説明

蛍光ランプ

【課題】平均寿命をできるだけ損なわないで、極めて長い寿命のランプを減らすことができる蛍光ランプを提供する。
【解決手段】この発明に係る蛍光ランプは、ガラス管の内部に蛍光面を備え、両端に電子放射物質を塗布したフィラメントを設けて、内部に水銀と希ガスとを封入して密封した蛍光ランプにおいて、蒸発可能な有効水銀がなくなる平均点灯時間をtHg[時間]、電子放射物質が消失してなくなる平均点灯時間をtem[時間]とすると、
tem−2000≦tHg≦tem+8000
20000≦tHg
を満たすように封入水銀量と電子放射物質量を調整したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蛍光ランプ、特に寿命のバラツキを制御した蛍光ランプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の直管蛍光ランプでは、ガラス管の内部に、水銀とガラスから析出するナトリウムの通過を防ぐ保護膜と発光する蛍光体の膜とで構成した蛍光面を設け、両端の内部に、タングステン線よりなる、電子放射物質を塗布したフィラメントを備え、内部に水銀と希ガスを封入して密封している。さらに、ガラス管の両端の外側にはそれぞれ口金がセメントによって固定されている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
このフィラメントに通電して、温度を上げた後に、両端のフィラメント間に電圧を印加して放電を開始させ、以後は、両端のフィラメント間に所定の電流を流すことにより、放電を維持し、放電により水銀から発生する紫外放射を蛍光体が可視光に変換して照明に利用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09−153345号公報
【特許文献2】特開2005−235659号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような蛍光ランプの寿命要因は、次の3通りである。
(1)電子放射物質が飛散あるいは蒸発してなくなり、放電を維持できなくなる。
(2)水銀が消耗してなくなり、紫外放射が殆どなくなり、可視光が殆ど発生しなくなる。
(3)蛍光体の劣化、ガラスの透過率の低下により光束が初期の70%以下になる。
【0006】
このうち、直管蛍光ランプについては、通常、(1)の電子放射物質の消失により寿命が決まる。この電子放射物質の消失は、通常の点灯時の放電によるものと、始動時の過渡状態でフィラメントの温度あるいはイオンの衝撃が最適でないために起こるものとに分類することができる。
【0007】
近年は、このランプの電流を制御する安定器に、主に効率が高いことから電子安定器が用いられることが多くなってきた。電子安定器は、始動時にまずフィラメントに適切に電流を流して所定の温度に上昇させた後、放電を開始できる適切な電圧をランプ両端に印加し、始動させることができるようになってきた。このため、ランプによっては、寿命が4万時間を越え、ときには、5万時間にもなる場合が見られるようになってきた。
【0008】
このような平均寿命を大きく越えて長時間点灯したランプは、他の劣化が起こり、それによって不具合が起こる可能性がある。その一つは、口金を固定するセメントが劣化し、ランプが寿命になった後、取り替えるときに加わった応力で、セメントが剥がれ、口金がガラス管に固定されない状態になる場合があることである。このような場合、ランプの取り外しが難しくなるとともに、取り替える作業者は、口金の角で手を切るなどの危険の可能性があるというという課題がある。
【0009】
他の不具合としては、ガラス管が外部からの衝撃で割られた場合に、ガラスの飛散を防ぐために、ガラス管外側に樹脂膜を設けた形のランプについて、樹脂膜が劣化し、ガラスの飛散を防止する能力が低下する可能性があるという課題がある。
【0010】
一方、電子放射物質のフィラメントの付着量や、消耗速度のバラツキは大きく、このような、極めて長い寿命のランプがある一方で、2万時間を切るランプもあり、平均寿命は一例では、2.5万時間程度である。上記の課題を解消するため、電子放射物質のフィラメントへの付着量を削減する方法もあるが、ランプの平均寿命が低下してしまうという課題があった。
【0011】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、平均寿命をできるだけ損なわないで、極めて長い寿命のランプを減らすことができる蛍光ランプを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る蛍光ランプは、ガラス管の内部に蛍光面を備え、両端に電子放射物質を塗布したフィラメントを設けて、内部に水銀と希ガスとを封入して密封した蛍光ランプにおいて、
蒸発可能な有効水銀がなくなる平均点灯時間をtHg[時間]、電子放射物質が消失してなくなる平均点灯時間をtem[時間]とすると、
tem−2000≦tHg≦tem+8000
20000≦tHg
を満たすように封入水銀量と電子放射物質量を調整したものである。
【0013】
この発明に係る蛍光ランプは、ガラス管を直管とし、両端にセメントで固定した口金を備え、且つ、tHg≦35000としたものである。
【0014】
この発明に係る蛍光ランプは、ガラス管の外径を24.3mmから26.7mm、口金の外端面間の距離を略1198mmとし、蛍光面を前記ガラス管内面にまず厚さ0.5μm〜2.0μmのγアルミナを主成分とする保護膜とその上に蛍光体層を設けたものとし、フィラメントに付着された電子放射物質の重量を、酸化物分として1個当り3.2mg〜4.5mgとし、水銀量を2.4〜3.1mgとしたものである。
【0015】
この発明に係る蛍光ランプは、ガラス管の外側に樹脂の透明膜を密着して設け、且つ、tHg≦30000としたものである。
【発明の効果】
【0016】
この発明に係る蛍光ランプは、tem−2000≦tHg≦tem+8000及び20000≦tHgを満たすように封入水銀量と電子放射物質量を調整する。水銀はその消耗速度のバラツキと封入量のバラツキが小さく、電子放射物質は消耗速度のバラツキが大きいが、水銀の平均消耗時間を電子放射物質の平均消耗時間より少し短くすることにより、平均寿命の低下を抑えながら、寿命時間の分布を、特に長い側で小さくして、バラツキを小さくすることができる。
【0017】
さらに、この発明に係る蛍光ランプは、tHg≦35000とすることにより、口金のセメントの劣化が顕著になる可能性がある寿命4万時間以上のランプを大きく減少させることができる。
【0018】
さらに、この発明に係る蛍光ランプは、JIS C7617−2で規定されたガラス管の外径が24.3mmから26.7mm、口金の外端面間の距離が略1198mmのFHF32において、厚さ0.5μm〜2.0μmのγアルミナを主成分とする保護膜と蛍光体層で蛍光面を構成した場合、フィラメントに付着された電子放射物質の重量を、酸化物分として1個当り3.2mg〜4.5mgとし、水銀量を2.2〜3.2mgとすることにより、15000≦tHg≦temとtem−5000≦tHg、tHg≦30000を具体化することができ、平均寿命を大きく減少させずに、寿命4万時間以上のランプを大きく減少させることができる。
【0019】
この発明に係る蛍光ランプは、ガラス管の外側にガラス管が割れた場合のガラス飛散防止を目的にした樹脂の透明膜を密着して設け、さらに、tHg≦30000とすることによって、樹脂の透明膜の劣化によるガラス飛散の防止効果の低下した状態になる可能性を減じることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態1を示す図で、直管蛍光ランプ100の一部を破断して示す正面図。
【図2】図1のA部拡大図。
【図3】図1のB部拡大図。
【図4】スタータ形蛍光ランプの基本点灯回路図。
【図5】蛍光ランプの発光原理図。
【図6】実施の形態1を示す図で、直管蛍光ランプ100の一例における電子放射物質の消失時間、水銀の完全不活性化時間、寿命のそれぞれの分布を示す図。
【図7】実施の形態1を示す図で、電子放射物質のフィラメントへの付着量の条件(平均、標準偏差)を一定にして、すなわち、電子放射物質の消失時間の平均を一定にして、水銀の完全不活性化時間を変化させた場合の寿命がどうなるかを示す図。
【図8】実施の形態2を示す図で、直管蛍光ランプ200の一部を破断して示す正面図。
【図9】図8のC部拡大図。
【図10】実施の形態2を示す図で、直管蛍光ランプ200の一例(実施例6)における電子放射物質の消失時間、水銀の完全不活性化時間、寿命のそれぞれの分布を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
実施の形態1.
図1乃至図3は実施の形態1を示す図で、図1は直管蛍光ランプ100の一部を破断して示す正面図、図2は図1のA部拡大図、図3は図1のB部拡大図である。
【0022】
図1乃至図3を参照しながら、直管蛍光ランプ100(蛍光ランプの一例、以下、単にランプ、蛍光ランプと呼ぶ場合もある)の構成を説明する。
【0023】
図1乃至図3に示す直管蛍光ランプ100は、ガラス管1の内部に、水銀とガラスから析出するナトリウムの通過を防ぐ保護膜と発光する蛍光体の膜で構成した蛍光面(図示せず)を設けている。保護膜の一例はγアルミナの微粒子を塗布して固定したもので、厚さ0.5μmから2.0μmとしている。
【0024】
ガラス管1の両端の内部に、タングステン線を二重あるいは三重のコイル状に整形し、電子放射物質を塗布したフィラメント3a,3bを備え、内部に水銀と希ガスを封入して密封している。図1では、左端側にフィラメント3aが設けられ、右端側にフィラメント3bが設けられている。
【0025】
直管蛍光ランプ100の端部構造は、以下に示すとおりである。即ち、ガラス管1の両端をガラス製のステム4a,4bが閉じている(封止)。図1では、ガラス管1の左端をステム4aが閉じ、ガラス管1の右端をステム4bが閉じている。
【0026】
そして、ガラス製のステム4aを貫通して、一対の金属線からなるリード線5a,5bが固定されており、その内側先端にフィラメント3aの両端が固定されている。また、ガラス製のステム4bを貫通して、一対の金属線からなるリード線5c,5dが固定されており、その内側先端にフィラメント3bの両端が固定されている。
【0027】
また、ガラス管1の両端の外側には、それぞれ口金6a,6bがセメントによって固定されている。口金6aの外側には、独立に絶縁されたピン7a,7bが設けられている。ピン7aはリード線5aに接続され、ピン7bはリード線5bに接続されている。そのような構成により、フィラメント3a,3bは外部と電気的に接続できるようになっている。
【0028】
蛍光ランプは白熱電球と異なり、点灯させるための回路が必要になる。点灯回路の基本的な役割は、次の2要素である。
(1)放電を開始するため、まず、フィラメントに通電して温度を上げ、電子放射する状態にして、次にランプ両端の電極(フィラメント)間に放電を開始させるための電圧を供給する。
(2)放電を開始した後、ランプに流れる電流を適切な値に保つ。
【0029】
点灯回路の方式は、スタータ形、ラビッドスタート形、インバータ(高周波点灯)方式の三つに分かれ、ランプはそれぞれの回路に適したものを使用する。ここでは、一例として、スタータ形点灯回路について説明する。
【0030】
図4はスタータ形蛍光ランプの基本点灯回路図である。スタータ形の回路は安定器10とグロースタータ11とから構成される。電源が入ると、グロースタータの電極間で微放電が起こり、この放電の熱によってバイメタルで構成された電極が変形して閉じ、安定器10→フィラメント3a→グロースタータ11→フィラメント3bの回路に短絡電流が流れ、フィラメント3a,3bが加熱される。ここでグロースタータ11が動作し、上記回路を切る。このとき蛍光ランプの両端のフィラメント3a,3b間に高い電圧(千数百ボルト)のパルス電圧が発生し、放電が開始(ランプ点灯)する。この放電により流れる電流は安定器10により規制される。尚、グロースタータ11に並列に、グロースタータ11の雑音を防止する雑音防止用コンデンサ12が接続されている。インバータ方式の場合、上記の放電開始前のフィラメント電流と、電流を流し始めてからフィラメント間に電圧を印加する時間とを最適にコントロールできるために始動時の電子放射物質の損耗が減少し、場合によっては、寿命が4万時間を超えるようなランプもある。
【0031】
図5は蛍光ランプの発光原理図である。図5を参照しながら蛍光ランプの発光原理について説明する。蛍光ランプは放電灯の一種である。電極(フィラメント)に電流が流れ加熱されると、電極(フィラメント)から熱電子が放出される。このときランプ両端の電極間に電圧がかかると放電が開始(ランプ点灯)する。つまり電極から放出された熱電子が反対側の電極に向かって飛び出す。この電子によって放電(プラズマ)が維持され、プラズマ中の電子がガラス管内で蒸発し気体となっている水銀原子に衝突する。この衝突により、水銀原子が紫外線を発生する。この紫外線は人間には見えないが、ガラス管内に塗布した蛍光体に紫外線が当たると可視光(目に見える)に変わり、照明に利用される。
【0032】
直管蛍光ランプ100の寸法及びその他は、一例では、JIS C7617−2で規定されたガラス管1の外径が24.3mmから26.7mm、口金6a,6bの外端面間の距離が略1198mmのFHF32に相当している。
【0033】
フィラメント3a,3bに付着させた電子放射物質量と水銀の封入量は、後述するように、平均電子放射物質消失時間(電子放射物質が消失してなくなる平均点灯時間)をtem、平均水銀不活性化時間(蒸発可能な有効水銀がなくなる平均点灯時間)をtHgとすると、
tem−2000≦tHg≦tem+8000
20000≦tHg
さらに一例では、tHg≦35000
を満たすように調整されている。
【0034】
水銀の封入方法について説明する。水銀を正確に封入する方法は幾つかあるが、一例では、鉄板製の帯に水銀−チタン合金粒子を圧着させ、ロの字状に折り曲げて端同士を溶接した水銀保持構体8(図1、図2参照)を形成する。図1の直管蛍光ランプ100は、水銀保持構体8を左端部に設けている。右端部には、水銀保持構体8を有さない。すなわち、水銀保持構体8は、直管蛍光ランプ100のいずれかの端部に設ければよい。
【0035】
この水銀保持構体8を蛍光ランプ内のいずれかの端部に設け、希ガスを入れて(排気管のチップオフにより)密封した後、高周波電磁界を印加して加熱し、殆どの水銀を蒸発させ、ランプの管内に放出させる。この放出される水銀量は水銀保持構体8に圧着される水銀−チタン合金粒子の量により、調整される。バラツキは概略±10%程度である。一例では、平均2.7mgで±0.27mgとなる。
【0036】
水銀は、次のような、幾つかのメカニズムで蒸発しない形、すなわち、不活性化されて行くと言われている。
(1)第1は、水銀がガラス側に拡散し、ガラス内まで拡散して蒸発できなくなるか、ランプ内側に拡散してきたガラス成分の主にナトリウムとアマルガムを形成し、飽和蒸気圧が極端に小さくなる。
(2)第2は、フィラメントから飛散してきた電子放射物質と蛍光面上でアマルガムあるいはその酸化物を形成し、飽和蒸気圧が極端に小さくなる。
(3)第3の可能性として、ランプ内の不純物、特に、酸素と反応して、酸化水銀となり、蒸発しなくなる。
【0037】
この結果、蒸発する有効水銀量が点灯することにより減少して行くが、0時間から1000時間程度は、若干有効水銀の消耗速度が速いがその後はほぼ一定で、そのまま0mgになったところで、発光が極端に減少して、寿命になる。この有効水銀がなくなるまでの時間のバラツキは、後述する電子放射物質がなくなる時間のバラツキの2/3程度と小さい。このように比較的バラツキが小さいことなどから、上記の3種類の過程のうち、第1の過程が主な過程である可能性が強い。
【0038】
また、有効水銀量は、直流点灯した場合に水銀イオンの移動速度を利用して、非破壊で測定できるため、寿命テスト中にその減少量を測定でき、かつ、減少量を外挿して、有効水銀がなくなる時間を精度よく、推定できる。ここで示している有効水銀がなくなる時間はこの方式で推定したものである。
【0039】
電子放射物質について説明する。例えば、バリウム、ストロンチウム、カルシウムを炭酸塩として共沈させ、それと酸化ジルコニウムの微粒子をバインダや有機溶剤で縣濁液をつくり、ステム4a,4bに固定されたリード線5a,5b,5c,5dに設けられたフィラメント3a,3bに塗布する。ステム4a,4bをガラス管1に封止後、排気しながらフィラメント3a,3bに通電して、温度を上げてバインダなどの有機物をまず分解・蒸発させ、さらに、炭酸塩を分解して酸化物にする。この後、上記の希ガス導入工程、密封工程、水銀放出工程などにより完成する。なお、電子放射物質の重量を示す場合には、フィラメント3a,3bに付着させた状態である炭酸塩の状態ではなく、炭酸塩を分解し、酸化物にした後の重量で示す。
【0040】
電子放射物質については、付着量のバラツキは15%程度であり、一例では、付着量を平均4.0mgとすると±0.6mg程度になる。電子放射物質は、点灯中、電子を放出することから放電を維持することができ、一方、1000K程度に温度が上がること、イオン等のスパッタリングがあることから、フィラメント3a,3bから飛散して行き、やがてなくなることにより、放電を維持できなくなる。この電子放射物質の飛散は、カソード時の電子放射点の位置や面積、その局所的な温度、アノード時の電子が入射する位置など、不確定な要因が多く、結局、この電子放射物質が減少する速度は、バラツキが大きい。
【0041】
電子放射物質は、非破壊で測定する方法として、たとえば、特開平2−86030号などに開示されたフィラメントと合わせた熱容量をその昇温速度を抵抗値の変化から求め、重量に換算する方法などがある。一方、電子放射物質は0時間から2000時間程度は飛散速度がやや大きいが、その後ほぼ一定になり、約1mgになると急激に消耗して、なくなり寿命となる。このため、寿命試験をしながら非破壊で電子放射物質量を測定してゆき、2000時間程度から1万時間〜2万時間程度までの測定値を直線で外挿し、1mgとなった時間を電子放射物質消失時間と推定でき、少なくとも平均値としては十分な精度があることを確認している。ここでいう平均電子放射物質消失時間はこのようにして測定・計算されたのである。
【0042】
すなわち、
(1)電子放射物質消失時間のバラツキは、水銀不活性化時間のバラツキより大きい。
(2)何れのバラツキも、さらに小さくするのは難しい。
(3)平均水銀不活性化時間は、封入する水銀量を変化させればよいので、比較的自由に設定できる。
(4)平均電子放射物質消失時間は、フィラメントへの付着量を調整することにより、設定できる。しかしながら、一定以上多くしようとすると、フィラメントの設計を変えなくてはならず、また、衝撃で落ちやすくなるなどの課題があり、水銀ほどは自由に設定できない。従って、寿命を延ばそうとした場合、電子放射物質の付着量が障害になることが多い。
【0043】
一例(実施例1、図7参照)では、この電子放射物質の付着量を平均4.0mgにし、水銀の封入量を平均2.7mgにした。この結果、平均電子放射物質消失時間は29400時間(標準偏差5230時間)である。これは、増量するのが比較的難しい電子放射物質を上記の平均4.0mgにしたまま、寿命を最大限にするために、簡単に増量できる水銀の封入量を十分、例えば、4.5mgにした場合の寿命に相当し、その仕様のランプ(比較例1(図7参照))を試作して確認した。一方、この例では、水銀を2.7mgにしたため、平均水銀不活性化時間は31600時間であり、このために、両方のどちらかの原因で寿命となる実際の平均寿命は27805時間(標準偏差3947時間)であった。これらの分布を図6に示す。
【0044】
図6は実施の形態1を示す図で、直管蛍光ランプ100の一例における電子放射物質消失時間、水銀不活性化時間、寿命のそれぞれの分布を示す図である。尚、図6における縦軸の確率密度は、各分布曲線の面積が1.0になるようにした値である。
【0045】
40000時間で、電子放射物質がなくならない率が約2.1%であったのに対して、電子放射物質がなくならず、且つ、水銀がなくならない率(不点寿命になる率)は0.01%以下であった。このように、水銀量を電子放射物質量に対して制御することにより、平均寿命を1600時間(29400時間→27805時間(5%減))小さくするだけで、40000時間以上点灯を続けるランプの率を2.1%から0.01%以下に小さくすることができた(図7参照)。
【0046】
また、この例(実施例1)では、寿命の標準偏差が3947時間であったが、比較例1では、標準偏差が5230時間であり、寿命のバラツキが減少するという利点がある。寿命のバラツキが小さいということは、蛍光ランプの取り替え計画などをおこないやすいなどのメリットがある。
【0047】
図7は実施の形態1を示す図で、電子放射物質のフィラメントへの平均付着量を一定にして、すなわち、平均電子放射物質消失時間を一定にして、水銀不活性化時間を変化させた場合の寿命がどうなるかを示す図である。水銀不活性化時間を変化させた場合の標準偏差は、試作により確認したところ、ほとんど変化が見られなかったため、同じ値を使った。
【0048】
水銀完全不活性化時間tHgを短くして行くと寿命の平均値が小さくなるが、15%程度は許容できるとした。すなわち、29400h×0.85=24990hまでは、許容できる。図7では、比較例12,13はこの範囲から外れる。一方、口金6a,6bのセメントが劣化し、強度が弱くなる可能性がある40000時間を超えるランプの比率が1%以下となることを基準とした。比較例1と比較例11とがこの条件から外れる。図7の実施例1から実施例6が両方の条件を満たす。
【0049】
実施例1〜6は、電子放射物質消失時間をtemとすると、
tem−2000=29400−2000=27400≦tHg≦tem+8000=29400+8000=37400
を満たすことになる。すなわち、
tem−2000≦tHg≦tem+8000 (1)
となる。
【0050】
すなわち、(1)式を満たすように、temとtHgを同時に動かしても効果があるが、実施例1から大きくずれると、試作・推定の範囲から外れる。上記の(1)式が確かめられている範囲は、下限が20000≦tHgであり、上限は、フィラメント3a,3bに電子放射物質が塗布できる範囲(平均電子放射物質消失時間約4万時間相当)で成り立つ。
【0051】
一方、口金6a,6bのセメントの劣化に対して、40000時間を超える比率を0.1%にすれば、さらに確実である。図7より、tHg≦35000であればよいことがわかる。
【0052】
なお、最適な条件としては、JIS C7617−2で規定されたガラス管1の外径が24.3mmから26.7mm、口金6a,8bの外端面間の距離が略1198mmのFHF32において、厚さ0.5μm〜2.0μmのγアルミナを主成分とする保護膜と蛍光体層で蛍光面を構成した場合、フィラメント3a,3bに付着された電子放射物質の平均重量を、酸化物分として1個当り3.2mg〜4.5mgとし、平均水銀量を2.2〜3.2 mgとしたものであり、図7の実施例1に対応する。なお、保護膜は、前述のように、水銀の消失を防ぐ作用があるが、この厚さの範囲では水銀消失速度がほとんど変わらないことを確認している。
【0053】
実施の形態2.
図8、図9は実施の形態2を示す図で、図8は直管蛍光ランプ200の一部を破断して示す正面図、図9は図8のC部拡大図である。実施の形態2の直管蛍光ランプ200(蛍光ランプの一例、以下、単にランプ、蛍光ランプと呼ぶ場合もある)は、実施の形態1と同様な構造の直管蛍光ランプ200のバルブ(ガラス管1)の外側に、ガラスが割れたときの飛散を防ぐための樹脂の透明膜9を密着して設けたものである。
【0054】
実施の形態2の直管蛍光ランプ200の電子放射物質の付着量と水銀の封入量は、実施の形態1の条件に加えて、
tHg≦30000 (2)
を満たす。これは、実施例5,6(図7参照)が該当する。この範囲では、35000時間以上の寿命のランプは1%以下である。また、実際に封入する水銀量の一例は、実施例5,6に対応して、平均2.2mgである。
【0055】
図10は実施の形態2を示す図で、直管蛍光ランプ200の一例(実施例6)における電子放射物質消失時間、水銀化時間、寿命のそれぞれの分布を示す図である。この図は図7の実施例6に相当する一例である。尚、図10における縦軸の確率密度は、各分布曲線の面積が1.0になるように値である。上記以外は、実施の形態1と同様である。
【0056】
透明膜9(樹脂膜)は、一例としては、約0.1mmの厚さのポリエチレンテレフタレート製で、熱収縮するようにしてチューブ状に加工しておき、ランプを挿入後加熱して、密着させる。この透明膜9により、ランプを落としたり、ものを当てたときに割れても、飛散しないようにしている。
【0057】
透明膜9(樹脂膜)は、ランプを長時間点灯すると、その熱と紫外放射により劣化し、特に、35000時間を超えると、その飛散防止性能が低下する場合があった。このため、35000時間までにランプを寿命にすれば、飛散防止性能の低下が問題にならない。上記の条件はこの35000時間までに殆どのランプを寿命にする条件であり、この影響を最小限にすることができる。
【符号の説明】
【0058】
1 ガラス管、3a,3b フィラメント、4a,4b ステム、5a,5b,5c,5d リード線、6a,6b 口金、7a,7b,7c,7d ピン、8 水銀保持構体、9 透明膜、10 安定器、11 グロースタータ、12 雑音防止用コンデンサ、100 直管蛍光ランプ、200 直管蛍光ランプ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス管の内部に蛍光面を備え、両端に電子放射物質を塗布したフィラメントを設けて、内部に水銀と希ガスとを封入して密封した蛍光ランプにおいて、
蒸発可能な有効水銀がなくなる平均点灯時間をtHg[時間]、電子放射物質が消失してなくなる平均点灯時間をtem[時間]とすると、
tem−2000≦tHg≦tem+8000
20000≦tHg
を満たすように封入水銀量と電子放射物質量を調整したことを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項2】
前記ガラス管を直管とし、両端にセメントで固定した口金を備え、且つ、tHg≦35000としたことを特徴とする請求項1記載の蛍光ランプ。
【請求項3】
前記ガラス管の外径を24.3mmから26.7mm、前記口金の外端面間の距離を略1198mmとし、前記蛍光面を前記ガラス管内面にまず厚さ0.5μm〜2.0μmのγアルミナを主成分とする保護膜とその上に蛍光体層を設けたものとし、前記フィラメントに付着された電子放射物質の重量を、酸化物分として1個当り3.2mg〜4.5mgとし、水銀量を2.4〜3.1mgとしたことを特徴とする請求項2記載の蛍光ランプ。
【請求項4】
前記ガラス管の外側に樹脂の透明膜を密着して設け、且つ、tHg≦30000としたことを特徴とする請求項1又は請求項2記載の蛍光ランプ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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