説明

蛍光体の製造方法および半導体発光装置

【課題】粒径が小さく、かつ均一な窒化物または酸窒化物蛍光体の粉末を製造することができる蛍光体の製造方法を提供する。
【解決手段】窒化物または酸窒化物の結晶中に、発光中心としての光学活性元素Mを含有する蛍光体の製造方法において、金属化合物粉末を含む混合物から、金属化合物粉末の凝集体からなる顆粒を成形する顆粒成形工程を含み、顆粒成形工程は、金属化合物粉末を含む混合物と溶媒とを含有するスラリーを、スラリーの中に含まれる混合物の濃度が0g/mlよりも高く、0.15g/ml以下の範囲内となるように形成するスラリー形成工程、およびスラリーを、流量が420L/時間以上である窒素ガスでの噴霧乾燥により乾燥させる乾燥工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体の製造方法、および該方法により製造された蛍光体を用いた半導体発光装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一次光を発する発光素子と、該一次光を吸収して二次光を発する波長変換部と、を組み合わせた発光装置は、低消費電力、小型化、高輝度かつ広範囲な色再現性が期待される次世代の発光装置として注目され、活発に研究開発が行われている。通常、発光素子から発せられる一次光には、長波長の紫外線〜青色の範囲のものが用いられている。また、波長変換部には用途に適した様々な蛍光体が用いられている。蛍光体としては、例えば酸化物の蛍光体がよく用いられている。
【0003】
そのような状況の中、近年、従来の蛍光体よりも熱的および化学的に安定で、かつGaN等の半導体発光素子によって励起するに際して好適に使用される、近紫外領域に強い吸収性を持つ窒化物蛍光体および酸窒化物蛍光体が提案されている。このような窒化物蛍光体および酸窒化物蛍光体の製造方法としては、例えば以下のようなものが挙げられる。
【0004】
酸窒化物蛍光体の製造方法としては、例えば特許文献1には、窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ユーロピウム(Eu)を所定のモル比で混合し、1700℃の温度でホットプレス法により焼成して製造する方法が開示されている。
【0005】
窒化物蛍光体の製造方法としては、例えば非特許文献1には、窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化カルシウム(Ca)、酸化ユーロピウム(Eu)を所定のモル比で乳鉢を用いて混合し、焼成して得た焼結体を乳鉢で粉砕する方法が開示されている。
【0006】
上記特許文献1および非特許文献1に開示されている蛍光体粉末の製造方法においては、いずれの場合も焼成後に粉砕等により粗大な凝集成分を粒度調整する工程が含まれている。しかしながら、粉砕工程が含まれると、蛍光体粒子内や表面に機械的ダメージが加わるため、蛍光体内部や表面に欠陥が発生し、発光強度が低下するという問題がある。このような蛍光体を発光素子に用いた場合には、発光効率が低下してしまう。特に、酸窒化物蛍光体の場合、母体が強固なセラミックスであるため、焼成後の粉砕が容易ではなく、蛍光体粒子内や表面の機械的ダメージも比較的大きい。
【0007】
また、粉砕後の蛍光体粒子は、比較的広がりの大きい粒度分布を有し、形状にバラツキがある。このような蛍光体粒子をPDPパネル等に塗布したり、樹脂に分散させる場合には、充填率が悪い、分散が不均一である等の問題を生じる。そこで、所望の粒径の蛍光体粒子を得るためには、粉砕後に分級等の処理が不可欠となる。例えば、特許文献2においては、平均粒径500μm付近の金属化合物の凝集体を焼結した後、粉体操作性に優れる50nm〜20μm付近に粒度分布を有する蛍光体粒子を得るために、粉砕および分級工程を行っている。しかしながら、分級工程を行った場合、所望の粒径の蛍光体粒子以外はロスとなってしまい、結果的に得られる蛍光体の量が少なくなってしまうという問題がある。
【0008】
また、蛍光体が酸窒化物蛍光体である場合、単純酸化物等と比較して組成が複雑である。すなわち、単純酸化物等に比べると、焼成前の出発原料として、より多種の化合物を要する。例えば、非特許文献1には、窒化ケイ素(Si)、窒化アルミニウム(AlN)、窒化カルシウム(Ca)、酸化ユーロピウム(Eu)の混合物が出発原料として挙げられている。これらは、酸化物と窒化物との混合物である。しかしながら、個々の出発原料は、粒径等の物理的パラメーターが異なるため、単純に混合するだけでは焼成後の粒子の組成、粒径、形状に不均一性が生じるという問題がある。
【0009】
そこで、上記粉砕および分級工程を省略した蛍光体の製造方法の研究開発が行われている。例えば、特許文献3には、粉砕工程および分級工程を必要とせず、かつ組成、粒径、形状のそろった蛍光体粒子を得る方法として、希土類リン酸塩の粉末および付活剤粉末を含むスラリーを噴霧乾燥法により球状化し、焼成する方法が開示されている。また、特許文献4には、窒化物、酸窒化物蛍光体を製造する場合において、粉砕工程および分級工程を必要とせず、かつ組成、粒径、形状のそろった蛍光体粒子を得る方法として、金属化合物粉末を含む混合物を粉末の凝集体からなる顆粒に成形し、焼成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−363554号公報(2002年12月18日公開)
【特許文献2】特開2005−255895号公報(2005年9月22日公開)
【特許文献3】特開平2−167386号公報(1990年6月27日公開)
【特許文献4】特開2008−19407号公報(2008年1月31日公開)
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】上田恭太、広崎尚登、山元明、解栄軍著,「白色LED用赤色窒化物蛍光体」、第305回蛍光体同学会講演予稿集,蛍光体同学会発行,2004年11月26日公開,p.37〜47
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上記特許文献3に開示された蛍光体の製造方法は、酸化物蛍光体に適用される方法であって、窒化物および酸窒化物蛍光体を製造する場合における粉砕および分級工程を省略するための具体的な方法が開示されていない。また、特許文献3においては、母体と付活剤のみを含むスラリーを使っており、酸化物蛍光体よりも組成が複雑な酸窒化物蛍光体を製造する場合に適切な方法とはいえない。
【0013】
また、上記特許文献4に開示された蛍光体の製造方法によると、製造される蛍光体粒子は粉体操作性に優れており、パッケージの小さい発光素子、例えば発光ダイオード(LED)に好適に使用されることができる。しかしながら、半導体レーザ装置を光源に用いた場合、高出力の励起に耐えることができるようにパッケージを大きくする必要がある。従って、上記特許文献4に開示された蛍光体の製造方法により製造された蛍光体粒子をこのような大きなパッケージに適用する場合、粒径の大きい蛍光体は沈降しやすくなり、分散性が低下し、その結果、発光装置の明るさが低下するという問題が生じる。そのため、半導体レーザ装置などの高出力の光源を用いた場合、上記特許文献4に開示された方法により製造された蛍光体よりも、さらに粒径が小さくて均一な窒化物および酸窒化物蛍光体が必要になる。
【0014】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、粒径が小さくて、かつ均一な窒化物または酸窒化物蛍光体を製造することができる蛍光体の製造方法、および該方法により製造された蛍光体を用いた半導体発光装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために、本発明者らは、窒化物および酸窒化物蛍光体の製造方法について鋭意研究を重ねた結果、蛍光体の製造方法における顆粒成形工程において、スラリー中に含まれる金属化合物粉末を含む混合物の濃度を0g/mlよりも高く、0.15g/ml以下、好ましくは0.10g/ml以下にし、さらに、噴霧乾燥時の窒素ガス流量を420L/時間以上、好ましくは525L/時間以上にすることにより、半導体レーザ装置を光源に用いる際、窒化物および酸窒化物蛍光体を好適な粒径に制御することが可能である、つまり粒径の小さい窒化物および酸窒化物蛍光体粉末が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。また、本発明者らは、上記方法により製造された窒化物および酸窒化物蛍光体が、半導体レーザ装置を光源に用いた発光素子として好適な特性を示すことを見出した。
【0016】
本発明に係る蛍光体の製造方法は、上記課題を解決するために、窒化物または酸窒化物の結晶中に、発光中心としての光学活性元素Mを含有する蛍光体の製造方法において、金属化合物粉末を含む混合物から、該金属化合物粉末の凝集体からなる顆粒を成形する顆粒成形工程を含み、前記顆粒成形工程は、前記金属化合物粉末を含む混合物と溶媒とを含有するスラリーを、前記スラリー中に含まれる前記混合物の濃度が0g/mlよりも高く、0.15g/ml以下の範囲内となるように形成するスラリー形成工程、および前記スラリーを、流量が420L/時間以上である窒素ガスの噴霧乾燥により乾燥させる乾燥工程、を含むことを特徴としている。
【0017】
上記の構成によれば、スラリーを、前記スラリー中に含まれる前記混合物の濃度が0g/mlよりも高く、0.15g/ml以下の範囲内となるように形成するスラリー形成工程を含んでいるので、粗大な凝集体からなる顆粒を成形する危険性が低くなる。また、上記の構成によれば、前記スラリーを、流量が420L/時間以上である窒素ガスの噴霧乾燥により乾燥させる乾燥工程を含んでいるので、スラリー中の溶媒を十分に蒸発させることができる。
【0018】
その結果、本発明に係る蛍光体の製造方法は、粒径が適当に小さくて、かつ均一な窒化物または酸窒化物蛍光体の粉末を製造できるという効果を奏する。
【0019】
本発明に係る蛍光体の製造方法は、前記スラリー形成工程では、前記スラリー中に含まれる前記混合物の濃度が0.10g/ml以下であり、前記乾燥工程では、前記窒素ガスの流量が525L/時間以上であることが好ましい。
【0020】
上記の構成によれば、粒径がより一層小さくて、かつ均一な窒化物または酸窒化物蛍光体の粉末を製造できるという効果を奏する。
【0021】
本発明に係る蛍光体の製造方法では、前記乾燥工程における前記噴霧乾燥は、噴霧された粒子をチャンバー内で旋回熱風流により乾燥することが好ましい。
【0022】
上記の構成によれば、乾燥工程における操作および設備が簡便であるというさらなる効果を奏する。
【0023】
本発明に係る蛍光体の製造方法では、前記スラリー形成工程における前記溶媒は、少なくともアルコールを含有していることが好ましい。また、前記アルコールは、エタノールであることがさらに好ましい。
【0024】
上記の構成によれば、原料粉末の分散性がよく、原料粉末と溶媒との反応性が少ないというさらなる効果を奏する。
【0025】
本発明に係る蛍光体の製造方法では、前記金属化合物粉末の凝集体からなる顆粒の最大粒径は、15μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。
【0026】
上記の構成によれば、焼成工程中に金属化合物粉末が粗大な凝集物を形成してしまうのを防ぎ、より一層粒径の揃った蛍光体粒子を得ることができるというさらなる効果を奏する。
【0027】
本発明に係る蛍光体の製造方法では、前記顆粒成形工程の後に、前記顆粒を焼成する焼成工程を含み、前記焼成工程において、前記粉末の凝集体からなる顆粒を、容器中でのかさ密度が20%以下となるように該容器に充填することが好ましく、15%以下となるように該容器に充填することがより好ましい。
【0028】
上記の構成によれば、焼成の際に複数の顆粒が1つの蛍光体粒子を形成することにより粗大な蛍光体粒子が生成されることを防ぎ、より一層粒径の揃った蛍光体粒子を得ることができるというさらなる効果を奏する。
【0029】
本発明に係る蛍光体の製造方法では、前記スラリーは、さらに有機系バインダを含有していることが好ましい。
【0030】
上記の構成によれば、蛍光体粒子の粒径の制御性がさらに優れるというさらなる効果を奏する。
【0031】
本発明に係る蛍光体の製造方法では、前記光学活性元素Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選択される少なくとも1種の元素からなることが好ましい。
【0032】
上記の構成によれば、これらの元素を母体結晶に付活させることで、これら元素が発光中心として働き、蛍光特性を発現するというさらなる効果を奏する。
【0033】
本発明に係る蛍光体の製造方法では、前記窒化物または酸窒化物の結晶は、Caα−サイアロンであることが好ましい。この場合、前記光学活性元素Mは、EuまたはCeのうちの少なくとも1種の元素を含んでいることがより好ましい。また、前記光学活性元素Mは、Ce元素であることが最も好ましい。
【0034】
上記の構成によれば、蛍光体の発光効率が高いため、発光効率の高い白色光を発生することができるというさらなる効果を奏する。
【0035】
本発明に係る蛍光体は、前記蛍光体の製造方法により製造され、前記金属化合物粉末の凝集体からなる顆粒の最大粒径が、15μm以下であることを特徴とする。
【0036】
上記の構成によれば、粒径が小さくてかつ均一な窒化物または酸窒化物蛍光体となるので、発光効率を向上させることができる。
【0037】
本発明に係る半導体発光装置は、上記課題を解決するために、半導体レーザ装置と、前記半導体レーザ装置が発する光によって励起される励起蛍光体とを有し、前記励起蛍光体は、前記蛍光体の製造方法により製造された蛍光体と、Eu付活CaAlSiN蛍光体とを含んでいることを特徴とする。
【0038】
上記の構成によれば、蛍光材料として上述した本発明の製造方法で製造された蛍光体、すなわち粒径が小さくてかつ均一な窒化物または酸窒化物蛍光体を有しているため発光効率を向上させることができ、かつ蛍光体を製造する際に粉砕工程および分級工程を必要としないので製造工程が大幅に簡略化されるというさらなる効果を奏する。
【0039】
本発明に係る半導体発光装置では、前記半導体レーザ装置は、半導体レーザダイオードであることが好ましい。
【0040】
上記の構成によれば、モールド樹脂の劣化を防ぎ、かつ半導体レーザ装置の発光効率の低下を防ぐというさらなる効果を奏する。
【0041】
本発明に係る半導体発光装置では、前記半導体レーザダイオードは、380nm〜480nmに発光ピーク波長を有していることが好ましい。また、前記半導体レーザダイオードは、390nm〜410nmに発光ピーク波長を有していることがより好ましい。
【0042】
上記の構成によれば、モールド樹脂の劣化を防ぎ、かつ半導体レーザ装置の発光効率の低下を防ぐというさらなる効果を奏する。
【発明の効果】
【0043】
本発明に係る蛍光体の製造方法は、以上のように、金属化合物粉末を含む混合物から、該金属化合物粉末の凝集体からなる顆粒を成形する顆粒成形工程を含み、前記顆粒成形工程は、前記金属化合物粉末を含む混合物と溶媒とを含有するスラリーを、前記スラリー中に含まれる前記混合物の濃度が0g/mlよりも高く、0.15g/ml以下の範囲内となるように形成するスラリー形成工程、および前記スラリーを、流量が420L/時間以上である窒素ガスの噴霧乾燥により乾燥させる乾燥工程を含むので、粒径が小さくて、かつ均一な窒化物または酸窒化物蛍光体の粉末を製造できるという効果を奏する。
【0044】
本発明に係る半導体発光装置は、以上のように、半導体レーザ装置と、前記半導体レーザ装置が発する光によって励起される励起蛍光体と有し、前記励起蛍光体は、前記蛍光体の製造方法により製造された蛍光体と、Eu付活CaAlSiN3蛍光体とを含んでいるので、製造工程が大幅に簡略化され、発光効率を向上させることができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明における半導体発光装置の一実施形態を示す断面図である。
【図2】本発明における実施例1で作製した蛍光体粉末における粒度分布の測定結果を示すグラフである。
【図3】本発明における比較例1で作製した蛍光体粉末における粒度分布の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0046】
以下、本発明について詳しく説明する。尚、本明細書では、範囲を示す「A〜B」は、A以上B以下であることを示す。また、本明細書で挙げられている各種物性は、特に断りの無い限り後述する実施例に記載の方法により測定した値を意味する。
【0047】
<蛍光体の製造方法>
本発明は、窒化物または酸窒化物を母体結晶とし、発光中心として光学活性元素Mが付活された蛍光体の製造方法に関する。
【0048】
通常、このような窒化物、酸窒化物を母体結晶とし、かつ希土類元素などを付活した無機蛍光体の粉末は、窒化ケイ素、窒化アルミニウム、酸化ユーロピウムなどの金属化合物の混合物からなる原料粉末を、所望の組成となるように混合した後に、窒素雰囲気中で1600℃以上の温度で焼成し、得られた焼成物に粉砕、分級等の処理を施すことにより製造されている。
【0049】
これに対し、本発明の蛍光体の製造方法は、焼成前に金属化合物粉末を含む原料混合物を、粉末の凝集体からなる顆粒に成形する後述の顆粒成形工程を含むことを特徴とする。本発明の蛍光体の製造方法によれば、必ずしも焼成後に粉砕、分級工程を要せず、組成、粒径および形状が均一であり、かつ粉体操作性に優れた蛍光体粉末が得られる。
【0050】
本発明の特徴である上記顆粒成形工程は、以下のスラリー形成工程(a)および乾燥工程(b)を含む。
【0051】
(a)金属化合物粉末を含む混合物と溶媒とを含有するスラリーを形成するスラリー形成工程、
(b)上記スラリーを噴霧乾燥により乾燥させる乾燥工程。
【0052】
〔スラリー形成工程(a)〕
本工程では、金属化合物粉末を含む混合物と溶媒とを含有するスラリーを形成する。スラリーを形成するには、所望の母体結晶構造および光学活性元素を有するために必要な金属化合物粉末と溶媒とを混合する。混合する順序は特に限定されない。混合は、均一に行うことができるよう、ボールミル等を使って行うことが好ましい。
【0053】
原料となる金属化合物粉末は、所望する母体結晶構造および光学活性元素に応じて適宜選択される。金属化合物粉末は、従来公知のものを適宜の重量比で使用することができる。なお、蛍光体の母体結晶および光学活性元素については後述する。
【0054】
スラリー形成のために使用される溶媒としては、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、n−プロパノール、n−ヘキサン、アセトン、トルエン等を挙げることができる。金属化合物粉末の分散性を考慮すると、アルコールであることが好ましく、特に金属化合物粉末との反応性および金属化合物粉末の溶媒への分散性を考慮すると、エタノールであることが好ましい。これらの溶媒は単独で、または混合して用いることができる。
【0055】
スラリーはさらに、有機系バインダを含有してもよい。バインダを含有させることにより、粉末の凝集力が高まり、次工程において顆粒を形成しやすくなる。また、顆粒の形状もより球状に近いものとなる。
【0056】
〔乾燥工程(b)〕
本工程では、上記スラリーを噴霧乾燥により乾燥させる。噴霧乾燥は、好ましくは噴霧器と乾燥器を備える噴霧乾燥装置を使って行われる。噴霧器としては、例えば回転円盤式、二流体ノズル式などが挙げられる。また、乾燥器としては、例えば噴霧された粒子をチャンバー内で旋回熱風流により乾燥するスプレードライヤー方式や、噴霧された粒子を瞬間凍結し、凍結粒子を真空乾燥器で乾燥する方式などが挙げられるが、操作および設備が簡便であることからスプレードライヤー方式が好ましい。スプレードライヤー方式を用いた噴霧乾燥装置として、例えば日本ビュッヒ製ミニスプレードライヤーB−290などを好ましく用いることができる。ここで、本明細書等において、チャンバーとは、乾燥器における乾燥室のことをいう。
【0057】
スラリーを噴霧乾燥する温度は特に限定されないが、例えば100〜200℃で行い、溶媒を十分に蒸発させる必要があることから、150〜200℃で行うことが特に好ましい。
【0058】
ここで、原料となる金属化合物粉末の種類やその組成、溶媒の種類によって異なるが、スラリー濃度、噴霧ガス流量、スラリー供給速度等を調整することによって、成形される顆粒の粒径を制御することが可能である。焼成後の蛍光体粉末の粒径は、当該顆粒の粒径により一意的に決まる。従って、顆粒の粒径を制御することにより、焼成後に粉砕、分級工程を設けなくても粒径が制御された、かつ狭い粒度分布を有する蛍光体粉末を得ることができる。
【0059】
特に本発明では、顆粒成形工程において、スラリー中に含まれる金属化合物粉末を含む混合物の濃度を0g/mlよりも高く、0.15g/ml以下、好ましくは0.10g/ml以下にし、さらに、噴霧乾燥時の窒素ガス流量を420L/時間以上、好ましくは525L/時間以上にすることにより、好適な大きさ、かつ、均一な粒径に制御された蛍光体粉末が得られることができる。
【0060】
当該顆粒の最大粒径は、15μm以下であることが好ましい。15μmより大きい場合には焼成工程中に粒子が粗大な凝集物を形成してしまう傾向にあり、粉体操作性に優れた蛍光体粉末を得にくくなる。また、より粉体操作性に優れた蛍光体粉末を得るために、当該顆粒の最大粒径を10μm以下とすることがより好ましい。
【0061】
続く工程において、得られた金属化合物粉末の凝集体からなる顆粒を焼成する。焼成は、従来公知の適宜の方法により行うことができるが、当該顆粒を焼成のための容器に充填する際には、かさ密度が20%以下となるように充填することが好ましく、15%以下となるように充填することがより好ましい。ここで、かさ密度(%)は、(スラリー形成の際に用いた金属化合物とそれらの比重から算出される体積)/(得られた顆粒を容器に充填した際の見かけ上の体積)×100より計算される。
【0062】
このように、顆粒をかさ密度が20%以下となるように、より好ましくは15%以下となるように充填することにより、焼成の際に複数の顆粒が1つの蛍光体粒子を形成することにより粗大な蛍光体粒子が生成されることを防ぎ、より粒径の揃った蛍光体粒子を得ることができる。なお、焼成のための容器としては、例えば窒化ホウ素製のるつぼなどを用いることができる。
【0063】
以上のように、スラリー形成工程(a)および乾燥工程(b)を経ることにより、金属化合物粉末を含む混合物を、粒径の制御された金属化合物粉末の凝集体からなる顆粒に成形することができる。スラリーがさらに有機系バインダを含有する場合には、当該顆粒は、さらに有機系バインダを含む。特に、顆粒の最大粒径を15μm以下とすることにより、粒径が制御された、かつ狭い粒度分布を有するだけでなく、粉体操作性に優れた蛍光体粉末を得ることができる。
【0064】
<蛍光体>
本発明は、本発明の製造方法により製造された蛍光体を提供する。本発明の製造方法によれば、上述のように粉砕、分級工程を省略することができる。これにより、粉砕、分級工程を経た蛍光体と比較して、より一層結晶性の高い蛍光体を得ることができる。また、本発明の製造方法によれば、半導体レーザ装置を光源に用いる際、好適な粒径に制御された蛍光体を得ることができる。
【0065】
本発明においては、母体結晶は窒化物または酸窒化物であり、中でもCaα−サイアロン、β−サイアロン、JEM相、LaSi11、CaAlSiNは、耐環境性に優れており、かつ希土類等の発光中心を付活することにより高効率で発光するため好ましい。
【0066】
これらの母体結晶に付活させる光学活性元素Mとしては、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選択される少なくとも1種の元素が挙げられる。これらの元素を母体結晶に付活させることによって、これら元素が発光中心として働き、蛍光特性を発現する。
【0067】
特に、母体結晶がCaα−サイアロンであり、光学活性元素MがEuまたはCeから選択される元素を含んでいる場合には、近紫外から可視域の光を高効率で可視光に変換する。その中でも、Ce付活Caα−サイアロン蛍光体は、従来の酸化物蛍光体と比較して、より励起エネルギーの変換効率がよい。さらに、Ceが付活されていることにより、広い光学的スペクトル領域内での発光ができる。従って、蛍光体の発光効率が高いため、発光効率の高い白色光を発生することができるという効果を奏する。母体結晶がβ−サイアロンであり、光学活性元素MがEuを含んでいる場合には、近紫外から可視域の光を高効率で可視光に変換する。母体結晶がJEM相であり、光学活性元素MがCeを含んでいる場合には、近紫外の光を高効率で可視光に変換する。母体結晶がLaSi11であり、光学活性元素MがCeを含んでいる場合には、近紫外の光を高効率で可視光に変換する。また、母体結晶がCaAlSiNであり、光学活性元素MがEuを含んでいる場合には、近紫外から可視域の光を高効率で可視光に変換する。
【0068】
<発光装置>
上述した本発明の蛍光体は、半導体発光素子である半導体レーザ装置を光源に用いた発光装置の蛍光材料として好適に用いることができる。本発明では、半導体レーザ装置と、前記半導体レーザ装置が発する光によって励起される励起蛍光体とを少なくとも有し、前記励起蛍光体は、上記本発明の製造方法により製造された蛍光体を含んでいる、半導体発光装置をも提供する。本発明の半導体発光装置は、蛍光材料として上述した本発明の蛍光体を用いること以外は、従来公知の一般的な構造を採用することができる。
【0069】
図1は、本発明の半導体発光装置1の好ましい一例を示す概略断面図である。図1に示す半導体発光装置1は、半導体レーザ装置(半導体発光素子)2と、半導体レーザ装置が発する励起光を吸収して蛍光を発する蛍光体3とを組み合わせたものである。半導体レーザ装置2としては、半導体レーザダイオードを選択することが好ましい。蛍光体3はモールド樹脂4によって支持されている。例えば、蛍光体3をモールド樹脂4に分散させることができる。また、上記半導体レーザ装置が発する励起光は、蛍光体3により発する蛍光よりも短波長である。また、図1中の矢印は、蛍光体3が光を発する方向を示す。
【0070】
半導体レーザ装置2が半導体レーザダイオードである場合には、例えば、活性層の井戸層が、AlxInyGa1-x-yN(0≦x≦0.1、0≦y≦0.15、x+y<1)からなり、該活性層を挟んだ第1および第2の障壁層がAlxInyGa1-x-yN(0≦x≦0.25、0≦y≦0.1、x+y<1)からなるものを選択することができる。
【0071】
本発明の一つの実施形態によると、このような半導体レーザダイオードを用いることで波長380nm以上480nm以下の範囲にピーク波長を有することができるからである。そして、本発明の一つの実施形態における半導体レーザ装置2が発する励起光は、波長380nm以上480nm以下の範囲にピーク波長を有することが好ましい。これは、該半導体レーザ装置2が発する励起光のピーク波長が380nm未満である場合には紫外線としてのエネルギーが大きくなり、モールド樹脂4の劣化が大きくなる虞があり、励起光のピーク波長が480nm超過である場合には半導体レーザ装置2の発光効率を低下させる虜があるからである。また、該範囲は、390nm以上410nm以下であることがさらに好ましい。
【0072】
上記蛍光体3は、本発明の蛍光体を用いるが、モールド樹脂4に分散させる蛍光体は1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。例えば、青緑色蛍光体であるEu付活Caα−サイアロン蛍光体、Ce付活Caα−サイアロン蛍光体等を本発明の製造方法で作製し、赤色蛍光体であるEu付活CaAlSiN蛍光体と混合して分散し、蛍光体の混色により、例えば白色を発する蛍光体とすることも可能である。
【0073】
Ce付活Caα−サイアロン蛍光体は、従来の酸化物蛍光体と比較して、より励起エネルギーの変換効率がよい。さらに、Ceが付活されていることにより、広い光学的スペクトル領域内での発光ができる。従って、蛍光体の発光効率が高いため、発光効率の高い白色光を発生することができるという効果を奏する。
【0074】
Eu付活CaAlSiN蛍光体は、発光効率が高いため、発光効率の高い白色光を発生することができる。さらに、Eu付活CaAlSiN蛍光体は赤み成分に富み、演色性のよい白色光を発生することができるという効果を奏する。
【0075】
モールド樹脂4は、上記蛍光体を分散させるための、例えばシリコーン樹脂、エポキシ樹脂などの透光性樹脂であり、この蛍光体の中に、上述した蛍光体が1種類もしくは、2種類以上含まれる。分散させる蛍光体の混合比率は、特に制限されず、半導体発光装置に用いた際に、例えば所望の白色点を示すスペクトルが得られるように、適宜決定されるものである。
【0076】
このような本発明の半導体発光装置は、蛍光材料として上述した本発明の蛍光体を用いているため、製造工程が大幅に簡略化されている。また、使用する蛍光体粉末の結晶性が向上し、好適な粒径に制御されていることから、高い発光強度を示す。
【0077】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0078】
以下、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
<実施例1:蛍光体の作製>
原料粉末は、平均粒径0.5μm、酸素含有量0.93重量%およびα型含有量92%の窒化ケイ素粉末と、窒化アルミニウム粉末と、炭酸カルシウム粉末と、酸化セリウム粉末を用いた。各原料粉末の材料比率(重量%)は、窒化ケイ素が56.8%(9.466g)、窒化アルミニウムが21.34%(3.556g)、炭酸カルシウムが13.90%(2.316g)、酸化セリウムが7.97%(1.328g)である。当該粉末の混合物16.666gを、バインダ2.5g(中京油脂製セルナSE−604)を加えたエタノール175mlと共に、内径100mmφのボールミル用ポットに入れた。さらに、10mmφのSiボールを使って、回転速度60回転/分において2時間回転させ、スラリー状とした。この間温度は15〜30℃であった。実施例1におけるスラリーの中の金属化合物粉末を含む混合物の濃度は0.095g/mlであった。
【0080】
次に、得られたスラリーをスプレードライ方式により噴霧温度150℃〜200℃、窒素流量525L/時間で噴霧乾燥を行い、原料粉末の凝集体からなる顆粒を12.5g得た。噴霧乾燥装置には日本ビュッヒ製B−290を用いた。なお、該噴霧乾燥は、噴霧された粒子をチャンバー内で旋回熱風流により乾燥する。
【0081】
次に、得られた該顆粒を窒化ホウ素製のるつぼに入れた。かさ密度は約12体積%であった。なお、かさ密度は、(スラリー形成の際に用いた金属化合物とそれらの比重から算出される体積)/(得られた顆粒を容器に充填した際の見かけ上の体積)×100より計算した。ついで、当該るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉に導入した。電気炉内を真空ポンプにより排気した後、室温から800℃まで加熱し、800℃において、純度が99.999体積%の窒素を導入して圧力を1MPaとした。さらに、毎時500℃で1900℃まで昇温し、1900℃で2時間保持して、蛍光体粉末を得た。
【0082】
当該蛍光体粉末について、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)を行ったところ、当該蛍光体粉末から得られたチャートは全てCe付活Caα−サイアロン構造であることを示した。また、当該蛍光体粉末に、波長365nmの光を発するランプで照射した結果、青緑色に発光することを確認した。
【0083】
その後、レーザ回折法により当該蛍光体粉末の粒度分布測定を行った。なお、測定装置にはCILAS社製、Granulometer N86を用いた。図2は、実施例1の粒度分布の測定結果を示すグラフである。図2において横軸は、粒径(μm)を示し、縦軸は頻度(%)を示す。図2より、該蛍光体粉末の最大粒径が<30.0μmであることが分かった。また、図2より、当該蛍光体粉末は狭い粒度分布を示し、メジアン径D50が6.9μmと小さい粒径を示していることも分かった。ここで、メジアン径とは、粉体をある粒子径から2つに分けたとき、大きい側と小さい側が等量となる径を示す。
【0084】
<比較例1:蛍光体の作製>
原料粉末は、平均粒径0.5μm、酸素含有量0.93重量%およびα型含有量92%の窒化ケイ素粉末と、窒化アルミニウム粉末と、炭酸カルシウム粉末と、酸化セリウム粉末を用いた。各原料粉末の材料比率(重量%)は、窒化ケイ素が56.8%(28.4g)、窒化アルミニウムが21.34%(10.67g)、炭酸カルシウムが13.90%(6.95g)、酸化セリウムが7.97%(3.985g)である。当該粉末の混合物50gを、バインダ7.5g(中京油脂製セルナSE−604)を加えたエタノール175mlと共に、内径100mmφのボールミル用ポットに入れた。さらに、10mmφのSiボールを使って、回転速度60回転/分において2時間回転させ、スラリー状とした。この間温度は15〜30℃であった。比較例1におけるスラリーの中の金属化合物粉末を含む混合物の濃度は0.29g/mlであった。
【0085】
次に、得られたスラリーをスプレードライ方式により噴霧温度70℃〜150℃、窒素流量350L/時間で噴霧乾燥を行い、原料粉末の凝集体からなる顆粒を37.5g得た。噴霧乾燥装置には日本ビュッヒ製B−290を用いた。
【0086】
次に、得られた顆粒を窒化ホウ素製のるつぼに入れた。かさ密度は約17体積%であった。ついで、当該るつぼを黒鉛抵抗加熱方式の電気炉に導入した。電気炉内を真空ポンプにより排気した後、室温から800℃まで加熱し、800℃において、純度が99.999体積%の窒素を導入して圧力を1MPaとした。さらに、毎時500℃で1900℃まで昇温し、1900℃で2時間保持して、蛍光体粉末を得た。
【0087】
当該蛍光体粉末について、CuのKα線を用いた粉末X線回折測定(XRD)を行ったところ、当該蛍光体粉末から得られたチャートは全てCe付活Caα−サイアロン構造であることを示した。また、当該蛍光体粉末に、波長365nmの光を発するランプで照射した結果、青緑色に発光することを確認した。
【0088】
その後、レーザ回折法により当該蛍光体粉末の粒度分布測定を行った。なお、測定装置にはCILAS社製、Granulometer N86を用いた。図3は、比較例1の粒度分布の測定結果を示すグラフである。図3において横軸は、粒径(μm)を示し、縦軸は頻度(%)を示す。図3より、該蛍光体粉末の最大粒径が>100.0μmであることが分かった。また、図3より、当該蛍光体粉末は、メジアン径D50が13.5μmを示していることが分かった。
【0089】
<実施例1と比較例1の対比>
表1には、実施例1および比較例1で作製された蛍光体粉末のメジアン径D50と最大粒径を示す。
【0090】
【表1】

【0091】
表1より、実施例1による蛍光体粉末のメジアン径D50は、比較例1による蛍光体粉末のメジアン径D50よりも顕著に小さいことが分かる。したがって、本発明の製造方法によると、粒子径がより一層小さい蛍光体粉末を製造できるということが明らかになった。
【0092】
また、図2と図3との比較により、実施例1における蛍光体粉末の粒子径の最大粒径は<30.0μmであるに対し、比較例1における蛍光体粉末の粒子径の最大粒径は100μmも超えていることが分かる。したがって、本発明の製造方法によると、粒子径がより一層均一な蛍光体粉末を製造できるということが明らかになった。
【0093】
<実施例2:半導体発光装置の作製>
実施例2において、図1に示すような半導体発光装置1を作製した。まず、モールド樹脂4に分散させる蛍光体として、発光色が白色となるように、上記実施例1の製造方法により製造された青緑色蛍光体であるCe付活Caα−サイアロン蛍光体、および赤色蛍光体であるEu付活CaAlSiN蛍光体の2種類の蛍光体を混合し、蛍光体混合物を得た。この蛍光体混合物を、シリコーン樹脂と混合し、シリコーン樹脂中に分散させ、モールド成形した。また、半導体レーザ装置2には、405nmに発光ピーク波長を有するレーザダイオードを用いた。
【0094】
<比較例2:半導体発光装置の作製>
比較例2において、図1に示すような半導体発光装置1を作製した。まず、モールド樹脂4に分散させる蛍光体として、発光色が白色となるように、上記比較例1の製造方法により製造された青緑色蛍光体であるCe付活Caα−サイアロン蛍光体および赤色蛍光体であるEu付活CaAlSiN蛍光体の2種類の蛍光体を混合し、蛍光体混合物を得た。この蛍光体混合物を、シリコーン樹脂と混合し、シリコーン樹脂中に分散させ、モールド成形した。また、半導体レーザ装置2には、405nmに発光ピーク波長を有するレーザダイオードを用いた。
【0095】
<実施例2と比較例2の対比>
実施例2および比較例2で作製された半導体発光装置の発光光度を測定した結果、実施例2で作製された半導体発光装置は比較例2で作製された半導体発光装置よりも高い発光光度を示すことが確認された。これは以下の理由であると考えられる。
【0096】
本発明に係る蛍光体は、半導体発光装置1のモールド樹脂4に分散されている。従って、蛍光体の粒径が大きい場合、蛍光体がモールド樹脂4に沈降しやすくなる。特に、赤色蛍光体として、Eu付活CaAlSiN蛍光体を用いている場合、モールド樹脂4に蛍光体が沈降することは、より好ましくない。
【0097】
すなわち、本発明の実施例2および比較例2における赤色蛍光体には、CaAlSiN結晶構造を有する無機化合物を採用している。Eu付活CaAlSiN蛍光体は、青緑光により高効率で励起され赤色光を発する性質を持つ赤色蛍光体である。すなわち、本発明における赤色蛍光体は、青緑色蛍光体Ce付活Caα−サイアロン蛍光体の発する青緑光により、高効率で励起され赤色光を発する性質を持つ。また、図1に示すような半導体発光装置1を想定した際に、青緑色蛍光体Ce付活Caα−サイアロン蛍光体が沈降してしまうと、青緑色蛍光体Ce付活Caα−サイアロン蛍光体の発する光が、その上部に位置する赤色蛍光体Eu付活CaAlSiN蛍光体を励起してしまう。
【0098】
このとき、半導体発光装置1の効率を考えた場合、赤色蛍光体Eu付活CaAlSiN蛍光体は、励起光源である半導体レーザ装置2により直接励起されることが好ましい。
【0099】
すなわち、例えば、青緑色蛍光体Ce付活Caα−サイアロン蛍光体が沈降することにより、青緑色蛍光体Ce付活Caα−サイアロン蛍光体の発する光が赤色蛍光体Eu付活CaAlSiN蛍光体を励起してしまう。従って、半導体レーザ2からの励起光により青緑色蛍光体Ce付活Caα−サイアロン蛍光体が励起され、さらに青緑色蛍光体Ce付活Caα−サイアロン蛍光体が発する青緑光により、赤色蛍光体Eu付活CaAlSiN蛍光体が励起されることにより、光の変換ロスが生じている。
【0100】
以上のことから、本発明に係る半導体発光装置の製造において、青緑色蛍光体Ce付活Caα−サイアロン蛍光体の粒径がより小さい実施例2において、高い光度が得られたと考えられる。
【0101】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上述した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0102】
尚、以上説明した本発明は、以下のように言い換えることもできる。即ち、
(1)窒化物または酸窒化物の結晶中に、発光中心としての光学活性元素Mを含有する蛍光体製造方法の顆粒成形工程において、スラリー中に含まれる金属化合物粉末を含む混合物の濃度を0.15g/ml以下にし、噴霧乾燥時の窒素ガス流量を420L/時間以上にすることを特徴とする蛍光体の製造方法。
【0103】
(2)上記(1)に記載の蛍光体の製造方法において、前記顆粒成形工程において、スラリー中に含まれる金属化合物粉末を含む混合物の濃度を0.10g/ml以下にし、噴霧乾燥時の窒素ガス流量を525L/時間以上にする蛍光体の製造方法。
【0104】
(3)上記(1)または(2)に記載の蛍光体の製造方法において、前記顆粒成形工程は、前記金属化合物粉末を含む混合物と溶媒とを含有するスラリーを形成するスラリー形成工程、および前記スラリーを噴霧乾燥により乾燥させる乾燥工程、を含む蛍光体の製造方法。
【0105】
(4)上記(1)〜(3)の何れか1項に記載の蛍光体の製造方法において、前記乾燥工程における前記噴霧乾燥は、噴霧された粒子をチャンバー内で旋回熱風流により乾燥する蛍光体の製造方法。
【0106】
(5)上記(1)〜(4)の何れか1項に記載の蛍光体の製造方法において、前記スラリー形成工程における前記溶媒は、少なくともアルコールを含有する蛍光体の製造方法。
【0107】
(6)上記(5)に記載の蛍光体の製造方法において、前記アルコールはエタノールである蛍光体の製造方法。
【0108】
(7)上記(1)〜(6)の何れか1項に記載の蛍光体の製造方法において、前記粉末の凝集体からなる顆粒の最大粒径は、15μm以下である蛍光体の製造方法。
【0109】
(8)上記(7)に記載の蛍光体の製造方法において、前記粉末の凝集体からなる顆粒の最大粒径は、10μm以下である蛍光体の製造方法。
【0110】
(9)上記(1)〜(8)の何れか1項に記載の蛍光体の製造方法において、前記焼成工程において、前記粉末の凝集体からなる顆粒を、かさ密度が20%以下となるように容器に充填する蛍光体の製造方法。
【0111】
(10)上記(9)に記載の蛍光体の製造方法において、前記焼成工程において、前記粉末の凝集体からなる顆粒を、かさ密度が15%以下となるように容器に充填する蛍光体の製造方法。
【0112】
(11)上記(1)〜(10)の何れか1項に記載の蛍光体の製造方法において、前記スラリーは、さらに有機系バインダを含有する蛍光体の製造方法。
【0113】
(12)上記(1)〜(11)の何れか1項に記載の蛍光体の製造方法において、前記光学活性元素Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luからなる群から選択される1種または2種以上の元素からなる蛍光体の製造方法。
【0114】
(13)上記(12)に記載の蛍光体の製造方法において、前記窒化物または酸窒化物の結晶は、Caα−サイアロンである蛍光体の製造方法。
【0115】
(14)上記(13)に記載の蛍光体の製造方法において、前記光学活性元素Mは、少なくともEu、Ceから選択される元素を含む蛍光体の製造方法。
【0116】
(15)上記(13)または(14)に記載の蛍光体の製造方法において、前記光学活性元素Mは、Ce元素である蛍光体の製造方法。
【0117】
(16)半導体レーザ装置と、前記半導体レーザ装置が発する光によって励起された蛍光体と、を少なくとも有し、前記蛍光体は、上記(12)〜(15)の何れか1項に記載の蛍光体の製造方法により製造された蛍光体およびEu賦活CaAlSiN蛍光体である、半導体発光装置。
【0118】
(17)上記(16)に記載の半導体発光装置において、前記半導体レーザ装置は半導体レーザダイオードである半導体発光装置。
【0119】
(18)上記(16)または(17)に記載の半導体発光装置において、前記半導体レーザダイオードは波長380nm以上480nm以下の範囲にピーク波長を有する半導体発光装置。
【0120】
(19)上記(18)に記載の半導体発光装置において、前記半導体レーザダイオードは波長390nm以上410nm以下の範囲にピーク波長を有する半導体発光装置。
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明の蛍光体の製造方法は、粒径が小さくて、かつ均一な窒化物または酸窒化物蛍光体を提供することができる。これにより、半導体レーザ装置などの光源を用いた半導体発光装置、照明装置等に好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0122】
1 半導体発光装置
2 半導体レーザ装置(半導体発光素子)
3 蛍光体
4 モールド樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化物または酸窒化物の結晶中に、発光中心としての光学活性元素Mを含有する蛍光体の製造方法において、
金属化合物粉末を含む混合物から、該金属化合物粉末の凝集体からなる顆粒を成形する顆粒成形工程を含み、
前記顆粒成形工程は、
前記金属化合物粉末を含む混合物と溶媒とを含有するスラリーを、前記スラリーの中に含まれる前記混合物の濃度が0g/mlよりも高く、0.15g/ml以下の範囲内となるように形成するスラリー形成工程、および
前記スラリーを、流量が420L/時間以上である窒素ガスでの噴霧乾燥により乾燥させる乾燥工程、
を含むことを特徴とする蛍光体の製造方法。
【請求項2】
前記スラリー形成工程では、前記スラリーの中に含まれる前記混合物の濃度が0.10g/ml以下であり、
前記乾燥工程では、前記窒素ガスの流量が525L/時間以上であることを特徴とする請求項1に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程における前記噴霧乾燥は、噴霧された粒子をチャンバー内で旋回熱風流により乾燥することを特徴とする請求項1または2に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項4】
前記スラリー形成工程における前記溶媒は、少なくともアルコールを含有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項5】
前記アルコールは、エタノールであることを特徴とする請求項4に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項6】
前記金属化合物粉末の凝集体からなる顆粒の最大粒径は、15μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項7】
前記金属化合物粉末の凝集体からなる顆粒の最大粒径は、10μm以下であることを特徴とする請求項6に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項8】
前記顆粒成形工程の後に、前記顆粒を焼成する焼成工程を含み、
前記焼成工程では、前記金属化合物粉末の凝集体からなる顆粒を、容器中でのかさ密度が20%以下となるように該容器に充填することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項9】
前記焼成工程では、前記金属化合物粉末の凝集体からなる顆粒を、容器中でのかさ密度が15%以下となるように該容器に充填することを特徴とする請求項8に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項10】
前記スラリーは、さらに有機系バインダを含有していることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項11】
前記光学活性元素Mは、Mn、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuからなる群から選択される少なくとも1種の元素からなることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項12】
前記窒化物または酸窒化物の結晶は、Caα−サイアロンであることを特徴とする請求項11に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項13】
前記光学活性元素Mは、EuまたはCeのうちの少なくとも1種の元素を含んでいることを特徴とする請求項12に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項14】
前記光学活性元素Mは、Ce元素であることを特徴とする請求項13に記載の蛍光体の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜14のいずれか1項に記載の蛍光体の製造方法により製造され、
前記金属化合物粉末の凝集体からなる顆粒の最大粒径は、15μm以下であることを特徴とする蛍光体。
【請求項16】
半導体レーザ装置と、前記半導体レーザ装置が発する光によって励起される励起蛍光体とを有し、
前記励起蛍光体は、請求項15に記載の蛍光体と、Eu付活CaAlSiN蛍光体とを含んでいることを特徴とする半導体発光装置。
【請求項17】
前記半導体レーザ装置は、半導体レーザダイオードであることを特徴とする請求項16に記載の半導体発光装置。
【請求項18】
前記半導体レーザダイオードは、380nm〜480nmに発光ピーク波長を有していることを特徴とする請求項16または17に記載の半導体発光装置。
【請求項19】
前記半導体レーザダイオードは、390nm〜410nmに発光ピーク波長を有していることを特徴とする請求項18に記載の半導体発光装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−168439(P2010−168439A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−10944(P2009−10944)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】