説明

蛍光増白剤及びそれを用いた白色樹脂組成物

【課題】合成することが簡単であり、かつ、可視光線から紫外線までの波長領域の光を吸収することで、青色領域の光を発する蛍光増白剤及びそれを用いた白色樹脂組成物の提供。
【解決手段】下記構造式(I)で表されるジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1BF2)蛍光増白剤。


(式中、Rは、H、CH又はSi(CHであり、Rは、H、CH又はSi(CHである。)白色樹脂組成物は、該蛍光増白剤と熱可塑性樹脂を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、白色塗膜や白色繊維製品等と組み合わせることにより、白色度を増加する蛍光増白剤及びそれを用いた白色樹脂組成物に関し、特に可視光線から紫外線までの波長領域の光を吸収することで、青色領域(350〜440nm)の光を発する蛍光増白剤及びそれを用いた白色樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に白色塗膜や白色繊維製品等を得るための白色樹脂組成物には、白色を有する顔料として酸化チタン等が用いられている。ところが、酸化チタンは、必ずしもすべての可視光を均一に反射しているわけではなく、特に青色領域の光の反射が弱い。そのため、酸化チタンを含有する白色塗膜や白色繊維製品は、全体的に薄い黄色を帯びた白色に見える。
そこで、青色領域の蛍光を発する物質を用いることにより、黄色を帯びた白色に青色を補うことで、より白色に見せる手段(いわゆる、「蛍光増白」)が知られている(例えば、特許文献1参照)。例えば、白色繊維製品であるワイシャツ等には、青色領域(436nm)の蛍光を発するスチルベン系化合物(下記構造式(II)で表される)を混合することにより、白色繊維製品の黄色味にスチルベン系化合物の青色を補うことで、黄色味を消した白色にしている。
【0003】
【化2】

【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−98180号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、スチルベン系化合物は、合成するのに、非常に手間がかかる。
さらに、スチルベン系化合物は、蛍光増白剤として優れた増白効果を有するが、スチルベン系化合物を各種の熱可塑性樹脂(例えば、ポリエチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂等)に練り込む場合に、化学構造が比較的長大であり、かつ、高い融点(327℃)を有するので、熱可塑性樹脂との相溶性が不充分であり、その結果、熱可塑性樹脂中にスチルベン系化合物が均一に混合された樹脂組成物を調製することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本件発明者らは、合成することが簡単であり、かつ、可視光線から紫外線までの波長領域の光を吸収することで、青色領域の光を発するジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(後述する構造式(I)で表される)について検討を行った。そこで、次の表1に示すように、電子供与性の強さが異なる様々な置換基R、Rを有するジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物を合成した。なお、電子供与性の強さは、N(CH>OCH>CH>Si(CH>Hとなる。その結果、置換基R、Rが電子供与性の強さが強いN(CHやOCHでなければ、青色領域(425〜440nm)の光を発することを見出した。また、置換基R、Rが、共にHでなければ、蛍光量子収率(0.45以上)が高くなることも見出した。
【0007】
【表1】

【0008】
すなわち、本発明の蛍光増白剤は、下記構造式(I)で表されるジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物であるようにしている。
【0009】
【化3】

【0010】
ここで、式中、Rは、H、CH又はSi(CHであり、
は、H、CH又はSi(CHである。
【発明の効果】
【0011】
本発明の蛍光増白剤によれば、ジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物であるため、合成することが簡単である。
また、波長領域(365〜400nm)の光を吸収することで、青色領域(425〜440nm)の光を発する。
さらに、融点が300℃未満となる。
【0012】
(その他の課題を解決するための手段および効果)
また、本発明の蛍光増白剤は、Rは、H、CH又はSi(CHであり、Rは、CH、Si(CH又はOCHであるようにしてもよい。
本発明の蛍光増白剤によれば、高い蛍光量子収率(0.45〜0.95)を有する。
さらに、本発明の白色樹脂組成物は、上述したような蛍光増白剤と、白色顔料と、熱可塑性樹脂とを含有するようにしてもよい。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0014】
本発明に係るジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物は、下記構造式(I)で表される。
【0015】
【化4】

【0016】
ここで、式中、Rは、H、CH又はSi(CHであり、Rは、H、CH又はSi(CHである。
【0017】
また、本発明に係る白色樹脂組成物は、上述したような蛍光増白剤と、白色顔料と、熱可塑性樹脂とを含有する。
上記熱可塑性樹脂としては、例えば、軟質及び硬質ポリ塩化ビニル、ポリエチレンやポリプロピレンやポリ1−ブテン及びそれらの共重合体等のポリオレフィン、ポリスチレン、ポリエステル、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリウレタン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリビニルアセタール、それらの混合物等が挙げられる。
上記白色顔料としては、例えば、二酸化チタン、リン酸チタン、酸化亜鉛、塩基性炭酸鉛、酸化アンチモン、硫化亜鉛、それらの複合塩等が挙げられる。
なお、上記白色樹脂組成物には、さらに所望に応じて一般的な添加剤(例えば、抗酸化剤、熱安定剤、帯電防止剤、カップリング剤、被覆用助剤等)が含有されてもよい。
【0018】
このような白色樹脂組成物は、高い白色度を有するものを形成することができるので、紡糸、織布、不織布、合成紙等用の長短繊維、テグス糸等の単繊維、各種包装用フィルム、シート、板等の製造用原料として使用されたり、成形品に塗布されたりすることができる。
なお、本発明に係る白色樹脂組成物を製造するには、バーバリーミキサー、各種ニーダー、2本又は3本ロール混練機等を用いて、蛍光増白剤と熱可塑性樹脂と白色顔料と添加剤とを溶融混練することができる。このとき、本発明に係る蛍光増白剤は、融点が300℃未満であるため、本発明に係る蛍光増白剤を、熱可塑性樹脂等の成分中に極めて短時間で均一に練り込むことができる。
【実施例】
【0019】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによりなんら制限されるものではない。
<実施例1>R=H、R=CHであるジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1gBF)の合成
まず、5mlのテトラヒドロフラン(THF)と1mlのジメチルスルホキシド(DMSO)との混合物中に、0.23gの水素化ナトリウム(NaH)を加え、0.78mlの安息香酸メチル(2d)と、0.80mlの4−メチルアセトフェノン(3b)とを添加して16時間、80℃で反応させることにより、1.23gの中間体(1gH)を得た。
次に、10mlのベンゼン中に、0.60gの中間体(1gH)と、0.47mlの三フッ化ホウ素エチルエーテル錯化合物(BF・EtO)とを加えて16時間、25℃で反応させることにより、実施例1に係るジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1gBF)を得た。
【0020】
<実施例2>R=CH、R=CHであるジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1cBF)の合成
実施例1における0.78mlの安息香酸メチル(2d)の代わりに、0.90gのp−トルイル酸メチル(2b)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2に係るジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1cBF)を得た。
<実施例3>R=Si(CH、R=Si(CHであるジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1bBF)の合成
実施例1における0.78mlの安息香酸メチル(2d)と、0.80mlの4−メチルアセトフェノン(3b)との代わりに、1.25gの4−(トリメチルシリル)安息香酸メチル(2a)と、1.15gの4−(トリメチルシリル)アセトフェノン(3a)とを使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3に係るジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1bBF)を得た。
【0021】
<実施例4>R=H、R=OCHであるジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1hBF)の合成
実施例1における0.80mlの4−メチルアセトフェノン(3b)の代わりに、0.90gの4−メトキシアセトフェノン(3d)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例4に係るジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1hBF)を得た。
<実施例5>R=H、R=Si(CHであるジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1fBF)の合成
実施例1における0.80mlの4−メチルアセトフェノン(3b)の代わりに、1.15gの4−(トリメチルシリル)アセトフェノン(3a)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、実施例5に係るジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1fBF)を得た。
<実施例6>R=H、R=Hであるジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1aBF)の合成
10mlのベンゼン中に、0.56gのジベンゾイルメタン(1aH)と、0.47mlのBF・EtOとを加えて16時間、25℃で反応させることにより、実施例6に係るジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1aBF)を得た。
【0022】
<比較例1>R=OCH、R=OCHであるジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1dBF)の合成
実施例6における0.56gのジベンゾイルメタン(1aH)の代わりに、0.71gのジアニソイルメタン(1dH)を使用したこと以外は実施例6と同様にして、比較例1に係るジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1dBF)を得た。
<比較例2>R=H、R=N(CHであるジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1iBF)の合成
実施例1における0.80mlの4−メチルアセトフェノン(3b)の代わりに、0.98gの4−(ジメチルアミノ)アセトフェノン(3c)を使用したこと以外は実施例1と同様にして、比較例2に係るジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1iBF)を得た。
<比較例3>R=N(CH、R=N(CHであるジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1eBF)の合成
実施例1における0.23gの水素化ナトリウム(NaH)と、0.78mlの安息香酸メチル(2d)と、0.80mlの4−メチルアセトフェノン(3b)との代わりに、0.78gのナトリウムアミド(NaNH)と、1.16gの4−(ジメチルアミノ)安息香酸エチル(2c)と、0.98gの4−(ジメチルアミノ)アセトフェノン(3c)とを使用したこと以外は実施例1と同様にして、比較例2に係るジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物(1eBF)を得た。
<比較例4>構造式(II)で表されるスチルベン系化合物とする。
【0023】
<物性評価>
(1)ジクロロメタン(CHCl)中における最大吸収波長(λmax)、最大発光波長(λem)、蛍光量子収率
CHCl中に、実施例1〜6及び比較例1〜3に係るジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物を10μmol/lの濃度で溶解させて、吸収スペクトルを測定し、最大吸収波長(λmax)を求めた。さらに、最大吸収波長(λmax)の光を吸収させて、蛍光スペクトルを測定し、最大発光波長(λem)と蛍光量子収率とを求めた。その結果と評価とを表2に示す。
なお、評価は、「◎:0.5以上、○:0.3以上0.5未満、△:0.1以上0.3未満、×:0.1未満」とした。
また、「蛍光量子収率」とは、分子に吸収される光子数と、蛍光によって放出される光子数との比率である。吸収された光子がすべて蛍光として放出された場合には、蛍光量子収率は1となる。
【0024】
【表2】

【0025】
(2)ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)中における最大発光波長(λem
クロロホルム(CHCl)中に、PMMAと、実施例1〜6及び比較例1〜3に係るジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物とを溶解させて、その試料溶液を用いてスピンコート法で薄膜を作製した。そして、薄膜に最大吸収波長(λmax)の光を吸収させて、蛍光スペクトルを測定し、最大発光波長(λem)を求めた。その結果と評価とを前記表2に示す。
なお、評価は、「○:425〜440nm、×:440nm以上」とした。
(3)融点
実施例1〜6及び比較例1〜3に係るジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物の融点を測定した。その結果と評価とを前記表2に示す。
なお、評価は、「○:300℃未満、×:300℃以上」とした。
【0026】
以上のように、実施例1〜6に係るジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物は、合成することが簡単である。また、波長領域(365〜400nm)の光を吸収することで、青色領域(425〜440nm)の光を発する。さらに、融点が300℃未満となる。さらに、実施例1〜5に係るジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物は、高い蛍光量子収率(0.45〜0.95)を有する。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、白色度を増加する蛍光増白剤等に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記構造式(I)で表されるジアロイルメタナート−ボロンジフロリド系化合物であることを特徴とする蛍光増白剤。
【化1】

ここで、式中、Rは、H、CH又はSi(CHであり、
は、H、CH、Si(CH又はOCHである。
【請求項2】
は、H、CH又はSi(CHであり、
は、CH、Si(CH又はOCHであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光増白剤。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の蛍光増白剤と、
白色顔料と、
熱可塑性樹脂とを含有することを特徴とする白色樹脂組成物。


【公開番号】特開2011−32345(P2011−32345A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−178984(P2009−178984)
【出願日】平成21年7月31日(2009.7.31)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 1.刊行物に発表 発行者名 社団法人日本化学会 刊行物名 「日本化学会第89春季年会(2009)講演予稿集 DVD−ROM」 発行年月日 平成21年 3月13日
【出願人】(505127721)公立大学法人大阪府立大学 (688)
【Fターム(参考)】