置10によって昇温させる。所定の温度に達したならば、酸素供給弁15を開いて、配管12内を所定の酸素濃度および圧力にする。この状態で排気弁14を閉じ、所定の時間保持する。所定時間が経過したならば、排気弁14を開放し、管内を減圧する。大気圧に戻ったならば、再び排気弁14を閉じで、酸素を所定の圧力まで導入し加圧する。以降、このサイクル(回分パージ)を所定ベーク時間が経過するまで繰り返す。このベーキング工程により、ガラス管の内壁に蛍光体膜を形成する。
【0027】
得られた蛍光体膜付きガラス管に電極を取り付け、水銀の封入および真空封止を施して冷陰極蛍光ランプを完成させる。これにより、蛍光体膜を内面に有するガラス管と、ガラス管内に取り付ける電極と、ガラス管内に封入した水銀とを有する冷陰極蛍光ランプを製造することができる。
【0028】
本実施の形態のベーキング工程では、高濃度酸素雰囲気で回分パージを行って圧力を増減させることにより、蛍光体の膜厚方向の深い部分まで酸素を供給することができる。これにより、500℃以下の温度であっても蛍光体塗布膜中を完全に燃焼させることができる。同時に、有機溶剤も蒸発させることができる。また、結着剤として、ファンデルワールス力を利用する酸化アルミニウムを用いているため、500℃以下の温度であっても蛍光体膜をガラス管内壁に堅固に付着させることができる。したがって、蛍光体として500℃以上で熱劣化を生じるBaMgAl10O17:Eu2+を用いた場合であっても熱劣化が生じない。
【0029】
また、形成される蛍光体膜が蛍光体粒と、蛍光体粒の平均粒径に対し1/2以下の平均粒径で蛍光体粒間に位置する結着剤粒を含むように、粒径を調整することにより、蛍光体膜の剥がれ等の不具合が生じず、しかも、蛍光体膜の製造工程において蛍光体塗布膜中に含まれる有機材料を完全に燃焼させることが可能になる。
【実施例】
【0030】
粘着剤ニトロセルロースを1.3wt%含む酢酸ブチル溶液42.2g(以下NCバインダと称する)に、青色蛍光体BaMgAl10O17:Eu2+(化成オプトニクス社製LP-B4)40gを分散させた。別途、上記NCバインダに結着剤Al2O3(日亜化学工業社製:α−アルミナ)15wt%を分散させたものを用意した。これら2つの分散溶液を混合攪拌し、蛍光体懸濁液を作成した。
外形4mm、内径3mmのガラス管の下端より蛍光体懸濁液を管内に吸い上げ、排出して、内壁に蛍光体懸濁液を塗布した後、大気をフローさせて乾燥し、蛍光体塗布膜を得た。乾燥後の蛍光体塗布膜厚さは20〜45μm程度とした。
【0031】
次に、蛍光体塗布膜中に含まれる有機成分を燃焼させるために、図1に示した装置を用いてベーキングを行った。蛍光体塗布膜付きガラス管13は、配管12の内部に配置し、ガラス管13内に不活性ガスを流しながら、500℃以下の所定の温度まで温度制御装置10によって昇温させた。不活性ガス供給弁18を閉じ、酸素供給弁15を開いて、300kPaに加圧した濃度100%の酸素を配管12に導入し、排気弁14を閉じて300kPaで30秒保持した。排気弁14を開放し、管内が大気圧に戻ったならば、再び排気弁14を閉じて、再び濃度100%の酸素を導入し加圧した。以降、このサイクル(回分パージ)を所定ベーク時間が経過するまで繰り返し、蛍光体膜を形成した。
【0032】
得られた蛍光体膜付きガラス管に電極を取り付け、水銀の封入および真空封止を施して冷陰極蛍光ランプを完成させた。得られた冷陰極ランプの輝度および色度を図2のグラフに示す。
【0033】
図2のグラフには、上記ベーキング工程の加熱温度を500℃、450℃、400℃として製造した3種類の本実施の形態の冷陰極蛍光ランプの輝度と色度(y値)を示した。なお、比較例として、蛍光懸濁液は本実施の形態と同じで、ベーキング工程のみを、大気と100%酸素の等量混合雰囲気(およそ酸素60%:窒素40%)、550℃、ベーキング時間1分として冷陰極蛍光ランプを製造した。比較例の冷陰極蛍光ランプの輝度を測定したところ、従来品と同等の輝度が得られていたので、図2のグラフの縦軸の輝度は、比較例の輝度を1として、本実施の形態の3種類の冷陰極蛍光ランプの輝度を示している。横軸は、ベーキング時間である。
【0034】
図2のグラフからわかるように、本実施の形態の製造方法で製造した冷陰極蛍光ランプは、ベーキング温度が500℃では、ベーキング時間を適切に選択することにより比較例以上の輝度が得られていた。450℃では、比較例とほぼ同等の輝度が得られていた。400℃では、全般的に比較例よりも輝度が劣るが、比較例よりも150℃も低い温度でありながら、ベーキング時間を選択することにより、比較例に近い輝度が得られていた。特に、ベーキング温度を500℃、ベーキング時間を3〜10分とした場合、輝度は比較例の製品よりも最大で4%高い値を示した。これは、ベーキング温度を500℃以下に抑制したことにより、青色蛍光体BaMgAl10O17:Eu2+の熱劣化を抑制できたためであると思われる。また、色度のy値についても、ベーキング温度を500℃、ベーキング時間3〜10分の場合、0.0725以下であり、有機成分の十分な燃焼が確認できる値を示していた。
【0035】
つぎに、回分パージの効果を確認した結果を図3に示す。図3には、ベーキング温度400℃で回分パージを行った本実施の形態の冷陰極蛍光ランプと、ベーキング温度400℃で酸素濃度100%雰囲気を流し放しにし、加圧しなかった場合の冷陰極蛍光ランプについて、輝度と色度をそれぞれ示した。輝度は、図2の比較例の縦軸の値1と同じ輝度を100%としている。図3からわかるように、回分パージを実施した場合の方が、輝度は高く、色度も低くなっており、有機成分の燃焼が促進されていた。
【0036】
上記図2,図3では、酸素濃度100%とした場合について示しているが、酸素濃度は、大気中の酸素濃度以上であれば、回分パージとの相互作用により、有機成分の燃焼が促進されるものと考えられる。
【0037】
上述してきたように、本実施例によれば、(1)ファンデルワールス力を利用する結着剤を用い、(2)ベーキング雰囲気を大気より高い酸素濃度とし、(3)加圧した後大気圧まで減圧する回分パージを行う、という3つの要件を蛍光体膜の形成時に同時に行うことにより、500℃以下のベーキング温度でありながら、ガラス管への十分な接着力と、有機成分の十分な燃焼とを同時に実現することできた。これにより、500℃以下のベーキング温度でガラス管の内壁に蛍光膜を形成する技術が確立できた。よって、蛍光体としてBaMgAl10O17:Eu2+のように500℃以上で熱劣化する材料を用いた場合であっても、熱劣化させることなく冷陰極蛍光ランプを製造することができた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本実施の形態の冷陰極蛍光ランプの製造方法において、ベーキング工程に用いる加熱装置の構成を示す説明図。
【図2】本実施の形態でベーキング温度500℃、450℃、400℃で製造した冷陰極蛍光ランプの輝度および色度と、ベーク時間との関係を示すグラフ。
【図3】本実施の形態でベーキング工程において、回分パージを行った場合と、回分パージを行わない場合において、冷陰極蛍光ランプの輝度および色度と、ベーク時間との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
【0039】
10a・・・ヒーター、10b・・・温度制御装置、11・・・炉、12・・・配管、13・・・蛍光体膜付きガラス管、14・・・排気弁、15・・・酸素供給弁、16・・・流量制御装置、17・・・酸素供給源、18・・・不活性ガス供給弁。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体と結着剤と有機材料とを含む溶液をガラス管内壁に塗布する塗布膜形成する工程と、
前記塗布膜付きガラス管を加熱するベーキング工程と有する蛍光ランプの製造方法であって、
前記結着剤として、ファンデルワールス力により前記ガラス管に付着する材料を用い、
前記ベーキング工程では、所定の温度で、酸素濃度が大気よりも高い雰囲気を前記ガラス管内に満たして所定の圧力まで加圧し、それよりも低い圧力まで減圧するサイクルを1回以上繰り返すことを特徴とする蛍光ランプの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の蛍光ランプの製造方法において、前記結着剤として、酸化アルミニウム、酸化イットリウム、および、二酸化ケイ素のうちの少なくとも1つを含むものを用いることを特徴とする蛍光ランプの製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の蛍光ランプの製造方法において、前記ベーキング工程の前記酸素濃度は100%であり、前記所定の温度は500℃以下であることを特徴とする蛍光ランプの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の蛍光ランプの製造方法において、前記蛍光体は、アルミン酸塩蛍光体を含むことを特徴とする蛍光ランプの製造方法。
【請求項5】
蛍光体と酸化アルミニウムと有機溶媒とを含む溶液をガラス管内壁に塗布する塗布膜形成工程と、
前記塗布膜付きガラス管を加熱するベーキング工程とを有し、
前記ベーキング工程では、酸素濃度が大気よりも高い濃度雰囲気下において、大気よりも高い圧力で且つ200〜600℃の温度で加圧加熱する高圧ベーキング工程と、該高圧ベーキング工程よりも低い圧力とする低圧ベーキング工程の圧力サイクルを1回以上繰り返すことを特徴とする蛍光ランプの製造方法。
【請求項6】
蛍光体膜を内面に有するガラス管と、
前記ガラス管内に取り付ける電極と、
前記ガラス管内に封入した水銀とを有し、
前記蛍光体膜は、蛍光体粒と、前記蛍光体粒の平均粒径に対し1/2以下の平均粒径で前記蛍光体粒間に位置する結着剤粒を含むことを特徴とする冷陰極蛍光ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−216499(P2006−216499A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−30599(P2005−30599)
【出願日】平成17年2月7日(2005.2.7)
【出願人】(000002303)スタンレー電気株式会社 (2,684)
【Fターム(参考)】