説明

蛍光体材料および発光装置

【課題】 耐水性や耐紫外光などを向上させることにより、長寿命化を図ることができる蛍光体材料および発光装置を提供する。
【解決手段】 蛍光体粒子11と、この蛍光体粒子11の表面全体を被覆した被覆層12とを有し、被覆層12は、希土類酸化物,酸化アルミニウム,イットリウムとアルミニウムの複合酸化物,酸化マグネシウムおよびアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物からなる群のうちの少なくとも1種の金属酸化物を含んでいる。これにより、耐水性や耐紫外光などが改善され、長寿命化を図ることができるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体粒子の表面に被覆層を有する蛍光体材料およびそれを用いた発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
LEDランプは、携帯機器,PC周辺機器,OA機器,各種スイッチあるいはバックライト用光源などの各種表示装置に用いられている。このようなLEDランプは、各種の色を発光するために、蛍光体が用いられており、種々の蛍光体が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−105449号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、これらの蛍光体は、水分を吸着して加水分解することにより、表面が劣化してしまい、あるいは、紫外光により表面が分解されて劣化してしまう。よって、輝度などの特性が低下してしまい、十分な寿命を得ることができないという問題があった。
【0005】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、耐水性や耐紫外光などを向上させることにより、長寿命化を図ることができる蛍光体材料および発光装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の蛍光体材料は、蛍光体粒子と、この蛍光体粒子の表面全体を被覆した被覆層とを有し、被覆層は、希土類酸化物,酸化アルミニウム,イットリウムとアルミニウムの複合酸化物,酸化マグネシウムおよびアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物からなる群のうちの少なくとも1種の金属酸化物を含むものである。
【0007】
本発明の発光装置は、本発明の蛍光体材料を含むものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の蛍光体材料によれば、蛍光体粒子の表面全体に、希土類酸化物,酸化アルミニウム,イットリウムとアルミニウムの複合酸化物,酸化マグネシウムおよびアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物からなる群のうちの少なくとも1種の金属酸化物よりなる被覆層を形成するようにしたので、耐水性や耐紫外光などの特性を向上させることができる。よって、本発明の蛍光体材料を用いた発光装置によれば、長寿命化を図ることができる。
【0009】
特に、イットリウム(Y),ガドリニウム(Gd)およびイッテルビウム(Yb)からなる群のうちの少なくとも1種の元素を含む希土類酸化物により被覆層を形成するようにすれば、より高い特性を得ることができ、また、コストを抑制することができる。
【0010】
また、被覆層の厚みを、5nm以上1μm以下とするようにすれば、優れた耐水性を得ることができると共に、高い透過性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態に係る蛍光体材料の構成を表す模式図である。
【図2】本発明の一実施の形態以外の蛍光体材料の構成を表す模式図である。
【図3】図1の蛍光体材料を用いた発光装置の構成を表す図である。
【図4】実施例1の蛍光体材料のTEM写真である。
【図5】図4の蛍光体材料の拡大写真である。
【図6】比較例2の蛍光体材料のTEM写真である。
【図7】実施例1の発光装置の輝度維持率を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
図1は本発明の一実施の形態に係る蛍光体材料10を模式的に表したものである。この蛍光体材料10は、蛍光体粒子11と、被覆層12とを有している。
【0014】
蛍光体粒子11としては、例えば、BaMgAl1017:EuあるいはCaMgSi:Euなどの青色系蛍光体、ZnSiO:Mn,(Y,Gd)BO:Tbあるいは(Ba,Sr,Mg)O・aAl:Mnなどの緑色系蛍光体、(Y,Gd)BO:EuあるいはYPVO:Euなどの赤色系蛍光体が挙げられる。
【0015】
被覆層12は、希土類酸化物,酸化アルミニウム,イットリウム・アルミニウム・ガーネットなどのイットリウムとアルミニウムの複合酸化物,酸化マグネシウム,およびMgAlなどのアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物からなる群のうちの少なくとも1種を主成分として形成されている。これにより、紫外光に対する経時劣化を抑制することができると共に、耐水性を向上させることができるからである。中でも、希土類酸化物が好ましく、イットリウム,ガドリニウムおよびイッテルビウムからなる群のうちの少なくとも1種の元素を含む希土類酸化物がより好ましく、特にYが望ましい。より高い効果を得ることができ、また、コストを抑制することができるからである。被覆層12は、これらの単層であってもよいし、複数層を重ねたものであってもよい。
【0016】
なお、被覆層12には、製造の過程において、他の成分が混入されることもあるが、その場合には、他の成分の割合を0.1質量%以下とすることが好ましい。紫外光に対する経時劣化をより抑制することができると共に、耐水性をより向上させることができるからである。また、他の成分は、被覆層12の特性に対して悪影響を与えないものが好ましく、具体的には、ケイ素(Si),ナトリウム(Na),鉄(Fe),亜鉛(Zn),クロム(Cr),ニッケル(Ni),銅(Cu),カルシウム(Ca),マンガン(Mn),チタン(Ti)あるいはカリウム(K)などがある。
【0017】
なお、緑色系蛍光体は紫外光による劣化が大きいが、Yにより被覆層12を形成すれば、劣化を飛躍的に抑制することができるので好ましい。
【0018】
被覆層12は、蛍光体粒子11の表面全体を被覆している。これにより、蛍光体粒子11の水分との接触による加水分解を抑制することができ、耐水性を向上させることができるからである。また、蛍光体粒子11には、被覆層12を通して紫外光があたるので、劣化を防止する効果を向上させることができるからである。図2は、蛍光体粒子111の表面の一部を被覆層112で被覆した蛍光体材料110を模式的に示したものであるが、被覆層112の間から蛍光体粒子111が露出しているので、十分な効果を得ることができない。なお、本発明において、被覆層12が蛍光体粒子11の表面全体を被覆しているというのは、空孔などの欠陥が存在する場合までも排除するものではなく、実質的に100%近くの被覆率であることを意味している。
【0019】
被覆層12の厚みは、5nm以上1μm以下であることが好ましい。厚みが薄いと形成することが困難であると共に、耐水性向上の効果が少なくなり、厚みが厚いと、透過性が低下してしまうと共に、コスト高になってしまうからである。
【0020】
この蛍光体材料10は、例えば、蛍光体粒子11の表面にゾルゲル法を用いて被覆層12を形成することができる。具体的には、例えば、溶媒に金属塩を溶解した溶液に、蛍光体粒子11を浸漬したのち、溶液が付着した蛍光体粒子11を取り出し、乾燥などによりゲル化して焼成することにより、被覆層12を形成することが好ましい。溶媒に金属塩を溶解した溶液に蛍光体粒子11を浸漬して蛍光体粒子11の表面に溶液を付着させることにより、蛍光体粒子11の表面全体に被覆層12を形成することができるからである。溶媒には、有機溶媒や水などを用いることができ、金属塩としては、炭酸塩、硝酸塩、アルコキシドなどを用いることができる。焼成温度は、300℃以上1000℃以下とすることが好ましい。300℃未満であると、被覆層12を形成することが困難であり、1000℃を超えると、蛍光体粒子11の材料によっては、熱劣化が発生する場合があるからである。
【0021】
図3は、この蛍光体材料10を用いた発光装置20の一構成例を表わすものである。この発光装置20は、基板21の上に発光素子22が搭載されており、発光素子22は基板21の上に形成された配線23とワイヤ24により電気的に接続されている。また、発光素子22の周りには例えばリフレクタ枠25が形成されており、発光素子22の上には、発光素子22を覆うように封止層26が形成されている。封止層26は、例えば、蛍光体材料10を分散させた樹脂により構成されている。
【0022】
発光素子22には、例えば、励起光として紫外光、青色光、または緑色光を発するものが用いられる。蛍光体材料10としては、例えば、発光素子22から発光された励起光を吸収して赤色光を発するもの、青色光を発するもの、黄色光を発するものなどが、1種類または必要に応じて混合して用いられる。中でも、発光素子22に紫外光を発するものを用いる場合に、本発明の蛍光体材料10を用いることが好ましい。本発明の蛍光体材料10は、優れた耐紫外光特性を有しているからである。
【0023】
このように本実施の形態によれば、蛍光体粒子11の表面全体に、希土類酸化物,酸化アルミニウム,イットリウムとアルミニウムの複合酸化物,酸化マグネシウムおよびアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物からなる群のうちの少なくとも1種の金属酸化物よりなる被覆層12を形成するようにしたので、耐水性や耐紫外光などの特性を向上させることができる。よって、この蛍光体材料10を用いた発光装置20によれば、長寿命化を図ることができる。
【0024】
特に、イットリウム,ガドリニウムおよびイッテルビウムからなる群のうちの少なくとも1種の元素を含む希土類酸化物により被覆層12を形成するようにすれば、より高い特性を得ることができ、また、コストを抑制することができる。
【0025】
また、被覆層12の厚みを、5nm以上1μm以下とするようにすれば、優れた耐水性を得ることができると共に、高い透過性を得ることができる。
【実施例】
【0026】
(実施例1)
蛍光体粒子11として、青色系のものと、緑色系のものと、赤色系ものをそれぞれ用意し、溶媒にイットリウム塩を溶解した溶液に浸漬した。次いで、溶液を付着させた蛍光体粒子11を取り出し、乾燥させてゲル化したのち、500℃で2時間焼成した。
【0027】
図4は、得られた蛍光体材料10の表面付近のTEM(Transmission Electron Microscope:透過型電子顕微鏡)写真の一例を表したものであり、図5は、図4のTEM写真の一部を拡大したものである。図4および図5において、11で示した部分が蛍光体粒子であり、12で示した部分が被覆層である。なお、被覆層12の上の白色の部分は、分析時に用いるカーボン膜である。
【0028】
図4および図5に示したように、この蛍光体材料10は、蛍光体粒子11の表面全体に被覆層12が形成されていることが分かる。
【0029】
続いて、得られた蛍光体材料10を用い、図3に示したような発光装置20を作製した。発光素子22には紫外光を発するものを用い、蛍光体材料10には青色を発するものと、緑色を発するものと、赤色を発するものを混合して用いることにより、白色の発光を得るように調整した。また、蛍光体材料10に緑色を発するもののみを用いることにより、緑色の発光装置20も作製した。
【0030】
(比較例1)
蛍光体粒子に被覆層を形成せずに、そのまま蛍光体材料として用いたことを除き、他は実施例1と同様にして発光装置を作製した。
【0031】
(比較例2)
蛍光体粒子111の表面に、イットリウム塩を溶媒に溶解した溶液を噴霧して付着させることにより、被覆層112を形成したことを除き、他は実施例1と同様にして蛍光体材料110を作製し、発光装置を作製した。図6は、得られた蛍光体材料の表面付近のTEM写真の一例を表したものである。図6において、111で示した部分が蛍光体粒子であり、112で示した部分が被覆層である。なお、蛍光体粒子11および被覆層112の上の白色の部分は、分析時に用いるカーボン膜である。図6に示したように、この蛍光体材料110は、蛍光体粒子111の表面の一部に、部分的に、被覆層112の粒子が付着していることが分かる。
【0032】
(劣化試験)
実施例1および比較例1,2の各発光装置20について、発光試験を行い、輝度維持率の経時変化を調べた。図7に実施例1と比較例1の結果を比較して示す。図7に示したように、被覆層12を形成した実施例1によれば、被覆層を形成していない比較例1に比べて輝度維持率の低下を大幅に抑制することができた。また、比較例2では、比較例1に比べて輝度維持率の低下は若干抑制されたものの、実施例1のように大幅な改善はされなかった。すなわち、蛍光体粒子11の表面全体を被覆層12で被覆するようにすれば、劣化を大幅に改善することができることが分かった。
【0033】
(実施例2)
イットリウム塩を溶解した溶液における蛍光体粒子11の濃度を変化させて、被覆層12の厚みを5nm〜1μmの範囲で変化させたことを除き、他は実施例1と同様にして蛍光体材料10および発光装置20を作製した。その際、蛍光体粒子11には、緑色系のものを用いた。
【0034】
続いて、実施例1と同様にして劣化試験を行った。その結果、被覆層12の厚みが5nm以上1μm以下の範囲で、良好な輝度維持率が得られた。すなわち、被覆層12の厚みは、5nm以上1μm以下の範囲内が好ましいことが分かった。
【0035】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では、被覆層12は、希土類酸化物,酸化アルミニウム,イットリウムとアルミニウムの複合酸化物,酸化マグネシウム,およびアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物からなる群のうちの少なくとも1種を主成分として形成された単層、あるいは複数層を重ねたものについて説明したが、これらに加えて、蛍光体粒子に悪影響を与えない他の物質を含む層が形成されていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0036】
LEDなどの発光装置に用いることができる。
【符号の説明】
【0037】
10…蛍光体材料、11…蛍光体粒子、12…被覆層、20…発光装置、21…基板、22…発光素子、23…配線、24…ワイヤ、25…リフレクタ枠、26…封止層、110…蛍光体材料、111…蛍光体粒子、112…被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体粒子と、この蛍光体粒子の表面全体を被覆した被覆層とを有し、
前記被覆層は、希土類酸化物,酸化アルミニウム,イットリウムとアルミニウムの複合酸化物,酸化マグネシウムおよびアルミニウムとマグネシウムの複合酸化物からなる群のうちの少なくとも1種の金属酸化物を含む
ことを特徴とする蛍光体材料。
【請求項2】
前記希土類酸化物は、イットリウム(Y),ガドリニウム(Gd)およびイッテルビウム(Yb)からなる群のうちの少なくとも1種の元素を含むことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体材料。
【請求項3】
前記被覆層の厚みは、5nm以上1μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載の蛍光体材料。
【請求項4】
溶媒に金属塩を溶解した溶液に、前記蛍光体粒子を浸漬したのち、前記溶液が付着した前記蛍光体粒子を取り出し、ゲル化して焼成することにより、前記被覆層を形成したことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の蛍光体材料。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の蛍光体材料を含む発光装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図7】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2010−280877(P2010−280877A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−137727(P2009−137727)
【出願日】平成21年6月8日(2009.6.8)
【出願人】(391005824)株式会社日本セラテック (200)
【Fターム(参考)】