蛍光測定を用いて脂質プロファイルを作成するための分析
本発明は、試料溶液のための脂質プロファイルを作成する方法に関する。本方法は、試料の第一アリコートにおける全リポタンパクの濃度を蛍光分析を用いて決定する第一工程;試料の第二アリコートにおける総コレステロールの濃度を蛍光分析を用いて決定する第二工程; 及び試料の第三アリコートにおけるHDLの濃度を蛍光分析を用いて決定してもよい第三工程を含む。全リポタンパクの濃度と、総コレステロールの濃度を、他の脂質成分を算出するために用い、それによって、脂質プロファイルを作成する。本発明は、また、本発明の方法を行うために用いることができる装置に関する。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は試料混合物において異なる種類の脂質分子を区別する分析システムに関する。特に、本発明は、脂質プロファイルを作成するために血漿又は血清において特定の脂質の濃度を決定する方法に関する。本発明は、さらに、前記方法を行う装置に関する。
脂質は、生物に存在する異種類の有機化合物である。それらは、水に不溶であるが、有機溶媒に可溶である。脂質は、概して2種類: (i)複合脂質と(ii)単純脂質に分類される。複合脂質は、長鎖脂肪酸のエステルであり、グリセリド、糖脂質、リン脂質、コレステロール、ワックスが挙げられる。単純脂質は、脂肪酸を含有せず、ステロイド(例えば、コレステロール)、テルペンが挙げられる。
脂質は、タンパク質と組合わせて、コレステロールやトリグリセリドのような脂質が血液やリンパ中で運搬される形であるリポタンパクを形成することができる。血漿に見られるリポタンパクは、3つの主な分類: (i)高密度リポタンパク(HDL)、(ii)低密度リポタンパク(LDL)、(iii)超低密度リポタンパク(VLDL)に、中間型リポタンパク(IDL)と共に分かれる。簡潔のために、“血清”という用語が本明細書に用いられるが、“血清”について述べることは、血漿又は血清について述べることと解釈されなければならない。
血漿中の種々のリポタンパクの濃度とアテローム性動脈硬化症のリスク、即ち、心臓発作となり得る、血管壁に有害なプラークの発生との間に強力な関係があることは十分に実証されている。異なる種類のリポタンパク(HDL、LDL、VLDL)が各々アテローム性動脈硬化症において異なる役割を果たすことも知られている。例えば、HDLは抗アテローム生成的であるとみなされるが、LDLは非常にアテローム生成的であることが知られる(アテローム性動脈硬化症発症と密接に相関して担持されるコレステロール)。VLDLは、わずかにアテローム生成的であると考えられ、女性においてより重要である。
それ故、血液中の種々の脂質成分の各々の相対濃度の知識(コレステロール、トリグリセリド、リポタンパク、特にLDL)は、これらの脂質の血中濃度が不適当である患者を治療する際に臨床医を援助するので有利である。患者の脂質プロファイルの知識を有することにより、臨床医に最も有利になることが理解される。
血液中の脂質成分の一部の濃度を決定するための分析が開発された。このような分析は、通常、まず最初に患者から血液試料を採取することを必要とし、その後、分析のために臨床検査室に送られる。このような分析は、費用のかかる装置を用いて行われなければならず且つ結果を作成するためにかなりの時間がかかる。このことにより、治療が遅延する。さらにまた、試験を必要とし、それ故、費用がかかる。さらに、ラボにおいて用いられる装置は、容易な携帯用でないので、GP、又は看護婦よって用いることができず、往診、又は家庭用の試験キットとしてさえ行うことができない。“治療時点”でラボ分析を再現することを試みるデバイスが最近開発されたが、これらは、費用がかかり且つ作動させるために専門の使用者を必要とすることがわかった。従って、血清中の脂質プロファイルを分析するための改善された方法、及びこのような方法を行うための簡単で相対的に安価な装置が求められている。
【0002】
血清は、種々のタンパク質の複合混合物であり、異なる種類のリポタンパクの濃度を分離し直接測定するための方法は既知であるが、このような方法は、複雑で費用がかかる。従って、臨床検査室において広く用いられるリポタンパク分析の一方法は、重要なLDL濃度が総コレステロール濃度、トリグリセリド濃度及びHDL濃度の測定から下記フリーデワルド式を用いて算出される間接的な方法である。
(CH-LDL) = CH - (CH-HDL) - TG/5
(ここで、CHは総コレステロール濃度であり、(CH-LDL)はコレステロールLDL濃度であり、(CH-HDL)はコレステロールHDL濃度であり、TGは、トリグリセリド濃度である(遊離グリセロールの背景濃度を含む)。
HDL濃度、総コレステロール濃度及びトリグリセリド濃度は、LDL濃度が算出され得る前に最初に決定されなければならない。HDL濃度、コレステロール濃度又はトリグリセリド濃度の測定におけるあらゆる誤差がLDL濃度の計算において倍加することは理解される。さらに、トリグリセリド濃度の従来の測定は、トリグリセリドと遊離グリセロールを区別せず、それらの濃度がLDL濃度の計算に誤差をさらに導入して変動させてしまう。従って、LDL濃度の計算は本質的に誤差を含み、それは極めて有意であり得る。このような誤差は、例えば、広く使われているLDL低下治療(例えば、食事、薬等)の進行をモニタする際の具体的な問題であり、LDL濃度の比較的小さい減少(典型的には数パーセントの程度)を正確にモニタするのに必要であり、トリグリセリドレベルが劇的に変化することがある。このことは、冠動脈性心疾患の病歴をもつ患者の治療に特に強烈である。
血清のリポタンパク濃度を分析するための代替的方法は、国際出願公開第01/53829A1号に開示されている。この引例は、蛍光プローブとしての特定の有機発光団、4-ジメチルアミノ-4'-ジフルオロメチルスルホニルベンジリデンアセトフェノン(DMSBA)の使用に関する。K-37として確認されるプローブの式を以下に示す。
【0003】
【化1】
【0004】
プローブK-37は、水中で発光しないが、リポタンパク水溶液、例えば、血清中で強く発光する。特に、蛍光の強度は血清のリポタンパク含量に非常に依存し、従って、K-37は、存在することができるリポタンパクの濃度を測定するために蛍光プローブとして用いることができる。即ち、K-37は、リポタンパクの脂質と結合したときに蛍光を発し、適切な放射線波長で励起される。従って、リポタンパク混合物の時間分解蛍光減衰の測定は、その混合物に存在する異なるリポタンパク(LDLとVLDL)の相対濃度に関して直接の情報を示すために用いることができる。
しかしながら、K-37時間分解蛍光減衰を用いることによる問題は、その測定が複雑であり且つ費用のかかる装置を必要とすることである。さらにまた、得られたデータの高度に技術的なコンピュータ解析を必要とし、正しく説明するために時間がかかってしまう。従って、血液中の脂質成分の濃度を決定するためのK-37時間分解蛍光減衰の使用は、治療の過程を判断したい場合の臨床医にとって重大な制限を有する。
それ故、プローブK-37による時間分解蛍光分析を用いることにより、試料中の個々のリポタンパクの濃度を決定するのに利用できる方法があったとしても、この方法が多くの制限を有することが理解される。
臨床医が包括的な脂質プロファイルを得たい場合、コレステロール、及びリポタンパクが定量化されることが重要である。コレステロールは、主に、LDLの形で血流で運搬され、肝臓でLDL受容体によって血液から取り除かれる。ある個体において遺伝子の欠損として存在するLDL受容体が欠けていることは、罹患した個体の血液中のコレステロールのレベルが高い原因であると考えられ、アテローム性動脈硬化症になりやすい。
リーベルマン・バーチャード(L-B)反応分析は、血液中の総コレステロールの測定に周知の方法であり、‘ゴールドスタンダード’であるとみなされる。典型的なL-B分析において、反応試薬が最初に調製される(例えば、30%の氷酢酸、60%の酢酸無水物、及び10%の硫酸の水溶液からなる)。第2に、5mlのこのLB試薬が0.2mlの血漿由来の試料に添加され、共に混合され、その後、20分間放置される。L-B反応は、通常は、血漿から有機溶媒に抽出されたコレステロールを含む試料について行われる。L-B反応の生成物は、2つの着色生成物であり、従来の吸光度測定を用いて測定することができる。その後、生成物の吸光度、コレステロールの濃度に関連がある濃度が分光光度計を用いて測定される。総コレステロール濃度は、コレステロール標準を用いてコレステロール濃度に対する吸光度の検定曲線から決定することができる(Burke et al., Clin. Chem. 20(7), 794-801 (1974))。
【0005】
しかしながら、L-B反応分析による問題は、相対的に多量の試薬を必要し、試薬が非常に腐食性であり且つ特別な配慮を必要とするので、明白な欠点であることである。また、通常は、コレステロールが血漿から抽出され、この抽出工程が分析において扱いにくい特別な工程を構成することが必要とされる。従って、L-B反応分析は、かなり多量の試料を必要とし、また、L-B反応分析に腐食性の試薬を用いることから、多くの実験において酵素結合分析が取って代わってきた。しかしながら、総コレステロールの濃度を決定するためのこのような酵素結合分析の使用は、実施するのにより容易でより安全な傾向があるが、L-B分析より正確でない。生成される結果がより正確でなければ、臨床医は、特に冠動脈性心疾患危険因子がより高い個体について治療の過程を判断する場合、L-B反応分析の正確さを好む。
それ故、血液試料中のコレステロール濃度を決定するのに利用できる方法があるとしても、これらの方法も多くの制限を有することは理解される。
それ故、本発明の実施態様の目標は、従来技術による問題を取り除くか又は緩和するとともに、個体に対して脂質プロファイルを決定するための改善された方法を提供することである。このような方法は、個体から採取される試料において少なくとも全体のリポタンパクとコレステロールの濃度を測定する改善された手段を必要とする。目標は、さらに前記方法を行うための装置を提供することである。
本発明の第一態様によれば、試料中に含有する脂質のプロファイルを作成する方法であって、
(i)試料の第一アリコートにおける全リポタンパクの濃度を蛍光分析を用いて決定する工程;
(ii)試料の第二アリコートにおける総コレステロールの濃度を蛍光分析を用いて決定する工程; 及び
全リポタンパクの濃度と総コレステロールの濃度を用いて脂質プロファイルを作成する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0006】
“全リポタンパク”という用語は、試料中の少なくともVLDL、HDL、LDL、IDL、及びカイロミクロンの総体的な濃度を意味する。
“総コレステロール”という用語は、試料中のコレステロールの総濃度を意味する。
“脂質プロファイル”という用語は、試料中の脂質成分(即ち、全リポタンパクと総コレステロール)の濃度又は相対濃度を意味する。
つまり、第一態様の方法は、試料中の総コレステロールと全リポタンパク(VLDL、HDL、LDL、IDLと、カイロミクロン)の濃度を決定するものである。試料中に存在するほとんどの脂質がリポタンパクに結合していると考えられる。それ故、試料中の全リポタンパク濃度が試料中の全脂質(TL)の濃度に等しいと考えられる。
“全脂質”(TL)という用語は、試料中の脂質成分(即ち、総コレステロールと、トリグリセリド)の総濃度を意味する。
全脂質濃度(TL)は、トリグリセリドの濃度と、総コレステロールとそのエステルの濃度に等しいと考えられる。つまり、次式から全脂質濃度(全リポタンパク濃度に等しい-工程(i))から総コレステロール濃度(工程(ii))を差し引くことによって試料中のトリグリセリドの濃度を算出することが可能である。
TG = [TL] - [CH]
(ここで、CHは総コレステロール濃度であり、TLは全脂質濃度であり、TGは、トリグリセリド濃度である。)
臨床的ラボにおいて行われる従来の試験は、全リポタンパクを測定しない。つまり、従来は、まずコレステロールの濃度を決定し、その後コレステロールの濃度をトリグリセリドの濃度に加えて全リポタンパク濃度を決定することが必要である。しかしながら、本発明の方法の本発明者らは、臨床的ラボにおけるトリグリセリドの従来の測定が血液中で自然に循環するグリセロールの測定に依存することから実質的な誤差を受けやすいことを見出した。つまり、有利には、本発明の方法は、リポタンパク粒子の数(容積)が工程(i)を用いて直接測定されて、全リポタンパクの濃度を決定し、全脂質濃度に等しいとすることから、この誤差を受けない。つまり、試料中の循環しているグリセロールによるトリグリセリド濃度の誤差が取り除かれる。
試料は、脂質プロファイルを必要とする食品であってもよい。好ましくは、試料は生体試料であり、試験される被検者から得ることができる。“被検者”は、哺乳動物であり、好ましくはヒト被検者である。試料は、あらゆる生体液、例えば、血清又は血漿、又はリンパを含むことができる。試料が血清を含むことが特に好ましい。
【0007】
工程(i)
第一態様の方法の工程(i)は、試料の第一アリコートに、リポタンパクに結合し、且つそれに結合した場合に適切な励起下で蛍光を発する、プローブ物質を添加する工程を含む。
プローブ物質がK-37であることが好ましい。本発明者らは、臨床医が迅速且つ効率よく脂質プロファイルを得たい場合に特に有用である生体分子におけるリポタンパクを測定するためのK-37の使用に基づいて簡単にした分析を開発した。K-37蛍光測定を用いて血液試料中の全リポタンパク(即ち、HDL、LDL、及びVLDL)の濃度を決定するために、本発明者らは、種々の種類のリポタンパクに結合したプローブ物質からの蛍光応答が、その組成(即ち、試料中のHDL:LDL:IDL:VLDLの比)に関係なく、或る全リポタンパク濃度、即ち、全リポタンパク濃度として実質的に同じはずであることが好ましいと考えた。従って、プローブ物質から蛍光強度の応答が、臨床検査において直面する試料から予想されるリポタンパク分子の濃度の範囲全体に実質的に直線的であるような方法で用いられることが好ましい。
本発明者らはいかなる仮説によっても縛られたくないが、プローブ物質からの蛍光強度は、試料中の具体的なリポタンパク分子(HDL、LDL、IDL又はVLDL)に対する親和性、そのリポタンパク分子複合体の範囲内の環境による蛍光量子収率、また、一緒に密接に装填されるプローブ分子間のエネルギー転移による蛍光消光の程度に左右されると考えられる。つまり、本発明者らは、簡単な蛍光測定によって全リポタンパクの正確な測定をするために用いることができるプローブ物質の適切な濃度を選ぶことが可能なものであると結論した。本発明者らは、さらに、このようなプローブ濃度が、好ましくは、HDLに対してより高い親和性を有するVLDLとLDLに比較して、HDLにおけるK-37のより高い量子収率、それ故、HDL内のより高程度の消光と釣り合い、全てのリポタンパク粒子に対して一定の蛍光シグナル応答を生じると考えた。
【0008】
それ故、本発明者らは、真の血清試料において直面するリポタンパク濃度の範囲全体に、プローブ物質、K-37の蛍光と各リポタンパク粒子型(HDL、LDLとVLDL)のリポタンパク濃度との間に直線的で等しい関係を得ることが可能か調べるために一連の実験を行った。驚いたことに、K-37の蛍光とリポタンパク濃度との間に直線関係があるK-37の所定の濃度があることがわかった。
つまり、試料溶液中の全リポタンパクの濃度は、試料の第一アリコートに、試料中のリポタンパクに結合し、そのように結合したときに適切な励起下で蛍光を発する、0.1mM-1.0mMのK-37を添加し; 蛍光分析を用いて試料中の全リポタンパク濃度を決定することにより測定されることが好ましい。
有利には0.1-1.0mMのK-37の濃度で、蛍光測定分析から得られるシグナルの歪みが驚くほどかなり少ないので、全リポタンパクの濃度のより正確な分析が可能である。
試料に添加されるK-37の濃度は、適切には約0.2-1.0mM、より適切には約0.3-0.9mM、さらにより適切には約0.5-0.8mMであるのがよい。試料に添加されるK-37の濃度は、好ましくは約0.65-0.75mMである。0.65mMのK-37が好ましい濃度であり、特に好ましい濃度は約0.7mMのK-37である。本発明者らは、タンパク質を含有する生体試料が分析される場合、0.7mMがこのプローブの好ましい濃度であるが、0.65mMのK-37が多くの実験条件に有用であることがわかった。
つまり、好ましい実施態様においては、本発明の方法の工程(i)において約0.7mMのプローブ物質、K-37を第一アリコートに添加する。
工程(i)は、好ましくは約400nm-500nm、より好ましくは約420nm-480nm、さらにより好ましくは約440nm-470nmの励起波長で試料を励起することを必要とする。約450-470nmのいかなる波長の励起も特に好ましいが、約450nmの特に好ましい励起波長を用いるのがよい。
本方法は、好ましくは約500-650nm、より好ましくは約520nm-620nmの発光波長で蛍光を観測することを含む。約540nm(又はそれ以上)の特に好ましい発光波長を用いるのがよく、全リポタンパク濃度(即ち、HDL、IDL、LDL及びVLDLの濃度、存在する場合にはカイロミクロンも)を決定するのに最も正確な読み取りが観測されるのがよい。
【0009】
工程(ii)
試料中のコレステロール濃度を決定するために用いられる従来の“ゴールドスタンダード”法は、吸光度ベースの分析であるリーベルマン・バーチャード(L-B)反応分析を用いることによるものである。L-B反応であるスキームが図8として示される。
本発明者らは、L-B反応を調べ、驚いたことにL-B反応の生成物が蛍光を発したことがわかった。600nm又はその前後のバンドの吸光度を測定することによって従来のL-B分析を行った(図9を参照のこと)。しかしながら、より短い波長(即ち、約500nm未満)で吸収バンドを励起する場合、L-B反応の生成物は、驚くべきことに、極めて蛍光性であった。図10は、L-B生成物の蛍光発光スペクトルを示すグラフであり、驚くべきことに、蛍光が470-600nmの範囲に及ぶことがわかった。
従って、本発明の方法の工程(ii)は、試料の第二アリコートに、リーベルマン・バーチャード(L-B)反応を引き起こす試薬を添加することを含む。しかしながら、従来のL-B反応分析のように600nm以上の波長において着色した生成物の吸光度を測定する代わりに、本発明の方法の工程(ii)は、試料中のコレステロール濃度を決定するために蛍光を測定することを含む。
工程(ii)は、試料に、リーベルマン・バーチャード(L-B)反応を引き起こす試薬を添加し、蛍光分析を用いて試料中の総コレステロール濃度を決定することにより、総コレステロールの濃度を決定することを含むことが好ましい。
この工程(ii)の他の利点は、液体試料(例えば、血清又は血漿)が本方法において直接用いることができることである。このことは、L-B試薬と合わせる前に一次試料からコレステロールの抽出を必要とするのがよい従来のL-B反応分析とは対照的である。
好ましくは、試料に添加される試薬が試料中に有する総コレステロール、即ち、そのコレステロールとエステルの全ての反応を生じ、試料中に有するものであるリポタンパク(例えば、LDL又はHDL)と会合することができる。L-B試薬は、好ましくは、図8に示すように、試料中のコレステロールに二重結合を付加する。従って、“L-B反応を生じる試薬”という用語は、コレステロールを含有する試料に添加した場合、試料中のコレステロールをますます不飽和にさせるか又は誘発することを意味する。
【0010】
工程(ii)は、包括的なリーベルマン・バーチャード反応分析(L-B)、又は当業者に既知である、L-B反応、例えば、エイベル・ケンダル(Abell-Kendal)分析に基づくのがよいコレステロールの濃度を決定するための他の分析と同じ試薬を使うことができる(Abell et al., J. Biol. Chem. 195 (1) p357-366)。しかしながら、従来のL-B反応分析のように550nmで着色した生成物の吸光度を測定する代わりに、工程(ii)は、試料中のコレステロール濃度を決定するために蛍光を測定することを含む。
L-B反応試薬は、3種類の異なる試薬を含むことができる。
第一試薬は、コレステロール溶媒を含む。適切なコレステロール溶媒の例としては、酢酸、ジオキサン、及び/又はクロロホルムが挙げられる。好ましくは、コレステロール溶媒は氷酢酸を含む。
第二L-B反応試薬は、強酸である。本発明者らは、いかなる仮説によっても縛られたくないが、酸によって水をコレステロールから抽出する脱離反応が行われ、より高程度の結合が残ると考えられる。本発明者らは、本発明に従って励起される場合に蛍光を発するのがこの結合(即ち、増加した二重結合数)であると考える。強酸は、好ましくはリン酸(H3PO4)のようなオキソ酸(X-OH)、より好ましくはH2SO4である。酸は、また、HNO3、H2SeO4、HClO4、HMnO4であってもよい。或いは、酸は、ルイス酸、例えば、Al2Cl6、SnCl4、FeCl3又は酸化チタン(IV))であることができる。
強酸は、硫酸を、好ましくは約3-20%(v/v)の濃度で、又はAl2Cl6を約0.5-2.5モルの濃度で含むことが最も好ましい。
第三L-B反応試薬は、酢酸無水物を含む。酢酸無水物と溶媒との比は、好ましくは0.25:1〜10:1、より好ましくは0.5: 1〜5:1、さらにより好ましくは、1:1〜3:1である。好ましい実施態様において、酢酸無水物と溶媒との比は約2:1である。
L-B試薬は、約30%(v/v)の氷酢酸、約60%(v/v)の酢酸無水物、及び約10%(v/v)の硫酸を含むことが好ましい。
さらに、L-B試薬は、無水硫酸ナトリウム、又はサリチル酸ナトリウム等の添加剤を含んでもよく、より長期の貯蔵のために試薬を安定させるために用いられる。添加剤は、約0.5-3%(v/v)の範囲で添加することができる。
【0011】
工程(ii)は、試料の第二アリコート(即ち、L-B反応の生成物)を、好ましくは約500nm未満、より好ましくは約470nm未満の励起波長で励起させる工程を含む。450nm以下の波長の特に好ましい励起波長は、L-B反応の生成物が蛍光を発するように用いることができる。
その後、得られた蛍光は、500-650nm、より好ましくは520-600nmの発光波長で観測され測定することができる。540nmの特に好ましい発光波長を用いてもよい。
従って、好ましい工程(ii)は、L-B試薬(例えば、約30%(v/v)の氷酢酸、約60%(v/v)の酢酸無水物、及び約10%(v/v)の硫酸)を試料の第二アリコートに添加し、約450nmで試料を励起させ、約540nm以上の発光波長で蛍光を測定することを含む。
L-B反応の生成物の蛍光を測定する利点は、従来法のように吸光度を測定する代わりに、非常に少量の試薬を必要とすることである。このことは、L-B分析の試薬が非常に腐食性で、それ故用いるのに危険であるので特に有利である。つまり、方法の工程(ii)の蛍光分析において必要とされる試薬の量を減少させることは、従来のL-B吸光度分析より技術者にとって非常に安全である。少量の試薬を用いることは、また、また、分析を行うためにより小さいデバイスを用いることができることを意味する。さらに、蛍光を測定することは、吸光度を測定することより非常に感度が良い。それ故、吸光度を測定するより蛍光を用いてコレステロール濃度の定量をさらに正確にすることが可能である。
本発明の方法の工程(i)における全リポタンパクの濃度、及び本方法の工程(ii)における総コレステロールの濃度を決定するために用いられる励起波長が、いずれの場合においても450nmであることは理解される。さらに、双方の測定に用いられる発光波長は540nmである。つまり、双方のパラメータ(総コレステロール及び全リポタンパク)を同時に且つ急速に決定することができる。このことは、別々に行われて結果の作成に遅れを生じるにちがいない、従来の分析よりかなりの改善である。さらに、双方のパラメータを同時に測定することができる事実は、測定を行うのに必要とされる機器化を簡単にする。後述するように、このことは、手術中又は家庭でさえ脂質プロファイルを作成することができる装置の設計を可能にし、専用の検査室で試料を分析する必要を取り除く。
それ故、本発明の方法は、工程(i)を用いて試料中の全リポタンパクの濃度を急速且つ正確に決定し、また、工程(ii)を用いて試料中の総コレステロールとそのエステルの濃度を決定するために用いることができることが理解される。さらに、トリグリセリドの濃度は、上記のように全リポタンパク濃度から総コレステロール濃度を差し引くことによって算出することができる。つまり、それによって、臨床医にとって有用である、全リポタンパク濃度、総コレステロール濃度、及びトリグリセリド濃度からなる、試料のより詳細な脂質プロファイルが作成される。
本発明の第一態様の方法の実施態様は、さらに以下を含んでもよい。
【0012】
工程(iii): 試料中リポタンパクの種類の区別
本発明者らは、試験される試料中のリポタンパクを区別する分析工程をさらに使うことができる場合にはより詳細な脂質プロファイルを得ることができると考えた。それ故、本発明者は、種々のリポタンパク分子を区別することが可能であるかを見るためにK-37以外のプローブ物質の使用を調べた。多くの染料がリポタンパクに結合し且つ結合した具体的なリポタンパクに依存している種々の蛍光応答を示すことが驚いたことにわかった。これらの染料による蛍光測定は、試料中に有するリポタンパクの種類を区別することを可能にする。このことは、検定曲線と工程(i)のK-37分析によって示される全リポタンパク含量の既知の値から決定されるように、リポタンパク混合物中のリポタンパクの1つの種類による増強した又は減弱した蛍光とその他のリポタンパク(特異的性質のあるリポタンパクがないとき)から予想される蛍光とを比較することによって行われる。
例えば、蛍光色素、ナイルレッドは、HDLがその他のリポタンパク、例えば、LDL、VLDLよりかなり強い蛍光を示した。それ故、本発明者らは、第二プローブ物質(例えば、ナイルレッド、又は具体的なリポタンパクに対して特異性か、又は蛍光増強又は減弱を示す他のあらゆる親油性プローブ)が、試料中のリポタンパクのクラス又はサブクラスを区別するために用いることができると考えた。このことは、全脂質濃度が工程(i)に従って決定された後に可能である。
従って、本発明の方法は、
(iii)蛍光分析を用いて試料の第三アリコート中の具体的なクラス、又はサブクラスを決定する工程
をさらに含むことができる。
工程(iii)は、好ましくは、第二プローブを用いてそのリポタンパクに特異的な染料の蛍光応答のずれによってリポタンパクの具体的なクラス又はサブクラスの濃度を決定する工程を必要とする。
【0013】
第二プローブ物質は、プローブがリポタンパクの個々のクラス又はサブクラスに結合するとともにそれに結合した場合に適切な励起下で蛍光収量を変え、リポタンパクの個々のクラス又はサブクラスの濃度を表す、試料の第三アリコートに添加することができる。
工程(iii)は、プローブナイルレッドを試料の第三アリコートに添加し、次に、本方法の工程(i)からの結果を用いて、試料中のHDL濃度を決定することを含むことが好ましい。
好ましくは、ナイルレッドを用いて試料中のHDL濃度を決定するために、計算は、HDLの存在によりナイルレッドからの過剰の蛍光でできていなければならない。第一に、全リポタンパク濃度(測定“A”)が、K-37蛍光とリポタンパク濃度との直線相互関係によって測定される(工程(i)によって決定される)。
第二に、その後、ナイルレッド蛍光がLDL(及び/又は濃度応答に対する蛍光が本質的に同じでなければならないVLDL)によって種々の濃度で検定されて、勾配“X”と切片“Y”を有する検定曲線を得る。当業者は、LDL(及び/又はVLDL)の濃度の範囲をどのように調製し、各濃度についてそれぞれの蛍光をどのように決定するかを知っている。
第三に、その後、一連の濃度のHDLとLDLの一定の濃度について追加の検定曲線が構成されて、勾配“Z”を得る。第四に、K-37測定“A”から全リポタンパク濃度と未知試料“B”の過剰のナイルレッド蛍光を知ることにより、未知試料中のHDL“C”の濃度は、次式によって決定することができる。
C = (B - (AX - Y))/Z
本発明の実施においてその予め調製された又は標準の検定曲線を用いることができることは理解される。さらに、脂質プロファイル(下記を参照のこと)を作成するために開発されたデバイスは、使用者関与のないHDLレベルの自動計算を可能にする内部標準を有し及び/又は処理手段を有してもよい。
それ故、本発明の方法は、さらに、蛍光分析を用いて試料中のHDL濃度を決定することを含むことができる。本方法は、さらに、プローブ物質ナイルレッドを試料の第三アリコートに添加し、そのプローブがHDLと他のリポタンパクに結合する工程(工程(iii))を含む。適切な励起下で、ナイルレッドは試料中のHDL濃度に比例してますます強く蛍光を発する。この追加工程が本発明の方法において行われる場合、被検者の臨床的評価において非常に有用である、全リポタンパク濃度、及びHDL濃度からなる、試料のさらにより詳細なリポタンパクプロファイルを作成することができる。
【0014】
本発明者らは、試料中のHDLの定量の正確さと、必要とされたかなりの本発明の努力を改善するために、試料に添加されなければならないナイルレッドの最適濃度を決定するために一連の実験を行った。試料に添加されるプローブ物質ナイルレッドの濃度は、約0.1-1mMであるのがよい。有利には、ナイルレッドのこの濃度で、HDL濃度の濃度のより正確な定量が可能である。
試料の第三アリコートに添加されるナイルレッドの濃度は、適切には約0.1-0.9mM、より適切には約0.2-0.7mM、さらにより適切には約0.3-0.6mMであるのがよい。ナイルレッドを試料に約0.4mMの最終濃度まで添加することが特に好ましい。
ナイルレッドの蛍光は、好ましくは、試料を約400nm-650nmの励起波長で励起することによって誘発される。
励起波長は、400nm-650nm、好ましくは約420nm-620nm、さらにより好ましくは約590nm-610nmであることが好ましい。約600nmの励起波長が、その他のリポタンパクと比較した場合にHDLにおいてナイルレッドからの蛍光応答の最大区別(5×)を示すナイルレッドと関連して用いることができる。
ナイルレッドから得られた蛍光は、その後、約540-700nm、より好ましくは約570-650nmの発光波長で観測され測定される。約620nmの好ましい発光波長を用いるのがよく、HDLの濃度を決定するのに最も正確な読み取りが観測されるのがよい。
それ故、HDLの濃度、全リポタンパク、また、総コレステロールを決定するのに蛍光測定を用いることができることが理解される。3つのパラメータ(総コレステロール、全リポタンパク、及びHDL)は全て、非常に類似した範囲の波長について蛍光を励起し測定することによって同時に且つ急速に決定することができる。上記のように、このことは、別々に、また、しばしば専用の検査室において行われなければなず、結果の作成の遅れを生じる、従来の分析に対してかなりの改善である。さらに、3つのパラメータ全て同時に測定され得る事実は、測定を行うために必要とされる機器化をかなり簡単にする。
【0015】
リポタンパクの定量に対するヒト血清アルブミンの影響
本発明者らは、本発明の方法の工程(ii)と(iii)において用いられる個々の分析の正確さをさらに改善することが可能かを調べ、そして約30-50mg/mlの濃度を有する血清の主成分であるヒト血清アルブミン(HSA)に注意を向けた。
HSAは、種々のリガンドを結合することができる少なくとも2種類の結合部位を有することが知られる。第一の種類は、本明細書では“疎水性ドメイン”と呼び、ドメインの第二の種類は、本明細書では“薬剤結合ドメイン”と呼ぶ。これらのドメインは、当業者に既知であり、Nature Structural Biology (V5 p827 (1998))における論文では互いに区別されている。この論文は、脂肪酸が結合することができるものとして疎水性ドメインを同定し、薬剤結合ドメインはHSAと会合することができる多くの薬剤を結合することができる。
それらの実験から、本発明者らは、驚くべきことに、プローブ物質K-37とナイルレッド双方が、HSAの疎水性結合部位/ドメインに個々に結合することができることを確立した。つまり、K-37とナイルレッドは、共にHSAのリガンドである。さらに、驚くべきことに、本発明者らは、HSAに結合した場合、K-37とナイルレッドが蛍光を発することがわかった。それ故、本発明者らはいかなる仮説にも縛られたくないが、本発明者らは、K-37のこの追加の蛍光が、HSAに結合した場合に、実質的な背景シグナルを生じるものであり、本発明の方法の工程(iii)における全リポタンパクの濃度の定量において歪ませて有意な誤差になるものと考える。同様に、本発明者らは、ナイルレッドのこの追加の蛍光が、HSAに結合した場合に、実質的な背景シグナルを生じるものであり、本発明の方法の工程(iii)における全リポタンパクの濃度の定量において歪ませて有意な誤差になるものと考える。
結果として、本発明者らは、HSAによる、リガンドK-37、及びリガンドナイルレッドの結合を阻害する作用を調べた。特に、プローブK-37やナイルレッドが結合し蛍光を発するHSAの疎水性結合部位を遮断することを試みた。この実験は、実施例3と実施例4に記載される。本発明者らはいかなる仮説によっても縛られたくないが、驚いたことに、リガンドK-37と疎水性結合部位との結合を阻害することにより、リガンド結合阻害剤が添加されなかった場合より試料中の全リポタンパクの濃度のより正確な基準であるリポタンパク分子(HDL、LDL、VLDL)に結合した場合のプローブ物質の蛍光が得られることがわかった。本発明者らは、また、リガンドナイルレッドのHSAへの結合を阻害することによりHDL定量の正確さが改善されることがわかった。
【0016】
従って、本発明の方法は、試料の第一アリコート、適切な場合には第三アリコートに、プローブ物質(K-37及び/又はナイルレッド)のHSA、好ましくはその疎水性結合部位への結合を実質的に阻害するように適合されるリガンド結合阻害剤を添加することを含むことが好ましい。プローブが試料に添加される前に又はプローブが試料に添加されると同時にリガンド結合阻害剤が試料に添加されることが特に好ましい。
リガンド結合阻害剤は、疎水性であってもよい。阻害剤は、両親媒性であってもよい。リガンド結合阻害剤は、脂肪酸又はその官能性誘導体、また、他の疎水性分子を含んでもよい。HSAの疎水性結合部位を遮断することができる脂肪酸の適切な誘導体の例は、脂肪酸、そのエステル、アシルハライド、カルボン酸無水物、又はアミド等を含むことができる。好ましい脂肪酸誘導体は、脂肪酸エステルである。
脂肪酸又はその誘導体は、C1-C20脂肪酸又はその誘導体を含むことができる。脂肪酸又はその誘導体は、好ましくはC3-C18脂肪酸又はその誘導体、より好ましくはC5-C14脂肪酸又はその誘導体、さらにより好ましくはそのC7-C9脂肪酸又は誘導体を含むことができる。
リガンド結合阻害剤は、オクタン酸(C8)又はその誘導体、例えば、オクタン酸塩を含むことが特に好ましい。好ましくは、リガンド結合阻害剤は、アルカリ金属オクタン酸塩、好ましくはI族アルカリ金属オクタン酸塩、例えば、オクタン酸ナトリウム又はカリウムとして添加される。
好ましくは約10-400mM、より好ましくは約20-200mM、さらにより好ましくは約50-150mMのリガンド結合阻害剤が、本方法の工程(i)を行う前に試料に添加される。約100mMの阻害剤が添加されることが特に好ましい。つまり、本方法の好ましい実施態様において、約100mMのオクタン酸ナトリウムは、工程(i)を行う前に又は工程(i)を行うと同時に試料に添加することができる。
本発明の方法が工程(iii)におけるナイルレッドの使用に達する場合、好ましくは約10-400mMのリガンド結合阻害剤が試料に添加され、より好ましくは約20-200mM、さらにより好ましくは約50-150mMが添加される。約100mMの阻害剤が用いられることが最も好ましい。つまり、本方法の好ましい実施態様において、約100mMのオクタン酸ナトリウムが、ナイルレッドを添加し、本方法のHDL分析を行う前に試料の第三アリコートに添加される。
【0017】
本発明の好ましい実施態様において、リガンド結合阻害剤、例えば、約100mMのオクタン酸ナトリウムは、まず、本方法の工程(i)において全リポタンパク濃度の蛍光測定を行う前に、約0.7mMのK-37プローブを有する、試料から取った第一アリコートに添加される。HDL定量を含む実施態様において、リガンド結合阻害剤、例えば、約100mMのオクタン酸ナトリウムは、まず、本方法においてHDL濃度の蛍光測定を行う前に、約0.4mMのナイルレッドプローブを有する、第三アリコートに添加される。
有利には、K-37プローブの所定の濃度と組合わせたリガンド結合阻害剤により、全リポタンパク(及びナイルレッドプローブが添加される場合HDL濃度)の非常に正確な測定が得られることになり、続いて計算でトリグリセリドの定量の正確さが改善される(下記を参照のこと)。
本発明者らは、さらに、ナイルレッドが上で述べたHSAについての薬剤結合ドメインと相互作用することがわかった。この薬剤結合ドメイン用のリガンドとしては、チロキシン、イブプロフェン、ジアゼパム、ステロイドホルモン及びそれらの誘導体(薬剤)、ヘム、ビリルビン、親油性プロドラッグ、ワルファリン、クマリンベースの薬剤、麻酔薬、ジアゼパム、イブプロフェン及び抗うつ剤(例えば、チオキサンチン)のような薬剤分子が挙げられる。
本発明者らは、この薬剤結合ドメインを遮断するために物質を用いることができ、且つこれによりナイルレッドによる分析結果の改善がさらに得られることがわかった。上記の薬剤、又はこのドメインに対して親和性を有する他のいかなる分子も、HSAの薬剤結合ドメインを遮断するための物質として用いることができる。しかしながら、安息香酸又はその誘導体(例えば、トリクロロ安息香酸又はトリヨード安息香酸)が、薬剤結合ドメインを遮断するために用いられることが最も好ましい。従って、最も好ましい工程(iii)は、HSAの薬剤結合ドメインを遮断するための物質の添加を含む。
実施例1及び実施例4は、染料K37の蛍光測定が試料中の全リポタンパクの濃度を決定するためにどのように用いることができるか、また、ナイルレッドの蛍光測定が試料中のHDLの濃度を決定するためにどのように用いることができるかを示すものである。いずれの染料も450nmの波長で励起することができ、染料の発光は540nm以上の波長で測定することができる。実施例3及び実施例4には、リガンド結合阻害剤(K37又はナイルレッド)によりHSAを遮断して、K-37やナイルレッド蛍光によって得られる結果の正確さを改善することが記載される。
【0018】
さらに、実施例2には、L-B分析の生成物の蛍光測定(即ち、吸光度でない)が試料中の総コレステロールの濃度を決定するためにどのように用いることができるかが記載される。偶然に、K-37とナイルレッドと同様に、L-B反応の生成物も450nmの波長で励起させることができる。さらに、K-37と同様に、その発光も540nmで測定することができる。それ故、本発明者らは、患者の血液試料の脂質組成を分析してその患者用の脂質プロファイルを作成するための単一の方法を作成することが可能であると考えた。
つまり、好ましい方法は2又は3の蛍光分析(工程(i)、(ii)、及び(iii))からなり、それらのすべてが非常に類似した条件下で行うことができ、つまり、非常に急速に結果を得ることができる。臨床医は、ある治療の過程を判断するためにこの情報を用いることができる。本発明の第一態様の方法の最も好ましい実施態様は、患者から血液試料を採取すること、その後、血液細胞から血清を分離することを含むのがよい。このことは、既知の技術、例えば、ろ過又は遠心分離によって達成することができる。その後、血漿を3つのアリコートに分離することができ、それぞれが蛍光分析にかけられて脂質成分の濃度が決定される。第一アリコートは、試料中の全リポタンパクの濃度を決定するために用いることができ; 第二アリコートは、試料中の総コレステロールの濃度を決定するために用いることができ; 第三アリコートは、試料中のHDLの濃度を決定するために用いることができる(第一アリコートから試料中の全リポタンパクを知る)。
第一アリコートに、HSAリガンド結合阻害剤、例えば、オクタン酸ナトリウムを約100mMの最終濃度まで添加することができる。工程(i)における第一アリコートにプローブK37を、好ましくは約0.7mMの最終濃度まで添加されることが好ましい。その後、第一アリコートは、プローブが蛍光を発するように約450nmで励起させることができる。その後、540nm以上の発光波長で蛍光を測定することができる。その後、この値から、試料中の全リポタンパク(HDL、LDL、IDL及びVLDL及び存在する場合にはカイロミクロン)の濃度を決定することが可能である。
第二アリコートに、L-B試薬(例えば、約30%(v/v)の氷酢酸、約60%(v/v)の酢酸無水物、及び約10%(v/v)の硫酸)を添加し; 試料を約450nmで励起させ; 約540nm以上の発光波長で蛍光を測定することができる。その後、この値から、試料中のコレステロール濃度を決定することが可能である。
【0019】
第三アリコートに、HSAリガンド結合阻害剤、例えば、オクタン酸ナトリウムを約100mMの最終濃度まで添加することができる。安息香酸のようなHSAの薬剤結合ドメインに結合する物質を、1-10mM又はより詳しくは約5mMの濃度まで添加されることもできる。その後、プローブナイルレッドを約0.4mMの最終濃度まで添加することができる。その後、この試料を、プローブが蛍光を発するように約600nmで励起させることができる。蛍光は、約620nmの発光波長で測定することができ、その後、この値から、実施例4に記載されるように、試料中のHDL濃度を決定することが可能である。
トリグリセリド濃度は、第一態様の方法の工程(i)から工程(ii)の結果を差し引くことによって容易に算出することができる。それ故、ここで作成される脂質プロファイルは、トリグリセリドの濃度を含み、患者を治療している臨床医を援助する。つまり、4つのパラメータの値を本発明の方法を用いて決定することができる。
第三アリコートを分析することによって算出されるHDLの濃度は、HDLに結合したコレステロール濃度の直接の基準であると考えられる。つまり、第二アリコートを分析することによって決定される総コレステロール濃度、第三アリコートを分析することによって決定されるHDL濃度、及び前項で記載されるように算出されるトリグリセリド濃度の知識において、下記フリーデワルド式に既知の値を挿入することによって試料中のLDLに結合したコレステロール濃度を算出することが可能である。
(CH-LDL) = CH-(CH-HDL) -TG/5
(ここで、CHは総コレステロール濃度であり、(CH-LDL)はコレステロールLDL濃度であり、(CH-HDL)はコレステロールHDL濃度であり、TGはトリグリセリド濃度である。)
結果として、本発明の方法によって作成される脂質プロファイルには、ここでもまた、試料中のLDLに結合したコレステロール濃度が含まれる。非常にアテローム生成的であるので、LDLコレステロール濃度を知っていることは特に有利である。つまり、本方法は、試料中の脂質組成の少なくとも5つのパラメータの複数読み出しを提供する。さらにまた、通常は、ほとんどのトリグリセリドがVLDL中に担持され、VLDLのコレステロール成分が20%であると考えられるので、トリグリセリド濃度からCH-VLDL濃度を算出/推定することが可能である。このことは、臨床医が治療の適切な過程を判断するのを援助するために特に有利である。
【0020】
第一態様の方法を開発することに加えて、本発明者らは、また、本方法を行う装置を開発した。
つまり、本発明の第二態様によれば、試料溶液のための脂質プロファイルを作成する装置であって、コレステロールとリポタンパクの分析を行うための反応リザーバー; 第一態様の方法に必要とされる試薬を含有するように適合された密封手段; 蛍光を発するように試料を励起させるのに作用可能な手段; 及び試料によって放出される蛍光を検出するのに作用可能な検出手段を備えている、前記装置が提供される。
好ましくは、装置は、反応リザーバーにおいて試料と試薬を混合するための手段を備えている。
好ましくは、装置は、多くのタイプのリザーバーを備えている。
第一タイプのリザーバーは、試料を含有するためのものであり、本明細書では試料リザーバーと呼ばれる。単一リザーバーがあるのがよく、そこから試料の第一アリコート、第二アリコート、及び任意の第三アリコートが本発明の方法の工程(i)、工程(ii)、及び任意の工程(iii)に従って分析を行うために採取されるのがよい。或いは、各試料アリコートに個別の試料リザーバーがあってもよい。ある実施態様において、試料が反応リザーバーに直接導入することができるようにデバイスを設計するのがよいことが理解される。これにより、試料リザーバーの必要が取り除かれる。
反応リザーバーは、第二タイプのリザーバーであってもよく、試料アリコート中のコレステロールとリポタンパクの濃度を決定する分析を行うことができる(試料と試薬の導入後)。装置は、単一反応リザーバーを備えてもよく、異なる試料アリコートによる反応の間に洗い流すことができる。或いは、複数の(例えば、単一使用)反応リザーバーを励起手段と接触させることもできる。従って、本発明の第一態様の方法の各工程のための反応リザーバーがあってもよい。
密封手段は、第三タイプのリザーバー、即ち、試薬リーザバを備えることができる。第一試薬リザーバーは、K-37染料と全リポタンパク分析(例えば、リガンド結合阻害剤)のための他の試薬を含有することができる。第二試薬リザーバーは、コレステロール分析のための試薬(即ち、L-B反応試薬)を含有することができる。HDLが決定される(例えば、ナイルレッドを用いて)場合、密封手段は、ナイルレッド染料とHDLを決定するための他の試薬(例えば、リガンド結合阻害剤、HSAの薬剤結合ドメインを遮断するための物質)を含有する第三試薬リザーバーを備えることができる。或いは、各分析のための試薬は、個別の密封手段に含まれてもよい。従って、K-37分析のための試薬は、第一密封手段における第一試薬リザーバーの中であってもよく; コレステロール分析のための試薬は、第二密封手段における第二試薬リザーバーの中にあってもよく; ナイルレッド分析のための試薬は、第三密封手段における第三試薬リザーバーの中にあってもよい。
励起手段と光学接触させることができるように反応リザーバーが配置されることが好ましい。分析から得られる蛍光が検出手段によって検出することができるように反応リザーバーが配置されなければならない。
【0021】
好ましい実施態様において、装置は、3つの試薬リザーバーを有する単一の密封手段を備えている。第一試薬リザーバーは、適切な希釈剤中のプローブ物質、K-37を含有し、HSAリガンド結合阻害剤、例えば、オクタン酸ナトリウムをさらに含有することができる。第二試薬レザバーは、L-B反応試薬を含有する。第三試薬リザーバーは、プローブ物質ナイルレッド及びHSAリガンド結合阻害剤、例えば、オクタン酸ナトリウム、及びHSAについて薬剤結合ドメインを遮断するための物質、例えば、安息香酸を含むことができる。使用中、試薬は、それぞれの反応リザーバー(単一密封手段の範囲内で)に押し付けられ、試料の3つのそれぞれのアリコートと混合することができる。その後、本発明の第一態様の方法の反応工程(i)、(ii)及び(iii)が行われ、蛍光が測定され得る。
装置は、リーダー及び、好ましくは、それとともに機能的に連通して配置されるように適合されたカートリッジを備えてもよい。好ましくは、カートリッジは、リーダーに挿入されるか、又は取り付けられてもよい。リーダーは、カートリッジが挿入されるドッキング手段を備えることができる。ドッキング手段は、スロットであってもよい。つまり、好ましくは、カートリッジはリーダーから取り外し可能である。
カートリッジは、密封手段及び反応と試料のリザーバー(存在する場合)を備えるか、又は各々備えてもよい。つまり、検定用試薬を担持するカートリッジは、一旦試薬が使い尽くされると、リーダーから取り出すことができ、新規な検定用試薬を含有する新規なカートリッジと取り替えられる。自己充足的なカートリッジ(全てのリザーバーを備える)は、使い捨ての反応カートリッジとして容易に用いることができることは理解される。カートリッジは、リーダーから簡単に除去され、試薬を含む新規なカートリッジと取り替えることができ、試料アリコートは、反応リザーバー又はカートリッジ内のリザーバーに配置されてもよい。
リーダーは、励起手段、好ましくは、検出手段を備えてもよい。
好ましくは、装置は、検出された蛍光に基づき試料中のコレステロールと全リポタンパクの濃度を決定するように適合された処理手段を備えている。好ましい実施態様において、処理手段は、また、蛍光分析に基づき試料中のHDLの濃度を決定するのに適合されている。処理手段は、全リポタンパク、及びHDLの濃度に基づき試料中のLDL、VLDL及びIDLの濃度を算出するように適合されていてもよい。
装置は、コレステロール及び全リポタンパクの濃度、好ましくは、試料中のHDLの濃度を示すための表示手段を、好ましくは読み出しとして備えてもよい。例えば、表示手段は、LCD画面を備えることができ、又は電力を供給及び/又はコンピュータ計算のためのコンピュータ及び/又はディスプレイに依存してもよい。
【0022】
好ましくは、装置は、携帯用であり、患者から試料を採取し、その後、試料が採取される部位で分析を行うことにより、患者の脂質プロファイルを作成するために用いることができる。
装置は、あらゆる生体液、例えば、血液、血清、リンパ等であってもよい試料を含有するように適合していなければならない。
好ましくは、励起手段は、約400nm-500nm(コレステロールとK-37分析の場合)で、ナイルレッド分析の好ましい実施態様の場合、約600nmで、試料を照射するように作用可能な照射源を備えている。従って、光源は、好ましくは約400nm-600nmで試料を照射することができる。照射源は、電球又は1以上のLEDを備えることができ、励起波長は、450nmの干渉フィルタ及び600nmの干渉フィルタを用いて変えることができる。励起手段は、照射源によって得られる光を偏光させるように作用可能な偏光手段を備えることができる。励起手段は、試料に光を集中させるように適合された集光手段を備えることができる。集光手段は、レンズを備えることができる。
好ましくは、検出手段は黄-赤感光性であるフォトダイオード又はフォトマルチプライヤを備えている。試料によって放出される蛍光は、コレステロール分析及びK-37分析の場合、好ましくは約500nm-650nm、より好ましくは540nm以上の長い波長で検出される。検出手段は、ナイルレッドを含む分析の場合、620nmで放出される蛍光を検出することができなければならない。蛍光は、第二レンズによって集めることができ、偏光板を通過させることができる。散在する励起光は、遮断フィルタによって除去することができる。蛍光強度の測定のために、フォトダイオードから電流又はフォトマルチプライヤからカウント速度は、電流計、電圧計又は計数率計モジュールから読み取ることができる。
一実施態様において、装置は、2つ又は3つのカートリッジ(即ち、各分析工程-本発明の方法の工程(i)、(ii)、任意の(iii)のためのカートリッジ)を受容するのに適合されているリーダーを備えることができる。このようなリーダーは、各反応リザーバーと整列させ得る2つ(又はそれ以上)の励起手段を備えることができる。さらに、装置は、各反応リザーバーのための検出手段を備えることができる。
装置は、また、光源の変動を考慮することができるように励起修正システムを備えることができる。装置は、リポタンパクの濃度を決定する前の調整に用いられる少なくとも1つの蛍光標準を備えることができる。標準は、内部標準であるのがよい。
【0023】
従って、装置は、同時に又はカートリッジがリーダーに入るにつれて又はその後のある時点で、各分析の蛍光強度を検出し測定し、それによってコレステロール、全リポタンパク濃度、及びHDL濃度からなる脂質プロファイルを作成するように構成される。
有利には、第二態様の装置は、迅速且つ容易な分析を行うために用いることができ、生体液から脂質プロファイルを作成するために同時に行うことができる。コレステロール、リポタンパク、及びHDL濃度の知識をもつ臨床医は、治療の有効過程を判断することができる。さらに、装置は、携帯用であり、GP、又は家庭訪問を行う看護士によって、又は家庭用の試験キットとしてさえ用いることができる。
装置は、自動的に機器を調整するために蛍光標準を備えることができる。
装置は、3つの分析の各々の蛍光強度を同時に又はカートリッジがリーダーに入るにつれて又はその後のある時点で検出し測定し、それによって全リポタンパク濃度、HDL濃度、及びコレステロール濃度からなる脂質プロファイルを作成するように構成される。その後、臨床医又は補助者は、実施例5に記載されるように、トリグリセリドの濃度、及びLDL濃度も算出することができる。
有利には、第二態様の装置は、迅速且つ容易な分析を行うために用いることができ、生体液から脂質プロファイルを作成するために同時に行われ得る。その後、LDL、トリグリセリド、及びHDL濃度の知識をもつ臨床医は、治療の有効な過程を判断することができる。さらに、装置は、携帯用であり、GP、又は家庭訪問を行う看護士によって、又は家庭用の試験キットとしてさえ用いることができる。
本明細書に記載される特徴の全て(添付のあらゆる請求の範囲、要約及び図面を含む)、及び/又はそのように開示されるあらゆる方法又はプロセスの工程の全ては、このような特徴及び/又は工程の少なくとも一部が互いに排除する組合わせを除いて、上記の態様のいずれかとあらゆる組合わせで組合わせることができる。
本発明のより良好な理解のために、また、本発明の実施態様がどのように実施することができるかを示すために、ここで、一例として、添付の図面を参照する。
本発明者らは、蛍光プローブの使用を調べて血液試料中のリポタンパクとコレステロールの濃度を決定するとともに患者のための脂質プロファイルを作成するために一連の実験を行った。患者のための脂質プロファイルの知識、特に、試料中のLDL、トリグリセリド、及びHDLのレベルは、臨床医が治療の具体的な過程を判断するのを援助するのに有利である。以下の実施例に記載されるこれらの実験の結果は、その後、本発明の方法及び装置を開発するために用いた。
【実施例】
【0024】
実施例1-全リポタンパク濃度の測定
本発明者らは、一連の試料において全リポタンパク(全ての脂質がリポタンパクに結合する考えられるので、全トリグリセリドとコレステロールとコレステロールエステル類に等しくなる)の濃度を検出するために蛍光色素K-37の使用を調べた。染料K-37は、当業者に既知であり、容易に利用できる。染料を、まず、所定の波長で励起させ、その後、後述するように他の所定の波長で蛍光を測定する。蛍光強度を用いて、試料中の全リポタンパクの濃度を算出する(即ち、本発明の方法の工程(i))。
方法
ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した染料、K-37を、リン酸緩衝食塩水に溶解したHDL、LDL、及びVLDLの濃度系に種々の濃度の範囲で添加した。実験の目的は、実在の血漿又は血清試料において直面するリポタンパク濃度の範囲全体に、各粒子タイプ(HDL、LDL、及びVLDL)に対する蛍光とリポタンパク濃度との間の直線的及び同等の関係を得ることであった。蛍光強度は、パーキン・エルマーLS50蛍光計にて450nmの励起波長と540nmの発光波長で測定した。
結果
図1〜図3は、リン酸緩衝食塩水中のHDL、LDL、及びVLDLにおいて、3つの濃度、即ち、0.4mM、0.65mM、及び0.9mMのK-37について蛍光強度と全リポタンパク濃度を示すグラフである。各々の系(上の0.4mM、中の0.65mM、下の0.9mM)に対して直線の一致のR2値を示す。同じデータを、図4〜図6においてプロットし、K-37濃度によって分類する。
【0025】
実験からの結論は、以下のことである。
1) 3つのリポタンパク粒子の種類(HDL、LDL、及びVLDL)全てについて、R2は、0.65mMのK-37濃度において全リポタンパク濃度と蛍光強度との間に良好な直線関係があることを示す。良好な直線関係は、LDLとVLDLにおいて0.9mMのK-37にも見られるが、HDLにおける0.9mMのK-37の直線性は少し不十分である。直線性は、0.4mMのK-37よる全てのリポタンパクについて不十分である。直線性が不十分である濃度でもなお作用するが、より正確でないことは、注目に値する。しかしながら、非直線性は、多項式フィッティングを用いて処理することができる。
2) 2つの因子が直線性に影響を及ぼすと考えられる。低染料濃度において、高い全リポタンパク濃度で応答から平坦になる。本発明者らはいかなる仮説によっても縛られたくないが、リポタンパク粒子を充分に占有するのに利用できる染料が不十分であることからこのことが起こると考えられる。高染料濃度において、低い全リポタンパク濃度による応答は平坦である。このことは、染料が非常に密接に粒子に詰まる場合の蛍光の自己消光による。
3) 0.65mMのK-37濃度は、リン酸緩衝食塩水中で測定した場合の適切な範囲全体に全てのリポタンパク粒子の種類について直線的で非常に類似した蛍光応答を示す。
従って、その後、0.65mMのK-37を一連のHDL/LDL/VLDL混合物に添加し、上記の通りに蛍光強度を測定した。データを図7に示す。見ることができるように、全リポタンパク濃度は、蛍光強度(R2 = 0.9983)と極めて相関し、K-37(0.65mM)のこの濃度は、全リポタンパク濃度の非常に正確な測定に適していることが確認される。患者からの生体試料にこれを適用する場合、発明者らは、高脂質濃度である曲率を見た。その結果として、0.7mMのK-37の濃度は、血清又は血漿に用いられる最適K-37濃度として選ばれた。つまり、この濃度は本発明の方法に最も適した濃度として選ばれた。
【0026】
実施例2−総コレステロールの測定
本発明者らは、その後、試料中の総コレステロールの濃度を決定する蛍光測定を用いることが可能かを調べた(本発明の方法の工程(ii))。このことは、コレステロールの従来の分析のように吸光度を測定することと対照的である。
方法
本発明の方法は、同じ試薬が用いられる従来のリーベルマン・バーチャード反応分析(L-B)と同様にした。図8は、リーベルマン・バーチャード反応を示す。図9を参照すると、L-B生成物の吸光度スペクトルが示されている。吸光度スペクトルは、幅広い吸光度範囲、400〜700nmを示し、試料中のコレステロール濃度を測定するために従来の分析において吸光度測定がなぜ行われるかを見ることができる。
しかしながら、従来のL-B反応分析及びその変形のように550nm又は600nmにおいて着色した生成物の吸光度を測定する代わりに、本発明において、蛍光を測定する。図10を参照すると、L-B生成物の蛍光発光スペクトルが示されている。着色(即ち、550nm〜700nm)の原因となる波長の励起はこれに関与しない。しかしながら、450nmの励起波長が選ばれた場合、このことが本明細書に記載されるその他の分析において用いられるので、蛍光は、驚くべきことに、470-600nmの範囲に及ぶ。
吸光度を測定する代わりに蛍光を測定する利点は、感度の増大と要求される容量の減少である。変更された手順は、現在50マイクロリットルの血漿と1mlの試薬を用いている。このことは、従来の1cmの路長キュベットが蛍光測定に用いることができるためである。しかしながら、10マイクロリットルの領域の試薬容量が簡単に可能である。このことは、セル路長が正確な測定には短すぎるので、吸光度を用いて達成することができなかった(少なくとも0.01Auの吸光度は、正確さが必要とされる)。特に明記しない限り、蛍光測定は、パーキン・エルマーLS-50のルミネセンス分光計において行った。
【0027】
総コレステロールの測定
総コレステロール範囲0〜20mMを有する検定標準をクリスパッカード教授のラボ(グラスゴー)から提供された特徴のあるLDL試料から調製した。50マイクロリットルの試料を1mlのL-B試薬に添加し、室温で5分間インキューベートした(より短い又はより長いインキュベーション時間が成功の測定に充分なものであるが)。450nmの励起波長と540nmの発光波長を用いて各試料の蛍光を測定した。図11に示されるように、蛍光を総コレステロール濃度に対してプロットした。相関係数R2が1に近いことは測定の高度の直線性を示す。
一致したラインの勾配を用いて、各試料の蛍光から総コレステロールを算出した。実際の総コレステロールと測定された総コレステロールとの間の誤差パーセントを図12に示す。結果は、蛍光臨床L-B分析が、試料から予想される範囲をカバーするゼロから20mMまでの範囲で非常に高精度をもって血清コレステロールの測定に使用し得ることを示している。
それ故、本発明者らは、試料中の全リポタンパク(方法の工程(i))とコレステロール(工程(ii))双方の濃度を同時に決定するためには血液試料を450nmで励起させ、発光を540nmで測定することが可能であると考えた。実施例1と実施例2において行われる実験の結果として、本発明者らは、試料中の全リポタンパクとコレステロールの濃度からなる脂質プロファイルを作成するために第一態様の方法を開発した。このことは、2つの完全に独立した分析の使用を必要とする現在利用可能な分析より著しい改善である。
【0028】
実施例3-HSAの遮断
その後、本発明者らは、本発明の方法を最適化するためにさらに研究を行った。このために、血漿の主成分であるヒト血清アルブミン(HSA)が疎水性結合部位を有し、それにK-37が結合し蛍光を発すると考えた。HSAに結合した場合にK-37のこの追加の蛍光は、実質的な背景シグナルを生じ、歪ませ、それによってリポタンパク分子、即ち、HDL、LDL及びVLDLの測定において有意な誤差が生じる。それ故、追加の蛍光が最小にし得るかを見るために、リガンド結合阻害剤、例えば、オクタン酸ナトリウムでHSA上の疎水性結合部位を遮断することを決めた。このようにしてK37とHSAとの結合を阻害すると、K37蛍光測定を用いて得られる結果の正確さが改善されることが想定された。
方法
染料K37を、50mg/mlのHSAの存在下と不在下で5mMの全脂質濃度のLDLに0.5mMの濃度で添加した。リガンド結合阻害剤として作用する、0.1Mオクタン酸ナトリウムを添加して、また、添加せずに測定を行った。
結果
蛍光強度を全ての試料について測定し、下記の表にまとめる。
【0029】
【0030】
結果は、LDLのみにおけるK-37の蛍光強度が213500単位であることを示している。オクタン酸塩がLDLに添加される場合のK-37の蛍光強度は、209700単位(即ち、オクタン酸塩を含まない場合とほぼ同じ)であり、オクタン酸塩の存在がそれ自体でLDL結合したK-37の蛍光強度に関与しないことが示される。HSAに結合したK-37の蛍光強度は79300単位であるが、HSAとオクタン酸塩の存在下のK-37は3600である。これにより、HSAがK-37蛍光に関与し、それ故、妨害シグナルであることが示される。オクタン酸塩を添加すると、妨害が著しく低下し、それにより試料中のHSAの破壊的な作用が取り除かれる。それ故、結果は、LDLにおいてオクタン酸塩の存在下にHSAとのK-37について蛍光強度の大きな抑制を示しているが、K37蛍光に対してほとんど作用しないことを示している。これにより、オクタン酸塩は、HSA上のK-37結合部位を遮断することで著しく成功し、K-37蛍光が全リポタンパク濃度の真の基準になることが示された。
従って、本発明者らは、HSAの疎水性結合部位に結合することができるオクタン酸塩のようなリガンド結合阻害剤を、K-37の蛍光を測定する前に血液試料に添加して、全リポタンパク濃度の正確さを改善することができると考える。さらに、本発明者らによって、この技術が、他のリガンド(例えば、ナイルレッドプローブ)のHSAの疎水性結合部位への結合を遮断するとともにそれにすでに結合しているものであり且つオクタン酸塩よりHSAに対する親和性が低いリガンドを置き換えるために用いることもできることも示される。この研究に続いて本発明者らは、0.7mMのK37と100mMのオクタン酸が最適であることがわかった。
【0031】
実施例4-HDLの測定
本発明者らは、その後、血液試料中に有するリポタンパクの異なる種類を区別することが可能であるかを調べた。つまり、リポタンパクの種類が識別可能かを見るために、K-37以外の蛍光プローブ、例えば、ナイルレッドを用いることの効力を試験した。驚いたことに、K-37の代わりにナイルレッドを用いることにより、血液試料中のHDLの濃度を決定することが可能であることがわかった。
方法
測定の原理は、プローブナイルレッドが、LDL、及びVLDLよりHDLがさらに蛍光性であることである。ナイルレッドの構造を図13に示す。測定は、計算がHDLにおけるナイルレッドからの過剰蛍光でなされるにちがいなく、単に全てのリポタンパクの全体の蛍光でないので、全リポタンパクについてのK37測定よりさらに複雑である。手順は、以下の通りである。
1) 検定
ジメチルホルムアミドに溶解した0.5mMナイルレッドを通常4〜10mMの種々の全リポタンパク濃度のLDLと混合した(典型的には50マイクロリットルの染料を、50マイクロリットルのリポタンパク及び1mlのリン酸緩衝食塩水と混合する)。試料を蛍光計に入れ、蛍光強度を測定した(励起波長450nm、発光波長600nm)。蛍光強度をLDL全脂室濃度に対してプロットし、図14に示されるように勾配“X”と切片“Y”を有する直線検定ラインを得た。
その後、手順を、LDLとHDLの混合物について繰り返した。HDLを0〜3.0mMの濃度で添加し、LDLを全ての試料について5mMの全リポタンパク濃度を保持するように添加した。その後、これらの試料についての蛍光強度を測定した。その後、図15に示されるように、プロットをHDLの存在による過剰蛍光で行い、“勾配”Zを有する直線検定ラインを得た。
2) 未知の測定
ジメチルホルムアミドに溶解した0.5mMのナイルレッドを、オクタン酸塩による前処理後の検査によって試料と混合した。試料を蛍光計に入れ、上記検定と同じ条件下で蛍光強度を測定した。
【0032】
3) HDL濃度の計算
HDLの計算には、K37の蛍光強度から測定され得る、全リポタンパク濃度“A”の知識が必要である。具体的な試料のついて、試料がHDLを含まない場合に予想される蛍光強度は、図14に示される検定ラインから得られる。(測定された蛍光強度)-(この算出蛍光強度)は、HDLが試料中に存在することによる過剰蛍光である。
その後、未知試料におけるHDL濃度“C”は、図15に示される検定ラインと次式を用いて得ることができる。
C = (B - (AX - Y))/Z
実在の臨床試料において予想される濃度の範囲をカバーするように意図されるHDL/LDL/VLDL混合物の濃度の範囲を調製した。上記検定データを用いて混合物からHDL濃度を算出した。図16は、実際のHDL濃度とナイルレッド蛍光から決定されるHDL濃度との間の誤差を示すグラフであり、わずかに約0.15mMの最大誤差が示されている。
これらのデータの結果として、本発明者らは、試料中に存在するリポタンパクの種類を区別するとともに染料ナイルレッドを用いてHDL濃度を決定することが可能であることを示した。
実施例3に記載される知見に従って、HSAの疎水性結合部位を遮断するオクタン酸塩の添加に関して、本発明者らは、その後、ナイルレッドも、HSA(K37と同じ疎水性結合部位)に結合し、蛍光を発することを見出した。HSAに結合した場合のナイルレッドこの追加の蛍光も実質的な背景シグナルを引き起こし、歪ませ、それによってHDL測定において有意な誤差が生じる。それ故、K-37遮断と同じリガンド結合阻害剤、即ち、オクタン酸ナトリウムでHSAにおける疎水性結合部位を遮断すると決めた。ナイルレッドとHSAで行われる実験は、実施例3に記載されるものに基づき、すべて0.5mMのナイルレッドを用いた。
【0033】
【0034】
結果は、LDL単独におけるナイルレッドの蛍光強度が187.532単位であることを示している。オクタン酸塩がLDLに添加される場合のナイルレッドの蛍光強度は、183.786単位(即ち、オクタン酸を含まない場合とほぼ同じ)であり、オクタン酸塩の存在が、それ自体でLDL結合したK-37の蛍光強度に関与しないことが示される。HSAに結合したナイルレッドの蛍光強度は、58.905単位であるが、HSAとオクタン酸塩の存在下のナイルレッドは、9.118である。これにより、HSAがナイルレッド蛍光に関与し、それ故妨害シグナルであることが示される。オクタン酸塩を添加すると妨害がかなり低下し、それによって試料におけるHSAの破壊的な作用が取り除かれる。それ故、結果は、LDLにおいてオクタン酸塩の存在下にナイルレッドとHSAについて蛍光強度の大きな抑制を示しているが、ナイルレッド蛍光に対してほとんど作用しないことを示している。
これにより、オクタン酸塩は、HSA上のナイルレッド結合部位を遮断することで著しく成功し、ナイルレッド蛍光がリポタンパク濃度の真の基準になることが示された。従って、本発明者らは、HSAの疎水性結合部位に結合することができるオクタン酸塩のようなリガンド結合阻害剤を、ナイルレッドの蛍光を測定する前に血液試料に添加して、リポタンパク(HDL)濃度の正確さを改善することができると考える。この研究に続いて本発明者らは、0.4mMのナイルレッドと50mM、又はより好ましくは100mMのオクタン酸塩が血清試料の分析に最適であることがわかった。
【0035】
実施例5-脂質プロファイルを作成する同時分析
実施例1と実施例3は、染料K-37の蛍光測定がどのように本発明の方法の工程(i)に従って試料中の全リポタンパクの濃度を決定するために用いることができるかを示すものである。
実施例2は、L-B分析の生成物の蛍光測定(即ち、吸光度でない)がどのように本発明の方法の工程(ii)に従って試料中総コレステロールの濃度を決定するために用いることができるかを記載するものである。偶然に、K37と同様に、L-B分析の生成物を約450nmの波長で励起させることができ、その発光を約540nm以上で測定することができる。
実施例4は、工程(i)から全リポタンパク測定からみて、ナイルレッドの蛍光測定がどのように本発明の方法の工程(iii)に従って試料中のHDLの濃度を決定するために用いることができるかを示すものである。
それ故、本発明者らは、患者の血液試料の脂質組成を分析してその患者のための脂質プロファイルを作成するための単一蛍光ベースの方法を作ることが可能であると考えた。好ましい方法は3つの分析からなり、その全てが非常に類似した条件下で行うことができ、つまり、非常に急速に結果を得ることができる。臨床医は、治療の過程を判断するためにこの情報を用いることができる。
以下に、3つの同時蛍光ベースの分析にかける単一試料から脂質プロファイルを急速に作成することができるように、本発明者らが本発明の第一態様の方法をどのように開発したかを記載する。
【0036】
方法
血液試料を、まず最初に患者から採取し、その後、確立した従来の技術を用いて遠心分離し、血清を分離する。その後、血清を3つのアリコート(a、b & c)に分け、それぞれを生化学分析にかけ、脂質成分の濃度を決定する。後述するように、アリコート(a)を、全リポタンパクの濃度を決定するために用い、アリコート(b)を、コレステロールの濃度を決定するために用い、アリコート(c)を、HDLの濃度を決定するために用いる。
アリコート(a) - HSAリガンド結合阻害剤、オクタン酸ナトリウムを、上の実施例3に記載されるように、50mMの濃度まで2mlのPBSに添加する。その後、25マイクロリットルの血清アリコート(a)をPBS/オクタン酸溶液に添加する。その後、ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解したプローブK-37を試料に0.65mMの最終濃度に撹拌しながら徐々に添加した。その後、プローブが蛍光を発するように試料を450nmで励起させた。蛍光を540nmの発光波長で測定し、この値から、上記実施例1のように、試料中の全リポタンパク(HDL、LDL、及びVLDL)の濃度を決定することは可能であった。
アリコート(b) - 10マイクロリットルの血清を、2mlのL-B反応試薬(60%の酢酸無水物、30%の酢酸、及び10%の硫酸)に添加した。その後、L-B反応の生成物が蛍光を発するように試料を450nmで励起させた。蛍光を540nmの発光波長で測定し、この値から、上記実施例2のように、試料中のコレステロール濃度を決定することは可能であった。
アリコート(c) - HSAリガンド結合阻害剤、オクタン酸ナトリウムを上記実施例4のように2mlのPBSに50mMの濃度まで添加する。その後、25マイクロリットルの血清アリコート(c)をPBS/オクタン酸溶液に添加する。その後、プローブナイルレッドを試料に撹拌しながら0.5mMの最終濃度に徐々に添加した。その後、プローブが蛍光を発するように試料を450nmで励起させた。蛍光を600nmの発光波長で測定し、この値から、上記実施例4のように、試料中のHDL濃度を決定することは可能であった。
3つのアリコート全てに対する蛍光測定が同様の条件下で行われることは理解される。それ故、本発明による方法の利点は、3つのアリコート全てが同じ機器で同時に分析することができることである。従って、上記の方法の使用は、試料中の(a)全リポタンパク濃度、(b)総コレステロール濃度、及び(c)HDLの濃度からなる脂質プロファイルを急速に作成する。
トリグリセリド濃度は、アリコート(b)を分析することによって決定されるコレステロール濃度の値をアリコート(a)を分析することによって決定される全リポタンパク濃度から差し引くことによって簡単に算出することができる。それ故、ここで作成される脂質プロファイルには、トリグリセリドの濃度が含まれ、患者を治療している臨床医を援助する。
アリコート(b)を分析することによって決定される総コレステロール濃度、アリコート(c)を分析することによって決定されるHDL濃度、及び上記の通りに算出されるトリグリセリド濃度の知識により、値をフリーデワルド式に挿入することによって試料中のLDLの濃度を算出することが可能である。
(CH-LDL)=CH-(CH-HDL) -TG/5
(ここで、CHは総コレステロール濃度であり、(CH-LDL)はコレステロールLDL濃度であり、(CH-HDL)はコレステロールHDL濃度であり、TGはトリグリセリド濃度である。)
結果として、ここで作成される脂質プロファイルには、試料中のLDLの濃度が含まれる。
【0037】
実施例6-脂質プロファイルを作成するためのデバイス
脂質プロファイルが3つの類似した蛍光分析の使用に基づいて作成することができることを示したが、本発明者らは、本発明の第二態様に従って脂質プロファイルを生成するために用いることができる装置を設計するように進めた。
図17-19を参照すると、本発明者らによって開発される携帯用のデバイスが示され、患者の脂質プロファイルを作成するために用いることができる。デバイスは、図17に詳細に示されるカートリッジ1及び図18に示されるリーダー50からなる。
カートリッジ1は、本発明の分析を行うために流体を流すことができる一連の相互接続リザーバーを有する。カートリッジ1は、カートリッジ1で行われるこれらの分析の各々について蛍光強度を検出し測定するためにスロット52によってリーダー50に接続する。
図17を参照すると、カートリッジ1は、試料リザーバー2を有し、血液のような患者から採取された生体液が含まれている。フィルタ18は、血液から血液細胞を除去するために設けられ、分析が行われる血漿又は血清又は他の体液が残る。流体を、3つのアリコート(本発明の方法の第一、第二及び第三のアリコート)に分け、チャネルに沿ってそれぞれ反応リザーバー4、6、8に押し付ける。
K-37とオクタン酸ナトリウムを含有する2つの試薬リザーバー10、12は、それぞれ、反応リザーバー4(K-37反応リザーバー)に接続される。染料とオクタン酸をリーザバー4に押し付け、全リポタンパク分析を開始する。
試薬リーザバー14は、L-B反応のための試薬を含有し、従って、これらを反応リザーバー6に押し付ける場合、生体液と混合し、コレステロール分析を開始する。
ナイルレッド; 及びHSA遮断剤(例えば、オクタン酸ナトリウムと安息香酸-実施例8を参照のこと)を含有する2つの試薬リザーバー16、17は、それぞれ、反応リザーバー8(HDLを決定するために)に接続される。ナイルレッドとHSA遮断剤をレザバー8に押し付け、流体と混合し、HDL分析を開始する。
カートリッジには、蛍光標準20、22、24も含まれ、それぞれ工程(i)、(ii)、及び(iii)のためのリーダー50を調整するために用いることができる。
【0038】
カートリッジ1は、図18に示されるように、リーダー50の前面のスロット52に接続する。カートリッジ1をリーダー50に入れると、リーダー内に有する、3つの反応リザーバー4、6、8が各々対応する光源30、32、34、及び対応する検出フォトダイオード36、38、40と整列する。或はまた、リーダー50は、各リザーバー4、6、8について別個のLEDの代わりに、唯一の光源又はLEDを有してもよい。
LED(又はLEDからのガイド) 30、32、34は、各々対応する分析に各々の分析生成物が蛍光を発するように必要とされる蛍光励起照明を備えている。LED 30、32の各々からの光の波長は約450-470nmであるが、LED(又はLEDからのガイド)34からの光の波長は約600nmである。白色LEDが用いられる場合、光は、適切な反応リザーバーに進む前に、450nm又は600nm干渉フィルタ(図示せず)を通過して正しい励起波長を生成する。リーダー50は、励起修正システム46を有してもよい。つまり、3つの同時分析の蛍光は、レンズ又は同様の収集光学系によって集められ、偏光板を540nmの波長で(全リポタンパクとコレステロールの分析のために)、また、第三分析(HDL)のために約620nmの波長で通過することができる。或いは、共通の偏光板は、いずれの分析にも用いることができる。蛍光強度の測定のためには、フォトダイオード36、38、40の電流出力が増幅され、電流又は電圧として読み取られる。
従って、リーダー50は、カートリッジ1を保持して3つの分析の各々の蛍光強度を検出し測定して、それによって全リポタンパク濃度、HDL濃度、及びコレステロール濃度からなる脂質プロファイルが作成されるように構成される。一実施態様においては、装置は、LCD読み出し表示42を有し、血液成分の各々の濃度が示される。他の実施態様においては、リーダー50は、PC、ラップトップ、PDA又は携帯電話26のUSBポートで出力することができ、それらを通って送られた読み出しを有し、実施例5に記載されたように、トリグリセリド、HDL、また、LDLの濃度についての情報を臨床医が読み出すことが可能になる。或はまた、装置は、カートリッジと測定機器の双方の態様を具体化することができ、自動的にフリーデワルド式を含む脂質成分それ自体の各々の濃度を算出することができるマイクロプロセッサ44を備えている。
カートリッジ1とリーダー装置50の利点は、迅速且つ容易な分析システムにあり、生体液から脂質プロファイルを作成するために同時に行うことができる。その後、臨床医は、臨床的に重要な脂質(例えば、LDL濃度)の知識をもち、治療の有効な過程を判断することができる。
カートリッジ1は、使い捨て商品であり、安くすることができる。カートリッジ1は、適切な試薬レザバー10、12、14、16、17に封入される試薬とともに形成することができ、それによって、試薬調製の不便、また、試薬との接触さえ避けられる。
【0039】
実施例6: 工程(ii)に用いられる代替強酸
本発明者らは、硫酸以外の強酸が本発明の方法に従って試料第二アリコートにおけるコレステロール濃度を測定するために用いることができることを示すために実施例2において記載される実験を繰り返した。それ故、本発明者らは、ルイス酸を用いて実験を行った。
本発明者らは、まず、硫酸の代わりにルイス酸、Al2Cl6、SnCl4、FeCl3を反応に用いるL-B分析の生成物から得られるスペクトルを研究した。各酸の最終濃度は、1.8Mであった(実施例2における硫酸のように)。図20は、ルイス酸Al2Cl6(A)、SnCl4(B)、及びFeCl3(C)を用いた場合の光源に対する励起スペクトル(Ex - 濃い痕跡)とL-B分析の生成物対する発光スペクトル(Em - 薄い痕跡)を示すグラフである。発光スペクトルは、硫酸を用いた場合に得られるものと等価であった。このことにより、他の強酸、この場合にはルイス酸が本発明の分析を行う場合のL-B分析に用いることができることが示される。
図21は、L-B反応において硫酸の代わりにルイス酸、Al2Cl6(A); SnCl4(B)、FeCl3(C)を用いた場合の標準コレステロール濃度(LDLの形で)に対する蛍光強度を示す検定グラフである。これらのグラフの直線性によって、本発明の方法に従ってルイス酸をL-B反応に用いる場合に、コレステロール濃度の信頼性が高い測定を得ることができることが示される。
【0040】
実施例7: 本発明の方法に従う工程(iii)のその後の最適化
本発明の方法に従ってHDLレベルを表す蛍光を誘発するための最適励起波長を調べるためにヒト血清試料についてさらに試験を行った。
本発明者らは、多くの波長を試験し、ナイルレッドを用いた場合に、600nmの励起波長と620nmの発光波長が最適結果を示す(図22を参照のこと)ことが確立された。驚いたことに、この励起波長がスペクトルの非常に長い波長端であることから最適であった。
ある試料について、本発明者は、460nmの励起波長と620nmの発光波長によるよりノイズの多いプロットを見出した(図23を参照のこと)。
本発明者らは、ナイルレッドがわずか約2倍蛍光性である460nmの励起とは反対に600nmで励起される場合にVLDL及びLDLよりHDLにおいて約5倍蛍光性であると考える。これにより、LDLとVLDLの曲線を標準から差し引くとノイズに対して良好なシグナルが得られる。
本発明ら者はいかなる仮説によっても縛られたくないが、460nmで励起される血清試料中に見られる“ノイズ”がシグナル対ノイズの作用であると考える。本発明者らは、ナイルレッドがHSA、特に低脂質濃度で結合することに留意した。それ故、460nmと600nmの双方の励起波長でHDL(+オクタン酸塩)又はHSA(+オクタン酸塩)の存在下にナイルレッド蛍光の分光分析を行った(図24を参照のこと)。本発明者らが考える予想外のスペクトル挙動を生じるこれらの実験は、ナイルレッドが厳密には極性の環境(HSA上の結合部位)にあり且つ励起と発光をより長い波長に移動するナイルレッドがゆがんだ分子内電荷移動を示す(TICT) (Journal of Photochem and Photobiol A:Chemistry 93 (1996) 57-64)事実によって説明することができる。この励起状態における分子は、異なる双極子モーメントを有し、従って、異なる化学種のようにふるまう。600nmで励起する際に、他のリポタンパクと比較してHDLにおけるナイルレッド間のシグナルのより大きな差によるより良好なシグナル対騒音は、TICT蛍光が620nm発光波長設定によって除外されることからTICT状態の励起を補償する。言い換えれば、我々が600nmでより最適にHSA/ナイルレッドを励起させる間、その蛍光は機器によって拒絶される。
これにより、本発明者らはHDL/ナイルレッド分析が追加の遮断薬を用いることによりさらに改善することができると考えるようになった。HSAの薬剤結合ドメインを遮断物質を試みた。驚いたことに、安息香酸、及びそのトリクロロ及びトリヨード誘導体のような物質が全て約5mMでリポタンパク蛍光に影響を及ぼさずにHSAからナイルレッドを置き換えるために作用したことがわかった。安息香酸によって、約20%だけの水溶液でナイルレッド残留蛍光の消光が付け加えられる。
【0041】
実施例5-脂質プロファイルを作成する同時分析
実施例1及び実施例4は、染料K-37の蛍光測定がどのように本発明の方法の工程(i)に従って試料中全リポタンパクの濃度を決定するために用いることができるかを示すものである。
さらに、実施例2及び実施例6は、L-B分析の生成物の蛍光測定(即ち、吸光度でない)がどのように本発明の方法の工程(ii)に従って試料中の総コレステロールの濃度を決定するために用いることができるかを記載する。偶然に、K37と同様に、L-B分析の生成物は、約450nmの波長で励起させることができ、その発光を約540nm以上で測定することができる。
さらに、実施例4及び実施例7は、工程(i)から全リポタンパク測定を考慮して、ナイルレッドの蛍光測定がどのように本発明の方法の工程(iii)に従って試料中のHDLの濃度を決定するために用いることができるかを示すものである。
それ故、本発明者らは、患者の血液試料の脂質組成を分析してその患者のための脂質プロファイルを作成するための単一蛍光ベースの方法を作ることが可能であると考えた。好ましい方法は3つの分析からなり、その全てが非常に類似した条件下で行うことができ、つまり、非常に急速に結果を得ることができる。臨床医は、治療の過程を判断するためにこの情報を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1に記載されるようにHDL中の3つの濃度(0.4mM、0.65mM、及び0.9mM)におけるK-37についての全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図2】実施例1に記載されるようにLDL中の3つの濃度(0.4mM、0.65mM、及び0.9mM)におけるK-37についての全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図3】実施例1に記載されるようにVLDL中の3つの濃度(0.4mM、0.65mM、及び0.9mM)におけるK-37についての全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図4】実施例1に記載されるようにHDL、LDL、及びVLDL中の0.4mMのK-37についての全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図5】実施例1に記載されるようにHDL、LDL、及びVLDL中の0.65mMのK-37についての全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図6】実施例1に記載されるようにHDL、LDL、及びVLDL中の0.9mMのK-37についての全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図7】実施例1に記載されるように一連のHDL、LDL、及びVLDL混合物中の0.65mMのK-37についての全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図8】実施例2に記載されるようにリーベルマン・バーチャード反応を示すスキームである。
【図9】実施例2に記載されるようにリーベルマン・バーチャード反応の生成物に対する吸光度スペクトルを示す図である。
【図10】実施例2に記載されるようにリーベルマン・バーチャード反応の生成物に対する蛍光発光スペクトルを示す図である。
【図11】実施例2に記載されるようにコレステロールの濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図12】実施例2に記載されるようにコレステロールの濃度を決定するための誤差パーセントを示すグラフである。
【図13】実施例4に記載されるように染料ナイルレッドを示す構造である。
【図14】実施例4に記載されるように蛍光強度に対するLDL濃度の検定曲線である;
【図15】実施例4に記載されるようにHDL濃度に対する過剰蛍光の検定曲線である。
【図16】実施例4に記載されるようにHDL濃度に対する誤差を示すグラフである。
【図17】実施例5に記載されるように本発明のカートリッジの実施態様を示す概略図である。
【図18】実施例5に記載されるように本発明のリーダーの実施態様を示す斜視図である。
【図19】実施例5に記載されるようにリーダーに挿入されるカートリッジを示す正面図である。
【図20】実施例6に記載されるようにルイス酸Al2Cl6(A); SnCl4(B)及びFeCl3(C)を本発明の方法に用いた場合の光源に対する励起スペクトル(Ex -暗い痕跡)とL-B分析の生成物に対する発光スペクトル(Em -明るい痕跡)を示す図である。
【図21】実施例6に記載されるようにL-B反応においてそれぞれ硫酸の代わりにルイス酸Al2Cl6(A)、SnCl4(B)及びFeCl3(C)を用いる場合の濃度標準コレステロール(LDLの形で)に対する蛍光強度を示す検定グラフである。
【図22】実施例7に記載されるようにHDL濃度に対するナイルレッド蛍光(ex460nnm、em620nm)を示すグラフである。
【図23】実施例7に記載されるようにHDL濃度に対するナイルレッド蛍光(ex600nnm、em620nm)を示すグラフである。
【図24】実施例7に述べられるHDL(+オクタン酸塩)又はHSA(+オクタン酸塩)の存在下で460nmと600nmの励起波長におけるナイルレッド蛍光の分光分析を示すグラフである。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は試料混合物において異なる種類の脂質分子を区別する分析システムに関する。特に、本発明は、脂質プロファイルを作成するために血漿又は血清において特定の脂質の濃度を決定する方法に関する。本発明は、さらに、前記方法を行う装置に関する。
脂質は、生物に存在する異種類の有機化合物である。それらは、水に不溶であるが、有機溶媒に可溶である。脂質は、概して2種類: (i)複合脂質と(ii)単純脂質に分類される。複合脂質は、長鎖脂肪酸のエステルであり、グリセリド、糖脂質、リン脂質、コレステロール、ワックスが挙げられる。単純脂質は、脂肪酸を含有せず、ステロイド(例えば、コレステロール)、テルペンが挙げられる。
脂質は、タンパク質と組合わせて、コレステロールやトリグリセリドのような脂質が血液やリンパ中で運搬される形であるリポタンパクを形成することができる。血漿に見られるリポタンパクは、3つの主な分類: (i)高密度リポタンパク(HDL)、(ii)低密度リポタンパク(LDL)、(iii)超低密度リポタンパク(VLDL)に、中間型リポタンパク(IDL)と共に分かれる。簡潔のために、“血清”という用語が本明細書に用いられるが、“血清”について述べることは、血漿又は血清について述べることと解釈されなければならない。
血漿中の種々のリポタンパクの濃度とアテローム性動脈硬化症のリスク、即ち、心臓発作となり得る、血管壁に有害なプラークの発生との間に強力な関係があることは十分に実証されている。異なる種類のリポタンパク(HDL、LDL、VLDL)が各々アテローム性動脈硬化症において異なる役割を果たすことも知られている。例えば、HDLは抗アテローム生成的であるとみなされるが、LDLは非常にアテローム生成的であることが知られる(アテローム性動脈硬化症発症と密接に相関して担持されるコレステロール)。VLDLは、わずかにアテローム生成的であると考えられ、女性においてより重要である。
それ故、血液中の種々の脂質成分の各々の相対濃度の知識(コレステロール、トリグリセリド、リポタンパク、特にLDL)は、これらの脂質の血中濃度が不適当である患者を治療する際に臨床医を援助するので有利である。患者の脂質プロファイルの知識を有することにより、臨床医に最も有利になることが理解される。
血液中の脂質成分の一部の濃度を決定するための分析が開発された。このような分析は、通常、まず最初に患者から血液試料を採取することを必要とし、その後、分析のために臨床検査室に送られる。このような分析は、費用のかかる装置を用いて行われなければならず且つ結果を作成するためにかなりの時間がかかる。このことにより、治療が遅延する。さらにまた、試験を必要とし、それ故、費用がかかる。さらに、ラボにおいて用いられる装置は、容易な携帯用でないので、GP、又は看護婦よって用いることができず、往診、又は家庭用の試験キットとしてさえ行うことができない。“治療時点”でラボ分析を再現することを試みるデバイスが最近開発されたが、これらは、費用がかかり且つ作動させるために専門の使用者を必要とすることがわかった。従って、血清中の脂質プロファイルを分析するための改善された方法、及びこのような方法を行うための簡単で相対的に安価な装置が求められている。
【0002】
血清は、種々のタンパク質の複合混合物であり、異なる種類のリポタンパクの濃度を分離し直接測定するための方法は既知であるが、このような方法は、複雑で費用がかかる。従って、臨床検査室において広く用いられるリポタンパク分析の一方法は、重要なLDL濃度が総コレステロール濃度、トリグリセリド濃度及びHDL濃度の測定から下記フリーデワルド式を用いて算出される間接的な方法である。
(CH-LDL) = CH - (CH-HDL) - TG/5
(ここで、CHは総コレステロール濃度であり、(CH-LDL)はコレステロールLDL濃度であり、(CH-HDL)はコレステロールHDL濃度であり、TGは、トリグリセリド濃度である(遊離グリセロールの背景濃度を含む)。
HDL濃度、総コレステロール濃度及びトリグリセリド濃度は、LDL濃度が算出され得る前に最初に決定されなければならない。HDL濃度、コレステロール濃度又はトリグリセリド濃度の測定におけるあらゆる誤差がLDL濃度の計算において倍加することは理解される。さらに、トリグリセリド濃度の従来の測定は、トリグリセリドと遊離グリセロールを区別せず、それらの濃度がLDL濃度の計算に誤差をさらに導入して変動させてしまう。従って、LDL濃度の計算は本質的に誤差を含み、それは極めて有意であり得る。このような誤差は、例えば、広く使われているLDL低下治療(例えば、食事、薬等)の進行をモニタする際の具体的な問題であり、LDL濃度の比較的小さい減少(典型的には数パーセントの程度)を正確にモニタするのに必要であり、トリグリセリドレベルが劇的に変化することがある。このことは、冠動脈性心疾患の病歴をもつ患者の治療に特に強烈である。
血清のリポタンパク濃度を分析するための代替的方法は、国際出願公開第01/53829A1号に開示されている。この引例は、蛍光プローブとしての特定の有機発光団、4-ジメチルアミノ-4'-ジフルオロメチルスルホニルベンジリデンアセトフェノン(DMSBA)の使用に関する。K-37として確認されるプローブの式を以下に示す。
【0003】
【化1】
【0004】
プローブK-37は、水中で発光しないが、リポタンパク水溶液、例えば、血清中で強く発光する。特に、蛍光の強度は血清のリポタンパク含量に非常に依存し、従って、K-37は、存在することができるリポタンパクの濃度を測定するために蛍光プローブとして用いることができる。即ち、K-37は、リポタンパクの脂質と結合したときに蛍光を発し、適切な放射線波長で励起される。従って、リポタンパク混合物の時間分解蛍光減衰の測定は、その混合物に存在する異なるリポタンパク(LDLとVLDL)の相対濃度に関して直接の情報を示すために用いることができる。
しかしながら、K-37時間分解蛍光減衰を用いることによる問題は、その測定が複雑であり且つ費用のかかる装置を必要とすることである。さらにまた、得られたデータの高度に技術的なコンピュータ解析を必要とし、正しく説明するために時間がかかってしまう。従って、血液中の脂質成分の濃度を決定するためのK-37時間分解蛍光減衰の使用は、治療の過程を判断したい場合の臨床医にとって重大な制限を有する。
それ故、プローブK-37による時間分解蛍光分析を用いることにより、試料中の個々のリポタンパクの濃度を決定するのに利用できる方法があったとしても、この方法が多くの制限を有することが理解される。
臨床医が包括的な脂質プロファイルを得たい場合、コレステロール、及びリポタンパクが定量化されることが重要である。コレステロールは、主に、LDLの形で血流で運搬され、肝臓でLDL受容体によって血液から取り除かれる。ある個体において遺伝子の欠損として存在するLDL受容体が欠けていることは、罹患した個体の血液中のコレステロールのレベルが高い原因であると考えられ、アテローム性動脈硬化症になりやすい。
リーベルマン・バーチャード(L-B)反応分析は、血液中の総コレステロールの測定に周知の方法であり、‘ゴールドスタンダード’であるとみなされる。典型的なL-B分析において、反応試薬が最初に調製される(例えば、30%の氷酢酸、60%の酢酸無水物、及び10%の硫酸の水溶液からなる)。第2に、5mlのこのLB試薬が0.2mlの血漿由来の試料に添加され、共に混合され、その後、20分間放置される。L-B反応は、通常は、血漿から有機溶媒に抽出されたコレステロールを含む試料について行われる。L-B反応の生成物は、2つの着色生成物であり、従来の吸光度測定を用いて測定することができる。その後、生成物の吸光度、コレステロールの濃度に関連がある濃度が分光光度計を用いて測定される。総コレステロール濃度は、コレステロール標準を用いてコレステロール濃度に対する吸光度の検定曲線から決定することができる(Burke et al., Clin. Chem. 20(7), 794-801 (1974))。
【0005】
しかしながら、L-B反応分析による問題は、相対的に多量の試薬を必要し、試薬が非常に腐食性であり且つ特別な配慮を必要とするので、明白な欠点であることである。また、通常は、コレステロールが血漿から抽出され、この抽出工程が分析において扱いにくい特別な工程を構成することが必要とされる。従って、L-B反応分析は、かなり多量の試料を必要とし、また、L-B反応分析に腐食性の試薬を用いることから、多くの実験において酵素結合分析が取って代わってきた。しかしながら、総コレステロールの濃度を決定するためのこのような酵素結合分析の使用は、実施するのにより容易でより安全な傾向があるが、L-B分析より正確でない。生成される結果がより正確でなければ、臨床医は、特に冠動脈性心疾患危険因子がより高い個体について治療の過程を判断する場合、L-B反応分析の正確さを好む。
それ故、血液試料中のコレステロール濃度を決定するのに利用できる方法があるとしても、これらの方法も多くの制限を有することは理解される。
それ故、本発明の実施態様の目標は、従来技術による問題を取り除くか又は緩和するとともに、個体に対して脂質プロファイルを決定するための改善された方法を提供することである。このような方法は、個体から採取される試料において少なくとも全体のリポタンパクとコレステロールの濃度を測定する改善された手段を必要とする。目標は、さらに前記方法を行うための装置を提供することである。
本発明の第一態様によれば、試料中に含有する脂質のプロファイルを作成する方法であって、
(i)試料の第一アリコートにおける全リポタンパクの濃度を蛍光分析を用いて決定する工程;
(ii)試料の第二アリコートにおける総コレステロールの濃度を蛍光分析を用いて決定する工程; 及び
全リポタンパクの濃度と総コレステロールの濃度を用いて脂質プロファイルを作成する工程
を含む、前記方法が提供される。
【0006】
“全リポタンパク”という用語は、試料中の少なくともVLDL、HDL、LDL、IDL、及びカイロミクロンの総体的な濃度を意味する。
“総コレステロール”という用語は、試料中のコレステロールの総濃度を意味する。
“脂質プロファイル”という用語は、試料中の脂質成分(即ち、全リポタンパクと総コレステロール)の濃度又は相対濃度を意味する。
つまり、第一態様の方法は、試料中の総コレステロールと全リポタンパク(VLDL、HDL、LDL、IDLと、カイロミクロン)の濃度を決定するものである。試料中に存在するほとんどの脂質がリポタンパクに結合していると考えられる。それ故、試料中の全リポタンパク濃度が試料中の全脂質(TL)の濃度に等しいと考えられる。
“全脂質”(TL)という用語は、試料中の脂質成分(即ち、総コレステロールと、トリグリセリド)の総濃度を意味する。
全脂質濃度(TL)は、トリグリセリドの濃度と、総コレステロールとそのエステルの濃度に等しいと考えられる。つまり、次式から全脂質濃度(全リポタンパク濃度に等しい-工程(i))から総コレステロール濃度(工程(ii))を差し引くことによって試料中のトリグリセリドの濃度を算出することが可能である。
TG = [TL] - [CH]
(ここで、CHは総コレステロール濃度であり、TLは全脂質濃度であり、TGは、トリグリセリド濃度である。)
臨床的ラボにおいて行われる従来の試験は、全リポタンパクを測定しない。つまり、従来は、まずコレステロールの濃度を決定し、その後コレステロールの濃度をトリグリセリドの濃度に加えて全リポタンパク濃度を決定することが必要である。しかしながら、本発明の方法の本発明者らは、臨床的ラボにおけるトリグリセリドの従来の測定が血液中で自然に循環するグリセロールの測定に依存することから実質的な誤差を受けやすいことを見出した。つまり、有利には、本発明の方法は、リポタンパク粒子の数(容積)が工程(i)を用いて直接測定されて、全リポタンパクの濃度を決定し、全脂質濃度に等しいとすることから、この誤差を受けない。つまり、試料中の循環しているグリセロールによるトリグリセリド濃度の誤差が取り除かれる。
試料は、脂質プロファイルを必要とする食品であってもよい。好ましくは、試料は生体試料であり、試験される被検者から得ることができる。“被検者”は、哺乳動物であり、好ましくはヒト被検者である。試料は、あらゆる生体液、例えば、血清又は血漿、又はリンパを含むことができる。試料が血清を含むことが特に好ましい。
【0007】
工程(i)
第一態様の方法の工程(i)は、試料の第一アリコートに、リポタンパクに結合し、且つそれに結合した場合に適切な励起下で蛍光を発する、プローブ物質を添加する工程を含む。
プローブ物質がK-37であることが好ましい。本発明者らは、臨床医が迅速且つ効率よく脂質プロファイルを得たい場合に特に有用である生体分子におけるリポタンパクを測定するためのK-37の使用に基づいて簡単にした分析を開発した。K-37蛍光測定を用いて血液試料中の全リポタンパク(即ち、HDL、LDL、及びVLDL)の濃度を決定するために、本発明者らは、種々の種類のリポタンパクに結合したプローブ物質からの蛍光応答が、その組成(即ち、試料中のHDL:LDL:IDL:VLDLの比)に関係なく、或る全リポタンパク濃度、即ち、全リポタンパク濃度として実質的に同じはずであることが好ましいと考えた。従って、プローブ物質から蛍光強度の応答が、臨床検査において直面する試料から予想されるリポタンパク分子の濃度の範囲全体に実質的に直線的であるような方法で用いられることが好ましい。
本発明者らはいかなる仮説によっても縛られたくないが、プローブ物質からの蛍光強度は、試料中の具体的なリポタンパク分子(HDL、LDL、IDL又はVLDL)に対する親和性、そのリポタンパク分子複合体の範囲内の環境による蛍光量子収率、また、一緒に密接に装填されるプローブ分子間のエネルギー転移による蛍光消光の程度に左右されると考えられる。つまり、本発明者らは、簡単な蛍光測定によって全リポタンパクの正確な測定をするために用いることができるプローブ物質の適切な濃度を選ぶことが可能なものであると結論した。本発明者らは、さらに、このようなプローブ濃度が、好ましくは、HDLに対してより高い親和性を有するVLDLとLDLに比較して、HDLにおけるK-37のより高い量子収率、それ故、HDL内のより高程度の消光と釣り合い、全てのリポタンパク粒子に対して一定の蛍光シグナル応答を生じると考えた。
【0008】
それ故、本発明者らは、真の血清試料において直面するリポタンパク濃度の範囲全体に、プローブ物質、K-37の蛍光と各リポタンパク粒子型(HDL、LDLとVLDL)のリポタンパク濃度との間に直線的で等しい関係を得ることが可能か調べるために一連の実験を行った。驚いたことに、K-37の蛍光とリポタンパク濃度との間に直線関係があるK-37の所定の濃度があることがわかった。
つまり、試料溶液中の全リポタンパクの濃度は、試料の第一アリコートに、試料中のリポタンパクに結合し、そのように結合したときに適切な励起下で蛍光を発する、0.1mM-1.0mMのK-37を添加し; 蛍光分析を用いて試料中の全リポタンパク濃度を決定することにより測定されることが好ましい。
有利には0.1-1.0mMのK-37の濃度で、蛍光測定分析から得られるシグナルの歪みが驚くほどかなり少ないので、全リポタンパクの濃度のより正確な分析が可能である。
試料に添加されるK-37の濃度は、適切には約0.2-1.0mM、より適切には約0.3-0.9mM、さらにより適切には約0.5-0.8mMであるのがよい。試料に添加されるK-37の濃度は、好ましくは約0.65-0.75mMである。0.65mMのK-37が好ましい濃度であり、特に好ましい濃度は約0.7mMのK-37である。本発明者らは、タンパク質を含有する生体試料が分析される場合、0.7mMがこのプローブの好ましい濃度であるが、0.65mMのK-37が多くの実験条件に有用であることがわかった。
つまり、好ましい実施態様においては、本発明の方法の工程(i)において約0.7mMのプローブ物質、K-37を第一アリコートに添加する。
工程(i)は、好ましくは約400nm-500nm、より好ましくは約420nm-480nm、さらにより好ましくは約440nm-470nmの励起波長で試料を励起することを必要とする。約450-470nmのいかなる波長の励起も特に好ましいが、約450nmの特に好ましい励起波長を用いるのがよい。
本方法は、好ましくは約500-650nm、より好ましくは約520nm-620nmの発光波長で蛍光を観測することを含む。約540nm(又はそれ以上)の特に好ましい発光波長を用いるのがよく、全リポタンパク濃度(即ち、HDL、IDL、LDL及びVLDLの濃度、存在する場合にはカイロミクロンも)を決定するのに最も正確な読み取りが観測されるのがよい。
【0009】
工程(ii)
試料中のコレステロール濃度を決定するために用いられる従来の“ゴールドスタンダード”法は、吸光度ベースの分析であるリーベルマン・バーチャード(L-B)反応分析を用いることによるものである。L-B反応であるスキームが図8として示される。
本発明者らは、L-B反応を調べ、驚いたことにL-B反応の生成物が蛍光を発したことがわかった。600nm又はその前後のバンドの吸光度を測定することによって従来のL-B分析を行った(図9を参照のこと)。しかしながら、より短い波長(即ち、約500nm未満)で吸収バンドを励起する場合、L-B反応の生成物は、驚くべきことに、極めて蛍光性であった。図10は、L-B生成物の蛍光発光スペクトルを示すグラフであり、驚くべきことに、蛍光が470-600nmの範囲に及ぶことがわかった。
従って、本発明の方法の工程(ii)は、試料の第二アリコートに、リーベルマン・バーチャード(L-B)反応を引き起こす試薬を添加することを含む。しかしながら、従来のL-B反応分析のように600nm以上の波長において着色した生成物の吸光度を測定する代わりに、本発明の方法の工程(ii)は、試料中のコレステロール濃度を決定するために蛍光を測定することを含む。
工程(ii)は、試料に、リーベルマン・バーチャード(L-B)反応を引き起こす試薬を添加し、蛍光分析を用いて試料中の総コレステロール濃度を決定することにより、総コレステロールの濃度を決定することを含むことが好ましい。
この工程(ii)の他の利点は、液体試料(例えば、血清又は血漿)が本方法において直接用いることができることである。このことは、L-B試薬と合わせる前に一次試料からコレステロールの抽出を必要とするのがよい従来のL-B反応分析とは対照的である。
好ましくは、試料に添加される試薬が試料中に有する総コレステロール、即ち、そのコレステロールとエステルの全ての反応を生じ、試料中に有するものであるリポタンパク(例えば、LDL又はHDL)と会合することができる。L-B試薬は、好ましくは、図8に示すように、試料中のコレステロールに二重結合を付加する。従って、“L-B反応を生じる試薬”という用語は、コレステロールを含有する試料に添加した場合、試料中のコレステロールをますます不飽和にさせるか又は誘発することを意味する。
【0010】
工程(ii)は、包括的なリーベルマン・バーチャード反応分析(L-B)、又は当業者に既知である、L-B反応、例えば、エイベル・ケンダル(Abell-Kendal)分析に基づくのがよいコレステロールの濃度を決定するための他の分析と同じ試薬を使うことができる(Abell et al., J. Biol. Chem. 195 (1) p357-366)。しかしながら、従来のL-B反応分析のように550nmで着色した生成物の吸光度を測定する代わりに、工程(ii)は、試料中のコレステロール濃度を決定するために蛍光を測定することを含む。
L-B反応試薬は、3種類の異なる試薬を含むことができる。
第一試薬は、コレステロール溶媒を含む。適切なコレステロール溶媒の例としては、酢酸、ジオキサン、及び/又はクロロホルムが挙げられる。好ましくは、コレステロール溶媒は氷酢酸を含む。
第二L-B反応試薬は、強酸である。本発明者らは、いかなる仮説によっても縛られたくないが、酸によって水をコレステロールから抽出する脱離反応が行われ、より高程度の結合が残ると考えられる。本発明者らは、本発明に従って励起される場合に蛍光を発するのがこの結合(即ち、増加した二重結合数)であると考える。強酸は、好ましくはリン酸(H3PO4)のようなオキソ酸(X-OH)、より好ましくはH2SO4である。酸は、また、HNO3、H2SeO4、HClO4、HMnO4であってもよい。或いは、酸は、ルイス酸、例えば、Al2Cl6、SnCl4、FeCl3又は酸化チタン(IV))であることができる。
強酸は、硫酸を、好ましくは約3-20%(v/v)の濃度で、又はAl2Cl6を約0.5-2.5モルの濃度で含むことが最も好ましい。
第三L-B反応試薬は、酢酸無水物を含む。酢酸無水物と溶媒との比は、好ましくは0.25:1〜10:1、より好ましくは0.5: 1〜5:1、さらにより好ましくは、1:1〜3:1である。好ましい実施態様において、酢酸無水物と溶媒との比は約2:1である。
L-B試薬は、約30%(v/v)の氷酢酸、約60%(v/v)の酢酸無水物、及び約10%(v/v)の硫酸を含むことが好ましい。
さらに、L-B試薬は、無水硫酸ナトリウム、又はサリチル酸ナトリウム等の添加剤を含んでもよく、より長期の貯蔵のために試薬を安定させるために用いられる。添加剤は、約0.5-3%(v/v)の範囲で添加することができる。
【0011】
工程(ii)は、試料の第二アリコート(即ち、L-B反応の生成物)を、好ましくは約500nm未満、より好ましくは約470nm未満の励起波長で励起させる工程を含む。450nm以下の波長の特に好ましい励起波長は、L-B反応の生成物が蛍光を発するように用いることができる。
その後、得られた蛍光は、500-650nm、より好ましくは520-600nmの発光波長で観測され測定することができる。540nmの特に好ましい発光波長を用いてもよい。
従って、好ましい工程(ii)は、L-B試薬(例えば、約30%(v/v)の氷酢酸、約60%(v/v)の酢酸無水物、及び約10%(v/v)の硫酸)を試料の第二アリコートに添加し、約450nmで試料を励起させ、約540nm以上の発光波長で蛍光を測定することを含む。
L-B反応の生成物の蛍光を測定する利点は、従来法のように吸光度を測定する代わりに、非常に少量の試薬を必要とすることである。このことは、L-B分析の試薬が非常に腐食性で、それ故用いるのに危険であるので特に有利である。つまり、方法の工程(ii)の蛍光分析において必要とされる試薬の量を減少させることは、従来のL-B吸光度分析より技術者にとって非常に安全である。少量の試薬を用いることは、また、また、分析を行うためにより小さいデバイスを用いることができることを意味する。さらに、蛍光を測定することは、吸光度を測定することより非常に感度が良い。それ故、吸光度を測定するより蛍光を用いてコレステロール濃度の定量をさらに正確にすることが可能である。
本発明の方法の工程(i)における全リポタンパクの濃度、及び本方法の工程(ii)における総コレステロールの濃度を決定するために用いられる励起波長が、いずれの場合においても450nmであることは理解される。さらに、双方の測定に用いられる発光波長は540nmである。つまり、双方のパラメータ(総コレステロール及び全リポタンパク)を同時に且つ急速に決定することができる。このことは、別々に行われて結果の作成に遅れを生じるにちがいない、従来の分析よりかなりの改善である。さらに、双方のパラメータを同時に測定することができる事実は、測定を行うのに必要とされる機器化を簡単にする。後述するように、このことは、手術中又は家庭でさえ脂質プロファイルを作成することができる装置の設計を可能にし、専用の検査室で試料を分析する必要を取り除く。
それ故、本発明の方法は、工程(i)を用いて試料中の全リポタンパクの濃度を急速且つ正確に決定し、また、工程(ii)を用いて試料中の総コレステロールとそのエステルの濃度を決定するために用いることができることが理解される。さらに、トリグリセリドの濃度は、上記のように全リポタンパク濃度から総コレステロール濃度を差し引くことによって算出することができる。つまり、それによって、臨床医にとって有用である、全リポタンパク濃度、総コレステロール濃度、及びトリグリセリド濃度からなる、試料のより詳細な脂質プロファイルが作成される。
本発明の第一態様の方法の実施態様は、さらに以下を含んでもよい。
【0012】
工程(iii): 試料中リポタンパクの種類の区別
本発明者らは、試験される試料中のリポタンパクを区別する分析工程をさらに使うことができる場合にはより詳細な脂質プロファイルを得ることができると考えた。それ故、本発明者は、種々のリポタンパク分子を区別することが可能であるかを見るためにK-37以外のプローブ物質の使用を調べた。多くの染料がリポタンパクに結合し且つ結合した具体的なリポタンパクに依存している種々の蛍光応答を示すことが驚いたことにわかった。これらの染料による蛍光測定は、試料中に有するリポタンパクの種類を区別することを可能にする。このことは、検定曲線と工程(i)のK-37分析によって示される全リポタンパク含量の既知の値から決定されるように、リポタンパク混合物中のリポタンパクの1つの種類による増強した又は減弱した蛍光とその他のリポタンパク(特異的性質のあるリポタンパクがないとき)から予想される蛍光とを比較することによって行われる。
例えば、蛍光色素、ナイルレッドは、HDLがその他のリポタンパク、例えば、LDL、VLDLよりかなり強い蛍光を示した。それ故、本発明者らは、第二プローブ物質(例えば、ナイルレッド、又は具体的なリポタンパクに対して特異性か、又は蛍光増強又は減弱を示す他のあらゆる親油性プローブ)が、試料中のリポタンパクのクラス又はサブクラスを区別するために用いることができると考えた。このことは、全脂質濃度が工程(i)に従って決定された後に可能である。
従って、本発明の方法は、
(iii)蛍光分析を用いて試料の第三アリコート中の具体的なクラス、又はサブクラスを決定する工程
をさらに含むことができる。
工程(iii)は、好ましくは、第二プローブを用いてそのリポタンパクに特異的な染料の蛍光応答のずれによってリポタンパクの具体的なクラス又はサブクラスの濃度を決定する工程を必要とする。
【0013】
第二プローブ物質は、プローブがリポタンパクの個々のクラス又はサブクラスに結合するとともにそれに結合した場合に適切な励起下で蛍光収量を変え、リポタンパクの個々のクラス又はサブクラスの濃度を表す、試料の第三アリコートに添加することができる。
工程(iii)は、プローブナイルレッドを試料の第三アリコートに添加し、次に、本方法の工程(i)からの結果を用いて、試料中のHDL濃度を決定することを含むことが好ましい。
好ましくは、ナイルレッドを用いて試料中のHDL濃度を決定するために、計算は、HDLの存在によりナイルレッドからの過剰の蛍光でできていなければならない。第一に、全リポタンパク濃度(測定“A”)が、K-37蛍光とリポタンパク濃度との直線相互関係によって測定される(工程(i)によって決定される)。
第二に、その後、ナイルレッド蛍光がLDL(及び/又は濃度応答に対する蛍光が本質的に同じでなければならないVLDL)によって種々の濃度で検定されて、勾配“X”と切片“Y”を有する検定曲線を得る。当業者は、LDL(及び/又はVLDL)の濃度の範囲をどのように調製し、各濃度についてそれぞれの蛍光をどのように決定するかを知っている。
第三に、その後、一連の濃度のHDLとLDLの一定の濃度について追加の検定曲線が構成されて、勾配“Z”を得る。第四に、K-37測定“A”から全リポタンパク濃度と未知試料“B”の過剰のナイルレッド蛍光を知ることにより、未知試料中のHDL“C”の濃度は、次式によって決定することができる。
C = (B - (AX - Y))/Z
本発明の実施においてその予め調製された又は標準の検定曲線を用いることができることは理解される。さらに、脂質プロファイル(下記を参照のこと)を作成するために開発されたデバイスは、使用者関与のないHDLレベルの自動計算を可能にする内部標準を有し及び/又は処理手段を有してもよい。
それ故、本発明の方法は、さらに、蛍光分析を用いて試料中のHDL濃度を決定することを含むことができる。本方法は、さらに、プローブ物質ナイルレッドを試料の第三アリコートに添加し、そのプローブがHDLと他のリポタンパクに結合する工程(工程(iii))を含む。適切な励起下で、ナイルレッドは試料中のHDL濃度に比例してますます強く蛍光を発する。この追加工程が本発明の方法において行われる場合、被検者の臨床的評価において非常に有用である、全リポタンパク濃度、及びHDL濃度からなる、試料のさらにより詳細なリポタンパクプロファイルを作成することができる。
【0014】
本発明者らは、試料中のHDLの定量の正確さと、必要とされたかなりの本発明の努力を改善するために、試料に添加されなければならないナイルレッドの最適濃度を決定するために一連の実験を行った。試料に添加されるプローブ物質ナイルレッドの濃度は、約0.1-1mMであるのがよい。有利には、ナイルレッドのこの濃度で、HDL濃度の濃度のより正確な定量が可能である。
試料の第三アリコートに添加されるナイルレッドの濃度は、適切には約0.1-0.9mM、より適切には約0.2-0.7mM、さらにより適切には約0.3-0.6mMであるのがよい。ナイルレッドを試料に約0.4mMの最終濃度まで添加することが特に好ましい。
ナイルレッドの蛍光は、好ましくは、試料を約400nm-650nmの励起波長で励起することによって誘発される。
励起波長は、400nm-650nm、好ましくは約420nm-620nm、さらにより好ましくは約590nm-610nmであることが好ましい。約600nmの励起波長が、その他のリポタンパクと比較した場合にHDLにおいてナイルレッドからの蛍光応答の最大区別(5×)を示すナイルレッドと関連して用いることができる。
ナイルレッドから得られた蛍光は、その後、約540-700nm、より好ましくは約570-650nmの発光波長で観測され測定される。約620nmの好ましい発光波長を用いるのがよく、HDLの濃度を決定するのに最も正確な読み取りが観測されるのがよい。
それ故、HDLの濃度、全リポタンパク、また、総コレステロールを決定するのに蛍光測定を用いることができることが理解される。3つのパラメータ(総コレステロール、全リポタンパク、及びHDL)は全て、非常に類似した範囲の波長について蛍光を励起し測定することによって同時に且つ急速に決定することができる。上記のように、このことは、別々に、また、しばしば専用の検査室において行われなければなず、結果の作成の遅れを生じる、従来の分析に対してかなりの改善である。さらに、3つのパラメータ全て同時に測定され得る事実は、測定を行うために必要とされる機器化をかなり簡単にする。
【0015】
リポタンパクの定量に対するヒト血清アルブミンの影響
本発明者らは、本発明の方法の工程(ii)と(iii)において用いられる個々の分析の正確さをさらに改善することが可能かを調べ、そして約30-50mg/mlの濃度を有する血清の主成分であるヒト血清アルブミン(HSA)に注意を向けた。
HSAは、種々のリガンドを結合することができる少なくとも2種類の結合部位を有することが知られる。第一の種類は、本明細書では“疎水性ドメイン”と呼び、ドメインの第二の種類は、本明細書では“薬剤結合ドメイン”と呼ぶ。これらのドメインは、当業者に既知であり、Nature Structural Biology (V5 p827 (1998))における論文では互いに区別されている。この論文は、脂肪酸が結合することができるものとして疎水性ドメインを同定し、薬剤結合ドメインはHSAと会合することができる多くの薬剤を結合することができる。
それらの実験から、本発明者らは、驚くべきことに、プローブ物質K-37とナイルレッド双方が、HSAの疎水性結合部位/ドメインに個々に結合することができることを確立した。つまり、K-37とナイルレッドは、共にHSAのリガンドである。さらに、驚くべきことに、本発明者らは、HSAに結合した場合、K-37とナイルレッドが蛍光を発することがわかった。それ故、本発明者らはいかなる仮説にも縛られたくないが、本発明者らは、K-37のこの追加の蛍光が、HSAに結合した場合に、実質的な背景シグナルを生じるものであり、本発明の方法の工程(iii)における全リポタンパクの濃度の定量において歪ませて有意な誤差になるものと考える。同様に、本発明者らは、ナイルレッドのこの追加の蛍光が、HSAに結合した場合に、実質的な背景シグナルを生じるものであり、本発明の方法の工程(iii)における全リポタンパクの濃度の定量において歪ませて有意な誤差になるものと考える。
結果として、本発明者らは、HSAによる、リガンドK-37、及びリガンドナイルレッドの結合を阻害する作用を調べた。特に、プローブK-37やナイルレッドが結合し蛍光を発するHSAの疎水性結合部位を遮断することを試みた。この実験は、実施例3と実施例4に記載される。本発明者らはいかなる仮説によっても縛られたくないが、驚いたことに、リガンドK-37と疎水性結合部位との結合を阻害することにより、リガンド結合阻害剤が添加されなかった場合より試料中の全リポタンパクの濃度のより正確な基準であるリポタンパク分子(HDL、LDL、VLDL)に結合した場合のプローブ物質の蛍光が得られることがわかった。本発明者らは、また、リガンドナイルレッドのHSAへの結合を阻害することによりHDL定量の正確さが改善されることがわかった。
【0016】
従って、本発明の方法は、試料の第一アリコート、適切な場合には第三アリコートに、プローブ物質(K-37及び/又はナイルレッド)のHSA、好ましくはその疎水性結合部位への結合を実質的に阻害するように適合されるリガンド結合阻害剤を添加することを含むことが好ましい。プローブが試料に添加される前に又はプローブが試料に添加されると同時にリガンド結合阻害剤が試料に添加されることが特に好ましい。
リガンド結合阻害剤は、疎水性であってもよい。阻害剤は、両親媒性であってもよい。リガンド結合阻害剤は、脂肪酸又はその官能性誘導体、また、他の疎水性分子を含んでもよい。HSAの疎水性結合部位を遮断することができる脂肪酸の適切な誘導体の例は、脂肪酸、そのエステル、アシルハライド、カルボン酸無水物、又はアミド等を含むことができる。好ましい脂肪酸誘導体は、脂肪酸エステルである。
脂肪酸又はその誘導体は、C1-C20脂肪酸又はその誘導体を含むことができる。脂肪酸又はその誘導体は、好ましくはC3-C18脂肪酸又はその誘導体、より好ましくはC5-C14脂肪酸又はその誘導体、さらにより好ましくはそのC7-C9脂肪酸又は誘導体を含むことができる。
リガンド結合阻害剤は、オクタン酸(C8)又はその誘導体、例えば、オクタン酸塩を含むことが特に好ましい。好ましくは、リガンド結合阻害剤は、アルカリ金属オクタン酸塩、好ましくはI族アルカリ金属オクタン酸塩、例えば、オクタン酸ナトリウム又はカリウムとして添加される。
好ましくは約10-400mM、より好ましくは約20-200mM、さらにより好ましくは約50-150mMのリガンド結合阻害剤が、本方法の工程(i)を行う前に試料に添加される。約100mMの阻害剤が添加されることが特に好ましい。つまり、本方法の好ましい実施態様において、約100mMのオクタン酸ナトリウムは、工程(i)を行う前に又は工程(i)を行うと同時に試料に添加することができる。
本発明の方法が工程(iii)におけるナイルレッドの使用に達する場合、好ましくは約10-400mMのリガンド結合阻害剤が試料に添加され、より好ましくは約20-200mM、さらにより好ましくは約50-150mMが添加される。約100mMの阻害剤が用いられることが最も好ましい。つまり、本方法の好ましい実施態様において、約100mMのオクタン酸ナトリウムが、ナイルレッドを添加し、本方法のHDL分析を行う前に試料の第三アリコートに添加される。
【0017】
本発明の好ましい実施態様において、リガンド結合阻害剤、例えば、約100mMのオクタン酸ナトリウムは、まず、本方法の工程(i)において全リポタンパク濃度の蛍光測定を行う前に、約0.7mMのK-37プローブを有する、試料から取った第一アリコートに添加される。HDL定量を含む実施態様において、リガンド結合阻害剤、例えば、約100mMのオクタン酸ナトリウムは、まず、本方法においてHDL濃度の蛍光測定を行う前に、約0.4mMのナイルレッドプローブを有する、第三アリコートに添加される。
有利には、K-37プローブの所定の濃度と組合わせたリガンド結合阻害剤により、全リポタンパク(及びナイルレッドプローブが添加される場合HDL濃度)の非常に正確な測定が得られることになり、続いて計算でトリグリセリドの定量の正確さが改善される(下記を参照のこと)。
本発明者らは、さらに、ナイルレッドが上で述べたHSAについての薬剤結合ドメインと相互作用することがわかった。この薬剤結合ドメイン用のリガンドとしては、チロキシン、イブプロフェン、ジアゼパム、ステロイドホルモン及びそれらの誘導体(薬剤)、ヘム、ビリルビン、親油性プロドラッグ、ワルファリン、クマリンベースの薬剤、麻酔薬、ジアゼパム、イブプロフェン及び抗うつ剤(例えば、チオキサンチン)のような薬剤分子が挙げられる。
本発明者らは、この薬剤結合ドメインを遮断するために物質を用いることができ、且つこれによりナイルレッドによる分析結果の改善がさらに得られることがわかった。上記の薬剤、又はこのドメインに対して親和性を有する他のいかなる分子も、HSAの薬剤結合ドメインを遮断するための物質として用いることができる。しかしながら、安息香酸又はその誘導体(例えば、トリクロロ安息香酸又はトリヨード安息香酸)が、薬剤結合ドメインを遮断するために用いられることが最も好ましい。従って、最も好ましい工程(iii)は、HSAの薬剤結合ドメインを遮断するための物質の添加を含む。
実施例1及び実施例4は、染料K37の蛍光測定が試料中の全リポタンパクの濃度を決定するためにどのように用いることができるか、また、ナイルレッドの蛍光測定が試料中のHDLの濃度を決定するためにどのように用いることができるかを示すものである。いずれの染料も450nmの波長で励起することができ、染料の発光は540nm以上の波長で測定することができる。実施例3及び実施例4には、リガンド結合阻害剤(K37又はナイルレッド)によりHSAを遮断して、K-37やナイルレッド蛍光によって得られる結果の正確さを改善することが記載される。
【0018】
さらに、実施例2には、L-B分析の生成物の蛍光測定(即ち、吸光度でない)が試料中の総コレステロールの濃度を決定するためにどのように用いることができるかが記載される。偶然に、K-37とナイルレッドと同様に、L-B反応の生成物も450nmの波長で励起させることができる。さらに、K-37と同様に、その発光も540nmで測定することができる。それ故、本発明者らは、患者の血液試料の脂質組成を分析してその患者用の脂質プロファイルを作成するための単一の方法を作成することが可能であると考えた。
つまり、好ましい方法は2又は3の蛍光分析(工程(i)、(ii)、及び(iii))からなり、それらのすべてが非常に類似した条件下で行うことができ、つまり、非常に急速に結果を得ることができる。臨床医は、ある治療の過程を判断するためにこの情報を用いることができる。本発明の第一態様の方法の最も好ましい実施態様は、患者から血液試料を採取すること、その後、血液細胞から血清を分離することを含むのがよい。このことは、既知の技術、例えば、ろ過又は遠心分離によって達成することができる。その後、血漿を3つのアリコートに分離することができ、それぞれが蛍光分析にかけられて脂質成分の濃度が決定される。第一アリコートは、試料中の全リポタンパクの濃度を決定するために用いることができ; 第二アリコートは、試料中の総コレステロールの濃度を決定するために用いることができ; 第三アリコートは、試料中のHDLの濃度を決定するために用いることができる(第一アリコートから試料中の全リポタンパクを知る)。
第一アリコートに、HSAリガンド結合阻害剤、例えば、オクタン酸ナトリウムを約100mMの最終濃度まで添加することができる。工程(i)における第一アリコートにプローブK37を、好ましくは約0.7mMの最終濃度まで添加されることが好ましい。その後、第一アリコートは、プローブが蛍光を発するように約450nmで励起させることができる。その後、540nm以上の発光波長で蛍光を測定することができる。その後、この値から、試料中の全リポタンパク(HDL、LDL、IDL及びVLDL及び存在する場合にはカイロミクロン)の濃度を決定することが可能である。
第二アリコートに、L-B試薬(例えば、約30%(v/v)の氷酢酸、約60%(v/v)の酢酸無水物、及び約10%(v/v)の硫酸)を添加し; 試料を約450nmで励起させ; 約540nm以上の発光波長で蛍光を測定することができる。その後、この値から、試料中のコレステロール濃度を決定することが可能である。
【0019】
第三アリコートに、HSAリガンド結合阻害剤、例えば、オクタン酸ナトリウムを約100mMの最終濃度まで添加することができる。安息香酸のようなHSAの薬剤結合ドメインに結合する物質を、1-10mM又はより詳しくは約5mMの濃度まで添加されることもできる。その後、プローブナイルレッドを約0.4mMの最終濃度まで添加することができる。その後、この試料を、プローブが蛍光を発するように約600nmで励起させることができる。蛍光は、約620nmの発光波長で測定することができ、その後、この値から、実施例4に記載されるように、試料中のHDL濃度を決定することが可能である。
トリグリセリド濃度は、第一態様の方法の工程(i)から工程(ii)の結果を差し引くことによって容易に算出することができる。それ故、ここで作成される脂質プロファイルは、トリグリセリドの濃度を含み、患者を治療している臨床医を援助する。つまり、4つのパラメータの値を本発明の方法を用いて決定することができる。
第三アリコートを分析することによって算出されるHDLの濃度は、HDLに結合したコレステロール濃度の直接の基準であると考えられる。つまり、第二アリコートを分析することによって決定される総コレステロール濃度、第三アリコートを分析することによって決定されるHDL濃度、及び前項で記載されるように算出されるトリグリセリド濃度の知識において、下記フリーデワルド式に既知の値を挿入することによって試料中のLDLに結合したコレステロール濃度を算出することが可能である。
(CH-LDL) = CH-(CH-HDL) -TG/5
(ここで、CHは総コレステロール濃度であり、(CH-LDL)はコレステロールLDL濃度であり、(CH-HDL)はコレステロールHDL濃度であり、TGはトリグリセリド濃度である。)
結果として、本発明の方法によって作成される脂質プロファイルには、ここでもまた、試料中のLDLに結合したコレステロール濃度が含まれる。非常にアテローム生成的であるので、LDLコレステロール濃度を知っていることは特に有利である。つまり、本方法は、試料中の脂質組成の少なくとも5つのパラメータの複数読み出しを提供する。さらにまた、通常は、ほとんどのトリグリセリドがVLDL中に担持され、VLDLのコレステロール成分が20%であると考えられるので、トリグリセリド濃度からCH-VLDL濃度を算出/推定することが可能である。このことは、臨床医が治療の適切な過程を判断するのを援助するために特に有利である。
【0020】
第一態様の方法を開発することに加えて、本発明者らは、また、本方法を行う装置を開発した。
つまり、本発明の第二態様によれば、試料溶液のための脂質プロファイルを作成する装置であって、コレステロールとリポタンパクの分析を行うための反応リザーバー; 第一態様の方法に必要とされる試薬を含有するように適合された密封手段; 蛍光を発するように試料を励起させるのに作用可能な手段; 及び試料によって放出される蛍光を検出するのに作用可能な検出手段を備えている、前記装置が提供される。
好ましくは、装置は、反応リザーバーにおいて試料と試薬を混合するための手段を備えている。
好ましくは、装置は、多くのタイプのリザーバーを備えている。
第一タイプのリザーバーは、試料を含有するためのものであり、本明細書では試料リザーバーと呼ばれる。単一リザーバーがあるのがよく、そこから試料の第一アリコート、第二アリコート、及び任意の第三アリコートが本発明の方法の工程(i)、工程(ii)、及び任意の工程(iii)に従って分析を行うために採取されるのがよい。或いは、各試料アリコートに個別の試料リザーバーがあってもよい。ある実施態様において、試料が反応リザーバーに直接導入することができるようにデバイスを設計するのがよいことが理解される。これにより、試料リザーバーの必要が取り除かれる。
反応リザーバーは、第二タイプのリザーバーであってもよく、試料アリコート中のコレステロールとリポタンパクの濃度を決定する分析を行うことができる(試料と試薬の導入後)。装置は、単一反応リザーバーを備えてもよく、異なる試料アリコートによる反応の間に洗い流すことができる。或いは、複数の(例えば、単一使用)反応リザーバーを励起手段と接触させることもできる。従って、本発明の第一態様の方法の各工程のための反応リザーバーがあってもよい。
密封手段は、第三タイプのリザーバー、即ち、試薬リーザバを備えることができる。第一試薬リザーバーは、K-37染料と全リポタンパク分析(例えば、リガンド結合阻害剤)のための他の試薬を含有することができる。第二試薬リザーバーは、コレステロール分析のための試薬(即ち、L-B反応試薬)を含有することができる。HDLが決定される(例えば、ナイルレッドを用いて)場合、密封手段は、ナイルレッド染料とHDLを決定するための他の試薬(例えば、リガンド結合阻害剤、HSAの薬剤結合ドメインを遮断するための物質)を含有する第三試薬リザーバーを備えることができる。或いは、各分析のための試薬は、個別の密封手段に含まれてもよい。従って、K-37分析のための試薬は、第一密封手段における第一試薬リザーバーの中であってもよく; コレステロール分析のための試薬は、第二密封手段における第二試薬リザーバーの中にあってもよく; ナイルレッド分析のための試薬は、第三密封手段における第三試薬リザーバーの中にあってもよい。
励起手段と光学接触させることができるように反応リザーバーが配置されることが好ましい。分析から得られる蛍光が検出手段によって検出することができるように反応リザーバーが配置されなければならない。
【0021】
好ましい実施態様において、装置は、3つの試薬リザーバーを有する単一の密封手段を備えている。第一試薬リザーバーは、適切な希釈剤中のプローブ物質、K-37を含有し、HSAリガンド結合阻害剤、例えば、オクタン酸ナトリウムをさらに含有することができる。第二試薬レザバーは、L-B反応試薬を含有する。第三試薬リザーバーは、プローブ物質ナイルレッド及びHSAリガンド結合阻害剤、例えば、オクタン酸ナトリウム、及びHSAについて薬剤結合ドメインを遮断するための物質、例えば、安息香酸を含むことができる。使用中、試薬は、それぞれの反応リザーバー(単一密封手段の範囲内で)に押し付けられ、試料の3つのそれぞれのアリコートと混合することができる。その後、本発明の第一態様の方法の反応工程(i)、(ii)及び(iii)が行われ、蛍光が測定され得る。
装置は、リーダー及び、好ましくは、それとともに機能的に連通して配置されるように適合されたカートリッジを備えてもよい。好ましくは、カートリッジは、リーダーに挿入されるか、又は取り付けられてもよい。リーダーは、カートリッジが挿入されるドッキング手段を備えることができる。ドッキング手段は、スロットであってもよい。つまり、好ましくは、カートリッジはリーダーから取り外し可能である。
カートリッジは、密封手段及び反応と試料のリザーバー(存在する場合)を備えるか、又は各々備えてもよい。つまり、検定用試薬を担持するカートリッジは、一旦試薬が使い尽くされると、リーダーから取り出すことができ、新規な検定用試薬を含有する新規なカートリッジと取り替えられる。自己充足的なカートリッジ(全てのリザーバーを備える)は、使い捨ての反応カートリッジとして容易に用いることができることは理解される。カートリッジは、リーダーから簡単に除去され、試薬を含む新規なカートリッジと取り替えることができ、試料アリコートは、反応リザーバー又はカートリッジ内のリザーバーに配置されてもよい。
リーダーは、励起手段、好ましくは、検出手段を備えてもよい。
好ましくは、装置は、検出された蛍光に基づき試料中のコレステロールと全リポタンパクの濃度を決定するように適合された処理手段を備えている。好ましい実施態様において、処理手段は、また、蛍光分析に基づき試料中のHDLの濃度を決定するのに適合されている。処理手段は、全リポタンパク、及びHDLの濃度に基づき試料中のLDL、VLDL及びIDLの濃度を算出するように適合されていてもよい。
装置は、コレステロール及び全リポタンパクの濃度、好ましくは、試料中のHDLの濃度を示すための表示手段を、好ましくは読み出しとして備えてもよい。例えば、表示手段は、LCD画面を備えることができ、又は電力を供給及び/又はコンピュータ計算のためのコンピュータ及び/又はディスプレイに依存してもよい。
【0022】
好ましくは、装置は、携帯用であり、患者から試料を採取し、その後、試料が採取される部位で分析を行うことにより、患者の脂質プロファイルを作成するために用いることができる。
装置は、あらゆる生体液、例えば、血液、血清、リンパ等であってもよい試料を含有するように適合していなければならない。
好ましくは、励起手段は、約400nm-500nm(コレステロールとK-37分析の場合)で、ナイルレッド分析の好ましい実施態様の場合、約600nmで、試料を照射するように作用可能な照射源を備えている。従って、光源は、好ましくは約400nm-600nmで試料を照射することができる。照射源は、電球又は1以上のLEDを備えることができ、励起波長は、450nmの干渉フィルタ及び600nmの干渉フィルタを用いて変えることができる。励起手段は、照射源によって得られる光を偏光させるように作用可能な偏光手段を備えることができる。励起手段は、試料に光を集中させるように適合された集光手段を備えることができる。集光手段は、レンズを備えることができる。
好ましくは、検出手段は黄-赤感光性であるフォトダイオード又はフォトマルチプライヤを備えている。試料によって放出される蛍光は、コレステロール分析及びK-37分析の場合、好ましくは約500nm-650nm、より好ましくは540nm以上の長い波長で検出される。検出手段は、ナイルレッドを含む分析の場合、620nmで放出される蛍光を検出することができなければならない。蛍光は、第二レンズによって集めることができ、偏光板を通過させることができる。散在する励起光は、遮断フィルタによって除去することができる。蛍光強度の測定のために、フォトダイオードから電流又はフォトマルチプライヤからカウント速度は、電流計、電圧計又は計数率計モジュールから読み取ることができる。
一実施態様において、装置は、2つ又は3つのカートリッジ(即ち、各分析工程-本発明の方法の工程(i)、(ii)、任意の(iii)のためのカートリッジ)を受容するのに適合されているリーダーを備えることができる。このようなリーダーは、各反応リザーバーと整列させ得る2つ(又はそれ以上)の励起手段を備えることができる。さらに、装置は、各反応リザーバーのための検出手段を備えることができる。
装置は、また、光源の変動を考慮することができるように励起修正システムを備えることができる。装置は、リポタンパクの濃度を決定する前の調整に用いられる少なくとも1つの蛍光標準を備えることができる。標準は、内部標準であるのがよい。
【0023】
従って、装置は、同時に又はカートリッジがリーダーに入るにつれて又はその後のある時点で、各分析の蛍光強度を検出し測定し、それによってコレステロール、全リポタンパク濃度、及びHDL濃度からなる脂質プロファイルを作成するように構成される。
有利には、第二態様の装置は、迅速且つ容易な分析を行うために用いることができ、生体液から脂質プロファイルを作成するために同時に行うことができる。コレステロール、リポタンパク、及びHDL濃度の知識をもつ臨床医は、治療の有効過程を判断することができる。さらに、装置は、携帯用であり、GP、又は家庭訪問を行う看護士によって、又は家庭用の試験キットとしてさえ用いることができる。
装置は、自動的に機器を調整するために蛍光標準を備えることができる。
装置は、3つの分析の各々の蛍光強度を同時に又はカートリッジがリーダーに入るにつれて又はその後のある時点で検出し測定し、それによって全リポタンパク濃度、HDL濃度、及びコレステロール濃度からなる脂質プロファイルを作成するように構成される。その後、臨床医又は補助者は、実施例5に記載されるように、トリグリセリドの濃度、及びLDL濃度も算出することができる。
有利には、第二態様の装置は、迅速且つ容易な分析を行うために用いることができ、生体液から脂質プロファイルを作成するために同時に行われ得る。その後、LDL、トリグリセリド、及びHDL濃度の知識をもつ臨床医は、治療の有効な過程を判断することができる。さらに、装置は、携帯用であり、GP、又は家庭訪問を行う看護士によって、又は家庭用の試験キットとしてさえ用いることができる。
本明細書に記載される特徴の全て(添付のあらゆる請求の範囲、要約及び図面を含む)、及び/又はそのように開示されるあらゆる方法又はプロセスの工程の全ては、このような特徴及び/又は工程の少なくとも一部が互いに排除する組合わせを除いて、上記の態様のいずれかとあらゆる組合わせで組合わせることができる。
本発明のより良好な理解のために、また、本発明の実施態様がどのように実施することができるかを示すために、ここで、一例として、添付の図面を参照する。
本発明者らは、蛍光プローブの使用を調べて血液試料中のリポタンパクとコレステロールの濃度を決定するとともに患者のための脂質プロファイルを作成するために一連の実験を行った。患者のための脂質プロファイルの知識、特に、試料中のLDL、トリグリセリド、及びHDLのレベルは、臨床医が治療の具体的な過程を判断するのを援助するのに有利である。以下の実施例に記載されるこれらの実験の結果は、その後、本発明の方法及び装置を開発するために用いた。
【実施例】
【0024】
実施例1-全リポタンパク濃度の測定
本発明者らは、一連の試料において全リポタンパク(全ての脂質がリポタンパクに結合する考えられるので、全トリグリセリドとコレステロールとコレステロールエステル類に等しくなる)の濃度を検出するために蛍光色素K-37の使用を調べた。染料K-37は、当業者に既知であり、容易に利用できる。染料を、まず、所定の波長で励起させ、その後、後述するように他の所定の波長で蛍光を測定する。蛍光強度を用いて、試料中の全リポタンパクの濃度を算出する(即ち、本発明の方法の工程(i))。
方法
ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解した染料、K-37を、リン酸緩衝食塩水に溶解したHDL、LDL、及びVLDLの濃度系に種々の濃度の範囲で添加した。実験の目的は、実在の血漿又は血清試料において直面するリポタンパク濃度の範囲全体に、各粒子タイプ(HDL、LDL、及びVLDL)に対する蛍光とリポタンパク濃度との間の直線的及び同等の関係を得ることであった。蛍光強度は、パーキン・エルマーLS50蛍光計にて450nmの励起波長と540nmの発光波長で測定した。
結果
図1〜図3は、リン酸緩衝食塩水中のHDL、LDL、及びVLDLにおいて、3つの濃度、即ち、0.4mM、0.65mM、及び0.9mMのK-37について蛍光強度と全リポタンパク濃度を示すグラフである。各々の系(上の0.4mM、中の0.65mM、下の0.9mM)に対して直線の一致のR2値を示す。同じデータを、図4〜図6においてプロットし、K-37濃度によって分類する。
【0025】
実験からの結論は、以下のことである。
1) 3つのリポタンパク粒子の種類(HDL、LDL、及びVLDL)全てについて、R2は、0.65mMのK-37濃度において全リポタンパク濃度と蛍光強度との間に良好な直線関係があることを示す。良好な直線関係は、LDLとVLDLにおいて0.9mMのK-37にも見られるが、HDLにおける0.9mMのK-37の直線性は少し不十分である。直線性は、0.4mMのK-37よる全てのリポタンパクについて不十分である。直線性が不十分である濃度でもなお作用するが、より正確でないことは、注目に値する。しかしながら、非直線性は、多項式フィッティングを用いて処理することができる。
2) 2つの因子が直線性に影響を及ぼすと考えられる。低染料濃度において、高い全リポタンパク濃度で応答から平坦になる。本発明者らはいかなる仮説によっても縛られたくないが、リポタンパク粒子を充分に占有するのに利用できる染料が不十分であることからこのことが起こると考えられる。高染料濃度において、低い全リポタンパク濃度による応答は平坦である。このことは、染料が非常に密接に粒子に詰まる場合の蛍光の自己消光による。
3) 0.65mMのK-37濃度は、リン酸緩衝食塩水中で測定した場合の適切な範囲全体に全てのリポタンパク粒子の種類について直線的で非常に類似した蛍光応答を示す。
従って、その後、0.65mMのK-37を一連のHDL/LDL/VLDL混合物に添加し、上記の通りに蛍光強度を測定した。データを図7に示す。見ることができるように、全リポタンパク濃度は、蛍光強度(R2 = 0.9983)と極めて相関し、K-37(0.65mM)のこの濃度は、全リポタンパク濃度の非常に正確な測定に適していることが確認される。患者からの生体試料にこれを適用する場合、発明者らは、高脂質濃度である曲率を見た。その結果として、0.7mMのK-37の濃度は、血清又は血漿に用いられる最適K-37濃度として選ばれた。つまり、この濃度は本発明の方法に最も適した濃度として選ばれた。
【0026】
実施例2−総コレステロールの測定
本発明者らは、その後、試料中の総コレステロールの濃度を決定する蛍光測定を用いることが可能かを調べた(本発明の方法の工程(ii))。このことは、コレステロールの従来の分析のように吸光度を測定することと対照的である。
方法
本発明の方法は、同じ試薬が用いられる従来のリーベルマン・バーチャード反応分析(L-B)と同様にした。図8は、リーベルマン・バーチャード反応を示す。図9を参照すると、L-B生成物の吸光度スペクトルが示されている。吸光度スペクトルは、幅広い吸光度範囲、400〜700nmを示し、試料中のコレステロール濃度を測定するために従来の分析において吸光度測定がなぜ行われるかを見ることができる。
しかしながら、従来のL-B反応分析及びその変形のように550nm又は600nmにおいて着色した生成物の吸光度を測定する代わりに、本発明において、蛍光を測定する。図10を参照すると、L-B生成物の蛍光発光スペクトルが示されている。着色(即ち、550nm〜700nm)の原因となる波長の励起はこれに関与しない。しかしながら、450nmの励起波長が選ばれた場合、このことが本明細書に記載されるその他の分析において用いられるので、蛍光は、驚くべきことに、470-600nmの範囲に及ぶ。
吸光度を測定する代わりに蛍光を測定する利点は、感度の増大と要求される容量の減少である。変更された手順は、現在50マイクロリットルの血漿と1mlの試薬を用いている。このことは、従来の1cmの路長キュベットが蛍光測定に用いることができるためである。しかしながら、10マイクロリットルの領域の試薬容量が簡単に可能である。このことは、セル路長が正確な測定には短すぎるので、吸光度を用いて達成することができなかった(少なくとも0.01Auの吸光度は、正確さが必要とされる)。特に明記しない限り、蛍光測定は、パーキン・エルマーLS-50のルミネセンス分光計において行った。
【0027】
総コレステロールの測定
総コレステロール範囲0〜20mMを有する検定標準をクリスパッカード教授のラボ(グラスゴー)から提供された特徴のあるLDL試料から調製した。50マイクロリットルの試料を1mlのL-B試薬に添加し、室温で5分間インキューベートした(より短い又はより長いインキュベーション時間が成功の測定に充分なものであるが)。450nmの励起波長と540nmの発光波長を用いて各試料の蛍光を測定した。図11に示されるように、蛍光を総コレステロール濃度に対してプロットした。相関係数R2が1に近いことは測定の高度の直線性を示す。
一致したラインの勾配を用いて、各試料の蛍光から総コレステロールを算出した。実際の総コレステロールと測定された総コレステロールとの間の誤差パーセントを図12に示す。結果は、蛍光臨床L-B分析が、試料から予想される範囲をカバーするゼロから20mMまでの範囲で非常に高精度をもって血清コレステロールの測定に使用し得ることを示している。
それ故、本発明者らは、試料中の全リポタンパク(方法の工程(i))とコレステロール(工程(ii))双方の濃度を同時に決定するためには血液試料を450nmで励起させ、発光を540nmで測定することが可能であると考えた。実施例1と実施例2において行われる実験の結果として、本発明者らは、試料中の全リポタンパクとコレステロールの濃度からなる脂質プロファイルを作成するために第一態様の方法を開発した。このことは、2つの完全に独立した分析の使用を必要とする現在利用可能な分析より著しい改善である。
【0028】
実施例3-HSAの遮断
その後、本発明者らは、本発明の方法を最適化するためにさらに研究を行った。このために、血漿の主成分であるヒト血清アルブミン(HSA)が疎水性結合部位を有し、それにK-37が結合し蛍光を発すると考えた。HSAに結合した場合にK-37のこの追加の蛍光は、実質的な背景シグナルを生じ、歪ませ、それによってリポタンパク分子、即ち、HDL、LDL及びVLDLの測定において有意な誤差が生じる。それ故、追加の蛍光が最小にし得るかを見るために、リガンド結合阻害剤、例えば、オクタン酸ナトリウムでHSA上の疎水性結合部位を遮断することを決めた。このようにしてK37とHSAとの結合を阻害すると、K37蛍光測定を用いて得られる結果の正確さが改善されることが想定された。
方法
染料K37を、50mg/mlのHSAの存在下と不在下で5mMの全脂質濃度のLDLに0.5mMの濃度で添加した。リガンド結合阻害剤として作用する、0.1Mオクタン酸ナトリウムを添加して、また、添加せずに測定を行った。
結果
蛍光強度を全ての試料について測定し、下記の表にまとめる。
【0029】
【0030】
結果は、LDLのみにおけるK-37の蛍光強度が213500単位であることを示している。オクタン酸塩がLDLに添加される場合のK-37の蛍光強度は、209700単位(即ち、オクタン酸塩を含まない場合とほぼ同じ)であり、オクタン酸塩の存在がそれ自体でLDL結合したK-37の蛍光強度に関与しないことが示される。HSAに結合したK-37の蛍光強度は79300単位であるが、HSAとオクタン酸塩の存在下のK-37は3600である。これにより、HSAがK-37蛍光に関与し、それ故、妨害シグナルであることが示される。オクタン酸塩を添加すると、妨害が著しく低下し、それにより試料中のHSAの破壊的な作用が取り除かれる。それ故、結果は、LDLにおいてオクタン酸塩の存在下にHSAとのK-37について蛍光強度の大きな抑制を示しているが、K37蛍光に対してほとんど作用しないことを示している。これにより、オクタン酸塩は、HSA上のK-37結合部位を遮断することで著しく成功し、K-37蛍光が全リポタンパク濃度の真の基準になることが示された。
従って、本発明者らは、HSAの疎水性結合部位に結合することができるオクタン酸塩のようなリガンド結合阻害剤を、K-37の蛍光を測定する前に血液試料に添加して、全リポタンパク濃度の正確さを改善することができると考える。さらに、本発明者らによって、この技術が、他のリガンド(例えば、ナイルレッドプローブ)のHSAの疎水性結合部位への結合を遮断するとともにそれにすでに結合しているものであり且つオクタン酸塩よりHSAに対する親和性が低いリガンドを置き換えるために用いることもできることも示される。この研究に続いて本発明者らは、0.7mMのK37と100mMのオクタン酸が最適であることがわかった。
【0031】
実施例4-HDLの測定
本発明者らは、その後、血液試料中に有するリポタンパクの異なる種類を区別することが可能であるかを調べた。つまり、リポタンパクの種類が識別可能かを見るために、K-37以外の蛍光プローブ、例えば、ナイルレッドを用いることの効力を試験した。驚いたことに、K-37の代わりにナイルレッドを用いることにより、血液試料中のHDLの濃度を決定することが可能であることがわかった。
方法
測定の原理は、プローブナイルレッドが、LDL、及びVLDLよりHDLがさらに蛍光性であることである。ナイルレッドの構造を図13に示す。測定は、計算がHDLにおけるナイルレッドからの過剰蛍光でなされるにちがいなく、単に全てのリポタンパクの全体の蛍光でないので、全リポタンパクについてのK37測定よりさらに複雑である。手順は、以下の通りである。
1) 検定
ジメチルホルムアミドに溶解した0.5mMナイルレッドを通常4〜10mMの種々の全リポタンパク濃度のLDLと混合した(典型的には50マイクロリットルの染料を、50マイクロリットルのリポタンパク及び1mlのリン酸緩衝食塩水と混合する)。試料を蛍光計に入れ、蛍光強度を測定した(励起波長450nm、発光波長600nm)。蛍光強度をLDL全脂室濃度に対してプロットし、図14に示されるように勾配“X”と切片“Y”を有する直線検定ラインを得た。
その後、手順を、LDLとHDLの混合物について繰り返した。HDLを0〜3.0mMの濃度で添加し、LDLを全ての試料について5mMの全リポタンパク濃度を保持するように添加した。その後、これらの試料についての蛍光強度を測定した。その後、図15に示されるように、プロットをHDLの存在による過剰蛍光で行い、“勾配”Zを有する直線検定ラインを得た。
2) 未知の測定
ジメチルホルムアミドに溶解した0.5mMのナイルレッドを、オクタン酸塩による前処理後の検査によって試料と混合した。試料を蛍光計に入れ、上記検定と同じ条件下で蛍光強度を測定した。
【0032】
3) HDL濃度の計算
HDLの計算には、K37の蛍光強度から測定され得る、全リポタンパク濃度“A”の知識が必要である。具体的な試料のついて、試料がHDLを含まない場合に予想される蛍光強度は、図14に示される検定ラインから得られる。(測定された蛍光強度)-(この算出蛍光強度)は、HDLが試料中に存在することによる過剰蛍光である。
その後、未知試料におけるHDL濃度“C”は、図15に示される検定ラインと次式を用いて得ることができる。
C = (B - (AX - Y))/Z
実在の臨床試料において予想される濃度の範囲をカバーするように意図されるHDL/LDL/VLDL混合物の濃度の範囲を調製した。上記検定データを用いて混合物からHDL濃度を算出した。図16は、実際のHDL濃度とナイルレッド蛍光から決定されるHDL濃度との間の誤差を示すグラフであり、わずかに約0.15mMの最大誤差が示されている。
これらのデータの結果として、本発明者らは、試料中に存在するリポタンパクの種類を区別するとともに染料ナイルレッドを用いてHDL濃度を決定することが可能であることを示した。
実施例3に記載される知見に従って、HSAの疎水性結合部位を遮断するオクタン酸塩の添加に関して、本発明者らは、その後、ナイルレッドも、HSA(K37と同じ疎水性結合部位)に結合し、蛍光を発することを見出した。HSAに結合した場合のナイルレッドこの追加の蛍光も実質的な背景シグナルを引き起こし、歪ませ、それによってHDL測定において有意な誤差が生じる。それ故、K-37遮断と同じリガンド結合阻害剤、即ち、オクタン酸ナトリウムでHSAにおける疎水性結合部位を遮断すると決めた。ナイルレッドとHSAで行われる実験は、実施例3に記載されるものに基づき、すべて0.5mMのナイルレッドを用いた。
【0033】
【0034】
結果は、LDL単独におけるナイルレッドの蛍光強度が187.532単位であることを示している。オクタン酸塩がLDLに添加される場合のナイルレッドの蛍光強度は、183.786単位(即ち、オクタン酸を含まない場合とほぼ同じ)であり、オクタン酸塩の存在が、それ自体でLDL結合したK-37の蛍光強度に関与しないことが示される。HSAに結合したナイルレッドの蛍光強度は、58.905単位であるが、HSAとオクタン酸塩の存在下のナイルレッドは、9.118である。これにより、HSAがナイルレッド蛍光に関与し、それ故妨害シグナルであることが示される。オクタン酸塩を添加すると妨害がかなり低下し、それによって試料におけるHSAの破壊的な作用が取り除かれる。それ故、結果は、LDLにおいてオクタン酸塩の存在下にナイルレッドとHSAについて蛍光強度の大きな抑制を示しているが、ナイルレッド蛍光に対してほとんど作用しないことを示している。
これにより、オクタン酸塩は、HSA上のナイルレッド結合部位を遮断することで著しく成功し、ナイルレッド蛍光がリポタンパク濃度の真の基準になることが示された。従って、本発明者らは、HSAの疎水性結合部位に結合することができるオクタン酸塩のようなリガンド結合阻害剤を、ナイルレッドの蛍光を測定する前に血液試料に添加して、リポタンパク(HDL)濃度の正確さを改善することができると考える。この研究に続いて本発明者らは、0.4mMのナイルレッドと50mM、又はより好ましくは100mMのオクタン酸塩が血清試料の分析に最適であることがわかった。
【0035】
実施例5-脂質プロファイルを作成する同時分析
実施例1と実施例3は、染料K-37の蛍光測定がどのように本発明の方法の工程(i)に従って試料中の全リポタンパクの濃度を決定するために用いることができるかを示すものである。
実施例2は、L-B分析の生成物の蛍光測定(即ち、吸光度でない)がどのように本発明の方法の工程(ii)に従って試料中総コレステロールの濃度を決定するために用いることができるかを記載するものである。偶然に、K37と同様に、L-B分析の生成物を約450nmの波長で励起させることができ、その発光を約540nm以上で測定することができる。
実施例4は、工程(i)から全リポタンパク測定からみて、ナイルレッドの蛍光測定がどのように本発明の方法の工程(iii)に従って試料中のHDLの濃度を決定するために用いることができるかを示すものである。
それ故、本発明者らは、患者の血液試料の脂質組成を分析してその患者のための脂質プロファイルを作成するための単一蛍光ベースの方法を作ることが可能であると考えた。好ましい方法は3つの分析からなり、その全てが非常に類似した条件下で行うことができ、つまり、非常に急速に結果を得ることができる。臨床医は、治療の過程を判断するためにこの情報を用いることができる。
以下に、3つの同時蛍光ベースの分析にかける単一試料から脂質プロファイルを急速に作成することができるように、本発明者らが本発明の第一態様の方法をどのように開発したかを記載する。
【0036】
方法
血液試料を、まず最初に患者から採取し、その後、確立した従来の技術を用いて遠心分離し、血清を分離する。その後、血清を3つのアリコート(a、b & c)に分け、それぞれを生化学分析にかけ、脂質成分の濃度を決定する。後述するように、アリコート(a)を、全リポタンパクの濃度を決定するために用い、アリコート(b)を、コレステロールの濃度を決定するために用い、アリコート(c)を、HDLの濃度を決定するために用いる。
アリコート(a) - HSAリガンド結合阻害剤、オクタン酸ナトリウムを、上の実施例3に記載されるように、50mMの濃度まで2mlのPBSに添加する。その後、25マイクロリットルの血清アリコート(a)をPBS/オクタン酸溶液に添加する。その後、ジメチルホルムアミド(DMF)に溶解したプローブK-37を試料に0.65mMの最終濃度に撹拌しながら徐々に添加した。その後、プローブが蛍光を発するように試料を450nmで励起させた。蛍光を540nmの発光波長で測定し、この値から、上記実施例1のように、試料中の全リポタンパク(HDL、LDL、及びVLDL)の濃度を決定することは可能であった。
アリコート(b) - 10マイクロリットルの血清を、2mlのL-B反応試薬(60%の酢酸無水物、30%の酢酸、及び10%の硫酸)に添加した。その後、L-B反応の生成物が蛍光を発するように試料を450nmで励起させた。蛍光を540nmの発光波長で測定し、この値から、上記実施例2のように、試料中のコレステロール濃度を決定することは可能であった。
アリコート(c) - HSAリガンド結合阻害剤、オクタン酸ナトリウムを上記実施例4のように2mlのPBSに50mMの濃度まで添加する。その後、25マイクロリットルの血清アリコート(c)をPBS/オクタン酸溶液に添加する。その後、プローブナイルレッドを試料に撹拌しながら0.5mMの最終濃度に徐々に添加した。その後、プローブが蛍光を発するように試料を450nmで励起させた。蛍光を600nmの発光波長で測定し、この値から、上記実施例4のように、試料中のHDL濃度を決定することは可能であった。
3つのアリコート全てに対する蛍光測定が同様の条件下で行われることは理解される。それ故、本発明による方法の利点は、3つのアリコート全てが同じ機器で同時に分析することができることである。従って、上記の方法の使用は、試料中の(a)全リポタンパク濃度、(b)総コレステロール濃度、及び(c)HDLの濃度からなる脂質プロファイルを急速に作成する。
トリグリセリド濃度は、アリコート(b)を分析することによって決定されるコレステロール濃度の値をアリコート(a)を分析することによって決定される全リポタンパク濃度から差し引くことによって簡単に算出することができる。それ故、ここで作成される脂質プロファイルには、トリグリセリドの濃度が含まれ、患者を治療している臨床医を援助する。
アリコート(b)を分析することによって決定される総コレステロール濃度、アリコート(c)を分析することによって決定されるHDL濃度、及び上記の通りに算出されるトリグリセリド濃度の知識により、値をフリーデワルド式に挿入することによって試料中のLDLの濃度を算出することが可能である。
(CH-LDL)=CH-(CH-HDL) -TG/5
(ここで、CHは総コレステロール濃度であり、(CH-LDL)はコレステロールLDL濃度であり、(CH-HDL)はコレステロールHDL濃度であり、TGはトリグリセリド濃度である。)
結果として、ここで作成される脂質プロファイルには、試料中のLDLの濃度が含まれる。
【0037】
実施例6-脂質プロファイルを作成するためのデバイス
脂質プロファイルが3つの類似した蛍光分析の使用に基づいて作成することができることを示したが、本発明者らは、本発明の第二態様に従って脂質プロファイルを生成するために用いることができる装置を設計するように進めた。
図17-19を参照すると、本発明者らによって開発される携帯用のデバイスが示され、患者の脂質プロファイルを作成するために用いることができる。デバイスは、図17に詳細に示されるカートリッジ1及び図18に示されるリーダー50からなる。
カートリッジ1は、本発明の分析を行うために流体を流すことができる一連の相互接続リザーバーを有する。カートリッジ1は、カートリッジ1で行われるこれらの分析の各々について蛍光強度を検出し測定するためにスロット52によってリーダー50に接続する。
図17を参照すると、カートリッジ1は、試料リザーバー2を有し、血液のような患者から採取された生体液が含まれている。フィルタ18は、血液から血液細胞を除去するために設けられ、分析が行われる血漿又は血清又は他の体液が残る。流体を、3つのアリコート(本発明の方法の第一、第二及び第三のアリコート)に分け、チャネルに沿ってそれぞれ反応リザーバー4、6、8に押し付ける。
K-37とオクタン酸ナトリウムを含有する2つの試薬リザーバー10、12は、それぞれ、反応リザーバー4(K-37反応リザーバー)に接続される。染料とオクタン酸をリーザバー4に押し付け、全リポタンパク分析を開始する。
試薬リーザバー14は、L-B反応のための試薬を含有し、従って、これらを反応リザーバー6に押し付ける場合、生体液と混合し、コレステロール分析を開始する。
ナイルレッド; 及びHSA遮断剤(例えば、オクタン酸ナトリウムと安息香酸-実施例8を参照のこと)を含有する2つの試薬リザーバー16、17は、それぞれ、反応リザーバー8(HDLを決定するために)に接続される。ナイルレッドとHSA遮断剤をレザバー8に押し付け、流体と混合し、HDL分析を開始する。
カートリッジには、蛍光標準20、22、24も含まれ、それぞれ工程(i)、(ii)、及び(iii)のためのリーダー50を調整するために用いることができる。
【0038】
カートリッジ1は、図18に示されるように、リーダー50の前面のスロット52に接続する。カートリッジ1をリーダー50に入れると、リーダー内に有する、3つの反応リザーバー4、6、8が各々対応する光源30、32、34、及び対応する検出フォトダイオード36、38、40と整列する。或はまた、リーダー50は、各リザーバー4、6、8について別個のLEDの代わりに、唯一の光源又はLEDを有してもよい。
LED(又はLEDからのガイド) 30、32、34は、各々対応する分析に各々の分析生成物が蛍光を発するように必要とされる蛍光励起照明を備えている。LED 30、32の各々からの光の波長は約450-470nmであるが、LED(又はLEDからのガイド)34からの光の波長は約600nmである。白色LEDが用いられる場合、光は、適切な反応リザーバーに進む前に、450nm又は600nm干渉フィルタ(図示せず)を通過して正しい励起波長を生成する。リーダー50は、励起修正システム46を有してもよい。つまり、3つの同時分析の蛍光は、レンズ又は同様の収集光学系によって集められ、偏光板を540nmの波長で(全リポタンパクとコレステロールの分析のために)、また、第三分析(HDL)のために約620nmの波長で通過することができる。或いは、共通の偏光板は、いずれの分析にも用いることができる。蛍光強度の測定のためには、フォトダイオード36、38、40の電流出力が増幅され、電流又は電圧として読み取られる。
従って、リーダー50は、カートリッジ1を保持して3つの分析の各々の蛍光強度を検出し測定して、それによって全リポタンパク濃度、HDL濃度、及びコレステロール濃度からなる脂質プロファイルが作成されるように構成される。一実施態様においては、装置は、LCD読み出し表示42を有し、血液成分の各々の濃度が示される。他の実施態様においては、リーダー50は、PC、ラップトップ、PDA又は携帯電話26のUSBポートで出力することができ、それらを通って送られた読み出しを有し、実施例5に記載されたように、トリグリセリド、HDL、また、LDLの濃度についての情報を臨床医が読み出すことが可能になる。或はまた、装置は、カートリッジと測定機器の双方の態様を具体化することができ、自動的にフリーデワルド式を含む脂質成分それ自体の各々の濃度を算出することができるマイクロプロセッサ44を備えている。
カートリッジ1とリーダー装置50の利点は、迅速且つ容易な分析システムにあり、生体液から脂質プロファイルを作成するために同時に行うことができる。その後、臨床医は、臨床的に重要な脂質(例えば、LDL濃度)の知識をもち、治療の有効な過程を判断することができる。
カートリッジ1は、使い捨て商品であり、安くすることができる。カートリッジ1は、適切な試薬レザバー10、12、14、16、17に封入される試薬とともに形成することができ、それによって、試薬調製の不便、また、試薬との接触さえ避けられる。
【0039】
実施例6: 工程(ii)に用いられる代替強酸
本発明者らは、硫酸以外の強酸が本発明の方法に従って試料第二アリコートにおけるコレステロール濃度を測定するために用いることができることを示すために実施例2において記載される実験を繰り返した。それ故、本発明者らは、ルイス酸を用いて実験を行った。
本発明者らは、まず、硫酸の代わりにルイス酸、Al2Cl6、SnCl4、FeCl3を反応に用いるL-B分析の生成物から得られるスペクトルを研究した。各酸の最終濃度は、1.8Mであった(実施例2における硫酸のように)。図20は、ルイス酸Al2Cl6(A)、SnCl4(B)、及びFeCl3(C)を用いた場合の光源に対する励起スペクトル(Ex - 濃い痕跡)とL-B分析の生成物対する発光スペクトル(Em - 薄い痕跡)を示すグラフである。発光スペクトルは、硫酸を用いた場合に得られるものと等価であった。このことにより、他の強酸、この場合にはルイス酸が本発明の分析を行う場合のL-B分析に用いることができることが示される。
図21は、L-B反応において硫酸の代わりにルイス酸、Al2Cl6(A); SnCl4(B)、FeCl3(C)を用いた場合の標準コレステロール濃度(LDLの形で)に対する蛍光強度を示す検定グラフである。これらのグラフの直線性によって、本発明の方法に従ってルイス酸をL-B反応に用いる場合に、コレステロール濃度の信頼性が高い測定を得ることができることが示される。
【0040】
実施例7: 本発明の方法に従う工程(iii)のその後の最適化
本発明の方法に従ってHDLレベルを表す蛍光を誘発するための最適励起波長を調べるためにヒト血清試料についてさらに試験を行った。
本発明者らは、多くの波長を試験し、ナイルレッドを用いた場合に、600nmの励起波長と620nmの発光波長が最適結果を示す(図22を参照のこと)ことが確立された。驚いたことに、この励起波長がスペクトルの非常に長い波長端であることから最適であった。
ある試料について、本発明者は、460nmの励起波長と620nmの発光波長によるよりノイズの多いプロットを見出した(図23を参照のこと)。
本発明者らは、ナイルレッドがわずか約2倍蛍光性である460nmの励起とは反対に600nmで励起される場合にVLDL及びLDLよりHDLにおいて約5倍蛍光性であると考える。これにより、LDLとVLDLの曲線を標準から差し引くとノイズに対して良好なシグナルが得られる。
本発明ら者はいかなる仮説によっても縛られたくないが、460nmで励起される血清試料中に見られる“ノイズ”がシグナル対ノイズの作用であると考える。本発明者らは、ナイルレッドがHSA、特に低脂質濃度で結合することに留意した。それ故、460nmと600nmの双方の励起波長でHDL(+オクタン酸塩)又はHSA(+オクタン酸塩)の存在下にナイルレッド蛍光の分光分析を行った(図24を参照のこと)。本発明者らが考える予想外のスペクトル挙動を生じるこれらの実験は、ナイルレッドが厳密には極性の環境(HSA上の結合部位)にあり且つ励起と発光をより長い波長に移動するナイルレッドがゆがんだ分子内電荷移動を示す(TICT) (Journal of Photochem and Photobiol A:Chemistry 93 (1996) 57-64)事実によって説明することができる。この励起状態における分子は、異なる双極子モーメントを有し、従って、異なる化学種のようにふるまう。600nmで励起する際に、他のリポタンパクと比較してHDLにおけるナイルレッド間のシグナルのより大きな差によるより良好なシグナル対騒音は、TICT蛍光が620nm発光波長設定によって除外されることからTICT状態の励起を補償する。言い換えれば、我々が600nmでより最適にHSA/ナイルレッドを励起させる間、その蛍光は機器によって拒絶される。
これにより、本発明者らはHDL/ナイルレッド分析が追加の遮断薬を用いることによりさらに改善することができると考えるようになった。HSAの薬剤結合ドメインを遮断物質を試みた。驚いたことに、安息香酸、及びそのトリクロロ及びトリヨード誘導体のような物質が全て約5mMでリポタンパク蛍光に影響を及ぼさずにHSAからナイルレッドを置き換えるために作用したことがわかった。安息香酸によって、約20%だけの水溶液でナイルレッド残留蛍光の消光が付け加えられる。
【0041】
実施例5-脂質プロファイルを作成する同時分析
実施例1及び実施例4は、染料K-37の蛍光測定がどのように本発明の方法の工程(i)に従って試料中全リポタンパクの濃度を決定するために用いることができるかを示すものである。
さらに、実施例2及び実施例6は、L-B分析の生成物の蛍光測定(即ち、吸光度でない)がどのように本発明の方法の工程(ii)に従って試料中の総コレステロールの濃度を決定するために用いることができるかを記載する。偶然に、K37と同様に、L-B分析の生成物は、約450nmの波長で励起させることができ、その発光を約540nm以上で測定することができる。
さらに、実施例4及び実施例7は、工程(i)から全リポタンパク測定を考慮して、ナイルレッドの蛍光測定がどのように本発明の方法の工程(iii)に従って試料中のHDLの濃度を決定するために用いることができるかを示すものである。
それ故、本発明者らは、患者の血液試料の脂質組成を分析してその患者のための脂質プロファイルを作成するための単一蛍光ベースの方法を作ることが可能であると考えた。好ましい方法は3つの分析からなり、その全てが非常に類似した条件下で行うことができ、つまり、非常に急速に結果を得ることができる。臨床医は、治療の過程を判断するためにこの情報を用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】実施例1に記載されるようにHDL中の3つの濃度(0.4mM、0.65mM、及び0.9mM)におけるK-37についての全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図2】実施例1に記載されるようにLDL中の3つの濃度(0.4mM、0.65mM、及び0.9mM)におけるK-37についての全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図3】実施例1に記載されるようにVLDL中の3つの濃度(0.4mM、0.65mM、及び0.9mM)におけるK-37についての全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図4】実施例1に記載されるようにHDL、LDL、及びVLDL中の0.4mMのK-37についての全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図5】実施例1に記載されるようにHDL、LDL、及びVLDL中の0.65mMのK-37についての全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図6】実施例1に記載されるようにHDL、LDL、及びVLDL中の0.9mMのK-37についての全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図7】実施例1に記載されるように一連のHDL、LDL、及びVLDL混合物中の0.65mMのK-37についての全脂質濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図8】実施例2に記載されるようにリーベルマン・バーチャード反応を示すスキームである。
【図9】実施例2に記載されるようにリーベルマン・バーチャード反応の生成物に対する吸光度スペクトルを示す図である。
【図10】実施例2に記載されるようにリーベルマン・バーチャード反応の生成物に対する蛍光発光スペクトルを示す図である。
【図11】実施例2に記載されるようにコレステロールの濃度に対する蛍光強度を示すグラフである。
【図12】実施例2に記載されるようにコレステロールの濃度を決定するための誤差パーセントを示すグラフである。
【図13】実施例4に記載されるように染料ナイルレッドを示す構造である。
【図14】実施例4に記載されるように蛍光強度に対するLDL濃度の検定曲線である;
【図15】実施例4に記載されるようにHDL濃度に対する過剰蛍光の検定曲線である。
【図16】実施例4に記載されるようにHDL濃度に対する誤差を示すグラフである。
【図17】実施例5に記載されるように本発明のカートリッジの実施態様を示す概略図である。
【図18】実施例5に記載されるように本発明のリーダーの実施態様を示す斜視図である。
【図19】実施例5に記載されるようにリーダーに挿入されるカートリッジを示す正面図である。
【図20】実施例6に記載されるようにルイス酸Al2Cl6(A); SnCl4(B)及びFeCl3(C)を本発明の方法に用いた場合の光源に対する励起スペクトル(Ex -暗い痕跡)とL-B分析の生成物に対する発光スペクトル(Em -明るい痕跡)を示す図である。
【図21】実施例6に記載されるようにL-B反応においてそれぞれ硫酸の代わりにルイス酸Al2Cl6(A)、SnCl4(B)及びFeCl3(C)を用いる場合の濃度標準コレステロール(LDLの形で)に対する蛍光強度を示す検定グラフである。
【図22】実施例7に記載されるようにHDL濃度に対するナイルレッド蛍光(ex460nnm、em620nm)を示すグラフである。
【図23】実施例7に記載されるようにHDL濃度に対するナイルレッド蛍光(ex600nnm、em620nm)を示すグラフである。
【図24】実施例7に述べられるHDL(+オクタン酸塩)又はHSA(+オクタン酸塩)の存在下で460nmと600nmの励起波長におけるナイルレッド蛍光の分光分析を示すグラフである。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液のための脂質プロファイルを作成する方法であって、
(i)試料の第一アリコートにおける全リポタンパクの濃度を蛍光分析を用いて決定する工程;
(ii)試料の第二アリコートにおける総コレステロールの濃度を蛍光分析を用いて決定する工程; 及び
全リポタンパクの濃度と総コレステロールの濃度を用いて脂質プロファイルを作成する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
試料が生体液である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
生体液が血清又は血漿、又はリンパである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
工程(i)が、リポタンパクに結合し、それに結合した場合に適切な励起下で蛍光を発するプローブ物質を試料に添加することを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
プローブ物質が4-ジメチルアミノ-4'-ジフルオロメチルスルホニルベンジリデンアセトフェノン(DMSBA又はK-37)である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
工程(ii)が、リーベルマン・バーチャード分析(L-B)試薬を第二アリコートに添加し、適切な励起後に蛍光を測定することを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
プローブ物質のヒト血清アルブミンへの結合を実質的に阻害するリガンド結合阻害剤が、リポタンパクの濃度が決定される前に試料の第一アリコートに添加される、請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
リガンド結合阻害剤がオクタン酸塩である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
(iii)試料の第三アリコート中のリポタンパクの具体的なクラス、又はサブクラスの濃度を蛍光分析を用いて決定する工程; 及び
全リポタンパク、総コレステロール、及びリポタンパクの具体的なクラス又はサブクラスの濃度を用いて脂質プロファイルを作成する工程
をさらに含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(iii)が、HDLに結合し、それに結合した場合に適切な励起下で蛍光を発する、第二プローブ物質を試料の第三アリコートに添加することを含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
第二プローブ物質がナイルレッドである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項7又は8記載のリガンド結合阻害剤が第三アリコートに添加される、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
HSAの薬剤結合ドメインを遮断する物質が、HDLの濃度が決定される前に第三アリコートに添加される、請求項9〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記物質が安息香酸又はその塩又は誘導体である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
各工程について、約400nm-500nmの励起波長で試料を励起させることによって蛍光を誘発させ、得られた蛍光が約500-650nmの発光波長で測定される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
試料溶液のための脂質プロファイルを作成する装置であって、コレステロールとリポタンパクの分析を行うための少なくとも1つの反応リザーバー; 請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法に必要とされる試薬を含有するように適合された密封手段; 試料を励起させて蛍光を発するように作用可能な励起手段; 及び試料によって放出される蛍光を検出するように作用可能な検出手段を備えている、前記装置。
【請求項17】
装置が、試料中の全リポタンパクの濃度を決定する分析を行うことができる第一反応リザーバー; 試料中の総コレステロールの濃度を決定する分析を行うことができる第二反応リザーバー; 及び試料中のHDLの濃度を決定する分析を行うことができる第三反応リザーバーを備えている、請求項16記載の装置。
【請求項18】
装置がリーダーとカートリッジを備え、カートリッジが少なくとも1つの反応リザーバーと、密封手段を備えている、請求項16又は17記載の装置。
【請求項19】
検出される蛍光に基づいて試料中の全リポタンパクと総コレステロールの濃度を決定するように適合された処理手段を備え、処理手段が試料中のHDLの濃度を決定するためであってもよい、請求項16〜18のいずれか1項に記載の装置。
【請求項20】
処理手段が、(a)全リポタンパクからコレステロールの濃度を差し引くことによって試料中のトリグリセリドの濃度を算出するように作用可能であってもよく; 及び/又は(b)試料中のLDLの濃度をフリーデワルド式を用いて算出するように作用可能であってもよい、請求項19記載の装置。
【請求項21】
試料のための脂質プロファイルを表示するための表示手段をさらに備えている、請求項16〜20のいずれか1項に記載の装置。
【請求項1】
試料溶液のための脂質プロファイルを作成する方法であって、
(i)試料の第一アリコートにおける全リポタンパクの濃度を蛍光分析を用いて決定する工程;
(ii)試料の第二アリコートにおける総コレステロールの濃度を蛍光分析を用いて決定する工程; 及び
全リポタンパクの濃度と総コレステロールの濃度を用いて脂質プロファイルを作成する工程
を含む、前記方法。
【請求項2】
試料が生体液である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
生体液が血清又は血漿、又はリンパである、請求項2記載の方法。
【請求項4】
工程(i)が、リポタンパクに結合し、それに結合した場合に適切な励起下で蛍光を発するプローブ物質を試料に添加することを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
プローブ物質が4-ジメチルアミノ-4'-ジフルオロメチルスルホニルベンジリデンアセトフェノン(DMSBA又はK-37)である、請求項4記載の方法。
【請求項6】
工程(ii)が、リーベルマン・バーチャード分析(L-B)試薬を第二アリコートに添加し、適切な励起後に蛍光を測定することを含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
プローブ物質のヒト血清アルブミンへの結合を実質的に阻害するリガンド結合阻害剤が、リポタンパクの濃度が決定される前に試料の第一アリコートに添加される、請求項4〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
リガンド結合阻害剤がオクタン酸塩である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
(iii)試料の第三アリコート中のリポタンパクの具体的なクラス、又はサブクラスの濃度を蛍光分析を用いて決定する工程; 及び
全リポタンパク、総コレステロール、及びリポタンパクの具体的なクラス又はサブクラスの濃度を用いて脂質プロファイルを作成する工程
をさらに含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
工程(iii)が、HDLに結合し、それに結合した場合に適切な励起下で蛍光を発する、第二プローブ物質を試料の第三アリコートに添加することを含む、請求項9記載の方法。
【請求項11】
第二プローブ物質がナイルレッドである、請求項10記載の方法。
【請求項12】
請求項7又は8記載のリガンド結合阻害剤が第三アリコートに添加される、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
HSAの薬剤結合ドメインを遮断する物質が、HDLの濃度が決定される前に第三アリコートに添加される、請求項9〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
前記物質が安息香酸又はその塩又は誘導体である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
各工程について、約400nm-500nmの励起波長で試料を励起させることによって蛍光を誘発させ、得られた蛍光が約500-650nmの発光波長で測定される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
試料溶液のための脂質プロファイルを作成する装置であって、コレステロールとリポタンパクの分析を行うための少なくとも1つの反応リザーバー; 請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法に必要とされる試薬を含有するように適合された密封手段; 試料を励起させて蛍光を発するように作用可能な励起手段; 及び試料によって放出される蛍光を検出するように作用可能な検出手段を備えている、前記装置。
【請求項17】
装置が、試料中の全リポタンパクの濃度を決定する分析を行うことができる第一反応リザーバー; 試料中の総コレステロールの濃度を決定する分析を行うことができる第二反応リザーバー; 及び試料中のHDLの濃度を決定する分析を行うことができる第三反応リザーバーを備えている、請求項16記載の装置。
【請求項18】
装置がリーダーとカートリッジを備え、カートリッジが少なくとも1つの反応リザーバーと、密封手段を備えている、請求項16又は17記載の装置。
【請求項19】
検出される蛍光に基づいて試料中の全リポタンパクと総コレステロールの濃度を決定するように適合された処理手段を備え、処理手段が試料中のHDLの濃度を決定するためであってもよい、請求項16〜18のいずれか1項に記載の装置。
【請求項20】
処理手段が、(a)全リポタンパクからコレステロールの濃度を差し引くことによって試料中のトリグリセリドの濃度を算出するように作用可能であってもよく; 及び/又は(b)試料中のLDLの濃度をフリーデワルド式を用いて算出するように作用可能であってもよい、請求項19記載の装置。
【請求項21】
試料のための脂質プロファイルを表示するための表示手段をさらに備えている、請求項16〜20のいずれか1項に記載の装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【公表番号】特表2008−523377(P2008−523377A)
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−544988(P2007−544988)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【国際出願番号】PCT/GB2005/004757
【国際公開番号】WO2006/061646
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(507191843)ザ サイエンス アンド テクノロジー ファシリティーズ カウンシル (4)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【国際出願番号】PCT/GB2005/004757
【国際公開番号】WO2006/061646
【国際公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(507191843)ザ サイエンス アンド テクノロジー ファシリティーズ カウンシル (4)
【Fターム(参考)】
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