説明

蛍光測定用セル装置及び蛍光検出器

【課題】 照射された励起光と発生した蛍光をできるだけ効率的に検出器へ集光させ、光路長を長くすることができる蛍光測定用セル装置を提供する。
【解決手段】 セル21は上下方向に長く、下方向の面は水平面に対して角度をなして配置されている直方体である。セル21の側面には第1ミラー1及び第2ミラー2が隣接して備えられている。また、セル21の下面には第3ミラー3、上面には第4ミラー4が備えられている。入射した一部の励起光11aは、セル21内のセル本体22を通過した後にミラー2によって反射され、反射された励起光11bは、再びセル本体22内を通過する。これにより発光15が生じる。また一部の励起光13aは、ミラー3によってセル21の軸と平行な方向に反射し、反射された励起光13bはセル本体22内の試料に照射され、発光15を生じる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光検出に用いられるキュベットや高速液体クロマトグラフ用の蛍光検出器に用いられるフローセルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
蛍光検出の原理は、セル中の試料に励起光を照射することで試料から蛍光を発生させ、この蛍光を検出器により検出するものである。放射される蛍光量は、セル中の試料に入射する励起光量が多いほど多くなる。
フローセルについて説明すると、試料に励起光を入射させる従来技術としては、図3(A)に示すようにフローセルの側面から励起光を液体試料に入射させる方法と、図3(B)に示すようにフローセルの長手方向から励起光を入射させる方法がある(特許公報1参照。)。どちらの方法もフローセルの一面側から励起光を入射させるのみであるため、効率が悪い。
【0003】
また、基端と末端とを有するフローセルにおいて、基端に励起レンズを備え、末端に逆反射レンズを備えることで、基端側から照射された励起光を集光し、励起光の光路長を2倍にする蛍光検出器も提案されている(特許文献2参照。)。
【特許文献1】特許第3844738号公報
【特許文献2】特表2004−530868号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
蛍光検出器の感度を向上させるためには、セル中の試料に対して出来るだけ多くの励起光を効率的に入射させる必要があり、また発生した蛍光についても出来るだけ効率的に検出器へ集光させる必要がある。しかし、上述の特許文献2は、セルの基端側からの励起光のみを集光するものである。
【0005】
そこで本発明は、照射された励起光と発生した蛍光をできるだけ効率的に検出器へ集光させ、光路長を長くすることができる蛍光測定用セル装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の蛍光測定用セル装置は、試料水が入れられ又は流通する角型のセル本体を備え、セル本体の1つの側面から励起光が照射されるセルと、上記セルの4側面の内の励起光入射側に対向する側面側に配置され、セルを透過した励起光をセル本体方向に反射させる第1ミラーと、励起光入射側の側面に隣接する1つの側面に対向して配置され、セル本体内の試料水から発せられた蛍光をセル本体方向に反射させる第2ミラーと、セル本体の1つの底面側にその底面と励起光入射方向とにともに向けて傾斜して配置され、セル本体に照射された励起光の内、セル本体から外れた励起光をセル本体の底面から入射させるように反射させる第3ミラーと、を備えている。
【0007】
励起光又は蛍光を反射させることで検出効率を高めるため、第3ミラーが配置されている底面とは反対側の底面に対向して第4ミラーを配置するようにしてもよい。第4ミラーは第3ミラーにより反射されて上記セル本体内を透過してきた励起光を上記セル本体方向に反射させるものである。
【0008】
励起光を効率よくセル本体に照射し、又は発光を効率よく受光光学系で受光できるようにするため、第1ミラー、第2ミラー、第3ミラー及び第4ミラーの内の少なくとも1つを、セル本体内に光を集光させる凹面ミラーにしてもよい。
【0009】
本発明のセルはキュベットと称される有底のセルと、フローセルの両方を含む。フローセルは試料導入口及び試料排出口をもつ。
【0010】
本発明の蛍光検出器は、蛍光測定用セル装置と、セル本体に励起光を入射させる励起光学系と、第2ミラーが配置されている側の側面とは反対側の側面側に配置され、セル本体内の試料水から発生した蛍光を受光する受光光学系と、を備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、セルと、セルの側面に設けられた第1ミラー、第2ミラー及び第3ミラーとを備えたので、光路長が長くなり、試料水に照射される励起光と試料水から発せられる発光の量が多くなるので、これまでよりも効率的に受光側に光を集光することが可能となる。
【0012】
第4ミラーを備えるようにすれば、より多くの蛍光を受光側に集光することができるようになる。
【0013】
ミラーの内の少なくとも1つを凹面ミラーにすると、セル本体内に光を集光しやすくなり、検出効率を向上させることができる。
【0014】
フローセルとして用いることにより、試料水を連続的に供給することができるようになる。
【0015】
本発明の蛍光測定用セル装置と、励起光学系と、受光光学系とを備えるようにすれば、これまでよりも効率的に蛍光を検出することができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に本発明の実施例を詳細に説明する。
図1は本発明の蛍光測定用セル装置を示しており、(A)は上面図、(B)は斜視図、(C)は側面図である。
フローセル21は上下方向に長く、下方向の面は水平面に対して角度をなして配置されている直方体である。セル21の側面には第1ミラー1及び第2ミラー2が隣接して備えられている。また、セル21の下面には第3ミラー3、上面には第4ミラー4が備えられている。
ミラー1は4側面の内の励起光入射側に対向する側面に配置され、ミラー2はミラー1及び励起光入射側の側面に隣接して配置されている。
【0017】
セル21内には試料水が入れられ又は流通するセル本体22が設けられており、セル本体22の一端は試料導入口23、他端は試料排出口24となっている。試料導入口23及び試料排出口24は、フローセル21のどの面に設けてもよい。
ミラー3は、セル21の側面から照射された励起光13aをセル本体22と平行方向に反射させるために、セル21の底面と励起光入射方向に対して約45°の角度をなして配置されている。これにより励起光をミラー3でセル本体22方向に反射させることができる。
【0018】
ミラー1,2,3,4は、例えば蒸着により形成することができる。また、ミラー1,2,3,4はセル本体22方向に光を集光させる凹面ミラーとしてもよい。
上述のセルとしてはフローセルを示したが、試料導入口23及び試料排出口24が兼用される角型セルを用いることもできる。
【0019】
次に同実施例の動作を説明する。セル21の側面の光源側から励起光を入射させると、入射した一部の励起光11aは、セル21内のセル本体22を通過した後にミラー1によって反射され、反射された励起光11bは、再びセル本体22内を通過する。これにより発光15が生じる。
また一部の励起光13aはセル本体22に直接照射されないが、セル21の側面を通過し、ミラー3によってセル21の軸と平行な方向に反射し、反射された励起光13bはセル本体22内の試料に照射され、発光15を生じる。
【0020】
一部の励起光13bは、セル21の長手方向からセル本体22を通過し、さらにミラー4によって反射される。ミラー4で反射された励起光13cは、セル本体22内の試料に照射され、発光15を生じる。
生じた蛍光15の一部は直接検出器側へ出射し、また一部の発光12aはミラー2で反射された後に検出器側へと出射される。
尚、本実施例で使用されるミラーは、光を効率的に収束させるため、曲面形状にしてもよい。
【0021】
次に本発明の蛍光検出器についての実施例を図2を参照しながら説明する。
セル21の励起光入射側には白色光の光源31が配置され、光学レンズ32と、白色光から目的の波長の励起光として分光する回折格子33と、励起光を集光する光学レンズ34とを介して、励起光がセル21内に入射されるようになっている。
【0022】
光学レンズ32は光源31の白色光を平行光に集光する球面レンズ、光学レンズ34は励起光をセル21内のセル本体に集光できるシリンダー状レンズであることが好ましい。
セル21の蛍光出射側には光検出器35が配置され、発光を集光する光学レンズ36と、発光を回折する回折格子37と、回折光を集光する光学レンズ38を介して、光検出器35に導かれるようになっている。
【0023】
次に同実施例の動作を説明する。
光源31から発生した白色光から回折格子33によって目的の波長の光を励起光として分光する。分光された励起光はレンズ34によって集光されフローセル21へ入射する。
入射した励起光は図1の反射ミラー1〜4によって反射され、効率的にセル本体内へ入射する。励起光によって発生した蛍光の一部は直接セル21から蛍光用回折格子37へと出射し、また一部は反射ミラーによって反射された後に回折格子37へと出射される。出射された蛍光は回折格子37によって分光され、目的の波長の光のみが光検出器35へと集光される。
【0024】
本発明は、フローセル側面から入射した励起光をフローセル長軸方向へと反射させるミラー面を設置し、また、フローセルの側面およびもう一方の端面にミラーを設置することで、セル本体を通過した励起光を反射し、再びフローセル内に入射させるものである。フローセル側面にミラー面を配置し、試料から発生した蛍光の一部を反射することで、効率的に蛍光を光検出器へと集光させることができる。
【0025】
本発明は、フローセル内の試料に対し、フローセル側面及び長軸方向から励起光を入射させ、さらにミラーによりセルを通過した光を再び試料に入射させているので、試料に入射する励起光量は前述の2つの従来技術を足し合わせた量になる。また、試料から発生した蛍光の一部も反射鏡によって検出器へと反射され、従来技術よりも多くの蛍光が検出器へと導かれる。その結果、従来技術に比べ蛍光検出器としての装置感度が向上する。
【0026】
ミラーの数を多くし、光を反射させるようにしたので、試料に入射する励起光の量と、検出器へと出射される蛍光の量が増加し、従来技術に比べてより高感度な蛍光検出器が実現できる。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、蛍光検出に用いられるキュベットや高速液体クロマトグラフ用の蛍光検出器に用いられるフローセルに利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の蛍光測定用セル装置を示しており、(A)は上面図、(B)は斜視図、(C)は側面図である。
【図2】本発明の蛍光検出器についての概略構成図である。
【図3】(A)及び(B)は、従来用いられているフローセルの概略構成図である。
【符号の説明】
【0029】
1〜4 ミラー
11a,11b,13a,13b,13c 励起光
12a,15 発光
21 セル
22 セル本体
23 試料導入口
24 試料排出口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料水が入れられ又は流通する角型のセル本体を備え、前記セル本体の1つの側面から励起光が照射されるセルと、
前記セルの4側面の内の励起光入射側に対向する側面側に配置され、前記セルを透過した励起光を前記セル本体方向に反射させる第1ミラーと、
前記励起光入射側の側面に隣接する1つの側面に対向して配置され、前記セル本体内の試料水から発せられた蛍光を前記セル本体方向に反射させる第2ミラーと、
前記セル本体の1つの底面側にその底面と励起光入射方向とにともに向けて傾斜して配置され、前記セル本体に照射された励起光の内、前記セル本体から外れた励起光を前記セル本体の底面から入射させるように反射させる第3ミラーと、
を備えた蛍光測定用セル装置。
【請求項2】
第3ミラーが配置されている底面とは反対側の底面に対向して配置され、第3ミラーにより反射されて前記セル本体内を透過してきた励起光を前記セル本体方向に反射させる第4ミラーをさらに備えた請求項1に記載の蛍光測定用セル装置。
【請求項3】
第1ミラー、第2ミラー、第3ミラー及び第4ミラーの内の少なくとも1つは、前記セル本体内に光を集光させる凹面ミラーである請求項1又は2に記載の蛍光測定用セル装置。
【請求項4】
前記セルは試料導入口及び試料排出口が形成されたフローセルである請求項1から3のいずれか一項に記載の蛍光測定用セル装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の蛍光測定用セル装置と、
前記セル本体に励起光を入射させる励起光学系と、
第2ミラーが配置されている側の側面とは反対側の側面側に配置され、前記セル本体内の試料水から発生した蛍光を受光する受光光学系と、
を備えた蛍光検出器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−116424(P2008−116424A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302519(P2006−302519)
【出願日】平成18年11月8日(2006.11.8)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】