蛍光管用高周波昇圧トランス
【課題】 液晶表示パネルのバックライトとして用いられる並列配置された複数の蛍光管を点灯させるための蛍光管用高周波昇圧トランスを提供する。
【解決手段】
本発明は、ひとつの主磁気回路ループに入力用の一次コイル21と出力用の複数の二次コイル22を巻き回し、放電開始電圧にバラツキのある蛍光管40を並列点灯させ、さらには放電開始電圧と点灯電圧の電圧差を吸収するためにそれぞれの二次コイル22に分流用磁性体26、27,28を取り付けたことを特徴とする蛍光管用高周波昇圧トランス13である。この分流用磁性体26、27,28の付加により、等価的に各出力に直列に発生する分流磁束インダクタンスにより放電開始電圧と点灯電圧の差を吸収するとともに、簡素な構成で多数本の並列点灯、各出力間の電流バラツキの低減を実現するものである。
【解決手段】
本発明は、ひとつの主磁気回路ループに入力用の一次コイル21と出力用の複数の二次コイル22を巻き回し、放電開始電圧にバラツキのある蛍光管40を並列点灯させ、さらには放電開始電圧と点灯電圧の電圧差を吸収するためにそれぞれの二次コイル22に分流用磁性体26、27,28を取り付けたことを特徴とする蛍光管用高周波昇圧トランス13である。この分流用磁性体26、27,28の付加により、等価的に各出力に直列に発生する分流磁束インダクタンスにより放電開始電圧と点灯電圧の差を吸収するとともに、簡素な構成で多数本の並列点灯、各出力間の電流バラツキの低減を実現するものである。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は液晶表示パネルのバックライトとして用いられる並列配置された複数の蛍光管を点灯させるための蛍光管用高周波昇圧トランスに関する。
【背景技術】
【0002】
最近の大画面液晶表示パネルでは、バックライト用として多数の蛍光管がパネル背面に並列配置されている。これらの蛍光管を高周波、高電圧で点灯するための蛍光管用高周波昇圧トランスも複数個必要とされ、実装面積の増加、信頼性の低下、並列配置された蛍光管の電流バラツキによる輝度ムラの発生、あるいは電流バラツキを低減するためにバランス回路などを付け加えることによる点灯回路の複雑化などの問題を抱えている。
【0003】
液晶表示パネルのバックライト用として用いられる蛍光管を放電、点灯させるためには、通常1500Vrmsから3000Vrmsの高周波の高電圧を印加し放電状態に持ち込む必要がある。蛍光管は放電開始後、管の電圧が放電開始電圧の1/2から1/3に低下し点灯状態に入る。複数の蛍光管を並列に接続し点灯させる場合、印加電圧を徐々に上げていくと、それぞれの蛍光管の放電開始電圧にバラツキがあるため、並列接続された複数の蛍光管のうち最も放電開始電圧が低い蛍光管が放電を開始し、点灯状態に入る。そのとき、並列接続された複数の蛍光管の接続点の電圧は、すでに点灯状態にある蛍光管の点灯電圧まで低下しているために、残りの蛍光管は放電を開始できず、点灯状態に入ることができない。すなわち、並列に接続された蛍光管の点灯においては、点灯電圧が一番低い蛍光管のみが点灯し、残りの蛍光管は点灯できないという現象が生じる。
【0004】
先ず、液晶表示パネルのバックライト蛍光管の並列点灯用に用いられる蛍光管用高周波昇圧トランスの概要について述べる。図10は従来の複数蛍光管点灯回路の一例を示す図である。図10において、直流入力電圧11Dを高周波、高電圧に変換するインバータ回路12に印加し、インバータ回路12の2次側の交流出力を蛍光管用高周波昇圧トランス13の一次側巻線21に印加し、蛍光管用高周波昇圧トランス13の2次側巻線22の出力電圧をインピーダンス14を介して複数の蛍光管40に印加する。以下に、この従来の複数蛍光管点灯回路について詳細に説明する。
【0005】
(1)電流制限インピーダンス
蛍光管の電流電圧特性の一例を図11に示す。図11において、蛍光管40に印加される電圧を徐々に上げてゆくと、放電開始電圧VMを超えたところで蛍光管が放電状態となり、電源との間に入った制限抵抗による負荷直線との交点Pを動作点として点灯状態となる。この放電開始電圧VMと点灯電圧V0の電圧差を吸収するために、蛍光管と電源の間に電流制限用インピーダンスを挿入する必要がある。この電流制限用インピーダンスには、電力損失を避けるため、通常、コンデンサあるいはインダクタなどのリアクタンス素子が用いられる。複数蛍光管点灯回路としては、リアクタンス素子としてコンデンサを用いたバラストコンデンサ方式と、リアクタンス素子として蛍光管用高周波昇圧トランスの一次コイル、二次コイル間の漏れ磁束を利用して、等価的に二次コイル出力に直列に現れる漏洩磁束インダクタンスを用いた漏洩磁束インダクタンス方式とがある。
【0006】
(2)放電開始電圧のバラツキ
蛍光管の放電開始電圧は管ごとにバラツキがあり、複数の蛍光管を並列に接続し電流制限インピーダンスを共通にして電圧を徐々に上げて行くと、先ず放電開始電圧VMの最も低い蛍光管が点灯する。そのときに蛍光管の並列接続点の電圧は点灯電圧V0まで低下するため、他の蛍光管は点灯状態に入ることが出来ない。従って、蛍光管の並列点灯のためには、図10に示すように、それぞれの蛍光管ごとに電流制限インピーダンスを入れる必要がある。
【0007】
(3)並列配置された蛍光管の点灯電流バラツキ
並列配置された蛍光管ごとに電流のバラツキがあると、バックライトとして明暗の輝度ムラが生じるため、管に流れる電流バラツキを極力抑えなければならない。
【0008】
以下に、現在、主に用いられている液晶表示パネルのバックライト用蛍光管の並列点灯方式であるバラストコンデンサ方式および漏洩磁束インダクタンス方式について説明しそれらの問題に触れる。
【0009】
図12は、並列点灯用バラストコンデンサ方式の基本回路を示す図である。図12に示すように、この並列点灯用バラストコンデンサ方式は、直流入力電圧11Dを高周波、高電圧に変換するインバータ回路12、蛍光管用高周波昇圧トランス13、複数の蛍光管40、および蛍光管用高周波昇圧トランス13と各蛍光管40間に電流制限素子として挿入されたバラストコンデンサ15から構成される。蛍光管用高周波昇圧トランス13の出力電圧は蛍光管の放電開始電圧のバラツキの最大値よりも高い電圧に設定される。蛍光管の点灯状態における等価抵抗をRとすると、インバータ回路の出力正弦波電圧の周波数をf、コンデンサ容量をC、蛍光管用高周波昇圧トランスの出力電圧をVoとして蛍光管に流れる電流Iは
I=2πf・C・Vo/√{(2πf・C・R)2+1}
で与えられる。
【0010】
バラストコンデンサ容量15と蛍光管電流Iの関係をf=50KHz,R=50KΩ、
Vo=2000Vとして計算した結果を図13に示す。バラストコンデンサとして用いられる高耐圧のコンデンサの容量バラツキは通常±10%あるため、図13よりこの時の電流のバラツキとして約±10%が予測される。蛍光管の電力は電流の二乗に比例するため、蛍光管電力バラツキとしては約±20%となり、バックライトに輝度ムラが発生し実用上好ましくない。また、この方式では蛍光管用高周波昇圧トランスの出力電圧が、常に蛍光管の放電開始電圧よりも高い電圧を出力しているため、放電開始後蛍光管用高周波昇圧トランスの出力電圧が放電開始電圧の1/2から1/3となる点灯電圧まで低下する漏洩磁束インダクタンス方式、あるいは本発明による方式と比較して、耐電圧確保のため蛍光管用高周波昇圧トランスの小型化が難しいという問題もある。
【0011】
図14は、出力数がn個の場合の漏洩磁束インダクタンス方式を示す回路図である。図14に示すように、この漏洩磁束インダクタンス方式は、インバータ回路12、複数の二次コイル22の出力を有する漏洩磁束型昇圧トランス13、および複数の蛍光管40から構成される。このとき等価的に二次コイルに直列に発生する漏洩磁束インダクタンスを電流制限インピーダンスのリアクタンス素子として用いるものである。漏洩磁束インダクタンス方式には一次コイルの発生する磁束が複数の二次コイルに並列に供給される磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式と、直列に供給される磁束直列結合型漏洩磁束インダクタンス方式がある。磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式は従来より蛍光管用多出力高周波昇圧トランスとして使われているが、磁束直列結合型漏洩磁束インダクタンス方式は複数接続された蛍光管の起動点灯に問題があり、蛍光管用多出力高周波昇圧トランスとしての実績は無い。
【0012】
図15は、出力数2個の磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式の蛍光管用高周波昇圧トランスの構造例を示す図である。一次コイル21に流れる電流I1により一次側磁性体23に発生する磁束Φ1は漏洩磁束を還流させる磁束還流用磁性体24によりその一部が二次コイル22と鎖交することなく一次側磁性体23に還流し、残りの磁束が複数の二次側磁性体25に流れ込み、それぞれの二次側磁磁性体25(25a、25b)に巻かれた二次コイル22に、各磁性体に分流する磁束に比例した誘導電圧を発生させる。
【0013】
図16は、出力数n個の磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式の等価磁気回路を示す図である。この回路は、磁性体に流れる磁束を電流、磁気抵抗を電気抵抗とみなし、電気回路と同様に書き表したものである。図16でV1は入力電圧、I1は入力電流で
正弦波の周波数をf、時間をtとして
V1=Va・sin(2πf・t)
I1=Ia・sin(2πf・t−π/2)
とする。V2a、V2b、・・・V2nは出力電圧、I2a、I2b,・・・I2nは出力電流、N1は一次コイル21の巻き数、N2は二次コイル22の巻き数、Rはそれぞれ出力回路の負荷抵抗、Vm1は一次側コイルの起磁力であり、
Vm1=N1・I1
で与えられる。また、Vm2(Vm2a、Vm2b、…Vm2n)は出力コイルに出力電流が流れることによって二次側から一次側に向かう磁束を発生させる起磁力であり、
Vm2=N2・I2
で与えられる。
【0014】
Rm2(Rm2a、Rm2b、…Rm2n)は二次側磁性体の各出力区間ごとの磁気抵抗、Rm3は磁束環流用磁性体の磁気抵抗、Φ1はVm1によって発生される磁束、Φ2(Φ2a、Φ2b、…Φ2n)は各Vm2によって発生される磁束である。また、一次コイルが発生する磁束Φ1のうち二次側磁性体に流れ込む磁束の割合を結合係数K1、逆に二次コイルの起磁力Vm2が発生する磁束Φ2のうち一次側磁性体に流れ込む磁束の割合を結合係数K2とする。
【0015】
このとき、負荷抵抗Rが接続されていない場合の開放出力電圧Voを確保するために必要な入力電圧のピーク値Va、入力電流のピーク値Ia、磁気飽和を起こさないための一次側磁性体の断面積Sは、並列出力数をn個として以下のようになる。但し、Rm0は一次側コイルから見た全体の磁気抵抗、Bmは磁性体の飽和磁束密度とする。
Va=N1・Vo/K1・N2
Ia=Rm0・Va/2πf・N12
S=Vo/2πf・K1・N2・Bm
上式において、N1=20(ターン)、N2=1500(ターン)、Vo=2000V0-p、Rm0=2×106(1/ヘンリー)、Rm2=1×106(1/ヘンリー)、Rm3=10×106(1/ヘンリー)、f=50KHz、Bm=0.3(テスラ)として計算した出力数nと入力電圧のピーク値Vaの関係を図17に示し、出力数nと入力電流のピーク値Iaの関係を図18に示し、出力数nと所要断面積Sの関係を図19に示す。
【0016】
二次側の開放出力電圧Voを確保するためひとつの二次コイル出力に要する磁束は
Vo/2πf・N2
であり、出力数nの磁束並列結合型多出力方式ではこれのn倍を、一次側から二次側への結合係数K1で除した磁束量を一次側に必要とし、一次側磁性体に大きな磁束が集中することとなる。このため図17のように入力電圧の増加、および図18のように一次コイルの電流の増加、あるいは図19のような一次側磁性体断面積の増加となり、結果的に電流の二乗に比例する一次コイルの巻き線抵抗による導体損失の増加、磁束密度のほぼ二乗に比例する磁性体損失の増加、あるいは磁気飽和を抑えるために磁性体の断面積の拡大による形状の大型化などの致命的な欠陥が発生する。
【0017】
上述のように、バックライト蛍光管並列点灯用の磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式蛍光管用高周波昇圧トランスは一次側の磁束が増大するためにさまざまな不具合点があった。これを改善するために、従来より汎用多出力のトランスとして用いられ、出力数が増えても磁束が一次側に集中しない特徴を有する磁束直列結合型の漏洩磁束インダクタンス方式を、蛍光管用高周波昇圧トランスとして応用する上での問題点について検討する。
【0018】
図20に出力数がn個の場合の磁束直列結合型の漏洩磁束インダクタンス方式蛍光管用高周波昇圧トランスの構成例を示す。図20において、入力電圧V1により一次コイル21に流れる電流I1によって一次側磁性体23に磁束Φ1が発生する。この磁束Φ1が磁束還流用磁性体24に流れ、漏洩磁束インダクタンスを発生させるためその一部(1−K)・Φ1が一次側に還流し、磁束K・Φ1が二次側磁性体25に流入する。ここで、Kは一次コイルと二次コイルの間の結合係数である。磁束K・Φ1は、直列に巻かれた第1から第nまでの二次コイル22(22a、22b、・・22n)に結合し、それぞれの二次コイルの出力端に出力電圧V2(V2a、V2b、・・V2n)を発生する。出力端子に負荷抵抗が接続されていない無負荷時の各出力電圧V2のピーク値Voは、一次コイルの巻き数をN1、二次コイルの巻き数をN2とすると、
Vo=K・N2・V1/N1
となる。
【0019】
また、第1の二次コイル22aの出力端子にのみ負荷抵抗Rが接続されている時は、接続された負荷抵抗Rに電流I2aが流れ、この電流が第1の二次コイルに流れることで一次コイル21からの磁束K・Φ1と逆の方向に磁束Φ2を発生させる。この逆方向の磁束Φ2は磁束還流用磁性体24により(1−K)・Φ2が二次側に還流し、残りのK・Φ2が一次側磁性体に流れ込み、一次側磁性体磁束をΦ1からΦ1−K・Φ2に減じる方向に動く。このとき、磁束Φと巻き数Nのコイル電圧Vとの基本的な関係式
Φ=(1/N)∫V・dt
より、NとVが一定であればΦも常に一定となるため、無負荷時の一次側磁性体磁束
Φ10と上記負荷時の一次側磁性体磁束Φ1−K・Φ2は等しく
Φ10=Φ1−K・Φ2=(1/N1)∫V1・dt
の関係が保たれる。
【0020】
従って、
Φ1=Φ10+K・Φ2
となり、無負荷時よりの増加分K・Φ2は一次コイルに流れる電流I1が増加ことにより補われる。この増加分K・Φ2は磁束還流用磁性体で(1−K)・K・Φ2が一次側に還流し、残りのK2・Φ2が二次側に流入する。この結果、二次側磁性体の磁束は負荷が接続されていない初期状態に対し(1−K2)・Φ2だけ減少する。この減少は出力端子に負荷抵抗が接続されていない第2以降の二次コイルでも同じであるから、無負荷出力端子の開放出力電圧も減少する。
【0021】
一般的にn個の出力端子に負荷抵抗Rが接続されたときの出力電圧のピーク値Voは、
Vo=K・N2・R・Va/n・L2R・N1・√{(R/n・L2R)2 + (2πf)2}
となる。ここで、周波数f、時間tとしてV1=Va・sin(2πft)、二次側の漏洩磁束インダクタンスをL2Rとする。図21に、Va=30V、f=50KHz,N1=20(ターン)、N2=1500(ターン)、K=0.75、R=50KΩ、L2R=225mHとしたとき、上式より負荷抵抗が接続された出力数nと出力電圧のピーク値Voの関係を計算した結果を示す。図21より全ての負荷が開放状態のとき1700Vある出力電圧が、ひとつの出力に負荷が接続されると1000Vまで低下することが分る。
【0022】
一方、近年、図22に示すような2つの側脚部分111,112の間に中央脚部分113を配置し、かつ、これら3つの脚部分を2つの連結部分115で挟んで磁気回路を形成するコア部101と、一方の側脚部分112に設けられた1次巻線102と、中央脚部分113に設けられた2次巻線103とを備え、各側脚部分111、112にそれぞれギャップ111A,112Aが形成され、1次巻線102の一方の端面112Aが一方の側脚部分の端に位置するように、かつ、中央脚部分113の長さ方向に対して、1次巻線102が2次巻線103と向かい合うように、1次巻線102および2次巻線103が配置された構造の漏洩磁束インダクタンス方式のトランスが開示されている(特許文献1)。この漏洩磁束インダクタンス方式のトランスによれば、コア部101に対して、1次巻線102と2次巻線103とを配置して、1次巻線102と2次巻線103との適切な漏洩磁束インダクタンスを得るための位置関係にした結果、バラストコンデンサを不要にし、かつ、良好なインバータ特性を得ることができるものである。
【特許文献1】特開2004−111417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、以上のバラストコンデンサ方式および漏洩磁束インダクタンス方式にはそれぞれ次のような問題がある。先ず、コンデンサが電流制限のリアクタンス素子としてひとつの出力端子と複数の蛍光管の間に入るバラストコンデンサ方式では、蛍光管用高周波昇圧トランスの出力端子の電圧はバラツキのある複数の蛍光管の放電開始電圧よりも高い電圧に設定され、各蛍光管が点灯した後も常時この電圧を出力している。一般的に、蛍光管の放電開始電圧は点灯電圧の2倍ないし3倍高く、蛍光管用高周波昇圧トランスは常時この高電圧を出力することとなり、耐電圧確保のため蛍光管用高周波昇圧トランスの小型化のうえで大きな制約を受けるとともに、高電圧による絶縁破壊の確率も高くなるため信頼性確保の点でも問題が多い。
【0024】
また、各蛍光管に流れる電流は出力端子電圧をコンデンサと蛍光管の等価抵抗の直列インピーダンスで除算して求められるが、この用途に用いられる高耐圧コンデンサの容量値は通常±10%の誤差があるため、電流値のバラツキも大きくなり並列配置された蛍光管バックライトの輝度ムラが問題となる。
【0025】
次に、電流制限要素として漏洩磁束型トランスによる漏洩磁束インダクタンスを用いる漏洩磁束インダクタンス方式では、一次側コイルに流れる電流により一次側磁性体に発生した磁束は、複数の二次側コイルが巻き回され、一次側から流れ込む磁束の並列分流路を形成する複数の二次側磁性体に分流するが、二次側コイルに流れる出力電流値のバラツキを抑えるために、それぞれの二次側磁性体の磁気抵抗を等しくし、分流する磁束量を均一にしなければならない。このため、磁束の流れ難さの指標であり、磁性体の磁路長/断面積に比例する磁気抵抗を各出力磁気回路ごとに等しくする必要がある。平面形状が長方形で薄型に構成される場合の多い本用途の蛍光管用高周波昇圧トランスでは、それぞれの磁気抵抗を等しくして、多数の出力磁気回路を設けることは形状的に難しく、この方法では出力数の上限は4個程度に制限され、大型液晶表示パネルで通常必要とされる10本ないし30本の蛍光管を点灯させるには多くの蛍光管用高周波昇圧トランスを必要とする。
【0026】
また、磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式では二次コイルが巻かれた各出力磁気回路に流れる磁束の総和が一次コイルが巻かれた一次側磁性体に集中するため、出力数の増加に伴い一次コイルの駆動電圧を高くし発生磁束を増加させる必要がある。
【0027】
さらに、大きい磁束が流れる一次側磁性体は磁気飽和対策として磁気回路断面積を大きくしなければならず、結果として蛍光管用高周波昇圧トランスの形状が大きくなる、あるいは磁束密度のほぼ二乗に比例する磁性体損失が極端に増加するという欠点もある。
【0028】
また、磁束直列結合型漏洩磁束インダクタンス方式では、放電開始電圧にバラツキのある蛍光管を蛍光管用高周波昇圧トランスの各出力端子に接続し点灯する場合、最も放電開始電圧の低い蛍光管が点灯状態に入ると出力電圧が大きく低下するために、他の蛍光管は放電開始電圧を超えることが出来ず、点灯状態に入れないという致命的な欠陥をもっている。
【0029】
本発明は、上述の課題に鑑み、簡易な構造で多数本の蛍光管を並列に点灯することができ、出力電流のバラツキが少ない、点灯効率の高い、さらに軽量・小型形状などの優れた特性をもつ蛍光管用高周波昇圧トランスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
以上の課題を解決するために、第1の発明の蛍光管用高周波昇圧トランスは、一次コイルが巻かれた一次側磁性体と、複数の二次コイルが巻かれた二次側磁性体と、二次コイルの一部を覆い、その両端は二次側磁性体に接合するように形成される分流用磁性体とから構成され、一次側磁性体と二次側磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、分流用磁性体によって二次側磁性体を通る磁束を分流することを特徴とする。
【0031】
第2の発明は、第1の発明において、二次側磁性体はコの字型に形成され、その両端は一次側磁性体に接合するように形成されることを特徴とする。
【0032】
第3の発明は、第1の発明において、二次側磁性体は、棒状に形成される2つの二次側磁性体と、棒状に形成された閉磁路形成用磁性体から構成され、二次側磁性体の一端は一次側磁性体に接合し、閉磁路形成用磁性体はその両端が二次側磁性体の各他端に接合することを特徴とする。
【0033】
第4の発明は、第3の発明において、二次コイルが巻かれた二次側磁性体と二次コイルの一部を覆う分流用磁性体とがその断面をコの字型磁性体として一体化して形成され、一次側磁性体、コの字型磁性体の二次側磁性体部分および閉磁路形成用磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、コの字型磁性体の分流用磁性体部分によって二次側磁性体部分を通る磁束を分流することを特徴とする。
【0034】
第5の発明は、第3の発明において、二次コイルが巻かれた二次側磁性体と、二次コイルの一部を覆う分流用磁性体とがその断面がE字型の磁性体として一体化して形成され、E字型磁性体の両端の支路を二次側磁性体とし、E字型磁性体の中央の支路を分流用磁性体とし、一次側磁性体、E字型磁性体の二次側磁性体部分および閉磁路形成用磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、E字型磁性体の中央の支路の分流用磁性体部分によって二次側磁性体部分を通る磁束を分流することを特徴とする。
【0035】
第6の発明は、第1〜第5の発明において、一次コイルまたは二次コイルはボビンに巻かれ、一次コイルまたは二次コイルが巻かれたボビンはそれぞれ一次側磁性体および二次側磁性体に嵌合されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
第1の発明によれば、蛍光管用高周波昇圧トランスは、一次コイルが巻かれた一次側磁性体と、複数の二次コイルが巻かれた二次側磁性体と、二次コイルの一部を覆い、その両端は二次側磁性体に接合するように形成される分流用磁性体とから構成され、一次側磁性体と二次側磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、分流用磁性体によって二次側磁性体を通る磁束を分流するように構成されるので、並列に接続された蛍光管の点灯において、点灯電圧が一番低い蛍光管が点灯した後でも、残りの蛍光管を確実に点灯できる。
【0037】
第2の発明によれば、二次側磁性体はコの字型に形成され、その両端は一次側磁性体に接合するように形成されるので、簡易な構造で小型、高効率、高電流精度な蛍光管用高周波昇圧トランスを提供できる。
【0038】
第3の発明によれば、二次側磁性体は、棒状に形成される2つの二次側磁性体と、棒状に形成された閉磁路形成用磁性体から構成され、二次側磁性体の一端は一次側磁性体に接合し、閉磁路形成用磁性体はその両端が二次側磁性体の各他端に接合するので、簡易な構造で小型、高効率、高電流精度な蛍光管用高周波昇圧トランスを提供できる。
【0039】
第4の発明によれば、二次コイルが巻かれた二次側磁性体と二次コイルの一部を覆う分流用磁性体とがコの字型磁性体として一体化して形成され、一次側磁性体、コの字型磁性体の二次側磁性体部分および閉磁路形成用磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、コの字型磁性体の分流用磁性体部分によって二次側磁性体部分を通る磁束が分流されるので、簡易な構造で、組み立てが容易で、小型、高効率、高電流精度な蛍光管用高周波昇圧トランスを提供できる。
【0040】
第5の発明によれば、二次コイルが巻かれた二次側磁性体と、二次コイルの一部を覆う分流用磁性体とがその断面がE字型の磁性体として一体化して形成され、E字型磁性体の両端の支路を二次側磁性体とし、E字型磁性体の中央の支路を分流用磁性体とし、一次側磁性体、E字型磁性体の二次側磁性体部分および閉磁路形成用磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、E字型磁性体の中央の支路の分流用磁性体部分によって二次側磁性体部分を通る磁束が分流されるので、簡易な構造で、組み立てが容易で、小型、高効率、高電流精度な蛍光管用高周波昇圧トランスを提供できる。
【0041】
第6の発明によれば、第1〜第5の発明において、一次コイルまたは二次コイルはボビンに巻かれ、一次コイルまたは二次コイルが巻かれたボビンはそれぞれ一次側磁性体および二次側磁性体に嵌合されるので、簡易な構造で、組み立てが容易で、小型の蛍光管用高周波昇圧トランスを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
第1の実施形態.
図1は、本発明の蛍光管用高周波昇圧トランス13において、出力数がn個の場合の模式図である。本発明は、従来の磁束直列結合型漏洩磁束インダクタンス方式昇圧出力トランスの特徴を活かしながら上記欠陥を改善するために、図1に示すように、一次コイル21と、二次コイル22(22a、22b、… 22n)と、一次コイル21が巻かれた一次側磁性体23と、二次コイル22が巻かれた二次側磁性体25と、二次コイル22の一部を覆い、その先端が二次側磁性体25に接合するように構成される分流用磁性体26(26a、26b、… 26n)から構成される。
【0043】
図1において、一次コイルに流れる電流I1により一次側磁性体23に発生した磁束Φ1は第1の二次コイル22aが巻かれた二次側磁性体25と分流用磁性体26aの接合点P1で、接合点P1とP2の間の二次側磁性体の磁気抵抗Rm2と対応する分流用磁性体26aの磁気抵抗Rm3により、二次側磁性体にK1・Φ1の磁束が、また分流用磁性体には(1−K1)・Φ1が流れる。なお、Rm2、Rm3については、図2に記載されている。
ここで、磁束分流係数K1は、
K1=Rm3/(Rm2+Rm3)
の式で表される。
【0044】
第1の二次コイル22aの二次側磁性体25を流れる磁束K1・Φ1と上側接合点P1で分流用磁性体26aに分流した磁束(1−K1)・Φ1は下側接合点P2で再び合流し、Φ1となって第2の二次コイル22bの接合点P3に流入する。このようにn個の二次コイルがあればそれぞれの二次側磁性体と分流用磁性体の接合点で分流と合流を繰り返し、一次側磁性体に還流する。
【0045】
図2は図1の蛍光管用高周波昇圧トランスを磁気回路図で表現したものである。図1において、一次側磁性体の磁気抵抗をRm1、二次側磁性体のP1からP2までの一区間の磁気抵抗をRm2、分流用磁性体の同じく一区間の磁気抵抗をRm3、入力電圧をV1(=Va・sin(2πft))、Vaを入力電圧の最大値、fを入力電圧の周波数、一次コイルに流れる電流をI1、一次コイルの巻き数をN1、一次コイルが発生する磁束をΦ1、二次側磁性体と分流用磁性体の各接合点での磁束分流係数をK1、二次コイルの巻き数をN2、出力側負荷抵抗をR、二次コイルの出力電流をI2、I2により二次コイル直下の二次側磁性体に発生する逆方向の起磁力Vm2、これにより発生する磁束をΦ2とする。
【0046】
先ず、二次コイルの出力端子が全て開放の場合、それぞれの二次コイルは二次側磁性体に流れる磁束K1・Φ1と鎖交するため出力端子電圧V2は
V2=N2・d(K1・Φ1)/dt
V1=N1・d(Φ1)/dt
の関係式より
V2=K1・N2・Va・sin(2πf・t)/N1
となる。
【0047】
また、この関係より二次コイル出力端子に蛍光管放電開始に必要な出力電圧V2を出力する時に必要な一次コイルの発生磁束Φ1は、V2=Vo・sin(2πf・t)として上式をΦ1について解いて
Φ1=Vo/2πf・K1・N2
で与えられる。このように本発明による多出力蛍光管用高周波昇圧トランスの場合、二次コイルと磁束が直列に結合するため、n個の二次コイル全てがVoを出力しても、一次側の磁束は1個の場合と同じで良いことになる。
【0048】
次に、第1の二次コイル22aの出力端子のみ負荷抵抗Rが接続されたとき、第1の二次コイル22aの出力電圧V2aと開放状態にある第2の二次コイル22bの出力電圧V2bを計算する。先ず、第1の二次コイル22aに電流I2aが流れこの電流により第1の二次コイル22a直下の二次側磁性体には一次側より流入する磁束K1・Φ1と逆向きの起磁力N2・I2が発生し、この起磁力発生地点から見た全磁気抵抗をRmsとして、この起磁力による磁束Φ2
Φ2=N2・I2a/Rms
がK1・Φ1を減ずる方向に生ずる。Φ2は第1の二次コイル22aの二次側磁性体と分流用磁性体の接合点P1で、P1点での磁束分流比をK2として一次側磁性体にK2・Φ2、分流用磁性体に(1−K2)・Φ2に分流する。
【0049】
K2は分流用磁性体の磁気抵抗Rm3と、一次側磁性体の磁気抵抗Rm1と第2から第nまでの二次コイル22の二次側磁性体の磁気抵抗Rm2、同じく分流用磁性体の磁気抵抗Rm3の並列磁気抵抗の和の磁気抵抗をRmpとして次式で与えられる。
K2=Rm3/(Rm1+Rmp+Rm3)
このように、一次コイルの発生する磁束が分流用磁性体にて分流しK1・Φ1が二次コイルと鎖交し、また同じように二次コイルの発生する磁束Φ2のうちK2・Φ2のみが一次コイル21と鎖交することにより等価的に各二次コイルの出力に直列にインダクタンスが入ることとなる。このインダクタンスは各出力ごとに磁束を分流することにより生ずるものであり、ここでは分流磁束インダクタンスLbとする。
【0050】
第1の二次コイルの出力電圧V2aはV1を
V1=Va・sin(2πf・t)
として、一次側及び二次側の関係式
V1=N1・d(Φ1−K2・Φ2)/dt
V2a=N2・d(K1・Φ1−Φ2)/dt
I2a=V2a/R
Φ2=N2・I2a/Rms=(N2・N2/R・Rms)・d(K1・Φ1−Φ2)/dt
を解いて、V2aのピーク値Voaは次式で与えられる。
Voa=K1・N2・R・Va/N1・Lb・√{(R/Lb)2 +(2πf)2}
【0051】
次に、出力端子が開放されている第2の二次コイル22bの出力電圧V2bを計算する。第2の二次コイル22直下の二次側磁性体の磁束は一次コイルよりの磁束がK1・Φ1、また第1の二次コイルが発生する逆方向の磁束Φ2のうち、一次側磁性体23に分流する成分K2・Φ2が一次側磁性体23から第nの出力区間・・・・・第3の出力区間をまわり第2の二次コイル22bの二次側磁性体25と分流用磁性体26の下側接合点P4まで一周してくるが、P4で各出力区間の二次側磁性体と分流用磁性体の磁束分流比K1を乗じた磁束が二次側磁性体に分流するため、K1・K2・Φ2が第2の二次コイル直下の二次側磁性体に、一次コイルからの磁束K1・Φ1を減ずる方向で流入する。従って、第2の二次コイル22bの出力電圧V2bは
V2b=N2・d(K1・Φ1−K1・K2・Φ2)/dt
であるから、Voaの計算で求めたΦ1、Φ2を上式に代入すると、V2bのピーク値Vobは
Vob=K1・N2・Va/N1
となる。
【0052】
これは、全ての出力が開放状態の時の式と同じとなるため、複数の蛍光管を負荷としたときにどれか一本の蛍光管が点灯状態になっても、まだ放電開始していない蛍光管には放電開始電圧を超える電圧が印加されることとなり、結果として全ての蛍光管が点灯状態に入ることが出来ることを示している。
【0053】
次に、全ての二次コイル22の出力端子に負荷抵抗Rが負荷されたときの二次側の出力電圧V2を計算する。先ず第1の二次コイル22aに電流I2aが流れこの電流により第1の二次コイル22a直下の二次側磁性体には一次側より流入する磁束K1・Φ1と逆向きの起磁力N2・I2aが発生し、発生地点から見た全磁気抵抗をRmsとして、この起磁力による磁束Φ2は
Φ2=N2・I2/Rms
がK1・Φ1を減じる方向に生ずる。Φ2は第1の二次コイル22aの二次側磁性体25と分流用磁性体26の接合点P1で、この磁束分流比をK2として入力側磁性体にK2・Φ2、分流用磁性体に(1−K2)・Φ2が分流する。
【0054】
また、全ての出力の負荷抵抗R、及びK1,K2,N2が等しいとすると各出力の出力電圧V2、出力電流I2も全て等しく、また第2の二次コイル22bに流れる電流により第2の二次コイル22b直下の二次側磁性体25に発生する磁束Φ2は第1の二次コイルの発生する磁束Φ2と等しく、第2の二次コイル22bの二次側磁性体25と分流用磁性体26bとの上側の接合点P3で、K2・Φ2が第1の二次コイル側に流れ、(1−K2)・Φ2が第2の二次コイルの分流用磁性体に分流する。第1の二次コイル部に流入した磁束K2・Φ2は第1の二次コイルの二次側磁性体と分流用磁性体の下側接合点P2で二次側磁性体へのK1・K2・Φ2と分流用磁性体への(1−K1)・K2・Φ2に分流するが、同じく上側の接合点P1で再び合流しK2・Φ2として一次側磁性体に流れ込む。
【0055】
このように第2の二次コイル22a〜第nの二次コイル22nの発生する磁束は
(n−1)・K1・K2・Φ2
が第1の二次コイル22a直下の二次側磁性体25に一次コイル21よりの磁束K1Φ1を減じる方向で流れ込むこととなるため、第1の二次コイル22aが鎖交する磁束は
K1・Φ1−Φ2−(n−1)・K1・K2・Φ2
となる。
【0056】
従って、この場合の出力電圧V2、出力電流I2はV1を上述の正弦波電圧として、一次側および二次側の関係式
V1=N1・d(Φ1−n・K2・Φ2)/dt
V2=N2・d(K1・Φ1−Φ2−(n−1)・K1・K2・Φ2)/dt
I2=V2/R
Φ2=N2・I2/Rms
=(N2・N2/R・Rms)・d(K1・Φ1−Φ2+(n−1)・K1・K2・Φ2)/dt
を解いて,それぞれのピーク値Vo、Ioは次式で与えられる。
Vo=K1・N2・R・Va/N1・Lb・√{(R/Lb)2 + (2πf)2}
Io=K1・N2・Va/N1・Lb・√{(R/Lb)2 + (2πf)2}
【0057】
上式の中のLbは先に述べたように、二次側磁性体25の磁束を分流用磁性体26で分流することにより、等価的に二次コイル22の出力に直列に発生する分流磁束インダクタンスである。この結果より、本方式の蛍光管用高周波昇圧トランスは点灯時の電圧、電流が出力数nによらず一定であることが分る。
【0058】
以上の検討結果より、本発明による蛍光管用高周波昇圧トランスは従来問題となっていた以下の点を改善することを特徴とするものである。
特徴(1)
出力数nを増やしても一次側磁性体の磁束が増大しない。
先に述べたように、n個の出力において磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式蛍光管用高周波昇圧トランスでは一次側磁性体の磁束量が一個の場合のn倍に増大するのに対し、本発明の蛍光管用高周波昇圧トランスの場合は一個でも、n個でも同じ磁束量となり、多出力の蛍光管用高周波昇圧トランスでも入力電圧を一個の場合と同じに抑えることができる。入力電圧が低いことは一次コイルの励磁電流が少ないことであり、結果として、電流の二乗に比例する一次コイルの導体損失を大きく低減することができる。また、磁束密度のほぼ二乗に比例する磁性体損失も大幅に改善されるため高効率の蛍光管用高周波昇圧トランスを実現することができる。さらに、磁性体の磁気飽和を防ぐために磁気断面積を拡大する必要も無く、小型化・軽量化を実現することができる。
【0059】
特徴(2)
出力電圧、電流が出力数nに依存しない。
従来より汎用トランスとして用いられている磁束直列結合型漏洩磁束インダクタンス方式高周波昇圧トランスではn個の出力のうち一個でも点灯状態に入ると、その他の出力電圧が極端に低下するため残りの蛍光管は点灯することが出来ないが、本発明の蛍光管用高周波昇圧トランスでは分流用磁性体の働きにより、個々の出力は他の出力の点灯、非点灯に関係なく動作するため、簡素なトランス構造でn=10を超える場合でも、並列配置され放電開始電圧にバラツキのある蛍光管でも点灯することができ、点灯装置の小型化・高信頼度化・低価格化を実現することができるものである。
【0060】
特徴(3)
それぞれの出力コイルに結合する磁束が共通であるため出力電圧、出力電流のバラツキが極端に少ない。コンデンサによりn個の出力を分岐する多出力バラストコンデンサ方式ではコンデンサの容量値のバラツキにほぼ等しい出力電流値バラツキがあり、また磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式多出力蛍光管用高周波昇圧トランスでは一次コイルの発生する磁束がn個の二次側磁性体にそれぞれの磁気抵抗の比率により分流するが、n=10個を超える二次側磁性体の磁気抵抗の比率を限られた形状で効率よく抑えることは難しく、出力電流のバラツキは大きいものとなる。本発明による蛍光管用高周波昇圧トランスでは、各出力が二次側磁性体を通る共通の磁束で決まるため、出力電圧、出力電流のバラツキを抑えることができるものである。
【0061】
図3は、本発明の第1の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランス13おける出力数4の場合の模式図である。この第1の実施形態においては、図3に示すように、一次側磁性体23とコの字型に形成された二次側磁性体25によって閉磁束磁気回路が形成される。この第1の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスでは、一次側磁性体23に一次コイル21が巻かれ、二次側磁性体25に二次コイル22(22a、22b、22c、22d)が巻かれ、二次コイル22の一部を覆うように分流用磁性体26(26a、26b、26c、26d)が取りつけられる。分流用磁性体26はコの字形状に形成され、中央部は二次コイル22を覆い、端部は二次側磁性体25に接合する。一般に、一次コイル21および二次コイル22はそれぞれボビンに巻かれた状態で一次側磁性体23および二次側磁性体25に嵌合される。
【0062】
図4は、本発明の第1の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランス13の構造を示す斜視図である。図4において、コの字型の二次側磁性体25の端部は一次側磁性体23の両端に接合し閉磁束磁気回路を形成している。一次コイル21および二次コイル22はそれぞれボビンに巻かれた状態で一次側磁性体23および二次側磁性体25に嵌合されている。分流用磁性体26は、中央部が二次コイル22の上から二次コイル22を覆い、その両端部は二次側磁性体25に接合して、磁束分流回路を形成している。
【0063】
このように本発明による分流磁束インダクタンス方式による多出力の蛍光管用高周波昇圧トランスでは並列配置され、かつ放電開始電圧にバラツキのある複数の蛍光管を効率よく点灯することが出来るとともに、負荷時のそれぞれの出力電圧V2は二次側磁性体と分流用磁性体の磁束分流比K1、二次コイル/一次コイルの巻き数比N2/N1、分流磁束インダクタンスLb,負荷抵抗R、入力電圧の振幅Va、周波数fのみにより決まり、出力数nには依存しない。このことは、出力数nに上限のある磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式多出力蛍光管用高周波昇圧トランスと異なり、n=10を超える蛍光管の並列駆動がひとつのトランスで実現でき、かつそれぞれの出力は一次側磁性体、二次側磁性体をループ状に回る共通の一定磁束で駆動されるため、出力電流のバラツキを極端に低減することができるものである。
【0064】
また、一次側磁性体の磁束量が出力数nに関係なく一定であるため、並列磁束結合型漏洩磁束インダクタンス方式多出力蛍光管用高周波昇圧トランスのようにnの増加とともに一次側磁性体の磁束量が増大することも無く、磁性体断面積が小さく出来るため小型・軽量の蛍光管用高周波昇圧トランス形状を実現できる。さらに、磁束密度のほぼ二乗に比例する磁性体損失も大幅に低減することが可能であり、蛍光管の点灯駆動回路の点灯効率の向上にも寄与するものである。
【0065】
第2の実施形態.
図5は、本発明の第2の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランス13おける出力数4の場合の模式図である。この第2の実施形態においては、図5に示すように、一次側磁性体23と棒状の閉磁路形成用磁性体29間に棒状の二次側磁性体25が挟まれ閉磁束磁気回路が形成される。この第2の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスでは、一次側磁性体23に一次コイル21が巻かれ、二次側磁性体25に二次コイル22(22a、22b、22c、22d)が巻かれ、閉磁路形成用磁性体29が2つの二次側磁性体25に接合して閉磁束磁気回路を形成すると共に、二次コイル22の一部を覆うように分流用磁性体26が取りつけられる。分流用磁性体26(26a、26b、26c、26d)はコの字形状に形成され、中央部は二次コイル22を覆い、端部は二次側磁性体25に接合する。一般に、一次コイル21および二次コイル22はそれぞれボビンに巻かれた状態で一次側磁性体23および二次側磁性体25に嵌合される。なお、図5において、閉磁路形成用磁性体29が二次側磁性体25と分離して形成される以外は第1の実施形態と同じである。
【0066】
図6は、本発明の第2の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランス13の構造を示す斜視図である。図6において、閉磁路形成用磁性体29が二次側磁性体25と分離して形成される以外は第1の実施形態と同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0067】
第3の実施形態.
図7は本発明の第3の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランス13の構造を示す模式図である。この第3の実施形態においては、図7に示すように、一次側磁性体23と閉磁路形成用磁性体29間に複数のコの字型の磁性体27(27a、27b、27c、27d)を挟んで閉磁束磁気回路を形成する。閉磁束磁気回路は、一次側磁性体23、コの字型の磁性体の二次コイルが巻かれた複数の磁性体部分、閉磁路形成用磁性体29によって形成される。コの字型の磁性体は、一方の支路は二次コイルが巻かれる二次側磁性体として、また他方の支路は分流用磁性体として機能する。コの字型の磁性体を複数個縦続接続することによって、分流用磁性体は二次コイル22の一部を覆うようにすることができる。第3の実施形態では、二次コイルが巻かれる磁性体を個別に製造できるため、出力数に応じてコの字型の磁性体27を柔軟に取りつけることができる。また、各コの字型磁性体は小型のため製造価格が安価であるので、蛍光管用高周波昇圧トランスのコスト低減を実現することができる。
【0068】
第4の実施形態.
図8は本発明の第4の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランス13の構造を示す模式図である。この第4の実施形態においては、図8に示すように、一次側磁性体23と閉磁路形成用磁性体29間に複数のE字型の磁性体28(28a、28b、28c、28d)を挟んで閉磁束磁気回路を形成する。閉磁束磁気回路は、一次側磁性体23、E字型の磁性体の二次コイルが巻かれた複数の磁性体部分、閉磁路形成用磁性体29によって形成される。E字型の磁性体は、上下の支路は二次コイルが巻かれる二次側磁性体として、また中央の支路は両端のふたつの二次側磁性体の共通の分流用磁性体として機能する。E字型の磁性体を複数個縦続接続することによって、分流用磁性体は二次コイル22の一部を覆うようにすることができる。第4の実施形態では、ふたつの二次コイルがひとつの分流用磁性体を共用するため小型・軽量化が図れるとともに、二次コイルが巻かれる磁性体を個別に製造できるため、出力数に応じてE字型の磁性体28を柔軟に取りつけることができる。また、各E字型磁性体は小型のため製造価格が安価であるので、蛍光管用高周波昇圧トランスのコスト低減を実現することができる。
【0069】
図9は、大画面液晶表示パネル用バックライト蛍光管点灯インバータ回路用の多出力蛍光管用高周波昇圧トランスの性能を各方式について比較した一覧表である。図9に示すように、本発明による蛍光管用高周波昇圧トランスは、多出力が得られ、起動特性も良く、高効率で、小型軽量で、信頼性が高くコストも安価である等全ての項目で他の方式の蛍光管用高周波昇圧トランスよりも優れていることが一目で分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、液晶表示パネルのバックライトとして用いられる並列配置された複数の蛍光管を点灯させるための蛍光管用高周波昇圧トランスとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスおける出力数nの場合の模式図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスおける出力数nの蛍光管用高周波昇圧トランスの磁気回路図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスおける出力数4の場合の模式図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスの一例を示す斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスおける出力数4の場合の模式図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスの一例を示す斜視図である。
【図7】本発明の第3の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスにおける出力数4の場合の模式図である。
【図8】本発明の第4の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスにおける出力数8の場合の模式図である。
【図9】本発明と従来の技術の複数蛍光管並列点灯用蛍光管用高周波昇圧トランスの各種性能比較表である。
【図10】従来の複数蛍光管点灯回路の一例を示す図である。
【図11】蛍光管の電圧−電流特性を示す図である。
【図12】バラストコンデンサ方式による複数蛍光管点灯回路の一例を示す図である。
【図13】バラストコンデンサ方式におけるバラストコンデンサ容量と蛍光管電流の関係を示す図である。
【図14】漏洩磁束インダクタンス方式による複数蛍光管点灯回路の一例を示す図である。
【図15】出力数2個の磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式の蛍光管用高周波昇圧トランスの構造を示す図である。
【図16】出力数n個の磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式の蛍光管用高周波昇圧トランスの磁気回路を示す図である。
【図17】磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式蛍光管用高周波昇圧トランスの出力数nと所要入力電圧の関係を示す図である。
【図18】磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式蛍光管用高周波昇圧トランスの出力数nと所要入力電流の関係を示す図である。
【図19】磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式蛍光管用高周波昇圧トランスの出力数nと所要一次側磁性体断面積の関係を示す図である。
【図20】磁束直列結合型漏洩磁束インダクタンス方式の蛍光管用高周波昇圧トランスの模式図である。
【図21】磁束直列結合型漏洩磁束インダクタンス方式の蛍光管用高周波昇圧トランスの出力数nと出力電圧の関係を示す図である。
【図22】従来の漏洩磁束インダクタンス方式の蛍光管用高周波昇圧トランスを示す図である。
【符号の説明】
【0072】
13 蛍光管用高周波昇圧トランス
21一次コイル
22、22a、22b、・・22n 二次コイル
23 一次側磁性体
25、25a、25b 二次側磁性体
26、26a、26b、・・26n 分流用磁性体
27、27a〜27d 分流用磁性体
28、28a〜28h 分流用磁性体
29 閉磁路形成用磁性体
【技術分野】
【0001】
この発明は液晶表示パネルのバックライトとして用いられる並列配置された複数の蛍光管を点灯させるための蛍光管用高周波昇圧トランスに関する。
【背景技術】
【0002】
最近の大画面液晶表示パネルでは、バックライト用として多数の蛍光管がパネル背面に並列配置されている。これらの蛍光管を高周波、高電圧で点灯するための蛍光管用高周波昇圧トランスも複数個必要とされ、実装面積の増加、信頼性の低下、並列配置された蛍光管の電流バラツキによる輝度ムラの発生、あるいは電流バラツキを低減するためにバランス回路などを付け加えることによる点灯回路の複雑化などの問題を抱えている。
【0003】
液晶表示パネルのバックライト用として用いられる蛍光管を放電、点灯させるためには、通常1500Vrmsから3000Vrmsの高周波の高電圧を印加し放電状態に持ち込む必要がある。蛍光管は放電開始後、管の電圧が放電開始電圧の1/2から1/3に低下し点灯状態に入る。複数の蛍光管を並列に接続し点灯させる場合、印加電圧を徐々に上げていくと、それぞれの蛍光管の放電開始電圧にバラツキがあるため、並列接続された複数の蛍光管のうち最も放電開始電圧が低い蛍光管が放電を開始し、点灯状態に入る。そのとき、並列接続された複数の蛍光管の接続点の電圧は、すでに点灯状態にある蛍光管の点灯電圧まで低下しているために、残りの蛍光管は放電を開始できず、点灯状態に入ることができない。すなわち、並列に接続された蛍光管の点灯においては、点灯電圧が一番低い蛍光管のみが点灯し、残りの蛍光管は点灯できないという現象が生じる。
【0004】
先ず、液晶表示パネルのバックライト蛍光管の並列点灯用に用いられる蛍光管用高周波昇圧トランスの概要について述べる。図10は従来の複数蛍光管点灯回路の一例を示す図である。図10において、直流入力電圧11Dを高周波、高電圧に変換するインバータ回路12に印加し、インバータ回路12の2次側の交流出力を蛍光管用高周波昇圧トランス13の一次側巻線21に印加し、蛍光管用高周波昇圧トランス13の2次側巻線22の出力電圧をインピーダンス14を介して複数の蛍光管40に印加する。以下に、この従来の複数蛍光管点灯回路について詳細に説明する。
【0005】
(1)電流制限インピーダンス
蛍光管の電流電圧特性の一例を図11に示す。図11において、蛍光管40に印加される電圧を徐々に上げてゆくと、放電開始電圧VMを超えたところで蛍光管が放電状態となり、電源との間に入った制限抵抗による負荷直線との交点Pを動作点として点灯状態となる。この放電開始電圧VMと点灯電圧V0の電圧差を吸収するために、蛍光管と電源の間に電流制限用インピーダンスを挿入する必要がある。この電流制限用インピーダンスには、電力損失を避けるため、通常、コンデンサあるいはインダクタなどのリアクタンス素子が用いられる。複数蛍光管点灯回路としては、リアクタンス素子としてコンデンサを用いたバラストコンデンサ方式と、リアクタンス素子として蛍光管用高周波昇圧トランスの一次コイル、二次コイル間の漏れ磁束を利用して、等価的に二次コイル出力に直列に現れる漏洩磁束インダクタンスを用いた漏洩磁束インダクタンス方式とがある。
【0006】
(2)放電開始電圧のバラツキ
蛍光管の放電開始電圧は管ごとにバラツキがあり、複数の蛍光管を並列に接続し電流制限インピーダンスを共通にして電圧を徐々に上げて行くと、先ず放電開始電圧VMの最も低い蛍光管が点灯する。そのときに蛍光管の並列接続点の電圧は点灯電圧V0まで低下するため、他の蛍光管は点灯状態に入ることが出来ない。従って、蛍光管の並列点灯のためには、図10に示すように、それぞれの蛍光管ごとに電流制限インピーダンスを入れる必要がある。
【0007】
(3)並列配置された蛍光管の点灯電流バラツキ
並列配置された蛍光管ごとに電流のバラツキがあると、バックライトとして明暗の輝度ムラが生じるため、管に流れる電流バラツキを極力抑えなければならない。
【0008】
以下に、現在、主に用いられている液晶表示パネルのバックライト用蛍光管の並列点灯方式であるバラストコンデンサ方式および漏洩磁束インダクタンス方式について説明しそれらの問題に触れる。
【0009】
図12は、並列点灯用バラストコンデンサ方式の基本回路を示す図である。図12に示すように、この並列点灯用バラストコンデンサ方式は、直流入力電圧11Dを高周波、高電圧に変換するインバータ回路12、蛍光管用高周波昇圧トランス13、複数の蛍光管40、および蛍光管用高周波昇圧トランス13と各蛍光管40間に電流制限素子として挿入されたバラストコンデンサ15から構成される。蛍光管用高周波昇圧トランス13の出力電圧は蛍光管の放電開始電圧のバラツキの最大値よりも高い電圧に設定される。蛍光管の点灯状態における等価抵抗をRとすると、インバータ回路の出力正弦波電圧の周波数をf、コンデンサ容量をC、蛍光管用高周波昇圧トランスの出力電圧をVoとして蛍光管に流れる電流Iは
I=2πf・C・Vo/√{(2πf・C・R)2+1}
で与えられる。
【0010】
バラストコンデンサ容量15と蛍光管電流Iの関係をf=50KHz,R=50KΩ、
Vo=2000Vとして計算した結果を図13に示す。バラストコンデンサとして用いられる高耐圧のコンデンサの容量バラツキは通常±10%あるため、図13よりこの時の電流のバラツキとして約±10%が予測される。蛍光管の電力は電流の二乗に比例するため、蛍光管電力バラツキとしては約±20%となり、バックライトに輝度ムラが発生し実用上好ましくない。また、この方式では蛍光管用高周波昇圧トランスの出力電圧が、常に蛍光管の放電開始電圧よりも高い電圧を出力しているため、放電開始後蛍光管用高周波昇圧トランスの出力電圧が放電開始電圧の1/2から1/3となる点灯電圧まで低下する漏洩磁束インダクタンス方式、あるいは本発明による方式と比較して、耐電圧確保のため蛍光管用高周波昇圧トランスの小型化が難しいという問題もある。
【0011】
図14は、出力数がn個の場合の漏洩磁束インダクタンス方式を示す回路図である。図14に示すように、この漏洩磁束インダクタンス方式は、インバータ回路12、複数の二次コイル22の出力を有する漏洩磁束型昇圧トランス13、および複数の蛍光管40から構成される。このとき等価的に二次コイルに直列に発生する漏洩磁束インダクタンスを電流制限インピーダンスのリアクタンス素子として用いるものである。漏洩磁束インダクタンス方式には一次コイルの発生する磁束が複数の二次コイルに並列に供給される磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式と、直列に供給される磁束直列結合型漏洩磁束インダクタンス方式がある。磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式は従来より蛍光管用多出力高周波昇圧トランスとして使われているが、磁束直列結合型漏洩磁束インダクタンス方式は複数接続された蛍光管の起動点灯に問題があり、蛍光管用多出力高周波昇圧トランスとしての実績は無い。
【0012】
図15は、出力数2個の磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式の蛍光管用高周波昇圧トランスの構造例を示す図である。一次コイル21に流れる電流I1により一次側磁性体23に発生する磁束Φ1は漏洩磁束を還流させる磁束還流用磁性体24によりその一部が二次コイル22と鎖交することなく一次側磁性体23に還流し、残りの磁束が複数の二次側磁性体25に流れ込み、それぞれの二次側磁磁性体25(25a、25b)に巻かれた二次コイル22に、各磁性体に分流する磁束に比例した誘導電圧を発生させる。
【0013】
図16は、出力数n個の磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式の等価磁気回路を示す図である。この回路は、磁性体に流れる磁束を電流、磁気抵抗を電気抵抗とみなし、電気回路と同様に書き表したものである。図16でV1は入力電圧、I1は入力電流で
正弦波の周波数をf、時間をtとして
V1=Va・sin(2πf・t)
I1=Ia・sin(2πf・t−π/2)
とする。V2a、V2b、・・・V2nは出力電圧、I2a、I2b,・・・I2nは出力電流、N1は一次コイル21の巻き数、N2は二次コイル22の巻き数、Rはそれぞれ出力回路の負荷抵抗、Vm1は一次側コイルの起磁力であり、
Vm1=N1・I1
で与えられる。また、Vm2(Vm2a、Vm2b、…Vm2n)は出力コイルに出力電流が流れることによって二次側から一次側に向かう磁束を発生させる起磁力であり、
Vm2=N2・I2
で与えられる。
【0014】
Rm2(Rm2a、Rm2b、…Rm2n)は二次側磁性体の各出力区間ごとの磁気抵抗、Rm3は磁束環流用磁性体の磁気抵抗、Φ1はVm1によって発生される磁束、Φ2(Φ2a、Φ2b、…Φ2n)は各Vm2によって発生される磁束である。また、一次コイルが発生する磁束Φ1のうち二次側磁性体に流れ込む磁束の割合を結合係数K1、逆に二次コイルの起磁力Vm2が発生する磁束Φ2のうち一次側磁性体に流れ込む磁束の割合を結合係数K2とする。
【0015】
このとき、負荷抵抗Rが接続されていない場合の開放出力電圧Voを確保するために必要な入力電圧のピーク値Va、入力電流のピーク値Ia、磁気飽和を起こさないための一次側磁性体の断面積Sは、並列出力数をn個として以下のようになる。但し、Rm0は一次側コイルから見た全体の磁気抵抗、Bmは磁性体の飽和磁束密度とする。
Va=N1・Vo/K1・N2
Ia=Rm0・Va/2πf・N12
S=Vo/2πf・K1・N2・Bm
上式において、N1=20(ターン)、N2=1500(ターン)、Vo=2000V0-p、Rm0=2×106(1/ヘンリー)、Rm2=1×106(1/ヘンリー)、Rm3=10×106(1/ヘンリー)、f=50KHz、Bm=0.3(テスラ)として計算した出力数nと入力電圧のピーク値Vaの関係を図17に示し、出力数nと入力電流のピーク値Iaの関係を図18に示し、出力数nと所要断面積Sの関係を図19に示す。
【0016】
二次側の開放出力電圧Voを確保するためひとつの二次コイル出力に要する磁束は
Vo/2πf・N2
であり、出力数nの磁束並列結合型多出力方式ではこれのn倍を、一次側から二次側への結合係数K1で除した磁束量を一次側に必要とし、一次側磁性体に大きな磁束が集中することとなる。このため図17のように入力電圧の増加、および図18のように一次コイルの電流の増加、あるいは図19のような一次側磁性体断面積の増加となり、結果的に電流の二乗に比例する一次コイルの巻き線抵抗による導体損失の増加、磁束密度のほぼ二乗に比例する磁性体損失の増加、あるいは磁気飽和を抑えるために磁性体の断面積の拡大による形状の大型化などの致命的な欠陥が発生する。
【0017】
上述のように、バックライト蛍光管並列点灯用の磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式蛍光管用高周波昇圧トランスは一次側の磁束が増大するためにさまざまな不具合点があった。これを改善するために、従来より汎用多出力のトランスとして用いられ、出力数が増えても磁束が一次側に集中しない特徴を有する磁束直列結合型の漏洩磁束インダクタンス方式を、蛍光管用高周波昇圧トランスとして応用する上での問題点について検討する。
【0018】
図20に出力数がn個の場合の磁束直列結合型の漏洩磁束インダクタンス方式蛍光管用高周波昇圧トランスの構成例を示す。図20において、入力電圧V1により一次コイル21に流れる電流I1によって一次側磁性体23に磁束Φ1が発生する。この磁束Φ1が磁束還流用磁性体24に流れ、漏洩磁束インダクタンスを発生させるためその一部(1−K)・Φ1が一次側に還流し、磁束K・Φ1が二次側磁性体25に流入する。ここで、Kは一次コイルと二次コイルの間の結合係数である。磁束K・Φ1は、直列に巻かれた第1から第nまでの二次コイル22(22a、22b、・・22n)に結合し、それぞれの二次コイルの出力端に出力電圧V2(V2a、V2b、・・V2n)を発生する。出力端子に負荷抵抗が接続されていない無負荷時の各出力電圧V2のピーク値Voは、一次コイルの巻き数をN1、二次コイルの巻き数をN2とすると、
Vo=K・N2・V1/N1
となる。
【0019】
また、第1の二次コイル22aの出力端子にのみ負荷抵抗Rが接続されている時は、接続された負荷抵抗Rに電流I2aが流れ、この電流が第1の二次コイルに流れることで一次コイル21からの磁束K・Φ1と逆の方向に磁束Φ2を発生させる。この逆方向の磁束Φ2は磁束還流用磁性体24により(1−K)・Φ2が二次側に還流し、残りのK・Φ2が一次側磁性体に流れ込み、一次側磁性体磁束をΦ1からΦ1−K・Φ2に減じる方向に動く。このとき、磁束Φと巻き数Nのコイル電圧Vとの基本的な関係式
Φ=(1/N)∫V・dt
より、NとVが一定であればΦも常に一定となるため、無負荷時の一次側磁性体磁束
Φ10と上記負荷時の一次側磁性体磁束Φ1−K・Φ2は等しく
Φ10=Φ1−K・Φ2=(1/N1)∫V1・dt
の関係が保たれる。
【0020】
従って、
Φ1=Φ10+K・Φ2
となり、無負荷時よりの増加分K・Φ2は一次コイルに流れる電流I1が増加ことにより補われる。この増加分K・Φ2は磁束還流用磁性体で(1−K)・K・Φ2が一次側に還流し、残りのK2・Φ2が二次側に流入する。この結果、二次側磁性体の磁束は負荷が接続されていない初期状態に対し(1−K2)・Φ2だけ減少する。この減少は出力端子に負荷抵抗が接続されていない第2以降の二次コイルでも同じであるから、無負荷出力端子の開放出力電圧も減少する。
【0021】
一般的にn個の出力端子に負荷抵抗Rが接続されたときの出力電圧のピーク値Voは、
Vo=K・N2・R・Va/n・L2R・N1・√{(R/n・L2R)2 + (2πf)2}
となる。ここで、周波数f、時間tとしてV1=Va・sin(2πft)、二次側の漏洩磁束インダクタンスをL2Rとする。図21に、Va=30V、f=50KHz,N1=20(ターン)、N2=1500(ターン)、K=0.75、R=50KΩ、L2R=225mHとしたとき、上式より負荷抵抗が接続された出力数nと出力電圧のピーク値Voの関係を計算した結果を示す。図21より全ての負荷が開放状態のとき1700Vある出力電圧が、ひとつの出力に負荷が接続されると1000Vまで低下することが分る。
【0022】
一方、近年、図22に示すような2つの側脚部分111,112の間に中央脚部分113を配置し、かつ、これら3つの脚部分を2つの連結部分115で挟んで磁気回路を形成するコア部101と、一方の側脚部分112に設けられた1次巻線102と、中央脚部分113に設けられた2次巻線103とを備え、各側脚部分111、112にそれぞれギャップ111A,112Aが形成され、1次巻線102の一方の端面112Aが一方の側脚部分の端に位置するように、かつ、中央脚部分113の長さ方向に対して、1次巻線102が2次巻線103と向かい合うように、1次巻線102および2次巻線103が配置された構造の漏洩磁束インダクタンス方式のトランスが開示されている(特許文献1)。この漏洩磁束インダクタンス方式のトランスによれば、コア部101に対して、1次巻線102と2次巻線103とを配置して、1次巻線102と2次巻線103との適切な漏洩磁束インダクタンスを得るための位置関係にした結果、バラストコンデンサを不要にし、かつ、良好なインバータ特性を得ることができるものである。
【特許文献1】特開2004−111417号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
しかしながら、以上のバラストコンデンサ方式および漏洩磁束インダクタンス方式にはそれぞれ次のような問題がある。先ず、コンデンサが電流制限のリアクタンス素子としてひとつの出力端子と複数の蛍光管の間に入るバラストコンデンサ方式では、蛍光管用高周波昇圧トランスの出力端子の電圧はバラツキのある複数の蛍光管の放電開始電圧よりも高い電圧に設定され、各蛍光管が点灯した後も常時この電圧を出力している。一般的に、蛍光管の放電開始電圧は点灯電圧の2倍ないし3倍高く、蛍光管用高周波昇圧トランスは常時この高電圧を出力することとなり、耐電圧確保のため蛍光管用高周波昇圧トランスの小型化のうえで大きな制約を受けるとともに、高電圧による絶縁破壊の確率も高くなるため信頼性確保の点でも問題が多い。
【0024】
また、各蛍光管に流れる電流は出力端子電圧をコンデンサと蛍光管の等価抵抗の直列インピーダンスで除算して求められるが、この用途に用いられる高耐圧コンデンサの容量値は通常±10%の誤差があるため、電流値のバラツキも大きくなり並列配置された蛍光管バックライトの輝度ムラが問題となる。
【0025】
次に、電流制限要素として漏洩磁束型トランスによる漏洩磁束インダクタンスを用いる漏洩磁束インダクタンス方式では、一次側コイルに流れる電流により一次側磁性体に発生した磁束は、複数の二次側コイルが巻き回され、一次側から流れ込む磁束の並列分流路を形成する複数の二次側磁性体に分流するが、二次側コイルに流れる出力電流値のバラツキを抑えるために、それぞれの二次側磁性体の磁気抵抗を等しくし、分流する磁束量を均一にしなければならない。このため、磁束の流れ難さの指標であり、磁性体の磁路長/断面積に比例する磁気抵抗を各出力磁気回路ごとに等しくする必要がある。平面形状が長方形で薄型に構成される場合の多い本用途の蛍光管用高周波昇圧トランスでは、それぞれの磁気抵抗を等しくして、多数の出力磁気回路を設けることは形状的に難しく、この方法では出力数の上限は4個程度に制限され、大型液晶表示パネルで通常必要とされる10本ないし30本の蛍光管を点灯させるには多くの蛍光管用高周波昇圧トランスを必要とする。
【0026】
また、磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式では二次コイルが巻かれた各出力磁気回路に流れる磁束の総和が一次コイルが巻かれた一次側磁性体に集中するため、出力数の増加に伴い一次コイルの駆動電圧を高くし発生磁束を増加させる必要がある。
【0027】
さらに、大きい磁束が流れる一次側磁性体は磁気飽和対策として磁気回路断面積を大きくしなければならず、結果として蛍光管用高周波昇圧トランスの形状が大きくなる、あるいは磁束密度のほぼ二乗に比例する磁性体損失が極端に増加するという欠点もある。
【0028】
また、磁束直列結合型漏洩磁束インダクタンス方式では、放電開始電圧にバラツキのある蛍光管を蛍光管用高周波昇圧トランスの各出力端子に接続し点灯する場合、最も放電開始電圧の低い蛍光管が点灯状態に入ると出力電圧が大きく低下するために、他の蛍光管は放電開始電圧を超えることが出来ず、点灯状態に入れないという致命的な欠陥をもっている。
【0029】
本発明は、上述の課題に鑑み、簡易な構造で多数本の蛍光管を並列に点灯することができ、出力電流のバラツキが少ない、点灯効率の高い、さらに軽量・小型形状などの優れた特性をもつ蛍光管用高周波昇圧トランスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0030】
以上の課題を解決するために、第1の発明の蛍光管用高周波昇圧トランスは、一次コイルが巻かれた一次側磁性体と、複数の二次コイルが巻かれた二次側磁性体と、二次コイルの一部を覆い、その両端は二次側磁性体に接合するように形成される分流用磁性体とから構成され、一次側磁性体と二次側磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、分流用磁性体によって二次側磁性体を通る磁束を分流することを特徴とする。
【0031】
第2の発明は、第1の発明において、二次側磁性体はコの字型に形成され、その両端は一次側磁性体に接合するように形成されることを特徴とする。
【0032】
第3の発明は、第1の発明において、二次側磁性体は、棒状に形成される2つの二次側磁性体と、棒状に形成された閉磁路形成用磁性体から構成され、二次側磁性体の一端は一次側磁性体に接合し、閉磁路形成用磁性体はその両端が二次側磁性体の各他端に接合することを特徴とする。
【0033】
第4の発明は、第3の発明において、二次コイルが巻かれた二次側磁性体と二次コイルの一部を覆う分流用磁性体とがその断面をコの字型磁性体として一体化して形成され、一次側磁性体、コの字型磁性体の二次側磁性体部分および閉磁路形成用磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、コの字型磁性体の分流用磁性体部分によって二次側磁性体部分を通る磁束を分流することを特徴とする。
【0034】
第5の発明は、第3の発明において、二次コイルが巻かれた二次側磁性体と、二次コイルの一部を覆う分流用磁性体とがその断面がE字型の磁性体として一体化して形成され、E字型磁性体の両端の支路を二次側磁性体とし、E字型磁性体の中央の支路を分流用磁性体とし、一次側磁性体、E字型磁性体の二次側磁性体部分および閉磁路形成用磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、E字型磁性体の中央の支路の分流用磁性体部分によって二次側磁性体部分を通る磁束を分流することを特徴とする。
【0035】
第6の発明は、第1〜第5の発明において、一次コイルまたは二次コイルはボビンに巻かれ、一次コイルまたは二次コイルが巻かれたボビンはそれぞれ一次側磁性体および二次側磁性体に嵌合されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0036】
第1の発明によれば、蛍光管用高周波昇圧トランスは、一次コイルが巻かれた一次側磁性体と、複数の二次コイルが巻かれた二次側磁性体と、二次コイルの一部を覆い、その両端は二次側磁性体に接合するように形成される分流用磁性体とから構成され、一次側磁性体と二次側磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、分流用磁性体によって二次側磁性体を通る磁束を分流するように構成されるので、並列に接続された蛍光管の点灯において、点灯電圧が一番低い蛍光管が点灯した後でも、残りの蛍光管を確実に点灯できる。
【0037】
第2の発明によれば、二次側磁性体はコの字型に形成され、その両端は一次側磁性体に接合するように形成されるので、簡易な構造で小型、高効率、高電流精度な蛍光管用高周波昇圧トランスを提供できる。
【0038】
第3の発明によれば、二次側磁性体は、棒状に形成される2つの二次側磁性体と、棒状に形成された閉磁路形成用磁性体から構成され、二次側磁性体の一端は一次側磁性体に接合し、閉磁路形成用磁性体はその両端が二次側磁性体の各他端に接合するので、簡易な構造で小型、高効率、高電流精度な蛍光管用高周波昇圧トランスを提供できる。
【0039】
第4の発明によれば、二次コイルが巻かれた二次側磁性体と二次コイルの一部を覆う分流用磁性体とがコの字型磁性体として一体化して形成され、一次側磁性体、コの字型磁性体の二次側磁性体部分および閉磁路形成用磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、コの字型磁性体の分流用磁性体部分によって二次側磁性体部分を通る磁束が分流されるので、簡易な構造で、組み立てが容易で、小型、高効率、高電流精度な蛍光管用高周波昇圧トランスを提供できる。
【0040】
第5の発明によれば、二次コイルが巻かれた二次側磁性体と、二次コイルの一部を覆う分流用磁性体とがその断面がE字型の磁性体として一体化して形成され、E字型磁性体の両端の支路を二次側磁性体とし、E字型磁性体の中央の支路を分流用磁性体とし、一次側磁性体、E字型磁性体の二次側磁性体部分および閉磁路形成用磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、E字型磁性体の中央の支路の分流用磁性体部分によって二次側磁性体部分を通る磁束が分流されるので、簡易な構造で、組み立てが容易で、小型、高効率、高電流精度な蛍光管用高周波昇圧トランスを提供できる。
【0041】
第6の発明によれば、第1〜第5の発明において、一次コイルまたは二次コイルはボビンに巻かれ、一次コイルまたは二次コイルが巻かれたボビンはそれぞれ一次側磁性体および二次側磁性体に嵌合されるので、簡易な構造で、組み立てが容易で、小型の蛍光管用高周波昇圧トランスを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
第1の実施形態.
図1は、本発明の蛍光管用高周波昇圧トランス13において、出力数がn個の場合の模式図である。本発明は、従来の磁束直列結合型漏洩磁束インダクタンス方式昇圧出力トランスの特徴を活かしながら上記欠陥を改善するために、図1に示すように、一次コイル21と、二次コイル22(22a、22b、… 22n)と、一次コイル21が巻かれた一次側磁性体23と、二次コイル22が巻かれた二次側磁性体25と、二次コイル22の一部を覆い、その先端が二次側磁性体25に接合するように構成される分流用磁性体26(26a、26b、… 26n)から構成される。
【0043】
図1において、一次コイルに流れる電流I1により一次側磁性体23に発生した磁束Φ1は第1の二次コイル22aが巻かれた二次側磁性体25と分流用磁性体26aの接合点P1で、接合点P1とP2の間の二次側磁性体の磁気抵抗Rm2と対応する分流用磁性体26aの磁気抵抗Rm3により、二次側磁性体にK1・Φ1の磁束が、また分流用磁性体には(1−K1)・Φ1が流れる。なお、Rm2、Rm3については、図2に記載されている。
ここで、磁束分流係数K1は、
K1=Rm3/(Rm2+Rm3)
の式で表される。
【0044】
第1の二次コイル22aの二次側磁性体25を流れる磁束K1・Φ1と上側接合点P1で分流用磁性体26aに分流した磁束(1−K1)・Φ1は下側接合点P2で再び合流し、Φ1となって第2の二次コイル22bの接合点P3に流入する。このようにn個の二次コイルがあればそれぞれの二次側磁性体と分流用磁性体の接合点で分流と合流を繰り返し、一次側磁性体に還流する。
【0045】
図2は図1の蛍光管用高周波昇圧トランスを磁気回路図で表現したものである。図1において、一次側磁性体の磁気抵抗をRm1、二次側磁性体のP1からP2までの一区間の磁気抵抗をRm2、分流用磁性体の同じく一区間の磁気抵抗をRm3、入力電圧をV1(=Va・sin(2πft))、Vaを入力電圧の最大値、fを入力電圧の周波数、一次コイルに流れる電流をI1、一次コイルの巻き数をN1、一次コイルが発生する磁束をΦ1、二次側磁性体と分流用磁性体の各接合点での磁束分流係数をK1、二次コイルの巻き数をN2、出力側負荷抵抗をR、二次コイルの出力電流をI2、I2により二次コイル直下の二次側磁性体に発生する逆方向の起磁力Vm2、これにより発生する磁束をΦ2とする。
【0046】
先ず、二次コイルの出力端子が全て開放の場合、それぞれの二次コイルは二次側磁性体に流れる磁束K1・Φ1と鎖交するため出力端子電圧V2は
V2=N2・d(K1・Φ1)/dt
V1=N1・d(Φ1)/dt
の関係式より
V2=K1・N2・Va・sin(2πf・t)/N1
となる。
【0047】
また、この関係より二次コイル出力端子に蛍光管放電開始に必要な出力電圧V2を出力する時に必要な一次コイルの発生磁束Φ1は、V2=Vo・sin(2πf・t)として上式をΦ1について解いて
Φ1=Vo/2πf・K1・N2
で与えられる。このように本発明による多出力蛍光管用高周波昇圧トランスの場合、二次コイルと磁束が直列に結合するため、n個の二次コイル全てがVoを出力しても、一次側の磁束は1個の場合と同じで良いことになる。
【0048】
次に、第1の二次コイル22aの出力端子のみ負荷抵抗Rが接続されたとき、第1の二次コイル22aの出力電圧V2aと開放状態にある第2の二次コイル22bの出力電圧V2bを計算する。先ず、第1の二次コイル22aに電流I2aが流れこの電流により第1の二次コイル22a直下の二次側磁性体には一次側より流入する磁束K1・Φ1と逆向きの起磁力N2・I2が発生し、この起磁力発生地点から見た全磁気抵抗をRmsとして、この起磁力による磁束Φ2
Φ2=N2・I2a/Rms
がK1・Φ1を減ずる方向に生ずる。Φ2は第1の二次コイル22aの二次側磁性体と分流用磁性体の接合点P1で、P1点での磁束分流比をK2として一次側磁性体にK2・Φ2、分流用磁性体に(1−K2)・Φ2に分流する。
【0049】
K2は分流用磁性体の磁気抵抗Rm3と、一次側磁性体の磁気抵抗Rm1と第2から第nまでの二次コイル22の二次側磁性体の磁気抵抗Rm2、同じく分流用磁性体の磁気抵抗Rm3の並列磁気抵抗の和の磁気抵抗をRmpとして次式で与えられる。
K2=Rm3/(Rm1+Rmp+Rm3)
このように、一次コイルの発生する磁束が分流用磁性体にて分流しK1・Φ1が二次コイルと鎖交し、また同じように二次コイルの発生する磁束Φ2のうちK2・Φ2のみが一次コイル21と鎖交することにより等価的に各二次コイルの出力に直列にインダクタンスが入ることとなる。このインダクタンスは各出力ごとに磁束を分流することにより生ずるものであり、ここでは分流磁束インダクタンスLbとする。
【0050】
第1の二次コイルの出力電圧V2aはV1を
V1=Va・sin(2πf・t)
として、一次側及び二次側の関係式
V1=N1・d(Φ1−K2・Φ2)/dt
V2a=N2・d(K1・Φ1−Φ2)/dt
I2a=V2a/R
Φ2=N2・I2a/Rms=(N2・N2/R・Rms)・d(K1・Φ1−Φ2)/dt
を解いて、V2aのピーク値Voaは次式で与えられる。
Voa=K1・N2・R・Va/N1・Lb・√{(R/Lb)2 +(2πf)2}
【0051】
次に、出力端子が開放されている第2の二次コイル22bの出力電圧V2bを計算する。第2の二次コイル22直下の二次側磁性体の磁束は一次コイルよりの磁束がK1・Φ1、また第1の二次コイルが発生する逆方向の磁束Φ2のうち、一次側磁性体23に分流する成分K2・Φ2が一次側磁性体23から第nの出力区間・・・・・第3の出力区間をまわり第2の二次コイル22bの二次側磁性体25と分流用磁性体26の下側接合点P4まで一周してくるが、P4で各出力区間の二次側磁性体と分流用磁性体の磁束分流比K1を乗じた磁束が二次側磁性体に分流するため、K1・K2・Φ2が第2の二次コイル直下の二次側磁性体に、一次コイルからの磁束K1・Φ1を減ずる方向で流入する。従って、第2の二次コイル22bの出力電圧V2bは
V2b=N2・d(K1・Φ1−K1・K2・Φ2)/dt
であるから、Voaの計算で求めたΦ1、Φ2を上式に代入すると、V2bのピーク値Vobは
Vob=K1・N2・Va/N1
となる。
【0052】
これは、全ての出力が開放状態の時の式と同じとなるため、複数の蛍光管を負荷としたときにどれか一本の蛍光管が点灯状態になっても、まだ放電開始していない蛍光管には放電開始電圧を超える電圧が印加されることとなり、結果として全ての蛍光管が点灯状態に入ることが出来ることを示している。
【0053】
次に、全ての二次コイル22の出力端子に負荷抵抗Rが負荷されたときの二次側の出力電圧V2を計算する。先ず第1の二次コイル22aに電流I2aが流れこの電流により第1の二次コイル22a直下の二次側磁性体には一次側より流入する磁束K1・Φ1と逆向きの起磁力N2・I2aが発生し、発生地点から見た全磁気抵抗をRmsとして、この起磁力による磁束Φ2は
Φ2=N2・I2/Rms
がK1・Φ1を減じる方向に生ずる。Φ2は第1の二次コイル22aの二次側磁性体25と分流用磁性体26の接合点P1で、この磁束分流比をK2として入力側磁性体にK2・Φ2、分流用磁性体に(1−K2)・Φ2が分流する。
【0054】
また、全ての出力の負荷抵抗R、及びK1,K2,N2が等しいとすると各出力の出力電圧V2、出力電流I2も全て等しく、また第2の二次コイル22bに流れる電流により第2の二次コイル22b直下の二次側磁性体25に発生する磁束Φ2は第1の二次コイルの発生する磁束Φ2と等しく、第2の二次コイル22bの二次側磁性体25と分流用磁性体26bとの上側の接合点P3で、K2・Φ2が第1の二次コイル側に流れ、(1−K2)・Φ2が第2の二次コイルの分流用磁性体に分流する。第1の二次コイル部に流入した磁束K2・Φ2は第1の二次コイルの二次側磁性体と分流用磁性体の下側接合点P2で二次側磁性体へのK1・K2・Φ2と分流用磁性体への(1−K1)・K2・Φ2に分流するが、同じく上側の接合点P1で再び合流しK2・Φ2として一次側磁性体に流れ込む。
【0055】
このように第2の二次コイル22a〜第nの二次コイル22nの発生する磁束は
(n−1)・K1・K2・Φ2
が第1の二次コイル22a直下の二次側磁性体25に一次コイル21よりの磁束K1Φ1を減じる方向で流れ込むこととなるため、第1の二次コイル22aが鎖交する磁束は
K1・Φ1−Φ2−(n−1)・K1・K2・Φ2
となる。
【0056】
従って、この場合の出力電圧V2、出力電流I2はV1を上述の正弦波電圧として、一次側および二次側の関係式
V1=N1・d(Φ1−n・K2・Φ2)/dt
V2=N2・d(K1・Φ1−Φ2−(n−1)・K1・K2・Φ2)/dt
I2=V2/R
Φ2=N2・I2/Rms
=(N2・N2/R・Rms)・d(K1・Φ1−Φ2+(n−1)・K1・K2・Φ2)/dt
を解いて,それぞれのピーク値Vo、Ioは次式で与えられる。
Vo=K1・N2・R・Va/N1・Lb・√{(R/Lb)2 + (2πf)2}
Io=K1・N2・Va/N1・Lb・√{(R/Lb)2 + (2πf)2}
【0057】
上式の中のLbは先に述べたように、二次側磁性体25の磁束を分流用磁性体26で分流することにより、等価的に二次コイル22の出力に直列に発生する分流磁束インダクタンスである。この結果より、本方式の蛍光管用高周波昇圧トランスは点灯時の電圧、電流が出力数nによらず一定であることが分る。
【0058】
以上の検討結果より、本発明による蛍光管用高周波昇圧トランスは従来問題となっていた以下の点を改善することを特徴とするものである。
特徴(1)
出力数nを増やしても一次側磁性体の磁束が増大しない。
先に述べたように、n個の出力において磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式蛍光管用高周波昇圧トランスでは一次側磁性体の磁束量が一個の場合のn倍に増大するのに対し、本発明の蛍光管用高周波昇圧トランスの場合は一個でも、n個でも同じ磁束量となり、多出力の蛍光管用高周波昇圧トランスでも入力電圧を一個の場合と同じに抑えることができる。入力電圧が低いことは一次コイルの励磁電流が少ないことであり、結果として、電流の二乗に比例する一次コイルの導体損失を大きく低減することができる。また、磁束密度のほぼ二乗に比例する磁性体損失も大幅に改善されるため高効率の蛍光管用高周波昇圧トランスを実現することができる。さらに、磁性体の磁気飽和を防ぐために磁気断面積を拡大する必要も無く、小型化・軽量化を実現することができる。
【0059】
特徴(2)
出力電圧、電流が出力数nに依存しない。
従来より汎用トランスとして用いられている磁束直列結合型漏洩磁束インダクタンス方式高周波昇圧トランスではn個の出力のうち一個でも点灯状態に入ると、その他の出力電圧が極端に低下するため残りの蛍光管は点灯することが出来ないが、本発明の蛍光管用高周波昇圧トランスでは分流用磁性体の働きにより、個々の出力は他の出力の点灯、非点灯に関係なく動作するため、簡素なトランス構造でn=10を超える場合でも、並列配置され放電開始電圧にバラツキのある蛍光管でも点灯することができ、点灯装置の小型化・高信頼度化・低価格化を実現することができるものである。
【0060】
特徴(3)
それぞれの出力コイルに結合する磁束が共通であるため出力電圧、出力電流のバラツキが極端に少ない。コンデンサによりn個の出力を分岐する多出力バラストコンデンサ方式ではコンデンサの容量値のバラツキにほぼ等しい出力電流値バラツキがあり、また磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式多出力蛍光管用高周波昇圧トランスでは一次コイルの発生する磁束がn個の二次側磁性体にそれぞれの磁気抵抗の比率により分流するが、n=10個を超える二次側磁性体の磁気抵抗の比率を限られた形状で効率よく抑えることは難しく、出力電流のバラツキは大きいものとなる。本発明による蛍光管用高周波昇圧トランスでは、各出力が二次側磁性体を通る共通の磁束で決まるため、出力電圧、出力電流のバラツキを抑えることができるものである。
【0061】
図3は、本発明の第1の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランス13おける出力数4の場合の模式図である。この第1の実施形態においては、図3に示すように、一次側磁性体23とコの字型に形成された二次側磁性体25によって閉磁束磁気回路が形成される。この第1の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスでは、一次側磁性体23に一次コイル21が巻かれ、二次側磁性体25に二次コイル22(22a、22b、22c、22d)が巻かれ、二次コイル22の一部を覆うように分流用磁性体26(26a、26b、26c、26d)が取りつけられる。分流用磁性体26はコの字形状に形成され、中央部は二次コイル22を覆い、端部は二次側磁性体25に接合する。一般に、一次コイル21および二次コイル22はそれぞれボビンに巻かれた状態で一次側磁性体23および二次側磁性体25に嵌合される。
【0062】
図4は、本発明の第1の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランス13の構造を示す斜視図である。図4において、コの字型の二次側磁性体25の端部は一次側磁性体23の両端に接合し閉磁束磁気回路を形成している。一次コイル21および二次コイル22はそれぞれボビンに巻かれた状態で一次側磁性体23および二次側磁性体25に嵌合されている。分流用磁性体26は、中央部が二次コイル22の上から二次コイル22を覆い、その両端部は二次側磁性体25に接合して、磁束分流回路を形成している。
【0063】
このように本発明による分流磁束インダクタンス方式による多出力の蛍光管用高周波昇圧トランスでは並列配置され、かつ放電開始電圧にバラツキのある複数の蛍光管を効率よく点灯することが出来るとともに、負荷時のそれぞれの出力電圧V2は二次側磁性体と分流用磁性体の磁束分流比K1、二次コイル/一次コイルの巻き数比N2/N1、分流磁束インダクタンスLb,負荷抵抗R、入力電圧の振幅Va、周波数fのみにより決まり、出力数nには依存しない。このことは、出力数nに上限のある磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式多出力蛍光管用高周波昇圧トランスと異なり、n=10を超える蛍光管の並列駆動がひとつのトランスで実現でき、かつそれぞれの出力は一次側磁性体、二次側磁性体をループ状に回る共通の一定磁束で駆動されるため、出力電流のバラツキを極端に低減することができるものである。
【0064】
また、一次側磁性体の磁束量が出力数nに関係なく一定であるため、並列磁束結合型漏洩磁束インダクタンス方式多出力蛍光管用高周波昇圧トランスのようにnの増加とともに一次側磁性体の磁束量が増大することも無く、磁性体断面積が小さく出来るため小型・軽量の蛍光管用高周波昇圧トランス形状を実現できる。さらに、磁束密度のほぼ二乗に比例する磁性体損失も大幅に低減することが可能であり、蛍光管の点灯駆動回路の点灯効率の向上にも寄与するものである。
【0065】
第2の実施形態.
図5は、本発明の第2の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランス13おける出力数4の場合の模式図である。この第2の実施形態においては、図5に示すように、一次側磁性体23と棒状の閉磁路形成用磁性体29間に棒状の二次側磁性体25が挟まれ閉磁束磁気回路が形成される。この第2の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスでは、一次側磁性体23に一次コイル21が巻かれ、二次側磁性体25に二次コイル22(22a、22b、22c、22d)が巻かれ、閉磁路形成用磁性体29が2つの二次側磁性体25に接合して閉磁束磁気回路を形成すると共に、二次コイル22の一部を覆うように分流用磁性体26が取りつけられる。分流用磁性体26(26a、26b、26c、26d)はコの字形状に形成され、中央部は二次コイル22を覆い、端部は二次側磁性体25に接合する。一般に、一次コイル21および二次コイル22はそれぞれボビンに巻かれた状態で一次側磁性体23および二次側磁性体25に嵌合される。なお、図5において、閉磁路形成用磁性体29が二次側磁性体25と分離して形成される以外は第1の実施形態と同じである。
【0066】
図6は、本発明の第2の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランス13の構造を示す斜視図である。図6において、閉磁路形成用磁性体29が二次側磁性体25と分離して形成される以外は第1の実施形態と同じであるので、詳細な説明は省略する。
【0067】
第3の実施形態.
図7は本発明の第3の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランス13の構造を示す模式図である。この第3の実施形態においては、図7に示すように、一次側磁性体23と閉磁路形成用磁性体29間に複数のコの字型の磁性体27(27a、27b、27c、27d)を挟んで閉磁束磁気回路を形成する。閉磁束磁気回路は、一次側磁性体23、コの字型の磁性体の二次コイルが巻かれた複数の磁性体部分、閉磁路形成用磁性体29によって形成される。コの字型の磁性体は、一方の支路は二次コイルが巻かれる二次側磁性体として、また他方の支路は分流用磁性体として機能する。コの字型の磁性体を複数個縦続接続することによって、分流用磁性体は二次コイル22の一部を覆うようにすることができる。第3の実施形態では、二次コイルが巻かれる磁性体を個別に製造できるため、出力数に応じてコの字型の磁性体27を柔軟に取りつけることができる。また、各コの字型磁性体は小型のため製造価格が安価であるので、蛍光管用高周波昇圧トランスのコスト低減を実現することができる。
【0068】
第4の実施形態.
図8は本発明の第4の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランス13の構造を示す模式図である。この第4の実施形態においては、図8に示すように、一次側磁性体23と閉磁路形成用磁性体29間に複数のE字型の磁性体28(28a、28b、28c、28d)を挟んで閉磁束磁気回路を形成する。閉磁束磁気回路は、一次側磁性体23、E字型の磁性体の二次コイルが巻かれた複数の磁性体部分、閉磁路形成用磁性体29によって形成される。E字型の磁性体は、上下の支路は二次コイルが巻かれる二次側磁性体として、また中央の支路は両端のふたつの二次側磁性体の共通の分流用磁性体として機能する。E字型の磁性体を複数個縦続接続することによって、分流用磁性体は二次コイル22の一部を覆うようにすることができる。第4の実施形態では、ふたつの二次コイルがひとつの分流用磁性体を共用するため小型・軽量化が図れるとともに、二次コイルが巻かれる磁性体を個別に製造できるため、出力数に応じてE字型の磁性体28を柔軟に取りつけることができる。また、各E字型磁性体は小型のため製造価格が安価であるので、蛍光管用高周波昇圧トランスのコスト低減を実現することができる。
【0069】
図9は、大画面液晶表示パネル用バックライト蛍光管点灯インバータ回路用の多出力蛍光管用高周波昇圧トランスの性能を各方式について比較した一覧表である。図9に示すように、本発明による蛍光管用高周波昇圧トランスは、多出力が得られ、起動特性も良く、高効率で、小型軽量で、信頼性が高くコストも安価である等全ての項目で他の方式の蛍光管用高周波昇圧トランスよりも優れていることが一目で分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、液晶表示パネルのバックライトとして用いられる並列配置された複数の蛍光管を点灯させるための蛍光管用高周波昇圧トランスとして利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明の第1の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスおける出力数nの場合の模式図である。
【図2】本発明の第1の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスおける出力数nの蛍光管用高周波昇圧トランスの磁気回路図である。
【図3】本発明の第1の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスおける出力数4の場合の模式図である。
【図4】本発明の第1の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスの一例を示す斜視図である。
【図5】本発明の第2の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスおける出力数4の場合の模式図である。
【図6】本発明の第2の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスの一例を示す斜視図である。
【図7】本発明の第3の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスにおける出力数4の場合の模式図である。
【図8】本発明の第4の実施形態の蛍光管用高周波昇圧トランスにおける出力数8の場合の模式図である。
【図9】本発明と従来の技術の複数蛍光管並列点灯用蛍光管用高周波昇圧トランスの各種性能比較表である。
【図10】従来の複数蛍光管点灯回路の一例を示す図である。
【図11】蛍光管の電圧−電流特性を示す図である。
【図12】バラストコンデンサ方式による複数蛍光管点灯回路の一例を示す図である。
【図13】バラストコンデンサ方式におけるバラストコンデンサ容量と蛍光管電流の関係を示す図である。
【図14】漏洩磁束インダクタンス方式による複数蛍光管点灯回路の一例を示す図である。
【図15】出力数2個の磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式の蛍光管用高周波昇圧トランスの構造を示す図である。
【図16】出力数n個の磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式の蛍光管用高周波昇圧トランスの磁気回路を示す図である。
【図17】磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式蛍光管用高周波昇圧トランスの出力数nと所要入力電圧の関係を示す図である。
【図18】磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式蛍光管用高周波昇圧トランスの出力数nと所要入力電流の関係を示す図である。
【図19】磁束並列結合型漏洩磁束インダクタンス方式蛍光管用高周波昇圧トランスの出力数nと所要一次側磁性体断面積の関係を示す図である。
【図20】磁束直列結合型漏洩磁束インダクタンス方式の蛍光管用高周波昇圧トランスの模式図である。
【図21】磁束直列結合型漏洩磁束インダクタンス方式の蛍光管用高周波昇圧トランスの出力数nと出力電圧の関係を示す図である。
【図22】従来の漏洩磁束インダクタンス方式の蛍光管用高周波昇圧トランスを示す図である。
【符号の説明】
【0072】
13 蛍光管用高周波昇圧トランス
21一次コイル
22、22a、22b、・・22n 二次コイル
23 一次側磁性体
25、25a、25b 二次側磁性体
26、26a、26b、・・26n 分流用磁性体
27、27a〜27d 分流用磁性体
28、28a〜28h 分流用磁性体
29 閉磁路形成用磁性体
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一次コイルが巻かれた一次側磁性体と、複数の二次コイルが巻かれた二次側磁性体と、
前記二次コイルの一部を覆い、その両端は前記二次側磁性体に接合するように形成される分流用磁性体とから構成され、前記一次側磁性体と前記二次側磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、前記分流用磁性体によって前記二次側磁性体を通る磁束を分流することを特徴とする蛍光管用高周波昇圧トランス。
【請求項2】
前記二次側磁性体はコの字型に形成され、その両端は前記一次側磁性体に接合するように形成されることを特徴とする請求項1に記載の蛍光管用高周波昇圧トランス。
【請求項3】
前記二次側磁性体は、棒状に形成される2つの二次側磁性体と、棒状に形成された閉磁路形成用磁性体から構成され、前記各二次側磁性体の一端は前記一次側磁性体に接合し、前記閉磁路形成用磁性体はその両端が前記二次側磁性体の各他端に接合することを特徴とする請求項1に記載の蛍光管用高周波昇圧トランス。
【請求項4】
二次コイルが巻かれた前記二次側磁性体と、前記二次コイルの一部を覆う分流用磁性体とがその断面がコの字型の磁性体として一体化して形成され、前記一次側磁性体、前記コの字型磁性体の前記二次側磁性体部分および閉磁路形成用磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、前記コの字型磁性体の分流用磁性体部分によって前記二次側磁性体部分を通る磁束を分流することを特徴とする請求項3に記載の蛍光管用高周波昇圧トランス。
【請求項5】
二次コイルが巻かれた前記二次側磁性体と、前記二次コイルの一部を覆う分流用磁性体とがその断面がE字型の磁性体として一体化して形成され、前記E字型磁性体の両端の支路を二次側磁性体とし、前記E字型磁性体の中央の支路を分流用磁性体とし、前記一次側磁性体、前記E字型磁性体の前記二次側磁性体部分および閉磁路形成用磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、前記E字型磁性体の中央の支路の分流用磁性体部分によって前記二次側磁性体部分を通る磁束を分流することを特徴とする請求項3に記載の蛍光管用高周波昇圧トランス。
【請求項6】
前記一次コイルまたは二次コイルはボビンに巻かれ、そのボビンは前記一次側磁性体および前記二次側磁性体にそれぞれ嵌合されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の蛍光管用高周波昇圧トランス。
【請求項1】
一次コイルが巻かれた一次側磁性体と、複数の二次コイルが巻かれた二次側磁性体と、
前記二次コイルの一部を覆い、その両端は前記二次側磁性体に接合するように形成される分流用磁性体とから構成され、前記一次側磁性体と前記二次側磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、前記分流用磁性体によって前記二次側磁性体を通る磁束を分流することを特徴とする蛍光管用高周波昇圧トランス。
【請求項2】
前記二次側磁性体はコの字型に形成され、その両端は前記一次側磁性体に接合するように形成されることを特徴とする請求項1に記載の蛍光管用高周波昇圧トランス。
【請求項3】
前記二次側磁性体は、棒状に形成される2つの二次側磁性体と、棒状に形成された閉磁路形成用磁性体から構成され、前記各二次側磁性体の一端は前記一次側磁性体に接合し、前記閉磁路形成用磁性体はその両端が前記二次側磁性体の各他端に接合することを特徴とする請求項1に記載の蛍光管用高周波昇圧トランス。
【請求項4】
二次コイルが巻かれた前記二次側磁性体と、前記二次コイルの一部を覆う分流用磁性体とがその断面がコの字型の磁性体として一体化して形成され、前記一次側磁性体、前記コの字型磁性体の前記二次側磁性体部分および閉磁路形成用磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、前記コの字型磁性体の分流用磁性体部分によって前記二次側磁性体部分を通る磁束を分流することを特徴とする請求項3に記載の蛍光管用高周波昇圧トランス。
【請求項5】
二次コイルが巻かれた前記二次側磁性体と、前記二次コイルの一部を覆う分流用磁性体とがその断面がE字型の磁性体として一体化して形成され、前記E字型磁性体の両端の支路を二次側磁性体とし、前記E字型磁性体の中央の支路を分流用磁性体とし、前記一次側磁性体、前記E字型磁性体の前記二次側磁性体部分および閉磁路形成用磁性体によって閉磁束磁気回路を形成し、前記E字型磁性体の中央の支路の分流用磁性体部分によって前記二次側磁性体部分を通る磁束を分流することを特徴とする請求項3に記載の蛍光管用高周波昇圧トランス。
【請求項6】
前記一次コイルまたは二次コイルはボビンに巻かれ、そのボビンは前記一次側磁性体および前記二次側磁性体にそれぞれ嵌合されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の蛍光管用高周波昇圧トランス。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【公開番号】特開2008−262977(P2008−262977A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102870(P2007−102870)
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【特許番号】特許第4021931号(P4021931)
【特許公報発行日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(507116961)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年4月10日(2007.4.10)
【特許番号】特許第4021931号(P4021931)
【特許公報発行日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【出願人】(507116961)
【Fターム(参考)】
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