説明

蛍光体スクリーンおよびそれを用いた走査型表示装置

【課題】装置の大型化や複雑化を招くことなく、高精度に走査位置を検出することができる蛍光体スクリーンを提供する。
【解決手段】 蛍光スクリーンは、面内方向に一定の間隔で設けられた、励起光を吸収して可視光を放出する複数の蛍光体領域と、面内の領域を複数の蛍光体領域に区画する黒領域と、黒領域上に設けられた複数の反射部と、を有し、複数の反射部はそれぞれが傾斜面を備え、各傾斜面には、反射面が形成されており、各々の反射面は、所定の方向から入射した励起光を反射し、それぞれの反射面で反射された反射光が複数の蛍光体領域および黒領域が形成された面と対向する面の所定の領域内に入射するように、各々の反射面の傾斜角度および傾斜方向が設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体を含む蛍光体領域が面内方向に一定の間隔で配置された蛍光体スクリーン、およびそれを備える走査型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、励起光を走査して蛍光体スクリーン上に画像を表示する走査型表示装置においては、蛍光体スクリーンの設置や交換、振動や歪み、温度や湿度などの環境の変化、経年変化といった様々な要因によって、走査系と蛍光体スクリーンの相対的な位置関係が変化し、その結果、励起光を適切なタイミングで照射することが困難となって、画質の低下を招く。
【0003】
上記の問題を解決するためには、蛍光体スクリーン上の励起光の走査位置を検出し、その検出結果に基づいて、励起光の照射タイミングを調整する必要がある。
【0004】
蛍光体スクリーン上の励起光の走査位置を検出する技術が特許文献1に記載されている。特許文献1によれば、蛍光体スクリーンは、面内方向に周期的に配置された複数の蛍光体領域と、各蛍光体領域の間に形成された複数の再帰反射体とを有する。蛍光体領域のそれぞれは、赤色、緑色および青色の3つの色の蛍光体ストライプからなる。再帰反射体は、ガラスビーズ(ボールビーズ)やキューブミラーなどよりなる。
【0005】
蛍光体スクリーンの一方の面側に、走査素子が配置されている。走査素子は、励起光を水平方向(蛍光体ストライプと直交する方向)および垂直方向(蛍光体ストライプに平行な方向)に走査する。
【0006】
走査面と対向する位置に受光素子が設けられており、その受光素子により、励起光の再帰反射成分を検出する。受光素子から出力される再帰反射成分の検出信号(インデックス信号)に基づいて、再帰反射体への励起光の照射タイミングを検出し、その検出した照射タイミングに基づいて走査位置を決定する。
【0007】
なお、再帰反射体からの励起光の再帰反射成分は、拡散性を有するため、再帰反射成分(拡散光)を受光素子に導くための光学系が、走査素子の周辺に配置されている。
【0008】
走査素子の周辺には、走査素子を動作させるための駆動機構や、機械的な位置精度を保つための保持機構や調整機構も設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第2676881号(特開平2−221995号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1に記載のものにおいては、走査素子の周辺部に再帰反射成分を受光素子に導くための光学系を配置する必要があるため、装置が大型化し、複雑化するという問題点がある。
【0011】
また、上記の光学系を備えた受光素子においては、再帰反射体からの再帰反射成分を効率的に検出することができないため、十分な強度のインデックス信号を得ることができず、高精度に走査位置を検出することが困難である。以下に、その理由を簡単に説明する。
【0012】
再帰反射体は入射光をその入射方向に折り返すように構成されているので、再帰反射体からの再帰反射成分は、必ず走査素子へ向かう。走査素子の周辺に設けられた駆動機構や保持機構などの機構部と上記の光学系を含む受光素子との位置関係によっては、機構部が受光素子における再帰反射成分を取り込むための開口の一部を遮る場合がある。この場合、再帰反射成分を効率的に受光素子へ導くことが困難となり、インデックス信号の強度が低下する。
【0013】
また、再帰反射効率や再帰反射成分の指向性は、再帰反射体の構造に依存する。例えば、ボールビーズよりなる再帰反射体においては、ボールビーズ内での多重反射の影響により、再帰反射率が低下する。さらに、再帰反射成分が再帰反射体自体によって強く拡散されるため、高い指向性を得られない。これらの要因により、上記の受光素子の開口を通過する再帰反射成分の割合が減少し、その結果、インデックス信号の強度が低下する。
【0014】
なお、上記の受光素子の開口を大きくすることで、インデックス信号の強度が増大するが、その場合は、装置が大型化する。
【0015】
本発明の目的は、上記問題を解決し、装置の大型化や複雑化を招くことなく、高精度に走査位置を検出することができる蛍光体スクリーン、およびそれを用いた走査型表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するため、本発明の蛍光体スクリーンは、
面内方向に一定の間隔で設けられた、励起光を吸収して可視光を放出する複数の蛍光体領域と、
面内の領域を複数の蛍光体領域に区画する黒領域と、
黒領域上に設けられた複数の反射部と、を有し、
複数の反射部はそれぞれが傾斜面を備え、各傾斜面には、反射面が形成されており、各々の反射面は、所定の方向から入射した励起光を反射し、それぞれの反射面で反射された反射光が複数の蛍光体領域および黒領域が形成された面と対向する面の所定の領域内に入射するように、各々の反射面の傾斜角度および傾斜方向が設定されている。
【0017】
本発明の走査型表示装置は、
蛍光体スクリーンと、
励起光を出力する励起光源と、
蛍光体スクリーン上で励起光を走査する走査素子と、
蛍光体スクリーンの走査面と対向する位置に設けられ、該反射面からの励起光の反射光を検出し、該検出タイミングを示すインデックス信号を出力する受光手段と、
受光手段からのインデックス信号に基づいて励起光源の発光タイミングまたは走査素子を駆動する駆動信号の振幅を調整する制御部と、を有し、
蛍光体スクリーンは、
面内方向に一定の間隔で設けられた、励起光を吸収して可視光を放出する複数の蛍光体領域と、
面内の領域を複数の蛍光体領域に区画する黒領域と、
黒領域上に設けられた複数の反射部と、を有し、
複数の反射部はそれぞれが傾斜面を備え、各傾斜面には、反射面が形成されており、各々の反射面は、所定の方向から入射した励起光を反射し、それぞれの反射面で反射された反射光が、複数の蛍光体領域および黒領域が形成された面と対向する面の所定の領域内に入射するように、各々の反射面の傾斜角度および傾斜方向が設定されている。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、再帰反射体を用いたものと比較して、インデックス信号の強度を増大することができるので、高精度に走査位置を検出することができる。
【0019】
また、励起光の反射成分を受光素子に導くための光学系を走査素子の周辺部に配置する必要がないので、小型で、簡単な構成の走査型表示装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の第1の実施形態である走査型表示装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図1に示す走査型表示装置における走査素子の駆動信号と受光素子から出力されるインデックス信号を示すタイミングチャートである。
【図3】図1に示す走査型表示装置における走査素子と蛍光体スクリーンの相対的な位置関係が水平走査方向にシフトした場合のインデックス信号の変化を示すタイミングチャートである。
【図4】図1に示す走査型表示装置にて使用される蛍光体スクリーンの反射面の構造の第1の実施例を示す模式図である。
【図5】図1に示す走査型表示装置にて使用される蛍光体スクリーンの反射面の構造の第2の実施例を示す模式図である。
【図6】図1に示す走査型表示装置にて使用される蛍光体スクリーンの反射面の構造の第3の実施例を示す模式図である。
【図7】図1に示す走査型表示装置にて使用される蛍光体スクリーンの反射面の構造の第4の実施例を示す模式図である。
【図8】本発明の第2の実施形態である走査型表示装置の構成を示すブロック図である。
【図9】本発明の第3の実施形態である走査型表示装置の構成を示すブロック図である。
【図10】本発明の第4の実施形態である走査型表示装置の構成を示すブロック図である。
【図11】図10に示す走査型表示装置における走査素子の駆動信号と各受光素子から出力されるインデックス信号を示すタイミングチャートである。
【図12】本発明の他の実施形態である走査型表示装置の構成を説明するための模式図である。
【図13】図12に示す走査型表示装置に適用される蛍光体スクリーンを示す模式図である。
【図14】図13に示す蛍光体スクリーンの凸面形状の反射面の断面を示す模式図である。
【図15】図13に示す蛍光体スクリーンの凹面形状の反射面の断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0022】
(第1の実施の形態)
図1に、本発明の第1の実施形態である走査型表示装置を示す。
【0023】
図1を参照すると、走査型表示装置は、レーザ光源1、走査素子3、蛍光体スクリーン4、受光素子8および制御部9を有する。
【0024】
蛍光体スクリーン4は、赤色の蛍光を放出する蛍光体ストライプ4Rと、緑色の蛍光を放出する蛍光体ストライプ4Gと、青色の蛍光を放出する蛍光体ストライプ4Bと、入射光を吸収または反射するブラックストライプ5と、反射面6とを有する。
【0025】
蛍光体ストライプ4R、4G、4Bは、所定の順序で一方向に周期的に形成されている。蛍光体ストライプ4R、4G、4Bはそれぞれブラックストライプ5により仕切られている。
【0026】
蛍光体スクリーン4は、複数の画素に区画されており、各画素は、3つの蛍光体ストライプ4R、4G、4Bおよびこれらに隣接するブラックストライプ5を含む。少なくとも2つの画素が、インデックス信号の検出対象とされる。
【0027】
反射面6は、インデックス信号の検出対象である検出対象画素内のブラックストライプ5上に設けられている。より具体的には、反射面6は、検出対象画素内の蛍光体ストライプ4R、4G、4Bのうちの所定の蛍光体ストライプに隣接するブラックストライプ5の一部に形成されている。
【0028】
レーザ光源1は、蛍光体ストライプ4R、4G、4Bに含まれている蛍光体を励起する励起レーザ光2を出力する励起光源であって、例えばレーザダイオード(LD)より構成される。
【0029】
走査素子3は、レーザ光源1からの励起レーザ光2を蛍光体スクリーン4上で水平方向および垂直方向の2方向に走査する。ここで、水平方向は、蛍光体ストライプ4R、4G、4Bと交差(または直交)する方向である。走査素子3は、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)等の共振ミラーよりなる。この他、走査素子3として、ポリゴンミラーやガルバノミラーを用いてもよい。
【0030】
受光素子8は、例えば、フォトダイオード(PD)よりなり、その受光面が蛍光体スクリーン4の励起レーザ光2が照射される面(走査面)と対向するように配置されている。受光素子8は、蛍光体スクリーン4の各反射面6からの反射レーザ光7を検出するものであって、その出力信号の強度が反射レーザ光7の光量に応じて変化する。受光素子8の出力信号は、インデックス信号として、制御部9に供給されている。
【0031】
制御部9は、パーソナルコンピュータ等の外部映像供給装置から供給された映像信号に基づいてレーザ光源1を変調制御するとともに、その映像信号に同期した同期信号(水平同期信号および垂直同期信号)に基づいて走査素子3を制御することで、映像信号に基づく画像を蛍光体スクリーン4上に表示させる。レーザ光源1の変調制御は、パルス変調であってもよい。
【0032】
また、制御部9は、レーザ光源1から一定光量の励起レーザ光2を出射させるとともに走査素子3による走査を行わせ、受光素子8からのインデックス信号に基づいて、蛍光体スクリーン4上の励起レーザ光2の走査位置を検出する。そして、制御部9は、その検出した走査位置に基づいてレーザ光源1の発光タイミングを制御する。
【0033】
次に、本実施形態の走査型表示装置の動作を説明する。外部からの映像信号に基づく画像を蛍光体スクリーン4に表示する動作は周知であるので、その動作の説明は省略する。以下では、インデックス信号に基づく励起光の走査位置の検出動作について、詳細に説明する。
【0034】
蛍光体スクリーン4において、各検出対象画素内に形成された反射面6は、走査素子3からの励起レーザ光2を反射し、その反射光である反射レーザ光7を走査素子3とは異なる位置の一点に集光するように構成されており、その集光位置に、受光素子8の受光面が配置されている。反射面6の傾斜角度は、蛍光体スクリーン4の面内位置によって異なる。
【0035】
走査位置の検出動作において、制御部9は、レーザ光源1から一定光量の励起レーザ光2を出射させるとともに、走査素子3による励起レーザ光2の走査を制御する。受光素子8は、各反射面6からの反射レーザ光7を検出した結果であるインデックス信号を制御部9へ供給する。
【0036】
図2は、走査素子3の駆動信号と受光素子8から出力されるインデックス信号のタイミングチャートである。この例では、反射面6は水平走査方向に沿って設けられている。
【0037】
走査素子3の駆動信号は、正弦波状の信号である。この場合、蛍光体スクリーン4上での励起レーザ光2の走査速度は、中央部が最も速く、端部に行くほど遅くなる。受光素子8から出力されるインデックス信号は、各反射面6からの反射レーザ光7を検出したパルスを含む。パルスの幅は、反射面6の形成位置が中央部に近いものほど短くなっている。
【0038】
制御部9は、図2に示したインデックス信号を受光素子8から取得し、そのインデックス信号に基づいて、励起レーザ光2の走査位置を検出する。インデックス信号において、各パルスがそれぞれ各反射面6からの反射レーザ光7を検出したタイミングを示す。したがって、パルスの立ち上がりタイミングを、励起レーザ光2が反射面6に照射されたタイミングと見做すことができ、そのタイミングを検出することで、励起レーザ光2の走査位置を特定することができる。
【0039】
なお、図2に示したインデックス信号のパターンは、走査素子3を構成する水平走査素子の駆動信号に従った周期的なパターンである。したがって、制御部9は、インデックス信号のパターンに基づいて、励起レーザ2の走査位置の情報の他、走査素子3と蛍光体スクリーン4の相対位置関係、および走査素子3の水平方向の振れ角を検出することができる。
【0040】
本実施形態の走査型表示装置において、例えば、走査素子3と蛍光体スクリーン4の相対位置関係が変化した場合、蛍光体ストライプ4R、4G、4B上を励起レーザ光2が走査するタイミングが変化する。この場合、励起レーザ光2の蛍光体スクリーン4上でのスポットダイアグラムが、所望の蛍光体ストライプだけでなく、その蛍光体ストライプに隣接する蛍光体ストライプにもかかる。
【0041】
上記の場合、励起レーザ光2が所望の蛍光体ストライプと隣接蛍光体ストライプの両方に同時に照射され、その結果、隣接蛍光体ストライプから不要な蛍光が放出され、この不要な蛍光により画質が低下する。
【0042】
例えば、励起レーザ光2を蛍光体ストライプ4Rにのみ照射したい場合に、隣接する蛍光体ストライプ4Gを同時に照射してしまい、その結果、赤色を表示したい部分に不要な緑色の光が混ざる。
【0043】
本実施形態の走査型表示装置では、制御部9は、上記の走査位置の検出動作を定期的または任意のタイミングで実行する。ここで、任意のタイミングは、走査型表示装置の電源投入のタイミングまたは所定の入力操作が行われたタイミングを含む。そして、制御部9は、検出した走査位置に基づいて、励起レーザ光2を蛍光体ストライプ4R、4G、4Bに照射する最適なタイミングを取得し、その取得したタイミング情報を保持する。そして、映像信号に基づく画像を蛍光体スクリーン4上に表示する場合に、制御部9は、保持したタイミング情報に基づいて、レーザ光源1の発光タイミングを制御する。これにより、上記の画質低下を抑制することができる。
【0044】
また、走査素子3と蛍光体スクリーン4の相対な位置関係が変化した場合に、受光素子8が出力するインデックス信号のパターン形状、例えば、インデックス信号のパルスの間隔や幅が変化する。制御部9は、そのようなインデックス信号のパターン形状の変化に基づいて、励起レーザ光2の蛍光体スクリーン4上の位置のズレを検出することが可能である。
【0045】
具体的には、制御部9は、上記の走査位置の検出動作を定期的または任意のタイミングで実行し、インデックス信号のパターン形状を保持する。そして、映像信号に基づく画像を蛍光体スクリーン4上に表示する場合に、制御部9は、その表示動作中に受光素子8から取得したインデックス信号のパターン形状と、保持したインデックス信号のパターン形状とを比較し、所定の差異(画質劣化を引き起こす差異)を検出したとき、レーザ光源1の変調タイミングまたは走査素子3の駆動信号を調整する。
【0046】
図3に、反射面6が水平ライン上の中心付近、左右両端付近にそれぞれ設けられた蛍光体スクリーン4を使用した場合で、走査素子3と蛍光体スクリーン4の相対的な位置関係が水平走査方向にシフトした場合の、インデックス信号の変化を示す。
【0047】
走査素子3を正弦波の駆動信号により駆動した場合、画面の中心付近における走査速度は、画面の両端付近よりも速い。このため、画面中心付近のインデックス信号のパルス幅は、画面両端付近のインデックス信号のパルス幅よりも短い。
【0048】
例えば、走査素子3と蛍光体スクリーン4の相対位置が水平方向にシフトした場合は、図3に示すように、インデックス信号のパルス間隔、例えば、画面両端付近のインデックス信号のパルス間隔P3は、正常時(シフトが無い状態)の画面両端付近のインデックス信号のパルス間隔P1よりも小さい。加えて、インデックス信号のパルス幅、例えば、画面中心付近のインデックス信号のパルス幅P4は、正常時(シフトが無い状態)の画面中心付近のインデックス信号のパルス幅P2よりも大きい。制御部9は、これらの変化量に基づいて、走査素子3と蛍光体スクリーン4の相対位置のシフト量を計算し、励起レーザ光2を所望の蛍光体ストライプに照射するように、レーザ光源1の変調タイミングまたは走査素子3の駆動信号を調整する。レーザ光源1の変調タイミングの調整において、変調タイミングを早める、または、遅らせるといった制御や、レーザ光源1の駆動信号のパルス幅を長くする、または短くするといった制御を行う。走査素子3の駆動信号の調整では、駆動信号の振幅を制御して所定の振れ角に調整する。
【0049】
次に、反射面6を有する反射部の具体的な構成を説明する。
【0050】
インデックス信号を検出したい画素の位置と、受光素子8を配置する位置とに基づいて、反射面6の水平方向および垂直方向に要求される傾斜角度が決定される。
【0051】
(反射部の第1の実施例)
図4に、反射面6を含む反射部の第1の実施例を示す。
【0052】
図4に示す反射部は、ブラックストライプ5の一部に形成されており、反射面6がストライプ幅方向(水平方向)の全体にわたって形成されている。反射面6の一部は、ブラックストライプ5の表面より突き出ており、残りの部分は、ブラックストライプ5をその表面から傾斜を持たせて掘り下げた部分に形成されている。このように、反射面6の一部をブラックストライプ5の表面よりも高くすることで、面積および傾斜角度の大きな反射面6を形成することができる。
【0053】
なお、図4に示した反射部において、ブラックストライプ5に隣接する蛍光体ストライプを照射する励起レーザ光2の一部が反射部によって遮られて、蛍光体ストライプでの発光効率が低下して、画質が低下する場合がある。この画質の低下を抑制するために、反射部は、以下のような構成を有していてもよい。
【0054】
蛍光体ストライプ4R、4G、4Bは、垂直走査方向に長い形状とされている。このため、蛍光体ストライプ4R、4G、4Bそれぞれにおける励起レーザ2の照射面積の画素面積に対する割合を最大化するために、励起レーザ光2の蛍光体スクリーン4上でのスポット形状は、蛍光体ストライプの長手方向に延長された楕円形状であることが望ましい。楕円形状の励起レーザ光2を生成するために、ビーム成形用の光学系がレーザ光源1に含まれてよい。
【0055】
励起レーザ光2は、例えばシングルモードレーザまたはマルチモードレーザであってよい。蛍光体ストライプに直交する方向をシングルモード、蛍光体ストライプに平行な方向をシングルモードまたはマルチモードとしてもよい。蛍光体ストライプに平行な方向がマルチモードである構成において、励起レーザ光2の蛍光体スクリーン4上でのスポット形状は、蛍光体ストライプの長手方向に延長された楕円形状であることが望ましい。
【0056】
上記の場合、例えば、反射面6をブラックストライプ5上で正方形になるように形成すれば、ブラックストライプ5上の励起レーザ光2の照射面積に対する反射部によって遮られる面積の割合を小さくすることができる。これにより、隣接蛍光体ストライプを照射する励起レーザ光2の一部が反射部によって遮られることによって生じる画質の低下を抑制することができる。
【0057】
(反射部の第2の実施例)
図5に、反射面6を含む反射部の第2の実施例を示す。
【0058】
図5に示す反射部も、ブラックストライプ5の一部に形成されているが、反射面6は、ブラックストライプ5をその表面から傾斜を持たせて掘り下げた部分に形成されている。この場合、反射面6は、ブラックストライプ5の表面より下側に位置する。この構成によれば、図4で示した例のような、励起レーザ光2の一部が反射部によって遮られることによって画質が低下するといった問題を回避することができる。
【0059】
(反射部の第3の実施例)
図6に、反射面6を含む反射部の第3の実施例を示す。
【0060】
図6に示す反射部も、ブラックストライプ5の一部に形成されているが、反射面6全体がブラックストライプ5の表面よりも高い位置に形成されている。
【0061】
反射面6の傾斜角度は、走査素子3と蛍光体スクリーン4および受光素子8の相対位置関係、走査素子3の走査角によって決定される。
【0062】
以下に、投射条件の一例を挙げ、その投射条件における反射面6の傾斜角度を説明する。
【0063】
走査素子3を蛍光体スクリーン4に正対させて配置し、水平方向および垂直方向への走査を行わない状態、すなわち、走査素子3に何も信号が入力されていない状態において、励起レーザ光2の照射位置が蛍光体スクリーン4上の画像表示領域の中心となるように設定する。このような設定の投射を正面投射という。
【0064】
走査素子3において、水平方向の走査を行う水平走査ミラーの走査角の半角を10度、垂直方向の走査を行う垂直走査ミラーの走査角の半角を9度とする。励起レーザ光2は、それぞれの走査ミラーにおいて、走査角の2倍の角度で偏向されるこのため、蛍光体スクリーン4に対する水平方向の走査半角は20度、垂直方向の走査半角は18度となる。
【0065】
走査素子3と蛍光体スクリーン4までの距離(投射距離)は100mmである。受光素子8は、走査素子3と蛍光体スクリーン4の画像表示領域の中心を結ぶ線より垂直方向に20mmだけ下方に配置されている。
【0066】
受光素子8と蛍光体スクリーン4の距離は90mmである。蛍光体ストライプ4R、4G、4Bおよびブラックストライプ5の幅はいずれも150μmである。
【0067】
受光素子8は、走査素子3による励起レーザ光2の走査範囲(投射空間)以外の空間において、走査素子3の駆動部との干渉を生じない位置で、反射レーザ光7を受光することが可能な位置に配置される。
【0068】
上記の投射条件において、励起レーザ光2を受光素子8に偏向するための反射面6の傾斜角度は、画面表示領域の最上辺の左右端に反射部を形成した場合に最大となる。この場合、反射面6の水平方向(蛍光体ストライプに直交する方向)における傾斜角度は25度であり、反射面6の垂直方向(蛍光体ストライプに平行な方向)における傾斜角度は27度である。
【0069】
上記の傾斜角度を有する反射部において、ブラックストライプ5の表面に垂直な方向から見た場合の幅(水平走査方向の幅)がブラックストライプ5の幅と同じで、かつ、垂直方向に150μmの長さを有する反射面6を形成する場合、反射部の高さは最大で146.3mmである。
【0070】
(反射部の第4の実施例)
図7に、反射面6を含む反射部の第4の実施例を示す。
【0071】
図7に示す反射部において、第2の実施例と同様、反射面6は、ブラックストライプ5の一部をその表面から傾斜を持たせて掘り下げた部分に形成されているが、上側から見た場合の反射面6の幅は、ブラックストライプ5の幅に一致している。
【0072】
蛍光体ストライプ4R、4G、4Bの表面とブラックストライプ5の表面の段差は100umである。投射条件は、第3の実施例の投射条件と同じである。反射部が画面表示領域の最上辺の左右端に形成された場合、反射面6の水平方向における傾斜角度は25度であり、反射面6の垂直方向における傾斜角度は27度である。
【0073】
反射面6全体がブラックストライプ5の表面より下に位置するので、図4で示した第1の実施例の反射部で説明した、励起レーザ光2の一部が反射部によって遮られることによって画質が低下するといった問題を、回避することができる。
【0074】
以上説明した本実施形態の走査型表示装置によれば、以下のような作用効果を奏する。
【0075】
反射面6からの反射レーザ光7は、走査素子3とは異なる位置に配置された受光素子8へ向うので、走査素子3の周辺に設けられた機構部が反射レーザ光7を遮ることがない。加えて、反射レーザ光7は、再帰反射光と比較して、高い指向性を有する。よって、再帰反射体を用いたものと比較して、インデックス信号の強度を増大することができ、高精度に走査位置を検出することができる。
【0076】
また、走査素子3の周辺部に励起光の反射成分を受光素子に導くための光学系を配置する必要がないので、小型で、簡単な構成の走査型表示装置を提供することができる。
【0077】
特に、走査素子3として共振構造の走査素子を用いた場合は、走査環境の変化による走査性能の変動を補償する必要がある。例えば、走査素子3の周辺の温度が変化した場合、走査素子3の共振周波数が変化し、走査角が変化する。このような場合に、蛍光体スクリーン4上で一定の走査範囲(面積)を保つために、ブランキング期間を変化させるなどして走査素子3の駆動パラメータが変化した場合、蛍光体ストライプ4R、4G、4B上を走査するスピードが変化する。つまり、環境の変化の前後で、レーザ光源1を変調するタイミングと走査素子3の駆動信号との同期がとれなくなり、隣接する蛍光体ストライプの間で色のクロストークが発生し、画質が劣化する場合がある。また、走査素子3および蛍光体スクリーン4を設置したのちに、蛍光体スクリーン4の平行移動、傾きおよび回転など、走査素子3と蛍光体スクリーン4の相対的な位置関係が変化した場合、励起レーザ光2が蛍光体ストライプ上を走査する規則性が変化するため、色のクロストークが発生し、画質が劣化する場合がある。これらの環境の変化による画質の劣化を回避するために、蛍光体スクリーン4の複数の画素でインデックス信号を取得し、そのインデックス信号に基づいて、走査素子3の走査位置及び走査素子3の駆動パラメータを正確に計算することは有効である。
【0078】
走査素子3の走査角の拡大や受光素子の配置条件に伴って、反射面6に要求される傾斜角度が大きくなっていった場合、ブラックストライプ表面より高い反射面構造を形成せずに、反射面6を十分な面積で形成することが困難になる。したがって、一定の走査角で励起レーザ光2を走査する場合において、走査素子3、反射面6、受光素子8の相対位置関係を調整して、反射面6に要求される傾斜角度の最大値を小さく抑えることが有効である。
【0079】
(第2の実施の形態)
図8は、本発明の第2の実施形態である走査型表示装置の構成を示す図である。図8では、走査型表示装置を上側から見た状態が模式的に示されている。図8において、紙面に垂直な方向が垂直走査方向であり、左右方向が水平走査方向である。
【0080】
走査素子3の走査角、走査素子3と蛍光体スクリーン4の相対位置関係、反射面6の位置、受光素子8と走査素子4の垂直方向の位置関係は、図1に示したものと同じである。ただし、本実施形態では、受光素子8と蛍光体スクリーン4との距離が、図1に示したものよりも大きい。
【0081】
反射面6の傾斜角度は、インデックス信号を検出する位置によって異なる。各反射面6によって偏向された反射レーザ光7がすべて受光素子8の受光面に集光されるように、各反射面6の傾斜角度が設定される。
【0082】
受光素子8と蛍光体スクリーン4との距離を長くすると、その長くした分だけ、反射面6に対する傾斜角度の要求値が緩和される。本実施形態では、この傾斜角度の要求値の緩和を利用して、以下の問題を解決する。
【0083】
反射面6に要求される傾斜角度が大きい場合、反射面6の一部または全部をブラックストライプ5の表面よりも高く形成する必要がある。加工のし易さを考慮した場合、ブラックストライプ5の表面から掘り下げた部分と、ブラックストライプ5の表面より高く形成した部分が混在する反射面の構造、例えば、図4に示した反射部の構造は好ましくない。
【0084】
また、図5に示した反射部の構造や図7に示した反射部の構造のように、反射面6全体がブラックストライプ5表面より低い位置に形成される構造においては、傾斜角度が大きくなるほど、反射面6の面積が小さくなる。反射面6の面積が小さくなると、反射面6からの反射レーザ光7の受光信号のパルス幅が小さくなり、その結果、環境変化等によって駆動条件が変化した場合に、その変化の前後で、パルスのパターン形状の差異を検出する精度が低下する。また、大きな傾斜角度は、加工し難いため、好ましくない。
【0085】
本実施形態では、受光素子8と蛍光体スクリーン4との距離が長いので、反射面6に対する傾斜角度の要求値が緩和される。この傾斜角度の要求値の緩和より、第1の実施形態のものと比較して、反射面6の傾斜角度を小さくすることができ、反射面6の面積を大きくすることができる。よって、インデックス信号に基づく走査位置の精度を改善することが可能となる。
【0086】
(第3の実施の形態)
図9は、本発明の第3の実施形態である走査型表示装置の構成を示す図である。図9では、走査型表示装置を上側から見た状態が模式的に示されている。図9において、紙面に垂直な方向が垂直走査方向であり、左右方向が水平走査方向である。
【0087】
走査素子3の走査角、走査素子3と蛍光体スクリーン4の相対位置関係は、図1に示したものと同じである。なお、受光素子8と蛍光体スクリーン4の距離は、図1に示したものよりも長くてもよく、短くてもよい。
【0088】
蛍光体スクリーン4は、その中心を基準として、中心より左側が第1の領域とされ、中心より右側が第2の領域とされており、反射面6は、第1の領域内に複数設けられている。
【0089】
受光素子8は、蛍光体スクリーン4の第1の領域と対向するように配置されている。走査型表示装置を側面から見た場合、受光素子8は、走査素子3と同じ高さに配置されてもよく、また、走査素子3とは異なる高さに配置されてもよい。
【0090】
反射面6の傾斜角度は、インデックス信号を検出する位置によって異なる。それぞれの反射面6によって偏向された反射レーザ光7がすべて、受光素子8に集光されるように、各反射面6の傾斜角度が設定されている。
【0091】
本実施形態によれば、反射面6が形成される領域を制限したことで、反射面6に対する傾斜角度の要求値が緩和される。
【0092】
なお、第1の領域ではなく、第2の領域に、反射面6を形成してもよい。この場合は、受光素子8は、第2の領域と対向するように配置される。
【0093】
また、反射面6が形成される領域は、第1または第2の領域よりも小さな領域であってもよい。
【0094】
(第4の実施の形態)
図10は、本発明の第4の実施形態である走査型表示装置の構成を示す図である。図10では、走査型表示装置を上側から見た状態が模式的に示されている。図10において、紙面に垂直な方向が垂直走査方向であり、左右方向が水平走査方向である。
【0095】
本実施形態の走査型表示装置は、反射面6が蛍光体スクリーン4の第1および第2の領域のそれぞれに形成され、受光素子8に代えて、第1の領域と対向する受光素子8aと、第2の領域と対向する受光素子8bを設けた点で、第3の実施形態のものと異なる。これ以外は、第3の実施形態のものと同じである。
【0096】
第1および第2の領域に形成された反射面6の傾斜角度は、インデックス信号を検出する位置によって異なる。第1の領域に形成された各反射面6によって偏向された反射レーザ光7がすべて、受光素子8aに集光されるように、それら反射面6の傾斜角度が設定されている。同様に、第2の領域に形成された各反射面6によって偏向された反射レーザ光7がすべて、受光素子8bに集光されるように、それら反射面6の傾斜角度が設定されている。走査型表示装置を側面から見た場合、受光素子8a、8bは、走査素子3と同じ高さに配置されてもよく、また、走査素子3とは異なる高さに配置されてもよい。
【0097】
図11は、走査素子3の駆動信号と受光素子8a、8bから出力されるインデックス信号のタイミングチャートである。この例では、反射面6は第1および第2の領域内に水平走査方向に沿って設けられている。
【0098】
蛍光体スクリーン4上を表示画面右端から表示画面左端へ励起レーザ光2を走査する往路走査において、まず、第1の領域が励起レーザ光2で走査され、受光素子8aが、第1の領域内の反射面6からの反射レーザ光7を検出してインデックス信号を出力する。続いて、第2の領域が励起レーザ光2で走査され、受光素子8bが、第2の領域内の反射面6からの反射レーザ光7を検出してインデックス信号を出力する。
【0099】
表示画面左端から表示画面右端へ励起レーザ光2を走査する復路走査において、まず、第2の領域が励起レーザ光2で走査され、受光素子8bが、第2の領域内の反射面6からの反射レーザ光7を検出してインデックス信号を出力する。続いて、第1の領域が励起レーザ光2で走査され、受光素子8aが、第1の領域内の反射面6からの反射レーザ光7を検出してインデックス信号を出力する。
【0100】
制御部9は、第1の領域について、受光素子8aからのインデックス信号に基づいて、励起レーザ光2の走査位置を検出し、第2の領域については、受光素子8bからのインデックス信号に基づいて、励起レーザ光2の走査位置を検出する。そして、制御部9は、第1および第2の領域で検出した走査位置に基づいて、レーザ光源1の発光タイミングの制御(変調制御)や走査素子3の駆動信号の振幅制御を行う。この変調制御および振幅制御は、第1の実施形態における変調制御および振幅制御と基本的に同じである。
【0101】
本実施形態によれば、第3の実施形態の効果に加えて、蛍光体スクリーン4全体で走査位置を正確に検出することができる。
【0102】
なお、反射面6を形成する領域の大きさや数は特に限定されることはない。蛍光体スクリーン4を3つ以上の領域に分割し、領域毎に反射面6を形成し、それぞれの領域に対して受光素子を設けてもよい。これにより、反射面6に対する傾斜角度の要求値がさらに緩和されるので、より大きな蛍光体スクリーン4への適用が可能である。
【0103】
上述した第1乃至第4の実施形態において、反射面6は、平面に限定されるものではなく、曲面(凹面や凸面等)であってもよい。反射面6の望ましい形状は、励起レーザ光2の反射面位置での集光状態に基づいて決定することができる。
【0104】
(他の実施の形態)
励起レーザ光2がコリメート光である場合は、蛍光体スクリーン4上のどの位置においても、励起レーザ光2の状態は同じである。
【0105】
しかし、解像感の高い高精細な画像を表示するためには、蛍光体ストライプ幅をできる限り小さくし、かつ、蛍光体スクリーン4上での励起レーザ光2のビーム径を小さくする必要がある。
【0106】
蛍光体スクリーン4上での励起レーザ光2のスポットダイアグラムにおいて、水平方向(蛍光体ストライプと直交する方向)のビーム径が、蛍光体ストライプの幅よりも大きな場合、隣接する蛍光体ストライプを同時に照射することになり、不要な蛍光が混ざる混色の問題が生じる。
【0107】
また、水平方向のビーム径が、蛍光体ストライプの幅と同等である場合でも、混色を回避するために、レーザ光源1のパルス変調のデューティ比を小さくしなければならい。パルス変調のデューティ比を小さくすると、輝度が低下してしまう。
【0108】
したがって、励起レーザ光2の水平方向のビーム径は、蛍光体ストライプの幅に対して十分に小さいことが望ましい。
【0109】
しかし、一般に、レーザ光は、伝搬距離の増大に伴ってそのビーム径が回折によって広がる性質を有しており、その発散角は、ビーム径が小さいほど大きくなる。したがって、非常に小さいビーム径を保ったまま走査素子3から蛍光体スクリーン4まで投射することは原理的に困難である。
【0110】
励起レーザ光2のビーム径を蛍光体ストライプの幅よりも十分に小さくするためには、レンズやミラーなどの集光光学素子を用いて、レーザ光源1から出射された励起レーザ光2を集光する必要がある。この場合は、蛍光体スクリーン近傍でビームウェストが形成される。
【0111】
図12に、集光光学系を備えた走査型表示装置を上側から見た場合の、走査素子3からの励起レーザ光2のビームウェストの形成位置と蛍光体スクリーンの位置との関係を模式的に示す。図12において、左右方向が水平走査方向であり、紙面に向かって垂直な方向が垂直走査方向である。
【0112】
図12に示すように、水平走査範囲において、励起レーザ光2のビームウェストは、円弧状の線上に形成され、蛍光体スクリーン4は、そのビームウェスト近傍に配置されている。
【0113】
具体的には、蛍光体スクリーン4は、中央の領域がビームウェスト位置よりも手前側(走査素子3側)に位置し、中央の領域の両側に位置する左右の領域がビームウェスト位置よりも奥側(走査素子3より遠い側)に位置するように配置されている。これにより、蛍光体スクリーン4上でのビーム径の平均値を最小にすることができる。
【0114】
上記の場合、蛍光体スクリーン4の中央の領域では、集光状態の励起レーザ光2が照射され、蛍光体スクリーン4の左右の領域では、発散状態の励起レーザ光2が照射される。中央の領域と左右の領域との境界部において、ビームウェストが形成される。
【0115】
図12に示したような、励起レーザ光2のビームウェストが蛍光体スクリーン4近傍で形成される構成において、平面よりなる反射面6を蛍光体スクリーン4の中央の領域および左右の領域のそれぞれに形成した場合は、以下のような問題を生じる。
【0116】
蛍光体スクリーン4の中央の領域において、集光状態の励起レーザ光2が反射面6に照射される。反射面6からの反射レーザ光7は、受光素子8に向かう光路の途中で、ビームウェストを形成し、その後、発散状態となって受光素子8に到達する。この場合、発散状態の反射レーザ光7のビーム径が受光素子8の受光面より大きくなり、反射レーザ光7の一部しか受光面に入射しないといった状態が生じる。このような状態においては、インデックス信号の強度が低下することに加え、反射レーザ光7の一部が迷光となってインデックス信号の誤検出の要因となる。
【0117】
蛍光体スクリーン4の左右の領域においては、発散状態の励起レーザ光2が反射面6に照射されるため、反射面6からの反射レーザ光7も発散状態とされる。この場合も、上記と同様、インデックス信号の強度の低下や迷光によるインデックス信号の誤検出の問題を生じる。
【0118】
そこで、本他の実施形態では、上述した第1乃至第4の実施形態の特徴を生かしつつ、上記の問題を解決することが可能な蛍光体スクリーン4を備えた走査型表示装置について説明する。
【0119】
本他の実施形態の走査型表示装置は、レーザ光源1と蛍光体スクリーン4の構成が異なる以外は、図1に示したものと同じである。
【0120】
レーザ光源1は集光光学系を含み、図12に示したように、励起レーザ光2のビームウェストが蛍光体スクリーン4の近傍に形成されるように構成されている。
【0121】
図13に、蛍光体スクリーン4の構成を示す。図13に示すように、蛍光体スクリーン4は、中央領域4a、端側領域4b、4cを含む。
【0122】
中央領域4aは、図12に示したビームウェスト位置よりも手前側に位置する領域であって、集光状態の励起レーザ光2が照射される。
【0123】
端側領域4bは、中央領域4aの左側に隣接する。端側領域4cは、中央領域4aの右側に隣接する。端側領域4b、4cは、図12に示したビームウェスト位置よりも奥側に位置する領域であって、発散状態の励起レーザ光2が照射される。
【0124】
凸面形状の反射面6aが、中央領域4a内の検出対象画素内のブラックストライプ5上に設けられている。凹面形状の反射面6bが、端側領域4b、4c内の検出対象画素内のブラックストライプ5上に設けられている。
【0125】
図14に、反射面6aの断面構造を模式的に示す。図14に示す断面は、反射面6aを水平方向(蛍光体ストライプと直交する方向)に切断した場合の断面である。
【0126】
図14に示すように、反射面6aは凸面形状であって、集光状態の励起レーザ光2を反射し、その反射光である反射レーザ光7がコリメート光となるように、その凸面が構成されている。反射面6aからの反射レーザ光7は、受光素子8の受光面に入射する。
【0127】
レーザ光源1に含まれる集光光学系の焦点距離をf1とし、反射面6aの焦点距離をf2とし、アフォーカル系を構成するように反射面6aの凸面の曲率半径を設定する。一般に、凸面ミラーは、曲率半径の1/2倍の焦点距離を有する凹レンズと同様の作用を有する。このため、反射面6aをいわゆるガリレオ型のアフォーカル系とすることで、集光状態の励起レーザ光2をコリメート光に変換することができる。
【0128】
凸面形状の反射面6aは、例えば、ブラックストライプ5の一部をその表面から傾斜を持たせつつ掘り下げ、その掘り下げた部分の表面を凸面形状に加工することで形成することができる。
【0129】
図15に、反射面6bの断面構造を模式的に示す。図15に示す断面は、反射面6bを水平方向(蛍光体ストライプと直交する方向)に切断した場合の断面である。
【0130】
図15に示すように、反射面6bは凹面形状であって、発散状態の励起レーザ光2を反射し、その反射光である反射レーザ光7がコリメート光となるように、その凹面が構成されている。反射面6bからの反射レーザ光7は、受光素子8の受光面に入射する。
【0131】
レーザ光源1に含まれる集光光学系の焦点距離をf1とし、反射面6bの焦点距離をf2とし、アフォーカル系を構成するように凹面の曲率半径を設定する。一般に、凹面ミラーは、曲率半径の1/2倍の焦点距離を有する凸レンズと同様な作用を有する。このため、反射面6bをいわゆるケプラー型のアフォーカル系とすることで、発散状態の励起レーザ光2をコリメート光に変換することができる。
【0132】
凹面形状の反射面6bは、例えば、ブラックストライプ5の一部をその表面から傾斜を持たせつつ掘り下げ、その掘り下げた部分の表面を凹面形状に加工することで形成することができる。
【0133】
本他の実施形態によれば、中央領域4a内の反射面6aおよび端側領域4b、4c内の反射面6bのそれぞれにおいて、励起レーザ光2はコリメートされた反射レーザ光7に変換され、その反射レーザ光7は全て受光素子8の受光面に入射する。これにより、インデックス信号の強度の低下や迷光によるインデックス信号の誤検出の問題を回避することができる。
【0134】
制御部9は、受光素子8からのインデックス信号に基づいて中央領域4aおよび端側領域4b、4cにおける走査位置を検出する。
【0135】
本他の実施形態において、第2乃至第4の実施形態で説明した特徴のいずれかを採用することができる。なお、反射面を形成する領域を分割または制限する場合は、それぞれの領域において、励起レーザ光2が発散状態および集光状態のいずれの状態であるかを考慮して、反射面6a、6bの曲面形状を凹面や凸面に適宜設定する。
【0136】
また、本他の実施形態の走査型表示装置は、中央領域4aに対向して設けられた第1の受光素子、端側領域4bに対向して設けられた第2の受光素子、端側領域4cに対向して設けられた第3の受光素子を有してもよい。この場合、中央領域4a内の凸面形状の反射面6aからの反射レーザ光7は第1の受光素子の受光面に入射し、端側領域4b内の凹面形状の反射面6bからの反射レーザ光7は第2の受光素子の受光面に入射し、端側領域4c内の凹面形状の反射面6bからの反射レーザ光7は第3の受光素子の受光面に入射する。
【0137】
上記の場合、制御部9は、第1の受光素子からのインデックス信号に基づいて中央領域4aにおける走査位置を検出し、第2の受光素子からのインデックス信号に基づいて端側領域4bにおける走査位置を検出し、第3の受光素子からのインデックス信号に基づいて端側領域4cにおける走査位置を検出する。
【0138】
また、本他の実施形態の走査型表示装置において、凸面形状の反射面6aを中央領域4aに設け、端領域4b、4cには、凹面形状の反射面6bを設けないようにしてもよい。
【0139】
さらに、本他の実施形態の走査型表示装置において、凹面形状の反射面6bを端領域4b、4cのうちの少なくとも一方に設け、中央領域4aには、凸面形状の反射面6aを設けないようにしてもよい。
【0140】
上述した各実施形態において、蛍光体スクリーン4の蛍光体ストライプ4Bに代えて、励起レーザ光2を拡散する材料を含む青色拡散ストライプを用いてもよい。この場合、レーザ光源1として、青色の波長域に中心波長を有する青色レーザ光源を用いる。
【0141】
また、ブラックストライプ5に代えて、垂直走査方向に延伸した縦ブラックストライプと水平走査方向に延伸した横ブラックストライプとを含むブラックマトリクスを用いてもよい。
【0142】
以上説明した各実施形態において、蛍光体スクリーン4は様々な方法で作成することが可能である。例えば、反射面を含むブラックストライプ部分のみを、金型で作成する。次に、金型で作成したブラックストライプを基板に貼り合わせ、基板のブラックストライプの間の露出部に蛍光体を塗布する。最後に、反射面以外にマスク処理をほどこし、金属蒸着などにより反射面を形成する。この他、サンドブラスト、樹脂積層などを用いて蛍光体スクリーン4を形成する手法も考えられる。
【符号の説明】
【0143】
1 励起レーザ光源
2 励起レーザ光
3 走査素子
4 蛍光体スクリーン
4R、4G、4B 可視光蛍光体
5 ブラックストライプ
6 反射面
7 反射レーザ光
8 受光素子
9 制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
面内方向に一定の間隔で設けられた、励起光を吸収して可視光を放出する複数の蛍光体領域と、
前記面内の領域を前記複数の蛍光体領域に区画する黒領域と、
前記黒領域上に設けられた複数の反射部と、を有し、
前記複数の反射部はそれぞれが傾斜面を備え、各傾斜面には、反射面が形成されており、各々の前記反射面は、所定の方向から入射した前記励起光を反射し、それぞれの前記反射面で反射された反射光が、前記複数の蛍光体領域および黒領域が形成された面と対向する面の所定の領域内に入射するように、各々の前記反射面の傾斜角度および傾斜方向が設定されている、蛍光スクリーン。
【請求項2】
前記黒領域は、複数のブラックストライプを含み、
前記各反射面はそれぞれ、前記複数のブラックストライプのうちの特定のブラックストライプの一部に、該特定のブラックストライプの幅全体にわたって形成され、該特定のブラックストライプが形成された面からの高さが該特定のブラックストライプの表面より高い領域と低い領域とを含む、請求項1に記載の蛍光体スクリーン。
【請求項3】
前記黒領域は複数のブラックストライプよりなり、
前記各反射面はそれぞれ、前記複数のブラックストライプのうちの特定のブラックストライプの一部に形成されており、該反射面の該特定のブラックストライプが形成された面からの高さが該特定のブラックストライプの表面より低い、請求項1に記載の蛍光体スクリーン。
【請求項4】
前記各反射面はそれぞれ平面である、請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光体スクリーン。
【請求項5】
前記各反射面はそれぞれ曲面である、請求項1乃至3のいずれかに記載の蛍光体スクリーン。
【請求項6】
前記複数の反射部は、凸面形状の反射面を備えた第1の反射部と、凹面形状の反射面を備えた第2の反射部とを有し、
前記面内の領域は、前記第1の反射部が形成された第1の領域と、前記第2の反射部が形成された、前記第1の領域に隣接する第2の領域とを含む、請求項5に記載の蛍光体スクリーン。
【請求項7】
蛍光体スクリーンと、
励起光を出力する励起光源と、
前記蛍光体スクリーン上で前記励起光を走査する走査素子と、
前記蛍光体スクリーンの走査面と対向する位置に設けられ、該反射面からの前記励起光の反射光を検出し、該検出タイミングを示すインデックス信号を出力する受光手段と、
前記受光手段からの前記インデックス信号に基づいて前記励起光源の発光タイミングまたは前記走査素子を駆動する駆動信号の振幅を調整する制御部と、を有し、
前記蛍光体スクリーンは、
面内方向に一定の間隔で設けられた、励起光を吸収して可視光を放出する複数の蛍光体領域と、
前記面内の領域を前記複数の蛍光体領域に区画する黒領域と、
前記黒領域上に設けられた複数の反射部と、を有し、
前記複数の反射部はそれぞれが傾斜面を備え、各傾斜面には、反射面が形成されており、各々の前記反射面は、所定の方向から入射した前記励起光を反射し、それぞれの前記反射面で反射された反射光が、前記複数の蛍光体領域および黒領域が形成された面と対向する面の所定の領域内に入射するように、各々の前記反射面の傾斜角度および傾斜方向が設定されている、走査型表示装置。
【請求項8】
前記黒領域は、複数のブラックストライプを含み、
前記各反射面はそれぞれ、前記複数のブラックストライプのうちの特定のブラックストライプの一部に、該特定のブラックストライプの幅全体にわたって形成されており、該特定のブラックストライプが形成された面からの高さが該特定のブラックストライプの表面より高い領域と低い領域とを含む、請求項7に記載の走査型表示装置。
【請求項9】
前記黒領域は複数のブラックストライプを含み、
前記各反射面はそれぞれ、前記複数のブラックストライプのうちの特定のブラックストライプの一部に形成されており、該反射面の該特定のブラックストライプが形成された面からの高さが該特定のブラックストライプの表面より低い、請求項7に記載の走査型表示装置。
【請求項10】
前記蛍光体スクリーンと前記受光手段の間の距離が、前記蛍光体スクリーンと前記走査素子の間の距離より長い、請求項7乃至9のいずれかに記載の走査型表示装置。
【請求項11】
前記蛍光体スクリーンは、それぞれに前記複数の反射部が形成された複数の部分領域を有し、
前記受光手段は、前記複数の部分領域それぞれに対応して設けられ、それぞれが前記複数の反射部の反射面からの前記励起光の反射光を検出し、該検出タイミングを示すインデックス信号を出力する複数の受光素子を有し、
前記制御部は、前記複数の受光素子からの前記インデックス信号に基づいて前記励起光源の発光タイミングまたは前記走査素子を駆動する駆動信号の振幅を調整する、請求項7乃至10のいずれかに記載の走査型表示装置。
【請求項12】
前記複数の反射部の反射面はそれぞれ平面である、請求項7乃至11のいずれかに記載の走査型表示装置。
【請求項13】
前記励起光を集光する集光光学系を、さらに有し、
前記走査素子は、前記蛍光体スクリーン上で前記集光光学系により集光された前記励起光を走査し、
前記複数の反射部の反射面はそれぞれ曲面である、請求項7乃至11のいずれかに記載の走査型表示装置。
【請求項14】
前記蛍光体スクリーンは、前記励起光が集光状態で照射される第1の領域と、前記励起光が発散状態で照射される第2の領域と、を有し、
前記複数の反射部は、前記第1の領域に形成された、凸面形状の反射面を備えた第1の反射部と、前記第2の領域に形成された、凹面形状の反射面を備えた第2の反射部とを有する、請求項13に記載の走査型表示装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−72982(P2013−72982A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211502(P2011−211502)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000004237)日本電気株式会社 (19,353)
【Fターム(参考)】