蛍光強度補正方法及び蛍光強度算出装置
【課題】複数の蛍光色素により標識された微小粒子を複数の光検出器によってマルチカラー測定する場合に、各蛍光色素からの蛍光強度を正確に算出してユーザに提示する技術の提供。
【解決手段】蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して得られる測定スペクトルを、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により近似する手順を含み、前記手順において、前記単染色スペクトルの線形和による前記測定スペクトルの近似を、制限付き最小二乗法を用いて行う蛍光強度補正方法を提供する。
【解決手段】蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して得られる測定スペクトルを、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により近似する手順を含み、前記手順において、前記単染色スペクトルの線形和による前記測定スペクトルの近似を、制限付き最小二乗法を用いて行う蛍光強度補正方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光強度補正方法と蛍光強度算出装置に関する。より詳しくは、微小粒子に多重標識された複数の蛍光色素のそれぞれから発生する蛍光の強度を正確に算出するための蛍光強度補正方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞等の微小粒子を蛍光色素を用いて標識し、これにレーザ光を照射して励起された蛍光色素から発生する蛍光の強度やパターンを計測することによって、微小粒子の特性を測定する装置(例えば、フローサイトメータ)が用いられている。近年では、細胞等の特性をより詳細に分析するため、微小粒子を複数の蛍光色素を用いて標識し、各蛍光色素から発生する光を受光波長帯域の異なる複数の光検出器(PDやPMTなど)により計測するマルチカラー測定が行われるようになっている。マルチカラー測定では、用いる蛍光色素の蛍光波長に応じて光検出器側の光学フィルタを選択して蛍光の検出を行っている。
【0003】
一方、現在利用されている蛍光色素(例えば、FITC、PE(フィコエリスリン)、APC(アロフィコシアニン)など)は、蛍光スペクトルに互いに重複する波長帯域が存在する。従って、これらの蛍光色素を組み合わせてマルチカラー測定を行う場合、各蛍光色素から発生する蛍光を光学フィルタにより波長帯域別に分離しても、各光検出器には目的以外の蛍光色素からの蛍光が漏れ込むことがある。蛍光の漏れ込みが生じると、各光検出器で計測される蛍光強度と目的とする蛍光色素からの真の蛍光強度にずれが生じ、測定誤差の原因となる
【0004】
この測定誤差を補正するため、光検出器で計測された蛍光強度から漏れ込み分の蛍光強度を差し引く蛍光補正(コンペンセーション)が行われている。蛍光補正は、光検出器で計測された蛍光強度が、目的とする蛍光色素からの真の蛍光強度となるように、パルスに電気的あるいは数学的な補正を加えるものである。
【0005】
数学的に蛍光補正を行う方法として、各光検出器で計測された蛍光強度(検出値)をベクトルとして表し、このベクトルに予め設定した漏れ込み行列の逆行列を作用させることで、目的とする蛍光色素からの真の蛍光強度を算出する方法が用いられている(図12・13、特許文献1参照)。この漏れ込み行列は、各蛍光色素を個別に単標識した微小粒子の蛍光波長分布を解析することによって作成されるものであり、各蛍光色素の蛍光波長分布が列ベクトルとして配列されたものである。漏れ込み行列の逆行列は「補正行列」とも称される。図12・13には、5種類(FITC,PE,ECD,PC5,PC7)の蛍光色素と5つの光検出器を用いて5カラー測定を行う場合を例に示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−83894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
補正行列を用いた蛍光補正方法では、補正後の蛍光強度が負値になる場合がある。これは、各光検出器の検出値に含まれるノイズが行列演算に影響を与えていることが原因である。しかし、現実には各蛍光色素からの蛍光強度は負値にはなり得ない。さらに、ある蛍光色素からの蛍光強度が負値として算出されるということは、同時に他の蛍光色素の蛍光強度の算出値に正方向への誤差が生じていることを意味する。
【0008】
解析する微小粒子集団(ポピュレーション)に、ある蛍光色素についての蛍光強度が負値となる小集団(サブポピュレーション)が存在すると、当該蛍光色素の蛍光強度を対数軸(ログスケール)でプロットした二次元相関図(サイトグラム)上に当該サブポピュレーションがプロットされない。このため、二次元相関図上にプロットされたポピュレーションが実際よりも少なくなったような誤解をユーザに与えるおそれがある。
【0009】
本発明は、複数の蛍光色素により標識された微小粒子を複数の光検出器によってマルチカラー測定する場合に、各蛍光色素からの蛍光強度を正確に算出してユーザに提示するための技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題解決のため、本発明は、蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して得られる測定スペクトルを、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により近似する手順を含み、前記手順において、前記単染色スペクトルの線形和による前記測定スペクトルの近似を、制限付き最小二乗法を用いて行う蛍光強度補正方法を提供する。
この蛍光強度補正方法は、前記手順においては、下記式(2)を満足しながら下記式(1)で示される評価関数が最小値となるパラメータxj(j=1〜M)を求めることにより、各蛍光色素から発生した蛍光の強度を算出する。式(2)の制約条件を設けて補正演算を行うことにより、蛍光色素からの蛍光強度が負値として算出されることに起因する測定誤差や二次元相関図(サイトグラム)上のポピュレーション減少の問題を解決できる。
【数1】
(式中、sijは、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。piは、測定スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。σiは、i番目の光検出器の検出値に対する重みの逆数を表す。Ujは、算出する各蛍光色素の蛍光強度の下限値を表す。)
前記パラメータxj(j=1〜M)は、下記式(3)〜(5)の二次計画問題を解くことにより求めることができる。
【数2】
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。ただし、AはM×M次行列、bはM×1次行列として設定し、U1〜UMは前記下限値を表すものとする。)
前記式(2)中、前記下限値Ujとしては、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得された前記光検出器毎の検出値の平均値から求めたj番目の蛍光色素の無染色平均値Vj、該検出値の確率密度関数から求めたj番目の蛍光色素の無染色確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数、あるいは前記検出値の平均値及び分散からj番目の蛍光色素の無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjを求めて下記式(9)の確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数、のいずれかを用いることができる。
【数3】
【0011】
また、前記パラメータxj(j=1〜M)は、上記式(4)の線形制約条件がない、下記式(10),(11)の二次計画問題を解くことにより求めることもできる。
【数4】
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。)
さらに、上記式(4)の線形制約条件がない二次計画問題を解く場合には、下記式(12),(13)の二次計画問題を解き、下記式(14)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求めてもよい。
【数5】
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の平均値viを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、平均値viから求めたj番目の蛍光色素の無染色平均値Vjを要素とするM次ベクトルを表す。)
あるいは、下記式(15),(16)の二次計画問題を解き、下記式(17)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求めてもよい。
【数6】
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の確率密度関数fi(ui)に従って発生させた乱数uiを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、確率密度関数fi(ui)から求めたj番目の蛍光色素の無染色確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数Ujを要素とするM次ベクトルを表す。)
さらに、下記式(20),(21)の二次計画問題を解き、下記式(22)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求めることもできる。
【数7】
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の平均値vi及び分散σiを求め、式(18)の確率密度関数fj(uj)に従って発生させた乱数ujを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、平均値vi及び分散σiからj番目の蛍光色素の無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjを求め、式(19)の確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数Ujを要素とするM次ベクトルを表す。)
【0012】
また、本発明は、蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して測定スペクトルを得る測定手段と、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により前記測定スペクトルを近似する算出手段と、を備え、前記算出手段は、前記単染色スペクトルの線形和による前記測定スペクトルの近似を、制限付き最小二乗法により行う蛍光強度算出装置をも提供する。
【0013】
本発明において、「微小粒子」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などが広く含まれるものとする。
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。さらに、生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、複数の蛍光色素により標識された微小粒子を複数の光検出器によってマルチカラー測定する場合に、各蛍光色素からの蛍光強度を正確に算出してユーザに提示する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】測定スペクトルを単染色スペクトルの線形和により近似して得られる近似曲線を説明するグラフである。
【図2】実施例で用いた各蛍光色素の単染色スペクトルを示すグラフである。
【図3】蛍光補正を行わずに、仮想出力データから作成した二次元相関図である。
【図4】仮想出力データを、補正行列を用いて蛍光補正して作成した二次元相関図である(比較例)。
【図5】仮想出力データを、下限値を平均値とする第一実施形態に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図である。
【図6】仮想出力データを、線形制約条件なしで、下限値を平均値とする第一実施形態の変形例に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図である。
【図7】仮想出力データを、下限値を確率密度関数に従う乱数とする第二実施形態に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図である。
【図8】仮想出力データを、線形制約条件なしで、下限値を確率密度関数に従う乱数とする第二実施形態の変形例に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図である。
【図9】仮想出力データを、下限値を正規乱数とする第三実施形態に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図である。
【図10】仮想出力データを、線形制約条件なしで、下限値を正規乱数とする第三実施形態の変形例に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図である。
【図11】仮想出力データを、下限値を0とする第四実施形態に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図である。
【図12】従来の補正行列を用いた蛍光補正方法を説明する図である。
【図13】従来の補正行列の行列要素を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序で行う。
1.蛍光強度補正方法
(1)測定手順
(2)算出手順
(2−1)近似曲線
(2−2)制限付き最小二乗法
(2−3)制約条件(下限値条件)
(2−3−1)平均値(第一実施形態とその変形例)
(2−3−2)確率密度関数に従う乱数(第二実施形態とその変形例)
(2−3−3)正規分布に従う乱数(第三実施形態とその変形例)
(2−3−4)0(第四実施形態)
2.蛍光強度算出装置
【0017】
1.蛍光強度補正方法
本発明に係る蛍光強度補正方法は、以下の2つの手順を含む。
測定手順:蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して測定スペクトルを得る手順。
算出手順:制限付き最小二乗法を用いて、測定スペクトルを、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により近似する手順。
【0018】
(1)測定手順
まず、測定対象とする微小粒子を複数の蛍光色素を用いて多重標識する。微小粒子の蛍光色素標識は従来公知の手法によって行うことができる。例えば測定対象を細胞とする場合には、細胞表面分子に対する蛍光標識抗体と細胞とを混合し、細胞表面分子に抗体を結合させる。蛍光標識抗体は、抗体に直接蛍光色素を結合させたものであってよく、ビオチン標識した抗体にアビジンを結合した蛍光色素をアビジン・ビオチン反応によって結合させたものであってもよい。また、抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であってよい。
【0019】
蛍光色素には、従来公知の物質を2以上組み合わせて用いることができる。例えば、フィコエリスリン(PE)、FITC、PE−Cy5、PE−Cy7、PE−テキサスレッド(PE-Texas red)、アロフィコシアニン(APC)、APC−Cy7、エチジウムブロマイド(Ethidium bromide)、プロピジウムアイオダイド(Propidium iodide)、ヘキスト(Hoechst)33258/33342、DAPI、アクリジンオレンジ(Acridine orange)、クロモマイシン(Chromomycin)、ミトラマイシン(Mithramycin)、オリボマイシン(Olivomycin)、パイロニン(Pyronin)Y、チアゾールオレンジ(Thiazole orange)、ローダミン(Rhodamine)101イソチオシアネート(isothiocyanate)、BCECF、BCECF−AM、C.SNARF−1、C.SNARF−1−AMA、エクオリン(Aequorin)、Indo−1、Indo−1−AM、Fluo−3、Fluo−3−AM、Fura−2、Fura−2−AM、オキソノール(Oxonol)、テキサスレッド(Texas red)、ローダミン(Rhodamine)123、10−N−ノニ−アクリジンオレンジ(Acridine orange)、フルオレセイン(Fluorecein)、フルオレセインジアセテート(Fluorescein diacetate)、カルボキシフルオレセイン(Carboxyfluorescein)、カルビキシフルオレセインジアセテート(Caboxyfluorescein diacetate)、カルボキシジクロロフルオレセイン(Carboxydichlorofluorescein)、カルボキシジクロロフルオレセインジアセテート(Carboxydichlorofluorescein diacetate)が挙げられる。
【0020】
次に、複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に対して光を照射し、励起された蛍光色素から発生する蛍光を受光波長帯域の異なる複数の光検出器で受光する。測定手順は、従来公知のマルチカラー測定フローサイトメータを用いた方法と同様にして行うことができる。
【0021】
(2)算出手順
(2−1)近似曲線
算出手順においては、測定手順で取得された各光検出器の検出値を補正演算して各蛍光色素からの蛍光強度を算出する。この際、本発明に係る蛍光強度補正方法では、制限付き最小二乗法を用いて、測定スペクトルを、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により近似することにより、各蛍光色素からの真の蛍光強度を算出する。
【0022】
ここで、「測定スペクトル」とは、蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して得られるものである。また、「単染色スペクトル」とは、各蛍光色素の蛍光波長分布であり、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を光検出器で受光し、検出値を収集して得られるものである。
【0023】
図1に基づいて、測定スペクトルを単染色スペクトルの線形和により近似して得られる近似曲線について説明する。
【0024】
図中、X軸は観測点を、Y軸は検出値を示す。図では、光検出器1で受光された蛍光の検出値をp1、光検出器2で受光された蛍光の検出値をp2、光検出器nで受光された蛍光の検出値をpnで示している。各検出値p1〜pnを結ぶ線が測定スペクトルである。
【0025】
また、図では、1番目の蛍光色素(蛍光色素1)の単染色スペクトルを表す曲線(基底関数)をS1(i),2番目の蛍光色素(蛍光色素2)の単染色スペクトルを表す曲線をS2(i),M番目の蛍光色素(蛍光色素M)の単染色スペクトルを表す曲線をSM(i)で示している。単染色スペクトルは、測定の都度に各蛍光色素を個別に標識したサンプルを調製して取得してもよく、あるいは予め装置に記憶された標準スペクトルを利用してもよい。
【0026】
各光検出器では、蛍光色素1から蛍光色素Mまでの全ての蛍光色素からの蛍光がそれぞれ所定比率で漏れ込んだ状態で受光される。そのため、各光検出器の検出値piは、蛍光色素1から蛍光色素Mまでの基底関数にそれぞれ所定比率を乗じた値の和として下記式y(i)によって近似することができる。ここで、各光検出器への各蛍光色素からの蛍光の漏れ込み比率xjは、各蛍光色素の発光強度(真の蛍光強度)により規定される。
【0027】
【数8】
【0028】
具体的には、例えば、光検出器1の検出値p1は、蛍光色素1の蛍光強度S1(1)に比率x1を乗じた値から蛍光色素Mの基底関数SM(1)に比率xMを乗じた値までの和y(1)として近似される。そして、光検出器1への蛍光色素1〜Mからの蛍光の漏れ込み比率xj(j=1〜M)は、蛍光色素1〜Mの発光強度に相応する。
【0029】
この式で示される近似曲線は、次に説明する制限付き最小二乗法を用いてxjを求めることにより得られる。このxjは、各蛍光色素の真の蛍光強度に同等であり、物理的に負値にはなり得ない値である。そこで、本発明に係る蛍光強度補正方法では、このxjについて、所定値よりも大きいという制約条件(下限値条件)を設けて補正演算を行う。下限値条件を設けて補正演算を行うことにより、蛍光色素からの蛍光強度が負値として算出されることに起因する測定誤差や二次元相関図(サイトグラム)上のポピュレーション減少の問題を解決できる。
【0030】
(2−2)制限付き最小二乗法
以下に、xjを求めるための手順を説明する。まず、下記式(1)で示される評価関数(カイ二乗)を定義する。そして、この評価関数が、下記式(2)を満足しながら、最小値となるようなパラメータxj(j=1〜M)を求める。
【0031】
【数9】
【0032】
式中、sijは、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値Sj(i)を表す。piは、測定スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。σiは、i番目の光検出器の検出値に対する重みの逆数を表す。
【0033】
【数10】
【0034】
式中、Ujは、算出する各蛍光色素の蛍光強度の下限値を表す。
【0035】
上記式(2)は、蛍光強度xjが所定値(Uj)よりも大きいという制約条件(下限値条件)を表す。
【0036】
ここで、sijを要素とするN×M次行列Sと、xjを要素とするM次行列xと、piを要素とするN次ベクトルpを設定すると、式(2)を満足しながら式(1)で示される評価関数が最小値となるパラメータxjを求めることは、次の問題を解くこと同じである。
【0037】
【数11】
【0038】
M×M次行列AとM×1次行列bは、蛍光強度xが所定値(U)以上であるように制約する不等式として以下の式(6),(7)のように設定される。
【0039】
【数12】
【0040】
上記式(3)は2乗して展開すると、下記式(23)のようになる。
【0041】
【数13】
【0042】
式(23)を最小化するため、最終項のpTpは無視できる。従って、式(23)を最小化することは、下記式(24)を最小化することに等しい。
【0043】
【数14】
【0044】
式(24)及び上記式(4),(5)は、二次計画問題として知られている。「二次計画問題(Quadratic Programming Problem)」は、Dをn×n次非負定値対称行列、cをn次ベクトル、Aをm×n次行列、bをm次ベクトルとするとき、線形制約条「Ax≦b、x≧0」を満たすn次ベクトルのうち、2次形式で与えられる目的関数「f(x)=xTAx/2+cTx」を最小にするものを求める問題である。二次計画問題は、次の式(25)〜(27)で表される。二次計画問題は、有限回の反復で厳密な最適解が得られる特殊な非線形計画問題として知られている。
【0045】
【数15】
【0046】
上記式(24),(4),(5)は、式(25)中のD,cを以下のように置き換え、式(26)のA,bを式(6),(7)のように置き換えて二次計画問題を解くことに等しい。
【数16】
【0047】
(2−3)制約条件(下限値条件)
(2−3−1)平均値(第一実施形態とその変形例)
下記式(3)〜(5)の二次計画問題を解く際に制約条件とする下限値Uj(j=1〜M)には、蛍光色素を標識していない無染色の微小粒子を測定したとして、j番目の蛍光色素にとって最小の検出値として適当な値を設定する。具体的には、下限値Ujは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得された光検出器毎の検出値の平均値から求めたj番目の蛍光色素の無染色平均値Vjを用いることができる。無染色平均値Vjとしては、例えば、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルが最大の検出値をとる検出器における検出値の平均値が用いられる。あるいは、無染色平均値Vjは、最大の検出値をとる検出器の検出平均値とその前後の検出器(例えば(j−1)番目と(j+1)番目の検出器)の検出平均値のさらに平均をとった値などとすることもできる。
【0048】
【数17】
【0049】
【数18】
【0050】
変形例として、上記式(4)の線形制約条件がない二次計画法を適用できる。この場合、下記式(12),(13)の二次計画問題を解き、下記式(14)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求めることもできる。
【0051】
【数19】
【0052】
式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の平均値viを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、平均値viから求めたj番目の蛍光色素の無染色平均値Vjを要素とするM次ベクトルを表す。無染色平均値Vjとしては、例えば、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルが最大の検出値をとる検出器における検出値の平均値が用いられる。あるいは、無染色平均値Vjは、最大の検出値をとる検出器の検出平均値とその前後の検出器(例えば(j−1)番目と(j+1)番目の検出器)の検出平均値のさらに平均をとった値などとすることもできる。
【0053】
(2−3−2)確率密度関数に従う乱数(第二実施形態とその変形例)
また、上記式(3)〜(5)の二次計画問題を解く際に制約条件とする下限値Uj(j=1〜M)には、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得された光検出器毎の検出値の確率密度関数から求めたj番目の蛍光色素の無染色確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数を用いることもできる。無染色確率密度関数Fj(Uj)としては、例えば、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルが最大の検出値をとる検出器における検出値の確率密度関数が用いられる。あるいは、無染色確率密度関数Fj(Uj)は、最大の検出値をとる検出器の確率密度関数とその前後の検出器(例えば(j−1)番目と(j+1)番目の検出器)の確率密度関数とから算出した関数などとすることもできる。
【0054】
変形例として、上記式(4)の線形制約条件がない二次計画法を適用する場合、下記式(15),(16)の二次計画問題を解き、下記式(17)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求めることもできる。
【0055】
【数20】
【0056】
式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の確率密度関数fi(ui)に従って発生させた乱数uiを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、確率密度関数fi(ui)から求めたj番目の蛍光色素の無染色確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数Ujを要素とするM次ベクトルを表す。無染色確率密度関数Fj(Uj)としては、例えば、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルが最大の検出値をとる検出器における検出値の確率密度関数fi(ui)が用いられる。あるいは、無染色確率密度関数Fj(Uj)は、最大の検出値をとる検出器の確率密度関数とその前後の検出器(例えば(j−1)番目と(j+1)番目の検出器)の確率密度関数とから算出した関数などとすることもできる。
【0057】
(2−3−3)正規分布に従う乱数(第三実施形態とその変形例)
さらに、上記式(3)〜(5)の二次計画問題を解く際に制約条件とする下限値Uj(j=1〜M)には、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得された前記光検出器毎の検出値の平均値及び分散からj番目の蛍光色素の無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjを求め、前記下限値Ujとして、下記式(9)の確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数を用いてもよい。この乱数は、正規分布に従った乱数(正規乱数)となる。無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjとしては、例えば、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルが最大の検出値をとる検出器における検出値の平均値及び標準偏差が用いられる。あるいは、無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjは、最大の検出値をとる検出器の平均値及び標準偏差とその前後の検出器(例えば(j−1)番目と(j+1)番目の検出器)の平均値及び標準偏差とから算出した値などとすることもできる。
【0058】
【数21】
【0059】
変形例として、上記式(4)の線形制約条件がない二次計画法を適用する場合、下記式(20),(21)の二次計画問題を解き、下記式(22)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求めることもできる。
【0060】
【数22】
【0061】
式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の平均値vi及び分散σiを求め、式(18)の確率密度関数fj(uj)に従って発生させた乱数ujを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、平均値vi及び分散σiからj番目の蛍光色素の無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjを求め、式(19)の確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数Ujを要素とするM次ベクトルを表す。無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjとしては、例えば、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルが最大の検出値をとる検出器における検出値の平均値i及び標準偏差が用いられる。あるいは、無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjは、最大の検出値をとる検出器の平均値及び標準偏差とその前後の検出器(例えば(j−1)番目と(j+1)番目の検出器)の平均値及び標準偏差とから算出した値などとすることもできる。
【0062】
(2−3−4)0(第四実施形態)
上記式(4)の線形制約条件がない二次計画法を適用する場合、下限値を0とすれば、下記式(10),(11)の二次計画問題を解くことにより、パラメータxj(j=1〜M)を求めることができる。
【0063】
【数23】
【0064】
式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。
【0065】
2.蛍光強度算出装置
本発明に係る蛍光強度算出装置は、従来のフローサイトメータ等と同様に流体系と光学系、分取系、データ処理系などから構成される。
【0066】
流体系は、フローセルにおいて測定対象とする微小粒子を含むサンプル液をシース液の層流の中心に流し、フローセル内に微小粒子を一列に配列させる手段である。フローセルに替えて、マイクロチップ上に形成した流路内において、微小粒子を一列に配列させてもよい。
【0067】
光学系は、蛍光色素により標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して測定スペクトルを得る測定手段である。光学系では、微小粒子から発生する前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光も検出される。光学系は、具体的には、レーザ光源と、微小粒子に対してレーザ光を集光・照射するための集光レンズやダイクロイックミラー、バンドパスフィルター等からなる照射系と、レーザ光の照射によって微小粒子から発生する蛍光や散乱光を検出する検出系と、によって構成される。検出系は、例えば、PMT(photo multiplier tube)や、CCDやCMOS素子等のエリア撮像素子等によって構成され、受光波長帯域の異なる光検出器が複数配設される。
【0068】
微小粒子の分取を行う場合には、サンプル液を、微小粒子を含む液滴としてフローセル外の空間に吐出し、液滴の移動方向を制御して所望の特性を備えた微小粒子を分取する。分取系は、サンプル液を液滴化してフローセルから吐出させるピエゾ素子等の振動素子と、吐出される液滴に電荷を付与する荷電手段と、液滴の移動方向に沿って、移動する液滴を挟んで対向して配設された対電極などから構成される。
【0069】
データ処理系は、光検出器から検出値を電気信号として入力され、電気信号に基づいて微小粒子の光学特性を解析する。データ処理系は、各光検出器から検出値を収集して得られる測定スペクトルを、上述した方法に従って単染色スペクトルの線形和により近似し、各蛍光色素から発生した真の蛍光強度を算出する。このため、データ処理系は、上述した本発明に係る蛍光強度算出方法の各ステップを実行するためのプログラムを記憶するハードディスク等の記録媒体と、プラグラムを実行するCPU及びメモリ等を有する。
【0070】
データ処理系には、各光検出器からの信号の品質を向上させるため、各光検出器間のデータの平滑化を行うノイズフィルタを設けることが好ましい。平均化処理は、光検出器の数や受光波長帯域、使用する蛍光色素や、測定対象微小粒子の自家蛍光波長、さらに各機器のノイズ周波数成分等を考慮して行われる。データの平滑化を行うことにより、ノイズの影響を抑えることが可能となり、演算精度が向上し、より正確に蛍光強度を算出できる。
【実施例】
【0071】
32チャンネルのマルチカラー測定フローサイトメータでの仮想出力データを用いて、従来の補正行列を用いた蛍光補正方法と本発明に係る制限付き最小二乗法を用いた蛍光補正方法との間で演算結果の比較を行った。
【0072】
蛍光色素には、FITC(CH5),Alexa500(CH6),Alexa514(CH10),Alexa532(CH12),PE(CH15),PE−TR(CH19),PI(CH21),Alexa600(CH20),PE−Cy5(CH24),PerCP(CH25),PerCP−Cy5.5(CH26),PE−Cy7(CH31)を用いた。括弧内に示すチャネル番号は、補正行列を用いた従来方法における各蛍光色素に対するチャネルの割り当てを示す。
【0073】
図2に、各蛍光色素の単染色スペクトルを示す。これらの各単染色スペクトルがランダムな強度で排他的に出現し、さらに各検出データには検出器や電気的なノイズが仮想的に付加されたシミュレーション・データをモンテカルロ法にて生成させた。発生させたシミュレーション・データを、図2の単染色スペクトルと、従来方法あるいは本発明に係る方法とを用いて蛍光補正を行って得た典型的な解析結果を以下に示す。
【0074】
図3は、蛍光補正を行わずに、仮想出力データから作成した二次元相関図を示す。(A)〜(C)の縦軸はそれぞれAlexa500,Alexa514,Alexa532の蛍光強度を、横軸はFITCの蛍光強度を示す。図上段はログスケールプロットした二次元相関図、下段はリニアスケールでプロットした二次元相関図である(以下、図4〜11について同様)。
【0075】
図4は、仮想出力データを、比較のために補正行列を用いて蛍光補正して作成した二次元相関図を示す。リニアスケールでプロットした二次元相関図において、FITC及びAlexa500,Alexa514,Alexa532の蛍光強度が負値として算出されているサブポピュレーションが存在している。このため、ログスケールの二次元相関図上にプロットされたポピュレーションが、リニアスケールの二次元相関図上にプロットされたポピュレーションに対して顕著に減少してしまっている。
【0076】
図5は、仮想出力データを、下限値を平均値とする第一実施形態に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図を示す。リニアスケールでプロットした二次元相関図において、FITC及びAlexa500,Alexa514,Alexa532の蛍光強度が正値として算出されている。このため、リニアスケールの二次元相関図上にプロットされたポピュレーションが、全てログスケールの二次元相関図上にもプロットできている。
【0077】
図6は、仮想出力データを、線形制約条件なしで、下限値を平均値とする第一実施形態の変形例に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図を示す。
【0078】
図7は、仮想出力データを、下限値を確率密度関数に従う乱数とする第二実施形態に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図を示す。
【0079】
図8は、仮想出力データを、線形制約条件なしで、下限値を確率密度関数に従う乱数とする第二実施形態の変形例に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図を示す。
【0080】
図9は、仮想出力データを、下限値を正規乱数とする第三実施形態に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図を示す。
【0081】
図10は、仮想出力データを、線形制約条件なしで、下限値を正規乱数とする第三実施形態の変形例に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図を示す。
【0082】
図11は、仮想出力データを、下限値を0とする第四実施形態に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図を示す。
【0083】
図6〜11においても、リニアスケールでプロットした二次元相関図において、FITC及びAlexa500,Alexa514,Alexa532の蛍光強度が正値として算出されている。このため、リニアスケールの二次元相関図上にプロットされたポピュレーションが、全てログスケールの二次元相関図上にもプロットできている。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る蛍光強度補正方法等によれば、複数の蛍光色素により標識された微小粒子を複数の光検出器によってマルチカラー測定する場合に、各蛍光色素からの蛍光強度を正確に算出してユーザに提示できる。従って、本発明に係る蛍光強度補正方法等は、細胞等の微小粒子の特性をより詳細に解析するため寄与し得る。
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光強度補正方法と蛍光強度算出装置に関する。より詳しくは、微小粒子に多重標識された複数の蛍光色素のそれぞれから発生する蛍光の強度を正確に算出するための蛍光強度補正方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞等の微小粒子を蛍光色素を用いて標識し、これにレーザ光を照射して励起された蛍光色素から発生する蛍光の強度やパターンを計測することによって、微小粒子の特性を測定する装置(例えば、フローサイトメータ)が用いられている。近年では、細胞等の特性をより詳細に分析するため、微小粒子を複数の蛍光色素を用いて標識し、各蛍光色素から発生する光を受光波長帯域の異なる複数の光検出器(PDやPMTなど)により計測するマルチカラー測定が行われるようになっている。マルチカラー測定では、用いる蛍光色素の蛍光波長に応じて光検出器側の光学フィルタを選択して蛍光の検出を行っている。
【0003】
一方、現在利用されている蛍光色素(例えば、FITC、PE(フィコエリスリン)、APC(アロフィコシアニン)など)は、蛍光スペクトルに互いに重複する波長帯域が存在する。従って、これらの蛍光色素を組み合わせてマルチカラー測定を行う場合、各蛍光色素から発生する蛍光を光学フィルタにより波長帯域別に分離しても、各光検出器には目的以外の蛍光色素からの蛍光が漏れ込むことがある。蛍光の漏れ込みが生じると、各光検出器で計測される蛍光強度と目的とする蛍光色素からの真の蛍光強度にずれが生じ、測定誤差の原因となる
【0004】
この測定誤差を補正するため、光検出器で計測された蛍光強度から漏れ込み分の蛍光強度を差し引く蛍光補正(コンペンセーション)が行われている。蛍光補正は、光検出器で計測された蛍光強度が、目的とする蛍光色素からの真の蛍光強度となるように、パルスに電気的あるいは数学的な補正を加えるものである。
【0005】
数学的に蛍光補正を行う方法として、各光検出器で計測された蛍光強度(検出値)をベクトルとして表し、このベクトルに予め設定した漏れ込み行列の逆行列を作用させることで、目的とする蛍光色素からの真の蛍光強度を算出する方法が用いられている(図12・13、特許文献1参照)。この漏れ込み行列は、各蛍光色素を個別に単標識した微小粒子の蛍光波長分布を解析することによって作成されるものであり、各蛍光色素の蛍光波長分布が列ベクトルとして配列されたものである。漏れ込み行列の逆行列は「補正行列」とも称される。図12・13には、5種類(FITC,PE,ECD,PC5,PC7)の蛍光色素と5つの光検出器を用いて5カラー測定を行う場合を例に示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−83894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
補正行列を用いた蛍光補正方法では、補正後の蛍光強度が負値になる場合がある。これは、各光検出器の検出値に含まれるノイズが行列演算に影響を与えていることが原因である。しかし、現実には各蛍光色素からの蛍光強度は負値にはなり得ない。さらに、ある蛍光色素からの蛍光強度が負値として算出されるということは、同時に他の蛍光色素の蛍光強度の算出値に正方向への誤差が生じていることを意味する。
【0008】
解析する微小粒子集団(ポピュレーション)に、ある蛍光色素についての蛍光強度が負値となる小集団(サブポピュレーション)が存在すると、当該蛍光色素の蛍光強度を対数軸(ログスケール)でプロットした二次元相関図(サイトグラム)上に当該サブポピュレーションがプロットされない。このため、二次元相関図上にプロットされたポピュレーションが実際よりも少なくなったような誤解をユーザに与えるおそれがある。
【0009】
本発明は、複数の蛍光色素により標識された微小粒子を複数の光検出器によってマルチカラー測定する場合に、各蛍光色素からの蛍光強度を正確に算出してユーザに提示するための技術を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題解決のため、本発明は、蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して得られる測定スペクトルを、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により近似する手順を含み、前記手順において、前記単染色スペクトルの線形和による前記測定スペクトルの近似を、制限付き最小二乗法を用いて行う蛍光強度補正方法を提供する。
この蛍光強度補正方法は、前記手順においては、下記式(2)を満足しながら下記式(1)で示される評価関数が最小値となるパラメータxj(j=1〜M)を求めることにより、各蛍光色素から発生した蛍光の強度を算出する。式(2)の制約条件を設けて補正演算を行うことにより、蛍光色素からの蛍光強度が負値として算出されることに起因する測定誤差や二次元相関図(サイトグラム)上のポピュレーション減少の問題を解決できる。
【数1】
(式中、sijは、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。piは、測定スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。σiは、i番目の光検出器の検出値に対する重みの逆数を表す。Ujは、算出する各蛍光色素の蛍光強度の下限値を表す。)
前記パラメータxj(j=1〜M)は、下記式(3)〜(5)の二次計画問題を解くことにより求めることができる。
【数2】
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。ただし、AはM×M次行列、bはM×1次行列として設定し、U1〜UMは前記下限値を表すものとする。)
前記式(2)中、前記下限値Ujとしては、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得された前記光検出器毎の検出値の平均値から求めたj番目の蛍光色素の無染色平均値Vj、該検出値の確率密度関数から求めたj番目の蛍光色素の無染色確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数、あるいは前記検出値の平均値及び分散からj番目の蛍光色素の無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjを求めて下記式(9)の確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数、のいずれかを用いることができる。
【数3】
【0011】
また、前記パラメータxj(j=1〜M)は、上記式(4)の線形制約条件がない、下記式(10),(11)の二次計画問題を解くことにより求めることもできる。
【数4】
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。)
さらに、上記式(4)の線形制約条件がない二次計画問題を解く場合には、下記式(12),(13)の二次計画問題を解き、下記式(14)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求めてもよい。
【数5】
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の平均値viを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、平均値viから求めたj番目の蛍光色素の無染色平均値Vjを要素とするM次ベクトルを表す。)
あるいは、下記式(15),(16)の二次計画問題を解き、下記式(17)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求めてもよい。
【数6】
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の確率密度関数fi(ui)に従って発生させた乱数uiを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、確率密度関数fi(ui)から求めたj番目の蛍光色素の無染色確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数Ujを要素とするM次ベクトルを表す。)
さらに、下記式(20),(21)の二次計画問題を解き、下記式(22)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求めることもできる。
【数7】
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の平均値vi及び分散σiを求め、式(18)の確率密度関数fj(uj)に従って発生させた乱数ujを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、平均値vi及び分散σiからj番目の蛍光色素の無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjを求め、式(19)の確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数Ujを要素とするM次ベクトルを表す。)
【0012】
また、本発明は、蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して測定スペクトルを得る測定手段と、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により前記測定スペクトルを近似する算出手段と、を備え、前記算出手段は、前記単染色スペクトルの線形和による前記測定スペクトルの近似を、制限付き最小二乗法により行う蛍光強度算出装置をも提供する。
【0013】
本発明において、「微小粒子」には、細胞や微生物、リポソームなどの生体関連微小粒子、あるいはラテックス粒子やゲル粒子、工業用粒子などの合成粒子などが広く含まれるものとする。
生体関連微小粒子には、各種細胞を構成する染色体、リポソーム、ミトコンドリア、オルガネラ(細胞小器官)などが含まれる。細胞には、動物細胞(血球系細胞など)および植物細胞が含まれる。微生物には、大腸菌などの細菌類、タバコモザイクウイルスなどのウイルス類、イースト菌などの菌類などが含まれる。さらに、生体関連微小粒子には、核酸やタンパク質、これらの複合体などの生体関連高分子も包含され得るものとする。また、工業用粒子は、例えば有機もしくは無機高分子材料、金属などであってもよい。有機高分子材料には、ポリスチレン、スチレン・ジビニルベンゼン、ポリメチルメタクリレートなどが含まれる。無機高分子材料には、ガラス、シリカ、磁性体材料などが含まれる。金属には、金コロイド、アルミなどが含まれる。これら微小粒子の形状は、一般には球形であるのが普通であるが、非球形であってもよく、また大きさや質量なども特に限定されない。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、複数の蛍光色素により標識された微小粒子を複数の光検出器によってマルチカラー測定する場合に、各蛍光色素からの蛍光強度を正確に算出してユーザに提示する技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】測定スペクトルを単染色スペクトルの線形和により近似して得られる近似曲線を説明するグラフである。
【図2】実施例で用いた各蛍光色素の単染色スペクトルを示すグラフである。
【図3】蛍光補正を行わずに、仮想出力データから作成した二次元相関図である。
【図4】仮想出力データを、補正行列を用いて蛍光補正して作成した二次元相関図である(比較例)。
【図5】仮想出力データを、下限値を平均値とする第一実施形態に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図である。
【図6】仮想出力データを、線形制約条件なしで、下限値を平均値とする第一実施形態の変形例に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図である。
【図7】仮想出力データを、下限値を確率密度関数に従う乱数とする第二実施形態に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図である。
【図8】仮想出力データを、線形制約条件なしで、下限値を確率密度関数に従う乱数とする第二実施形態の変形例に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図である。
【図9】仮想出力データを、下限値を正規乱数とする第三実施形態に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図である。
【図10】仮想出力データを、線形制約条件なしで、下限値を正規乱数とする第三実施形態の変形例に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図である。
【図11】仮想出力データを、下限値を0とする第四実施形態に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図である。
【図12】従来の補正行列を用いた蛍光補正方法を説明する図である。
【図13】従来の補正行列の行列要素を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序で行う。
1.蛍光強度補正方法
(1)測定手順
(2)算出手順
(2−1)近似曲線
(2−2)制限付き最小二乗法
(2−3)制約条件(下限値条件)
(2−3−1)平均値(第一実施形態とその変形例)
(2−3−2)確率密度関数に従う乱数(第二実施形態とその変形例)
(2−3−3)正規分布に従う乱数(第三実施形態とその変形例)
(2−3−4)0(第四実施形態)
2.蛍光強度算出装置
【0017】
1.蛍光強度補正方法
本発明に係る蛍光強度補正方法は、以下の2つの手順を含む。
測定手順:蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して測定スペクトルを得る手順。
算出手順:制限付き最小二乗法を用いて、測定スペクトルを、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により近似する手順。
【0018】
(1)測定手順
まず、測定対象とする微小粒子を複数の蛍光色素を用いて多重標識する。微小粒子の蛍光色素標識は従来公知の手法によって行うことができる。例えば測定対象を細胞とする場合には、細胞表面分子に対する蛍光標識抗体と細胞とを混合し、細胞表面分子に抗体を結合させる。蛍光標識抗体は、抗体に直接蛍光色素を結合させたものであってよく、ビオチン標識した抗体にアビジンを結合した蛍光色素をアビジン・ビオチン反応によって結合させたものであってもよい。また、抗体は、モノクローナル抗体又はポリクローナル抗体であってよい。
【0019】
蛍光色素には、従来公知の物質を2以上組み合わせて用いることができる。例えば、フィコエリスリン(PE)、FITC、PE−Cy5、PE−Cy7、PE−テキサスレッド(PE-Texas red)、アロフィコシアニン(APC)、APC−Cy7、エチジウムブロマイド(Ethidium bromide)、プロピジウムアイオダイド(Propidium iodide)、ヘキスト(Hoechst)33258/33342、DAPI、アクリジンオレンジ(Acridine orange)、クロモマイシン(Chromomycin)、ミトラマイシン(Mithramycin)、オリボマイシン(Olivomycin)、パイロニン(Pyronin)Y、チアゾールオレンジ(Thiazole orange)、ローダミン(Rhodamine)101イソチオシアネート(isothiocyanate)、BCECF、BCECF−AM、C.SNARF−1、C.SNARF−1−AMA、エクオリン(Aequorin)、Indo−1、Indo−1−AM、Fluo−3、Fluo−3−AM、Fura−2、Fura−2−AM、オキソノール(Oxonol)、テキサスレッド(Texas red)、ローダミン(Rhodamine)123、10−N−ノニ−アクリジンオレンジ(Acridine orange)、フルオレセイン(Fluorecein)、フルオレセインジアセテート(Fluorescein diacetate)、カルボキシフルオレセイン(Carboxyfluorescein)、カルビキシフルオレセインジアセテート(Caboxyfluorescein diacetate)、カルボキシジクロロフルオレセイン(Carboxydichlorofluorescein)、カルボキシジクロロフルオレセインジアセテート(Carboxydichlorofluorescein diacetate)が挙げられる。
【0020】
次に、複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に対して光を照射し、励起された蛍光色素から発生する蛍光を受光波長帯域の異なる複数の光検出器で受光する。測定手順は、従来公知のマルチカラー測定フローサイトメータを用いた方法と同様にして行うことができる。
【0021】
(2)算出手順
(2−1)近似曲線
算出手順においては、測定手順で取得された各光検出器の検出値を補正演算して各蛍光色素からの蛍光強度を算出する。この際、本発明に係る蛍光強度補正方法では、制限付き最小二乗法を用いて、測定スペクトルを、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により近似することにより、各蛍光色素からの真の蛍光強度を算出する。
【0022】
ここで、「測定スペクトル」とは、蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して得られるものである。また、「単染色スペクトル」とは、各蛍光色素の蛍光波長分布であり、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を光検出器で受光し、検出値を収集して得られるものである。
【0023】
図1に基づいて、測定スペクトルを単染色スペクトルの線形和により近似して得られる近似曲線について説明する。
【0024】
図中、X軸は観測点を、Y軸は検出値を示す。図では、光検出器1で受光された蛍光の検出値をp1、光検出器2で受光された蛍光の検出値をp2、光検出器nで受光された蛍光の検出値をpnで示している。各検出値p1〜pnを結ぶ線が測定スペクトルである。
【0025】
また、図では、1番目の蛍光色素(蛍光色素1)の単染色スペクトルを表す曲線(基底関数)をS1(i),2番目の蛍光色素(蛍光色素2)の単染色スペクトルを表す曲線をS2(i),M番目の蛍光色素(蛍光色素M)の単染色スペクトルを表す曲線をSM(i)で示している。単染色スペクトルは、測定の都度に各蛍光色素を個別に標識したサンプルを調製して取得してもよく、あるいは予め装置に記憶された標準スペクトルを利用してもよい。
【0026】
各光検出器では、蛍光色素1から蛍光色素Mまでの全ての蛍光色素からの蛍光がそれぞれ所定比率で漏れ込んだ状態で受光される。そのため、各光検出器の検出値piは、蛍光色素1から蛍光色素Mまでの基底関数にそれぞれ所定比率を乗じた値の和として下記式y(i)によって近似することができる。ここで、各光検出器への各蛍光色素からの蛍光の漏れ込み比率xjは、各蛍光色素の発光強度(真の蛍光強度)により規定される。
【0027】
【数8】
【0028】
具体的には、例えば、光検出器1の検出値p1は、蛍光色素1の蛍光強度S1(1)に比率x1を乗じた値から蛍光色素Mの基底関数SM(1)に比率xMを乗じた値までの和y(1)として近似される。そして、光検出器1への蛍光色素1〜Mからの蛍光の漏れ込み比率xj(j=1〜M)は、蛍光色素1〜Mの発光強度に相応する。
【0029】
この式で示される近似曲線は、次に説明する制限付き最小二乗法を用いてxjを求めることにより得られる。このxjは、各蛍光色素の真の蛍光強度に同等であり、物理的に負値にはなり得ない値である。そこで、本発明に係る蛍光強度補正方法では、このxjについて、所定値よりも大きいという制約条件(下限値条件)を設けて補正演算を行う。下限値条件を設けて補正演算を行うことにより、蛍光色素からの蛍光強度が負値として算出されることに起因する測定誤差や二次元相関図(サイトグラム)上のポピュレーション減少の問題を解決できる。
【0030】
(2−2)制限付き最小二乗法
以下に、xjを求めるための手順を説明する。まず、下記式(1)で示される評価関数(カイ二乗)を定義する。そして、この評価関数が、下記式(2)を満足しながら、最小値となるようなパラメータxj(j=1〜M)を求める。
【0031】
【数9】
【0032】
式中、sijは、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値Sj(i)を表す。piは、測定スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。σiは、i番目の光検出器の検出値に対する重みの逆数を表す。
【0033】
【数10】
【0034】
式中、Ujは、算出する各蛍光色素の蛍光強度の下限値を表す。
【0035】
上記式(2)は、蛍光強度xjが所定値(Uj)よりも大きいという制約条件(下限値条件)を表す。
【0036】
ここで、sijを要素とするN×M次行列Sと、xjを要素とするM次行列xと、piを要素とするN次ベクトルpを設定すると、式(2)を満足しながら式(1)で示される評価関数が最小値となるパラメータxjを求めることは、次の問題を解くこと同じである。
【0037】
【数11】
【0038】
M×M次行列AとM×1次行列bは、蛍光強度xが所定値(U)以上であるように制約する不等式として以下の式(6),(7)のように設定される。
【0039】
【数12】
【0040】
上記式(3)は2乗して展開すると、下記式(23)のようになる。
【0041】
【数13】
【0042】
式(23)を最小化するため、最終項のpTpは無視できる。従って、式(23)を最小化することは、下記式(24)を最小化することに等しい。
【0043】
【数14】
【0044】
式(24)及び上記式(4),(5)は、二次計画問題として知られている。「二次計画問題(Quadratic Programming Problem)」は、Dをn×n次非負定値対称行列、cをn次ベクトル、Aをm×n次行列、bをm次ベクトルとするとき、線形制約条「Ax≦b、x≧0」を満たすn次ベクトルのうち、2次形式で与えられる目的関数「f(x)=xTAx/2+cTx」を最小にするものを求める問題である。二次計画問題は、次の式(25)〜(27)で表される。二次計画問題は、有限回の反復で厳密な最適解が得られる特殊な非線形計画問題として知られている。
【0045】
【数15】
【0046】
上記式(24),(4),(5)は、式(25)中のD,cを以下のように置き換え、式(26)のA,bを式(6),(7)のように置き換えて二次計画問題を解くことに等しい。
【数16】
【0047】
(2−3)制約条件(下限値条件)
(2−3−1)平均値(第一実施形態とその変形例)
下記式(3)〜(5)の二次計画問題を解く際に制約条件とする下限値Uj(j=1〜M)には、蛍光色素を標識していない無染色の微小粒子を測定したとして、j番目の蛍光色素にとって最小の検出値として適当な値を設定する。具体的には、下限値Ujは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得された光検出器毎の検出値の平均値から求めたj番目の蛍光色素の無染色平均値Vjを用いることができる。無染色平均値Vjとしては、例えば、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルが最大の検出値をとる検出器における検出値の平均値が用いられる。あるいは、無染色平均値Vjは、最大の検出値をとる検出器の検出平均値とその前後の検出器(例えば(j−1)番目と(j+1)番目の検出器)の検出平均値のさらに平均をとった値などとすることもできる。
【0048】
【数17】
【0049】
【数18】
【0050】
変形例として、上記式(4)の線形制約条件がない二次計画法を適用できる。この場合、下記式(12),(13)の二次計画問題を解き、下記式(14)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求めることもできる。
【0051】
【数19】
【0052】
式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の平均値viを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、平均値viから求めたj番目の蛍光色素の無染色平均値Vjを要素とするM次ベクトルを表す。無染色平均値Vjとしては、例えば、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルが最大の検出値をとる検出器における検出値の平均値が用いられる。あるいは、無染色平均値Vjは、最大の検出値をとる検出器の検出平均値とその前後の検出器(例えば(j−1)番目と(j+1)番目の検出器)の検出平均値のさらに平均をとった値などとすることもできる。
【0053】
(2−3−2)確率密度関数に従う乱数(第二実施形態とその変形例)
また、上記式(3)〜(5)の二次計画問題を解く際に制約条件とする下限値Uj(j=1〜M)には、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得された光検出器毎の検出値の確率密度関数から求めたj番目の蛍光色素の無染色確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数を用いることもできる。無染色確率密度関数Fj(Uj)としては、例えば、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルが最大の検出値をとる検出器における検出値の確率密度関数が用いられる。あるいは、無染色確率密度関数Fj(Uj)は、最大の検出値をとる検出器の確率密度関数とその前後の検出器(例えば(j−1)番目と(j+1)番目の検出器)の確率密度関数とから算出した関数などとすることもできる。
【0054】
変形例として、上記式(4)の線形制約条件がない二次計画法を適用する場合、下記式(15),(16)の二次計画問題を解き、下記式(17)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求めることもできる。
【0055】
【数20】
【0056】
式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の確率密度関数fi(ui)に従って発生させた乱数uiを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、確率密度関数fi(ui)から求めたj番目の蛍光色素の無染色確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数Ujを要素とするM次ベクトルを表す。無染色確率密度関数Fj(Uj)としては、例えば、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルが最大の検出値をとる検出器における検出値の確率密度関数fi(ui)が用いられる。あるいは、無染色確率密度関数Fj(Uj)は、最大の検出値をとる検出器の確率密度関数とその前後の検出器(例えば(j−1)番目と(j+1)番目の検出器)の確率密度関数とから算出した関数などとすることもできる。
【0057】
(2−3−3)正規分布に従う乱数(第三実施形態とその変形例)
さらに、上記式(3)〜(5)の二次計画問題を解く際に制約条件とする下限値Uj(j=1〜M)には、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得された前記光検出器毎の検出値の平均値及び分散からj番目の蛍光色素の無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjを求め、前記下限値Ujとして、下記式(9)の確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数を用いてもよい。この乱数は、正規分布に従った乱数(正規乱数)となる。無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjとしては、例えば、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルが最大の検出値をとる検出器における検出値の平均値及び標準偏差が用いられる。あるいは、無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjは、最大の検出値をとる検出器の平均値及び標準偏差とその前後の検出器(例えば(j−1)番目と(j+1)番目の検出器)の平均値及び標準偏差とから算出した値などとすることもできる。
【0058】
【数21】
【0059】
変形例として、上記式(4)の線形制約条件がない二次計画法を適用する場合、下記式(20),(21)の二次計画問題を解き、下記式(22)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求めることもできる。
【0060】
【数22】
【0061】
式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の平均値vi及び分散σiを求め、式(18)の確率密度関数fj(uj)に従って発生させた乱数ujを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、平均値vi及び分散σiからj番目の蛍光色素の無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjを求め、式(19)の確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数Ujを要素とするM次ベクトルを表す。無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjとしては、例えば、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルが最大の検出値をとる検出器における検出値の平均値i及び標準偏差が用いられる。あるいは、無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjは、最大の検出値をとる検出器の平均値及び標準偏差とその前後の検出器(例えば(j−1)番目と(j+1)番目の検出器)の平均値及び標準偏差とから算出した値などとすることもできる。
【0062】
(2−3−4)0(第四実施形態)
上記式(4)の線形制約条件がない二次計画法を適用する場合、下限値を0とすれば、下記式(10),(11)の二次計画問題を解くことにより、パラメータxj(j=1〜M)を求めることができる。
【0063】
【数23】
【0064】
式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。
【0065】
2.蛍光強度算出装置
本発明に係る蛍光強度算出装置は、従来のフローサイトメータ等と同様に流体系と光学系、分取系、データ処理系などから構成される。
【0066】
流体系は、フローセルにおいて測定対象とする微小粒子を含むサンプル液をシース液の層流の中心に流し、フローセル内に微小粒子を一列に配列させる手段である。フローセルに替えて、マイクロチップ上に形成した流路内において、微小粒子を一列に配列させてもよい。
【0067】
光学系は、蛍光色素により標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して測定スペクトルを得る測定手段である。光学系では、微小粒子から発生する前方散乱光や側方散乱光、レイリー散乱やミー散乱等の散乱光も検出される。光学系は、具体的には、レーザ光源と、微小粒子に対してレーザ光を集光・照射するための集光レンズやダイクロイックミラー、バンドパスフィルター等からなる照射系と、レーザ光の照射によって微小粒子から発生する蛍光や散乱光を検出する検出系と、によって構成される。検出系は、例えば、PMT(photo multiplier tube)や、CCDやCMOS素子等のエリア撮像素子等によって構成され、受光波長帯域の異なる光検出器が複数配設される。
【0068】
微小粒子の分取を行う場合には、サンプル液を、微小粒子を含む液滴としてフローセル外の空間に吐出し、液滴の移動方向を制御して所望の特性を備えた微小粒子を分取する。分取系は、サンプル液を液滴化してフローセルから吐出させるピエゾ素子等の振動素子と、吐出される液滴に電荷を付与する荷電手段と、液滴の移動方向に沿って、移動する液滴を挟んで対向して配設された対電極などから構成される。
【0069】
データ処理系は、光検出器から検出値を電気信号として入力され、電気信号に基づいて微小粒子の光学特性を解析する。データ処理系は、各光検出器から検出値を収集して得られる測定スペクトルを、上述した方法に従って単染色スペクトルの線形和により近似し、各蛍光色素から発生した真の蛍光強度を算出する。このため、データ処理系は、上述した本発明に係る蛍光強度算出方法の各ステップを実行するためのプログラムを記憶するハードディスク等の記録媒体と、プラグラムを実行するCPU及びメモリ等を有する。
【0070】
データ処理系には、各光検出器からの信号の品質を向上させるため、各光検出器間のデータの平滑化を行うノイズフィルタを設けることが好ましい。平均化処理は、光検出器の数や受光波長帯域、使用する蛍光色素や、測定対象微小粒子の自家蛍光波長、さらに各機器のノイズ周波数成分等を考慮して行われる。データの平滑化を行うことにより、ノイズの影響を抑えることが可能となり、演算精度が向上し、より正確に蛍光強度を算出できる。
【実施例】
【0071】
32チャンネルのマルチカラー測定フローサイトメータでの仮想出力データを用いて、従来の補正行列を用いた蛍光補正方法と本発明に係る制限付き最小二乗法を用いた蛍光補正方法との間で演算結果の比較を行った。
【0072】
蛍光色素には、FITC(CH5),Alexa500(CH6),Alexa514(CH10),Alexa532(CH12),PE(CH15),PE−TR(CH19),PI(CH21),Alexa600(CH20),PE−Cy5(CH24),PerCP(CH25),PerCP−Cy5.5(CH26),PE−Cy7(CH31)を用いた。括弧内に示すチャネル番号は、補正行列を用いた従来方法における各蛍光色素に対するチャネルの割り当てを示す。
【0073】
図2に、各蛍光色素の単染色スペクトルを示す。これらの各単染色スペクトルがランダムな強度で排他的に出現し、さらに各検出データには検出器や電気的なノイズが仮想的に付加されたシミュレーション・データをモンテカルロ法にて生成させた。発生させたシミュレーション・データを、図2の単染色スペクトルと、従来方法あるいは本発明に係る方法とを用いて蛍光補正を行って得た典型的な解析結果を以下に示す。
【0074】
図3は、蛍光補正を行わずに、仮想出力データから作成した二次元相関図を示す。(A)〜(C)の縦軸はそれぞれAlexa500,Alexa514,Alexa532の蛍光強度を、横軸はFITCの蛍光強度を示す。図上段はログスケールプロットした二次元相関図、下段はリニアスケールでプロットした二次元相関図である(以下、図4〜11について同様)。
【0075】
図4は、仮想出力データを、比較のために補正行列を用いて蛍光補正して作成した二次元相関図を示す。リニアスケールでプロットした二次元相関図において、FITC及びAlexa500,Alexa514,Alexa532の蛍光強度が負値として算出されているサブポピュレーションが存在している。このため、ログスケールの二次元相関図上にプロットされたポピュレーションが、リニアスケールの二次元相関図上にプロットされたポピュレーションに対して顕著に減少してしまっている。
【0076】
図5は、仮想出力データを、下限値を平均値とする第一実施形態に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図を示す。リニアスケールでプロットした二次元相関図において、FITC及びAlexa500,Alexa514,Alexa532の蛍光強度が正値として算出されている。このため、リニアスケールの二次元相関図上にプロットされたポピュレーションが、全てログスケールの二次元相関図上にもプロットできている。
【0077】
図6は、仮想出力データを、線形制約条件なしで、下限値を平均値とする第一実施形態の変形例に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図を示す。
【0078】
図7は、仮想出力データを、下限値を確率密度関数に従う乱数とする第二実施形態に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図を示す。
【0079】
図8は、仮想出力データを、線形制約条件なしで、下限値を確率密度関数に従う乱数とする第二実施形態の変形例に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図を示す。
【0080】
図9は、仮想出力データを、下限値を正規乱数とする第三実施形態に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図を示す。
【0081】
図10は、仮想出力データを、線形制約条件なしで、下限値を正規乱数とする第三実施形態の変形例に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図を示す。
【0082】
図11は、仮想出力データを、下限値を0とする第四実施形態に係る方法により蛍光補正して作成した二次元相関図を示す。
【0083】
図6〜11においても、リニアスケールでプロットした二次元相関図において、FITC及びAlexa500,Alexa514,Alexa532の蛍光強度が正値として算出されている。このため、リニアスケールの二次元相関図上にプロットされたポピュレーションが、全てログスケールの二次元相関図上にもプロットできている。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明に係る蛍光強度補正方法等によれば、複数の蛍光色素により標識された微小粒子を複数の光検出器によってマルチカラー測定する場合に、各蛍光色素からの蛍光強度を正確に算出してユーザに提示できる。従って、本発明に係る蛍光強度補正方法等は、細胞等の微小粒子の特性をより詳細に解析するため寄与し得る。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して得られる測定スペクトルを、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により近似する手順を含み、
前記手順において、前記単染色スペクトルの線形和による前記測定スペクトルの近似を、制限付き最小二乗法を用いて行う蛍光強度補正方法。
【請求項2】
前記手順において、下記式(2)を満足しながら下記式(1)で示される評価関数が最小値となるパラメータxj(j=1〜M)を求めることにより、各蛍光色素から発生した蛍光の強度を算出する請求項1記載の蛍光強度補正方法。
(式中、sijは、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。piは、測定スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。σiは、i番目の光検出器の検出値に対する重みの逆数を表す。Ujは、算出する各蛍光色素の蛍光強度の下限値を表す。)
【請求項3】
前記手順において、下記式(3)〜(5)の二次計画問題を解くことにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求める請求項2記載の蛍光強度補正方法。
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。ただし、AはM×M次行列、bはM×1次行列として設定し、U1〜UMは前記下限値を表すものとする。)
【請求項4】
前記式(2)中、前記下限値Ujとして、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得された前記光検出器毎の検出値の平均値から求めたj番目の蛍光色素の無染色平均値Vjを用いる請求項3記載の蛍光強度補正方法。
【請求項5】
前記式(2)中、前記下限値Ujとして、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得された前記光検出器毎の検出値の確率密度関数から求めたj番目の蛍光色素の無染色確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数を用いる請求項3記載の蛍光強度補正方法。
【請求項6】
前記式(2)中、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得された前記光検出器毎の検出値の平均値及び分散からj番目の蛍光色素の無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjを求め、前記下限値Ujとして、下記式(9)の確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数を用いる請求項3記載の蛍光強度補正方法。
【請求項7】
前記手順において、下記式(10),(11)の二次計画問題を解くことにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求める請求項2記載の蛍光強度補正方法。
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。)
【請求項8】
前記手順において、下記式(12),(13)の二次計画問題を解き、下記式(14)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求める請求項2記載の蛍光強度補正方法。
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の平均値viを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、平均値viから求めたj番目の蛍光色素の無染色平均値Vjを要素とするM次ベクトルを表す。)
【請求項9】
前記手順において、下記式(15),(16)の二次計画問題を解き、下記式(17)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求める請求項2記載の蛍光強度補正方法。
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の確率密度関数fi(ui)に従って発生させた乱数uiを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、確率密度関数fi(ui)から求めたj番目の蛍光色素の無染色確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数Ujを要素とするM次ベクトルを表す。)
【請求項10】
前記手順において、下記式(20),(21)の二次計画問題を解き、下記式(22)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求める請求項2記載の蛍光強度補正方法。
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の平均値vi及び分散σiを求め、式(18)の確率密度関数fj(uj)に従って発生させた乱数ujを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、平均値vi及び分散σiからj番目の蛍光色素の無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjを求め、式(19)の確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数Ujを要素とするM次ベクトルを表す。)
【請求項11】
蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して測定スペクトルを得る測定手段と、
各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により前記測定スペクトルを近似する算出手段と、を備え、
前記算出手段は、前記単染色スペクトルの線形和による前記測定スペクトルの近似を、制限付き最小二乗法により行う蛍光強度算出装置。
【請求項1】
蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して得られる測定スペクトルを、各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により近似する手順を含み、
前記手順において、前記単染色スペクトルの線形和による前記測定スペクトルの近似を、制限付き最小二乗法を用いて行う蛍光強度補正方法。
【請求項2】
前記手順において、下記式(2)を満足しながら下記式(1)で示される評価関数が最小値となるパラメータxj(j=1〜M)を求めることにより、各蛍光色素から発生した蛍光の強度を算出する請求項1記載の蛍光強度補正方法。
(式中、sijは、j番目の蛍光色素の単染色スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。piは、測定スペクトルにおけるi番目の光検出器の検出値を表す。σiは、i番目の光検出器の検出値に対する重みの逆数を表す。Ujは、算出する各蛍光色素の蛍光強度の下限値を表す。)
【請求項3】
前記手順において、下記式(3)〜(5)の二次計画問題を解くことにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求める請求項2記載の蛍光強度補正方法。
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。ただし、AはM×M次行列、bはM×1次行列として設定し、U1〜UMは前記下限値を表すものとする。)
【請求項4】
前記式(2)中、前記下限値Ujとして、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得された前記光検出器毎の検出値の平均値から求めたj番目の蛍光色素の無染色平均値Vjを用いる請求項3記載の蛍光強度補正方法。
【請求項5】
前記式(2)中、前記下限値Ujとして、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得された前記光検出器毎の検出値の確率密度関数から求めたj番目の蛍光色素の無染色確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数を用いる請求項3記載の蛍光強度補正方法。
【請求項6】
前記式(2)中、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得された前記光検出器毎の検出値の平均値及び分散からj番目の蛍光色素の無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjを求め、前記下限値Ujとして、下記式(9)の確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数を用いる請求項3記載の蛍光強度補正方法。
【請求項7】
前記手順において、下記式(10),(11)の二次計画問題を解くことにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求める請求項2記載の蛍光強度補正方法。
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。)
【請求項8】
前記手順において、下記式(12),(13)の二次計画問題を解き、下記式(14)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求める請求項2記載の蛍光強度補正方法。
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の平均値viを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、平均値viから求めたj番目の蛍光色素の無染色平均値Vjを要素とするM次ベクトルを表す。)
【請求項9】
前記手順において、下記式(15),(16)の二次計画問題を解き、下記式(17)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求める請求項2記載の蛍光強度補正方法。
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の確率密度関数fi(ui)に従って発生させた乱数uiを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、確率密度関数fi(ui)から求めたj番目の蛍光色素の無染色確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数Ujを要素とするM次ベクトルを表す。)
【請求項10】
前記手順において、下記式(20),(21)の二次計画問題を解き、下記式(22)を実行することにより、前記パラメータxj(j=1〜M)を求める請求項2記載の蛍光強度補正方法。
(式中、Sは、sijを要素とするN×M次行列を表す。xは、xjを要素とするM次行列を表す。pは、piを要素とするN次ベクトルを表す。uは、j番目の蛍光色素を標識していない微小粒子に光を照射して取得されたi番目の光検出器の検出値の平均値vi及び分散σiを求め、式(18)の確率密度関数fj(uj)に従って発生させた乱数ujを要素とするN次ベクトルを表す。Uは、平均値vi及び分散σiからj番目の蛍光色素の無染色平均値Vj及び無染色標準偏差ρjを求め、式(19)の確率密度関数Fj(Uj)に従って発生させた乱数Ujを要素とするM次ベクトルを表す。)
【請求項11】
蛍光波長帯域の重複する複数の蛍光色素により多重標識された微小粒子に光を照射することによって励起された蛍光色素から発生する蛍光を、受光波長帯域の異なる光検出器で受光し、各光検出器から検出値を収集して測定スペクトルを得る測定手段と、
各蛍光色素を個別に標識した微小粒子で得られる単染色スペクトルの線形和により前記測定スペクトルを近似する算出手段と、を備え、
前記算出手段は、前記単染色スペクトルの線形和による前記測定スペクトルの近似を、制限付き最小二乗法により行う蛍光強度算出装置。
【図12】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図13】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−18108(P2012−18108A)
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156382(P2010−156382)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月26日(2012.1.26)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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