説明

蛍光画像補正方法および装置ならびにプログラム

【課題】 特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し励起光を照射することにより、蛍光標識検体から射出された蛍光を検出する際に、蛍光が時間経過とともに蛍光強度が小さくなる蛍光標識検体を検出するときであっても、正確な蛍光の検出を行う。
【解決手段】 画像取得手段51が、マイクロプレートのスポットに存在する、特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し励起光を照射することにより、蛍光標識検体から射出された蛍光を主蛍光画像データED1として取得する。そして、画像補正手段60が、画像取得手段51により取得された主蛍光画像データED1を蛍光標識検体から射出される蛍光の強度が時間経過とともに減少するときの経時変化特性に基づいて補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光色素で標識された蛍光標識検体から発生する蛍光を検出し蛍光画像データとして取得したときに、この蛍光画像データを補正する画像補正方法および装置ならびにプログラムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、遺伝子工学分野における技術が急速に発展し、10万個にも及ぶと考えられているヒトゲノムの塩基配列を解読することを1つの目的とするヒトゲノムプロジェクトが展開されている。一方、各種遺伝子疾患に影響を与えているDNAに関する研究も進んでおり、その1つの方法としてマイクロアレイ技術が注目されている。このマイクロアレイ技術は、既に解読されている多数の異なるcDNA(特異的結合物質の一例)を基板となるスライドガラス上の1.8×1.8(cm)の範囲にドットサイズ50〜150(μm)のスポットとして約6400個並べたマイクロアレイと称するもの、またはcDNAをナイロンメンブレンフィルタ上の8×12(cm)、7×5(cm)または22×22(cm)の範囲にドットサイズ約0.5〜1(mm)のスポットとしてそれぞれ588個、5000個、27000個並べたマクロアレイと称するもの、あるいは合成オリゴヌクレオチドをシリコン基板上の1.28×1.28(cm)の範囲にドットサイズ50(μm)のスポットとして約64000個並べたDNAチップと称するもの等を用いた技術である(上記マイクロアレイ、マクロアレイおよびDNAチップ等を総称して「マイクロプレート」と称することとする。)。
【0003】
すなわち、蛍光色素aで標識された健常者の細胞から取り出したDNAの蛍光標識検体Aをピペット等でこのマイクロプレート上の各cDNAに滴下して、蛍光標識検体AとcDNAとをハイブリダイズさせる。このハイブリタイズの処理の後にマイクロプレートは所定の溶液で処理され、cDNAとハイブリタイズされなかった蛍光標識検体Aは各スポットから除去され、cDNAとハイブリタイズされた蛍光標識検体Aは各スポットに残される。そして、上記処理が施されたマイクロプレート上の各検体のスポット(以後スポットと呼ぶ)に、蛍光色素aを励起する励起光FLを相対的に走査して、この励起光FLの照射により発生した蛍光の検出結果を表す蛍光画像データを得る(たとえば特許文献1、2参照。)。
【0004】
上記と同様の処理を、蛍光色素bで標識された遺伝子疾患を有する者の細胞から取り出したDNAの蛍光標識検体Bに関しても行い、励起光の照射により発生した蛍光の検出結果を表す蛍光画像データを得、各スポット毎に蛍光標識検体Aの各スポットから得られた蛍光画像データと蛍光標識検体Bの各スポットから得られた蛍光画像データとの比の値を求める。蛍光画像データの比の値は、異常のあるDNAが滴下されたスポットほど大きくなる(あるいは小さくなる)ことから、各スポットにおける蛍光画像データの比の値が大きい方から順に例えば50箇所分の蛍光画像データの比の値を、その信号が得られたスポットと対応付ける表として読み取り、この表に基づいて異常のあるDNAが特定される。
【0005】
なお、マイクロプレート上の各スポットから発せられる蛍光を検出する光学系には空間分解能が高く焦点深度が浅い共焦点光学系が多く用いられているので、共焦点光学系の焦点位置に一致させたマイクロプレート上のスポットへの励起光の照射によりスポットから発せられた蛍光を共焦点光学系の他方の焦点位置に配設されたピンホールを通過させて検出することにより、上記スポット以外の位置で発生した蛍光等のノイズを除去することができる。
【0006】
ここで、上述した蛍光画像データの分析には、そのデータ自体の信頼性が保証されていることが必要となる。しかし、実際の実験において温度や湿度等の環境変化やマイクロプレートの傷、ハイブリダイゼーションの反応効率、蛍光の読取精度等の実験環境に起因して、たとえば同一種類の特異的結合物質に対し同一の蛍光標識検体をハイブリダイズさせたときであっても得られる蛍光画像データが異なってしまう場合がある。そこで、マイクロプレートから取得した蛍光画像データを用いて、実験工程における不具合を視覚により把握する方法(たとえば特許文献3参照。)や、マイクロプレート上の複数のスポットからそれぞれ取得した蛍光画像データを統計的に解析することにより、取得した蛍光画像データを補正する方法(たとえば特許文献4参照。)等が提案されている。
【特許文献1】特開2001−74656号公報
【特許文献2】特開2001−74657号公報
【特許文献3】特開2002−71688号公報
【特許文献4】特開2003−28862号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述した特許文献2、3のような実験環境による信頼性低下を防止するための蛍光画像データの補正においては、励起光が照射された蛍光色素から射出される蛍光は常に一定の強度を有していることが前提となっている。つまり、検体を標識している蛍光色素は、励起光が照射されれば常に所定の蛍光を出力することが前提となっている。
【0008】
ところが、特定の蛍光色素と特定の検体との組み合わせにおいては、蛍光色素自体から射出される蛍光の強度が時間経過とともに減少することが実験において判明した。すなわち、異なるスポットに存在する同一種類の蛍光標識検体に対し同一の時間に励起光をそれぞれ照射し、各スポットから射出される蛍光を同一の時間に検出したとき、蛍光の強度は同一のものとなる。しかし、異なるスポットに存在する同一種類の蛍光標識検体に対し同一の時間に励起光がそれぞれ照射され、各スポットから射出される蛍光を異なる時間に検出したとき、蛍光の強度が異なったものとなってしまうことがわかった。
【0009】
この蛍光の経時変化により最後に励起光を照射した蛍光標識検体は、最初に検出された蛍光と最後に検出された蛍光とが同じ強度で発光していたときであっても、最初に励起光を照射された蛍光標識検体よりも弱い蛍光を発するものであると認識されてしまい、信頼性の高い分析ができないという問題がある。
【0010】
そこで、本発明は、蛍光が時間経過とともに蛍光強度が小さくなる蛍光標識検体を分析するときであっても、する蛍光画像補正方法および装置ならびにプログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の蛍光画像補正方法は、マイクロプレートのスポットに存在する、特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し励起光を照射することにより、蛍光標識検体から射出された蛍光を検出して取得した主蛍光画像データを補正する蛍光画像補正方法において、蛍光標識検体から射出される蛍光の強度が時間経過とともに減少するときの経時変化特性に基づいて、主蛍光画像データを補正することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の蛍光画像補正装置は、マイクロプレートのスポットに存在する、特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し励起光を照射することにより、蛍光標識検体から射出された蛍光を検出して主蛍光画像データを取得する画像取得手段と、画像取得手段により取得された主蛍光画像データを補正する画像補正手段とを有し、画像補正手段が、蛍光標識検体から射出される蛍光の強度が時間経過とともに減少するときの経時変化特性に基づいて、主蛍光画像データを補正するものであることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の蛍光画像補正プログラムは、コンピュータに、マイクロプレートのスポットに存在する、特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し励起光を照射することにより、蛍光標識検体から射出された蛍光を検出し取得した蛍光画像データを補正することを実行させるものであり、蛍光標識検体から射出される蛍光の強度が時間経過とともに減少するときの経時変化特性に基づいて、蛍光画像データを補正することを実行させるためのものである。
【0014】
ここで、「マイクロプレート」とは、複数のスポットを有し、各スポット上に特異的結合物質が固着されているプレート状のものであればなんでもよい。また、「スポット」とは、マイクロプレート状における特異的結合物質が固着されている単位領域をいう。「ハイブリダイズ」とは、核酸が相補的二重鎖形成する性質を利用して、特定の塩基配列にそれと相補的なヌクレオチド鎖を結合させることをいう。「蛍光標識検体」とは蛍光色素により標識されたホルモン類、腫瘍マーカー、酵素、抗体、抗原、アブザイム、その外の蛋白質、核酸、cDNA、DNA、RNA等の検体をいい、「特異的結合物質」とはホルモン類、腫瘍マーカー、酵素、抗体、抗原、アブザイム、その他のタンパク質、核酸、cDNA、DNA、RNA、mRNA、ヌクレオチド鎖等であって、ホルモン類、腫瘍マーカー、酵素、抗体、抗原、アブザイム、その外の蛋白質、核酸、cDNA、DNA、RNAなど、生体由来の物質と特異的に結合可能で、かつ、塩基配列や塩基の長さ、組成などが既知の物質をいう。
【0015】
また、「主蛍光画像データ」とは、蛍光標識検体の分析に用いるための蛍光画像データをいい、「補助蛍光画像データ」とは、主蛍光画像データとは別に励起光の照射が行われることにより取得された、蛍光標識検体の経時変化特性を算出するための蛍光画像データをいう。「時間経過」とは、励起光を照射しているか否かに拘わらず、蛍光標識検体が特異的結合物質とハイブリダイズされてからの時間経過をいう。
【0016】
なお、画像補正手段は、たとえば主蛍光画像データを取得したときの特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体特有の経時変化特性を有し、この経時変化特性に基づいて主蛍光画像データを補正するようにしてもよいし、主蛍光画像データとは別の補助蛍光画像データを取得したときに、主蛍光画像データから経時変化特性を算出しに基づいて主蛍光画像データを補正するものであればよい。
【0017】
主蛍光画像データとは別の補助蛍光画像データを取得するとき、画像取得手段は、主蛍光画像データを取得した所定のスポット上に存在する、特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し励起光を照射することにより、蛍光標識検体から射出された蛍光を検出して所定のスポットにおける補助蛍光画像データを取得するものであってもよい。さらに、画像補正手段は、画像取得手段により取得された所定のスポットにおける主蛍光画像データおよび補助蛍光画像データと、主蛍光画像データおよび補助蛍光画像データの取得の際の励起光照射の時間間隔とに基づいて経時変化特性を算出し取得する変化特性取得手段を有するものであってもよい。
【0018】
なお、所定のスポットが複数のスポットであり、所定のスポットにおける補助蛍光画像データが、所定のスポットにおける主蛍光画像データを取得する際の励起光のマイクロプレートに対する走査方向とは異なる方向に励起光を走査して取得した蛍光画像データであってもよい。
【0019】
あるいは、所定のスポットが複数のスポットであり、所定のスポットにおける補助蛍光画像データが、所定のスポットにおける主蛍光画像データを取得する際の励起光のマイクロプレートに対する走査速度とは異なる速度でマイクロプレートを励起光で走査して取得した蛍光画像データであってもよい。
【0020】
さらに、マイクロプレートが、主蛍光画像データが取得される複数のスポットと、特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体が存在する、それぞれ同一の蛍光強度で蛍光を射出する複数の検査用スポットを有するものであってもよい。
【0021】
なお、検査用スポットに存在する特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体は、主蛍光画像データを取得するスポットの特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体と同一の経時変化特性を有するものであって、この各検査用スポットは、それぞれ同一の蛍光強度で蛍光を射出するようになっている。
【0022】
このとき、画像取得手段は、主蛍光画像データを取得するとともに、検査用スポットにおいてそれぞれハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し励起光を照射することにより、該蛍光標識検体から射出された蛍光を検出して複数の検査用蛍光画像データを取得するようにしてもよい。この「検査用蛍光画像データ」とは、主蛍光画像データの取得するための励起光の照射が行われたとき、これと同時に検査用スポットに励起光が照射され取得された、蛍光標識検体の経時変化特性を算出するための蛍光画像データをいう。
【0023】
さらに、画像補正手段は、画像取得手段において取得された各検査用スポット毎の複数の検査用蛍光画像データと、該検査用蛍光画像データの取得の際の検査用スポット間における励起光照射の時間間隔とに基づいて、検査用スポットに存在する蛍光標識検体固有の経時変化特性を取得する変化特性取得手段を有するものであってもよい。
【0024】
また、マイクロプレートが、行方向および列方向に沿って格子状に配列された複数のスポットを有するとき、画像取得手段は、各スポットにおいてそれぞれハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し、マイクロプレートを励起光により列方向に走査しながら行方向に移動させることにより、各スポットの蛍光標識検体からそれぞれ射出された蛍光を検出して複数の主蛍光画像データを取得するものであってもよい。
【0025】
このとき、画像補正手段は、各スポット列毎の主蛍光画像データの平均値と、各スポット列間における励起光照射の時間間隔とに基づいて、経時変化特性を取得する変化特性取得手段を有するものであってもよい。
【0026】
なお、「スポット列」とは、マイクロプレートの列方向に並んだ複数のスポットをいい、「各スポット列間における励起光照射の時間間隔」とは、たとえば複数のスポット列の中からそれぞれ同一行上に存在するスポット間の時間間隔をいう。
【発明の効果】
【0027】
本発明の蛍光画像補正方法および装置ならびにプログラムによれば、蛍光標識検体から射出される蛍光の強度が時間経過とともに小さくなるときの経時変化特性に基づいて、主蛍光画像データを補正することにより、蛍光が時間経過とともに減少するような特性を有する蛍光標識検体の蛍光を検出するときであっても、この経時変化特性に基づいて補正することができるため、主蛍光画像データを用いて正確な分析を行うことができる。
【0028】
なお、画像取得手段が、主蛍光画像データの取得とは別に、主蛍光画像データを取得した所定のスポット上に存在する、特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し励起光を照射することにより、蛍光標識検体から射出された蛍光を検出して所定のスポットにおける補助蛍光画像データを取得するものであり、画像補正手段が、画像取得手段により取得された所定のスポットにおける主蛍光画像データおよび補助蛍光画像データと、主蛍光画像データおよび補助蛍光画像データの取得の際の励起光照射の時間間隔とに基づいて経時変化特性を算出し取得する変化特性取得手段を有する構成にすれば、主蛍光画像データの取得する際に補助蛍光画像データを取得し、主蛍光画像データを補助蛍光画像データとを用いて経時変化特性を算出することにより、効率的に経時変化特性を算出し取得することができる。
【0029】
また、所定のスポットが複数のスポットであり、所定のスポットにおける補助蛍光画像データが、所定のスポットにおける主蛍光画像データを取得する際の励起光のマイクロプレートに対する走査方向とは異なる方向に励起光を走査して取得した蛍光画像データであれば、主蛍光画像データと補助蛍光画像データとを取得したときの時間間隔が各スポット毎に異なるようにし、所定の複数のスポットから取得した主蛍光画像データおよび補助蛍光画像データを用いて主蛍光画像データが取得された蛍光標識検体特有の経時変化特性を算出するため、同一種類の蛍光標識検体がハイブリダイズされたすべてのスポット毎に経時変化特性を算出することが不要となり、効率的に経時変化特性を算出することができる。
【0030】
さらに、所定のスポットが複数のスポットであり、所定のスポットにおける補助蛍光画像データが、所定のスポットにおける主蛍光画像データを取得する際の励起光のマイクロプレートに対する走査速度とは異なる速度でマイクロプレートを励起光で走査して取得した蛍光画像データであれば、主蛍光画像データと補助蛍光画像データとを取得したときの時間間隔が各スポット毎に異なるようにし、所定の複数のスポットから取得した主蛍光画像データおよび補助蛍光画像データを用いて主蛍光画像データが取得された蛍光標識検体特有の経時変化特性を算出するため、同一種類の蛍光標識検体がハイブリダイズされたすべてのスポット毎に経時変化特性を算出することが不要となり、効率的に経時変化特性を算出することができる。
【0031】
また、マイクロプレートが、主蛍光画像データが取得される複数のスポットと、特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体が存在する、それぞれ同一の蛍光強度で蛍光を射出する複数の検査用スポットを有し、画像取得手段が、検査用スポットにおいてそれぞれハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し各検査スポット毎に異なる時刻に励起光を照射することにより、検査用スポットの蛍光標識検体からそれぞれ射出された蛍光を検出して各検査用スポット毎の検査用蛍光画像データを取得するものであり、画像補正手段が、画像取得手段において取得された各検査用スポット毎の複数の検査用蛍光画像データと、検査用蛍光画像データの取得の際の検査用スポット間における励起光照射の時間間隔とに基づいて、検査用スポットに存在する蛍光標識検体固有の経時変化特性を取得する変化特性取得手段を有するものであれば、主蛍光画像データの取得とともに検査用蛍光画像データをも取得し、複数の検査用スポットに対する励起光照射の時間間隔とにより蛍光標識検体特有の経時変化特性を算出するため、効率的に経時変化特性を算出することができる。
【0032】
また、マイクロプレートが、行方向および列方向に沿って格子状に配列された複数のスポットを有するときに、画像取得手段が、各スポットにおいてそれぞれハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し、マイクロプレートを励起光により列方向に走査しながら行方向に移動させることにより、各スポット毎の蛍光標識検体からそれぞれ射出された蛍光を検出して複数の主蛍光画像データを取得するものであり、画像補正手段が、各スポット列毎の主蛍光画像データの平均値と、各スポット列間における励起光照射の時間間隔とに基づいて、経時変化特性を取得する変化特性取得手段を有する構成にすれば、主蛍光画像データを用いて経時変化特性を算出することができるため、効率的に主蛍光画像データの補正を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照して本発明の蛍光検出システムの実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の画像補正装置を用いて蛍光検出システムの一例を示す構成図である。図1の蛍光検出システム1は、マイクロプレート上に存在する、特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体に励起光を照射することにより、蛍光標識検体から射出する蛍光を検出し蛍光画像データとして出力する蛍光検出装置10と、蛍光検出装置10から蛍光画像データを取得し、蛍光画像データの補正を行う画像補正装置50とを有している。
【0034】
ここで、蛍光検出装置10は、マイクロプレートを収容するために開閉するプレート収容部10aを有しており、このプレート収容部10aからマイクロプレートMPが装填される。このマイクロプレートMPは、図2に示すように、格子状の複数のスポットWを有し、このスポットWには特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体が存在している。
【0035】
図3は蛍光検出装置の一例を示す構成図であり、図1から図3を参照して蛍光検出装置10について説明する。蛍光検出装置10は、マイクロプレートMPに励起光を走査しながら照射する励起光照射手段20と、励起光照射手段20により励起光が蛍光標識検体に照射されたとき、蛍光標識検体から射出された蛍光を検出する蛍光検出手段30と、蛍光検出手段30により検出された蛍光を蛍光画像データとして出力するデータ出力手段40とを備えている。
【0036】
ここで、励起光照射手段20は、励起光FLを射出する励起光源21と、射出された励起光FLをマイクロプレートMPの蛍光標識検体に集光する集光レンズ24と、励起光FLを矢印Y方向(主走査方向)に走査させるために集光レンズ24を移動させるレンズ移動手段25と、励起光を矢印X方向に走査させるためにマイクロプレートMPを矢印X方向に移動させるプレート移動手段26とを備えている。
【0037】
励起光源21は、蛍光標識検体に用いられる蛍光色素の種類に応じて波長の異なる(たとえば640nm、532nm、473nm)励起光FLを出力する機能を有する。集光レンズ24は、励起光源21から射出された励起光FLがミラー22a、22bを介し穴あきミラー23の穴を貫通して入射されたときに、励起光FLをマイクロプレートMPの蛍光標識検体に集光するものである。
【0038】
このとき、マイクロプレートMPには集光レンズ24により集光された励起光FLが矢印X方向およびY方向に走査しながら照射されるようになっている。具体的には、集光レンズ24は揺動可能に設けられており、レンズ移動手段25に接続されている。そして、レンズ移動手段25は集光位置がマイクロプレートMPの矢印Y方向に走査するように集光レンズ24を揺動させるようになっている。また、マイクロプレートMPは、矢印X方向(副走査方向)に移動可能に設けられており、プレート移動手段26に接続されている。そして、プレート移動手段26はマイクロプレートMPを矢印X方向に移動させるようになっている。つまり、励起光FLは、集光レンズ24の移動により矢印Y方向に走査し、マイクロプレートMPの移動により矢印X方向に走査することになるため、マイクロプレートMP上に格子状に配列された複数の蛍光標識検体に対して励起光FLを走査しながら照射することができる。
【0039】
蛍光検出手段30は、たとえばPMT(Photomultipeier Tubes:光電子増倍管)からなっており、蛍光がアナログ信号として検出されるようになっている。なお、蛍光標識検体から射出された蛍光は集光レンズ24に入射されて平行光になり、穴あきミラー23のミラー部分により反射されてカラーフィルター31に入射される。その後カラーフィルター31から射出した蛍光がミラー32を介してレンズ33に入射され、レンズ33により蛍光検出手段30に集光されるようになっている。
【0040】
データ出力手段40は、蛍光検出手段30から出力されるアナログ信号をデジタル信号に返還するとともに信号処理を行うことにより、検出された蛍光を蛍光画像データとして出力する機能を有している。ここで、上述のようにマイクロプレートMPの各スポットWには、励起光FLが矢印X方向および矢印Y方向に対して走査しながら照射されていく。このとき、蛍光検出手段30が励起光FLが蛍光標識検体に照射されるたびに射出される蛍光を検出し、データ出力手段40が複数の蛍光標識検体からそれぞれ射出される蛍光を蛍光画像データEDとして出力するようになっている。
【0041】
図3を参照して蛍光検出装置10の動作例について説明する。まず、励起光照射手段20から励起光FLがミラー22a、22bおよび集光レンズ24を介して、マイクロプレートMPのスポットWに照射される。すると、励起光FLが照射されたスポットWに存在する蛍光標識検体から蛍光が射出する。射出した蛍光が蛍光検出手段30により検出されてデータ出力手段40から蛍光画像データとして出力される。このとき、レンズ移動手段25およびプレート移動手段26により、励起光FLはマイクロプレートMPに対して走査しながら照射されるため、マイクロプレートMPに存在する各スポットW毎にそれぞれ蛍光画像データEDが出力されていく。
【0042】
図4は本発明の画像補正装置の実施の形態を示すブロック図であり、図1と図4を参照して画像補正装置50について説明する。画像補正装置50は、マイクロプレートMPのスポットWに存在する、特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し励起光を照射することにより、蛍光標識検体から射出された蛍光を主蛍光画像データED1として取得する画像取得手段51と、画像取得手段51により取得された主蛍光画像データED1を補正する画像補正手段60とを有している。
【0043】
ここで、画像取得手段51は、蛍光標識検体を分析するために用いる主蛍光画像データED1と、主蛍光画像データED1の取得とは別に、主蛍光画像データED1を取得した所定のスポットW上に存在する、特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し励起光FLを照射することにより、蛍光標識検体から射出された蛍光を検出して所定のスポットWにおける補助蛍光画像データED2とを取得する機能を有している。
【0044】
具体的には、画像取得手段51は、図5(a)に示すように、マイクロプレートMP上に配列された複数のスポットWに対して励起光FLを照射しながら走査したときに取得された複数の補助蛍光画像データED2と、補助蛍光画像データED2を取得したときの励起光FLの走査方向とは異なる走査方向で励起光FLの照射したときに取得された主蛍光画像データED1とを取得するようになっている。つまり、図5(a)において、励起光FLがまずスポットWa、Wb、Wcの順番で照射されるように走査され、補助蛍光画像データED2a、ED2b、ED2cが取得される。次に、マイクロプレートMPが蛍光検出装置10に対し向きを換えて装着される等することにより、スポットWc、Wb、Waの順番で励起光FLが照射されるように走査され、補助蛍光画像データED2c、ED2b、ED2aが取得される。
【0045】
なお、走査方向の異なる2つの蛍光画像データED1、ED2を取得するにあたり、励起光照射手段20による励起光の走査方向は変えずにマイクロプレートMPの向きをかえて2つの蛍光画像データED1、ED2を取得するようにしてもよいし、マイクロプレートMPの向きを変えずに励起光照射手段20の励起光の走査方向およびマイクロプレートMPの移動方向を逆にすることより、2つの蛍光画像データを取得するようにしてもよい。このような励起光の走査制御は、制御コントローラ70により行われる。
【0046】
次に、図4と図5を用いて画像補正手段60について説明する。図4の画像補正手段60は、蛍光標識検体から射出される蛍光の強度が時間経過とともに減少するときの経時変化特性に基づいて、主蛍光画像データED1を補正するものであって、画像取得手段51により取得された所定のスポットWにおける主蛍光画像データED1および補助蛍光画像データED2と、主蛍光画像データED1および補助蛍光画像データED2の取得の際の励起光照射の時間間隔とに基づいて経時変化特性を算出し取得する変化特性取得手段61と、取得された経時変化特性を用いて主蛍光画像データED1を補正する補正手段62とを有する。
【0047】
具体的には、変化特性取得手段61は、図5(a)に示すように、複数の所定のスポットWa、Wb、Wcに存在する蛍光標識検体から取得した3つの補助蛍光画像データED2a、ED2b、ED2cを取得する。また、変化特性取得手段61は、複数の所定のスポットWa、Wb、Wcに存在する蛍光標識検体から取得した3つの主蛍光画像データED1a、ED1bv、ED1cを取得する。そして、スポットWa、Wb、Wcについて、主蛍光画像データED1を取得してから補助蛍光画像データED2を取得するまでの時間間隔に蛍光の強度がどのぐらい減少したかを算出する。具体的には、補助蛍光画像データED2の蛍光強度を主蛍光画像データED1の蛍光強度で割り、蛍光強度の減少率を算出する。
【0048】
このとき、主蛍光画像データED1を取得してから補助蛍光画像データED2を取得するまでの時間間隔は、各スポットWa、Wb、Wcについてそれぞれ異なっている。図5(a)に示すような励起光の走査を行ったとき、一回目の励起光の照射から2回目の励起光の照射までの時間間隔はスポットWcが最も短く、次いでスポットWb、Waの順に短くなる。
【0049】
よって、図5(b)に示すように、変化特性取得手段61は、主蛍光画像データED1を取得してから補助蛍光画像データED2を取得するまでの時間間隔が異なる3つの減少率を取得することができる。そこで、変化特性取得手段61は、3つの減少率を線で結ぶことにより、蛍光の強度が時間経過とともに小さくなる経時変化特性を算出し取得する。その後、補正手段62が、主蛍光画像データED1を取得した時刻から、主蛍光画像データED1に用いる減少率を図5(b)の経時変化特性から検出し、主蛍光画像データED1を減少率で除することにより補正する。
【0050】
これにより、時間経過とともに蛍光の強度が減少したときであっても、その減少分を補正し、精度がよく信頼性の高い蛍光分析を行うことができる。すなわち、上述のような蛍光検出システム1において、蛍光色素は励起光を照射すれば蛍光を射出するものであるため、蛍光が時間経過とともに減衰しないと考えられていた。つまり、図5(b)において、主蛍光画像データED1と補助蛍光画像データED2とが等しくなると考えられていた。しかし、実験において、蛍光が時間経過とともに減衰することが認められた。これは、蛍光色素と検査対象である検体とが何らかの化学反応を起こし、蛍光色素による蛍光が時間経過とともに弱くなってしまうことが原因であると考えられる。そこで、蛍光が時間経過とともに減少するような特性を有する蛍光標識検体の蛍光を検出するときであっても、算出した経時変化特性に基づいて補正することができるため、主蛍光画像データED1を用いて正確な分析を行うことができる。
【0051】
さらに、1つのマイクロプレートMPに対して走査方向を変えて複数回励起光の照射を行い、補助蛍光画像データED2の取得から主蛍光画像データED1の取得までの時間間隔が、各スポットのスポットWa、Wb、Wcについてそれぞれ異なるようにすることにより、すべてのスポットWに対して経時変化特性を算出する場合に比べて効率よく経時変化特性を算出することができる。
【0052】
図6は本発明の画像補正方法の好ましい実施の形態を示すフローチャートであり、図1から図6を参照して画像補正方法について説明する。まず、蛍光検出装置10においてスポットWに存在する蛍光標識検体に対し励起光FLが照射される(ステップST1)。そして、蛍光標識検体から射出される蛍光が補助蛍光画像データED2として画像取得手段51に取得される(ステップST2)。励起光FLはマイクロプレートMPの複数のスポットWに対して走査しながら照射され、画像取得手段51において複数のスポットに対応した補助蛍光画像データED2が取得される(ステップST1〜ステップST3)。
【0053】
次に、励起光FLがマイクロプレートMPに対し補助蛍光画像データED2を取得した際の走査方向とは逆向きに走査される(図5(a)参照)(ステップST4)。励起光FLはマイクロプレートMPの複数のスポットWに対して走査しながら照射され、画像取得手段51において複数のスポットに対応した主蛍光画像データED1が取得される(ステップST4〜ステップST6)。
【0054】
その後、画像補正装置50において、主蛍光画像データED1と補助蛍光画像データED2とを用いて蛍光標識検体から射出される蛍光の強度が時間経過とともに減少するときの経時変化特性が算出され(ステップST7)、この経時変化特性に基づいて主蛍光画像データED1が補正される(ステップST8)。具体的には、変化特性取得手段61において図5(b)に示すような経時変化特性が算出され、補正手段62において経時変化特性に基づいて主蛍光画像データED1が補正される。
【0055】
これにより、時間経過とともに蛍光の強度が減少したときであっても、経時変化特性を算出し、その経時変化特性に基づいて蛍光の強度の減少分を補正することができるため、精度がよく信頼性の高い蛍光分析を行うことができる。
【0056】
ところで、経時変化特性を算出する方法としては、上述した励起光の走査方向を変える方法の他に、主蛍光画像データとは異なる走査速度で励起光を照射したときの蛍光を示す補助蛍光画像データを用いて経時変化特性を取得する方法、同一の蛍光強度で蛍光を射出する複数の検査用スポットにおいてハイブリダイズされた蛍光標識検体の蛍光検出し、得られた複数の検査用蛍光画像データから経時変化特性を取得する方法、特異的結合物質が存在する複数の格子状に配列されたスポットにおいてハイブリダイズされた蛍光標識検体の蛍光を検出し、得られた蛍光画像データから経時変化特性を取得する方法があげられる。以下に、各方法について説明する。
【0057】
まず、走査速度の異なる2つの蛍光画像データを用いて経時変化特性を取得する方法について説明する。図7は主蛍光画像データED1および補助蛍光画像データED2の取得方法および経時変化特性の一例を示す模式図である。図7(a)において、画像取得手段51は、マイクロプレートMP上の複数の蛍光標識検体に対して励起光FLを照射しながら走査したときに取得された主蛍光画像データED1と、主蛍光画像データED1を取得したときの走査速度とは異なる走査速度で励起光FLを照射したときに取得された補助蛍光画像データED2とを取得するようになっている。
【0058】
具体的には、複数の主蛍光画像データED1は、励起光FLの照射時間が蛍光検出を行うのに必要な時間だけ各スポットに励起光が照射されるような主走査速度SV1で励起光FLを走査しながら照射したときに取得されたものである(本スキャン)。一方、複数の補助蛍光画像データED2は、主蛍光画像データED1の取得前に行われる、主走査速度SV1よりも速い補助走査速度SV2で励起光FLを走査しながら照射したときに取得されたものである(プレスキャン)。この主蛍光画像データED1および補助蛍光画像データED2を用いて上述したように蛍光強度の減少率を算出し、経時変化特性を取得することもできる。このとき、主蛍光画像データED1を取得してから補助蛍光画像データED2を取得するまでの時間間隔は、各スポットWのスポットWa、Wb、Wcについてそれぞれ異なっている。図7(a)に示すような励起光の走査を行ったとき、一回目の励起光の照射から2回目の励起光の照射までの時間間隔はスポットWcが最も短く、次いでスポットWb、Waの順に短くなる。
【0059】
よって、図7(b)に示すように、変化特性取得手段61は、主蛍光画像データED1を取得してから補助蛍光画像データED2を取得するまでの時間間隔が異なる3つの減少率を取得することができる。そこで、変化特性取得手段61は、3つの減少率を線で結ぶことにより、蛍光の強度が時間経過とともに小さくなる経時変化特性を算出し取得する。その後、補正手段62が、主蛍光画像データED1を取得した時刻から、主蛍光画像データED1に用いる減少率を図7(b)の経時変化特性から検出し、主蛍光画像データED1を減少率で除することにより補正する。
【0060】
図7に示すような方法であっても、時間経過とともに蛍光の強度が減少したときに経時変化特性を算出し、その経時変化特性に基づいて蛍光の強度の減少分を補正することができるため、精度がよく信頼性の高い蛍光分析を行うことができる。さらに、蛍光検出装置10において通常行われるプレスキャンと本スキャンを用いて蛍光標識検体の蛍光強度の減少率を算出し取得することができるため、蛍光検出装置10に対する特別な制御が不要であり、効率よく蛍光画像データの補正を行うことができる。
【0061】
次に、それぞれ同一の蛍光強度で蛍光を射出する複数の検査用スポットから取得した検査用蛍光画像データEXDを用いて経時変化特性を取得する方法について説明する。図8は主蛍光画像データED1を取得するための複数のスポットと、検査用蛍光画像データEXDを取得するための検査用スポットとを有するマイクロプレートMPの一例を示す模式図である。具体的には、図8(a)において、マイクロプレートMPには、それぞれ各検査用スポットWa〜Wfに同一の蛍光強度で蛍光を射出するような、ハイブリダイズされた蛍光標識検体がそれぞれ存在している。図8(a)においては、マイクロプレートMPの各列にそれぞれ1つずつ検査用スポットWa〜Wfを配置した場合について例示している。なお、検査用スポットWa〜Wfの配置位置は、後述するように、各検査用スポットWa〜Wfに異なる時刻に励起光FLが照射されるようなものであればよい。
【0062】
そして、励起光照射手段20において、検査用スポットWa〜Wfを含むマイクロプレートMPの各スポットに励起光FLを走査しながら照射する。すると、各検査用スポットWa〜Wfには異なる時刻に励起光FLが照射されることになる。そして、画像取得手段51は、マイクロプレートMP上の各スポットから主蛍光画像データED1を取得すると共に、各検査用スポットWa〜Wfから検査用蛍光画像データEXDa〜EXDfを取得する。その後、変化特性取得手段61は、複数の検査用蛍光画像データEXDa〜EXDfが示す蛍光強度と、検査用スポットWa〜Wfに励起光FLを照射したときの時刻とにより、図8(b)に示すような経時変化特性を算出する。そして、補正手段62が、主蛍光画像データED1を取得した時刻に合わせて、算出した減少率を用いて主蛍光画像データED1を補正することにより、時間経過とともに減少した蛍光の強度を補正する。
【0063】
図8に示すような方法であっても、時間経過とともに蛍光の強度が減少したときに経時変化特性を算出し、その経時変化特性に基づいて蛍光の強度の減少分を補正することができるため、精度がよく信頼性の高い蛍光分析を行うことができる。
【0064】
次に、同一の特異的結合物質とハイブリダイズされた複数の蛍光標識検体から射出された主蛍光画像データを用いて経時変化特性を取得する方法について説明する。図9は同一の特異的結合物質とハイブリダイズされた複数の蛍光標識検体を格子状に配列したマイクロプレートMPの一例を示す模式図である。
【0065】
図9(a)において、画像取得手段51は、マイクロプレートMPを励起光により列方向(矢印Y1方向)に走査しながら行方向(矢印X1方向)に移動させたときの複数の主蛍光画像データED1を取得するようになっている。そして、変化特性取得手段61は、図9(b)のように、励起光の走査方向に並んだ複数のスポット列W31〜W36から射出された複数の主蛍光画像データED1の平均値と、励起光FLを走査したときの時刻とに基づいて経時変化特性を算出し取得する。そして、補正手段62は、算出した経時変化特性と、各蛍光標識検体に励起光を照射した時刻とを用いて、取得した主蛍光画像データED1を補正するようになっている。
【0066】
このように、経時変化特性を算出する際に、実際の画像取得対象である主蛍光画像データED1を用いることにより、効率よく経時変化特性を算出し画像の補正を行うことができる。
【0067】
なお、図9の方法においては、測定対象から得られた主蛍光画像データED1を用いて経時変化特性を求めるようにしている。つまり、経時変化特性を考慮しなければスポット列の主蛍光画像データED1の平均値は各スポット列同士において略同一となる、という前提の下で経時変化特性を算出している。
【0068】
つまり、一般的にマイクロプレート(DNAチップ)には各スポットにDNAはランダムに配置されている。一方、マイクロプレート(DNAチップ)には数万ものスポットが設けられており、1つの列のスポット数は100個以上存在することになる。なお、蛍光検出装置10の検出レベルも0digit〜65535digitという有限な整数である。ランダムにDNAが配列された数万ものスポットという有限母集団から、数百個のスポットを含むスポット列毎に標本化しその平均値を取った場合、各スポット列同士の平均は統計学的に略同一になる。したがって、主蛍光画像データED1を用いて経時変化特性を効率的に算出することができる。
【0069】
上記各実施の形態によれば、蛍光標識検体から射出される蛍光の強度が時間経過とともに小さくなるときの経時変化特性に基づいて、主蛍光画像データED1を補正することにより、蛍光が時間経過とともに減少するような特性を有する蛍光標識検体の蛍光を検出するときであっても、この経時変化特性に基づいて補正することができるため、主蛍光画像データED1を用いて正確な分析を行うことができる。
【0070】
なお、画像取得手段51が、主蛍光画像データED1の取得とは別に、主蛍光画像データED1を取得した所定のスポット上に存在する、特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し励起光FLを照射することにより、蛍光標識検体から射出された蛍光を検出して所定のスポットにおける補助蛍光画像データED2を取得するものであり、画像補正手段60が、画像取得手段51により取得された所定のスポットにおける主蛍光画像データED1および補助蛍光画像データED2と、主蛍光画像データED1および補助蛍光画像データED2の取得の際の励起光照射の時間間隔とに基づいて経時変化特性を算出し取得する変化特性取得手段61を有する構成にすれば、主蛍光画像データED1の取得する際に補助蛍光画像データED2を取得し、主蛍光画像データED1を補助蛍光画像データED2とを用いて経時変化特性を算出することにより、効率的に経時変化特性を算出し取得することができる。
【0071】
また、図5に示すように、所定のスポットが複数のスポットWa〜Wcであり、所定のスポットにおける補助蛍光画像データED2が、所定のスポットにおける主蛍光画像データED1を取得する際の励起光のマイクロプレートMPに対する走査方向とは異なる方向に励起光を走査して取得した蛍光画像データであれば、主蛍光画像データED1と補助蛍光画像データED2とを取得したときの時間間隔が各スポット毎に異なるようにし、所定の複数のスポットWa〜Wcから取得した主蛍光画像データED1および補助蛍光画像データED2を用いて主蛍光画像データED1が取得された蛍光標識検体特有の経時変化特性を算出するため、同一種類の蛍光標識検体がハイブリダイズされたすべてのスポット毎に経時変化特性を算出することが不要となり、効率的に経時変化特性を算出することができる。
【0072】
さらに、図7に示すように、所定のスポットが複数のスポットWa〜Wcであり、所定のスポットにおける補助蛍光画像データED2が、所定のスポットWa〜Wcにおける主蛍光画像データED1を取得する際の励起光のマイクロプレートMPに対する走査速度とは異なる速度でマイクロプレートMPを励起光FLで走査して取得した蛍光画像データであれば、主蛍光画像データED1と補助蛍光画像データED2とを取得したときの時間間隔が各スポットWa〜Wc毎に異なるようにし、所定の複数のスポットWa〜Wcから取得した主蛍光画像データED1および補助蛍光画像データED2を用いて主蛍光画像データED1が取得された蛍光標識検体特有の経時変化特性を算出するため、同一種類の蛍光標識検体がハイブリダイズされたすべてのスポット毎に経時変化特性を算出することが不要となり、効率的に経時変化特性を算出することができる。
【0073】
また、図8に示すように、画像取得手段51が、複数の検査用スポットWa〜Wfにおいてそれぞれハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し各検査スポット毎Wa〜Wfに異なる時刻に励起光を照射することにより、検査用スポットWa〜Wfの蛍光標識検体からそれぞれ射出された蛍光を検出して各検査用スポットWa〜Wf毎の検査用蛍光画像データEXDを取得するものであり、画像補正手段60が、画像取得手段51において取得された各検査用スポットWa〜Wf毎の複数の検査用蛍光画像データEXDa〜EXDfと、検査用蛍光画像データEXDの取得の際の検査用スポットWa〜Wf間における励起光照射の時間間隔とに基づいて、検査用スポットWa〜Wfに存在する蛍光標識検体固有の経時変化特性を取得する変化特性取得手段61を有することにより、主蛍光画像データED1の取得とともに検査用蛍光画像データEXDを取得して経時変化特性を算出するため、効率的に経時変化特性を算出することができる。
【0074】
さらに、図9に示すように、マイクロプレートMPが、行方向および列方向に沿って格子状に配列された複数のスポットを有するときに、画像取得手段51が、同数の特異的結合物質が存在する複数のスポットにおいてそれぞれハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し、マイクロプレートMPを励起光FLにより列方向に走査しながら行方向に移動させることにより、各スポット毎の蛍光標識検体からそれぞれ射出された蛍光を検出して複数の主蛍光画像データED1を取得するものであり、画像補正手段60が、各スポット列W31〜W36毎の蛍光画像データED1の平均値と、各スポット列間における励起光照射の時間間隔とに基づいて、経時変化特性を取得する変化特性取得手段を有する構成にすれば、主蛍光画像データED1を用いて経時変化特性を算出することができるため、効率的に蛍光画像データの補正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本発明の画像補正装置の好ましい実施の形態を示す外観図
【図2】本発明の画像補正装置において補正される蛍光画像データを取得する際に使用するマイクロプレートの一例を示す模式図
【図3】本発明の画像補正装置において補正される蛍光画像データを取得するための蛍光検出装置の一例を示す構成図
【図4】本発明の画像補正装置の好ましい実施の形態を示すブロック図
【図5】図4の画像補正装置において、画像取得手段が2つの蛍光画像データを取得する際の励起光の走査方法の一例を示す模式図
【図6】本発明の画像補正方法の好ましい実施の形態を示すフローチャート
【図7】本発明の画像補正装置において、画像取得手段が2つの蛍光画像データを取得する際の励起光の走査方法の別の一例を示す模式図
【図8】本発明の画像補正装置において、画像取得手段が経時変化特性を取得するのに用いられる蛍光画像データを取得する際のマイクロプレートの一例を示す模式図
【図9】本発明の画像補正装置において、画像取得手段が経時変化特性を取得するのに用いられる蛍光画像データを取得する際のマイクロプレートの一例を示す模式図
【符号の説明】
【0076】
1 蛍光検出システム
10 蛍光検出装置
20 励起光照射手段
21 励起光源
30 蛍光検出手段
50 画像補正装置
51 画像取得手段
60 画像補正手段
61 変化特性取得手段
62 補正手段
ED1 主蛍光画像データ
ED2 補助蛍光画像データ
EXD 検査用蛍光画像データ
FL 励起光
MP マイクロプレート
W スポット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロプレートのスポットに存在する、特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し励起光を照射することにより、前記蛍光標識検体から射出された蛍光を検出して取得した主蛍光画像データを補正する蛍光画像補正方法において、
前記蛍光標識検体から射出される前記蛍光の強度が時間経過とともに減少するときの経時変化特性に基づいて、前記主蛍光画像データを補正することを特徴とする蛍光画像補正方法。
【請求項2】
マイクロプレートのスポットに存在する、特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し励起光を照射することにより、前記蛍光標識検体から射出された蛍光を検出して主蛍光画像データを取得する画像取得手段と、
該画像取得手段により取得された前記主蛍光画像データを補正する画像補正手段とを有し、
該画像補正手段が、前記蛍光標識検体から射出される前記蛍光の強度が時間経過とともに減少するときの経時変化特性に基づいて、前記主蛍光画像データを補正するものであることを特徴とする蛍光画像補正装置。
【請求項3】
前記画像取得手段が、前記主蛍光画像データの取得とは別に、該主蛍光画像データを取得した所定のスポット上に存在する、前記特異的結合物質とハイブリダイズされた前記蛍光標識検体に対し励起光を照射することにより、該蛍光標識検体から射出された蛍光を検出して前記所定のスポットにおける補助蛍光画像データを取得するものであり、
前記画像補正手段が、前記画像取得手段により取得された前記所定のスポットにおける前記主蛍光画像データおよび前記補助蛍光画像データと、該主蛍光画像データおよび該補助蛍光画像データの取得の際の励起光照射の時間間隔とに基づいて前記経時変化特性を算出し取得する変化特性取得手段を有するものであることを特徴とする請求項2に記載の蛍光画像補正装置。
【請求項4】
前記所定のスポットが複数のスポットであり、
該所定のスポットにおける前記補助蛍光画像データが、該所定のスポットにおける前記主蛍光画像データを取得する際の前記励起光の前記マイクロプレートに対する走査方向とは異なる方向に前記励起光を走査して取得した前記蛍光画像データであることを特徴とする請求項3に記載の蛍光画像補正装置。
【請求項5】
前記所定のスポットが複数のスポットであり、
該所定のスポットにおける前記補助蛍光画像データが、該所定のスポットにおける前記主蛍光画像データを取得する際の前記励起光の前記マイクロプレートに対する走査速度とは異なる速度で前記マイクロプレートを前記励起光で走査して取得した前記蛍光画像データであることを特徴とする請求項3に記載の蛍光画像補正装置。
【請求項6】
前記マイクロプレートが、前記主蛍光画像データが取得される複数のスポットと、前記特異的結合物質とハイブリダイズされた前記蛍光標識検体が存在する、それぞれ同一の蛍光強度で蛍光を射出する複数の検査用スポットを有し、
前記画像取得手段が、前記主蛍光画像データを取得するとともに、前記検査用スポットにおいてそれぞれハイブリダイズされた前記蛍光標識検体に対し励起光を照射することにより、該蛍光標識検体から射出された蛍光を検出して複数の検査用蛍光画像データを取得するものであり、
前記画像補正手段が、前記画像取得手段において取得された各検査用スポット毎の前記複数の検査用蛍光画像データと、該検査用蛍光画像データの取得の際の前記検査用スポット間における励起光照射の時間間隔とに基づいて、前記検査用スポットに存在する前記蛍光標識検体固有の前記経時変化特性を取得する変化特性取得手段を有するものであることを特徴とする請求項2に記載の蛍光画像補正装置。
【請求項7】
前記マイクロプレートが、行方向および列方向に沿って格子状に配列された前記複数のスポットを有するものであり、
前記画像取得手段が、前記各スポットにおいてそれぞれハイブリダイズされた前記蛍光標識検体に対し、前記マイクロプレートを前記励起光により前記列方向に走査しながら前記行方向に移動させることにより、前記各スポットの蛍光標識検体からそれぞれ射出された蛍光を検出して複数の前記主蛍光画像データを取得するものであり、
前記画像補正手段が、前記各スポット列毎の前記主蛍光画像データの平均値と、前記各スポット列間における励起光照射の時間間隔とに基づいて、前記経時変化特性を取得する変化特性取得手段を有するものであることを特徴とする請求項2に記載の蛍光画像補正装置。
【請求項8】
コンピュータに、
マイクロプレートのスポットに存在する、特異的結合物質とハイブリダイズされた蛍光標識検体に対し励起光を照射することにより、前記蛍光標識検体から射出された蛍光を検出し取得した蛍光画像データを補正することを実行させるための蛍光画像補正プログラムであって、
前記蛍光標識検体から射出される前記蛍光の強度が時間経過とともに減少するときの経時変化特性に基づいて、前記蛍光画像データを補正することを実行させるための蛍光画像補正プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−98202(P2006−98202A)
【公開日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−284407(P2004−284407)
【出願日】平成16年9月29日(2004.9.29)
【出願人】(000005201)富士写真フイルム株式会社 (7,609)
【Fターム(参考)】