説明

蛍光材料、及びそれを用いた光デバイス

【課題】優れた蛍光特性(蛍光強度の強さ、蛍光強度の長期安定性)と高い耐熱性に加え、優れた機械的特性(高い弾性率、可撓性、高靱性)を有する緑色蛍光材料の提供。
【解決手段】式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミド材料。


(R1は脂環又は芳香環を含む2価の有機基を示す)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光材料、及びそれ用いた光デバイスに関する。本発明の蛍光材料は、優れた蛍光特性、高い耐熱性、及び優れた機械特性を有し高効率の緑色蛍光を有するものであり、発光デバイス用材料として使用可能なものである。また、この蛍光材料を用いて作製された光デバイスは、従来にない優れた特性を有する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機エレクトロルミネッセンス(EL)素子や、発光型の空間光変調素子、波長変換素子等に使用される有機発光材料として、種々の低分子化合物や高分子化合物が開発されている。発光デバイス等の製造において、低分子化合物を用いる場合、製造プロセスが蒸着方式に制約されるのに対して、高分子化合物は、溶液にして製膜、又はインクジェットプリント方式等により製造できることから製造コストを安くできるという利点を有している。また、高分子化合物は、微細加工なしに微細な塗り分けができる点、そして膜厚を容易に製膜できる等の優れた特徴を有している。そのため、高効率な蛍光発光を示し、かつ発光波長の制御が容易な高分子系の発光材料の開発が望まれている。
【0003】
高分子発光材料としては、従来よりポリ−p−フェニレンやポリフェニレンビニレン等のπ共役型高分子が知られている。しかし、このようなπ共役型高分子は、耐熱性や耐環境性(蛍光強度及び蛍光スペクトル形状の長期安定性)が十分でなく、また、製膜や微細加工が容易ではないという問題があった。一方、代表的な耐熱性高分子であるポリイミドは、優れた耐熱性や電気特性を有しており、前駆体であるポリアミド酸が製膜等の加工性に優れていることから、表示用デバイス材料としての用途が期待されている。例えば、非特許文献1には、主鎖や側鎖に蛍光性のフリル基を導入して青色の蛍光発光を示すポリイミドが開示されており、また、特許文献1及び特許文献2には、発光機能あるいは電荷輸送機能を有するポリイミドを用いた有機EL素子が開示されている。しかし、上記文献等に開示されたポリイミドの蛍光発光は、ポリイミドの主鎖又は側鎖に導入された蛍光性官能基によるものであり、また、その蛍光強度は、ポリイミド分子間の強い相互作用と、それに伴う濃度消失によって、同一の蛍光性官能基を有する低分子化合物の蛍光強度に比べると、その蛍光強度は非常に低いものである。
【0004】
また、非特許文献2等に開示されているように、ポリイミド自体が紫外線の照射により、可視光の蛍光発光を示すことは、従来から知られていた。この蛍光は、ポリイミドの分子構造中のジアミン部分(電子供与性)と酸無水物部分(電子吸引性)との間で形成される電荷移動錯体(CTC)に起因する蛍光(CT蛍光)である(例えば、非特許文献3参照)。しかし、芳香族ポリイミドの場合には、CT相互作用が強く、無輻射失活過程が増加するため、その蛍光強度は弱くなる。代表的な全芳香族ポリイミドフィルムであるピロメリット酸二無水物と4,4’−ジアミノジフェニルエーテルから合成されるポリイミド(PMDA/ODA)においては、通常の蛍光分光計では観測が困難なほどの弱い蛍光しか観測されない。また、非特許文献4には、全芳香族ポリイミドでも、ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンから合成されるポリイミド(BPDA/PDA)は相対的に強い蛍光を示すことが報告されている。しかし、既存の蛍光性高分子化合物に比べると、その蛍光強度は非常に弱く、蛍光の量子収率は1%以下と非常に低いと考えられる。
【0005】
また、特許文献3には、三次元的な構造を有し、芳香環に直接フッ素が結合した芳香族酸二無水物と脂環式構造を有するジアミンとからなる構造単位を有するポリイミドを用いることで、優れた蛍光発光特性(蛍光強度の強さ、緑色から赤色領域における蛍光波長の制御性、蛍光強度の長期安定性)を有するとともに、耐熱性、化学安定性、製膜性に優れた単色発光性の蛍光性ポリイミドが得られることが開示されている。また、特許文献4には、三次元的な構造を有し、電子受容性の低い酸二無水物と脂環式構造を有するジアミンとからなる構造単位を有するポリイミドを用いることで、優れた青色蛍光発光特性を有し、耐熱性、化学安定性、製膜製に優れた単色発光性の蛍光性ポリイミドが得られることが開示されている。加えて、非特許文献5には、これらの蛍光性ポリイミドの薄膜を発光層あるいはホール輸送層として用いて有機電界発光(エレクトロルミネッセンス)による発光デバイスを作製した例が報告されている。
【0006】
上記特許文献3及び4によれば、優れた蛍光特性を有する蛍光性ポリイミドを得られることが開示されている。上記特許文献3及び4に開示された蛍光性ポリイミドは、それぞれ、緑色から赤色領域における蛍光波長の制御性、及び青色蛍光特性を示すものである。
また、一般にポリイミドは、テトラカルボン酸二無水物(以下、酸二無水物)とジアミンとを極性溶媒中で反応させことによりポリアミド酸を得、これを加熱処理あるいは化学的脱水処理によりイミド化することにより得られる。本発明者らの検討により、ポリイミドの蛍光発光波長は、ジアミンに比して酸二無水物の電子構造および立体構造に強く依存することが明らかとなっている。すなわち、電子親和力の弱い非フッ素化酸二無水物から合成されたポリイミド(以下、非フッ素化無水物ポリイミド)は青色蛍光発光を示し、一方、電子親和力が強く、分子間で二量化しやすいフッ素化酸二無水物から合成されたポリイミド(以下、フッ素化無水物ポリイミド)は緑色・赤色発光を呈する。また、非フッ素化酸二無水物に数モル%のフッ素化酸二無水物を添加した混合物を原料として用いて合成したポリイミドは白色の蛍光を示す。しかし、フッ素化酸二無水物は一般に高価であり、またわずかな水分で開環しやすいため保存性に注意を有する。蛍光性ポリイミドの原料の経済性及び操作性を向上させるためには、フッ素化酸二無水物ポリイミドを用いることなく青色以外の蛍光を得ることが求められている。
【0007】
【非特許文献1】S. M. Pyo et al., Polymer, 40, 125-130 (1999)
【特許文献1】特開平03−274693号公報
【特許文献2】特開平04−93389号公報
【非特許文献2】E. D. Wachsman and C. W. Frank Polymer, 29, 1191-1197 (1988)
【非特許文献3】M. Hasegawa and K. Horie, Progress in Polymer Science, 26, 259-335 (2001)
【非特許文献4】M. Hasegawa et al., Journal of Polymer Science Part C: Polymer Letters, 27, 263-269(1998)
【特許文献3】特開平04−307857号公報
【特許文献4】特開平05−320393号公報
【非特許文献5】Sho-ichi MATSUDA, Yuichi URANO, Jin-Woo PARK, Chang-Sik HA, Shinji ANDO*, J. Photopolym. Sci. Technol., 17(2), 241-246 (2004).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本研究の目的は、優れた蛍光特性(蛍光強度の強さ、蛍光強度の長期安定性)と高い耐熱性(ガラス転移点:200℃以上、熱分解開始温度:350℃以上)に加え、優れた機械的特性(高い弾性率、可撓性、高靱性)を有し、酸二無水物部にフッ素を含有しないポリイミド系の新規の緑色蛍光材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため検討を重ねた結果、特定の酸二無水物構造を有するポリイミドからなる蛍光材料が上記目的を達成し得るという知見を得、その知見を基に鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、下記一般式(1)で表される繰り返し単位を有するポリイミドを含有する蛍光材料を提供するものである。
【0011】
【化1】

【0012】
(式中、R1は、
脂環式構造又は芳香環を含む2価の有機基を示す)
【0013】
上記一般式(1)において、R1としては、例えば、2価の脂環式構造(環状アルキル基)を有する有機基が挙げられる。
具体的には、R1としては、下記式(2)〜(5)で示される有機基が挙げられる。
【0014】
【化2】

【0015】
【化3】

【0016】
(式中、Rはアルキル基又はフルオロアルキル基を含む2価の有機基である。)
【0017】
【化4】

【0018】
(式中、Rはアルキル基又はフルオロアルキル基を含む1価の有機基である。)
【0019】
【化5】

(式中、Rはフルオロアルキル基を含む1価の有機基である。)
【0020】
また、本発明は、上記蛍光材料を用いて製造された有機発光デバイスを提供するものである。有機発光デバイスとしては、有機EL素子や有機レーザーなどの発光素子、波長変換素子及び空間光変調素子などが挙げられる。
また、本発明は、上記蛍光材料を用いて製造された有機光波長変換デバイスを提供するものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、優れた緑色蛍光発光特性を有すると共に、耐熱性及び機械特性に優れた新規の蛍光材料が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の蛍光材料は、下記一般式(1)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミドを含有する。
【0023】
【化6】

【0024】
一般式(1)において、Rは、脂環式構造又は芳香族環を含む2価の有機基を示す。
上記脂環式構造としては、例えばシクロアルカン構造、シクロアルケン構造等が挙げられる。脂環式構造を構成する炭素数に特に制限はないが、通常は4〜30個程度、好ましくは5〜20個程度、更に好ましくは5〜15個程度である。炭素数が上記範囲内であると、耐熱性に優れた蛍光材料を得ることができる。また、上記芳香族環としては、ベンゼン環、ナフタレン環等の芳香環を1個以上含むものが挙げられる。Rが芳香環である場合、Rの2個の結合部位は、得られるポリイミドに剛直性を持たせる観点から、芳香環上に直接存在していることが好ましい。
としては、例えば、以下の式(2)〜(5)で示される有機基が挙げられる。
【0025】
【化7】

【0026】
【化8】

【0027】
式(3)中、Rはアルキル基又はフルオロアルキル基を含む2価の有機基である。上記
アルキル基としては、例えばメチレン基、エチレン基、イソプロピリデン基、ヘキサメチレン基等の長鎖アルキル基等が挙げられる。また、フルオロアルキル基としては、ジフルオロメチレン基、ヘキサフルオロイソプロピリデン基等が挙げられる。
【0028】
【化9】

【0029】
式(4)中、Rはアルキル基又はフルオロアルキル基を含む1価の有機基である。
上記アルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、イソプロピル基、ヘキサメチル基等の長鎖アルキル基等が挙げられる。また、フルオロアルキル基としてはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。また、Rとしては、アルコキシ基、又はフルオロアルコキシ基であってもよい。
【0030】
【化10】

【0031】
式(5)中、Rはフルオロアルキル基を含む1価有機基である。フルオロアルキル基としてはトリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基等が挙げられる。
【0032】
より具体的には、式(1)中、Rの2価の有機基としては、例えば、下記式(6)〜(10)で表されるものが挙げられる。
【0033】
【化11】

【0034】
【化12】

【0035】
【化13】

【0036】
【化14】

【0037】
【化15】

【0038】
上記式(1)で表わされるポリイミドにおいて特筆すべきことは、原料である2,2’,3,3’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(i-ODPA)にフッ素を含まないにもかかわらず、波長489〜498nmを中心とした緑色領域に強い蛍光発光を示すことである。前述したように、これまで非フッ素化酸二無水物から合成されたポリイミドにおいては、紫〜青色領域の蛍光発光しか観測されていない。例えばi-ODPAの構造異性体である3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(s-ODPA)と脂環式ジアミンの組み合わせから合成されたポリイミドの蛍光発光は、ジアミンの化学構造によらず390〜410nmの紫色領域であった。本発明によるポリイミドが緑色領域の蛍光発光を示す理由はまだ明らかでないが、i-ODPAの骨格構造は強く屈曲しており、隣り合う2つのベンゼン環が分子内で近接することがその特異な蛍光波長に関係していると考えられる。
【0039】
加えて、本発明の蛍光材料に含まれる、上記式(1)で表わされるポリイミドは、脂環式構造又は芳香環を含む2価の有機基を有することから耐熱性が高く、しかも低い吸水性及び優れた機械的特性を有することから蛍光性光学デバイス用材料として好適に用いることができる。特に、式(1)中のRが式(2)〜(4)の脂環式構造を有する場合は、ポリイミドの分子内および分子間の電荷移動相互作用が抑制されるため、本発明の蛍光材料は高い蛍光強度(量子収率は最高で38%)を発現できる。これは、特開平04−307857号公報に開示されているフッ素化酸二無水物ポリイミドと同等の蛍光発光能である。また、式(1)中のRが式(5)のフルオロアルキル基を有する芳香環(例えば、ベンゼン環)の場合、フルオロアルキル基の強い電子吸引性効果によりジアミンの電子供与性が低下し、ポリイミド分子内および分子間の電荷移動相互作用が抑制される。このため、蛍光強度の低下が少なく、一般的な全芳香族ポリイミドに比べて蛍光強度が飛躍的に向上する。結果として、全芳香族ポリイミドとしては高蛍光であることが報告されているビフェニルテトラカルボン酸二無水物とパラフェニレンジアミンから合成されるポリイミド(BPDA/PDA)(量子収率1%未満)に比べて高い蛍光強度(量子収率約4%)を示す。さらに、本発明の蛍光材料に含まれるポリイミドは、特開平04−307857号公報に開示されている赤色発光ポリイミドよりも高い蛍光強度を示す。
結果として、上記一般式(1)で表されるポリイミドは、Rの構造が脂環式構造又は芳香を含むか、あるいはフルオロアルキル基を含有する芳香環の場合に、特に強い緑色発光を有する。
【0040】
なお、上記一般式(1)で表される緑色発光を示すポリイミド構造の繰り返し単位と、一般式(1)の構造異性体である下記一般式(11)で表される青色発光を有するポリイミド構造の繰り返し単位とからなる共重合体を製造することにより、種々の蛍光発光波長を有するポリイミドを得ることができる。すなわち、上記一般式(1)で表される緑色発光を示すポリイミド構造の繰り返し単位と、一般式(11)で表される青色発光を有するポリイミド構造の繰り返し単位からなるポリイミドの共重合体は、その共重合比が100:0〜65:35(モル比)の範囲では緑色発光、20:80〜5:95(モル比)の範囲では蛍光発光のスペクトルが青色から緑色領域に広がるため水色(シアン)発光、0:100(モル比)では青色発光を示した。従って、共重合比を制御することにより、蛍光発光の波長域を青色〜緑色において制御することが可能である。
【0041】
【化16】

【0042】
本発明の蛍光材料に含有される、一般式(1)で表わされるポリイミドとしては、例えば、下記式(12)、(13)、(14)、(15)及び(16)で表わされる繰り返し単位を有するポリイミドが挙げられる。
【0043】
【化17】

【0044】
【化18】

【0045】
【化19】

【0046】
【化20】

【0047】
【化21】

【0048】
本発明の蛍光材料に含有されるポリイミドの分子量は、その蛍光特性が発揮される範囲であれば特に限定されないが、その前駆体(ポリアミド酸あるいはポリアミド酸エステル)の分子量として対数粘度換算で0.05〜5.0(dl/g)(温度30℃の有機溶媒中、濃度0.5g/dl)の範囲であることが好ましい。
【0049】
本発明の蛍光材料に含有されるポリイミドの製造方法に特に制限はないが、例えば、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(i−ODPA)と前記R1のジアミン化合物とを重縮合して得られるポリアミド酸を200℃以上の温度で加熱閉環することによって製造することができる。加熱閉環する方法に特に制限はなく、従来公知の方法が用いられる。
【0050】
用いられるジアミン化合物としては、例えば、1,4−ジアミノシクロヘキサン、4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−4,4’−ジアミノビシクロヘキサン、2,2’−ビス(4−アミノシクロヘキシル)−ヘキサフルオロプロパン等やこれらの構造異性体等が挙げられる。
【0051】
以下に、本発明の蛍光材料を用いたフィルムの製造方法の一例を示す。
まず、極性有機溶媒中で、等モル量の2,2’,3,3’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物と4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタンとを重縮合し、ポリアミド酸溶液を得る。この時、N,O−ビス(トリメチルシリル)アセトアミドやN,O−ビス(トリメチルシリル)トリフルオロアセトアミドのようなシリルエステル化物を混合すると、原料の会合体や生成物の不溶化(ゲル化)が起こりにくくなる。用いる極性有機溶媒としては、例えば、N−メチル−4−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド等が挙げられる。重合溶液中の原料化合物の濃度は、好ましくは5〜40重量%であり、更に好ましくは10〜25重量%である。この反応を下記式に示す。
【0052】
【化22】

【0053】
上述のようにして得られたポリアミド酸の溶液を、溶融石英板等の基板上に回転塗布し、不活性気体(例えば窒素)雰囲気下で、例えば70℃程度の温度から300℃程度の温度まで段階的あるいは連続的に加熱し、脱水閉環(イミド化)する。この反応を下記式に示す。段階的加熱の例としては、例えば、70℃で2時間、160℃で1時間、250℃で30分、300℃で2時間のように行ってもよく、また毎分5℃での連続的な昇温によっても良い。イミド化後、空気中あるいは水中で基板から剥離することによりポリイミドフィルムを得る。基板からの剥離が困難な場合は、ポリアミド酸溶液をアルミ板上に回転塗布し、熱イミド化後、基板ごと10%塩酸に浸しアルミ板を溶解することにより、ポリイミドフィルムを得る。また、基板材料としては溶融石英や単結晶シリコン等の無機系のみならず、ポリイミド成型体等の有機高分子を用いても良い。
【0054】
【化23】

【0055】
ポリアミド酸の合成方法としては、上記のように極性有機溶媒を用いて合成する方法の他、原料である酸二無水物とジアミン化合物の昇華性を利用して、真空蒸着重合法により基板上で合成する方法が挙げられる。この場合のポリイミドフィルムの合成方法としては、具体的には、酸二無水物モノマーとジアミンモノマーを、真空槽内でそれぞれの蒸着源を加熱して蒸発させ、基板上でポリアミド酸を合成し、さらにこれを不活性気体中で加熱して、脱水閉環することによりポリイミド薄膜を得ることができる。また、必要に応じてピリジン/無水酢酸などの閉環触媒と脱水剤の組み合わせによる化学処理を行ってイミド化してもよい。
【0056】
次に、本発明の有機発光デバイス、有機光波長変換デバイスについて説明する。本発明の有機発光デバイス、及び有機光波長変換デバイスは、上述した本発明の蛍光材料を用いて製造されたものである。
本発明の蛍光材料は、有機EL素子、有機レーザー、波長変換素子、空間光変調素子等の有機発光デバイス、又は有機光波長変換デバイスの材料として用いることができる。例えば、本発明の蛍光材料のフィルムを発光層/受光層として用いて、透明基板/透明電極/電荷輸送層/発光層/受光層/電極の積層体を形成することにより有機EL素子にすることができる。
その他、通信用の光導波路や光源、光ファイバー増幅器、蛍光増白剤、塗料、インク、蛍光コレクタ、シンチレータ、植物育成用フィルム等に利用することができる。
【実施例】
【0057】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではない。
実施例1
三角フラスコに、2,2’,3,3’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(i-ODPA)0.9853g(3.176mmol)と4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン(DCHM)0.6681g(3.176mmol)を加え、溶液の原材料の濃度が15重量%になるようにN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)9.37gを加えた。三角フラスコ中の溶液を窒素雰囲気中、室温で48時間攪拌し、ポリアミド酸のDMAc溶液を得た。得られたポリアミド酸のDMAc溶液を直径75mmの石英板上に回転塗布し、窒素雰囲気下、70℃で1時間、300℃で1.5時間、2段階で昇温して加熱イミド化を行った。
【0058】
得られたポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを減衰全反射(ATR)法により測定したところ、1777cm−1及び1719cm−1にイミド基のカルボニルに特有の吸収が観察され、またポリアミド酸において観測される1677cm−1、1637cm−1のアミド結合特有の吸収が消失しており、イミド化が完全に進行したことが確認できた。得られた薄膜の膜厚を蝕針式膜厚計で測定したところ、1.03μmであった。また、熱重量分析装置(TGA)により熱分解開始温度(5%重量減少温度)を測定したところ、415℃であった。得られたポリイミド薄膜の蛍光発光スペクトルを励起波長414nm、蛍光観測波長330〜800nmで測定したところ、波長489nmを中心に、非常に強い蛍光が観測された。この結果を図1に示した。図1は、蛍光発光強度を測定した結果を示すグラフである。図1には、後述する実施例2、及び比較例1,2のポリイミドにおけるそれぞれの蛍光スペクトルの波長依存性を併せて示す。図1において縦軸は蛍光強度(対数表示)、横軸は波長(nm)を示している。図1に示すように、実施例1で得られた蛍光材料は、後述する比較例1のポリイミドとは蛍光の発光中心波長(ピーク波長)が異なるが、発光中心波長における蛍光強度は比較例1のポリイミドに比して約36倍であった。
【0059】
比較例1
実施例1におけるi-ODPAに代えて、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(s-BPDA)1.47g(4.996mmol)を、またDCHMに代えて1,4−ジアミノベンゼン(PDA)0.54g(4.994mmol)を用いて、実施例1と同様の方法でポリアミド酸のDMAc溶液(15重量%)を調製し、ポリイミド薄膜を作製した。得られた薄膜の膜厚を蝕針式膜厚計で測定したところ、4.0μmであった。また、5%重量減少温度を測定したところ、480℃であった。この非フッ素化全芳香族ポリイミド薄膜の蛍光発光スペクトルを励起波長363nm、蛍光観測波長330〜800nmで測定したところ、中心波長514nmに蛍光が観測された。結果を図1に示す。このポリイミドはこれまで報告されている全芳香族ポリイミドの中では強い蛍光を出すことから、この試料の蛍光強度を比較のための基準とした。
【0060】
比較例2
実施例1におけるi-ODPAに代えて、1,4−ビス(3,4−ジカルボキシトリフルオロフェノキシ)テトラフルオロベンゼン二無水物(10FEDA)2.91g(5.0mmol)、DCHM1.05g(5.0mmol)を用いて、実施例1と同様の方法でポリアミド酸のDMAc溶液(10重量%)を調製し、ポリイミド薄膜を作製した。得られた薄膜の膜厚は1.0μm、5%重量減少温度は405℃であった。このポリイミド薄膜の蛍光発光スペクトルを励起波長409nm、蛍光観測波長330〜800nmで測定したところ、中心波長483nmに蛍光が観測された。結果を図1に示した。比較例2で得られた蛍光材料の発光中心波長における蛍光強度は、比較例1のポリイミドに比して約46倍であった。
【0061】
比較例3
実施例1におけるi-ODPAに代えて、1,4−ジフルオロピロメリト酸二無水物(P2FDA)1.27g(5.0mmol)、DCHM1.05g(5.0mmol)を用いて、実施例1と同様の方法でポリアミド酸のDMAc溶液(10重量%)を調製し、ポリイミド薄膜を作製した。得られた薄膜の膜厚は7.7μm、5%重量減少温度は394℃であった。このポリイミド薄膜の蛍光発光スペクトルを励起波長537nmで測定したところ、中心波長588nm及び713nmに蛍光が観測された。結果を図1に示した。比較例3で得られた蛍光材料の発光中心波長における蛍光強度は、比較例1のポリイミドに比して約3倍であった。
【0062】
実施例2
三角フラスコに、2,2’,3,3’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(i-ODPA)0.6971g(2.247mmol)と2,2‘−ビストリフルオロメチル−4,4’−ジアミノビフェニル(TFDB)0.7196g(2.247mmol)を用いて、溶液の原材料の濃度が25重量%になるようにN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)4.25gを加えた。三角フラスコ中の溶液を窒素雰囲気中、室温で48時間攪拌し、ポリアミド酸のDMAc溶液を得た。得られたポリアミド酸のDMAc溶液を直径75mmの石英板上に回転塗布し、窒素雰囲気下、70℃で1時間、350℃で1.5時間、2段階で昇温して加熱イミド化を行った。
【0063】
得られたポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを減衰全反射(ATR)法により測定したところ、1777cm−1及び1719cm−1にイミド基のカルボニルに特有の吸収が観察され、またポリアミド酸において観測される1677cm−1、1637cm−1のアミド結合特有の吸収が消失しており、イミド化が完全に進行したことが確認できた。得られた薄膜の膜厚を蝕針式膜厚計で測定したところ、8.8μmであった。このポリイミド薄膜の蛍光発光スペクトルを励起波長430nm、蛍光観測波長330〜800nmで測定したところ、中心波長498nmに蛍光が観測された。結果を図1に示した。図1に示すように、実施例2で得られた蛍光材料の発光中心波長における蛍光強度は、比較例1のポリイミドに比して約12倍であった。
【0064】
実施例3
三角フラスコに、2,2’,3,3’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(i-ODPA)0.2365g(0.762mmol)、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(s-ODPA)0.0591g(0.191mmol)、及び4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン(DCHM)0.2005g(0.953mmol)を加え、溶液の原材料の濃度が15重量%になるようにN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)2.811gを加えた。三角フラスコ中の溶液を窒素雰囲気中、室温で48時間攪拌し、ポリアミド酸のDMAc溶液を得た。得られたポリアミド酸のDMAc溶液を直径75mmの石英板上に回転塗布し、窒素雰囲気下、70℃で1時間、300℃で1.5時間、2段階で昇温して加熱イミド化を行った。
【0065】
得られたポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを減衰全反射(ATR)法により測定したところ、1777cm−1及び1719cm−1にイミド基のカルボニルに特有の吸収が観察され、またポリアミド酸において観測される1677cm−1、1637cm−1のアミド結合特有の吸収が消失しており、イミド化が完全に進行したことが確認できた。得られた薄膜の膜厚を蝕針式膜厚計で測定したところ、0.9μmであった。このポリイミド薄膜の蛍光発光スペクトルを励起波長322nm、蛍光観測波長330〜800nmで測定したところ、波長489nmを中心に、強い緑色蛍光が観測された。結果を図2に示した。図2には、後述する実施例4,5及び比較例1,4のポリイミドにおけるそれぞれの蛍光スペクトルの波長依存性を併せて示す。図2において縦軸は蛍光強度(対数表示)、横軸は波長(nm)を示している。実施例3で得られた蛍光材料の発光中心波長における蛍光強度は、比較例1のポリイミドに比して約32倍であった。
【0066】
実施例4
三角フラスコに、2,2’,3,3’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(i-ODPA)0.0296g(0.0953mmol)、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(s-ODPA)0.2660g(0.858mmol)、及び4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン(DCHM)0.2005g(0.953mmol)を加え、溶液の原材料の濃度が15重量%になるようにN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)2.811gを加えた。三角フラスコ中の溶液を窒素雰囲気中、室温で48時間攪拌し、ポリアミド酸のDMAc溶液を得た。得られたポリアミド酸のDMAc溶液を直径75mmの石英板上に回転塗布し、窒素雰囲気下、70℃で1時間、300℃で1.5時間、2段階で昇温して加熱イミド化を行った。
【0067】
得られたポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを減衰全反射(ATR)法により測定したところ、1777cm−1及び1719cm−1にイミド基のカルボニルに特有の吸収が観察され、またポリアミド酸において観測される1677cm−1、1637cm−1のアミド結合特有の吸収が消失しており、イミド化が完全に進行したことが確認できた。得られた薄膜の膜厚を蝕針式膜厚計で測定したところ、3.5μmであった。このポリイミド薄膜の蛍光発光スペクトルを励起波長339nm、蛍光観測波長330〜800nmで測定したところ、350nm〜600nmにおいて強い蛍光が観測された。結果を図2に示した。図2に示すように、実施例4で得られた蛍光材料は、蛍光波長が青色〜緑色領域全体に広がっており、蛍光色は水色を示す。実施例4で得られた蛍光材料の発光中心波長における蛍光強度は、比較例1のポリイミドに比して約17倍であった。
【0068】
実施例5
三角フラスコに、2,2’,3,3’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(i-ODPA)0.0148g(0.0476mmol)、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(s-ODPA)0.2808g(0.905mmol)、及び4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン(DCHM)0.2005g(0.953mmol)を加え、溶液の原材料の濃度が15重量%になるようにN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)2.811gを加えた。三角フラスコ中の溶液を窒素雰囲気中、室温で48時間攪拌し、ポリアミド酸のDMAc溶液を得た。得られたポリアミド酸のDMAc溶液を直径75mmの石英板上に回転塗布し、窒素雰囲気下、70℃で1時間、300℃で1.5時間、2段階で昇温して加熱イミド化を行った。
【0069】
得られたポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを減衰全反射(ATR)法により測定したところ、1777cm−1及び1719cm−1にイミド基のカルボニルに特有の吸収が観察され、またポリアミド酸において観測される1677cm−1、1637cm−1のアミド結合特有の吸収が消失しており、イミド化が完全に進行したことが確認できた。得られた薄膜の膜厚を蝕針式膜厚計で測定したところ、3.6μmであった。このポリイミド薄膜の蛍光発光スペクトルを励起波長343nm、蛍光観測波長330〜800nmで測定したところ、350nm〜600nmにおいて強い蛍光が観測された。結果を図2に示した。図2に示すように、実施例5で得られた蛍光材料は、蛍光波長が青色〜緑色領域全体に広がっており、蛍光色は水色を示す。実施例5で得られた蛍光材料の発光中心波長における蛍光強度は、比較例1のポリイミドに比して約13倍であった。
【0070】
比較例4
実施例1におけるi-OPDAに代えて、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物(s-ODPA)0.9853g(3.176mmol)と4,4’−ジアミノジシクロヘキシルメタン(DCHM)0.6681g(3.176mmol)を加え、溶液の原材料の濃度が15重量%になるようにN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)9.37gを加えた。三角フラスコ中の溶液を窒素雰囲気中、室温で48時間攪拌し、ポリアミド酸のDMAc溶液を得た。得られたポリアミド酸のDMAc溶液を直径75mmの石英板上に回転塗布し、窒素雰囲気下、70℃で1時間、300℃で1.5時間、2段階で昇温して加熱イミド化を行った。
【0071】
得られたポリイミド薄膜の赤外吸収スペクトルを減衰全反射(ATR)法により測定したところ、1777cm−1及び1719cm−1にイミド基のカルボニルに特有の吸収が観察され、またポリアミド酸において観測される1677cm−1、1637cm−1のアミド結合特有の吸収が消失しており、イミド化が完全に進行したことが確認できた。得られた薄膜の膜厚を蝕針式膜厚計で測定したところ、8.9μmであった。このポリイミド薄膜の蛍光発光スペクトルを励起波長347nm、蛍光観測波長330〜800nmで測定したところ、中心波長396nmに強い青色蛍光が観測された。結果を図2に示した。比較例4で得られた蛍光材料の発光中心波長における蛍光強度は、比較例1のポリイミドに比して約27倍であった。
【0072】
実施例6
酸二無水物とジアミンの合計(固形分)の濃度を35%とし、実施例1と同様の方法でi-ODPAとDCHMからポリアミド酸のDMAc溶液を調製した。この溶液を厚さ1mmの石英板上に塗布し、最高温度300℃で熱イミド化したところ、膜厚18μmのフィルムが得られた。ポリアミド酸溶液の塗布、乾燥、熱イミド化の処理をさらに2度繰り返したところ、膜厚約50μmのポリイミドが得られた。ダイシングソーを用いて基板ごと5×5mmの大きさに切り出し、ポリイミドフィルム側に紫外線シャープカットフィルタ(ガラス基板)をアクリル系光学接着剤により貼り付けた。石英基板の裏面から紫外発光ダイオード(発光波長386nm、電流20mA、光出力70mcd)を照射したところ、ポリイミドの表面から波長490nmを中心とする緑色の明るい蛍光発光が観測された。本発明によるポリイミドが、紫外光→可視光の有機光波長変換デバイスにおける波長変換材料として機能することが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】蛍光材料の蛍光強度を測定した結果を示すグラフである。
【図2】蛍光材料の蛍光強度を測定した結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1):で表される繰り返し単位を有するポリイミドを含有する蛍光材料。
【化1】

(式中、R1は脂環式構造又は芳香環を含む2価の有機基を示す)
【請求項2】
上記一般式(1)において、R1が、2価の脂環式構造(環状アルキル基)を有する有機基である、請求項1に記載の蛍光材料。
【請求項3】
上記一般式(1)において、R1が、下記式(2)〜(5)からなる群から選択される有機基である、請求項1に記載の蛍光材料。
【化2】

【化3】

(式中、R2はアルキル基又はフルオロアルキル基を含む2価の有機基を示す)
【化4】

(式中、R3はアルキル基又はフルオロアルキル基を含む1価の有機基を示す)
【化5】

(式中、R4はフルオロアルキル基を含む1価の有機基を示す)
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光材料を用いて製造された有機発光デバイス。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の蛍光材料を用いて製造された有機光波長変換デバイス。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−56797(P2008−56797A)
【公開日】平成20年3月13日(2008.3.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−235133(P2006−235133)
【出願日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000113780)マナック株式会社 (40)
【Fターム(参考)】