説明

蛍光体の製造方法、蛍光体、蛍光ランプ及び照明器具

【課題】 低コストかつ比較的簡単な方法で蛍光体粒子の表面に金属酸化物の被膜を形成できる蛍光体の製造方法を提供する。
【解決手段】 蛍光体粒子11の表面に被膜層が形成された蛍光体の製造方法であって、前記蛍光体粒子11と金属化合物の粒子12とを分散させた水溶液17を作製する水溶液作製工程と、前記水溶液作製工程後に、前記水溶液17のpHを酸またはアルカリ溶液18により酸性あるいはアルカリ性に調整することによって、前記蛍光体粒子11の表面に前記金属化合物の粒子12を付着させて前記被膜層を形成するpH調整工程とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体の製造方法、蛍光体、蛍光ランプ及び照明器具に関し、特に、蛍光体表面に金属酸化物の被膜を有する蛍光体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に蛍光ランプは、ガラスバルブ内に水銀が封入され、また、このガラスバルブの内面には蛍光体を主体とした蛍光体層が形成されている。
近年、蛍光体においては、水銀の付着等による蛍光体の変質を防止するために、蛍光体粒子の表面に金属酸化物の被膜を形成することが行われている(特許文献1,2参照)。
この金属酸化物の被膜を形成する方法としては、金属アルコキシドを用いた方法(ゾル−ゲル法)がある(特許文献3参照)。
【0003】
すなわち、蛍光体粒子を分散させた有機溶媒中に、金属アルコキシド溶液を加える。そして、金属アルコキシドを加水分解、重合させることにより、蛍光体粒子の表面に金属酸化物を付着させて被膜を形成するというものである。
【特許文献1】特開平5−25475号公報
【特許文献2】特開平8−73844号公報
【特許文献3】特開平7−316551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記金属アルコキシドを用いた方法によると、用いる金属アルコキシドの種類にもよるが、通常、上記加水分解・重合反応を促進するための加熱が必要である。それゆえ、この加熱のための加熱設備が必要となりコスト高を招く。
また、付着させた金属酸化物にアルコキシ基が残存していた場合、蛍光ランプ作製後に、アルコキシ基の脱離や分解によりガラスバルブ内に不純ガスが生成されてガラスバルブ内の真空度を低下させてしまう可能性があるという問題点がある。
【0005】
本発明は係る問題に鑑みてなされたものであって、低コストかつ比較的簡単な方法で蛍光体粒子の表面に金属酸化物の被膜を形成できる蛍光体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の本発明に係る蛍光体の製造方法は、蛍光体粒子の表面に被膜層が形成された蛍光体の製造方法であって、前記蛍光体粒子と金属化合物の粒子とを分散させた水溶液を作製する水溶液作製工程と、前記水溶液作製工程後に、前記水溶液のpHを酸性あるいはアルカリ性に調整することによって、前記蛍光体粒子の表面に前記金属化合物の粒子を付着させて前記被膜層を形成するpH調整工程とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、請求項2に記載の本発明に係る蛍光体の製造方法は、請求項1に記載の蛍光体の製造方法において、前記pH調整工程では、前記水溶液のpHを、前記蛍光体粒子と前記金属化合物の粒子とのゼータ電位の正負が異なる状態に調整することを特徴とする。
また、請求項3に記載の本発明に係る蛍光体の製造方法は、請求項1または2に記載の蛍光体の製造方法において、前記金属化合物は酸化物以外の化合物であって、前記pH調整工程後に、前記金属化合物の粒子を加熱する加熱工程を行うことを特徴とする。
【0008】
さらに、請求項4に記載の本発明に係る蛍光体の製造方法は、請求項1から3のいずれかに記載の蛍光体の製造方法において、前記金属化合物は、マグネシウム、イットリウム、亜鉛及びジルコニウムの内の、少なくとも1種以上を含有するする化合物であることを特徴とする。
請求項5に記載の本発明に係る蛍光ランプ蛍光体は、蛍光体粒子の表面に金属酸化物の粒子からなる被膜層を有する蛍光体であって、前記被膜層の膜厚が、蛍光体の励起光線波長の4分の1以上2分の1以下であることを特徴とする。
【0009】
また、請求項6に記載の本発明に係る蛍光ランプ蛍光体は、請求項5に記載の蛍光体において、前記金属酸化物は、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムの内の少なくとも1種以上からなることを特徴とする。
請求項7に記載の本発明に係る蛍光ランプは、請求項1から4のいずれかに記載の蛍光体の製造方法によって製造された蛍光体を、蛍光体層中に備えていることを特徴とする。
【0010】
また、請求項8に記載の本発明に係る蛍光ランプは、請求項5または6に記載の蛍光体を蛍光体層中に備えていることを特徴とする。
さらに、請求項9に記載の本発明に係る照明器具は、請求項7または8に記載の蛍光ランプを備えていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来必要であった加熱を行なうことがなく、このため加熱のための高額な設備導入等を不要にできるので、従来に比して低コストかつ簡単に、表面に金属化合物の粒子からなる被膜層を有する蛍光体を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(実施の形態1)
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
1.蛍光ランプの構成
図1は、蛍光ランプ(以下、単に「ランプ」という。)1の一部を切り欠いた概略図である。
【0013】
ランプ1は30形の丸形ランプであって、環状のガラスバルブ2と、このガラスバルブ2に取り付けられた口金3とを有している。
ガラスバルブ2内面には、蛍光体層4が形成されている。ガラスバルブ2を構成するガラス管の両端部には、口金3と電気的に接続された一対の電極(図示せず)が封着されている。また、ガラスバルブ2内には、図示しない水銀と、アルゴンやネオン、クリプトン等の希ガスがそれぞれ所定量封入されている。
【0014】
ランプ1に電力が供給されると、ガラスバルブ2内の電極間で放電が生じ、励起された水銀から主として波長が254nmである紫外線が放射され、蛍光体層4中の蛍光体において上記254nmの紫外線が可視光に変換されてガラスバルブ2外部に放出されるようになっている。
2.蛍光体の表面処理方法
図2は、本実施の形態に係る蛍光体を示す模式図である。
【0015】
蛍光体10は、蛍光体粒子11とこの蛍光体粒子11の外表面に付着した多数の金属酸化物の粒子12とから構成され、同図に示すように、多数の金属酸化物の粒子12は蛍光体粒子11の表面に被膜層を形成している。
次に、この粒子からなる被膜層を形成する製法について述べる。
図3は、蛍光体粒子の表面に被膜層を形成する製法を示す模式図である。
【0016】
まず、蛍光体粒子11からなる蛍光体粉体13を、蒸留水14の入ったビーカー15内に投入し[図3(a)参照]、攪拌することによって均一に分散させる。なお、ここで用いる溶媒は蒸留水とアルコールの混合溶媒であってもよい。
続いて、金属化合物の粒子12の粉体16をこのビーカー15に投入する[図3(b)参照]。その後、攪拌することによって、蛍光体粒子11に加えて、金属化合物の粒子12も水溶液17中に分散させる[図3(c)参照]。なお、ここで、上記金属化合物は、被膜を形成したい金属酸化物を含有する金属の化合物である。
【0017】
そして、酸もしくはアルカリ溶液18を滴下して、この水溶液17中のpHを調整する。ここで、この水溶液17中のpHを蛍光体粒子11と金属化合物の粒子12とのゼータ電位の正負が異なる状態となる領域に調整することによって、静電的引力により蛍光体粒子11に金属化合物の粒子12が付着する。
その後、所定時間攪拌を続けることによって、各蛍光体粒子11の表面に多数の金属化合物の粒子12が付着し、表面に被膜が形成された蛍光体10が得られることとなる[図3(d)参照]。
【0018】
そして、吸引ろ過によって蛍光体と溶媒とを分離する。分離した蛍光体をアルコールにより洗浄し、常温乾燥によりアルコールを蒸発させた後、高温で所定時間乾燥させる。
続いて、この蛍光体を結着剤や増粘剤を含む溶媒と混合・攪拌して蛍光体懸濁液を作成し、その後、この懸濁液をガラスバルブ内面に塗布し、乾燥、焼成することによって、ガラスバルブ内面に蛍光体層が形成されることとなる。
【0019】
なお、用いる金属化合物の粒子が金属酸化物以外のものである場合には、蛍光体を加熱して、金属化合物の粒子を金属酸化物に変化させる工程が必要となる。例えば、金属水酸化物の粒子のときは、脱水して金属酸化物が得られる程度の温度に加熱し、金属炭酸化合物のときは、分解温度の程度に加熱することが必要である。もっとも、pH調整工程後の加熱工程は必ずしも別途行う必要はなく、上述の焼成(シンター)工程により高温で加熱されることとなるので、この焼成工程をもって代替することができる。
【0020】
以上説明したように、本実施の形態では、pHを調整するという比較的簡単な方法で、かつ加熱を要さずに蛍光体粒子の表面に金属酸化物を付着させてこの蛍光体粒子の表面に被膜層を形成することができる。
また、従来の金属アルコキシドを用いた製法に比べて、本実施の形態による製法では、使用した金属化合物の量に対して、より収率よく被膜層を形成できる。さらに、静電的引力を用いて蛍光体粒子と上記粒子とを吸着させるので、より強固に吸着させることができ、上記蛍光体懸濁液の作成中や焼成工程中に、粒子が蛍光体粒子から剥がれ取れにくくすることができる。
【0021】
図4は、本実施の形態に係る蛍光体を上記焼成工程を経てガラスバルブ内面に被着したときの、ガラスバルブの横断面を示す模式図である。
ガラスバルブ2内面には、蛍光体10と結着剤19とを有する蛍光体層4が形成されている。
本実施の形態に係る蛍光体10をガラスバルブ2の内面に被着すると、ランプ放電中の蛍光体粒子11への水銀(不図示)の付着を防止することが可能となり、ガラスバルブ2内の水銀の欠乏(いわゆる水銀ぼけ)や、蛍光体粒子11の変質を、また、蛍光体10への水銀吸着による蛍光体10の発光の劣化を抑制することができる。従って、ランプの光束維持率の低下を抑制することができる。
【0022】
また、蛍光体10は表面に金属酸化物の粒子12からなる被膜を有しているので、蛍光体層4中の蛍光体10同士間、または蛍光体10と結着剤19間においては、金属酸化物の粒子12を介して接触することとなる。粒子同士の吸着においては、吸着する粒子の表面積が大きい程吸着力が強くなるため、蛍光体粒子11に比べ表面積の大きい金属酸化物の粒子からなる被覆を有した蛍光体10は、被覆を形成していない場合の蛍光体に比べ、結着剤19または他の粒子12とより強く結合する。従って、金属酸化物の粒子からなる被覆を有した蛍光体10は、被膜を形成していない場合の蛍光体に比べて、蛍光体層4の被着強度を高めることができる。
【0023】
従って、従来より結着剤19の使用量を減らしても、実用上問題のない程度の被着強度を得ることができる。通常、結着剤19は可視光及び波長254nmの紫外光を遮光するので、結着剤の削減による光束の向上も期待できる。
なお、金属酸化物の中でも、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛及び酸化ジルコニウムは、185nmの紫外線を遮断して、この紫外線による蛍光体の劣化を防ぐと共に、220nm以上の波長の光の大半を透過させる性質を有しているので、254nmの紫外線を効率よく蛍光体に到達させることが可能である。このため、上記蛍光体粒子に付着させる金属化合物としては、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛及び酸化ジルコニウムの内の、少なくとも1種以上を含有する化合物を用いることが特に好ましい。
【0024】
しかしながら、次の金属酸化物も被膜層として有効である。すなわち、酸化ランタン、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、及びα−酸化アルミニウムの内の、少なくとも1種類以上を含有する化合物も被膜層として有効である。
なお、本発明における金属酸化物は、金属化合物であってもかまわない。金属化合物を使用した場合でも、前述のシンター工程において金属化合物が金属酸化物へ変化することとなる。
3.被膜層の膜厚について
図2にもどって、蛍光体粒子11の表面に形成する金属酸化物の粒子12からなる被膜層の膜厚は、水銀から放射され蛍光体を励起する254nmの波長(以下、この波長を「励起光線波長」という。)の4分の1以上2分の1以下(63.5nm〜127nm)に設定することが好ましい。
【0025】
通常、光が被膜層を通過する場合、その被膜層の膜厚が、通過する光の波長の2分の1に近いときが光の反射が少なく、すなわち透過率が非常に良い。しかし、被膜層の膜厚が励起光線波長の2分の1より大きくなると、被膜層通過時の励起光線波長の減衰が大きくなり、また、被膜層の膜厚が励起光線波長の4分の1より小さくなると、被膜層自身の効果が期待できない。
【0026】
従って、上記膜厚をこの範囲に設定すると、254nmの紫外線は特に良好に被膜層中を透過することができ、被膜層形成によるランプの光束低下を抑制することができる。
上述のように、本実施の形態においては、静電的引力により蛍光体粒子11に金属化合物の粒子12を付着させるので、粒子の被膜層が複層ではなく、単層の膜を形成することができ、粒子の平均粒径がそのまま被膜層の膜厚となる。ゆえに、平均粒径が上記範囲に含まれる粒子を用いることで、所望の膜厚を得ることができる。
4.蛍光体粒子に2種以上の金属化合物の粒子を付着させる場合について
例えば以下のような方法で、蛍光体粒子に2種以上の金属化合物の粒子を付着させることが可能である。
【0027】
上述のように、蛍光体粒子11の表面に第1の金属化合物粒子12を付着させた後[図3(d)参照]、吸引ろ過によって蛍光体と溶媒とを分離する。分離した蛍光体を洗浄・乾燥し、この蛍光体と第2の金属化合物とを水溶液の入ったビーカーに投入する。
その後、この水溶液をpHを蛍光体粒子と第2の金属化合物とのゼータ電位の正負が異なる状態となる領域に調整することによって、蛍光体粒子の表面に、第2の金属化合物を付着させることができる。
(実施の形態2)
本実施の形態では、上記した実施の形態1の蛍光体と異なり、蛍光体の表面に金属酸化物の連続被膜層が形成されている。
【0028】
図5は、本実施の形態に係る蛍光体の断面を示す模式図である。
同図に示すように、蛍光体20は、蛍光体粒子21とこの蛍光体粒子を包囲する金属酸化物の連続被膜層22とから構成されている。
次に、上記連続被膜層22を形成する製法について述べる。
まず、金属化合物を蒸留水中、または蒸留水とアルコールとの混合溶媒中に投入し、攪拌することによって溶解させる。この水溶液中に、蛍光体を投入し、攪拌することによって均一に分散させる。さらに、この水溶液にアルカリ溶液を加えることにより、水溶液のpHをアルカリ性に調整する。なお、上記アルカリ溶液としては、水溶液のpHを調整可能な溶液であればよく、例えば、アンモニア水または水酸化カリウム水溶液を用いることができる。
【0029】
水溶液中のpHをアルカリ性に調整し、所定時間攪拌を行うことにより、この水溶液中の水酸化基と金属イオンとが化合して蛍光体粒子の表面に金属水酸化物の連続被膜層が形成される。
その後は、上記実施の形態1と同様にして、吸引ろ過により蛍光体と溶媒を分離、溶媒から分離した蛍光体をアルコールによって洗浄し、常温乾燥によりアルコール蒸発させた後、高温で所定時間乾燥させる。このようにして、蛍光体の表面に金属水酸化物からなる連続被膜層が形成され、金属水酸化物を金属酸化物に変化させるために加熱することが必要であるが、この加熱工程は焼成(シンター)工程で代替してもよいのは実施の形態1と同様である。
【0030】
なお、本実施の形態の連続被膜層においても、その膜厚を上記した範囲(励起光線波長の4分の1以上2分の1以下)に設定することが好ましいのは同様である。この膜厚の制御は、上記金属化合物と蛍光体の混合比、調整するpHの値や攪拌時間を調節することで行うことができる。
また、本発明における蛍光体は、特許文献1の場合と違い、蛍光体表面を被覆する物質が酸化物状態であるため、蛍光ランプ作成後に水酸基の縮合によりガラスバルブ内に水分子が生成されて管内の真空度を低下させてしまう可能性があるという問題点がない。
(実施例)
以下、実施例により、さらに詳細に説明する。なお、以下の実施例においては、赤・緑・青の3色の内、青色蛍光体のみ被膜を形成する製法について説明しているが、赤色・緑色蛍光体も青色蛍光体と同様にして表面に被膜を形成して、上記3色の蛍光体をガラスバルブの内面に塗布・被着している。
【0031】
(実施例1)
まず、蒸留水1400mlを加えた3リットルビーカー内に、蛍光ランプ用青色蛍光体(ユーロピウム付活アルミン酸バリウムマグネシウム,BaMgAl1017:Eu2+)350gを投入し、攪拌機を用いて均一に攪拌した。これに平均粒径が約70nmの酸化マグネシウム(MgO)の粒子粉末を17.5g(蛍光体に対して5質量%)投入した後、アンモニア水を用いて溶液のpHを9.6に調整した。
【0032】
ここで、pHを9.6に調整することにより、等電点が約12.4のMgOの表面は正に帯電し、等電点が約8.2のユーロピウム付活アルミン酸バリウムマグネシウムの表面は負に帯電する。
その後、5時間攪拌を続けることにより、上記蛍光体粒子の表面に酸化マグネシウム粒子を付着させて、上記粒子の被膜層を形成した。
【0033】
続いて、吸引ろ過により蛍光体と溶媒とを分離し、蛍光体をエタノール200mlにて2度洗浄した。さらに、分離させた蛍光体を蒸発皿に移し、室温で24時間乾燥させた後、150℃で3時間乾燥させた。
このようにして得られた蛍光体300gと、5%エチルセルロース−酢酸ブチル溶液240cc、酢酸ブチル170cc及び結着剤(ホウ酸カルシウムバリウムとリン酸カルシウムの混合物)を蛍光体に対して5質量%添加し、蛍光体懸濁液を調合した。
【0034】
この蛍光体懸濁液を丸管30形用ガラスバルブに所定量塗布し、乾燥後、増粘剤エチルセルロースを燃焼させるために600℃程度の焼成を行って、丸形ランプを作製した。
(実施例2,3)
酸化マグネシウム粒子粉末の添加量を蛍光体に対してそれぞれ3質量%、1質量%とした他は上記実施例1と同様にして作製した丸形ランプを、それぞれ実施例2,3とした。
【0035】
なお、上記質量%が減少するにつれて、蛍光体粒子に付着した酸化マグネシウム粒子間における隙間が大きくなることとなる。
(実施例4,5,6)
酸化マグネシウム粒子粉末の代わりに水酸化マグネシウム[Mg(OH2)]粒子を蛍光体に対してそれぞれ5質量%、3質量%、1質量%(酸化マグネシウム換算)添加する他は実施例1と同様にして作製した丸形ランプをそれぞれ実施例4,5,6とした。
【0036】
なお、水酸化マグネシウムの脱水温度は約350℃であるので、上記焼成工程において、蛍光体粒子の表面に付着した水酸化マグネシウムは酸化マグネシウムへと完全に変化することとなる。
(実施例7,8,9)
酸化マグネシウム粒子粉末の代わりに炭酸マグネシウム(MgCO3)粒子を蛍光体に対してそれぞれ5質量%、3質量%、1質量%(酸化マグネシウム換算)添加する他は実施例1と同様にして作製した丸形ランプをそれぞれ実施例7,8,9とした。
【0037】
なお、炭酸マグネシウムの分解温度は約400℃であるので、上記焼成工程において、蛍光体粒子の表面に付着した炭酸マグネシウムは酸化マグネシウムと二酸化炭素へと変わり、酸化マグネシウムの被膜を得た。
(実施例10)
3リットルビーカーに蒸留水1400mlを加え、これに硝酸マグネシウム・六水和物Mg(NO32・6H2Oを112g(後述の蛍光体に対して酸化マグネシウム換算で5質量%)添加し、攪拌機を用いて攪拌することにより硝酸マグネシウム・六水和物を蒸留水中に完全に溶解させて水溶液を得た。これに蛍光ランプ用青色蛍光体(ユーロピウム付活アルミン酸バリウムマグネシウム)350gを投入し、攪拌することにより上記蛍光体も水溶液に均一に分散させた。この溶液にアンモニア水を添加し、溶液のpHを10.8に調整した。その後5時間攪拌を続けることにより、蛍光体粒子の表面に水酸化マグネシウム連続被膜層を形成した。なお、上記連続被膜層の膜厚は約100nmに制御した。
【0038】
その後は実施例1と同様にして、蛍光体を溶媒から分離し、乾燥後に、蛍光体懸濁液を作製して丸管30形用ガラスバルブに塗布等を経て、丸形ランプを作製した。
(実施例11,12)
硝酸マグネシウム・六水和物の添加量を蛍光体に対してそれぞれ3質量%、1質量%(酸化マグネシウム換算)とした他は上記実施例1と同様にして作製した丸形ランプを、それぞれ実施例11,12とした。
【0039】
(光束維持率について)
以上のようにして得た蛍光ランプを点灯させ、点灯初期のとき(点灯0時間)、100時間点灯後のランプ光束を測定し、金属酸化物の被膜が光束維持率へ与える影響を調べる試験を行った。次の表1に本試験の結果を示す。
【0040】
【表1】

なお、表中の比較例は、蛍光体粒子に被膜層を形成しない他は実施例1と同様にして丸形ランプを作製したものである。また、表中の光束値は、0時間、100時間の各々の比較例を100とした場合の相対比で表している。
表1に示すように、蛍光体表面に酸化マグネシウムの粒子からなる被膜層を有する実施例1〜9及び酸化マグネシウムの連続被膜層を有する実施例10〜12の蛍光ランプの光束維持率(100/0h)は、比較例のものに比べて良好な結果が得られたことがわかる。
(照明器具)
本実施の形態で説明したランプは照明器具の光源として用いることができる。
【0041】
図6は、その一例を示し、上記照明器具の概略構成を示す図である。照明器具30は、直管状の蛍光ランプ31と、この蛍光ランプ31を点灯させる点灯装置32と、照明器具本体33を備えている。
蛍光ランプ31は、図1を用いて説明した丸形の蛍光ランプ1と、そのガラスバルブの形状が直管状をしている点以外は同様の構成をしたランプである。
【0042】
請求項7または8に記載の蛍光ランプは、蛍光体の表面が金属酸化物被膜層で被覆されているため、金属酸化物被膜層で被覆されていない蛍光体を塗布した蛍光ランプと比較して、185nmの紫外線がランプ外に照射され難い。そのため、照明器具30は、185nmの紫外線による樹脂の劣化や変色が少ないという利点がある。
(その他)
なお、上記実施の形態では、蛍光ランプ用の蛍光体の製造に適用する場合について説明したが、PDP(プラズマディスプレイパネル)等の表示装置に用いる蛍光体の製造方法についても適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明に係る蛍光体の製造方法によれば、比較的簡単な方法で蛍光体粒子の表面に金属酸化物粒子の被膜を形成することができ、従来より製造コストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】蛍光ランプの一部を切り欠いた概略図である。
【図2】実施の形態1に係る蛍光体を示す模式図である。
【図3】蛍光体粒子の表面に被膜層を形成する製法を示す模式図である。
【図4】蛍光体をガラスバルブ内面に被着したときの、ガラスバルブの横断面を示す模式図である。
【図5】実施の形態2に係る蛍光体の断面を示す模式図である。
【図6】照明器具の概略構成を示す図である。
【符号の説明】
【0045】
1,31 蛍光ランプ
10,20 蛍光体
11 蛍光体粒子
12 金属酸化物粒子
17 水溶液
30 照明器具

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体粒子の表面に被膜層が形成された蛍光体の製造方法であって、前記蛍光体粒子と金属化合物の粒子とを分散させた水溶液を作製する水溶液作製工程と、前記水溶液作製工程後に、前記水溶液のpHを酸性あるいはアルカリ性に調整することによって、前記蛍光体粒子の表面に前記金属化合物の粒子を付着させて前記被膜層を形成するpH調整工程とを備えることを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記pH調整工程では、前記水溶液のpHを、前記蛍光体粒子と前記金属化合物の粒子とのゼータ電位の正負が異なる状態に調整することを特徴とする請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記金属化合物は酸化物以外の化合物であって、前記pH調整工程後に、前記金属化合物の粒子を加熱する加熱工程を行うことを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記金属化合物は、マグネシウム、イットリウム、亜鉛及びジルコニウムの内の、少なくとも1種類からなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
蛍光体粒子の表面に金属酸化物の粒子からなる被膜層を有する蛍光体であって、
前記被膜層の膜厚が、蛍光体の励起光線波長の4分の1以上2分の1以下であることを特徴とする蛍光体。
【請求項6】
前記金属酸化物は、酸化マグネシウム、酸化イットリウム、酸化亜鉛、酸化ジルコニウムの内の少なくとも1種類からなることを特徴とする請求項5に記載の蛍光体。
【請求項7】
請求項1から4のいずれかに記載の蛍光体の製造方法によって製造された蛍光体を、蛍光体層中に備えていることを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項8】
請求項5または6に記載の蛍光体を蛍光体層中に備えていることを特徴とする蛍光ランプ。
【請求項9】
請求項7または8に記載の蛍光ランプを備えていることを特徴とする照明器具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−28458(P2006−28458A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−213387(P2004−213387)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】