説明

蛍光体組成物の製造方法、及び、それにより得られる蛍光体組成物

【課題】 発光強度が高くかつ低コスト化可能なシンチレータ材料及び蛍光体材料に適用できる蛍光体組成物であって、発光効率に悪影響を及ぼす不純物構造を含まず、高純度な単一の結晶構造で構成される蛍光体組成物を製造する方法を提供する。
【解決手段】 蛍光体組成物原料溶液中の蛍光体組成物原料をアルカリ系沈殿剤溶液中に滴下して蛍光体組成物前駆体を沈殿させ、得られた蛍光体組成物前駆体を水で洗浄し、次いで焼成することにより蛍光体組成物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光体組成物の製造方法、及び、それにより得られる蛍光体組成物に関する。より好ましくは、ガンマ線、X線、中性子線などの放射線検出器に用いられるシンチレータ、プラズマディスプレイ(PDP)用蛍光体、陰極線管(CRT)用蛍光体、投写管用蛍光体などに適用できる蛍光体組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蛍光体組成物の用途はPDP、CRT、投写管などのディスプレイ用蛍光体、及びガンマ線、X線、中性子線などの放射線検出器に用いられるシンチレータなど多岐に亘るが、ディスプレイ用蛍光体としては、各種デバイスの消費電力低減の観点から発光効率のよい蛍光体が求められている。発光効率に影響を及ぼす因子の一つとして蛍光体母材の構造均一性があり、単一の結晶構造で構成される蛍光体母材を合成することが求められている。例えば、緑色蛍光体の一つであるY2SiO5:Tbを蛍光体組成物前駆体の洗浄工程を含まない、従来の方法で合成した場合、主構造であるY2SiO5相のほかに不純物構造であるY23相の生成が蛍光体組成物のX線回折パターンより認められる(例えば、非特許文献1参照)。
【非特許文献1】Yun Chan Kang et al. , J. Solid State Chem. 146, 168-175(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、発光強度が高くかつ低コスト化可能なシンチレータ材料及び蛍光体材料に適用できる蛍光体組成物について、高純度な結晶構造で構成される蛍光体組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明者らは、前記課題を解決するためには蛍光体組成物原料溶液とアルカリ系沈殿剤との反応によって得られる蛍光体組成物前駆体中に残留しているアルカリ成分などの残留物を除去することが必要であると考え、蛍光体組成物原料溶液とアルカリ系沈殿剤との反応によって得られる蛍光体組成物前駆体を水により複数回洗浄することによる残留物除去により前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0005】
すなわち、本発明は、下記の蛍光体組成物の製造方法及びその製造方法によって得られる蛍光体組成物に関する。
(1)蛍光体組成物原料溶液中の蛍光体組成物原料をアルカリ系沈殿剤溶液中に滴下して蛍光体組成物前駆体を沈殿させ、得られた蛍光体組成物前駆体を水で洗浄し、次いで焼成することを特徴とする蛍光体組成物の製造方法。
【0006】
(2)蛍光体組成物前駆体の水による洗浄を、洗浄後の水のpHが7〜8となるまで行うことを特徴とする(1)に記載の蛍光体組成物の製造方法。
【0007】
(3)蛍光体組成物前駆体を調製する際、蛍光体組成物原料溶液をアルカリ系沈殿剤溶液に滴下することを特徴とする(1)又は(2)に記載の蛍光体組成物の製造方法。
【0008】
(4)蛍光体組成物原料が、少なくとも1種のアルカリ土類元素、少なくとも1種の希土類元素、アルミニウム及び珪素からなる群から選ばれる少なくとも2種類の元素の各々の化合物を含有することを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の蛍光体組成物の製造方法。
【0009】
(5)アルカリ土類元素の化合物がアルカリ土類元素の硝酸塩、塩化物又は硫酸塩であり、希土類元素の化合物が希土類元素の硝酸塩、塩化物又は硫酸塩であり、アルミニウムの化合物が硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム又はアルミニウムアルコキシドであり、珪素の化合物がテトラアルコキシシラン又はシリカゾルである請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体組成物の製造方法。
【0010】
(6)蛍光体組成物が、一般式[1]
(A23(B23(SiO2 [1]
(ただしx+y+z=1のとき、0<x<0.5、0<y<0.5、0<z<0.95であり、AはGd、Y、Lu及びLaから選ばれる少なくとも1種の元素、BはA以外の少なくとも1種の希土類元素を示す。)
で表される組成物であって、光刺激、電子線刺激又は放射線刺激により、紫外、可視又は赤外領域で発光する結晶質を含む(1)〜(5)のいずれかに記載の蛍光体組成物の製造方法。
【0011】
(7)上記結晶質の結晶構造がY2SiO5と同タイプである(6)に記載の蛍光体組成物の製造方法。
【0012】
(8)蛍光体組成物が、一般式[2]
(A23(B23(Al23 [2]
(ただしa+b+c=1のとき、0<a<0.375、0<b<0.375、0<c<0.85であり、AはGd、Y、Lu及びLaから選ばれる少なくとも1種の元素、BはA以外の少なくとも1種の希土類元素を示す。)
で表される組成物であって、光刺激、電子線刺激、及び放射線刺激により紫外、可視もしくは赤外領域で発光する結晶質を含む(1)〜(5)のいずれかに記載の蛍光体組成物の製造方法。
【0013】
(9)上記結晶質の結晶構造がY3Al512と同タイプである(8)に記載の蛍光体組成物の製造方法。
【0014】
(10)蛍光体組成物が、一般式[3]
(QO)(BO)(RO)(SiO [3]
(ただし、d+e+f+g=1のとき、0<d<0.25、0<e<0.25、0<f<0.4、0<g<0.95であり、Bは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素、QはMg、Ca、Sr、Ba及びRaから選ばれる少なくとも1種の元素、RはQ以外の少なくとも1種のアルカリ土類元素を示す。)
で表される組成物であって、光刺激、電子線刺激又は放射線刺激により紫外、可視もしくは赤外領域で発光する結晶質を含む(1)〜(5)のいずれかに記載の蛍光体組成物の製造方法。
【0015】
(11)上記結晶質の結晶構造がCaMgSi26と同タイプである(10)に記載の蛍光体組成物の製造方法。
【0016】
(12)蛍光体組成物が、一般式[4]
(QO)(BO)(RO)(Al23 [4]
(ただし、h+i+k+m=1のとき、0<h<0.143、0<i<0.143、0<k<0.3、0<m<0.95であり、Bは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素、QはMg、Ca、Sr、Ba及びRaから選ばれる少なくとも1種の元素、RはQ以外の少なくとも1種のアルカリ土類元素を示す。)
で表される組成物であって、光刺激、電子線刺激又は放射線刺激により紫外、可視もしくは赤外領域で発光する結晶質を含む(1)〜(5)のいずれかに記載の蛍光体組成物の製造方法。
【0017】
(13)上記結晶質の結晶構造がBaMgAl1017と同タイプである(12)に記載の蛍光体組成物の製造方法。
【0018】
(14)上記(1)〜(13)のいずれかに記載の蛍光体組成物の製造方法により製造された蛍光体組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、発光強度が高くかつ低コストなシンチレータ材料及び蛍光体材料に適用できる蛍光体組成物について、高純度な結晶構造で構成される蛍光体組成物の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明において用いられる蛍光体組成物原料としては、例えば、少なくとも1種のアルカリ土類元素、少なくとも1種の希土類元素、アルミニウム及び珪素からなる群から選ばれる少なくとも2種類の元素の各々の化合物を含有する混合物が挙げられる。
【0021】
アルカリ土類元素の化合物の例としては、例えばアルカリ土類元素の硝酸塩、塩化物及び硫酸塩が挙げられる。希土類元素の化合物の例としては、例えば希土類元素の硝酸塩、塩化物及び硫酸塩が挙げられる。アルミニウムの化合物の例としては、例えば硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、及び、アルミニウムメトキシド、アルミニウムエトキシド等のアルミニウムアルコキシドが挙げられる。珪素の化合物の例としては、例えばテトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン等のテトラアルコキシシランや、シリカゾルが挙げられる。珪素の化合物としては、テトラアルコキシシランを塩酸触媒下で加水分解して得られるシリカゾルを用いることが好ましい。
【0022】
蛍光体組成物原料溶液としては、例えば、蛍光体組成物原料を水又はアルコール系溶媒に溶解した水溶液又はアルコール系溶液が好ましい。蛍光体組成物原料溶液中の蛍光体組成物原料の濃度は、溶液中の固形分含有量として1〜50重量%が好ましく、3〜40重量%がより好ましい。
【0023】
アルカリ系沈殿剤としては、アンモニアが好ましく、通常、アンモニア水として用いることが好ましい。例えば、関東化学製JIS特級28〜30重量%アンモニア水、和光純薬製試薬特級品25重量%アンモニア水、和光純薬製試薬一級品25重量%アンモニア水等が挙げられ、それらの中でも和光純薬製試薬特級品25重量%アンモニア水が好ましい。
また、蛍光体組成物原料溶液の容量、及び濃度などに応じ、前記アンモニア水を水、あるいはアルコール等の溶媒で更に希釈して用いることも可能である。
【0024】
アンモニウム以外のアルカリ系沈殿剤も使用することができ、例えば、炭酸水素アンモニウム、イミダゾール、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム、水酸化テトラプロピルアンモニウム、水酸化テトラブチルアンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウムなども用いることができる。これらのアルカリ系沈殿剤も、その水溶液もしくはアルコール系溶液として用いることが好ましい。
また、アルカリ系沈殿剤に、界面活性剤を混合させて用いることも可能である。
【0025】
アルカリ系沈殿剤を水溶液又はアルコール系溶液として用いる場合、アルカリ系沈殿剤の濃度は、1〜30重量%とすることが好ましく、4〜25重量%とすることがより好ましい。
【0026】
蛍光体組成物前駆体は、蛍光体組成物原料溶液を用い、蛍光体組成物原料とアルカリ系沈殿剤との液相反応によって得られるが、蛍光体組成物前駆体を均一に生成させるためには、蛍光体組成物原料溶液をアルカリ系沈殿剤溶液中に滴下して反応させる。この反応方法においては、反応温度に特に制限はなく、室温で十分であり、例えば、反応系を撹拌しながら、好ましくは15〜30℃、より好ましくは20〜27℃の温度で反応させることが望ましい。また、滴下終了後、好ましくは5〜30分間、より好ましくは10〜20分間撹拌を継続することが望ましい。
【0027】
沈殿として得られた蛍光体組成物前駆体の水による洗浄は、洗浄後の水のpHが7〜8になるまで行うことが好ましく、pHが7〜7.5になるまで行うことがより好ましく、pHが7〜7.2になるまで行うことが特に好ましい。
洗浄に用いる水は超純水を用いることが好ましく、電気比抵抗が18MΩ・cm以上の水を用いることが好ましく、18〜18.2MΩ・cmの水を用いることがより好ましい。水の温度は、10〜25℃が好ましく、15〜20℃がより好ましい。
【0028】
蛍光体組成物前駆体の洗浄は、水に蛍光体組成物前駆体を分散させたのち、遠心分離により再分離する工程を、前記条件を満足するまで複数回行う方法が好ましい。
遠心分離は蛍光体組成物前駆体の水への流失が確認されない回転数、及び時間を選択して行うことが好ましく、例えば、回転半径20cmの装置を用いた場合、回転数1000rpm〜4000rpm、分離時間3〜10分で行うことが好ましく、回転数2000rpm〜3000rpm、分離時間4〜7分で行うことがより好ましく、回転数3000rpm、分離時間4〜5分で行うことが特に好ましい。
【0029】
蛍光体組成物は、上記の水による洗浄後、蛍光体組成物前駆体を焼成することによって得ることができ、大気雰囲気下、窒素などの不活性雰囲気下、希釈水素などの還元雰囲気下いずれの雰囲気下の焼成によっても得ることができる。特に好ましいのは窒素などの不活性雰囲気下である。焼成温度は、1000〜1600℃が好ましく、1100〜1500℃がより好ましく、焼成時間は、3〜10時間が好ましく、5〜8時間がより好ましい。
【0030】
本発明の製造方法によれば、例えば、各々下記一般式[1]、[2]、[3]及び[4]で表される組成物[1]、[2]、[3]及び[4]であって、光刺激、電子線刺激又は放射線刺激により、紫外、可視又は赤外領域で発光する結晶質を含む蛍光体組成物を得ることができる。これらの蛍光体組成物は、光刺激、電子線刺激及び放射線刺激の内、少なくとも1つの刺激によって、紫外、可視又は赤外領域で発光する。
【0031】
蛍光体組成物[1]
(A23(B23(SiO2 [1]
(ただしx+y+z=1のとき、0<x<0.5、0<y<0.5、0<z<0.95であり、好ましくは0.44<x<0.495、0.005<y<0.06、0.2<z<0.8であり、より好ましくは0.455<x<0.485、0.015<y<0.045、0.4<z<0.6であり、AはGd、Y、Lu及びLaから選ばれる少なくとも1種の元素、BはA以外の少なくとも1種の希土類元素を示す。)
【0032】
蛍光体組成物[2]
(A23(B23(Al23 [2]
(ただしa+b+c=1のとき、0<a<0.375、0<b<0.375、0<c<0.85であり、好ましくは0.3375<a<0.37125、0.00375<b<0.0375、0.2<c<0.75であり、より好ましくは0.3525<a<0.3675、0.0075<b<0.0225、0.4<c<0.65であり、AはGd、Y、Lu及びLaから選ばれる少なくとも1種の元素、BはA以外の少なくとも1種の希土類元素を示す。)
【0033】
蛍光体組成物[3]
(QO)(BO)(RO)(SiO [3]
(ただし、d+e+f+g=1のとき、0<d<0.25、0<e<0.25、0<f<0.4、0<g<0.95であり、好ましくは0.2125<d<0.2475、0.0025<e<0.0375、0.1<f<0.35、0.2<g<0.8であり、より好ましくは0.2225<d<0.2375、0.0125<e<0.0275、0.2<f<0.3、0.4<g<0.6であり、Bは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素、QはMg、Ca、Sr、Ba及びRaから選ばれる少なくとも1種の元素、RはQ以外の少なくとも1種のアルカリ土類元素を示す。)
【0034】
蛍光体組成物[4]
(QO)(BO)(RO)(Al23 [4]
(ただし、h+i+k+m=1のとき、0<h<0.143、0<i<0.143、0<k<0.3、0<m<0.95であり、好ましくは0.12155<h<0.14157、0.00143<i<0.02145、0.05<k<0.25、0.2<m<0.8であり、より好ましくは0.12727<h<0.13585、0.00715<i<0.01573、0.1<k<0.2、0.5<m<0.75であり、Bは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素、QはMg、Ca、Sr、Ba及びRaから選ばれる少なくとも1種の元素、RはQ以外の少なくとも1種のアルカリ土類元素を示す。)
【0035】
蛍光体組成物[1]としては、上記結晶質の結晶構造がY2SiO5と同タイプである蛍光体組成物[5]が好ましい。
蛍光体組成物[2]としては、上記結晶質の結晶構造がY3Al512と同タイプである蛍光体組成物[6]が好ましい。
蛍光体組成物[3]としては、上記結晶質の結晶構造がCaMgSi26と同タイプである蛍光体組成物[7]が好ましい。
蛍光体組成物[4]としては、上記結晶質の結晶構造がBaMgAl1017と同タイプである蛍光体組成物[8]が好ましい。
【0036】
なお、上記の蛍光体組成物[5]〜[8]において、「結晶構造が、それぞれ、Y2SiO5、Y3Al512、CaMgSi26及びBaMgAl1017と同タイプである」とは、各蛍光体組成物が、それぞれ、[5]〜[8]に示されると構造と同タイプの結晶構造のみによって形成されていることを意味する。例えば、式[1]においてAがY、BがTbである蛍光体組成物の場合、従来の蛍光体組成物の場合、Y2SiO5と同タイプの結晶構造の他に、Y2Si27構造、Y23構造等が含まれることがあるが、本発明の蛍光体組成物[5]は、Y2SiO5構造と同タイプの結晶構造のみによって構成されている。
【0037】
さらに、これらの蛍光体組成物[1]〜[8]の中でも、一般式[1]〜[4]中でAがYであり、BがTb、Ce又はEuであり、QがBa又はCaであり、RがMgである蛍光体組成物が好ましい。
特に、蛍光体の母材を構成する希土類元素Aは、電子線刺激や紫外線刺激の蛍光体用途にはYが好ましく、シンチレータ用途にはGd、Lu、Laなども効率よく適用できる。
同様に蛍光体の母材を構成するアルカリ土類元素Qは蛍光体用途にはBaが好ましく、Ca、Srも効率よく適用できる。
また、付活材として働くB元素は可視領域あるいは赤外領域に発光波長を有するPr、Nd、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ybなどが好適に適用できる。
【実施例】
【0038】
[実施例1]
一般式[1]に記載の蛍光体組成物の構成元素としてA=Y、B=Tbを選び、組成x=0.465、y=0.035、z=0.5として以下の方法で合成した。
Y、Tb、及びSi成分の原料として、それぞれ硝酸イットリウム水溶液(濃度:19.2重量%)、硝酸テルビウム水溶液(濃度:4.5重量%)、テトラエトキシシランを用意した。
テトラエトキシシランを塩酸触媒下で予め加水分解して得られるシリカゾル液(固形分濃度:20.8重量%)に上記Y及びTbの原料水溶液を所定の組成になるように混合し、蛍光体組成物原料溶液を調製した。
なお、シリカゾル液は、次のように調製した。すなわち、テトラエトキシシラン20.8gに1mol/lHCL 5ml及び超純水2.5mlを加え、発熱がおさまるまで5分間撹拌を続けた。その後、濃度20.8重量%となるまでエタノールにより希釈した。
ついで25重量%アンモニア水60mlに、温度20℃で撹拌しながら上記原料溶液60mlを滴下し、滴下終了後、同温度で15分間撹拌を続け、蛍光体組成物前駆体(沈殿物)を調製した。
蛍光体組成物前駆体の水(500ml、15℃)による洗浄と遠心分離(回転半径20cm、回転数3000rpm、分離時間5分)による固液分離を、5回繰り返し、アンモニア臭がなくなり、洗浄後の水のpHが7.8になったのを確認したのち、150℃で2時間乾燥し、粉末試料3.4gを得た。
ついで同試料を空気中1500℃で8時間熱処理し、蛍光体組成物の粉末試料2.5gを得た。
作製した試料に紫外線ランプを照射したところ、緑色の発光が観察された。
次に熱処理後に得られた蛍光体組成物の粉末試料のX線回折による結晶構造を評価した。
その結果を図1及び図2に示した。各図のX線回折の測定条件は、下記のとおりである。
図1: 測定範囲10〜80゜、ステップ幅0.05゜、計数時間2秒
図2: 測定範囲27〜30゜、ステップ幅0.02゜、計数時間5秒
【0039】
X線回折の結果、150℃乾燥粉末は非晶質のパターンを示したが、1500℃焼成品は図1に示すように結晶相の存在を示す多数のピークから成る回折パターンを示した。
同回折パターンは図1に示すようにY2SiO5の回折パターン(JCPDSカードNo.21−1458)に一致するものであった。
また、不純物相としてY23が存在する場合、2θ=29.16°にピークを示すが(JCPDSカードNo.25−1200)、図2に示すように前記角度位置にピークはみられず、結晶構造としてY2SiO5のみ存在することが確認できた。
【0040】
[実施例2]
実施例1と同様の構成元素、組成、方法により蛍光体組成物前駆体を調製した。
本発明の方法を行い、乾燥させて得られた粉末試料3.4gを窒素雰囲気中1300℃で8時間熱処理し蛍光体組成物の粉末試料2.5gを得た。
作製した試料に紫外線ランプを照射したところ、緑色の発光が観察された。
次に各粉末試料のX線回折による結晶構造を評価した。
X線回折の結果、実施例1と同様、結晶構造としてY2SiO5のみ存在することが確認できた。
【0041】
[比較例1]
実施例1と同じ構成元素、組成(x=0.465、y=0.035、z=0.5)を選択し、実施例1と同じ方法で蛍光体組成物原料溶液を調製した。
ついで上記原料溶液60ml中に25重量%アンモニア水60mlを、温度20℃で撹拌しながら滴下し、滴下終了後、同温度で15分間撹拌を続け、蛍光体組成物前駆体(沈殿物)を調製した。
蛍光体組成物前駆体の水(500ml、15℃)による洗浄と遠心分離(回転半径20cm、回転数3000rpm、分離時間5分)による固液分離を、5回繰り返し、アンモニア臭がなくなり、洗浄後の水のpHが7.8になったのを確認したのち、150℃で2時間乾燥し、粉末試料3.4gを得た。
ついで同試料を空気中1500℃で8時間熱処理し、蛍光体組成物の粉末試料2.5gを得た。
作製した試料に紫外線ランプを照射したところ、緑色の発光が観察された。
次に各粉末試料のX線回折による結晶構造を評価した。
X線回折の結果、2θ=29.16°にY23に帰属するピークがみられ、結晶構造としてY2SiO5のほかにY23が存在することが確認された。
【0042】
[実施例3]
一般式[2]に記載の蛍光体組成物の構成元素としてA=Y、B=Ceを選び、組成a=0.36、b=0.015、c=0.625として以下の方法で合成した。
Y、Ce、及びAl成分の原料として、それぞれ硝酸イットリウム水溶液(濃度:19.2重量%)、硝酸セリウム水溶液(濃度:4.3重量%)、硝酸アルミニウム水溶液(濃度:37.5重量%)を用意した。
上記Y、Ce、Al原料水溶液を所定の組成になるように混合し、蛍光体組成物原料溶液を調製した。
ついで4重量%アンモニア水60mlに、温度20℃で撹拌しながら上記原料溶液60mlを滴下し、滴下終了後、同温度で15分間撹拌を続け、蛍光体組成物前駆体(沈殿物)を調製した。
蛍光体組成物前駆体の水(500ml、20℃)による洗浄と遠心分離(回転半径20cm、回転数3000rpm、分離時間5分)による固液分離を、3回繰り返し、アンモニア臭がなくなり、洗浄後の水のpHが7.7になったのを確認したのち、150℃で2時間乾燥し、粉末試料3.6gを得た。
ついで同試料を空気中1200℃で5時間熱処理し、蛍光体組成物の粉末試料2.7gを得た。
作製した試料に470nmの光を照射したところ、黄色の発光が観察された。
次に各粉末試料のX線回折による結晶構造を評価した。
その結果を図3、及び図4に示した。各図のX線回折の測定条件は、下記のとおりである。
図3: 測定範囲10〜80゜、ステップ幅0.05゜、計数時間1秒
図4: 測定範囲26〜30゜、ステップ幅0.02゜、計数時間10秒
【0043】
X線回折の結果、150℃乾燥粉末は非晶質のパターンを示したが、1200℃焼成品は図3に示すように結晶相の存在を示す多数のピークから成る回折パターンを示した。
同回折パターンは図3に示すようにY3Al512の回折パターン(JCPDSカードNo.8−178)に一致するものであった。
また、不純物相として実施例1と同様、Y23が存在することが考えられるが、図4に示すように2θ=29.16°にピークはみられなかった。
同様に不純物相としてY4Al29(JCPDSカードNo.22−987)、もしくはYAlO3(JCPDSカードNo.11−662)、もしくはAl23(JCPDSカードNo.10−173)が存在することが考えられるが、これらのピークはみられず、結晶構造としてY3Al512のみ存在することが確認できた。
【0044】
[比較例1]
実施例1と同じ構成元素、組成(x=0.465、y=0.035、z=0.5)を選択し、実施例1と同じ方法で蛍光体組成物原料溶液を調製した。
ついで上記原料溶液60ml中に25重量%アンモニア水60mlを、温度20℃で撹拌しながら滴下し、滴下終了後、同温度で15分間撹拌を続け、蛍光体組成物前駆体(沈殿物)を調製した。
蛍光体組成物前駆体の水(500ml、15℃)による洗浄と遠心分離(回転半径20cm、回転数3000rpm、分離時間5分)による固液分離を、5回繰り返し、アンモニア臭がなくなり、洗浄後の水のpHが7.8になったのを確認したのち、150℃で2時間乾燥し、粉末試料3.4gを得た。
ついで同試料を空気中1500℃で8時間熱処理し、蛍光体組成物の粉末試料2.5gを得た。
作製した試料に紫外線ランプを照射したところ、緑色の発光が観察された。
次に各粉末試料のX線回折による結晶構造を評価した。
X線回折の結果、2θ=29.16°にY23に帰属するピークがみられ、結晶構造としてY2SiO5のほかにY23が存在することが確認された。
【0045】
[比較例2]
実施例1と同じ構成元素、組成、方法により蛍光体組成物前駆体を調製した。
この蛍光体前駆体を、本発明の方法である、水による洗浄を行わずに遠心分離し、150℃で乾燥して粉末試料3.4gを得た。
ついで同試料を空気中1500℃で8時間熱処理し、蛍光体組成物の粉末試料2.5gを得た。
作製した試料に紫外線ランプを照射したところ、緑色の発光が観察された。
次に各粉末試料のX線回折による結晶構造を評価した。
その結果を図5、及び図6に示した。各図のX線回折の測定条件は、下記のとおりである。
図5: 測定範囲10〜80゜、ステップ幅0.05゜、計数時間2秒
図6: 測定範囲27〜30゜、ステップ幅0.02゜、計数時間5秒
【0046】
X線回折の結果、150℃乾燥粉末は非晶質のパターンを示したが、1500℃焼成品は図5に示すように結晶相の存在を示す多数のピークから成る回折パターンを示した。
同回折パターンは図5に示すようにY2SiO5の回折パターンに一致するものであった。
一方、実施例1で述べた不純物相について、図6に示すように2θ=29.16°にY23に帰属するピークがみられ、結晶構造としてY2SiO5のほかにY23が存在することが確認された。
【0047】
実施例1〜3及び比較例1〜2についての考察
蛍光体組成物前駆体を合成したとき、アンモニア及び硝酸イオンが前記前駆体内に残留成分として残留していると考えられる。前記残留成分を含む蛍光体組成物前駆体を焼成した場合、残留成分の影響によりSi成分が消失し、蛍光体組成物内のSiが不足することによりY23相が生成すると考えられる。したがって、実施例1に示すように、本発明の方法により蛍光体組成物前駆体を合成し、更に蛍光体組成物前駆体内の残留成分を除去することで、高純度な結晶構造で構成され、前記の蛍光体組成物[1]又は[5]を得られることが分かった。
【0048】
実施例2に示したように、前記の蛍光体組成物[2]又は[6]についても、本発明の方法により高純度な結晶構造で構成される蛍光体組成物を得られることが分かった。
【0049】
また、実施例1及び実施例2の方法による合成が可能な前記の蛍光体組成物[3]、[4]、[7]、[8]についても、本発明の方法により高純度な結晶構造で構成される蛍光体組成物を得られることは明らかである。
【0050】
比較例1のようにアルカリ系沈殿剤を蛍光体組成物原料溶液中に滴下した場合、均一な蛍光体組成物前駆体が生成しないと考えられ、蛍光体組成物前駆体を水で洗浄してもSi成分消失を抑制できないと考えられる。したがって、高純度な結晶構造で構成される蛍光体組成物を得るためには、蛍光体組成物原料溶液をアルカリ系沈殿剤溶液に滴下する方法が好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例1で得られた蛍光体組成物の2θ=10°〜80°の粉末X線回折パターン。
【図2】実施例1で得られた蛍光体組成物の2θ=27°〜30°の粉末X線回折パターン。
【図3】実施例3で得られた蛍光体組成物の2θ=10°〜80°の粉末X線回折パターン。
【図4】実施例3で得られた蛍光体組成物の2θ=26°〜30°の粉末X線回折パターン。
【図5】比較例2で得られた蛍光体組成物の2θ=10°〜80°の粉末X線回折パターン。
【図6】比較例2で得られた蛍光体組成物の2θ=27°〜30°の粉末X線回折パターン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光体組成物原料溶液中の蛍光体組成物原料をアルカリ系沈殿剤溶液中に滴下して蛍光体組成物前駆体を沈殿させ、得られた蛍光体組成物前駆体を水で洗浄し、次いで焼成することを特徴とする蛍光体組成物の製造方法。
【請求項2】
蛍光体組成物前駆体の水による洗浄を、洗浄後の水のpHが7〜8となるまで行うことを特徴とする請求項1に記載の蛍光体組成物の製造方法。
【請求項3】
蛍光体組成物前駆体を調製する際、蛍光体組成物原料溶液をアルカリ系沈殿剤溶液に滴下することを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光体組成物の製造方法。
【請求項4】
蛍光体組成物原料が、少なくとも1種のアルカリ土類元素、少なくとも1種の希土類元素、アルミニウム及び珪素からなる群から選ばれる少なくとも2種類の元素の各々の化合物を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の蛍光体組成物の製造方法。
【請求項5】
アルカリ土類元素の化合物がアルカリ土類元素の硝酸塩、塩化物又は硫酸塩であり、希土類元素の化合物が希土類元素の硝酸塩、塩化物又は硫酸塩であり、アルミニウムの化合物が硝酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム又はアルミニウムアルコキシドであり、珪素の化合物がテトラアルコキシシラン又はシリカゾルである請求項1〜4のいずれかに記載の蛍光体組成物の製造方法。
【請求項6】
蛍光体組成物が、一般式[1]
(A23(B23(SiO2 [1]
(ただしx+y+z=1のとき、0<x<0.5、0<y<0.5、0<z<0.95であり、AはGd、Y、Lu及びLaから選ばれる少なくとも1種の元素、BはA以外の少なくとも1種の希土類元素を示す。)
で表される組成物であって、光刺激、電子線刺激又は放射線刺激により、紫外、可視又は赤外領域で発光する結晶質を含む請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光体組成物の製造方法。
【請求項7】
上記結晶質の結晶構造がY2SiO5と同タイプである請求項6に記載の蛍光体組成物の製造方法。
【請求項8】
蛍光体組成物が、一般式[2]
(A23(B23(Al23 [2]
(ただしa+b+c=1のとき、0<a<0.375、0<b<0.375、0<c<0.85であり、AはGd、Y、Lu及びLaから選ばれる少なくとも1種の元素、BはA以外の少なくとも1種の希土類元素を示す。)
で表される組成物であって、光刺激、電子線刺激、及び放射線刺激により紫外、可視もしくは赤外領域で発光する結晶質を含む請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光体組成物の製造方法。
【請求項9】
上記結晶質の結晶構造がY3Al512と同タイプである請求項8に記載の蛍光体組成物の製造方法。
【請求項10】
蛍光体組成物が、一般式[3]
(QO)(BO)(RO)(SiO [3]
(ただし、d+e+f+g=1のとき、0<d<0.25、0<e<0.25、0<f<0.4、0<g<0.95であり、Bは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素、QはMg、Ca、Sr、Ba及びRaから選ばれる少なくとも1種の元素、RはQ以外の少なくとも1種のアルカリ土類元素を示す。)
で表される組成物であって、光刺激、電子線刺激又は放射線刺激により紫外、可視もしくは赤外領域で発光する結晶質を含む請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光体組成物の製造方法。
【請求項11】
上記結晶質の結晶構造がCaMgSi26と同タイプである請求項10に記載の蛍光体組成物の製造方法。
【請求項12】
蛍光体組成物が、一般式[4]
(QO)(BO)(RO)(Al23 [4]
(ただし、h+i+k+m=1のとき、0<h<0.143、0<i<0.143、0<k<0.3、0<m<0.95であり、Bは希土類元素から選ばれる少なくとも1種の元素、QはMg、Ca、Sr、Ba及びRaから選ばれる少なくとも1種の元素、RはQ以外の少なくとも1種のアルカリ土類元素を示す。)
で表される組成物であって、光刺激、電子線刺激又は放射線刺激により紫外、可視もしくは赤外領域で発光する結晶質を含む請求項1〜5のいずれかに記載の蛍光体組成物の製造方法。
【請求項13】
上記結晶質の結晶構造がBaMgAl1017と同タイプである請求項12に記載の蛍光体組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の蛍光体組成物の製造方法により製造された蛍光体組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−233136(P2006−233136A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−53432(P2005−53432)
【出願日】平成17年2月28日(2005.2.28)
【出願人】(000004455)日立化成工業株式会社 (4,649)
【Fターム(参考)】