説明

蛍光標識体

【課題】多数の蛍光体を導入しても、認識物が変性することなく、蛍光体も消光せずに蛍光強度が増幅される蛍光標識体と、該標識体で標識化された蛍光標識認識物、および該認識物を用いた免疫測定法等を提供する。
【解決手段】アニオン性基を有する親水性重合体から、共有結合を介して分鎖上に伸びた複数のポリエーテル誘導体の一部に、蛍光体が共有結合により結合された構造の蛍光標識体および、該標識体中の親水性重合体に、直接あるいは分鎖上に伸びたポリエーテル誘導体と共有結合された蛍光標識認識物を用いて、免疫測定等の各種測定を行なう。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の蛍光体がポリエーテル誘導体を介して親水性重合体に結合された構造からなる、高感度の蛍光標識体および該標識体で標識化された蛍光標識認識物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、抗原・抗体の濃度の測定法としては、ラジオアイソトープ、酵素、蛍光体等で抗原・抗体を標識化し、これらの標識が発するシグナルの強度を測定する方法が用いられてきた。しかし、ラジオアイソトープを用いる方法は、特殊な施設や機器が必要であるため、近年ほとんど用いられなくなってきている。また、酵素で標識化する方法は、発光基質を用いた方法が普及しているが、感度が高い反面、基質が高価であり、さらに、酵素と基質を反応させる時間が必要であるため、短時間での測定ができない。
【0003】
一方、蛍光体で標識化する法は、特殊な施設や機器あるいは高価な基質などを必要としないが、感度が低い。そこで、感度を上げるためには多数の蛍光体を抗体等に導入する必要がある。しかし、多数の蛍光体を抗体等に直接結合させると、消光現象が起こって蛍光強度が下がるうえ、蛍光体を導入された抗体等は、疎水性が増して変性してしまう。これに対して、抗体等に親水性重合体のリンカーを導入し、このリンカーに多数の蛍光体を導入することにより、1つの抗体等に多数の蛍光体を導入する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開昭58−79162号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記方法では、抗体等の変性および蛍光強度の低下を回避できるが、実用性を高めるためには、より蛍光強度の高い蛍光標識体が望まれる。
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、多数の蛍光体を導入しても、認識物が変性することなく、蛍光体も消光せずに蛍光強度が増幅される蛍光標識体および該標識体で標識化された蛍光標識認識物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、多数の蛍光体がポリエーテル誘導体を介してアニオン性基を有する親水性重合体に結合された構造の蛍光標識体は、認識物を変性させることなく、蛍光強度を増幅させることを見出すに至った。
【0006】
すなわち、かかる課題を解決するため、
請求項1に記載の発明は、アニオン性基を有する親水性重合体、ポリエーテル誘導体および蛍光体からなる蛍光標識体であって、前記蛍光体が、ポリエーテル誘導体を介して親水性重合体に結合されていることを特徴とする蛍光標識体である。
【0007】
請求項2に記載の発明は、前記親水性重合体が、アクリル酸誘導体が重合されたものであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光標識体である。
【0008】
請求項3に記載の発明は、前記親水性重合体が、アクリル酸、メタクリル酸、2−アミノエチルメタクリレート、3−スルホプロピルメタクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−エチルメタクリル酸グルコシドおよびN−アクリロキシサクシニミドからなる群より任意に選ばれる一種類以上のものが重合されたものであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光標識体である。
【0009】
請求項4に記載の発明は、前記親水性重合体が、分子量5〜500kDaのものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の蛍光標識体である。
【0010】
請求項5に記載の発明は、前記親水性重合体に含まれるアニオン性基が、スルホン酸基、リン酸基、またはそれらの塩のいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の蛍光標識体である。
【0011】
請求項6に記載の発明は、前記ポリエーテル誘導体が、ポリエチレングリコール誘導体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛍光標識体である。
【0012】
請求項7に記載の発明は、前記ポリエーテル誘導体が、分子量0.1〜50kDのものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の蛍光標識体である。
【0013】
請求項8に記載の発明は、前記蛍光体の数が1〜90個であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の蛍光標識体である。
【0014】
請求項9に記載の発明は、前記蛍光体が、インダセン誘導体、フルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体、インドカルボシアニン誘導体およびフラザン誘導体のいずれかであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の蛍光標識体である。
【0015】
請求項10に記載の発明は、請求項1〜9のいずれか一項に記載の蛍光標識体によって標識化された蛍光標識認識物である。
【0016】
請求項11に記載の発明は、請求項10に記載の蛍光標識認識物を含む免疫測定試薬である。
【0017】
請求項12に記載の発明は、請求項10に記載の蛍光標識認識物を用いる免疫測定方法である。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明によれば、蛍光体の数から想定される通常の総蛍光量和よりも強い蛍光を検出でき、蛍光標識体を高感度化できる。具体的には、本発明の蛍光標識体の蛍光強度は、蛍光体の数から想定される通常の総蛍光量和よりも、少なくとも10倍以上に増幅される。
また、該蛍光標識体の水溶性が著しく向上し、蛍光標識認識物を変性させることがない。
【0019】
請求項2〜9の発明によれば、より水溶性および/または検出感度に優れた蛍光標識体および蛍光標識認識物を得られる。
【0020】
請求項10〜12の発明によれば、蛍光免疫測定等を高感度かつ短時間で実施できる。具体的には、本発明の蛍光標識法では、従来の酵素標識法に対しほぼ同等の感度(2S/N)を有し、最短で1/5程度の時間で測定できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を詳しく説明する。
図1は、本発明の蛍光標識体の構造を模式的に示すものである。符号1は親水性重合体であり、その構造中には、アニオン性基5が導入されている。また、符号2は、親水性重合体1に導入されたアニオン性基以外の親水性置換基である。また、符号3はポリエーテル誘導体であり、一つの親水性重合体1に複数が共有結合を介して分鎖状に結合しており、その一部のポリエーテル誘導体3の末端には、蛍光体4が共有結合を介して結合されている。認識物は、親水性重合体中の官能基に、共有結合を介して、直接結合されている。(図示略)
【0022】
(親水性重合体)
本発明の蛍光標識体を構成する親水性重合体は、その構造中にアニオン性基などの親水性置換基を有するものであり、好ましくはアクリル酸誘導体またはビニル誘導体等のモノマーを重合したものが用いられる。アクリル酸誘導体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、2−アミノエチルメタクリレート、3−スルホプロピルメタクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−エチルメタクリル酸グルコシド、N−アクリロキシサクシニミド等が挙げられ、ビニル誘導体としては、例えば、ビニルスルホン酸ナトリウム、N−ビニルジメチルアミン、N−ビニルジエチルアミン、ビニルホスホン酸ジメチル、ビニルホスホン酸ジエチル等が挙げられるが、用いることのできるモノマーは、これらの化合物に限定されない。中でも、アミノ基を有するアクリル酸誘導体またはビニル誘導体と、スルホン酸基またはリン酸基を有するアクリル酸誘導体またはビニル誘導体とからなる親水性重合体が好ましい。またモノマーは、単独で用いても良いし、二種以上を併用しても良い。
【0023】
親水性置換基としては、アニオン性基の他、水酸基、チオール基、アミノ基、四級アンモニウム基等を挙げることができる。
また、前記親水性重合体は、分子量が好ましくは5〜500kDa、より好ましくは5〜100kDaのものが用いられる。
【0024】
アニオン性基を有する親水性重合体の調製方法としては、アニオン性基を有するモノマーを重合する方法と、アニオン性基を持たないモノマーを重合して得られる重合体に、アニオン性基を導入する方法のいずれも適用できる。
ここで、アニオン性基としては、好ましくは、スルホン酸基、リン酸基、またはそれらの塩を用いるが、これら以外にも、例えば、ホスフィン酸基(−phosphinic acid)、スルフィン酸基(−sulfinic acid)、スルフェン酸基(−sulfenic acid)、カルボン酸基、またはそれらの塩等を用いることができる。
【0025】
(ポリエーテル誘導体)
本発明の蛍光標識体を構成するポリエーテル誘導体としては、例えば、ポリエチレングリコール誘導体、ポリプロピレングリコール誘導体等を挙げることができる。
これらのポリエーテル誘導体は、例えば、ポリ(エチレングリコール)ビスアミノプロピル、ポリ(プロピレングリコール)ビスアミノプロピルのように、両端にアミノ基等の官能基を有する誘導体を、一端の官能基は親水性重合体と、他方の官能基は蛍光体と反応させることにより、導入されている。
ポリエーテル誘導体は、分子量が好ましくは0.1〜50kDa、より好ましくは10〜30kDaのものが用いられる。
【0026】
(蛍光体)
本発明の蛍光標識体を構成する蛍光体としては、例えば、インダセン誘導体、フルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体、インドカルボシアニン誘導体およびフラザン誘導体等を挙げることができる。
また、キサンテン色素体、シアニン色素体、クマリン色素体、ポルフィリン色素体、または複合色素体等の蛍光色素を用いることも出来るが、本発明で蛍光体として用いることのできるものは、これらに限定されるものではない。天然に存在する物質(天然由来物質)は、約200nm〜500nmの比較的短い波長で励起され発光する。従って、蛍光測定時に天然由来物質からの蛍光と誤認しないために、約500nmを越える波長、好ましくは約500nm〜900nmのスペクトル範囲の光によって励起される前記蛍光体が用いられる。
【0027】
(蛍光標識体)
本発明の蛍光標識体は、一つの親水性重合体に、複数のポリエーテル誘導体が共有結合により分鎖状に結合しており、その一部のポリエーテル誘導体の末端には、蛍光体が共有結合を介して結合した構造からなる。蛍光体が直接親水性重合体に結合していないため、各蛍光体同士は凝集しにくく、かつ、蛍光標識体は十分な親水性を維持できるため、認識物と結合しても変性しない。
【0028】
蛍光強度の増幅効果は、親水性重合体1個に対して導入された蛍光体の数が1個である蛍光標識体でも観察される。各測定系において高感度測定を行うためには、親水性重合体1個に対して、蛍光体を好ましくは1〜90個、より好ましくは3〜60個導入する。90個以上の蛍光体を導入することも可能だが、蛍光強度の増幅効果は徐々に低下する。
【0029】
(蛍光標識認識物)
前記蛍光標識体は、各種認識物を蛍光標識できる。ここで、認識物としては、蛋白質、ペプチド、抗体、抗原、ハプテン、受容体、核酸、ヌクレオチド、ヌクレオチド誘導体、天然または合成薬剤、合成オリゴマー、合成ポリマー、ホルモン、リンフォカイン、サイトカイン、トキシン、リガンド、炭水化物、糖、オリゴ糖、多糖等を挙げることができる。
【0030】
蛍光標識体と前記認識物との結合は、親水性重合体に存在するカルボキシル基、アミノ基等の官能基と、認識物に存在する官能基とを反応させて形成する。例えば、一方の官能基がカルボン酸の場合には、カップリング試薬を用いて反応させる方法のほか、カルボン酸ハロゲン化物、カルボン酸無水物、カルボン酸ヒドラジド、カルボン酸アジド、活性化エステル等に活性化した後、他方のアミノ基と反応させることができる。また、一方の官能基がアミノ基の場合には、イミノチオランによってチオール化した後、GMBS(N−(4−Maleimidobutyryloxy)succinimide)を用いて他方のアミノ基と結合させる方法がある。
蛍光標識認識物の調製にあたっては、前記蛍光標識体1個あたり、1〜4個の認識物を導入することが好ましい。
【0031】
(蛍光標識認識物を含む免疫測定試薬及び該試薬を用いた免疫測定方法)
本発明の蛍光標識認識物は、従来の免疫測定法に用いられる、抗体等を結合させた各種免疫測定用の固相試薬とともに、免疫測定に用いることができる。これらの試薬は、周知の1ステップ法、ディレイ1ステップ法、2ステップ法等のサンドイッチ法、競合法等に用いられ、免疫反応により、固相上の抗体等との間に免疫複合体を形成した蛍光標識認識物の蛍光強度を測定することで、免疫測定を実施できる。測定できる物質は、前記蛍光標識認識物と反応あるいは相互作用する物質であり、例えば、生体由来の各種抗原、抗体等を挙げることができる。これら抗原、抗体等を含む検体としては、例えば全血、血清、血漿、尿、リンパ液等の体液、便抽出液等を挙げることができる。
【0032】
以下、本発明を実施例等に基づき、さらに詳しく説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0033】
[製造例1]
(3−スルホプロピルメタクリレートと2−アミノエチルメタクリレート塩酸とからなる親水性重合体の調製)
3−スルホプロピルメタクリレート1.97g、2−アミノエチルメタクリレート塩酸0.33gを100mlのナスフラスコに入れ、これに無水ジメチルホルムアミド25mlを加えて溶解した。次に、反応開始剤としてAIBN163mgを加えて脱気し、アルゴンガスに置換した。65℃に加温したオイルバスにナスフラスコを浸し、3時間反応させた。反応終了後、ナスフラスコに乾燥アセトン150mlを加え、生じた沈殿物をガラスフィルターで濾取した。得られた沈殿物を30〜40℃に加温しながら真空乾燥させ、3−スルホプロピルメタクリレートと2−アミノエチルメタクリレート塩酸とからなる親水性重合体を2.1g得た。
【0034】
[実施例1]
(親水性重合体の調製)
2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸0.58g、N−アクリロキシサクシニミド1.13gを200mlのナスフラスコに入れ、これに無水ジメチルホルムアミド50mlを加えて溶解した。次に、反応開始剤としてAIBN163mgを加えて脱気し、アルゴンガスに置換した。65℃に加温したオイルバスにナスフラスコを浸し、3時間反応させた。反応終了後、ナスフラスコに乾燥酢酸エチル150mlを加え、生じた沈殿物をガラスフィルターで濾取した。得られた沈殿物を30〜40℃に加温しながら真空乾燥させ、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とN−アクリロキシサクシニミドとからなる親水性重合体を1.3g得た。
【0035】
(親水性重合体へのポリエチレングリコール誘導体の導入)
ポリエチレングリコール−ビス−3−アミノプロパン(アルドリッチ社製)約4.8g(親水性重合体の約200倍量)の50ml水溶液を調製し、塩酸を用いてpH7〜8に合わせた。この溶液に、上記の2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とN−アクリロキシサクシニミドとからなる親水性重合体500mg(平均分子量30,000)のジメチルスルホキシド溶液を、撹拌しながら少量ずつ加えた。室温で3時間反応後、スーパーデックス−200(ファルマシア社製;35×600mm、50mM CHES−NaOH pH10緩衝液で平衡化)でゲル濾過し、未反応のポリエチレングリコール−ビス−3−アミノプロパンを取り除いた。目的物を含むフラクションを集め、透析膜を用いて一昼夜透析後、凍結乾燥し、ポリエチレングリコール−ビス−3−アミノプロパンが導入された2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とN−アクリロキシサクシニミドとからなる親水性重合体を約720mg得た。
【0036】
(蛍光標識体の調製)
次いで、上記のポリエチレングリコール−ビス−3−アミノプロパンが導入された親水性重合体5mgを秤量し、50mMリン酸緩衝液1mlに溶解した。次に、この溶液を攪拌しながら、蛍光体4,4−ジフルオロ−5−(2−チエニル)−4−ボラ−3a,4a−ジアザ−s−インダセン−3−プロピオン酸スクシミニジルエステル(モレキュラープローブス社製、以下、BODIPY−560と略記)2.7mg/200μl乾燥ジメチルスルホキシド溶液を30分かけて少量ずつ添加し、添加終了後約2時間攪拌した。攪拌終了後、純水で平衡化したPD−10カラム(ファルマシア社製)を用いて、未反応のBODIPY−560とジメチルスルホキシドを取り除いた。目的物を含むフラクションを集め、分画分子量1万の限外ろ過器(ミリポア社製;セントリプレップ−10)で1ml程度まで濃縮した。濃縮物を凍結乾燥し、目的物であるBODIPY−560で標識化された蛍光標識体を3.7mg得た。
【0037】
[実施例2]
(親水性重合体の調製)
3−スルホプロピルメタクリレート1.23g、N−アクリロキシサクシニミド0.98gを200mlのナスフラスコに入れ、これに無水ジメチルホルムアミド25mlを加えて溶解した。次に、反応開始剤としてAIBN163mgを加えて脱気し、アルゴンガスに置換した。65℃に加温したオイルバスにナスフラスコを浸し、1時間反応させた。反応終了後、ナスフラスコに乾燥酢酸エチル150mlを加え、生じた沈殿物をガラスフィルターで濾取した。得られた沈殿物を30〜40℃に加温しながら真空乾燥させ、3−スルホプロピルメタクリレートとN−アクリロキシサクシニミドとからなる親水性重合体を1.6g得た。
【0038】
(親水性重合体へのポリエチレングリコール誘導体の導入)
ポリエチレングリコール−ビス−3−アミノプロパン(アルドリッチ社製)約1.4g(親水性重合体の約200倍量)の50ml水溶液を調製し、塩酸を用いてpH7〜8に合わせた。この溶液に、上記の3−スルホプロピルメタクリレートとN−アクリロキシサクシニミドとからなる親水性重合体100mg(平均分子量45,000)のジメチルスルホキシド溶液を、撹拌しながら少量ずつ加えた。室温で3時間反応後、スーパーデックス−200(ファルマシア社製;35×600mm、50mM CHES−NaOH pH10緩衝液で平衡化)でゲル濾過し、未反応のポリエチレングリコール−ビス−3−アミノプロパンを取り除いた。目的物を含むフラクションを集め、透析膜を用いて一昼夜透析後、凍結乾燥し、ポリエチレングリコール−ビス−3−アミノプロパンが導入された3−スルホプロピルメタクリレートとN−アクリロキシサクシニミドとからなる親水性重合体を約150mg得た。
【0039】
(蛍光標識体の調製)
次いで、上記のポリエチレングリコール−ビス−3−アミノプロパンが導入された親水性重合体5mgを秤量し、1mlの50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で溶解した。次に、この溶液を攪拌しながら、蛍光体N−エチル−N−{5−(N″−サクシニミジロキシカルボニル)ペンチル}インドカルボシアニン塩酸塩(同仁化学社製、以下、IC3と略記)0.32mg/200μl乾燥ジメチルスルホキシド溶液を30分かけて少量ずつ添加し、添加終了後約2時間攪拌した。攪拌終了後、純水で平衡化したPD−10カラム(ファルマシア社製)を用いて、未反応のIC3とジメチルスルホキシドを取り除いた。目的物を含むフラクションを集め、分画分子量1万の限外ろ過器(ミリポア社製;セントリプレップ−10)で1ml程度まで濃縮した。濃縮物を凍結乾燥し、目的物であるIC3で標識化された蛍光標識体を3.8mg得た。
【0040】
[実施例3]
(蛍光標識体の調製)
実施例2で用いた、上記のポリエチレングリコール−ビス−3−アミノプロパンが導入された3−スルホプロピルメタクリレートとN−アクリロキシサクシニミドとからなる親水性重合体5mgを秤量し、50mMリン酸緩衝液1mlに溶解した。次に、この溶液を攪拌しながら、BODIPY−560(モレキュラープローブス社)2.7mg/200μl乾燥ジメチルスルホキシド溶液を、30分かけて少量ずつ添加し、添加終了後約2時間攪拌した。攪拌終了後、純水で平衡化したPD−10カラム(ファルマシア社製)を用いて、未反応のBODIPY−560とジメチルスルホキシドを取り除いた。目的物を含むフラクションを集め、分画分子量1万の限外ろ過器(ミリポア社製;セントリプレップ−10)で1ml程度まで濃縮した。濃縮物を凍結乾燥し、目的物であるBODIPY−560で標識化された蛍光標識体を4.5mg得た。
【0041】
[実施例4]
(蛍光標識認識物の調製)
αフェトプロテイン抗体2ml(2mg/ml、pH7 リン酸緩衝液溶液)をPD−10カラム(ファルマシア社製)で100mM炭酸緩衝液pH8.5に置換した。緩衝液を置換後、イミノチオラン117μl(1mg/ml)加え、37℃で1時間撹拌しながら反応させた。反応終了後、限外ろ過器(ザルトリウス社製;分子量30,000カット)で2ml以下まで濃縮した。濃縮後、PD−10カラム(pH6.3、50mMリン酸緩衝液で平衡化)で緩衝液を置換し、イミノチオラン化αフェトプロテイン抗体を得た。
次に、実施例1で調製した蛍光標識体0.9mg(0.06μmol)秤量し、pH7のリン酸緩衝液に溶解した。この中に、GMBS(同仁化学社製)6.2mg/mlジメチルホルムアミド溶液185μlを加えた。暗所で1時間反応後、PD−10カラム(pH6.3、50mMリン酸緩衝液で平衡化)で未反応のGMBSとジメチルホルムアミドを取り除き、GMB化蛍光標識体分画を得た。
上記イミノチオラン化αフェトプロテイン抗体とGMB化蛍光標識体を混和し、暗所で一昼夜反応させた。反応終了後、スーパーデックス200(ファルマシア社製)を用いて、BODIPY−560で蛍光標識化された抗体、すなわち蛍光標識認識物を得た。
【0042】
(蛍光標識体の蛍光強度の測定)
[試験例1]
(BODIPY−560で標識化された蛍光標識体の蛍光強度の測定)
実施例1で調製した蛍光標識体1mgを秤量し、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)1mlに溶解し、1mg/ml溶液とした。この溶液をさらに1/100希釈し、10μg/mlとした。この溶液を上記緩衝液で3希釈し、1/2187の濃度のものまでサンプルを調製した。これら希釈サンプルの蛍光強度を、蛍光光度計で励起波長563nm、蛍光波長573nmで測定した。結果を図2に示す。図2のグラフの縦軸は蛍光強度(563/573nmと略記)を示し、横軸はBODIPY−560の濃度を示す。
【0043】
[試験例2]
(IC3で標識化された蛍光標識体の蛍光強度の測定)
実施例2で調製した蛍光標識体1mgを秤量し、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)1mlに溶解し、1mg/ml溶液とした。この溶液をさらに1/100希釈し、10μg/mlとした。この溶液を上記緩衝液で3希釈し、1/2187の濃度のものまでサンプルを調製した。これら希釈サンプルの蛍光強度を、蛍光光度計で励起波長552nm、蛍光波長566nmで測定した。結果を図3に示す。図3のグラフの縦軸は蛍光強度(552/566nmと略記)を示し、横軸はIC3の濃度を示す。
【0044】
[参考例1]
(BODIPY−560単独での蛍光強度の測定)
BODIPY−560を少量のジメチルスルホキシドで溶解し、50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で希釈した。さらに、この緩衝液で4希釈を行い、終濃度として225nM〜0.3nMの濃度のサンプルを調製した。調製したBODIPY−560溶液を、励起波長563nm、蛍光波長573nmで蛍光強度を測定した。結果を図4に示す。図4のグラフの縦軸は蛍光強度(563/573nmと略記)を示し、横軸はBODIPY−560の濃度を示す。
【0045】
[参考例2]
(IC3単独での蛍光強度の測定)
IC3のジメチルホルムアミド溶液を調製し、更に50mMリン酸緩衝液(pH7.0)で3希釈を行い、終濃度として277nM〜0.126nMの濃度のサンプルを調製した。調製したIC3溶液を、励起波長552nm、蛍光波長566nmで蛍光強度を測定した。結果を図5に示す。図5のグラフの縦軸は蛍光強度(552/566nmと略記)を示し、横軸はIC3の濃度を示す。
【0046】
図2および4のグラフを比較すると、例えば、BODIPY−560単独で6nMの濃度で得られる蛍光強度は、蛍光標識体中のBODIPY−560では、0.1nMの濃度で得られることから、本発明の蛍光標識体中のBODIPY−560は、蛍光強度が60倍程度増幅されていることが確認された。
【0047】
図3および5のグラフを比較すると、例えば、IC3単独で10nMの濃度で得られる蛍光強度は、蛍光標識体中のIC3では、0.8nMの濃度で得られることから、本発明の蛍光標識体中のIC3は、蛍光強度が13倍程度増幅されていることが確認された。
【0048】
[実施例5]
(蛍光標識認識物を用いた免疫測定)
実施例4で調製した、蛍光標識認識物を用いて、ELISAによる免疫測定を行った。
前記蛍光標識認識物と認識部位を異にするαフェトプロテイン抗体を固定化した96穴ELISAプレート3枚に、αフェトプロテイン抗原(0〜50ng/ml)を1濃度につき2穴それぞれに50μl加えた。次に、実施例4で調製した蛍光標識認識物をリン酸緩衝液(pH7.0、50mM)で1/10倍希釈し、50μlづつ添加した。添加後、37℃の恒温槽で振盪させながら15分、10分および5分ずつ反応させた。反応終了後、0.01%トライトンX−100を含むトリス−塩酸緩衝液(pH7)で4回洗浄した。洗浄後、エタノール100μlを加え、蛍光プレートリーダー(ARVO−sx、ワラック社製)で蛍光強度を測定した。結果を図6に示す。図6のグラフの縦軸は蛍光強度(ARVO Intensity)を示し、横軸はαフェトプロテイン抗原(AFPと略記)の濃度を示す。
【0049】
[比較例1]
(アルカリ性フォスファターゼ標識抗体の調製とELISAによるαフェトプロテインの測定)
市販のアルカリ性フォスファターゼ(ベーリンガーマンハイム社製)278μl(18mg/ml)を0.1Mリン酸緩衝液で平衡化したPD−10カラム(ファルマシア社製)を用いて緩衝液を置換した。得られたアルカリ性フォスファターゼをビバスピン(ザルトリウス社製、分子量30,000カット)で1mlまで濃縮し、この中にジメチルホルムアミドに溶解したGMBS(同仁化学社)5mg/mlを20μl加えた。室温で1時間反応後、前記と同じPD−10カラムを用いて未反応のGMBSとジメチルホルムアミドを取り除き、GMB化アルカリ性フォスファターゼを得た。
次に、αフェトプロテイン抗体2ml(2mg/ml、pH7リン酸緩衝液溶液)をPD−10カラム(ファルマシア社)で100mM炭酸緩衝液(pH8.5)に置換した。緩衝液を置換後、イミノチオラン117μl(1mg/ml)加え、37℃で1時間撹拌しながら反応させた。反応終了後、限外ろ過器(ザルトリウス社製、分子量30,000カット)で2ml以下まで濃縮した。濃縮後、PD−10カラム(pH6.3、50mMリン酸緩衝液で平衡化)で緩衝液を置換し、イミノチオラン化αフェトプロテイン抗体を得た。
前記GMB化アルカリ性フォスファターゼとイミノチオラン化αフェトプロテイン抗体を混和し、室温で2時間緩やかに撹拌し、反応させた。反応終了後スーパーデックス−200で精製し、アルカリ性フォスファターゼで標識化されたαフェトプロテイン抗体を得た。
【0050】
得られた前記標識抗体を用いて、αフェトプロテインの測定を行った。はじめに、標識抗体と認識部位を異にするαフェトプロテイン抗体を固定化した96穴ELISAプレート3枚に、αフェトプロテイン抗原0〜50ng/mlを1濃度につき2穴それぞれに50μl加えた。次に前記の標識抗体を、リン酸緩衝液(pH7.0、50mM)で1/2000倍希釈し、50μlそれぞれ添加した。添加後37℃の恒温槽で振盪させながら15分、10分および5分ずつ反応させた。反応終了後、0.01%トライトンX−100を含むトリス−塩酸緩衝液(pH7)で4回洗浄した。洗浄後、10mM p−ニトロフェニルリン酸ナトリウムを含む0.1Mジエタノールアミン−塩酸緩衝液(pH10.0、1mM塩化マグネシウム入り)基質液100μlを加え、37℃の恒温槽で振盪させながら酵素反応を20分間行った。反応終了後、1M水酸化ナトリウムを50μl加え、酵素反応を停止した。十分に撹拌した後、プレートリーダー(MTP−32、コロナ社製)で波長405/630nmにて吸光度の測定を行った。その結果を図7に示す。図7のグラフの縦軸は吸光度を示し、横軸はαフェトプロテイン抗原(AFPと略記)の濃度を示す。
【0051】
図6および7のグラフを比較すると、標識認識物をELISAプレートに固定化する時間が同じ場合は、本発明のBODIPY−560で標識化する方法は、アルカリ性フォスファターゼで標識化する方法と同等の検出感度を有することが確認された。ただし、アルカリ性フォスファターゼで標識化する方法では、酵素反応時間を延長することにより、感度はさらに上昇し、BODIPY−560で標識化する方法では、蛍光検出における照射光のエネルギーを高くすれば、感度はさらに上昇する。
【0052】
したがって、本発明の蛍光標識体を用いる方法は、従来の酵素反応を利用する方法と比較すると、同等の検出感度を持つうえ、高価な基質を必要とせず、酵素と基質を反応するステップを省略できるため、短時間での測定が可能であることが確認された。また、多数の蛍光体を抗体等に導入しても、蛍光標識体は変性を起こさないことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、既存の蛍光体を利用して、蛍光強度の高い標識体を提供することができる。また、該蛍光標識体を用いることで、特殊な設備等を必要とせず、免疫測定等をより高感度で安価にかつ迅速に実施できるため、医療分野をはじめ他方面に有用な手段を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】本発明の蛍光標識体を示す模式図である。
【図2】蛍光標識体中のBODIPY−560の蛍光強度を示すグラフである。
【図3】蛍光標識体中のIC3の蛍光強度を示すグラフである。
【図4】BODIPY−560単独での蛍光強度を示すグラフである。
【図5】IC3単独での蛍光強度を示すグラフである。
【図6】BODIPY−560で標識化された蛍光標識認識物を用いて行なった免疫測定の結果を示すグラフである。
【図7】アルカリ性フォスファターゼで標識化された標識認識物を用いて行なった免疫測定の結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0055】
1・・・親水性重合体、 2・・・親水性置換基、 3・・・ポリエーテル誘導体、 4・・・蛍光体、 5・・・アニオン性基


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン性基を有する親水性重合体、ポリエーテル誘導体および蛍光体からなる蛍光標識体であって、
前記蛍光体が、ポリエーテル誘導体を介して親水性重合体に結合されていることを特徴とする蛍光標識体。
【請求項2】
前記親水性重合体が、アクリル酸誘導体が重合されたものであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光標識体。
【請求項3】
前記親水性重合体が、アクリル酸、メタクリル酸、2−アミノエチルメタクリレート、3−スルホプロピルメタクリレート、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−エチルメタクリル酸グルコシドおよびN−アクリロキシサクシニミドからなる群より任意に選ばれる一種類以上のものが重合されたものであることを特徴とする請求項1に記載の蛍光標識体。
【請求項4】
前記親水性重合体が、分子量5〜500kDaのものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の蛍光標識体。
【請求項5】
前記親水性重合体に含まれるアニオン性基が、スルホン酸基、リン酸基、またはそれらの塩のいずれかであることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の蛍光標識体。
【請求項6】
前記ポリエーテル誘導体が、ポリエチレングリコール誘導体であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の蛍光標識体。
【請求項7】
前記ポリエーテル誘導体が、分子量0.1〜50kDのものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の蛍光標識体。
【請求項8】
前記蛍光体の数が1〜90個であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一項に記載の蛍光標識体。
【請求項9】
前記蛍光体が、インダセン誘導体、フルオレセイン誘導体、ローダミン誘導体、インドカルボシアニン誘導体およびフラザン誘導体のいずれかであることを特徴とする請求項1〜8のいずれか一項に記載の蛍光標識体。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の蛍光標識体によって標識化された蛍光標識認識物。
【請求項11】
請求項10に記載の蛍光標識認識物を含む免疫測定試薬。
【請求項12】
請求項10に記載の蛍光標識認識物を用いる免疫測定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−329976(P2006−329976A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−115899(P2006−115899)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(306008724)富士レビオ株式会社 (55)
【Fターム(参考)】